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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B22F
審判 全部申し立て 特174条1項  B22F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B22F
審判 全部申し立て 2項進歩性  B22F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B22F
管理番号 1350647
異議申立番号 異議2018-700197  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-03-05 
確定日 2019-03-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6193493号発明「粉末積層造形に用いる粉末材料およびそれを用いた粉末積層造形法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6193493号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕、〔3?6〕について訂正することを認める。 特許第6193493号の請求項1、2に係る特許を維持する。 特許第6193493号の請求項3ないし6に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6193493号の請求項1?6に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2015年(平成27年)6月22日(優先権主張 平成26年6月20日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成29年8月18日にその特許権の設定登録がなされ、同年9月6日にその特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、その特許について、平成30年3月5日に特許異議申立人金山愼一(以下、「申立人」という。)により請求項1?6に対してなされた特許異議申立事件であって、同年6月18日付けで取消理由が通知され、これに対して、同年8月23日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正請求がなされ、同年10月23日に申立人より意見書(以下、「意見書」という。)が提出され、その後、同年11月12日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、これに対して、平成31年1月11日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされたものである。
なお、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲は、平成30年8月23日提出の訂正請求に係る訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲に対し、請求項5、6を削除したことが相違するだけであって、残る請求項1?4について、平成30年9月10日付けの通知書において申立人に対しすでに意見を求めているから、本件訂正請求についての意見は求めなかった。

第2 訂正請求について
1 訂正の趣旨、及び、訂正の内容
(1)訂正の趣旨
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、特許第6193493号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?6について訂正を求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。
なお、平成30年8月23日提出の訂正請求は、本件訂正請求があったことから、特許法第120条の5第7項に基づき取り下げられたものとみなす。

(2)訂正の内容
ア 訂正事項1
請求項1について、本件訂正前の「粉末材料を用いた粉末積層造形方法であって、」を「積層エリアに粉末材料を供給して薄層を形成し、該薄層にビームを照射して該薄層を選択的に溶融、凝固する工程を繰り返す粉末積層造形方法であって、」と訂正する。
請求項1を引用する請求項2についても、同様に訂正する。

イ 訂正事項2
請求項3を削除する。

ウ 訂正事項3
請求項4を削除する。

エ 訂正事項4
請求項5を削除する。

オ 訂正事項5
請求項6を削除する。

2 当審の判断
(1)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び、新規事項追加の有無
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1について、本件訂正前の「粉末積層造形方法」に関し、本件訂正前は、単に「粉末材料を用いた」との特定事項であったものを、願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0016】及び【0031】の記載を根拠として、「積層エリアに粉末材料を供給して薄層を形成し、該薄層にビームを照射して該薄層を選択的に溶融、凝固する工程を繰り返す」との具体的な方法の特定事項へと訂正するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、願書に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載された範囲内の訂正である。

(参考)本件明細書の記載(下線は当審で付した。以下、同じ。)
「【0016】
本明細書において、粉末積層造形における「平坦化工程」とは、粉末材料を任意の粉末積層造形装置の積層エリアに供給して、一定の厚さで均一に薄く堆積させる工程をいう。
一般的に、粉末積層造形は、以下のような工程で行われる。
(1)粉末積層造形装置の積層エリアに粉末材料を供給する工程
(2)当該供給された粉末材料を、積層エリアに均一に薄く堆積するようにワイパ等で平坦化して薄層を形成する工程
(3)形成された粉末材料の薄層に、粉末材料を接合および焼結等する手段を与えて、粉末材料を固化する工程
(4)固化した粉末材料の上に、新たな粉末材料を供給し(上記工程(1))、以後、工程(2)?(4)を繰り返すことで積層し、目的の三次元造形物を得る。
つまり、ここでいう「平坦化工程」とは、主に、上記工程(2)において、粉末材料を積層エリア全体に均一に薄く堆積させて薄層を得る工程をいう。なお、上記の「固化」は、粉末材料を構成する二次粒子同士を、溶融・凝固により直接的に結合させたり、バインダを介して間接的に結合させたりして、形状を所定の断面形状に固定化することを含む。」
「【0031】
セレクトレーザメルティング法とは、設計図から作成したスライスデータに基づき、粉末材料を堆積させた粉末層にレーザ光を走査させ、粉末層を所望形状に溶融・凝固する操作を、1断面(1スライスデータ)ごとに繰り返して積層させることで三次元的な構造体を造形する技術である。また、エレクトロンビームメルティング法とは、3D CADデータから作成したスライスデータを基に、電子ビーム用いて上記粉末層を選択的に溶融・凝固させ、積層することで3次元的な構造体を造形する技術である。いずれの技術においても、構造体の原料である粉末材料を所定の造形位置に供給するという工程を含む。特に、セレクトレーザメルティング法やエレクトロンビームメルティング法においては、構造体を造形する積層エリア全体に、粉末材料を1断面厚さに対応する厚みで、均一に薄く堆積する平坦化工程を繰り返す必要がある。この粉末材料の平坦化工程において、粉末材料の流動性は重要なパラメータであり、作製する三次元造形物の仕上がりに大きく影響する。それに対して、本発明における粉末積層造形に用いる粉末材料は、流動性が良好であることから、仕上がりの良好な三次元造形物を作製できる。」

イ 訂正事項2について
訂正事項2は、請求項3を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。

ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、請求項4を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。

エ 訂正事項4について
訂正事項4は、請求項5を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。

オ 訂正事項5について
訂正事項5は、請求項6を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。

以上によれば、訂正事項1?5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないから、同法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであり、また、願書に添付した明細書等に記載した範囲内の訂正であるから、同法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(2)独立特許要件
本件は、訂正前の全請求項について特許異議申立がなされているので、訂正事項1?5について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項は適用されない。

(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2は、請求項1を引用するものであり、本件訂正前の請求項4は、請求項3を引用するものであり、本件訂正前の請求項6は、請求項3?5を引用するものであり、請求項3、5はいずれも請求項1、2を引用しないものであるから、本件訂正前の請求項1、2、及び、請求項3?6は、それぞれ一群の請求項であるところ、本件訂正請求は、そのような一群の請求項ごとにされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1、2〕、〔3?6〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。

5 本件訂正請求のむすび
以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とするものであり、同法第120条の5第4項の規定に適合し、同法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものであるから、特許請求の範囲の請求項1?6について、結論のとおり訂正することを認める。

第3 特許異議申立について
1 本件発明
本件訂正請求に係る請求項1?6についての訂正は、上記第2で検討したとおり、適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?6(以下、請求項1?6に係る発明を、それぞれ「本件発明1」?「本件発明6」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
積層エリアに粉末材料を供給して薄層を形成し、該薄層にビームを照射して該薄層を選択的に溶融、凝固する工程を繰り返す粉末積層造形方法であって、
前記粉末材料は、一次粒子が間隙をもって三次元的に結合されてなる二次粒子の形態を有している粒子から構成され、
前記二次粒子が、前記一次粒子を球形に造粒し、焼結してなる造粒焼結粒子である粉末材料を用いた粉末積層造形方法。
【請求項2】
請求項1の粉末積層造形方法を用いる、三次元造形物の製造方法。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)」

2 平成30年11月12日付けで通知された取消理由(決定の予告)の概要
(1)特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について
ア 平成30年8月23日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の(以下、「訂正1の」という。)請求項5に係る発明は、「二次粒子は、第1の一次粒子であるコア粒子の表面に、第2の一次粒子である微粒子が備えられて構成されており、前記コア粒子の平均粒子径は1μm以上100μm以下であり、前記微粒子の平均粒子径は1nm以上1000nm未満であ」るとの発明特定事項を含むものであるが、コア粒子の平均粒子径と微粒子の平均粒子径とが近い値である場合を含み、その場合、二次粒子において、コア粒子と微粒子とを区別することができないことがあり得るから、訂正1の請求項5に係る発明は、不明確であり、また、これらの特許を引用する訂正1の請求項6に係る発明も不明確である。
よって、訂正1の請求項5、6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

3 平成30年6月18日付けで通知された取消理由の概要
(1)特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について
ア 本件特許公報に記載された(以下、「本件特許の」という。)請求項3及び5に係る発明は、「二次粒子は、第1の一次粒子であるコア粒子の表面に、第2の一次粒子である微粒子が備えられて構成されており、前記コア粒子の平均粒子径は1μm以上100μm以下であり、前記微粒子の平均粒子径は1nm以上1000nm未満であ」るとの発明特定事項を含むものであるが、「コア粒子の平均粒子径」と「微粒子の平均粒子径」とを別々に測定する手段が、本件明細書に記載されていないから、本件特許の請求項3及び5に係る発明は、不明確であり、また、これらの特許を引用する本件特許の請求項4、6に係る発明も不明確である。
よって、本件特許の請求項3?6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

イ 本件特許の請求項3及び5に係る発明は、「二次粒子は、第1の一次粒子であるコア粒子の表面に、第2の一次粒子である微粒子が備えられて構成されており、前記コア粒子の平均粒子径は1μm以上100μm以下であり、前記微粒子の平均粒子径は1nm以上1000nm未満であ」るとの発明特定事項を含むものであるが、コア粒子の平均粒子径と微粒子の平均粒子径とが近い値である場合を含み、その場合、二次粒子において、コア粒子と微粒子とを区別することができないことがあり得るから、本件特許の請求項3及び5に係る発明は、不明確であり、また、これらの特許を引用する本件特許の請求項4、6に係る発明も不明確である。
よって、本件特許の請求項3?6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(請求項5、6については、上記2の(1)のアと同じ)

(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
本件特許の請求項3に係る発明は、「二次粒子は、第1の一次粒子であるコア粒子の表面に、第2の一次粒子である微粒子が備えられて構成されて」いるとの発明特定事項、及び、「前記二次粒子が、前記一次粒子を球形に造粒し、焼結してなる造粒焼結粒子である」との発明特定事項を含むものであるところ、該両発明特定事項を有する「粉末材料」が、本件明細書に記載されていない。
よって、本件特許の請求項3に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許の請求項3及びその引用請求項である請求項4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(3)特許法第17条の2第3項(新規事項の追加)について
本件特許の請求項3に係る発明の「二次粒子は、第1の一次粒子であるコア粒子の表面に、第2の一次粒子である微粒子が備えられて構成されて」いるとの発明特定事項、及び、「前記二次粒子が、前記一次粒子を球形に造粒し、焼結してなる造粒焼結粒子である」との発明特定事項を有する「粉末材料」は、願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された範囲内のものとはいえない。
よって、平成29年3月29日付けでした手続補正、及び、平成29年7月3日付けでした手続補正は、願書に最初に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、本件特許は取り消すべきものである。

(4)特許法第29条第1項第3号(新規性)について
本件特許の請求項1、2に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
<刊行物>
Y.Xiong,M.Kim,O.Seo,J.M.Schoenung and S.Kang,(Ti,W)C-Ni cermets by laser engineered net shaping,Powder Metallurgy Vol.53 No.1 (2010年3月) p41-46(申立人が提出した甲第1号証、以下、「甲1」という。)

4 上記2及び3以外の特許異議申立理由
(1)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
本件明細書には、本件特許の請求項3?6に係る発明の「コア粒子の平均粒子径」と「微粒子の平均粒子径」とを区別して測定することが記載されていないから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項3?6に係る発明について実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
よって、本件特許の請求項3?6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2)特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について
本件特許の請求項5に係る発明は、請求項1及び3に係る発明のように「焼結してなる造粒焼結粒子である」事項が特定されておらず、「一次粒子が間隙をもって三次元的に結合されてなる二次粒子の形態を有している粒子」がどのようなものか特定できないから、明確でない。
よって、本件特許の請求項5、6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(3)特許法第29条第2項(進歩性)について
本件特許の請求項1、2に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記ア?エの刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
<刊行物>
ア Y.Xiong,M.Kim,O.Seo,J.M.Schoenung and S.Kang,"(Ti,W)C-Ni cermets by laser engineered net shaping",Powder Metallurgy Vol.53 No.1 (2010年3月) p41-46(上記3の(4)の甲1と同じ。)
イ J.-P.Kruth,G.Levy,F.Klocke,T.H.C.Childs,"Consolidation phenomena in laser and powder-bed based layered manufacturing",CIRP ANNALS 2007 Vol.56/2 p730-759(申立人が提出した甲第2号証、以下、「甲2」という。)
ウ 黒田聖治,渡邊誠,”溶射サーメット(WC-Co)被膜の組織と特性”,高温学会誌 Vol.36 No.6 平成22年11月20日発行p254-263(申立人が提出した甲第3号証)
エ 五日市剛,”溶射用粉末材料-サーメット-”,電気製鋼 Vol.74 No.4 2003年11月15日発行p254-263(申立人が提出した甲第4号証)

5 甲号証の記載
(1)甲1の記載
甲1には、次の記載がある。
なお、下線は当審で付した。以下、同じ。
ア 「The laser engineered net shaping (LENS) technology is an extension of rapid prototyping technologies into the direct fabrication of alloy parts. 」(第41頁左欄第8?11行)

(当審訳)
「レーザ直接積層(LENS)技術は、合金部品を直接製造するラピッドプロトタイピング技術の拡張である。 」

イ 「Experimental
Synthesis and sintering of nanosized (Ti,W)C-Ni powder (Ti,W)C-Ni powder was produced using anatase-TiO_(2)(99% purity, 45 μm average size), WO_(3) (99% purity,20 μm average size) and NiO (99% purity, 45 μm average size) powders. They were mixed with free carbon for the target composition equivalent to TiC-15WC-20Ni (wt-%). The powders were subjected to high energy ball milling using a planetary mill (Fritsch Pulerisette 5, Fritsch GmbH, Idar-Oberstein,Germany). WC balls were mixed with the oxide powders at a ball to powder weight ratio of 40:1 and all milling was conducted at a speed of 250 rev min^(-1) for a period of 20 h. The oxide powder mixtures were reduced to (Ti_(0.93)W_(0.07))C-20 wt-%Ni powder at 1300℃ for 1 h in vacuum. The (Ti,W)C-Ni powder was compacted into a disc under a pressure of 150 MPa, and then sintered at 1510℃ for 1 h in vacuum. Conventional micrometre sized TiC-15WC-20Ni (wt-%) cermets were also sintered for comparison. The conventional samples were prepared from TiC powder (1-2 μm), and WC and Ni powders (1-4 μm average size). The conditions for sintering were the same as those used for the nanosized (Ti,W)C-Ni powder.

Deposition of (Ti,W)C-Ni cermets using LENS
The LENS 750 system (OPTOMEC, United States)was used to deposit the (Ti,W)C-Ni samples. Five weight per cent of paraffin was mixed with the reduced powder for ease of making spray dried granules. The reduced powder was then gently ball milled in ethanol in an attritor to make a slurry for the spray drying process. The milling was conducted at a ball to powder weight ratio of 10:1 and a speed of 200 rev min-1 fora period of 5 h. The spray dried granules were heat treated at 1250℃ for 20 min to eliminate organic components before use in the LENS process, although this can cause grain growth to some extent. Presintered powder with a granular size in a range of 40 to 60 μm was chosen.
The LENS process was operated in a sealed chamber filled with argon gas. A 750 W CW Nd: YAG laser was applied. The presintered granules were delivered in a gas stream of argon, through nozzles, to create a molten pool on a 304 stainless steel substrate. 」(第41頁右欄第20行?第42頁左欄第28行)

(当審訳)
「実験
ナノサイズ(Ti,W)C-Ni粉末の合成及び焼結
(Ti,W)C-Ni粉末は、アナターゼ-TiO_(2)(純度99%、平均サイズ45μm)、WO_(3)(純度99%,平均サイズ20μm)及びNiO(純度99%、平均サイズ45μm)粉末を用いて作成した。これらを炭素フリーで混合し、TiC-15WC-20Ni(wt-%)と等価な目的の組成物とした。粉末は、遊星ミル(Fritsch Pulvensette 5, Fritsch GmbH, Idar-Oberstem,Germany)を用いて高エネルギーボールミル粉砕に供した。WCボールをボールと粉末の重量比を40:1として酸化物粉末と混合し、250回転/分の速度で20時間で粉砕した。酸化物粉末の混合物を、真空中で1時間1300℃において(Ti_(0.93)W_(0.07))C-20wt-%Ni粉末に還元した。この(Ti,W)C-Ni粉末を150MPaの圧力で円板状に成形した後、真空中で1時間1510℃で焼結した。従来のマイクロメートルサイズのTiC-15WC-20Ni(wt-%)サーメットも、比較のために焼結した。従来のサンプルは、TiC粉末(1-2 μm)及びWCとNiとの粉末(1-4μmの平均サイズ)から調製した。焼結の条件は、ナノサイズ(Ti,W)C-Ni粉末と同じであった。

LENS法を用いた(Ti,W)C-Niサーメットの堆積
(Ti,W)C-Niサンプルを堆積させるために、LENS 750システム(OPTOMEC,United States)を使用した。噴霧乾燥工程のための粉末の製造を容易にするために、還元した粉末にパラフィンを5重量%混合した。次いで、還元された粉末を摩砕機のエタノール中で徐々にボールミル粉砕して、噴霧乾燥工程のためのスラリーを製造した。粉砕は、ボールと粉末の重量比を10:1として、200回転/分の速度で5時間で行った。ある程度まで粒子成長を引き起こし得るけれども、LENS 方法で使用する前に、噴霧乾燥した粉末を1250℃で20分間熱処理して有機成分を除去した。予備焼結された粉末は、40?60μmの範囲の粒度に選択した。
LENS処理は、アルゴンガスで満たされた密閉されたチャンバ内で操作された。750W CWのNd:YAGレーザを用いた。304ステンレス鋼基材上に溶融池を生成するために、ノズルを通して、予備焼結した粉末をアルゴンのガス流で送った。」

ウ 「Results and discussion
Synthesis of (Ti,W)C-Ni powder
The SEM images of the powders after different processing steps, planetary milling, carbothermal reduction, spray drying and presintering (heat treatment) are shown in Fig. 1. The ball milled oxide mixtures consist of nanosized grains (Fig. 1a). The reduced (Ti,W)C-Ni powder is in the form of submicrometre agglomerates of 200-400 nm in an irregular shape (Fig 1b). After spraying drying, the spherical (Ti,W)C-Ni granules are in a size range of 10-60 μm (Fig. 1c), which ensures good flowabihty for the LENS process. Grain growth occurs during heat treatment, which can be seen from Fig. 1d.」(第42頁右欄第24行?第43頁左欄第6行)

(当審訳)
「結果および考察
(Ti,W)C-Ni粉末の合成
異なる処理ステップ、すなわち、遊星ミリング、炭素熱還元、噴霧乾燥および仮焼結(熱処理)後の粉末のSEM画像を図1に示す。ボールミル粉砕された酸化物混合物は、ナノサイズ粒子(図1a)からなる。(Ti,W)C-Ni粉末は不規則な形状の200-400nmのサブミクロン凝集体の形態である(図1b)。噴霧乾燥後、球状(Ti,W)C-Ni粉末は、LENSプロセスのための良好な流動を保証する、10-60μmの範囲の大きさである(図1c)。熱処理中にグレインの成長が起こったことを、図1dから理解することができる。」

エ「



(当審訳)
「1 二次電子SEM像:a 遊星ミリングで粉砕された酸化物 b 炭素熱還元粉末 c 噴霧乾燥粉末 d 1250℃で20分熱処理された粉末」

(2)甲1に記載された発明
ア 上記(1)のア?エには、(Ti,W)C-Ni粉末を用いたレーザ直接積層(LENS)方法について記載されている。
イ 上記(1)のイより、(Ti,W)C-Ni粉末は、アナターゼ-TiO_(2)、WO_(3)及びNiO粉末を混合し、ボールミル粉砕に供し、その後、還元、焼結した粉末に、噴霧乾燥工程のための粉末の製造を容易にするために、パラフィンを5重量%混合し、次いで、摩砕機のエタノール中で徐々にボールミル粉砕して、噴霧乾燥工程のためのスラリーを製造し、ある程度まで粒子成長を引き起こし得るけれども、LENS 方法で使用する前に、噴霧乾燥した粉末を1250℃で20分間熱処理して有機成分を除去したものである。
ウ 上記(1)のウより、「噴霧乾燥後、球状(Ti,W)C-Ni粉末は、LENSプロセスのための良好な流動を保証する、10-60μmの範囲の大きさである」ことから、噴霧乾燥後の(Ti,W)C-Ni粉末は、球状である。
エ 上記ア?ウより、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「(Ti,W)C-Ni粉末を用いたレーザ直接積層(LENS)方法であって、
前記(Ti,W)C-Ni粉末は、アナターゼ-TiO_(2)、WO_(3)及びNiO粉末を混合し、ボールミル粉砕に供し、その後、還元、焼結した粉末に、噴霧乾燥工程のための粉末の製造を容易にするために、パラフィンを5重量%混合し、次いで、摩砕機のエタノール中で徐々にボールミル粉砕して、噴霧乾燥工程のためのスラリーを製造し、ある程度まで粒子成長を引き起こし得るけれども、LENS 方法で使用する前に、噴霧乾燥した球状粉末を1250℃で20分間熱処理して有機成分を除去したものである、
レーザ直接積層(LENS)方法。」

(3)甲2の記載
甲2には、次の記載がある。
ア「Many layered manufacturing techniques exist today, the most popular being: photo-polymerisation(Stereolithography (SLA) and its derivates), ink-jet printing (IJP), 3D printing (3DP), Fused Deposition Modelling(FDM), Selective Laser Sintering or Melting (SLS/SLM and EBM) and to a lesser extend Laminated Object Manufacturing (LOM and similar sheet stacking processes) and laser cladding (LC) processes.」(第730頁左欄第21?18行)

(当審訳)
「多くの積層造形技術が今日存在するが、最も普及しているものは、光重合法(ステレオリソグラフィ(SLA)及びその派生技術)、インクジェット印刷(IJP)法、3次元プリント法(3DP)、溶融堆積モデリング(FDM)、選択的レーザー焼結または溶融(SLS/SLM、EBM)であり、よりマイナーなものとして積層物体製造(LOMと同様のシートスタッキングプロセス)と、レーザークラッディング(LC)工程がある。」

イ「In the prospect of Rapid Manufacturing, SLS/SLM seems to be the most versatile process, capable of processing engineering polymers, metals, ceramics and a wide range of composites. In order to cover this widerange of materials, the laser processing of powder materials in SLS/SLM calls on various consolidation mechanisms : the binding of polymers, metals, ceramics and their mixtures or composites varies substantially with initial powder composition, the final aimed material composition and the aimed material structure (aimed porosity or density, microstructure, properties, etc.).」(第730頁左欄最後から2行?右欄第9行)

(当審訳)「迅速な製造を見込んで、SLS/SLMは、最も用途の広いプロセスであり、エンジニアリングポリマー、金属、セラミック、及び広範囲の複合体を処理することができるように思われる。この材料の広範化をカバーするために、SLS/SLMにおいて粉末材料のレーザ加工は、ポリマー、金属、セラミックおよびそれらの混合物の様々な固結メカニズムを可能とし、それらの混合物または複合物は、最初の粉末組成物、最終目的の材料組成及び目的の材料構造体(目的多孔率又は密度、微細構造、性質等)で実質的に変化する。」

ウ「3.3 Cermets and hardmetals
Cermets and hardmetals, being composites in which ceramic particles are embedded in a metal matrix (binder),can be readily processed by liquid phase SLS using a mixture of ceramics particles that remain solid throughout the process and metal particles that are melted by the laser.」(第746頁左欄第52?58行)

(当審訳)
「3.3サーメットおよび超硬合金
金属マトリックス(結合剤)中に埋め込まれるセラミック粒子の複合体である、サーメットおよび超硬合金は、プロセスを通して固体のままであるセラミック粒子の混合物と、レーザーによって溶融される金属粒子を用いた液相SLSによって容易に処理することができる。」

エ「The Fraunhofer Institute of Production Technology (IPT) worked with different compacted, respective ground, WC-Co powder particles: see Figure 42. A higher mean density could be achieved when applying the spherical particles of the compacted WC-Co powder, in comparison with the irregular particles of the ground WC-Co powder.」(第746頁右欄第1?6行)

(当審訳)
「フラウンフォファー生産技術研究所は、図42に示されたような、異なる大きさのWC-Co粉末粒子を用いて検討した。WC-Co粉末の不規則な粒子と比較して、コンパクト化されたWC-Co粉末の球状粒子を適用する場合には、より高い平均密度を達成することができた。」

オ「



(当審訳)
「図42:WC-Co粉末の粒子」

(4)甲2に記載された発明
ア 上記(3)のア?オには、選択的レーザー焼結(SLS)による積層造形方法が記載されている。
イ 上記(3)のエより、上記アの積層造形方法は、WC-Co粉末の球状粒子を用いている。
ウ 上記ア及びイより、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「WC-Co粉末の球状粒子を用いる、選択的レーザー焼結(SLS)による積層造形方法。」

6 当審の判断
(1)上記2の(1)、上記3の(1)のア及びイ、上記3の(2)、上記3の(3)、上記4の(1)、並びに、上記4の(2)について
請求項3?6は、上記第2のとおり、本件訂正により削除され、上記2の(1)、上記3の(1)のア及びイ、上記3の(2)、上記3の(3)、上記4の(1)、並びに、上記4の(2)の取消理由の対象が存在しなくなったから、当該取消理由は解消された。

(2)上記3の(4)及び上記4の(3)について
(2)-1 甲1発明を主引例とした場合
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「(Ti,W)C-Ni粉末」は、本件発明1の「粉末材料」に相当する。
イ 甲1発明の「(Ti,W)C-Ni粉末を用いたレーザ直接積層(LENS)方法」と本件発明1の「積層エリアに粉末材料を供給して薄層を形成し、該薄層にビームを照射して該薄層を選択的に溶融、凝固する工程を繰り返す粉末積層造形方法」とは、「粉末材料を用いた粉末積層造形方法」で共通する。
ウ 甲1発明の「(Ti,W)C-Ni粉末」は、「アナターゼ-TiO_(2)、WO_(3)及びNiO粉末を混合し、ボールミル粉砕に供し、その後、還元、焼結した粉末に、噴霧乾燥工程のための粉末の製造を容易にするために、パラフィンを5重量%混合し、次いで、摩砕機のエタノール中で徐々にボールミル粉砕して、噴霧乾燥工程のためのスラリーを製造し、ある程度まで粒子成長を引き起こし得るけれども、LENS 方法で使用する前に、噴霧乾燥した球状粉末を1250℃で20分間熱処理して有機成分を除去したものであ」って、本件明細書【0034】に記載された「噴霧造粒法」により粒子を成長するものといえる。
そうすると、噴霧乾燥した粉末において、熱処理により有機成分が除去されたところは間隙になると推定されるので、甲1発明は、本件発明1の「粉末材料は、一次粒子が間隙をもって三次元的に結合されてなる二次粒子の形態を有している粒子から構成され、前記二次粒子が、前記一次粒子を球形に造粒し、焼結してなる造粒焼結粒子である」事項を満たすものであるといえる。
エ 上記ア?ウより、本件発明1と甲1発明とは、
「粉末材料を用いた粉末積層造形方法であって、
前記粉末材料は、一次粒子が間隙をもって三次元的に結合されてなる二次粒子の形態を有している粒子から構成され、
前記二次粒子が、前記一次粒子を球形に造粒し、焼結してなる造粒焼結粒子である粉末材料を用いた粉末積層造形方法。」で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点)
「粉末積層造形方法」が、本件発明1は、「積層エリアに粉末材料を供給して薄層を形成し、該薄層にビームを照射して該薄層を選択的に溶融、凝固する工程を繰り返す」ものであるのに対し、甲1発明は、「レーザ直接積層(LENS)方法」である点。

オ 以下、上記相違点について検討する。
カ 本件明細書の記載によれば、本件発明1の「目的は、粉末積層造形に用いる流動性のよい粉末材料」「を用いる三次元造形物の形成方法を提供する」(【0009】)ことであるのに対し、甲1には、「球状(Ti,W)C-Ni粉末は、LENSプロセスのための良好な流動を保証する、10-60μmの範囲の大きさである」(上記5の(1)のウ参照。)と記載されており、甲1発明の「(Ti,W)C-Ni粉末」は、本件発明1で用いられる「粉末材料」と同様に流動性が良好な粉末材料であるといえる。
キ しかしながら、甲1発明は、「レーザ直接積層(LENS)方法」、すなわち、ノズルを通して粉末を送り、レーザ光で基板上に溶融池を生成するもの(上記5の(1)のイ参照)であり、平坦で均等な粉末床を用意する必要がないものであるのに対し、本件発明1は、「積層エリアに粉末材料を供給して薄層を形成し、該薄層にビームを照射して該薄層を選択的に溶融、凝固する工程を繰り返す」ものであって、粉末材料をヘラ等で平坦化するものであるから、後者の方法は、前者の方法に比べて粉末に要求される流動性がより高いものであるといえる。
ク そうすると、たとえ、甲1に、流動性が良好な「(Ti,W)C-Ni粉末」が記載されていたとしても、この粉末を、より高い流動性が要求される、「積層エリアに粉末材料を供給して薄層を形成し、該薄層にビームを照射して該薄層を選択的に溶融、凝固する工程を繰り返す粉末積層造形方法」に適用することは、当業者が容易になし得たとはいえない。
ケ また、甲2には、「選択的レーザー焼結(SLS)による積層造形方法」が記載されているものの、甲1発明の「(Ti,W)C-Ni粉末」が用いられる粉末積層造形方法として、「レーザ直接積層(LENS)方法」に代えて、甲2に記載された「選択的レーザー焼結(SLS)による積層造形方法」とする動機付けが見当たらない。
コ よって、本件発明1は、甲1発明とはいえないし、当業者が甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたものともいえない。
サ また、本件発明2は本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、同様の理由により、本件発明2は、甲1発明とはいえないし、当業者が甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたものともいえない。

(2)-2 甲2発明を主引例とした場合
本件発明1と甲2発明とを対比する。
ア 甲2発明の「WC-Co粉末の球状粒子」は、本件発明1の「粉末材料」に相当する。
イ 甲2発明の「選択的レーザー焼結(SLS)による積層造形方法」は、技術常識に照らせば、「積層エリアに粉末材料を供給して薄層を形成し、該薄層にビームを照射して該薄層を選択的に溶融、凝固する工程を繰り返す粉末積層造形方法」に相当する。
ウ 上記ア及びイより、本件発明1と甲2発明とは、「積層エリアに粉末材料を供給して薄層を形成し、該薄層にビームを照射して該薄層を選択的に溶融、凝固する工程を繰り返す粉末積層造形方法」で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点)
「粉末材料」が、本件発明1は、「一次粒子が間隙をもって三次元的に結合されてなる二次粒子の形態を有している粒子から構成され、前記二次粒子が、前記一次粒子を球形に造粒し、焼結してなる造粒焼結粒子である」のに対し、甲2発明は、そのような粒子か否か不明である点。

エ 以下、上記相違点について検討する。
オ 甲2には、「WC-Co粉末の球状粒子」の製造方法が記載されていない。
カ また、甲2の図42には、「WC-Co粉末の球状粒子」が示されており、この写真から粒子の表面に凹凸が存在することが視認できるものの、「一次粒子が間隙をもって三次元的に結合されてなる二次粒子の形態を有している粒子」であることまでは視認できず、また、上記オでも述べたように、甲2には、「WC-Co粉末の球状粒子」の製造方法が記載されていないから、甲2の「WC-Co粉末の球状粒子」が「一次粒子が間隙をもって三次元的に結合されてなる二次粒子の形態を有している粒子」であるか否かは不明である。
キ さらに、甲1には、「(Ti,W)C-Ni粉末を用いたレーザ直接積層(LENS)方法」において、「前記(Ti,W)C-Ni粉末は、アナターゼ-TiO_(2)、WO_(3)及びNiO粉末を混合し、ボールミル粉砕に供し、その後、還元、焼結して製造され、不規則な形状の200-400nmのサブミクロン凝集体の形態である」事項、すなわち、本件発明1の「粉末材料は、一次粒子が間隙をもって三次元的に結合されてなる二次粒子の形態を有している粒子から構成され、前記二次粒子が、前記一次粒子を造粒し、焼結してなる造粒焼結粒子である粉末材料を用い」た事項が記載されているものの、該事項を甲2発明に適用する動機付けが見当たらない。
ク よって、本件発明1は、当業者が甲2発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
ケ また、本件発明2は本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、同様の理由により、本件発明2は、当業者が甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)-3 申立人の意見
申立人は、意見書において、(ア)本件発明の課題である「粉末積層造形に用いる流動性のよい」「粉末材料を用いる三次元造形物の形成方法」における「流動性」は、本件発明の「粉末溶融法」に限らず、甲1発明の「レーザ直接積層(LENS)方法」、すなわち「溶融堆積法」など粉末積層造形全般に共通して要求される性能であるし(意見書第5頁第2行?第6頁第24行)、(イ)本件明細書の実施例の記載によれば、「溶融堆積法」である「LMD」と「粉末溶融法」である「EBM」及び「SLM」とで、評価結果において優劣はつかない(意見書第7頁第2?22行)から、「溶融堆積法」を採用するか「粉末溶融法」を採用するかは、粉末造形方式からの単なる選択に過ぎないし、本件発明1に参酌すべき顕著な効果も異質な効果もないと主張している。
なお、「甲2-1発明を主引用例とする進歩性について」についての申立人の意見(意見書第8頁第22行?第10頁第14行)は、本件訂正によって新たに生じた事項についての意見ではないから、採用できない。
まず、(ア)の主張について検討するに、上記(2)-1のカ?クで検討したとおり、甲1発明の「レーザ直接積層(LENS)方法」と本件発明1の「積層エリアに粉末材料を供給して薄層を形成し、該薄層にビームを照射して該薄層を選択的に溶融、凝固する工程を繰り返す」ものは、要求される流動性の程度が異なるから、「溶融堆積法」を採用するか「粉末溶融法」を採用するかは、粉末造形方式からの単なる選択に過ぎないとはいえない。
次に、(イ)の主張について検討する。
本件明細書には、「粉末材料の流動性が十分でないと、製造される三次元造形物の品質、例えば製造した三次元造形物の表面精度や表面品質に影響が及ぶという問題が発生し得る」(【0004】)、「本発明における粉末材料は間隙を備えているため、造形において粉末材料を固化する際の固化効率が向上する。特に、固化手段が熱源の場合、本発明における粉末材料は間隙を備えるために熱が伝わりやすく、粉末材料が溶解しやすい。その結果、二次粒子間の間隙は消失され、従来の鋳型を使用して製造する焼結体(バルク体)に近い、緻密性が高く高硬度の三次元造形物を作製することができる」(【0032】)と記載されている(当審注:下線は当審で付与した。)。
ここで、上記【0004】の記載によれば、粉末材料の流動性は三次元造形物の表面精度や表面品質(すなわち、表面粗さRa)に影響するのに対し、上記【0032】の記載によれば、粉末材料の間隙が三次元造形物の硬度に影響しており、粉末の流動性の影響は限定的であると解される。
そして、本件明細書の実施例である【0110】?【0111】の【表5】及び【表6】によれば、サンプル2及びサンプル9において、「LMD」は「SLM」よりも硬度について良好な結果が出ているものの、サンプル2及び10において、「LMD」は「SLM」よりも表面粗さRaについて劣る結果が出ている。
すなわち、粉末の流動性の影響が限定的である硬度については、「LMD」の結果が良好であり、粉末の流動性に影響される表面粗さRaについては、「SLM」の結果が良好であるから、これらの実施例の結果は、「溶融堆積法」である「LMD」と「粉末溶融法」である「SLM」とで、粉末の流動性についての評価結果において優劣がつかないとはいえない。
よって、申立人の意見は採用できない。
なお、当該実施例において、「EBM」はレーザを照射する「LMD」及び「SLM」とは異なり、電子ビームを照射するものであるから、上記の検討の対象から外すこととした。

7 むすび
以上のとおり、本件の請求項1、2に係る特許は、平成30年6月18日付けで通知された取消理由に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議の申立て理由によっては、取り消すべき理由を発見しないし、他に本件の請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件の請求項3?6は、本件訂正により削除されたから、本件の請求項3?6に係る特許に対して、申立人がした特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しなくなった。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層エリアに粉末材料を供給して薄層を形成し、該薄層にビームを照射して該薄層を選択的に溶融、凝固する工程を繰り返す粉末積層造形方法であって、
前記粉末材料は、一次粒子が間隙をもって三次元的に結合されてなる二次粒子の形態を有している粒子から構成され、
前記二次粒子が、前記一次粒子を球形に造粒し、焼結してなる造粒焼結粒子である粉末材料を用いた粉末積層造形方法。
【請求項2】
請求項1の粉末積層造形方法を用いる、三次元造形物の製造方法。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-02-21 
出願番号 特願2016-529580(P2016-529580)
審決分類 P 1 651・ 55- YAA (B22F)
P 1 651・ 113- YAA (B22F)
P 1 651・ 537- YAA (B22F)
P 1 651・ 121- YAA (B22F)
P 1 651・ 536- YAA (B22F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大塚 徹  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 土屋 知久
中澤 登
登録日 2017-08-18 
登録番号 特許第6193493号(P6193493)
権利者 株式会社フジミインコーポレーテッド
発明の名称 粉末積層造形に用いる粉末材料およびそれを用いた粉末積層造形法  
代理人 谷 征史  
代理人 安部 誠  
代理人 安部 誠  
代理人 大井 道子  
代理人 大井 道子  
代理人 谷 征史  

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