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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H01R
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01R
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H01R
管理番号 1350657
異議申立番号 異議2018-700558  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-10 
確定日 2019-02-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6258370号発明「可動コネクタ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6258370号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。 特許第6258370号の請求項1及び3ないし6に係る特許を維持する。 特許第6258370号の請求項2についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6258370号の請求項1ないし11に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成28年2月2日の出願であって、平成29年12月15日にその特許権の設定登録がされ、平成30年1月10日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、平成30年7月10日に特許異議申立人石井悠太(以下、「異議申立人」という。)により請求項1ないし6に係る特許について特許異議の申立てがされ、平成30年8月31日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年11月5日に意見書の提出及び訂正の請求がされたものである。
なお、この訂正の請求について異議申立人に期間を設けて意見書の提出を促したが、異議申立人から当該期間内に意見書は提出されなかった。

第2 訂正の適否の判断
1 訂正の内容
平成30年11月5日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は次のとおりである。(下線は特許権者が付したものである。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「周壁と上壁とを有する凹状に形成され、内部に収容室を有する外側ハウジングと、
収容室に配置され、接続対象物の挿入孔を有する内側ハウジングと、
外側ハウジングに対して内側ハウジングを変位可能に支持する可動片を有する端子と、を備える可動コネクタにおいて、
内側ハウジングは、接続対象物の嵌合挿入方向に沿う前端部に当接部を有しており、
外側ハウジングは、当接部と向き合う対向壁を有しており、
当該対向壁は、前記収容室の前記凹状の底面を形成する前記上壁にて形成されており、接続対象物の嵌合挿入時に当接部が突き当たる当接受け部を有することを特徴とする可動コネクタ。」との記載を
「周壁と上壁とを有する凹状に形成され、内部に収容室を有する外側ハウジングと、
収容室に配置され、接続対象物の挿入孔を有する内側ハウジングと、
外側ハウジングに対して内側ハウジングを変位可能に支持する可動片を有する端子と、を備える可動コネクタにおいて、
内側ハウジングの前記挿入孔は、外側ハウジングを固定する基板の実装面とは反対側の裏面から接続対象物を挿入するように開口しており、
内側ハウジングは、接続対象物の嵌合挿入方向に沿う前端部に当接部を有しており、
外側ハウジングは、当接部と向き合う対向壁を有しており、
当該対向壁は、前記収容室の前記凹状の底面を形成する前記上壁にて形成されており、接続対象物の嵌合挿入時に当接部が突き当たる当接受け部を有することを特徴とする可動コネクタ。」に訂正する(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項3?11も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3における「請求項1又は請求項2」との記載を「請求項1」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4における「請求項1?請求項3何れか1項」との記載を「請求項1又は請求項3」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5における「請求項1?請求項4何れか1項」との記載を「請求項1、請求項3又は請求項4」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6における「請求項1?請求項5」との記載を「請求項1、請求項3?請求項5」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7における「請求項1?請求項6」との記載を「請求項1、請求項3?請求項6」に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8における「請求項1?請求項7」との記載を「請求項1、請求項3?請求項7」に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項11における「請求項1?請求項10」との記載を「請求項1、請求項3?請求項10」に訂正する。

本件訂正は、一群の請求項〔1-11〕に対して請求されたものである。

2 訂正の目的の可否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の否定
(1)訂正事項1
訂正事項1により、訂正後の請求項1には、訂正前の請求項1に「内側ハウジングの前記挿入孔は、外側ハウジングを固定する基板の実装面とは反対側の裏面から接続対象物を挿入するように開口しており、」との事項が付加されたから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的としている。
そして、訂正事項1により付加された事項は、訂正前の請求項2の「前記内側ハウジングの前記挿入孔は、前記外側ハウジングを固定する基板の実装面とは反対側の裏面から前記接続対象物を挿入するように開口する」との記載に基づくものであるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明に、発明特定事項を追加するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、訂正事項1は、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
なお、訂正前の請求項1について特許異議申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(2)請求事項2
訂正事項1は、請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合し、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。そして、訂正前の請求項2について特許異議申立てがされているので、同法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(3)訂正事項3?9
訂正事項3?9は、訂正前の請求項3?8及び請求項11から、請求項2を引用する記載を削除するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合し、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
そして、訂正前の請求項3?6について特許異議申立てがされているので、訂正事項3?6に関しては、同法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
他方、訂正事項7?9に関しては独立特許要件が課されることになるが、それら訂正事項に対応する訂正後の請求項7、8及び11に係る発明は、下方の「第3」にて説示するとおり、引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない訂正後の請求項1に係る発明をさらに減縮したものであるから、同じく引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。また、他に、訂正後の請求項7、8及び11に係る発明が、独立特許要件を充足しないとする理由もない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的としており、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項ないし第7項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1及び訂正請求項3?11に係る発明(以下、「本件発明1」及び「本件発明3」?「本件発明11」という。)は、その訂正特許請求の範囲に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
周壁と上壁とを有する凹状に形成され、内部に収容室を有する外側ハウジングと、
収容室に配置され、接続対象物の挿入孔を有する内側ハウジングと、
外側ハウジングに対して内側ハウジングを変位可能に支持する可動片を有する端子と、を備える可動コネクタにおいて、
内側ハウジングの前記挿入孔は、外側ハウジングを固定する基板の実装面とは反対側の裏面から接続対象物を挿入するように開口しており、
内側ハウジングは、接続対象物の嵌合挿入方向に沿う前端部に当接部を有しており、
外側ハウジングは、当接部と向き合う対向壁を有しており、
当該対向壁は、前記収容室の前記凹状の底面を形成する前記上壁にて形成されており、接続対象物の嵌合挿入時に当接部が突き当たる当接受け部を有することを特徴とする可動コネクタ。
【請求項3】
内側ハウジングが離れて配置した複数の前記当接部を有する
請求項1記載の可動コネクタ。
【請求項4】
複数の前記端子を有する
請求項1又は請求項3項記載の可動コネクタ。
【請求項5】
当接受け部は、内側ハウジングが変位して位置ずれしても当接部が突き当たる接触面を有する
請求項1、請求項3又は請求項4記載の可動コネクタ。
【請求項6】
外側ハウジングは、対向壁の外面に平坦面を有する
請求項1、請求項3?請求項5何れか1項記載の可動コネクタ。
【請求項7】
当接部が、端子の配列方向に沿う長さを有する突出壁である
請求項1、請求項3?請求項6何れか1項記載の可動コネクタ。
【請求項8】
当接部が端子の配列方向における複数の位置に設けた突出壁である
請求項1、請求項3?請求項7何れか1項記載の可動コネクタ。
【請求項9】
内側ハウジングが端子保持部を有しており、
前記突出壁を端子保持部に隣接して設ける
請求項7又は請求項8記載の可動コネクタ。
【請求項10】
前記突出壁を隣接する端子保持部の間に設ける
請求項9記載の可動コネクタ。
【請求項11】
内側ハウジングが孔状の端子保持部を有し、
外側ハウジングが内側ハウジングの端子保持部の延長上位置に孔部を有する
請求項1、請求項3?請求項10何れか1項記載の可動コネクタ。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1及び請求項3?6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

引用文献:特許第5849166号公報

3 引用文献の記載事項及び引用発明
引用文献には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付した。)
(1)「【0042】
可動ハウジング8は、上面が開口する箱型形状をなしており、前面部8aと、背面部8bと、側面部8c,8cと、底面部8eとを有する。また可動ハウジング8は底面部8eの中央から上側に向けて突出する嵌合壁部8fを有している。可動ハウジング8の嵌合壁部8fと、後述のプラグ端子11のプラグ接触部11eとは、ソケットハウジング9の受入口9d1に挿入される嵌合部3Aを形成する。さらに、底面部8e1は、第1の基板2に当接する当接部8e1を有する。」

(2)「【0098】
本実施形態の電気コネクタ1では、嵌合前の状態では、可動ハウジング8と第1の基板2との間には、間隙S’が設けられている(図17分図(a))。そして嵌合作業開始直後には、プラグ接触部11eと接触することによる前記挿入方向の負荷がソケット接触部10cを介して可動部11cに掛かり、可動部11cが第1の基板2の側に弾性変形する(図17分図(b))。これにより、可動ハウジング8の当接部8e1が第1の基板2に接触するか、可動部11cが限界まで弾性変形することで、可動ハウジング8が第1の基板2の側に弾性変位する。そして、この状態で第1の基板2にはスペーサRが設置されており、第2の基板4がスペーサRに接触する位置で固定される(図17分図(b))。(以下省略)」

(3)「【0126】
こうしてプラグハウジング26と、ソケットハウジング29が深い位置で嵌合しても、接触部50e,51e同士が摺動しながら初期接触位置P1から正規の接触位置P2に移動することができる。また、この「嵌合状態」では、第1の基板2と可動ハウジング28の当接部29f1との間には可動間隙S10が形成される。可動部30cがコネクタ23,24の挿入方向に弾性変形して、可動ハウジング28が挿入方向に相対変位することができる。」

(4)「【0128】
第3実施形態〔図26?28〕:
前記各実施形態では、可動部をプラグ端子又はソケット端子のいずれか一方のみが有する電気コネクタ1,21を示した。これに対して、プラグ端子51とソケット端子50の双方がそれぞれ可動部51c,50cを有する電気コネクタ41とすることができる。これにより、大きな振動をプラグ端子51の可動部51cとソケット端子50の可動部51cとによって十分に吸収することができる。また、電気コネクタ41が可動部50c,51cを有することで、振動を吸収するために必要な可動量をそれらの可動部50c,51cに分散させることができる。そのため、いずれか一方のみが可動部を有する場合と比較して、一つの可動部に掛かる負荷を低くすることができるため、可動部の塑性変形や損傷などの発生を抑えることができる。
【0129】
また、ソケットコネクタ45が、ソケットハウジング49に保持されるソケット端子50を備えており、ソケット端子50のソケット接触部50eは、外向きに突出する接点部50e1を有する電気コネクタ41とすることができる。また、プラグコネクタ46は、互いに対向してプラグハウジング46に保持されるプラグ端子51を備える。ソケット端子50の接点部50e1は、プラグ端子51のプラグ接触部51e同士の間に挿入されて、プラグ接触部51eを前後方向Yにおける中央側から外側に向けて押圧して導通接触する。以下、ソケットコネクタ45と、プラグコネクタ43の具体的な構成を記載する。
【0130】
〔ソケットコネクタ〕
「第1のコネクタ」としてのソケットコネクタ45は、表面実装タイプのコネクタであり、第1の基板2の基板面に半田付けされて固定される。ソケットコネクタ45は、ソケットハウジング49と、ソケット端子50とを備える。
【0131】
〔ソケットハウジング〕
ソケットハウジング49は、絶縁性樹脂の成型品でなり、「基板側ハウジング」としての固定ハウジング57と、「嵌合側ハウジング」としての可動ハウジング58とを備える。固定ハウジング57と可動ハウジング58との間には、「第2のコネクタ」又は「接続対象物」としてのプラグハウジング46の前面部48aと背面部48bが挿入されて、ソケット端子50とプラグ端子51が導通接触する嵌合室49eが設けられる
【0132】
固定ハウジング57は箱状でなり、幅方向Xに沿う板面を有する前面部57aと背面部57bを備える。
【0133】
前面部57aと背面部57bは、ソケット端子50の固定部50bを固定する端子収容孔57a1,57b1を有する。端子収容孔57a1,57b1は幅方向Xに沿って設けられる。」

(5)「【0135】
〔ソケット端子〕
「第1の端子」としてのソケット端子50は、導電性金属板を板厚方向に折り曲げて形成され、ソケット端子50は、第2実施形態のソケット端子30と同様の構成でなる基板接続部50aと、固定部50bと、可動部50cと、基端部50dとを有する。可動部50cは、第1の伸長部50c1と、第1の屈曲部50c2と、第2の伸長部50c3と、第2の屈曲部50c4と、第3の伸長部50c5と、第3の屈曲部50c6とを有する。」

(6)「【0147】
また、こうしてプラグコネクタ43とソケットコネクタ45が深い位置で嵌合しても、接触部50e,51e同士が摺動しながら初期接触位置P1から正規の接触位置P2に移動することができる。また、この「嵌合状態」では、可動ハウジング58の嵌合壁部58fの下端に設けられる当接部58f2と固定ハウジング57との間に可動間隙S11が設けられる。こうすることで可動部50c,51cは、コネクタ47,49の挿入方向に弾性変位して、可動ハウジング58が挿入方向に相対変位することができる。」

(7)上記記載事項(1)の「可動ハウジング8は、上面が開口する箱型形状をなしており、前面部8aと、背面部8bと、側面部8c,8cと、底面部8eとを有する。」(段落【0042】)との記載及び上記記載事項(4)の「固定ハウジング57は箱状でなり、幅方向Xに沿う板面を有する前面部57aと背面部57bを備える。」(段落【0132】)との記載に照らせば、固定ハウジング57は、前面部57a及び背面部57bの他に、箱状の側面を形成する側面部及び箱状の底面を形成する底面部を有するものと認められる。

(8)【図26】ないし【図28】からは、固定ハウジング57の内側に、可動ハウジング58を配置するための配置空間が見て取れる。

上記記載事項、認定事項及び図示内容から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明]
「前面部57a、背面部57b及び側面部と底面部とを有する箱状であり、内部に配置空間を有する固定ハウジング57と、
配置空間に配置され、プラグハウジング46の前面部48aと背面部48bと嵌合する嵌合室49eを有する可動ハウジング58と、
固定ハウジング57に対して可動ハウジング58を相対変位することができるように支持する可動部50cを有するソケット端子50と、を備えるソケットコネクタ45において、
可動ハウジング58は、プラグハウジング46の前面部48aと背面部48bの挿入方向の下端に当接部58f2を有しており、
固定ハウジング57は、当接部58f2と向き合う底面部を有しており、
当該底面部は、前記配置空間の箱状の底面を形成する底面部にて形成されており、プラグハウジング46の前面部48aと背面部48bの嵌合室49eへの嵌合時に当接部58f2が突き当たる部分を有する可動コネクタ。」

4 判断
本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「前面部57a、背面部57b及び側面部」は本件発明1の「周壁」に相当し、以下同様に、「底面部」は「上壁」及び「対向壁」に、「箱状であ」ることは「凹状に形成され」ることに、「配置空間」は「収容室」に、「固定ハウジング57」は「外側ハウジング」に、「プラグハウジング46の前面部48aと背面部48b」は「接続対象物」に、「嵌合室49e」は「挿入孔」に、「可動ハウジング58」は「内側ハウジング」に、「相対変位することができるように支持する」ことは「変位可能に支持する」ことに、「可動部50c」は「可動片」に、「ソケット端子50」は「端子」に、「ソケットコネクタ45」は「可動コネクタ」に、「挿入方向の下端」は「嵌合挿入方向に沿う前端部」に、「当接部58f2」は「当接部」に、「当接部58f2が突き当たる部分」は「当接部が突き当たる当接受け部」に、それぞれ相当する。

したがって、本件発明1と引用発明とは
「周壁と上壁とを有する凹状に形成され、内部に収容室を有する外側ハウジングと、
収容室に配置され、接続対象物の挿入孔を有する内側ハウジングと、
外側ハウジングに対して内側ハウジングを変位可能に支持する可動片を有する端子と、を備える可動コネクタにおいて、
内側ハウジングは、接続対象物の嵌合挿入方向に沿う前端部に当接部を有しており、
外側ハウジングは、当接部と向き合う対向壁を有しており、
当該対向壁は、前記収容室の前記凹状の底面を形成する前記上壁にて形成されており、接続対象物の嵌合挿入時に当接部が突き当たる当接受け部を有する可動コネクタ。」
である点で一致し、以下の相違点で相違する。

[相違点]
本件発明1は「内側ハウジングの前記挿入孔は、外側ハウジングを固定する基板の実装面とは反対側の裏面から接続対象物を挿入するように開口しており、」との構成を有するのに対し、引用発明はこのような構成を有さない点。

以下、上記相違点について検討する。

引用発明の可動ハウジング58(本件発明1の内側ハウジングに相当)の嵌合室49e(本件発明1の挿入孔に相当)は、固定ハウジング57(本件発明1の外側ハウジングに相当)を固定する基板の実装面側(引用文献の【図26】【図27】の上側に相当)からプラグハウジング46の前面部48a及び背面部48b(本件発明1の接続対象物に相当)を挿入するように開口しており、嵌合室49eの開口する方向を、本件発明1のように「実装面とは反対側の裏面」(引用文献の【図26】【図27】の下側に相当)としていない。
このため、上記相違点に係る本件発明1のように嵌合室49eの開口する方向を実装面とは反対側の裏面とする場合、可動ハウジング58及び固定ハウジング57を全体的に再設計することとなる。そのような全体的な再設計を行う動機付けを引用文献に見出すことはできないうえ、たとえその点を措いたとしても、それらの再設計が当業者にとって容易であるとは認められない。
したがって、本件発明1は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
そして、本件発明3?11は、本件発明1を減縮したものであるから、本件発明1と同様に、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

また、引用文献の第1実施形態(段落【0037】?【0110】、特に【図17】参照。)や第2実施形態(段落【0111】?【0127】参照)に係る発明は、ボトムエントリコネクタではない上に、底壁のない固定ハウジングを有し、基板を当接部が突き当たる部分とする発明であって、本件発明1及び本件発明3?11と比較した場合の構成上の差異が引用発明よりも大きい発明と認められるから、本件発明1及び本件発明3?11は、当該第1実施形態及び第2実施形態に係る発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)サポート要件について
本件の明細書の段落【0008】には「以上のような従来技術を背景になされたのが本発明である。その目的は、可動コネクタについて端子の接続信頼性を高めることにある。」と記載されている。
そして、請求項1の「内側ハウジングは、接続対象物の嵌合挿入方向に沿う前端部に当接部を有しており、
外側ハウジングは、当接部と向き合う対向壁を有しており、
当該対向壁は、前記収容室の前記凹状の底面を形成する前記上壁にて形成されており、接続対象物の嵌合挿入時に当接部が突き当たる当接受け部を有する」という構成により、「内側ハウジングの弓状の湾曲変形」を含む、端子の接続信頼性を悪化させるような可動コネクタの変形を生じないことで「可動コネクタについて端子の接続信頼性を高める」という目的を達成できると認められる。
そうすると、発明が解決しようとする課題を解決するために必要な構成は請求項1に特定されていると認められるから、本件発明1ないし6は、発明の詳細な説明に記載された発明である。

そして、「内側ハウジングの弓状の湾曲変形」は、端子の接続信頼性を悪化させるような可動コネクタの各種の変形のうちの一部に過ぎないと認められるから、従来技術の有する「当接突起」と「側方当接受け部」を設けた「ストッパ構造」は、本発発明1ないし6において、必ずしも前提となる構造とはいえない。

したがって、異議申立人の本件発明1ないし6についての特許法第36条第6項第1号に関する主張(特許異議申立書第5ページ第14行?第7ページ第19行)は採用できない。

(2)進歩性について
異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の請求項2に関し、ボトムエントリコネクタは周知であり、引用文献に記載された発明をボトムエントリコネクタとすることは容易である旨主張している(特許異議申立書第21ページ第24行?第22ページ第5行)。
しかしながら、引用文献に記載された発明のように、基板接続部が下側にあり、プラグハウジングが上側から嵌合挿入されるようなものを、ボトムエントリコネクタとするためには、「4 判断」にて説示したように、固定ハウジング及び可動ハウジングを全体的に再設計する必要があるところ、そのような再設計を行う動機付けは見出されないし、たとえその点を措いたとしても、当該再設計が当業者にとって容易であるとは認められない。
よって、ボトムエントリコネクタ自体は周知であったとしても、この主張は採用することができない。

6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び本件請求項3?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び本件請求項3?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、前説示のとおり、特許請求の範囲の訂正により請求項2は削除された。これにより、異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項2に係る申立ては、その対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周壁と上壁とを有する凹状に形成され、内部に収容室を有する外側ハウジングと、
収容室に配置され、接続対象物の挿入孔を有する内側ハウジングと、
外側ハウジングに対して内側ハウジングを変位可能に支持する可動片を有する端子と、を備える可動コネクタにおいて、
内側ハウジングの前記挿入孔は、外側ハウジングを固定する基板の実装面とは反対側の裏面から接続対象物を挿入するように開口しており、
内側ハウジングは、接続対象物の嵌合挿入方向に沿う前端部に当接部を有しており、
外側ハウジングは、当接部と向き合う対向壁を有しており、
当該対向壁は、前記収容室の前記凹状の底面を形成する前記上壁にて形成されており、接続対象物の嵌合挿入時に当接部が突き当たる当接受け部を有することを特徴とする可動コネクタ。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
内側ハウジングが離れて配置した複数の前記当接部を有する
請求項1記載の可動コネクタ。
【請求項4】
複数の前記端子を有する
請求項1又は請求項3記載の可動コネクタ。
【請求項5】
当接受け部は、内側ハウジングが変位して位置ずれしても当接部が突き当たる接触面を有する
請求項1、請求項3又は請求項4記載の可動コネクタ。
【請求項6】
外側ハウジングは、対向壁の外面に平坦面を有する
請求項1、請求項3?請求項5何れか1項記載の可動コネクタ。
【請求項7】
当接部が、端子の配列方向に沿う長さを有する突出壁である
請求項1、請求項3?請求項6何れか1項記載の可動コネクタ。
【請求項8】
当接部が端子の配列方向における複数の位置に設けた突出壁である
請求項1、請求項3?請求項7何れか1項記載の可動コネクタ。
【請求項9】
内側ハウジングが端子保持部を有しており、
前記突出壁を端子保持部に隣接して設ける
請求項7又は請求項8記載の可動コネクタ。
【請求項10】
前記突出壁を隣接する端子保持部の間に設ける
請求項9記載の可動コネクタ。
【請求項11】
内側ハウジングが孔状の端子保持部を有し、
外側ハウジングが内側ハウジングの端子保持部の延長上位置に孔部を有する
請求項1、請求項3?請求項10何れか1項記載の可動コネクタ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-02-12 
出願番号 特願2016-18368(P2016-18368)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (H01R)
P 1 652・ 113- YAA (H01R)
P 1 652・ 537- YAA (H01R)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山田 由希子  
特許庁審判長 大町 真義
特許庁審判官 内田 博之
小関 峰夫
登録日 2017-12-15 
登録番号 特許第6258370号(P6258370)
権利者 イリソ電子工業株式会社
発明の名称 可動コネクタ  
代理人 大竹 正悟  
代理人 大竹 正悟  

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