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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D02G
管理番号 1350670
異議申立番号 異議2018-701030  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-20 
確定日 2019-03-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第6345904号発明「ナイロン混繊交絡糸、織編物、ナイロン混繊交絡糸の製造方法、及び積層生地」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6345904号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6345904号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成29年11月13日(パリ条約による優先権主張 平成28年11月15日(以下「本件優先日」という。) 日本国特許庁受理)に国際特許出願され、平成30年6月1日にその特許権の設定登録がされ、同月20日に特許掲載公報の発行がされ、その後、その特許に対し、同年12月20日に特許異議申立人 特許業務法人虎ノ門知的財産事務所(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6345904号の請求項1?7の特許に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明7」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(なお、本件発明1について、分説のためa?jを付した。)
「【請求項1】
a 単糸繊度が0.55?2.0dtexのナイロン繊維Aと、単糸繊度が0.3?1.0dtexのナイロン繊維Bとから構成される混繊交絡糸であって、
b 前記ナイロン繊維Bは捲縮糸であり、
c 前記ナイロン繊維Bの単糸繊度が前記ナイロン繊維Aの単糸繊度よりも細く、
d 前記ナイロン繊維Aと前記ナイロン繊維Bとの単糸繊度差が0.25?1.0dtexであり、
e 前記混繊交絡糸は、総繊度が50?100dtexであり、
f 捲縮率が15?30%であり、
g 前記混繊交絡糸における前記ナイロン繊維Aと前記ナイロン繊維Bとの質量比率(ナイロン繊維A/ナイロン繊維B)が30/70?50/50であり、
h 前記混繊交絡糸における交絡数が90?150個/mであり、且つ
i 前記ナイロン混繊交絡糸の表面部分において、ナイロン繊維Bによる突出部が形成されていることを特徴とする、
j 混繊交絡糸。
【請求項2】
請求項1に記載の混繊交絡糸を製造する方法であって、
ナイロン高配向未延伸糸Bに対し、加工速度300?600m/分、仮撚温度150?220℃、延伸倍率が1.1?1.3倍の条件で延伸仮撚加工を施して、沸騰水収縮率1?5%且つ捲縮率が40?65%の仮撚加工糸を得る延伸仮撚加工工程、及び
前記延伸仮撚加工工程で得られた仮撚加工糸と、単糸繊度が0.7?1.5dtex且つ沸騰水収縮率が6?15%のナイロン延伸糸Aとを混繊交絡させる混繊交絡工程、を含む、製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の混繊交絡糸が織編されている、織編物。
【請求項4】
KES-Fシステムによる織編物表面粗さの平均偏差(SMD)が1.5?6.5μmの範囲である、請求項3に記載の織編物。
【請求項5】
撥水加工されてなる、請求項3又は4に記載の織編物。
【請求項6】
カバーファクター(CF)が1500?3000であり、水滴転がり角度が40度以下である、請求項3?5のいずれかに記載の織編物。
【請求項7】
請求項3?6のいずれかに記載の織編物の片面に透湿防水層を有する、積層生地。」

第3 申立理由の概要
1 証拠の一覧
(以下、申立人の提出した甲第1号証を「甲1」などという。)
甲1:特開2009-108453号公報
甲2:特開2002-360830号公報
甲3:特開2015-98661号公報
甲4:国際公開第2014/185453号
2 申立理由について
(1)本件発明1について
申立人は、証拠として上記甲1?3を提出し、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて、若しくは、甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であり、本件発明1に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきと主張する。
(2)本件発明2?4、6について
申立人は、上記(1)と同様に、本件発明2?4、6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきと主張する。
(3)本件発明5、7について
申立人は、本件発明5、7に係る特許は、甲1に記載された発明並びに甲3及び甲4に記載された事項に基いて、若しくは、甲2に記載された発明並びに甲3及び甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得た発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であり、本件発明5、7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきと主張する。

第4 引用刊行物の記載
1 甲1について
甲1には、次の記載がある。
(1)「【請求項1】
繊度が70デシテックス以下であり、ループ長0.1mm以上0.5mm未満のループ数が100個/m以上であり、実質的に連続交絡を施した芯鞘2層構造であり、かつ鞘糸の繊度が芯糸の繊度以上である複合ループヤーンが経糸と緯糸のいずれか一方かあるいは双方に用いられ、目付けが70g/m^(2)以下であることを特徴とするスパンライク織物。」
(2)【背景技術】、
ア「【0002】従来、薄地のスパン織物は、綿等の細番手を経あるいは緯に使用して製織し、染仕上げ加工したものが実用化されているが、かかる薄地スパン織物は、製織難易度が高く、しかも綿の細番手という高級糸を使用するため高価なものとなり、一般衣料としては普及しにくいという点があった。」
イ「【0003】
一方、スパンライクな外観を有する合繊フィラメント糸としては、マルチフィラメント糸条に流体噴射処理をしたループヤーン、いわゆるタスラン糸が広く知られており、その加工方法はタスラン加工として、また、それを使用した織物はタスラン織物として広く用いられている。
【0004】
タスラン加工では、ループの粗大化による糸解除の不良やネップの発生およびネップの形態堅牢性の低下などの問題が一般にあり、これに対処するために流体噴射処理時に糸条への湿潤処理を施すことがその有効な解決手段とされている。
【0005】
しかし、この湿潤処理を施す場合には、糸条に付着された油剤が脱落しやすく、同時にオリゴマーやポリマー屑等も脱落することになる。そして、これらの脱落物が、液体噴射処理を行うノズルの糸条通路内やその出入口に付着して噴射流体の流れを阻害したり、糸条走行の際の抵抗となって、糸条に形成されるループや交絡の形成効果を低下させるなどの不都合を有している。」
ウ「【0007】
その結果、細繊度のループヤーンを使用したスパンライクな薄地軽量織物の製造も実用化されていない。特に、ダウンジャケットや婦人衣料外衣などの用途では薄地軽量化のユーザーニーズが高く、近年、活発に検討が進められているが、上述の理由からスパンライクな薄地軽量織物は市場展開できていない状況である。」
(3)「段落【0016】
本発明の織物に使用するループヤーンの繊度は70デシテックス以下とすることが必要である。繊度が70デシテックス以下のループヤーンを使用することによって、織物の目付けを70g/m^(2)以下にすることが容易になる。また、ループヤーンの繊度が70デシテックスを超えると、従来のタスラン加工でも湿潤処理による糸切れの発生も大きな問題とならずに類似のループヤーンを製造することができ、該ループヤーンを使用した織物は従来の中厚地スパンライク織物と何ら変わりはなく、目付けが大きくなり、ソフトな風合いも得られず薄地織物としての特徴を得ることができないものであり、本発明の目的にはそぐわない。」
(4)「【0018】
そして、本発明の織物に使用するループヤーンはループ長0.1mm以上で0.5mm未満のループ数が100個/m以上であることが肝要であり、さらに300個/m以上であることが好ましく、更に好ましくは500個/m以上である。
【0019】
ここで、本発明における「ループ」とは、糸(織物)表面から糸が飛び出し、たるんでいるだけのもの(いわゆる開放型)や、糸(織物)表面から糸が飛び出し、輪を形成しているもの(いわゆる閉鎖型)あるいは輪を複数回形成している形態等のいずれもが含まれる。」
(5)「【0035】
通常の仮撚り加工においては、仮撚り数T(t/m)=31623/√糸繊度(デシテックス)を標準とした撚り数が適正とされており、いわゆる捲縮加工糸を得ることができる。捲縮については仮撚り数が大きくなるほど細かく強い捲縮となり、捲縮加工糸に要求されるストレッチ性を得ることができる。ところが、仮撚り糸のトルクについては、仮撚り数が少ないうちはその値が増加するほど大きくなるが、通常の仮撚り数の約60%、つまりT=19000/√糸繊度(D)(デシテックス)前後で最も大きなトルクを示し、仮撚り数をそれ以上大きくするとトルクは減少していく。そのため、本発明で使用するループヤーンを得るためには、鞘糸に仮撚り数T=19000/√糸繊度(D)(デシテックス)前後、具体的には、12000≦T×√D≦25000で仮撚り加工を付与すること、つまり捩り変形を施した後、交絡ノズルに供することが好ましい。」
(6)「【0038】
通常、芯糸の繊度に対して鞘糸の繊度が大きいと、特に連続交絡を施すことは困難である。しかし、上述の方法、鞘糸に捩り変形を付与した後、交絡ノズルに供することにより、芯糸及び鞘糸の繊度に拘わらず、強固な連続交絡を施すことが可能となる。
【0039】
本発明の複合ループヤーンの製造方法としては、鞘糸と芯糸とを、それぞれ別々のフィードローラから異なった速度で供給し、タスランノズルに導入する直前の段階で両糸を合体し(揃え)、そのまま、合体された状態でタスランノズル内でタスラン加工に供されるようにすることが肝要である。そして、特に、鞘糸と芯糸とを別々のフィードローラから異なった速度で供給する際、鞘糸と芯糸とのオーバーフィード率差を10%以上40%以下とし、かつ、鞘糸を、仮撚ツイスターと仮撚ヒータを有する仮撚り加工装置に導入し、加撚状態で加熱されるようにして該鞘糸に捩り変形を付与した後、液流噴射ノズルに供することが好ましい。仮撚ヒータの温度は、100℃?200℃程度の範囲内、すなわち、通常の仮撚捲縮加工(ウーリィ加工)の一般的な温度範囲(180℃?200℃)よりは、やや低めの低い温度を含め設定するのがよい。」
(7)「【0052】
実施例1
芯糸としてナイロン6マルチフィラメント糸の13dtex-10フィラメント(F)、鞘糸としてナイロン6マルチフィラメント糸の33dtex-26Fを使用し、鞘糸に捩り変形を施した後、捩り変形を施さない芯糸と交絡複合化し、複合ループヤーンとした。その際、鞘糸の仮撚り温度は120℃、仮撚り数は3400t/mとし、芯糸のオーバーフィード率を3%、鞘糸のオーバーフィード率を33%と設定した。得られたループヤーンは、トータル繊度が60dtex、ループ長0.5mm以下のループ数が402個/m、ループ長0.5mmより長いループ数が21個/mであった。更に経糸にナイロン66マルチフィラメント糸の33dtex-26F、緯糸に該複合ループヤーンの60dtex-36Fを使用してエアジェットルームで平織りに製織した。ループヤーンの緯糸解舒性も問題なく製織した。更に該生機に通常のナイロン精練、染色加工を施すことにより経糸密度168本/inch、緯糸密度125本/inchの織物を得た。該織物は目付が56.9g/m^(2)であり、通気度が1.7cc/cm^(2)・s、伸長率が13%で、軽量で柔らかく、緯糸のループが十分織物表面に出て外観、風合いともスパン感が発現したナイロン織物となった。」
(8)「【0055】
実施例4
芯糸としてナイロン6マルチフィラメント糸の8dtex-5F、鞘糸としてナイロン6マルチフィラメント糸の11dtex-16Fを使用し、鞘糸の仮撚り数を6000t/mとする以外は実施例1と同様に交絡複合化することにより複合ループヤーン23dtex-21Fを得た。得られたループヤーンは、トータル繊度が23dtex、ループ長0.5mm以下のループ数が247個/m、ループ長が0.5mmより長いループ数が7個/mであった。更に経糸にナイロン6マルチフィラメント糸の17dtex-7Fを使用し、緯糸に該ループヤーンを使用すること以外は実施例2と同様に製織、染色加工およびコーティング加工し、経糸密度210本/inch、緯糸密度180本/inchの織物を得た。」
(9)「【0061】
以上の各実施例、比較例における糸使い、織物仕様、評価結果などを表1、表2にまとめて示した。」
(10)段落【0062】表1



(11)段落【0063】表2



2 甲2について
甲2には、次の記載がある。
(1)【特許請求の範囲】
ア 【請求項1】
「ナイロンマルチフィラメント仮撚捲縮糸とナイロンマルチフィラメント非捲縮糸からなる実質的にループ、たるみのない混繊糸であって、前記非捲縮糸と仮撚捲縮糸との染色L値の差が1.0以下であり、かつ、前記混繊糸は熱処理することにより、主として非捲縮糸が芯部に、仮撚捲縮糸が鞘部に位置するようになることを特徴とするナイロン複合混繊糸。」
イ 【請求項2】
「ナイロンマルチフィラメント仮撚捲縮糸の単糸繊度がナイロンマルチフィラメント非捲縮糸の単糸繊度より大きい請求項1記載のナイロン複合混繊糸。」
ウ 【請求項4】
「単糸繊度の大なるナイロンマルチフィラメント糸Aに仮撚捲縮加工を施した後、単糸繊度の小なるナイロンマルチフィラメント非捲縮糸Bと混繊させるに際し、前記ナイロンマルチフィラメント糸Aの供給率をナイロンマルチフィラメント非捲縮糸Bよりも大きくし、かつ実質的にループ、たるみを発生させることなく混繊させることを特徴とするナイロン複合混繊糸の製造方法。」
(2)「【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のナイロン複合混繊糸は、ナイロンマルチフィラメント仮撚捲縮糸とナイロンマルチフィラメント非捲縮糸とで構成されている。一方が仮撚捲縮糸、他方が非捲縮糸であることにより、仮撚捲縮糸単独、あるいは仮撚捲縮糸同士の複合糸に比べて糸条形態が安定するため、製編織工程等での張力変動や織編物での形態保持性が向上すると同時に、非捲縮糸と仮撚捲縮糸との形態差による微細な空間が多数形成されるため、織編物にソフトタッチとボリューム感、伸縮性を付与することができる。
【0009】
また、本発明の複合混繊糸は、実質的にループ、たるみを有しない糸条である。ここで言う実質的にループ、たるみのないとは、複合混繊糸表面にループ、たるみがほとんど存在しない状態を指すものであり、繊維軸方向に少量のループ、たるみが存在していてもよい。具体的には、高さ0.3mm以上の毛羽指数が15個/m以下であることが好ましく、10個/m以下が特に好ましい。このように実質的にループ、たるみがないことにより、工程通過性に優れるとともに、革新織機の経糸として高密度設計のテキスタイル化が可能となる。実質的にループ、たるみが存在する場合、毛羽が解舒性の低下を引き起こすとともに、高密度織物の経糸として使用すると、筬のしごきによるネップの発生や糸切れなどの問題を生じる。」
(3)「【0010】
さらに、本発明の複合混繊糸は、非捲縮糸と仮撚捲縮糸との染色L値の差が1.0以下であることが必要であり、0.5以下であることがより好ましい。非捲縮糸と捲縮糸との染色L値の差を1.0以下にすることで、染色後の織編物表面がいわゆるイラツキのないものとなり、高質感の風合いや外観を付与することができる。非捲縮糸と捲縮糸との染色L値の差が1.0を超えると、織編物を染色した際に、非捲縮糸と捲縮糸の染色性の差からいわゆるイラツキが発生し、本発明の目的である高質感の表現を阻害する。
【0011】
染色L値の差を1.0以下とするためには、非捲縮糸として単糸繊度の小さい糸条を、仮撚捲縮糸として単糸繊度の大きい延伸仮撚糸を用いることが好ましい。各々の単糸繊度の組合せは、仮撚捲縮糸と非捲縮糸の断面形状、染料吸尽特性等により変化するため特に限定されるものではないが、一般的には仮撚捲縮糸の単糸繊度は0.3?5デシテックス、非捲縮糸の単糸繊度は0.1?2デシテックスで、仮撚捲縮糸と非捲縮糸の単糸繊度の比が1.1?3となる組み合わせが好ましく、染色L値の差が1.0以下となるよに適宜選択すればよい。このように仮撚捲縮糸の単糸繊度が大きい場合、フィラメントにコシがあるため、熱処理により織編物の表面が前記仮撚捲縮糸で覆われた際にへたりがなく、コシのあるスパン調風合いの表現が可能となる。」
(4)「【0013】
なお、前述したように、ナイロン複合混繊糸が熱処理を受けると、非捲縮糸が芯部に、仮撚捲縮糸が鞘部に位置するようにするためには、非捲縮糸の熱収縮率が仮撚捲縮糸より1%以上、好ましくは5%以上大きい組み合わせの糸条を採用すればよい。」
(5)「【0018】
糸条Aと糸条Bとを混繊させる流体処理ノズルとしては、インターレースタイプ、タスランタイプ等いずれを用いてもよいが、実質的にループ、たるみが発現しないように加工条件を適宜選択する必要がある。
また、交絡数は特に限定されるものではないが、製織性等の面から50?150個/m、特に70?120個/mが好ましい。」
(6)「【0020】
次に、本発明のナイロン複合混繊糸の製造方法を図面を用いて説明する。
図1は、本発明のナイロン複合混繊糸の製造方法の一実施態様をを示す概略工程図である。図1において、供給糸1は、スプール2から引き出され、ガイド3を通り、フィードローラ4、デリベリローラ7の間でヒータ5、施撚装置6により延伸仮撚加工が施され、仮撚捲縮を有する仮撚捲縮糸となる。
【0021】
一方、供給糸11は、スプール12から引き出され、ガイド13を通り、フィードローラー14から流体処理ノズル8に非捲縮糸として供給される。その後、仮撚捲縮糸と非捲縮糸は、ローラ9との間で流体処理ノズル8により混繊されて本発明のナイロン複合混繊糸となり、パッケージ10に巻き取られる。
【0022】
【作用】
本発明のナイロン複合混繊糸は、突出したループ、たるみがほとんど存在しない糸条形態を有しており、革新織機で高密度設計のテキスタイル化が可能である。また、仮撚捲縮糸の単糸繊度が非捲縮糸の単糸繊度よりも大きいので、製編織後の染色加工工程においても、仮撚捲縮のへたりがないとともに、仮撚捲縮糸と非捲縮糸の染色L値の差を1.0以下とすることができるためイラツキの発生がなく、高級感のある織編物を得ることができる。」
(7)実施例1
ア 段落【0024】
「実施例1
供給糸1として、酸化チタンを0.28質量%含有する44dtex24f(単糸繊度1.83dtex)のナイロン6高配向未延伸糸、供給糸11として、酸化チタンを0.28質量%含有する44dtex48f(単糸繊度0.92dtex)のナイロン6高配向未延伸糸を用いて、図1に示す工程に従い、表1に示す条件にて加工を行って、本発明のナイロン複合混繊糸を得た。なお、仮撚捲縮糸の単糸繊度は1.53dtexであった。
得られたナイロン複合混繊糸は、突出したループ、たるみがほとんどなく、安定した糸条形態を有していた。」
イ 段落【0025】
「この複合混繊糸を用いて、ウォータージェットルームで経糸密度132本/2.54cm、緯糸密度86本/2.54cmで平織物を製織し、常法により精錬、染色(染料:kayanol blue N2G 2%owf)、仕上げ加工を行ったところ、糸の解舒性、製織性等、全く問題はなかった。
また、染色後の織物は、多数の細かい捲縮の発現により、ソフトでボリュームのあるタッチとともに、イラツキがなく、ギラツキのない落ち着きのあるマイルドな表面感を持つ、非常に高質感のあるものであった。」
(8)比較例1
ア 段落【0028】
「比較例1
供給糸1として、酸化チタンを1.7質量%含有する44dtex48f(単糸繊度0.92dtex)のナイロン6高配向未延伸糸、供給糸11として、酸化チタンを1.7質量%含有する44dtex24f(単糸繊度1.83dtex)のナイロン6高配向未延伸糸を用いて、図1に示す工程に従い、表1に示す条件にて加工を行って、比較用のナイロン複合混繊糸を得た。なお、仮撚捲縮糸の単糸繊度は0.78dtexであった。」
イ 段落【0029】
「得られたナイロン複合混繊糸は、突出したループ、たるみがほとんどなかったが、この複合混繊糸を用いて、実施例1と同様に製織、染色、仕上げ加工を行ったところ、仮撚捲縮糸と非捲縮糸の色差によるイラツキが発生し、高質感に欠けるものであった。」
(9)段落【0032】、【表1】



(10)図1について
ア 【図面の簡単な説明】
「【図1】
本発明のナイロン複合混繊糸の製造方法の一実施態様を示す概略工程図である。」
イ 図1



3 甲3について
甲3には、次の記載がある。
(1)特許請求の範囲
ア 【請求項1】
「単糸繊度が0.2?0.9dtexのポリエステル繊維Aと、単糸繊度が1.0?5.0dtexのポリエステル繊維Bとから構成される混繊交絡糸であって、
前記混繊交絡糸は、全体として仮撚捲縮を有し、かつ、前記ポリエステル繊維Aと前記ポリエステル繊維Bとの質量比率(A/B)が20/80?80/20の範囲にあり、
前記混繊交絡糸の表面部分において、ポリエステル繊維Aによる突出部が形成されている、混繊交絡糸。」
イ 【請求項2】
「捲縮率が10?45%の範囲にあり、交絡数が90?150個/mの範囲にある、請求項1に記載の混繊交絡糸。」
ウ 【請求項6】
「請求項1?4のいずれかに記載の混繊交絡糸が織編された織編物であって、
KES-Fシステムによる織編物表面粗さの平均偏差(SMD)が3.0?8.0μmの範囲にあり、かつ、撥水加工されてなる、織編物。」
エ 【請求項7】
「カバーファクター(CF)が1500?3000の範囲にあり、かつ、水滴転がり角度が15度以下である、請求項6に記載の織編物。」
(2)【発明の効果】、【0014】
「本発明によれば、織編物の構造を特段工夫せずとも、従来公知の安価なフッ素系撥水剤などを使用することにより、織編物に高い撥水性能を付与できる混繊交絡糸を提供することができる。すなわち、本発明の混繊交絡糸においては、混繊交絡糸の表面部分において、混繊交絡糸を構成する繊維の細い繊維が突出している。この細い繊維の突出部に水滴が接触すると、水の表面張力が十分に発揮される。このため、当該混繊交絡糸を織編物に用いた場合、当該織編物に優れた撥水特性(具体的には、水滴をのせた織編物に角度を付けると水滴がころがり落ちるロータス効果)を付与することができる。したがって、当該混繊交絡糸を用いた本発明の織編物は、織編物の構造を特段工夫せずとも、従来公知の安価なフッ素系撥水剤などを使用することにより、高い撥水性能を発揮する。さらに、本発明によれば、このように優れた高い撥水性能を発揮する当該混繊交絡糸及び当該織編物の製造方法を提供することができる。」
(3)「【0021】
本発明の混繊交絡糸は、全体として仮撚捲縮を有する。本発明の混繊交絡糸において、仮撚捲縮の度合い、すなわち捲縮率としては好ましくは10?45%程度、より好ましくは20?40%程度が挙げられる。混繊交絡糸が適度な捲縮率を有していることにより、混繊交絡糸の表面部分に上記のような微細な突出部を形成し易くなる。なお、混繊交絡糸の捲縮率が10%未満となる場合、捲縮率が低いため、混繊交絡糸の表面部分に上記のような突出部を形成することが難しく、織編物としたときに撥水性能を十分に発揮できなくなる。また、混繊交絡糸の捲縮率が45%を超えると、混繊交絡糸のストレッチ性能が強過ぎるため、高撥水性の織編物には適さない。すなわち、混繊交絡糸が伸びたときに平坦な構造となるため、上記のような突出部が維持されにくくなり、撥水性能が低下する。」
(4)「【0024】
本発明の混繊交絡糸においては、糸全体として混繊交絡されている。混繊交絡糸の交絡数としては、好ましくは90?150個/m程度が挙げられる。交絡数が90個/m未満である場合、交絡状態が解け易くなり、混繊交絡糸の表面部分において上記のような微細な突出部を形成することが難しくなる場合がある。また、交絡状態が解け易くなると、織編物の製造工程において必然的に受けるガイド摩耗によって、糸条内部にズレが発生し、織編物の欠点を誘発しやすくなる場合がある。一方、交絡数が150個/mを超えると、ポリエステル繊維Aとポリエステル繊維Bとが絡まり過ぎて、捲縮が消失し、上記の突出部も形成されにくくなるため、織編物に高い撥水性能を付与し難くなる。なお、本発明において、混繊交絡糸の交絡数は、JIS L1013 8.15フック法に基づいて測定して得られた値である。」
(5)「【0035】
本発明の製造方法においては、まず、ポリエステル高配向未延伸糸A及びポリエステル高配向未延伸糸Bを準備する。本発明の製造方法の各工程を経ることにより、ポリエステル高配向未延伸糸Aが、本発明の混繊交絡を構成する上記のポリエステル繊維Aとなり、ポリエステル高配向未延伸糸Bが、本発明の混繊交絡を構成する上記のポリエステル繊維Bとなる。
【0036】
ここで、ポリエステル高配向未延伸糸とは、ポリエステルポリマーを2000?4000m/分程度の速度で紡糸して巻き取られたマルチフィラメント糸をいう。ポリエステルポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等を単独で用いたり、複数併用することができる。また、ポリエステルポリマーは、共重合ポリエステルであってもよい。共重合成分としては、イソフタル酸、5-アルカリイソフタル酸、3,3’-ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、セバシン酸、コハク酸などの脂肪族ジカルボン酸;ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロへキサンジオールなどの脂肪族または脂環式ジオール;P-ヒドロキシ安息香酸などの共重合成分が挙げられる。ポリエステルポリマーは、必要に応じて、艶消し剤、安定剤、難燃剤、着色剤等の改質剤を含んでいてもよい。ポリエステル高配向未延伸糸は、複数の高配向未延伸繊維が束になって構成されており、例えば、繊維断面を同心芯鞘型とする場合には、芯部、鞘部それぞれに配されるポリマーの相溶性を考慮して、両者のポリエステルポリマーを同一のものとするのが好ましい。」
(6)「【0060】
本発明の織編物の表面部分に形成された突出部が、どの程度微細であるかを知るには、KES-Fシステムによる織編物表面粗さの平均偏差(SMD)を測定することにより評価できる。本発明の織編物においては、当該KES-Fシステムによる織物表面粗さの平均偏差(SMD)が、3.0?8.0μmの範囲にあることが好ましい。当該平均偏差(SMD)が3.0μm未満の場合、突出部が微細になり過ぎ、むしろ平坦な形状に近くなる。そうすると、水滴と織編物の表面との接触面積が大きくなり、水滴に十分な表面張力が作用し難くなる。その結果、織編物において、高い撥水性能が発揮され難い。一方、当該平均偏差(SMD)が8.0μmを超えると、突出部が大きくなり過ぎ、突出部の間に落ち易くなる。その結果、水滴が織編物の内部に移行し易くなり、所望の撥水性能が発揮されにくくなる。本発明の織編物においては、当該織編物中に本発明の混繊交絡糸を50質量%以上含ませることにより、平均偏差(SMD)を所定範囲に設定することができる。」
(7)「【0068】
本発明の織編物は、優れた撥水性能を有するものであるが、具体的には、水滴転がり角度が15度以下であることが好ましい。水滴転がり角度とは、ロータス効果のような撥水性能の優劣を評価する指標であり、本発明における優れた撥水性能とは、高いロータス効果を有することと同義である。水滴転がり角度とは、水平版上に取り付けた水平状の試料(織編物)に、0.2mLの水を静かに滴下し、その後水平版を静かに傾斜させ、水滴が転がり始めるときの角度をいう。水滴転がり角度が15度を超える場合は、実際に織編物を縫製し、製品としたとき、雨水等による水滴を、その水滴形状を崩さずに振り払うことが困難となることがある。例えば、本発明の織編物中に上記の混繊交絡糸を50質量%以上含有させ、かつ、カバーファクター(CF)を上記範囲に設定することにより、水滴転がり角度を15度以下に容易に設定することができる。」

第5 判断
1 本件発明1に対して
(1) 甲1に記載された発明を主引用例とする場合の検討
ア 甲1発明について
前記第4、1(8)に摘記した甲1の実施例4及び関連する記載から、次の発明(以下「甲1発明」という。)が認定できる。
「a’ 単糸繊度が1.6dtex(=8dtex-5F)のナイロン繊維A(芯糸)と、単糸繊度が0.69dtex(=11dtex-16F)のナイロン繊維B(鞘糸)とから構成される混繊交絡糸であって、
b 前記ナイロン繊維Bは捲縮糸であり、
c 前記ナイロン繊維Bの単糸繊度が前記ナイロン繊維Aの単糸繊度よりも細く、
d’ 前記ナイロン繊維Aと前記ナイロン繊維Bとの単糸繊度差が0.91dtexであり、
e’ 前記混繊交絡糸は、トータル繊度が23dtexであり、
g’ 前記混繊交絡糸における前記ナイロン繊維Aと前記ナイロン繊維Bとの質量比率(ナイロン繊維A/ナイロン繊維B)が、42/58(=8dtex/11dtex)であって、
i’ 前記ナイロン混繊交絡糸の表面部分において、ナイロン繊維Bによるループが形成されていることを特徴とする
j 混繊交絡糸。」
イ 甲1発明との一致点
(ア)前記アのa’における単糸繊度は、ナイロン繊維A及びナイロン繊維Bのいずれも、前記第2の本件発明1の構成aに規定された数値範囲内である。
(イ)前記アのd’における単糸繊度差は、前記第2の本件発明1の構成dに規定された数値範囲内である。
(ウ)前記アのe’におけるトータル繊度(総繊度)は、前記第2の本件発明1の構成eに規定された数値範囲外である。
(エ)前記アのg’における質量比率である42/58は、前記第2の本件発明1の構成gに規定された数値範囲内である。
(オ)前記アのi’における「ナイロン繊維Bによるループ」は、前記第4、1(4)に摘記したように、糸表面から糸が飛び出しているものであるから、前記第2の本件発明1の構成iにおける「ナイロン繊維Bによる突出部」と相違がない。
(カ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、本件発明1の構成a?d、g?i、jの点、すなわち次の構成で一致する。
(キ)一致点
「a 単糸繊度が0.55?2.0dtexのナイロン繊維Aと、単糸繊度が0.3?1.0dtexのナイロン繊維Bとから構成される混繊交絡糸であって、
b 前記ナイロン繊維Bは捲縮糸であり、
c 前記ナイロン繊維Bの単糸繊度が前記ナイロン繊維Aの単糸繊度よりも細く、
d 前記ナイロン繊維Aと前記ナイロン繊維Bとの単糸繊度差が0.25?1.0dtexであり、
g 前記混繊交絡糸における前記ナイロン繊維Aと前記ナイロン繊維Bとの質量比率(ナイロン繊維A/ナイロン繊維B)が30/70?50/50であり、
且つ
i 前記ナイロン混繊交絡糸の表面部分において、ナイロン繊維Bによる突出部が形成されていることを特徴とする、
j 混繊交絡糸。」
ウ 甲1発明との相違点
本件発明1は、甲1発明と次の点で相違する。
(ア)相違点1-1
本件発明1においては、混繊交絡糸の捲縮率が15?30%であるのに対し、甲1発明においては、混繊交絡糸の捲縮率が明らかでない点。
(イ)相違点1-2
本件発明1においては、混繊交絡糸の交絡数が90?150個/mであるのに対し、甲1発明においては、混繊交絡糸の交絡数が明らかでない点。
(ウ)相違点1-3
a 本件発明1においては、混繊交絡糸の総繊度が50?100dtexであるのに対し、甲1発明においては、混繊交絡糸のトータル繊度が23dtexである点。
b なお、本件発明1の繊度は、本件特許明細書の段落【0113】、【0114】で説明されている正量繊度であるのに対して、甲1発明における繊度は、前記第4、1(10)に記載のように、見かけ繊度、すなわち、含まれる水分も含めた繊度である。そして、甲1発明の見かけ繊度から正量繊度を推定すると23dtexよりも小さな値になるから、50dtexとの数値の相違は大きくなることになり、甲1発明を正量繊度に換算しても相違点1-3が一致点となるわけでない。
エ 相違点1-1についての検討
(ア)本件明細書の記載
上記相違点1-1に関連して、本件明細書には、次の記載がある。
段落【0030】
「本発明の混繊交絡糸は、前記ナイロン繊維A及びナイロン繊維Bを構成糸として含むことにより、全体として適度な捲縮性を有する。本発明の混繊交絡糸の捲縮率については、特に制限されないが、例えば、15?30%、好ましくは20?26%が挙げられる。混繊交絡糸が適度な捲縮率を有していることにより、混繊交絡糸の表面部分に上記のような微細な突出部を形成し易くなる。さらに、織編物とした場合に適度なストレッチ感を付与することができ、快適性又は着心地に優れる織編物とすることができる。なお、混繊交絡の捲縮率が15%未満となる場合、捲縮率が低いため、混繊交絡糸の表面部分に上記のような突出部を形成することが難しくなる傾向が現れることがあり、織編物としたときに撥水性を十分に発現し難くなったり、ストレッチ性が不足したりする傾向が現れることがある。また、混繊交絡糸の捲縮率が30%を超えると、混繊交絡糸のストレッチ性が強過ぎる傾向が現れることがあり、高撥水性の織編物には適さないことがある。即ち、混繊交絡糸の捲縮率が30%を超えると、混繊交絡糸が伸びたときに平坦な構造となるため、上記のような突出部が維持されにくくなり、撥水性が低下することがあり、更にストレッチ性が強くなり過ぎて、かえって快適性に劣ることがある。適度なストレッチ感をよりいっそう発現させるために、本発明の混繊交絡糸は、無撚状態で織編物とされることが好ましい。」
(イ)検討
a 甲3には、前記第4、3(1)イに摘記した「捲縮率が10?45%の範囲にあり、交絡数が90?150個/mの範囲」との記載、前記第4、3(3)に摘記した「捲縮率としては好ましくは10?45%程度、より好ましくは20?40%程度」との記載が認められる。
b しかしながら、甲3には、ナイロン繊維についての記載はまったく存在しない。そして、甲3の対象とする混繊交絡糸はポリエステル繊維からなる糸であって、甲3の交絡数や捲縮率は、ナイロン繊維からなる甲1発明の交絡数や捲縮率を定めるための参考になるということができない。
c 仮に、甲3の交絡数や捲縮率が甲1発明の交絡数や捲縮率を定めるための参考になったとしても、本件発明1のように捲縮率の上限を30%とすることは、上記記載から直ちに導き出せるものではない。
d 摘記は省略したが、甲3の段落【0098】【表1】によると、甲3の実施例1?4における捲縮率は、最大で35.3%、最小で32.5%であって、やはり、本件発明1の「捲縮率が15?30%であ」ることを示すものではない。
e そして、本件発明1は、捲縮率の最大値を30%とすることで、前記(ア)bに摘記した「混繊交絡糸の捲縮率が30%を超えると、混繊交絡糸が伸びたときに平坦な構造となるため、上記のような突出部が維持されにくくなり、撥水性が低下することがあり、更にストレッチ性が強くなり過ぎて、かえって快適性に劣ることがある」という問題を回避できるという予測できない作用効果を奏するということができる。
(ウ)小括
そうすると、甲1発明に対して甲3に記載された事項を適用する動機づけはなく、当業者であっても容易になし得ることができないといえ、また、仮に適用する動機づけがあったとしても、本件発明1には至らないことになる。したがって、相違点1-1は、当業者であっても容易に想到できたものといえないから、相違点1-2及び相違点1-3について検討するまでもなく、甲1発明を主引用例とした進歩性欠如の理由は成りたたない。
(2)甲2に記載された発明を主引用例とする場合の検討
ア 甲2発明について
(ア)甲2発明
甲2に記載された比較例1は、前記第4、2(8)イに摘記したように「製織、染色、仕上げ加工を行ったところ、仮撚捲縮糸と非捲縮糸の色差によるイラツキが発生し、高質感に欠けるもの」ではあるが、本件優先日前に甲2の比較例1に接した当業者が発明として認識できるものである。そして、この比較例1を主引用発明として認定すると次のとおりの発明(以下「甲2発明」という。)である。
「a” 単糸繊度が0.78dtexのナイロン繊維Aと、単糸繊度が1.83dtexのナイロン繊維Bとから構成される混繊交絡糸であって、
b 前記ナイロン繊維Bは捲縮糸であり、
c 前記ナイロン繊維Bの単糸繊度が前記ナイロン繊維Aの単糸繊度よりも細く、
d” 前記ナイロン繊維Aと前記ナイロン繊維Bとの単糸繊度差が1.05dtexであり、
e” 前記混繊交絡糸は、総繊度が88dtex(=44dtex+44dtex)であり、
g” 前記混繊交絡糸における前記ナイロン繊維Aと前記ナイロン繊維Bとの質量比率(ナイロン繊維A/ナイロン繊維B)が50/50(44dtex/44dtex)であり、且つ
i” 前記ナイロン混繊交絡糸の表面部分において、ナイロン繊維Bによる突出したループ、たるみがほとんどない
j 混繊交絡糸。」
イ 甲2発明との一致点
(ア)前記アのa”における単糸繊度は、ナイロン繊維A及びナイロン繊維Bのいずれも、前記第2の本件発明1の構成aに規定された数値範囲内である。
(イ)前記アのd”における単糸繊度差は、前記第2の本件発明1の構成dに規定された数値範囲外である。
(ウ)前記アのe”における総繊度は、前記第2の本件発明1の構成eに規定された数値範囲内である。
(エ)前記アのg”における質量比率である50/50は、前記第2の本件発明1の構成gに規定された数値範囲内である。
(オ)上記アのi”における「ループ」は、前記第2の本件発明1の構成iの「突出部」に相当する。しかし、「ループ」が「ほとんど生じない」という特定では、「突出部」が存在すると特定していないから上記アのi”は、本件発明1の構成iと一応相違する。
(カ)そうすると、本件発明1と甲2発明とは、本件発明1の構成a?c、e、g、jの点、すなわち次の構成で一致する。
「a 単糸繊度が0.55?2.0dtexのナイロン繊維Aと、単糸繊度が0.3?1.0dtexのナイロン繊維Bとから構成される混繊交絡糸であって、
b 前記ナイロン繊維Bは捲縮糸であり、
c 前記ナイロン繊維Bの単糸繊度が前記ナイロン繊維Aの単糸繊度よりも細く、
e 前記混繊交絡糸は、総繊度が50?100dtexであり、
g 前記混繊交絡糸における前記ナイロン繊維Aと前記ナイロン繊維Bとの質量比率(ナイロン繊維A/ナイロン繊維B)が30/70?50/50である
j 混繊交絡糸。」
ウ 甲2発明との相違点
本件発明1は、甲2発明と次の点で相違する。
(ア)相違点2-1
本件発明1においては、混繊交絡糸の捲縮率が15?30%であるのに対し、甲2発明においては、混繊交絡糸の捲縮率が明らかでない点。
(イ)相違点2-2
本件発明1においては、混繊交絡糸の交絡数が90?150個/mであるのに対し、甲2発明においては、混繊交絡糸の交絡数が明らかでない点。
(ウ)相違点2-3
本件発明1においては、「前記ナイロン繊維Aと前記ナイロン繊維Bとの単糸繊度差が0.25?1.0dtexであ」るのに対し、甲2発明においては、単糸繊度差が1.05dtexである点。
(エ)相違点2-4
本件発明1においては、「前記ナイロン混繊交絡糸の表面部分において、ナイロン繊維Bによる突出部が形成されている」のに対して、甲2発明においては、「ナイロン混繊交絡糸の表面部分において、ナイロン繊維Bによる突出したループ、たるみがほとんどない」と特定されている点。
エ 相違点2-1についての検討
前記(1)エでの相違点1-1の検討と同じ理由により、相違点2-1は、当業者が本件優先日前に容易に想到できたものということはできない。したがって、相違点2-1?相違点2-4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
3 申立人の主張について
(1)申立人は、相違点1-1及び相違点2-1に関して、前記第4、3(3)を引用し、また前記1(1)エ(ア)に摘記した本件明細書の段落【0030】を引用し、捲縮率を所定の値にすることの目的は両者で共通であり、その共通の微細な突出部を形成しやすくするとともに、所望の撥水性能を確保しつつストレッチ性能を確保するために、甲3に記載された事項を参照して、甲1発明における捲縮率を10?45%に設定することは容易である旨主張する(申立書22頁5?8行)。
(2)しかしながら、甲3に記載された事項は、ポリエステルのみを用いた混繊交絡糸において、どの程度の捲縮率が適切かという記載であって、ナイロンのみを用いる甲1発明とは素材が異なる。ポリエステルとナイロンとでは、物理的化学的な性質が異なるのであるから、「甲3に記載されて事項を参照して、甲1発明における捲縮率を10?45%に設定する」ことは当業者が容易であるということはできない。
(3)また、仮に「甲3に記載されて事項を参照して、甲1発明における捲縮率を10?45%に設定する」ことが容易であったとしても、上記相違点1-1が容易想到といえないことは、前記第5、1(1)エ(イ)c?eを参照されたい。
4 小括
以上から、本件発明1は、甲1発明及び甲3に記載された事項並びに甲2発明及び甲3に記載された事項に基いて本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
5 本件発明2?7に対して
(1)本件発明2?4、6は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明及び甲3に記載された事項並びに甲2発明及び甲3に記載された事項に基いて本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明5、7は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明並びに甲3及び甲4に記載された事項に基いて、若しくは、甲2に記載された発明並びに甲3及び甲4に記載された事項に基いて本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものではない。
6 以上のとおり、本件発明1?7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明ということはできないから、本件発明1?7に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
上記のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-03-19 
出願番号 特願2018-514475(P2018-514475)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (D02G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 春日 淳一  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 門前 浩一
佐々木 正章
登録日 2018-06-01 
登録番号 特許第6345904号(P6345904)
権利者 ユニチカトレーディング株式会社
発明の名称 ナイロン混繊交絡糸、織編物、ナイロン混繊交絡糸の製造方法、及び積層生地  
代理人 迫田 恭子  
代理人 田中 順也  
代理人 水谷 馨也  
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