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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L 審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L |
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管理番号 | 1351083 |
審判番号 | 不服2017-12148 |
総通号数 | 234 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-06-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-08-15 |
確定日 | 2019-04-25 |
事件の表示 | 特願2014-529348「光電変換素子、撮像装置及び光センサ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月13日国際公開、WO2014/024581〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2013年(平成25年)6月21日(優先権主張 平成24年8月9日)を国際出願日とする出願であって、その手続の概要は、以下のとおりである。 平成28年10月18日付け:拒絶理由通知書 平成28年12月19日 :意見書、手続補正書 平成29年 5月11日付け:拒絶査定(同年5月16日送達) 平成29年 8月15日 :審判請求書の提出 平成30年 5月15日付け:拒絶理由通知書(当審) 平成30年 7月13日 :意見書、手続補正書 平成30年11月 2日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書(当審)平成30年12月28日 :意見書、手続補正書 第2 平成30年12月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成30年12月28日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正の内容 本件補正は、平成30年7月13日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5を、本件補正による特許請求の範囲の請求項1ないし5に補正するものであるところ、本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1、2を、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1、2に変更する補正事項を含むものである。 そして、本件補正前の請求項1、2及び本件補正後の請求項1、2の各記載は、それぞれ、以下のとおりである。 なお、本件補正後の請求項1、2における下線は補正箇所を表している。 〈本件補正前の請求項1、2〉 「【請求項1】 第1の電極と、 第2の電極と、 前記第1及び第2の電極間に設けられ、波長感度が異なる2種の有機半導体材料を含む有機光電変換部と、を有し、 前記第1及び第2の電極間に印加する電圧を変化させて、波長感度をシフトさせ、 前記有機光電変換部は、第1の有機半導体材料からなる層と、前記第1の有機半導体材料からなる層と波長感度が異なる第2の有機半導体材料からなる層とを含んで構成され、 前記第1の有機半導体材料がp型有機半導体材料であり、 前記第2の有機半導体材料がn型有機半導体材料である、 光電変換素子。 【請求項2】 前記第1の有機半導体材料がキナクドリンであり、前記第2の有機半導体材料がペリレンテトラカルボン酸ジイミドである、請求項1に記載の光電変換素子。」 〈本件補正後の請求項1、2〉 「【請求項1】 第1の電極と、 第2の電極と、 前記第1及び第2の電極間に設けられ、波長感度が異なる2種の有機半導体材料を含む有機光電変換部と、を有し、 前記第1及び第2の電極間に印加する電圧を変化させて、感度波長をシフトさせて広げて、色分離し、 前記有機光電変換部は、第1の有機半導体材料からなる層と、前記第1の有機半導体材料からなる層と波長感度が異なる第2の有機半導体材料からなる層とを含んで構成され、 前記第1の有機半導体材料がp型有機半導体材料であり、 前記第2の有機半導体材料がn型有機半導体材料である、 光電変換素子。 【請求項2】 前記第1の有機半導体材料がキナクリドンであり、前記第2の有機半導体材料がペリレンテトラカルボン酸ジイミドである、請求項1に記載の光電変換素子。」 2 補正の適合性 (1)補正事項 本件補正は、請求項1、2に係る次の補正事項を含むものである。 (補正事項1) 本件補正前の請求項1の「波長感度をシフトさせ」という記載を、「感度波長をシフトさせて広げて、色分離し」とする補正。 (補正事項2) 本件補正前の請求項2の「キナクドリン」という記載を、「キナクリドン」とする補正。 (2)新規事項の追加の有無について 補正事項1は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の段落0031、段落0034の記載に基づくものである。 補正事項2は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の段落0053の記載に基づくものである。 よって、上記補正事項1、2は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第17条の2第3項の規定を満たしている。 (3)補正の目的について 補正事項1は、本件補正前の請求項1の「波長感度」を「感度波長」と誤記の訂正をするとともに、本件補正前の請求項1のその後に記載される「をシフトさせ」を「をシフトさせて広げて、色分離し」と特許請求の範囲の減縮を目的とする補正をするものであるから、誤記の訂正及び特許請求の範囲の減縮を目的とする補正といえる。 補正事項2は、本件補正前の請求項2の「キナクドリン」を「キナクリドン」と誤記の訂正をするものであるから、誤記の訂正を目的とする補正といえる。 よって、上記補正事項1、2は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮及び特許法第17条の2第5項第3号の誤記の訂正を目的とするものに該当する。 (4)独立特許要件について 以上のように、上記補正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、本件補正後の請求項1に記載された発明が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下において検討する。 ア 本件補正発明 本件補正発明は、上記1に示した(本件補正後の請求項1)に記載された事項により特定されるとおりのものである。 イ 引用文献の記載事項 平成30年11月 2日付けの拒絶理由(最後の拒絶理由)で引用された本願の優先日前に頒布された引用文献である、特開2008-227092号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は当審で付した。)。 「【請求項5】 被写体を撮像して撮像信号を出力する撮像素子であって、 基板上方の同一平面上に配列された複数の光電変換素子を備え、 前記複数の光電変換素子が、請求項1?4のいずれか1項記載の光電変換素子であり、 前記基板に形成され、前記複数の光電変換素子の各々で発生して前記電荷捕集用電極に移動した電荷に応じた信号を読み出す信号読み出し部を備える撮像素子。 【請求項6】 請求項5記載の撮像素子と、 前記撮像素子を駆動する撮像素子駆動手段とを備え、 前記撮像素子駆動手段が、前記バイアス電圧を、各光電変換膜で発生した電荷を前記電荷捕集用電極に移動させるために最低限必要な前記バイアス電圧のいずれかに撮影モードに応じて切り替える撮像装置。」 「【0014】 光電変換素子Aは、遮光膜107上に形成された下部電極109と、下部電極109上方に形成された下部電極109に対向する上部電極111と、下部電極109と上部電極111の間に設けられた光電変換膜110とを含む構成となっている。 【0015】 上部電極111には、その上方から入射光が入射される。上部電極111は、光電変換膜110に入射光を入射させる必要があるため、入射光に対して透明な導電性材料で構成される。上部電極111の材料としては、可視光及び赤外光に対する透過率が高く、抵抗値が小さい透明導電性酸化物(TCO;Transparent Conducting Oxide)を好ましく用いることができる。Auなどの金属薄膜も用いることができるが、透過率を90%以上得ようとすると抵抗値が極端に増大するため、TCOの方が好ましい。TCOとして、特に、ITO、IZO、AZO、FTO、SnO_(2)、TiO_(2)、ZnO_(2)等を好ましく用いることができる。尚、上部電極111は、全画素部で共通の一枚構成であるが、画素部毎に分割してあっても良い。 【0016】 下部電極109は、画素部毎に分割された薄膜であり、透明又は不透明の導電性材料で構成される。下部電極109の材料としてアルミニウムや銀等を好ましく用いることができる。」 「【0023】 図2は、図1に示す光電変換素子Aの詳細構成を示す断面模式図である。 図2に示すように、光電変換膜110は、下部電極109上方に形成された光電変換膜110aと、光電変換膜110a上方に形成された光電変換膜110bとの2層構造となっている。光電変換膜110aの吸収スペクトルと光電変換膜110bの吸収スペクトルは異なっている。又、光電変換膜110aと光電変換膜110bは、それぞれ有機半導体材料を含んで構成されている。 【0024】 光電変換膜110は、光電変換膜110bの一端(下部電極109側の端部)から他端(上部電極111側の端部)までの範囲で発生した電荷を下部電極109に移動させるために最低限必要な上部電極111及び下部電極109間に加えるべきバイアス電圧(以下、第1のバイアス電圧という)が、光電変換膜110aの一端(下部電極109側の端部)から他端(上部電極111側の端部)までの範囲で発生した電荷を下部電極109に移動させるために最低限必要な上部電極111及び下部電極109間に加えるべきバイアス電圧(以下、第2のバイアス電圧という)よりも大きくなるように、光電変換膜110a及び光電変換膜110bの各々の材料や厚みが決められている。 【0025】 上述したように、有機半導体材料は、そこに加えるバイアス電圧の大きさによって電荷取り出し範囲を制御することができるため、第1のバイアス電圧と第2のバイアス電圧の切り替えにより、光電変換膜110aで発生した電荷のみを取り出すのか、光電変換膜110aと光電変換膜110bの両方で発生した電荷を取り出すのかを切り替えることが可能となる。 【0026】 光電変換膜110aは、図3に示したような人間の明所視での分光感度特性に近似した吸収スペクトルを有する。ここで、人間の明所視での分光感度特性に近似した吸収スペクトルとは、一般的に、可視域と赤外域を併せた範囲(波長400nm以上)における吸収ピークを波長530nm?580nmの範囲に持ち、波長500nmにおける吸収率が該吸収ピークの40%以下であり、波長650nmにおける吸収率が該吸収ピークの30%以下であるような吸収スペクトルのことをいう。このような吸収スペクトルを有する光電変換膜110aは、材料として例えば、キナクリドンを用いることで実現可能である。 【0027】 光電変換膜110全体の吸収スペクトルは、図3に示したような人間の暗所視での分光感度特性と近似しており、このような分光感度特性となるように、光電変換膜110bの吸収スペクトルが決められている。ここで、人間の暗所視での分光感度特性に近似した吸収スペクトルとは、一般的に、可視域と赤外域を併せた範囲における吸収ピークを波長480nm?530nmの範囲に持ち、波長430nmにおける吸収率が該吸収ピークの40%以下であり、波長650nmにおける吸収率が該吸収ピークの20%以下であるような吸収スペクトルのことをいう。光電変換膜110bの吸収スペクトルは、材料として例えば、3,4,9,10-perylene-tetracarboxylic-dianhydride (PTCDA)を用いることで実現可能である。 【0028】 図4は、光電変換膜110の吸収スペクトルの設計例を示した図である。 光電変換膜110aの吸収スペクトルと光電変換膜110bの吸収スペクトルを図4のようにすることで、光電変換膜110の吸収スペクトルを人間の暗所視での分光感度特性に近似したものにすることができる。 【0029】 以上のような構成の撮像素子の動作を説明する。 上部電極111と下部電極109間に第2のバイアス電圧が印加された状態で露光期間が開始されると、入射光が光電変換膜110で吸収され、ここで入射光量に応じた電荷が発生する。上部電極111と下部電極109間には第2のバイアス電圧が印加されているため、光電変換膜110で発生した電子のうち、光電変換膜110aで発生した電子のみが下部電極109に移動し、ここからビアプラグ104を介して電荷蓄積部102に移動し、ここに蓄積される。露光期間終了後、電荷蓄積部102に蓄積された電子に応じた信号が撮像素子外部に出力され、この撮像素子を搭載する撮像装置の信号処理部によって、人間の明所視での分光感度に合った画像が得られる。 【0030】 一方、上部電極111と下部電極109間に第1のバイアス電圧が印加された状態で露光期間が開始されると、入射光が光電変換膜110で吸収され、ここで入射光量に応じた電荷が発生する。上部電極111と下部電極109間には第1のバイアス電圧が印加されているため、光電変換膜110で発生した電子のうち、光電変換膜110aで発生した電子と光電変換膜110bで発生した電子が下部電極109に移動し、ここからビアプラグ104を介して電荷蓄積部102に移動し、ここに蓄積される。露光期間終了後、電荷蓄積部102に蓄積された電子に応じた信号が撮像素子外部に出力され、この撮像素子を搭載する撮像装置の信号処理部によって、人間の暗所視での分光感度に合った画像が得られる。 【0031】 このように、本実施形態の撮像素子によれば、上部電極111と下部電極109間に印加するバイアス電圧を第1のバイアス電圧と第2のバイアス電圧とで切り替えて撮像を行うことで、人間の明所視での分光感度に合った画像と、人間の暗所視での分光感度に合った画像とのいずれかを得ることができる。例えば、昼間の撮影時には第2のバイアス電圧を印加することで、人間が昼間に見ている被写体像と何ら遜色のないモノクロ画像を得ることができ、夜間の撮影時には第1のバイアス電圧を印加することで、人間が夜間に見ている被写体像と何ら遜色のないモノクロ画像を得ることができ、撮影シーンに応じた撮影が可能となる。」 したがって、引用文献1には、図2?4を参酌してまとめると、以下の発明が記載されている。 「下部電極と、上部電極と、下部電極と上部電極の間に設けられた光電変換膜110とを含む構成となっており、 光電変換膜110は、光電変換膜110aと、光電変換膜110a上方に形成された光電変換膜110bとの2層構造となっており、 上部電極及び下部電極間に加える第1のバイアス電圧と第2のバイアス電圧の切り替えにより、光電変換膜110aで発生した電荷のみを取り出すのか、光電変換膜110aと光電変換膜110bの両方で発生した電荷を取り出すのかを切り替え、 光電変換膜110aは、吸収ピークを波長530nm?580nmの範囲に持つ吸収スペクトルを有し、光電変換膜110aは、材料として、キナクリドンを用い、 光電変換膜110bは、吸収ピークを波長480nm?530nmの範囲に持つ吸収スペクトルが決められ、光電変換膜110bは、材料として、3,4,9,10-perylene-tetracarboxylic-dianhydride (PTCDA)を用い、 上部電極は、透明な導電性材料で構成され、下部電極は、透明又は不透明の導電性材料で構成される、 光電変換素子を備える撮像装置。」(以下「引用発明」という。) ウ 対比・判断 (ア)引用発明の「下部電極」は、本件補正発明の「第1の電極」に、引用発明の「上部電極」は、本件補正発明の「第2の電極」に、引用発明の「上部電極及び下部電極間に加える第1のバイアス電圧と第2のバイアス電圧の切り替えにより」は、本件補正発明の「第1及び第2の電極間に印加する電圧を変化させて」に、引用発明の「光電変換素子」は、本件補正発明の「光電変換素子」に、それぞれ相当する。 (イ)引用発明の「『下部電極と、上部電極と、下部電極と上部電極の間に設けられた光電変換膜110とを含む構成となっており、光電変換膜110は、光電変換膜110aと、光電変換膜110a上方に形成された光電変換膜110bとの2層構造となっており、』『光電変換膜110aは、吸収ピークを波長530nm?580nmの範囲に持つ吸収スペクトルを有し、光電変換膜110aは、材料として、キナクリドンを用い、』『光電変換膜110bは、吸収ピークを波長480nm?530nmの範囲に持つ吸収スペクトルが決められ、光電変換膜110bは、材料として、3,4,9,10-perylene-tetracarboxylic-dianhydride (PTCDA)を用い、』」は、本件補正発明の「『前記第1及び第2の電極間に設けられ、波長感度が異なる2種の有機半導体材料を含む有機光電変換部と、を有し、』『有機光電変換部は、第1の有機半導体材料からなる層と、前記第1の有機半導体材料からなる層と波長感度が異なる第2の有機半導体材料からなる層とを含んで構成され、』」に相当する。 (ウ)「キナクリドン」は、p型有機半導体材料であるので、引用発明の「キナクリドン」は、本件補正発明の「p型有機半導体材料」に相当する。そうすると、引用発明の「光電変換膜110aは、材料として、キナクリドンを用い、」は、本件補正発明の「前記第1の有機半導体材料がp型有機半導体材料であり、」に相当する。 (エ)「3,4,9,10-perylene-tetracarboxylic-dianhydride (PTCDA)」は、n型有機半導体材料であるので、引用発明の「3,4,9,10-perylene-tetracarboxylic-dianhydride (PTCDA)」は、本件補正発明の「n型有機半導体材料」に相当する。そうすると、引用発明の「光電変換膜110bは、材料として、3,4,9,10-perylene-tetracarboxylic-dianhydride (PTCDA)を用い、」は、本件補正発明の「前記第2の有機半導体材料がn型有機半導体材料である、」に相当する。 (オ)引用発明の「光電変換膜110aは、吸収ピークを波長530nm?580nmの範囲に持つ吸収スペクトル」、「光電変換膜110bは、吸収ピークを波長480nm?530nmの範囲に持つ吸収スペクトル」と特定されているので、光電変換膜110a、光電変換膜110bの吸収スペクトルの吸収ピークは、ともに可視域の範囲内である。 そして、引用発明では「上部電極及び下部電極間に加える第1のバイアス電圧と第2のバイアス電圧の切り替えにより、光電変換膜110aで発生した電荷のみを取り出すのか、光電変換膜110aと光電変換膜110bの両方で発生した電荷を取り出すのかを切り替え、」と特定されていること、光電変換膜110aと光電変換膜110bの吸収スペクトルの吸収ピークは異なることから、第1のバイアス電圧と第2のバイアス電圧の切り替えにより、感度波長を切り替えている。 また、引用文献1の図4を参照すると、光電変換膜110aのみの光吸収の波長の範囲より、光電変換膜110aと光電変換膜110bの2層構造の光電変換膜110の光吸収の波長の範囲の方が広い波長の範囲であることが見て取れるから、「光電変換膜110aで発生した電荷のみを取り出す」場合より、「光電変換膜110aと光電変換膜110bの両方で発生した電荷を取り出す」場合の方が、感度波長を広げている。 そうすると、引用発明の「上部電極及び下部電極間に加える第1のバイアス電圧と第2のバイアス電圧の切り替えにより、光電変換膜110aで発生した電荷のみを取り出すのか、光電変換膜110aと光電変換膜110bの両方で発生した電荷を取り出すのかを切り替え、」は、本件補正発明の「前記第1及び第2の電極間に印加する電圧を変化させて、感度波長をシフトさせて広げて、色分離し、」に相当する。 (カ)上記(ア)ないし(オ)から、本件補正発明と引用発明は、以下の点で一致する。 「第1の電極と、 第2の電極と、 前記第1及び第2の電極間に設けられ、波長感度が異なる2種の有機半導体材料を含む有機光電変換部と、を有し、 前記第1及び第2の電極間に印加する電圧を変化させて、感度波長をシフトさせて広げて、色分離し、 前記有機光電変換部は、第1の有機半導体材料からなる層と、前記第1の有機半導体材料からなる層と波長感度が異なる第2の有機半導体材料からなる層とを含んで構成され、 前記第1の有機半導体材料がp型有機半導体材料であり、 前記第2の有機半導体材料がn型有機半導体材料である、 光電変換素子。」 したがって、本件補正発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (キ)キナクリドン以外のp型有機半導体材料、3,4,9,10-perylene-tetracarboxylic-dianhydride (PTCDA)以外のn型有機光電変換材料を用いた場合も想定されるので、仮に、本件補正発明が、引用発明であるとはいえないとした場合について、以下において検討する。 引用文献1の【0017】には「光電変換膜110は、有機光電変換材料を含んで構成される。有機光電変換材料として知られている材料としては、ペリレン誘導体、ナフタレン誘導体、フタロシアニン誘導体、キナクリドン誘導体、ポルフィリン誘導体、フラーレン、ポリメチン化合物が挙げられる。」と記載されているから、キナクリドン、3,4,9,10-perylene-tetracarboxylic-dianhydride (PTCDA)以外の周知の有機光電変換材料を用いることは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。 したがって、仮に、本件補正発明が、引用発明であるとはいえないとした場合であっても、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に規定する要件を満たさず、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 本件補正についてのむすび 「本件補正発明」が、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであることは以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないものである。 よって、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 当審における拒絶の理由 平成30年11月2日付けの拒絶理由通知書で当審が通知した拒絶の理由は、概略、以下のとおりである。 理由1 特許法第29条第1項第3号について ・請求項 1、3、4 ・引用文献等 1 理由2 特許法第29条第2項について ・請求項 1-5 ・引用文献等 1-4 理由3 特許法第36条第6項第2号について ・請求項 1-5 (1)請求項1の「電圧を変化させて、波長感度をシフトさせ」は、不明確な記載である(本願明細書段落[0031]、[0040]には「バイアス電圧を変更することにより、感度波長をシフトさせる」と記載されており、「波長感度」は「感度波長」の誤記ではないか。)。 (2)請求項2の「キナクドリン」は、不明確な記載である(本願明細書段落[0053]には「キナクリドン」と記載されており、「キナクドリン」は「キナクリドン」の誤記ではないか。)。 <引用文献等一覧> 1.特開2008-227092号公報 2.特開平6-318725号公報(周知技術を示す文献) 3.特開平6-177410号公報(周知技術を示す文献) 4.特開2003-158254号公報(周知技術を示す文献) 第4 当審の判断 1 理由1(特許法第29条第1項第3号)、理由2(特許法第29条第2項)について (1)本願発明 平成30年12月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年7月13日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の1に示した(本件補正前の請求項1)に記載された事項により特定されるとおりのものである。 (2)引用発明 当審の拒絶の理由に引用された引用文献1、及び、その記載事項は、上記第2の2(4)イに示したとおりであり、引用文献1に記載された発明(引用発明)は、上記第2の2(4)イに認定したとおりである。 (3)対比・判断 本願発明は、上記第2の1の「本件補正の内容」で摘記した本件補正発明に追加された限定事項を省き、誤記の訂正をしていないものである。 そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加し、誤記の訂正したものに相当する本件補正発明が、上記第2の2(4)ウで検討したとおり、引用発明であるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明であり、仮に、本件補正発明が、引用発明であるとはいえないとした場合であっても、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 2 理由3(特許法第36条第6項第2号)について 本願の請求項1の「電圧を変化させて、波長感度をシフトさせ」は、不明確な記載であり、本願の請求項2の「キナクドリン」は、不明確な記載である。 したがって、請求項1、2に係る発明は明確でない。 第5 請求人の主張について 請求人は、平成30年12月28日付けの意見書において「本願明細書の段落0007に記載されていますように、引用文献1の光電変換素子(引用文献1に記載の発明)は、第1の光電変換膜が人間の明所視での分光感度特性に近似した吸収スペクトルを有し、第2の光電変換膜が可視域及び赤外域の範囲内において赤外域に吸収スペクトルの吸収ピーク波長をもつように設計されて、可視域での色変化は期待できません。一方、本願の補正後の請求項1に係る発明は、第1及び第2の電極間に印加する電圧を変化させて、感度波長をシフトさせて広げて、色分離することができます。したがって、本願発明と引用文献1に記載の発明とは明らかな有意差があると思料します。」と主張する。 しかしながら、引用文献1の図5に示された光電変換膜110bは、可視域及び赤外域の範囲内において赤外域に吸収スペクトルの吸収ピーク波長をもつように設計されているものの、上記第2の2(4)イに記載したように、引用発明において、「光電変換膜110bは、吸収ピークを波長480nm?530nmの範囲に持つ吸収スペクトルが決められ」るものであり、可視域及び赤外域の範囲内において赤外域に吸収スペクトルの吸収ピーク波長をもつように設計されているものではなく、光電変換膜110a、光電変換膜110bは、いずれも可視域の範囲内において吸収スペクトルの吸収ピークを有しているものであるから、可視域での色変化をすることができるものと認められる。 したがって、審判請求人の上記主張は採用できない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、仮に、本件補正発明が、引用文献1に記載された発明であるとはいえないとした場合であっても、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 また、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-02-25 |
結審通知日 | 2019-02-26 |
審決日 | 2019-03-12 |
出願番号 | 特願2014-529348(P2014-529348) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01L)
P 1 8・ 573- WZ (H01L) P 1 8・ 572- WZ (H01L) P 1 8・ 575- WZ (H01L) P 1 8・ 537- WZ (H01L) P 1 8・ 113- WZ (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 俊彦 |
特許庁審判長 |
恩田 春香 |
特許庁審判官 |
野村 伸雄 村井 友和 |
発明の名称 | 光電変換素子、撮像装置及び光センサ |
代理人 | 渡邊 薫 |