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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61N
管理番号 1351051
審判番号 不服2017-17907  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-01 
確定日 2019-04-24 
事件の表示 特願2014-558196「医療装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月29日国際公開、WO2013/124615、平成27年 3月30日国内公表、特表2015-509399〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)2月4日(パリ条約による優先権主張 2012年2月22日(GB)英国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年10月 7日付け:拒絶理由通知書
平成29年 1月18日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年 7月19日付け:拒絶査定
平成29年12月 1日 :審判請求書、手続補正書の提出


第2 平成29年12月1日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年12月1日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由](補正の適否の判断)
1 本件補正について(補正の内容)
(1) 本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線は、補正箇所である。)

「【請求項1】
医療装置であって、
患者の少なくとも1つの目に向けて光線を照射するための光線源と、
前記光線源を、前記患者の少なくとも1つの目に対して所定の位置に置くために、前記患者が装着するように設けられる取付け要素であって、前記光線源を、前記患者の少なくとも1つの目に対して所定の位置に置くために、患者の顔面又は頭部に取り付けられるように設けられるマスク、ゴーグル又はバイザーを含む取付け要素と、
前記患者が前記装置を装着しているか否かを示す信号を提供するために設けられるセンサ要素と、
前記センサ要素からの前記信号を受け、そして、前記患者が前記装置を装着しているか否かを決定し、そして、前記患者が前記装置を装着している間の、前記光線源の光線の照射に係る継続時間を示す継続時間データを決定し記録するため、更にそのデータを別の機器へ送信するために設けられる少なくとも1つのコントローラと
を備える医療装置。」

(2) 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成29年1月18日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
医療装置であって、
患者の少なくとも1つの目に向けて光線を照射するための光線源と、
前記光線源を、前記患者の少なくとも1つの目に対して所定の位置に置くために、前記患者が装着するように設けられる取付け要素であって、前記光線源を、前記患者の少なくとも1つの目に対して所定の位置に置くために、患者の顔面又は頭部に取り付けられるように設けられるマスク、ゴーグル又はバイザーを含む取付け要素と、
前記患者が前記装置を装着しているか否かを示す信号を提供するために設けられるセンサ要素と、
前記センサ要素からの前記信号を受け、そして、前記患者が前記装置を装着しているか否かを決定し、そして、前記患者が前記装置を装着している間の、前記光線源の光線の照射に係る継続時間を示す継続時間データを決定し記録するために設けられる少なくとも1つのコントローラと
を備える医療装置。」


2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「コントローラ」について、上記のとおり限定を付加するものを含むものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される発明(以下「補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1) 補正発明
補正発明は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2) 刊行物の記載事項
ア 刊行物1
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった刊行物である、特開2004-313213号公報(平成16年11月11日出願公開。以下「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は、合議体が付与した。)

(ア) 「【請求項5】眼部装着用器具が、頭部装着用バンドと、その前頭部分より突設された眼鏡状器具であることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の光治療器具。」

(イ) 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、眼科における低反応レベルの光治療器具に係り、特に涙の分泌促進に係る疾患の治療器具に関する。」

(ウ) 「【0006】図1は、本発明の眼部装着用眼鏡型の光治療器具を装着したときの外観斜視図である。図において、1は光治療器具、2は眼鏡のつる、3は眼鏡型器具、5は左右位置移動及び締着具、5’はワッシャー、6は左右スライド溝、7は眼鏡部、9は患者、11はまぶた、を示す。図示したように、患者は眼鏡型器具3を装着すると眼鏡部7の内側に突設された治療用プローブ4(図2)が、まぶた11の上部涙腺の位置の前方にセットされる。」

(エ) 「【0007】図2は、眼鏡型器具の外観図で、(イ)は平面図、(ロ)正面図、(ハ)右側面図で、図3は、図2(イ)のA-A’断面図、を示す。図において、10は眼鏡上縁部、4は治療用プローブ、12はプローブ外筒、13は発光部筐体、14はタッチセンサ、16は締着ひも、17は調節具、18はプローブ制御及び信号ケーブル、19は照射レンズ、20は鼻基部支持具を示す。眼鏡型器具3を装着し、前記上下左右の位置調整により治療用プローブ4が前記涙腺の前方にセットされると、プローブ外筒12内に配設されている発光部筐体13は常時はバネ材21(図4の(ロ))により外方(まぶた側)に付勢されているが、まぶた11の上部涙腺の位置における押力により元に戻される。上記により治療用プローブ4は適正な圧力により治療ゾーンに当接し、前記照射レンズ19の先端部から光が照射される。そして、この際、治療用プローブ4の照射レンズ19の先端部の周辺に配設されている2本のタッチセンサ14(図4、図10)の先端部は、当接している皮膚面を、抵抗をもつ導電体として閉回路を形成しタッチ信号を発信する。この信号は、左、右の前記涙腺近傍から発信される。」

(オ) 「【0009】図4は、治療用プローブの組立図で、(イ)図は正面図、(ロ)図は(イ)図のB-B’断面図、(ハ)図は背面図である。以下に、その機構と作用を説明する。図において、21はバネ材、22は半導体レーザ発光素子、23は制御回路基板、24はストッパ、32は外筐端折り曲げ、33はプローブ外筒底板、34はネジ棒、34’はメスネジを示す。図4の(ロ)図に示したように、発光部筐体13内には、直列にコヒーレントな半導体レーザ発光素子22と照射用レンズ19と制御回路基板23が配設されており、発光部筐体13がプローブ外筒12の内側に、バネ材21によって摺動可能に収納されている。そして常時は、発光部筐体13は前記バネ材21により外側(まぶた側)に付勢されており、一定距離になると、発光部筐体13の外側に配設されたストッパ24が外筐端折り曲げ32の内側に当たり停止している。」

(カ) 「【0010】また、前記治療用プローブ4の外筒12の底部と、眼鏡部7の内面とは、左右スライド溝6を介して連結されている。即ち、左右位置移動及び締着具5の底部はワッツャー5’を介して先端部に刻設されたネジ棒34が固着されており、前記眼鏡部7に設けられた左右スライド溝6を貫通してネジ棒34の先端部のオスネジは、プローブ外筒底板33に刻設されたメスネジ34’と、浅深自在に嵌合される。最初、眼鏡型器具3を装着し上下の位置の調整後、前記左右位置移動及び締着具5のネジ棒34の嵌合を浅くし、左右スライド溝6に沿って治療用プローブ4を左又は右に移動させて所定位置に合わせた後、前記左右位置移動及び締着具5のネジ棒34の嵌合を深くし締着する。」

(キ) 「【0011】図5は、制御器の外観斜視図である。図において、25は制御器、26は電源スイッチ(キー付き)、27は電源供給部及び制御回路部、28は外部接続ケーブル、29は信号線及び電源供給ケーブル、30は商用電源接続ケーブルを示す。上記電源供給部及び制御回路部27は、治療に適合する前記治療用プローブ4からの照射出力及び照射時間の設定回路を有しており、また電源スイッチ(キー付き)26は、使用者を特定するものである。なお、電源に電池を使用するときは前記商用電源接続ケーブル30は不要である。そして光治療器具の制御器25の筐体は携帯型で身体の一部に収納又は付設できる形状であり、例えばポケット等に収納又はバンド等に着設してもよい。」

(ク) 「【0015】図10は、本発明の光治療用器具のブロック図である。図において、23は制御回路基板、26’は電池用電源スイッチ、36は直流電源、36’は電池、37はリレータイマー、38は限時接点、39はリレー、40は電源プラグ、41はタッチ信号検知リレー駆動部、42は接続コネクター接点、43はリレー接点、44はキーを示す。電源スイッチ(キー付き)26は、キー44の挿入回転によりONになりロックされ、逆回転によりOFFになり、引き抜くことができるため、特定者の使用に限定される。上記電源スイッチ(キー付き)26のONにより、直流電源36が動作すると、まずタッチ信号検知リレー駆動部41が作動する、そして、前記左右の治療用プローブ4の先端部のタッチセンサ14が、患者の治療ゾーンに当接され皮膚の表面抵抗を介して短絡されると、その信号は前記タッチ信号検知リレー駆動部41のアンド回路に入力されて出力は増幅されてリレー39を駆動し、そのリレー接点43がONになって、治療用プローブ4の制御回路基板23の励振回路を作動させ、半導体レーザ発光素子22を発光させる。そして、照射レンズ19よって所定の光束になり照射される。また、出力は励振回路の半固定調整部により、所定出力に設定することができる。」

(ケ) 「【0016】以上の順序により治療用プローブ4の先端が治療ゾーンに当接されたことを確認後、リレー接点43をONにしレーザ光を発生させるため、安全に操作することができる。また、上記リレー接点43がONで、リレータイマー37がONになり、所定の設定時間が経過すると、その限時接点38がOFFになり直流電源36がOFFになって、前記レーザ光の発生は停止され、一定時間の治療を実施することができる。また、前記リレータイマーは37は、電源スイッチ(キー付き)26をキー44によって回転復帰させて(接点OFF)電源をOFFにし、最初の位置に戻るまでそのままの状態が保持され、その後再起動の状態に復帰する。上記により電源スイッチ(キー付き)26の使用者を特定することができる。そして、治療用プローブ4と制御器25との間は、接続コネクター接点42を介して外部接続ケーブル28により接続されている。さらに、前記直流電源36の代わりに電池36’を使用する場合は、前記リレー39の前に電池用電源スイッチ26’経由(仮想線)接続すればよい。」

(コ)「【0017】次に本発明の光治療器具の治療効果の事例を示す。
対象者:眼の乾き、疲れ、眼をあけていられない等の、いわゆるドライアイの症状を訴える23才(症例1)、33才(症例2)の男性2名、25才(症例3)の女性1名の計3名。
使用機器:疼痛緩快用半導体治療装置オーレイズ3D1(GaALAs半導体レーザ、波長830nm、出力60mW)
治療:中枢優先説に基づき、涙腺周囲を含め、レーザ照射を12分?25分行った。
効果の判定:痛みの効果判定に用いられるPRS(Pain Rarefy Score)を用い、痛みを主訴に置き換えて治療直後の改善度合いを判定した。」

(サ) 図1


(シ) 図2


(ス) 図4


(セ) 図5


(ソ) 図10


(タ) 刊行物1発明
上記(ス)の図4には、治療用プローブ(4)の照射レンズ(19)はタッチセンサ(14)の間に存在する点が開示されている。また、上記記載事項(ク)によれば、光治療器具(1)は、タッチセンサ(14)が治療ゾーンに当接すると照射レンズ(19)から光が照射されるものであるといえる。これらの事項から、光の照射は治療ゾーンに対して行われるものであると認められる。
上記記載事項(ア)によれば、眼鏡型器具(3)は頭部に装着されるものである。また、上記記載事項(カ)によれば、眼鏡型器具(3)により上下の位置を、左右位置移動及び締着具(5)により左右の位置を調整し、治療用プローブ(4)が所定位置に合わせられる。さらに、上記記載事項(エ)によれば、上下左右の位置調整が行われた後、治療用プローブ(4)が治療ゾーンに当接することとなる。これらの事項から、眼鏡型器具(3)を頭部に装着することで、治療用プローブ(4)を治療ゾーンに対して所定の位置に置くことができるものと認められる。
上記記載事項(エ)によれば、眼鏡型器具(3)を装着し、治療用プローブ(4)が治療ゾーンに当接すると、タッチセンサ(14)がタッチ信号を発信するものと認められる。また、治療用プローブ(4)が患者(9)の治療ゾーンに当接するのは、眼鏡型器具(3)が装着されたときであり、眼鏡型器具(3)が装着されていないときに、治療用プローブ(4)が患者(9)の治療ゾーンに当接されないことは明らかである。これらの事項から、治療用プローブ(4)が治療ゾーンに当接するか否かと、眼鏡型器具(3)が装着されたか否かとは連動しており、タッチセンサ(14)が発信するタッチ信号は、患者(9)が眼鏡型器具(3)を装着しているか否かを示すものと認められる。
上記記載事項(ク)、(ケ)によれば、制御器(25)は治療用プローブ(4)と接続されており、タッチセンサ(14)からのタッチ信号により治療ゾーンに当接したことを確認するものと認められる。また、上記したとおり、タッチ信号は患者(9)が眼鏡型器具(3)を装着しているか否かを示すものであるから、制御器(25)は患者(9)が眼鏡型器具(3)を装着しているか否かを決定しているものと認められる。

上記記載事項(ア)?(ソ)を、これらの認定事項と併せて技術常識を踏まえ補正発明に照らして整理すると、刊行物1には次の発明が記載されていると認められる(以下「刊行物1発明」という。)。

「光治療器具(1)であって、
患者(9)の治療ゾーンに向けて光を照射する治療用プローブ(4)と、
前記治療用プローブ(4)を、前記患者(9)の治療ゾーンに対して所定の位置に置くために、前記患者(9)の頭部に装着するよう設けられる眼鏡型器具(3)と、
前記患者(9)が前記眼鏡型器具(3)を装着しているか否かを示すタッチ信号を発信するタッチセンサ(14)と、
前記タッチセンサ(14)からの前記タッチ信号により前記患者(9)が前記眼鏡型器具(3)を装着しているか否かを決定し、リレータイマー(37)による設定時間が経過するまで前記治療用プローブ(4)を作動させる制御器(25)と
を備える光治療器具(1)。」

イ 刊行物2
新たに引用する、本件の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2002-197200号公報(平成14年7月12日出願公開。以下「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は、合議体が付与した。)

(ア) 「【0002】【従来の技術】従来、医療機関の医者が、例えば慢性疾患である糖尿病の患者を治療する場合、医者は患者の治療内容を継続的に管理することが必要である。そのため、予めそれぞれの患者の疾病状態に応じたクリティカル・パスと呼称される治療計画を作成する。このクリティカル・パスは、時間的経過に沿って実施される治療計画で、一覧表状に紙面に作成されるものであり、疾病管理において必要となる臨床検査、処置、看護ケア、投薬などの介入が示されている。そして、医者は、上記治療計画に示されている臨床検査、処置、看護ケア、投薬などの実施状況を紙面上に記入するという手段により治療計画の実施状況を管理し、患者の治療を継続的に進めている。」

(イ) 「【0003】【発明が解決しようとする課題】上記のように、医者は、患者の治療を継続的に進めるために治療計画を作成するが、治療計画を作成するために、従来、かなりな手間をかけているという問題がある。また、同一の疾病でも医者により治療計画の作成内容に個人差があるため、治療の標準化が極めて困難である。更に、医者が各患者の治療計画の実施状況を確認したうえ、その実施状況を治療計画書に正確に記入するという人為的な管理手段では医者の手間がかかり過ぎて、治療計画を患者の治療に有効に利用することができないという問題がある。」

ウ 刊行物3
原査定において周知例として例示された、本件の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特表2008-539808号公報(平成20年11月20日出願公表。以下「刊行物3」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は、合議体が付与した。)

(ア) 「【0003】本発明は、標的の身体表面に放射線を送出する機器および方法に関し、皮膚科治療方法および装置および眼科的治療方法および装置を含む。本発明は標的身体表面に放射線を送出するデバイスを製造する方法にも関する。また、本発明は乾癬、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、白斑、脂漏性皮膚炎および皮膚癌などの皮膚、爪、および目の疾患を治療する方法および装置を含む。」

(イ) 「【0052】実施形態では、制御装置302は、治療を施している時間を追跡し続けるという作業から患者および/または医師を解放することができる。例えば、制御装置302は、個々の各放射線源102および/または複数の各放射線源102グループが使用された時間の総量を追跡することができる。つまり、各放射線源102を周期的にオンおよびオフに切り換えることができ、制御装置302またはタイマ(図示せず)は、任意の放射線源がオンになっている時間の総量および/または総エネルギを追跡し続けることができる。幾つかの実施形態では、制御装置は、機器の携帯性を促進する。したがって、患者に与えられる線量を医師または患者が監視していない場合は、治療区域に送出される線量が高すぎる可能性がある。制御装置があれば、個々の放射線源がオンになっている長さおよび/または個々の放射線源に関連する放射線源のグループがオンになっている長さを追跡し続けながら、様々なグループの放射線源102を一緒に、別個にオンおよびオフに切り換えるか、全く切り換えないことがある(というのは、放射線源のグループおよびグループ内の個々の放射線源は、同じ時間の量だけオンになっていると予想されるからである)。幾つかの実施形態では、パッチにコンピュータインタフェースを設け、したがって患者または医師は1つまたは複数の標的区域で特定の線量を達成するために、コンピュータインタフェースをプログラムし、その後にパッチをプログラムする。例えば、コンピュータインタフェースの使用者は、治療される領域および与えられる線量を決定する。この方法は、身体表面の特定の(例えば病気の)位置に特定の線量が与えられることを保証する。この方法で、理想的な毒性と効力との比率を獲得することができる。」

(ウ) 「【0067】図4は、制御装置302の実施例のブロック図を示す。制御装置302はプロセッサ402、記憶装置404、および信号発生器415を含んでよい。記憶装置404は、治療プログラム406、較正プログラム408および/または他のプログラム410を有してよい。記憶装置404はMED412および/または患者に以前に与えられた線量履歴などの他のパラメータを記憶することができる。制御装置302は、1つまたは複数の入力ポート414および1つまたは複数の出力ポート416も有してよい。他の実施形態では、制御装置302は、図4に関連する構成要素を全ては有さない、かつ/または図4に関連する構成要素に加えて、またはその代わりに他の構成要素を有してよい。」

(エ) 刊行物3技術
上記記載事項(ア)?(ウ)を、技術常識を踏まえて整理すると、刊行物3には以下の技術が記載されていると認められる(以下「刊行物3技術」という。)。

「皮膚科や眼科の治療装置において、治療時間を追跡しつづける作業負担から患者及び医師を解放するため、放射線源がオンになっている時間を制御装置により追跡し、記憶すること。」

エ 刊行物4
新たに引用する、本件の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった米国特許出願公開第2008/0125834号明細書(2008年5月29日出願公開。以下「刊行物4」という。)には、次の事項が記載されている。(和文は当審による訳文。下線は、合議体が付与した。)

(ア) 「[0002] The present disclosure relates generally to controls for phototherapeutic devices useful for ultraviolet light phototherapy. Methods of making and using such controls and/or devices are also disclosed.」(本開示は、紫外線光線療法に有用な治療装置の制御装置に関する。そのような制御装置や装置を作成、使用する方法も開示される。)

(イ) 「[0005] In a clinical setting, a physician, nurse or phototherapy technician is responsible for ensuring that a patient receives the correct treatment protocol. The protocol comprises a series of light exposure sessions including the duration of exposure for each session and the frequency of sessions (i.e, the interval between sessions).」(臨床現場では、医師や看護師、光線療法技術者は、患者に正しい治療計画を受けさせる責任を持つ。当該治療計画は、各セッションの曝露時間や頻度を含む一連の光曝露セッションを含む。)

(ウ) 「[0025] The timer may further time an actual duration and a beginning time of a therapeutic light emissions treatment; and the device may further comprise a recorder for recording the beginning time and the actual duration of the therapeutic light emissions treatment. The device can also include a transmitter for transmitting the recorded beginning time and actual duration of the therapeutic light emissions treatment to a third party.」(タイマーは、治療用光放射治療の経過時間や開始時刻も測定することができる。この装置は、治療用光放射治療の経過時間や開始時刻の記録装置を備えていてもよい。この装置は、記録された経過時間や開始時刻を第三者に送信する送信機を含むことができる。)

(エ) 刊行物4技術
上記記載事項(ア)?(ウ)を、技術常識を踏まえて整理すると、刊行物4には以下の技術が記載されていると認められる(以下「刊行物4技術」という。)。

「光線治療装置において、患者が正しい治療計画を受けることを確実にするため、治療の経過時間や開始時刻を記録し、記録した治療時間を第三者に送信すること。」

(3) 対比
補正発明と刊行物1発明とを対比すると、以下のとおりである。
刊行物1発明の「光治療器具(1)」は、その作用、機能からみて、補正発明の「医療装置」に相当し、以下同様に、「治療用プローブ(4)」は「光線源」に、「眼鏡型器具(3)」は「マスク、ゴーグル又はバイザーを含む取付け要素」に、「タッチセンサ(14)」は「センサ要素」に、「制御器(25)」は「少なくとも1つのコントローラ」に、それぞれ相当する。
また、刊行物1発明の「治療ゾーン」は、補正発明の「少なくとも1つの目」とは、患者の治療部位である点で共通する。


したがって、補正発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「医療装置であって、
患者の治療部位に向けて光線を照射するための光線源と、
前記光線源を、前記患者の治療部位に対して所定の位置に置くために、前記患者が装着するように設けられる取付け要素であって、前記光線源を、前記患者の治療部位に対して所定の位置に置くために、患者の顔面又は頭部に取り付けられるように設けられるマスク、ゴーグル又はバイザーを含む取付け要素と、
前記患者が前記装置を装着しているか否かを示す信号を提供するために設けられるセンサ要素と、
前記センサ要素からの前記信号を受け、そして、前記患者が前記装置を装着しているか否かを決定するために設けられる少なくとも1つのコントローラと
を備える医療装置。」


そして、補正発明と刊行物1発明とは、以下の2点で相違している。
<相違点1>
光線源が光線を照射する患者の治療部位及び取付け要素によって光線源の置かれる位置について、補正発明では、少なくとも1つの目及び少なくとも1つの目に対して所定の位置であるのに対し、刊行物1発明では、治療ゾーン及び治療ゾーンに対して所定の位置である点。

<相違点2>
少なくとも1つのコントローラにおいて、補正発明では、患者が装置を装着している間の、光線源の光線の照射に係る継続時間を示す継続時間データを決定し記録するため、更にそのデータを別の機器へ送信するために設けられているのに対し、刊行物1発明では、そのような機能を有しているか明らかでない点。

(4) 判断
上記相違点1、2について、以下、検討する。

ア 相違点1について
刊行物1発明の「治療ゾーン」は、治療用プローブ(4)が当接する「まぶた(11)の上部涙腺の位置」であるが、まぶたや涙腺は眼の保護器官であり(A.シェフラー、S.シュミット著,三木明徳、井上貴央訳,「からだの構造と機能」,初版,西村書店,1998年1月10日,p.173)、目の一部を構成するといえることから、刊行物1発明の「治療ゾーン」は、補正発明の「目」に相当するといえる。
そうすると、相違点1は実質的な相違点ではないということになる。

イ 相違点2について
まず、補正発明においては、装置の装着と光線の照射時間との直接的な因果関係を特定するものではない。
そして、刊行物1発明の制御器(25)は、「リレータイマー(37)による設定時間が経過するまで前記治療用プローブ(4)を作動させる」ことから、当該制御器(25)において、リレータイマー(37)の設定時間として、光線の照射に係る照射時間を決定していることは明らかである。
次に、患者の治療に当たっては、検査・処置・投薬といった施療状況について記録に残して管理することは一般的に知られているところ、上記刊行物2に示されるように(上記(2)イ)、紙面上に記入するといった人為的な管理方法では負担が大きすぎるため、治療計画を有効に利用できないという問題が知られている。また、医師等による管理負担を軽減するため治療時間を記録しておくこと(上記「刊行物3技術」)や、治療計画を確実に実施するため治療時間を記録し、第三者に送信しておくこと(上記「刊行物4技術」)は、いずれも周知の技術である。
してみれば、刊行物1発明において、患者の治療装置である以上、これと同じ問題を内包することは明らかであることから、刊行物1発明のコントローラを、光線源の光線の照射に係る継続時間を示す継続時間データを記録するため、第三者に送信したりするために設けるよう構成することに、何ら困難性はない。

そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、補正発明の奏する作用効果は、刊行物1発明並びに刊行物3技術及び刊行物4技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

したがって、補正発明は、刊行物1発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


3.本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1.本願発明
平成29年12月1日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成29年1月18日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2の1(2)に記載のとおりのものである。


2.原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?12に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び周知技術を示す引用文献2、3に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2004-313213号公報(本審決における上記刊行物1)
引用文献2:特表2008-539808号公報(本審決における上記刊行物3)
引用文献3:特開昭63-9453号公報


3.引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1、2及びその記載事項は、上記第2の2(2)に、それぞれ刊行物1発明、刊行物3技術として記載したとおりである。

原査定の拒絶の理由で引用された引用文献3(昭和63年1月16日出願公開。以下「刊行物5」という。)には、次の事項が記載されている。

(1) 「この発明はレーザー医療装置に関する。」(第1ページ右下欄第6行)

(2) 「更に、レーザー光線の照射時間を示す時間表示部は設定した時間から零に向けて減算式に時間のカウントを行って表示していたため設定時間内で治療が終了せず、再使用した場合照射時間を設定し直す必要があり、前回の照射時間を記憶したりメモで記入したりしていないとレーザー照射の合計時間が判らないことになるという不具合があった。」(第2ページ左上欄第19行?同右上欄第6行)

(3) 「表示パネル部22は、時間表示部30、パワーチェック表示部31及びレーザーマーク32より主に成っている。時間表示部30は、レーザー照射の累積時間が、最大99分59秒まで加算式にて累積表示できるようになっており、この加算式にて累積表示できる時間表示部30を備えたことがこの発明の一つの特徴である。」(第4ページ左上欄第12?18行)

(4) 刊行物5技術
上記記載事項(1)?(3)を、技術常識を踏まえて整理すると、刊行物5には以下の技術が記載されていると認められる(以下「刊行物5技術」という。)。

「レーザー医療装置において、照射時間を把握しやすくするため、レーザー照射の累積時間を計算し表示すること。」


4.対比・判断
本願発明は、上記第2の2で検討した補正発明から、「更にそのデータを別の機器へ送信するため」に係る限定事項を削除したものであることを踏まえ、本願発明と刊行物1発明とを対比すると、両者は上記第2の2(3)にて示した一致点を有し、相違点1に加えて以下の点で相違している。

<相違点3>
少なくとも1つのコントローラにおいて、本願発明では、患者が装置を装着している間の、光線源の光線の照射に係る継続時間を示す継続時間データを決定し記録する機能を有しているのに対し、刊行物1発明では、そのような機能を有しているか明らかでない点。

相違点1については、上記第2の2(4)アで検討したとおりである。
上記相違点3について検討する。
まず、本願発明においては、装置の装着と光線の照射時間との直接的な因果関係を特定するものではない。
そして、刊行物1発明の制御器(25)は、「リレータイマー(37)による設定時間が経過するまで前記治療用プローブ(4)を作動させる」ことから、当該制御器(25)において、リレータイマー(37)の設定時間として、光線の照射に係る照射時間を決定していることは明らかである。
次に、患者の治療に当たっては、検査・処置・投薬といった施療状況について記録に残して管理することは一般的に知られているところ、上記刊行物2に示されるように(上記第2の2(2)イ)、紙面上に記入するといった人為的な管理方法では負担が大きすぎるため、治療計画を有効に利用できないという問題が知られている。また、医師等による管理負担を軽減するため治療時間を記録しておくこと(上記「刊行物3技術」)や、治療時間を把握しやすくするために時間を計算し表示すること(上記「刊行物5技術」)は、いずれも周知の技術である。
してみれば、刊行物1発明において、患者の治療装置である以上、これと同じ問題を内包することは明らかであることから、刊行物1発明のコントローラを、光線源の光線の照射に係る継続時間を示す継続時間データを記録する機能を有する構成とすることに、何ら困難性はない。

そして、これらの相違点1及び3を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、刊行物1発明並びに刊行物3技術及び刊行物5技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

したがって、本願発明は、刊行物1発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-11-22 
結審通知日 2018-11-27 
審決日 2018-12-11 
出願番号 特願2014-558196(P2014-558196)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61N)
P 1 8・ 575- Z (A61N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石川 薫  
特許庁審判長 芦原 康裕
特許庁審判官 長屋 陽二郎
二階堂 恭弘
発明の名称 医療装置及び方法  
代理人 平井 安雄  

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