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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1350516
審判番号 不服2018-8737  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-26 
確定日 2019-04-04 
事件の表示 特願2014- 6706「難燃性樹脂組成物、難燃性マスターバッチ、成形体およびそれらの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月27日出願公開、特開2015-134876〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年1月17日の出願であって、平成29年6月21日付け拒絶理由通知に応答して同年10月20日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成30年3月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年8月6日の審判請求書の手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?24に係る発明は、平成29年10月20日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?24に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、請求項1?24に係る発明を、順に「本願発明1」?「本願発明24」という。)。

「【請求項1】
ポリエステル樹脂(A)とリン原子含有オリゴマー(B)とを必須成分として含有する難燃性樹脂組成物であって、
前記リン原子含有オリゴマー(B)が、下記構造式(1):
【化1】

(式中、Zは、それぞれ独立的に水素原子、又は、下記構造式z1:
【化2】

(上記構造式z1中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)は、それぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表す。)
で表される構造部位又は下記構造式z2:
【化3】

(上記構造式z2中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)は、それぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表し、R^(5)は水素原子又は炭素原子数1?5のアルキル基を表し、Rは炭素原子1?4のアルキル基を表し、rは芳香核上の置換基ORの数であり1?3である。)
で表される構造部位であり、
Yは、それぞれ独立的に、水素原子、水酸基、炭素原子数1?9のアルキル基、又は、炭素原子数1?9のアルコキシ基、フェニル基、又はベンジル基であり、
Xは、メチレン基、2,2-プロピレン基、2価のアラルキル基、2価の脂肪族環状炭化水素基、下記構造式x1:
【化4】

で表される結節基x1、又は、下記構造式x2:
【化5】

で表される結節基x2であり、nおよびmは繰り返し単位であって、0?10の範囲である。ただし、前記Xが、メチレン基、2,2-プロピレン基、2価のアラルキル基、2価の脂肪族環状炭化水素基、又は前記結節基x1である場合、又は、n及びmが0である場合は、前記Zの少なくとも一つは、前記構造部位z1、又は、前記構造部位z2であり、また、前記Xとして前記結節基x2を有する場合には、前記Zは水素原子である。)
で表され、
前記ポリエステル樹脂(A)が、飽和ポリエステル系樹脂である、難燃性樹脂組成物。

【請求項2】
前記リン原子含有オリゴマー(B)が、フェノール化合物(a1)およびホルムアルデヒドを反応させて得られるメチロール基を含む重縮合物と、炭素原子数1?8の脂肪族モノアルコールとを反応させて得られるアルコキシメチル基を含む樹脂(α)を、下記構造式(β-1):
【化6】

(上記構造式(β-1)中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)はそれぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表す。)
で表されるリン原子含有化合物(β)と反応させて得られる生成物であり、フェノール芳香核に下記構造部位z1:
【化7】

(上記構造式z1中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)は、それぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表す。)
を置換基として有するものである、請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。

【請求項3】
前記リン原子含有オリゴマー(B)が、フェノール化合物(a1)又はフェノール樹脂(a2)と、アルデヒド化合物(a3)と、下記構造式(β-1):
【化8】

(上記構造式(β-1)中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)はそれぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表す。)
で表されるリン原子含有化合物(β)と、の反応生成物であり、フェノール芳香核に下記構造部位z1:
【化9】

(上記構造式z1中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)は、それぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表す。)
又はz2:
【化10】

(上記構造式z2中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)は、それぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表し、R^(5)は水素原子又は炭素原子数1?5のアルキル基を表し、Rは炭素原子1?4のアルキル基を表し、rは芳香核上の置換基ORの数であり1?3である。)
を置換基として有するものである、請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。

【請求項4】
前記フェノール樹脂(a2)が、ノボラック型フェノール樹脂、アラルキル型フェノール樹脂である、請求項3に記載の難燃性樹脂組成物。

【請求項5】
前記リン原子含有オリゴマー(B)が、下記構造式hb’:
【化11】

で表されるモノフェノール化合物と、フェノール化合物と、の反応生成物であり、下記構造式x2:
【化12】

で表される結節基x2を有し、かつ、芳香核に前記構造部位z1又はz2を有しないものである、請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。

【請求項6】
ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、リン原子含有オリゴマー(B)を1?300質量部の範囲で含有する請求項1?5のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物。

【請求項7】
前記ポリエステル樹脂(A)が、1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、アルキレン鎖の炭素原子数が2?4の範囲のポリアルキレンテレフタレート及びアルキレン鎖の炭素原子数が2?4の範囲のポリアルキレンナフタレートから選択された少なくとも1種の単位を有するホモ又はコポリエステルである請求項1?6のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物。

【請求項8】
前記ポリエステル樹脂(A)が、ポリブチレンテレフタレート、ブチレンテレフタレートを主成分とするコポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、及びエチレンテレフタレートを主成分とするコポリエステルから選択された少なくとも一種である請求項1?6のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物。

【請求項9】
ポリエステル樹脂(A)およびリン原子含有オリゴマー(B)を溶融混練する、請求項1?8のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物の製造方法。

【請求項10】
ポリエステル樹脂(A)とリン原子含有オリゴマー(B)とを必須成分として含有する難燃性マスターバッチであって、
前記リン原子含有オリゴマー(B)が、下記構造式(1):
【化13】

(式中、Zは、それぞれ独立的に水素原子、又は、下記構造式z1:
【化14】

(上記構造式z1中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)は、それぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表す。)
で表される構造部位又は下記構造式z2:
【化15】

(上記構造式z2中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)は、それぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表し、R^(5)は水素原子又は炭素原子数1?5のアルキル基を表し、Rは炭素原子1?4のアルキル基を表し、rは芳香核上の置換基ORの数であり1?3である。)
で表される構造部位であり、
Yは、それぞれ独立的に、水素原子、水酸基、炭素原子数1?9のアルキル基、又は、炭素原子数1?9のアルコキシ基、フェニル基、又はベンジル基であり、
Xは、メチレン基、2,2-プロピレン基、2価のアラルキル基、2価の脂肪族環状炭化水素基、下記構造式x1:
【化16】

で表される結節基x1、又は、下記構造式x2:
【化17】

で表される結節基x2であり、nおよびmは繰り返し単位であって、0?10の範囲である。ただし、前記Xが、メチレン基、2,2-プロピレン基、2価のアラルキル基、2価の脂肪族環状炭化水素基、又は前記結節基x1である場合、又は、n及びmが0である場合は、前記Zの少なくとも一つは、前記構造部位z1、又は、前記構造部位z2であり、また、前記Xとして前記結節基x2を有する場合には、前記Zは水素原子である。)
で表されること、
ポリエステル樹脂(A)と前記リン原子含有オリゴマー(B)の合計質量に対し、前記リン原子含有オリゴマー(B)を5?75質量%の範囲となる含有割合で含有する難燃性マスターバッチ。

【請求項11】
前記リン原子含有オリゴマー(B)が、フェノール化合物(a1)およびホルムアルデヒドを反応させて得られるメチロール基を含む重縮合物と、炭素原子数1?8の脂肪族モノアルコールとを反応させて得られるアルコキシメチル基を含む樹脂(α)を、下記構造式(β-1):
【化18】

(上記構造式(β-1)中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)はそれぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表す。)
で表されるリン原子含有化合物(β)と反応させて得られる生成物であり、フェノール芳香核に下記構造部位z1:
【化19】

(上記構造式z1中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)は、それぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表す。)
を置換基として有するものである、請求項10に記載の難燃性マスターバッチ。

【請求項12】
前記リン原子含有オリゴマー(B)が、フェノール化合物(a1)又はフェノール樹脂(a2)と、アルデヒド化合物(a3)と、下記構造式(β-1):
【化20】

(上記構造式(β-1)中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)はそれぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表す。)
で表されるリン原子含有化合物(β)と、の反応生成物であり、フェノール芳香核に下記構造部位z1:
【化21】

(上記構造式z1中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)は、それぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表す。)
又はz2:
【化22】

(上記構造式z2中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)は、それぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表し、R^(5)は水素原子又は炭素原子数1?5のアルキル基を表し、Rは炭素原子1?4のアルキル基を表し、rは芳香核上の置換基ORの数であり1?3である。)
を置換基として有するものである、請求項10に記載の難燃性マスターバッチ。

【請求項13】
前記フェノール樹脂(a2)が、ノボラック型フェノール樹脂、アラルキル型フェノール樹脂である、請求項12に記載の難燃性マスターバッチ。

【請求項14】
前記リン原子含有オリゴマー(B)が、下記構造式hb’:
【化23】

で表されるモノフェノール化合物と、フェノール化合物と、の反応生成物であり、下記構造式x2:
【化24】

で表される結節基x2を有し、かつ、芳香核に前記構造部位z1又はz2を有しないものである、請求項10に記載の難燃性マスターバッチ。

【請求項15】
前記ポリエステル樹脂(A)が、飽和ポリエステル系樹脂である、請求項10?14のいずれか1項に記載の難燃性マスターバッチ。

【請求項16】
前記ポリエステル樹脂(A)が、1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、アルキレン鎖の炭素原子数が2?4の範囲のポリアルキレンテレフタレート及びアルキレン鎖の炭素原子数が2?4の範囲のポリアルキレンナフタレートから選択された少なくとも1種の単位を有するホモ又はコポリエステルである請求項10?15のいずれか1項に記載の難燃性マスターバッチ。

【請求項17】
前記ポリエステル樹脂(A)が、ポリブチレンテレフタレート、ブチレンテレフタレートを主成分とするコポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、及びエチレンテレフタレートを主成分とするコポリエステルから選択された少なくとも一種である請求項10?15のいずれか1項に記載の難燃性マスターバッチ。

【請求項18】
予めポリエステル樹脂(A)およびリン原子含有オリゴマー(B)を溶融混練して請求項10?17のいずれか1項に記載の難燃性マスターバッチを製造する工程(1)、
前記工程(1)で得られた難燃性マスターバッチに、さらに、熱可塑性樹脂(E)を溶融混練する工程(2)
を有する、難燃性樹脂組成物の製造方法。

【請求項19】
前記工程(1)において、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、リン原子含有オリゴマー(B)を1?300質量部の範囲で溶融混練する請求項18に記載の製造方法。

【請求項20】
前記工程(2)において、ポリエステル樹脂(A)および熱可塑性樹脂(E)との合計100質量部に対し、リン原子含有オリゴマー(B)が1?300質量部の範囲となるよう溶融混練する請求項18または19に記載の製造方法。

【請求項21】
前記工程(2)において、前記熱可塑性樹脂(E)がポリエステル樹脂である請求項18?20のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物の製造方法。

【請求項22】
請求項1?8のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物を成形して得られる成形体。

【請求項23】
請求項1?8のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物を成形して得られる繊維。

【請求項24】
請求項1?8のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物を成形して得られるフィルム又はシート。」

第3 原査定の拒絶の理由
拒絶査定の理由である平成29年6月21日付け拒絶理由通知書の理由4は、概略、次のとおりのものである。

理由4
この出願は、請求項1における構造式(1)の記載が不明確であるから、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第4 当審の判断
1 発明の詳細な説明に記載された事項
発明の詳細な説明には、次の記載がある。
(ア) 「【0043】
・リン原子含有オリゴマー(B)
次に、本発明で用いるリン原子含有オリゴマー(B)は、前記した通り、下記構造式(1)
【0044】
【化21】

(式中、Zは、それぞれ独立的に水素原子、又は、下記構造式z1
【0045】
【化22】

(上記構造式z1中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)は、それぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表を表す。)
で表される構造部位z1又は
下記構造式z2
【0046】
【化23】

(上記構造式z2中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)は、それぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表し、R^(5)は水素原子又は炭素原子数1?5のアルキル基を表し、Rは炭素原子1?4のアルキル基を表し、rは芳香核上の置換基ORの数であり1?3である。)
で表される構造部位z2であり、
Yは、それぞれ独立的に、水素原子、水酸基、炭素原子数1?9のアルキル基、又は、炭素原子数1?9のアルコキシ基、フェニル基、又はベンジル基であり、Xは、メチレン基、2,2-プロピレン基、2価のアラルキル基、2価の脂肪族環状炭化水素基、下記構造式x1
【0047】
【化24】

で表される結節基x1、又は、下記構造式x2
【0048】
【化25】

で表される結節基x2であり、nおよびmは繰り返し単位であって、0?10の整数であり、かつ、前記Xが、メチレン基、2,2-プロピレン基、2価のアラルキル基、又は前記結節基x1である場合、又は、n及びmが0である場合は、前記Zの少なくとも一つは、前記構造部位z1、又は、前記構造部位z2であり、また、前記Xとして前記結節基x2を有する場合には、前記Zは水素原子である。)で表される構造を有するものである。
【0049】
斯かるリン原子含有フェノール化合物(B)は、具体的には、各種のリン原子非含有のフェノール化合物、フェノール樹脂の芳香核に下記構造式z1
【0050】
【化26】

(上記構造式z1中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)は、それぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表し、R^(5)は水素原子又は炭素原子数1?5のアルキル基を表す。)
で表される構造部位z1又は下記構造式z2
【0051】
【化27】

(上記構造式z2中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)は、それぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表し、R^(5)は水素原子又は炭素原子数1?5のアルキル基を表し、Rは炭素原子1?4のアルキル基を表し、rは芳香核上の置換基ORの数であり1?3である。)で表される構造部位z2が結合した構造を有するフェノール化合物(以下、これを「リン原子含有物質(I)」と略記する。)、或いは、
【0052】
複数のフェノール化合物を結節する結節基として、下記構造式x2
【0053】
【化28】

で表される結節基x2を有し、かつ、芳香核に前記構造部位z1又はz2を有しないもの(以下、これを「リン原子含有物質(II)」と略記する。)が挙げられる。
【0054】
ここで、前記リン原子含有フェノール化合物(I)は、更に具体的には、フェノール化合物(a1)を、塩基性触媒の存在下、ホルムアルデヒドと反応させて、メチロール基を含む重縮合物を得(工程1)、次いで、これを炭素原子数1?8の脂肪族モノアルコールと反応させることによってエーテル化し、アルコキシメチル基を含む樹脂(α)を得(工程2)、次いで、これを下記構造式(β-1)
【0055】
【化29】

(上記構造式(β-1)中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)はそれぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表す。)
で表されるリン原子含有化合物(β)と、生成するアルコールを除去し乍ら反応させる(工程3)ことにより得ることができるリン原子含有物質(I-a)、及び、
【0056】
ここで、リン原子含有物質(I-a)を製造する際に用いられるフェノール化合物(a1)は、具体的には、フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、イソプロピルフェノール、t-ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ビニルフェノール、イソプロペニルフェノール、フェニルフェノール、ベンジルフェノール等の1価フェノール;ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等のビスフェノール;ハイドロキノン、カテコール等の2価フェノール等が挙げられる。
【0057】
また、リン原子含有物質(I-a)を製造する際の工程1で使用し得る塩基性触媒としては、具体的には、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属水酸化物等が挙げられる。特に触媒活性に優れる点から水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物が好ましい。使用に際しては、これらの塩基性触媒を10?55質量%程度の水溶液の形態で使用してもよいし、固形の形態で使用しても構わない。塩基性触媒の使用量は特に限定されないが、フェノール化合物(a1)の水酸基に対して、0.5?5倍当量、好ましくは、0.8?3倍当量の範囲が挙げられる。
【0058】
また、工程1で用いる、ホルムアルデヒドは、ホルマリン水溶液、パラホルムアルデヒド、トリオキサンをホルムアルデヒド源として利用することができるが、本発明では取扱、反応の制御が容易である点から35%ホルマリン水溶液を使用することが好ましい。
【0059】
前記フェノール化合物(a1)とホルムアルデヒドとの反応割合は、前記フェノール化合物(a1)1モルに対して、ホルムアルデヒド4?40モル、好ましくは5?10モルとなる割合であることが好ましい。
【0060】
工程1の反応は、通常、水溶媒か、又は水と有機溶媒との混合溶媒中で行うことができる。ここで有機溶媒を用いる場合、その使用量は、原料である前記フェノール化合物(a1)に対して、重量比で、1?5倍、好ましくは、2?3倍程度の範囲であることが好ましい。
上記有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、n-ブタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコール、カルビトール等のアルコール-、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、また、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等の水溶性の非プロトン性極性溶媒が挙げられる。
工程1の反応は、10?60℃、好ましくは、20?50℃の範囲の温度において行うことができる。
【0061】
反応終了後は、必要により、酸を加えて中和した後、常法により精製・単離して目的物であるメチロール基を含む重縮合物を得ることができる。ここで、中和処理に用いる酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、蓚酸等の有機酸、または、硫酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、塩酸等の無機酸が挙げられる。
【0062】
次に、工程2は、工程1で得られたメチロール基を含む重縮合物を、炭素原子数1?8の脂肪族モノアルコールと反応させることによってエーテル化し、アルコキシメチル基を含む樹脂(α)を得る工程である。
【0063】
ここで、炭素原子数1?8の脂肪族モノアルコールは、具体的には、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール、n-オクチルアルコール、s-オクチルアルコール、t-オクチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコールが挙げられる。これらの中でも樹脂(α)の製造が容易であり、また、その後の工程である脱アルコールが容易である点からn-アルコールが好ましく、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等の炭素原子数1?4のアルコールが好ましい。
【0064】
また、前記炭素原子数1?8の脂肪族モノアルコールの使用量は、前記メチロール基を含む重縮合物100質量部に対して200?3000質量部、特に500?1500質量部となる割合であることが好ましい。なお、前記炭素原子数1?8の脂肪族モノアルコールは原料であると共に反応溶剤としても機能するものである。
【0065】
工程2は、無触媒であってもよいが、酸触媒を用いてもよい。ここで用いる酸触媒としては、濃硫酸、塩酸、硝酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、陽イオン交換樹脂(酸型)、シュウ酸等が好ましく用いられる。より好ましくは、濃硫酸等の無機の強酸が挙げられる。酸触媒は、メチロール基を含む重縮合物100重量部に対して、通常、0.1?100重量部の範囲、好ましくは、0.5?30重量部の範囲で用いることができる。
【0066】
また、工程2の反応温度は、通常、15?80℃の範囲、好ましくは40?60℃の範囲が挙げられる。
【0067】
反応終了後、必要に応じて精製した後、常法に従って、得られた反応混合物から目的とするアルコキシメチル基を含む樹脂(α)を単離することができる。
【0068】
ここで、フェノール化合物としてフェノールを用いた場合、アルコキシメチル基を含む樹脂(α)は具体的には、以下の構造式(I-a-1)、及び構造式(I-a-2)
【0069】
【化30】

(上記構造式(I-a-1)、及び構造式(I-a-2)においてRは炭素原子数1?8のアルキル基であり、mは0又は1の整数である)
で表される化合物、並びに、下記構造式(I-a-3)又は構造式(I-a-4)
【0070】
【化31】

(構造式(I-a-3)及び構造式(I-a-4)においてRは炭素原子数1?8のアルキル基であり、mは1?2の整数である。)で表される構造部位を繰り返し単位とする重合体、或いは、上記構造式(I-a-3)及び構造式(I-a-4)を繰り返し単位とするランダム重合体若しくはブロック重合体、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0071】
また、フェノール化合物としてビスフェノールを用いた場合、下記構造式(I-a-5)?構造式(I-a-7)
【0072】
【化32】

(構造式(I-a-5)?構造式(I-a-7)においてRは炭素原子数1?8のアルキル基であり、mは0又は1である。)
で表される化合物、並びに、下記構造式(I-a-8)又は構造式(I-a-9)
【0073】
【化33】

(構造式(I-a-8)?(I-a-9)においてRは炭素原子数1?8のアルキル基であり、mは0又は1の整数である。)
で表される構造部位を繰り返し単位とする重合体、或いは、上記構造式(I-a-8)及び構造式(I-a-9)を繰り返し単位とするランダム重合体若しくはブロック重合体、並びにこれらの混合物が挙げられる。上記構造式(I-a-8)及び構造式(I-a-9)は、結合位置*1?*3の任意の2つが結合部位となる2価の構造単位、或いは、結合位置*1?*3の全てが結合部位となる3価の構造単位であってもよい。
【0074】
次に、前記した通り、上記アルコキシメチル基を含む樹脂(α)を、下記構造式(β-1)
【0075】
【化34】

(上記構造式(β-1)中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)はそれぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表す。)で表されるリン原子含有化合物(β)と反応させて目的とするリン原子含有物質(I-a)を得ることができる。
【0076】
ここで、前記リン原子含有化合物(β)は、前記構造式(β-1)においてR^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)の全てが水素原子であって、かつ、Xaが水素原子である、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイドであることが最終的に得られるリン原子含有フェノール樹脂の硬化物の難燃性及び耐熱性が極めて良好なものとなる点から好ましい。
【0077】
ここで、アルコキシメチル基を含む樹脂(α)と、リン原子含有化合物(β)との反応条件は、例えば、80?180℃の温度条件下に、反応の進行と共に生成するアルコールを除去しつつ反応させることができる。反応は、シュウ酸、p-トルエンスルホン酸、硫酸、塩酸などの酸触媒下に行ってもよいが、目的物の収率に優れ、かつ、副反応を良好に抑制できる点から無触媒下に行うことが好ましい。有機溶媒は、アルコール系有機溶媒、炭化水素系有機溶媒などの非ケトン系有機溶媒の存在下で行うことができる。
【0078】
反応後は、必要により、脱水・乾燥して目的物を得ることができる。
【0079】
この様にして得られるリン原子含有物質(I-a)は、水酸基当量300?600g/eq.の範囲であることが難燃性に優れる点から好ましく、また、リン原子の含有率を質量基準で5.0?12.0質量%の範囲であることが薄肉成型品、成型品の薄肉部、薄膜部における難燃性に優れる点から好ましい。また、前記リン原子含有物質(I-a)は、前駆体であるアルコキシメチル基を含む樹脂(α)のR-O-CH_(2)-の5?20%が残存しているものが、得られるリン原子含有物質(I-a)の溶剤溶解性が良好なものとなる点から好ましい。
【0080】
また、前記リン原子含有フェノール化合物(I)は、前記リン原子含有物質(I-a)の他、前記フェノール化合物(a1)又はフェノール樹脂(a2)と、アルデヒド化合物(a3)と、前記リン原子含有化合物(β)とを反応させて得られる、フェノール芳香核に前記構造部位z1又はz2を置換基として有するリン原子含有物質(I-b)が挙げられる。
【0081】
ここで、リン原子含有物質(I-b)は、具体的には、フェノール化合物(a1)又はフェノール樹脂(a2)と、アルデヒド化合物(a3)と、リン原子含有化合物(β)とを一括で反応させるか、或いは、アルデヒド化合物(a3)とリン原子含有化合物(β)とを反応させて下記構造式z1-r
【0082】
【化35】

で表される中間体z1-r、或いは、下記構造式z2-r
【0083】
【化36】

で表される中間体z1-r
を得、次いで、該中間体をフェノール化合物(a1)又はフェノール樹脂(a2)と反応させて得られるものが挙げられる。
【0084】
ここで、用いられるアルデヒド化合物(a3)は、ホルムアルデヒドの他、
下記構造式(a3-1)
【0085】
【化37】

(式中、R^(5)は水素原子又は炭素原子1?3のアルキル基であり、Rは炭素原子1?4のアルキル基を表し、rは芳香核上の置換基ORの数であり1?3である。)
で表されるアルコキシ基を芳香核上の置換基として有する芳香族アルデヒド(a3-1)が挙げられる。
【0086】
本発明では前記芳香族アルデヒド(a3-1)のなかでも特に1分子中におけるリンの含有率が高くなる点からr=1のものが好ましい。
【0087】
本発明では、前記芳香族アルデヒド(a3-1)とリン原子含有化合物(β)との反応生成物中に生成する水酸基が、その反応性が優れたものとなり、殆ど触媒を用いなくとも、該生成物はフェノール化合物(a3)中の芳香核に反応する。このような特長がより顕著に現れる点からアルコキシ基はメトキシ基又はエトキシ基であることが好ましい。
前記リン原子含有化合物(β)は、前記した通り、下記構造式(β-1)
【0088】
【化38】

(上記構造式(β-1)中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)はそれぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表す。)で表されるものであるが、本発明では、難燃性の点からR^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)の全てが水素原子であるものが好ましい。
【0089】
ここで、アルデヒド化合物(a1)と、リン原子含有化合物(β)との反応条件は、例えば、80?180℃の温度条件下に行うことができる。該反応は無触媒で行うことができ、または、アルコール系有機溶媒、炭化水素系有機溶媒などの非ケトン系有機溶媒の存在下で行うことができる。また、該反応は、極めて反応性が高く、特に触媒を必要としないが、適宜、用いても構わない。ここで使用し得る触媒としては、塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、シュウ酸などの有機酸、三弗化ホウ素、無水塩化アルミニウム、塩化亜鉛などのルイス酸などが挙げられる。その使用量は仕込み原料の総重量に対して、5.0質量%未満であることが好ましい。
【0090】
かかる反応によって下記構造式z1-r
【0091】
【化39】

で表される中間体z1-r、或いは、下記構造式z2-r
【0092】
【化40】

で表される中間体z1-rを得ることができる。
【0093】
次に、前記中間体z1-r又はz2-rと反応させる、フェノール化合物(a1)は、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、イソプロピルフェノール、t-ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ビニルフェノール、イソプロペニルフェノール、フェニルフェノール、ベンジルフェノール等の1価フェノール;ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等のビスフェノール;ハイドロキノン、カテコール等の2価フェノールが挙げられる。
【0094】
また、前記中間体z1-r又はz2-rと反応させる前記フェノール樹脂(a2)は、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、その他下記構造式(a2-1)
【0095】
【化41】

(式中、Yは前記構造式1と同義であり、laは繰り返し単位で0?10の整数である。)
で表されるノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;
【0096】
ジシクロペンタジエン、テトラヒドロインデン、4-ビニルシクロヘキセン、5-ビニルノルボナ-2-エン、α-ピネン、β-ピネン、及びリモネンからなる群から選択される脂肪族環状炭化水素基を介してフェノール類が結節された分子構造をもつフェノール樹脂;下記構造式(a2-2)
【0097】
【化42】

(前記式中、Yは前記構造式1と同義であり、lbは繰り返し単位で0?10の整数である。)で表されるアラルキル型フェノール樹脂;
下記構造式(a2-3)
【0098】
【化43】

(前記式中、Yは前記構造式1と同義であり、lcは繰り返し単位で0?10の整数である。)で表されるアラルキル型フェノール樹脂;
下記構造式(a2-3)
【0099】
【化44】

(前記式中、Yは前記構造式1と同義であり、ldは繰り返し単位で0?10の整数である。)で表されるアラルキル型フェノール樹脂;
が挙げられる。
【0100】
本発明では、これらのなかでも特に2価フェノール、ビスフェノール、ノボラック型フェノール樹脂、アラルキル型フェノール樹脂が、最終的に得られる難燃性ポリアミド樹脂組成物の成形加工性に優れ、かつ、薄肉成型品、成型品の薄肉部、薄膜部における難燃性に優れる点から好ましく、特にノボラック型フェノール樹脂、アラルキル型フェノール樹脂が好ましい。この場合、ノボラック型フェノール樹脂は150℃における溶融粘度が0.5?300dPa・sの範囲であることが成形加工性の点から好ましい。
【0101】
次に、前記中間体z1-r又はz2-rと前記フェノール化合物(a1)又はフェノール樹脂(a2)との反応割合は特に限定されることがないが、最終的に得られるリン原子含有物質(I-b)中のリン原子の含有率が質量基準で4.0?7.0質量%となる割合となる範囲であることが難燃性に優れる点から好ましい。
【0102】
反応後は、必要により、脱水・乾燥して目的物を得ることができる。
【0103】
前記リン原子含有物質(I-b)は上記した製造方法によって得られる分子構造を有するものである。具体的な分子構造は前記した各原料成分の選択により任意に設計することが可能であるが、例えば、ノボラック型フェノール樹脂であって、その芳香核上の置換基として、下記構造式z1
【0104】
【化45】

(上記構造式z1中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)は、それぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表す。)
で表される構造部位z1又は下記構造式z2
【0105】
【化46】

(上記構造式z2中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)は、それぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表し、R^(5)は水素原子又は炭素原子数1?5のアルキル基を表し、Rは炭素原子1?4のアルキル基を表し、rは芳香核上の置換基ORの数であり1?3である。)
で表される構造部位z2を有するフェノール樹脂(np1);
【0106】
下記構造式(I-b-1)又は(I-b-2)
【0107】
【化47】

で表される構造を繰り返し単位とするフェノール樹脂であって、前記構造式(I-b-1)又は(I-b-2)中、Yが水素原子又は炭素原子数1?6のアルキル基であり、かつ、Zが、水素原子、前記構造部位z1、前記構造部位z2からなる群から選択され、かつ、該新規フェノール樹脂中、Zの少なくとも一つは前記構造式z1?z2で表される部分構造から選択される構造部位を有することを特徴とするフェノール樹脂(np2)、
【0108】
また、ハイドロキノン又はカテコールの芳香核に前記前記構造部位z1又は前記構造部位z2を有する化合物(np3)が挙げられる。
【0109】
次に、前記リン原子含有物質(II)は、具体的には、フェノール化合物と、前記リン原子含有化合物(β)とホルムアルデヒドとを反応させて得られる前記結節基x2を有するフェノール樹脂、或いは、
下記構造式hb
【0110】
【化48】

で表されるヒドロキシベンズアルデヒドとを反応させて下記構造式hb’
【0111】
【化49】

で表されるモノフェノール化合物を得、これを更に前記フェノール化合物と反応させて得られる2官能フェノール化合物が挙げられる。ここで、前記フェノール化合物としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、イソプロピルフェノール、t-ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ビニルフェノール、イソプロペニルフェノール、アリルフェノール、フェニルフェノール、ベンジルフェノール、クロルフェノール、ブロムフェノール等の1価フェノールが挙げられる。
【0112】
本発明で使用するリン原子含有オリゴマー(B)の難燃性樹脂組成物中の含有割合は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されるものではないが、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、1?300質量部の範囲であることが好ましく、さらに2?100質量部の範囲であることがより好ましい。当該範囲で用いると、機械強度や透明性等のポリエステル樹脂本来の物性を維持しつつ、かつ前記難燃剤の耐ブリードアウト性、難燃性および耐熱性に優れる傾向となるため好ましい。」

(イ)「【実施例】
【0179】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0180】
(合成例1)リン原子含有オリゴマー(B-1)の合成
温度計、冷却管、分留管、窒素ガス導入管、撹拌器を取り付けたフラスコに、フェノールノボラック樹脂192.4g(1.85モル)とp-アニスアルデヒド68.0g(0.50モル)と9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド(以下、「HCA」と略記する。)108.0g(0.50モル)を仕込み、180℃まで昇温し180℃で8時間反応させた。次いで、水を加熱減圧下に除去し、下記構造単位A及び構造単位B
【0181】
【化50】

を繰り返し単位とするリン原子含有オリゴマー(B-1)355gを得た。得られたリン原子含有オリゴマーの軟化点は125℃(B&R法)、溶融粘度(測定法:ICI粘度計法、測定温度:180℃)は13dPa・s、水酸基当量は190g/eq.リン含有量4.2質量%であった。
【0182】
(実施例1、比較例1?4)
・難燃性マスターバッチの製造
表1に記載の組成成分をタンブラーミキサーで予備混合後、30mmφの二軸ベント式押出機(設定温度280℃)内で溶融混練し、その後、ペレット化してポリエステル樹脂組成物ぺレット(マスターバッチ)(1)?(5)を製造した。」

2 理由4(明確性)について
(1)本願発明1について
ア 「構造式(1)」という記載について
まず、「構造式(1)」という記載が矛盾なく、理解できるかについて検討する。
本願発明1は、第2のとおりのものであり、2つのY及び2つのZがベンゼン環に置換されていない場合もあるという認識はないのであるから、合計4つのY及びZは必ずベンゼン環に置換されるということができ、構造式(1)という記載から、中央及び右側のいずれのベンゼン環からも7つの結合手が出ていることが理解できる。
また、構造式(1)のX、Y及びZに関して、請求項1には、「Zは、それぞれ独立的に水素原子、又は、下記構造式z1・・・で表される構造部位又は下記構造式z2・・・で表される構造部位であ」ること、「Yは、それぞれ独立的に、水素原子、水酸基、炭素原子数1?9のアルキル基、又は、炭素原子数1?9のアルコキシ基、フェニル基、又はベンジル基であ」ること、「Xは、メチレン基、2,2-プロピレン基、2価のアラルキル基、2価の脂肪族環状炭化水素基、下記構造式x1・・・で表される結節基x1、又は、下記構造式x2・・・で表される結節基x2であ」ること、及び「nおよびmは繰り返し単位であって、0?10の範囲である」こと、及び、X及びZの特別な場合の組み合わせとして、「前記Xが、メチレン基、2,2-プロピレン基、2価のアラルキル基、2価の脂肪族環状炭化水素基、又は前記結節基x1である場合、又は、n及びmが0である場合は、前記Zの少なくとも一つは、前記構造部位z1、又は、前記構造部位z2であり、また、前記Xとして前記結節基x2を有する場合には、前記Zは水素原子である」ことが、それぞれ記載されている。
これらの記載によると、構造式(1)の「nおよびmは繰り返し単位であって、0?10の範囲であ」り、m、n=0である場合以外は、中央及び右側のベンゼン環は、1つのXと一つのH、又は、2つのXと結合するものと解される。また、構造式(1)の中央のベンゼン環は、n=0である場合は、1つのX、1つのH、1つのOH基、2つのY、及び2つのZと結合し、n=1?10である場合は、2つのX、1つのOH基、2つのY、及び2つのZと結合し、また、右側のベンゼン環のうち、右末端のH側に位置するものは、1つのX、1つのH、1つのOH基、2つのY、及び2つのZと結合し、それ以外のベンゼン環は、2つのX、1つのOH基、2つのY、及び2つのZと結合することが理解できる。
そうすると、構造式(1)という記載自体は矛盾なく理解できるものといえる。

イ 「リン原子含有オリゴマー(B)」について
次に、構造式(1)という記載で表される「リン原子含有オリゴマー(B)」が化合物として明確であるかを検討する。
上記アで述べたように、構造式(1)の中央及び右側のいずれのベンゼン環は7つの結合手を有する。しかしながら、ベンゼン環の結合手は、定常状態では通常6つであるというのが本願出願時の技術常識であるから、ベンゼン環に7つの結合手があるように記載された構造式(1)は、上記技術常識と整合しない。
そうすると、ベンゼン環が7つの結合手を有するように記載された構造式(1)で表される「リン原子含有オリゴマー(B)」は、上記技術常識に反するものであって、その構造式が明らかではないから、これを含有する本願発明1は明確でない。
ここで、構造式(1)が上記技術常識と整合し、ベンゼン環の結合手が6つになるように何らかの定義がされているかを検討してみても、請求項1には、OH基、X、Y及びZの置換基がどのような組み合わせで選択されるのかは何ら記載されていない。また、発明の詳細な説明の記載を見ても、これに関する記載はない。
そうすると、請求項1の記載から、当業者といえども、構造式(1)という記載で表される「リン原子含有オリゴマー(B)」なる化合物がどのような構造を有するものであるのかを明確に把握することはできず、本願発明1は明確でない。

(2)本願発明2?24について
本願発明10は、本願発明1と同じ「リン原子含有オリゴマー(B)」で特定されており、上記(1)で述べたのと同じ理由で明確でないし、本願発明2?9、及び本願発明11?24は、本願発明1又は10を直接又は間接的に引用するものであるから、本願発明2?24は、本願発明1について述べた理由と同じ理由により、明確ではない。

(3)請求人の意見に対する反論
請求人は、意見書及び審判請求書の手続補正書において、中央及び右側のベンゼン環は1つのOH基との結合が必須であるし、明細書に記載されたリン原子含有オリゴマー(B)の合成反応の過程(段落【0054】?【0055】、段落【0080】及び段落【0109】?【0111】)及び本願出願時の技術常識から、2つのYと1つのZか、1つのYと2つのZの合計3つの結合で存在することを理解でき、中央のベンゼン環に2つのYと1つのZが結合されたリン原子含有オリゴマー(B-1)の合成例1(段落【0180】?【0181】)も記載されているから、構造式(1)は明確である旨を主張する。
しかしながら、上記(1)で述べたように、請求項1又は10の構造式(1)という記載は、合計4つである2つのY及び2つのZにより、ベンゼン環が必ず置換されるものであるから、上記主張のように、明細書の記載及び技術常識を参酌しても、合計3つのY及びZで置換されると解することはできない。
また、上記合成例1は、あくまでも、ベンゼン環が2つのYと1つのZで置換されたリン原子含有オリゴマー(B-1)の製造例であって、これを根拠にして、本願発明1又は10における構造式(1)のベンゼン環も2つのYと1つのZで置換されるものであると解することもできない。
よって、上記主張を採用することはできない。

第5 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-02-06 
結審通知日 2019-02-07 
審決日 2019-02-20 
出願番号 特願2014-6706(P2014-6706)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大久保 智之  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 近野 光知
長谷部 智寿
発明の名称 難燃性樹脂組成物、難燃性マスターバッチ、成形体およびそれらの製造方法  
代理人 大野 孝幸  
代理人 小川 眞治  
代理人 岩本 明洋  
代理人 根岸 真  

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