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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A44C
管理番号 1350986
審判番号 不服2017-16924  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-11-15 
確定日 2019-04-11 
事件の表示 特願2016- 55691「イヤリングおよびイヤリングの留め具」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月16日出願公開、特開2016-105948〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成25年3月22日に出願された実願2013-1572号(以下、「基礎出願」という。)に係る実用新案登録第3183834号(登録日 平成25年5月8日)に基づいて、特許法第46条の2第1項の規定により、平成28年3月18日にされた特許出願であって、平成29年5月8日付けの拒絶理由の通知に対し、平成29年6月7日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成29年8月8日付けで拒絶査定がなされ(発送日 平成29年8月15日)、これに対して平成29年11月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その後、当審において、平成30年9月26日付けで拒絶理由が通知され、平成30年11月29日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 本願発明

本願の請求項に係る発明は、平成30年11月29日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「耳たぶを前後から挟み込むことによって耳たぶに固定されるイヤリングであって、
耳たぶの正面から下方を通って背面まで至る形状に形成された留め具と、
前記留め具に取り付けられた装飾具とを備え、
前記留め具は、
耳たぶの正面に当接する正面当接部と、
耳たぶの背面に当接するとともに、前記正面当接部と協働して耳たぶを挟み込む背面当接部と、
前記正面当接部および前記背面当接部の間に形成されるとともに、前記正面当接部と、前記背面当接部とを近接させる方向に付勢する付勢部とを備え、
前記付勢部は、前記正面当接部と、前記背面当接部とを近接させる方向と直交する方向を軸方向とする弦巻ばね状に前記留め具を湾曲させて形成することによって、前記正面当接部と、前記背面当接部とを近接させる方向に付勢し、前記背面当接部側の位置の一箇所に形成されていることを特徴とするイヤリング。」

第3 拒絶の理由

平成30年9月26日付けで当審が通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)のうちの理由Aは、次のとおりのものである。
本願発明は、本願の出願前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、以下の引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用例1.英国特許第127729号明細書
引用例2.特開平9-224722号公報

第4 引用例の記載及び引用発明

1.引用例1の記載及び引用発明1
(1)引用例1には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。)。
ア.「This invention relates to ear-rings, of the type consisting of a spring clip or bow to which the ornamental part of the ear-ring is attached, and which spring clip is adapted to be held in position by its own spring action upon the lobe of the ear. According to the present invention the bow constituting the ear-ring is coiled so as to furnish same with a more effective gripping action when in position upon the ear.」(第2ページ第3?8行)
(仮訳:本発明は、イヤリングの装飾部が取り付けられ、自らの弾性作用により耳たぶに保持されるスプリングクリップである弓形部からなるタイプのイヤリングに関する。本発明によれば、イヤリングを構成する弓形部は、耳への装着時により効果的なグリップ作用を提供するようにコイル状に巻かれる。)
イ.「In an embodiment of this invention in which the ornamental part of the ear-ring comprises a pearl b or the like, a length of spring wire a is bent to a bow formation, the ends of which bow a are bent inwardly towards each other, so as to form a reduced mouth or opening c to the bow, the one or front end of the wire after being bent inwardly at a^(1) being bent outwardly and connected to the cap b^(1) which supports the pearl b or the like. The other end of the wire a is bent to form a flat eye a^(2), the plane of which is at right angles to the plane of the wire forming the bow a, thus forming a substantially flat surface to the end of the bow for bearing against the back of the lobe of the ear.
To assist in the spring action of the bow, the wire at the centre of the bow is bent to form a coil a^(3), which coil a^(3) is arranged to project within the bow.
For attaching, the bow is slipped on to the lobe of the ear from the side, and is retained in position by the pressure of the two parts a^(1), a^(2) of the bow upon the lobe of the ear.」(第2ページ第14?27行)
(仮訳:イヤリングの装飾部が真珠b等からなる本発明の一実施形態においては、所定長の弾性ワイヤaを曲げて弓形部を形成し、弓形部の両端は、弓形部に対する縮小された口又は開口部cを形成するように、互いに向かって内側に曲げられており、ワイヤの一方端すなわち又は前方端は、a^(1)で内方に曲げられた後に外方に曲げられて真珠b等を支持する口金部b^(1)に接続されている。ワイヤaの他方端は、曲げられて平坦な小環部a^(2)をなし、該小環部の平面は、弓形部aを形成するワイヤの平面と直交し、もって耳たぶの背面に押接するために、弓形部の端部の実質的な平面を形成する。
弓形部の弾性作用を補助するために、ワイヤは、弓形部の中央で曲げられてコイルa^(3)を形成し、コイルa^(3)は弓形部内に突出するように配置される。
装着のために、弓形部は側部から耳の突出部に滑り込まされ、耳の上にある弓の2つの部分a^(1)、a^(2)の圧力によって所定位置に保持される。)
ウ.「1. An ear-ring comprising a spring bow adapted to be held in position upon the ear by the spring of said bow, and in which the bow is coiled to form the spring medium.」(第2ページ第33?35行)
(仮訳:1.弾性力によって耳に保持されるばね弓形部からなるイヤリングであって、前記弓形部がコイル状に巻かれてばね手段を形成する耳リング。)
そして、記載イ並びに第1及び2図の記載からみて、引用例1には次の事項が開示されていると理解できる。
エ.コイルa^(3)は、弓形部aを形成するワイヤの平面と略直交する方向を中心軸としている。
(2)そうすると、これらの事項からみて、本願の請求項1の記載に倣って整理すれば、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「装飾部が取り付けられ、自らの弾性作用により耳たぶに保持されるスプリングクリップである弓形部からなるイヤリングであって、
前記弓形部は、所定長の弾性ワイヤを曲げて形成されており、
前記ワイヤの一方すなわち前方端は、a^(1)で内方に曲げられた後に外方に曲げられて前記装飾部を保持する口金部b^(1)に接続され、
前記ワイヤの他方端は、曲げられて平坦な小環部a^(2)をなし、該小環部a^(2)の平面は、前記弓形部を形成する前記ワイヤの平面と直交し、もって耳たぶの背面に押接される、前記弓形部の端部の実質的な平面を形成しており、
前記弓形部の弾性作用を補助するため、前記ワイヤは、前記弓形部の中央で曲げられて、前記ワイヤの平面と略直交する方向を中心軸とするコイルa^(3)を形成している、イヤリング。」

2.引用例2の記載及び引用発明2
(1)引用例2には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。)。
ア.「【請求項1】 剛体にて構成された身装品にあって、当該身装品の中間部にコイル状に形成された弾性部を備え、当該弾性部を伸縮或いは曲げることによって発生する弾性を利用して装着機能を付加したことを特徴とする身装品の構造。」
イ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は耳飾り、指輪、腕輪等にて代表される身装品の構造に係り、特に言えばコイル状弾性部を備えた耳飾り等の新規な構造に関するものである。」
ウ.「【0018】図7は本発明の身装品としての第5例であるイヤリング耳飾りを示す側面図であり、この例では略半U字状の装飾体本体A、Bをコイル状弾性部4にて連接したものである。そして、装飾体本体A、Bを左右に広げることによってコイル状弾性部4に弾力性を発生させるものであり、耳たぶに挟んだ際にこの弾力性によって装着するものである。尚、図8はこの例における変形例を示し、装飾体本体A、Bは略半円形をなしているものであり、装飾体本体A、Bを左右に広げることによってコイル状弾性部4に弾力性を発生させる機構は図7の例と同様である。更に、図9はこれ又変形例を示すものであり、これは装飾体本体A、Bにおいて装飾体本体BをC型としたものであり、これ又装飾体本体A、Bを左右に広げる(この例では主として装飾体本体B側を広げる)ことによって装着する機構は同様である。尚、これらの例にあっては、装飾体本体A、Bが線状体であれば、コイル状弾性部4と共に一体に形成できるが、装飾体本体A又はBが線状体でない場合にはコイル状弾性部4を別に製造し、これを蝋付けによってコイル状弾性部4が形成されることになる。」
ここで、「更に、図9はこれ又変形例を示すものであり、これは装飾体本体A、Bにおいて装飾体本体BをC型としたものであり、」との記載(下線は、当審が付与した。)は、特に図9の記載からみて、「更に、図9はこれ又変形例を示すものであり、これは装飾体本体A、Bにおいて装飾体本体AをC型としたものであり、」の誤記であると認められる。
そして、引用例2には、同引用例に記載された発明の実施例として、第1例ないし第5例が記載されているが、「耳たぶの前面に位置する装飾体本体A」との記載(段落0017)並びに図5及び6の記載からみて、第4例の身装品は、装飾体本体Aが耳たぶの前面に位置し、装飾体本体Bが耳たぶの後面に位置するものであって、図5及び6は、図面の左側が耳たぶの前面側であると認められる。更に、図4の記載からみて、第3例の身装品も、装飾体本体Aが耳たぶの前面に位置し、装飾体本体Bが耳たぶの後面に位置するものであって、図4も、図面の左側が耳たぶの前面側であると認められ、図1ないし3の記載からみて、図1ないし3も、図面の左側が耳たぶの前面側であると認められる。これらのことからみて、第5例の身装品においても、装飾体本体Aが耳たぶの前面に位置し、装飾体本体Bが耳たぶの後面に位置すると解するのが相当である。
これを踏まえると、図8の記載からみて、引用例2には次の事項が開示されていると理解できる。
エ.コイル状弾性部4を、コイル状弾性部4により連接された装飾体本体A及び装飾体本体Bからなる装飾体本体全体のおおむね中央に設ける。
図9の記載からみて、引用例2には次の事項が開示されていると理解できる。
オ.コイル状弾性部4を、耳たぶの後面側に位置する位置に設ける。
(2)そうすると、これらの事項からみて、本願の請求項1の記載に倣って整理すれば、引用例2には次の技術が記載されていると認められる。
「耳たぶの前面に位置する装飾体本体Aと耳たぶの後面に位置する装飾体本体Bとをコイル状弾性部4にて連接し、装飾体本体A、Bを左右に広げることによってコイル状弾性部4に弾力性を発生させ、耳たぶに挟んだ際にこの弾力性によって装着するイヤリング耳飾りにおいて、
コイル状弾性部4を、コイル状弾性部4により連接された装飾体本体A及び装飾体本体Bからなる装飾体本体全体のおおむね中央に設けるか、あるいは耳たぶの後面側に位置する位置に設ける技術。」

第5 対比・判断

1.対比
本願発明と引用発明を対比する。
ア.引用例1の記載、特に記載イ(前記「第4 1(1)」参照)及び第1図の記載からみて、引用発明のイヤリングの耳への装着時において、自らの弾性作用により耳たぶに保持されるスプリングクリップである弓形部が、耳たぶの正面から下方を通って背面まで至り、弾性ワイヤの前方端の内側に曲げられた部分a^(1)と前記ワイヤの他方端の小環部a^(2)とにより耳たぶを挟むことにより、耳たぶに保持されていることは、明らかである。そうすると、引用発明1の「自らの弾性作用により耳たぶに保持される」ことは、本願発明の「耳たぶを前後から挟み込むことによって耳たぶに固定される」ことに相当し、引用発明の「スプリングクリップである弓形部」は、本願発明の「耳たぶの正面から下方を通って背面まで至る形状に形成された留め具」に相当する。そして、引用発明の「装飾部」は、本願発明の「装飾具」に相当するから、引用発明の「装飾部が取り付けられ、自らの弾性作用により耳たぶに保持されるスプリングクリップである弓形部からなるイヤリング」は、本願発明の「耳たぶを前後から挟み込むことによって耳たぶに固定されるイヤリングであって、耳たぶの正面から下方を通って背面まで至る形状に形成された留め具と、前記留め具に取り付けられた装飾具とを備え」るものに相当する。
イ.前記アで検討したとおり、引用発明のイヤリングは、前記ワイヤの前方端の内側に曲げられた部分a^(1)と前記ワイヤの他方端の小環部a^(2)とにより耳たぶを挟むことにより、耳に装着され、当然、前記装飾部が耳たぶの正面側に位置するから、引用発明の、前記ワイヤの前方端の内側に曲げられた部分a^(1)は、本願発明の「耳たぶの正面に当接する正面当接部」に相当し、引用発明の「前記弓形部は、所定長の弾性ワイヤを曲げて形成されており、」「前記ワイヤの一方すなわち前方端は、a^(1)で内方に曲げられた後に外方に曲げられて前記装飾部を保持する口金部b^(1)に接続され」ることは、本願発明の「前記留め具は、」「耳たぶの正面に当接する正面当接部と」「を備え」ることに相当する。引用発明の「小環部a^(2)」は、本願発明の「耳たぶの背面に当接するとともに、前記正面当接部と協働して耳たぶを挟み込む背面当接部」に相当し、引用発明の「前記弓形部は、所定長の弾性ワイヤを曲げて形成されており、」「前記ワイヤの他方端は、曲げられて平坦な小環部a^(2)をなし、該小環部a^(2)の平面は、前記弓形部を形成する前記ワイヤの平面と直交し、もって耳たぶの背面に押接される、前記弓形部の端部の実質的な平面を形成して」いることは、本願発明の「前記留め具は、」「耳たぶの背面に当接するとともに、前記正面当接部と協働して耳たぶを挟み込む背面当接部と」「を備え」ることに相当する。
ウ.引用発明において、前記弓形部は、前記アにおいて検討したように、前記ワイヤの前方端の内側に曲げられた部分a^(1)と前記小環部a^(2)とにより耳たぶを挟むことで、自らの弾性作用により耳たぶに保持されるから、前記弓形部の弾性作用が、前記ワイヤの前方端の内側に曲げられた部分a^(1)と前記小環部a^(2)とを近接させる方向に付勢しており、更に当該方向が前記弓形部を形成する前記ワイヤの平面が延在する方向であることは明らかである。そして、コイルa^(3)は、前記弓形部の弾性作用を補助するために設けられているから、前記弓形部と同様に、前記ワイヤの前方端の内側に曲げられた部分a^(1)と前記小環部a^(2)とを近接させる方向に付勢しているといえる。そうすると、引用発明の、「前記弓形部の弾性作用を補助するため」に形成された「コイルa^(3)」は、本願発明の「前記正面当接部と、前記背面当接部とを近接させる方向に付勢する付勢部」に相当し、引用発明の「前記ワイヤの平面と略直交する方向」は、本願発明の「前記正面当接部と、前記背面当接部とを近接させる方向と直交する方向」に相当する。
引用発明の「前記弓形部は、所定長の弾性ワイヤを曲げて形成されており、」「前記ワイヤは、前記弓形部の中央で曲げられて、」「コイルa^(3)を形成している」ことは、本願発明の「前記付勢部は、」「弦巻ばね状に前記留め具を湾曲させて形成することによって、」「形成されている」ことに相当する。
してみれば、引用発明の「前記弓形部は、所定長の弾性ワイヤを曲げて形成されており、」「前記弓形部の弾性作用を補助するため、前記ワイヤは、前記弓形部の中央で曲げられて、前記ワイヤの平面と略直交する方向を中心軸とするコイルa^(3)を形成している」ことは、
本願発明の「前記留め具は、」「前記正面当接部および前記背面当接部の間に形成されるとともに、前記正面当接部と、前記背面当接部とを近接させる方向に付勢する付勢部とを備え、前記付勢部は、前記正面当接部と、前記背面当接部とを近接させる方向と直交する方向を軸方向とする弦巻ばね状に前記留め具を湾曲させて形成することによって、前記正面当接部と、前記背面当接部とを近接させる方向に付勢し、前記背面当接部側の位置の一箇所に形成されている」ことと、
「留め具は、正面当接部および背面当接部の間に形成されるとともに、前記正面当接部と、前記背面当接部とを近接させる方向に付勢する付勢部とを備え、前記付勢部は、前記正面当接部と、前記背面当接部とを近接させる方向と直交する方向を軸方向とする弦巻ばね状に前記留め具を湾曲させて形成することによって、前記正面当接部と、前記背面当接部とを近接させる方向に付勢している」点で一致する。
エ.以上のことから、本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は、以下のとおりと認められる。
【一致点】
「耳たぶを前後から挟み込むことによって耳たぶに固定されるイヤリングであって、
耳たぶの正面から下方を通って背面まで至る形状に形成された留め具と、
前記留め具に取り付けられた装飾具とを備え、
前記留め具は、
耳たぶの正面に当接する正面当接部と、
耳たぶの背面に当接するとともに、前記正面当接部と協働して耳たぶを挟み込む背面当接部と、
前記正面当接部および前記背面当接部の間に形成されるとともに、前記正面当接部と、前記背面当接部とを近接させる方向に付勢する付勢部とを備え、
前記付勢部は、前記正面当接部と、前記背面当接部とを近接させる方向と直交する方向を軸方向とする弦巻ばね状に前記留め具を湾曲させて形成することによって、前記正面当接部と、前記背面当接部とを近接させる方向に付勢しているイヤリング。」
【相違点】
本願発明は、付勢部が、背面当接部側の位置の一箇所に形成されているのに対し、
引用発明は、付勢部(コイルa^(3))が、留め具(弓形部)を形成するワイヤが当該留め具の中央で曲げられて形成されている点。

2.判断
本願発明と引用例2に記載された技術を対比すると、引用例2に記載された技術の「耳たぶの前面」、「耳たぶの後面」及び「イヤリング耳飾り」は、それぞれ、本願発明の「耳たぶの正面」、「耳たぶの背面」及び「イヤリング」に相当する。
引用例2の記載、特に記載ウ(前記「第4 1(2)」参照)及び図7?9の記載からみて、引用例2に記載された技術のイヤリング耳飾りは、耳たぶの前面から下方を通って後面まで至り、装飾体本体Aと装飾袋本体Bとを連接するコイル状弾性部4の弾性力によって、耳たぶの前面に位置する装飾体本体Aのコイル状弾性部4と反対側の端部と耳たぶの後面に位置する装飾体本体Bのコイル状弾性部4と反対側の端部とで耳たぶを挟むことにより耳たぶに装着される。そうすると、引用例2に記載された技術の「耳たぶの前面に位置する装飾体本体Aと耳たぶの後面に位置する装飾体本体Bとをコイル状弾性部4にて連接し」たものは、本願発明の「耳たぶの正面から下方を通って背面まで至る形状に形成された留め具」に相当し、引用例2に記載された技術の「装飾体本体A、Bを左右に広げることによってコイル状弾性部4に弾力性を発生させ、耳たぶに挟んだ際にこの弾力性によって装着する」ことは、本願発明の「耳たぶを前後から挟み込むことによって耳たぶに固定される」ことに相当する。
引用例2に記載された技術のイヤリング耳飾りは、先に検討したとおり、装飾体本体Aと装飾体本体Bとを連接するコイル状弾性部4の弾性力によって、耳たぶの前面に位置する装飾体本体Aのコイル状弾性部4と反対側の端部と耳たぶの後面に位置する装飾体本体Bのコイル状弾性部4と反対側の端部とで耳たぶを挟むことにより耳たぶに装着される。そうすると、引用例2に記載された技術の、装飾体本体Aのコイル状弾性部4と反対側の端部は、本願発明の「耳たぶの正面に当接する正面当接部」に相当し、装飾体本体Aは、当該正面当接部を備えているといえ、引用例2に記載された技術の、装飾体本体Bのコイル状弾性部4と反対側の端部は、本願発明の「耳たぶの背面に当接するとともに、前記正面当接部と協働して耳たぶを挟み込む背面当接部」に相当し、装飾体本体Bは、当該背面当接部を備えているといえる。そして、引用例2に記載された技術の「コイル状弾性部4」は、本願発明の「前記正面当接部と、前記背面当接部とを近接させる方向に付勢する付勢部」に相当し、引用例2に記載された技術の「耳たぶの前面に位置する装飾体本体Aと耳たぶの後面に位置する装飾体本体Bとをコイル状弾性部4にて連接」することは、本願発明の、前記付勢部が「前記正面当接部および前記背面当接部の間に形成される」ことに相当する。
してみれば、引用例2に記載された技術の「耳たぶの前面に位置する装飾体本体Aと耳たぶの後面に位置する装飾体本体Bとをコイル状弾性部4にて連接し、装飾体本体A、Bを左右に広げることによってコイル状弾性部4に弾力性を発生させ、耳たぶに挟んだ際にこの弾力性によって装着するイヤリング耳飾り」は、本願発明の「耳たぶを前後から挟み込むことによって耳たぶに固定されるイヤリングであって、耳たぶの正面から下方を通って背面まで至る形状に形成された留め具と、前記留め具に取り付けられた装飾具とを備え、前記留め具は、耳たぶの正面に当接する正面当接部と、耳たぶの背面に当接するとともに、前記正面当接部と協働して耳たぶを挟み込む背面当接部と、前記正面当接部および前記背面当接部の間に形成されるとともに、前記正面当接部と、前記背面当接部とを近接させる方向に付勢する付勢部とを備え」るイヤリングと、「耳たぶを前後から挟み込むことによって耳たぶに固定されるイヤリングであって、耳たぶの正面から下方を通って背面まで至る形状に形成された留め具を備え、前記留め具は、耳たぶの正面に当接する正面当接部と、耳たぶの背面に当接するとともに、前記正面当接部と協働して耳たぶを挟み込む背面当接部と、前記正面当接部および前記背面当接部の間に形成されるとともに、前記正面当接部と、前記背面当接部とを近接させる方向に付勢する付勢部とを備えるイヤリング」である点で一致する。
先に検討したとおり、引用例2に記載された技術の「耳たぶの後面」は、本願発明の「耳たぶの背面」に相当し、引用例2に記載された技術の、装飾体本体Bの反コイル状弾性部4側の端部は、本願発明の「耳たぶの背面に当接するとともに、前記正面当接部と協働して耳たぶを挟み込む背面当接部」に相当するから、引用例2に記載された技術の「耳たぶの後面側に位置する位置」は、本願発明の「前記背面当接部側の位置」に相当し、引用例2に記載された技術の「コイル状弾性部4を、」「耳たぶの後面側に位置する位置に設ける」ことは、本願発明の、「前記付勢部は、」「前記背面当接部側の位置の一箇所に形成されている」ことに相当する。
以上のことからみて、引用例2には、耳たぶを前後から挟み込むことによって耳たぶに固定されるイヤリングであって、耳たぶの正面から下方を通って背面まで至る形状に形成された留め具を備え、前記留め具は、耳たぶの正面に当接する正面当接部と、耳たぶの背面に当接するとともに、前記正面当接部と協働して耳たぶを挟み込む背面当接部と、前記正面当接部および前記背面当接部の間に形成されるとともに、前記正面当接部と、前記背面当接部とを近接させる方向に付勢する付勢部とを備えるイヤリングにおいて、相違点に係る本願発明を特定する事項である、前記付勢部は、前記背面当接部側の位置の一箇所に形成されていることが記載されている。
引用発明と引用例2に記載された技術は、耳たぶを前後から挟み込むことによって耳たぶに固定されるイヤリングであって、耳たぶの正面から下方を通って背面まで至る形状に形成された留め具を備え、前記留め具は、耳たぶの正面に当接する正面当接部と、耳たぶの背面に当接するとともに、前記正面当接部と協働して耳たぶを挟み込む背面当接部と、前記正面当接部および前記背面当接部の間に形成されるとともに、前記正面当接部と、前記背面当接部とを近接させる方向に付勢する付勢部とを備えるイヤリングに係るものである点において技術分野を一にするものであり、引用発明のコイルa^(3)と引用例2に記載された技術のコイル状弾性部4は、前記正面当接部および前記背面当接部の間に形成されるとともに、前記正面当接部と、前記背面当接部とを近接させる方向に付勢する付勢部である点において、その機能を一にするものである。そして、引用例2に記載された技術の「コイル状弾性部4により連接された装飾体本体A及び装飾体本体Bからなる装飾体本体全体」は、本願発明の「留め具」に相当するから、引用例2に記載された技術は、付勢部を、留め具のおおむね中央に形成するか、背面当接部側の位置の一箇所に形成するかは、当業者が適宜選択し得る事項であることを示唆するものであるところ、引用例2に記載された、付勢部を留め具のおおむね中央に形成することは、相違点に係る引用発明の構成に相当するものである。
そうすると、引用発明において、相違点に係る本願発明を特定する事項を備えるようにすることは、引用例2に記載された技術に基いて、当業者が容易に想到し得る事項である。
そして、本願発明の奏する効果に、引用例1及び2に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得る範囲を越えるものは見いだせない。
したがって、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

この点に関し、請求人は、平成30年11月29日付けの意見書において、「引用例2に記載されたコイル状弾性部は、半U字状の装飾体本体A,Bを連接させる部位であり、イヤリング耳飾りは、コイル状の軸方向を装飾体本体A,Bに沿った方向とするように取り付けられた引張コイルばね(または圧縮コイルばね)を採用しています。このような引張コイルばね等を採用したイヤリング耳飾りでは、装飾体本体A,Bを近接させる方向は、引張方向(または圧縮方向)とは異なる方向となるので、装飾体本体A,Bを近接させる方向に強く付勢することはできず、イヤリング耳飾りは耳たぶから脱落しやすくなってしまうという問題があります。」と主張している(「【意見の内容】(3)<理由Aについて>」参照)。
しかしながら、引用例2の記載、特に記載ウ(前記「第4 1(2)」参照)及び図7?9の記載からみて、引用例2に記載されたイヤリング耳飾りは、耳たぶに挟んだ際にコイル状弾性部4が発生する弾性力によって耳たぶに装着されるものであり、イヤリング耳飾りが簡単に耳たぶから脱落しないようにすることは当業者が当然に考慮すべき技術的課題であるから、コイル状弾性部4も、当然、イヤリング耳飾りが簡単に耳たぶから脱落しない程度の弾性力を発生すると認められる。したがって、請求人の前記主張は、採用することができない。
なお、引用例2に記載された技術のイヤリング耳飾りを耳たぶに装着するにあたっては、引用例2の記載、特に記載ウ(前記「第4 1(2)」参照)及び図7?9の記載からみて、装飾体本体Aのコイル状弾性部4と反対側の端部と装飾体本体Bのコイル状弾性部4と反対側の端部とがより離間するように装飾体本体A、Bを広げることによりコイル状弾性部4が発生する弾性力によって耳たぶを狭持するものであるから、コイル状弾性部4は、当然、装飾体本体Aのコイル状弾性部4と反対側の端部と装飾体本体Bのコイル状弾性部4と反対側の端部とを近接させる方向に弾性力を発揮する。そして、コイル状弾性部が発生する弾性力の強さは、当該弾性部を形成する線材の材料や径、コイルの巻きの程度、更には弾性力発生時における当該弾性部の変形の程度等によっても異なるから、引張コイルばね等を採用したイヤリング耳飾りでは、強く付勢することはできず、耳たぶから脱落しやすくなってしまうと一概に言えるものではない。
請求人は、前記意見書において、「請求人は、この付勢部の位置を変更し、前記背面当接部側の位置の一箇所に形成することにしました(構成(G),(M))。これによって、イヤリングの留め具は、前記正面当接部と、前記背面当接部とを近接させる方向に強く付勢することができるとともに、イヤリングのデザイン性およびファッション性を向上させることができるという格別の作用効果を奏することができます。」とも主張している(「【意見の内容】(3)<理由Aについて>」参照)。
しかしながら、先に検討したとおり、引用発明において、付勢部(コイルa^(3))を背面当接部(小環部a^(2))側の位置の一箇所に形成するようにすることは、引用例2に記載された技術に基いて、当業者が容易に想到し得る事項である。また、耳たぶを前後から挟み込むことによって耳たぶに固定されるイヤリングであって、耳たぶの正面から下方を通って背面まで至る形状に形成された留め具を備え、前記留め具は、耳たぶの正面に当接する正面当接部と、耳たぶの背面に当接するとともに、前記正面当接部と協働して耳たぶを挟み込む背面当接部と、前記正面当接部および前記背面当接部の間に形成されるとともに、前記正面当接部と、前記背面当接部とを近接させる方向に付勢する付勢部とを備えるイヤリングにおいて、前記付勢部が前記背面当接部側の位置の一箇所に形成されていれば,イヤリングを正面からみたときに前記付勢部が耳たぶで隠れることは、当業者にとって明らかである。そして、装身具であるイヤリングにおいて、デザイン性及びファッション性は当然に考慮される事項である。してみれば、請求人が主張する、正面当接部と背面当接部とを近接させる方向に強く付勢することができるとともに、イヤリングのデザイン性およびファッション性を向上させることができるという効果は、引用例1及び2に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得る範囲を越えるものではなく、請求人の当該主張も採用することはできない。
更に、請求人は、前記意見書において、「請求人は、本願発明のイヤリングにおいて、前記背面当接部側の位置の一箇所に前記付勢部を形成すると、耳たぶの背面に痛みを感じることを突き止めました。これは、本願発明の付勢部は、ねじりコイルばねとして作用するので、前記正面当接部と、前記背面当接部とを近接させる方向に強く付勢することができ、イヤリングの耳たぶからの脱落を抑制することができるものの、その代償として耳たぶの背面に痛みを感じてしまうことになるものと考えられます。
したがって、引用例1に記載された発明において、前記コイルを、前記弓形部の中央に代えて、耳たぶの背面側に位置する位置に設けるようにすることは、イヤリングのデザイン性およびファッション性を向上させることができるという格別の作用効果を奏することができるものの、耳たぶの背面に痛みを感じてしまうという代償を伴うことになりますので、当業者といえども引用例1?6に基づいて容易に想到できるものではなく、十分に特許性があるものと確信します。
なお、引用例2に記載された発明では、前述したように、装飾体本体A,Bを近接させる方向に強く付勢することはできないので、耳たぶの背面に痛みを感じるようなことはなく、このような代償は発生しないものと考えられます。したがって、引用例2に記載された前記コイル状弾性部は、前記装飾体本体A,Bからなる装飾体の概ね中央(図8)と、該装飾体の耳たぶ背面側に位置する位置(図9)に選択的に設け得ると思料いたします。
また、審判官殿は、「良好な装着感を得ることは当然の技術課題である。そして、先に検討したとおり、引用例1に記載された発明自体が、耳たぶの背面に押接される前記小環部の面積が耳たぶの正面に押接される前記部分a1の面積と比較して大きくなっており、引用例1に記載された発明において、前記コイルを、前記弓形部の中央に代えて、耳たぶの背面側に位置する位置に設けるにあたり、良好な装着感が得られるように、前記小環部の面積と前記部分a1の面積との関係を調節することは、当業者が通常発揮し得る創作力の範囲内のものである。」と判断しています。
しかしながら、前述したように、請求人は、本願発明のイヤリングにおいて、前記背面当接部側の位置の一箇所に前記付勢部を形成すると、耳たぶの背面に痛みを感じることを突き止めており、この点は、引用例1?6には記載も示唆もされておりません。」と主張している。
しかしながら、先に検討したとおり、引用発明において、付勢部(コイルa^(3))を背面当接部側の位置の一箇所に形成するようにすることは、引用例2に記載された技術に基いて、当業者が容易に想到し得る事項である。
そして、当審拒絶理由でも指摘したとおり、良好な装着感を得ることは装身具として当然の技術課題であるから、仮に、請求人が主張するとおり、付勢部を背面当接部側の位置の一箇所に形成すると、耳たぶの背面に痛みを感じることとなるとしても、引用発明において、背面当接部(小環部a^(2))の面積を痛みを感じない程度の大きさに設定することは、引用例1に明示的な示唆がなくても、当業者が通常発揮し得る創作力の範囲内のものである。
したがって、請求人の当該主張も採用することができない。

なお、請求人は、前記意見書において、「請求人は、耳たぶの背面に生じる痛みを緩和させるために、更に開発段階を一歩進め、前記正面当接部および前記背面当接部は、耳たぶに面接触する当接面を有し、前記背面当接部の当接面の面積は、前記正面当接部の当接面の面積と比較して大きいイヤリング(構成(H))を開発したものです。これによれば、本願明細書の段落0022に記載されているように、耳たぶの背面に生じる痛みを緩和することができます。
このように、本願請求項3に記載された発明によれば、イヤリングの留め具は、前記正面当接部と、前記背面当接部とを近接させる方向に強く付勢することができるとともに、イヤリングのデザイン性およびファッション性を向上させることができ、さらに、前記背面当接部側の位置の一箇所に前記付勢部を形成することによって、耳たぶの背面に生じる痛みを緩和することができるという格別の作用効果を奏することができます。
したがって、上記主張を勘案した上で、請求項1,4に記載された発明は、当業者が容易に想到できるとご判断された場合であっても、本願請求項3に記載された発明は、構成(G),(M)に加えて構成(H)を更に備え、引用例1?6によっては奏し得ない格別の作用効果を奏するものでありますから、当業者といえども引用文献1?6に基づいて容易に想到できるものではなく、十分に特許性があるものと確信します。」とも主張しているが、当該主張は、本願の請求項3に記載された事項に基づく主張であって、本願の請求項1に係る発明である本願発明についての主張ではない。

第6 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-02-06 
結審通知日 2019-02-12 
審決日 2019-02-25 
出願番号 特願2016-55691(P2016-55691)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A44C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柿沼 善一  
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 久保 竜一
長馬 望
発明の名称 イヤリングおよびイヤリングの留め具  
代理人 福井 仁  

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