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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1351122 |
審判番号 | 不服2018-4672 |
総通号数 | 234 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-06-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-04-06 |
確定日 | 2019-05-21 |
事件の表示 | 特願2013-119423「熱電変換材料及び熱電変換素子」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月18日出願公開、特開2014-239092、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成25年6月6日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。 平成29年 2月20日付け 拒絶理由通知 平成29年 4月28日 意見書・手続補正 平成29年 6月29日付け 拒絶理由通知 平成29年 9月11日 意見書・手続補正 平成29年12月26日付け 拒絶査定(以下,「原査定」という。) 平成30年 4月 6日 審判請求 平成30年 5月14日 手続補正書(方式) 平成31年 1月24日付け 拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由」という。) 平成31年 3月29日 意見書・手続補正(以下,「当審補正」という。) 第2 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 本願の請求項1,2に係る発明は,以下の引用文献1ないし3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,本願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 1.TAN, Xiaojian et al.,Optimizing the thermoelectric performance of zigzag and chiral carbon nanotubes,Nanoscale Research Letters,2012年,Volume 7, Article Number 116,pp.1-7 2.特開2013-095821号公報 3.国際公開第2012/049801号 第3 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由の概要は次のとおりである。 本願の請求項1,2に係る発明は,以下の引用文献1,A,B及びCに記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,本願の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 1.TAN, Xiaojian et al.,Optimizing the thermoelectric performance of zigzag and chiral carbon nanotubes,Nanoscale Research Letters,2012年,Volume 7, Article Number 116,pp.1-7 A.特開2009-286663号公報 B.特開2009-18947号公報 C.特開2012-144426号公報 第4 本願発明 本願の請求項1及び2に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は,当審補正で補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。 「【請求項1】 金属型と半導体型の総和に対し半導体型を70%以上の純度で含有するカーボンナノチューブ混合物を含有してなる熱を電力に変換する熱電変換材料からなる熱電変換部材と, 上記熱電変換材料とは熱を電力に変換する熱電変換能の異なる第二の熱電変換材料からなる第二の熱電変換部材とを電気的に接触させて形成されており, 上記熱電変換部材と上記の第二の熱電変換部材とは,上記熱電変換部材からなるラインと上記の第二の熱電変換部材からなるラインとを交互に且つジグザグに複数個,接点を介して連結されてなり,その末端に電極を具備する,熱電変換素子であって, 上記第二の熱電変換部材は,金属型と半導体型の総和に対し金属型を33%以上の純度で含有するカーボンナノチューブである,熱電変換素子。 【請求項2】 請求項1記載の熱電変換素子の製造方法であって, 熱電変換部材成型工程を具備し, 上記熱電変換部材成型工程が, 半導体型と金属型が混合された状態のカーボンナノチューブ混合物を精製して半導体型リッチ分散液を製造する工程を含み, 上記精製が,カーボンナノチューブの分散処理を行い,カーボンナノチューブを孤立状態とする工程,該分散処理の後,孤立状態のカーボンナノチューブを超遠心分離法により分離処理し,沈殿物の除去を行う工程,及び超遠心分離の後,密度勾配超遠心分離法により再分離処理を行う工程 を含むことを特徴とする熱電変換素子の製造方法。」 第5 引用文献及び引用発明 1 引用文献1について (1)引用文献1 当審拒絶理由及び原査定に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同じ。) 「Abstract Using nonequillibrium molecular dynamics simulations and nonequillibrium Green's function method, we investigete the thermoelectric properties of a series of zigzag and chiral carbon nonotubes which exhibit interesting diameter and chirality dependence. Our calculated results indicate that these carbon nanotubes could have higher ZT calues at appropriate carrier concentration and opereting temperature. Moreover, their thermoelectric performance can be significantly enhanced via isotope substitution, isoelectronic impurities, and hydrogen absorption. It is thus reasonable to expect that carbon nanotubes may be promising candidates for high-performance thermoelectric materials.」(1頁囲み) (訳:要旨 非平衡分子力学及び非平衡グリーン関数法を用いて,一連のジグザグ及びカイラルカーボンナノチューブの熱電性質を解析すると,興味深い,直径やカイラリティとの間の依存関係を示した。我々の計算した結果は,このようなカーボンナノチューブが,適切なキャリア濃度及び動作温度において,比較的高いZT値を持つことが示された。さらに,その熱電性能は,同位体置換,等電子的不純物及び水素吸収を通じて,大きく向上させることができる。したがって,カーボンナノチューブが高性能の熱電材料の有望な候補であり得ると合理的に予測できる。) 「They are the zigzag (7,0),(8,0),(10,0),(11,0),(13,0),(14,0) and the chiral (4,2),(5,1),(6,2),(6,4),(8,4),(10,5), and all are semiconductors in their pristine form.」(1頁右欄27行-30行) (訳:これらは,ジグザグ(7,0),(8,0),(10,0),(11,0),(13,0),(14,0) 及びカイラル(4,2),(5,1),(6,2),(6,4),(8,4),(10,5)であり,すべて,本来の型が,半導体型である。) 「the (10,0) tube was successfully produced by many means, such as by direct laser vaporization, electric arc technique, and chemical vapor deposition, and can be selected from mixed or disordered samples using a DNA-based separation process.」(5頁右欄53行-6頁左欄4行) (訳:(10,0)チューブは,ダイレクトレーザー気化法,電気アーク法,及び化学的気相堆積法などの,種々の手法で,成功裏に製造されており,DNAベースの分離プロセスを用いて,混合物若しくは無秩序物から分離することが可能である。) (2)引用発明 前記(1)より,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「熱電材料であって,混合物からDNAベースの分離プロセスにより分離した半導体型カーボンナノチューブであるもの。」 2 引用文献2の記載 原査定に引用された引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。 「【0015】 本発明の導電性組成物は,(A)CNT,(B)導電性高分子,及び(C)活性エネルギー線照射又は熱の付与によりラジカルを発生する化合物を必須成分として含有し,必要に応じて(D)ラジカル重合性化合物を含有してなる。CNTとともに導電性高分子及びラジカルを発生する化合物を用いることで,組成物中でのCNTの分散性を高め,CNT本来の導電性を損なうことなく,しかも導電性高分子及びラジカルを発生する化合物との相乗的効果により非常に高い導電性を示す組成物が得られる。さらに,当該組成物はこの高い導電性に加えて優れた熱電変換性能を有しており,熱電変換材料として好適に用いることができる。 以下,本発明の導電性組成物について詳述する。 【0016】 (A)カーボンナノチューブ(CNT) CNTには,1枚の炭素膜(グラフェン・シート)が円筒状に巻かれた単層CNT,2枚のグラフェン・シートが同心円状に巻かれた2層CNT,及び複数のグラフェン・シートが同心円状に巻かれた多層CNTがある。本発明においては,単層CNT,2層CNT,多層CNTを各々単独で用いてもよく,2種以上を併せて用いてもよい。特に,導電性及び半導体特性において優れた性質を持つ単層CNT及び2層CNTを用いることが好ましく,単層CNTを用いることがより好ましい。 単層CNTは,半導体性のものであっても,金属性のものであってもよく,両者を併せて用いてもよい。半導体性CNTと金属性CNTとを両方を用いる場合,組成物中の両者の含有比率は,組成物の用途に応じて適宜調整することができる。例えば,電極用途として用いる場合は,導電性の観点から,金属性CNTの含有比率が高いほうが好ましい。半導体用途として用いる場合は,半導体特性の観点から,半導体性CNTの含有比率が高いほうが好ましい。また,CNTには金属などが内包されていてもよく,フラーレン等の分子が内包されたものを用いてもよい。なお,本発明の導電性組成物には,CNTの他に,カーボンナノホーン,カーボンナノコイル,カーボンナノビーズなどのナノカーボンが含まれてもよい。」 3 引用文献3の記載 原査定に引用された引用文献3には,図面とともに次の事項が記載されている。 「【0035】 本実施形態の赤外線センサ材料の作製方法は,CNTを溶媒中に分散させてCNT分散液を調製し,調製されたCNT分散液を原料としてCNT薄膜を成膜し,成膜したCNT薄膜をアニール処理してTCRの絶対値を1%/K以上とする工程を含んでいる。 (中略) 【0045】 また,上述のように形成されるCNT薄膜を構成するCNTの主成分がシングルウォールナノチューブであるとよい。これは,前述の通り,ボロメータ材料としては,半導体成分が多い方が抵抗温度係数を増大させるためには有利であり,シングルウォールナノチューブが,半導体成分と金属成分を分離できること,また,半導体成分が多い材料を作製することが容易であることなどの要因のためである。」 4 引用文献Aの記載 当審拒絶理由に引用された引用文献Aには,図面とともに次の事項が記載されている。 「【0006】 特許文献1記載の分離方法は,非イオン性界面活性剤によって,金属性SWCNTと半導体性SWCNTとに異なる電荷を帯電させたのちに電界を印加することで,金属性SWCNTと半導体性SWCNTを分離する方法である。 非特許文献1記載の分離方法は,一本鎖DNAで可溶化したSWCNTをイオン交換カラムによりカイラリティ分離を行ったものである。この分離方法は,水素結合によってSWCNT上で高い秩序性を持ったグアニンとチミンの塩基配列からなる一本鎖DNAによって,SWCNTの表面には均一な電荷密度分布が存在するようになることを利用した方法であり,SWCNTの直径によってその電荷密度分布も変化するため,カイラリティ分離が可能としたものである。 また,密度勾配分離法は,直径の異なるSWCNTの密度の違いに基づいて,SWCNTを分離する方法である。」 「【0035】 工程(3)における分離方法として,密度勾配分離法やゲル電気泳動など,CNTおよび/または結合性反応物質の物性を利用して分離する方法が利用できる。 特に密度勾配分離法は,結合性反応物質が結合したことによるCNTの密度変化を利用して,高純度なカイラリティの異なるCNTを簡便に分離・回収ができるために好適である。また,密度勾配分離法の中でも,密度勾配遠心法が好適である。この密度勾配遠心法には,以下の沈降速度法と密度勾配沈降平衡法とがある。 沈降速度法では遠心管(遠心チューブ)中にあらかじめ,上部から下部へ密度が大きくなる密度勾配を作っておき,この密度勾配液の上にRNAなどを含む最も軽い密度の溶液をバンド状に静かに重層する。これを超遠心機などで高速遠心すると,沈降係数(分子の比重,形,分子量の大きさで決まる分子の重さ)の大きいものほど早く沈降し,遠心管中で重さの順にバンド状に分子が並び,分離することができる。 一方,密度勾配沈降平衡法では長時間の超遠心によって遠心管中で上が薄く下が濃い濃度勾配ができる。遠心により生じたこの密度勾配中で,物質は自分の密度と同じ溶媒密度の所に上下から集まり,バンド状になり分離できる。この密度勾配沈降平衡法は再現性の高い分離が可能であるため特に好適である。密度勾配沈降平衡法は従来公知の装置及び条件で行うことができる。 以下では,図1に基づいて,密度勾配分離法として密度勾配沈降平衡法の例について説明する。」 5 引用文献Bの記載 当審拒絶理由に引用された引用文献Bには,図面とともに次の事項が記載されている。 「【0004】 単層CNTは,その炭素原子の結合及び並び方の相違により,半導体性CNTと金属性CNTの2種類がある。合成方法において半導体性CNTと金属性CNTが等確率で生成されとすれば,生成比は2対1とされる。従来の既存の合成法によれば,これら半導体性CNTと金属性CNTの混合物として得られ,それらは束を構成しているとされる。」 「【0011】 金属性CNTの抽出方法には,以下の方法が知られており,これらの各方法を適用することができる。 半導体性CNTと金属性CNTの混合物から金属性CNTを抽出する方法には,(1)アミンを分散剤として金属性CNTのみを可溶化して分離し,可溶化した溶液から金属性CNTを取り出す方法,(2)過酸化水素を用いて半導体性CNTを酸化させて酸化物として取り出し,金属性CNTを選択的に残し,金属性CNTを分離する方法,(3)DNAを用いて金属性CNTと半導体性CNTを分離する方法,(4)誘電泳動を用いて金属CNTを選択的に捕獲する方法,(5)界面活性剤とiodixanol分子を用いて密度勾配遠心分離で金属性CNTと半導体性CNTを分離する方法がある。 これらの方法の中では,(1)アミンを分散剤として金属性CNTのみを可溶化する方法,又は(5)界面活性剤とiodixanol分子を用いて密度勾配遠心分離で金属性CNTと半導体性CNTを分離する方法,さらに望ましくは,界面活性剤とiodixanol分子を用いて密度勾配遠心分離で金属性CNTと半導体性CNTを分離する方法によることが有効である。」 6 引用文献Cの記載 当審拒絶理由に引用された引用文献Cには,図面とともに次の事項が記載されている。 「【0054】 また,他の方法の例としては,本発明者らが先に出願(特願2010-028812号)した次のような方法が挙げられる。すなわち,前記密度勾配法において,SWCNT分散液の界面活性剤として,デオキシコール酸アルカリ金属塩,コール酸アルカリ金属塩,高級アルキルベンゼンスルホン酸アルカリ金属塩のような,カーボンナノチューブを単分散させることのできる界面活性剤を用い,一方,遠心分離用溶液に含有される界面活性剤として,金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブやある特定のカイラリティに対して異なる凝集特性を示す,高級アルキルスルホン酸アルカリ金属塩のような界面活性剤(以下,「凝集用界面活性剤」ということもある。)を用いることにより,各々1種の界面活性剤を用いるのみで,金属型と半導体型のSWCNTや単一カイラリティの分離を行う方法が挙げられる。 【0055】 この例について更に具体的に説明する。この例において,SWCNT分散水溶液を調製する際に用いられる,SWCNTを単分散させることのできる界面活性剤としては,単分散性の観点から,デオキシコール酸アルカリ金属塩及びコール酸アルカリ金属塩が好ましく,アルカリ金属塩としてはナトリウム塩が好ましい。SWCNTを単分散させることのできる界面活性剤は1種が用いられればよいが,2種以上が併用されてもかまわない。さらに,単分散性の能力においては劣るものの,高級アルキルスルホン酸アルカリ金属塩,例えばドデシル硫酸ナトリウムなどもSWCNTを単分散させることのできる界面活性剤として利用することができる。 【0056】 また,SWCNTを単分散させることのできる界面活性剤の濃度は,使用される界面活性剤の種類,分散されるSWCNTの量により異なるものの,通常0.4?3重量%程度の濃度であることが好ましく,臨界ミセル濃度より大きくする必要がある理由から1重量%程度であることがより好ましい。一方,SWCNTの量は任意でよいが,通常,界面活性剤水溶液100ml当たり,1?100mg程度の量とされる。超音波分散は,SWCNTの均一分散が行われる限り,従来公知あるいは周知の任意の超音波分散装置やホモジナイザーなどを適宜用いることができ,分散処理時間は任意でよい。一例としては,バス型超音波分散器により0.5?1時間,SWCNTの予備的分散を行った後,1?20時間かけてホモジナイザーを用い分散を行う方法が挙げられる。 【0057】 さらに,用いられる密度勾配剤は,遠心分離用チューブ内の密度勾配を形成するよう充填された遠心分離用溶液に用いられる密度勾配剤と同一のものを用いることが好ましい。前記混合液中の密度勾配剤の濃度は,20?50重量%程度が好ましいが,前記混合液層の上に充填される界面活性剤含有水溶液中の密度勾配剤の濃度より高くなるように調整することが必要である。必要であれば,密度勾配剤含有水溶液には,ドデシル硫酸ナトリウムなど遠心分離用溶液で用いられる凝集特性の異なる界面活性剤などの界面活性剤が含まれていてもよい。 【0058】 一方,遠心分離用チューブには,密度勾配剤の含有量により密度が変えられた界面活性剤含有水溶液が密度の高いものから順次チューブ底部より層状に充填されて密度勾配が形成され,遠心分離用溶液が形成される。密度勾配剤としては,従来公知あるいは周知の密度勾配剤であれば良く特に限定されるものではないが,イオデキサノールなどが好ましいものとして挙げられる。遠心分離用溶液の密度は重要であり,カーボンナノチューブ分散溶液に用いられる分散用界面活性剤及び遠心分離用溶液で用いられる凝集用界面活性剤の種類などによって異なるが,例えばカーボンナノチューブ分散溶液の分散用界面活性剤としてデオキシコール酸ナトリウムを用い,遠心分離用溶液の凝集用界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウムを用いる場合,その濃度によっても異なるものの,一般的には密度1.1?1.2g/mlにおいて金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブや単一カイラリティの分離がなされる。密度勾配剤の濃度は,このような密度を含む密度勾配が形成されるような濃度とされればよく,一例としてはイオデキサノール濃度が35重量%,32.5重量%,30重量%,27.5重量%,25重量%である5種類の濃度の溶液を用意し,これに凝集用界面活性剤をこれら溶液間で同濃度となるよう含有させ,遠心分離用チューブ中に濃度の大きい順に下層から層状に注入して遠心分離用溶液(以下,「凝縮層」ということもある。)を形成する。 【0059】 また,この凝縮層に含有される凝集用界面活性剤としては,金属型SWCNTと半導体型SWCNTやある特定のカイラリティにおいて異なる凝集状態を形成することのできる界面活性剤であれば何れのものでも良いが,高級アルキルスルホン酸アルカリ金属塩が好ましいものとして挙げられ,高級アルキルスルホン酸アルカリ金属塩の中では,ドデシル硫酸ナトリウムが好ましい。この凝集用界面活性剤を用いる場合,SWCNT分散水溶液中でSWCNTの表面に吸着したSWCNT分散用界面活性剤と,凝縮層で用いられる凝集用界面活性剤との置換が起こり,これにより金属型SWCNTと半導体型SWCNTやある特定のカイラリティで異なった凝集状態が形成され,この凝集状態の違いにより金属型SWCNTと半導体型SWCNT,ある特定のカイラリティの密度が異なったものとなり,この密度の違いにより遠心処理により金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブや単一カイラリティが分離すると考えられることから,凝縮層に おける界面活性剤の濃度は,SWCNT分散用界面活性剤との置換が起こり,金属型SWCNTと半導体型SWCNTやある特定のカイラリティにおいて凝集状態が異なったものとなり,密度の違いが起こるような濃度とされる必要がある。凝縮層で用いられる凝集用界面活性剤の濃度は,使用される界面活性剤により異なるものの,通常0.4?3重量%程度の濃度が好ましく,臨界ミセル濃度より大きくする必要がある理由から1重量%程度以上であることがより好ましい。 【0060】 前記するようにして調製されたSWCNTの分散水溶液層の上に凝縮層が形成された遠心分離用チューブを,超遠心機を用いて遠心が行われる。遠心処理の結果,遠心分離用チューブ内に色相の異なる単層カーボンナノチューブバンドが形成される。これを分画することにより,金属型及び半導体型やある特定のカイラリティが選択的に含まれる溶液が得られる。 【0061】 本発明の結晶作製方法について好ましい1例をさらに具体的に説明すると,ある特定のカイラリティを選択的に多く含まれる溶液を更に精製し,その精製したSWCNT溶液とリザーバー溶液とを,通常,1対1の体積比で良く混合し,結晶化剤の濃度を最終到達濃度の半分にしたものをSWCNT結晶化溶液試料(ドロップ溶液)とし,リザーバー側には,リザーバー溶液そのものを用いる。しかし,前記結晶化剤濃度を,最終目的濃度の半分から始める必要はなく,両者の混合比率を変えることで,過飽和度や蒸気平衡に達するまでの時間を適宜制御することができる。SWCNT結晶化溶液試料をドロップチャンバーにドロップした後は,リザーバー容器全体を密封閉鎖し,4?20℃の温度で静置する。結晶化に要する時間は,温度や結晶化開始時の結晶化剤濃度等の条件により異なるが,通常,数時間?1週間程度でSWCNTの結晶が得られる。得られたSWCNT結晶は,キャビラリーで吸い取ることにより一本単位で取り扱いが可能である。」 第6 対比及び判断 1 本願発明1について (1)本願発明1と引用発明との対比 ア 引用発明の「熱電材料」は,本願発明1の「熱を電力に変換する熱電変換材料からなる熱電変換部材」に相当する。 イ すると,本願発明1と引用発明とは,下記ウの点で一致し,下記エの点で相違する。 ウ 一致点 「熱を電力に変換する熱電変換材料からなる熱電変換部材とからなるもの。」 エ 相違点 (ア)相違点1 本願発明1の「熱電変換材料」は「金属型と半導体型の総和に対し半導体型を70%以上の純度で含有するカーボンナノチューブ混合物を含有してなる」のに対し,引用発明の「熱電材料」は「混合物からDNAベースの分離プロセスにより分離した半導体型カーボンナノチューブである」点。 (イ)相違点2 本願発明1では,「上記熱電変換材料とは熱を電力に変換する熱電変換能の異なる第二の熱電変換材料からなる第二の熱電変換部材とを電気的に接触させて形成されており, 上記熱電変換部材と上記の第二の熱電変換部材とは,上記熱電変換部材からなるラインと上記の第二の熱電変換部材からなるラインとを交互に且つジグザグに複数個,接点を介して連結されてなり,その末端に電極を具備する,熱電変換素子であって, 上記第二の熱電変換部材は,金属型と半導体型の総和に対し金属型を33%以上の純度で含有するカーボンナノチューブである」のに対し,引用発明では,熱電変換素子としての構造が不明である点。 (2)判断 相違点2について検討すると,「金属型と半導体型の総和に対し金属型を33%以上の純度で含有するカーボンナノチューブである」第二の熱電変換部材と組み合わせて熱電変換素子とすることは,引用文献1ないし3,A,B及びCに記載も示唆もない。 そして,本願発明1は,相違点2に係る構成を有することにより,「このように熱電変換ライン10’と異なる電気特性をもつ第二の熱電変換部材としてのCNTライン40とを接続することで,素子の幅や厚みを大きくすることなく熱電変換により生じる電力を大きくすることができる。すなわち,一つの熱電変換ライン10’では例えば0.1mVの起電力であっても,この熱電変換ライン10’が10個連結されているので,結果的に1.0mVの電圧を得ることができる。これは仮に同じ並べ方で熱電変換ライン10‘をジグザグに連結すると斜めに連結された方ではマイナスの起電力が生じて結局得られる電力がなくなるところ,本実施形態のように熱起電力がほぼないCNTライン40を介して連結することで電力の損失をほとんどなくすことができ,結果大きな電力を得ることができる。」(本願明細書段落【0027】)という,格別に有利な効果を奏するものと認められる。 (3)まとめ よって,相違点1について検討するまでもなく,本願発明1は,引用文献1ないし3,A,B及びCに記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 2 本願発明2について 本願発明2は,本願発明1を引用するものであり,本願発明1の発明特定事項をすべて備え,さらに他の発明特定事項を付加したものに相当するから,前記1と同様の理由により,引用文献1ないし3,A,B及びCに記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 第7 原査定についての判断 前記第6のとおり,本願発明1及び2は,引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって,原査定を維持することはできない。 第8 むすび 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-05-08 |
出願番号 | 特願2013-119423(P2013-119423) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01L)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 安田 雅彦 |
特許庁審判長 |
恩田 春香 |
特許庁審判官 |
深沢 正志 小田 浩 |
発明の名称 | 熱電変換材料及び熱電変換素子 |
代理人 | 松山 裕一郎 |
代理人 | 松山 裕一郎 |