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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60K
管理番号 1351161
審判番号 不服2018-5999  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-01 
確定日 2019-05-21 
事件の表示 特願2014-45132「車両制御装置、車両、及び車両の制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年9月28日出願公開、特開2015-168345、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年3月7日の出願であって、平成29年6月26日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内の同年9月4日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成30年1月19日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年1月30日)、これに対し、同年5月1日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正書が提出され、同年6月8日に前置報告され、同年8月9日に審判請求人から前置報告に対する上申がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

請求項1?7に係る発明は、引用文献1及び2に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1 特開2005-341633号公報
2 特開2013-18419号公報

第3 本願発明
本願の請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明7」という。)は、平成30年5月1日の手続補正により補正がされた特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
発電電動機で発電された電力を蓄え、前記発電電動機に電力を供給する蓄電池を備える車両制御装置であって、
前記蓄電池の温度を測定する温度測定手段と、
前記蓄電池の充電率を測定する充電率測定手段と、
前記蓄電池を昇温させるためのヒータと、
車両の走行が行われない補機モードにおいて、前記蓄電池の温度が第1規定温度以下の低温であり、かつ前記蓄電池の充電率が所定値以上の場合に、前記蓄電池を放電して前記発電電動機を力行運転させ、前記蓄電池の温度が前記第1規定温度以下の低温であり、かつ前記蓄電池の充電率が前記所定値未満の場合に、前記発電電動機を回生運転させる低温制御手段と、
を備え、
前記低温制御手段は、前記補機モードにおいて、前記蓄電池の温度が、前記第1規定温度以下に設定された第2規定温度以下の場合に、前記蓄電池の充電率に応じて前記発電電動機を前記力行運転又は前記回生運転させると共に、前記ヒータを用いて前記蓄電池を昇温させ、
前記第2規定温度は、0℃以下であり、前記蓄電池の充電可能電流が略0となる温度に設定されている車両制御装置。
【請求項2】
前記発電電動機は、車両のエンジンの出力軸に接続され、力行運転を行う場合には停止した前記エンジンを負荷とし、回生運転を行う場合には該エンジンに燃料を供給して駆動させる請求項1記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記低温制御手段は、前記蓄電池を放電させる場合、前記蓄電池の放電可能な電力と停止した前記エンジンの駆動に必要な電力とのうちより小さい値を、前記発電電動機を力行運転させる電力とする請求項2記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記蓄電池は、電力を消費する電力負荷が接続され、
前記低温制御手段は、前記蓄電池を放電させる場合、前記蓄電池の放電可能な電力から前記電力負荷の消費電力を減算した値を、前記発電電動機を力行運転させる電力とする請求項1から請求項2の何れか1項記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記蓄電池は、電力を消費する電力負荷が接続され、
前記低温制御手段は、前記蓄電池を放電させる場合、前記蓄電池の放電可能な電力から前記電力負荷の消費電力を減算した電力値と、停止した前記エンジンの駆動に必要な電力値とのうち、小さい方の値を、前記発電電動機を力行運転させる電力とする請求項2記載の車両制御装置。
【請求項6】
発電電動機と、
前記発電電動機で発電された電力を蓄え、前記発電電動機に電力を供給する蓄電池と、
前記蓄電池からの放電電力が供給される電力負荷と、
請求項1から請求項5の何れか1項記載の車両制御装置と、
を備える車両。
【請求項7】
発電電動機で発電された電力を蓄え、前記発電電動機に電力を供給する蓄電池と前記蓄電池を昇温させるためのヒータとを備える車両の制御方法であって、
前記蓄電池の温度及び前記蓄電池の充電率を測定する測定工程と、
車両の走行が行われない補機モードにおいて、前記蓄電池の温度が第1規定温度以下の低温であり、かつ前記蓄電池の充電率が所定値以上の場合に、前記蓄電池を放電して前記発電電動機を力行運転させ、前記蓄電池の温度が前記第1規定温度以下の低温であり、かつ前記蓄電池の充電率が前記所定値未満の場合に、前記発電電動機を回生運転させ、前記蓄電池の温度が、前記第1規定温度以下であり前記蓄電池の充電可能電流が略0となる0℃以下の温度に設定されている第2規定温度以下の場合に、前記蓄電池の充電率に応じて前記発電電動機を前記力行運転又は前記回生運転させると共に、前記ヒータを用いて前記蓄電池を昇温させる低温制御工程と、
を有する車両の制御方法。」

第4 引用文献
1 引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2005-341633号公報)には、「電動車両のバッテリ暖機制御装置」に関し、図面(特に、図1、図2参照)とともに次の事項が記載されている。下線は、当審が付した。以下同様。

ア 「【0015】
通常の制御においてコントローラ8は、2次バッテリ10を補助的に使用するよう、ジェネレータ7に上記発電指令G1または負荷指令Lを入力する。
このためコントローラ8には、電動車両21の運転状態を示す車両起動用キー12からのon/off信号と、2次バッテリ10の内部温度を検出するバッテリ温度センサ13からの信号Tempとを入力する。
【0016】
2次バッテリ10の放電量はバッテリ内部温度に大きな影響を受け、バッテリ内部温度が低い場合には、充放電効率が低下するため、上記通常の制御の実行に支障をきたす。
そこでコントローラ8は、2次バッテリ10の内部温度をチェックし、検出した2次バッテリ10の内部温度が低い場合には以下に説明する2次バッテリ10の暖機制御を実行し、2次バッテリ10を短時間で効率よく暖機する。
【0017】
図2は2次バッテリ10の暖機のために定時間隔で実行する制御プログラムを示すフローチャートである。
電動車両21を運転するために、運転者が車両起動用キー12をオンにすると、車両起動用キー12からコントローラ8へ起動信号ONが入力され、電動車両21が運転状態となる。運転状態の開始を暖機指令として、ステップS1へ進む。
【0018】
ステップS1では、2次バッテリ10の使用SOC(充電状態)を検出する。一般に2次バッテリは使用SOC(充電状態)30%?70%で使用するため、本ステップS1では、検出した使用SOC(充電状態)が、中間値である使用SOC50%以上かどうかを判断する。
【0019】
使用SOC50%以下の場合(No)、ステップS2へ進み、2次バッテリ10の内部温度Tempを検出する。次のステップS3では、内部温度Tempに基づき、2次バッテリ10を充電するのに可能な電力(以下、充電可能電力量という)を算出する。一般には、内部温度Tempが低いほど充電可能電力量は小さくなる。次のステップS4では、この充電可能電力量および上述の車両補機消費電力量の合算値を発電するよう、ジェネレータ7に発電指令G1を入力する。
このようにステップS4では、2次バッテリ10を積極的に充電することにより、2次バッテリ10の内部抵抗を利用して自己発熱させ、2次バッテリを内部から効率よく暖機する。
【0020】
次のステップS10では、モータ制御器6に目標出力指令tTを入力して電動車両21が発進するかどうかを判断する。発進しない場合(No)場合 、上記ステップS1へ戻り、本実施例の暖機制御を続行する。
【0021】
上記ステップS1で使用SOC50%以上の場合(Yes)、ステップS5へ進み、2次バッテリ10の内部温度Tempを検出する。次のステップS6では、内部温度Tempに基づき、2次バッテリ10を放電するのに可能な電力(以下、放電可能電力量という)を算出する。一般には、内部温度Tempが低いほど放電可能電力量は小さくなる。次のステップS7では、この放電可能電力量がジェネレータ7のジェネレータ負荷消費電力量より大きいか判断する。ジェネレータ負荷消費電力量とは、ジェネレータ7を負荷として運転し電力を消費する場合の最大消費可能電力である。放電可能電力量がジェネレータ負荷消費電力量より大きい場合(Yes)、放電可能電力量を全て消費することはできない。そこでステップS8へ進み、ジェネレータ7がジェネレータ負荷消費電力量を消費するよう負荷指令Lを入力する。
また、必要に応じて2次バッテリ10から付属部品11へ車両補機消費電力量を供給して、2次バッテリ10の放電量を放電可能電力量に近づける。
このようにステップS7では、2次バッテリ10を積極的に放電することにより、2次バッテリ10の内部抵抗を利用して自己発熱させ、2次バッテリを内部から効率よく暖機する。
【0022】
次のステップS10では、モータ制御器6に目標出力指令tTを入力して電動車両21が発進するかどうかを判断する。発進しない場合(No)場合 、上記ステップS1へ戻り、本実施例の暖機制御を続行する。
【0023】
一方、上記ステップS7で放電可能電力量がジェネレータ負荷消費電力量より小さい場合(No)、放電可能電力量を全て消費することができる。そこでステップS9へ進み、ジェネレータ7が放電可能電力量から車両補機消費電力量を差し引いた電力を消費するよう負荷指令Lを入力する。
このようにステップS9では、2次バッテリ10を積極的に放電することにより、2次バッテリ10の内部抵抗を利用して自己発熱させ、2次バッテリを内部から効率よく暖機する。
【0024】
次のステップS10では、モータ制御器6に目標出力指令tTを入力して電動車両21が発進するかどうかを判断する。発進しない場合(No)場合 、上記ステップS1へ戻り、本実施例の暖機制御を続行する。
【0025】
上述したステップS1?S10は発進前の暖機制御である。
上記発進前の暖機制御において、2次バッテリ10の内部温度Tempが充分上昇した場合、次のステップS11以降へ進むことなく本実施例の暖機制御を終了してもよいこと勿論である。
ステップS10にて、発進すると判断する場合(Yes)、ステップS11へ進み、後述する発進後の暖機制御を実行する。」

イ 図2のS1には、「2次バッテリSOCが50%以上か?」と記載されているから、図2のフローにおいては、50%未満のときにS2に進むことが示唆されている。

上記記載事項及び図面の図示内容を総合して、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ジェネレータ7で発電された電力を蓄え、前記ジェネレータ7に電力を供給する2次バッテリ10を備える電動車両のバッテリ暖機制御装置であって、
前記2次バッテリ10の内部温度を測定するバッテリ温度センサ13と、
前記2次バッテリ10の使用SOCを検出する手段と、
発進前の暖機制御において、前記2次バッテリ10の使用SOCが50%以上の場合に、前記2次バッテリ10を放電して前記ジェネレータ7を負荷として運転し電力を消費させ、前記2次バッテリ10の使用SOCが前記50%未満の場合に、前記ジェネレータ7を発電させるコントローラ8と、
を備える電動車両のバッテリ暖機制御装置。」

2 引用文献2
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2013-18419号公報)には、「電気駆動車両のバッテリ昇温装置」に関して、図面(特に、図1、図2参照)とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0024】
次に、図1に基づいて制御手段7について説明する。
制御手段7は、エンジン1と、ジェネレータ2と、電気ヒータ5と、電気負荷6等を制御している。この制御手段7は、車両制御手段(VCM)21と、運転条件制御手段(RLCM)22と、ECU(Engine Control Unit)23と、ジェネレータ制御手段(GCM)24と、第1バッテリ制御手段(1BCM)25と、第2バッテリ制御手段(2BCM)26と、トラクションモータ制御手段(TMCM)27と、ABS(Antilock Brake System)28とから構成されている。」

イ 「【0026】
通常運転では、SOCが第1充填状態A1(例えば、30%)以下のときに実行される通常充電モードと、SOCが第1充填状態A1超のときに実行される通常放電モードとに運転モードが判定され、バッテリ暖機運転では、SOCが第2充填状態A2(例えば、90%)以下のときに実行される暖機充電モードと、SOCが第2充填状態A2超のときに実行される暖機放電モードとに運転モードが判定されている。VCM21は、各制御手段から入力される情報に応じて前記運転モードを判定し、夫々の制御手段を協調制御している。」

ウ 「【0031】
1BCM25は、VCM21により判定された運転モードに応じて、第1バッテリ3と、電気ヒータ5と、熱交換器11とを制御している。1BCM25は、第1バッテリ3の電流、電圧及び温度Tを検出し、電流と電圧とからSOCを演算可能に形成され、検出された第1バッテリ温度TやSOC等をVCM21へ出力している。
【0032】
この1BCM25は、通常運転において、通常充電モードのとき、第1バッテリ3の放電を停止して充電を開始させ、バッテリ用電気ヒータ5を停止すると共に熱交換器11の弁体を閉操作し、通常放電モードのとき、第1バッテリ3の充電を停止して放電を開始させ、バッテリ用電気ヒータ5を停止すると共に熱交換器11の弁体を閉操作している。
また、バッテリ暖機運転において、暖機充電モードのとき、第1バッテリ3の放電を停止して充電を開始させ、バッテリ用電気ヒータ5を作動すると共に熱交換器11の弁体を開操作し、暖機放電モードのとき、第1バッテリ3の充電を停止して放電を開始させ、バッテリ用電気ヒータ5を作動すると共に熱交換器11の弁体を閉操作している。」

エ 「【0035】
次に、本バッテリ昇温装置のバッテリ昇温制御について、図2のフローチャートに基づき説明する。尚、Si(i=1,2…)は各ステップを示す。
本実施例では、バッテリ設定温度T0よりも高い通常走行時、SOCに応じて通常充電モードと通常放電モードとにより電気自動車EVが制御されている。電気自動車EVがモータ4により通常放電モードで走行しているとき、SOCが第1充填状態A1以下になった場合、運転モードが通常放電モードから通常充電モードへ切替えられ、第1バッテリ3が充電される。この通常充電モードは第3充填状態A3(例えば、95%)まで継続され、SOCが第3充填状態A3を超えた時点で通常放電モードへ切替えられる。本バッテリ昇温制御は、第1バッテリ3の温度Tがバッテリ設定温度T0以下であることが検出されたとき、前記通常運転制御と独立した処理として実行される。
【0036】
イグニッションをオン操作したとき、バッテリ暖機運転か否か判定される(S1)。
S1の判定の結果、第1バッテリ3の温度Tがバッテリ設定温度T0以下の場合、バッテリ暖機運転を実行するためS2へ移行し、第1バッテリ3から電気ヒータ5に給電を開始する。S1の判定の結果、第1バッテリ3の温度Tがバッテリ設定温度T0よりも高い場合、本バッテリ昇温制御を終了する。
【0037】
次に、S3へ移行し、SOCが第2充填状態A2以下か否か判定する。
S3の判定の結果、SOCが第2充填状態A2以下の場合、SOCが低く暖機充電モードであるため、第1バッテリ3から電気負荷6への給電を停止して(S4)、S5へ移行する。
【0038】
S5では、エンジン1を第1運転よりも冷却損失が大きな第2運転で運転して発電を開始し、第1バッテリ3の充電を行う。この時、第2運転の開始と同期して、熱交換器11の弁体の開操作とDC/DCコンバータ10による第1接続形態への切替えを行っている。
次に、S6へ移行し、SOCが第3充填状態A3を超えたか否か判定する。
S6の判定の結果、SOCが第3充填状態A3よりも高い場合、第1バッテリ3の充電が完了しているため、エンジン1による第2運転を停止して(S7)、S8へ移行する。
【0039】
S8では、第1バッテリ3の温度Tがバッテリ設定温度T0を超えたか否か判定する。
S8の判定の結果、第1バッテリ3の温度Tがバッテリ設定温度T0よりも高い場合、第1バッテリ3の暖機が完了しているため、第1バッテリ3から電気ヒータ5への給電を停止して(S9)、バッテリ昇温制御を終了する。以後、電気自動車EVは通常運転にて制御される。S8の判定の結果、第1バッテリ3の温度Tがバッテリ設定温度T0以下の場合、第1バッテリ3の暖機が完了していないため、S3へ移行して暖機を継続する。
【0040】
S6の判定の結果、SOCが第3充填状態A3以下の場合、第1バッテリ3の充電が完了していないため、S10へ移行し、第1バッテリ3の温度Tがバッテリ設定温度T0を超えたか否か判定する。S10の判定の結果、第1バッテリ3の温度Tがバッテリ設定温度T0よりも高い場合、第1バッテリ3の暖機が完了しているため、エンジン1による第2運転を停止し(S11)、第1バッテリ3から電気負荷6へ給電しているときは給電を停止して(S12)、S9へ移行する。
【0041】
S10の判定の結果、第1バッテリ3の温度Tがバッテリ設定温度T0以下の場合、第1バッテリ3の暖機が完了していないため、S6へ移行して暖機を継続する。
S3の判定の結果、SOCが第2充填状態A2よりも高い場合、暖機放電モードであるため、第1バッテリ3から電気負荷6に給電を開始して(S13)、S14へ移行する。
【0042】
S14では、第1バッテリ3の温度Tがバッテリ設定温度T0を超えたか否か判定する。
S14の判定の結果、第1バッテリ3の温度Tがバッテリ設定温度T0よりも高い場合、第1バッテリ3の暖機が完了しているため、S12へ移行する。
S14の判定の結果、第1バッテリ3の温度Tがバッテリ設定温度T0以下の場合、第1バッテリ3の充電が完了していないため、S3へ移行して暖機を継続する。」

オ 「【0049】
次に、実施例に係るバッテリ昇温装置の作用・効果について説明する。
このバッテリ昇温装置は、バッテリ温度Tがバッテリ設定温度T0以下のとき、第1バッテリ3のSOCが第2充電状態A2超の場合、電気負荷6を作動させて第1バッテリ3から放電するため、放電に伴う内部加熱に加えて電気負荷6の作動による外部加熱を利用して第1バッテリ3を加熱することができる。
つまり、バッテリ温度Tがバッテリ設定温度T0以下のとき、第1バッテリ3のSOCが第2充電状態A2以下に低下した場合であっても、エンジン1を第1運転よりも冷却損失が大きな第2運転で駆動して第1バッテリ3に充電するため、増加されたエンジン1の冷却損に応じた熱量を第1バッテリ3の暖機に利用でき、充電に伴う内部加熱に加えてエンジン1の熱量を用いた外部加熱により第1バッテリ3を加熱することができる。
それ故、第1バッテリ3のSOCに拘わらず、自己発熱による内部加熱と外部加熱とにより第1バッテリ3を内外から加熱できるため、第1バッテリ3の暖機期間を短縮化することができ、その結果、電気自動車EVの走行性能を向上することができる。」

上記記載事項及び図面の図示内容を総合して、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2に記載された事項」という。)が記載されていると認められる。

「ジェネレータ2で発電された電力を蓄え、電気ヒータ5及び電気負荷6に電力を供給する第1バッテリ3を備える電気駆動車両のバッテリ昇温装置であって、
前記第1バッテリ3の温度Tを検出する第1バッテリ制御手段(1BCM)25と、
前記第1バッテリ3のSOCを演算する第1バッテリ制御手段(1BCM)25と、
前記第1バッテリ3を昇温させるための前記電気ヒータ5と、
バッテリ暖機運転において、前記第1バッテリ3の温度Tがバッテリ設定温度T0以下の低温であり、かつ前記第1バッテリ3のSOCが第2充填状態A2より高い場合に、前記第1バッテリ3を放電して前記電気ヒータ5及び前記電気負荷6に給電し、前記第1バッテリ3の温度Tが前記バッテリ設定温度T0以下の低温であり、かつ前記第1バッテリ3のSOCが前記第2充填状態A2以下の場合に、前記ジェネレータ2を発電させる制御手段7と、
を備え、
前記制御手段7は、前記バッテリ暖機運転において、前記第1バッテリ3の温度Tが、前記バッテリ設定温度T0以下の場合に、前記第1バッテリ3のSOCに応じて前記電気ヒータ5及び前記電気負荷6に給電し又は前記ジェネレータ2を発電させると共に、前記電気ヒータ5を用いて前記第1バッテリ3を昇温させる電気駆動車両のバッテリ昇温装置。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比すると、後者の「ジェネレータ7」は前者の「発電電動機」に相当し、以下同様に、「2次バッテリ10」は「蓄電池」に、「電動車両のバッテリ暖機制御装置」は「車両制御装置」に、「2次バッテリ10の内部温度」は「蓄電池の温度」に、「バッテリ温度センサ13」は「温度測定手段」に、「使用SOC」は「充電率」に、「使用SOCを検出する手段」は「充電率を測定する充電率測定手段」に、「発進前の暖機制御」は「車両の走行が行われない補機モード」に、「使用SOCが50%」は「充電率が所定値」に、「ジェネレータ7を負荷として運転し電力を消費させ」ることは「発電電動機を力行運転させ」ることに、「ジェネレータ7を発電させる」ことは「発電電動機を回生運転させる」ことに、「コントローラ8」は「低温制御手段」にそれぞれ相当する。

したがって、両者は、
「発電電動機で発電された電力を蓄え、前記発電電動機に電力を供給する蓄電池を備える車両制御装置であって、
前記蓄電池の温度を測定する温度測定手段と、
前記蓄電池の充電率を測定する充電率測定手段と、
車両の走行が行われない補機モードにおいて、前記蓄電池の充電率が所定値以上の場合に、前記蓄電池を放電して前記発電電動機を力行運転させ、前記蓄電池の充電率が前記所定値未満の場合に、前記発電電動機を回生運転させる低温制御手段と、
を備える車両制御装置。」
で一致し、次の点で相違する。

〔相違点1〕
本願発明1の車両制御装置は、「前記蓄電池を昇温させるためのヒータと」を備え、低温制御手段は、「前記蓄電池の温度が第1規定温度以下の低温であり、かつ」前記蓄電池の充電率が所定値以上の場合に発電電動機を力行運転させ、「前記蓄電池の温度が前記第1規定温度以下の低温であり、かつ」前記蓄電池の充電率が前記所定値未満の場合に発電電動機を回生運転させるのに対し、
引用発明は、「前記蓄電池を昇温させるためのヒータ」を備えず、コントローラ8は、2次バッテリ10の使用SOCが50%以上の場合にジェネレータ7を負荷として運転し電力を消費させ、前記2次バッテリ10の使用SOCが前記50%未満の場合にジェネレータ7を発電させる点。

〔相違点2〕
本願発明1は、「前記低温制御手段は、前記補機モードにおいて、前記蓄電池の温度が、前記第1規定温度以下に設定された第2規定温度以下の場合に、前記蓄電池の充電率に応じて前記発電電動機を前記力行運転又は前記回生運転させると共に、前記ヒータを用いて前記蓄電池を昇温させ、前記第2規定温度は、0℃以下であり、前記蓄電池の充電可能電流が略0となる温度に設定されている」のに対し、
引用発明は、コントローラ8が、発進前の暖機制御において、かかる制御を行わない点。

事案に鑑み、まず相違点2について検討する。
引用文献2に記載された事項は、「前記制御手段7は、前記バッテリ暖機運転において、前記第1バッテリ3の温度Tが、前記バッテリ設定温度T0以下の場合に、前記第1バッテリ3のSOCに応じて前記電気ヒータ5及び前記電気負荷6に給電し又は前記ジェネレータ2を発電させると共に、前記電気ヒータ5を用いて前記第1バッテリ3を昇温させる」ものであるから、第1バッテリ3の温度Tがバッテリ設定温度T0以下の場合、電気ヒータ5を用いて第1バッテリ3を昇温させることと、電気ヒータ5及び電気負荷6に給電し又はジェネレータ2を発電させることとが同時に行われる、すなわち、第1バッテリ3の温度Tがバッテリ設定温度T0以下の場合、電気ヒータ5による外部加熱と充放電による内部加熱とを同時に行うものである。
しかしながら、引用文献2に記載された事項は、相違点2に係る本願発明1の「前記第1規定温度以下に設定された第2規定温度以下の場合」との事項や、「前記第2規定温度は、0℃以下であり、前記蓄電池の充電可能電流が略0となる温度に設定されている」との事項を有するものでなく、また、当該各事項は設計的事項でもない。
そうすると、引用発明において、引用文献2に記載された事項を適用して、当業者が相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本願発明1は、相違点1を検討するまでもなく、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本願発明2?6について
本願発明2?6は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 本願発明7について
本願発明7は、車両の制御方法に係る発明であるところ、その「前記蓄電池の温度が、前記第1規定温度以下であり前記蓄電池の充電可能電流が略0となる0℃以下の温度に設定されている第2規定温度以下の場合に、前記蓄電池の充電率に応じて前記発電電動機を前記力行運転又は前記回生運転させると共に、前記ヒータを用いて前記蓄電池を昇温させる」との発明特定事項は、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項と実質的に同一である。
そうすると、本願発明7は、本願発明1と同様の理由により、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

5 まとめ
以上のとおり、本願発明1?7は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 原査定について
前記「第5」のとおり、本願発明1?7は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-05-07 
出願番号 特願2014-45132(P2014-45132)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 将一  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 鈴木 充
冨岡 和人
発明の名称 車両制御装置、車両、及び車両の制御方法  
代理人 川上 美紀  
代理人 三苫 貴織  
代理人 藤田 考晴  

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