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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1351085
審判番号 不服2017-18332  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-08 
確定日 2019-04-25 
事件の表示 特願2013-102595「通信装置及びその制御方法、並びにプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月27日出願公開、特開2014-222865〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成25年5月14日の出願であって,平成28年5月11日に手続補正書が提出され,平成29年2月17日付けで拒絶理由が通知され,同年4月18日に意見書及び手続補正書が提出されたところ,同年8月31日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年12月8日に拒絶査定不服審判が請求され,同時に手続補正がされたものである。

第2 平成29年12月8日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成29年12月8日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1 本件補正の概要

本件補正は,平成29年4月18日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項8に記載された

「NFC(Near Field Communication)規格に基づく無線通信を制御するNFC制御手段を備える通信装置の制御方法であって,
前記通信装置において所定のエラーが発生したことを検知する検知ステップと,
前記所定のエラーが発生したことを前記検知ステップで検知した場合に,前記所定のエラーに関するエラー情報を前記NFC制御手段の記憶領域に格納し,前記NFC制御手段の動作モードを,前記NFC規格のリーダ/ライタモードから,前記NFC規格のカードエミュレーションモードに変更する制御ステップとを有し,
前記NFC制御手段の動作モードが前記カードエミュレーションモードである場合,前記記憶領域に格納された前記エラー情報は,前記NFC規格に基づく無線通信によって外部装置から読み取られ,
前記NFC制御手段の動作モードが前記リーダ/ライタモードである場合,前記NFC制御手段は,認証処理に必要な認証情報を前記NFC規格に基づく無線通信によって外部装置から取得することを特徴とする通信装置の制御方法。」(以下,「本願発明」という。)を

「NFC(Near Field Communication)規格に基づく無線通信を制御するNFC制御手段を備える通信装置の制御方法であって,
前記通信装置において所定のエラーが発生したことを検知する検知ステップと,
前記所定のエラーが発生したことを前記検知ステップで検知した場合に,前記NFC制御手段の記憶領域に格納されている情報を前記記憶領域とは異なる記憶手段に格納した後に,前記所定のエラーに関するエラー情報を前記記憶領域に格納し,前記NFC制御手段の動作モードを,前記NFC規格のリーダ/ライタモードから,前記NFC規格のカードエミュレーションモードに変更する制御ステップとを有し,
前記NFC制御手段の動作モードが前記カードエミュレーションモードである場合,前記記憶領域に格納された前記エラー情報は,前記NFC規格に基づく無線通信によって外部装置に読み取られ,
前記NFC制御手段の動作モードが前記リーダ/ライタモードである場合,前記NFC制御手段は,認証処理に必要な認証情報を前記NFC規格に基づく無線通信によって外部装置から取得することを特徴とする通信装置の制御方法。」(以下,「本件補正発明」という。)とすることを含むものである。(下線部は,補正箇所を示す。)

2 補正の適否
(1)新規事項の有無,シフト補正の有無,補正の目的要件

請求項8についての上記補正は,本願発明を特定するために必要な事項である「制御ステップ」におけるエラー情報の格納及び動作モードの変更について,「NFC制御手段の記憶領域に格納されている情報を記憶領域とは異なる記憶手段に格納した後に,」との限定を付して特許請求の範囲を減縮するものである。

そして,請求項8についての上記補正は,特許法第17条の2第3項,第4項に違反するところはなく,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

請求項8について上記補正は特許請求の範囲を減縮するものであるから,補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて,以下検討する。

(2)独立特許要件

ア 本件補正発明

本件補正発明は,上記1の「本件補正発明」のとおりのものと認める。

イ 引用発明等

原査定の拒絶の理由に引用された,特開2013-55607号公報(以下,「引用例」という。)には,以下の記載がある。

(ア)「
【0014】
画像形成装置10は,例えばMFP(Multifunction Peripheral)等のデジタル複合機である。
画像形成装置10は,RFIDコントローラ100と,システムコントローラ200を有する。なお,画像形成装置10は,その機能に応じて,図示しないプリンタ部,スキャナ部,ファクシミリ部等を備える。
【0015】
RFIDコントローラ100は,アンテナマッチング101,デュアルインタフェースメモリ(デュアルI/Fメモリ)103,及び,アクティブ無線通信制御部105を有する。
【0016】
アンテナマッチング101は,RFIDの周波数帯のマッチングを行い,RFプロトコル102によりデュアルI/Fメモリ103にアクセスする。RFIDの周波数帯は,ISO/IECで標準化されている135KHz以下,13.56MHz,2.45GHz,860MHz?960MHz,433MHzである。なお,RFIDコントローラ100と通信するデバイスとして,例えば,アクティブとして動作するRFID通信装置400や,パッシブとして動作するICカード410がある。なお,ICカードは,パッシブとして動作するRFID通信装置であってもよく,以下,これらをまとめてICカードと呼ぶ。
デュアルI/Fメモリ103は,外部の機器(RFID通信装置400やICカード410)により無線アクセス可能な記憶装置である。
(中略)
【0018】
アクティブ無線通信制御部105には,I/Oコントローラ201からEnable/Disable信号106が入力される。アクティブ無線通信制御部105は,信号106がEnableであれば,アンテナマッチング101へ電源を供給する。この場合,RFIDコントローラ100は,アクティブとして動作し,パッシブで動作するICカード410と通信可能である。即ち,画像形成装置10はアクティブモードで動作する。
【0019】
一方,アクティブ無線通信制御部105は,信号106がDisableであれば,アンテナマッチング101へ電源を供給しない。この場合,RFIDコントローラ100は,パッシブとして動作し,アクティブで動作するRFID通信装置400と通信可能である。即ち,画像形成装置10は,パッシブモードで動作する。なお,この場合,上述のように,アンテナマッチング101へ電源が供給されないため,RFIDコントローラ100側からパッシブで動作するICカード410へは通信できない。
即ち,信号106は,画像形成装置10のRFID無線アクセスに関する動作モードを,外部の機器に無線接続するための信号を発信するアクティブモードと,外部の機器からの無線接続のための信号に反応してデュアルI/Fメモリ103へのアクセスを可能とするパッシブモードとで切り替える切替信号として機能する。

(イ)「
【0024】
図2は,アクティブ無線通信制御部105の詳細ブロック図である。
アクティブ無線通信制御部105は,RFIDリーダ/ライタ・トランシーバ(RFID Reader/Writer Transciever)112と,プロセッサ113を有する。
【0025】
RFIDリーダ/ライタ・トランシーバ112は,アンテナマッチング101を介してRFID通信装置400と電力を供給するアクティブ型として通信する。また,RFIDリーダ/ライタ・トランシーバ112は,プロセッサ113と接続されている。プロセッサ113は,デュアルI/Fメモリ103からデータをリード/ライトし,RFIDリーダ/ライタ・トランシーバ112へ転送する。
【0026】
I/Oコントローラ201は,アクティブ無線通信制御部105へ動作モード(アクティブモード/パッシブモード)を切り替えるためのEnable/Disable信号106を送信する。
【0027】
I/Oコントローラ201が信号106をEnableにすることで,アクティブ無線通信制御部105はアンテナマッチング101へ電源を供給し,RFIDコントローラ100はアクティブ型でRFID通信を行う。即ち,画像形成装置10はアクティブモードで動作する。
【0028】
一方,I/Oコントローラ201が信号106をDisableにすることで,アクティブ無線通信制御部105はアンテナマッチング101へ電源を供給せず,RFIDコントローラ100はパッシブ型でRFID通信を行うことになる。即ち,画像形成装置10はパッシブモードで動作する。なお,パッシブ型でRFID通信を行う場合,データフローとしては,RFID通信装置400からアンテナマッチング101へデータが転送され,RFプロトコル102を介して,データがデュアルI/Fメモリ103へリード/ライトされる。」

(ウ)「
【0049】また,図4のS203の処理を行う前に,即ち,RFIDコントローラ100をパッシブモードに移行する直前に,CPU203が,所定のデータをデュアルI/Fメモリ103内(RFID通信装置400側から読み出し可能なメモリブロック)に格納するように制御する構成であってもよい。なお,所定のデータとは,例えば,画像形成装置10本体のシリアル番号,ユーザ情報,エラー情報,ログ情報,ライセンス情報,カウンタ情報,課金情報,消耗品情報,トナー情報,ネットワーク情報等の各種設定情報,即ち,画像形成装置10の識別情報やユーザ情報,及び画像形成装置10の利用情報などを示す。ただし,所定のデータは,これらの情報に限定されるものではない。」

(エ)「
【0067】
<第4の動作>
図7は,実施例1において画像形成装置10がアクティブモードで動作する場合の第4の動作の一例を示すフローチャートであり,図4と同一のステップには同一のステップ番号を付し説明は省略する。なお,このフローチャートの処理は,システムコントローラ200のCPU203がメモリ202の不揮発性記憶領域にコンピュータ読み取り可能に記録されたプログラムを実行することにより実現される。
【0068】
CPU203は,アクティブモードで動作している状態(S201)で,画像形成装置10が異常状態(障害状態)になったかどうかを監視する(S502)。なお,異常状態とは,画像形成装置10のフリーズや,画像形成装置10でシステムエラー等の障害が発生した状態を示す。
【0069】
そして,画像形成装置10が異常状態になったと判定した場合(S502でYes),CPU203は,S503に処理を進める。
S503では,CPU203は,信号106をDisableとし,アクティブ無線通信制御部105からアンテナマッチング101への電力供給を停止させ,RFIDコントローラ100をパッシブに移行させる。即ち,画像形成装置10をパッシブモードに移行させる。
【0070】
なお,図7のS503の処理を行う前に,即ち,RFIDコントローラ100をパッシブモードに移行する直前に,CPU203が,上述したような所定のデータをデュアルI/Fメモリ103内(RFID通信装置400から読み出し可能な領域)に格納するように制御する構成であってもよい。
【0071】
なお,CPU203は,画像形成装置10本体の異常状態が解除された場合,デュアルI/Fメモリ103内に記録された設定情報を,画像形成装置10に適用する処理を行うように構成してもよい。そしてさらに,RFIDコントローラ100をアクティブに移行させる(画像形成装置10をアクティブモードに移行させる)ように構成してもよい。
【0072】
なお,異常状態時にはユーザI/F204が操作できず画像形成装置10もシステムとして動作していないため,ICカード410を用いても画像形成装置10へログインすることができない。しかし,サービスマン等がアクティブとして動作するハンディタイプのRFID通信装置400を用いて,異常状態時でも,画像形成装置10の識別情報やユーザ情報,画像形成装置10の利用情報等の情報を取得したり,画像形成装置10に設定することが可能となる。」

(オ)「
【0090】
そして,CPU203は,アクティブモードで動作している状態(S703)で,パッシブとして動作するICカード410から読み取られるデータ内に指定のIDを確認できたかどうか監視する(S801)。上述したように,アクティブモードでは,アンテナマッチング101から無線接続のための信号を発信され,パッシブとして動作するICカード410からデータが読み取られる。読み取られたデータは,デュアルI/Fメモリ103に書き込まれ,CPU203は,I/Oコントローラ201を介してこのデータを確認可能である。
【0091】
そして,指定のIDを確認できたと判定した場合(S801でYes),CPU203は,S802に処理を進める。
S802では,CPU203は,上記S801で確認できた指定のIDが,ユーザ用のIDか否かを判定する。ここでは,ユーザがICカード410をRFIDコントローラ100にかざして認証を行った場合を想定しており,ICカード410から読み取られたIDが,例えばメモリ202の不揮発性記憶領域に登録されているユーザ用IDであれば,画像形成装置10にログインすることが可能となる。なお,ユーザ用IDとは,例えば,ユーザ用として登録されているICカードの識別情報や,ユーザの識別情報である。」

引用例の上記記載及びこの分野における技術常識を考慮すると,次のことがいえる。

a 上記(ア)の【0014】,【0015】の記載によれば,画像形成装置がRFIDコントローラ及びシステムコントローラを有し,RFIDコントローラはアンテナマッチング,デュアルI/Fメモリ,及びアクティブ無線通信制御部を有するものである。
そして,上記(ア)の【0018】,【0019】及び上記(イ)の【0026】?【0028】の記載によれば,RFIDコントローラは,画像形成装置の動作モードがアクティブモードの場合にアクティブ型でRFID通信を行い,画像形成装置の動作モードがパッシブモードの場合にパッシブ型でRFID通信を行うものである。
したがって,引用例には,「アクティブ型又はパッシブ型でRFID通信を行うRFIDコントローラを備える画像形成装置」が記載されているといえる。

b 上記(エ)の段落【0068】-【0070】の記載によれば,CPUは,アクティブモードで動作している状態で,画像形成装置が異常状態(障害状態)になったかどうかを監視し,異常状態になったと判定した場合,RFIDコントローラをパッシブに移行させ,また,RFIDコントローラをパッシブに移行する直前に,CPUは所定のデータをデュアルI/Fメモリに格納する制御を行うものである。ここで,上記(ウ)の記載によれば,格納される「所定のデータ」には,エラー情報が含まれる。
したがって,引用例には,「画像形成装置が異常状態(障害状態)になったことを判定するステップ」,及び「異常状態(障害状態)になったことを判定した場合に,エラー情報をデュアルI/Fメモリに格納し,RFIDコントローラをアクティブからパッシブに移行する制御ステップ」を有することが記載されているといえる。

c 上記(エ)の段落【0072】の記載によれば,画像形成装置の異常状態時に,サービスマン等がアクティブとして動作するハンディタイプのRFID通信装置を用いて,画像形成装置の利用情報等の情報を取得するものである。ここで,画像形成装置の異常状態時は,RFIDコントローラはパッシブに移行されており,「画像形成装置の利用情報等の情報」には,デュアルI/Fメモリに格納されたエラー情報が含まれると解することができる。
したがって,引用例には,「RFIDコントローラがパッシブである場合,デュアルI/Fメモリに格納されたエラー情報は,ハンディタイプのRFID通信装置に読み取られる」ことが記載されているといえる。

d 上記(オ)には,ユーザがICカードをRFIDコントローラにかざして認証を行った場合,CPUは,アクティブモードで動作している状態で,パッシブとして動作するICカードから読み取られるデータ内に指定のIDを確認できたかどうか監視し,ICカードから読み取られたIDが,例えばメモリの不揮発性記憶領域に登録されているユーザ用IDであれば,画像形成装置にログインすることが可能となることが記載されている。ここで,アクティブモードで動作している状態ではRFIDコントローラはアクティブであり,パッシブとして動作するICカードからのデータの読み取りはRFIDコントローラによるアクティブ型のRFID通信によりなされることは明らかである。また,「指定のID」は認証に用いられると解するのが相当である。
したがって,引用例には,「RFIDコントローラがアクティブである場合,RFIDコントローラは,認証に用いられる指定のIDをICカードから取得する」ものが記載されているといえる。

e そして,上記a b c dには,画像形成装置のRFIDコントローラをアクティブからパッシブに変更する際の制御方法が記載されているといえるから,引用例には,「画像形成装置の制御方法」が記載されているといえる。

以上を総合すると,引用例には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「アクティブ型又はパッシブ型でRFID通信を行うRFIDコントローラを備える画像形成装置の制御方法であって,
前記画像形成装置が異常状態(障害状態)になったことを判定するステップと,
前記異常状態(障害状態)になったことを判定した場合に,エラー情報をデュアルI/Fメモリに格納し,前記RFIDコントローラをアクティブからパッシブに移行する制御ステップを有し,
前記RFIDコントローラがパッシブである場合,前記デュアルI/Fメモリに格納された前記エラー情報は,ハンディタイプのRFID通信装置に読み取られ,
前記RFIDコントローラがアクティブである場合,前記RFIDコントローラは,認証に用いられる指定のIDをRFID通信によってICカードから取得する,
画像形成装置の制御方法。」

[周知技術等]
原査定の拒絶の理由に引用された特開2011-155495号公報(以下,「周知例1」という。)には,以下の事項が記載されている。

(カ)「
【0002】
近年,社員証,学生証,定期券,あるいはお財布携帯などでは,個人を特定するIDカードとして近接無線通信技術(Near Field Communication:以下,NFCと称する。)を使用したICカード等を使用しているものが多くなってきている。NFCと称される規格は,電磁誘導方式による13.56Hz周波数帯を使用し,通信可能距離が略10cmである比較的低速での近距離通信に使用される通信プロトコルである。この規格はNFC IP-1(ISO/IEC18092)及びNFC IP-2(ISO/IEC214841)として整定されている。このNFCの機能には,カードエミュレーション機能,リーダ・ライタエミュレーション機能,端末間通信機能に加え,拡張機能としてNFC端末間ペアリング機能,ブルートゥース(Bluetooth)ハンドオーバ機能などが含まれる。
【0003】
カードエミュレーション機能は,非接触ICカードとして機能し,FeliCa規格,TypeA規格,TypeB規格,RFID(ISO15693規格)のICカード/タグ対応する。リーダ・ライタエミュレーション機能は,リーダ・ライタとして機能し,前記各規格に対応するICカード及びタグの読み書きが可能であり,スマートカードチップにNFCが組み込まれた携帯電話やPDA(Personal Digital Assistant)を前記規格のICやタグに翳すと,所定の情報の転送が可能となるという機能である。
(後略)」

原査定の拒絶の理由に引用された特表2010-501135号公報(以下,「周知例2」という。)には,以下の事項が記載されている。

(キ)「
【0023】
本明細書に開示した事例は,種々タイプのワイヤレス通信システムに適用可能である。比較的最近のワイヤレス通信タイプの1つは,短距離無線通信すなわち“NFC”と呼ばれている。NFCは標準に基づく短距離(数センチメートル)のワイヤレスコネクティビティテクノロジであり,エレクトロニックデバイス相互間で単純かつ安全に2方向のやりとりをするのを可能にしている。NFCデバイスは,その動作モードがリーダ/ライタ,ピアツーピア,またはカードエミュレーションモードになるように変更することができる。これらの異種動作モードは,ISO/IEC 18092 NFCIP-1およびISO/IEC 14443コンタクトレス(非接触)スマートカード標準に準拠している。リーダ/ライタモードでは,NFCデバイスは,上述したポスタタグのシナリオにおけるように,NFCタグタイプを読み取ることができる。リーダ/ライタモードは,ISO 14443およびソニー社のFelica(ISO 18092受動型通信モードに由来)方式に準拠したRFインタフェースでもある。
【0024】
ピアツーピアモードにあるときは,デバイスはデータを交換することができる。例えば,代替通信手段のプロトコルは,Bluetoothの場合のように交換することができ,またはバーチャルビジネスカードやデジタル写真などのWiFiリンクセットアップパラメータおよび/またはデータを交換することができる。ピアツーピアモードはISO/IEC 18092標準に基づいて標準化されている。カードエミュレーションモードでは,デバイスはタグの働きをするので,外部リーダからは従来のコンタクトレススマートカードと同じように見える。タグは,NFC対応デバイスによって読み取られたデータをストアする受動型デバイスであるのが代表的である。そのため,例えば,コンタクトレスペイメントおよびチケッティングなどを可能にしている。」

原査定の拒絶の理由に引用された特開2011-215764号公報(以下,「周知例3」という。)には,以下の事項が記載されている。

(ク)「
【0054】
更に,本実施形態の携帯電話機2は,アンテナ及びNFC通信制御部(当該携帯電話機2におけるCPUと電気的に接続されている)等を備えるNFCモジュールを搭載し,上述したICカード3との間でデータ通信を可能とするリーダライタ機能を実現している。
【0055】
このリーダライタ機能は,例えば,非接触ICカード技術である公知のNFC(Near Field Communication)(登録商標)技術を採用しており,Mifare(登録商標)(ISO/IEC14443 TypeA),ISO/IEC14443 TypeB,FeliCa及びISO/IEC15693技術を採用したICチップ(以下,「非接触ICチップ」という)が備えられたICカードから,データの読取り及びデータの書込みを非接触で行うことができる。
【0056】
NFCについては公知の技術であるため詳しい説明は省略するが,非接触ICカードとして機能し対応するMifare,ISO/IEC14443 TypeB,FeliCa及びISO/IEC15693として振る舞うことができるカードエミュレーション機能,リーダライタとして機能しMifare,ISO/IEC14443 TypeB,FeliCa及びISO/IEC15693に対応するICカード及びICチップの読み書きを可能とするリーダライタ(R/W)エミュレーション機能,そして,NFCを搭載した機器間で通信を行うことができる端末間通信機能の各種機能を備えている。」

上記(カ)?(ク)の記載並びに当業者の技術常識を考慮すると,「NFC規格のNFCモジュールは,FeliCa規格,TypeA規格,TypeB規格,RFID(ISO15693規格)のICカード/タグに対応する非接触ICカードとして機能し,カードエミュレーションモード,リーダ/ライタモードを有し,リーダ/ライタモードではNFC規格のNFCモジュールによってNFC規格の非接触ICカードを読み取ることが可能である。」ことは,周知技術である。(以下,「周知技術1」という。)

本件の出願日前に公開された特開2011-170412号公報(以下,「周知例4」という。)には,以下の事項が記載されている。

(ケ)「
【0043】
ステップS10でのポートモニタ情報の変更は,クライアント装置が代替機情報を受領し,出力管理アプリケーションが例えばPrint Monitor Function APIを呼び出し,代替機情報で印刷不能となった機器のポートモニタ情報を上書きすることにより行うことができる。この際,後の時点で印刷不能となった機器の再度の利用を可能とするため,オリジナルのポートモニタ情報をバッファメモリなどに退避させておくことができる。上書きされたポートモニタ情報は,出力管理装置110が後の時点で対応する機器が印刷不能から復帰したことを検出した場合にバッファメモリから読み出され,本来のポートモニタ情報で書き換えることができる。また,ステップS10の指令は,ステップS6,S7で取得されたクライアント装置に対しユニキャストを使用して個別的に送付することができるが,処理の高速化・効率化のため,マルチキャストによって発行することが好ましい。」

本件の出願日前に公開された特開2008-90800号公報(以下,「周知例5」という。)には,以下の事項が記載されている。

(コ)「
【0006】
通常,受信したデータはI/Oバッファと呼ばれるバッファに退避される。I/Oバッファは容量に限りがあり,バッファがいっぱいになると古いデータから上書きされてしまう。このため,受信データが上書きされる前にI/Oバッファのデータを安全な領域に退避する必要がある。この安全な領域への退避要求は割り込み処理としてイベントが発生する。通常,割り込み処理は優先度順に処理される。」

上記(ケ)?(コ)の記載並びに当業者の技術常識を考慮すると,「受信データによって,古いデータが上書きされることを避けるために,古いデータを安全な領域に退避する。」ことは常套手段ともいえる周知技術である。(以下,「周知技術2」という。)

ウ 対比・判断

本件補正発明と引用発明とを対比すると,以下のことがいえる。

(ア)引用発明の「画像形成装置」は,RFID通信を行うRFIDコントローラを備えるから,「通信装置」といえる。また引用発明の「RFIDコントローラ」は,アクティブ型/パッシブ型でRFID通信を行うものであるから,無線通信を制御する手段であるといえる。
したがって,引用発明の「アクティブ型又はパッシブ型でRFID通信を行うRFIDコントローラを備える画像形成装置の制御方法」は,「無線通信を制御する手段を備える通信装置の制御方法」である点で,本件補正発明と共通する。

(イ)引用発明の「異常状態(障害状態)」は「所定のエラーが発生した状態」を含むと解され,「異常状態(障害状態)になったことを判定する」ことは「所定のエラーが発生したことを検知する」ということができる。
したがって,引用発明の「前記画像形成装置が異常状態(障害状態)になったことを判定するステップ」は,本件補正発明の「前記通信装置において所定のエラーが発生したことを検知する検知ステップ」に相当する。

(ウ)引用発明の「デュアルI/Fメモリ」は「RFIDコントローラの記憶領域」といえ,格納される「エラー情報」は「所定のエラーに関するエラー情報」であるといえる。
引用発明のRFIDコントローラが「アクティブ」である場合は,パッシブとして動作するICカードから認証に用いられる指定のIDをRFID通信によって取得するものであるから,本件補正発明の「リーダ/ライタモード」に対応し,引用発明のRFIDコントローラが「パッシブ」である場合は,デュアルI/Fメモリに格納されたエラー情報がアクティブで動作するハンディタイプのRFID通信装置に読み取られるものであるから,本件補正発明の「カードエミュレーションモード」に対応する。
そうすると,引用発明の「前記異常状態(障害状態)になったことを判定した場合に,エラー情報をデュアルI/Fメモリに格納し,前記RFIDコントローラをアクティブからパッシブに移行する制御ステップ」は,「前記所定のエラーが発生したことを前記検知ステップで検知した場合に,前記所定のエラーに関するエラー情報を無線通信を制御する手段の記憶領域に格納し,前記無線通信を制御する手段の動作モードを,リーダ/ライタモードから,カードエミュレーションモードに変更する制御ステップ」といえる点で本件補正発明と共通しているといえる。

(エ)引用発明の「ハンディタイプのRFID通信装置」は,「外部装置」といえる。したがって,引用発明の「前記RFIDコントローラがパッシブである場合,前記デュアルI/Fメモリに格納された前記エラー情報は,ハンディタイプのRFID通信装置に読み取られ,」は,「前記無線通信を制御する手段の動作モードが前記カードエミュレーションモードである場合,前記記憶領域に格納された前記エラー情報は,前記無線通信によって外部装置に読み取られ,」といえる点で本件補正発明と共通しているといえる。

(オ)引用発明の「認証に用いられる指定のID」は,「認証処理に必要な認証情報」といえる。したがって,引用発明の「前記RFIDコントローラがアクティブである場合,前記RFIDコントローラは,認証に用いられる指定のIDをRFID通信によってICカードから取得する,」は,「前記無線通信を制御する手段の動作モードが前記リーダ/ライタモードである場合,前記無線通信を制御する手段は,認証処理に必要な認証情報を前記無線通信によって外部装置から取得する」といえる点で,それぞれ本件補正発明と共通しているといえる。

以上を総合すると,補正後の発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,相違している。

(一致点)
「無線通信を制御する手段を備える通信装置の制御方法であって,
前記通信装置において所定のエラーが発生したことを検知する検知ステップと,
前記所定のエラーが発生したことを前記検知ステップで検知した場合に,前記所定のエラーに関するエラー情報を無線通信を制御する手段の記憶領域に格納し,前記無線通信を制御する手段の動作モードを,リーダ/ライタモードから,カードエミュレーションモードに変更する制御ステップとを有し,
前記無線通信を制御する手段の動作モードが前記カードエミュレーションモードである場合,前記記憶領域に格納された前記エラー情報は,前記無線通信によって外部装置に読み取られ,
前記無線通信を制御する手段の動作モードが前記リーダ/ライタモードである場合,前記無線通信を制御する手段は,認証処理に必要な認証情報を前記無線通信によって外部装置から取得する
通信装置の制御方法。」

(相違点1)
「無線通信」に関して,本件補正発明は「NFC規格に基づく無線通信」であり,これに伴い「制御手段」,「リーダ/ライタモード」,「カードエミュレーションモード」がそれぞれ「NFC制御手段」,「NFC規格のリーダ/ライタモード」,「NFC規格のカードエミュレーションモード」であるのに対し,引用発明は,「RFID通信」であって「NFC規格に基づく」ものであることが特定されていない点。

(相違点2)
「制御ステップ」におけるエラー情報の格納及び動作モードの変更について,本件補正発明は,「制御手段の記憶領域に格納されている情報を前記記憶領域とは異なる記憶手段に格納した後に,」との発明特定事項を有しているのに対し,引用発明は,当該発明特定事項を有していない点。

以下,上記各相違点について検討する。
(相違点1について)
上記「イ 引用発明等」の項の「[周知技術等]の周知技術1」にて述べたとおり,「NFC規格のNFCモジュールは,FeliCa規格,TypeA規格,TypeB規格,RFID(ISO15693規格)のICカード/タグに対応する非接触ICカードとして機能し,カードエミュレーションモード,リーダ/ライタモードを有し,リーダ/ライタモードではNFC規格のNFCモジュールによってNFC規格の非接触ICカードを読み取ることが可能である。」ことは周知技術である。
そうすると,NFC規格のカードエミュレーションモード,リーダ/ライタモードはRFIDにも対応しているものであるから,引用発明の「RFID通信」を「NFC規格に基づく」ものとすることは,当業者が容易になし得るものである。

(相違点2について)
本願明細書の段落【0052】によれば,本件補正発明の「制御手段の記憶領域に格納されている情報を前記記憶領域とは異なる記憶手段に格納した後に,前記所定のエラーに関するエラー情報を前記記憶領域に格納」する意図には,「NFC制御部の記憶領域に書き込まれている情報の上書きを避ける」ことが含まれていることが明らかである。そして,引用発明においても,RFIDコントローラのデュアルI/Fメモリはアクティブ及びパッシブのどちらにおいても使用される(段落【0104】)ものであり,上書きのおそれがあることは明らかである。
ここで,上記「イ 引用発明等」の項の「[周知技術等]の周知技術2」にて述べたとおり,「受信データによって,古いデータが上書きされることを避けるために,古いデータを安全な領域に退避する。」ことは常套手段ともいえる周知技術であるから,引用発明においても上書きを避けるために当該周知技術を用いることは格別困難なことではない。
したがって,「制御ステップ」におけるエラー情報の格納及び動作モードの変更について「制御手段の記憶領域に格納されている情報を前記記憶領域とは異なる記憶手段に格納した後に,」とすることは,当業者が上記周知技術から容易に想到し得ることである。

そして,補正後の発明の作用効果も,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が予測できる範囲のものにすぎず,格別顕著なものとはいえない。

したがって,補正後の発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

3 結語

したがって,本件補正は,補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明
平成29年12月8日にされた手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,平成29年4月18日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項8に係る発明は,上記「第2 平成29年12月8日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の項中の「1 本件補正の概要」の項中の「本願発明」のとおりのものと認める。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶理由は,「この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり,請求項8に対して引用例及び周知例1-3が引用されている。

引用例:特開2013-055607号公報
周知例1:特開2011-155495号公報
周知例2:特表2010-501135号公報
周知例3:特開2011-215764号公報

3 引用発明等
引用発明及び周知技術は,上記「第2 平成29年12月8日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の項中の「2 補正の適否」の項中の「(2)独立特許要件」の項中の「イ 引用発明等」の項で認定したとおりである。

4 対比・判断

本願発明は,本件補正発明から当該補正に係る限定事項を省いたものである。
してみると,本願発明と引用発明を比較すると,上記「第2 平成29年12月8日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の項中の「2 補正の適否」の項中の「(2)独立特許要件」の項中の「ウ 対比・判断」の項で検討した相違点1のみが存在し,相違点2は存在しない。したがって,前記「ウ 対比・判断」の項の「(相違点1について)」と同様の理由で,本願発明も,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび

以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-02-22 
結審通知日 2019-02-25 
審決日 2019-03-12 
出願番号 特願2013-102595(P2013-102595)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04W)
P 1 8・ 121- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 廣川 浩  
特許庁審判長 菅原 道晴
特許庁審判官 羽岡 さやか
本郷 彰
発明の名称 通信装置及びその制御方法、並びにプログラム  
代理人 下山 治  
代理人 大塚 康弘  
代理人 大塚 康徳  
代理人 永川 行光  
代理人 高柳 司郎  
代理人 木村 秀二  
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