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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16B |
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管理番号 | 1351281 |
審判番号 | 不服2018-913 |
総通号数 | 234 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-06-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-01-23 |
確定日 | 2019-05-09 |
事件の表示 | 特願2013-124870号「ねじ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月 5日出願公開、特開2015- 1241号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成25年6月13日の出願であって、平成29年1月16日付けで拒絶理由が通知され、同年5月25日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成30年1月23日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたものである。 第2 平成30年1月23日付けの手続補正についての補正却下の決定 〔補正却下の決定の結論〕 平成30年1月23日付けの手続補正を却下する。 〔理由〕 1.本願補正発明 平成30年1月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1の補正を含むものであり、その補正前後の記載は次のとおりである。 なお、下線部は補正箇所を示す。 (1)本件補正前の請求項1の記載 「【請求項1】 表面にドライバビットが係合する穴である係合部が形成され、塗装された頭部を有するねじであって、 前記係合部は、 前記ねじの軸芯上に配置された中央部と、 それぞれ前記中央部から放射方向に延びる複数の溝部と、 互いに隣接する前記溝部の間において、前記頭部の表面から前記中央部に向かって下り傾斜する傾斜部と、を備え、 前記傾斜部は、当接した前記ドライバビットの先端を中央部に導き、前記頭部の塗装が剥がれるのを防止するねじ。」 (2)本件補正後の請求項1の記載 「【請求項1】 表面にドライバビットが係合する穴である係合部が形成され、塗装された頭部を有するねじであって、 前記係合部は、 前記ねじの軸芯上に配置された中央部と、 それぞれ前記中央部から放射方向に延びる複数の溝部と、 互いに隣接する前記溝部の間において、前記頭部の表面から前記中央部に向かって下り傾斜する傾斜部と、を備え、 前記傾斜部は、当接した前記ドライバビットの先端を中央部に導くことで、前記ドライバビットを前記頭部に係合させる時に前記頭部の塗装が剥がれるのを防止するねじ。」 2.補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無について 本件補正は、補正前の請求項1に係る発明の「傾斜部」に関して、「ドライバビットを頭部に係合させる時に」頭部の塗装が剥がれるのを防止するとの限定を付すものであり、かつ、補正の前後において発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。 また、本件補正により付加された事項は、本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0011】に記載されているので、特許法第17条の2第3項の規定に適合するとともに、同条第4項の規定に違反するところはない。 3.独立特許要件について 上記のとおり、本件補正の請求項1に関する補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であるから、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (1)本願補正発明 本願補正発明は、上記「1.(2)本件補正後の請求項1の記載」に記載したとおりのものと認める。 (2)引用文献1に記載された事項及び引用発明 原査定の拒絶の理由で「引用文献1」として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-145739号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 なお、下線は当審で付したものである。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は材料に対して打ち込んだ後にねじ込むタイプの打込みネジに関する。 【0002】 【従来技術】打込みネジ用のネジ打込み機は、ドライバビットを打撃機構と回転駆動機構とに連係させ、打撃機構で駆動されることにより打込みネジに対して打ち込み作動し、続いて回転駆動機構により打ち込みネジに対して回転作動するものである。したがって、打込みネジのネジ頭部には十字穴が形成され、打込み時にドライバビットの先端の羽根部を十字穴に嵌合させて回転させるように構成されている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、打ち込み時にドライバビットの刃先が打込みネジのネジ頭部の十字穴にきちんと嵌合するとは限らない。例えば打ち込んだときの衝撃でドライバビットがリバウンドすると、いったんドライバビットの刃先が十字穴に嵌合した後に飛び出して十字穴から外れて図8(a) のように翼部20に入ってしまうことがある。打込みネジ21は中心から外れた部位を打撃されるので同図(b) のように傾いてしまうため、この状態でドライバビット22を回転させても、十字穴の中心の方が高くなってしまい、ドライバビット22は翼部20の中心に移動できずに空転してしまい、ネジ締めができなくなるという現象が発生する。 【0004】本発明は上記問題点を解消し、ドライバビットの刃先をネジ頭部の十字翼部の中心に確実に案内することができる打込みネジを提供することをその課題とする。」 イ 「【0007】 【発明の実施の形態】図1は打込みネジの側面図、図2はその拡大平面図であり、図3は図2のAーA線上の断面図、図4は図2のBーB線上の断面図である。これらの図において符号1は打込みネジの頭部、2は軸部を示す。打込みネジの頭部1の表面には十字穴3が形成されている。この十字穴3は2つの溝穴を十字形に交差させて成るもので、交差した中心部4の穴底は逆円錐状に形成され、各翼部5の穴底は中心部4に向かって低くなるように形成されている。また、各翼部5が頭部1表面となす稜線6は先端から途中までは平行であるが、途中(中心部4の手前)の点7からは幅広の非平行となるように形成されている。幅広の稜線8は中心部4に臨む位置で隣の稜線8と出会い、入隅角部9を構成している。 【0008】上記中心部4の周囲には、上記中心部4の入隅角部9を結ぶ対角線p、qをはさんでその両側に、外側から中心部4に向かって傾斜する平面状の傾斜面10、10が形成されている。なお、この傾斜面10、10の最外側11は上記翼部5の幅広部の基点7よりも外側に位置するように形成されている。」 ウ 「【0011】上述の構成によれば、図4に示されるようにドライバビット16の先端16aがが十字穴3の中心から外れた翼部5に当たった場合、打込みネジの傾きは10°程度であるが、傾斜面10において入隅角部9に出会う点13と翼部5の稜線に出会う始端点14とを結ぶ線15がネジ頭部表面となす角度αは15°以上(角度βは35°以上)となるように設定されているから、傾斜面10は正規の頭部1表面に対してなお翼部5の中心側に傾いているから、ドライバビット16の先端は傾斜面10に沿って滑り落ちていき、中心部4に案内される。 【0012】したがって、ドライバビット16の先端が打込みネジの中心部4から外れた翼部5に打ち込まれ、打込みネジが傾いてしまうことがあっても、ドライバビット16の刃先16aをネジ頭部1の十字穴3の中心に確実に案内して嵌合させることができる。」 エ 上記イの段落【0007】の記載及び【図2】の記載から、十字穴3は、2つの溝穴が交差した中心部4と、中心部4から放射方向に延びる4つの翼部5とからなるものと認められ、また、【図1】及び【図2】の記載を技術常識に照らせば、中心部4は打ち込みネジの軸芯上に配置されていると認められる。 オ 上記イの段落【0008】の記載及び【図2】並びに【図3】の記載から、傾斜面10、10は、互いに隣接する翼部5の間において、頭部1の表面から中心部4に向かって下り傾斜するものと認められる。 引用文献1には、上記ア?ウの記載事項、上記エ、オの認定事項及び【図1】?【図4】の記載からみて、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 〔引用発明〕 「表面にドライバビット16が嵌合する2つの溝穴が交差した十字穴3が形成された頭部1を有する打ち込みネジであって、 前記十字穴3は、 前記打ち込みネジの軸芯上に配置された中心部4と、 それぞれ前記中心部4から放射方向に延びる4つの翼部5と、 互いに隣接する翼部5の間において、頭部1の表面から中心部4に向かって下り傾斜する傾斜面10、10とを備え、 前記傾斜面10、10は、ドライバビット16の先端16aが十字穴3の中心から外れた翼部5に当たった場合、ドライバビット16の先端を中心部4に案内する、打ち込みネジ。」 (3)対比・判断 本願補正発明と引用発明とを対比する。 後者の「ドライバビット16が嵌合する2つの溝穴が交差した十字穴3」は、前者の「ドライバビットが係合する穴である係合部」に相当する。 後者の「頭部1を有する打ち込みネジ」は、前者の「塗装された頭部を有するねじ」と、「頭部を有するねじ」である限りにおいて一致する。 後者の「中心部4」は、前者の「中央部」に相当する。 後者の「4つの翼部5」は、十字穴3を構成する溝穴であるので、前者の「複数の溝部」に相当する。 後者の「傾斜面10、10」は、前者の「傾斜部」に相当する。 後者の「傾斜面10、10は、ドライバビット16の先端16aが十字穴3の中心から外れた翼部5に当たった場合、ドライバビット16の先端を中心部4に案内する」ことは、前者の「傾斜部は、当接したドライバビットの先端を中央部に導く」ことに相当する。 そうすると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。 〔一致点〕 「表面にドライバビットが係合する穴である係合部が形成された頭部を有するねじであって、 前記係合部は、 前記ねじの軸芯上に配置された中央部と、 それぞれ前記中央部から放射方向に延びる複数の溝部と、 互いに隣接する前記溝部の間において、前記頭部の表面から前記中央部に向かって下り傾斜する傾斜部と、を備え、 前記傾斜部は、当接した前記ドライバビットの先端を中央部に導く、ねじ。」 〔相違点〕 本願補正発明は、頭部が「塗装され」た「ねじ」であって、傾斜部は「ドライバビットを頭部に係合させる時に頭部の塗装が剥がれるのを防止する」ものであるのに対して、引用発明は、「打ち込みネジ」であって、また、頭部1が塗装されているとは特定されておらず、そのため、傾斜面10、10が、ドライバビット16を頭部1の十字穴3に嵌合するときに頭部1の塗装が剥がれるのを防止するものではない点。 上記相違点について以下検討する。 引用発明は「打ち込みネジ」であるものの、ねじとして機能する形状及び構造を有しているものであると認められる以上、「ねじ」の一種であり、よって、本源補正発明が「ねじ」であるのに対し、引用発明が「打ち込みネジ」であることは、実質的な相違点を構成するとはいえない。 また、頭部が塗装されたねじは本願出願前に周知であり(例えば、原査定で周知例として「引用文献3」として例示された特開2011-226520号公報の段落【0002】?【0003】の記載、及び、同じく「引用文献4」として例示された特許第4622867号公報の段落【0007】の記載、さらには、特開平6-81825号公報の段落【0002】、【0004】の記載を参照)、当該頭部が塗装されたねじは、ねじとして通常に機能する形状及び構造を有するものであるので、引用発明のような打ち込みネジにおいても、頭部が塗装されたものとする動機付けは十分にあり、また、その適用を阻害する要因も認められない。 そうしてみると、引用発明を、頭部が塗装されたねじとすることは、周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることといえる。そして、引用発明において、ドライバビット16の先端は中心部4に案内されることになるので、引用発明に上記の周知の事項を適用したねじにあっては、「ドライバビットを頭部に係合させる時に頭部の塗装が剥がれるのを防止する」作用が奏されることは明らかといえる。 したがって、引用発明を、相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることといえる。 なお、ねじ全般において、ドライバビットをねじ溝に嵌合する際に、正しく中央部に案内させることは一般的な課題といえ、上記周知の頭部が塗装されたねじに、引用発明の打ち込みネジにおける傾斜面10、10を有した十字穴3の形状を適用することも、当業者が容易に想到し得ることといえる。 そして、本願補正発明の奏する作用及び効果を検討しても、引用発明及び周知の事項から予測できる程度のものであって格別のものではない。 よって、本願補正発明は、引用発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (4)むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成29年5月25日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記「第2 1.(1)本件補正前の請求項1の記載」に記載されたとおりのものである。 2.原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1又は2に記載された発明及び周知の事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1:特開2000-145739号公報 引用文献2:登録実用新案第3135707号公報 引用文献3:特開2011-226520号公報 引用文献4:特許第4622867号公報 3.引用文献1に記載された事項及び引用発明 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1に記載された事項及び引用発明は、上記「第2 3.(2)」に記載したとおりである。 4.対比・判断 本願発明は、上記「第2 3.」で検討した本願補正発明から「ドライバビットを頭部に係合させる時に」との限定を省いたものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 3.(3)」で示したとおり、引用発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、引用発明及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-02-27 |
結審通知日 | 2019-03-05 |
審決日 | 2019-03-18 |
出願番号 | 特願2013-124870(P2013-124870) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(F16B)
P 1 8・ 121- Z (F16B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 保田 亨介、村山 禎恒 |
特許庁審判長 |
大町 真義 |
特許庁審判官 |
平田 信勝 藤田 和英 |
発明の名称 | ねじ |
代理人 | 佐藤 武史 |