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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C02F
管理番号 1350975
審判番号 不服2017-13465  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-09-11 
確定日 2019-04-08 
事件の表示 特願2014-102027「有機スラッジ排出無しの汚水中有機物・アンモニア態窒素・燐酸塩同期分解方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月27日出願公開、特開2015- 80784〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年 5月16日(パリ条約による優先権主張 2013年10月22日 (CN)中華人民共和国)の出願であって、平成28年 9月28日付けで拒絶理由通知がされ、同年11月24日(受付日)に意見書及び手続補正書が提出され、平成29年 1月31日付けで拒絶理由通知がされ、同年 4月25日(受付日)に意見書及び手続補正書が提出され、同年 5月16日付けで上記平成29年 4月25日付け手続補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、同年 9月11日(受付日)に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、当審より平成30年 5月 1日付けで拒絶理由通知がされ、同年 9月18日(受付日)に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成29年 9月11日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のものである(以下、「本願発明1」という。)。
「【請求項1】
有機スラッジを通性嫌気性膜生物反応器内から排出しないことにより有機スラッジを燐酸塩除去の補充炭素源とすると同時に、通性嫌気性膜生物反応器内に通性嫌気性状態を形成して通性嫌気性複合細菌群を形成し、通性嫌気性複合細菌群の自己代謝を通して通性嫌気性膜生物反応器内で同期に汚水中の有機物、アンモニア態窒素、燐酸塩を分解して二酸化炭素、窒素ガス、ホスフィン、ダイホスフィンおよび水を生成し、二酸化炭素、窒素ガス、ホスフィン、ダイホスフィンを空気中に排出することを特徴とする有機スラッジ排出無しの汚水中有機物・アンモニア態窒素・燐酸塩同期分解方法。」

第3 拒絶理由の概要
平成30年 5月 1日付けの当審拒絶理由の概要は、当業者は、本願の発明の詳細な説明及び図面の記載に基づいて、本願発明1における通性嫌気性膜生物反応器内の「通性嫌気性複合細菌群」及び「通性嫌気性状態」を形成することができないから、本願の発明の詳細な説明及び図面の記載に基づいて本願発明1を実施できない。
更に、本願の発明の詳細な説明及び図面の記載に接した当業者は、どのような反応プロセスで本願発明1が実施されるのかを理解することができないから、本願の発明の詳細な説明及び図面の記載に基づいて、二酸化炭素、ホスフィン、ダイホスフィンを生成する本願発明1を実施することができない。
このため、本願の発明の詳細な説明及び図面は、本願発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとは認められないから、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件に適合しない、というものである。

第4 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)についての当審の判断
特許法第36条第4項第1号は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と定めている。
これは、当業者が、明細書に記載した事項と技術常識とに基づき、その発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明を記載しなければならないことを意味するものである。
そこで、以下、この点について検討する。

1 本願明細書の記載事項
本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
(a)「【0001】
本発明は一種の汚水処理技術に係り、特に有機スラッジ排出無しの汚水中有機物・アンモニア態窒素・燐酸塩同期分解方法に係る。」

(b)「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
伝統的な汚水処理プロセスに下記問題がある。(1)実施難度が大きい(非標準設計で、効率が低く、敷地面積が大きい)。(2) 水排出効果が不安定である(管理が複雑で、季節から大きな影響を受ける)。(3)周辺環境に影響を与え(有機スラッジを排出し、異臭を生む)、混合排出廃水の管理に適合しない。
【0004】
本発明は、有機スラッジを排出しないことにより反応器有機負荷を増加し、通性嫌気性膜生物反応器(FMBR)内で汚水、有機スラッジ処理を同期化し、汚水中の有機物・アンモニア態窒素・燐酸塩を同期分解し除去することによって、処理段階を簡素化する。」
【0005】
具体に下記の技術案で実現する。
【0006】
本発明は、有機スラッジ排出無しの汚水中の有機物・アンモニア態窒素・燐酸塩同期分解方法で、有機スラッジを排出しないことによって、有機スラッジを燐酸塩除去の補充炭素源とすると同時に、通性嫌気性膜生物反応器内に通性嫌気性状態を形成して通性嫌気性複合細菌群を形成し、通性嫌気性複合細菌群の自己代謝を通して通性嫌気性膜生物反応器内で同期に汚水中の有機物、アンモニア態窒素、燐酸塩を分解して二酸化炭素、窒素ガス、ホスフィン、ダイホスフィンおよび水を生成し、二酸化炭素、窒素ガス、ホスフィン、ダイホスフィンを空気中に排出する。」

(c)「【発明の効果】
【0008】
本発明は、有機スラッジを排出しないことにより、有機スラッジをFMBR内補充炭素源とし、関連パラメータをコントロールして通性嫌気性状態を形成し、汚水及び有機スラッジを同期に処理し、汚水処理反応器の適応能力と処理効率を大幅に向上し、資源を節約し、炭素排出を減少し、二次汚染リスクを避け、伝統的な汚水処理プロセスの大きな実施難度、不安定な水排出効果及び周辺環境に対する影響等の欠陥を克服した。」

(d)「【実施例1】
【0010】
本発明反応器内で通性嫌気性状態を形成し、反応器内の細菌群が自己代謝を通して汚水中の有機物を二酸化炭素と水等の物質に転換すると同時に、衰亡した細菌をその他の細菌の栄養源として分解し、反応器内の有機スラッジを動態的平衡にさせ、有機スラッジのゼロ接近排出を実現し、反応過程は説明書の付図を参考する。本発明反応器内で通性嫌気性状態を形成し、反応器内の細菌群が自己代謝を通して汚水中の燐酸塩を微生物体内の物質に転換してから、生物循環を通じてホスフィンとダイホスフィンに転換し、反応プロセスは下記の通りである。
C源+燐酸塩+通性嫌気性複合細菌群 → 微生物細胞(有機燐)
微生物細胞(有機燐)+通性嫌気性複合細菌群 → P_(2)H_(4)/PH_(3)
【0011】
本発明反応器内で通性嫌気性状態を形成し、反応器内の細菌群が自己代謝を通して汚水中のアンモニア態窒素を窒素に転換し、反応プロセスは下記の通りである。
1/2NH_(4)^(+)(アンモニア態窒素)+1/2H_(2)O+1/4O_(2)+通性嫌気性複合細菌群 → 1/2NO_(2)^(-)+2e+3H^(+)
1/2NH_(4)^(+)(アンモニア態窒素) +1/2NO_(2)^(-)+通性嫌気性複合細菌群 →1/2N_(2)+H_(2)O
【0012】
ある郷鎮汚水の処理を実例として、入り水はBOD_(5)が200mg/L、CODが305mg/Lで、アンモニア態窒素が10.49mg/Lで、総燐が2.10mg/Lであり、汚水が簡単な事前処理を経過した後、直接通性嫌気性膜生物反応器に入り、技術的プロセスが連続に運行し、有機スラッジ排出がない。全体処理プロセスが通性嫌気性膜生物反応器(FMBR)内で実施され、有機スラッジを排出しないことにより反応器有機負荷(補充炭素源)を増加し、通性嫌気性膜生物反応器によりコントロールされたパラメータにより内部を通性嫌気性状態にさせ、通性嫌気性複合細菌群の自己代謝及び生物循環の作用の下で、汚水と有機スラッジを同期に処理し、汚水中の有機物、アンモニア態窒素、燐酸塩を分解し、有機汚染物質を最終に二酸化炭素、窒素ガス、ホスフィン及びダイホスフィンガス形式で空気に排出する。水排出BOD_(5)が1.0mg/Lで、CODが10.6mg/Lで、アンモニア態窒素が0.64mg/Lで、総燐が0.20(mg/L)で、《都市汚水処理工場汚染物質排出標準》(GB18918-2002)一級A標準より高い。
【実施例2】
【0013】
ある農村汚水(生活汚水+家畜・家禽廃棄水混合排出)を実例として、入り水でBOD_(5)が410 mg/Lで、CODが609mg/L、アンモニア態窒素が20.96mg/Lで、総燐が4.10mg/Lで、汚水が事前処理されてから、直接通性嫌気性膜生物反応器に入り、技術的プロセスが連続に運行し、有機スラッジ排出がない。汚水が通性嫌気性膜生物反応器(FMBR)内で処理され、プロセスで有機スラッジを排出しないことにより反応器有機負荷(補充炭素源)を増加し、通性嫌気性膜生物反応器パラメータをコントロールして通性嫌気性状態を形成し、通性嫌気性膜生物反応器(FMBR)内で同期に汚水と有機スラッジを処理し、汚水中の有機物、アンモニア態窒素、燐酸塩を分解し、有機汚染物質を最終に二酸化炭素、窒素ガス、ホスフィン及びダイホスフィンガス形式で空気に排出し、水排出BOD_(5)が1.8 mg/Lで、CODが16.6mg/Lで、アンモニア態窒素が0.83mg/Lで、総燐が0.34(mg/L)で、《都市汚水処理工場汚染物質排出標準》(GB18918-2002)一級A標準より高い。」

(e)「【図1】



2 判断
(ア)上記1(a)?(c)によれば、本願発明1は、有機スラッジ排出無しの汚水中有機物・アンモニア態窒素・燐酸塩同期分解方法に係るものであって、伝統的な汚水処理プロセスの、(1)実施難度が大きい(非標準設計で、効率が低く、敷地面積が大きい)、(2) 水排出効果が不安定である(管理が複雑で、季節から大きな影響を受ける)、(3)周辺環境に影響を与え(有機スラッジを排出し、異臭を生む)、混合排出廃水の管理に適合しない、といった課題を解決するものであり、有機スラッジ排出無しの汚水中の有機物・アンモニア態窒素・燐酸塩同期分解方法で、有機スラッジを排出しないことによって、有機スラッジを燐酸塩除去の補充炭素源とすると同時に、通性嫌気性膜生物反応器内に通性嫌気性状態を形成して通性嫌気性複合細菌群を形成し、通性嫌気性複合細菌群の自己代謝を通して通性嫌気性膜生物反応器内で同期に汚水中の有機物、アンモニア態窒素、燐酸塩を分解して二酸化炭素、窒素ガス、ホスフィン、ダイホスフィンおよび水を生成し、二酸化炭素、窒素ガス、ホスフィン、ダイホスフィンを空気中に排出するものであると認められる。

(イ)そして、本願発明1は、有機スラッジを排出しないことにより、有機スラッジをFMBR内補充炭素源とし、関連パラメータをコントロールして通性嫌気性状態を形成し、汚水及び有機スラッジを同期に処理し、汚水処理反応器の適応能力と処理効率を大幅に向上し、資源を節約し、炭素排出を減少し、二次汚染リスクを避け、伝統的な汚水処理プロセスの大きな実施難度、不安定な水排出効果及び周辺環境に対する影響等の欠陥を克服したものである。

(ウ)具体的には、上記1(d)?(e)によれば、本願発明1における反応器内で通性嫌気性状態を形成し、反応器内の細菌群が自己代謝を通して汚水中の有機物を二酸化炭素と水等の物質に転換すると同時に、衰亡した細菌をその他の細菌の栄養源として分解し、反応器内の有機スラッジを動態的平衡にさせ、有機スラッジのゼロ接近排出を実現するものであって、反応器内で通性嫌気性状態を形成し、反応器内の細菌群が自己代謝を通して汚水中の燐酸塩を微生物体内の物質に転換してから、生物循環を通じてホスフィンとダイホスフィンに転換するものであり、その反応プロセスは下記の通りである。
C源+燐酸塩+通性嫌気性複合細菌群 → 微生物細胞(有機燐)
微生物細胞(有機燐)+通性嫌気性複合細菌群 → P_(2)H_(4)/PH_(3)

(エ)また、反応器内で通性嫌気性状態を形成し、反応器内の細菌群が自己代謝を通して汚水中のアンモニア態窒素を窒素に転換するものであり、反応プロセスは下記の通りである。
1/2NH_(4)^(+)(アンモニア態窒素)+1/2H_(2)O+1/4O_(2) +通性嫌気性複合細菌群 → 1/2NO_(2)^(-)+2e+3H^(+)
1/2NH_(4)^(+)(アンモニア態窒素) +1/2NO_(2)^(-)+通性嫌気性複合細菌群 →1/2N_(2)+H_(2)O

(オ)そして、実施例においては、ある郷鎮汚水の処理を実例として、入り水はBOD_(5)が200mg/L、CODが305mg/Lで、アンモニア態窒素が10.49mg/Lで、総燐が2.10mg/Lであり、汚水が簡単な事前処理を経過した後、直接通性嫌気性膜生物反応器に入り、技術的プロセスが連続に運行し、有機スラッジ排出がないものであり、全体処理プロセスが通性嫌気性膜生物反応器(FMBR)内で実施され、有機スラッジを排出しないことにより反応器有機負荷(補充炭素源)を増加し、通性嫌気性膜生物反応器によりコントロールされたパラメータにより内部を通性嫌気性状態にさせ、通性嫌気性複合細菌群の自己代謝及び生物循環の作用の下で、汚水と有機スラッジを同期に処理し、汚水中の有機物、アンモニア態窒素、燐酸塩を分解し、有機汚染物質を最終に二酸化炭素、窒素ガス、ホスフィン及びダイホスフィンガス形式で空気に排出するものであり、その結果、水排出BOD_(5)が1.0mg/Lで、CODが10.6mg/Lで、アンモニア態窒素が0.64mg/Lで、総燐が0.20(mg/L)で、《都市汚水処理工場汚染物質排出標準》(GB18918-2002)一級A標準より高いものとなったことが記載されている。

(カ)また、ほかの実施例においては、ある農村汚水(生活汚水+家畜・家禽廃棄水混合排出)を実例として、入り水でBOD_(5)が410mg/Lで、CODが609mg/L、アンモニア態窒素が20.96mg/Lで、総燐が4.10mg/Lで、汚水が事前処理されてから、直接通性嫌気性膜生物反応器に入り、技術的プロセスが連続に運行し、有機スラッジ排出がないものであり、汚水が通性嫌気性膜生物反応器(FMBR)内で処理され、プロセスで有機スラッジを排出しないことにより反応器有機負荷(補充炭素源)を増加し、通性嫌気性膜生物反応器パラメータをコントロールして通性嫌気性状態を形成し、通性嫌気性膜生物反応器(FMBR)内で同期に汚水と有機スラッジを処理し、汚水中の有機物、アンモニア態窒素、燐酸塩を分解し、有機汚染物質を最終に二酸化炭素、窒素ガス、ホスフィン及びダイホスフィンガス形式で空気に排出するものであり、その結果、水排出BOD_(5)が1.8mg/Lで、CODが16.6mg/Lで、アンモニア態窒素が0.83mg/Lで、総燐が0.34(mg/L)で、《都市汚水処理工場汚染物質排出標準》(GB18918-2002)一級A標準より高いものとなったことが記載されている。

(キ)ここで、本願の発明の詳細な説明及び図面には、通性嫌気性膜生物反応器内に形成された「通性嫌気性状態」において、自己代謝を通して通性嫌気性膜生物反応器内で同期に汚水中の有機物、アンモニア態窒素、燐酸塩を上記(ウ)、(エ)に記載される反応プロセスにより分解して、二酸化炭素、窒素ガス、ホスフィン、ダイホスフィンおよび水を生成する、という機能を有する「通性嫌気性複合細菌群」が、どのような種類の細菌から構成されているのかが記載されていない。
また、通常の生物学的硝化、脱窒のプロセスは、好気状態においてアンモニア態窒素の硝化を行って亜硝酸態窒素、硝酸態窒素を生成し、無酸素状態において亜硝酸態窒素、硝酸態窒素から窒素ガスを生成して脱窒するものであって、上記(エ)の反応プロセスにより処理を行うものではないし、通常の生物学的脱燐のプロセスは、ホスフィン、ダイホスフィンを生成せず、更に有機スラッジ(余剰汚泥)を排出するものであるから、上記(ウ)の反応プロセスにより処理を行うものではない。
してみれば、上記(ウ)?(エ)に記載される反応プロセスは、通常の生物学的硝化、脱窒、脱燐における反応プロセスとは異なっているので、本願優先日における技術常識から、上記「通性嫌気性複合細菌群」を構成する細菌が当業者にとって自明であるということもできない。
このため、本願の発明の詳細な説明及び図面の記載に接した当業者は、上記「通性嫌気性複合細菌群」がどのような種類の細菌から構成されているのかを理解することができない。

(ク)そして、当業者は、「通性嫌気性複合細菌群」を構成する細菌が理解できないのであるから、通性嫌気性膜生物反応器内をどのように制御すれば、上記通性嫌気性膜生物反応器内が上記「通性嫌気性複合細菌群」の繁殖に適した状態、すなわち「通性嫌気性状態」となるのかも、理解することができない。

(ケ)上記(キ)、(ク)の検討によれば、当業者は、本願の発明の詳細な説明及び図面の記載に基づいて、本願発明1における通性嫌気性膜生物反応器内の「通性嫌気性複合細菌群」及び「通性嫌気性状態」を形成することができないから、本願の発明の詳細な説明及び図面の記載に基づいて本願発明1を実施できないことは明らかである。

(コ)このため、本願の発明の詳細な説明及び図面は、本願発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとは認められないから、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件に適合しない。

3 平成30年 9月18日(受付日)の意見書における主張について
(ア)請求人は平成30年 9月18日(受付日)の意見書において、上記(キ)?(ケ)に関して、以下のように主張する。

「3.本願が実施可能要件を満たすことの理由(特許法第36条第4項第1号)
(1)『(キ)』について
細菌の種類は何万もありますが、本願発明1の通性嫌気性膜生物反応器内で繁殖しているのは、通性嫌気性状態で共存して同期に活動することができ、自己代謝を通して有機物を二酸化炭素と水等の物質に転換する細菌、自己代謝を通して燐酸塩をホスフィンとダイホスフィンに転換する細菌、自己代謝を通してアンモニア態窒素を窒素に転換する細菌です。
『自己代謝を通して有機物を二酸化炭素と水等の物質に転換する細菌』については、明細書段落【0010】の『本発明反応器内で通性嫌気性状態を形成し、反応器内の細菌群が自己代謝を通して汚水中の有機物を二酸化炭素と水等の物質に転換すると同時に、衰亡した細菌をその他の細菌の栄養源として分解し、反応器内の有機スラッジを動態的平衡にさせ、有機スラッジのゼロ接近排出を実現し、反応過程は説明書の付図を参考する。』および図1に記載されています。
『自己代謝を通して燐酸塩をホスフィンとダイホスフィンに転換する細菌』については、明細書段落【0010】の『本発明反応器内で通性嫌気性状態を形成し、反応器内の細菌群が自己代謝を通して汚水中の燐酸塩を微生物体内の物質に転換してから、生物循環を通じてホスフィンとダイホスフィンに転換し、反応プロセスは下記の通りである。
C源+燐酸塩+通性嫌気性複合細菌群 → 微生物細胞(有機燐)
微生物細胞(有機燐)+通性嫌気性複合細菌群 → P_(2)H_(4)/PH_(3)』に記載されています。
『自己代謝を通してアンモニア態窒素を窒素に転換する細菌』については、明細書段落【0011】の『本発明反応器内で通性嫌気性状態を形成し、反応器内の細菌群が自己代謝を通して汚水中のアンモニア態窒素を窒素に転換し、反応プロセスは下記の通りである。
1/2NH_(4)^(+)(アンモニア態窒素)+1/2H_(2)O+1/4O_(2) +通性嫌気性複合細菌群 → 1/2NO_(2)^(-)+2e+3H^(+)
1/2NH_(4)^(+)(アンモニア態窒素) +1/2NO_(2)^(-)+通性嫌気性複合細菌群 →1/2N_(2)+H_(2)O』に記載されています。
上記の通り、本願明細書1に記載がありますので、当業者は、本発明の『通性嫌気性複合細菌群』が、通性嫌気性状態で共存できる上記3種類の細菌によって構成されていることを理解することができます。また、当業者にとって、これ以上具体的な菌の種類の特定は不要です。
(2)『(ク)』について
通性嫌気性膜生物反応器内のパラメータ制御には、流入量と流出量の調節、曝気装置の曝気量の調節といった、浄水工程で常用される制御方法を使用することができるのは、当業者には明らかです。また、上記の通り、本願明細書の記載によって、本願発明1の『通性嫌気性複合細菌群』が、通性嫌気性状態で共存できる上記3種類の細菌によって構成されていることも明らかですので、通性嫌気性膜生物反応器内の所要のパラメータを、流入量と流出量の調節、曝気量の調節といった、浄水工程で常用される制御方法を使用して、上記通性嫌気性状態で共存できる3種類の細菌の繁殖に適した状態になるように制御すればよいことは、本願明細書及び図面に接した当業者には明らかです。
(3)『(ケ)』について
上記(1)、(2)でご説明しました通り、当業者は、本願の発明の詳細な説明及び図面の記載に基づいて、本願発明1における通性嫌気性膜生物反応器内の『通性嫌気性複合細菌群』及び『通性嫌気性状態』を形成することができ、本願の発明の詳細な説明及び図面の記載に基づいて本願発明1を実施できることは明らかです。」

(イ)そこで検討すると、当業者が本願発明1を実施するためには、請求項1において特定される、「有機スラッジを通性嫌気性膜生物反応器内から排出しないことにより有機スラッジを燐酸塩除去の補充炭素源とすると同時に、通性嫌気性膜生物反応器内に形成された通性嫌気性状態において、自己代謝を通して通性嫌気性膜生物反応器内で同期に汚水中の有機物、アンモニア態窒素、燐酸塩を分解して二酸化炭素、窒素ガス、ホスフィン、ダイホスフィンおよび水を生成し、二酸化炭素、窒素ガス、ホスフィン、ダイホスフィンを空気中に排出」するという機能を発揮する「通性嫌気性複合細菌群」を形成する必要があるのであって、その場合、本願の発明の詳細な説明及び図面において、「通性嫌気性複合細菌群」を構成する菌の種類を特定するか、あるいは、本願の発明の詳細な説明及び図面の記載に基づいて、いずれかから上記「通性嫌気性複合細菌群」を入手した上で、通性嫌気性膜生物反応器内を、当該「通性嫌気性複合細菌群」の繁殖に適した「通性嫌気性状態」に制御しなければならないことは、明らかである。

(ウ)ところが、本願の発明の詳細な説明及び図面には、上記の機能を発揮する「通性嫌気性複合細菌群」が、どのような種類の細菌から構成されているのかが記載されていないし、本願優先日における技術常識から、そのような「通性嫌気性複合細菌群」を構成する細菌が当業者にとって自明であるということもできないことは、上記2(キ)に記載のとおりであり、請求人が主張する本願明細書の発明の詳細な説明の【0010】、【0011】、更に、【0012】、【0013】の記載は、上記「通性嫌気性複合細菌群」の機能を開示しているに過ぎず、上記「通性嫌気性複合細菌群」がどのような種類の細菌から構成されているのかを、何ら開示していない。
また、本願の発明の詳細な説明及び図面の記載に基づいて、いずれかから上記「通性嫌気性複合細菌群」を入手できるのであれば、上記「通性嫌気性複合細菌群」の具体的な菌種の特定までは不要であるといえなくはないが、本願の発明の詳細な説明及び図面の記載は、上記「通性嫌気性複合細菌群」を入手する方法を開示するものでもない。

(エ)更に、本願の発明の詳細な説明及び図面の記載は、上記「通性嫌気性複合細菌群」の繁殖に適した条件を何ら開示していない。
そして、上記2(ウ)?(エ)に記載される上記「通性嫌気性複合細菌群」の反応プロセスは、通常の生物学的硝化、脱窒、脱燐における反応プロセスとは異なっていることは、上記2(キ)に記載のとおりであり、反応プロセスが互いに異なる、上記「通性嫌気性複合細菌群」細菌群の繁殖に適した条件と、通常の生物学的硝化、脱窒、脱燐における細菌群の繁殖に適した条件が同じものであると直ちにいえるものではないので、上記「通性嫌気性複合細菌群」の繁殖に適した条件が、浄水工程で常用される制御方法を使用するものであるといえるものでもない。
そうすると、本願の発明の詳細な説明及び図面の記載に接した当業者は、通性嫌気性膜生物反応器内のいかなるパラメータをどのように制御すれば、上記通性嫌気性膜生物反応器内が上記「通性嫌気性複合細菌群」の繁殖に適した状態、すなわち「通性嫌気性状態」となるのかも、理解することができない。

(オ)上記(ウ)、(エ)によれば、請求人の上記意見書の主張をみても、本願の発明の詳細な説明及び図面の記載に接した当業者が、上記「通性嫌気性複合細菌群」及び「通性嫌気性状態」を形成することができないことは明らかであるので、請求人の上記意見書における「(1)『(キ)』について」、「(2)『(ク)』について」、「(3)『(ケ)』について」の主張はいずれも採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、本願は、本願発明1について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-11-13 
結審通知日 2018-11-14 
審決日 2018-11-27 
出願番号 特願2014-102027(P2014-102027)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 典子井上 能宏天野 皓己  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 山崎 直也
金 公彦
発明の名称 有機スラッジ排出無しの汚水中有機物・アンモニア態窒素・燐酸塩同期分解方法  
代理人 尾崎 隆弘  

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