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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 補正却下を取り消す 原査定を取り消し、特許すべきものとする  F16C
審判 査定不服 2項進歩性 補正却下を取り消す 原査定を取り消し、特許すべきものとする  F16C
審判 査定不服 5項独立特許用件 補正却下を取り消す 原査定を取り消し、特許すべきものとする  F16C
管理番号 1350569
審判番号 不服2018-1991  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-13 
確定日 2019-04-23 
事件の表示 特願2012-285751「アンギュラ玉軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成26年7月7日出願公開、特開2014-126195、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年12月27日の出願であって、平成28年10月3日付け(発送日:同年10月11日)で拒絶理由が通知され、同年12月12日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成29年5月8日付け(発送日:同年5月16日)で(最後の)拒絶理由が通知され、同年6月14日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月7日付けで前記平成29年6月14日付け手続補正についての補正の却下の決定がされるとともに同日付け(発送日:同年11月14日)で拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、同年11月27日に審査官と出願人代理人との間で電話による応対がされ、平成30年2月13日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 平成29年11月7日付けの補正の却下の決定について
請求人は、審判請求書の請求の趣旨において「原査定を取り消す。本願は特許すべきものであるとの審決を求める。」とし、審判請求書の請求の理由の「3(1)」において、「原審において平成29年11月7日付けでなされた補正の却下の決定は、不当であるから取り消されるべきものであり、当該補正の却下を前提とした拒絶査定もまた、当然に取り消されるべきものである。」と主張している。そこで、平成29年11月7日付けの補正の却下の決定の当否について検討する。

[平成29年11月7日付けの補正の却下の決定についての結論]

平成29年11月7日付けの補正の却下の決定を取り消す。

[理由]
1 補正の内容
平成29年6月14日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲を、以下のとおりに補正する内容を含むものである。
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲の記載は、平成28年12月12日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
内周面に外輪軌道面を有する外輪と、
外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に、周方向に所定の間隔で配設された複数の玉と、
前記複数の玉を転動自在に保持する保持器と、
を備えるアンギュラ玉軸受であって、
前記外輪の内周面は、前記外輪軌道面の軸方向一方側に形成された外輪小径肩部と、前記外輪軌道面の軸方向他方側に形成され、前記外輪小径肩部よりも大径の外輪大径肩部と、を有し、
前記保持器は、軸方向一方側及び他方側にそれぞれ配置される一方側環状部及び他方側環状部と、前記一方側環状部及び他方側環状部を軸方向に連結する複数の柱部と、前記一方側環状部と前記他方側環状部と前記複数の柱部とによって画成され、前記複数の玉を転動自在に保持する複数のポケット部と、を有し、
前記保持器の外周面は、前記一方側環状部及び前記他方側環状部の外径が異なる段付き形状とされ、
前記外輪小径肩部の内径をφA2とし、
前記他方側環状部の外径をφDO1としたとき、
φA2<φDO1
であり、
前記内輪の外周面は、前記内輪軌道面の軸方向一方側に形成され、前記一方側環状部と径方向に対向する内輪小径肩部と、前記内輪軌道面の軸方向他方側に形成されると共に前記他方側環状部と径方向に対向し、前記内輪小径肩部よりも大径の内輪大径肩部と、を有し、
前記保持器の内周面は、前記一方側環状部及び前記他方側環状部の内径が異なる段付き形状とされ、
前記他方側環状部の内径をφdi1とし、
前記一方側環状部の内径をφdi2としたとき、
φdi2<φdi1
であり、
前記柱部の内周面は、内周側に向かって突設されると共に、前記内輪軌道面と径方向に対向する突部を有し、
前記突部の内径をφdi3とし、
前記内輪大径肩部の外径をφB1とし、
前記内輪小径肩部の外径をφB2としたとき、
φB2<φdi3<φB1
であり、
前記ポケット部は、径方向に延びる中心線を有する円筒形状により形成される円筒面を有し、
前記突部の端部には、前記中心線に向かって前記円筒面の内側に延びる内径側凸部が設けられ、前記内径側凸部には、前記円筒面に連続するテーパ面と、前記テーパ面の内径側端部で前記中心線と略平行するストレート面とが設けられていることを特徴とするアンギュラ玉軸受。
【請求項2】
前記柱部の外径をφDO3としたとき、
φA2<φDO3
である
ことを特徴とする請求項1に記載のアンギュラ玉軸受。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、特許請求の範囲は次のとおり補正された(下線部は、当審が付したもので、補正箇所を示すものである。)
「【請求項1】
内周面に外輪軌道面を有する外輪と、
外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に、周方向に所定の間隔で配設された複数の玉と、
前記複数の玉を転動自在に保持する保持器と、
を備えるアンギュラ玉軸受であって、
前記外輪の内周面は、前記外輪軌道面の軸方向一方側に形成された外輪小径肩部と、前記外輪軌道面の軸方向他方側に形成され、前記外輪小径肩部よりも大径の外輪大径肩部と、を有し、
前記保持器は、軸方向一方側及び他方側にそれぞれ配置される一方側環状部及び他方側環状部と、前記一方側環状部及び他方側環状部を軸方向に連結する複数の柱部と、前記一方側環状部と前記他方側環状部と前記複数の柱部とによって画成され、前記複数の玉を転動自在に保持する複数のポケット部と、を有し、
前記保持器の外周面は、前記一方側環状部及び前記他方側環状部の外径が異なる段付き形状とされ、
前記外輪小径肩部の内径をφA2とし、
前記他方側環状部の外径をφDO1としたとき、
φA2<φDO1
であり、
前記内輪の外周面は、前記内輪軌道面の軸方向一方側に形成され、前記一方側環状部と径方向に対向する内輪小径肩部と、前記内輪軌道面の軸方向他方側に形成されると共に前記他方側環状部と径方向に対向し、前記内輪小径肩部よりも大径の内輪大径肩部と、を有し、
前記保持器の内周面は、前記一方側環状部及び前記他方側環状部の内径が異なる段付き形状とされ、
前記他方側環状部の内径をφdi1とし、
前記一方側環状部の内径をφdi2とし、
前記一方側環状部の外径をφDO2としたとき、
φdi2<φdi1,
φdi1<φDO2<φDO1
であり、
前記柱部の内周面は、内周側に向かって突設されると共に、前記内輪軌道面と径方向に対向する突部を有し、
前記突部の内径をφdi3とし、
前記内輪大径肩部の外径をφB1とし、
前記内輪小径肩部の外径をφB2としたとき、
φB2<φdi3<φB1
であり、
前記ポケット部は、径方向に延びる中心線を有する円筒形状により形成される円筒面を有し、
前記突部の端部には、前記中心線に向かって前記円筒面の内側に延びる内径側凸部が設けられ、前記内径側凸部には、前記円筒面に連続するテーパ面と、前記テーパ面の内径側端部で前記中心線と略平行するストレート面とが設けられている
ことを特徴とするアンギュラ玉軸受。
【請求項2】
前記柱部の外径をφDO3としたとき、
φA2<φDO3
である
ことを特徴とする請求項1に記載のアンギュラ玉軸受。」

上記(1)及び(2)から、本件補正は、以下の補正事項1を含むものである。

〔補正事項1〕
補正前の請求項1に
「前記他方側環状部の内径をφdi1とし、
前記一方側環状部の内径をφdi2としたとき、
φdi2<φdi1であり、」
とあったものを、補正後に
「前記他方側環状部の内径をφdi1とし、
前記一方側環状部の内径をφdi2とし、
前記一方側環状部の外径をφDO2としたとき、
φdi2<φdi1,
φdi1<φDO2<φDO1であり、」
とする補正。

2 本件補正の適否
(1)補正の却下の決定の概要
平成29年11月7日付けの補正の却下の決定(以下、単に「補正の却下の決定」という。)の概要は次のとおりである。

請求項1及び2についての補正は限定的減縮を目的としている。
しかしながら、補正後の請求項1及び2に係る発明は、下記引用文献1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
よって、この補正は、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第53条第1項の規定により却下する。

<引用文献等一覧>
1.特開2007-285318号公報
2.特開2003-42160号公報

なお、補正の却下の決定において、引用文献1は「特開2007-285318号公報」と記載されているが、平成29年11月27日に作成された応対記録によれば、審査官は、「特開2007-285318号公報」は「特開2005-188679号公報」の誤記であると説明し、出願人側応対者も、審査官の説明を理解したこととなっている。そして、請求人は審判請求書の請求の理由の2(1)において「補正の却下の決定には、引用文献1が『特開2007-285318号公報』と記載されているが、当該公報の記載内容が本願補正発明と無関係であるため、審判請求人が原審審査官に電話で問い合わせたところ、上記の公報番号は間違いであり、正しくは、『特開2005-188679号公報』であるとの回答を得たので、本審判請求書においては、そのように読み替えている。 」と主張している。これら応対記録及び審判請求書における請求人の主張から、「特開2007-285318号公報」は「特開2005-188679号公報」の誤記であることについて審査官と特許出願人との間で認識が一致しているものと認められる。そこで、当審では、補正の却下の決定における「特開2007-285318号公報」は「特開2005-188679号公報」の誤記であるとして審理を行う。

(2)補正の目的
上記補正事項1は、補正前の請求項1に対して「前記一方側環状部の外径をφDO2としたとき」、「φdi1<φDO2<φDO1であり」との限定を付したものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むものと認める。

(3)特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件
補正事項1による補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件を満たすものである。

(4)独立特許要件について
上記(2)のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むから、本件補正後の請求項1及び2に係る発明(以下「本願補正発明1」及び「本願補正発明2」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか否か)について検討する。

ア 本願補正発明1及び2の認定
本願補正発明1及び2は、上記1(2)のとおりである。

イ 引用文献の記載事項及び引用発明
(ア)補正の却下の決定で引用され、本件出願前に頒布された特開2005-188679号公報(以下「引用文献A」という。)には、「玉軸受」に関し、図面(特に、図1及び2を参照。)とともに以下の記載がある(下線は当審が付した。以下同じ。)。

a 「【0013】
次に、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明である玉軸受の第一の実施形態に係るアンギュラ玉軸受の一部を模式的に示した断面図である。このアンギュラ玉軸受10(以下軸受10ともいう)は、外輪11と、内輪12と、両者の間に転動自在に配置される複数の玉13と、複数の玉13を保持するための円環状の保持器14とから構成されている。
外輪11は、その内周面に横断面円弧状の外輪軌道面11aが形成されている。また、この外輪11の内周面の一方側端部には、外輪軌道面11aの深さ近傍までその内径が増大している大内径部11bが形成されており、他方側端部には、一方側の内径よりも小さくなっている小内径部11cが形成されている。内輪12は、その外周面に横断面円弧状の内輪軌道面12aが形成されている。また、この内輪12の外周面の一方側端部には、内輪軌道面12aの深さ近傍までその外径が減少している小外径部12cが形成されており、他方側端部には、一方側の外径よりも大きくなっている大外径部12bが形成されている。また、小内径部11cと小外径部12cは対向しており、環状の開口部Pを形成している。同様に大内径部11bと大外径部12bとにより、環状の開口部Qを形成している。外輪軌道11aと、内輪軌道12aとの間には、複数個の玉13が、保持器14により保持された状態で、転動自在に介在されている。この複数個の玉13は、内輪軌道12aに対してはR点、外輪溝11aに対してはS点において接触角αで接触している。
【0014】
保持器14は、円環形状であり、複数個の玉13を保持するための円形のポケット14aが周方向に複数個設けられており、外輪軌道11aと内輪12aで形成される軌道上周方向に複数の玉13を所定の間隔で転動自在に保持している。また、開口部P内に位置している前記保持器14の一方側の端部14bには、開口部Pの開口幅を狭めるように環状のリング部材15が設けられている。このリング部材15の端面の一方には円環状の溝部15aが形成されており、この溝部15aに端部14bが嵌合されて取付けられている。このリング部材15の外周面と小内径部11cとの間には隙間Aが形成され、リング部材15の内周面と小外径部12cとの間には隙間Bが形成されている。保持器14の他方側の端部14cは、開口部Q内に位置しており、この端部14cの外周面と大内径部11bとの間には隙間Cが形成され、端部14cの内周面と大外径部12bとの間には隙間Dが形成されている。」

b 「【0019】
図2は、本発明の第二の実施形態に係るアンギュラ玉軸受の一部を模式的に示した断面図である。第一の実施形態では保持器14の端部14bにリング部材15を取付けることで開口部Pにおける潤滑油の流入する隙間を狭めたが、例えば、図2に示すように保持器14の端部14bの径方向の厚みを増やすことで、開口部Pにおける潤滑油の流入する隙間を狭めても良い。このようにすることで、保持器14にリング部材15を取付ける必要が無くなるので、第一の実施形態と比較して軸受10の組み立てが容易となる。」

c 上記a(特に、段落【0013】の記載)及び図2の図示内容から、外輪11の内周面は、外輪軌道面11aの軸方向一方側に形成された小内径部11cと、外輪軌道面11aの軸方向他方側に形成され、前記小内径部11cよりも大径の大内径部11bが形成されているといえる。

d 上記a(特に、段落【0014】の記載)及び図2の図示内容並びに軸受の保持器に関する技術常識から、保持器14は、軸方向一方側及び他方側にそれぞれ配置される一方側環状部及び他方側環状部と、前記一方側環状部及び他方側環状部を軸方向に連結する複数の柱部と、前記一方側環状部と前記他方側環状部と前記複数の柱部とによって画成され、前記複数の玉13を転動自在に保持する複数のポケット14aと、を有しているといえる。

e 上記a(特に、段落【0013】の記載)及び図2の図示内容から、内輪12の外周面は、内輪軌道面12aの軸方向一方側に形成され、一方側環状部と径方向に対向する小外径部12cと、前記内輪軌道面12aの軸方向他方側に形成されると共に他方側環状部と径方向に対向し、前記小外径部12cよりも大径の大外径部12bと、を有しているといえる。

f 図2の図示内容及び軸受の保持器に関する技術常識から、保持器14の外周面は、一方側環状部及び他方側環状部の外径が異なる段付き形状とされ、保持器14の内周面は、一方側環状部及び他方側環状部の内径が異なる段付き形状とされているといえる。

g 図2から、小内径部11cの内径をφA2とし、他方側環状部の外径をφDO1としたとき、φA2<φDO1であることが看取できる。

h 図2から、他方側環状部の内径をφdi1とし、一方側環状部の内径をφdi2としたとき、φdi2<φdi1であることが看取できる。

i 図1ないし4から、保持器14のポケット14aの内面形状が「球面」であることが看取できる。

上記記載事項、認定事項及び図面の図示内容から、引用文献Aには、次の発明(以下「引用発明A」という。)が記載されているものと認められる。

「内周面に外輪軌道面11aを有する外輪11と、
外周面に内輪軌道面12aを有する内輪12と、
前記外輪軌道面11aと前記内輪軌道面12aとの間に、周方向に所定の間隔で配設された複数の玉13と、
前記複数の玉13を転動自在に保持する保持器14と、
を備えるアンギュラ玉軸受であって、
前記外輪11の内周面は、外輪軌道面11aの軸方向一方側に形成された小内径部11cと、外輪軌道面11aの軸方向他方側に形成され、前記小内径部11cよりも大径の大内径部11bが形成されており、
前記保持器14は、軸方向一方側及び他方側にそれぞれ配置される一方側環状部及び他方側環状部 と、前記一方側環状部及び他方側環状部を軸方向に連結する複数の柱部と、前記一方側環状部と前記他方側環状部と前記複数の柱部とによって画成され、前記複数の玉13を転動自在に保持する複数のポケット14aと、を有し、
前記保持器14の外周面は、前記一方側環状部及び前記他方側環状部の外径が異なる段付き形状とされ 、
前記小内径部11cの内径をφA2とし、
前記他方側環状部の外径をφDO1としたとき、
φA2<φDO1
であり、
前記内輪12の外周面は、内輪軌道面12aの軸方向一方側に形成され、前記一方側環状部と径方向に対向する小外径部12cと、前記内輪軌道面12aの軸方向他方側に形成されると共に前記他方側環状部と径方向に対向し、前記小外径部12cよりも大径の大外径部12bと、を有し、
前記保持器14の内周面は、前記一方側環状部及び前記他方側環状部の内径が異なる段付き形状とされ 、
前記他方側環状部の内径をφdi1とし、
前記一方側環状部の内径をφdi2としたとき、
φdi2<φdi1
である、
アンギュラ玉軸受。」

(イ)補正の却下の決定及び原査定の拒絶の理由で引用され、本件出願前に頒布された特開2003-42160号公報(以下「引用文献B」という。)には、「アンギュラ玉軸受及び主軸装置」に関し、図面(特に、図1ないし3)ともに、以下の記載がある。

a 「【0012】
【発明の実施の形態】以下、本発明に係るアンギュラ玉軸受の一実施形態を図1?3に基づいて説明する。図1は本発明のアンギュラ玉軸受の一実施形態を示す要部断面図、図2は図1に示した保持器を外径側から見た部分平面図、図3は図2に示した保持器のX-X方向の部分断面図、図4は温度上昇比較試験の結果を示す折れ線グラフである。
【0013】図1に示すように、アンギュラ玉軸受1は、内周面に軌道面3を有する外輪2と、外周面に軌道面5を有する内輪4と、外輪2の軌道面3と内輪4の軌道面5との間に複数配置された転動体である鋼球の玉6とを備えている。また、複数の玉6は、外輪2の内周面と内輪4の外周面との間に組み込まれた環状の保持器7によって、周方向に間隔を隔てて保持されている。更に、外輪2と内輪4との両側面の開口部には、シール10,11が装着されている。
【0014】外輪2の内周面には、軌道面3の片側一方に肩部3aが形成されている。また、内輪4の外周面には、玉6を中心として外輪2の肩部3aと対称となる位置に肩部5aが形成されている。外輪2及び内輪4のそれぞれの肩部3a,5aを形成することにより、アンギュラ玉軸受1は、半径方向のラジアル荷重と共に、軸方向のアキシアル荷重を負荷することができる。」

b 「【0016】図1?3に示すように、保持器7は合成樹脂によって環状に成形され、玉6を組み入れて保持するための円筒形ポケット8を周方向に複数有している。該ポケット8の内径は、玉6の直径より僅かに大きく形成されている。「合成樹脂材料」としては、ポリアミド66やポリアミド46、ポリフェニレンサルファイド、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン等を母材として使用することができる。更に、保持器の強度向上のために、ガラス繊維を10?40重量%、または炭素繊維、アラミド繊維を10?30重量%程度添加することが好ましい。また、高速回転の使用を満たすには炭素繊維やアラミド繊維がより好ましいが使用に応じてガラス繊維も選択できる。炭素繊維やアラミド繊維の添加量が、10重量%以下では強度の保持が不十分であり30重量%以上とすると成形性が悪くなり外観も悪くなる。また、更に好ましくは、炭素繊維やアラミド繊維の添加量を20?30重量%とすると強度、成形性も共に良好になり、ガラス繊維の場合は10?40重量%が好ましく、この理由は炭素繊維やアラミド繊維の場合と同様である。
【0017】保持器7の外径は、外輪2の肩部3aの内径より小さく、また、保持器7の内径は、内輪4の肩部5aの外径より大きく成形されている。また、ポケット8の内径はもみ抜きによって玉6の外径より僅かに大きく成形されている。保持器7の内周側には、ポケット8の内側に向かって突出した縮径部9が形成されている。縮径部9は、それぞれのポケット8の内側に2箇所、保持器7の周方向に沿った対向位置に設けられている。更に、縮径部9はポケット8と連続したテーパ状の面を形成し、玉6との接触によって保持器7のラジアル方向の移動を規制する。また、縮径部9は、該縮径部9の成形上、隣接する互いのポケット8,8の間で周方向に帯状に延設されている。」

c 上記a(特に、段落【0014】の記載)及び図1ないし3の図示内容から、外輪2の内周面は、軌道面3の片側他方に形成され、肩部3aよりも大径の外輪大径内周部、を有しているといえる。

d 図1ないし3の図示内容及び軸受の保持器に関する技術常識から、保持器7は、軸方向一方側及び他方側にそれぞれ配置される一方側環状部及び他方側環状部と、前記一方側環状部及び前記他方側環状部を軸方向に連結する複数の柱部と、前記一方側環状部と前記他方側環状部と前記複数の柱部とによって画成され、前記複数の玉6を転動自在に保持する複数のポケット8と、を有しているといえる。

e 上記a(特に、段落【0014】の記載)及び図1ないし3の図示内容から、内輪4の外周面は、軌道面5の片側一方に形成され、一方側環状部と径方向に対向する内輪小径外周部と、前記軌道面5の片側他方に形成されると共に他方側環状部と径方向に対向し、前記内輪小径外周部よりも大径の肩部5aと、を有しているといえる。

f 図1ないし3の図示内容から、縮径部9が設けられている部分は、柱部の内周面において、内周側に向かって突設されると共に、内輪軌道面5と径方向に対向する突部であるといえる。

g 図1ないし3の図示内容から、ポケット8は、径方向に延びる中心線を有する円筒形状により形成される円筒面を有しているといえる。

h 図1ないし3の図示内容から、前記突部の端部には、前記中心線に向かって前記円筒面の内側に延びる縮径部9が設けられ、前記縮径部9には、前記円筒面に連続するテーパ状の面と、前記テーパ状の面の内径側端部で前記中心線と略平行するストレート面(図3の縮径部9の内径側部分)とが設けられているといえる。

上記記載事項、認定事項及び図面の図示内容から、引用文献Bには、次の発明(以下「引用発明B」という。)が記載されているものと認められる。

「内周面に軌道面3を有する外輪2と、
外周面に軌道面5を有する内輪4と、
前記軌道面3と前記軌道面5との間に、周方向に所定の間隔で配設された複数の玉6と、
前記複数の玉6を転動自在に保持する保持器7と、
を備えるアンギュラ玉軸受であって、
前記外輪2の内周面は、前記軌道面3の片側一方に形成された肩部3aと、前記軌道面3の片側他方に形成され、前記肩部3aよりも大径の外輪大径内周部と、を有し、
前記保持器は、片側一方及び他方にそれぞれ配置される一方側環状部及び他方側環状部と、前記一方側環状部及び他方側環状部を軸方向に連結する複数の柱部と、前記一方側環状部と前記他方側環状部と前記複数の柱部とによって画成され、前記複数の玉6を転動自在に保持する複数のポケット8と 、を有し、
前記内輪4の外周面は、前記軌道面5の片側一方に形成され、前記一方側環状部と径方向に対向する内輪小径外周部と、前記軌道面5の片側他方に形成されると共に前記他方側環状部と径方向に対向し、前記内輪小径外周部よりも大径の肩部5aと、を有し、
前記柱部の内周面は、内周側に向かって突設されると共に、前記内輪4の軌道面5と径方向に対向する突部を有し、
前記ポケット8は、径方向に延びる中心線を有する円筒形状により形成される円筒面を有し、
前記突部の端部には、前記中心線に向かって前記円筒面の内側に延びる縮径部9が設けられ、前記縮径部9には、前記円筒面に連続するテーパ状の面と、前記テーパ状の面の内径側端部で前記中心線と略平行するストレート面とが設けられている
アンギュラ玉軸受。」

ウ 対比・判断
(ア)本願補正発明1について
本願補正発明1と引用発明Aとを対比すると、引用発明Aの「外輪軌道面11a」は、その構成、機能又は技術的意義からみて本願補正発明1の「外輪軌道面」に相当し、以下同様に、「外輪11」は「外輪」に、「内輪軌道面12a」は「内輪軌道面」に、「内輪12」は「内輪」に、「玉13」は「玉」に、「保持器14」は「保持器」に、「大内径部11b」は「外輪大径肩部」に、「小内径部11c」は「外輪小径肩部」に、「ポケット14a」は「ポケット部」に、「小外径部12c」は「内輪小径肩部」に、「大外径部12b」は「内輪大径肩部」に、それぞれ相当する。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
〔一致点〕
「内周面に外輪軌道面を有する外輪と、
外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に、周方向に所定の間隔で配設された複数の玉と、
前記複数の玉を転動自在に保持する保持器と、
を備えるアンギュラ玉軸受であって、
前記外輪の内周面は、前記外輪軌道面の軸方向一方側に形成された外輪小径肩部と、前記外輪軌道面の軸方向他方側に形成され、前記外輪小径肩部よりも大径の外輪大径肩部と、を有し、
前記保持器は、軸方向一方側及び他方側にそれぞれ配置される一方側環状部及び他方側環状部と、前記一方側環状部及び他方側環状部を軸方向に連結する複数の柱部と、前記一方側環状部と前記他方側環状部と前記複数の柱部とによって画成され、前記複数の玉を転動自在に保持する複数のポケット部と、を有し、
前記保持器の外周面は、前記一方側環状部及び前記他方側環状部の外径が異なる段付き形状とされ、
前記外輪小径肩部の内径をφA2とし、
前記他方側環状部の外径をφDO1としたとき、
φA2<φDO1
であり、
前記内輪の外周面は、前記内輪軌道面の軸方向一方側に形成され、前記一方側環状部と径方向に対向する内輪小径肩部と、前記内輪軌道面の軸方向他方側に形成されると共に前記他方側環状部と径方向に対向し、前記内輪小径肩部よりも大径の内輪大径肩部と、を有し、
前記保持器の内周面は、前記一方側環状部及び前記他方側環状部の内径が異なる段付き形状とされ、
前記他方側環状部の内径をφdi1とし、
前記一方側環状部の内径をφdi2としたとき、
φdi2<φdi1
である、
アンギュラ玉軸受。」

〔相違点1〕
他方側環状部の外径φDO1、一方側環状部の外径φDO2、他方側環状部の内径φdi1としたときに、本願補正発明1においては「φdi1<φDO2<φDO1」であるのに対して、引用発明Aにおいては「φdi1<φDO2<φDO1」であるか否か不明な点。

〔相違点2〕
本願補正発明1においては「前記柱部の内周面は、内周側に向かって突設されると共に、前記内輪軌道面と径方向に対向する突部を有し、前記突部の内径をφdi3とし、前記内輪大径肩部の外径をφB1とし、前記内輪小径肩部の外径をφB2としたとき、φB2<φdi3<φB1であり、前記ポケット部は、径方向に延びる中心線を有する円筒形状により形成される円筒面を有し、前記突部の端部には、前記中心線に向かって前記円筒面の内側に延びる内径側凸部が設けられ、前記内径側凸部には、前記円筒面に連続するテーパ面と、前記テーパ面の内径側端部で前記中心線と略平行するストレート面とが設けられている」のに対して、引用発明Aにおいては、そのような構成を有していない点

上記相違点1について検討する。
上記相違点1に係る本願補正発明1の構成は、引用文献Aには明記されておらず示唆もされていない。
また、引用発明Bの保持器7は、他方側環状部の外径と一方側環状部の外径が異なり、他方側環状部の内径と一方側管状部の内径とが異なる段付き形状ではないから、上記相違点1に係る本願補正発明1の構成を開示ないし示唆するものではない。
さらに、上記相違点1に係る本願補正発明1の構成は、周知技術又は当業者が適宜なし得る設計的事項ということもできない。

上記相違点2について検討する。
引用発明Bにおける保持器7の玉6の保持部であるポケット8の内面形状は「円筒」である。
一方、引用発明Aにおける保持器14は、玉13の保持部であるポケット14aの内面形状が「球面」である(上記イ(ア)i)。
そうすると、引用発明Aの保持器14と引用発明Bの保持器7とは、玉の保持部の内面形状が相違する。そして該相違は、引用発明Aに対し引用発明Bを適用することを阻害するものといえる。

したがって、本願補正発明1は、引用発明A及び引用発明Bに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、本願補正発明1は、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由はない。

(イ)本願補正発明2について
本願補正発明2は、本願補正発明1の記載を他の記載に置き換えることなく直接的に引用して記載されたものであるから、本願補正発明2は、本願補正発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本願補正発明2は、本願補正発明1と同様の理由により、引用発明A及び引用発明Bに基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本願補正発明2は、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由はない。

エ 小括
よって、本願補正発明1及び2は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるから、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項(独立特許要件)に適合する。
したがって、本件補正は特許法第17条の2第3項ないし同条第6項の規定に適合するから、補正の却下の決定は取り消すべきものである。

第3 本願の請求項1及び2に係る発明について
1 本願の請求項1及び2に係る発明
上記のとおり、補正の却下の決定は取り消されたので、本願の請求項1及び2に係る発明は平成29年6月14日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された発明、すなわち、本願補正発明1及び2である。

2 原査定の概要
平成29年5月8日付け(最後の)拒絶理由及び原査定の概要は次のとおりである。

本願の請求項1及び2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開2003-42160号公報
2.特開2008-101630号公報
3.特開2009-14205号公報

3 当審の判断
(1)引用文献の記載事項及び引用発明
ア 原査定の拒絶の理由で引用され、本件出願前に頒布された特開2003-42160号公報(引用文献B)の記載事項及び引用発明Bは上記「第2[理由]2(4)イ(イ)」のとおりである。

イ 原査定の拒絶の理由で引用され、本件出願前に頒布された特開2008-101630号公報(以下「引用文献C」という。)には、「ボールねじサポート軸受」に関し、図面(特に、図1)ともに、以下の記載がある。

a 「【0010】
この発明の一実施形態を図面と共に説明する。このボールねじサポート軸受は、高負荷用途となるボールねじのねじ軸を回転自在に支持するアンギュラ玉軸受であって、軌道輪である内輪1と外輪2の軌道面5,6の間に複数の転動体3が介在し、これら転動体3は保持器4で保持されている。深溝玉軸受に比べて、内輪1は、正面側の外径を大きくし、外輪2は背面側の内径を小さくしてあり、軌道面5,6に接触角θが生じている。軸受組立の都合上、内輪1の背面側には軌道面5の肩の一方を落とした部分であるカウンターボア7が形成され、外輪2の正面側にも軌道面6の一方の肩を落とした部分であるカウンターボア8が形成されている。」

b 「【符号の説明】
【0020】
1…内輪
2…外輪
5…内輪軌道面
5a…軌道溝一般部分
5a’…仮想溝内面
5b…溝肩逃がし部
6…外輪軌道面」

c 上記a及び図1の図示内容から、外輪2の内周面は、外輪軌道面6の背面側に形成された外輪小径内周部と、前記外輪軌道面6の正面側に形成され、前記外輪小径内周部よりも大径のカウンターボア8と、を有しているといえる。

d 上記a及び図1の図示内容並びに軸受の保持器に関する技術常識から、保持器4は、背面側及び正面側にそれぞれ配置される背面側環状部及び正面側環状部と、前記背面側環状部及び正面側環状部を軸方向に連結する複数の柱部と、前記背面側環状部と前記正面側環状部と前記複数の柱部とによって画成され、前記複数の転動体3を転動自在に保持する複数の保持部と、を有しているといえる。

e 上記a及び図1の図示内容並びに軸受の保持器に関する技術常識から、保持器4の外周面は、背面側環状部及び正面側環状部の外径が異なる段付き形状であり、保持器の内周面は、前記背面側環状部及び前記正面側環状部の内径が異なる段付き形状であり、前記正面側環状部の内径をφdi1とし、前記背面側環状部の内径をφdi2としたとき、φdi2<φdi1であるといえる。

f 図1から、外輪小径内周部の内径をφA2とし、正面側環状部の外径をφDO1としたとき、φA2<φDO1であることが看取できる。

g 上記a及び図1の図示内容から、内輪の外周面は、内輪軌道面5の軸方向背面側に形成され、背面側環状部と径方向に対向するカウンターボア7と、前記内輪軌道面5の軸方向正面側に形成されると共に正面側環状部と径方向に対向し、前記カウンターボア7よりも大径の内輪大径外周部と、を有しているといえる。

上記記載事項、認定事項及び図面の図示内容から、引用文献Cには、次の発明(以下「引用発明C」という。)が記載されているものと認められる。

「内周面に外輪軌道面6を有する外輪2と、
外周面に内輪軌道面5を有する内輪1と、
前記外輪軌道面6と前記内輪軌道面5との間に、周方向に所定の間隔で配設された複数の転動体3と、
前記複数の転動体3を転動自在に保持する保持器4と、
を備えるアンギュラ玉軸受であって、
前記外輪2の内周面は、前記外輪軌道面6の背面側に形成された外輪小径内周部と、前記外輪軌道面6の正面側に形成され、前記外輪小径内周部よりも大径のカウンターボア8と、を有し、
前記保持器4は、背面側及び正面側にそれぞれ配置される背面側環状部及び正面側環状部と、前記背面側環状部及び正面側環状部を軸方向に連結する複数の柱部と、前記背面側環状部と前記正面側環状部と前記複数の柱部とによって画成され、前記複数の転動体3を転動自在に保持する複数の保持部と、を有し、
前記保持器の外周面は、前記背面側環状部及び前記正面側環状部の外径が異なる段付き形状とされ、
前記外輪小径内周部の内径をφA2とし、
前記正面側環状部の外径をφDO1としたとき、
φA2<φDO1
であり、
前記内輪の外周面は、前記内輪軌道面5の軸方向背面側に形成され、前記背面側環状部と径方向に対向するカウンターボア7と、前記内輪軌道面5の軸方向正面側に形成されると共に前記正面側環状部と径方向に対向し、前記カウンターボア7よりも大径の内輪大径外周部と、を有し、
前記保持器4の内周面は、前記背面側環状部及び前記正面側環状部の内径が異なる段付き形状とされ、
前記正面側環状部の内径をφdi1とし、
前記背面側環状部の内径をφdi2とし、
φdi2<φdi1
である、
アンギュラ玉軸受。」

ウ 原査定の拒絶の理由で引用され、本件出願前に頒布された特開2009-14205号公報(以下「引用文献D」という。)には、「合成樹脂製保持器およびアンギュラ玉軸受」に関し、図面(特に、図1ないし6)ともに、以下の記載がある。

a 「【0025】
以下、この発明の実施の形態を図1乃至図14に基づいて説明する。図1乃至図6は、参考例としてのアンギュラ玉軸受を示す。図示のように、アンギュラ玉軸受は、外輪1と、その内側に設けられた内輪11と、その両輪1、11間に組込まれた保持器21および保持器21に保持されたボール31とから成る。
【0026】
保持器21は、合成樹脂の成形品から成る。合成樹脂として、グラスファイバやカーボンファイバなどの充填材が添加されたポリアミド(PA)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)やポリエーテルサルフォン(PES)が採用されている。
【0027】
上記保持器21は、環状体22にボール31を収容する複数のポケット23を周方向に等間隔に形成した構成とされている。
【0028】
ポケット23は円筒形とされている。このポケット23の円筒形内面24には図3に示すように、径方向に貫通する4本の径方向溝25が形成され、その径方向溝25によってポケット23の円筒形内面24は、保持器周方向で対向する一対の円弧状内面24aと、保持器軸方向で対向する一対の円筒形内面24bとに4分割されている。
【0029】
図2に示すように、保持器周方向で対向する一対の円筒形内面24aのそれぞれ内径側端部にはボール案内される円錐形案内面26が設けられている。」

b 図1の図示内容及び軸受に関する技術常識から、外輪1は、その内周面に外輪軌道面を有しており、内輪11は、その外周面に内輪軌道面を有しているといえる。

c 上記a(特に、段落【0027】の記載)、図1及び6の図示内容並びに軸受の保持器に関する技術常識から、保持器21は、軸方向一方側及び他方側にそれぞれ配置される一方側環状部及び他方側環状部と、前記一方側環状部及び他方側環状部を軸方向に連結する複数の柱部と、前記一方側環状部と前記他方側環状部と前記複数の柱部とによって画成され、複数のボール31を転動自在に保持する複数のポケット23と、を有しているといえる。

d 図1ないし3から、柱部の内周面は、内周側に向かって突設されると共に、内輪軌道面と径方向に対向する突部(図1において、保持器21の下側中央部が内輪11側に突出している部分)を有していることが看取できる。そして、当該突部の端部(図2において、ボール31に面した部分)は、ポケット23の径方向中心線に向かって円筒形内面24の内側に延びていることから、内径側凸部ということができ、当該内径側凸部に円錐形案内面26が設けられているといえる。また、円錐形案内面26は円筒形内面24に連続しているといえる。

e 図1から、突部の内径をφdi3とし、内輪大径肩部の外径をφB1とし、内輪小径肩部の外径をφB2としたとき、φB2<φdi3<φB1であることが看取できる。

上記記載事項、認定事項及び図面の図示内容から、引用文献Dには、次の発明(以下「引用発明D」という。)が記載されているものと認められる。

「内周面に外輪軌道面を有する外輪1と、
外周面に内輪軌道面を有する内輪11と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に、周方向に所定の間隔で配設された複数のボール31と、
前記複数のボール31を転動自在に保持する保持器21と、
を備えるアンギュラ玉軸受であって、
前記外輪1の内周面は、前記外輪軌道面の軸方向一方側に形成された外輪小径肩部と、前記外輪軌道面の軸方向他方側に形成され、前記外輪小径肩部よりも大径の外輪大径肩部と、を有し、
前記保持器は、軸方向一方側及び他方側にそれぞれ配置される一方側環状部及び他方側環状部と、前記一方側環状部及び他方側環状部を軸方向に連結する複数の柱部と、前記一方側環状部と前記他方側環状部と前記複数の柱部とによって画成され、前記複数のボール31を転動自在に保持する複数のポケット23と、を有し、
前記内輪11の外周面は、前記内輪軌道面の軸方向一方側に形成され、前記一方側環状部と径方向に対向する内輪小径肩部と、前記内輪軌道面の軸方向他方側に形成されると共に前記他方側環状部と径方向に対向し、前記内輪小径肩部よりも大径の内輪大径肩部と、を有し、
前記柱部の内周面は、内周側に向かって突設されると共に、前記内輪軌道面と径方向に対向する突部を有し、
前記突部の内径をφdi3とし、
前記内輪大径肩部の外径をφB1とし、
前記内輪小径肩部の外径をφB2としたとき、
φB2<φdi3<φB1
であり、
前記ポケット23は、径方向に延びる中心線を有する円筒形状により形成される円筒形内面24を有し、
前記突部の端部には、前記中心線に向かって前記円筒形内面24の内側に延びる内径側凸部が設けられ、前記内径側凸部には、前記円筒形内面24に連続する円錐形案内面26が設けられている
アンギュラ玉軸受。」

(2)対比・判断
ア 本願補正発明1について
本願補正発明1と引用発明Bとを対比すると、引用発明Bの「軌道面3」は、その構成、機能又は技術的意義からみて本願補正発明1の「外輪軌道面」に相当し、以下同様に、「外輪2」は「外輪」に、「軌道面5」は「内輪軌道面」に、「内輪4」は「内輪」に、「玉6」は「玉」に、「保持器7」は「保持器」に、「片側一方」は「軸方向一方側」に、「肩部3a」は「外輪小径肩部」に、「片側他方」は「軸方向他方側」に、「外輪大径内周部」は「外輪大径肩部」に、「円筒形ポケット8」は「ポケット部」に、「内輪小径外周部」は「内輪小径肩部」に、「肩部5a」は「内輪大径肩部」に、「縮径部9」は「内径側凸部」に、「テーパ状の面」は「テーパ面」に、それぞれ相当する。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
〔一致点〕
「内周面に外輪軌道面を有する外輪と、
外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に、周方向に所定の間隔で配設された複数の玉と、
前記複数の玉を転動自在に保持する保持器と、
を備えるアンギュラ玉軸受であって、
前記外輪の内周面は、前記外輪軌道面の軸方向一方側に形成された外輪小径肩部と、前記外輪軌道面の軸方向他方側に形成され、前記外輪小径肩部よりも大径の外輪大径肩部と、を有し、
前記保持器は、軸方向一方側及び他方側にそれぞれ配置される一方側環状部及び他方側環状部と、前記一方側環状部及び他方側環状部を軸方向に連結する複数の柱部と、前記一方側環状部と前記他方側環状部と前記複数の柱部とによって画成され、前記複数の玉を転動自在に保持する複数のポケット部と、を有し、
前記内輪の外周面は、前記内輪軌道面の軸方向一方側に形成され、前記一方側環状部と径方向に対向する内輪小径肩部と、前記内輪軌道面の軸方向他方側に形成されると共に前記他方側環状部と径方向に対向し、前記内輪小径肩部よりも大径の内輪大径肩部と、を有し、
前記柱部の内周面は、内周側に向かって突設されると共に、前記内輪軌道面と径方向に対向する突部を有し、
前記ポケット部は、径方向に延びる中心線を有する円筒形状により形成される円筒面を有し、
前記突部の端部には、前記中心線に向かって前記円筒面の内側に延びる内径側凸部が設けられ、前記内径側凸部には、前記円筒面に連続するテーパ面と、前記テーパ面の内径側端部で前記中心線と略平行するストレート面とが設けられている
アンギュラ玉軸受。」

〔相違点3〕
本願補正発明1においては「前記保持器の外周面は、前記一方側環状部及び前記他方側環状部の外径が異なる段付き形状とされ、前記外輪小径肩部の内径をφA2とし、前記他方側環状部の外径をφDO1としたとき、φA2<φDO1」であり、「前記保持器の内周面は、前記一方側環状部及び前記他方側環状部の内径が異なる段付き形状とされ、前記他方側環状部の内径をφdi1とし、前記一方側環状部の内径をφdi2とし、前記一方側環状部の外径をφDO2としたとき、φdi2<φdi1,φdi1<φDO2<φDO1」であるのに対して、引用発明Bにおいては保持器の外周面及び内周面は段付き形状ではない点。

〔相違点4〕
本願補正発明1においては「前記突部の内径をφdi3とし、前記内輪大径肩部の外径をφB1とし、前記内輪小径肩部の外径をφB2としたとき、φB2<φdi3<φB1」であるのに対して、引用発明Bにおいてはそのような構成を有していない点。

上記相違点3について検討する。
引用発明Cの保持器4は段付き形状であるが、「他方側環状部の内径をφdi1とし、一方側環状部の内径をφdi2とし、一方側環状部の外径をφDO2としたとき、φdi1<φDO2<φDO1」との関係ではない。
したがって、引用発明Cは、上記相違点3に係る本願補正発明1の構成を開示ないし示唆するものではない。
また、引用発明Dの保持器21もまた、上記相違点3に係る本願補正発明1の構成を開示ないし示唆するものではない。
さらに、上記相違点3に係る本願補正発明1の構成は、周知技術又は当業者が適宜なし得る設計的事項ということもできない。
したがって、上記相違点4について検討するまでもなく、本願補正発明1は、引用発明B、引用発明C及び引用発明Dに基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本願補正発明2について
本願補正発明2は、本願補正発明1の記載を他の記載に置き換えることなく直接的に引用して記載されたものであるから、本願補正発明2は、本願補正発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本願補正発明2は、本願補正発明1と同様の理由により、引用発明B、引用発明C及び引用発明Dに基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 むすび
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-04-08 
出願番号 特願2012-285751(P2012-285751)
審決分類 P 1 8・ 572- WYA (F16C)
P 1 8・ 575- WYA (F16C)
P 1 8・ 121- WYA (F16C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 西藤 直人  
特許庁審判長 水野 治彦
特許庁審判官 鈴木 充
粟倉 裕二
発明の名称 アンギュラ玉軸受  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  

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