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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29D
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B29D
管理番号 1351291
審判番号 不服2018-6413  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-09 
確定日 2019-05-09 
事件の表示 特願2014-103626「ゴム押出物、ゴム巻取体、及びゴム押出装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月 7日出願公開、特開2015-217618〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年5月19日の出願であって、平成29年11月30日付け拒絶理由通知に応答して平成30年1月12日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年2月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年5月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明について
本願の請求項1?9に係る発明は、平成30年1月12日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1、及び、出願時の特許請求の範囲の請求項2?9に記載のとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「押出方向に垂直な断面で、幅方向の中心線に対して、厚さの分布が非対称に押し出され、タイヤ成形ドラム上に巻き付けられて生タイヤを形成するためのゴム押出物であって、
前記タイヤ成形ドラムに対する前記ゴム押出物の向きを識別するための溝が、前記中心線によって隔てられる前記幅方向の一方側に、前記押出方向に連続して形成されていることを特徴とするゴム押出物。」

第3 原査定の拒絶の理由
拒絶査定の理由(平成29年11月30日付け拒絶理由通知書の理由)は、概略、次のとおりのものを含む。

1.(新規性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物(引用文献1)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物(引用文献1)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献1>特開平10-249955号公報


第4 引用文献の記載及び引用発明
1.引用文献1の記載
ゴム押出し部材および部材貼着方法に関するものである引用文献1には、以下の記載がある。(下線は当審で付した。以下、同様である。)

「【請求項1】 タイヤの成形時に使用されるゴム押出し部材であって、該ゴム押出し部材の表面の長手方向に1本の標識用の略V字型の溝を設け、該溝の深さは0.3?1mmで、表面上での幅は0.5?1.5mmであることを特徴とするゴム押出し部材。
【請求項2】 タイヤの成形時に使用されるゴム押出し部材の表面の長手方向に設けられたV字型の溝を目標位置として該ゴム押出し部材を他の部材に貼着または他の部材を該ゴム押出し部材に貼着することを特徴とする部材貼着方法。」

「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は・・・確実に見やすい標識溝をゴム押出し部材に設けることにより、精度の高い部材の貼着を可能にするゴム押出し部材を提供するとともにその貼着方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、本発明のタイヤの成形時に使用されるゴム押出し部材にあっては、図1に示すようにゴム押出し部材1の表面の長手方向に1本の標識用の略V字型の溝3を設け、溝3の深さは0.3?1mmで、表面上での幅は0.5?1.5mmであるという構成を採用している。このため、本発明のゴム押出し部材を・・・他の部材に貼着する時、または図5に示すように他の部材を本発明のゴム押出し部材を貼着する時、V字型の溝3を目標とするため従来の凸ラインとは明らかに区別がしやすく凸ラインのように潰れたりしないので正確に貼着することができる。」

「【0006】
【発明の実施の形態】以下本発明に実施の形態を図に基づいて説明する。図1は本発明をサイドトレッドに適用した場合を示しており、押出し部材1の表面には1本のV字型の溝3と3本の凸ラインが設けられている。凸ラインは口金2と押出し部材1との位置関係を明らかにして、当初意図した形状通りに部材が押し出されているかどうか確認するためのものであり、V字型溝3は図3で示すように押出し部材1を成型ドラム上で正確な位置に貼着するために設けられており、投光線Lにこの溝を合わせることによりサイドトレッドを真っ直ぐに正確に貼着するものである。
【0007】・・・さらに、図5はビード部を補強するための硬軟2種類のスティフナーをプリアッセンブルしている例を示しているもので、一方のスティフナーに設けられたV字型の溝3を目標に他方のスティフナーの部材を貼着している図である。
【0008】次に、本発明の効果を確かめるべくサイドトレッドについて表1に示すように各種V字型溝の深さ、幅について試作評価した。評価項目は、貼着時の見やすさと溝への異物の咬み込みの状況および製品時の外観の状況である。貼着時の見やすさは溝の深さと幅が大きい程よく、異物の咬み込みと製品時の外観については溝の深さと幅が小さい程よいわけである。これらの結果について同じく表1に示す。評価は×と△は、実用上問題あるレベルとし、○と◎は合格レベルである。
【0009】
【表1】

【0010】表1より、ゴム押出し部材の貼着の際の位置決めをする目標としては部材にV字型の溝を入れるのが見やすく、この溝の深さは0.3?1mmで、表面上での幅は0.5?1.5mmであれば溝に異物が侵入することもなく、また製品時にV字型溝に相当する部分に外観不良が発生することがないことがわかる。」

「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例を示すゴム押出し部材と押出機の口金である。
・・・
【図3】成形ドラム上でゴム押出し部材であるサイドトレッドを他の部材に貼着している図である。
・・・
【図5】プリアッセンブル工程でゴム押出し部材に他の部材を貼着してしている図である。
【符号の説明】
1 ゴム押出し部材
2 口金
3 標識溝(V字型の溝)
4 凸ライン
5 標識溝に対応する口金突起
6 凸ラインに対応する口金の切欠
7 成形ドラム
8 他の部材
L 位置決め用投光線(レーザー光)



2.引用発明
引用文献1には、【0006】及び図1から、請求項1に記載される発明(ゴム押出し部材)の実施の態様として、サイドトレッドであるゴム押出し部材1の表面の長手方向に連続して、投光線Lに合わせることにより、サイドトレッドゴム押出し部材1を成型ドラム上で真っ直ぐに正確な位置に貼着するための標識用のV字型の溝3が1本設けられたものが記載されている。
また、図1には、サイドトレッドゴム押出し部材1について、押出方向に垂直な断面で、幅方向の中心線に対して、厚さの分布が非対称に押し出されている構成がみてとれる。

さらに、引用文献1には、【0007】及び図5から、請求項1に記載される発明の別の実施の態様として、スティフナーであるゴム押出し部材1の表面の長手方向に連続して、他のスティフナー部材8を貼着するための目標位置となる標識用のV字型の溝3が1本設けられたものが記載されている。
また、図5には、スティフナーゴム押出し部材1について、押出方向に垂直な断面で、幅方向の中心線に対して、厚さの分布が非対称に押し出されている構成がみてとれる。

そうすると、引用文献1には、次の発明が記載されているといえる。

「押出方向に垂直な断面で、幅方向の中心線に対して、厚さの分布が非対称に押し出された、タイヤの成形時に使用されるサイドトレッドゴム押出し部材であって、該ゴム押出し部材の表面の長手方向に連続して設けられ、投光線に合わせることにより、該押出し部材を成型ドラム上で真っ直ぐに正確な位置に貼着するための標識用のV字型の溝が1本設けられ、該溝の深さは0.3?1mmで、表面上での幅は0.5?1.5mmであるサイドトレッドゴム押出し部材。」(以下、「引用発明1」という。)

「押出方向に垂直な断面で、幅方向の中心線に対して、厚さの分布が非対称に押し出された、タイヤの成形時に使用されるスティフナーゴム押出し部材であって、該ゴム押出し部材の表面の長手方向に連続して設けられ、他のスティフナー部材を貼着するための目標位置となる標識用のV字型の溝が1本設けられ、該溝の深さは0.3?1mmで、表面上での幅は0.5?1.5mmであるスティフナーゴム押出し部材。」(以下、「引用発明2」という。)

第5 本願発明と引用発明1との対比・判断
1.対比
本願発明と引用発明1を対比する。
(ア) 引用発明1の「サイドトレッドゴム押出し部材」及び「V字型の溝」は、それぞれ、本願発明の「ゴム押出物」及び「溝」に相当する。
また、引用発明1の「ゴム押出し部材の(表面の)長手方向」は本願発明の「押出方向」に相当する。
(イ) 引用発明1のサイドトレッドゴム押出し部材は、「タイヤの成形時に使用される」ものであって、「成型ドラム上」で「貼着」されるものであるから、これは、本願発明のゴム押出物が「タイヤ成形ドラム上に巻き付けられて生タイヤを形成するため」のものであることに相当するといえる。

そうすると、本願発明と引用発明1との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「押出方向に垂直な断面で、幅方向の中心線に対して、厚さの分布が非対称に押し出され、タイヤ成形ドラム上に巻き付けられて生タイヤを形成するためのゴム押出物であって、
溝が、前記押出方向に連続して形成されているゴム押出物。」

<相違点1>
本願発明では、ゴム押出物に設けられる溝について、「タイヤ成形ドラムに対する前記ゴム押出物の向きを識別するための」ものと特定されており、また、溝を形成する位置について、「(幅方向の)中心線によって隔てられる前記幅方向の一方側」に形成されると特定されているのに対して、引用発明1では、溝について、「投光線に合わせることにより、該押出し部材を成型ドラム上で真っ直ぐに正確な位置に貼着するための標識用」のものと特定されており、また、溝を形成する位置については特定されていない点。

2.判断
(1)相違点1について検討する。
物を構成する要素が異なった機能を目的として形成された場合であっても、その物の構成要素の形状・寸法等の構造上の特徴が同じ場合には、当該構成要素がどのような機能を目的として形成されたかに関わらず、物の構造としては区別できない。
そこで、本願発明の「タイヤ成形ドラムに対する前記ゴム押出物の向きを識別するため」の溝と引用発明1のV字型の溝が、物の構造として区別できるかについて検討すると、本願発明の「溝」について、本願明細書の【0050】及び【0052】の【表1】の各種実施例には、断面が曲率半径0.4?0.8mmの円弧状(円弧が真円の半円部分とすると、溝の深さは0.4?0.8mm、幅は、0.8?1.6mmとなる。)あるいは三角形状であり、作業者が識別手段である溝の視認性を官能評価した場合に、視認性(識別性)が優れるものであるとの記載がある。
一方、引用発明1の「V字型の溝」については、引用文献1の【0003】に「確実に見やすい標識溝」と記載され、また、【0009】の【表1】において、貼着時の見やすさが確認されているとおり、貼着作業をする作業者が見やすい構造、すなわち、視認性に優れたものであるといえるし、引用発明1のV字型の溝(この断面形状は「三角」となる。)は、溝の深さ0.3?1mmで、幅0.5?1.5mmであり、本願発明の実施例と同程度の寸法であるといえる。
そうすると、本願発明の「タイヤ成形ドラムに対する前記ゴム押出物の向きを識別するため」の溝と、引用発明1のV字型の溝は、物の構造としては区別できないといえる。

次に、引用発明1のサイドトレッドゴム押出し部材にV字型の溝を設ける位置について検討する。
引用発明1におけるV字型の溝は、投光線に合わせることにより、押出し部材を成型ドラム上で真っ直ぐに正確な位置に貼着するための標識用のものであるから、部材の構造を損なわない範囲で幅方向のいずれの位置に設けられていてもよいものであるといえる。
また、目標位置を部材上に投光表示し、部材上に設けた標識と投光表示の位置を一致させるように貼着されるように構成された部材において、標識が部材の左右の一方側に設けられたものは、本願の出願時周知であった(例えば、特開平10-109367号公報(原査定の拒絶理由で引用された引用文献3)の【0011】及び図2、5のガイド突条17についての記載参照。)。
そうすると、引用発明1には、サイドトレッドゴム押出し部材おけるV字型の溝の位置を、上記の周知技術に示されるような部材の左右の一方側とした態様が含まれているといえる。そして、その場合、引用発明1の溝は、タイヤ成形ドラムに対するゴム押出し部材の(左右の)向きを識別する機能も必然的に備えることになる。
してみると、引用文献1には、引用発明1として、サイドトレッドゴム押出し部材の表面に設けられるV字型の溝がサイドトレッドゴム押出し部材の左右の一方側(幅方向の一方側)に設けられており、該溝がタイヤ成形ドラムに対する前記ゴム押出物の向きを識別する機能を有する態様が記載されているに等しいといえるから、相違点1は、実質的には相違点とはいえない。
(なお、引用発明1の態様として、V字型の溝がサイドトレッドゴム押出し部材の左右の一方側に設けられる態様が含まれていることは、引用文献1の図1において、V字型の溝3がサイドトレッドゴム押出し部材1の、(図1正面から見て)右側、つまり、押出方向に垂直な断面で、幅方向の中心線によって隔てられる幅方向の一方側である右側に設けられていることからも確認できる。)

以上のとおり、本願発明と引用発明1には実質的には相違点はないのであるから、本願発明は引用発明1、すなわち、引用文献1に記載された発明である。

(2)仮に、上記相違点1が実質的な相違点であるとしても、上述のとおり、部材の貼着目標位置を部材上に投光表示し、部材上に設けた標識と投光表示の位置を一致させるように貼着されるように構成された部材において、標識が部材の左右の一方側に設けられたものが本願の出願時周知だったのであるから、引用発明1の、投光線に合わせることにより、押出し部材を成型ドラム上で真っ直ぐに正確な位置に貼着するための標識に用いられるV字型の溝を、ゴム押出し部材の左右の一方側(幅方向の一方側)に設けたものとすること、すなわち、引用発明1を、相違点1に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たことに過ぎない。
次に、本願発明の効果に関し、本願明細書の【0017】に「ゴム押出物がタイヤ成形ドラムに対して正しい向きに巻き付けられ、設計目標に対して正しい断面形状のタイヤが製造可能となる。」と記載されているので検討する。
左右の一方側に溝が設けられている構造のゴム押出物を成形ドラムに巻き付けるにあたり、当業者が、該溝がゴム押出物の左右のどちら側に設けられているかを認識している場合には、前記ゴム溝の位置を視認した時点で、自ずから部材の(左右の)向きを識別することになり、左右の向きを間違えて巻き付けることはない。一方、左右どちら側に設けられているかを認識していない当業者は、溝が左右の一方側に設けられているゴム押出物を使用しても、部材をタイヤ成形ドラムに対して左右正しい向きに巻き付けることはできない。そして、これは、本願発明のゴム押出物も引用発明1のゴム押出し部材にも同様にあてはまる。よって、本願発明の効果は格別とはいえない。

(3)請求人は、審判請求書の7?8頁(3.)において、引用文献1の図3のゴム押出し部材の向きを誤って貼り付けた状態を模式的に示す参考図を示して、「参考図において、V字型の溝3は、投光線Lに合わせられてはおりますが、ゴム押出し部材1を誤った向きで貼り付けてしまうおそれがあります。従って、V字型の溝3は、ゴム押出し部材1の向きを正しく識別する機能までは有していないことは明らかです。」と主張する。
しかしながら、本願発明は、「ゴム押出物」という物の発明であって、例えば、幅方向の一方の側に溝を有するゴム押出物を、溝がタイヤ成形ドラムの特定の側になる向きで巻き付けるといった方法の発明ではないところ、引用発明1のサイドトレッドゴム押出し部材に設けられたV字型の溝も、本願発明の溝も、物の構成要素としての構造が区別できないことは上記(1)で述べたとおりである。
そして、物の構造が同じである以上、引用発明1のゴム押出し部材を誤った向きで貼り付けてしまうおそれがあれば、本願発明のゴム押出物も誤った向きで貼り付けてしまうおそれがあるし、また、本願発明のゴム押出物の溝が向きを正しく識別する機能を有しているのであれば、引用発明1の溝もゴム押出し部材の向きを正しく識別する機能を有しているといえる。
よって、請求人の主張は採用できない。

(4)以上のとおりであるから、本願発明は引用文献1に記載された発明であるか、また、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。


第6 本願発明と引用発明2との対比・判断
1.対比
本願発明と引用発明2を対比する。
(ア) 引用発明2の「スティフナーゴム押出し部材」は、本願発明の「ゴム押出物」に相当する。
(イ) 引用発明2の「スティフナーゴム押出し部材」は、「タイヤの成形時に使用される」ものであって、該押出し部材への「他のスティフナー部材」の「貼着」が、「成型ドラム上」で行われることは当業者に自明の事項であるから、これは、本願発明のゴム押出物が、「タイヤ成形ドラム上に巻き付けられて生タイヤを形成するため」のものであることに相当するといえる。
そして、上記第5の1.における本願発明と引用発明1との対比を踏まえて、本願発明と引用発明2を対比すると、両者の一致点・相違点は次のとおりである。
<一致点>
「押出方向に垂直な断面で、幅方向の中心線に対して、厚さの分布が非対称に押し出され、タイヤ成形ドラム上に巻き付けられて生タイヤを形成するためのゴム押出物であって、
溝が、前記押出方向に連続して形成されているゴム押出物。」

<相違点2>
本願発明では、ゴム押出物に設けられる溝について、「タイヤ成形ドラムに対する前記ゴム押出物の向きを識別するため」のものと特定されており、また、溝を形成する位置について、「(幅方向の)中心線によって隔てられる前記幅方向の一方側」に形成されると特定されているのに対して、引用発明2では、溝について、「他のスティフナーの部材を貼着するための目標位置となる標識用」のものと特定されており、また、溝を形成する位置についての特定はされていない点。

2.判断
(1)相違点2について検討する。
上記第5の2.(1)で説示したとおり、物を構成する要素が異なった機能を目的として形成された場合であっても、その物の構成要素の構造上の特徴が同じ場合には、当該構成要素がどのような機能を目的として形成されたかに関わらず、物の構造としては区別できない。
そこで、本願発明の「タイヤ成形ドラムに対する前記ゴム押出物の向きを識別するため」の溝と引用発明2のV字型の溝が、物の構造として区別できるかについて検討すると、本願発明の「溝」は、上記第5の2.(1)で説示したとおり、視認性に優れたものであり、一方、引用発明2の「V字型の溝」も、同様に視認性に優れたものである(上述の引用文献1の【0003】参照。)。また、引用発明2のV字型の溝は、本願発明の実施例と同程度の寸法である。
そうすると、本願発明の「タイヤ成形ドラムに対する前記ゴム押出物の向きを識別するため」の溝と、引用発明2のV字型の溝は、物の構造としては区別できないものである。

次に、引用発明2のスティフナーゴム押出し部材にV字型の溝を設ける位置について検討する。
引用文献1の図5の、スティフナーゴム押出し部材1の右側に設けられた標識溝(V字型の溝)3を目標にして他のスティフナー部材8を貼着している図面の記載から明らかなとおり、引用発明2には、スティフナーゴム押出し部材の右側、つまり、押出方向に垂直な断面で、幅方向の中心線によって隔てられる幅方向の一方側にV字型の溝が設けられる態様が含まれている。そして、その場合、引用発明2の溝は、タイヤ成形ドラムに対するゴム押出し部材の左右の向きを識別する機能も必然的に備えることになる。
そうすると、引用文献1には、V字型の溝がスティフナーゴム押出し部材の中心線によって隔てられる幅方向の一方側に設けられ、該溝が、タイヤ成形ドラムに対するゴム押出物の向きを識別するための機能を有する態様について記載されているに等しいといえるから、相違点2は、実質的には相違点ではない。
よって、本願発明は引用発明2、すなわち、引用文献1に記載された発明である。

(2)仮に、上記相違点2が実質的な相違点であるとしても、引用発明2のスティフナーゴム押出し部材におけるV字型の溝は、ゴム押出し部材に他の部材を貼着する際の目標とするための溝であって、この位置は、他の部材を貼着する位置に応じて当業者が適宜決め得るものである。そして、ゴム押出し部材の左右の一方側に他のスティフナー部材を貼着する際には、この溝は、左右の一方側に設けられることになるから、引用発明2のV字型の溝を、ゴム押出し部材の左右の一方側(幅方向の一方側)に設けたものとすること、すなわち、引用発明2を、相違点2に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たことに過ぎない。
また、本願発明の効果については、上記第5の2.(2)で述べたと同様の理由によって、格別とはいえない。

(3)以上のとおり、本願発明は引用発明2、つまり、引用文献1に記載された発明であるか、また、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。


第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないし、また、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-03-06 
結審通知日 2019-03-12 
審決日 2019-03-26 
出願番号 特願2014-103626(P2014-103626)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B29D)
P 1 8・ 113- Z (B29D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増永 淳司  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 加藤 友也
渕野 留香
発明の名称 ゴム押出物、ゴム巻取体、及びゴム押出装置  
代理人 住友 慎太郎  

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