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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1351016
審判番号 不服2018-2418  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-21 
確定日 2019-05-14 
事件の表示 特願2016-110756「セレン化13族ナノ粒子」拒絶査定不服審判事件〔平成28年11月24日出願公開,特開2016-197724,請求項の数(14)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2013年(平成25年)7月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年7月9日,米国)を国際出願日とする特願2015-521084号の一部を,平成28年6月2日に新たな特許出願としたものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 6月15日 手続補正書の提出
平成29年 3月22日付け 拒絶理由通知書
平成29年 5月25日 意見書・手続補正書の提出
平成29年10月18日付け 拒絶査定(以下,「原査定」という。)
平成30年 2月21日 審判請求書・手続補正書の提出
平成30年11月20日付け 拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)通知書
平成31年 2月19日 意見書・手続補正書の提出

第2 本願発明
本願請求項1-14に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明14」という。)は,平成31年2月19日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-14に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1-本願発明14は以下のとおりの発明である。
「 【請求項1】
Cu(In,Ga)Se_(2)半導体膜を形成する方法において,
CuSeナノ粒子及びセレン化13族ナノ粒子を基板上に共堆積する工程と,
前記CuSeナノ粒子及び前記セレン化13族ナノ粒子が融解するのに十分な温度に前記基板を加熱する工程と,
を含んでおり,
前記セレン化13族ナノ粒子は,セレン化13族半導体と,炭素-セレン共有結合によって前記セレン化13族ナノ粒子に結合している有機キャッピングリガンドとを含んでおり,
前記温度は,前記セレン化13族ナノ粒子に結合している有機キャッピングリガンドを除去するのに十分な温度である方法。
【請求項2】
前記セレン化13族に結合している有機キャッピングリガンドは,アルキル,アルケニル,アルキニル,又は,アリール基である,請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記半導体膜は,硫黄を含んでいない,請求項1に記載の方法。
【請求項4】
13族イオン前駆体をセレノール化合物と反応させる工程を含む方法によって,前記セレン化13族ナノ粒子は調製されている,請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記13族イオン前駆体は,13族元素の塩化物,アセテート,又はアセチルアセトネートである,請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記13族イオン前駆体は,InCl_(3),In(OAc)_(3),In(acac)_(3),GaCl_(3),Ga(OAc)_(3),及びGa(acac)_(3)からなる群から選択される,請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記セレノール化合物は,アルキル,アルケニル,アルキニル,又は,アリールセレノールである,請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記セレノール化合物は,4乃至14個の炭素原子を含む,請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記セレノール化合物は,オクタンセレノールである,請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記13族イオン前駆体に,第2のセレン化合物を加える工程を更に含む,請求項4に記載の方法。
【請求項11】
前記第2のセレン化合物は,トリオクチルホスフィンセレニドである,請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記セレン化13族ナノ粒子の直径は,約200nmよりも小さい,請求項4に記載の方法。
【請求項13】
前記セレン化13族ナノ粒子の直径は,約2乃至約100nmである,請求項4に記載の方法。
【請求項14】
前記セレン化13族ナノ粒子の直径は,約10nm未満である,請求項4に記載の方法。」

第3 引用文献及び引用発明
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特表2010-525566号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同じ。)
「【技術分野】
【0001】
本発明は,薄膜材料,その製造,及びそれから作製されるデバイスに関し,特に傾斜多接合薄膜半導体構造に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
幅広い支持を得るべく,薄膜PV電池は,光子エネルギーの電流への高い変換効率を示すと共に,屋外の環境において,長年に亘り,理想的には30年以上,確実に動作しなければならない。CdTeとCISを用いた技術は,長期の安定性を実証している。しかし,性能の低下も観測されている。電流薄膜デバイスの効率は,理論上の最大値の65%(実験室レベルでは75%)に達し,いまだ,究極の達成可能な性能の90%を実証している単結晶シリコンとGaAs電池に遅れをとっている。薄膜技術の効率の改良は,多接合と傾斜材料を通じて成し遂げることが可能である。例えば,CISの研究は,ガリウムを添加すること,CIGSと呼ばれる化合物を形成すること,GaとInの濃度勾配を示すことが,より良い効率を導くということを明らかにしている。」
「【0017】
1.製造方法
先ず図1及び図2を参照する。ここで,図1及び図2はそれぞれ,代表的な一連の過程100,及び,本発明の実施形態を実行する操作装置を図示している。一連の過程は,図1に示されたフローチャートに詳述されている工程を有し,該装置を利用して図2に図示されている中間及び最終の構造を得る。最初の工程110において,基板200と,予め作製されたナノ粒子の異なる分散液を含む流動性を有する複数の印刷塗料とを,更に以下で説明される様に,用意する。印刷塗料202aを,工程112にて第1層用に選択し,そして工程114において,この塗料を,プリンタ204を用いて基板200上に印刷する。以下に説明する様に,エッチング工程116を印刷の後に実行することもある。任意工程118において,堆積層を,熱源206を用いて乾燥させると共にアニールして,連続膜208を形成する。「アニール」は,ナノ粒子が均一な構成の連続層に溶け込む十分な温度及び十分な時間での堆積層の加熱を意味する。アニールを特定の層の堆積の後に実行するか否かは,印刷塗料の仕様,層の厚さ,及び,所望の膜特性に依存する。しかし,一般的には,塗料を,該塗料上に次の塗料を堆積させる前に乾燥させる。アニール源206は,適当な熱源,例えばオーブン,真空オーブン,加熱炉,IRランプ,レーザ,又は,ホットプレートであってもよく,適当なアニールの時間と温度は,過度の実験なしに,印刷装置との関連で以下に記載のキャリブレーションによって得られてもよい。尚,アニールの温度と時間は,インク塗料と同様,ナノ粒子のサイズと組成に依存する。アニール温度は,通常,200℃より高い。
【0018】
工程112,114及び任意に工程116,118を繰り返し,第2の印刷塗料202bを印刷する。これにより,この時点では,2つの層を含む膜208が得られる。尚,第2の印刷塗料202bは,通常,塗料202aと異なる。この繰り返しには,同じ印刷及びアニール装置204,206が使用されてもよく,この場合,プリンタ204では,新しい印刷塗料に(例えば,カートリッジの形態で)置き換えられることになる。又は,一連の過程100は,堆積及びアニール工程にそれぞれ専用の別々の印刷及びアニール装置を具えたアセンブリライン形態で実行されてもよい。個々の基板200を連続的に処理する場合には,ライン形態が好ましいかもしれないが,多数の工程にて同じ装置を利用することは,多数の膜を並行して製造する(例えば,多数の基板に対して同じ工程が同時に実行される)場合に,より役立つかもしれない。
【0019】
工程110?118を複数回繰り返して(必ずしも繰り返す必要はないが),3つ以上の層202a,202b,202cを有する膜を形成してもよい。再度,特定の印刷塗料を1回以上利用することが出来,傾斜膜の場合ではあるが,該塗料は各堆積工程と共に徐々に変化するだろう。最後の層が印刷された後,エッチング工程120はやはり任意であるが,前のアニール116が実行されていようとなかろうと,複数の堆積層から連続最終膜210を形成するために,最後のアニール工程122は実行されなければならない。この様に堆積してアニールされる多数の層は,少なくとも2つであって,最終膜210の所望の厚さと組成によってのみ限定される。従って,図2は3つの層を有する膜の製造を図示しているが,これは単に説明のためだけのものである。
【0020】
各層は,単一タイプのナノ粒子を含んでいてもよく,この場合,異なる層は通常,異なる化学組成を有するナノ粒子を含むことになる。或いは(又は,加えて)各層は,複数のタイプのナノ粒子を含んでいてもよく,この場合,同じ組合せのナノ粒子が,異なる層において異なる割合で使用されてもよい。本発明の幾つかの実施形態においては,方法100は,同じ成分を異なる割合で有するナノ粒子を含む種々の印刷塗料を使用して高効率の傾斜膜を製造することに用いられる。例えば,CIGS膜は,変化する化学組成CuIn_(1-X)Ga_(X)Se_(2)で製造されてもよい。ここで,xは,連続的に堆積された層(即ち,連続的な印刷塗料)の間で徐々に変化する。例えば,xは,膜の境界面(例えば,構造物の上面,又は基板と接触している境界面)から該膜内の所定の位置までの距離を,膜の厚さで割ったものであってもよい。その様な膜は,化学気相堆積(CVD)によって作成されて,ガリウム濃度が背面接触するモリブデンに向かうほど増大する状態で,PV電池中の吸収層として用いられ,その結果?濃度とそれに対応するバンドギャップの勾配とによって規定される擬電場が原因となって背面再結合が減少した結果,19.5%もの著しく高い効率となる。方法100は,CVD過程に代わるものを提供する。即ち,Moで覆われたガラスのような適当な基板を用いて,CuInSe_(2)を第1層として堆積させ,次に,Gaの含有量が各層において徐々に(線形的又は非線形的に)増加する印刷塗料を,ナノ粒子の組成が主にCuGaSe_(2)となるまで堆積させてもよい。一旦,複数の層が好ましい順序で印刷されると,それらをアニールして,高性能な傾斜CIGS膜を形成する。
他のナノ粒子を基にしたインクを中間層として導入して,電池の性能を最適化するべく材料のバンド構造を更に調整してもよい。本発明に係る技術は,CVDに比べて,真空装置が必要でないという付加的な利点を有する。」
「【0031】
セレノール化合物を用いた任意の好ましいストイキオメトリのCIGSナノ粒子を作製するための方法が,米国仮出願第60/991510に開示されている。該方法の実施形態は,(Al,Ga,及び/又はInの内の少なくとも1つとCu,Ag,Zn,及び/又はCdの内の少なくとも1つの源を含む)ナノ粒子前駆体組成の少なくとも第1部分を溶媒(例えば,長鎖炭化水素溶媒)中に分散させること,溶媒を第1温度まで適当な長さの時間熱すること,セレノール化合物を溶媒に加えて該溶媒を熱すること,ナノ粒子前駆体組成の第2部分を反応混合物に加えること,該混合物を第1温度より高い第2温度まで適当な長さの時間に亘って熱すること,及びその温度を最大10時間維持することを含む。粒子が形成された時点で,該粒子の表面原子は通常,キャッピング剤に配位され,これは,該方法において用いられるセレノール化合物を含むことが出来る。揮発性のセレノール化合物を用いた場合,熱することによりこのキャッピング剤を取り除いて,配位リガンドによるキャッピングの影響と更なる処理を受け易い「裸の」ナノ粒子を生み出すことが出来る。例1及び例2は,この方法の実行に関する更なる詳細を提供する。
【0032】
例1:Cu(I)アセテート(1mmol)及びIn(III)アセテート(1mmol)を,きれいで乾燥したRB-フラスコに加える。オクタデセンODE(5mL)を真空下にて100℃で30分間熱せられた反応混合物に加える。フラスコを窒素で埋め戻すと共に,温度を140℃まで高める。1-オクタンセレノールを投入し,温度を120℃まで下げる。結果として生じたオレンジ色の懸濁液を掻き混ぜながら熱し,温度が140℃に達したときに透明なオレンジ/赤色の溶液が得られる。この温度を30分間維持し,その後,1M トリ‐オクチル‐ホスフィン セレナイド TOPSe(2mL,2mmol)を滴下し,そして溶液を160℃で熱する。PLを,それが所望の波長に達するまで観測し,その後,冷却して,そして結果として生じたオイルを,メタノール/アセトン(2:1)を用いて4-5回洗浄し,最後にアセトンを用いて沈殿により分離する。
【0033】
例2(大量生産):TOPSeの原液を,窒素下でTOP(60mL)中にSe粉(10.9,138mmol)を溶解させることにより生成した。乾燥させるべく,脱気されたODEをCu(I)アセテート(7.89g,64.4mmol)とIn(III)アセテート(20.0g,68.5mmol)に加えた。反応ベッセルを,空にして140℃で10分間熱し,N_(2)によって埋め戻し,そして室温に冷却した。1-オクタンセレノール(200mL)を加えて明るいオレンジ色の懸濁液を作製した。フラスコの温度を140℃まで高め,そして酢酸を120℃で反応物から蒸留した。140℃に達した時点で,TOPSe溶液を1時間の過程に亘って滴下した。3時間後,温度を160℃まで高めた。周期的に反応物から分割量を得て,且つUV/可視光及び発光スペクトルを測定することにより,反応の経過を観測した。7時間後,反応物を室温まで冷却し,そして結果として生じた黒色のオイルをメタノールにより洗浄した。メタノール洗浄を,アセトンの添加によってそのオイルから純粋な黒色の材料を沈殿させることが可能となるまで続けた。黒色の沈殿物を,遠心分離によって分離し,アセトンにより洗浄し,そして真空下で乾燥した。生成量は31.97gであった。
【0034】
粒子の特性又は適当な分散剤の選択を最適化するべく,X線回折(XRD),UV/可視光/近赤外線分光分析,走査型又は透過型電子顕微鏡(SEM/TEM),エネルギー分散X線微量分析(EDAX),発光分光分析,及び/又は元素分析を含む従来の技術によって,ナノ粒子を,その組成,サイズ,及び電荷に関して特徴付けることが出来る。後で除去される1-オクタンセレノールキャッピング剤中で生成された,代表となるCu/In/Seコア粒子は,誘導結合プラズマ原子発光分光分析(ICPAES)解析の結果,次の適当なナノ粒子組成,即ちCu_(1.00),In_(1.22),Se_(2.34),及び0.82のCu/Inの割合に対応するCu 16.6%,In 36,6%,Se 48.3%となる。
【0035】
この発明の好ましい実施形態において,ナノ粒子は,20nm以下の平均サイズと,±約2nm以下の低いサイズ分散度とを有する。これらの制限への適合により,薄膜を,該膜を通じてバンド構造を制御しながら印刷することが容易となり,その結果,高い変換効率が得られる。更に,低いサイズ分散度は,ナノ粒子の優れた充填と,ナノ粒子膜の一様な融解温度を可能にし,それは適当な膜形成に寄与する。」
「【0039】
4.応用
図1に示される方法に従って作製された半導体薄膜構造は,光電池,LED,トランジスタ,及び他の半導体デバイスに使用することが出来る。図3Aは,CIGS吸収体膜を有する太陽電池の代表的な構造を示している。基板305は,ガラス上にモリブデンを有し,又,サブミクロンのMo層が電池300のバック接点を提供している。吸収体膜307は,一連のCIGSのアニールされた層を有すると共に,Mo接点300に向かってGa濃度の増加とIn濃度の減少を示している。この膜は,連続して各層の印刷とアニールとを行うことによって作製することが出来る。或いは,図3Bに示す様に,それは,先ず全ての層を堆積させ,次にこれらの層を1回のアニール工程で1つの連続膜に結合させることによって作製されてもよい。尚,図3Bは,個々の層のInとGaの含有量を例示している。緩衝層312は,CIGS膜との接合点を形成している。従来,この接合点はCdSを有していた。しかし,Cdに関連した環境と健康の懸念から,好ましいPV電池は,代わりにZnS,ZnO(O,OH),又はIn_(2)S_(3)を使用したカドミウムフリーのものである。従って,ガラスカバー316上のZnO層314は,電池300のスーパーストレートを形成している。ZnO/ZnO(O,OH)/CIGS/Mo電池の性能は,吸収体層307内に他の半導体材料の層を導入することによって改良又は最適化することが出来る。(例えば,次の表1に示す様に)例えばSeがS又はTeに置換され,CuがAgに置換され,若しくはIn又はGaがAlに置換されたCIGSの変異体は,価電子帯
及び伝導帯のエネルギーを操作して電子-ホール捕獲を補助するために使用することが出来る。本発明の実施形態は,これらの付加的な層を結合するための便利な手段を提供する。更に,もしナノ粒子源が接合層及び/又は基板又はスーパーストレートに使用可能であれば,必要とされるアニールの温度がデバイス内の他の層に弊害をもたらさない限り,同様に,これらの層を,印刷又はアニールによってデバイス中に結合することが出来る。」

(2)引用発明1
前記(1)より,図1に示される方法に従って作製された半導体薄膜構造,及び,例1のナノ粒子を作製するための方法(【0032】)についての記載を参酌してまとめると,引用文献1には,図3Aに示されるCIGS膜を形成する方法として,以下の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「最初の工程110において,基板200と,予め作製されたナノ粒子の異なる分散液を含む複数の印刷塗料とを用意し,印刷塗料202aを,工程112にて第1層用に選択し,そして工程114において,この塗料を,基板200上に印刷し,任意工程118において,堆積層を,アニールし,工程110?118を複数回繰り返して,3つ以上の層を有するCIGS膜を形成する方法であって,
CIGS膜は,変化する化学組成CuIn_(1-X)Ga_(X)Se_(2)で製造され,
各層は,複数のタイプのナノ粒子を含んでおり,
「アニール」は,ナノ粒子が均一な構成の連続層に溶け込む十分な温度及び十分な時間での堆積層の加熱を意味しており,
ナノ粒子を作製するための方法は,(Al,Ga,及び/又はInの内の少なくとも1つとCu,Ag,Zn,及び/又はCdの内の少なくとも1つの源を含む)ナノ粒子前駆体組成の少なくとも第1部分を溶媒中に分散させること,溶媒を第1温度まで適当な長さの時間熱すること,1-オクタンセレノールを溶媒に加えて該溶媒を熱すること,ナノ粒子前駆体組成の第2部分を反応混合物に加えること,該混合物を第1温度より高い第2温度まで適当な長さの時間に亘って熱することを含み,
粒子が形成された時点で,該粒子の表面原子は,1-オクタンセレノールキャッピング剤に配位され,熱することによりこのキャッピング剤を取り除いて,配位リガンドによるキャッピングの影響と更なる処理を受け易い「裸の」ナノ粒子を生み出すことが出来る,
CIGS膜を形成する方法。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2009-076842号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,ナノ粒子を含有する太陽電池の薄膜組成用インクとその製造方法,及び前記インクを利用したCIGS薄膜型太陽電池とその製造方法に関する。より具体的には,真空工程や複雑な装備を必要としないナノ粒子インクの塗布または印刷工程だけでCIGS薄膜を製造し,CIGS薄膜のCu/(In+Ga)の比率及びGa/(In+Ga)の比率を自在に調節することができ,塗布又は印刷法を利用する簡単な工程によってCIGS薄膜を製造することができるCIGS薄膜型太陽電池及びその製造方法に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は,前記問題を解決するために案出されたものであって,CIGS薄膜の太陽電池において,真空工程や複雑な装備の必要なしに,ナノ粒子インクの印刷工程だけでCIGS薄膜を製造し,CIGS薄膜のCu/(In+Ga)比率及びGa/(In+Ga)比率を自在に調節することのできるCIGS薄膜の太陽電池を提供することを目的とする。」
「【0053】
また,本発明の具体的な1実施形態として,前記CIGS薄膜型太陽電池の光吸収層を形成するときに使用するナノ粒子を含有するインクについて説明する。
【0054】
本実施形態で使用する前記インクは,クロロホルム,トルエンなどの有機溶媒にCu_(2)Seのナノ粒子及び(In,Ga)_(2)Se_(3)のナノ粒子を混合したものであって,チオール類,セレノール類,アルコール類などの分散剤をさらに混合することもできる。
【0055】
なお,前記のインクは高温下で熱処理を行なうことができる。
【0056】
以下,添付の図面を参照して本発明の多様な実施例を通じて詳細に説明する。
【0057】
まず,本発明によるCIGS太陽電池のCIGS薄膜の形成に利用されるセレン(Selenium;Se)化合物ナノ粒子インクの製造工程に対して説明する。これは,Cu_(2)Se,(In,Ga)_(2)Se_(3),In_(2)Se_(3)ナノ粒子に溶媒と分散剤をそれぞれ添加して,均一に混合することによって簡単に製造することができる。以下は,このように製造されるセレン化合物ナノ粒子のインクをそれぞれ,Cu_(2)Seナノ粒子インク,(In,Ga)_(2)Se_(3)ナノ粒子インク,In_(2)Se_(3)ナノ粒子インクと称する。
【0058】
前記のインクを混合する溶媒は,有機溶媒として,トルエン,クロロホルム,DMF,DMSO,ピリジン,アルコール,炭化水素類などから選択される少なくとも1種以上である。
【0059】
前記炭化水素類の炭素数は特に制限されないがC1?C20程度が好ましい。
【0060】
また,分散剤は必須的に追加するものではないが,好ましくは,分散剤としては,アルカン・セレノール,アルカン・チオール,アルコール,芳香族セレノール,芳香族チオール,芳香族アルコールの中,少なくとも1種以上が選択されることができる。
【0061】
前記分散剤の炭素数は特に制限されないがC1?C20程度が好ましい。
【0062】
このとき,前記添加される各ナノ粒子インクの濃度は特定の制限はなく,最終的に得られる薄膜の特性を考慮して可変的に調節することができる。また,各ナノ粒子の相対的な濃度も特定の限定を必要としない。これも,最終的に得られる薄膜に要求する特性によってそれぞれの成分比が可変的であるためである。これに対して図を参照しながらより具体的に説明する。
【0063】
図1?図3は,本発明の1実施例によるCIGS太陽電池のCIGS薄膜の製造において,Cu/(In+Ga)の比率が調節されたCIGS薄膜の製造工程を示す模式図である。
【0064】
まず,図1に図示したように,Cu_(2)Seのナノ粒子インクと(In,Ga)_(2)Se_(3)のナノ粒子インクを所定の比率で混合し,Cu_(2)Se+(In,Ga)_(2)Se_(3)ナノ粒子インク101を製造する。混合されるナノ粒子インク間の比率は,Cu_(2)Seの分子量と(In,Ga)_(2)Se_(3)の分子量を考慮して望むCu/(In+Ga)の比率に合う
ように適切に調節することができる。
【0065】
その後,図2に図示したように,CIGS太陽電池に通常的に使用される基板102とその上にコーティングされる背面電極103上に,図1の工程で製造されたCu_(2)Se+(In,Ga)_(2)Se_(3)ナノ粒子インク101の層を形成する。この形成方法は印刷法を使用する。
【0066】
一方,前記基板102の材質は,通常的なCIGS太陽電池の場合と同様シートガラス又は金属ホイルなどである。
【0067】
前記背面電極103は,伝導性を有する金属類であれば良く,殊に本実施例においては,背面電極103としてモリブデン(Mo)層を例示しているが,ニッケル(Ni),銅(Cu)を使用することもできる。しかし,モリブデン(Mo)は高い電気伝導度,CIGSにおけるオーミック接合,セレン(Se)雰囲気下における高温安定性などの観点において好ましい。
【0068】
また,モリブデンで構成された背面電極103は,太陽電池の後面接触層としての機能を行うことができる。
【0069】
次いで,図3に図示したように,セレン(Se)雰囲気で熱処理することによって,望むCu/(In+Ga)の比率に調節されたCIGS薄膜を製造することができる。
【0070】
また,前記熱処理のガス雰囲気は,必ずしもセレンに限定されないが,ナノ粒子インクの組成物質によっては硫黄(S)雰囲気の熱処理も可能である。
【0071】
前記熱処理の温度は,特に制限されないが,好ましくは,500℃?600℃である。
【0072】
このような熱処理を通じて,望むCu/(In+Ga)の比率に調節されたCIGS薄膜を製造することによって,粒度(grain size)を容易に調節することができ,これによって望む特性を有する太陽電池を製造することができる。
【0073】
図4?図6は,本発明の1実施例によるCIGS太陽電池のCIGS薄膜の製造方法において,Cu/(In+Ga)の比率のみならずGa/(In+Ga)の比率も調節されたCIGS薄膜の製造工程を説明する模式図である。
【0074】
まず,図4に図示したように,Cu_(2)Seナノ粒子インク,(In,Ga)_(2)Se_(3)ナノ粒子インク,及びIn_(2)Se_(3)ナノ粒子インクを所定の比率に混合してCu_(2)Se+(In,Ga)_(2)Se_(3)+In_(2)Se_(3)ナノ粒子インク201を製造する。混合されるナノ粒子インクの混合比率は,Cu_(2)Seの分子量と(In,Ga)_(2)Se_(3)の分子量,及びIn_(2)Se_(3)の分子量を考慮して望むCu/(In+Ga)の比率及びGa/(In+Ga)の比率に合わせて適当に調節することができる。
【0075】
その後,図5に図示のように,基板102及びモリブデン(Mo)層(背面電極)103上に,Cu_(2)Se+(In,Ga)_(2)Se_(3)+In_(2)Se_(3)ナノ粒子インク201を塗布する。このときも,印刷法によって塗布するのが好ましい。
【0076】
次いで,図6に図示のように,セレン(Se)雰囲気で熱処理することによって,望むCu/(In+Ga)の比率及びGa/(In+Ga)の比率に調節されたCIGS薄膜を製造することができる。
【0077】
このような熱処理方法を通じて,Ga/(In+Ga)の比率を自由に調節することができ,最適のバンドギャップを有するCIGS太陽電池を製造することができる。すなわち,CIGS太陽電池が最大の変換効率を表すためには,1.2?1.4eV程度のバンドギャップを有することが好ましく,このようなバンドギャップは,Gaのドーピングによって異なるようになるが,図4?図6に図示するようにしてGa/(In+Ga)の比率を0.3?0.6程度に調節するとき,前記のような最適のバンドギャップを得ることができる。
【0078】
図7?図11は,本発明の1実施例によるCIGS太陽電池のCIGS薄膜の製造方法において,多段階の工程を通じてCIGS薄膜を形成する方法を示す模式図である。
【0079】
まず,図7に図示したように,Cu_(2)Seナノ粒子インク,(In,Ga)_(2)Se_(3)ナノ粒子インクを混合して,Cu_(2)Se+(In,Ga)_(2)Se_(3)ナノ粒子インク301を製造する。このとき,Cu_(2)Seナノ粒子インクの量を相対的に多く混合してCu_(2)Se+(In,Ga)_(2)Se_(3):Cu-rich(銅リッチ)状態になるナノ粒子インク301を製造する。
【0080】
その後,図8に図示したように,Mo層(背面電極)103上にCu_(2)Se+(In,Ga)_(2)Se_(3)ナノ粒子インク301を塗布または印刷し,図9に図示するように,セレン雰囲気で熱処理し,銅の豊富(リッチ)なCu-rich(銅リッチ)状態のCIGS薄膜を形成する。このCu-rich(銅リッチ)状態のCIGS薄膜は,Cu_(2)Se+(In,Ga)_(2)Se_(3):Cu-rich(銅リッチ)状態のナノ粒子インク301を使用して形成されているので,Cu/(In+Ga)の比率が1を超えることになる。
【0081】
次いで,図10及び図11に図示したように,前記図8のように形成されたCu-rich(銅リッチ)状態のCIGS薄膜上に,(In,Ga)_(2)Se_(3)ナノ粒子インク302を塗布または印刷し,セレン雰囲気で熱処理する。前記(In,Ga)_(2)Se_(3)ナノ粒子インク302にはCuが包含されていないので,図10及び図11に示す工程で最終的に形成されるCIGS薄膜はCuの比率が減少されている。したがって,Cu/(In+Ga)の比率は1未満であることになる。」

第4 対比及び判断
1 本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明1との対比
ア 引用発明1の「CIGS膜」は,本願発明1の「Cu(In,Ga)Se_(2)半導体膜」に相当する。
イ 引用発明1の「ナノ粒子」は,本願発明1の「CuSeナノ粒子及びセレン化13族ナノ粒子」と「ナノ粒子」であることで一致する。
ウ 引用発明1の「工程114において,この塗料を,基板200上に印刷し」「堆積層」を形成する工程は,「各層は,複数のタイプのナノ粒子を含んで」いることから,本願発明1の「ナノ粒子を基板上に共堆積する工程」に相当する。
エ 引用発明1の「堆積層を,アニール」する工程は,引用発明1において,「「アニール」は,ナノ粒子が均一な構成の連続層に溶け込む十分な温度及び十分な時間での堆積層の加熱を意味する」から,本願発明1の「ナノ粒子が融解するのに十分な温度に前記基板を加熱する工程」に相当する。
オ 引用発明1の「1-オクタンセレノールキャッピング剤」は,「粒子の表面原子」に「配位され」ているから,「ナノ粒子に結合している」といえる。
また,引用発明1の「1-オクタンセレノールキャッピング剤」は,有機物であるから,本願発明1の「ナノ粒子に結合している有機キャッピングリガンド」に相当する。
カ 引用発明1の「堆積層を,アニール」する工程の温度は,引用発明1において,「「アニール」は,ナノ粒子が均一な構成の連続層に溶け込む十分な温度及び十分な時間での堆積層の加熱を意味する」こと,また,「1-オクタンセレノールキャッピング剤に配位され,熱することによりこのキャッピング剤を取り除いて,配位リガンドによるキャッピングの影響と更なる処理を受け易い「裸の」ナノ粒子を生み出すことが出来る」ことから,本願発明1の「ナノ粒子に結合している有機キャッピングリガンドを除去するのに十分な温度」といえる。
キ すると,本願発明1と引用発明1とは,下記クの点で一致し,下記ケの点で相違する。
ク 一致点
「 Cu(In,Ga)Se_(2)半導体膜を形成する方法において,
ナノ粒子を基板上に共堆積する工程と,
ナノ粒子が融解するのに十分な温度に前記基板を加熱する工程と,
を含んでおり,
ナノ粒子は,ナノ粒子に結合している有機キャッピングリガンドを含んでおり,
前記温度は,ナノ粒子に結合している有機キャッピングリガンドを除去するのに十分な温度である方法。」
ケ 相違点
(ア)相違点1
本願発明1は,「CuSeナノ粒子及びセレン化13族ナノ粒子」であるのに対して,引用発明1は,(Al,Ga,及び/又はInの内の少なくとも1つとCu,Ag,Zn,及び/又はCdの内の少なくとも1つの源を含む)ナノ粒子である点。
(イ)相違点2
本願発明1は,「セレン化13族ナノ粒子」が「セレン化13族半導体と,炭素-セレン共有結合によって前記セレン化13族ナノ粒子に結合している有機キャッピングリガンドとを含んで」いるのに対し,引用発明1は,ナノ粒子の表面原子は,1-オクタンセレノールキャッピング剤に配位されている点。

(2)相違点についての判断
相違点1,2についてまとめて検討する。
ア 引用文献2には,「CIGS薄膜の形成に利用されるセレン(Selenium;Se)化合物ナノ粒子インク」として「Cu_(2)Se,(In,Ga)_(2)Se_(3),In_(2)Se_(3)ナノ粒子に溶媒と分散剤をそれぞれ添加して,均一に混合することによって簡単に製造することができる。」こと(第3の2【0057】)が記載されており,引用文献2の「Cu_(2)Seナノ粒子」,「(In,Ga)_(2)Se_(3),In_(2)Se_(3)ナノ粒子」は,本願発明1の「CuSeナノ粒子」,「セレン化13族ナノ粒子」にそれぞれ相当する。
ここで,引用発明1には,「熱することによりこのキャッピング剤を取り除いて,配位リガンドによるキャッピングの影響と更なる処理を受け易い「裸の」ナノ粒子を生み出すことが出来ること。」が記載されているとはいえ,引用文献1には,アニール雰囲気は特に記載されておらず,何ら注目していない。
また,引用文献2には,「セレン(Se)雰囲気で熱処理」してCIGS薄膜を製造すること(第3の2【0076】,【0081】)が記載されている。
したがって,引用文献2に「CuSeナノ粒子」,「セレン化13族ナノ粒子」が記載されているとはいえ,当業者が,「開示されているナノ粒子のセレノールリガンドは,開示されているナノ粒子を用いて作られた膜の焼結中に,セレンリッチな雰囲気をもたらす。」(本願明細書【0043】)ことを認識することはなく,当業者が,引用発明1において,上記相違点1,2に係る構成を採用することが容易であったとは認められない。
イ そして,本願発明1は,相違点1,2に係る構成を備えることによって,「焼結中に,更なるSe源を入れる必要はない。」(本願明細書【0043】)という格別の効果を奏すると認められる。

2 本願発明2-14について
本願発明2-14は,本願発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用文献1,2に記載された発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は,平成29年5月25日付け手続補正により補正された請求項1-14に記載された発明について,上記引用文献1,2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかしながら,平成31年2月19日付け手続補正により補正された請求項1-14に記載された発明は,上記のとおり,引用文献1,2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。
したがって,原査定の理由を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
特許法第17条の2第3項について
当審では,平成30年2月21日付けでした手続補正は,外国語書面の翻訳文に記載した事項の範囲内においてしたものでないとの拒絶の理由を通知しているが,平成31年2月19日付けの補正において,補正がされた結果,この拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明1-14は,当業者が引用文献1,2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-04-19 
出願番号 特願2016-110756(P2016-110756)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 55- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 長谷川 直也  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 深沢 正志
河合 俊英
発明の名称 セレン化13族ナノ粒子  
代理人 特許業務法人 丸山国際特許事務所  

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