• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C03C
管理番号 1351020
審判番号 不服2018-11307  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-21 
確定日 2019-05-20 
事件の表示 特願2014-235159号「ガラス」拒絶査定不服審判事件〔平成28年1月14日出願公開、特開2016-5999号、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年11月20日(優先権主張平成26年5月27日)の出願であって、平成30年5月11日付けの拒絶理由通知書に対して、同年6月6日付けの意見書及び手続補正書が提出され、同年8月9日付けで拒絶査定がなされ、この拒絶査定に対して、同月21日付けで審判請求がなされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願請求項1ないし12に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明12」という。)は、平成30年8月21日付け手続補正書により補正された請求項1ないし12に記載された事項により特定される以下のものである。
「 【請求項1】
ガラス組成として、質量%で、SiO_(2) 55?65%、Al_(2)O_(3) 15?25%、B_(2)O_(3) 0?7%、MgO 0?5%、CaO 2?10%、SrO 0?5%、BaO 0?7%、P_(2)O_(5) 0.1?7%を含有し、モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al_(2)O_(3)が0.8?1.4、モル比CaO/Al_(2)O_(3)が0.55?0.9であることを特徴とするガラス。
【請求項2】
モル%で、{2×[SiO_(2)]-[MgO]-[CaO]-[SrO]-[BaO]}≦130%の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
ガラス組成中のLi_(2)O+Na_(2)O+K_(2)Oの含有量が0.5質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項4】
ガラス組成中のB_(2)O_(3)の含有量が2.5質量%以上であることを特徴とする請求項1?3の何れか一項に記載のガラス。
【請求項5】
ガラス組成中のFe_(2)O_(3)+Cr_(2)O_(3)の含有量が0.012質量%以下であることを特徴とする請求項1?4の何れか一項に記載のガラス。
【請求項6】
歪点が710℃以上であることを特徴とする請求項1?5の何れか一項に記載のガラス。
【請求項7】
10質量%HF水溶液に室温で30分間浸漬した時のエッチング深さが25μm以上になることを特徴とする請求項1?6の何れか一項に記載のガラス。
【請求項8】
ヤング率が75GPa以上であることを特徴とする請求項1?7の何れか一項に記載のガラス。
【請求項9】
比ヤング率が30GPa/(g/cm^(3))以上であることを特徴とする請求項1?8の何れか一項に記載のガラス。
【請求項10】
液晶ディスプレイに用いることを特徴とする請求項1?9の何れか一項に記載のガラス基板。
【請求項11】
OLEDディスプレイに用いることを特徴とする請求項1?9の何れか一項に記載のガラス基板。
【請求項12】
ポリシリコン又は酸化物TFT駆動の高精細ディスプレイに用いることを特徴とする請求項1?11の何れか一項に記載のガラス基板。」

第3 原査定の拒絶理由
原査定の拒絶理由は、平成30年6月6日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に係る発明について、「平成30年5月11日付けの拒絶理由通知書に記載した理由2(特許法第29条第2項)によって、拒絶をすべきものである」というものであり、その概要は、「本願の請求項1ないし12に係る発明は、引用文献1(特開2012-184146号公報)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。」というものである。

第4 当審の判断
第4-1 原査定の拒絶理由について
(1)はじめに
本願発明1ないし12が、引用文献1(特開2012-184146号公報)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かについて検討する。

(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、以下の記載がある。
(a)「【請求項1】
ガラス組成として、質量%で、SiO_(2) 55?80%、Al_(2)O_(3) 10?25%、B_(2)O_(3) 2?5.5%、MgO 3?8%、CaO 3?10%、SrO 0.5?5%、BaO 0.5?7%を含有し、モル比MgO/CaOが0.5?1.5であり、実質的にアルカリ金属酸化物を含有せず、ヤング率が80GPaより高いことを特徴とする無アルカリガラス。」

(b)「【0054】
【表1】




上記(a)に記載された無アルカリガラスおよび同(b)に記載されたその実施例のNo.3からして、引用文献1には、「ガラス組成として、SiO_(2) 61.0wt%、Al_(2)O_(3) 18.8wt%、B_(2)O_(3) 3.0wt%、P_(2)O_(5) 0.6wt%、MgO 4.6wt%、CaO 4.9wt%、SrO 1.0wt%、BaO 5.0wt%、SnO_(2) 0.3wt%を含有する、無アルカリガラス。」(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。

(3)対比・判断
本願発明1と引用発明とを対比する。
○引用発明の「無アルカリガラス」は、本願発明1の「ガラス」に相当する。

○引用発明の「ガラス組成として、SiO_(2) 61.0wt%、Al_(2)O_(3) 18.8wt%、B_(2)O_(3) 3.0wt%、P_(2)O_(5) 0.6wt%、MgO 4.6wt%、CaO 4.9wt%、SrO 1.0wt%、BaO 5.0wt%、SnO_(2) 0.3wt%を含有」は、本願発明1の「ガラス組成として、質量%で、SiO_(2) 55?65%、Al_(2)O_(3) 15?25%、B_(2)O_(3) 0?7%、MgO 0?5%、CaO 2?10%、SrO 0?5%、BaO 0?7%、P_(2)O_(5) 0.1?7%を含有」に相当する。

上記より、本願発明1と引用発明とは、「ガラス組成として、質量%で、SiO_(2) 55?65%、Al_(2)O_(3) 15?25%、B_(2)O_(3) 0?7%、MgO 0?5%、CaO 2?10%、SrO 0?5%、BaO 0?7%、P_(2)O_(5) 0.1?7%を含有」する「ガラス」という点で一致し、
本願発明1は、「モル比CaO/Al_(2)O_(3)が0.55?0.9である」のに対して、引用発明は、0.474(計算値)である点で少なくとも相違している。

上記相違する点(以下、「相違点」という。)について検討する。
(i)引用文献1の「Al_(2)O_(3)は、ガラスの骨格を形成する成分であり、またヤング率を高める成分であり、更に分相を抑制する成分である。Al_(2)O_(3)の含有量は10?25%、好ましくは12?20%、より好ましくは14?20%である。Al_(2)O_(3)の含有量が少な過ぎると、ヤング率が低下し易くなり、またガラスが分相し易くなる。一方、Al_(2)O_(3)の含有量が多過ぎると、ムライトやアノーサイト等の失透結晶が析出し易くなって、液相温度が上昇し易くなる。」(【0025】)および「CaOは、歪点を低下させずに、高温粘性を下げて、溶融性を顕著に高める成分である。また、アルカリ土類金属酸化物の中では、導入原料が比較的安価であるため、原料コストを低廉化する成分である。CaOの含有量は3?10%、好ましくは3.5?9%、より好ましくは4?8.5%、更に好ましくは4?8%、特に好ましくは4?7.5%である。CaOの含有量が少な過ぎると、上記効果を享受し難くなる。一方、CaOの含有量が多過ぎると、ガラスが失透し易くなる。」(【0028】)との記載からして、引用発明のAl_(2)O_(3)の18.8wt%を減らすことにかなりの余地があり、また、同CaOの4.9wt%を増やすことにかなりの余地があるものの、上記のとおり、両成分の役割は全く異なるから、引用文献1には、Al_(2)O_(3)の含有量を減らして、CaOの含有量を増やすことについて記載も示唆もない。

(ii)さらに、本願明細書には、「本発明は、生産性(特に耐失透性)に優れると共に、HF系薬液に対するエッチングレートが速く、しかも歪点が高い無アルカリガラスを創案することにより、ガラス板の製造コストを低廉化しつつ、薄型のディスプレイパネルの製造工程において、スループットを向上させ、更にp-Si・TFTの製造工程におけるガラス板の熱収縮を低減することを技術的課題とする。」(【0011】)、「本発明者は、種々の実験を繰り返した結果、SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-B_(2)O_(3)-RO(ROは、アルカリ土類金属酸化物)系ガラスにおいてガラス組成範囲を厳密に規制することにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として提案するものである。」(【0012】)、「本発明者の調査によると、SiO_(2)、Al_(2)O_(3)、B_(2)O_(3)及びROの含有量を適正化すれば、初相として、SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-RO系結晶、SiO_(2)系結晶、SiO_(2)-Al_(2)O_(3)系結晶の内、2種類以上の結晶が析出する。この場合、ガラスが安定化して、耐失透性が顕著に向上する。」(【0013】)、「モル比CaO/Al_(2)O_(3)を所定範囲に調整すると、液相線温度付近の温度において、2種類以上の結晶が析出し易くなる。モル比CaO/Al_(2)O_(3)が小さくなると、SiO_(2)-Al_(2)O_(3)系結晶が析出し易くなる。一方、モル比CaO/Al_(2)O_(3)が大きくなると、SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-CaO系結晶が析出し易くなる。よって、モル比CaO/Al_(2)O_(3)の好適な上限値は1.0、0.9、0.85、特に0.8であり、好ましい下限値は0.3、0.4、0.5、0.55、0.58、0.60、0.62、0.64、特に0.65である。」(【0034】)との記載があり、これらからして、本願発明1は、モル比CaO/Al_(2)O_(3)の範囲を特定することにより、「ガラスを安定化させ、耐失透性を顕著に向上させる等」という、引用文献1の記載から予期し得ない効果を奏するものである。

(iii)上記より、引用文献1の記載からは、引用発明のモル比CaO/Al_(2)O_(3)の0.474について、CaO、Al_(2)O_(3)以外の成分含有量を変化させずに0.55?0.9の範囲内にして、「ガラスを安定化させ、耐失透性を顕著に向上させる等」という効果を得ることは、当業者であっても想起し得ることではない。
同じく、引用文献1の【0055】【表2】のNo.9およびNo.10についても、それぞれのモル比CaO/Al_(2)O_(3)(計算値)の0.468、0.457を上記範囲内にして、上記効果を得ることは、当業者であっても想起し得ることではない。

(iv)したがって、上記相違点に係る本願発明1の特定事項は、引用発明、引用文献1記載の事項および本願優先日前に周知の事項から導き出すことができるものとはいえないので、本願発明1は、他の相違点を検討するまでもなく、「引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである」とはいえない。
また、本願発明2ないし12は、本願発明1と同じく、上記相違点に係る本願発明1の特定事項を有するものであるので、「引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである」とはいえない。

第4-2 原査定の拒絶理由以外の理由について
本願発明1ないし12について、新たな拒絶の理由は、発見することができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし12は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないので、原査定の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶する理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-05-08 
出願番号 特願2014-235159(P2014-235159)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C03C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 永一  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 豊永 茂弘
宮澤 尚之
発明の名称 ガラス  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ