• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B62K
管理番号 1351088
審判番号 不服2018-2462  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-21 
確定日 2019-04-25 
事件の表示 特願2016-55799号「車両」拒絶査定不服審判事件〔平成29年9月28日出願公開、特開2017-170930号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成28年3月18日に出願したものであって、平成29年6月28日付けで拒絶理由が通知され、同年8月31日に意見書が提出され、同年11月17日付けで拒絶査定がされ、平成30年2月21日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1?11に係る発明は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、本願の特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「車両であって、
車体フレームと、
前記車体フレームの左右方向に並ぶように配置されている左前輪および右前輪と、
前記左前輪および前記右前輪よりも上方に配置されており、前記車体フレームに対する前記左前輪および前記右前輪の相対位置を変更して前記車体フレームを前記車両の左方または右方に傾斜させるように構成されているリンク機構と、
前記リンク機構よりも前記車体フレームの前後方向における後方に配置され、前記車両の運転者が着座するシートと、
前記リンク機構よりも前記車体フレームの前後方向における後方、かつ前記シートよりも前記車体フレームの前後方向における前方に配置され、物品を取出し可能に収容可能な収容部と、
を備えており、
前記リンク機構は、上クロス部材、下クロス部材、左サイド部材、および右サイド部材を備えており、
前記上クロス部材、前記下クロス部材、前記左サイド部材、および前記右サイド部材は、前記上クロス部材と前記下クロス部材が相互に平行な姿勢を保ち、前記左サイド部材と前記右サイド部材が相互に平行な姿勢を保つように、回動可能に連結されており、
前記車体フレームの直立状態から左方または右方への最大傾斜状態に至る間の少なくとも一時点において、前記上クロス部材、前記下クロス部材、前記左サイド部材、および前記右サイド部材の回動軸線に沿う方向から見て、前記収容部は、前記上クロス部材と前記下クロス部材の双方と重なっている、
車両。」

第3.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1及び2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:国際公開第2014/098227号
引用文献2:国際公開第2014/192588号

第4.引用文献の記載事項及び引用発明
1.引用文献1
1-1.引用文献1の記載事項
引用文献1には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。)
「[0028] 車両1は、車体本体2、前輪3及び後輪4を備えている。車体本体2は、主に、車体フレーム21、車体カバー22、ハンドル23、シート24及びパワーユニット25から構成されている。」

「[0030] 車体フレーム21は、上下方向に延びるヘッドパイプ211、ヘッドパイプ211から後方に延びるフロントフレーム212及びリアフレーム213を含んでいる。ヘッドパイプ211は、車両の前部に配置されている。ヘッドパイプ211の周囲には、リンク機構5が配置されている。なお、本実施形態においては、ヘッドパイプ211が本発明の縦フレームに該当し、フロントフレーム212およびリアフレーム213が本発明の後フレームに該当する。」

「[0032] ステアリングシャフト60の上端には、ハンドル23が取り付けられている。フロントフレーム212は、前端から後方に向かって下方に傾斜する。リアフレーム213は、シート24及びテールランプを支持する。
[0033](車体カバー)
車体フレーム21は、車両外観部品の一つである車体カバー22によって覆われている。車体カバー22は、フロントカバー221、フロントフェンダー223、リアフェンダー224およびレッグシールド225を含んでいる。」

「[0036] レッグシールド225は、ヘッドパイプ211の後方に設けられている。レッグシールド225は、上下方向に延びている。レッグシールド225は、車両1に乗車したユーザの脚の前方に配置されている。
[0037] 前輪3は、ヘッドパイプ211及びリンク機構5よりも下方に位置している。前輪3は、フロントカバー221の下方に配置されている。
[0038] 図2は、車体カバー22を外した状態において車両1を示す全体正面図である。車両1は、ハンドル23、ステアリングシャフト60、ヘッドパイプ211、左右一対の前輪3、リンク機構5を備えている。リンク機構5は、ヘッドパイプ211の周囲に配置されている。リンク機構5は、左前輪31及び右前輪32に接続されている。リンク機構5はヘッドパイプ211に回転可能に取り付けられている。図2、3に示すようにリンク機構5は、クロス部材50とサイド部材55とを含む。クロス部材50は、上クロス部材51と下クロス部材52とを有する。クロス部材50は、ヘッドパイプ211より前方に位置する前クロス部材50Aとヘッドパイプ211より後方に位置する後クロス部材50Bとを有する。上クロス部材51は、ヘッドパイプ211より前方に位置する前上クロス部材51Aを有する。下クロス部材52は、ヘッドパイプ211より前方に位置する前下クロス部材52Aとヘッドパイプ211より後方に位置する後下クロス部材52Bとを有する。前クロス部材50Aは、前上クロス部材51Aと前下クロス部材52Aとを有する。後クロス部材50Bは、後下クロス部材52Bを有する。サイド部材55は、左サイド部材53と右サイド部材54とを含む。
[0039](前輪)
前輪3は、操舵可能な左前輪31及び右前輪32を含んでいる。左前輪31は、車幅方向中間より左方に配置されている。左前輪31の上方には、第一フロントフェンダー223aが配置されている。右前輪32は、車幅方向中間より右方に配置されている。右前輪32より上方には、第二フロントフェンダー223bが配置されている。右前輪32は、車幅方向中間に対して、左前輪31と対称に配置されている。」

「[0041] 左前輪31は、左緩衝器33に接続されている。左前輪31は、左緩衝器33の下部に接続されている。左前輪31は、回転軸311を中心として回転可能である。回転軸311は、車体フレーム21の左右方向に延びている。左前輪31は、回転軸312を中心として回転可能である。左前輪31が回転軸312を中心として回転することで、車両1は、進行方向を変更する。
[0042] 右前輪32は、右緩衝器34に接続されている。右前輪32は、右緩衝器34の下部に接続されている。右前輪32は、回転軸321を中心として回転可能である。回転軸321は、車体フレーム21の左右方向に延びている。右前輪32は、回転軸322を中心として回転可能である。右前輪32が回転軸322を中心として回転することで、車両1は進行方向を変更する。」

「[0055] このような構成により、リンク機構5は、上クロス部材51、下クロス部材52、左サイド部材53および右サイド部材54を含む平面内で変形可能である。」

「[0070] また、上中間軸線M1方向に関して、後方から順に、ヘッドパイプ211、リンク機構5の上クロス部材51、流体ユニット82がこの順で並んでいる。図6に示したように、車体フレーム21の上下方向から見て、上クロス部材51は、ヘッドパイプ211や流体ユニット82よりも車体フレーム21の左右方向の寸法が大きい。このため、ヘッドパイプ211、リンク機構5の上クロス部材51、流体ユニット82をこの順で配列させると、車体フレーム21の上下方向を向く方向から見て、これらの部材が占める空間Sは菱形となる。この菱形は、上クロス部材51から車体フレーム21の前後方向に向かってその左右方向の寸法が小さくなる形状である。したがって、この空間Sの上クロス部材51から前後方向に突出した部位(流体ユニット82やヘッドパイプ211が占める空間)の左右の空間S1,S2を、他の用途に利用することができる。」

「[0074]<車体の傾斜> 図7は、図2の状態から、車体を垂直方向に対して左右方向に角度T傾斜させた車両1の正面全体図である。リンク機構5が作動することで車両1は垂直方向に対して傾斜する。
[0075] このとき、上クロス部材51および下クロス部材52は、その延在方向が路面Gと平行な状態を保ったまま、水平方向の左右方向に平行移動する。上クロス部材51および下クロス部材52はそれぞれ、上左軸受512の上左軸線M2および下左軸受522の下左軸線M5を回転中心として、左サイド部材53に対して相対回転する。また、上クロス部材51および下クロス部材52はそれぞれ、上右軸受512の上右軸線M3および下右軸受522の下右軸線M6を回転中心として、右サイド部材54に対しても相対回転する。
[0076] 上中間軸線M1方向の前方から車両を見たとき、上クロス部材51、下クロス部材52、左サイド部材53、右サイド部材54が、車両の直立状態で長方形をなし、車両を傾斜させるにしたがって平行四辺形となるように変形する。なお、以降の説明において、上クロス部材51の上中間軸線A1および下クロス部材52の下中間軸線A2と平行な方向からみたときに、上クロス部材51、下クロス部材52、左サイド部材53、右サイド部材54を含み、これらがなす平行四辺形の内側の領域を、リンク機構5の動作空間と呼ぶ。」

「[0099] さらに本実施形態においては、車体フレーム21の上下方向の上方(図8中の矢印IX)から見て、図9に示したように、リンク機構5をヘッドパイプ211および流体ユニット82よりも大きく形成した。これにより、流体ユニット82A、ヘッドパイプ211およびリンク機構5とが占める空間SAを、流体ユニット82Aが後方に突出する三角形状とすることができる。これにより、流体ユニット82Aおよびヘッドパイプ211の左右方向の空間SA1,SA2を他の用途に用いることができる。これにより、車両前部の設計の自由度が高められている。」

また、引用文献1には、以下の図面が示されている。




1-2.引用文献1に記載された発明
(1)上記1-1.の記載事項により、次のことが認定できる。
ア.記載事項[0028]の「車両1は、車体本体2、前輪3及び後輪4を備えている。車体本体2は、主に、車体フレーム21、車体カバー22、ハンドル23、シート24及びパワーユニット25から構成されている。」との記載、及び記載事項[0030]の「車体フレーム21は、上下方向に延びるヘッドパイプ211、ヘッドパイプ211から後方に延びるフロントフレーム212及びリアフレーム213を含んでいる。」との記載から、車両1は、上下方向に延びるヘッドパイプ211、ヘッドパイプ211から後方に延びるフロントフレーム212およびリアフレーム213を含んでいる車体フレーム21を備えること。

イ.記載事項[0039]の「右前輪32は、車幅方向中間に対して、左前輪31と対称に配置されている。」との記載、記載事項[0041]の「左前輪31は、回転軸311を中心として回転可能である。回転軸311は、車体フレーム21の左右方向に延びている。」との記載、及び記載事項[0042]の「右前輪32は、回転軸321を中心として回転可能である。回転軸321は、車体フレーム21の左右方向に延びている。」との記載から、車両1は、車幅方向中間に対して、対称に配置され、車体フレーム21の左右方向に延びている回転軸311を中心として回転可能である左前輪31および右前輪32を備えること。

ウ.記載事項[0037]の「前輪3は、ヘッドパイプ211及びリンク機構5よりも下方に位置している。」との記載から、リンク機構5は前輪3よりも上方に位置しているといえること、並びに、記載事項[0038]の「リンク機構5は、ヘッドパイプ211の周囲に配置されている。リンク機構5は、左前輪31及び右前輪32に接続されている。リンク機構5はヘッドパイプ211に回転可能に取り付けられている。」との記載、及び記載事項[0074]の「図7は、図2の状態から、車体を垂直方向に対して左右方向に角度T傾斜させた車両1の正面全体図である。リンク機構5が作動することで車両1は垂直方向に対して傾斜する。」との記載から、車両1は、左前輪31および右前輪32よりも上方に位置し、ヘッドパイプ211に回転可能に取り付けられ、車体を垂直方向に対して左右方向に傾斜するように作動するように構成されているリンク機構5を備えること。

エ.記載事項[0032]の「リアフレーム213は、シート24及びテールランプを支持する。」との記載から、車両1は、リアフレーム213に支持されるシート24を備えること。

オ.記載事項[0033]の記載内容及び図3並びに記載事項[0036]の「レッグシールド225は、ヘッドパイプ211の後方に設けられている。」との記載から、車両1は、ヘッドパイプ211の前方に設けられているフロントカバー221および、後方に設けられているレッグシールド225を備えること。

カ.記載事項[0070]の「上中間軸線M1方向に関して、後方から順に、ヘッドパイプ211、リンク機構5の上クロス部材51、流体ユニット82がこの順で並んでいる。」との記載、及び図3から、車両1は、ヘッドパイプ211及びリンク機構5の前方に設けられている流体ユニット82を備えること。

キ.記載事項[0055]の「リンク機構5は、上クロス部材51、下クロス部材52、左サイド部材53および右サイド部材54を含む」との記載、及び記載事項[0076]の「上クロス部材51、下クロス部材52、左サイド部材53、右サイド部材54が、車両の直立状態で長方形をなし、車両を傾斜させるにしたがって平行四辺形となるように変形する。」との記載から、リンク機構5は、上クロス部材51、下クロス部材52、左サイド部材53および右サイド部材54を備えており、前記上クロス部材51、前記下クロス部材52、前記左サイド部材53、および前記右サイド部材54は、車両の直立状態で長方形をなし、車両を傾斜させるにしたがって平行四辺形となるように変形すること。

(2)上記1-1.の記載事項及び上記(1)の認定事項を総合し、本願発明の記載ぶりに倣って整理すると、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。(以下「引用発明1」という。)
「車両1であって、
上下方向に延びるヘッドパイプ211、前記ヘッドパイプ211から後方に延びるフロントフレーム212およびリアフレーム213を含んでいる車体フレーム21と、
車幅方向中間に対して、対称に配置され、前記車体フレーム21の左右方向に延びている回転軸311を中心として回転可能である左前輪31および右前輪32と、
前記左前輪31および前記右前輪32よりも上方に位置し、前記ヘッドパイプ211に回転可能に取り付けられ、車体を垂直方向に対して左右方向に傾斜するように作動するように構成されているリンク機構5と、
前記リアフレーム213に支持されるシート24と、
前記ヘッドパイプ211の前方に設けられているフロントカバー221および、後方に設けられているレッグシールド225と、
前記ヘッドパイプ211及び前記リンク機構5の前方に設けられている流体ユニット82と、
を備えており、
前記リンク機構5は、上クロス部材51、下クロス部材52、左サイド部材53および右サイド部材54を備えており、
前記上クロス部材51、前記下クロス部材52、前記左サイド部材53、および前記右サイド部材54は、車両の直立状態で長方形をなし、車両を傾斜させるにしたがって平行四辺形となるように変形する、
車両1。」

2.引用文献2
2-1.引用文献2の記載事項
引用文献2には、以下の事項が記載されている。
「[0001] 本発明は、自動二輪車の物品収納構造に関する。」

「[0005] 本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、蓋部材の取り付け構造を簡素化して、物品収納部をコンパクトにすることができる自動二輪車の物品収納構造を提供することにある。」

「[0022] 本実施形態の自動二輪車1は、図1に示すように、車体フレーム10を備え、この車体フレーム10は、その車両前部10aに設けられるヘッドパイプ15と、ヘッドパイプ15から後方且つ下方に延びるダウンチューブ52と、ダウンチューブ52の中間部から略後方に延びる前フレーム51と、ダウンチューブ52の下端から後方に延びるロアチューブ53と、ロアチューブ53の後端から上方に延びた後、後方且つ上方に延びるリアフレーム62と、を備える。そして、車体フレーム10は、カバー部材20により外側が覆われている。」

「[0024] なお、図1中の符号63はフロントフェンダ、64はリアフェンダ、65はサイドスタンド、66は排気管、67は消音器である。また、運転者Mは、ハンドル11の後方に配置された乗車シート12に着座し、足を後述する低床部57に載せ、ハンドル11を握って乗車する。
[0025] カバー部材20は、ヘッドパイプ15の前方を覆うフロントカバー20fと、ヘッドパイプ15の後方を覆うリアカバー20rと、リアカバー20rの下縁に連なり後方に延びるサイドカバー20sと、サイドカバー20sの前部の下縁に連なり略水平に形成される低床部57と、を有する。また、リアカバー20rと乗車シート12とにより、乗車シート12の前方側に跨ぎ空間RSが形成されている。
[0026] 本実施形態における物品収納構造では、物品収納部30は、図1及び図2に示すように、車両前部10aのヘッドパイプ15の後面側の跨ぎ空間RSを形成するリアカバー20rの後方壁面20rbに開口部30aを有している。物品収納部30は、この開口部30aを開閉する蓋部材31を備えている。従って、図2に示すように、物品収納部30の開口部30aは、車体後方に向かって開口されている。」

また、引用文献2には、以下の図面が示されている。
[図1]


[図2]



2-2.引用文献2に記載された発明
上記2-1.の記載事項並びに図1及び図2から、引用文献2には、以下の発明が記載されていると認められる。(以下「引用発明2」という。)
「自動二輪車1であって、車両前部10aに設けられるヘッドパイプ15を含む車体フレーム10と、前記ヘッドパイプ15の前方を覆うフロントカバー20fと、前記ヘッドパイプ15の後方を覆うリアカバー20rを有するカバー部材20とを備えており、前記リアカバー20rの後方壁面20rbに物品収納部30を備えている自動二輪車1。」

第5.対比
本願発明と引用発明1を対比すると、以下のとおりとなる。
後者の「車両1」は前者の「車両」に相当する。
後者の「上下方向に延びるヘッドパイプ211、前記ヘッドパイプ211から後方に延びるフロントフレーム212およびリアフレーム213を含んでいる車体フレーム21」は前者の「車体フレーム」に相当する。
後者の「車幅方向中間に対して、対称に配置され、前記車体フレーム21の左右方向に延びている回転軸311を中心として回転可能である左前輪31および右前輪32」は前者の「前記車体フレームの左右方向に並ぶように配置されている左前輪および右前輪」に相当する。
後者の「前記左前輪31および前記右前輪32よりも上方に位置し、前記ヘッドパイプ211に回転可能に取り付けられ、車体を垂直方向に対して左右方向に傾斜するように作動するように構成されているリンク機構5」は前者の「前記左前輪および前記右前輪よりも上方に配置されており、前記車体フレームに対する前記左前輪および前記右前輪の相対位置を変更して前記車体フレームを前記車両の左方または右方に傾斜させるように構成されているリンク機構」に相当する。
後者の「前記リアフレーム213に支持されるシート24」は、リンク機構5よりも車体フレーム21の前後方向における後方に配置されることは明らかであるから、前者の「前記リンク機構よりも前記車体フレームの前後方向における後方に配置され、前記車両の運転者が着座するシート」に相当する。
後者の「前記リンク機構5は、上クロス部材51、下クロス部材52、左サイド部材53および右サイド部材54を備えており」との構成は前者の「前記リンク機構は、上クロス部材、下クロス部材、左サイド部材、および右サイド部材を備えており」との構成に相当し、後者の「前記上クロス部材51、前記下クロス部材52、前記左サイド部材53、および前記右サイド部材54は、車両の直立状態で長方形をなし、車両を傾斜させるにしたがって平行四辺形となるように変形する」との構成は前者の「前記上クロス部材、前記下クロス部材、前記左サイド部材、および前記右サイド部材は、前記上クロス部材と前記下クロス部材が相互に平行な姿勢を保ち、前記左サイド部材と前記右サイド部材が相互に平行な姿勢を保つように、回動可能に連結されており」との構成に相当する。

本願発明と引用発明1は、以下の構成において一致する。
「車両であって、
車体フレームと、
前記車体フレームの左右方向に並ぶように配置されている左前輪および右前輪と、
前記左前輪および前記右前輪よりも上方に配置されており、前記車体フレームに対する前記左前輪および前記右前輪の相対位置を変更して前記車体フレームを前記車両の左方または右方に傾斜させるように構成されているリンク機構と、
前記リンク機構よりも前記車体フレームの前後方向における後方に配置され、前記車両の運転者が着座するシートと、
を備えており、
前記リンク機構は、上クロス部材、下クロス部材、左サイド部材、および右サイド部材を備えており、
前記上クロス部材、前記下クロス部材、前記左サイド部材、および前記右サイド部材は、前記上クロス部材と前記下クロス部材が相互に平行な姿勢を保ち、前記左サイド部材と前記右サイド部材が相互に平行な姿勢を保つように、回動可能に連結されている、
車両。」

本願発明と引用発明1は、以下の点で相違する。
[相違点]
本願発明は、「前記リンク機構よりも前記車体フレームの前後方向における後方、かつ前記シートよりも前記車体フレームの前後方向における前方に配置され、物品を取出し可能に収容可能な収容部」を備え、「前記車体フレームの直立状態から左方または右方への最大傾斜状態に至る間の少なくとも一時点において、前記上クロス部材、前記下クロス部材、前記左サイド部材、および前記右サイド部材の回動軸線に沿う方向から見て、前記収容部は、前記上クロス部材と前記下クロス部材の双方と重なっている」構成であるのに対して、
引用発明1は、かかる収容部が特定されていない点。

第6.判断
上記相違点について検討する。
1.引用文献2には、上記第4.2.2-2.で述べたように引用発明2として「自動二輪車1であって、車両前部10aに設けられるヘッドパイプ15を含む車体フレーム10と、前記ヘッドパイプ15の前方を覆うフロントカバー20fと、前記ヘッドパイプ15の後方を覆うリアカバー20rを有するカバー部材20を備えており、前記リアカバー20rの後方壁面20rbに物品収納部30とを備えている自動二輪車1。」が記載されている。
ここで、引用発明2の「ヘッドパイプ15」、「車体フレーム10」、「フロントカバー20f」、「リアカバー20r」は、引用発明1の「ヘッドパイプ211」、「車体フレーム21」、「フロントカバー221」、「レッグシールド225」に対応する。

2.引用発明1及び引用発明2は、いずれも鞍乗型車両に関するものであるから、発明の属する技術分野が共通しており、かつ、両者はヘッドパイプの後方にカバー部材(引用発明1の「レッグシールド225」、引用発明2の「リアカバー20r」)を備えているものであるから構造的にも共通しているといえる。このことから、引用発明1に引用発明2を適用する動機付けは充分存在するものといえる。
そして、引用発明1に、引用発明2のリアカバー20rの後方壁面20rbに物品収納部30とを備える構成を採用して、引用発明1の「レッグシールド225」の後方壁面に物品収納部を設けることは、当業者であれば適宜になし得ることである。
このように、引用発明1の「レッグシールド225」の後方壁面に物品収納部を設ける構成を採用すれば、該物品収納部は、リンク機構5よりも車体フレーム21の前後方向における後方、かつシート24よりも前記車体フレーム21の前後方向における前方に配置される構成となる。
また、該物品収納部の大きさ及び配置は、収納したい物品の大きさ及び出し入れ時の使い勝手に応じて設定できるものであるから、当該物品収納部の大きさ及び配置を、車体フレーム21の直立状態から左方または右方への最大傾斜状態に至る間の少なくとも一時点において、上クロス部材51、下クロス部材52、左サイド部材53、および右サイド部材54の回動軸線に沿う方向から見て、物品収納部を、前記上クロス部材51と前記下クロス部材52の双方と重なるように設定することは、設計的事項の範囲である。

3.よって、引用発明1において、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

4.そして、本願発明の効果についても、引用発明1及び引用発明2から予測し得る程度のものであり、格別のものとはいえない。

5.請求人の主張について
請求人は、審判請求書の3.(3-2)において、
「引用文献1には、『流体ユニットを搭載しても、車両の大型化を抑制』するために、リンク機構の前方に流体ユニット82が配置されている構成と、リンク機構の後方に流体ユニット82Aが配置されている構成のみが開示されています。リンク機構の前方に配置された流体ユニット82の位置はそのままに、リンク機構の後方に収容部の配置スペースを確保しようとする思想は、引用発明1からは読み取れません。」(以下「主張1」という。)
「審査官殿が主張されるように『流体ユニット82はそのままの位置で』引用発明2の物品収容部30をリンク機構の後方に配置するような改変を行なった場合、『流体ユニットを搭載しても、車両の大型化を抑制』という引用発明1の技術的課題に対する阻害要因を生じます。」(以下「主張2」という。)との主張をしている。

(1)主張1について
引用文献1には、請求人が指摘するように、リンク機構5の後方に流体ユニット82Aが配置されている構成が第二実施形態([図9])として示され、これに加えて引用文献1の段落[0099]には「さらに本実施形態においては、車体フレーム21の上下方向の上方(図8中の矢印IX)から見て、図9に示したように、リンク機構5をヘッドパイプ211および流体ユニット82よりも大きく形成した。これにより、流体ユニット82A、ヘッドパイプ211およびリンク機構5とが占める空間SAを、流体ユニット82Aが後方に突出する三角形状とすることができる。これにより、流体ユニット82Aおよびヘッドパイプ211の左右方向の空間SA1,SA2を他の用途に用いることができる。これにより、車両前部の設計の自由度が高められている。」との記載がある。
このように引用文献1には、流体ユニットをリンク機構5の後方に配置することが開示されているから、リンク機構5の後方に空間を設けることに阻害要因があるとまではいえないこと、また、流体ユニットを後方に配置した際に生じる空間SA1,SA2を他の用途に用いることが開示され、リンク機構5の後方の空間を有効利用することが示唆がされているから、引用発明1と引用発明2に接した当業者であれば、リンク機構5の前方に配置された流体ユニット82の位置はそのままに、リンク機構5の後方に物品収容部の配置スペースを確保することは、容易に想起し得るものといえる。

(2)主張2について
請求人が指摘する「流体ユニットを搭載しても、車両の大型化を抑制する」ことに関し、引用文献1には以下の記載がある。
「[0006] 流体ユニットが重いので、流体ユニットを車両に搭載するに当たっては、流体ユニットの支持剛性を確保する必要がある。しかし、支持剛性を確保するために流体ユニットの支持構造が大型化または複雑化しやすい。
[0007] また、流体ユニットの容積が大きいので、他の車両構成部品との相対位置関係を工夫して、車両の大型化を抑制する必要がある。
そのため、非特許文献1に記載のような傾斜する車体フレームと二つの前輪を備えた車両に、ABSを搭載する場合、車両がより大型化するおそれがある。
[0008] そこで本発明は、流体ユニットを搭載しても、車両の大型化を抑制できる、傾斜する車体フレームと二つの前輪を備えた車両を提供することを目的とする。」
上記記載事項によれば、「車両の大型化」とは、流体ユニットの容積が大きく、また、重いので、該流体ユニットの支持剛性を確保するために車両が大型化または複雑化しやすいことをいっているのであるから、物品収納部をを配置することが「車両の大型化を抑制する」という技術的課題に対する阻害要因を生じることにはならないといえる。

よって、請求人の主張は採用できない。

第7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-02-25 
結審通知日 2019-02-26 
審決日 2019-03-11 
出願番号 特願2016-55799(P2016-55799)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B62K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福田 信成志水 裕司  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 島田 信一
仁木 学
発明の名称 車両  
代理人 特許業務法人 信栄特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ