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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1350959
審判番号 不服2017-7235  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-19 
確定日 2019-04-16 
事件の表示 特願2014-531882「動的手術流体検出法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 3月28日国際公開、WO2013/043486、平成27年 1月22日国内公表、特表2015-502182〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成24年9月14日(パリ条約による優先権主張 平成23年9月23日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成28年7月7日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内である同年10月12日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲及び明細書について手続補正がなされたが、平成29年3月29日付けで拒絶をすべき旨の査定がされた。
これに対し、平成29年5月19日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに特許請求の範囲について手続補正がなされ、同年8月10日及び同年9月11日に上申書が提出されたものである。

第2 平成29年5月19日の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成29年5月19日の手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正
平成29年5月19日の手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成28年10月12日に補正された特許請求の範囲をさらに補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1に関する以下の補正を含むものである。(なお、下線部は補正箇所を明確にする目的で当審にて付与した。)

(1)補正前の請求項1
「 電力、検出および送信機能を有するようにコード化された組込型マイクロメカニカルデバイスと、
前記組込型マイクロメカニカルデバイスを治療手技の結果得られた流体経路に配置するための、手術器具への貼付け部と
を備え、前記組込型マイクロメカニカルデバイスが、
測定された手術パラメータを示す返信信号を送信するために、前記組込型マイクロメカニカルデバイスを無線信号を介して起動するための受信機と、
前記測定された手術パラメータを特定するために返信信号を受信するように構成された管理システムに前記返信信号を送信するための送信機と
を備える、手術のフィードバックを動的に提供する装置。」

(2)補正後の請求項1
「 受信、処理および送信を行う電子回路と、検出動作および機械動作をする物理的構造体とを含む組込型マイクロメカニカルデバイスと、
前記組込型マイクロメカニカルデバイスを治療手技の結果得られた流体経路に配置するための、手術器具への貼付け部と
を備え、前記組込型マイクロメカニカルデバイスが、
手術パラメータを測定し、測定された手術パラメータを示す返信信号を送信するために、前記組込型マイクロメカニカルデバイスを無線信号を介して起動するための受信機と、
前記測定された手術パラメータを特定するために返信信号を受信するように構成された管理システムに前記返信信号を送信するための送信機と
を備える、手術のフィードバックを動的に提供する装置。」

2 本件補正の適否
本件補正は、原査定の拒絶の理由において明確でないと示された事項である、「電力、検出および送信機能を有するようにコード化された組込型マイクロメカニカルデバイス」との発明特定事項を、「受信、処理および送信を行う電子回路と、検出動作および機械動作をする物理的構造体とを含む組込型マイクロメカニカルデバイス」とするものであるから、明りようでない記載の釈明(特許法第17条の2第5項第4号)を目的とするものに該当し、また、当該「組込型マイクロメカニカルデバイス」の機能について、「手術パラメータを測定し、」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮(同項第2号)を目的とするものに該当する。そして、本件補正は、同条第3項及び第4項の規定に違反するものではない。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、すなわち同条第6項において準用する同法第126条第7項に規定される特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件に適合するものであるかについて検討する。

(1)補正発明
補正発明は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、上記1(2)に示す、補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。

(2)引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
(2-1)引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本件優先日前に頒布された特表2009-512504号公報(以下、「引用文献」という。)には、「腹膜の低体温及び/又は蘇生のための方法及び器具」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア 「【0027】
本発明の実施例は、腹膜腔への低侵襲的アクセスによる治療としての低体温法を提供する器具、システム及び方法を提供する。多くの実施例が、脳卒中、心筋梗塞、失血、又は内臓及び四肢の双方を含む、体の1又はそれ以上の場所へのかん流低下につながる病状に応じた低体温法、蘇生又は他の治療を提供するためのシステムを提供する。
【0028】
ここで、図1から図5を参照すると、腹膜又は他の組織腔Cに低体温用又は他の流体20を送出するためのシステム10の実施例であり、本システムは、主制御ユニット40と、注入部材50(本書では注入カテーテルとも称する)と、廃液容器80と、圧力源90と、真空源100と、冷却装置110と、温度又は圧力センサといった1又はそれ以上のセンサ120とを具えることができる。・・・」

イ 「【0029】
図1,2a及び2bは、システム10の実施例を示しており、コントロールユニット、リザーバ等といったシステムの複数の部品が、IV(点滴)ポール又は他の起立手段150に取り付けられている。注入カテーテル50の近位端が、ユニット40に結合されており、取り付けられたリザーバ70から流体20を受け入れる。カテーテルの遠位端は、体腔に流体20を注入するように患者の腹膜又は他の体腔Cに位置している。・・・ポール150により、患者の周囲の様々な場所にユニット40を設置でき、さらには、患者に流体20を送出するための重力の頭部圧力を与えることができる。ポール150を上下させて、注入部材50に設置された圧力センサ手段を介して検出可能な多量又は少量の頭部圧力を与えることができる。・・・」

ウ 「【0033】
主制御ユニット40は、一般に、ロジックリソース41と、メモリリソース42と、ユーザインターフェイス装置43と、ディスプレイ44と、制御バルブ45と、流体接続46と、電気接続47と、データ入力/出力ポート/インターフェイス48と、音声出力装置49(例えば、スピーカ)とを具えている。・・・」

エ 「【0035】
多くの実施例では、ロジックソース41を、例えば、注入溶液温度、体温、注入及び排出速度、注入及び除去圧、注入及び排出される総量等のパラメータといった、低体温法又は他の治療法に関する1又はそれ以上のパラメータを制御するためのコントローラとして構成できる。ここで、説明の簡単のために、ロジックリソース41をコントローラ41と称するが、ロジックリソース41を、インターネットを介して接続された外部装置との通信を含む様々な動作、すなわち、データ演算、パワーマネージメント機能を実行するよう構成できることに留意されたい。
【0036】
コントローラ41は、アナログ又はデジタル回路のうちの一方又は双方を含めることができ、その制御動作を実行する。また、コントローラ41は、一般に、センサ120、圧力源90、及び制御バルブ45から1又はそれ以上の入力を41iを受信するよう構成される。・・・」

オ 「【0041】
また、ワイヤレスのI/Oポート48は、センサ120及び制御バルブ45であってそれらの一方又は双方がRFIDタグを含めることができるセンサ120及び制御バルブ45と無線通信するよう構成できる。使用時に、このような実施例により、患者の周囲の機器を繋ぐよりも、システムに要する接続ワイヤの数を減らし、医療関係者が患者及び現場に必要な部品を設置し易くする。また、それにより、センサを外して再接続するために停止させる必要なしに、ユーザが温度又は他のセンサ120に素早く別の場所に移すことができる。
【0042】
センサ120は、システム10の使用に関する様々な物理的特性を測定するよう構成できる。したがって、それらは、温度センサ、圧力センサ、力センサ、流量センサ、pHセンサ、酸素及び他の(例えば、CO2)ガスセンサ、音響センサ、圧電センサ等を含む、当技術分野で既知の様々な生物医学的センサを具えることができる。適切な温度センサが、サーミスタ、熱電対、光センサ等の器具を含めることができる。適切な圧力及び力センサが、歪みゲージ、半導体のMEMSベースの歪みゲージを有することができる。適切な流量センサが、当技術分野で既知の電磁流量センサ及びaneometric流量センサを有することができる。注入部材50に設置された温度、圧力センサ及び流量センサは、当技術分野で既知の、1以上の小型のサーミスタ、半導体の圧力センサ及び流量センサを有する。また、1以上のセンサ120は、コントローラ41又は他の機器に入力信号を無線送信できるようにRFIDタグ等の器具を有することができる。
【0043】
ここで、注入カテーテル50について説明することとする。様々な実施例では、注入カテーテル50を腹膜PC又は他の組織腔Cに設置するよう構成して、本書に記載の低体温法又は治療法のために他の体腔に流体を送出できる。・・・」

カ 「【0052】
また、カテーテル50は、カテーテル上又はその中の様々な場所に設置された1又はそれ以上の圧力センサ120を有することができる。特定の実施例では、圧力センサ120を管腔55に設置することができ、上記のように、腹膜又は他の体腔への注入カテーテルの進入を検出する。しかしながら、このようなケースでは、圧力の減少の絶対量又は減少の速さによって進入を検出する。圧力センサを使用する別の適用では、先端部57tといったカテーテルの遠位部に圧力センサ120を設置でき、腹膜又は他の体腔Cの中の圧力を検出する。そして、コントローラ41によってこのような圧力信号を利用でき、測定した腹膜腔の圧力が特定の絶対閾値又は増加率を越える場合に、注入を減らすか又は遮断する。・・・」

a 摘記事項オの「【0041】・・・ワイヤレスのI/Oポート48は、センサ120及び制御バルブ45であってそれらの一方又は双方がRFIDタグを含めることができるセンサ120及び制御バルブ45と無線通信するよう構成できる。・・・【0042】 センサ120は・・・適切な圧力及び力センサが、歪みゲージ、半導体のMEMSベースの歪みゲージを有することができる。・・・また、1以上のセンサ120は、コントローラ41又は他の機器に入力信号を無線送信できるようにRFIDタグ等の器具を有することができる。」との記載から、引用文献には、「半導体のMEMSベースの歪みゲージ及びコントローラ41と無線通信するためのRFIDタグ等の器具を有する圧力センサ120」が開示されている。

b 摘記事項イの「【0029】・・・カテーテルの遠位端は、体腔に流体20を注入するように患者の腹膜又は他の体腔Cに位置している。」との記載、摘記事項オの「【0043】 ここで、注入カテーテル50について説明することとする。様々な実施例では、注入カテーテル50を腹膜PC又は他の組織腔Cに設置するよう構成して、本書に記載の低体温法又は治療法のために他の体腔に流体を送出できる。」との記載及び摘記事項カの「【0052】また、カテーテル50は、カテーテル上又はその中の様々な場所に設置された1又はそれ以上の圧力センサ120を有することができる。・・・圧力センサを使用する別の適用では、先端部57tといったカテーテルの遠位部に圧力センサ120を設置でき、腹膜又は他の体腔Cの中の圧力を検出する。そして、コントローラ41によってこのような圧力信号を利用でき、測定した腹膜腔の圧力が特定の絶対閾値又は増加率を越える場合に、注入を減らすか又は遮断する。」との記載を併せ読むと、引用文献の圧力センサ120は「注入カテーテル50上に設置されて腹膜腔に位置」して、「腹膜腔の中の圧力を検出し、コントローラ41において圧力信号を利用して、腹膜腔の圧力が特定の閾値を超える場合に流体20の注入を減らす」ものであることが理解できる。

c 上記認定事項bの圧力センサ120は、「注入カテーテル50上に設置されて腹膜腔に位置」するものであるから、「腹膜腔に配置するための、流体20を腹膜腔に注入する注入カテーテル50上への設置部」を備えるものといえる。

(2-2)引用文献に記載された発明
引用文献の摘記事項ア?カ及び認定事項a?cを、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて整理すると、引用文献には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「半導体のMEMSベースの歪みゲージ及びコントローラ41と無線通信するためのRFIDタグ等の器具を有する圧力センサ120と、
前記圧力センサ120を腹膜腔に配置するための、流体20を腹膜腔に注入する注入カテーテル50上への設置部と
を備え、前記圧力センサ120が、
腹膜腔の中の圧力を検出し、コントローラ41において圧力信号を利用して、腹膜腔の圧力が特定の閾値を超える場合に流体20の注入を減らす、低体温法を提供する装置。」

(3)対比及び判断
ア 対比
補正発明と引用発明とを、技術常識をふまえ、その文言の意味及び果たすべき機能等に基づいて対比すると、引用発明の「注入カテーテル50」は補正発明の「手術器具」に相当し、同様に「圧力」は「手術パラメータ」に、「検出」は「測定」に、「コントローラ41」は「管理システム」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「圧力センサ120」は、「注入カテーテル50上」に「設置」されるものであるから、補正発明の「組込型マイクロメカニカルデバイス」とは、「組込型デバイス」という限りで一致する。
さらに、引用発明の「流体20」が「注入」される「腹膜腔」は、注入カテーテル50を腹壁等を介して挿入するという治療手技を経て得られるものであり、かつ流体20が注入されることからみて、補正発明の「治療手技の結果得られた流体経路」に対応するということができるから、引用発明の「腹膜腔に配置」され「腹膜腔の中の圧力を検出」する圧力センサ120は、補正発明の「治療手技の結果得られた流体流路に配置」されるものに相当するといえる。
また、引用発明の「設置部」は補正発明の「貼付け部」と、「取付け部」という限りで一致する。
さらに、引用発明の圧力センサ120は、「腹膜腔の中の圧力を検出し」、「コントローラ41と無線通信するためのRFIDタグ等の器具を有する」ものであるから、補正発明の組込型マイクロメカニカルデバイスと、「手術パラメーターを測定し、管理システムと無線通信する手段を備える」ものであるという限りで一致する。
さらに、引用発明の「腹膜腔の中の圧力を検出し、コントローラ41において圧力信号を利用して、腹膜腔の圧力が特定の閾値を超える場合に流体20の注入を減らす、低体温法を提供する装置」は、腹膜腔に注入された流体20の圧力を測定し、その圧力に応じて流体20の注入を減らすのであるから、補正発明の「手術のフィードバックを動的に提供する装置」に相当するといえる。

してみると、補正発明と引用発明とは、以下の点において一致する。

(一致点)
「組込型デバイスと、
前記組込型デバイスを、治療手技の結果得られた流体経路に配置するための、手術器具への取付け部と
を備え、前記組込型デバイスが、
手術パラメータを測定し、管理システムと無線通信する手段を備える、手術のフィードバックを動的に提供する装置。」

そして、補正発明と引用発明とは、以下の2点で相違する。

(相違点1)
手術器具への取付け部に関し、補正発明では「貼付け部」であるのに対し、引用発明では「設置部」である点。

(相違点2)
組込型デバイスに関して、補正発明では「受信、処理および送信を行う電子回路と、検出動作および機械動作をする物理的構造体とを含」み、「測定された手術パラメータを示す返信信号を送信するために、」「マイクロメカニカルデバイスを無線信号を介して起動するための受信機と、前記測定された手術パラメータを特定するために返信信号を受信するように構成された管理システムに前記返信信号を送信するための送信機と」を備える「マイクロメカニカルデバイス」であるのに対し、引用発明では「半導体のMEMSベースの歪みゲージ及びコントローラ41と無線通信するためのRFIDタグ等の器具を有する」「圧力センサ120」であるもののその余の詳細は不明である点。

イ 判断
事案に鑑み、相違点2から検討する。
引用発明の圧力センサ120は、「半導体のMEMSベースの歪みゲージ及びコントローラ41と無線通信するためのRFIDタグ等の器具を有する」ものであるところ、圧力センサとして圧力を検出する「検出動作」をする「物理的構造体」であることは自明である。
さらに、本願明細書の【0004】に「・・・マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)・・・」と、株式会社インプレス,“ケータイWatch ケータイ用語の基礎知識 第623回 MEMSとは”,2013/7/23 12:27,[平成30年11月6日検索],インターネット <URL:https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/column/keyword/608631.html>に「MEMSとは、“微小な電気機械システム”という意味の英語「Micro Eletro Mechanical Systemsの略です。日本では、「マイクロマシン」と呼ばれることもあります。その名の通り、ごくごく小さな機器のことです。半導体のシリコン基板、ガラス基板、有機材料などに、センサーやモーター、電子回路などをひとまとめにしたデバイスの総称として使われます。」と、本件優先日前公知の特表平9-512955号公報第3頁に「微小電気機械システム(マイクロエレクトロメカニカルシステム=MEMS)は、微小機械素子(マイクロメカニカルデバイス)と微小電子素子(マイクロエレクトロニックデバイス)を同じシリコンチップの上に集積している。これらのシステムは、マイクロセンサやマイクロアクチュエータなどの多くの有用な応用面を有する。」と記載されていることから、「半導体のMEMSベースの歪みゲージ」「を有する」圧力センサ120は、機械素子を備えるものすなわち「機械動作」をするものであるといえる。
また、引用発明の圧力センサ120は、腹膜腔に配置されるのであるから、「マイクロ」サイズのものと解される。
これらを総合すると、引用発明の圧力センサ120は、補正発明の「検出動作および機械動作をする物理的構造体とを含む」「マイクロメカニカルデバイス」ということができる。

さらに、本件優先日前公知の特開2005-165517号公報の「【0013】・・・RFID(Radio Frequency Identification)タグを情報媒体の一例として説明する。ここで、RFIDタグとは、無線通信システムの一手法であるRFIDシステムにおいて、読み取り装置の指示に応じて蓄積した識別情報等の各種情報を電磁結合、電磁誘導等を利用した非接触方式で送信する情報媒体であってタグ形状であるものを示す。・・・」及び「【0016】・・・RFIDタグ2は、記憶部と制御部とアンテナとを備えている。RFIDタグ2の記憶部にはRFIDタグ2ごとに異なる識別情報やRFIDタグ2が取り付けられている追従対象9に対する情報等が記憶されており、記憶部に記憶される情報は外部からの所定の指示によって読み出しと書き込みとが可能である。また、RFIDタグ2はアンテナ3から受けた所定周波数の電波を媒介として動作電源を得て起動する。そして、RFIDタグ2は、アンテナ3から送信され応答を要求する所定周波数の質問電波(以下、「質問波」とする。)を受信した場合には、この質問波に応じて制御部が記憶部から識別情報等の情報を抽出し、抽出した識別情報等を含む応答電波(以下、「応答波」とする。)をアンテナから送信する。・・・」との記載、同じく特開2006-122321号公報の「【0019】 RFIDタグ2は、周知のパッシブ型であり、電力搬送無線波によって電力供給を受けるとともに、信号通信無線波によって信号の送受信を行うためのアンテナ素子12と、識別情報の記憶及び格納や信号の送受信を行うためのIC素子14とを備えている。
【0020】 このような構成により、RFIDタグ2は、外部からの信号を受信し記憶する記憶手段と、その記憶手段からの信号を外部に送信する送信手段とを有する。例えば、RFIDタグ2にはガーゼ10の種類や、枚数を数えるための通し番号などを記憶させることができる。」との記載、同じく特開2002-352199号公報の「【0006】 【発明の実施の形態】本発明の実施態様について、図を参照して詳細に説明する。まず、本発明に用いるRFIDタグとは、RFID(Radio Frequency Identification)システムの媒体として、電波を用いて非接触で情報の交信ができるタグである。RFIDタグは、紙やプラスチック等の基材に設けたアンテナパターンとICチップからなり、該アンテナパターンとICチップに内蔵された容量素子とにより共振回路を形成している。該共振回路は、リーダライタから一定の周波数の呼出し電波を受信すると、メモリに記憶している情報を発信源であるリーダライタに送信して返す。このようにRFIDタグは、リーダライタと非接触で情報を交信することができる。」、「【0009】・・・図1は、本発明で使用するRFIDタグの1例を示す平面図および断面図である。図1(A)はRFIDタグの平面図で、図1(B)は断面図である。RFIDタグ10は、RFIDタグ基体17にアンテナパターン14を形成し、当該アンテナパターンとICチップ11に内蔵された容量素子とにより共振回路を形成している。共振回路は、リーダライタから一定の周波数の呼出し電波を受信すると、同時にRFIDタグの駆動電力も受けて、ICチップ11のメモリに記憶されている情報を発信源であるリーダライタに送信して返す。」及び「【0031】・・・アンテナ21、送受信回路22、電力受信回路23、CPU24、ROM25、RAM26、EEPROM27からなっている。電力受信回路23は、リーダライタからの呼出し電波を受け、RFIDタグを駆動する電力に変換してRFIDタグが活性化する。
【0032】活性化したRFIDタグのCPU24は、ROM25のプログラムによりメモリRAM26、および一次的なメモリEEPROM27を使用して、予め記録されている製品や荷物の属性情報を、送受信回路22、アンテナ21を介して非接触で電波として送り返す。」との記載に鑑みると、RFIDタグとは、一般的に、受信、処理および送信を行う電子回路を備え、読取装置すなわち管理システムからの無線信号を受信して起動するための受信機能と、管理システムに識別情報等の無線信号を送信する送信機能を持つものといえる。

そうすると、引用発明の「信号を無線送信できるRFIDタグ等の器具」を備えている圧力センサ120は、「RFIDタグ等」と例示していることからみて、信号を無線送信できる器具の構成及びその機能として、RFIDタグの一般的な構成及び機能を有することが当然に予定されているといえるから、引用発明の「コントローラ41と無線通信するためのRFIDタグ等の器具を有する」圧力センサ120は、補正発明の「受信、処理および送信を行う電子回路」と、「検出動作および機械動作をする物理的構造体とを含」み、「受信機」と、「送信機」とを備える「マイクロメカニカルデバイス」として構成することは、当業者が容易になし得たことである。
そして、上記のように、引用発明の圧力センサ120を、RFIDタグの一般的な構成及び機能を有するように構成した場合には、上記圧力センサ120の検出動作により測定された手術パラメータを識別情報とともに送信することも、特定の個所の手術パラメータを検出する手段として当然の態様であるから、圧力センサ120から送信する無線信号すなわち返信信号は、補正発明のように「測定された手術パラメータを示す」ものとなり、また同様にコントローラ41は、「測定された手術パラメータを特定するために返信信号を受信するように構成された」ものになるということができる。
してみると、引用発明の圧力センサ120を、上記RFIDタグの一般的な構成及び機能を有するように構成して、相違点2に係る補正発明の構成とすることは当業者が容易になし得ることである。

次に相違点1について検討する。
引用文献を見ても手術器具への取付けの具体的手法についての記載は見あたらないが、摘記事項カの「【0052】・・・カテーテル50は、カテーテル上又はその中の様々な場所に設置された1又はそれ以上の圧力センサ120を有することができる。・・・圧力センサを使用する別の適用では、先端部57tといったカテーテルの遠位部に圧力センサ120を設置でき、腹膜又は他の体腔Cの中の圧力を検出する。・・・」との記載に鑑みると、圧力センサ120は、腹膜腔内に挿入されるカテーテル周辺の圧力を測定するためにカテーテル上に設置されるものと解されるところ、カテーテル上すなわちカテーテル表面等に取付ける際の具体的な手法として、貼付けることは、例を挙げるまでもなく、本件優先日前における常套手段である。 そうすると、引用発明の圧力センサ120の設置部において、貼付けという常套手段を採用して、相違点1に係る補正発明の構成とすることは、当業者にとって容易である。
してみると、相違点1に係る補正発明の構成とすることは、当業者にとって容易に想到できたことといえる。

また、本件明細書に記載された補正発明の効果をみても、引用発明、RFIDの一般的な構成及び機能並びに貼付けという常套手段が奏する効果からみて、それらの単なる総和を上回るような格別な効果が生じたということはできない。

よって、補正発明は引用発明及び常套手段に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでない。

(4)本件補正についての結び
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反している。よって、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、本件補正は却下すべきものである。

よって、上記[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明
本件補正が上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?8に係る発明は、平成28年10月12日の手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2 1(1)に示すとおりのものであると認める。

第4 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由2(特許法第36条第6項第2号)は、請求項1の「電力、検出および送信機能を有するようにコード化された組込型マイクロメカニカルデバイス」との記載が明確でないため、特許を受けようとする本願発明が明確でなく、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないというものである。
また、原査定の拒絶の理由3(特許法第29条第2項)は、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

第5 判断
(1)特許法第36条第6項第2号違反について
ア 本件明細書の記載
本件明細書には、請求項1の「電力、検出および送信機能を有するようにコード化された組込型マイクロメカニカルデバイス」との記載に関し、以下のとおりの記載がある。(下線は当審で付したものである。)

a 「【0007】・・・RFIDは、小型かつ受動的(つまり、トリガー信号によって外部から電力を得る)に作れるが、演算および実行のための電力が限られる。このために、残念ながら、デバイスを相互接続する従来の手法では、RFIDにコード化できる演算能力に限界があり、通常、RFIDを貼り付けたデバイスまたは器具を識別することに応答が限定され、また、ID以外の情報を得ることができない、という欠点がある。
・・・
【0009】
さらに詳しく言うと、この方法は、外科手術または治療手技のときに手術のフィードバックを動的に行うものであり、これは、MEMSデバイスのような組込型マイクロメカニカルデバイスを適当な電力、検出および送信性能でコード化し、この組込型マイクロメカニカルデバイスを、治療手技の結果得られた流体経路に配置することで行われる。・・・
【0010】・・・組込型マイクロメカニカルデバイス(マイクロメカニカルデバイス)は、電力、検出および送信性能でコード化され、組込型マイクロメカニカルデバイスは、内視鏡器具に邪魔にならずに取り付けられようになされる。・・・
【0011】 ・・・発明のさらに別の実施形態は、Java(登録商標)仮想マシンのようなソフトウェアプログラムおよび/または単独でまたはマルチプロセッシング演算デバイスと一緒に動作できるオペレーティングシステムを含み、上記に要約し、かつ、以下に詳しく開示した方法の実施形態のステップおよび動作を行う。このような実施形態の1つは、非一時的な、コンピュータ読み取り可能記憶媒体を有するコンピュータプログラム製品からなり、プログラム論理が命令としてコード化されており、メモリおよびプロセッサーの組合せを有するマルチプロセッシングコンピュータデバイスで実行されると、発明の実施形態として本明細書に開示された動作を実行して、データへのアクセス要求を実行するようにプロセッサーをプログラムする。このような発明のアレンジメントは、通常、コンピュータ読み取り可能な媒体に用意またはコード化されたソフトウェア、コードおよび/または他のデータ(例えば、データ構造)として提供される。コンピュータ読み取り可能な媒体は、光学媒体(例えば、CD-ROM)、フロッピー(登録商標)ディスクもしくはハードディスク、または、ファームウェアのような他の媒体である。あるいは、発明のアレンジメントは、1つまたは2つ以上のROMチップ、RAMチップ、PROMチップにおけるマイクロコード、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、または、特定用途向けICとして提供される。ソフトウェアもしくはファームウェアまたは他のこのような構成は、(例えばオペレーティングシステムの実行時、または、環境設定時に)演算デバイスにインストールし、演算デバイスに、発明の実施形態として本明細書で説明する方式を実行させることができる。」

b 「【0017】
図2は、本明細書に開示した動的パラメータ検出法の流れ図である。図1および2を参照すると、ステップ200において、手術に動的なフィードバックを提供する方法は、検出データを収集、返信するための電力、検出および送信性能で組込型マイクロメカニカルデバイスをコード化することを含む。・・・ステップ202に開示されているように、流体管理部120からの無線信号122-2で組込型マイクロメカニカルデバイスがコード化された送信機113/受信機115を介して起動され、測定された手術パラメータを示す返信信号が送信される。・・・」

c 「【0020】・・・ステップ302に記載されているように、初期化処理でMEMSまたはNEMSデバイスのような組込型マイクロメカニカルデバイス110を電力、検出、送信性能でコード化し、マイクロメカニカルデバイスは内視鏡器具1390、138に邪魔にならないように取り付けられる。後述するように、マイクロメカニカルデバイス110を手術器具または内視鏡器具に連結するには、さまざまなアレンジメントを用いることができる。このようなデバイス110は、内側環状面または手術流体を運ぶパイプ、チューブもしくは容器に接着したり、貼り付けたりしてもよいし、空間154または手術部位に挿入したプローブ138の外側表面に付けてもよい。ステップ303に記載されているように、特定のアレンジメントでは、組込型マイクロメカニカルデバイス110が受動的であってもよく、検出性能は、外部無線信号122-2からの刺激によって始動する。この場合、マイクロメカニカルデバイス110は、外部無線信号122-2に応答する電力、検出および送信性能でコード化されている。このようなデバイス110はとても小さく、デバイス110が動作をするための電力を取り出すのにRF制御信号または他の電磁気的波形で足りる。オプションとして、バッテリー素子のような能動的な電源をデバイス110で利用してもよい。」

d 「【0030】・・・動作および方法は、ソフトウェア実行可能なオブジェクトで実施してもよいし、命令に応答するプロセッサーによって実行される一連のコード化された命令として実施してもよい。」

イ 判断
本件優先日における技術常識をふまえ、上記摘記事項a?dをみても、本願発明の「電力、検出および送信機能を有するようにコード化された組込型マイクロメカニカルデバイス」とは、どのようなデバイスを意味するのか明確とはいえない。
よって、特許を受けようとする本願発明は明確でなく、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないものである。

(2)特許法第29条第2項違反について
上記(1)のとおり、本願発明の「電力、検出および送信機能を有するようにコード化された組込型マイクロメカニカルデバイス」の記載は明確ではないが、当該記載が明確でないという指摘に応じてなされた平成29年5月19日の手続補正における補正のとおり、「受信、処理および送信を行う電子回路と、検出動作および機械動作をする物理的構造体とを含む組込型マイクロメカニカルデバイス」を意味するものと解しても、上記第2 2で検討したとおり、補正発明は引用発明及び常套手段に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本願発明も同様に、引用発明から容易に発明することができたものである。
よって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第6 結び
以上のとおり、本願発明は、特許法第36条第6項第2号の規定及び第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-11-14 
結審通知日 2018-11-19 
審決日 2018-11-30 
出願番号 特願2014-531882(P2014-531882)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 沼田 規好  
特許庁審判長 長屋 陽二郎
特許庁審判官 瀬戸 康平
内藤 真徳
発明の名称 動的手術流体検出法  
代理人 阿部 達彦  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  

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