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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C |
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管理番号 | 1350940 |
審判番号 | 不服2018-5343 |
総通号数 | 234 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-06-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-04-18 |
確定日 | 2019-04-10 |
事件の表示 | 特願2016-124623「異性体を含まないプロスタグランジンを製造するための方法及び中間体」拒絶査定不服審判事件〔平成28年11月17日出願公開、特開2016-193930〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願は、平成26年8月13日(パリ条約による優先権主張 2013年8月15日(US)米国)に出願された特願2014-164880号の一部を平成28年6月23日に新たな特許出願としたものでって、同年8月22日に上申書および手続補正書が提出され、平成29年5月30日付けで拒絶理由が通知され、同年12月6日に意見書および手続補正書が提出され、同年12月14日付けで拒絶査定され、平成30年4月18日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年6月7日に手続補正書(方式)が提出されたものである。 第2 平成30年4月18日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成平成30年4月18日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 補正の内容及び適否について 1 補正の内容 平成30年4月18日付けの手続補正は、特許請求の範囲について、平成29年12月6日付け手続補正により補正された請求項1 「 【請求項1】 【化1】 【化2】 からなる群から選択される、0.1%未満の5,6-trans異性体を含む結晶化合物。」 を 「 【請求項1】 【化1】 【化2】 からなる群から選択される、0.1%未満の5,6-trans異性体を含む結晶化合物。」 とする補正を含むものである。 2 補正の適否 (1)本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である実線と点線で示された結合に関して、「 」との記載の選択肢を「 」と限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2項に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そこで、補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するか否か)について検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、前記1に記載したとおりのものである。 (2)引用刊行物 刊行物1:国際公開2011/8756号(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献8) 刊行物2:特開平5-194469号公報(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献7) 刊行物3:Jacek G.Martynow 外8名,Eur.J.Org.Chem.2007,p.689-703(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1) 刊行物4:平山令明編,「有機結晶作製ハンドブック」,丸善株式会社,(平成12年4月20日),p.125 刊行物5:社団法人日本化学会編,「化学便覧 応用化学編 第6版」,丸善株式会社,(2003年1月30日),p.178 刊行物6 社団法人日本化学会編,「第4版 実験化学講座1 基本操作I」,丸善株式会社,(平成8年4月5日),p.184-185 なお、刊行物2?6は本願優先日時点の技術常識を示す文献である。 (3)刊行物の記載事項 ア 刊行物1 原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開2011/8756号には、以下の記載がある。 訳文にて示す。 (1a)「技術分野 ここで開示された主題事項は、プロスタグランジンとプロスタグランジン誘導体に関する。さらに、ここで開示された主題事項は、プロスタグランジンとプロスタグランジン誘導体の合成に使用され、及び/又はプロスタグランジンのプロドラッグとしても使用できる新規化合物に関する。」(1頁10?15行) (1b)「ある具体的態様として、ここで開示された主題事項は、式(II)の化合物を提供することであり、 ・・・ ある具体的態様として、ここで開示された主題事項は、式(II)の化合物及び薬学的に許容される担体からなる医薬組成物を提供することであり、・・・ ある具体的態様として、ここで開示された主題事項は、プロスタグランジン又はプロスタグランジン誘導体の投薬による疾病又は症状の処置方法を提供することであり、また、その処置に必要な以下の群から選択された式(II)の化合物の処理方法の提供であり、式(II)の化合物としては、次の群から選択される。 」(4頁12?14行、5頁12?20行、及び6頁上段図) (1c)「 」39頁?40頁化学構造式 (1d)「 」(48頁、例2 スキーム4 トラボプロストの合成) (1e)「 」(49頁、例3 スキーム5 ラタノプロストの合成) (1f)「ラクトン11cの合成 例3のスキーム5に示されるように、磁気棒、温度プローブ、ラバー隔壁、N_(2)ガス流入口を備えた3.0Lの3つ口丸底フラスコに室温で1LのDCM中のエステル10c12.2g(19.4mmol)が投入された。その溶液は、30分間窒素パージした後、1gのGrubb’s触媒1gが添加された。攪拌された混合物は、40℃で18時間加熱された。TLC分析は反応が完全に進行したことを示した。反応混合物は、25mlの酵素でクエンチされ、1時間攪拌された。それから、反応混合物は、500 mlのMTBEと600mlのNaHCO_(3)で希釈された。 それらの層は、分離され、水層は25mlMTBEで逆抽出された。抽出された有機層を合わせて800mlのNaHCO_(3),800mlの塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過し、濃縮し、カラムクロマトグラフィーで精製して9.9g(85.0%収率)のラクトン11cを得て、^(1)HNMRで確認した。」(59頁15?28行) (1g)「脱保護されたラクトン12bの合成 例2のスキーム4に示されるように、磁気棒、温度プローブ、ラバー隔壁、N_(2)ガス流入口を備えた250ml3つ口丸底フラスコに室温で50mlTHF中のラクトン11b4.0g(6.0mmol)、1.0g二フッ化水素アンモニウム1.0g(18.0mmol)、テトラブチルアンモニウムフッ化物4.7g(18.0mmol)が投入された。反応混合物は、25mlMTBEと50mlNaHCO_(3)で希釈された。 それらの層は、分離され、水層は25mlMTBEで逆抽出された。抽出された有機層を合わせて30mlのNaHCO_(3),30mlの塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過し、濃縮し、カラムクロマトグラフィーで精製して1g(38.5%収率)の脱保護されたラクトン12bを得て、^(1)HNMRで確認した。」(60頁26行?61頁5行) イ 刊行物2 本願の優先日前に頒布された刊行物である刊行物2には、以下の記載がある。 (2a)「【0002】 【従来の技術】プロスタグランジンは式(c)のごとき基本骨格を有する。 【化3】 【0003】α鎖の結合した5員環の炭素原子から数えて2位と3位の炭素原子、即ち式(c)の5位および6位の炭素原子(以下、C_(5)-C_(6)位と記す)が二重結合を有する化合物(以下△^(5)-PGと云う)はシスおよびトランス異性体を有するが生理活性を発現するのは主としてシス型であり、これをいかに収率よく得るかが工業的生産性の上で問題となる。」 ウ 刊行物3 本願優先日前に頒布された刊行物3には、以下の記載がある。 訳文にて示す。 (3a)「 図1.(-)-“Coreyラクトン”,合成PGF_(2α)誘導体,ラタノプロスト(1)の重要不純物(15S)-1と(5E)-1の構造 ・・・ さらに、1に対して予備的スケールHPLCを適用することで、(15s)ジアステレオマーを除去することは、大変コストがかかり、僅かな効果しかない一方、1の5,6-trans異性体である[(5E)-1]は非常に簡単にHPLCによって分離した。」(690頁図1及び左欄10?13行) (3b)「 スキーム6 数グラムスケールの1の合成・・・1の光学HPLC純度が>99.9%。」(695頁 スキーム6) (3c)「次のステップは、エステルの効率的な加水分解によって(91.5収率)ラタノプロスト酸26が導かれた。2-ヨードプロパンによる26の選択的アルキル化で、76.4%収率のラタノプロストを提供し、その(15S)-1異性体は検出されなかった。しかしながら、数%の1の5,6トランスジアステレオマーが生成物中に存在した。1のシリカゲルによる予備的HPLC精製で99.9%以上の純度のラタノプロストが得られ、酸26から65%収率のものが得られた。」(696頁左欄35?42行) エ 刊行物4 本願優先日前に頒布された刊行物である刊行物4には、以下の記載がある。 (4a)「6.5 医薬品の結晶化例 6.5.1 一般的な結晶化条件 医薬品を開発するうえで,初期段階においては種々の条件下における結晶多形の検索を行い,製剤化検討の結果なども考慮して開発の基本形となる結晶形を選択する。その後,工業化に向けたスケールアップの検討を行い,工場での生産が安定に行えるように準備する必要がある。したがって,開発初期段階における結晶多形の有無などを含めた結晶状態の検討は,医薬品の開発を効率的に進めるうえで非常に重要である。」(125頁1?9行) オ 刊行物5 本願優先日前に頒布された刊行物である刊行物5には、以下の記載がある。 (5a)「4.3.3 晶析 a.晶析とその役割 晶析は,目的の特性を有する結晶を,再現性よく,確実に製造する技術である.晶析は,化学物質の製造全般に広く用いられており,分離精製のみならず,機能性固体(結晶)の生産という観点からも重要である.たとえば,糖・アミノ酸などの食品の製造,記録媒体としてのα-鉄(α-Fe)・マグへマイト(γ-Fe_(2)O_(3))などの電子材料の製造,ナノ粒子の製造,さらにその90%が結晶である医薬品(原薬)とその中間体の製造などであり,いずれも結晶特性の制御が高度に要求されている.」(178頁左欄5?15行) オ 刊行物6 本願優先日前に頒布された刊行物である刊行物6には、以下の記載がある。 (6a)「a.再結晶 物質の精製法として蒸留法,および再結晶法は基本的操作である.再結晶は,加熱下で溶質を溶媒に溶解して飽和溶液とし,次にこの溶液を冷却すると溶質の溶解度が下がり,過剰の溶質は沈殿(結晶)し,一方,不純物は飽和溶液に達せず,そのまま溶液に留まる.・・・不純物・・・は再結晶により除去できることになる. (i)試料の純度 再結晶を行う試料の純度は特に有機物では最初に薄層クロマトグラフィーで確認しておく.その際,用いた展開剤の極性と薄層上のRf 値との関係は再結晶の溶媒選択に役立つし,また不純物の大よその極性も分かる.精製する物質の純度は高い方が望ましく,純度があまりにも低すぎる場合には、蒸留,カラムクロマトグラフィーや活性炭による脱色を行うなどして,夾雑物をある程度除去しておいた方がよい.勿論,精製が可能かどうかは再結晶の原理からみて,溶解度曲線の形に関係するので,不純物が多い場合にも,純粋な結晶が得られることも少なくない.」(184頁20行?185頁7行) (4)刊行物1記載の発明 ア 刊行物1は、プログラスタンジン誘導体の合成に使用される化合物に関するものであることが記載されており(摘記(1a))、摘記(1b)の一般式(II)に該当する12bの化合物(摘記(1d))が、具体的製造方法を伴って記載されている(摘記(1g))。 したがって、刊行物1には、以下の化合物に関する発明が記載されている(以下「刊行物1A発明」という。)。 「 」 イ また、刊行物1は、プログラスタンジン誘導体の合成に使用される化合物に関するものであることが記載されており(摘記(1a))、摘記(1b)の一般式に(II)に該当する11cの化合物(摘記(1e))が、具体的製造方法を伴って記載されている(摘記(1f))。 したがって、刊行物1には、以下の化合物に関する発明が記載されている(以下「刊行物1B発明」という。)。 「 」 (5)対比・判断 ア 刊行物1A発明との対比 (ア)対比 本願補正発明と刊行物1A発明を対比する。 刊行物1A発明の化合物は、化合物式の立体配置の表現形式が一部異なるが、その部分も含めて同じ立体配置の化合物であり、本願補正発明のIIaの化合物に相当している。 そうすると、本願補正発明と刊行物1A発明とは、 「 IIaの化合物」 である点で一致し、以下の点で相違している。 相違点:本願補正発明は、「0.1%未満の5,6-trans異性体を含む結晶化合物」と特定されているのに対して、刊行物1A発明の化合物は、0.1%未満の5,6-trans異性体を含む点や結晶化合物である点を特定していない点 (イ) 相違点の判断 上記相違点について検討する。 a 0.1%未満の5,6-trans異性体を含む点に関して 刊行物2の摘記(2a)に、「プロスタグランジンは・・・ α鎖の結合した5員環の炭素原子から数えて2位と3位の炭素原子、即ち式(c)の5位および6位の炭素原子(以下、C_(5)-C_(6)位と記す)が二重結合を有する化合物(以下△^(5)-PGと云う)はシスおよびトランス異性体を有するが生理活性を発現するのは主としてシス型であり、これをいかに収率よく得るかが工業的生産性の上で問題となる」(下線は当審にて追加。以下同様。)と記載されるように、プロスタグランジンにおいては、5,6cis体をいかに収率良く得るかが技術の前提となっている。 そして、刊行物1A発明は、プロスタグランジンであるトラボプラストの前駆体であり、5,6cis体であるのだから、12bのラクトンにおいても、副生する5,6-trans異性体をできるだけ除去したいと考えることは当業者が当然想起する技術的事項である。 そして、刊行物3の摘記(3a)?(3c)に記載されるように、5,6-trans異性体であるが非常に簡単にHPLCによって分離できたこと(摘記(3a))や、HPLC精製で99.9%を超える純度のトラボブラスト遊離酸が得られている(摘記(3b)(3c))ことから明らかなように、高純度の化合物を得るためにHPLCを用いて精製すること自体は技術常識であるのだから、刊行物1A発明において、副生する5,6-trans異性体をできるだけ除去するために、HPLCを用いて精製することにより、5,6-trans異性体を0.1%未満とすることは、当業者であれば容易になし得る技術的事項である。 b 結晶化合物との特定に関して 刊行物1発明Aの化合物は、摘記(1b)に記載されるように、薬学的に許容される担体等とともに医薬組成物とすることを前提とした化合物であるから、刊行物4の摘記(4a)刊行物5の摘記(5a)にあるように、結晶化工程さらには再結晶化工程を経て製品化するものであり、結晶とすることを強く動機付けられるものである。 また、結晶とすることによって、化合物を精製し高純度化することも技術常識であるのだから(摘記(6a))、刊行物1発明Aの化合物を結晶化合物と特定することは当業者であれば容易に想到できる技術的事項である。 c 本願補正発明の効果について 本願明細書には、実施例28において、化合物IIbの結晶生成物を得て、5,6-トランス異性体含量が、結晶化前0.10%、1回目の結晶化後0.01%、2回目の結晶化後検出不能であったことが示されている(【0262】?【0267】)。 刊行物1発明Aの化合物は、上述のとおり医薬組成物とすることを前提とした化合物であるから、結晶化、再結晶化やHPLCといった精製手段を用いて高純度化することは当然のことであり、例えば、刊行物3に記載されるように純度を99.9%を超えるものとすることができるHPLCを用いて精製することによって、副生物である5,6-トランス異性体含量を0.1%未満とすることは、当業者の予測を超える顕著な効果と認めることはできない。 したがって、本願補正発明の効果は、刊行物1記載の発明及び刊行物2?6の本願優先日時点の技術常識からみて、当業者の予測を超える顕著なものとはいえない。 イ 刊行物1B発明との対比 (ア)対比 本願補正発明と刊行物1B発明を対比する。 刊行物1B発明の化合物は、化合物式の立体配置の表現形式が一部異なるが、その部分も含めて同じ立体配置の化合物であり、本願補正発明のIIbの化合物に相当している。 そうすると、本願補正発明と刊行物1B発明とは、 「 のIIbの化合物」 である点で一致し、以下の点で相違している。 相違点:本願補正発明は、「0.1%未満の5,6-trans異性体を含む結晶化合物」と特定されているのに対して、刊行物1B発明の化合物は0.1%未満の5,6-trans異性体を含む点や結晶化合物である点を特定していない点 (イ) 相違点の判断 上記相違点について検討する。 a 上記ア(イ)で示したのと同様に、刊行物1B発明も、本願補正発明と同様に、プログラスタジンであるラタノプラストの前駆体である。そして、5,6cis体であるのだから、その前駆体である11cのラクトンにおいても、副生する5,6-trans異性体をできるだけ除去したいと考えることは当業者が当然想起する技術的事項であり、刊行物1B発明において、副生する5,6-trans異性体をできるだけ除去するために、HPLCを用いて精製することにより、5,6-trans異性体を0.1%未満とすることは、当業者であれば容易になし得る技術的事項である。 また、結晶とすることによって、化合物を高純度化することも技術常識であるのだから、刊行物1発明Bの化合物を結晶化合物と特定することは当業者であれば容易に想到できる技術的事項である。 また、本願補正発明の効果は、刊行物1記載の発明及び刊行物2?6の本願優先日時点の技術常識からみて、当業者の予測を超える顕著なものとはいえない。 (6)小括 したがって、本件補正発明は、刊行物1A発明又は刊行物1B発明、及び本願優先日時点の技術常識に基いて、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 補正却下のまとめ したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明の認定 第2で検討したとおり、平成30年4月18日付け手続補正は却下されることとなったので、この出願の請求項1に係る発明は、平成29年12月6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。 「 【請求項1】 【化1】 【化2】 からなる群から選択される、0.1%未満の5,6-trans異性体を含む結晶化合物。」 第4 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由の1つは、概略、以下のとおりのものと認める。 この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である「国際公開第2011/8756号」に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」 国際公開第2011/8756号は、前記刊行物1である。 拒絶査定の対象となった、平成29年12月6日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1である本願発明は、拒絶理由通知の対象となった、平成28年8月22日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に対応する。 第5 当審の判断 当審は、原査定の拒絶の理由のとおり、本願発明は、前記刊行物1に記載された発明及び本願優先日時点の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,と判断する。 理由は以下のとおりである。 1 引用刊行物 刊行物1:国際公開2011/8756号 刊行物2:特開平5-194469号公報 刊行物3:Jacek G.Martynow 外8名,Eur.J.Org.Chem.2007,p.689-703 刊行物4:平山令明編,「有機結晶作製ハンドブック」,丸善株式会社,(平成12年4月20日),p.125 刊行物5:社団法人日本化学会編,「化学便覧 応用化学編 第6版」,丸善株式会社,(2003年1月30日),p.178 刊行物6 社団法人日本化学会編,「第4版 実験化学講座1 基本操作I」,丸善株式会社,(平成8年4月5日),p.184-185 なお、刊行物2?6は本願優先日時点の技術常識を示す文献である。 2 引用刊行物の記載 各刊行物には、前記第2 2(3)に記載のとおりの記載がある。 3 刊行物1に記載された発明について 刊行物1には、前記第2 (4)に記載のとおり、以下の刊行物1A発明及び刊行物1B発明が記載されているといえる。 「 」(刊行物1A発明) 「 」(刊行物1B発明) 4 対比・判断 (1)対比・判断 本願発明は、前記第2の2で検討した本願補正発明の との特定を と実線と点線で示された結合の選択肢を増加させたものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに選択肢を限定したものに相当する本願補正発明が前記第2の2(4)(5)に記載したように、刊行物1A発明又は刊行物1B発明、及び本願優先日時点の技術常識に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、本願発明も、刊行物1A発明又は刊行物1B発明、及び本願優先日時点の技術常識に基いて当業者が容易に発明することができたものである。 (2)請求人の主張について ア 請求人は、審判請求書7頁において、刊行物1には、トラボプロストやラタノプロストの1,9ラクトンからHPLCを用いて5,6trans異性体を十分に分離できることは記載も示唆もなく、従来のHPLC精製法では5,6trans異性体を減少できない旨主張している。 しかしながら、cis異性体とtrans異性体との物理的性質、化学的性質は異なり、HPLCや結晶化を用いて分離できることは、技術常識であり、トラボプロストやラタノプロストの1,9ラクトンの5,6trans異性体を減少できない理由は何ら示されていない。 また、本願明細書の実施例28において、ラクトンの粗生成物を得た後、カラムクロマトグラフィーにより生成物を得て、生成物を結晶化して、白色結晶を得たことが記載され、結晶化前の生成物、1回目の結晶化の生成物、2回目の結晶化の生成物に関して、加水分解、濃縮、エステル化後の生成物によって5,6trans異性体の含有量を分析している。 上記評価は、1,9ラクトンの評価を加水分解、濃縮、エステル化後の生成物で行えることを前提として、対応した評価結果として最終生成物に含まれる5,6trans異性体量で記載されているのであるから、上記分析結果は、実際にカラムクロマトグラフィーや結晶化を繰り返すことで、1,9ラクトン中の5,6trans異性体が減少していることを示しているといえる。 上述のとおり、刊行物1A発明又は刊行物1B発明において、医薬組成物として使用することを前提とした化合物をHPLCや結晶化を繰り返すことで精製して、副生物である5,6trans異性体を除去することは、強く動機付けられるとともに、当業者であれば、容易に想起できる技術的事項である。 よって請求人の上記主張を採用することはできない。 イ 請求人は、審判請求書6頁において、プロスタグランジンの遊離体、エステル、1,9ラクトンは同様の薬理学的活性を有するが分析化学的に異なるもので、エステルの5,6trans異性体をHPLC法により0.1%未満まで減少させることができても、1,9ラクトンの場合にもできるとは予測できない旨主張している。 しかしながら、プロスタグランジンの遊離体、エステル、1,9ラクトンが完全に同じ物理的特性を有しないからといって、物理的特性、化学的特性が異なることが技術常識であるcis-trans異性体間の分離に関しては、刊行物3において、エステルの5,6trans異性体をHPLC法により0.1%未満まで減少させることができることが記載されるように、当業者であれば、分離できると理解するのが相当である。 そして、本願明細書においても、上述のとおり、エステルの分析結果から1,9ラクトンの5,6trans異性体の含有量評価をしているのであるから、審判請求人も同様に1,9ラクトンも精製が可能であることを認めているともいえる。 よって請求人の上記主張を採用することはできない。 5 まとめ 以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び本願優先日時点の技術常識に基いて、本願優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1に記載された発明及び本願優先日時点の技術常識に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2018-11-08 |
結審通知日 | 2018-11-13 |
審決日 | 2018-11-27 |
出願番号 | 特願2016-124623(P2016-124623) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C07C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 三原 健治 |
特許庁審判長 |
佐々木 秀次 |
特許庁審判官 |
齊藤 真由美 瀬良 聡機 |
発明の名称 | 異性体を含まないプロスタグランジンを製造するための方法及び中間体 |
代理人 | 特許業務法人アルガ特許事務所 |