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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C02F 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C02F |
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管理番号 | 1351329 |
審判番号 | 不服2018-3916 |
総通号数 | 234 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-06-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-03-20 |
確定日 | 2019-05-08 |
事件の表示 | 特願2016- 12268「マイクロクラスタ蒸留水機」拒絶査定不服審判事件〔平成28年10月20日出願公開、特開2016-182594〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年1月26日(パリ条約による優先権主張 2015年3月26日 台湾(TW))の出願であって、平成29年3月23日付けで拒絶理由通知がされ、同年6月8日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年11月22日付けで拒絶査定がされ、平成30年3月20日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし20に係る発明は、平成30年3月20日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。 「【請求項1】 本体と熱水タンクと冷却モジュールと水クラスタ細化器とを含むマイクロクラスタ蒸留水機であって、 前記本体が、吐水口を有し、 前記熱水タンクが、前記本体の内部に設置されて水を収容して水蒸気が発生するまで加熱し、 前記冷却モジュールが、前記本体の内部に設置されて凝縮管及び吐水管を有し、 前記凝縮管の頭端が、前記熱水タンクの頂部に連通され、 前記凝縮管の末端が、前記吐水管の頭端に連通され、 前記吐水管の末端が、前記吐水口に連通され、 前記水クラスタ細化器が、蒸留水に含まれる水クラスタを小さくして前記水クラスタをマイクロクラスタとするものであって前記吐水管に設置された永久磁石を有し、 前記永久磁石の磁束密度が、3000?5000Gsであることを特徴とするマイクロクラスタ蒸留水機。」 第3 原査定の拒絶の理由の概要 原審における拒絶査定の理由の一つは、要するに、 「この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」 というものであり、他の一つは、要するに、 「本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」 というものである。 第4 当審の判断 1 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について (1)発明の詳細な説明の記載事項 本願明細書における発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 (a)「【0001】 本発明は、飲用水供給装置に関し、特に、蒸留水の水クラスタを小さくすることができるマイクロクラスタ蒸留水機に係るものである。」 (b)「【背景技術】 【0002】 水分子は、一個の酸素原子と二個の水素原子とからなるものであるが、一個の水分子は、単独で存在することができない。 水分子同士の間に、水素結合が形成され、水クラスタを形成するからである。 一般的に、水道水の水クラスタは、14個以上の水分子からなる。 【0003】 水クラスタの測定について、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance、略してNMR)を用いて水の振動周波数を測定することにより、水クラスタの水分子数量を知る方法がある。 すなわち、振動周波数が高ければ高いほど、水クラスタが大きく、含まれる水分子数量が多く、水の品質が低い。 例えば、井水、雨水、河水、水道水(大きさは、およそ10?15個の水分子に相当する)の振動周波数は、いずれも100Hzを超え、ミネラルウォーター(大きさは、およそ8?9個の水分子に相当する)の振動周波数は、およそ90Hzであり、沖縄の長寿村の水(大きさは、およそ7?8個の水分子に相当する)の振動周波数は、およそ85Hzである。 【0004】 また、研究によれば、水クラスタは、クラスタを小さくする方法により、外力を加えて水素結合を破壊し、水クラスタの水分子同士の結合力を遮断し、水分子を再び配列させて高密度の水クラスタを形成する。 こういった水クラスタは、およそ5?9個の水分子を含み、「マイクロクラスタ水」と称され、振動周波数は、90Hzより低い。」 (c)「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 一方、飲用の利便性を向上させるように、住宅、会社、政府機関、展覧会場などの室内環境、ひいては、学校、公園などの室外環境に、さまざまな蒸留水機が設置されている。 しかしながら、台湾第424554号公告「蒸留水機」、台湾第533903号公告「蒸留水機の構造改良」、台湾第M378929号公告「太陽エネルギー集光蒸留水機」及び台湾第M463100号公告「蒸留水機の改良構造」などの実用新案登録に開示される従来の蒸留水機は、いずれも水クラスタを小さくする機能を有さないため、残念ながら、我々は、飲み応えが良く、かつ、健康に有益なマイクロクラスタ蒸留水を飲むことができない。 【0008】 以上に鑑みて、従来の蒸留水機には、依然として改良の必要がある。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明は、蒸留水の水クラスタを小さくし、マイクロクラスタ蒸留水を利用者の飲用に提供することができるマイクロクラスタ蒸留水機を提供する。 【0010】 本発明は、容易に蒸留水機に取り付けられ、マイクロクラスタ蒸留水を利用者の飲用に提供させることができる水クラスタ細化器を提供する。」 (d)「【0031】 これにより、本発明のマイクロクラスタ蒸留水機は、吐水管の外周に設置された永久磁石を有する水クラスタ細化器により、永久磁石の磁力をもって吐水管を通る蒸留水の水クラスタを小さくする。」 (e)「【0034】 本発明のマイクロクラスタ蒸留水機の一つの実施例は、図1に示す。 前記マイクロクラスタ蒸留水機1は、概して本体1、熱水タンク2、冷却モジュール3及び水クラスタ細化器4を含み、熱水タンク2、冷却モジュール3及び水クラスタ細化器4はいずれも前記本体1の内部に設置される。」 (f)「【0039】 前記水クラスタ細化器4は、少なくとも永久磁石41を有し、この永久磁石41は、吐水管32に設置され、この永久磁石41の磁力により吐水管32を通る蒸留水を磁化させ、その水クラスタを小さくする。 前記永久磁石41の磁場強度は、約3000?5000 Gsであり、好ましくは、4000±10% Gsである。」 (g)「【0049】 図7に示されるように、マイクロクラスタ蒸留水機に作製されたマイクロクラスタ蒸留水を、ドイツのブルカー社(Bruker Corporation)製の核磁気共鳴装置を用いて測定した結果、吸収ピークが、化学シフト3.18ppmに現れたため、振動周波数(吸収ピークの周波数)が、68.17Hzであると推定し、前記振動周波数が、90Hzより小さいので、「マイクロクラスタ水」の定義に合致する。」 (h)「 」 (2)本願優先日の技術常識を示す先行技術文献 先行技術文献1:三浦 靖 編著、「水の機能化」 初版第1刷、株式会社工業調査会、2004年 9月 1日、p.138-140 先行技術文献2:「『活水器』の表示に関する科学的視点からの検証について」、東京都生活文化局、2005年2月、p.3-5、8 (3)先行技術文献の記載事項 ア 先行技術文献1の記載事項 先行技術文献1には以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。以下、同様である。)。 (1a)「4 分子クラスタが小さい水 おいしい水,健康によい水として宣伝されている水の宣伝には水分子のクラスタが小さいという言葉がよく出てくる。固体の水(氷)では,水分子は周囲の水分子に束縛されて自由に動けずに規則的な位置に収まっている。気体の水(水蒸気)では,単分子として自由に動き回る。一方,水の液体構造については,従来から混合モデル(水を水素結合しているクラスタと自由な水分子の混合物からなる系として,これらの成分の間に熱力学的平衡が成立していると考えるモデル),ならびに連続体モデル(歪んだ水素結合で水全体が繋がっているとするモデル)などが考えられてきた。 水分子のクラスタは,混合モデルで考えられているものである。完全に水素結合を保っている氷が溶けて液体になるとき,いくつかの水素結合が切れたために液体の水になるという考えである。水素結合が切れると,水分子はあるまとまった大きさの集団になっていて,その水分子の集団をクラスタと呼ぶ(図12.1)^(1))。この考えからすると,氷ならすべての水分子が水素結合で結合しているが,液体の水では部分的に氷の構造を残しながらも,単分子の水分子がそのすき間に入り込むことになる。ここで注意すべきことは,水分子のクラスタは固定的なものではなく,きわめて激しい変化の中にあるということである。すなわち,ある水クラスタの構造が保たれているのは10^(-12)s(1ps)程度の非常に短い時間であるので,短時間で生成・消滅している非常に動的なものである。 一般的に,通常の水と比べて何らかの活性をもった水を活性水と呼んでいる。そのうち特定の機能をもった水を機能水と呼ぶ。しかし,活性水と機能水との間の共通性や相違点の明確な定義はない。これらは共通して,「水は何らかの微弱なエネルギーを受けると,水の構造(クラスタ)が小さくなって,細胞に浸透しやすくなり,植物の成長を促進したり,味がよくなったりする。クラスタの小さい水は健康によい」と述べているが,科学的な裏付けはなされていない。以前には,^(17)O-NMRの半値幅を測定し,「半値幅が小さい水はクラスタが小さい」といわれたことがあるが,現在では^(17)O-NMR半値幅は水分子の回転運動とプロトンの交換速度の総合的情報を表すものであり,水分子のクラスタの大小表すものではないと結論が出されている。」(138頁4行?139頁7行) (1b)「なお,真空中に液体のジェットを吹き出して数分子からなる細かい液滴を作って質量や成分を分析する実験技術があり,このときできる微小液滴をクラスタと呼ぶ。このクラスタは実体もあるし測定できる。しかし,液体中で分子がクラスタを作って存在するかどうかはまた別の問題である。液体状態でクラスタの集まりを測定する方法は今のところない。」(140頁3行?15行) (1c)「 」(140頁) イ 先行技術文献2の記載事項 先行技術文献2には以下の記載がある。 (2a)「3 『活水器』で『水のクラスター』が小さくなる? (1)『クラスター』とは クラスター(cluster)とは、『数個から数百個の原子又は分子が凝集して形成される原子又は分子の集団』のことである(『理化学辞典 第5版』岩波書店)。 何個かの水分子が水素結合によって集合している状態のことを一般的に水分子のクラスターと呼んでいる。こうした結合は、非常に短い時間(ピコ秒:1兆分の1秒単位)で変幻自在に生成消滅を繰り返しているといわれている。今のところ、液体状態での水のクラスターの大きさを測定する手段は確立されていない。 しかし、『活水器』に係る表示の中には、『水道水の大きなクラスター集団を切り離して小さな(数個単位の)クラスターにする』といったものが見受けられる。」(3頁1行?10行) (2b)「 」(3頁) (2c)「(2)『^(17)O NMR半値幅』と水のクラスター 水のクラスターの大きさを測定する方法として、『^(17)O NMR半値幅』を測定^(※1)し、これが小さくなったことをもって『クラスターが小さくなった』とする説がある。しかし、この説は、1993年に水環境学会誌に掲載された論文^(※2)により否定されるなど、専門家の間で問題視されている。 ※1 質量数17の酸素(^(17)O)の原子核が電磁波を吸収する波長などの様子から、その原子を含む分子の情報を測定する分析方法(NMR法:Nuclear Magnetic Resonance Method) ※2 大河内正一,石原義正,荒井強,上平恒(1993):NMR分光法による水評価,水環境学会誌,16,409-415. (3)水のクラスターの大きさは測定できない。 上記(1)及び(2)から、現時点においては、『^(17)O NMR半値幅』の測定結果を根拠に『活水器で水道水のクラスターが小さくなった』と結論付けることはできない。科学的根拠が問題視されているデータ解釈をもとに、商品の優良性等を断定的に表示することは、客観的事実に基づいたものであるとは認められず、実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認を与えるおそれがある。 (4)クラスターに関する表示 以上のことを踏まえ、今回調査・検証した『活水器』の表示を見ると、下表以下のようなものがあり、いずれも客観的事実に基づいた表示であるとは認められず、景品表示法に違反するおそれがある。」(3頁11行?4頁11行) (2d)「 」(4頁?5頁) (2e)「おわりに 消費者の健康志向の高まりなどを受けて、商品やサービスについて、一見、科学的な根拠に基づいて、さまざまな効果・性能があるかのように表示しているものが多くみられる。 しかし、今回行った『活水器』の表示に関する調査・検証結果において、次の3点が認められた。 I 現時点で行われている試験結果からは、『水のクラスターが小さくなる』と結論付けることはできない。こうした中で、『水のクラスターが小さくなる』等と断定的に表示することは、客観的事実に基づいたものとは認められない。 II 『活水器』の様々な効果・性能に係る表示については、クラスターが小さくなることとの関連性が不明確であり、表示の根拠として提出された資料は客観的事実に基づくものとは認められなかった。 III インターネットを利用した通信販売事業者の中には、取扱商品について十分な情報や根拠を持たないまま、表示を行っているものがある。」(8頁1行?14行) (4)判断 ア 上記(1)(a)によれば、本願発明は、蒸留水の水クラスタを小さくすることができるマイクロクラスタ蒸留水機に係るものである、とされている。 イ 上記(1)(b)によれば、本願発明における「水クラスタ」及び「マイクロクラスタ水」とは、以下のものである、とされている。 (ア)水分子同士の間に水素結合が形成されて水クラスタを形成する。一般的に水道水の水クラスタは14個以上の水分子からなる。 (イ)核磁気共鳴(NMR)を用いて水の振動周波数を測定することにより水クラスタの水分子数量を知ることができる。振動周波数が高ければ高いほど水クラスタが大きく含まれる水分子数量が多く、水の品質が低い。 (ウ)クラスタを小さくする方法により、外力を加えて水クラスタの水素結合を破壊し、水クラスタの水分子同士の結合力を遮断し、水分子を再び配列させて高密度の水クラスタを形成することができる。こういった水クラスタはおよそ5?9個の水分子を含み、「マイクロクラスタ水」と称され、振動周波数は、90Hzより低い。 ウ 上記(1)(d)、(e)及び(f)によれば、本願発明の「マイクロクラスタ蒸留水機」は、吐水管の外周に設置された永久磁石を有する水クラスタ細化機により、永久磁石の磁力をもって吐水管を通る蒸留水の水クラスタを小さくする、とされている。 エ 上記(1)(g)によれば、本願発明の「マイクロクラスタ蒸留水機」により作製されたマイクロクラスタ蒸留水は、核磁気共鳴装置により測定された吸収ピークが化学シフト3.18ppmに現れたため、振動周波数(吸収ピークの周波数)が、68.17Hzであると推定され、振動周波数が90Hzより小さいので、「マイクロクラスタ水」の定義に合致する、とされている。 ところで、核磁気共鳴(NMR)を用いた測定法は、^(1)H、^(17)O等の様々な核種を対象とした測定が可能であり、また、化学シフト等の様々な測定値を得られる測定法であることが技術常識である。一方、(1)(b)、(g)等の記載からは、「振動周波数(吸収ピークの周波数)」が、いかなる核種を対象としたいかなる測定値を指すのか必ずしも明確でなく、また、3.18ppmなる化学シフト(吸収ピークの位置)から「振動周波数(吸収ピークの周波数)」を推定する方法も不明である。 ただし、審判請求書において請求人が引用している公知文献(Li et al. 『液体の水のクラスタ構造に関する核磁気共鳴分析』化学通報2004年第67巻(中国)http://www.hxtb.org)には、「^(17)O核磁気共鳴スペクトル線幅」、「^(17)O NMR FWHM」との記載があり、また、上記(1)(h)に示されるNMR測定結果中にも、「17O」及び「「1/2 width=68.17HZ」との記載があることを考慮すると、上記「振動周波数(吸収ピークの周波数)」とは、^(17)O核磁気共鳴(以下、「^(17)O-NMR」という。)測定により得られた吸収ピークの半値幅を指すものであって、上記公知文献における「^(17)O核磁気共鳴スペクトル線幅」と同義であると一応解することができる。 したがって、上記(1)(g)の記載は、本願発明のマイクロクラスタ蒸留水機により作製された「マイクロクラスタ蒸留水」は、^(17)O-NMRによる吸収ピークの半値幅が68.17Hzであって90Hzより小さいことから、「マイクロクラスタ水」の定義に合致する、との意味であると解する。 オ 一方、上記(3)ア(1a)?(1c)によれば、水分子のクラスタは固定的なものではなく、きわめて激しい変化の中にあり、ある水クラスタの構造が保たれているのは10^(-12)s(1ps)程度の非常に短い時間であるので、短時間で生成・消滅している非常に動的なものであり、以前には、水の^(17)O-NMRの半値幅を測定し、「半値幅が小さい水はクラスタが小さい」といわれたことがあるが、現在では^(17)O-NMRの半値幅は水分子の回転運動とプロトンの交換速度の総合的情報を表すものであり、水分子のクラスタの大小を表すものではないと結論が出されているものであり、更に、液体状態の水でクラスタの集まりを測定する方法は今はない、とされている。 カ また、上記(3)イ(2a)?(2e)によっても、液体状態での水のクラスタの大きさを測定する手段は確立されておらず、一部には、水のクラスタの大きさを測定する方法として^(17)O-NMRの半値幅を測定し、これが小さくなったことをもって「クラスタが小さくなった」とする説があるが、この説は専門家の間で問題視されており、現時点においては、^(17)O-NMRの半値幅の測定結果を根拠に、「水道水のクラスタが小さくなった」と結論付けることはできず、現時点で行われている試験結果からは、「水のクラスタが小さくなる」と結論付けることはできないものである、とされている。 キ 上記オ、カによれば、液体状態の水において、クラスタの構造が保たれているのは10^(-12)s(1ps)程度の非常に短い時間であって、短時間で生成・消滅している非常に動的なものであり、そのような液体状態の水のクラスタの大きさを測定する手段は確立されておらず、更に、^(17)O-NMRの半値幅は水分子の回転運動とプロトンの交換速度の総合的情報を表すものであって、水のクラスタの大小を表すものではなく、このことは、本願優先日において技術常識といえるものである。 ク そして、上記キに記載される技術常識によれば、本願発明のマイクロクラスタ蒸留水機により処理された水について、^(17)O-NMRの半値幅を測定し、当該半値幅が90Hz以下であることを確認したとしても、水クラスタが細化された「マイクロクラスタ蒸留水」なる水が製造できていることを確認できないことは明らかである。 ケ そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、上記キに記載される技術常識に照らして、本願発明によって水クラスタが細化された「マイクロクラスタ蒸留水」なる水が製造できていることを確認できないのであるから、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。 コ さらに付言すると、発明の詳細な説明には、「飲み応えが良く、かつ、健康に有益なマイクロクラスタ蒸留水」との記載があるが(上記(1)(c)を参照)、上記(3)ア(1a)によれば、そもそも、水が微弱なエネルギーを受けると水のクラスタが小さくなって味が良くなるとの説や、クラスタの小さい水は健康に良いとの説は、科学的な裏付けがなされていないものであるから、本願発明のマイクロクラスタ蒸留水機を用いて蒸留水を処理することにより、「飲み応えが良く、かつ、健康に有益な」蒸留水が得られると当業者が認識するとはいえない。 サ なお、審判請求人は審判請求書において、「公知文献の記載によれば、当業者は、水クラスタに関する研究でNMRを使用すること、NMRを用いて水の振動周波数を測定することがわかり、かつ、水クラスタの大きさ(水分子の数)によって周波数が異なるので、測定される水が「マイクロクラスタ水」であるか否かを判断することもわかり、さらに、磁石の磁力により水を処理することで水の周波数を低減させる(水クラスタを小さくする)こともわかる。」、「よって、当業者がどのように本願の発明を実施するかについて理解できる程度に明確かつ十分に記載されているというのが、相当である。」と主張している。 しかし、上記クにおいて指摘したとおり、液体状態の水のクラスタの大きさを測定する手段は確立されておらず、更に、^(17)O-NMRの半値幅は水分子の回転運動とプロトンの交換速度の総合的情報を表すものであって、水のクラスタの大小を表すものではないことは、本願優先日における技術常識であるから、審判請求人の上記主張を採用することはできない。 シ 以上のとおりであるので、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について ア 特許請求の範囲の請求項1の記載によれば、本願発明の「マイクロクラスタ蒸留水機」は、「水クラスタ細化器」を含み、当該「水クラスタ細化器」は、「蒸留水に含まれる水クラスタを小さくして前記水クラスタをマイクロクラスタとするもの」とされている。 イ しかし、上記1(4)ア?クで論じたとおり、「マイクロクラスタ蒸留水機」により処理された水の^(17)O-NMRの半値幅が90Hz以下であることを確認したとしても、蒸留水の水クラスタが細化された「マイクロクラスタ蒸留水」なる水が製造できているとはいえない。 そのため、発明の詳細な説明に記載された「水クラスタ細化器」や、当該「水クラスタ細化器」を含む「マイクロクラスタ蒸留水機」が、「蒸留水に含まれる水クラスタを小さくして前記水クラスタをマイクロクラスタとするもの」であるとはいえない。 ウ そうすると、発明の詳細な説明には、「蒸留水に含まれる水クラスタを小さくして前記水クラスタをマイクロクラスタとする」ことができる「水クラスタ細化器」や「マイクロクラスタ蒸留水機」が実質的に開示されているとはいえないから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。 エ なお、審判請求人は審判請求書において、「「マイクロクラスタ水」の定義、及びNMRの測定結果から「マイクロクラスタ水」であるか否かを判断することが明細書に記載され、また、明細書[0039]には、水クラスタ細化器は永久磁石の磁力により、吐水管を通る蒸留水を磁化させ、その水クラスタを小さくすることが記載され、明細書[0048]及び図7には、水クラスタ細化器によって小さくされた水クラスタが「マイクロクラスタ水」であることが記載されているので、本願の請求項はサポート要件を満たしているというのが、相当である。」と主張している。 しかし、上記1(4)クにおいて指摘したとおり、液体状態の水のクラスタの大きさを測定する手段は確立されておらず、更に、^(17)O-NMRの半値幅は水分子の回転運動とプロトンの交換速度の総合的情報を表すものであって、水のクラスタの大小を表すものではないことは、本願優先日における技術常識であることを考慮すると、本願明細書には、水クラスタを小さくする方法が実質的に開示されているとはいえないから、審判請求人の上記主張を採用することはできない。 オ 以上のとおり、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明でないから、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 第5 むすび 以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許請求の範囲の記載が同条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、他の理由について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2018-11-30 |
結審通知日 | 2018-12-04 |
審決日 | 2018-12-17 |
出願番号 | 特願2016-12268(P2016-12268) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
Z
(C02F)
P 1 8・ 537- Z (C02F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 片山 真紀 |
特許庁審判長 |
豊永 茂弘 |
特許庁審判官 |
橋本 憲一郎 金 公彦 |
発明の名称 | マイクロクラスタ蒸留水機 |
代理人 | 平林 岳治 |
代理人 | 津野 孝 |