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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C22B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C22B |
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管理番号 | 1350661 |
異議申立番号 | 異議2018-700861 |
総通号数 | 233 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-05-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-10-24 |
確定日 | 2019-03-07 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6314814号発明「廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6314814号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6314814号の請求項1、2、4、5に係る特許を維持する。 特許第6314814号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許6314814号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成26年12月16日に出願され、平成30年 4月 6日にその特許の設定登録がされ、同年 4月25日に特許掲載公報が発行された。 その後、全請求項である請求項1?5に係る特許に対し、平成30年10月24日に、特許異議申立人として、特許業務法人 藤央特許事務所(以下、「異議申立人」という。)が、特許異議の申立てを行った。 そして、当審は、平成30年12月 3日付けで取消理由を通知し、特許権者は、その指定期間内である平成31年 2月 4日付けで意見書及び訂正請求書を提出した。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 (1)平成31年 2月 4日付けの訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)による訂正(以下、「本件訂正」という)の内容は、以下の訂正事項1?5のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すために当審が付した。 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「前記酸性抽出剤は、ジ(2-エチルヘキシル)ホスホン酸であることを特徴とする」 とあるのを、 「前記酸性抽出剤は、ジ(2-エチルヘキシル)ホスホン酸であり、前記溶媒抽出工程において、アルカリを添加して溶媒抽出時の水相のpH値を5.0?6.5に調整することを特徴とする」 に訂正する。 請求項1を引用する請求項2、4、5についても同様に訂正する。 イ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 ウ 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4に 「請求項1乃至3の何れか1項に記載の」 とあるのを、 「請求項1又は2に記載の」 に訂正する。 エ 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項5に 「請求項1乃至4の何れか1項に記載の」 とあるのを、 「請求項1、2、4の何れか1項に記載の」 に訂正する。 オ 訂正事項5 明細書の段落【0035】に 「逆抽出工程とを含み、酸性抽出剤は、ジ(2-エチルヘキシル)ホスホン酸であることを特徴とする。」 とあるのを、 「逆抽出工程とを含み、酸性抽出剤は、ジ(2-エチルヘキシル)ホスホン酸であり、前記溶媒抽出工程において、アルカリを添加して溶媒抽出時の水相のpH値を5.0?6.5に調整することを特徴とする。」 に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について ア 訂正事項1による訂正は、本件訂正前の請求項1に対し、本件訂正前の請求項3に記載されていた「前記溶媒抽出工程において、アルカリを添加して溶媒抽出時の水相のpH値を5.0?6.5に調整する」との事項を直列的に追加することにより、請求項1における「溶媒抽出工程」を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。 イ 訂正事項1による訂正後の請求項1に係る発明は、本件訂正前の請求項3に係る発明のうち、請求項1を引用していた場合のものと同じである。 したがって、訂正事項1による訂正が新規事項を追加するものではないことは明らかであるし、特許請求の範囲を拡張又は変更するものに該当しないことも明らかである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2による訂正は、請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。 また、当該訂正が、新規事項を追加するものではないことは明らかであるし、特許請求の範囲を拡張又は変更するものに該当しないことも明らかである。 (3)訂正事項3について 訂正事項3による訂正は、「請求項1乃至3の何れか1項」を引用していた本件訂正前の請求項4において、引用請求項数を削減し、「請求項1又は2」を引用するものとする訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。 また、当該訂正が、新規事項を追加するものではないことは明らかであるし、特許請求の範囲を拡張又は変更するものに該当しないことも明らかである。 (4)訂正事項4について 訂正事項4による訂正は、「請求項1乃至4の何れか1項」を引用していた本件訂正前の請求項5において、引用請求項数を削減し、「請求項1、2、4の何れか一項」を引用するものとする訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。 また、当該訂正が、新規事項を追加するものではないことは明らかであるし、特許請求の範囲を拡張又は変更するものに該当しないことも明らかである。 (5)訂正事項5について 訂正事項5による訂正は、明細書の段落【0035】の記載を、訂正事項1により訂正される特許請求の範囲の請求項1の記載に整合させるために行う訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。 また、当該訂正が、新規事項を追加するものではないことは明らかであるし、特許請求の範囲を拡張又は変更するものに該当しないことも明らかである。 3 一群の請求項 本件訂正前の請求項1?5について、請求項2?5はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1?5は一群の請求項であるところ、本件訂正請求は、上記一群の請求項についてされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?5〕を訂正単位として訂正の請求をするものである。 4 本件訂正が特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合することについて 訂正事項5による訂正は明細書の訂正であるところ、当該明細書の訂正に関連する請求項の全てである請求項1?5について訂正を行わなければならない。 そして、本件訂正は、請求項1?5について行われているといえるから、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。 5 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?5〕について、訂正を認める。 6 補足(本件訂正の請求において、特許法第120条の5第5項ただし書きにおける「特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるとき」について) 訂正事項1による訂正は、実質的に、本件訂正前の請求項1に係る発明を削除するとともに、本件訂正前の請求項3に係る発明を本件訂正後の請求項1に係る発明とする訂正であるとみることができる。 ここで、本件訂正前の請求項3に係る発明について、異議申立人は、特許異議申立書を提出する時点において取消理由が存在することの十分な主張を行うことができたものである。 また、特許異議の申立ての期間が特許掲載公報発行の日から6月以内に制限されている趣旨を踏まえると、本件訂正前の請求項3に係る発明と同じものである本件訂正後の請求項1に係る発明に対し、特許異議申立書において記載されていなかった新たな取消理由を主張することは許されないというべきである。 したがって、本件訂正の請求においては、異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるときに当たるものと判断した。 第3 本件発明 前記第2のとおり本件訂正の請求は認容されるから、本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明5」という)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、訂正箇所に下線を付した。 「【請求項1】 廃リチウムイオン電池から、湿式処理法によりニッケル及びコバルトを分離回収する廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法であって、 前記廃リチウムイオン電池より得られた有価金属含有物を、酸性溶液に混合して溶解した後に、浸出液と浸出残渣とに分離する浸出工程と、 前記浸出工程で得られた浸出液に中和剤を添加して、中和終液とアルミニウムを含有する中和澱物とに分離する中和工程と、 前記中和工程で得られた中和終液について、酸性抽出剤による溶媒抽出処理を行い、ニッケル及びコバルトを含有する抽出後の有機溶媒とリン及びフッ素を含有する抽出残液とを得る溶媒抽出工程と、 前記溶媒抽出工程で得られた抽出後の有機溶媒を、硫酸溶液で逆抽出することでニッケル及びコバルトを含有する逆抽出液を得る逆抽出工程とを含み、 前記酸性抽出剤は、ジ(2-エチルヘキシル)ホスホン酸であり、 前記溶媒抽出工程において、アルカリを添加して溶媒抽出時の水相のpH値を5.0?6.5に調整することを特徴とする廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法。 【請求項2】 前記中和工程において、前記中和剤を添加して前記浸出液のpH値を4.5?6.0に調整することを特徴とする請求項1に記載の廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 前記逆抽出工程において、硫酸溶液を添加して逆抽出時の水相のpH値を0?4.0に調整することを特徴とする請求項1又は2に記載の廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法。 【請求項5】 前記溶媒抽出工程で得られた抽出残液に、中和剤を添加して、リン及びフッ素を含有する沈澱物を生成させ、該リン及びフッ素を分離除去することを特徴とする請求項1、2、4の何れか1項に記載の廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法。」 第4 申立理由の概要 1 異議申立人は、後記2に示す甲第1号証?甲第5号証(以下、それぞれ、「甲1」?「甲5」という。)を提出した。 その上で、以下の2つの理由で本件特許が取り消されるべきものであることを主張している(以下、それぞれ便宜的に「申立理由1」?「申立理由2」という。)。 ・申立理由1(進歩性) 請求項1?4に係る発明は、甲1及び甲2に記載された発明と、甲3や甲4等に記載の周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、請求項5に係る発明は、甲1、甲2及び甲5に記載された発明と、甲3や甲4等に記載の周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 ・申立理由2(サポート要件) 請求項1、2、4、5は、「溶媒抽出工程」における溶媒抽出時のpHについて何ら特定されておらず、本件発明が解決しようとする課題である「有価金属であるニッケルやコバルトと、リンやフッ素とを完全に分離し、且つ、リンやフッ素を確実に回収して排水中のリンやフッ素負荷を上昇させないこと」という課題を常に解決できるとは考えられないから、請求項1、2、4、5の範囲にまで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、請求項1、2、4、5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 証拠方法 甲1:特開2007-122885号公報 甲2:特開2014-162982号公報 甲3:特開平9-209054号公報 甲4:特開平6-220553号公報 甲5:特開2010-180439号公報 第5 当審の判断 当審においては、取消理由として、申立理由1を採用せず、申立理由2のみを採用して、取消理由通知をした。 そして、本件訂正の請求が前記第2のとおり認容される結果、本件発明3は削除され存在しないものとなり、本件発明1、2、4、5に係る発明は前記第3のとおりのものとなったところ、以下の1において述べるとおり、取消理由通知に記載した取消理由(申立理由2)では、本件発明1、2、4、5に係る特許を取り消すことができないものと判断する。 また、以下の2において述べるとおり、申立理由1では、本件発明1、2、4、5に係る特許を取り消すことができないものと判断する。 1 取消理由通知に記載した取消理由(申立理由2(サポート要件))についての判断 (1)本件発明1について ア 特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たすか否かの判断は、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとを対比、検討した上で、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるか否かによって判断される。 イ そこで、本件発明が解決しようとする課題(以下、単に「本件課題」という。)について検討すると、本件明細書の段落【0032】によれば、本件課題は、 「有価金属であるニッケルやコバルトと、リンやフッ素とを完全に分離し、且つ、リンやフッ素を確実に回収して排水中のリンやフッ素負荷を上昇させないことが可能な、使用済みのリチウムイオン電池(以下、「廃リチウムイオン電池」と称する。)からの有価金属の回収方法を提供すること」 という事項であると認められる。 ゆえに、本件課題は、以下の二つの事項からなるといえる。 1)有価金属であるニッケルやコバルトと、リンやフッ素とを完全に分離する 2)リンやフッ素を確実に回収して排水中のリンやフッ素負荷を上昇させない ウ そして、本件明細書には、本件課題を解決することに関連して、以下の記載がある。 なお、下線は当審において強調のために付したものである。ただし、段落【0035】の「り、前記溶媒抽出工程において、アルカリを添加して溶媒抽出時の水相のpH値を5.0?6.5に調整する」の下線については、本件訂正により追加された記載を示すために付したものである。 「【課題を解決するための手段】 【0033】 本発明者らは、廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法において、特に、不純物を有機溶媒に抽出するのでは無く、不純物を抽出残液に残して、有価金属であるニッケル及びコバルトのみを有機溶媒に抽出する方法に着目し、有価金属と不純物とを完全に分離し、且つ、不純物を確実に回収する方法について鋭意研究を重ねた。 【0034】 その結果、浸出工程、中和工程を経て得られたリンやフッ素を含有するニッケル及びコバルト水溶液について、酸性抽出剤による溶媒抽出処理を行い、ニッケル及びコバルトを一旦有機相中に移行させた後、硫酸溶液で逆抽出することにより、ニッケル及びコバルトと、リンやフッ素との完全分離が可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。 【0035】 即ち、上記目的を達成するための本発明に係る廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法は、廃リチウムイオン電池から、湿式処理法によりニッケル及びコバルトを分離回収する廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法であって、廃リチウムイオン電池より得られた有価金属含有物を、酸性溶液に混合して溶解した後に、浸出液と浸出残渣とに分離する浸出工程と、浸出工程で得られた浸出液に中和剤を添加して、中和終液とアルミニウムを含有する中和澱物とに分離する中和工程と、中和工程で得られた中和終液について、酸性抽出剤による溶媒抽出処理を行い、ニッケル及びコバルトを含有する抽出後の有機溶媒とリン及びフッ素を含有する抽出残液とを得る溶媒抽出工程と、溶媒抽出工程で得られた抽出後の有機溶媒を、硫酸溶液で逆抽出することでニッケル及びコバルトを含有する逆抽出液を得る逆抽出工程とを含み、逆抽出工程とを含み、酸性抽出剤は、ジ(2-エチルヘキシル)ホスホン酸であり、前記溶媒抽出工程において、アルカリを添加して溶媒抽出時の水相のpH値を5.0?6.5に調整することを特徴とする。 【発明の効果】 【0036】 本発明によれば、有価金属であるニッケルやコバルトと、不純物であるリンやフッ素とを完全に分離し、且つ、リンやフッ素を確実に回収して排水中のリンやフッ素負荷を上昇させずに、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収することが可能となる。」 「【0079】 溶媒抽出工程S13では、抽出時の水相のpH値を5.0?6.5に維持する。水相のpH値が5.0未満の場合には、ニッケルの抽出が不十分になる。一方、水相のpH値が6.5を超える場合には、ニッケル及びコバルトが沈澱物を生成し、溶媒抽出反応を阻害するので好ましくない。 【0080】 溶媒抽出工程S13では、中和終液中のリンやフッ素は有機溶媒に抽出されずに、抽出残液に残留する。従って、溶媒抽出工程S13では、溶媒抽出処理によって、有価金属であるニッケルやコバルトと、不純物であるリンやフッ素を完全に分離することができる。そして、分離したリン及びフッ素を所定の方法で回収することにより、排水中の不純物の含有量を低減することができる。」 「【0094】 溶媒抽出工程S13において、ジ(2-エチルヘキシル)ホスホン酸(D2EHPA)等の酸性抽出剤を使用した場合には、抽出時の水相のpH値を4以上に調整すると、ニッケルやコバルトは有機相側に移行し、リンやフッ素は水相側に残存するため、不純物の分離が可能となる。」 エ 上記ウによれば、本件明細書には、所定の「浸出工程」、「中和工程」、「溶媒抽出工程」及び「逆抽出工程」を含む「廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法」が記載されている。 そして、特に段落【0079】?【0080】には、「溶媒抽出工程」において、抽出時の水相のpH値を5.0?6.5に維持することで、ニッケルの抽出が不十分になることがなく、また、ニッケル及びコバルトが沈殿物を生成し、溶媒抽出反応を阻害するということもなく、溶媒抽出処理によって、有価金属であるニッケルやコバルトと、不純物であるリンやフッ素を完全に分離することができることが記載されている。 したがって、本件明細書には、「廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法」において、特に「溶媒抽出工程」で、抽出時の水相のpH値を5.0?6.5に維持することによって、本件課題の「1)有価金属であるニッケルやコバルトと、リンやフッ素とを完全に分離する」という事項を解決できることが記載されているといえる。 オ ここで、「有価金属であるニッケルやコバルトと、リンやフッ素とを完全に分離」するという事項を解決するための抽出時の水相のpHの値に関し、段落【0079】には「5.0?6.5」という数値が記載され、段落【0094】には「4以上」という数値が記載され、両数値が完全に一致していない。 この点については、段落【0094】の「4以上」という数値は、不純物の分離が可能となるような最低限のpHを示すものであって、不純物の分離が可能となるもののニッケルの抽出はまだ不十分になる数値である一方、段落【0079】の「5.0?6.5」という数値は、「4以上」という数値をさらに限定するものであって、不純物の分離が可能となり、かつ、ニッケルの抽出が不十分になることやニッケル及びコバルトが沈殿物を生成し溶媒抽出反応を阻害することがない数値であると、本件明細書の記載全体から理解することができる。 そのため、「有価金属であるニッケルやコバルトと、リンやフッ素とを完全に分離」するという事項を解決するための抽出時の水相のpHの値として、本件明細書に記載されているのは、「4以上」ではなく、「5.0?6.5」であると、上記エにおいて判断した。 カ また、本件明細書には、「廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法」において、不純物を有機溶媒に抽出するのではなく、不純物を抽出残液に残して、有価金属であるニッケル及びコバルトのみを有機溶媒に抽出する方法に着目したことが記載されている(段落【0033】)ことを踏まえると、上記エのとおり、「溶媒抽出工程」において、抽出時の水相のpH値を5.0?6.5に維持することで完全に分離されたリンやフッ素は、抽出残液に残されることになる。 そして、段落【0080】によれば、完全に分離されて抽出残液に残されたリンやフッ素は、所定の方法で回収することにより、排水中の不純物の含有量を低減することができるものである。 したがって、本件明細書には、「廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法」において、特に「溶媒抽出工程」で、抽出時の水相のpH値を5.0?6.5に維持することによって、完全に分離されたリンやフッ素が抽出残液に残される結果、本件課題の「2)リンやフッ素を確実に回収して排水中のリンやフッ素負荷を上昇させない」という事項を解決できることも記載されているといえる。 キ そして、本件発明1は、前記第3のとおりのものであって、「廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法」において、「前記溶媒抽出工程において、アルカリを添加して溶媒抽出時の水相のpH値を5.0?6.5に調整する」ことが特定されているから、上記エ?カの検討に照らし、本件発明1は、本件課題を解決できるものであって、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。 ク よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものである。 (2)本件発明2、4、5について 本件発明2、4、5は、いずれも、本件発明1を引用するものであって、本件発明1に特定される発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明1と同じ理由で、発明の詳細な説明に記載したものである。 2 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由(申立理由1(進歩性))についての判断 (1)甲1?甲5の記載 ア 甲1(特開2007-122885号公報)には、以下の記載がある(下線は当審で付した。「・・・」により記載の省略を示す。以下同様である。)。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法であって、リチウムイオン電池を解体する解体工程と、電池解体物をアルコール又は水で洗浄し、電解液及び電解質を除去する洗浄工程と、洗浄した電池解体物を硫酸水溶液に浸漬して、正極基板から正極活物質を剥離する正極活物質剥離工程と、剥離した正極活物質を固定炭素含有物の存在下に酸性溶液で浸出する浸出工程と、得られた浸出液から中和によりアルミニウム、銅を分離除去する中和工程と、中和工程後の浸出液からニッケル、コバルトを分離回収するニッケル・コバルト回収工程と、残った水溶液中のリチウムを溶媒抽出と逆抽出により濃縮した後、リチウムを炭酸リチウムの固体として分離回収するリチウム回収工程とを備えることを特徴とするリチウムイオン電池からの有価金属回収方法。」 「【技術分野】 【0001】 本発明は、使用済みのリチウムイオン2次電池のリサイクルにおいて、電池を解体して、正極活物質に含まれるリチウムなどの有価金属を効率的に分離回収する方法に関する。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明は、このような従来の事情に鑑み、使用済みのリチウムイオン電池のリサイクルにおいて、加熱・焼却などの乾式処理を行わずに、正極活物質などに含まれているリチウム、ニッケル、コバルトなどの有価金属を効率よく分離回収する方法を提供することを目的とする。」 「【0015】 本発明によるリチウムイオン電池からの有価金属の回収方法を、図1に示す工程図を参照して以下に説明する。 ・・・ 【0029】 (6)ニッケル・コバルト回収工程 上記中和工程を終了した浸出液からニッケル及びコバルトを分離・回収するにあたっては、その浸出液に更に中和剤を添加してpHを6.5?10.0に調整する。浸出液のpHが6.5よりも低い場合は、ニッケル及びコバルトを澱物として分離回収することができない。また、浸出液のpHが10.0を超えると、中和剤の使用量が増加するため不経済である。この工程においても、ソーダ灰や消石灰、水酸化ナトリウムなどといった一般的な中和剤を用いることができる。尚、この工程において、リチウムは浸出液中に残留する。 【0030】 アルミニウム・銅と、ニッケル・コバルトと、リチウムとを分離精製する方法として、上記した中和の他に、硫化や溶媒抽出などの方法も考えられる。しかし、硫化を用いる場合には、優先的に銅及びアルミニウムを硫化させ除去することが出来るが、同時にロスするニッケルやコバルトの量も大きくなる。また、硫化水素ガスの発生するため、その除害設備や硫化物の精製工程が必要になる。溶媒抽出を用いる場合は、ニッケルとコバルトは分離可能であるが、ニッケルと同時にリチウムが抽出される問題がある。また、油水分離のための設備負荷などが増大する点でも不利である。」 「【図1】 」 イ 甲2(特開2014-162982号公報)には、以下の記載がある。 「【請求項1】 工程(1):リチウム、マンガン、ニッケル、及びコバルトからなる金属群Aと、銅、アルミニウム及び鉄からなる金属群Bとを含有する金属混合水溶液に対して、ホスホン酸エステル系抽出剤及びカルボン酸系抽出剤を含有する第一混合抽出剤を使用して溶媒抽出し、当該金属混合溶液から金属群Bに属する金属分を分離する工程、 工程(2):工程(1)後の抽出残液に対して、燐酸エステル系抽出剤及びオキシム系抽出剤を含有する第二混合抽出剤を使用して溶媒抽出し、当該抽出残液から更に金属群Bに属する金属分を分離すると共にマンガンも分離する工程、 工程(3):工程(2)後の抽出残液に対して、ホスホン酸エステル系抽出剤を使用して溶媒抽出し、当該抽出残液からコバルトを分離する工程、 工程(4):工程(3)後の抽出残液に対して、カルボン酸系抽出剤を使用して溶媒抽出し、当該抽出残液からニッケルを分離する工程、 を順に行うことを含む金属混合水溶液からの金属の分離回収方法。」 「【0042】 (工程3) 工程(2)を終えた段階で、金属群Bは金属混合溶液からほとんど分離除去されている。また、マンガンも大部分が分離されている。従って、工程(2)後の抽出残液中にはリチウム、コバルト、及びニッケルが主として含まれている。工程(3)以降ではこれら金属群Aに属する金属の分離回収を行う。 【0043】 工程(3)では、工程(2)後の抽出残液(水相)に対して、ホスホン酸エステル系抽出剤を使用して溶媒抽出し、当該抽出残液からコバルトを分離する。ホスホン酸エステル系抽出剤としては特に制限はないが、ニッケルとコバルトの分離効率の観点から2-エチルヘキシルホスホン酸2-エチルヘキシル(商品名:PC-88A、Ionquest801)が好ましい。 ・・・ 【0045】 抽出の手順は、工程(1)と同様に、常法に従えばよい。但し、抽出時の平衡pHはニッケルとコバルトの分離性の理由により4.5?5.5とするのが好ましく、4.8?5.2とするのがより好ましい。 【0046】 溶媒抽出後のコバルトを含有する抽出剤(有機相)に対しては、工程(1)と同様に、逆抽出を行うことができる。水相側に移動したコバルトは、電解採取などによって回収可能である。」 「【図1】 」 ウ 甲3(特開平9-209054号公報)には、以下の記載がある。 「【0007】これらの抽出剤は、溶液が低pH値であるときにはコバルトが優先的に抽出されるが、NaOH等のアルカリを使用してpH値を次第に高めるとニッケルの抽出が行われるようになるので、溶液のpH値を適宜調整することにより溶液中にニッケルを残留させてコバルトを抽出することにより両者の分離を行うことができる。しかしながら、実際には原液中のコバルトを完全に抽出しようとすれば、コバルト抽出溶媒中に僅かではあるがニッケルがともに抽出されてしまうし、一方溶液のpH値をニッケルの抽出が行われないような値に調整すると、該溶液中にコバルトが残留してしまうので両者の完全分離を行うことはきわめて困難であった。」 エ 甲4(特開平6-220553号公報)には、以下の記載がある。 「【0002】 【従来の技術】ニッケルとコバルトは特殊鋼、特殊合金や磁性材料、触媒等の原料金属としてわが国の産業に欠かすことのできない重要な金属である。溶媒抽出法によるこれらの金属の分離・精製法に関しては以前からかなりの研究が行われ、わが国も含め世界で十数箇所の工場でこのプロセスを用いた商業的な操業が行われている。この場合の原料鉱物は例えば酸化ニッケル鉱等の天然の鉱石であるが、これらの鉱石の産地は偏在しており、各種の産業廃棄物等の2次資源からのニッケルとコバルトの回収を行うことが望まれている。これらの金属を比較的高濃度で含有する廃棄物として原油の脱硫用の触媒があげられる。しかしながら、廃脱硫触媒はニッケルやコバルトの10倍以上のモリブデン、バナジウムなどを含有しており、ニッケルとコバルトをモリブデンとバナジウムから効率的に分離することが技術上の問題点となる。工業的に使用されているD2EHPA〔(ジ-(2-エチルヘキシル)リン酸〕、PC-88A〔(株)大八化学工業製;成分は2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシルエステル〕、Cyanex 272〔アメリカンサイアナミッド社製;成分はジ-(2,4,4-トリメチルペンチル)-ホスフィン酸〕などの酸性燐化合物抽出剤を用いた硫酸水溶液からの抽出においても、また高分子量アミンを用いた塩酸水溶液からの抽出においても、これらの金属の抽出の序列はいずれの場合でもモリブデンやバナジウムの方に大きく偏っており、これらの抽出剤ではモリブデンやバナジウム中に存在するニッケル、コバルトを選択的に回収することは全く不可能である。」 オ 甲5(特開2010-180439号公報)には、以下の記載がある。 「【請求項1】 ニッケル及びコバルトと鉄、アルミニウム及びマンガンその他の不純物元素とを含有する硫酸酸性水溶液から、ニッケルを回収する方法であって、 下記の工程(1)?(5)を含むことを特徴とする硫酸酸性水溶液からのニッケル回収方法。 工程(1):前記硫酸酸性水溶液に、亜硫酸ガスと空気又は酸素ガスからなる混合ガスを吹き込みながら、炭酸カルシウムを添加して酸化中和処理に付し、生成された鉄及びアルミニウムを含有する沈殿物(a)を除去する。 工程(2):前記工程(1)で得られた酸化中和処理後液に、水酸化カルシウムを添加して中和処理に付し、ニッケル及びコバルトを含有する混合水酸化物を分離回収する。 工程(3):前記工程(2)で得られた混合水酸化物を、濃度50質量%以上の硫酸溶液中で溶解処理に付し、生成されたマンガン及び石膏を含有する沈殿物(b)を除去してニッケル及びコバルトの濃縮液を得る。 工程(4):前記工程(3)で得られた濃縮液を、燐酸エステル系酸性抽出剤を用いて溶媒抽出処理に付し、ニッケルを含有する抽出残液とコバルトを含有する逆抽出液を得る。 工程(5):前記工程(4)で得られた抽出残液に、中和剤を添加して中和処理に付し、生成された水酸化ニッケルを分離回収する。」 (2)甲1発明について 甲1の請求項1の記載をもとに、甲1には、使用済みのリチウムイオン電池のリサイクルにおいて、正極活物質などに含まれているリチウム、ニッケル、コバルトなどの有価金属を効率よく分離回収する方法を提供すると記載されている(段落【0007】)ことと、ニッケル・コバルト回収工程を中和により行うことが記載されている(段落【0030】)ことを踏まえると、甲1には、以下の甲1発明が記載されていると認められる。 「[甲1発明] 使用済みのリチウムイオン電池から、正極活物質などに含まれているリチウム、ニッケル、コバルトなどの有価金属を回収する方法であって、 リチウムイオン電池を解体する解体工程と、 電池解体物をアルコール又は水で洗浄し、電解液及び電解質を除去する洗浄工程と、 洗浄した電池解体物を硫酸水溶液に浸漬して、正極基板から正極活物質を剥離する正極活物質剥離工程と、 剥離した正極活物質を固定炭素含有物の存在下に酸性溶液で浸出する浸出工程と、 得られた浸出液から中和によりアルミニウム、銅を分離除去する中和工程と、 中和工程後の浸出液から中和によりニッケル、コバルトを分離回収するニッケル・コバルト回収工程と、 残った水溶液中のリチウムを溶媒抽出と逆抽出により濃縮した後、リチウムを炭酸リチウムの固体として分離回収するリチウム回収工程とを備えることを特徴とする リチウムイオン電池からの有価金属回収方法。」 (3)本件発明1について ア 本件発明1と、甲1発明とを対比する。 (ア)本件発明1が「廃リチウムイオン電池から、湿式処理法によりニッケル及びコバルトを分離回収する廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法」であるのに対し、甲1発明は「使用済みのリチウムイオン電池から、正極活物質などに含まれているリチウム、ニッケル、コバルトなどの有価金属を回収する方法」であり、この点について対比すると、以下のことがいえる。 甲1発明の「使用済みのリチウムイオン電池」は、本件発明1の「廃リチウムイオン電池」に相当する。 また、両発明は、回収する「有価金属」が「ニッケル」及び「コバルト」を含む点で共通しているところ、甲1発明を規定する各事項からみて、甲1発明の方法は「湿式処理法」であるといえる。 以上を踏まえると、両発明は「廃リチウムイオン電池から、湿式処理法により少なくともニッケル及びコバルトを分離回収する廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法」である点で一致する。 (イ)甲1発明の「剥離した正極活物質を固定炭素含有物の存在下に酸性溶液で浸出する浸出工程」は、本件発明1の「前記廃リチウムイオン電池より得られた有価金属含有物を、酸性溶液に混合して溶解した後に、浸出液と浸出残渣とに分離する浸出工程」に相当する。 (ウ)甲1発明の「得られた浸出液から中和によりアルミニウム、銅を分離除去する中和工程」は、本件発明1の「前記浸出工程で得られた浸出液に中和剤を添加して、中和終液とアルミニウムを含有する中和澱物とに分離する中和工程」に相当する。 (エ)上記(ウ)を踏まえると、甲1発明の「中和工程後の浸出液」は、本件発明1の「前記中和工程で得られた中和終液」に相当する。 (オ)したがって、両発明は、以下の点で一致する。 「廃リチウムイオン電池から、湿式処理法により少なくともニッケル及びコバルトを分離回収する廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法であって、 前記廃リチウムイオン電池より得られた有価金属含有物を、酸性溶液に混合して溶解した後に、浸出液と浸出残渣とに分離する浸出工程と、 前記浸出工程で得られた浸出液に中和剤を添加して、中和終液とアルミニウムを含有する中和澱物とに分離する中和工程と、 を含む、廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法。」 (カ)その一方、両発明は、少なくとも、「前記中和工程で得られた中和終液」に対する工程に関する以下の点で相違する。 (相違点1) 「前記中和工程で得られた中和終液」に対する工程として、 本件発明1は「酸性抽出剤による溶媒抽出処理を行い、ニッケル及びコバルトを含有する抽出後の有機溶媒とリン及びフッ素を含有する抽出残液とを得る溶媒抽出工程」を含み、「前記酸性抽出剤は、ジ(2-エチルヘキシル)ホスホン酸であり、前記溶媒抽出工程において、アルカリを添加して溶媒抽出時の水相のpH値を5.0?6.5に調整する」のに対し、甲1発明は、「中和によりニッケル、コバルトを分離回収するニッケル・コバルト回収工程」を備える点 イ 上記相違点1について検討する。 (ア)甲1の【0030】には、「アルミニウム・銅と、ニッケル・コバルトと、リチウムとを分離精製する方法として、上記した中和の他に、硫化や溶媒抽出などの方法も考えられる。」と記載されている一方、「溶媒抽出を用いる場合は、ニッケルとコバルトは分離可能であるが、ニッケルと同時にリチウムが抽出される問題がある。また、油水分離のための設備負荷などが増大する点でも不利である。」と記載されている。 この記載に接した当業者は、甲1発明における「中和によりニッケル、コバルトを分離回収するニッケル・コバルト回収工程」を、「中和」により行うことに代えて「溶媒抽出」により行う変更をした場合に、「ニッケルと同時にリチウムが抽出される問題」が生じることや、「油水分離のための設備負荷などが増大する点」で不利になることを認識する。 そうすると、甲1発明における「中和によりニッケル、コバルトを分離回収するニッケル・コバルト回収工程」を、「中和」により行うことに代えて「溶媒抽出」により行うように変更することについて、阻害要因が存在するといえる。 (イ)そして、甲2には、所定の溶液に対し、ホスホン酸エステル抽出剤を使用してコバルトを溶媒抽出し、その抽出後の有機相に対して硫酸溶液等を用いて逆抽出して、コバルトを回収することが記載されている(請求項1、【0042】?【0047】、【0030】)。すなわち、甲2には、所定の溶液に対し、コバルトを「溶媒抽出」した後に逆抽出してコバルトを回収することが記載されているといえる。 しかしながら、上記(ア)で検討したとおり、甲1発明において、「中和によりニッケル、コバルトを分離回収するニッケル・コバルト回収工程」を、「中和」により行うことに代えて「溶媒抽出」により行うように変更することについて、阻害要因が存在しているから、甲1発明に対し、甲2に記載された、コバルトを「溶媒抽出」することを含む上記の技術事項を適用することは、当業者が容易になし得たことではない。 したがって、甲2の記載を考慮したとしても、当業者は、甲1発明における「中和によりニッケル、コバルトを分離回収するニッケル・コバルト回収工程」を、「溶媒抽出」により行うように変更することを、容易になし得たとはいえない。 (ウ)また、甲3には、所定の抽出剤を用いて溶媒抽出を行う場合に、コバルト抽出溶媒中に僅かではあるがニッケルがともに抽出されてしまうことが記載されており(段落【0007】)、甲4には、工業的に使用されている酸性燐化合物抽出剤のうちの一つとしてジ-(2-エチルヘキシル)リン酸が記載されており(段落【0002】)、甲5には、硫酸酸性水溶液からのニッケル回収方法が記載されている(請求項1)。 しかしながら、甲2の記載に加え、これら甲3?甲5の記載を考慮したとしても、当業者は、甲1発明における「中和によりニッケル、コバルトを分離回収するニッケル・コバルト回収工程」を、「溶媒抽出」により行うように変更することを、容易になし得たとはいえない。 (エ)以上によれば、当業者は、甲1発明に基づき、甲2?甲5の記載を考慮したとしても、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項のうち、「酸性抽出剤による溶媒抽出処理を行い、ニッケル及びコバルトを含有する抽出後の有機溶媒とリン及びフッ素を含有する抽出残液とを得る溶媒抽出工程」を想到することができない。 (オ)さらに、甲1?甲5の記載に加え、技術常識を考慮したとしても、本件発明1が奏する「有価金属であるニッケルやコバルトと、不純物であるリンやフッ素とを完全に分離し、且つ、リンやフッ素を確実に回収して排水中のリンやフッ素負荷を上昇させずに、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収することが可能となる。」(段落【0036】)という効果は、当業者が予測し得たものであるとはいえない。 ウ したがって、本件発明1と甲1発明との他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明に基づき、甲2?甲5の記載を考慮したとしても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件発明2、4、5について 本件発明2、4、5は、いずれも本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるから、本件発明1と同様にして、甲1に記載された発明に基づき、甲2?甲5の記載を考慮したとしても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1、2、4、5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1、2、4、5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、本件訂正によって、請求項3に係る発明が削除されたため、請求項3に係る特許についての特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しないこととなった。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法 【技術分野】 【0001】 本発明は、使用済みのリチウムイオン電池、即ち、廃リチウムイオン電池から、正極活物質に含まれるニッケルやコバルト等の有価金属を分離回収する廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法に関する。より詳しくは、分離回収された有価金属におけるリンやフッ素による汚染を、効率的に防止することが可能な廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法に関する。 【背景技術】 【0002】 近年、大気中に放出される硫黄酸化物や煤塵等に起因する広域的な大気汚染や炭酸ガス等による地球温暖化等の環境問題が、地球規模の課題としてクローズアップされている。 【0003】 大気汚染や地球温暖化等の原因の一つに自動車の排気ガスがあり、排気ガスによる汚染を低減するため、自動車用の二次電池を搭載したハイブリッド自動車や電気自動車の生産や需要が加速的に増加している。自動車用二次電池としては、従来では、安全性と信頼性からニッケル水素電池が採用されてきたが、技術開発によるリチウムイオン電池の安全性と信頼性の向上に伴い、現在では、高電圧で高容量のリチウムイオン電池が採用されるケースが増えてきている。 【0004】 また、原子力発電所の事故リスク低減についても社会的に重要な課題となっている。そのため、太陽光発電や風力発電等の新エネルギーによる発電プラントの新設が盛んに行われるようになると共に、HEMS(home energy management system)の普及も予想されており、電力貯蔵用の二次電池の重要性が高まっている。 【0005】 更に、小型パーソナルコンピューターやスマートフォン等の移動式端末の普及と性能向上に伴って、小型二次電池についても需要が高まる一方である。そのため、移動式端末においても高容量で小型軽量化が可能であるという特徴を生かし、小型二次電池として主にリチウムイオン電池が利用されている。 【0006】 つまり、現在では、上述した通りの様々な分野において、二次電池としてのリチウムイオン電池の利用が増加しつつあり、その需要は年々高まる一方である。 【0007】 リチウムイオン電池は、アルミニウムや鉄等の金属製の外装缶内に、銅箔からなる負極基板に黒鉛等の負極活物質を固着させた負極材、アルミニウム箔からなる正極基板にニッケル酸リチウムやコバルト酸リチウム等の正極活物質を固着させた正極材、アルミニウムや銅からなる集電体、ポリプロピレンの多孔質フィルム等の樹脂フィルム製セパレータ、電解液、電解質等が封入されたものである。 【0008】 リチウムイオン電池には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート等の有機溶媒からなる非水系の電解液と、有価金属であるリチウムを構成したヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF_(6))等の電解質とが用いられている。 【0009】 このようなリチウムイオン電池は、用途や使用方法により耐用年数に差があるものの、必ず寿命を迎え、例えばハイブリッド自動車や電気自動車に搭載されたリチウムイオン電池は、何れは廃棄される見込みである。現在では、使用済みのリチウムイオン電池(以下、「廃リチウムイオン電池」と称する。)から、上述した各部材に含まれる有価金属を回収して、資源としてリサイクルするための技術開発も進められている。 【0010】 廃リチウムイオン電池から、有価金属であるニッケルやコバルトを回収する方法としては、例えば、廃リチウムイオン電池を炉に入れて熔解し、廃リチウムイオン電池を構成する合成樹脂等を燃焼して除去し、大部分の鉄をスラグ化して除去し、ニッケルを還元して鉄の一部と合金化したフェロニッケルとして回収する乾式処理方法が知られている。 【0011】 乾式処理方法には、低コストで大量処理が可能であり、既存の製錬所の設備をそのまま利用できて処理に手間がかからないという利点がある。 【0012】 しかしながら、乾式処理方法では、回収されたフェロニッケルから不純物を分離することは難しく、フェロニッケルはステンレスの原料以外の用途には適さない。 【0013】 また、乾式処理方法は、特にコバルトやリチウムがスラグ中に分配されてスラグとして廃棄されてしまい、希少なコバルトやリチウムの回収という側面では望ましい方法とは言い難い。 【0014】 つまり、乾式処理方法には、純度の低い有価金属が回収され、又は有価金属が回収できず、廃リチウムイオン電池に含まれている有価金属を、電池用にリサイクルが可能となる高純度の金属として回収することができないという問題がある。 【0015】 一方、湿式処理による有価金属の回収方法としては、例えば、特許文献1に記載の回収方法が開示されている。 【0016】 湿式処理方法によれば、リチウムイオン電池の廃材の硫酸浸出液に、中和剤と酸化剤を添加することによって、水溶液のpH値を3.5?4.5、酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)を500mV以上として鉄とアルミニウムの一部を沈澱除去し、そこで得られた中和後液を、酸性リン酸エステル系抽出剤によって溶媒抽出に処することで、アルミニウム及びマンガンを有機溶媒に抽出し、その有機溶媒を逆抽出してアルミニウム及びマンガンを逆抽出液として回収した後、逆抽出液に中和剤を添加して、アルミニウムを沈澱除去することによって、マンガンを含有する水溶液を得ることができる。 【0017】 ところで、湿式処理方法によって、廃リチウムイオン電池から有価金属であるニッケルやコバルトを回収する場合には、有価金属側に電解質であるヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF_(6))から持ち込まれるリンやフッ素が混入してしまうという問題がある。 【0018】 なお、乾式処理方法を適用した場合には、リンやフッ素は基本的にスラグやダストに分配するため、有価金属を汚染することは無い。 【0019】 リンやフッ素による有価金属の汚染問題に対して、特許文献2には、原料の洗浄過程でリンやフッ素を除去する技術が記載されている。 【0020】 特許文献2には、リチウムイオン電池を解体する解体工程、電池解体物をアルコール又は水で洗浄する洗浄工程、洗浄した電池解体物を硫酸水溶液に浸漬して、正極基板から正極活物質を剥離する正極活物質剥離工程、剥離した正極活物質を酸性溶液で浸出する浸出工程、得られた浸出液から中和によりアルミニウム及び銅を分離除去する中和工程、中和後液からニッケル及びコバルトを分離回収するニッケル・コバルト回収工程、ニッケル・コバルト回収後の水溶液中のリチウムを溶媒抽出と逆抽出により濃縮した後、リチウムを炭酸リチウムの固体として分離回収するリチウム回収工程とを備える、リチウムイオン電池からの有価金属回収方法が開示されている。 【0021】 更に、特許文献3では、リンやフッ素を含まないリチウムを効率的に回収する技術が提案されている。 【0022】 特許文献3には、リチウムイオン電池から分離したヘキサフルオロリン酸リチウムを含有するリチウム含有溶液に、水酸化アルカリを添加してリン酸塩及びフッ化物塩の沈澱を形成させる沈澱形成工程と、その沈澱形成工程にて形成された沈澱を分離除去した後、濾液中のリチウムを酸性抽出剤による溶媒抽出と逆抽出により濃縮した後、炭酸化により炭酸リチウムとしてリチウムを回収するリチウム回収工程とを有する、リチウムの回収方法が開示されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0023】 【特許文献1】特開2013-076112号公報 【特許文献2】特開2007-122885号公報 【特許文献3】特開2012-072464号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0024】 上述の通り、湿式処理方法によって廃リチウムイオン電池から有価金属であるニッケルやコバルトを回収する場合には、電解質であるヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF_(6))から持ち込まれるリンやフッ素が、有価金属側に混入してしまうという問題がある。 【0025】 リンとフッ素は排水規制上の重要物質であるだけに、廃リチウムイオン電池の湿式処理方法では、水溶液中のリンとフッ素を確実に除去することが重要課題となる。 【0026】 資源循環の理想である、廃電池から回収した元素の電池製造へのリサイクルを実現するための湿式処理方法であるが、その湿式処理によって排水による環境負荷が増大してはならない。 【0027】 即ち、使用済みのニッケル水素電池に含まれている有価金属を、電池用にリサイクルが可能となる高純度の金属として回収することと、環境負荷の低減とは、両立させなければならない。 【0028】 しかしながら、特許文献1では、アルミニウムとマンガンの分離回収方法が開示されているに過ぎず、ニッケル、コバルト、リチウム等の有価金属へのリンとフッ素の混入防止方法や、リンとフッ素の除去方法については触れられていない。 【0029】 特許文献2には、原料の洗浄過程でリンやフッ素を除去する技術が記載されている。しかしながら、特許文献2では、リチウムイオン電池解体物に、洗浄されずに残留したリンやフッ素が、有価金属であるニッケルやコバルトに混入することになる。 【0030】 特許文献3では、リンやフッ素を含まないリチウムを効率的に回収し、リンとフッ素を安定的に固定する技術が記載されている。しかしながら、特許文献3には、ニッケル、コバルトのリンやフッ素による汚染については触れられていない。 【0031】 特許文献1?3に記載されているように、廃リチウムイオン電池の湿式処理方法については、幾つか提案がなされている。しかしながら、現状では、リンとフッ素の処理について詳述しているものは少なく、回収される有価金属の品質や排水による環境負荷まで配慮した、低運転コスト、低設備コストの廃リチウムイオン電池の湿式処理方法が構築されているとは言い難い。 【0032】 本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて考案されたものであり、有価金属であるニッケルやコバルトと、リンやフッ素とを完全に分離し、且つ、リンやフッ素を確実に回収して排水中のリンやフッ素負荷を上昇させないことが可能な、使用済みのリチウムイオン電池(以下、「廃リチウムイオン電池」と称する。)からの有価金属の回収方法を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0033】 本発明者らは、廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法において、特に、不純物を有機溶媒に抽出するのでは無く、不純物を抽出残液に残して、有価金属であるニッケル及びコバルトのみを有機溶媒に抽出する方法に着目し、有価金属と不純物とを完全に分離し、且つ、不純物を確実に回収する方法について鋭意研究を重ねた。 【0034】 その結果、浸出工程、中和工程を経て得られたリンやフッ素を含有するニッケル及びコバルト水溶液について、酸性抽出剤による溶媒抽出処理を行い、ニッケル及びコバルトを一旦有機相中に移行させた後、硫酸溶液で逆抽出することにより、ニッケル及びコバルトと、リンやフッ素との完全分離が可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。 【0035】 即ち、上記目的を達成するための本発明に係る廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法は、廃リチウムイオン電池から、湿式処理法によりニッケル及びコバルトを分離回収する廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法であって、廃リチウムイオン電池より得られた有価金属含有物を、酸性溶液に混合して溶解した後に、浸出液と浸出残渣とに分離する浸出工程と、浸出工程で得られた浸出液に中和剤を添加して、中和終液とアルミニウムを含有する中和澱物とに分離する中和工程と、中和工程で得られた中和終液について、酸性抽出剤による溶媒抽出処理を行い、ニッケル及びコバルトを含有する抽出後の有機溶媒とリン及びフッ素を含有する抽出残液とを得る溶媒抽出工程と、溶媒抽出工程で得られた抽出後の有機溶媒を、硫酸溶液で逆抽出することでニッケル及びコバルトを含有する逆抽出液を得る逆抽出工程とを含み、酸性抽出剤は、ジ(2-エチルヘキシル)ホスホン酸であり、溶媒抽出工程において、アルカリを添加して溶媒抽出時の水相のpH値を5.0?6.5に調整することを特徴とする。 【発明の効果】 【0036】 本発明によれば、有価金属であるニッケルやコバルトと、不純物であるリンやフッ素とを完全に分離し、且つ、リンやフッ素を確実に回収して排水中のリンやフッ素負荷を上昇させずに、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収することが可能となる。 【図面の簡単な説明】 【0037】 【図1】本発明の一実施の形態に係る廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収プロセスの概略を示す工程図である。 【発明を実施するための形態】 【0038】 本発明を適用した具体的な実施の形態(以下、「本実施の形態」という。)について、以下の順序で図1を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることが可能である。 【0039】 1.浸出工程 2.中和工程 3.溶媒抽出工程 4.逆抽出工程 【0040】 本実施の形態に係る廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法(以下、単に「有価金属回収方法」と呼称する場合がある。)は、図1に示すように、廃リチウムイオン電池より得られた有価金属含有物を、酸性溶液に混合して溶解した後に、浸出液と浸出残渣とに分離する浸出工程S11と、浸出工程S11で得られた浸出液に、中和剤を添加して、中和終液と中和澱物とに分離する中和工程S12と、中和工程S12で得られた中和終液について、酸性抽出剤による溶媒抽出処理を行い、抽出後の有機溶媒と抽出残液とを得る溶媒抽出工程S13と、溶媒抽出工程S13で得られた抽出後の有機溶媒を、硫酸溶液で逆抽出することで逆抽出液を得る逆抽出工程S14とを有するものである。 【0041】 [1.浸出工程] 浸出工程S11では、図1に示すように、廃リチウムイオン電池に前処理を施して得られた有価金属含有物と酸性溶液とを混合及び加温して溶解することにより、有価金属を含んだ浸出液と浸出残渣とを得る。 【0042】 浸出工程S11では、まず、廃リチウムイオン電池から有価金属含有物を得る方法について説明する。 【0043】 リチウムイオン電池には、アルミニウムや鉄等の金属製の外装缶内に、銅箔からなる負極基板に黒鉛等の負極活物質を固着させた負極材、アルミニウム箔からなる正極基板にニッケル酸リチウムやコバルト酸リチウム等の正極活物質を固着させた正極材、アルミニウムや銅からなる集電体、ポリプロピレンの多孔質フィルム等の樹脂フィルム製セパレータ、電解液、電解質等が封入されている。 【0044】 リチウムイオン電池におけるこれらの構成物質のうち、有価金属として回収の対象となる物質は、正極基板に固着させたニッケル酸リチウムやコバルト酸リチウム等の正極活物質である。 【0045】 そこで、浸出工程S11では、廃リチウムイオン電池に前処理を施すことによって、廃リチウムイオン電池に含有される正極活物質を濃縮及び分離する必要がある。廃リチウムイオン電池に施される前処理は、どのような方法でも構わないが、主に破砕や篩別といった物理的操作によって行われる。 【0046】 この前処理の一具体例としては、廃リチウムイオン電池を放電、還元焙焼、破砕、篩分離等の工程を経て処理する方法があり、その前処理方法によって、粉状の廃リチウムイオン電池の正極活物質、即ち有価金属含有物を得ることができる。そして、浸出工程S11では、得られた有価金属含有物を好適に使用することができる。 【0047】 ただし、有価金属含有物には、不純物として除去の対象となる物質である、電解質のヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF_(6))から持ち込まれるリンやフッ素のうち、分離されずに残留した一部のリンやフッ素、及びアルミニウム箔からなる正極基板から持ち込まれるアルミニウムが混入することになる。従って、有価金属回収方法では、後述する各工程により、有価金属含有物から不純物を分離除去する。 【0048】 浸出工程S11では、上述した通り、前処理によって、有価金属として回収の対象となる物質である正極活物質を濃縮及び分離し、有価金属含有物を得ることができ、得られた有価金属含有物が処理原料となる。 【0049】 有価金属含有物の化学組成は、廃リチウムイオン電池の正極活物質の化学組成やその前処理方法、前処理条件等によって大きな幅があるが、ニッケルが10?20重量%、コバルトが1?10重量%、リンが0.001?2重量%、フッ素が1?10重量%、アルミニウムが1?10重量%程度である。 【0050】 次に、浸出工程S11では、上述の有価金属含有物を酸性溶液で浸出することにより、浸出液と浸出残渣とを得る。 【0051】 有価金属含有物には熱が加えられているため、その含有物中の電解液成分である六フッ化リン酸リチウム(LiPF_(6))は、下記式(1)に示す通りフッ化物塩やリン酸塩に変化しており、一部は酸に不溶となって浸出残渣側へ分配される。一方、有価金属含有物に含まれる大部分のリンやフッ素は、浸出工程S11において浸出液側へ分配される。 【0052】 8LiNiO_(2)+LiPF_(6) → Li_(3)PO_(4)+6LiF+8Ni+6O_(2) ・・・(1) 【0053】 また、有価金属含有物中に含まれる有価金属のうち、例えばニッケルは、下記式(2)に従って溶解される。 【0054】 Ni+H_(2)SO_(4) → NiSO_(4)+H_(2) ・・・(2) 【0055】 浸出工程S11では、浸出時における有価金属含有物と酸性溶液とを含む反応溶液のpH値を、少なくとも2以下とすることが好ましく、反応性を考慮すると、0.5?1.5程度に制御することが更に好ましい。反応溶液のpH値が0.5未満では、後述する中和工程S12で用いる中和剤が増加する。一方、反応溶液のpH値が2を超えると、ニッケル、コバルト等の有価金属の浸出率が低下する。 【0056】 浸出工程S11では、有価金属含有物の溶解反応が進むにつれてpH値が上昇するので、反応中にも酸性溶液を補加して、反応溶液のpH値を0.5?1.5程度に保持することが好ましい。 【0057】 有価金属含有物の溶解に用いる酸性溶液としては、硫酸、硝酸、塩酸等の鉱酸(無機酸)の他、有機酸等の溶液も使用可能である。コスト面、作業環境面、及び浸出液から更にニッケルやコバルト等を回収することを考慮すると、これらの中では、工業的に硫酸溶液を使用することが好ましい。 【0058】 浸出工程S11において、実用的な満足できる反応速度を得るには、強酸下で80℃以上の液温に維持して浸出することが好ましい。 【0059】 以上で説明した通り、浸出工程S11では、廃リチウムイオン電池に前処理を施して得られた有価金属含有物と酸性溶液とを混合及び加温して溶解することにより、浸出液と浸出残渣とが得られる。得られた浸出液には、主に、有価金属であるニッケル及びコバルトと、不純物であるアルミニウム、リン及びフッ素とが含まれている。 【0060】 [2.中和工程] 中和工程S12では、図1に示すように、浸出工程S11で得られた浸出液を中和剤で中和して中和終液と中和澱物とが得られ、不純物の一部を中和澱物として除去する。 【0061】 浸出工程S11で得られた浸出液には、正極活物質に由来するニッケルやコバルト等、正極基板に由来する微量のアルミニウム等、及び電解質に由来する微量のリンやフッ素等が含有されている。 【0062】 中和工程S12では、浸出工程S11で得られた浸出液に中和剤を添加して得られた中和反応液のpH値を4.5?6.0に調整することにより、不純物であるアルミニウム等を沈澱物として分離回収することができる。 【0063】 浸出液中に含まれる不純物のうち、例えばアルミニウムは、下記式(3)に従って沈澱を生成する。 【0064】 Al_(2)(SO_(4))_(3)+6NaOH → 2Al(OH)_(3)+3Na_(2)SO_(4) ・・・(3) 【0065】 また、中和工程S12では、上記式(3)に従ってアルミニウムが水酸化アルミニウムとして沈澱する際に、浸出液中に含まれる不純物のうち、例えばリンやフッ素の一部が、下記式(4)に示すような共沈効果によって分離される。 【0066】 2Al_(2)(SO_(4))_(3)+6NaOH+Li_(3)PO_(4)+3LiF → 2Al(OH)_(3)+AlPO_(4)+AlF_(3)+3Na_(2)SO_(4)+3Li_(2)SO_(4) ・・・(4) 【0067】 中和剤としては、ソーダ灰や消石灰、水酸化ナトリウム等の一般的な薬剤を用いることができ、これらの薬剤は安価で取り扱いも容易である。 【0068】 中和反応液のpH値は、中和剤の添加により4.5?6.0に調整することが好ましい。中和反応液のpH値が4.5未満の場合には、アルミニウムの一部が中和反応液中に残留して、アルミニウムの沈澱率が低下する。一方、中和反応液のpH値が6.0より高い場合には、ニッケルやコバルトが同時に沈澱して、アルミニウムの沈澱物中に含有されるため好ましくない。 【0069】 以上で説明した通り、中和工程S12では、浸出工程S11で得られた浸出液を中和剤で中和することにより、中和終液と中和澱物とが得られる。得られた中和終液には、主に、有価金属であるニッケル及びコバルトと、不純物であるリン及びフッ素とが含まれている。また、中和澱物には、主に、アルミニウムが含まれている。これにより、中和工程S12では、不純物であるアルミニウム等を中和澱物として分離除去することができる。 【0070】 [3.溶媒抽出工程] 溶媒抽出工程S13では、図1に示すように、中和工程S12で得られた中和終液について、溶媒抽出処理を行うことにより、不純物を含んだ抽出残液と、有価金属を含んだ抽出後の有機溶媒(以下、「抽出後有機溶媒」と称する。)とを得る。 【0071】 ここで、溶媒抽出工程S13における溶媒抽出処理とは、中和終液に酸性抽出剤を接触させて、酸性抽出剤中(有機相側)に有価金属であるニッケル及びコバルトを抽出することである。これにより、溶媒抽出工程S13では、中和終液中の有価金属と不純物であるリン及びフッ素とを、確実且つ容易に分離することができる。なお、溶媒抽出工程S13では、リン及びフッ素は、そのまま中和終液中(水相側)に残留することになる。 【0072】 酸性抽出剤としては、例えば、2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシル、ジ(2-エチルヘキシル)ホスホン酸、ビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスホン酸、トリ-n-ブチルホスホン酸、2’-ヒドロキシ-5’-ノニルアセトフェノンオキシム、7-(4-エチル-1-メチルオキシル)-8-ヒドロキシキノリン、バーサチック酸等を用いることができる。 【0073】 酸性抽出剤の希釈剤としては、水に対する溶解度が低く良好な油水分離性が維持できる有機溶剤であれば特に拘らないが、例えばナフテン系有機溶剤であるテクリーン(登録商標)(JX日石日鉱エネルギー株式会社製)等を用いることができる。 【0074】 溶媒抽出工程S13では、有機溶媒の粘度を適切に維持するために、有機溶媒、即ち酸性抽出剤と希釈剤の混合物中の酸性抽出剤の濃度を10?40体積%とする。酸性抽出剤の濃度が40体積%を超過した場合には、抽出後の有機溶媒の粘度が上昇してしまい、溶媒抽出処理が適切に行われないので好ましくない。 【0075】 中和工程S12で得られた中和終液に含まれる有価金属のうち、例えばニッケルは、下記式(5)に従って有機溶媒中に抽出される。なお、下記式(5)中のRは、ホスホン酸、カルボン酸等の官能基も含めた有機化合物を、Hは、遊離水素を表す。 【0076】 2RH+Ni^(2+) → R_(2)Ni+2H^(+) ・・・(5) 【0077】 溶媒抽出工程S13では、上記式(5)で示した通り、酸性抽出剤は、ニッケルやコバルトの抽出によりプロトンを放出するので、水相のpH値を適切に維持するために、アルカリを添加して中和する必要がある。 【0078】 溶媒抽出工程S13では、アルカリとしては、水相のpH値を適切に維持することができれば特に拘らないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。特に、溶媒抽出工程S13では、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の水への溶解度が低いものよりも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液が好適に使用される。 【0079】 溶媒抽出工程S13では、抽出時の水相のpH値を5.0?6.5に維持する。水相のpH値が5.0未満の場合には、ニッケルの抽出が不十分になる。一方、水相のpH値が6.5を超える場合には、ニッケル及びコバルトが沈澱物を生成し、溶媒抽出反応を阻害するので好ましくない。 【0080】 溶媒抽出工程S13では、中和終液中のリンやフッ素は有機溶媒に抽出されずに、抽出残液に残留する。従って、溶媒抽出工程S13では、溶媒抽出処理によって、有価金属であるニッケルやコバルトと、不純物であるリンやフッ素を完全に分離することができる。そして、分離したリン及びフッ素を所定の方法で回収することにより、排水中の不純物の含有量を低減することができる。 【0081】 図1には示されていないが、溶媒抽出工程S13の後工程においては、溶媒抽出工程S13で得られた抽出残液に水酸化アルカリを添加して、抽出残液のpH値を9以上に調整することによって、抽出残液中にリン酸塩及びフッ化物塩の沈澱物が形成され、不純物の沈澱物を回収することができる。 【0082】 添加する水酸化アルカリとしては、抽出残液のpH値を9以上に調整することができれば特に拘らないが、例えば水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が好適に使用される。 【0083】 即ち、この工程において、抽出残液に水酸化カルシウムや水酸化マグネシウムを添加すれば、添加したカルシウムやマグネシウムによって、抽出残液中のリンやフッ素と安定した塩を形成させて、不純物を回収除去することができる。 【0084】 なお、この工程では、溶媒抽出、炭酸化等の方法により、抽出残液中のリチウムを回収した後、水酸化アルカリを添加してpH値を9以上に調整することによって、リン酸塩及びフッ化物塩の沈澱物を形成させても構わない。 【0085】 以上で説明した通り、溶媒抽出工程S13では、中和工程S12で得られた中和終液について、溶媒抽出処理を行うことにより、抽出残液と抽出後有機溶媒とが得られる。得られた抽出残液には、不純物であるリン及びフッ素が含まれている。また、抽出後有機溶媒には、有価金属であるニッケル及びコバルトが含まれている。これにより、溶媒抽出工程S13では、有価金属と不純物とを分離することができる。 【0086】 [4.逆抽出工程] 逆抽出工程S14では、図1に示すように、溶媒抽出工程S13で得られた抽出後有機溶媒を硫酸溶液で逆抽出することにより、有価金属を含んだ逆抽出液を得る。 【0087】 逆抽出工程S14における逆抽出反応は、上記式(5)で示した抽出反応の逆反応であり、溶媒抽出工程S13で得られた抽出後有機溶媒に含まれる有価金属のうち、例えばニッケルは、下記式(6)に従って有機相中から水相中へ放出される。 【0088】 R_(2)Ni+2H^(+) → 2RH+Ni^(2+) ・・・(6) 【0089】 逆抽出工程S14では、上記式(6)で示した通り、酸性抽出剤は、ニッケルやコバルトの逆抽出においてプロトンを消費するので、水相のpH値を適切に維持するために、pH値が1程度の硫酸溶液を添加することにより、水相のpH値を調整する必要がある。 【0090】 逆抽出工程S14では、逆抽出時の水相のpH値を0?4.0に調整する。水相のpH値が4.0を超える場合には、コバルトの逆抽出が不十分になる。一方、水相のpH値が0未満の場合には、硫酸溶液の使用量が増えると共に、ニッケル及びコバルトを含有する硫酸塩水溶液(逆抽出液)のpH値が下がり過ぎる。そうすると、例えば電池材料製造プロセスに供する場合には、得られた有価金属を含有する硫酸塩水溶液を中和する必要性が生じるので、コスト、作業効率、中和剤からの不純物の混入等の観点から鑑みれば好ましくない。 【0091】 逆抽出工程S14では、逆抽出反応により有価金属が水相中へ放出され、再生された酸性抽出剤を含む有機相(有機溶媒)を、溶媒抽出工程S13において繰返し使用することができる。 【0092】 以上で説明した通り、逆抽出工程S14では、溶媒抽出工程S13で得られた抽出後有機溶媒を硫酸溶液で逆抽出することにより、逆抽出液が得られる。得られた逆抽出液には、有価金属であるニッケル及びコバルトが含まれている。これにより、逆抽出工程S14では、有価金属を回収することができる。 【0093】 有価金属回収方法では、廃リチウムイオン電池から得られる有価金属含有物に、不純物として含まれるリンとフッ素のうち、不溶解性のものが浸出工程S11で浸出残渣として分離される。次いで、有価金属回収方法では、浸出されたリンとフッ素の大部分が、中和工程S12で中和澱物として沈澱分離され、中和終液に残留した微量のリンとフッ素が、溶媒抽出工程S13で溶媒抽出によって完全に有価金属であるニッケルやコバルトと分離される。 【0094】 溶媒抽出工程S13において、ジ(2-エチルヘキシル)ホスホン酸(D2EHPA)等の酸性抽出剤を使用した場合には、抽出時の水相のpH値を4以上に調整すると、ニッケルやコバルトは有機相側に移行し、リンやフッ素は水相側に残存するため、不純物の分離が可能となる。 【0095】 そして、逆抽出工程S14において、溶媒抽出工程S13で抽出された有機相(抽出後有機溶媒)中のニッケルやコバルトは硫酸溶液へ逆抽出されるため、リンやフッ素が分離された硫酸ニッケルと硫酸コバルトの混合水溶液(逆抽出液)を回収することが可能となる。 【0096】 また、溶媒抽出工程S13で得られた抽出残液に含まれるリンやフッ素は、消石灰等による中和等によって、カルシウム等と澱物を作った固体として回収処分することができる。 【0097】 以上のように、有価金属回収方法では、浸出工程S11及び中和工程S12における各反応溶液を所定のpH値の領域に調整し、且つ各工程を順次経て得られた中和終液を、溶媒抽出工程S13において酸性抽出剤による溶媒抽出処理を行い、有価金属であるニッケル及びコバルトを一旦有機相中に移行させた後、逆抽出工程S14において硫酸溶液で逆抽出することにより、有価金属と、不純物であるリンやフッ素とを、完全に分離することができる。 【0098】 その結果、有価金属回収方法では、有価金属であるニッケルやコバルトと不純物であるリンやフッ素とを完全に分離することができるので、回収したニッケルやコバルトを電池製造ラインにリサイクル投入することが可能である。また、有価金属回収方法では、分離したリンやフッ素を確実に回収することで、排水中の不純物負荷を上昇させないことが可能となる。 【実施例】 【0099】 以下に示す実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、この実施例によって何ら限定されるものではない。 【0100】 [実施例1] (有価金属含有物の準備) 実施例1では、廃リチウムイオン電池を200℃にて加熱処理したものを、破砕及び選別することにより得られた、廃リチウムイオン電池の有価金属含有物(以下、単に「有価金属含有物」と称する。)を原料として用いた。 【0101】 実施例1では、得られた有価金属含有物の化学組成を表1に示した。なお、実施例1では、フッ素の含有量についてはイオンメーター法により、フッ素以外の成分の含有量についてはICP発光分光分析法(ICP:Inductively Coupled Plasma)により、それぞれ測定を行った。また、実施例1では、以降の化学成分の分析結果は、全て同様の方法を適用して行った。 【0102】 【表1】 【0103】 (浸出工程) 実施例1では、表1に化学組成を示した有価金属含有物30gを、300mLの水に装入して撹拌し、ウォーターバスにて80℃に維持しながら、水溶液のpH値が1を維持するように64重量%の硫酸を断続的に添加した。 【0104】 実施例1では、有価金属含有物に含まれる金属ニッケル成分が浸出されることにより水素ガスが発生するため、有価金属含有物中に含まれる負極活物質から持込まれた炭素成分との相互作用で気泡が生じた。 【0105】 そこで、実施例1では、治具で掻き出す等の物理的な気泡の除去を行いながら、水溶液のpH値が10分間上昇しなくなった時点で浸出反応が終了したと見なし、浸出液と浸出残渣とから成る浸出スラリーを5Cのろ紙によってろ過し、浸出液と浸出残渣とを分離した。 【0106】 実施例1では、得られた浸出液の化学組成を表2に示した。 【0107】 【表2】 【0108】 (中和工程) 実施例1では、表2に化学組成を示した浸出液294mLに、水溶液のpH値が5.5となるように8mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加して、水溶液中に中和澱物を生成させた。 【0109】 実施例1では、中和澱物を含んだ水溶液、即ち中和終液と中和澱物とから成る中和スラリーを5Cのろ紙によってろ過し、中和終液と中和澱物とを分離した。 【0110】 中和工程で得られた中和終液の液量は294mLであり、その化学成分は、表3に示すものであった。 【0111】 【表3】 【0112】 中和工程で得られた中和澱物の乾燥後の重量は36gであり、その化学組成は、ニッケルが2.7重量%、リンが0.59重量%、フッ素が1.9重量%であった。 【0113】 また、浸出液から中和澱物への分配率は、リンが99%、フッ素が82%であり、中和処理だけでは、中和終液中に微量のリンとフッ素が残存することが確認された。 【0114】 (溶媒抽出工程) 実施例1では、pH値5.5の中和終液100mLを分液ロートに採取し、ジ(2-エチルヘキシル)ホスホン酸(D2EHPA)濃度が20体積%になるように、テクリーン(登録商標)(JX日石日鉱エネルギー株式会社製)で希釈した有機溶媒900mLを中和終液に加え、溶媒抽出操作を行った。 【0115】 溶媒抽出操作では、水相のpH値が5.5に維持されるように、8mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を断続的に添加した。 【0116】 実施例1では、溶媒抽出後の水相と有機相を十分に静置した後、水相(抽出残液)の化学成分分析を行ったところ、リン濃度は0.008g/L、フッ素濃度は0.5g/Lと変化がなく、リンとフッ素が有機相(抽出後有機溶媒)側に抽出されていないことが確認された。 【0117】 また、実施例1では、抽出残液のニッケル濃度は0.1g/L、コバルト濃度は0.01g/Lであり、ニッケルとコバルトのほぼ全量が有機溶媒に抽出されたことが確認された。 【0118】 (逆抽出工程) 実施例1では、次いで、ニッケル及びコバルトを含有する抽出後有機溶媒に、pH値が1の硫酸溶液100mLを添加し、逆抽出操作を行った。 【0119】 逆抽出操作では、水相のpH値が1に維持されるように、64重量%の硫酸を断続的に添加した。 【0120】 溶媒抽出操作では、逆抽出後の水相(逆抽出液)は、ニッケル濃度が9.8g/L、コバルト濃度が2.4g/Lであり、ニッケルとコバルトのほぼ全量を硫酸ニッケルと硫酸コバルトの混合水溶液として回収することができた。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 廃リチウムイオン電池から、湿式処理法によりニッケル及びコバルトを分離回収する廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法であって、 前記廃リチウムイオン電池より得られた有価金属含有物を、酸性溶液に混合して溶解した後に、浸出液と浸出残渣とに分離する浸出工程と、 前記浸出工程で得られた浸出液に中和剤を添加して、中和終液とアルミニウムを含有する中和澱物とに分離する中和工程と、 前記中和工程で得られた中和終液について、酸性抽出剤による溶媒抽出処理を行い、ニッケル及びコバルトを含有する抽出後の有機溶媒とリン及びフッ素を含有する抽出残液とを得る溶媒抽出工程と、 前記溶媒抽出工程で得られた抽出後の有機溶媒を、硫酸溶液で逆抽出することでニッケル及びコバルトを含有する逆抽出液を得る逆抽出工程とを含み、 前記酸性抽出剤は、ジ(2-エチルヘキシル)ホスホン酸であり、 前記溶媒抽出工程において、アルカリを添加して溶媒抽出時の水相のpH値を5.0?6.5に調整することを特徴とする廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法。 【請求項2】 前記中和工程において、前記中和剤を添加して前記浸出液のpH値を4.5?6.0に調整することを特徴とする請求項1に記載の廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 前記逆抽出工程において、硫酸溶液を添加して逆抽出時の水相のpH値を0?4.0に調整することを特徴とする請求項1又は2に記載の廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法。 【請求項5】 前記溶媒抽出工程で得られた抽出残液に、中和剤を添加して、リン及びフッ素を含有する沈澱物を生成させ、該リン及びフッ素を分離除去することを特徴とする請求項1、2、4の何れか1項に記載の廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-02-26 |
出願番号 | 特願2014-253694(P2014-253694) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C22B)
P 1 651・ 537- YAA (C22B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 祢屋 健太郎 |
特許庁審判長 |
中澤 登 |
特許庁審判官 |
▲辻▼ 弘輔 土屋 知久 |
登録日 | 2018-04-06 |
登録番号 | 特許第6314814号(P6314814) |
権利者 | 住友金属鉱山株式会社 |
発明の名称 | 廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法 |
代理人 | 小池 晃 |
代理人 | 小池 晃 |
代理人 | 北原 明彦 |
代理人 | 河野 貴明 |
代理人 | 河野 貴明 |
代理人 | 伊賀 誠司 |
代理人 | 村上 浩之 |
代理人 | 村上 浩之 |
代理人 | 伊賀 誠司 |
代理人 | 北原 明彦 |