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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
管理番号 1350978
審判番号 不服2017-14088  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-09-22 
確定日 2019-04-10 
事件の表示 特願2014-550541「難燃剤として膨張性黒鉛を有する屋根材膜」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月 4日国際公開、WO2013/102208、平成27年 4月23日国内公表、特表2015-511967〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成24年12月31日(優先権主張 平成23年12月29日 米国(US))に国際出願され、平成26年9月8日付けで上申書とともに手続補正書が提出され、平成28年10月14日付けで拒絶理由が通知され、平成29年1月13日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年5月11日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年9月22日に拒絶査定不服審判が請求され、当審において平成30年7月2日付けで拒絶理由が通知され、同年8月30日に意見書とともに手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1ないし12に係る発明は、平成30年8月30日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるとおりのものであって、そのうち、請求項4に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「屋根材膜であって、
20?50重量%の硬化エチレン-プロピレン-ジエンゴムと、70?100重量部のカーボンブラックと、5?60重量部のタルクと、55?95重量部の増量剤と、膨張性黒鉛とを含み、前記重量部は、前記硬化エチレン-プロピレン-ジエンゴム100重量部を基準とする、第1の層と、
硬化エチレン-プロピレン-ジエンゴムを含み、膨張性黒鉛を含まない、第2の層と、
を含み、
前記膨張性黒鉛は、30μm?1.5mmの範囲の平均粒径を有し、
前記膨張性黒鉛は、少なくとも160℃の開始温度を有し、
前記膨張性黒鉛は、1?10の範囲のpHを有し、
前記膨張性黒鉛のpHが1?6である場合、前記第1の層は、ゴム100重量部当たり、2?30重量部の膨張性黒鉛を含み、
前記膨張性黒鉛のpHが5?10である場合、前記第1の層は、ゴム100重量部当たり、2?64重量部の膨張性黒鉛を含む、屋根材膜。」

第3 当審における拒絶理由の概要

当審において、平成30年7月2日付けで通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)は、
「(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
というものである。

引用文献1:特開昭64-52951号公報
引用文献2:特開2002-128932号公報
引用文献3:特開2010-90261号公報
引用文献4:特開2010-70598号公報
引用文献5:特開2007-59336号公報

第4 当審の判断

(1)当審拒絶理由で引用した引用文献1の記載
当審拒絶理由で引用した引用文献1(特開昭64-52951号公報。以下、単に「引用文献1」という。以下同様。)には、以下のことが記載されている。
ア 「1.耐焔性のEPDM材料の上部層と耐焔性をもたないEPDM材料の下部層とから成ることを特徴とする耐焔性をもった屋根用複合材料。
2.耐焔性のEPDMの上部膜と耐焔性をもたないEPDMの下部膜とから成り、該上部膜の上部表面は大気に露出し、底部表面は該下部膜の上部表面に接合しており、該下部膜の底部表面は屋根の基質に隣接していることを特徴とする耐焔性をもつ硬化した屋根用積層シート膜。」(特許請求の範囲請求項1及び2)

イ 「前述のように本発明の屋根用組成物の上部層に使用される耐焔性EPDM組成物はさらに耐焔性添加剤を含んでいる。一般にEPDMエラストマーに耐焔性を賦与する当業界に公知の任意の耐焔性添加剤を、本発明の組成物に使用することができる。即ち使用できる耐焔性添加剤には、ハロゲン化芳香族化合物、例えばテトラブロモビスフェノール-Aのビス-(アシルオキシエチル)エーテル、デカブロモジフェニルオキシド等;臭素化合物、例えば臭素化されたエーテル、臭素化されたイミド等;塩素化されたポリエチレン;水和した金属酸化物、例えば三水酸化アルミニウム;及び三酸化アンチモン及び硼酸亜鉛が含まれる。しかし好適な耐焔性添加剤はデカブロモジフェニルオキシド(DBDPO)と三酸化アンチモンまたは硼酸亜鉛または三酸化アンチモンと硼酸亜鉛との混合物の組み合わせである。DBDPO対三酸化アンチモンまたは硼酸亜鉛または三酸化アンチモンと硼酸亜鉛との混合物の比は1:1?4:1の範囲内にあり、3:1が好適である。EPDM組成物に使用する耐焔性添加剤の量はEPDMエラストマー100重量部当り約30?約70、好ましくは40?60重量部である。
本発明の組成物はまた他の通常のゴム配合成分及び加硫成分を含むことができる。即ち本発明の組成物は加工油または軟化油を含むことができ、これはそのままの形で加えることもでき、或いは油で伸展されたゴム、酸化亜鉛、ステアリン酸、硫黄、酸化防止剤、紫外線安定剤、促進剤、硬化遅延剤、加工助剤、粘着化樹脂等により加えることができる。充填剤、例えばカーボン・ブラック、硅酸塩、タルク、雲母、炭酸カルシウム等を使用することができ、典型的には通常のカーボン・ブラックが使用される。
屋根用のシートまたは雨押え材料の製造に使用される加硫可能なエラストマー組成物は、組成物中の成分を内部混合機、例えばバンバリー(Banbury)混合機、押出機及び/又は2個ロール混練機中で混合することによりつくることができる。B型バンバリー内部混合機中に乾燥または粉末状の材料を迅速に加え、次いで任意の液体、例えば加工油、可塑剤等を加え、最後にエラストマーを加える。この種の混合はしばしばアプサイド・ダウン(upside-down)混合法と言われる。」(6頁左上欄最下行?右下欄2行)

ウ 「実施例
本実施例においては標準のEPDM組成物及び耐焔性をもったEPDM組成物を用い本発明の屋根用複合体をつくった。これらの組成物は次の組成をもっている。
成分 標準EPDM 耐焔性EPDM
EPDM 100 100
カーボン・ブラック 80?160 80?160
加工油 50?120 50?120
鉱物性充填材 0?50 20?80
(タルク、粘土等)
DBDPO -- 25?50
三酸化アンチモン -- 8?20
硼酸亜鉛 -- 0?20
酸化亜鉛 2?10 2?10
ステアリン酸 0.5?1.5 0.5?1.5
硫黄 0.5?1.5 0.5?1.5
テトラメチルチウラム 0.3?0.8 0.3?0.8
ジスルフィド
テトラエチルチウラム 0.3?0.8 0.3?0.8
ジスルフィド
N-t-ブチル-2-ベンゾ 1.5?3.0 1.5?3.0
チアジルスルフェンアミド

前記に記載した方法を用い各成分を混合する。
下記の一般的方法によって複合体をつくった。先ず標準のEPDM組成物を0.040インチの厚さにカレンダー掛けする。次いで耐焔性EPDM組成物を厚さ0.020インチにカレンダー掛けする。標準及び耐焔性EPDMのカレンダー掛けしたシートを加圧カレンダー・ロールを用いて熱い内に互いに重ね合わせ、耐焔性EPDMシートを標準EPDMシートに積層化して複合シートにする。得られた複合シートを通常の方法でオートクレーブ中において水蒸気雰囲気中で硬化させる。
耐焔性EPDMが大気に露出し非耐焔性EPDMが屋根の断熱材に隣接した得られた屋根用シート複合体の試料について、下記文献記載の方法を使用してアンダーライター・ラボラトリーズ(Underwriter Laboratories)社によって評価を行った。『スタンダード・フォア・テスツ・フォア・ファイア・レジスタンス・オヴ・ルーフ・カヴァリング・マテリアルズ(Standard For Tests For Fire Resistance of Roof Covering Materals)、UL790、第5版』1983年10月5日発行。本発明の屋根用複合シートはUL790の分類の一つ以上に合格した。」(6頁右下欄19行?7頁左下欄2行)

(2)引用文献2?5の記載
引用文献2(特開2002-128932号公報)には、以下のことが記載されている。
エ 「【請求項1】 EPDMの加硫発泡体からなり、膨張性黒鉛と水和金属化合物を含有してハロゲンフリーであることを特徴とするゴム系難燃発泡体。」(請求項1)

引用文献3(特開2010-90261号公報)には、以下のことが記載されている。
オ 「【請求項1】
エチレンープロピレン系ゴムを主体とする合成ゴムに膨張性黒鉛を配合した、過酸化物架橋されたゴム組成物。」(請求項1)

カ 「膨張性黒鉛を合成ゴムや合成樹脂に練り込んで、難燃ゴム材料として使用することは比較的古い技術であるが、近年、ダイオキシンの発生原因をなくすためにノンハロゲン化の要求の高まりとともに、ノンハロゲン難燃材料としてのニーズが高まり、より注目されてきている。例えば、特許文献1には、樹脂エラストマーであるスチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)に、膨張性黒鉛とポリフェニレンエーテルを配合して難燃化する技術が開示されている。この技術は膨張性黒鉛を配合することにより、外部からの加熱によって、組成物が膨張することを可能とするとともに該エラストマー組成物が難燃化されるものである。
【特許文献1】特開2002-338779号公報
また、ゴム組成物に膨張性黒鉛を配合した技術としては、特許文献2に、未加硫ゴムに膨張性黒鉛とリン化合物を配合し、シート状にして基材と積層一体化した耐火被覆材が開示されている。本技術に関連して、未加硫のブチルゴムに難燃系材料や膨張性黒鉛を配合して、そのまま未加硫ゴムのテープ状としたものが既に実用化され、積水化学株式会社から商品名「フィブロック(登録商標)」の名称で販売されている。
【特許文献2】特開平11-131631号公報
膨張性黒鉛を配合した加硫ゴムによる難燃ゴム製品はいまだ市販されるに至っていないが、特許文献3には、ニトリル共重合ゴムに膨張性黒鉛を配合したゴム組成物を硫黄架橋した加硫ゴム組成物が開示されている。
【特許文献3】特開2005-239920号公報
各種ゴム成形品の成形材料に使用される合成ゴムの代表例としては、エチレンープロピレン系ゴム、特にエチレン-プロピレン-ジエンゴム(以下EPDM)が、汎用のジエン系ゴムに比較して耐熱性、耐候性などで優れており、電線、ウェザーストリップ、あるいは自動車部品などの押出製品に数多く使用されている。
EPDMの架橋方法としては、一般的には硫黄架橋により製品化されることが多い。硫黄架橋は、比較的簡便なオープン架橋方式によっても架橋できるため、汎用の用途としては、硫黄を架橋剤として用いる方法が実施されてきた。しかしながら、自動車部品のように耐熱性が特に要求されるようになってくると、硫黄架橋では満足いく特性のものが得られにくくなってきている。また、硫黄架橋すると、製造設備が硫黄により汚染されたり、ゴム中の硫黄が溶出したりするため、汚染性を考慮する場合は、硫黄を使用しない架橋方法で架橋させることが好ましい。また、有機過酸化物架橋を行う方が、得られるゴム組成物の耐熱性が向上する事も知られてきた。そのため、近年においては、EPDMのような合成ゴムにおいても、ポリマー間に?C?C?結合が導入できる有機過酸化物による架橋方式が注目されてきており、その採用が望まれていた。」(段落【0002】?【0006】)

キ 「本発明に使用可能な膨張性黒鉛の代表的な物性は以下の通りであるが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。粒子径は、45?500μm、ph値5?8、外部からの加熱による膨張開始温度は130?300℃である。膨張開始温度については、処理される化学品により決定される。膨張性黒鉛としては、例えば、三洋貿易株式会社から商品名「SYZR1003」の名称で市販されている製品などが使用できる。
膨張性黒鉛の配合部数は、所望される製品の特性や使用するポリマー成分により調整されるため一律には規定できないが、ポリマー成分100重量部に対し、膨張性黒鉛が1部以下であると、加熱による膨張性の効果的な発現が望みにくく、500重量部を超えると、配合設計によっては充填しにくくなり、ゴム製品としての弾性の喪失、硬度の上昇などの欠点が認められる。従って、所望される膨張率にもよるが、ゴム性とのバランスを考慮して、3?300重量部が好適な配合部数となる。

本発明の実施に好適な配合量の例を以下に示す。ゴム成分としてのエチレンープロピレン系ゴム100重量部に、膨張性黒鉛3?300重量部、上記有機過酸化物0.01?15重量部を配合することにより、ゴムの過酸化物架橋を好適に行うことができる。」(段落【0026】?【0030】)

引用文献4(特開2010-70598号公報)には、以下のとおりのことが記載されている。
ク 「【請求項1】
合成ゴムに炭素質と有機過酸化物と脂肪酸エステルを配合したゴム組成物であって、合成ゴムはエチレンープロピレン系ゴムを主体とするゴムであり、有機過酸化物はベンゾイルパーオキシド、またはt-ブチルパーオキシベンゾエートであり、脂肪酸エステルはペンタエリスリトール脂肪酸エステルであることを特徴とする、オープン架橋用ゴム組成物。
【請求項2】
スチレン-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、天然ゴムのうち少なくとも1つをエチレンープロピレン系ゴムにブレンドしたことを特徴とする請求項1に記載のオープン架橋用ゴム組成物。
【請求項3】
炭素質として膨張性黒鉛を配合したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のオープン架橋用ゴム組成物。
【請求項4】
合成ゴムに炭素質と有機過酸化物と脂肪酸エステルを配合したゴム組成物の架橋方法であって、合成ゴムとしてエチレンープロピレン系ゴムを主体とするゴム、有機過酸化物としてベンゾイルパーオキシド、またはt-ブチルパーオキシベンゾエート、脂肪酸エステルとしてペンタエリスリトール脂肪酸エステルを混練した後、オープン架橋により架橋することを特徴とするゴム組成物の過酸化物架橋方法。
【請求項5】
炭素質として膨張性黒鉛を配合したことを特徴とする請求項4に記載のゴム組成物の過酸化物架橋方法。」(請求項1?5)

ケ 「炭素質をゴム組成物に配合することは、合成ゴムにカーボンブラックを練り込んで、ゴムの諸特性を改善することなどが従来から広く行われてきた。
また、膨張性黒鉛を合成ゴムや合成樹脂に練り込んで、難燃ゴム材料として使用することも比較的古い技術であるが、近年、ダイオキシンの発生原因をなくすためにノンハロゲン化の要求の高まりとともに、ノンハロゲン難燃材料としてのニーズが高まり、より注目されてきている。例えば、特許文献1には、樹脂エラストマーであるスチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)に、膨張性黒鉛とポリフェニレンエーテルを配合して難燃化する技術が開示されている。この技術は膨張性黒鉛を配合することにより、外部からの加熱によって、組成物が膨張することを可能とするとともに該エラストマー組成物が難燃化されるものである。
【特許文献1】特開2002-338779号公報
また、ゴム組成物に膨張性黒鉛を配合した技術としては、特許文献2には、未加硫ゴムに膨張性黒鉛とリン化合物を配合し、シート状にして基材と積層一体化した耐火被覆材が開示されている。本技術に関連して、未加硫のブチルゴムに難燃系材料や膨張性黒鉛を配合して、そのまま未加硫ゴムのテープ状としたものが既に実用化され、積水化学株式会社から商品名「フィブロック」の名称で販売されている。なお、膨張性黒鉛を配合した加硫ゴムによる難燃ゴム製品はいまだ市販されるに至っていない。
【特許文献2】特開平11-131631号公報
各種ゴム成形品の成形材料に使用される合成ゴムの代表例としては、エチレンープロピレン系ゴム、特にエチレン-プロピレン-ジエンゴム(以下EPDM)が、汎用のジエン系ゴムに比較して耐熱性、耐候性などで優れており、電線、ウェザーストリップ、あるいは自動車部品などの押出製品に数多く使用されている。
EPDMの架橋方法としては、一般的には硫黄架橋により製品化されることが多い。硫黄架橋は、比較的簡便なオープン架橋方式によっても架橋できるため、汎用の用途としては、硫黄を架橋剤として用いる方法が実施されてきた。しかしながら、自動車部品のように耐熱性が特に要求されるようになってくると、硫黄架橋では満足いく特性のものが得られにくくなってきている。また、硫黄架橋すると、製造設備が硫黄により汚染されたり、ゴム中の硫黄が溶出したりするため、汚染性を考慮する場合は、硫黄を使用しない架橋方法で架橋させることが好ましい。また、有機過酸化物架橋を行う方が、得られるゴム組成物の耐熱性が向上する事も知られてきた。そのため、近年においては、EPDMのような合成ゴムにおいても、ポリマー間に?C?C?結合が導入できる有機過酸化物による架橋方式が注目されてきており、その採用が望まれていた。」(段落【0002】?【0006】)

コ 「本発明に使用可能な膨張性黒鉛の代表的な物性は以下の通りであるが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。粒子径は、45?500μm、ph値5?8、外部からの加熱による膨張開始温度は130?300℃である。膨張開始温度については、処理される化学品により決定される。膨張性黒鉛としては、例えば、三洋貿易株式会社から商品名「SYZR2003」の名称で市販されている製品などが使用できる。
膨張性黒鉛の配合部数は、所望される製品の特性や使用するポリマー成分により調整されるため一律には規定できないが、ポリマー成分100重量部に対し、膨張性黒鉛が1部以下であると、加熱による膨張性の効果的な発現が望みにくく、500重量部を超えると、配合設計によっては充填しにくくなり、ゴム製品としての弾性の喪失、硬度の上昇などの欠点が認められる。従って、所望される膨張率にもよるが、ゴム性とのバランスを考慮して、3?300重量部が好適な配合部数となる。」(段落【0030】?【0031】)

引用文献5(特開2007-59336号公報)には、以下のとおりのことが記載されている。
サ 「【請求項1】
導体外周に、エチレン系ポリマーを主体とするノンハロゲン難燃性被覆を備えた難燃電線・ケーブルであって、
前記ノンハロゲン難燃性被覆は、エチレン系ポリマー100重量部に対し、加熱膨張性黒鉛3?30重量部を含有するノンハロゲン難燃性組成物からなる難燃層を有することを特徴とする難燃電線・ケーブル。」(請求項1)

シ 「本発明は、ノンハロゲン難燃材料を被覆した環境保全性の高い難燃電線・ケーブルに関する。
【背景技術】
ポリ塩化ビニル(PVC)は、絶縁特性が比較的良好なうえ、分子中にハロゲン(Cl)を含むため難燃性に優れており、さらに、耐油性、耐オゾン性、耐薬品性、耐水性なども良好であることから、電線・ケーブルの絶縁体やシース材料として広く用いられている。
一方、近年、地球環境保護に対する意識が高まるなか、環境負荷の大きい材料の使用を規制しようとする動きが強まっており、上記PVCについても、火災時や焼却処理の際にハロゲンに起因する有害なハロゲンガスやダイオキシンを発生することから、その使用が制限されつつある。
このため、PVCに代わる環境保全性の高い電線・ケーブル被覆用難燃材料、すなわち、ハロゲンを含有せず、燃焼時にハロゲンガスやダイオキシンなどの有害な物質が発生するおそれのないノンハロゲン難燃材料が強く求められている。
このような電線・ケーブル被覆用ノンハロゲン難燃材料としては、可燃性のエチレン系ポリマー、例えばポリエチレンに、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物を多量に添加して難燃化したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
しかしながら、この組成物は、金属水酸化物の多量の添加によって、エチレン系ポリマー本来の優れた特性、特に機械的特性(例えば、引張強さ、伸びなど)が損なわれ、これを用いた電線・ケーブルは十分な要求特性を具備することができないという問題があった。
【特許文献1】特開2000-11765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、PVCに代わる環境保全性の高いノンハロゲンの電線・ケーブル被覆用難燃材料が求められているが、従来の可燃性のエチレン系ポリマーに、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物を添加して難燃化したものは、特に機械的特性が低下するという問題があった。
本発明はこのような従来技術の課題を解決するためになされたもので、PVCに匹敵する難燃性を有し、かつ、機械的特性も良好なノンハロゲンの難燃被覆材料を用いた環境保全性の高い難燃電線・ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、エチレン系ポリマーに対し、急速な加熱によってC軸方向(黒鉛のへき開面に直角な方向)に大きく膨張する加熱膨張性黒鉛を特定量配合したノンハロゲン難燃性組成物からなる難燃層を有する被覆を設けることにより、従来のハロゲン系材料を用いた電線・ケーブルに匹敵する難燃性と機械的特性を備えたノンハロゲンの難燃電線・ケーブルが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」(段落【0001】?【0009】)

ス 「エチレン系ポリマーとしては、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などのポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン・アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン・メタクリル酸エチル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・プロピレン共重合体(EP)、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体(EPDM)、ポリイソプチレンなどが例示される。また、メタロセン触媒によりエチレンにプロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテンなどのα-オレフィンや環状オレフィンなどを共重合させたものなども使用することができる。これらは単独または混合して使用される。本発明においては、なかでも、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体およびエチレン・プロピレン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の使用が好ましく、特に、エチレン・酢酸ビニル共重合体の使用が、良好な機械的特性を得るうえで好ましい。」(段落【0024】)

(3)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、上記(1)ア及びウで摘示した記載によれば、以下のとおりの発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「標準のEPDM組成物を0.040インチの厚さにカレンダー掛けし、次いで耐焔性EPDM組成物を厚さ0.020インチにカレンダー掛けした後、標準及び耐焔性EPDMのカレンダー掛けしたシートを加圧カレンダー・ロールを用いて熱い内に互いに重ね合わせ、耐焔性EPDMシートを標準EPDMシートに積層化して複合シートにし、得られた複合シートをオートクレーブ中において水蒸気雰囲気中で硬化させることにより得られた、硬化した屋根用積層シート膜であって、
当該標準のEPDM組成物は、EPDM 100重量部、カーボン・ブラック 80?160重量部、加工油 50?120重量部、鉱物性充填材(タルク、粘土等) 0?50重量部、酸化亜鉛 2?10重量部、ステアリン酸 0.5?1.5重量部、硫黄 0.5?1.5重量部、テトラメチルチウラムジスルフィド 0.3?0.8重量部、テトラエチルチウラムジスルフィド 0.3?0.8重量部及びN-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド 1.5?3.0重量部からなる成分を混合したものであり、
当該耐焔性EPDM組成物は、EPDM 100重量部、カーボン・ブラック 80?160重量部、加工油 50?120重量部、鉱物性充填材(タルク、粘土等) 20?80重量部、DBDPO 25?50重量部、三酸化アンチモン 8?20重量部、硼酸亜鉛 0?20重量部、酸化亜鉛 2?10重量部、ステアリン酸 0.5?1.5重量部、硫黄 0.5?1.5重量部、テトラメチルチウラムジスルフィド 0.3?0.8重量部、テトラエチルチウラムジスルフィド 0.3?0.8重量部及びN-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド 1.5?3.0重量部からなる成分を混合したものである、
硬化した屋根用積層シート膜。」(なお、「DBDPO」は「デカブロモジフェニルオキシド」の略称である。)

(4)対比、判断
ア 本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「屋根用積層シート膜」は本願発明における「屋根材膜」に相当し、引用発明における「耐焔性EPDMシート」は本願発明における「第1の層」に、「標準EPDMシート」は「第2の層」に、それぞれ対応する。
そして、引用発明の「耐焔性EPDM組成物」における「カーボン・ブラック 80?160重量部」は本願発明における「70?100重量部のカーボンブラック」に相当し、引用発明の「耐焔性EPDM組成物」における「加工油 50?120重量部」は、本願明細書の段落【0042】の記載からすると、本願発明における「55?95重量部の増量剤」に相当し、引用発明の「耐焔性EPDM組成物」における「鉱物性充填材(タルク、粘土等) 20?80重量部」は、鉱物性充填材としてタルクのみの場合を包含するものであるから、本願発明における「5?60重量部のタルク」に相当するといえる。
また、引用発明の「耐焔性EPDM組成物」における「DBDPO 25?50重量部、三酸化アンチモン 8?20重量部、硼酸亜鉛 0?20重量部」は、本願発明における、ゴム100重量部当たり、「2?30重量部」あるいは「2?64重量部」の「膨張性黒鉛」に、所定量の難燃剤である限りにおいて相当するといえる。
そして、引用発明における耐焔性EPDM組成物中のEPDMの量を計算すると、100×100/(100+80?160+50?120+20?80+25?50+8?20+0?20+2?10+0.5?1.5+0.5?1.5+0.3?0.8+0.3?0.8+1.5?3.0)=約17.6?34.7重量%と算出されるから、本願明細書の段落【0044】の記載からすると、本願発明における「20?50重量%の硬化エチレン-プロピレン-ジエンゴム」に相当するといえる。
そうすると、両発明は、次の一致点で一致し、

<一致点>
「屋根材膜であって、
20?50重量%の硬化エチレン-プロピレン-ジエンゴムと、70?100重量部のカーボンブラックと、5?60重量部のタルクと、55?95重量部の増量剤と、所定量の難燃剤とを含み、前記重量部は、前記硬化エチレン-プロピレン-ジエンゴム100重量部を基準とする、第1の層と、
硬化エチレン-プロピレン-ジエンゴムを含む、第2の層と、
を含む、
屋根材膜。」

次の相違点1及び2で相違するといえる。

<相違点1>
所定量の難燃剤に関し、本願発明では、「膨張性黒鉛」を含み、「前記膨張性黒鉛は、30μm?1.5mmの範囲の平均粒径を有し」、「前記膨張性黒鉛は少なくとも160℃の開始温度を有し」、「前記膨張性黒鉛は、1?10の範囲のpHを有し」、「前記膨張性黒鉛のpHが1?6である場合、前記第1の層は、ゴム100重量部当たり、2?30重量部の膨張性黒鉛を含み、前記膨張性黒鉛のpHが5?10である場合、前記第1の層は、ゴム100重量部当たり、2?64重量部の膨張性黒鉛を含む」と特定しているのに対し、引用発明では、「DBDPO 25?50重量部、三酸化アンチモン 8?20重量部、硼酸亜鉛 0?20重量部」を含むと特定している点。

<相違点2>
第2の層(標準EPDMシート)に関し、本願発明では、「膨張性黒鉛を含まない」と特定しているのに対し、引用発明では、「DBDPO、三酸化アンチモン及び硼酸亜鉛」を含有していない点。

イ 相違点の検討
(ア)相違点1の検討
相違点1に関し以下に検討する。
一般に、本願出願時において、EPDM等のポリオレフィン系樹脂の難燃化に際して、ノンハロゲン化が求められており、そのために用いられる難燃剤として「膨張性黒鉛」が知られていたことは、当業者にとり周知であったものと認められる(例えば、上記(2)エ?スで摘示した記載を参照。)。
そして、難燃剤として用いられる「膨張性黒鉛」として、粒子径が45?500μm、pH値5?8、及び、外部からの加熱による膨張開始温度が130?300℃の物性を有するものは、膨張性黒鉛の代表的なものであると認められる(例えば、摘示(2)キ及びコを参照のこと。)。加えて、カタログ(https://sanyocorp.com/wp-content/uploads/2012/06/Expandable_Graphite_SYZR.pdf 検索日平成30年10月17日)によれば、摘示第4(2)キ及びコで例示された、SYZR1003は、膨張開始温度300℃、粒子サイズ100メッシュ(すなわち目開き149μm)であることが確認できる。
また、「膨張性黒鉛」の配合部数について、ポリマー(ゴム)成分100重量部に対して、3?300重量部が好適であることも、本願優先日においてよく知られていたことであると認められる(例えば、摘示(2)キ及びコを参照のこと。)。
一方、引用文献1には、「一般にEPDMエラストマーに耐焔性を賦与する当業界に公知の任意の耐焔性添加剤を、本発明の組成物に使用することができる。」(摘示(1)イ)とも記載されている。
そうであれば、引用発明において、耐焔性EPDM組成物において用いられている耐焔性添加剤(難燃剤)である「DBDPO 25?50重量部、三酸化アンチモン 8?20重量部、硼酸亜鉛 0?20重量部」に代えて、ノンハロゲン系の難燃剤である膨張性黒鉛を採用し、その際に、その物性として、粒子径(平均粒径)が45?500μmであり、外部からの加熱による膨張開始温度(開始温度)が160?300℃であり、pHが5?8であるものを選択し、その配合量を3?64重量部とすることに格別の困難性はなく、それによる効果も、引用文献1及び上記周知の事項(引用文献2ないし5)からみて格別のものではない。
したがって、相違点1は、当業者が容易に想到し得るものであり、それによる効果も格別のものではない。

(イ)相違点2の検討
相違点2に関し以下に検討する。
引用発明においては、標準EPDMシートには、もともと難燃剤である「膨張性黒鉛」も「DBDPO、三酸化アンチモン及び硼酸亜鉛」も含まないから、相違点1で述べたとおり、「DBDPO、三酸化アンチモン及び硼酸亜鉛」に代えて「膨張性黒鉛」を採用したとしても、標準EPDMシートが「膨張性黒鉛」を含まないことについては変わりはない。
したがって、相違点2は、実質的な相違点ではない。

以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、すなわち引用文献1に記載された発明及び周知の事項から当業者が容易に想到し得るものである。

第5 請求人の主張について

請求人は、平成30年8月30日に提出した意見書において、新請求項1、4に係る発明は、膨張性黒鉛のpHと開始温度と量を特定範囲にすることによって優れた難燃特性を有する屋根材膜が得られるものであり、この効果は、引用文献1および引用文献2?5には記載がなく、出願時の技術水準から当業者が予測することができたものではないため、引用文献1に記載された発明に対して進歩性を有すると主張する。その根拠として、本願明細書の表3を見ると、開始膨張温度が200℃であり、pHが1?6である膨張性黒鉛Iの量が64重量部であるサンプル17では、耐燃焼性の評価は「3」であるが、膨張性黒鉛Iの量が30重量部であるサンプル18では、耐燃焼性の評価は最高の「5」であり、また、開始膨張温度が105℃であり、pHが5?10である膨張性黒鉛IIIを用いた場合、膨張性黒鉛IIIの量が64重量部であるサンプル21では、耐燃焼性の評価は「3」であるが、pHが同じであっても、開始膨張温度が200℃である膨張性黒鉛IIを用いた場合、量が同じ64重量部であるサンプル20では、耐燃焼性の評価は最高の「5」であることを挙げている。
しかしながら、請求人が主張する当該効果は、本願発明の全ての範囲にわたって奏されるものであるとはいえない(例えば、ゴム100重量部当たり下限配合量である2重量部の膨張性黒鉛を含む場合であっても耐燃焼性の評価が「5」となるとは到底認められない。)。そもそも、本願明細書の表3自体、ゴム100重量部(pbw)に基づきカーボンブラックを117重量部(pbw)配合するものであり、本願発明におけるカーボンブラックの上限配合量である100重量部を超えるものであるから、サンプル18、20は、本願発明の実施例とはいえないものである。
したがって、請求人の主張は採用することができない。

第6 むすび

以上のとおり、当審において通知した拒絶理由は妥当なものであるから、本願は、この理由によって拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-11-06 
結審通知日 2018-11-13 
審決日 2018-11-27 
出願番号 特願2014-550541(P2014-550541)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡谷 祐哉  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 近野 光知
小柳 健悟
発明の名称 難燃剤として膨張性黒鉛を有する屋根材膜  
代理人 杉村 憲司  
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