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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20185437 審決 特許
異議2017701044 審決 特許
不服20186287 審決 特許

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審決分類 審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 一部無効 2項進歩性  A61K
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 一部無効 1項3号刊行物記載  A61K
管理番号 1351132
審判番号 無効2017-800007  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-01-23 
確定日 2019-05-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第5705483号発明「IL-17産生の阻害」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5705483号の請求項1ないし10に係る発明についての出願(特願2010-210980号)は、平成15年10月29日(パリ条約による優先権主張 2002年10月30日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2004-550229号の一部を、平成22年 9月21日に新たな特許出願としたものであって、平成27年 3月 6日にその発明について特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、請求人は、平成29年 1月23日に、上記請求項1ないし10に係る発明の特許を無効にすることについて、本件特許無効審判を請求し、被請求人は、平成29年 5月26日に審判事件答弁書を提出した。そして、平成29年 9月 6日に行われた第1回口頭審理において、請求人は、平成29年 8月23日付け口頭審理陳述要領書に沿って第1回口頭審理調書に記載のとおりの陳述をし、被請求人は、平成29年 8月23日付け口頭審理陳述要領書に沿って第1回口頭審理調書に記載のとおりの陳述をした。さらに、請求人は、平成29年 9月12日付け上申書を提出した。

第2 本件特許発明
本件特許第5705483号の請求項1ないし10に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された次のとおりのものである(以下、請求項1ないし10に係る発明を、その請求項に付された番号順に「本件特許発明1」等という。また、これらをまとめて「本件特許発明」という。)。

「【請求項1】
T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するためのインビボ処理方法において使用するための、インターロイキン-23(IL-23)のアンタゴニストを含む組成物。
【請求項2】
前記阻害が、哺乳動物被験体中で実施される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記哺乳動物被験体が、ヒトである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記T細胞が、活性化T細胞である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記T細胞が、記憶細胞である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記アンタゴニストが、抗IL-23または抗IL-23レセプター抗体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記抗体が、抗体フラグメントである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記抗体フラグメントが、Fv、Fab、Fab’、およびF(ab’)_(2)フラグメントからなる群より選択される、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記抗体が、全長抗体である、請求項6に記載の組成物。
【請求項10】
前記抗体が、キメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体である、請求項6に記載の組成物。」

第3 請求人の主張及び証拠方法
請求人は、「特許第5705483号発明の特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、証拠方法として以下の書証を提出し、本件特許が無効とされるべき理由として、以下に要約される無効理由1?6を主張している。

1.無効理由1(明確性要件)
特許第5705483号(以下、「本件特許」という。)の請求項1の「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するためのインビボ処理方法において使用するための・・・組成物」との記載につき、当該組成物の用途が不明瞭である。
また、仮に当該組成物が医薬用途に係るものないし医薬用途を包含するものであったとしても、それにより治療されるべき具体的な疾患が不明瞭である。
したがって、本件特許の請求項1の記載は全体として不明瞭であり、また同項に従属する請求項2ないし10の記載も不明瞭である。
よって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に違背するものである(特許法第123条第1項第4号)。

2.無効理由2(サポート要件)
上記無効理由1のとおり、本件特許の請求項1ないし10の記載は、その用途につき不明瞭であるが、仮にそれらの請求項に記載された発明が医薬用途発明に係るものである場合、本件特許の発明の詳細な説明の欄には、「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ことにより何らかの疾患を治療し得ることは示されておらず、またそのことが本件特許の出願日前の技術常識ともいえない。
したがって、本件特許発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものということはできないから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に違背するものである(特許法第123条第1項第4号)。

3.無効理由3(実施可能要件)
上記無効理由2と同じ理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号の規定に違背するものである(特許法第123条第1項第4号)。

4.無効理由4(産業上利用可能性)
上記無効理由1のとおり、本件特許の請求項1ないし10の記載は、その用途につき不明瞭であるが、仮に本件特許発明1ないし10に係る組成物が医薬用途に係るものでない場合、当該組成物はどのようにして産業上利用可能であるのか不明であるから、本件特許発明1ないし10は、特許法第29条第1項柱書の規定に該当しない(特許法第123条第1項第2号)。

5.無効理由5(新規性)
(1)無効理由5-1
本件特許発明は、甲第1号証に記載されたものであるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものである(特許法第123条第1項第2号)。

(2)無効理由5-2
本件特許発明は、甲第3号証に記載されたものであるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものである(特許法第123条第1項第2号)。

(3)無効理由5-3
本件特許発明は、甲第5号証に記載されたものであるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものである(特許法第123条第1項第2号)。

6.無効理由6(進歩性)
上記無効理由5のとおり、本件特許発明は、甲第1、3及び5号証に記載されたものである。
しかるに、甲第1、3及び5号証には、「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するためのインビボ処理方法において使用するための」(本件特許発明1)との点は記載されていない。
しかしながら、仮にこの点を相違点と見たとしても、本件特許発明は、甲第1、3及び5号証に記載された発明のいずれかまたはそれらの組合せに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違背するものである(特許法第123条第1項第2号)。

7.証拠方法
甲第1号証:国際公開第01/18051号
甲第2号証:特表2003-510038号公報
甲第3号証:国際公開第01/085790号
甲第4号証:特表2003-532408号公報
甲第5号証:国際公開第00/56772号
甲第6号証:特表2002-542770号公報
甲第7号証:B.Oppmannら,Immunity,Vol.13,pp.715-725(2000)
甲第8号証:国際公開第99/05280号
甲第9号証:特表2001-511347号公報
甲第10号証:S.Aggarwalら,Journal of Leukocyte Biology,
Vol.71,pp.1-8(2002年1月)
甲第11号証:M.CHABAUDら,Arthritis Rheumatism,
Vol.42,No.5,pp.963-970(1999)
甲第12号証:E.Lubbertsら,Arthritis Rheumatism,
Vol.50,No.2,pp.650-659(2004)
甲第13号証:特許・実用新案審査ハンドブック(平成28年 9月
28日) 附属書B 第3章 医薬発明
(以上、審判請求書に添付。)

甲第14号証:Homeyら,J.Immunology,2000年,
Vol.164,No.12,p.6621-6632
甲第15号証:Nambuら,International Immunology,2006年,
Vol.18,No.5,p.701-712
甲第16号証:Bensonら,FASEB Journal,2002年3月,
Vol.16,No.5,p.A1045,演題759.12
(以上、平成29年 8月23日付け口頭審理陳述要領書に添付。)

以下、「甲第1号証」ないし「甲第16号証」をそれぞれ「甲1」ないし「甲16」ということがある。

第4 被請求人の主張及び証拠方法
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、上記請求人の主張する無効理由は、いずれも理由がないと主張し、証拠方法として以下の書証を提出している。

乙第1号証:Chabaud et al., Arthritis & Rheumatism, 42, 5,
May 1999, 963-970
乙第2号証:Chabaud et al., Arthritis Res. 2001, 3:168-177
乙第3号証: Hsieh et al., Transpl. Int., 14, 2001, 287-298
乙第4号証:Lock et al., Nature Medicine, 8, 5, May 2002, 500-508
乙第5号証:国際公開第2002/058717号
乙第6号証:特表2004-517918号公報
乙第7号証:特表平11-503309号公報
乙第8号証:Lubberts et al., J. Immunology, 167, 1004-1013, 2001
乙第9号証:Bush et al., Arthritis & Rheumatism, 46, 3,
March 2002, 802-805
乙第10号証:Tang et al., Transplantation, 72, 2, 348-350, 2001
乙第11号証:知的財産高等裁判所判決(知財高判)平成23年6月9日
(平成22年(行ケ)第10322号)
乙第12号証:Durrant et al., Mucosal Immunology (2010)
doi: 10.1038/mi, 1-11
乙第13号証:Murphy et al., J. Exp. Med., 198, 12 (December 15,
2003) 1951-1957
乙第14号証:Langrish et al., Immunological Reviews 2004, 202,
96-105
乙第15号証:Teng et al., Nature Medicine, 21, 7, July 2015,
719-729
(以上、審判事件答弁書に添付。)

以下、「乙第1号証」ないし「乙第15号証」をそれぞれ「乙1」ないし「乙15」ということがある。

第5 甲号証の記載事項
以下の甲号証には、それぞれ以下の事項が記載されている。

1.甲1
甲1は英語であるため、日本語訳文を記載する。

記載事項甲1-ア
「本発明は、部分的に、IL-B30(これはまた、本明細書中でIL-B30タンパク質といわれる)の生理学的役割、ならびに免疫応答における役割、の発見に基づく。特に、IL-B30の役割は、炎症、感染性疾患、造血の発達、およびウイルス感染に関係する経路において、説明されている。本発明は、特に、インターロイキン-B30(IL-B30)とのIL-12p40サブユニットの組み合わせを含む組成物およびそれらの生物学的活性に関する。これは、ポリペプチドまたは融合タンパク質の両方の核酸コードならびにそれらの産生および使用の方法を含む。本発明の核酸は、部分的に、本明細書中に開示される相補的DNA(cDNA)配列に対する相同性により、および/または機能的アッセイにより特徴付けられる。また、ポリペプチド、抗体、およびそれらの使用の方法(核酸発現方法を使用することを含む)も提供される。増殖因子依存性生理学または免疫応答の制御における調節または干渉の方法が、提供される。」
(第3頁第2?13行)

記載事項甲1-イ
「本発明は、IL-12のp40サブユニットがまた、天然形態におけるIL-B30サイトカイン(以前に、例えば、USSN08/900,905および09/122,443において記載される)ともまた関連する発見に、部分的に基づく。従って、2つのポリペプチドと一緒の同時発現が、機能的レセプター結合およびシグナリングを生じる。」
(第3頁第14?17行)

記載事項甲1-ウ
「記憶活性化細胞のp40/IL-B30刺激は、付着分子を含む表現型変化を生じる。p40/IL-B30での刺激後、CD69Lは高度に発現され、そして、CD54は劇的に減少する。付着分子の発現におけるこれらの変化は、第1および第2のリンパ節のT/DC細胞リッチ領域に侵入する記憶細胞の調節を可能にし得る(例えば、高い内皮細静脈(HEV)を介して)。記憶細胞はまた、IL-12刺激に対して感受性となるように初回刺激される。従って、迅速なおよび高度なIFN産生が、抗原によるIL-12産生後すぐ後に続く。従って、p40/IL-B30は、応答速度を増加することによって、記憶細胞数を増加することによって、または、両方によって、記憶細胞による免疫応答を促進し得る。p40/IL-B30は、未処理の細胞に対してより効果を与えないかまたは全く与えないかで、記憶細胞について特異的な差次的な効果を有し得る。逆に、多数の慢性炎症状態において(例えば、関節炎リウマチ、慢性腸疾患、乾癬など)活性病変は、記憶CD45Rblow細胞に依存している。このように、アンタゴニストは、このような炎症性状態の慢性局面を効果的に阻害し得る。」
(第32頁第17?29行)

記載事項甲1-エ
「抗体は、例えば、レセプターに対する結合を立体的にブロックすることによる、アゴニスト性またはアンタゴニスト性であり得る。」
(第22頁第8?9行)

記載事項甲1-オ
「さらに、抗体結合フラグメントを含む、本発明の抗体は、抗原に(例えば、生物学的応答を惹起し得るレセプターに)結合しそして機能的結合を阻害する強力なアンタゴニストであり得る。」
(第22頁第22?24行)

記載事項甲1-カ
「b)記載される結合化合物がFv、Fab、もしくはFab2フラグメントであるか;」
(第5頁第21?22行)

記載事項甲1-キ
「いくつかの場合では、種々の哺乳動物宿主(例えば、マウス、げっ歯類、霊長類、ヒトなど)由来のモノクローナル抗体を調製することが望ましい。」
(第23頁第1?2行)

記載事項甲1-ク
「本発明のポリペプチドおよび抗体は、キメラ抗体またはヒト化抗体を含む、修飾を伴ってまたは伴わないで、用いられ得る。」
(第23頁第13?14行)

記載事項甲1-ケ
「(V.p40/IL-B30に対して特異的な抗体の調製)
合成ペプチドまたは精製タンパク質は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を産生するために免疫系に提示される。例えば、Coligan(1991)Current Protocols in immunology Wiley/Greene;およびHarlowおよびLane(1989)Antibodies:A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Pressを参照のこと。免疫選択または除去方法は、得られた抗体が、個々の成分自体によって提示される抗体決定と異なる、ポリペプチドの複合体によって提示された抗原決定基に対して特異的であることを保証するように適用され得る。ポリクローナル血清、またはハイブリドーマが、調製され得る。適切な状況において、この結合剤は、上記(例えば、蛍光など)のように標識されるか、またはパニング法のために基質に固定されるかのいずれかである。免疫選択、免疫除去、および関連する技術は、例えば、2個のサブユニット間の複合体に対して所望される場合、選択薬剤を調製するために利用され得る。」
(第41頁第18?29行)

記載事項甲1-コ
「逆に、アンタゴニストは、このようなIFNγ増強を阻害するかまたは予防するために使用され得、それによって、細胞性増強の強さまたは強度を減少する。これらは、例えば、自己免疫状態(多発性硬化症もしくは乾癬など)または慢性的炎症状態(関節炎リウマチまたは炎症性腸疾患など)において有用である。例えば、Samterら(編)Immunological Diseases第1巻および第2巻、Little,Brownand Coを参照のこと。最初の結果は、p40/IL-B30の役割が、慢性炎症状態の維持においてより重要であることを示す。従って、状態の最初の発症後に、妨害物が有効であり得る。」
(第31頁第8?15行)

記載事項甲1-サ
「治療適用のための特定の標的としては、例えば、EAEモデル(これは、多発性硬化症のモデルに有用であり得る)における肺状態(喘息および線維症の両方)、糖尿病、および腸炎症が挙げられる。」
(第31頁第34?36行)

記載事項甲1-シ
「特定の実施形態は、動物が自己免疫;炎症状態;組織特異的自己免疫;変性自己免疫;慢性関節リウマチ;変形性関節症;アテローム硬化症;多発性硬化症;脈管炎;遅延型過敏症;皮膚移植;移植;脊髄損傷;発作;神経変性;感染疾患;虚血;癌;腫瘍;多発性骨髄腫;キャッスルマン病;閉経後の骨粗鬆症またはIL-6関連疾患の徴候または症状を経験している場合を含む。この投与は、抗炎症性サイトカインアゴニストまたはアンタゴニスト;鎮痛薬;抗炎症剤;またはステロイドと組み合わされ得る」
(第7頁第8?15行)

記載事項甲1-ス



(第9頁第14行?第10頁第6行)

記載事項甲1-セ
「(A.細胞増殖の効果)
種々の細胞型の増殖の効果を、種々の濃度のサイトカインを用いて評価する。投薬応答分析を、関連するサイトカインIL-6、G-CSFなどと組合せて実施する。サイトセンサーマシン(cytosensor machine)が使用され得、これにより細胞の代謝および増殖を検出する(Molecular Devices,Sunnyvale,CA)。
ヒトPHA芽細胞の増殖を増強したヒトp40/IL-B30融合タンパク質を、抗-CD3または抗-CD3と抗-CD28の両方を用いて刺激した。抗-CD3刺激は、必須であるようである。ヒトp40/IL-B30融合タンパク質はまた、活性化したTh1またはTh2細胞クローンの増殖を増強するが、活性化していないTh1またはTh2細胞クローンはそうではない。
マウスまたはヒト融合タンパク質のいずれも、マウス標的細胞上で作用した。融合タンパク質は、抗-CD3で刺激した場合に、CD4+CD45Rb^(low)CD62L^(low)CD44^(hi)細胞(記憶/活性化したT細胞)の増殖を支持した。融合タンパク質による刺激は、抗-CD28同時刺激によって増強されない。これは、IL-2の存在にほとんど依存しない。このことは、p40/IL-B30が、記憶表現型を有する細胞群を増殖させ、そして/または免疫性記憶を生成するかまたは維持するための重要な因子であり得ることを示唆する。このサイトカインは、Th1表現型(例えば、IFNγ(IL-4またはIL-5ではない)を産生する細胞)を含む活性化記憶細胞を選択的に支持するようである。

(B.ネイティブT細胞の分化に対する効果)
ヒト臍帯血細胞を収集し、そしてネイティブCD4+T細胞を単離した。これらを、抗CD3および抗IL-2の存在下で、そしてCD32、CD58、およびCD80を発現する照射した線維芽細胞とともに例えば、2週間培養し、それによってT細胞を活性化し、かつ増殖した。T細胞培養物を、増殖または分化に対する種々のサイトカインの効果について評価した。個々の細胞を、FACS分析によってサイトカイン産生について評価した。p40/IL-B30融合タンパク質は、IFNγを産生し、IL-4を産生しない(Th1細胞に特徴的なサイトカイン発現プロフィール)T細胞の増殖および分化を支持した。」
(第43頁第23行?第44頁第11行)

記載事項甲1-ソ
「(IL-B30トランスジェニックマウスの組織学的分析)
IL-B30トランスジェニックマウスから収集された組織の顕微鏡試験によって、複数部位(肺、皮膚、食道、小腸および肝臓(胆管)、大腸、および膵臓を含む)における最少から中程度の炎症が、明らかになった。炎症性浸潤は、好中球、リンパ球、および/またはマクロファージからなった。皮膚における炎症は、数匹のマウスにおいて、表皮肥厚および/または潰瘍と関連した。肺において、気管支周囲の単核細胞浸潤は、ときどき顕著であり、肺胞壁は、増化した数の白血球を含み、そして内皮の内層気道は、過形成であった。最小の門脈周囲の単核細胞浸潤がまた、肝臓において一般的であった。リンパ節の皮質は、しばしば、散在した細胞性かつ欠損した小胞性の発達であった。
骨髄外造血(EMH)が、肝臓、脾臓、およびリンパ節で観察された。EMHは、脾臓において特に顕著であった。3匹のトランスジェニックマウスおよび1匹のコントロールマウス由来の脾臓を、T細胞(抗-CD3)、B細胞(抗-B220)、およびマクロファージ(抗-F4/80)に関して免疫組織学的染色後試験した。トランスジェニックマウスにおいて、CD3陽性細胞、B220陽性細胞、およびF4/80陽性細胞が、これらの正常な位置に存在した。しかし、白色脾髄は、赤色脾髄中でEMHによって分離され、そして赤色脾髄内で陽性に染色される細胞は、低い強度で染色された造血細胞が散在するか、または種々の抗体を用いて陽性に染色されなかった。これらの観察は、IL-30のトランスジェニック発現がEMHと関連する全身性炎症を誘導することを示す。
末梢血中の白血球数および血小板数に対するIL-B30の効果を分析するために、完全な血液分析を実行した。IL-B30トランスジェニックマウスの血液中の好中球数は、コントロール同腹仔中の最も高い好中球数に対して3?11倍増加した。末梢血好中球における増加は、炎症に典型的であり、そして種々の組織で感察された好中球浸潤と相関する。従って、骨髄系(顆粒球)/赤血球系の割合は、骨髄において増加した。
さらに、循環している血小板の数は、コントロール同腹仔に対して、IL-B30トランスジェニックマウスにおいて3倍まで増加した。増加した数の血小板は、増加した数の巨核球、または巨核球による血小板の産生における増加のいずれかに由来し得た。いずれかの可能性を試験するために、IL-B30トランスジェニックマウス由来の末梢血、骨髄および脾臓を、顕微鏡分析した。末梢血において、血小板の奇異な形態(伸長しそして紡錘形態の血小板を含む)が、頻繁に検出された。数匹のマウスの骨髄および脾臓において、巨核球は、細胞質量の増加に起因して拡大していた。対照的に、骨髄および脾臓において、巨核球の数が増加しなかった。これは、IL-B30が、巨核球による血小板産生を加速することによって、血小板の数の増加を誘導することを示唆する。
試験された全てのIL-B30トランスジェニックマウスはまた、分裂赤血球および明らかな変化する程度の再生をともなって、温和から中程度の小球性低色素性貧血をうけた。ヘマトクリット値は、コントロール平均よりも30?70%低かった。小球性低色素性貧血の存在は、ヘモグロビン産生における欠損を示唆する。

(IL-B30トランスジェニックマウスのサイトカインプロフィール)
IL-B30トランスジェニックマウスに見出される全身性炎症がプロ炎症性サイトカインの変更された発現と関連するか否かを試験するために、本発明者らは、末梢血中のIL-1、TNFα、IL-6、およびIFNγの濃度を決定した。試験された全てのIL-B30トランスジェニックマウスにおいて、TNFαおよびIFNγのレベルが増加した。さらに、IL-1のレベルは、試験されたIL-B30トランスジェニックマウスの25%で増加した。IL-B30トランスジェニックマウス中で見出されたIL-1およびTNFαの濃度は、LPSによる急性炎症応答の誘導と関連したレベルに達した。驚くべきことに、IL-6の発現が炎症状態下で高度に誘導され(Reineckerら(1993)Clin.Exp.Immunology 94:174-181;Stevensら(1992)Dig.Dis.Sci.37:818-826)そしてTNFα、IL-1およびIFNγによって直接誘導され得る(Helleら(1988)Eur.J.Immunol.18:957-959)のにも関わらず、IL-6は、IL-B30トランスジェニックマウスの末梢血中に検出されなかった。」
(第48頁最下行?第50頁第12行)

記載事項甲1-タ
「IL-12p40/IL-B30サイトカイン複合体、アンタゴニスト、抗体などは、精製され得、次いで(獣医学のまたはヒトの)患者に投与され得る。」
(第33頁第3?4行)

記載事項甲1-チ
「本発明の治療は、他の薬剤(例えば、他のサイトカイン(IL-6またはG-CSFまたは他のそれぞれのアンタゴニストを含む)と併用されるか、あるいは関連して使用され得る。」
(第34頁第22?23行)

記載事項甲1-ツ
「1.以下を含む、組成物:
a)以下の両方:
i)IL-12 p40由来の少なくとも7連続するアミノ酸の複数の別個のセグメントを含む、実質的に純粋なポリペプチド;および
ii)IL-B30由来の少なくとも7連続するアミノ酸の複数の別個のセグメントを含む、実質的に純粋なポリペプチド;
b)以下の両方:
i)IL-12 p40由来の少なくとも11連続するアミノ酸を含む、実質的に純粋なポリペプチド;および
ii)IL-B30由来の少なくとも11連続するアミノ酸を含む、実質的に純粋なポリペプチド;
c)以下の両方を含む実質的に純粋なポリペプチド:
i)IL-12 p40の少なくとも7連続するアミノ酸の複数の別個のセグメント;および
ii)IL-B30の少なくとも7連続するアミノ酸の複数の別個のセグメント;または
d)以下の両方を含む実質的に純粋なポリペプチド:
i)IL-12 p40の少なくとも11連続するアミノ酸のセグメント;および
ii)IL-B30の少なくとも11連続するアミノ酸のセグメント。

2.請求項1に記載の組成物であって、・・・
e)水、生理食塩水、および/または緩衝液を含む水性化合物より選択されるキャリアをさらに含むか;
f)経口投与、直腸投与、経鼻投与、局所投与、または非経口投与で処方されるか;あるいは
g)滅菌した組成物である、
組成物。」
(第55頁 請求項1及び2)

2.甲3
甲3は英語であるため、日本語訳文を記載する。

記載事項甲3-ア
「さらに、本発明は、レセプターサブユニットDCRS5およびIL-12Rβ1とのp40/IL-B30リガンドの適合を提供し、この対形成は、アゴニストおよびアンタゴニストに対する試薬に基づいた、アゴニストおよびアンタゴニストの使用のための指標の洞察を提供する。」
(第3頁第2?4行)

記載事項甲3-イ
「本発明は、顕著な治療的価値を有する試薬を提供する。例えば、Levitzki(1996)Curr.Opin.Cell Biol.8:239-244を参照のこと。サイトカインレセプター(天然に存在するかまたは組換え体)、そのフラグメント、ムテインレセプターおよび抗体は、このレセプターまたは抗体に対する結合親和性を有すると同定された化合物とともに、このレセプターまたはそれらのリガンドの異常な発現を示す状態の処置において有用であるはずである。このような異常は代表的に、免疫学的障害によって症状が発現する。本明細書中に参考として援用される、WO01/18051を参照のこと。さらに、本発明は、このリガンドに対する応答の異常な発現または異常な誘発に関連した種々の疾患または障害において治療的価値を提供するはずである。例えば、p40/IL-B30リガンドは、細胞媒介性免疫(例えば、抗腫瘍活性)の発達、体液性免疫および細胞性免疫の上昇、ならびに抗ウイルス効果に関与することが示唆されている。特に、このリガンドは、NK細胞およびT細胞を活性化するようである。治療は、IL-18、IL-12、TNF、IFNγ、放射線治療/化学療法、アジュバントまたは抗腫瘍化合物、抗ウイルス化合物もしくは抗真菌化合物と組み合わされ得る。」
(第39頁第30行?第40頁第6行)

記載事項甲3-ウ
「治療的には、記載されるp40/IL-B30活性に基づいて、このサイトカインのアンタゴニストが、例えば、可溶性IL-12Rβ1を伴うかもしくは伴わない可溶性DCRS5またはいずれかのレセプターサブユニットに対する抗体によってもたらされ得る。アンタゴニストは、望ましくない免疫応答もしくは炎症応答のインヒビターとして、記憶T細胞を標的とするために、またはIL-12/IL-12Rアンタゴニスト、または他の抗炎症剤もしくは免疫抑制剤との組合せにおいて有用であり得る。臨床的指標は、慢性の炎症または移植状態であり得る。種々の多型は、レセプターの機能を増強または減少させ得、そして有性の場合、治療剤として有用であり得る。このような改変体の同定は、応答性または非応答性の患者のプールのサブセット化を可能にし得る。試薬は、検出試薬もしくは標識試薬または記憶T細胞および/もしくはNK細胞についての除去試薬として有用であり得る。」(第40頁第15?24行)

記載事項甲3-エ
「逆に、TNF、IFNγ、IL-18もしくはIL-12のアンタゴニストと、またはIL-10もしくはステロイドと組み合わされ得るアンタゴニストは、慢性Th1媒介性疾患、自己免疫または移植および/もしくは拒絶状態、多発性硬化症、乾癬、慢性炎症状態、慢性関節リウマチ、変形性関節症あるいは炎症性腸疾患において示され得る。アンタゴニストは、このレセプターサブユニットに対する抗体、可溶性レセプター構築物、またはこのレセプターサブユニットのうちの1以上に対するアンチセンス核酸の形態をとり得る。p40/IL-B30リガンドとレセプターサブユニットDCRS5およびIL-12Rβ1との適合は、このアゴニストおよびアンタゴニストの使用のための指標についての洞察を提供する。」
(第40頁第7?14行)

記載事項甲3-オ
「本発明の抗体(抗原結合フラグメントを含む)は、顕著な診断価値または治療価値を有し得る。これらは、このレセプターに結合し、かつリガンドに対する結合を阻害するかもしくはこのレセプターが生物学的応答を誘発する(例えば、その基質に作用する)能力を阻害する、強力なアンタゴニストであり得る。」
(第32頁第28?31行)

記載事項甲3-カ
「いくつかの例では、モノクローナル抗体を種々の哺乳動物宿主(例えば、マウス、齧歯類、霊長類、ヒトなど)から調製することが望ましい。」
(第33頁第18?19行)

記載事項甲3-キ
「他の適切な技術は、抗原性ポリペプチドに対する、あるいはファージまたは類似のベクター中の抗体のライブラリーの選択に対する、リンパ球のインビトロ暴露を含む。Huseら(1989)「Generation of a Large Combinatorial Library of the Immunoglobulin Repertoirein Phage Lambda」,Science 246:1275-1281;およびWardら(1989)Nature 341:544-546(これらの各々は、これにより、本明細書中に参考として援用される)を参照のこと。本発明のポリペプチドおよび抗体(キメラ抗体またはヒト化抗体を含む)は、改変して、または改変せずに、使用され得る。」
(第33頁第34行?第34頁第4行)

記載事項甲3-ク
「(VII.DCRS5について特異的な抗体の調製)
近交系Balb/cマウスは、組換え形態のタンパク質(例えば、精製したDCRS5)または安定なトランスフェクトNIH-3T3細胞で腹腔内免疫される。動物は、さらなるアジュバントを含むかまたは含まないタンパク質を適切な時点で追加免疫されて、抗体産生がさらに刺激される。血清は収集されるか、または収集された脾臓を用いてハイブリドーマが産生される。
あるいは、Balb/cマウスは、内因性細胞または外因性細胞のいずれかである、この遺伝子もしくはそのフラグメントで形質転換した細胞で免疫されるか、またはこの抗原の発現について富化された単離された膜で免疫される。血清が適切な時点で、代表的には多数のさらなる投与後に収集される。種々の遺伝子治療技術は、例えば、免疫応答を生じるためのタンパク質をインサイチュで産生する際に有用であり得る。血清または抗体の調製物は、交叉吸収または免疫選択されて、規定の特異性および高親和性の実質的に純粋な抗体が調製され得る。
モノクローナル抗体が作製され得る。例えば、脾細胞は、適切な融合パートナーと融合され、そしてハイブリドーマは、標準的な手順によって増殖培地中で選択される。ハイブリドーマ上清は、DCRS5に結合する抗体の存在について、例えば、ELISAまたは他のアッセイによってスクリーニングされる。特異的DCRS5実施形態を特異的に認識する抗体もまた選択または調製され得る。
別の方法では、合成ペプチドまたは精製タンパク質は、免疫系に対して提示されて、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体が作製される。例えば、Coligan編(1991)Current Protocols in Immunology Wiley/Greene;ならびにHarlowおよびLane(1989)Antibodies:A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Pressを参照のこと。適切な状況では、結合試薬は、(例えば、蛍光もしくは他のもので)上記の通りに標識されるかまたはパニング方法のために基材に固定されるかのいずれかである。核酸もまた、動物内の細胞中に導入されて抗原を産生し得、この抗原は、免疫応答を惹起するのに役立つ。例えば、Wangら(1993)Proc.Nat’l.Acad.Sci.90:4156-4160;Barryら(1994)BioTechniques 16:616-619;およびXiangら(1995)Immunity 2:129-135を参照のこと。」
(第49頁第31行?第50頁第21行)

記載事項甲3-ケ
「効果的な治療のために必要な試薬の量は、多くの異なる要因(投与手段、標的部位、試薬の生理学的寿命、薬理学的寿命、患者の生理学的状態、および投与される他の医薬(medicant)を含む)に依存する。従って、処置投薬量は、力価測定されて、安全性および効力が最適化されるべきである。代表的に、インビトロで使用される投薬量は、これらの試薬のインサイチュでの投与のために有用な量における有用なガイダンスを提供し得る。特定の障害の処置についての有効用量の動物試験は、ヒトでの投薬量のさらなる予測指標を提供する。」
(第41頁第20?26行)

記載事項甲3-コ
「治療的使用としては、細胞の生理機能または発達を調節する方法であって、この細胞を、以下と接触させる工程を包含する方法が挙げられる:霊長類DCRS5の細胞外部分および/または霊長類IL-12Rβ1の細胞外部分を含む複合体である、p40/IL-B30のアンタゴニスト;霊長類DCRS5および/または霊長類IL-12Rβ1を含む複合体を結合する抗体である、p40/IL-B30のアンタゴニスト;DCRS5に結合する抗体である、p40/IL-B30のアンタゴニスト;IL-12Rβ1に対する抗体である、p40/IL-B30のアンタゴニスト;DCRS5もしくはIL-12Rβ1に対するアンチセンス核酸である、p40/IL-B30のアンタゴニスト;または霊長類DCRS5および/もしくは霊長類IL-12Rβ1を含む複合体を結合する抗体である、p40/IL-B30のアゴニスト。1つの型の方法では、この接触させる工程は、アンタゴニストとであり、そして、この接触させる工程は、IL-12、IL-18、TNFまたはIFNγに対するアンタゴニストとの組合せにおいてである;あるいはこの細胞は、慢性TH1媒介性疾患の徴候もしくは症状を示す;多発性硬化症、慢性関節リウマチ、変形性関節症、炎症性腸疾患、糖尿病、乾癬もしくは敗血症の症状もしくは徴候を示す;または同種異系移植を受けている宿主由来である。」
(第6頁第7?12行)

記載事項甲3-サ
「サイトカインレセプター、そのフラグメント、ならびに抗体またはそのフラグメント、アンタゴニストおよびアゴニストは、処置されるべき宿主に直接投与され得るか、または、その化合物の大きさに依存して、それらの投与前にそれらをキャリアタンパク質(例えば、オボアルブミンまたは血清アルブミン)に結合体化することが所望され得る。治療処方物は、多くの従来の投薬処方物において投与され得る。活性成分を単独で投与することは可能であるが、活性成分を薬学的処方物として提示することが好ましい。処方物は、上記に規定されるような、少なくとも1つの活性成分を、その1以上の受容可能なキャリアと一緒に含む。各キャリアは、他の成分と適合性であり、かつ患者に対して有害でないという意味で薬学的かつ生理学的の両方で受容可能でなければならない。処方物としては、経口投与、直腸投与、鼻腔内投与または非経口投与(皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与および皮内投与を含む)に適切な処方物が挙げられる。処方物は、単位投薬量形態で便利に提示され得、そして製薬分野で周知の方法によって調製され得る。例えば、Gilmanら編(1990)Goodman and Gilman’s:The Pharmacological Bases of Therapeutics,第8版,Pergamon Press;およびRemington’s Pharmaceutical Sciences,第17版(1990),Mack Publishing Co.,Easton,Penn.;Avisら編(1993)Pharmaceutical Dosage Forms:Parenteral Medications Dekker,NY;Liebermanら編(1990)Pharmaceutical Dosage Forms:Tablets Dekker,NY;およびLiebermanら編(1990)Pharmaceutical Dosage Forms:Disperse Systems Dekker,NYを参照のこと。本発明の治療は、他の治療剤(特に、他のサイトカインレセプターファミリーのメンバーのアゴニストまたはアンタゴニスト)と組み合わされ得るかまたはそれとともに使用され得る。」
(第42頁第6?25行)

3.甲5
甲5は英語であるため、日本語訳文を記載する。

記載事項甲5-ア
「J695はまた、マウスp35サブユニットをヒトIL-12p40サブユニットと結合した分子である、キメラIL-12で処置したマウスにおいてIFN-γの産生を予防する上でも有効であった。マウスでは生物学的に不活性なヒトIL-12と異なって、このキメラIL-12はIFN-γの誘導を含めてマウスにおいて生物学的機能を保持する。さらに、ヒトp40サブユニットは、この分子がJ695によって結合され、中和されることを可能にする。」
(第154頁第20行?第155頁第3行)

記載事項甲5-イ
「J695投与の1週間後、被験者は、病巣の平坦化と板状鱗屑の減少を含めた皮膚状態の改善を報告した。J695の2回目の投与(5mg/kgIV)後まもなく、局所治療を全く行わずに、被験者の皮膚から乾癬病巣が完全に消失した。抗体の2回目の投与後、予想されたJ695のクリアランスに付随して、白色鱗屑でおおわれた紅斑性プラークが再発現した。」
(第165頁第18?23行)

記載事項甲5-ウ
「I.新規IL-12分子への結合
p35サブユニットが新規p19分子で置換された代替的なIL-12ヘテロダイマーが記述されている。p19は、IL-6/IL-12ファミリーメンバーに関する3D相同性検索を用いて同定されたもので、活性化樹状細胞によって合成される。p19はp40に結合して、IL-12様活性を持つp19/p40ダイマーを形成するが、IFNγ誘導におけるp35/p40ヘテロダイマーほど強力ではない。p40だけを認識する抗体であるが、好ましくはp70分子(例えばJ695及びY61、実施例3H参照)に関連して、p35/p40分子とp19/p40分子の両方を中和することも予想される。」
(第151頁第22?29行)

記載事項甲5-エ
「当業者は、選択的変異誘発法が、当分野で知られている標準的な抗体操作技術において使用できることを認識している。例として、CDRグラフト化抗体、キメラ抗体、scFVフラグメント、全長抗体のFabフラグメント、および他の供給源(例えば、トランスジェニックマウス)に由来するヒト抗体が挙げられるが、これらに限定されない。」
(第73頁第15?19行)

記載事項甲5-オ



(第163頁 表12)

記載事項甲5-カ
「94.ヒトIL-12活性を阻害するようにヒトIL-12と請求項44に記載の抗体とを接触させる工程を包含する、ヒトIL-12活性の阻害法。

95.ヒト対象におけるヒトIL-12活性が阻害されるようにヒト対象に請求項44に記載の抗体を投与する工程を包含する、IL-12活性が有害な障害を有するヒト被験体におけるヒトIL-12活性の阻害法。

96.前記障害が、慢性関節リウマチ、変形性関節炎、若年型慢性関節炎、ライム関節炎、乾癬性関節炎、反応性関節炎、脊椎関節症、強直性脊椎炎、全身性紅斑性狼瘡、クローン病、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患、多発性硬化症、インスリン依存性糖尿病、甲状腺炎、喘息、アレルギー性疾患、乾癬、皮膚炎、強皮症、甲状腺炎、移植片対宿主疾患、臓器移植拒絶、臓器移植に関連する急性もしくは慢性免疫疾患、サルコイドーシス、アテローム性動脈硬化症、血管内凝固症候群、川崎病、グレーブス病、ネフローゼ症候群、慢性疲労症候群、結節性多発性動脈炎、ヴェグナー肉芽腫症、ヘーノホ-シェーンライン紫斑病、腎臓の微視的脈管炎、慢性滑動性肝炎、シェーグレン症候群、ブドウ膜炎、敗血症、敗血症性ショック、敗血症症候群、成人呼吸窮迫症候群、悪液質、感染症、寄生虫症、後天性免疫不全症候群、急性横断性脊髄炎、重症筋無力症、ハンチントン舞踏病、パーキンソン病、アルツハイマー病、脳卒中、原発性胆汁性肝硬変、線維性肺疾患、溶血性貧血、悪性腫瘍、心不全、および心筋梗塞からなる群から選択される、請求項95に記載の方法。」
(請求項94?96)

記載事項甲5-キ
「インターロイキン12は、様々な免疫因子および炎症性因子を含む様々な疾患に伴う病理学において重要な役割を果たしている。このような疾患を下記に挙げるが、それらに限定されない:慢性関節リウマチ、・・・痛風、・・・、急性リウマチ熱、・・・および白斑」
(第108頁第11行?第109頁最下行)

記載事項甲5-ク
「マウスIL-12の活性及び細胞表面レセプタへの結合を中和する上でのC17.15の観察された活性、ならびにマウスIL-12へのC17.15の結合の動態は、J695-rhIL-12相互作用についての同様の測定と相関する。これは、オン速度、オフ速度、Kd、IC50及びPHA芽細胞アッセイに基づくと、ラット抗マウスIL-12抗体C17.15と抗ヒトIL-12抗体J695の作用機序がほとんど同じであることを示唆している。それ故、炎症と自己免疫疾患のマウスモデルにおいて、これらのモデル動物における疾患の初発と進行へのIL-12の遮断作用を検討するために、C17.15をJ696の相同抗体として使用した(実施例8参照)。」
(第161頁第14?22行)

記載事項甲5-ケ
「図4に示す結果は、関節炎スコアがC17.15処置マウスでは処置後50日目から初めて測定可能になったこと、そしてC17.15処置マウスで得られたピーク平均関節炎スコアはIgG処置マウスで測定されたものよりも少なくとも5倍低かったことを示している。これは、ラット抗マウスIL-12抗体C17.15がマウスにおいて膠原誘発関節炎の発現を予防したことを明らかにしている。」
(第162頁第10?14行)

記載事項甲5-コ
「C17.15モノクローナル抗IL-12を、総量0.1mg/マウス又は0.05mg/マウスを1日の間隔をおいて2回の分割用量で投与すると、結腸の消耗と肉眼的外観によって評価したとき、大腸炎の完全な逆転を導いた。さらに、この投与スケジュールは、固有層T細胞のIFN-γ産生及びマクロファージのIL-12産生の有意の下方調節を導き、後者はTNBS-大腸炎のない対照エタノール処置マウスで見られたレベルと同等であった。従って、TNBS大腸炎に関するマウスモデルへのC17.15の投与は用量依存的に疾患の進行を逆転した。」
(第163頁第19行?第164頁第3行)

記載事項甲5-サ
「α-IL-12抗体は、自己抗原であるミエリン塩基性タンパク(Banerjee,S.ら(1998)Arthritis Rheum.(1998)41:S33)で免疫したマウスにおいて急性EAE の発症を阻害し、発症後の疾患を抑制し、再発の重症度を低下させうることが認められた。
マウスにおけるα-IL-抗体処置の有益な作用は、治療停止後2ヵ月以上持続した。また抗IL-12抗体が、養子免疫伝達による脳炎誘発性T細胞のレシピエントであるマウスにおいて疾患を抑制することも明らかにされた(Leonard,J.P.ら(1995)J.Exp.Med.181:281-386)。」
(第164頁第24行?最下行)

記載事項甲5-シ
「VI.薬学的組成物および薬学的投与
本発明の抗体および抗体の一部は、患者への投与に好適な薬学的組成物に配合することができる。典型的には、薬学的組成物は、本発明の抗体または抗体の一部と、薬学的に許容可能なキャリアとを含む。本明細書中で使用されている「薬学的に許容可能なキャリア」には、生理学的に適合し得る任意のすべての溶媒、分散媒体、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などが含まれる。薬学的に許容可能なキャリアの例には、水、生理食塩水、リン酸塩緩衝化生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなどの1つまたは2つ以上、ならびにそれらの組合せが含まれる。多くの場合、等張剤、例えば、糖類、マンニトールなどのポリアルコール、ソルビトールまたは塩化ナトリウムを組成物に含めることは好ましい。薬学的に許容可能なキャリアはさらに、抗体または抗体の一部の保存寿命または有効性を高める、湿潤化剤または乳化剤、保存剤または緩衝剤などの補助物質を微量含むことができる。」
(第105頁第1?16行)

記載事項甲5-ス
「機能的には、IL-12は、抗原特異的Tヘルパー型(Th1)と2型(Th2)リンパ球との間の平衡調節における中心的役割を果たす。Th1およびTh2細胞は、自己免疫疾患の発症および進行を支配し、IL-12はTh1-リンパ球分化および成熟の制御に重要である。Th1細胞によって放出されたサイトカインは炎症性であり、これにはインタフェロンγ(IFNγ)、IL-2、およびリンホトキシン(LT)が含まれる。Th2細胞は、ヒトの炎症、アレルギー反応、および免疫抑制を促進するIL-4、IL-5、IL-6、IL-10、およびIL-13を分泌する。
自己免疫疾患およびIFNγの炎症促進活動におけるTh1応答と一致して、IL-12は、慢性関節リウマチ(RA)、多発性硬化症(MS)、およびクローン病などの多数の自己免疫疾患および炎症疾患に関連する病理の主要な役割を果たし得る。」
(第1頁第24行?第2頁第4行)

4.甲7
甲7は英語であるため、日本語訳文を記載する。

記載事項甲7-ア
「電子計算機的検索で発見された新規配列はIL-12のp35サブユニットとは遠縁のようである。この因子は(我々はp19と呼ぶ。)、それ自体ではいかなる生物活性も示さないが、IL-12のp40サブユニットと結合して、新規で生物学的に活性な複合(composite)サイトカインを形成し、我々はこれをIL-23と呼ぶ。」
(第715頁左欄 要約 第1?6行目)

記載事項甲7-イ


図1.長鎖αヘリックスサイトカインファミリーの選択成員についてのアミノ酸配列のアラインメント
(A)すべてのサイトカインについての配列を成熟ペプチドとして示す(ヒトp35、GenBankアクセッション番号B38957;マウスp35、NP_032377;ヒトIL-6、P05231;マウスIL-6、P08505;ヒトG-CSF、NP_000750;およびマウスG-CSF、NP_034101)。アラインメントは、IL-6(PDB登録コード1il6)およびG-CSF(PDB登録コード1rhg)のオーバーラップする構造に基づく。hIL-6およびhG-CSFのαヘリックスをそれらの二次構造に従って箱で囲んでいる。p19およびp35に関して予測される4つのヘリックスをA、B、CおよびDと表示する。IL-6およびG-CSF内の2つのジスルフィド結合に1および2の番号を付している。黒い三角は、ヒトおよびマウスp35における25の付加的なアミノ酸の位置を示し、アラインメントには示していないが、おそらくヘリックスバンドルに組み込まれている。アミノ酸の彩色スキームは化学的に類似の残基を表す:緑色(疎水性)、赤色(酸性)、青色(塩基性)、黄色(C)、橙色(芳香族)、黒色(構造破壊)および灰色(低分子)。
(B)様々なIL-6様サブグループを捕獲する枝分かれパターンを示す、選択したサイトカインの進化系統樹。この樹はレプチンを根とする。」
(第716頁 図1)

5.甲8
甲8は英語であるため、日本語訳文を記載する。

記載事項甲8-ア
「本発明は、哺乳動物(例えば、げっ歯類、イヌ類、ネコ類、霊長類)、インターロイキン-B30(IL-B30)およびその生物学的活性に関する。本発明は、それら自身のポリペプチドをコードする核酸およびそれらの産生および使用のための方法を含む。」
(第3頁第30?32行)

記載事項甲8-イ
「【表1】
霊長類(例えば、ヒト)に由来するIL-B30をコードする核酸(配列番号1)。翻訳されたアミノ酸配列は、配列番号2である。


(第8?9頁 表1)

6.甲15
甲15は英語であるため、日本語訳文を記載する。

記載事項甲15
「IFN-γはTh1サイトカインであり、DTH応答の発現に決定的に関与する。CD4+T細胞によるIFN-γ産生は、mBSAでの免疫後にIL-1α^(-/-)マウスおよびIL-1β^(-/-)マウスの両方で低減し、IL-1がT細胞を活性化することによってまたは、IL-1αの場合は、転写因子としてIFN-γ遺伝子転写を直接刺激することによってIFN-γの産生を誘導することを示唆した。・・・これに関して、マウスを抗原単独で免疫した場合、IFN-γ^(-/-)マウスではDTH反応が抑制されることが報告された。」
(第709頁右欄第5?20行)

第6 乙号証の記載事項
以下の乙号証には、それぞれ以下の事項が記載されている。

1.乙1
乙1は英語であるため、日本語訳文を記載する。

記載事項乙1-ア
「表1.慢性関節リウマチ(RA)、変形性関節症(OA)、及び健常者(N)の滑液サンプル上清における生物活性インターロイキン17(IL-17)レベル
--------------------------------
IL-17,単位/ml
--------------------------------
RA-1 16.8
RA-2 6.2
RA-3 49.4
RA-4 0
RA-5 6.8
RA-6 0
RA-7 186.5
RA-8 11.6
RA-9 45.3
RA-10 15.5
RA-11 75.6
RA-12 23.4
RA-13 21.8
RA-14 27.1
RA-15 22.3
RA-16 27.8
RA-17 42.7
RA-18 7.8
OA-1 10.4
OA-2 0
OA-3 0
OA-4 0
OA-5 0
OA-6 0
OA-7 0
OA-8 0
OA-9 53.1
OA-10 0
OA-11 0
OA-12 0
N-1 0
N-2 0
N-3 0
--------------------------------

RA、OA、及び健常者の滑膜片を培地で7日間単独で培養した。サイトカイン(IL-1又はIL-17)又は滑膜上清を1μg/mlの抗IL-17抗体(モノクローナル抗体5)の存在下又は非存在下でプレインキュベートした。当該混合物は滑膜細胞と共に12時間インキュベートされた。新たな培地を添加する前にプレートを洗浄した。IL-6レベルは48時間上清中の酵素結合免疫吸着法によって決定された。生物活性IL-17の1単位は、抗IL-17抗体の非存在下におけるIL-6産生量から、抗IL-17抗体の存在下におけるIL-6産生量を除したものと定義し、単位はng/mlで表す。」
(第966頁 表1)

記載事項乙1-イ
「滑膜サンプル及び滑膜細胞の培養
American College of Rheumatology(前身はAmerican Rheumatoid Assosiation)による改訂基準により診断された21名のRA患者であって、膝又は肘の滑膜切除術又は関節置換術を受けた患者から、滑膜サンプルを得た。」
(第964頁左欄第28?33行)

記載事項乙1-ウ
「したがって、滑膜によって産生されるIL-17の平均レベルは、滑膜上清中で41.7±11.4単位(範囲0?186.5)であり、12のうち2つだけが陽性と認められたOA上清中のほうがはるかに低かった(平均5.3±4.5単位、0?53.1の範囲);正常滑膜サンプルのいずれもがIL-17の発現を示さなかった(表1)。」
(第966頁左欄第11行?第966頁右欄第3行)

第7 当審の判断
1.無効理由1について
請求人は、請求項1における「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するためのインビボ処理方法において使用するための・・・組成物」なる記載に関し、当該組成物が、IL-17の産生を阻害することにより、いかなる用途に用いられるものであるかについて、同請求項の記載から明らかでないと主張する。
しかしながら、本件特許発明1における「インビボ処理方法において使用するための・・・組成物」の用途が、「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」こと自体であることは、請求項1の記載から明らかであり、さらに、IL-17がT細胞により産生されるサイトカインの一つであることは当該技術分野における技術常識であるところ(本件特許の願書に添付された明細書(以下「本件特許明細書」という。)の段落【0002】)、その産生を阻害するという本件特許発明1の用途が当業者にとって不明確であるとは認められないから、請求人による上記主張は採用できない。
してみれば、本件請求項1における上記記載は不明瞭ではなく、同請求項は、特許を受けようとする発明が明確なものであり、また、同請求項に従属する請求項2ないし10の記載についても同様のことがいえるから、これらの請求項も、特許を受けようとする発明が明確なものである。
よって、請求人の主張する無効理由1には、理由がない。

2.無効理由2(サポート要件)について
本件特許発明1ないし10は、抗IL-23抗体又は抗IL-23レセプター抗体(以下、抗IL-23抗体又は抗IL-23レセプター抗体を、まとめて「抗IL-23抗体等」ということがある。)といったIL-23アンタゴニストを含む、インビボ処理方法において使用するための組成物に係るものであり、その発明の課題は、1.において検討したとおり、T細胞によるIL-17の産生を阻害することである。
ここで、特許法第36条第6項第1号は、請求項に係る発明が発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであってはならない旨を規定するものであるところ、当該規定を満たすためには、発明の詳細な説明の記載及び本件特許出願時の技術常識から、本件特許発明1ないし10の上記課題を解決できるものと当業者が認識できる必要がある。
そして、T細胞によるIL-17の産生を阻害することに関し、本件特許明細書には、以下の事項が記載されている。

「【0012】
「アンタゴニスト」はこの明細書では最も広い意味で使用されている。IL-23「アンタゴニスト」は分子であり、作用の基となるメカニズムを問わず、部分的にあるいは完全にIL-23の生物学的活性を遮断あるいは抑制、中和、防御、干渉するものである。本発明の目的のため、生物学的活性とは望ましくは活性化T細胞においてIL-17産生を誘導する活性である。例えばIL-23アンタゴニストは、活性化T細胞(例えば記憶T細胞)集団において、IL-23を介するIL-17産生を抑制あるいは遮断、転換する活性に基づいて同定される。例えば、培養活性化T細胞にIL-23を加えて試験化合物の有る無しで培養し、細胞培養物上清のIL-17濃度を、例えばELISAによって、追跡測定することができる。試験化合物が無い場合よりも有る場合の方がIL-17濃度が低ければ、その試験化合物はIL-23アンタゴニストである。他の方法として、試験化合物による処理前後にリアルタイムRT-PCRを用いて組織中のIL-17mRNAの発現並びにIL-23mRNAの発現を測定することもできる。試験化合物存在下でIL-17mRNAが減少すれば、その化合物はIL-23アンタゴニストである。IL-23アンタゴニストの例には天然シーケンスのIL-23ポリペプチドサブユニット(例えばp40サブユニット)に対する中和抗体、免疫グロブリン定常部シーケンスと融合するIL-23サブユニットから成る免疫付着因子、小分子、天然シーケンスのIL-23ポリペプチドのサブユニットをコードする遺伝子の翻訳と転写の両方あるいは一方を抑
制する作用のあるアンチセンスオリゴヌクレオチド、例えばIL-23遺伝子の遺伝的おとり等のおとり、その他が含まれるがこれらに限定されない。同様にIL-23アンタゴニストには例えばIL-12Rβ1あるいはIL-23R等の天然IL-23受容体のサブユニットに対する中和抗体、免疫グロブリン定常部シーケンスと融合するIL-23受容体サブユニットから成る免疫付着因子、小分子、天然シーケンスのIL-23受容体ポリペプチドのサブユニットをコードする遺伝子の翻訳と転写の両方あるいは一方を抑制することのできるアンチセンスオリゴヌクレオチド、例えばIL-23受容体遺伝子の遺伝的おとり等のおとり、その他が含まれるがこれらに限定されない。」

「【0030】
アンタゴニスト並びにアゴニストに対するあらゆるアッセイは、候補薬にIL-23ポリペプチドあるいはIL-23受容体ポリペプチドあるいは当該ポリペプチド(特にIL-23及びIL-23受容体のサブユニットを含む。)のフラグメントに、二つの成分が相互作用することができる条件下で十分な時間接触することを必要とする点で共通している。例えばヒトIL-23p19サブユニットはアミノ酸189個のポリペプチドであり、そのアミノ酸配列はAccession Number(受け入れ番号)AF301620(NCBI 605580;GenBank AF301620;上記Oppmanet al.,)でEMBLデータベースから知ることができる。IL-23ポリペプチドであるp40サブユニットのアミノ酸配列も判明している(IL-12p40サブユニットとしても知られる。)。IL-23が結合するIL-12Rβ1のアミノ酸配列はAccession Number NCBI 601604で知ることができる。抗体あるいは当該ポリペプチドに結合する小分子の作製は、当業者の通常技術の範囲に十分収まる。」

「【0071】
(実施例1)
インターロイキン23(IL-23)は、インターロイキン17(IL-17)の産生を特徴とする、第三のCD4 T細胞活性化状態を促進する。
【0072】
活性化T細胞によって産生することは明らかであるが、従来の報告ではTh1並びにTh2偏向サイトカインプロファイルの例証内でIL-17の明確な分類は提供されていない。この実施例にて記載される最初の実験の目的は、IL-17がTh1あるいはTh2応答に伴うシグナルとは異なるシグナルに応答して発現している可能性を調べることであった。
・・・
【0075】
IL-12p40抗体によるIL-17産生抑制 - 抗IL-12抗体(R&D Systems,cat.no.AF-419-NA)もしくは無関係のコントロール抗体(抗FGF-8G(R&D Systems,cat.no.AF-423-NA))にIL-23(100ng/ml)、あるいはLPS刺激済み樹状細胞(10% v/v)の馴化培地を加えて37℃で1時間プレインキュベートした。次にマウス脾臓から単離した単核細胞(2 x 106細胞/ml)を加えてさらに5?6日間培養した。上清を集めIL-17濃度をELISAを用いて測定した。
・・・
【0080】
IL-12刺激Th1誘導条件下で培養した脾細胞によるIL-17産生は明確なものではなかった。一方Th2誘導条件下では、コントロールと比較してIL-17の増加はなかった。結果は以下にある表1に示す。
【0081】
【表1】

IL-23を加えた培養物では、投与量に応じて高濃度のIL-17産生がみられた(図2)。・・・IL-23はIL-17mRNA濃度の上昇を促進した(図2B)。・・・さらに、最近IL-17群の一員と同定されたIL-17FのmRNAも、IL-23に応答して上方制御されたことが認められた(図2C)。

【図2A】

【図2B】

【図2C】



「【0083】
IL-23が介在するIL-17産生は、IL-23と共通するp40と相互作用する、IL-12の中和抗体の存在によって完全に遮断された(図4A左側)。無関係の抗体存在下でIL-17産生が変化しなかったことから、この効果は抗体提示細胞上のFc受容体が連結したことが原因ではない。また、この抗体は、LPS活性化樹状細胞の馴化培地に応答して観察されるIL-17の産生を50%以上抑制した(図4A右側)。IL-12p40欠損マウス(系:B6.129S1-IL12b^(tmlJm))の培養脾細胞で、野生型マウスあるいはIL-12p35欠損マウス(系:B6.129S1-IL12a^(tmlJm))と比較して、ConA刺激に応答するIL-17産生の著しい減少が見られた(図4B)。但し、全くなくなったわけではない。

【図4A】



「【0089】
(実施例2)
(インターロイキン23(IL-23)欠損マウス)
インビボでIL-23とIL-17の関係をさらに調べるため、IL-23欠損マウス表現型をIL-17欠損マウスの表現型と比較した。
・・・
【0105】
IL-23p19^(-/-)樹状細胞がT細胞を刺激する能力。IL-23p19^(-/-)マウスにみられる異常がIL-23欠損抗原提示細胞による有効性のないT細胞初回抗原刺激によるものである可能性を除外するため、我々は次にIL-23p19^(-/-)DCがbalb/cマウスの脾臓から単離したアロタイプ未刺激CD4^(+)T細胞を刺激する能力を調べた。DCがない状態で、これらのT細胞は増殖せず、検出できる量のサイトカインの分泌もなかった(図12A)。それぞれの遺伝子型にDCを加えると、両遺伝子型とも強健に増殖し、IL-17を産生した。これまでにIL-23がIL-17の強力な誘導物質であることを示したので、我々は次に、強力なトール様受容体2アゴニストでありIL-23産生誘導物質である細菌性リポペプチドを用いてDCによるIL-23産生を誘導した。これらの条件下でwtDCはT細胞によるIL-17産生を強力に誘導し(図12A下)、IL-23p19^(-/-)DCで刺激されたT細胞によるIL-17産生量は著しく少なかった。これらの実験結果をより生理学的な条件下で確認するために、我々は次に8個体のマウスからなるグループを完全フロイントアジュバント(CFA)に加えたキーホール リンペットヘモシニアン(KLH)で免疫し、インビボでT細胞反応を誘発させた。5日後に流入領域リンパ節(LNC)を採取してインビトロにてKLHで再刺激した。これもまた、IL-23p19^(-/-)マウスから採取したLNCによるIL-17産生量は著しく少ないことが認められた(図12B下)。LNC増殖は双方の遺伝子型で同程
度であり(図12B下)、これはwtマウスとIL-23p19^(-/-)マウスの双方とも抗原に対する強健なT細胞応答を上昇させていることを示している。要するに、IL-23欠損によって樹状細胞の誘発的能力が著しく損なわれているのではなく、T細胞によるIL-17産生が減衰している。
・・・
【0108】
まとめると、IL-23p19^(-/-)マウスでは、DHTの抑制及び体液性免疫反応で生じる、インビボT細胞応答が減衰しており、表現型的にはIL-17欠損マウスと類似する。我々の結果は、IL-23もしくはそのアゴニストの臨床的投与が、免疫処方において、並びに免疫無防備状態にある患者において、T細胞機能を支えるのに有益である可能性を示している。

【図12】



本件特許明細書の段落【0071】?【0081】、図2A、図2B及び図2Cの記載から、IL-23によりT細胞からのIL-17の産生が促進されることが理解でき、さらに段落【0083】及び図4Aの記載から、上記の産生促進は、抗IL-12p40抗体により阻害されることが理解できる。ここで、p40は、IL-12及びIL-23に共通するサブユニットであり(本件特許明細書の段落【0030】)、そして、本件特許明細書の段落【0012】には、IL-23アンタゴニストの例として「天然シーケンスのIL-23ポリペプチドサブユニット(例えばp40サブユニット)に対する中和抗体」が示されていることから、本件特許明細書では、前記抗IL-12p40抗体を抗IL-23抗体、すなわちIL-23のアンタゴニストとして用いていることが明らかである。
また、段落【0089】?【0108】及び図12には、IL-23欠損マウスにおいて、T細胞によるIL-17の産生が減衰していることが記載されており、IL-23の機能を抑制することにより、T細胞によるIL-17の産生を抑制できることが理解できる。
以上の事実から、抗IL-23抗体等のIL-23アンタゴニストにより、IL-23により誘導されるT細胞のIL-17の産生を阻害可能であることは、本件特許明細書の記載及び出願時の技術常識から当業者が認識できるものである。
したがって、本件特許発明1は、本件特許明細書に記載されたものであり、同発明に従属する本件特許発明2ないし10についても同様のことがいえる。
よって、請求人の主張する無効理由2には、理由がない。

3.無効理由3(実施可能要件)について
請求人は、本件特許明細書の記載及び本件特許の出願日当時の技術常識を参酌しても、IL-17産生を阻害することにより特定炎症が治療し得ることにつき、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が要求されることは明らかであると主張する。
本件特許発明1ないし10は、抗IL-23抗体等のIL-23アンタゴニストを含む、インビボ処理方法において使用するための組成物に係るものであり、その用途は、1.において検討したとおり、T細胞によるIL-17の産生を阻害することである。
ここで、特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明について、当業者がその発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載すべきである旨を規定するものであり、本件特許発明1ないし10が当該規定を満たすためには、発明の詳細な説明の記載及び本件特許出願時の技術常識から、抗IL-23抗体等のIL-23アンタゴニストを含む組成物が、T細胞によるIL-17の産生を阻害し得ることを、当業者が理解できる必要がある。
この点に関し、2.にて述べたとおり、本件特許明細書には、IL-23欠損マウスにおいてT細胞によるIL-17の産生が減衰していること、及び、IL-23によりT細胞によるIL-17の産生が促進されることが開示され、さらに、この産生促進を抗IL-23抗体で阻害できることも示されていることから、IL-23アンタゴニストによりT細胞を処理することでIL-23の作用を阻害し、それによりT細胞によるIL-17の産生を阻害可能であることは、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者が理解できるものといえる。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1及び同発明に従属する本件特許発明2ないし10の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている。
よって、請求人の主張する無効理由3には、理由がない。

4.無効理由4(産業上利用可能性)について
請求人は、本件特許発明1ないし10は、その請求項の記載から、当該請求項に係る組成物が医薬用途であるかどうかが、必ずしも明らかではなく、本件特許明細書の記載をみても、炎症治療といった医薬用途以外に、IL-23アンタゴニストを含む組成物の用途が記載されていないのだから、仮に本件特許の請求項1ないし10に係る組成物が医薬用途でない場合、それがどのようにして産業上利用可能であるか不明であると主張する。
しかしながら、T細胞によるIL-17の産生を阻害するという用途から、その組成物が医薬、診断薬などの産業に利用可能であることは明らかであり、本件特許明細書にも、本件特許発明1ないし10における組成物について、IL-17の濃度の上昇が見られることを特徴とする炎症性疾患の治療に利用できることが一貫して記載されていることから、本件特許発明1ないし10は産業上利用可能な発明である。
したがって、請求人の主張する無効理由4には、理由がない。

5.無効理由5(新規性)について
(1)無効理由5-1について
ア.甲1に記載された発明の認定
甲1には、インターロイキンを構成するIL-B30と称されるサブユニット分子及びそのアミノ酸配列が記載されており(記載事項甲1-ア及び記載事項甲1-ス)、IL-B30がIL-12のp40サブユニットと複合体を形成すること(以下、当該複合体を「p40/IL-B30」という。)、p40/IL-B30がイン・ビトロにおいて記憶/活性化したT細胞の増殖を促進したこと(記載事項甲1-イ及び記載事項甲1-セ)、並びに、IL-B30トランスジェニックマウスにおいてTNF-α及びIFN-γの発現レベルの上昇が確認されたことが記載されている(記載事項甲1-ソ)。
そして、甲1には、p40/IL-B30を抗体等のアンタゴニストにより阻害すること(記載事項甲1-イ?ケ)、上記アンタゴニストを哺乳動物被検体に投与可能な組成物として提供することが示されている(記載事項甲1-タ?ツ)。
したがって、甲1には「T細胞を処理するための、p40/IL-B30のアンタゴニストを含む、哺乳動物被検体に投与される組成物。」が記載されている(以下、「甲1発明」という。)。

イ.本件特許発明1ないし10との対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「哺乳動物被検体に投与される組成物」は、本件特許発明1における「インビボ処理方法において使用するための・・・組成物」に相当する。
また、甲1発明における「IL-B30」とは、そのアミノ酸配列から、記載事項甲7-ア?イ及び記載事項甲8-ア?イにあるように「p19」と同じものであると認められ、同様に「p40/IL-B30」とは、「p40」及び「p19」の複合体である「IL-23」と同じものであると認められることから、甲1発明における「p40/IL-B30」とは、本件特許発明1における「インターロイキン23(IL-23)」に相当する。
ここで、本件特許発明1は、T細胞を処理するための組成物の用途が「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ことである旨を規定したものであり、当該用途に関し、本件特許明細書の段落【0071】?【0081】及び【表1】には、T細胞刺激とサイトカイン発現量との関係が示されており、具体的には、IL-12及びIL-4によるT細胞の処理、すなわち従来から知られていたTh1誘導及びTh2誘導によるT細胞刺激ではIL-17産生が増加しなかったのに対し、IL-23でT細胞を処理した場合にはIL-17産生が増加したことに加え、Th1誘導によるT細胞刺激に比してIFN-γ産生が著しく低かったことが記載されているところ、これらの事実から、本件特許発明1における「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」なる用途は、従来から知られていたTh1誘導やTh2誘導によるT細胞刺激とは異なる、IL-23によるT細胞の処理により引き起こされる、別異のサイトカインであるIL-17の産生を阻害するものである。
そうすると、本件特許発明1は、前記組成物によるT細胞の処理が「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生を阻害する」ためであるとの用途が特定されているのに対し、甲1発明にはそのような特定がないだけではなく、記載事項甲1-セにおける「このサイトカインは、Th1表現型(例えば、IFNγ(IL-4またはIL-5ではない)を産生する細胞)を含む活性化記憶細胞を選択的に支持するようである。」なる記載や、「p40/IL-B30融合タンパク質は、IFNγを産生し、IL-4を産生しない(Th1細胞に特徴的なサイトカイン発現プロフィール)T細胞の増殖および分化を支持した。」なる記載からも明らかであるとおり、甲1発明は、従来から知られていたTh1誘導によるT細胞刺激の阻害を対象とするものと認められるから、両発明の用途は明確に異なり、実質的にも相違するものである(以下「相違点1」という)。
上記相違点1に関し、請求人は、甲1発明は、要するに抗IL-23抗体を患者に投与することにより、炎症を治療するとの医薬用途に係る医薬発明であるところ、本件特許発明1における「前記T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」なる用途は、炎症を治療するという医薬用途につき、新たに発見した作用機序で表現したものに過ぎず、結局のところ「炎症を治療するため」と解すべきものであり、実質的にこの点において相違しないと主張する(この請求人の主張を「請求人の主張α」という。)。
しかしながら、本件特許発明の組成物の用途は、「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ことであり、本件特許明細書にも、IL-23がT細胞におけるIL-17の産生を上昇させるという新しい知見を見出したことに基づいて、IL-23アンタゴニストを用いてT細胞によるIL-17の産生を阻害することが一貫して記載されていることから明らかなとおり、本件特許発明の組成物を炎症等を治療するという医薬用途に利用する場合も、当然にIL-17濃度の上昇が見られる炎症等の治療に対して選択的に利用されるものであることが明らかである。
そして実際、記載事項乙1-ア?ウには、慢性関節リウマチの患者であっても、IL-17の上昇した発現がみられなかったものがいたことが認められるところ(記載事項乙1-アのRA-4及びRA-6)、全ての炎症がT細胞によるIL-17の産生と関連しているわけではないことから、本件特許発明1における「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ことが「炎症を治療する」ことと同義であるとは認められない。
また請求人は、本件特許明細書の実施例3に、IL-23の欠損がIL-17産生の抑制をもたらすとともに、DTH反応等のT細胞依存的免疫反応を減衰することを見出したことや、当該表現型がIL-17欠損マウスと類似する旨記載されているところ(段落【0104】?【0108】、【図11】)、甲15に記載されるように、IFNγもDTH反応に極めて重大な関与を有し、IFNγ欠損マウスにおいてDTH反応が減衰することが知られていたのであるから(記載事項甲15)、たとえ被請求人の主張するように生体内においてIL-17とIFNγの活性経路が異なっていたとしても、これらの抑制はいずれもDTH反応の減衰をもたらすものであり、すなわち、生体内に複数の活性経路が存在することは、炎症として明確に別異のものが存在する裏付けとはならないと主張する(この請求人の主張を「請求人の主張β」という。)。
しかしながら、本件特許発明1の用途が「炎症を治療する」ことと同義でないことは上述のとおりであるし、IL-23欠損マウスとIFNγ欠損マウスにおいてDTH反応が抑制されたとしても、これはマウスの遺伝子を欠損させた結果を示したものにすぎず、このことから、DTH反応を有する患者において、Th1誘導によるIFNγの産生と、IL-17を産生させるIL-23によるT細胞刺激の両方が常に引き起こされていることを示すものではない。
他方、本件特許発明は、T細胞によるIL-17の産生を阻害することを用途とする発明であり、これは、IL-17の発現とは関係しないTh1誘導によるT細胞刺激の阻害を対象とする甲1発明とは、その対象が明確に区別されることは上述のとおりであるから、請求人の主張βにかかわらず、本件特許発明1は、甲1発明とは明確に区別されるものである。
したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではない。
このことは、本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2ないし10についても同様である。

(2)無効理由5-2について
ア.甲3に記載された発明の認定
甲3には、DCRS5サブユニット及びIL-12Rβ1サブユニットから成るレセプター分子が記載され、当該レセプター分子がp40/IL-B30リガンドと結合すること(記載事項甲3-ア)、上記レセプター又はそのリガンドの異常発現により免疫学的障害が起こること(記載事項甲3-イ)、及び当該レセプターに対するアンタゴニストが、T細胞を標的とし、望ましくない免疫応答や炎症応答のインヒビターとして作用して、慢性炎症や移植状態の処置に有用であることが記載されている(記載事項甲3-ウ)。
さらに、甲3には、当該アンタゴニストが、前記レセプターサブユニットに対する抗体であること(記載事項甲3-ウ?ク)、及び、哺乳動物被検体に治療目的で投与可能な組成物として提供されること(記載事項甲3-サ)が示されている。
したがって、甲3には「T細胞を処理するための、p40/IL-B30レセプターサブユニットに対する抗体を含む、哺乳動物被検体に投与される組成物。」が記載されている(以下、「甲3発明」という。)。

イ.本件特許発明1ないし10との対比
本件特許発明1と甲3発明とを対比する。
本件特許発明1における「インターロイキン23(IL-23)のアンタゴニスト」は、本件特許発明4に規定されるように「抗IL-23レセプター抗体」を包含するものであり、甲3発明における「p40/IL-B30」は、上述のとおり「インターロイキン23(IL-23)」に相当するから、甲3発明における「p40/IL-B30レセプターサブユニットに対する抗体」は、本件特許発明1における「インターロイキン23(IL-23)のアンタゴニスト」に相当する。
ここで、本件特許発明1は、T細胞を処理するための組成物の用途が「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ことである旨を規定したものであり、当該用途は、5.(1)イ.にて述べたとおり、従来から知られていたTh1誘導やTh2誘導によるT細胞刺激とは異なる、IL-23によるT細胞の処理により引き起こされる、別異のサイトカインであるIL-17の産生を阻害するものである。
そうすると、本件特許発明1は、前記組成物の用途が「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生を阻害する」ためであると特定されているのに対し、甲3発明にはそのような特定がないだけではなく、記載事項甲3-コでは、当該アンタゴニストを用いて細胞の生理機能又は発達を調節するにあたり、その細胞が「慢性TH1媒介性疾患の徴候もしくは症状を示す;多発性硬化症、慢性関節リウマチ、変形性関節症、炎症性腸疾患、糖尿病、乾癬もしくは敗血症の症状もしくは徴候を示す;または同種異系移植を受けている宿主由来である」ものであることが記載されていることからも明らかであるとおり、従来から知られていたTh1誘導によるT細胞刺激の阻害を対象とするものと認められるから、両発明の用途は明確に異なり、実質的にも相違するものである(以下、「相違点3」という)。
すなわち、甲3には、IL-17に係る言及はなんらなされておらず、T細胞によるIL-17産生を阻害することなどは記載されていない。甲3は、ただ漠然と、種々の炎症疾患に対する治療の可能性を示すに留まるものである。
そして、上記相違点3に関し、請求人は、請求人の主張α及びβと同様に述べているが、5.(1)イ.で述べたとおり、本件特許発明1の用途は「炎症を治療する」ことと同義ではなく、本件特許発明1と甲3発明とは、その対象が明確に異なるものであるから、請求人の主張は誤りである。
したがって、本件特許発明1は、甲3に記載された発明ではない。
このことは、本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2ないし10についても同様である。

(3)無効理由5-3について
ア.甲5に記載された発明の認定
甲5には、ヒトp40サブユニットに結合して、当該サブユニットを中和することができる「J695」と称される抗IL-12モノクローナル抗体(記載事項甲5-ア)、及び、当該「J695」のマウスp40サブユニットに関する相同体である「C17.15」と称される抗IL-12モノクローナル抗体が記載され(記載事項甲5-ク)、上記「C17.15」抗IL-12モノクローナル抗体をマウスに投与した実験において、IL-12が関与する障害であるものとして、膠原誘発関節炎(記載事項甲5-ケ)、TNBS誘発性大腸炎(記載事項甲5-コ)及び、急性EAE(記載事項甲5-サ)の発症や進行が抑制されたこと、並びに、上記「J695」抗体を乾癬を罹患していた患者に投与した際に病巣が消失したことが記載されている(記載事項甲5-イ)。
また、甲5には、上記抗体を哺乳動物被検体に投与可能な組成物として提供することも示されている(記載事項甲5-ス)。
したがって、甲5には、「T細胞を処理するための、p40サブユニットを中和することができる抗体を含む、哺乳動物被検体に投与される組成物。」が記載されている(以下、「甲5発明」という。)

イ.本件特許発明1ないし10との対比
本件特許発明1と甲5発明とを対比する。
本件特許発明1における「インターロイキン23(IL-23)のアンタゴニスト」は、本件特許発明4に規定されるように「抗IL-23抗体」を包含するものであるところ、甲5発明における「p40」が、本件特許発明における「インターロイキン23(IL-23)」のサブユニットに相当することは上述のとおりであるから、甲5発明における「p40サブユニットを中和することができる抗体」は、IL-23に対する抗体、すなわち本件特許発明1における「インターロイキン23(IL-23)のアンタゴニスト」としても機能しうるものといえる。
ここで、本件特許発明1は、T細胞を処理するための組成物の用途が「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ことである旨を規定したものであり、当該用途は、5.(1)イ.にて述べたとおり、従来から知られていたTh1誘導やTh2誘導によるT細胞刺激とは異なる、IL-23によるT細胞の処理により引き起こされる、別異のサイトカインであるIL-17の産生を阻害するものである。
そうすると、本件特許発明1は、前記組成物の用途が「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生を阻害する」ためであると特定されているのに対し、甲5発明にはそのような特定がないだけではなく、記載事項甲5-ア、記載事項甲5-カ、記載事項甲5-キ、記載事項甲5-スの記載からも明らかであるとおり、従来から知られていたTh1誘導によるT細胞刺激の阻害を対象とするものと認められるから、両発明の用途は明確に異なり、実質的にも相違するものである(以下、「相違点5」という)。
そして、上記相違点5に関し、請求人は、請求人の主張α及びβと同様に述べているが、5.(1)イ.で述べたとおり、本件特許発明1の用途は「炎症を治療する」ことと同義ではなく、本件特許発明1と甲5発明とは、その対象が明確に異なるものであるから、請求人の主張は誤りである。
したがって、本件特許発明1は、甲5に記載された発明ではない。
このことは、本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2ないし10についても同様である。

(4)小括
以上のとおり、請求人の主張する無効理由5には、理由がない。

6.無効理由6(進歩性)について
(1)無効理由6-1について
上述のとおり、甲1には、抗IL-23抗体によりT細胞によるIL-17の産生の阻害が可能であることについて記載も示唆もないから、甲1発明を「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生を阻害する」ために用いる動機付けは無いし、それが可能であることを当業者が想到し得たとも認められない。
そして、本件特許発明1は、IL-23アンタゴニストによりT細胞によるIL-17の産生を阻害するという、甲1の記載から予測困難な効果を発揮するものである。
したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明から容易に発明をすることができたものではない。
このことは、本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2ないし10についても同様である。

(2)無効理由6-2について
ア.相違点3-1について
上述のとおり、甲3には、抗IL-23レセプター抗体によりT細胞によるIL-17の産生の阻害が可能であることについて記載も示唆もないから、甲3発明を「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生を阻害する」ために用いる動機付けは無いし、それが可能であることを当業者が予測し得たとも認められない。
そして、本件特許発明1は、IL-23アンタゴニストによりT細胞によるIL-17の産生を阻害するという、甲3の記載から予測困難な効果を発揮するものである。
したがって、本件特許発明1は、甲3に記載された発明から容易に発明をすることができたものではない。
このことは、本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2ないし10についても同様である。

(3)無効理由6-3について
上述のとおり、甲5には、抗IL-23抗体によりT細胞によるIL-17の産生の阻害が可能であることについて記載も示唆もないから、甲5発明を「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生を阻害する」ために用いる動機付けは無いし、それが可能であることを当業者が想到し得たとも認められない。
そして、本件特許発明1は、IL-23アンタゴニストによりT細胞によるIL-17の産生を阻害するという、甲5の記載から予測困難な効果を発揮するものである。
したがって、本件特許発明1は、甲5に記載された発明から容易に発明をすることができたものではない。
このことは、本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2ないし10についても同様である。

(4)甲1、甲3及び甲5の組合せについて
上述のとおり、甲1、甲3及び甲5のいずれにも、IL-23アンタゴニストによりT細胞によるIL-17の産生の阻害が可能であることについて記載も示唆もないから、これらを併せみても、甲1発明、甲3発明又は甲5発明を「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生を阻害する」ために用いる動機付けは無く、それが可能であることを当業者が想到し得たとも認められない。
そして、本件特許発明1は、IL-23アンタゴニストによりT細胞によるIL-17の産生を阻害するという、甲1、甲3及び甲5の記載から予測困難な効果を発揮するものである。
したがって、本件特許発明1は、甲1、甲3及び甲5に記載された発明から容易に発明をすることができたものではない。
このことは、本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2ないし10についても同様である。

(5)小括
以上のとおり、請求人の主張する無効理由6には、理由がない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由によっては、本件特許発明1ないし10についての特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担するものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-10-25 
結審通知日 2017-10-31 
審決日 2017-11-15 
出願番号 特願2010-210980(P2010-210980)
審決分類 P 1 123・ 536- Y (A61K)
P 1 123・ 113- Y (A61K)
P 1 123・ 121- Y (A61K)
P 1 123・ 537- Y (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中尾 忍  
特許庁審判長 田村 聖子
特許庁審判官 關 政立
清野 千秋
登録日 2015-03-06 
登録番号 特許第5705483号(P5705483)
発明の名称 IL-17産生の阻害  
復代理人 堀江 健太郎  
代理人 櫻田 芳恵  
代理人 坪倉 道明  
代理人 安藤 健司  
復代理人 岩橋 和幸  
代理人 重森 一輝  
代理人 実広 信哉  
復代理人 廣戸 健太郎  
代理人 川嵜 洋祐  
代理人 小野 誠  
復代理人 櫻井 大雄  
代理人 金山 賢教  

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