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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1351131
審判番号 不服2018-742  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-19 
確定日 2019-05-21 
事件の表示 特願2016- 12156「半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 7月21日出願公開,特開2016-131247,請求項の数(1)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成18年9月27日に出願された特願2006-262991号(優先権主張 平成17年9月29日(以下,「本願優先日」という。)の一部を平成24年7月19日に新たな特許出願(特願2012-160408号)とし,さらに,その一部を平成25年11月20日に新たな特許出願(特願2013-239523号)とし,さらに,その一部を平成26年12月19日に新たな特許出願(特願2014-257423号)とし,さらに,その一部を平成28年1月26日に新たな特許出願としたものであって,同年12月22日付け拒絶理由通知に対し,平成29年2月6日に意見書が提出されるとともに手続補正がされ,同年6月12日付け最後の拒絶理由通知に対し,同年6月28日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが,同年11月10日付けで当該手続補正は却下されるとともに拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ,これに対し,平成30年1月19日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたところ,同年12月18日付けで当審から最後の拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,これに対し,平成31年2月14日に意見書が提出されるとともに手続補正(以下,「本件補正」という。)がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の理由の概要は以下のとおりである。
(進歩性)本願の下記の請求項に係る発明は,本願優先日前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,本願優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1ないし12
・引用文献 1ないし5
<引用文献等一覧>
1.特開2005-33172号公報
2.特開2003-337353号公報
3.特開2004-103957号公報
4.特開平9-139506号公報
5.特開2003-86808号公報

第3 本願発明
本願請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,本件補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明であって,以下のとおりである。

「【請求項1】
第1のフィルムと,
第2のフィルムと,
前記第1のフィルム及び前記第2のフィルムの間の,画素部と,
バッテリーと,を有し,
前記バッテリーは,フィルム形状を有し,
前記画素部は,
酸化物半導体膜を有し,
前記酸化物半導体膜は,Inと,Gaと,Znと,を有し,
前記酸化物半導体膜は,第1の領域と,前記第1の領域と重なる第2の領域とを有し,
前記第1の領域の結晶性は,前記第2の領域の結晶性よりも高く,
前記酸化物半導体膜のチャネル形成領域は,前記第1の領域及び前記第2の領域を有し,
前記第1の領域は,結晶領域であることを特徴とする半導体装置。」

第4 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2005-33172号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で加筆した。以下同じ。)。

「【技術分野】
【0001】
本発明は,酸化亜鉛系の活性層を有する半導体装置に係り,電子デバイスに用いられるスイッチング素子に好適な半導体装置およびそれを用いた電子デバイスに関するものである。」

「【0020】
酸化亜鉛を活性層に使用した電界効果トランジスタにおいては,酸化亜鉛の雰囲気に対する敏感性から,保護層が必要不可欠である。しかし,上記のように,保護層の付与された電界効果トランジスタは,しきい値電圧がマイナスの大きな電圧となるため,実使用が不可能となる。
【0021】
本発明は,上記の問題に鑑みてなされたものであって,酸化亜鉛を活性層に用い,かつ活性層を雰囲気と隔絶する保護層の付与された,実使用が可能である半導体装置およびそれを備えた電子デバイスを提供することを目的としている。」

「【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
〔実施形態1〕
・・・
【0038】
図1(a)ないし(c)に示すように,半導体装置としての薄膜トランジスタ1は,絶縁性基板2上に形成されたゲート電極3の上に,ゲート絶縁層4を介して半導体層5が積層され,この半導体層5の上に電極部としてのソース電極6とドレイン電極7とが形成され,さらに半導体層5,ソース電極6およびドレイン電極7の一部を覆う保護層8が形成され,逆スタガ型の構造を成している。
【0039】
また,この薄膜トランジスタ1が表示装置(例えば,実施形態4(※審決注;「実施形態5」の誤記と認められる。)のアクティブマトリクス型液晶表示装置)に用いられる場合は,ドレイン電極7が絵素電極に接続されるか,もしくはドレイン電極7と絵素電極とが透明導電膜で一体的に形成される。このため,ドレイン電極7の一部は保護層8から引き出されている。
・・・
【0041】
活性層としての半導体層5は,I族,III族,IV族,V族またはVII族元素が添加されたZnOまたはMg_(x)Zn_(1-x)Oの多結晶状態,アモルファス状態または多結晶状態とアモルファス状態とが混在する状態である半導体を用いて形成されている。添加される元素しては,I族およびV族の元素が好ましい。例えば,半導体層5は,窒素(N),リン(P),砒素(As),アンチモン(Sb)またはこれらの元素の2種類以上を含むZnOまたはMg_(x)Zn_(1-x)Oの多結晶状態,アモルファス状態または多結晶状態とアモルファス状態とが混在する状態である半導体により形成されている。」

「【0119】
〔実施形態5〕
本発明の第5の実施形態について,図12および図13に基づいて説明すれば,以下の通りである。なお,本実施の形態において,前述の実施の形態1ないし4における構成要素と同等の機能を有する構成要素については,同じ符号を付記してその説明を省略する。
【0120】
図12に示すように,本実施の形態に係る表示装置は,アクティブマトリクス型の液晶表示装置であって,絵素アレイ31と,ソースドライバ32と,ゲートドライバ33と,制御回路34と,電源回路35とを備えている。
【0121】
絵素アレイ31,ソースドライバ32およびゲートドライバ33は,基板36上に形成されている。基板36は,ガラスのような絶縁性かつ透光性を有する材料により形成されている。絵素アレイ31は,ソースラインSL…と,ゲートラインGL…と,絵素37…とを有している。
【0122】
絵素アレイ31においては,多数のゲートラインGL_(j),GL_(j+1)…と多数のソースラインSL_(i),SL_(i+1)…とが交差する状態で配されており,隣接する2本のゲートラインGL,GLと隣接する2本のソースラインSL,SLとで包囲された部分に絵素(図中,PIXにて示す)37が設けられている。このように,絵素37…は,絵素アレイ31内でマトリクス状に配列されており,1列当たりに1本のソースラインSLが割り当てられ,1行当たりに1本のゲートラインGLが割り当てられている。
【0123】
液晶ディスプレイの場合,各絵素31(※審決注;「各絵素37」の誤記と認められる。)は,図13に示すように,スイッチング素子であるトランジスタTと,液晶容量CLを有する絵素容量CPとによって構成されている。一般に,アクティブマトリクス型液晶ディスプレイにおける絵素容量CPは,表示を安定させるために,液晶容量CLと並行に付加された補助容量CSを有している。補助容量CSは,液晶容量CLやトランジスタTのリーク電流,トランジスタTのゲート・ソース間容量,絵素電極・信号線間容量等の寄生容量による絵素電位の変動,液晶容量CLの表示データ依存性等の影響を最小限に抑えるために必要となる。
【0124】
トランジスタTのゲートは,ゲートラインGL_(j)に接続されている。また,液晶容量C_(L)および補助容量CS の一方の電極は,トランジスタTのドレインおよびソースを介してソースラインSL_(j)に接続されている。ドレインに接続される液晶容量C_(L)の電極は,絵素電極37aを形成している。液晶容量C_(L)の他方の電極は,液晶セルを挟んで対向電極に接続され,補助容量C_(S)の他方の電極は,全絵素に共通の図示しない共通電極線(Cs on Common構造の場合),または隣接するゲートラインGL(Cs on Gate構造の場合)に接続されている。
・・・
【0128】
トランジスタTは,ゲートドライバ33からゲートラインGL_(j)を介して与えられるゲート信号によってONすると,ソースドライバ32からソースラインSL_(i+1)を介して与えられる画像信号を絵素37(絵素電極37a)に書き込む。また,トランジスタTは,前述の実施形態1ないし4における薄膜トランジスタ1,11,21(図1(a),図6(a),図9(a)参照)である。薄膜トランジスタ1,11,21は,前述のように,しきい値電圧Vthを実用上問題のない電圧に制御が可能であることから,上記のような液晶表示装置に適用する場合,適切なしきい値電圧が0?3V程度であるので,ドーピング量により,最適なしきい値電圧を設定することができる。したがって,この薄膜トランジスタ1,11,21を絵素37を駆動するトランジスタTに実用上問題なく用いることができる。
【0129】
また,ソースドライバ32およびゲートドライバ33を構成する回路素子のうち,トランジスタで構成される回路において,各トランジスタとして前述の薄膜トランジスタ1,11,21を,実用上問題なく用いることができる。
【0130】
また,絵素37のトランジスタTと駆動回路のトランジスタとを同じトランジスタ1,11,21で構成することによって,これらのトランジスタを同一の基板36上に同じプロセスを用いて同時に作製することが可能になる。それゆえ,マトリクス表示装置の製造工程が削減されるので,マトリクス表示装置の低コストかを図ることができる。
【0131】
以上のように,絵素37用のトランジスタTおよび駆動回路用のトランジスタとして薄膜トランジスタ1,11,21を用いても,しきい値が適正に制御されるので,動作の安定したマトリクス表示装置を提供することが可能になる。」

(2) 引用発明
上記(1)によれば,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「絵素アレイ31と,ソースドライバ32と,ゲートドライバ33と,制御回路34と,電源回路35とを備え,
絵素アレイ31は,ソースラインSLと,ゲートラインGLと,絵素37とを有しており,
各絵素37は,スイッチング素子であるトランジスタT(薄膜トランジスタ1)と,液晶容量CLを有する絵素容量CPとによって構成されており,
半導体装置としての薄膜トランジスタ1は,絶縁性基板2上に形成されたゲート電極3の上に,ゲート絶縁層4を介して半導体層5が積層されており,
活性層としての半導体層5は,I族,III族,IV族,V族またはVII族元素が添加されたZnOまたはMg_(x)Zn_(1-x)Oの多結晶状態,アモルファス状態または多結晶状態とアモルファス状態とが混在する状態である半導体を用いて形成されている,
アクティブマトリクス型の液晶表示装置。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2003-337353号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0020】図1は画素部の構造を説明する縦断面図であり,図2は上面図を示している。プラスチック基板101,201の間に有機半導体層106a,106bを使った有機TFTと,各有機TFTに接続する画素電極110a,110bと,それに対向する側の共通電極203とで挟まれ,帯電粒子を内蔵したマイクロカプセル301が配設されている。尚,図1に示す縦断面図は,図2で示すA-A'線に対応するものである。」

「【0052】図11は携帯電話装置と組み合わせて利用する一例を示している。携帯電話装置は,本体601,筐体602,表示部603,音声入力部604,音声出力部605,操作キー606,赤外線通信手段607,アンテナ608等を含んでいる。表示装置は筐体に入っていても良く,本体610,画像を表示する画素部611,ドライバIC612,受信装置613,フィルムバッテリー614などを含んでいる。ドライバICや受信装置などは半導体部品を用い実装する。この場合,情報処理機能は携帯電話装置を利用することで,表示装置の負荷は軽減される。一方,本発明の表示装置により大画面の表示媒体を自由に持ち運びすることができる。」

3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2004-103957号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0028】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する
実施例1
1. 単結晶InGaO_(3)(ZnO)_(5)薄膜の作製
YSZ (111)単結晶基板上にPLD法により厚み2nmのZnO薄膜を基板温度700℃でエピタキシャル成長させた。次に,基板温度を室温まで冷却し,該ZnOエピタキシャル薄膜上にPLD法により,厚み150nmの多結晶InGaO_(3)(ZnO)_(5)薄膜を堆積させた。こうして作製した二層膜を大気中に取り出し,電気炉を用いて,大気中,1400℃,30min加熱拡散処理した後,室温まで冷却した。
【0029】
XRD測定の結果,図1に示すように,加熱して得られた薄膜は単結晶InGaO_(3)(ZnO)_(5)であり,また,図2に示すように,AFM観察の結果,薄膜表面は原子レベルで平坦なテラスと,高さ2nmのステップからなる原子レベルで平坦な面であった。
単結晶InGaO_(3)(ZnO)_(5)薄膜の導電率を直流四端子法により測定しようと試みたが,膜の絶縁性が高いために測定できなかった。作製した単結晶InGaO_(3)(ZnO)_(5)薄膜は絶縁体であると言える。室温で測定した光吸収スペクトルからInGaO_(3)(ZnO)_(5)のバンドギャップは約3.3eVと見積もられた。」

4 引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4(特開平9-139506号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0009】
【発明の実施の形態】以下図面を参照して本発明の最良な実施形態を詳細に説明する。図1は本発明にかかる薄膜半導体装置製造方法の第1実施形態を示す工程図である。先ず(A)に示す様に,透明基板1の上に薄膜トランジスタの基本構造を形成する成膜工程を行なう。透明基板1は低融点で低コストのガラス(例えばホヤガラス製のNA-35)を用いる。薄膜トランジスタの基本構造はゲート絶縁膜2を間にして互いに反対側に重ねられた非晶質性の半導体薄膜3及び金属性のゲート電極4からなる。本例では透明基板1の表面にゲート電極4,ゲート絶縁膜2,半導体薄膜3を下から順に重ねてボトムゲート型薄膜トランジスタの基本構造を形成している。具体的には,先ず透明基板1の上にMo又はCrをスパッタリングで成膜し,所定の形状にパタニングしてゲート電極4としている。なお,ゲート電極4の材料は金属に限られるものではなく,シリサイドやポリサイドを用いても良い。シリサイドは金属とシリコンの共晶合金であり,ポリサイドは多結晶シリコンの表面にシリサイドを形成した積層構造である。重要な事は,ゲート電極4が金属性であり熱線を効率良く吸収可能である事である。なお,ゲート電極4の厚みは例えば200nm程度である。次に,CVD法でSiO_(2) を例えば80nmの厚みで堆積しゲート絶縁膜2にしている。さらに,LPCVD法で非晶質シリコンを40nmの厚みで堆積し,半導体薄膜3としている。
【0010】次に(B)に示す様に加熱工程を行ない,ゲート電極4側から熱線5を照射して金属性のゲート電極4に吸収させ,ゲート絶縁膜2を介してゲート電極4に対向する半導体薄膜3の領域を補助加熱する。具体的にはゲート電極4側となる透明基板1の裏面から熱線5を照射する。例えば熱線の一種である赤外光を大量に放射するハロゲンランプを用いて加熱工程を行ない,半導体薄膜3の温度が約400℃になる様にランプ出力を調節する。メタルゲート電極4が加熱され,熱伝導で間接的に半導体薄膜3の領域が400℃程度に速やかに昇温する。熱の伝導効率から考えるとゲート絶縁膜2の厚みは700nm以下が望ましい。
【0011】この加熱工程と同時に結晶化工程(結晶化アニール)を行なう。即ち,ゲート電極4側と反対の半導体薄膜3側からエネルギービーム6を照射して補助加熱された領域の半導体薄膜3を非晶質性から多結晶性に転換し薄膜トランジスタの活性層30とする。即ち,この結晶化工程は半導体薄膜3側となる透明基板1の表面からエネルギービーム6を照射する。この様にして得られた活性層30は平面的にみてゲート電極4とほぼ整合しており,ボトムゲート型薄膜トランジスタのチャネル領域となる。このチャネル領域外の部分では半導体薄膜3は十分に補助加熱されていない為非晶質から多結晶への転換は十分に行なわれてはいない。・・・」

5 引用文献5について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5(特開2003-86808号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0078】スタガ型の薄膜トランジスタ11においては,半導体層5(ZnO)が,下地絶縁膜12上に形成されている。この下地絶縁膜12は,前述の実施の形態2で第2絶縁膜4bの材料として用いた,ZnOと格子整合性のよい酸化物であるので,半導体層5と下地絶縁膜12とで形成される界面の特性が向上する。したがって,スタガ型の薄膜トランジスタ11においても,半導体層5の結晶性を向上させることができる。
【0079】また,下地絶縁膜12を設けることによって,絶縁性基板2の材料が,半導体層5との格子整合性が良好でない材料であっても,半導体層5の特性の劣化が防止される。したがって,基板材料を,半導体層5との格子整合性が良好な材料に限定する必要がない。」

第5 対比及び判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。

(1) 引用発明の「アクティブマトリクス型の液晶表示装置」は,「絵素アレイ31と,ソースドライバ32と,ゲートドライバ33と,制御回路34と,電源回路35とを備え,絵素アレイ31は,ソースラインSLと,ゲートラインGLと,絵素37とを有して」おり,「絵素アレイ」及び「絵素」は,「画素アレイ」及び「画素」ともいえるから,引用発明は,「画素部」を有しているということができる。

(2) 引用発明の各「絵素37」は,「薄膜トランジスタ1」を構成要素として含んでおり,「薄膜トランジスタ1」は,「ゲート電極3の上に,ゲート絶縁層4を介して半導体層5が積層されており」,「半導体層5」は,「ZnOまたはMg_(x)Zn_(1-x)Oの多結晶状態,アモルファス状態または多結晶状態とアモルファス状態とが混在する状態である半導体を用いて形成されている」から,引用発明の「アクティブマトリクス型の液晶表示装置」は,「酸化物半導体膜」を有し,「前記酸化物半導体膜はチャネル形成領域を有する」ということができる。

(3) 本願発明の「半導体装置」について,本願明細書の発明の詳細な説明をみると,「また,本発明において,半導体装置とは半導体素子(トランジスタやダイオードなど)を含む回路を有する装置をいい,半導体装置として,半導体素子で構成された集積回路,表示装置,無線タグ,ICタグ等が挙げられる。表示装置としては,代表的には液晶表示装置,・・・,電気泳動表示装置(電子ペーパー)等の表示装置があげられる。」(【0038】)と記載されているから,引用発明の「アクティブマトリクス型の液晶表示装置」も「半導体装置」ということができる。

そうすると,本願発明と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「画素部を有し,
前記画素部は,酸化物半導体膜を有し,前記酸化物半導体膜はチャネル形成領域を有する半導体装置。」

(相違点)
(相違点1)
本願発明では,「第1のフィルムと,第2のフィルムと,前記第1のフィルム及び前記第2のフィルムの間の,画素部と,バッテリーと,を有し,前記バッテリーは,フィルム形状を有し」ているのに対し,引用発明では,それらを有しているか不明である点。
(相違点2)
本願発明では,「前記酸化物半導体膜は,Inと,Gaと,Znと,を有」するのに対し,引用発明の「半導体層5」は,そのように特定されていない点。
(相違点3)
本願発明では,「前記酸化物半導体膜は,第1の領域と,前記第1の領域と重なる第2の領域とを有し,前記第1の領域の結晶性は,前記第2の領域の結晶性よりも高く,前記酸化物半導体膜のチャネル形成領域は,前記第1の領域及び前記第2の領域を有し,前記第1の領域は,結晶領域である」のに対し,引用発明では,「半導体層5」の結晶性は不明である点。

2 相違点についての判断
事案にかんがみて,(相違点3)について判断する。
「画素部」の「酸化物半導体膜」について,本願発明は,「第1の領域と,前記第1の領域と重なる第2の領域とを有し,前記第1の領域の結晶性は,前記第2の領域の結晶性よりも高く」構成されているところ,引用発明は,「I族,III族,IV族,V族またはVII族元素が添加されたZnOまたはMg_(x)Zn_(1-x)Oの多結晶状態,アモルファス状態または多結晶状態とアモルファス状態とが混在する状態である半導体を用いて形成されている」だけであり,引用文献1の記載をみても,「半導体層5」の領域を二つに分けて結晶性を異ならせることは記載も示唆もされておらず,引用文献2ないし5をみても何ら記載はなく,周知技術であるということもできないから,引用発明において,そのような変更を行う動機付けはない。
そして,本願発明は,相違点3に係る構成を有することにより,「酸化物半導体膜は局所的にしか加熱されないため,基板の大半は加熱されずに済み,基板のシュリンク(縮み)やたわみを抑制しつつ結晶化工程を行うことができる。したがって,工程を簡略化しつつ,移動度特性を向上させた半導体素子を有する半導体装置を作製することができる。」(本願明細書【0042】)という格別に有利な効果を奏するものと認められる。
そうすると,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明は,引用発明に基づいて,当業者であっても容易に想到し得るものではない。

3 まとめ
したがって,本願発明は,当業者であっても引用発明,引用文献1ないし5に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第6 原査定について
本件補正で補正された本願発明は,上記第5のとおり,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由を維持することはできない。

第7 当審拒絶理由について
当審では,平成29年2月6日付け手続補正書でした手続補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとの当審拒絶理由を通知したところ,本件補正において,本件補正前の請求項1及び2が削除されたことにより,上記当審拒絶理由は解消した。

第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-05-07 
出願番号 特願2016-12156(P2016-12156)
審決分類 P 1 8・ 55- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 竹口 泰裕  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 深沢 正志
梶尾 誠哉
発明の名称 半導体装置  

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