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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23K
管理番号 1351345
審判番号 不服2017-18945  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-21 
確定日 2019-05-07 
事件の表示 特願2014-19711「接合方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年8月20日出願公開、特開2015-147217〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の主な経緯
本願は、平成26年2月4日の出願であって、その手続の主な経緯は以下のとおりである。
平成29年 5月19日付け:拒絶理由通知書
平成29年 7月10日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年10月23日付け:拒絶査定
平成29年12月21日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成30年11月13日付け:当審による拒絶理由通知書
平成31年 1月15日 :意見書、手続補正書(以下、この手続補正
書による手続補正を「本件補正」という。
)の提出

第2 本願発明
1 本件補正の内容
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

【請求項1】
金属部材同士を摩擦攪拌接合する接合方法であって、
前記金属部材は、双方とも板状部材であり、アルミニウム又はアルミニウム合金で形成されており、
前記金属部材同士の一端側の端面を、裏面側に形成された外側端面と、表面側に形成され前記外側端面に対して対向する前記金属部材とは離間する側に形成された内側端面と、
前記外側端面と前記内側端面とを繋ぐ中間面とを備えるように形成し、
前記金属部材の前記外側端面同士を突き合わせて第一突合せ部を形成する準備工程と、
前記金属部材の表面側から回転ツールを挿入し前記第一突合せ部に対して摩擦攪拌を行う第一接合工程と、
前記中間面同士と前記内側端面同士とで形成される凹部に継手部材を挿入する挿入工程と、
前記継手部材と前記内側端面とで形成される一対の第二突合せ部に対して前記金属部材の表面から回転ツールを挿入して摩擦攪拌を行う第二接合工程と、を含み、
前記第一接合工程及び前記第二接合工程では、前記金属部材の他端側に対して一端側が高くなるように傾斜させた状態で摩擦攪拌を行い、
前記第一接合工程では、前記回転ツールとして、攪拌ピンを備えた第一突合せ部用回転ツールを用いるとともに、前記第一突合せ部用回転ツールの前記攪拌ピンのみを前記金属部材同士に接触させた状態で摩擦攪拌を行うことを特徴とする接合方法。

2 補正の適否について
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲及び明細書について補正するものであり、以下の(1)ないし(5)を含む。
(1)本件補正前の請求項1を削除して、本件補正前の請求項2を、独立形式に書き改めて、本件補正後の請求項1とする。
(2)本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0043】及び図面の図4(a)の記載を根拠として、「前記準備工程では、前記金属部材の他端側をクランプで固定することを特徴とする請求項1に記載の接合方法。」を本件補正後の請求項2とする。
(3)明細書の段落【0009】の記載を本件補正後の請求項1の記載と整合させる。
(4)明細書の段落【0011】の記載を本件補正後の請求項2の記載と整合させる。
(5)明細書の段落【0012】の記載を削除する。

したがって、本件補正は、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、適法になされたものである。

第3 拒絶の理由
平成30年11月13日付けの当審による拒絶理由通知書で通知した拒絶理由は、次のとおりのものである。
本件補正前の請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし4に記載された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

本件補正前の請求項2及び5に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明、引用文献2ないし4に記載された周知技術及び引用文献5に記載された周知技術に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

本件補正前の請求項3に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明、引用文献2ないし4に記載された周知技術、引用文献5に記載された周知技術及び引用文献6に記載された技術的事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

本件補正前の請求項4に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明、引用文献2ないし4に記載された周知技術、引用文献5に記載された周知技術及び引用文献7に記載された技術的事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

本件補正前の請求項6に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明、引用文献2ないし4に記載された周知技術、引用文献5に記載された周知技術及び引用文献8に記載された技術的事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

本件補正前の請求項7に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明、引用文献2ないし4に記載された周知技術、引用文献5に記載された周知技術並びに引用文献8及び9に記載された技術的事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.特開2000-202645号公報
引用文献2.特開平11-342481号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3.米国特許出願公開第2009/0236403号明細書(周知技術を示す文献)
引用文献4.特開2004-358535号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5.特開2013-49072号公報(周知技術を示す文献)
引用文献6.特開昭53-106352号公報
引用文献7.特開昭52-41143号公報
引用文献8.特開2009-195940号公報
引用文献9.特開2010-179349号公報

第4 引用文献1の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項(1)ないし(8)が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。
(1)段落【0085】
請求項8にかかる本発明装置の実施の形態は、図9に示すように、図7で示した前記請求項5に係る本発明の実施の形態において、被接合部材の支持・拘束テーブル25を、前記裏当金支持部3_(sb)を挟んで左右に分割された左・右支持テーブル25_(l)と25_(r)とから構成し、該左・右支持テーブル25_(l)、25_(r)の被接合部材支持面25_(ls)、25_(rs)の各々を、前記裏当金3の上面を含む水平面HSに対して、所定の俯角度αだけ左右それぞれの方向へ傾斜させたり、水平復帰自在に設けて構成している。

(2)段落【0095】
(1)図10(a)、(b)に示すように、ローラ加圧後の実際段差Δa(mm)が正の値を取るような場合には、回転ツール7の凹面の底面7bsと攪拌ピン7spの外周面との間の摩擦熱により塑性流動化(可塑化)された相対的に上面位置の高い右側の角管41bの突合せ部42の上方の隅部のメタルは、回転ツールの肩7sが回転ツールの前進方向側が高くなるよう傾斜しているために、回転ツール7の時計の針の回転方向とは逆方向の回転と回転ツールの前進移動とによって回転ツール7の前進方向の左側の方即ち左側の角管41a の上面41auと回転ツール7の凹面の底面7bsとの間に運ばれ易い。

(3)段落【0096】
(2)図11(a)、(b)に示すように、ローラ加圧後の実際段差Δa(mm)が負の値を取るような場合には、回転ツール7の凹面の底面7bsと攪拌ピン7spの外周面との間の摩擦熱により塑性流動化(可塑化)された相対的に上面位置の高い左側の角管41bの突合せ部42の上方の隅部のメタルは、回転ツールの肩7sが回転ツールの前進方向側が高くなるよう傾斜しているために、回転ツールの前進移動によって回転ツールの前進方向に運ばれる力が作用し、回転ツール7の時計の針の回転方向とは逆方向の回転によって回転ツール7の前進方向とは逆方向の右側の方即ち右側の角管41bの上面41buと回転ツール7の凹面の底面7bsとの間に運ばれにくい。

(4)段落【0121】
6.実施例6
請求項16に係る本発明の摩擦攪拌接合方法の実施の形態として、前記請求項7に係る本発明の実施の形態の摩擦攪拌接合装置を用い、前記実施例5で述べた適切な上下方向拘束圧力(MPa)、幅方向拘束圧力(KN/mm^(2))および空気冷却手段・条件の下で、被接合部材の接合後の幅方向の反り変形(幅方向両端部が突合わせ接合部を中心として上方又は下方へ反りかえる変形)に対して、接合中の前記図9に示した俯角度α(度)が与える影響を調査するために、下記実験条件の下で、俯角度αを0?5度の範囲で複数段階に分けて、摩擦攪拌接合する実験を行った。

(5)段落【0122】
実験条件は、以下に示すとおりである。
(1)被接合部材
a)材質 :「JIS H 4100」に規定のアルミニウム合金6N01
b)形状 :形材
c)寸法 :突合せ部板厚5mm、幅300mm、長さ2000mm
(2)摩擦攪拌接合条件
a)回転ツール諸元:回転軸外径15mm、攪拌ピン外径5.0mm
b)回転ツール回転軸の垂直軸に対する傾斜角度θ:3度
(3)裏当金
a)寸法 :厚み5mm、幅50mm、全長2600mm
b)材質 :銅
c)冷却 :なし
(4)強制空気冷却
前記表4に示した位置、仕様のファンによる送風冷却と図8(c) に示したエアーノズルによる圧縮空気吹き付けによる強制冷却あり
(5)上下方向拘束圧力
真空チャックによる被接合部材単位平面積当たりの吸引拘束圧力1.0MPa
(6)幅方向拘束圧力
突き合わせ部の単位端面積当たり)0.3KN/mm^(2)

(6)段落【0123】
なお、接合後上記拘束力を解いた後の幅方向反り変形量の測定は、以下のように行った。
(1)上反りの場合は、図14(a)に示すように接合材1abの幅方向左側の下面エッジ1aleを平坦な定盤45の上面45usに接触するように押し付け、幅方向右側の下面エッジ1bleと定盤45の上面45usとの間隙huを、隙間ゲージで複数箇所測定し,間隙huの最大値を上反り量とした。
(2)下反りの場合は、図13(b)に示すように接合材1abの幅方向左側の上面エッジ1aueを平坦な定盤45の上面45usに接触するように押し付け、右側の上面エッジ1bueと定盤45の上面45usとの間隙hlを、隙間ゲージで複数箇所測定し,間隙hlの最大値を下反り量とした。
上記の実験結果をまとめて下記表8に示した。

(7)段落【0124】
【表8】


(8)段落【0125】
上記表から、前記図8に示す俯角度αが2.0?3.0度の場合で、前記の実験条件の場合に、幅方向反り変形量がおおよそ±6mmとなることが分かる。なお、幅方向反り変形量は、被接合部材の材質、形状、寸法(特に突合わせ部部厚み)等の要因により影響を受け易いので、幅方向上反り変形量に影響の大きな要因毎に上記のような予備実験を行い、幅方向上反り変形量がおおよそ0mmとなる俯角度α(度)を求めておき、実際の量産時の俯角度α(度)を適切に決めればよい。

2 引用発明
上記1からみて、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「摩擦攪拌接合方法であって、
被接合部材1a、1bの形状は形材で、材質はアルミニウム合金6N01であり、
被接合部材1a、1bの端面同士を突合せる工程と、
被接合部材1a、1bの突合せ部に回転ツールを挿入し摩擦攪拌接合する工程を含み、
摩擦攪拌接合する工程では、幅方向の上反り変形量がおおよそ0mmとなる、俯角度αを予め求めておき、被接合部材1a、1bを支持する左・右支持テーブル25l、25rの各々を、水平面HSに対して俯角度αだけ左右それぞれの方向へ傾斜させることにより、摩擦攪拌接合を行い、
摩擦攪拌接合する工程では、回転ツールとして、底面及び攪拌ピンを有するものを用いるとともに、回転ツールの底面及び攪拌ピンを被接合部材1a、1bに接触させ、摩擦熱により塑性流動化することで摩擦攪拌接合を行う方法。」

第5 対比
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「被接合部材1a、1b」は本願発明の「金属部材同士」に相当する。
以下同様に、引用発明の「形材」は本願発明の「板状部材」に、引用発明の「アルミニウム合金6N01」は本願発明の「アルミニウム合金」に、引用発明の「回転ツール」は本願発明の「回転ツール」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「被接合部材1a、1bの端面同士を突合せる工程」と、本願発明の「前記金属部材の前記外側端面同士を突き合わせて第一突合せ部を形成する準備工程」は、金属部材(被接合部材1a、1b)の端面同士を突き合わせる点を限度として一致する。
また、引用発明の「被接合部材1a、1bの突合せ部に回転ツールを挿入し摩擦攪拌接合する工程」と、本願発明の「前記金属部材の表面側から回転ツールを挿入し前記第一突合せ部に対して摩擦攪拌を行う第一接合工程」は、金属部材(被接合部材1a、1b)の突き合わせ部に回転ツールを挿入し摩擦攪拌接合する点を限度として一致する。
また、引用発明において、被接合部材1a、1bは左・右支持テーブル25l、25rに各々支持されていることからすれば、引用発明の「摩擦攪拌接合する工程では、幅方向の反り変形量がおおよそ0mmとなる、俯角度αを予め求めておき、被接合部材1a、1bを支持する左・右支持テーブル25l、25rの各々を、水平面HSに対して俯角度αだけ左右それぞれの方向へ傾斜させることにより、摩擦攪拌接合を行う」事項は、被接合部材1a、1bの他端側に対して一端側が高くなるように傾斜させた状態で摩擦攪拌を行うことであるといえるから、引用発明の前記事項と、本願発明の「前記第一接合工程及び前記第二接合工程では、前記金属部材の他端側に対して一端側が高くなるように傾斜させた状態で摩擦攪拌を行う」事項は、接合工程では、金属部材(被接合部材1a、1b)の他端側に対して一端側が高くなるように傾斜させた状態で摩擦攪拌を行う点を限度として一致する。

そうすると、本願発明と引用発明は、本願発明の用語を用いて整理すると、以下の一致点で一致する。
【一致点】
「金属部材同士を摩擦攪拌接合する接合方法であって、
前記金属部材は、双方とも板状部材で、アルミニウム合金であり、
前記金属部材の端面同士を突き合わせて突合せ部を形成する準備工程と、
前記金属部材の突合せ部に回転ツールを挿入し摩擦攪拌を行う接合工程を含み、
前記接合工程では、前記金属部材の他端側に対して一端側が高くなるように傾斜させた状態で摩擦攪拌を行う接合方法。」

また、本願発明と引用発明は以下の相違点1ないし4で互いに相違する。
【相違点1】
本願発明は「前記金属部材同士の一端側の端面を、裏面側に形成された外側端面と、表面側に形成され前記外側端面に対して対向する前記金属部材とは離間する側に形成された内側端面と、前記外側端面と前記内側端面とを繋ぐ中間面とを備えるように形成」するのに対し、引用発明は被接合部材1a、1bの端面をそのように形成するものではない点。

【相違点2】
本願発明は「前記中間面同士と前記内側端面同士とで形成される凹部に継手部材を挿入する挿入工程」を有するのに対し、引用発明は当該挿入工程を有しない点。

【相違点3】
本願発明は「前記継手部材と前記内側端面とで形成される一対の第二突合せ部に対して前記金属部材の表面から回転ツールを挿入して摩擦攪拌を行う第二接合工程」を有し、「前記第二接合工程では、前記金属部材の他端側に対して一端側が高くなるように傾斜させた状態で摩擦攪拌を行う」のに対し、引用発明は第二接合工程を有しない点。

【相違点4】
本願発明は「前記第一接合工程では、前記回転ツールとして、攪拌ピンを備えた第一突合せ部用回転ツールを用いるとともに、前記第一突合せ部用回転ツールの前記攪拌ピンのみを前記金属部材同士に接触させた状態で摩擦攪拌を行う」のに対し、引用発明は、摩擦攪拌接合工程では、回転ツールとして、底面及び攪拌ピンを有するものを用いるとともに、回転ツールの底面及び攪拌ピンを被接合部材1a、1bに接触させ、摩擦熱により塑性流動化することで摩擦攪拌接合を行う点。

第6 判断
上記相違点1ないし4について、判断する。
1 相違点1ないし3について
接合される板状部材の厚さについては、用途等に応じて様々なものが用いられているところ、引用発明において、肉厚の被接合部材同士を摩擦攪拌接合したいという発想自体は、当業者であれば当然に想到し得る。
ここで、引用文献2(段落【0003】及び段落【0013】ないし【0018】並びに図1及び2を参照。)、引用文献3(段落【0021】ないし【0033】及び図1Aないし1Qを参照。)及び引用文献4(段落【0021】及び図21(A)ないし21(D)を参照。)に記載されているとおり、摩擦攪拌接合の技術分野において、厚肉の被接合部材を摩擦攪拌接合するに際し、一対の厚肉被接合部材の各接合端に、外側端面と中間面と内側端面とからなる段部を形成し、これら一対の厚肉被接合部材の外側端面同士を突き合わせて突合せ部を形成し、この突合せ部に沿って摩擦攪拌接合ツールを挿入して摩擦攪拌接合を施すことにより、両厚肉被接合部材を接合して第一の接合線を形成し、次に一対の厚肉被接合部材の中間面と内側端面とで形成される凹部に、この凹部と同一断面形状の継手部材を挿入し、最後に継手部材と各厚肉被接合部材の内側端面との一対の突合せ部に沿って摩擦攪拌接合ツールを挿入してそれぞれ摩擦攪拌接合を施して、第二の接合線を形成することにより、被接合部材の厚さ方向に二段に分けて摩擦攪拌接合することは、この出願前から周知技術であったと認められる。
よって、引用発明において、肉厚の被接合部材同士を摩擦攪拌接合するに際し、引用文献2ないし4に記載されている周知の接合方法を適用することは、板状部材の厚さ等に応じて当業者であれば容易に想到し得る。
また、第二の接合線を形成するための摩擦攪拌接合に際しても、上反り変形が生じる恐れのあることは当業者にとって自明であるから、当該接合の際にも、被接合部材1a、1bの他端側に対して一端側が高くなるように傾斜させた状態とすることは、当業者が発明の実施に際し適宜なし得る設計変更に過ぎない。

2 相違点4について
引用文献5(段落【0006】及び【0021】並びに図1(b)を参照。)及び特開2013-39613号公報(段落【0006】、【0007】、【0043】ないし【0046】並びに図5(a)及び(b)を参照。)にも記載されているとおり、摩擦攪拌接合装置の回転ツールの攪拌ピンのみを接触させた状態で摩擦攪拌を行うことは、この出願前から周知技術であったと認められる。
また、引用文献5の段落【0006】には、被接合金属部材の損傷を防止するという効果も記載されている。また、特開2013-39613号公報の段落【0007】には、板厚の大きい金属部材であっても深い位置まで接合できる、という効果も記載されている。
ここで、引用発明は、回転ツールの底面及び攪拌ピンを被接合部材1a、1bに接触させ、摩擦熱により塑性流動化することで摩擦攪拌接合を行うものである。しかし、上記のとおり、回転ツールの攪拌ピンのみを接触させた状態で摩擦攪拌を行うことは、この出願前から周知技術であった上、それにより、被接合金属部材の損傷を防止する、又は、板厚の大きい金属部材であっても深い位置まで接合できる、という効果も知られていた。
よって、当業者が引用発明を実施するに際し、被接合金属部材の損傷防止を考慮する、又は、板厚の大きい金属部材の接合を試みる場合に、上記周知技術を採用して、回転ツールの攪拌ピンのみを接触させた状態で摩擦攪拌を行うことは、適宜選択し得た事項である。

3 請求人の主張について
請求人は平成31年1月15日提出の意見書において、下記の(1)及び(2)を主張しているので、これらについても検討する。
(1)審判官殿は、拒絶理由通知書において、「引用発明において、被接合部材1a、1bの損傷を防止するという自明な課題を解決する目的で、引用文献5に記載されている周知技術を採用することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。」と説示されているが、承服できない。
引用発明1は、『回転した攪拌ピンを金属部材同士の外隅に挿入する』というものである。これに対し、引用発明5は、『回転した攪拌ピンを金属部材同士の内隅に挿入する』というものである。引用発明1と引用発明5とは技術思想が異なるため、組み合わせることはできない(以下「主張1」という。)。

(2)本願発明1は、「前記第一接合工程では、前記回転ツールとして、攪拌ピンを備えた第一突合せ部用回転前記第一接合工程では、前記回転ツールとして、攪拌ピンを備えた第一突合せ部用回転ツールを用いるとともに、前記第一突合せ部用回転ツールの前記攪拌ピンのみを前記金属部材同士に接触させた状態で摩擦攪拌を行う」という発明特定事項を備えるものである。
当該発明特定事項を備えることにより、本願発明1は、「・・・凹部の幅が小さい場合であっても、ショルダ部が金属部材に接触しないため、第一突合せ部の深い位置まで摩擦攪拌を行うことができる。」(本願の出願当初の明細書段落0012)という技術的効果を奏することができる。当該発明特定事項は、引用文献1乃至9のいずれにも示されていない(以下「主張2」という。)。

(3)主張1について
「第6 判断」の「2 相違点4について」で指摘したとおり、引用文献5は、あくまでも、摩擦攪拌接合装置の回転ツールの攪拌ピンのみを接触させた状態で摩擦攪拌を行うことは、この出願前から周知技術であったことを示す例に過ぎない。
また、引用文献5の実施例としては、回転した攪拌ピンを金属部材同士の内隅に挿入するものが記載されているが、平成30年11月13日付けの当審による拒絶理由通知書においては、引用文献5の段落【0006】及び【0021】並びに図1(b)を引用しており、そこには回転した攪拌ピンを金属部材同士の内隅に挿入する点は記載されていない。
よって、上記周知技術が回転した攪拌ピンを金属部材同士の内隅に挿入するものに限定されると解釈することはできない。
また、「第6 判断」の「2 相違点4について」で指摘したとおり、引用文献5の他に上記周知技術を示す例としては、特開2013-39613号公報を挙げることができ、当該特開2013-39613号公報の段落【0043】ないし【0046】並びに図5(a)及び(b)には、金属部材1同士を突き合わせて形成された突合部に回転した攪拌ピンF2を移動させて摩擦攪拌接合を行う接合工程において、攪拌ピンF2のみを金属部材1に接触させる事項が記載されている。

(4)主張2について
上記特開2013-39613号公報の段落【0007】の記載「かかる方法によれば、金属部材に接触させる部分を攪拌ピンのみにすることで、ショルダを金属部材に押し付ける従来の摩擦攪拌接合方法に比べて金属部材と回転ツールとの摩擦を軽減することができ、摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる。すなわち、本発明によれば、金属部材の深い位置まで攪拌ピンを挿入することができるようになるため、板厚の大きい金属部材であっても深い位置まで接合することができる。」に接した当業者からすれば、本願発明の「ショルダ部が金属部材に接触しないため、第一突合せ部の深い位置まで摩擦攪拌を行うことができる」という効果は予測し得る範囲内のものに過ぎず、格別顕著なものということはできない。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、主張1及び2はいずれも採用できないものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明、引用文献2ないし4に記載された周知技術並びに引用文献5及び特開2013-39613号公報に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-02-27 
結審通知日 2019-03-05 
審決日 2019-03-19 
出願番号 特願2014-19711(P2014-19711)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 奥隅 隆  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 篠原 将之
西村 泰英
発明の名称 接合方法  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  

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