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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1351381
異議申立番号 異議2017-700836  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-06-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-05 
確定日 2019-03-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6092589号発明「光偏向器」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6092589号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1について訂正することを認める。 特許第6092589号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6092589号の請求項1に係る特許についての出願(特願2012-253729号)は,平成24年11月19日に出願したものであって,平成29年2月17日付けで特許権の設定登録がなされ,同年3月8日に特許掲載公報が発行され,同年9月5日に特許異議申立人三重野正博により請求項1に対して特許異議の申立てがなされたものである。以後の手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年12月 8日:取消理由通知(同年12月13日発送)
平成30年 2月 7日:訂正請求書・意見書
平成30年 2月21日:通知書(同年2月27日発送)
平成30年 3月26日:意見書(異議申立人)
平成30年 5月30日:取消理由通知(決定の予告)(同年6月6日発送)
平成30年 8月 6日:訂正請求書・意見書(同年同月7日受付)
平成30年10月26日:通知書(同年10月30日発送)
平成30年11月29日:意見書(異議申立人)(同年同月30日受付)

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
平成30年8月6日付けの訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)は,明細書及び特許請求の範囲を訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1について訂正することを求めるものであって,以下の訂正事項1?5からなる。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に,「光を反射する反射面と,」と記載されているのを「主面が(100)面である単一の単結晶シリコンウエハによって一体的に構成されている光偏光器であって,光を反射する反射面と,」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に,「単結晶シリコンで」と記載されているのを「前記単結晶シリコンウエハの単結晶シリコンで」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に,「第1軸の周りに揺動させる第1アクチュエータ」と記載されているのを「第1軸の周りに共振周波数で揺動させる第1アクチュエータ」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に,「形成されていることを特徴とする光偏向器。」と記載されているのを
「形成され,
前記第1アクチュエータの前記第1支持体は,基端部において前記第1枠体に連結され,先端部において前記トーションバーに連結されて,前記トーションバーを支持することを特徴とする光偏向器。」に訂正する。
(5)訂正事項5
明細書の【0006】の記載を特許請求の範囲の請求項1についての上記訂正事項1?4に整合した記載に訂正する。

2 当審の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は,「光偏光器」について,「主面が(100)面である単一の単結晶シリコンウエハによって一体的に構成されている光偏光器であって」と限定するものであるから,当該訂正事項は,特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 新規事項追加の有無
願書に添付した明細書には,以下の記載がある。
「【0022】
光偏向器1は,以下のようにして,フォトリソグラフィ技術やドライエッチング技術等を利用した半導体プレーナプロセス及びMEMSプロセスが用いられて製造される。まず,図2(a)に示されるような単結晶シリコンのウエハ10上に,図3(a)に示されるように,下部電極層L1,圧電体層L2,及び上部電極層L3等が積層される。そして,エッチング処理等によって,不要な部位が適宜除去されることで,ミラー部2,トーションバー3,枠体4,及びアクチュエータ5が形成される(図3(b)は,図1のIII-III線断面を示している)。このとき,下部電極層L1,圧電体層L2及び上部電極層L3は,アクチュエータ5の部分のみ残されて,他の部分は除去される。」
「【0027】
ウエハ10は,単結晶シリコンで形成されている。ウエハ10の主面は,(100)面である。このため,ウエハ10の主面に沿う結晶方位としては,<110>方位及び<100>方位のいずれかが主となる。」
「【0047】
本実施形態の光偏向器201は,第1実施形態の光偏向器1と同様に,フォトリソグラフィ技術やドライエッチング技術等を利用した半導体プレーナプロセス及びMEMSプロセスが用いられて製造される。すなわち,単結晶シリコンのウエハ10上に,下部電極層L1,圧電体層L2,及び上部電極層L3等が積層された後,エッチング処理等によって,不要な部位が適宜除去されることで,内側偏向部1(ミラー部2,トーションバー3,枠体4,及びアクチュエータ5),外側アクチュエータ205,及び外枠204が形成される。このとき,下部電極層L1,圧電体層L2及び上部電極層L3は,内側偏向部1のアクチュエータ5,及び外側アクチュエータ205の圧電カンチレバー206の部分のみ残されて,他の部分は除去される。」
上記各記載のとおり,光偏向器201は,「主面が(100)面である単一の単結晶シリコンのウエハ10」についての「エッチング処理等によって,不要な部位が適宜除去されることで,内側偏向部1(ミラー部2,トーションバー3,枠体4,及びアクチュエータ5),外側アクチュエータ205,及び外枠204が形成され」,「主面が(100)面である単一の単結晶シリコンのウエハ10」によって一体的に構成されるものであることは明らかである。
よって,訂正事項1は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張,変更の存否
上記アのとおり,訂正事項1は,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり,この訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。よって,訂正事項1は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2は,訂正事項1により「単結晶シリコンウエハ」との用語が加入されたことに伴い,「単結晶シリコン」が当該「単結晶シリコンウエハ」の係るものであることを明らかにしようとするものであるから,当該訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

イ 新規事項追加の有無
「単結晶シリコン」が「単結晶シリコンウエハ」の係るものであることは,前記(1)イで検討したとおり,願書に添付した明細書に記載されている。
よって,訂正事項2は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張,変更の存否
前記アのとおり,訂正事項2は,「単結晶シリコン」が「単結晶シリコンウエハ」の係るものであることを明らかにするものであるから,該訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。
よって,当該訂正は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3は,「第1軸の周りに揺動させる第1アクチュエータ」について,その「揺動」の周波数が「共振周波数で」あることに限定するものであるから,当該訂正事項は,特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 新規事項追加の有無
願書に添付した明細書には,以下の記載がある。
「【0014】
以上のように,第1軸周りのトーションバーの共振周波数を大きくしつつ,第2軸周りの反射面の揺動角度を大きくすることができる。」
「【0030】
次に,光偏向器1の作動について説明する。この光偏向器1は,アクチュエータ5の駆動により,トーションバー3が,第1軸X周りに捩られるように構成されている。」
「【0033】
なお,本実施形態の光偏向器1には,上側アクチュエータ5の圧電体5bに印加する電圧信号と,下側アクチュエータ5の圧電体5bに印加する電圧信号とは,周期性を有し,且つ互いに逆位相となる電圧信号(すなわち互いに180度位相がずれた電圧信号)が印加される。このときの,電圧信号の周波数は,光偏向器1の機械的な共振周波数に設定される。これにより,反射面2aを大きな偏向角で第1軸X周りに揺動できる。」
上記記載から,「第1軸の周りに揺動させる第1アクチュエータ」について,その揺動の周波数が,第1軸に係る共振周波数であることは明らかである。
よって,訂正事項3は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張,変更の存否
前記アのとおり,訂正事項3は,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり,この訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。
よって,訂正事項3は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項4
ア 訂正の目的の適否
訂正事項4は,「光偏向器」について,「第1アクチュエータの前記第1支持体」,「第1枠体」及び「トーションバー」の具体的連結関係を特定するものであるから,当該訂正事項は,特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 新規事項追加の有無
願書に添付した図1及び図3とともに,同明細書の次の記載,
「【0016】
[第1実施形態]
図1を参照して,本発明の第1実施形態の光偏向器について説明する。本実施形態の光偏向器1は,円形の反射面2aを有するミラー部2と,2つのトーションバー3と,枠体4と,4つのアクチュエータ5とを備える。
【0017】
・・・(中略)・・・
【0018】
4つのアクチュエータ5の各々は,単結晶シリコンで略長方形の板状に形成された支持体5aと,該支持体5aの一方の面のほぼ全面に支持された圧電体5bとを備える。
【0019】
4つのアクチュエータ5は,ミラー部2の両側(図1の左右側)に2つずつ配置されている。このとき,ミラー部2の右側において,2つのアクチュエータ5は,右側のトーションバー3の基端部の図1の上下にそれぞれ配設され,該トーションバー3の基端部に,先端部を連結している。ミラー部2の左側において,2つのアクチュエータ5は,左側のトーションバー3の基端部の図1の上下にそれぞれ配設され,該トーションバー3の基端部に,先端部を連結している。
【0020】
枠体4は,矩形状の枠(上辺4uと下辺4dとが平行,及び左辺4lと右辺4rとが平行)として形成されており,ミラー部2,トーションバー3,及びアクチュエータ5を外側から包囲する。アクチュエータ5の基端部は,枠体4の上辺4u部分又は下辺4d部分に連結する。
【0021】
・・・(中略)・・・
【0022】
・・・(中略)・・・
図3(a)に示されるように,下部電極層L1,圧電体層L2,及び上部電極層L3等が積層される。そして,エッチング処理等によって,不要な部位が適宜除去されることで,ミラー部2,トーションバー3,枠体4,及びアクチュエータ5が形成される(図3(b)は,図1のIII-III線断面を示している)。このとき,下部電極層L1,圧電体層L2及び上部電極層L3は,アクチュエータ5の部分のみ残されて,他の部分は除去される。」
との記載を参照すると,「第1アクチュエータの前記第1支持体は,基端部において前記第1枠体に連結され,先端部において前記トーションバーに連結されて,前記トーションバーを支持すること」は明らかである。
よって,訂正事項4は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張,変更の存否
上記アのとおり,訂正事項4は,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり,この訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。よって,訂正事項4は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

(5)訂正事項5
ア 訂正の目的の適否
訂正事項5は,特許請求の範囲の請求項1が,訂正事項1により「光を反射する反射面と,」と記載されているのを「単一の単結晶シリコンウエハによって一体的に構成されている光偏光器であって,光を反射する反射面と,」と訂正され,訂正事項2により「単結晶シリコンで」と記載されているのを「前記単結晶シリコンウエハの単結晶シリコンで」と訂正され,訂正事項3により「第1軸の周りに揺動させる第1アクチュエータ」と記載されているのを「第1軸の周りに共振周波数で揺動させる第1アクチュエータ」と訂正され,また訂正事項4により「形成されていることを特徴とする光偏向器。」と記載されているのを「形成され,
前記第1アクチュエータの前記第1支持体は,基端部において前記第1枠体に連結され,先端部において前記トーションバーに連結されて,前記トーションバーを支持することを特徴とする光偏向器。」と訂正されたことと整合させるために,明細書の段落【0006】について,訂正後の特許請求の範囲の請求項1と整合させるものである。
よって,訂正事項5は,特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

イ 新規事項追加の有無
前記(1)イ,(2)イ,(3)イ及び(4)イで検討したとおり,訂正事項5は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張,変更の存否
訂正事項5は,明細書の段落【0006】の記載を,訂正事項1ないし4によって訂正された特許請求の範囲の記載と整合させるものであるから,該訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。
よって,訂正事項5は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

(6)一群の請求項について
本件特許の特許請求の範囲は,請求項1のみからなるものであるから,本件訂正請求は特許法120条の5第4項の規定に適合する。

(7)明細書又は図面の訂正と関係する請求項についての説明
前記(5)アのとおり,訂正事項5は,明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり,これは請求項1に関係する訂正であるところ,前記(6)のとおり,本件特許の特許請求の範囲は請求項1のみからなるものである。そして,訂正事項5に係る請求項1が訂正請求の対象とされている。
よって,訂正事項5は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項の規定に適合するものである。

(8)むすび
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第4項,及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので,訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1について訂正を認める。

第3 訂正発明
上記のとおり,本件訂正請求による訂正が認められたので,本件特許の訂正後の請求項1に係る発明(以下「訂正発明」という。)は,請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
主面が(100)面である単一の単結晶シリコンウエハによって一体的に構成されている光偏光器であって,光を反射する反射面と,前記単結晶シリコンウエハの単結晶シリコンで形成されたトーションバーと,前記トーションバーをその長手方向の軸としての第1軸の周りに捩ることで,前記反射面を前記第1軸の周りに共振周波数で揺動させる第1アクチュエータとを有する光偏向器において,
前記反射面と前記トーションバーと前記第1アクチュエータとを包囲し,前記第1アクチュエータを介して前記トーションバーに連結している第1枠体と,
前記第1枠体を包囲する第2枠体と,
前記第1枠体を前記第2枠体に連結する唯一の連結部材として前記第1枠体と前記第2枠体との間に介在する共に,前記反射面を前記第1軸とは別の第2軸の周りに揺動させる第2アクチュエータとを備え,
前記第1アクチュエータは,駆動電圧が印加される第1圧電体と,該第1圧電体を支持し該第1圧電体と共に屈曲変形する第1支持体とを備え,
前記第2アクチュエータは,長手方向を前記第1軸に平行に揃えてミアンダ形状に連結されている複数の圧電カンチレバーを有し,
前記第2アクチュエータの各圧電カンチレバーは,駆動電圧が印加される第2圧電体と,該第2圧電体を支持し該第2圧電体と共に屈曲変形する第2支持体とを備え,
前記トーションバーは,前記第1軸方向が,当該トーションバーの結晶方位の<100>方位と平行になるように形成され,
前記第2支持体は,前記単結晶シリコンウエハの単結晶シリコンで形成されると共に,長方形板状に形成され,その長手方向が,当該第2支持体の結晶方位の<100>方位と平行になるように形成され,
前記第1アクチュエータの前記第1支持体は,基端部において前記第1枠体に連結され,先端部において前記トーションバーに連結されて,前記トーションバーを支持することを特徴とする光偏向器。」

第4 取消理由の概要
当審が平成30年5月30日付けで特許権者に通知した取消理由通知(決定の予告)の理由の要旨は次のとおりである。
請求項1に係る発明は,甲第1号証に記載された発明,甲第2号証ないし甲第7号証及び甲第9号証に記載された事項,並びに周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
甲第1号証 特開2012-198415号公報
甲第2号証 特開2009-169290号公報
甲第3号証 特開2011-100103号公報
甲第4号証 特開2000-147419号公報
甲第5号証 特開2008-304726号公報
甲第6号証 特開2012-113146号公報
甲第7号証 国際公開第2008/038649号
甲第9号証 特開2009-31642号公報

第5 取消理由(決定の予告)について
1 甲第1号証について
(1)甲第1号証には以下の各記載がある(下線は当審で付加。以下同様。)。
ア「【0001】
本発明は,圧電アクチュエータにより揺動されるミラー部を備える光偏向器の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
・・・(中略)・・・
【0029】
本発明の一実施形態を図1?図6を参照して説明する。
【0030】
図1に示すように,本実施形態の光偏向器A1は,入射された光を反射するミラー部1と,ミラー部1が搭載された可動部9と,ミラー部1を可動部9に対して揺動軸X1の周りに揺動させるための圧電アクチュエータ8a,8b,8c,8dと,ミラー部1及び可動部9を支持基体11に対して揺動軸X2の周りに揺動させるための圧電アクチュエータ10a,10bとを備えている。
【0031】
ミラー部1は,円板状のミラー部基体1aと,このミラー部基体1a上に光の反射面として形成された金属薄膜1bとを備え,ミラー部基体1aの直径方向の両端から外側へ向かって1対のトーションバー2a,2bが延設されている。そして,ミラー部1は,これらのトーションバー2a,2bを介して可動部9に連結されて,該可動部9に搭載されている。
【0032】
具体的には,可動部9は,方形枠状に形成されており,ミラー部1の周囲を囲むように設けられている。そして,ミラー部基体1aから延設されたトーションバー2a,2bのそれぞれの先端部が,可動部9の内周部に連結されている。これにより,ミラー部1は,トーションバー2a,2bを介して可動部9に連結されていると共に,トーションバー2a,2bの捩れによって,該トーションバー2a,2bの軸心たる揺動軸X1の周りに揺動可能となっている。
【0033】
・・・(中略)・・・
【0035】
各内側圧電アクチュエータ8は,圧電駆動によって屈曲変形するように構成された圧電カンチレバーにより構成されている。そして,一方の対の内側圧電アクチュエータ8a,8cは,トーションバー2aと直交する方向(揺動軸X1と直交する方向)に延在しており,それぞれの先端部がトーションバー2aに連結されると共に,それぞれの基端部が可動部9の内周部に連結されている。
【0036】
同様に,圧電アクチュエータ8b,8dは,トーションバー2bと直交する方向(揺動軸X1と直交する方向)に延在しており,それぞれの先端部がトーションバー2bに連結されると共に,それぞれの基端部が可動部9の内周部に連結されている。
【0037】
支持基体11は,方形枠状に形成されており,可動部9の周囲を囲むように設けられている。そして,ミラー部1及び可動部9を支持基体11に対して揺動させる一対の圧電アクチュエータ10a,10bが,支持基体11の内周部と可動部9の外周部との間で,可動部9を挟んで揺動軸X2の方向(揺動軸X1と直交する方向)に対向するようにして配置されており,これらの圧電アクチュエータ10a,10bを介して,可動部9が支持基体11に支持されている。
【0038】
・・・(中略)・・・
【0039】
各外側圧電アクチュエータ10は,圧電駆動によって屈曲変形するようにそれぞれ構成された複数(図示例では4つ)の圧電カンチレバー3(i)(i=1,2,3,4)を連結して構成されている。この場合,各外側圧電アクチュエータ10を構成する複数の圧電カンチレバー3(i)(i=1,2,3,4)は,支持基体11の内周部と可動部9の外周部との間で,揺動軸X2と直交する方向(揺動軸X1と同方向)に延在して,該揺動軸X2の方向に間隔を存して並ぶように配置されていると共に,そのそれぞれの圧電カンチレバーが隣合う圧電カンチレバーに対して折り返されるように連結されている。従って,各外側圧電アクチュエータ10は,揺動軸X2と直交する方向を振幅方向として蛇行するようにして延在している。
【0040】
そして,各外側圧電アクチュエータ10の一端部(最も支持基体11寄りの圧電カンチレバー3(4)の基端部)が,支持基体11の内周部に連結されると共に,他端部(最も可動部9寄りの圧電カンチレバー3(1)の先端部)が,可動部9の外周部に連結されている。
【0041】
これにより,可動部9が,外側圧電アクチュエータ10a,10bを介して支持基体11に支持されていると共に,各外側圧電アクチュエータ10を構成する圧電カンチレバー3(i)(i=1,2,3,4)の屈曲変形によって支持基体11に対して揺動軸X2の周りに揺動可能となっている。
【0042】
・・・(中略)・・・
【0044】
内側圧電アクチュエータ8a?8dのそれぞれと,外側圧電アクチュエータ10a,10bを構成する圧電カンチレバー3(i)(i=1,2,3,4)のそれぞれとは,図2に模式的な断面図で示すように,起歪体(カンチレバー本体)としての支持体4の層上に下部電極5,圧電体6及び上部電極7の層を積層した構造の圧電カンチレバーであり,下部電極5と上部電極7との間で圧電体6に駆動電圧を印加することで,圧電体6と共に支持体4が屈曲変形するようになっている。
【0045】
・・・(中略)・・・
【0055】
また,ミラー部基体1aと,トーションバー2a,2bと,支持体4と,可動部9と,支持基体11とは,複数の層から構成される半導体基板(シリコン基板)を形状加工することにより一体的に形成されている。半導体基板を形状加工する手法としては,フォトリソグラフィ技術やドライエッチング技術等を利用した半導体プレーナプロセス及びMEMSプロセスが用いられる。」

イ ここで,図1は以下のものである。

上記図1を参照すると,各外側圧電アクチュエータ10a,10bを構成する複数の圧電カンチレバー3は,長方形状をなしていることが見て取れる。

(2)以上を総合すると,甲第1号証には,光偏向器として,以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「入射された光を反射するミラー部1と,ミラー部1が搭載された可動部9と,ミラー部1を可動部9に対して揺動軸X1の周りに揺動させるための内側圧電アクチュエータ8a,8b,8c,8dと,ミラー部1及び可動部9を支持基体11に対して揺動軸X2の周りに揺動させるための外側圧電アクチュエータ10a,10bとを備える光偏向器A1であって,
ミラー部1は,円板状のミラー部基体1aと,このミラー部基体1a上に光の反射面として形成された金属薄膜1bとを備え,ミラー部基体1aの直径方向の両端から外側へ向かって1対のトーションバー2a,2bが延設されており,
可動部9は,方形枠状に形成されており,ミラー部1の周囲を囲むように設けられ,ミラー部基体1aから延設されたトーションバー2a,2bのそれぞれの先端部が,可動部9の内周部に連結され,これにより,ミラー部1は,トーションバー2a,2bを介して可動部9に連結されていると共に,トーションバー2a,2bの捩れによって,該トーションバー2a,2bの軸心たる揺動軸X1の周りに揺動可能となっており,
各内側圧電アクチュエータ8a,8b,8c,8dは,圧電駆動によって屈曲変形するように構成された圧電カンチレバーにより構成され,一方の対の内側圧電アクチュエータ8a,8cは,トーションバー2aと直交する方向(揺動軸X1と直交する方向)に延在しており,それぞれの先端部がトーションバー2aに連結されると共に,それぞれの基端部が可動部9の内周部に連結されており,圧電アクチュエータ8b,8dは,トーションバー2bと直交する方向(揺動軸X1と直交する方向)に延在しており,それぞれの先端部がトーションバー2bに連結されると共に,それぞれの基端部が可動部9の内周部に連結されており,
支持基体11は,方形枠状に形成されて,可動部9の周囲を囲むように設けられ,ミラー部1及び可動部9を支持基体11に対して揺動させる一対の外側圧電アクチュエータ10a,10bが,支持基体11の内周部と可動部9の外周部との間で,可動部9を挟んで揺動軸X2の方向(揺動軸X1と直交する方向)に対向するようにして配置され,これらの外側圧電アクチュエータ10a,10bを介して,可動部9が支持基体11に支持されており,
各外側圧電アクチュエータ10a,10bは,圧電駆動によって屈曲変形するようにそれぞれ構成された複数の圧電カンチレバー3を連結して構成されており,各外側圧電アクチュエータ10a,10bを構成する複数の圧電カンチレバー3は,支持基体11の内周部と可動部9の外周部との間で,揺動軸X2と直交する方向(揺動軸X1と同方向)に延在して,該揺動軸X2の方向に間隔を存して並ぶように配置されていると共に,そのそれぞれの圧電カンチレバーが隣合う圧電カンチレバーに対して折り返されるように連結されて,各外側圧電アクチュエータ10a,10bは,揺動軸X2と直交する方向を振幅方向として蛇行するようにして延在しており,
各外側圧電アクチュエータ10a,10bの一端部が,支持基体11の内周部に連結されると共に,他端部(最も可動部9寄りの圧電カンチレバー3(1)の先端部)が,可動部9の外周部に連結されており,これにより,可動部9が,外側圧電アクチュエータ10a,10bを介して支持基体11に支持されていると共に,各外側圧電アクチュエータ10を構成する圧電カンチレバー3の屈曲変形によって支持基体11に対して揺動軸X2の周りに揺動可能となっており,
内側圧電アクチュエータ8a,8b,8c,8dのそれぞれと,外側圧電アクチュエータ10a,10bを構成する圧電カンチレバー3のそれぞれとは,起歪体(カンチレバー本体)としての支持体4の層上に下部電極5,圧電体6及び上部電極7の層を積層した構造の圧電カンチレバーであり,下部電極5と上部電極7との間で圧電体6に駆動電圧を印加することで,圧電体6と共に支持体4が屈曲変形するようになっており,
各外側圧電アクチュエータ10a,10bを構成する複数の圧電カンチレバー3は,長方形状をなしており,
ミラー部基体1aと,トーションバー2a,2bと,支持体4と,可動部9と,支持基体11とは,複数の層から構成される半導体基板(シリコン基板)を形状加工することにより一体的に形成されている,
光偏向器A1。」

2 甲第9号証について
(1)甲第9号証には以下の各記載がある。
ア「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
揺動体装置の可動部は,所定角度内をねじり振動するため大きな角加速度を受ける。このため,可動部は駆動時に自重による慣性力を受け,可動部が変形する場合がある。特に,可動部の表面に反射面を形成した光偏向器を用いてレーザ光を走査する場合,この可動部の変形は走査光の光学特性に影響を与える。
【0006】
よって本発明は,揺動体装置の可動部がねじり振動する際に発生する可動部の変形を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明に係る揺動体装置は,支持部と,可動部と,前記可動部を前記支持部に対してねじり軸まわりにねじり振動可能に支持するねじりバネと,前記可動部を振動させる駆動手段とを有する揺動体装置であって,前記可動部は,単結晶シリコンで形成され,前記可動部の主面の結晶面は(110)面であって,前記可動部の主面と平行で,且つ前記ねじり軸と垂直な方向の結晶方位が[111]方位であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれは,可動部の主面の結晶面を(110)面とし,可動部の主面と平行で且つねじり軸と垂直な方向の結晶方位を[111]方位とすることで,可動部の変形量比を他の基板や他の結晶方位を用いた場合よりも小さくすることができる。したがって,可動部がねじり振動した場合でも,可動部の平坦性を維持した揺動体装置を提供することができる。」

イ「【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に,本発明の実施形態について図1を用いて説明する。図1(a)は,本発明の揺動体装置の上面図であり,図1(b)は図1(a)のA-Bにおける断面図である。本実施形態の揺動体装置は,支持部101と,可動部103と,可動部103を支持部101に対してねじり軸108のまわりにねじり振動可能に支持するねじりバネ104a,104bとを有する。支持部101は支持基板等の固定部材に固定されており,可動部103がねじり振動しても支持部101が動かないような構成となっている。また,本実施形態に係る揺動体装置は,可動部103の表面に反射面102を形成することで,光偏向器として用いることができる。反射面102は別の材質,例えば金,銅等の薄膜で形成されていてもよく,さらにその上に保護膜を有していていもよい。あるいは反射面102は誘電体多層膜により形成されてもよい。
【0010】
可動部103は単結晶シリコン基板で形成され,可動部103の主面(図1の反射面102が形成されている面)の結晶面は(110)面,あるいはその等価面(即ち,{110}面)である。また,可動部の主面と平行で,且つ,ねじり軸108と垂直な方向の結晶方位が[111]方位,あるいは,その等価方位である。
【0011】
尚,本明細書においては,(111)面と等価な面,例えば(-1-1-1)面や(-111)面などを総称して(111)等価面(即ち{111})と表現する。また,[111]方位と等価な方位,例えば[-1-1-1]方位や[-111]方位などを総称して[111]等価方位と表現する。
【0012】
本実施形態に係る揺動体装置は,例えば,(110)面を主面とする単結晶シリコン基板を使用して,支持部101,可動部103,ねじりバネ104a,104bを一体形成している。
【0013】
図1において,可動部103の結晶方位1000は,可動部103の主面と平行で,且つ,ねじり軸108と垂直な方向の結晶方位が[111]方位である。ここで,[111]方位とは,ほぼ[100]方位の場合も含み,その範囲は[111]方位±5度の範囲内である。この範囲内では,自重による可動部の変形量がほぼ同等である。」

ウ「【0023】
図6は,自重による可動部の変形が,各結晶方位に対してどのように変化するかを有限要素法によって計算した結果である。今回の計算では,シリコンの結晶異方性を考慮した計算を実施している。
【0024】
・・・(中略)・・・
【0028】
図6の縦軸は,可動部の変形量比であり,横軸は[110]方位となす角度である。可動部の変形量比とは,可動部の主面の結晶面が(100)面であって,さらに,可動部の主面と平行で,且つねじり軸と垂直な方向の結晶方位が[100]方位のときの変形量を1とした比である(この時,[110]方位となす角度は,例えば45度である)。
【0029】
また,[110]方位となす角度とは,可動部主面内に存在する[110]方位と,可動部の主面と平行で,且つねじり軸と垂直な方向の結晶方位と,がなす角度を表す。よって,可動部の主面と平行で,且つねじり軸と垂直な方向の結晶方位が[110]方位である場合,[110]方位となす角度は0度となる。
【0030】
ここで,(100)基板とは,可動部の主面の結晶面が(100)面であることを表す
。(110)基板,(111)基板も同様である。例えば,(100)基板の場合は,[110]方位となす角度が±45度,±135度は,[100]方位を表す。また,[110]方位となす角度が0度,±90度,±180度は,[110]方位を表す。さらに,(110)基板の場合は,回転角度が0度,±180度は,[110]方位を表す。また,回転角度が±90度は,[100]方位を表し,±35.3度,±144.7度は,[111]方位を表す。さらに,(111)基板の場合は,回転角度が0度,±180度は,[110]方位を表す。
【0031】
図6に示すように,(110)基板の可動部の変形量比は,可動部の主面と平行で,且つねじり軸と垂直な方向の結晶方位と,[110]方位とがなす角度が0度から60度の場合,(100),(111)基板を使った可動部の変形量比よりも小さくなる。さらに,最も小さい変形量を示すのは,(110)基板を使った可動部であり,かつ,[110]方位となす角度が35.3度の時である。この角度は,可動部の主面と平行で,且つねじり軸と垂直な方向の結晶方位が[111]方位の場合である。また,[111]方位±5度の範囲内である場合,自重による可動部の変形量が同等である。
【0032】
以上のように,本実施形態の揺動体装置では,シリコン基板の結晶異方性を利用して,反射面を有する可動部を作製することによって,高速駆動時の可動部の変形を小さくすることができる。従って,本実施形態の揺動体装置を用いて光偏向器を作製した場合,高速駆動時における偏向光(反射光)のスポット形状の劣化を防止することができる。」

エ「【0033】
次に,本実施形態の揺動体装置のねじりバネについて説明する。
【0034】
本実施形態の揺動体装置のねじりバネは,単結晶シリコンで形成され,ねじり軸に平行な方向の結晶方位が[111]方位である。ここで,結晶方位が[111]方位とは,その等価方位も含む。
【0035】
このねじりバネを用いた場合の作用について説明する。図7は,ねじりバネ定数比が各結晶面に対してどのように変化するかを有限要素法によって計算した結果である。今回の計算では,シリコンの結晶異方性を考慮した計算を実施している。尚,図7の有限要素法の計算に用いた物性値は,図6の計算で用いた物性値と同様である。
【0036】
図7の縦軸は,ねじりバネ定数比であり,横軸は[110]方位となす角度である。ねじりバネ定数比とは,(100)基板を用いてねじりバネを作製し,ねじり軸に平行な方向の結晶方位が[100]方位のとき(図7の(100)基板において,[110]方位となす角度が45度の場合)のねじりバネ定数を1とした比である。
【0037】
また,[110]方位となす角度とは,ねじりバネのねじり軸方向の結晶方位が,[110]方位となす角度を表す。つまり,0度は,ねじりバネのねじり軸方向の結晶方位が[110]方位であることを表す。また,ねじりバネのねじり軸に垂直な断面形状は直方体である。
【0038】
図7が示すように,(110)基板を使ったねじりバネ定数は,ねじりバネのねじり軸方向の結晶方位が,[110]方位となす角度が0度から60度の間で,(100),(110)基板を使ったねじりバネの最も小さいねじりバネ定数より小さい。さらに,最も小さいねじりバネ定数比を示すのは,(110)基板を使ったねじりバネであり,かつ,ねじりバネのねじり軸方向の結晶方位が,[111]方位の時である(この時,[110]方位となす角度は,35.3度である)。ここで,[111]方位は,ほぼ[111]方位である場合を含み,その範囲は[111]方位±10度の範囲内である。この範囲では,ばね定数比が同等である。また,この結晶方位は,その等価方位であってもかまわない。
【0039】
ねじりバネ定数比が小さい結晶面を利用して作製したねじりバネと,ねじりバネ定数比が大きい結晶面で作製したねじりバネとを比較すると次のようになる。同じねじりバネ定数のねじりバネを作製する場合,ねじりバネ定数比が大きい結晶面でねじりバネを作製する場合と比べて,ねじりバネ定数比が小さい結晶面,結晶方位でねじりバネを作製したほうが,ねじりバネの形状を大きくすることができる。例えば,ねじりバネの長さが一定の場合,ねじりバネ定数比が小さいほうがねじりバネの幅を太くすることができる。単結晶シリコン基板の加工誤差が同じである場合,ねじりバネの形状が太いほうがねじりバネ定数への加工誤差の影響を小さくすることができる。よって,ねじりバネ定数比が小さい結晶面,結晶方位で作製したねじりバネのほうが,単結晶シリコン基板の加工誤差の影響を低減することができる。
【0040】
この構成により,ねじりバネの幅などの加工誤差によるねじりバネ定数のばらつきを低減することができる。従って,高速駆動時の可動部の変形量を低減すると同時に,加工誤差による共振周波数のばらつきを低減することができる。
【0041】
また,ねじりバネを(111)面を主面とするシリコン基板で作製することもできる。図7に示すように,(111)面を主面とするシリコン基板で作製したねじりバネは,[110]方位となす角度によらず,バネ定数がほぼ一定である。従って,ねじりバネを作製する際に,ねじりバネのねじり軸方向の結晶方位がずれてしまっても,ねじりバネ定数は,ほぼ一定にすることができるので,加工誤差による共振周波数のばらつきを低減することができる。」

オ「【0047】
次に,可動部を支持部及びねじりバネと別に作製する方法について説明する。
【0048】
可動部は,(110)面を主面とするシリコン基板で作製する。作製方法は,ウエットエッチング,ドライエッチングにより作製しても良いし,ダイシングブレード(円形回転刃)によって切断しても良い。この可動部は,可動部の主面と平行で,且つねじり軸と垂直な方向の結晶方位が[111]方位となるように可動部とねじりバネを一体化する。一体化は,接着,あるいは,接合等でよい。このように一体化することによって,高速駆動時の可動部の変形が小さい光偏向器を作製することができる。
【0049】
また,可動部,ねじりバネ等の光偏向器を構成する部材を個別にマイクロマシニング技術によりシリコンウエハ上に形成することにより,ウエハ内の不要な部分を低減することができ,取り個数を増やすことができる。従って,安価な光偏向器を提供することができる。さらに,(110)基板で可動部を作製し,ねじりバネ等の光偏向器を構成する部材を個別に作製することによって,ねじりバネ等の材料を任意の材料で作製することができる。例えば,共振周波数を低減するための柔らかいバネや共振周波数を上げるための硬いばねにすることができる。従って,共振周波数の高い光偏向器や,共振周波数の低い光偏向器を提供することができる。特に,ねじりバネがシリコンであっても,任意の方向の結晶方位のねじりバネを有する光偏向器を提供することができる。」

カ ここで,図6及び図7は以下のものである。
【図6】

【図7】


キ 上記段落【0023】?【0032】の記載とともに図6を参照すると,(100)基板である単結晶シリコンで形成された部材の長手方向を,単結晶シリコンの[100]方位と平行とすることで,その変形量比が最大となることがわかる。

ク 上記段落【0035】?【0038】の記載とともに図7を参照すると,ねじりバネのねじり軸の方向を,(100)基板である単結晶シリコンの[100]方位と平行とすることでねじりバネのバネ定数比が最大となることがわかる。

(2)以上から,甲第9号証には,以下の各技術事項が記載されているといえる。
ア 支持部と,可動部と,前記可動部を前記支持部に対してねじり軸まわりにねじり振動可能に支持するねじりバネと,前記可動部を振動させる駆動手段とを有する揺動体装置であって,前記可動部は,単結晶シリコンで形成され,前記可動部の主面の結晶面は(110)面であって,前記可動部の主面と平行で,且つ前記ねじり軸と垂直な方向の結晶方位が[111]方位であることにより,可動部の変形量比を他の基板や他の結晶方位を用いた場合よりも小さくすることができる。
イ 単結晶シリコンで形成された部材の変形量比は,(110)基板において前記部材の長手方向を単結晶シリコンの[111]方位と平行としたときに最小となり,(100)基板において前記部材の長手方向を単結晶シリコンの[100]方向と平行としたときに最大となる。
ウ 単結晶シリコンで形成されたねじりバネのバネ定数比は,(110)基板においてねじりバネのねじり軸の方向を単結晶シリコンの[111]方位と平行としたときに最小となり,(100)基板において前記ねじり軸の方向を単結晶シリコンの[100]方向と平行としたときに最大となる。
エ ねじりバネ定数比が小さい結晶面,結晶方位でねじりバネを作製したほうが,ねじりバネの形状を大きくすることができ,例えば,ねじりバネの長さが一定の場合,ねじりバネ定数比が小さいほうがねじりバネの幅を太くすることができることにより,ねじりバネの幅などの加工誤差によるねじりバネ定数のばらつきを低減することができる。
オ ねじりバネの共振周波数を上げるための硬いばねにすることもできる。

3 対比
訂正発明と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「ミラー部基体1a上に光の反射面として形成された金属薄膜1b」は,訂正発明の「光を反射する反射面」に相当する。

イ 甲1発明の「複数の層から構成される半導体基板(シリコン基板)」と訂正発明の「主面が(100)面である単一の単結晶シリコンウエハ」とは,「単一のシリコンウエハ」である点で一致する。

ウ 甲1発明の「ミラー部基体1aの直径方向の両端から外側へ向かって1対のトーションバー2a,2b」は,「ミラー部基体1aと,トーションバー2a,2bと,支持体4と,可動部9と,支持基体11とは,複数の層から構成される半導体基板(シリコン基板)を形状加工することにより一体的に形成されている」ものであるから,前記イも考慮すると,訂正発明の「前記単結晶シリコンウエハの単結晶シリコンで形成されたトーションバー」とは,「前記シリコンウエハのシリコンで形成されたトーションバー」である点で一致する。

エ 甲1発明においては,「トーションバー2a,2bの捩れによって,該トーションバー2a,2bの軸心たる揺動軸X1の周りに揺動可能となって」いるから,「ミラー部1を可動部9に対して揺動軸X1の周りに揺動させるための内側圧電アクチュエータ8a,8b,8c,8d」は,訂正発明の「前記トーションバーをその長手方向の軸としての第1軸の周りに捩ることで,前記反射面を前記第1軸の周りに揺動させる第1アクチュエータ」に相当する。

オ 甲1発明の「可動部9は,方形枠状に形成されており,ミラー部1の周囲を囲むように設けられ,ミラー部基体1aから延設されたトーションバー2a,2bのそれぞれの先端部が,可動部9の内周部に連結され,」また,「各内側圧電アクチュエータ8は,」「それぞれの先端部がトーションバー2aに連結されると共に,それぞれの基端部が可動部9の内周部に連結されているから,当該「可動部9」は,訂正発明の「前記反射面と前記トーションバーと前記第1アクチュエータとを包囲し,前記第1アクチュエータを介して前記トーションバーに連結している第1枠体」に相当する。

カ 甲1発明の「支持基体11は,方形枠状に形成されて,可動部9の周囲を囲むように設けられ」手いるから,「支持基体11」は,訂正発明の「前記第1枠体を包囲する第2枠体」に相当する。

キ 甲1発明においては,「ミラー部1及び可動部9を支持基体11に対して揺動させる一対の外側圧電アクチュエータ10a,10bが,支持基体11の内周部と可動部9の外周部との間で,可動部9を挟んで揺動軸X2の方向(揺動軸X1と直交する方向)に対向するようにして配置され,これらの外側圧電アクチュエータ10a,10bを介して,可動部9が支持基体11に支持されて」おり,「各外側圧電アクチュエータ10を構成する圧電カンチレバー3の屈曲変形によって支持基体11に対して揺動軸X2の周りに揺動可能となって」いるから,当該「圧電アクチュエータ10a,10b」は,訂正発明の「前記第1枠体を前記第2枠体に連結する唯一の連結部材として前記第1枠体と前記第2枠体との間に介在する共に,前記反射面を前記第1軸とは別の第2軸の周りに揺動させる第2アクチュエータ」に相当する。

ク 甲1発明の,「内側圧電アクチュエータ8a?8dのそれぞれ」「は,起歪体(カンチレバー本体)としての支持体4の層上に下部電極5,圧電体6及び上部電極7の層を積層した構造の圧電カンチレバーであり,下部電極5と上部電極7との間で圧電体6に駆動電圧を印加することで,圧電体6と共に支持体4が屈曲変形するようになって」いることは,訂正発明の「前記第1アクチュエータは,駆動電圧が印加される第1圧電体と,該第1圧電体を支持し該第1圧電体と共に屈曲変形する第1支持体とを備え」ることに相当する。

ケ 甲1発明の,「各外側圧電アクチュエータ10を構成する複数の圧電カンチレバー3は,支持基体11の内周部と可動部9の外周部との間で,揺動軸X2と直交する方向(揺動軸X1と同方向)に延在して,該揺動軸X2の方向に間隔を存して並ぶように配置されていると共に,そのそれぞれの圧電カンチレバーが隣合う圧電カンチレバーに対して折り返されるように連結されて,各外側圧電アクチュエータ10は,揺動軸X2と直交する方向を振幅方向として蛇行するようにして延在して」いることは,訂正発明の「前記第2アクチュエータは,長手方向を前記第1軸に平行に揃えてミアンダ形状に連結されている複数の圧電カンチレバーを有」することに相当する。

コ 甲1発明の,「外側圧電アクチュエータ10a,10bを構成する圧電カンチレバー3のそれぞれ」「は,起歪体(カンチレバー本体)としての支持体4の層上に下部電極5,圧電体6及び上部電極7の層を積層した構造の圧電カンチレバーであり,下部電極5と上部電極7との間で圧電体6に駆動電圧を印加することで,圧電体6と共に支持体4が屈曲変形するようになって」いることは,訂正発明の「前記第2アクチュエータの各圧電カンチレバーは,駆動電圧が印加される第2圧電体と,該第2圧電体を支持し該第2圧電体と共に屈曲変形する第2支持体とを備え」ることに相当する。

サ 甲1発明の「ミラー部基体1aと,トーションバー2a,2bと,支持体4と,可動部9と,支持基体11とは,複数の層から構成される半導体基板(シリコン基板)を形状加工することにより一体的に形成されている光偏向器A1」は,訂正発明の「単一の単結晶シリコンウエハによって一体的に構成されている光偏光器」とは,「単一のシリコンウエハによって一体的に構成されている光偏光器」である点で一致する。

シ 甲1発明の,「内側圧電アクチュエータ8a?8dのそれぞれ」「は,起歪体(カンチレバー本体)としての支持体4の層上に下部電極5,圧電体6及び上部電極7の層を積層した構造の圧電カンチレバーであ」るところ,
「一方の対の内側圧電アクチュエータ8a,8cは,トーションバー2aと直交する方向(揺動軸X1と直交する方向)に延在しており,それぞれの先端部がトーションバー2aに連結されると共に,それぞれの基端部が可動部9の内周部に連結されており,圧電アクチュエータ8b,8dは,トーションバー2bと直交する方向(揺動軸X1と直交する方向)に延在しており,それぞれの先端部がトーションバー2bに連結されると共に,それぞれの基端部が可動部9の内周部に連結されて」いるから,甲1発明の当該構成は,
訂正発明の「前記第1アクチュエータの前記第1支持体は,基端部において前記第1枠体に連結され,先端部において前記トーションバーに連結されて,前記トーションバーを支持すること」に相当する。

ス よって,甲1発明と訂正発明とは,
「単一のシリコンウエハによって一体的に構成されている光偏光器であって,光を反射する反射面と,前記シリコンウエハのシリコンで形成されたトーションバーと,前記トーションバーをその長手方向の軸としての第1軸の周りに捩ることで,前記反射面を前記第1軸の周りに揺動させる第1アクチュエータとを有する光偏向器において,
前記反射面と前記トーションバーと前記第1アクチュエータとを包囲し,前記第1アクチュエータを介して前記トーションバーに連結している第1枠体と,
前記第1枠体を包囲する第2枠体と,
前記第1枠体を前記第2枠体に連結する唯一の連結部材として前記第1枠体と前記第2枠体との間に介在する共に,前記反射面を前記第1軸とは別の第2軸の周りに揺動させる第2アクチュエータとを備え,
前記第1アクチュエータは,駆動電圧が印加される第1圧電体と,該第1圧電体を支持し該第1圧電体と共に屈曲変形する第1支持体とを備え,
前記第2アクチュエータは,長手方向を前記第1軸に平行に揃えてミアンダ形状に連結されている複数の圧電カンチレバーを有し,
前記第2アクチュエータの各圧電カンチレバーは,駆動電圧が印加される第2圧電体と,該第2圧電体を支持し該第2圧電体と共に屈曲変形する第2支持体とを備え,
前記第2支持体は,前記シリコンウエハのシリコンで形成されると共に,長方形板状に形成され,
前記第1アクチュエータの前記第1支持体は,基端部において前記第1枠体に連結され,先端部において前記トーションバーに連結されて,前記トーションバーを支持することを特徴とする光偏向器。」
である点で一致する。

セ 一方,両者は以下の各点で相違する。
《相違点1》
訂正発明は,「主面が(100)面である単一の単結晶シリコンウエハによって一体的に構成されている光偏光器であって,」「前記単結晶シリコンウエハの単結晶シリコンで形成されたトーションバー」が「前記第1軸方向が,当該トーションバーの結晶方位の<100>方位と平行になるように形成され」たものであり,「前記第2支持体は,前記単結晶シリコンウエハの単結晶シリコンで形成されると共に,長方形板状に形成され,その長手方向が,当該第2支持体の結晶方位の<100>方位と平行になるように形成されている」ものであるのに対して,
甲1発明においては,「単一のシリコンウエハによって一体的に構成されている光偏光器であって,」「トーションバー」は「前記シリコンウエハのシリコンで形成された」ものであり,「前記第2支持体は,前記シリコンウエハのシリコンで形成されると共に,長方形板状に形成され」たものであるものの,「シリコンウエハ」が「主面が(100)面である」「単結晶」のものであって,「トーションバー」及び「第2支持体」も「単結晶」であるとともに,「トーションバー」については「前記第1軸方向が,当該トーションバーの結晶方位の<100>方位と平行になるように形成され」,「前記第2支持体」については「その長手方向が,当該第2支持体の結晶方位の<100>方位と平行になるように形成されている」構成までは備えない点。

《相違点2》
訂正発明は,「前記トーションバーをその長手方向の軸としての第1軸の周りに捩ることで,前記反射面を前記第1軸の周りに共振周波数で揺動させる第1アクチュエータ」を備えるのに対し,甲1発明は,「前記トーションバーをその長手方向の軸としての第1軸の周りに捩ることで,前記反射面を前記第1軸の周りに揺動させる第1アクチュエータ」を備えるものの,「共振周波数で揺動させる」ものであることまでは特定されていない点。

4 判断
(1)相違点1について,
ア 以下,甲第2号証?甲第5号証に記載されているように,一般に,光偏向器において,ミラー部の共振周波数を高くすることは,周知の課題である。
甲第2号証には次の記載がある。
「【0005】
また,ミラーを第1の方向で共振駆動させる圧電アクチュエータと第2の方向で非共振駆動させる圧電アクチュエータとを組み合わせた2次元光偏向器でも,同様に,ミラーの共振周波数を高くするためには支持層の厚みを厚くする必要があるが,支持層の厚みが厚くなると,共振駆動・非共振駆動の圧電アクチュエータの最大偏向角が小さくなる。よって,2次元光偏向器において大きな偏向角を確保しようとすると,共振周波数を高くできず,第1の方向の共振周波数と第2の方向の非共振駆動周波数との間に大きな差をつけることが難しい。このため,この2次元光偏向器を用いて水平方向,垂直方向にラスタスキャンしてディスプレイ上に光を投射して画像を表示する場合に,解像度を高くすることが困難となる。
【0006】
本発明は上記背景を鑑みてなされたものであり,圧電アクチュエータを用いた光偏向器において,小型で簡単な構造で,高い駆動周波数と大きい最大偏向角とを両立可能な光偏向器を提供することを目的とする。」

甲第3号証には次の記載がある。
「【0015】
そこで本発明は,上記のような問題点に鑑み,ミラー部の外形サイズを小さくでき,もしくは,ミラー部の外形サイズを大きくすることなく,ミラー部の共振周波数を高く保ちつつ,ミラー部の偏向角度を大きく設定することができる光偏向子及びこの光偏向子を備えた光偏向器並びに光偏向子の製造方法を提供することを目的とする。」

甲第4号証には次の記載がある。
「【0013】 ・・・(中略)・・・。反射ミラー部55が大型化すると,反射ミラー部55の共振周波数が低下するため,高速で揺動させることができない。特に,偏向角を大きく取るため,又は,低電圧で大きな駆動力を得るため,櫛歯部61,62の高さを大きく設定したり,櫛歯数を多くすることは反射ミラー部55の重量の増量となり,さらなる共振周波数の低下を招く。
【0014】そこで,本発明は,前記した課題を解決すべくなされたものであり,低い駆動電力の下でも高速で,且つ,広偏向角で揺動することができると共に,反射ミラー部の剛性にも問題が生じない光偏向器及びこれを用いた表示装置を提供することを目的とする。」

甲第5号証には次の記載がある。
「【0005】
本発明は,上記した課題に鑑みてなされたもので,走査部としてのミラーの反射面の形状とミラーの反射面における光のスポット形状とを適合させることにより,ミラーを小型化するとともに,ミラーの共振周波数を向上させ,解像度が高い映像を表示することが可能な走査型画像表示装置を提供することにある。」

イ また,以下,甲第6号証及び甲第7号証に記載されているように,トーションバー(梁部)のねじりバネ定数が大きいほど共振周波数が高くなることは技術常識である。
甲第6号証には次の記載がある
「【0043】
トーションバー2の断面が矩形とした場合,支持部に支持されたミラー部の共振周波数fと,トーションバー2のバネ定数Kは式4,式5で示される。
【数2】


甲第7号証には次の記載がある。
「[0006]
・・・(中略)・・・
この共振周波数 fは,例えば,従来技術 1のねじり変形部(捻れ梁部)のばね定数を k,回転軸 (Y軸または Z軸)のまわりのモーメントを Iとすると,振動子 1における共振 周波数 fは次式で表される。

[数 1]



ウ また,前記アにおいて摘記した甲第2号証?甲第4号証に記載されているように,一般に,光偏向器においては,偏向角度を大きくすることも,周知の課題である。

エ そして,甲第9号証には,前記2(2)ウのとおり,単結晶シリコンで形成されたねじりバネのバネ定数比は,(100)基板において前記ねじりバネのねじり軸の方向を単結晶シリコンの[100]方向と平行としたときに最大となること,及び同オのとおり,ねじりバネの共振周波数を上げるための硬いばねにすることもできることが記載されているから,前記イの技術常識に照らせば,ねじりバネの共振周波数を上げるために,単結晶シリコンの(100)基板において前記ねじりバネのねじり軸の方向を単結晶シリコンの[100]方向と平行とすればよいことことは明らかである。

オ さらに,以下,甲第3号証及び甲第9号証に記載されているように,光偏向器を単結晶シリコンウエハの一体形成で製造することは周知の技術である。この際,単結晶シリコンウエハが単一のものであることは明らかである。

甲第3号証には次の記載がある。
「【請求項6】
所定の基板厚みを有する単結晶シリコン基板を用い,外部から照射された光を表面で反射させるミラー部を,フレーム部の内側を肉抜きして複数の捩じりバネ部を介して揺動可能に支持した光偏向子を製造する方法・・・(以下略)」

甲第9号証には次の記載がある。
「【0046】
支持部と可動部とねじりバネとを単結晶シリコンで一体形成する場合は,例えば以下のようにして作製する。(110)面を主面とする単結晶シリコン基板に,フォトリソグラフィ技術を用いて,支持部,可動部,ねじりバネとなる部分をパターニングする。・・・(以下略)」

カ しかしながら,甲1発明は,「ミラー部基体1aと,トーションバー2a,2bと,支持体4と,可動部9と,支持基体11とは,複数の層から構成される半導体基板(シリコン基板)を形状加工することにより一体的に形成されている」ものであるところ,トーションバー2a,2bと,「内側圧電アクチュエータ8a,8b,8c,8dのそれぞれ」を構成する支持体4とが,前記複数の層のうちの共通する1層のみから構成されることまでは明らかでない。むしろ甲第1号証の図2の記載を見ると,トーションバー2a,2bにつながるミラー部基体1aと,支持体4とは別個の層により構成されていることから,同様に,トーションバー2a,2bと支持体4とが別個の層により構成されていると見る方が自然である。
このことは,甲第2号証の記載からもいえることである。
すなわち,甲第2号証の図1及び図2には甲第1号証の図1及び図2と同様なものが示されており,また,甲第2号証の図3も併せて,甲第2号証の次の記載,
「【0027】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態について,図1?図5を参照して説明する。図1は,本発明の第1実施形態における光偏向器の構成を示す斜視図,図2は,図1の光偏向器のミラー部支持体及び圧電アクチュエータの圧電カンチレバーの支持体の断面を示す説明図,図3は,図1の光偏向器の第1の圧電アクチュエータの作動を示す説明図,
・・・(中略)・・・
【0028】
図1に示すように,本実施形態の光偏向器A1は,入射された光を反射するミラー部1と,ミラー部1に連結されたトーションバー2a,2bと,ミラー部1をそれぞれトーションバー2a,2bを介して駆動する2対の内側の第1の圧電アクチュエータ8a?8dと,第1の圧電アクチュエータ8a?8dを支持する可動枠9と,可動枠9を駆動する1対の外側の第2の圧電アクチュエータ10a,10bと,第2の圧電アクチュエータ10a,10bを支持する支持部11とを備えている。
【0029】
・・・(中略)・・・
【0031】
第1の圧電アクチュエータ8a?8dは,それぞれ,1つの圧電カンチレバーから構成される。各圧電カンチレバーは,支持体4a?4dと下部電極5a?5dと圧電体6a?6dと上部電極7a?7dとを備えている。
【0032】
・・・(中略)・・・
【0045】
ここで,図2に,光偏向器A1の断面を模式的に示す。図2には,ミラー部1,圧電アクチュエータ8a?8d,10a,10b,支持部11の断面が示されている。光偏向器において,ミラー部支持体1a,トーションバー2a,2b,支持体4a?4h,可動枠9,支持部11を形成する半導体基板としては,SOI基板31を用いている。SOI基板31は,後述の図5(a)に示すように,単結晶シリコン(活性層31a,又はSOI層ともいう)/酸化シリコン(中間酸化膜層31b)/単結晶シリコン(ハンドリング層31c)の貼り合わせ基板である。SOI基板の各層の厚みは,例えば,活性層31aの厚みは5?100[μm],中間酸化膜層31bの厚みは0.5?2[μm],ハンドリング層31cの厚みは100?600[μm]である。
【0046】
・・・(中略)・・・
【0047】
このとき,図2に示すように,第1の圧電アクチュエータ8a?8dの圧電カンチレバーの支持体4a?4dと,第2の圧電アクチュエータ10a,10bの圧電カンチレバー3e?3hの支持体4e?4hは,SOI基板31のうち活性層31a(本発明の第1の支持層)を形状加工して形成される。一方,ミラー部支持体1aは,SOI基板31のうちハンドリング層31c(本発明の第2の支持層)を形状加工して形成される。このように,圧電カンチレバーの支持体4a?4hとミラー部1とを,異なる層を形状加工して形成するので,圧電カンチレバーの支持体4a?4hの厚さとミラー部1の厚さとを独立して変更できる。
【0048】
また,トーションバー2a,2bは,SOI基板31のうち,ミラー部1と同様に,ハンドリング層31c(第1の支持層と異なる第3の支持層,本実施形態では第2の支持層と同じ)を形状加工して形成される。」
を参照すると,第1の圧電アクチュエータ8a?8dの圧電カンチレバーの支持体4a?4dとトーションバー2a,2bとは,異なるシリコンの層により構成されていることは明らかである。
そして,甲第2号証の図2と,甲第1号証の図2とは同様のものであるから,甲第1号証の記載されたものにおいても,甲第2号証の記載されたものと同様に,トーションバー2a,2bと支持体4とが別個の層により構成されている蓋然性が高いものといえる。

キ そうすると,甲1発明において,前記アの周知の課題を解決すべく,前記エの甲第9号証に記載された知見を適用するとしても,支持体4とは異なる層により構成されたトーションバー2a,2bについて適用されるものとなる。
一方,前記2(2)イに摘示した甲第9号証の記載事項のとおり,単結晶シリコンで形成された部材の変形量比は,(100)基板において前記部材の長手方向を単結晶シリコンの[100]方向と平行としたときに最大となり,外側圧電アクチュエータ10a,10bの圧電駆動による屈曲変形も大きくなることから,当該知見を甲1発明の支持体4に適用して,前記ウの周知課題の解決に寄与させるとしても,トーションバー2a,2bとは異なる層により構成された支持体4について適用されるものとなる。

ク また,前記オの甲第3号証及び甲第9号証に記載された,単結晶シリコンウエハの一体形成で製造する周知技術は,いずれも圧電カンチレバーによりミラーを駆動するものではないうえ,仮に,当該周知技術が光偏向装置一般における周知技術であったとしても,甲1発明に対して当該周知技術を適用する動機が見いだせないから,当該周知技術を甲1発明に適用することを当業者が適宜になし得たとはいえない。

ケ 以上のとおりであるから,甲1発明において,相違点1に係る,「シリコンウエハ」が「主面が(100)面である」「単結晶」のものであって,「トーションバー」及び「第2支持体」も「単結晶」であるとともに,「トーションバー」については「前記第1軸方向が,当該トーションバーの結晶方位の<100>方位と平行になるように形成され」,「前記第2支持体」については「その長手方向が,当該第2支持体の結晶方位の<100>方位と平行になるように形成されている」構成を備えることは,当業者が容易になし得たこととはいえない。

(2)小括
よって,相違点2について検討するまでもなく,訂正発明は,甲1発明,甲第2号証ないし甲第7号証及び甲第9号証に記載された事項,並びに周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 平成30年5月30日付け取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由及び証拠について
1 異議申立理由1及び2について
(1)異議申立理由1(第36条第6項第1号)の概要
訂正前の請求項1においては,「前記第1アクチュエータを介して前記トーションバーに連結している第1枠体」及び「前記第1枠体を前記第2枠体に連結する唯一の連結部材として前記第1枠体と前記第2枠体との間に介在する共に,前記反射面を前記第1軸とは別の第2軸の周りに揺動させる第2アクチュエータ」との記載があり,これらの各「連結」している部分が別体として形成されたものも含まれる記載となっているが,本件特許明細書においては,前記各「連結」している部分は単結晶シリコンウエハによって一体的に形成されたものしか記載されていない。
(2)異議申立理由2(第36条第6項第2号)の概要
上記(1)のとおりであるが,翻せば,訂正前の請求項1に係る前記「連結」がどのような意味で記載されているのか不明である。
(3)上記異議申立理由1及び2について
前記「第3 訂正発明」に記載したとおり,訂正発明においては,「単一の単結晶シリコンウエハによって一体的に構成されている光偏光器であ」る点が特定された。
そして,訂正発明における当該特定により,各「連結」している部分が別体として形成されたものは排除されるから,上記異議申立理由1は解消され,これに伴い,上記異議申立理由2も解消されたから,両異議申立理由は採用することができない。

2 異議申立理由3(特許法第29条第2項)に関して採用しなかった証拠について
(1)採用しなかった各甲号証は以下のものである。
甲第 8号証 ‘Influence of silicon crystallorgraphic
orientation on mechanical properties of
MEMS accelerometers', Gyroscopy and Navigation,
Vol.3, No.3, p.210-214, 2012
甲第10号証 特開2002-72127号公報
甲第11号証 「オンチップ引張試験によるシリコン薄膜の応力と
ひずみの測定」,電気学会論文誌E119巻2号,
67?72ページ,平成11年
甲第12号証 国際公開第2011/074256号
甲第13号証 国際公開第2009/4721号
甲第14号証 特開平5-325274号公報
甲第15号証 特開2000-309000号公報
(2)上記各甲号証についての検討
ア 甲第8号証について
甲第8号証に示された「振子式加速度計」は,弾性トーション部5を備えるが,「このトーション軸は振子特性を生じさせる平面(l=447μm)の対称軸線から位置変化する」との記載を参照すると,弾性トーション部5がねじりバネとして機能するものであるか否か不明である。
イ 甲第10号証について
段落【0062】?【0063】に記載されているとおり,図23に係るねじり揺動体のスタートウエハであるSOI基板300は,支持体基板の<110>方位と活性層基板の<100>方位を一致させたものであって,前記ねじり揺動体に関わるせん断弾性係数がどの結晶方位によって定まるのか不明である。
ウ 甲第11号証について
甲第11号証には,単結晶シリコンの各方位についての3点曲げ試験によるヤング率の測定結果が記載されているが,当該測定結果と光偏向器との関係を示すものではない。
エ 甲第12号証について
甲第12号証の段落[0028]には,振動部にヤング率の大きい<110>方位を採用することが好ましい旨の記載があり,また,ヤング率が最小となるのは<111>方位であることも記載されているから,<100>方位を採用する積極的動機をもたらすものとはいえない。
オ 甲第13?15号証について
甲第13号証にはプローブに係る発明が,甲第14号証には圧電変位素子や微小プローブ等が,甲第15号証には半導体マイクロアクチュエータ等が
記載され,その各々において特定の結晶方位を採用することが示されているものの,そのいずれにおいても光偏向器は示されていない。また,甲第14号証及び甲第15号証には,前記特定の方位を採用することの技術的意義が明記されていない。
(3)小括
以上のとおりであるから,上記(1)の各甲号証に記載された事項は,仮にそれらを参酌しても,前記「第5 4(2)小括」の結論を変更するものではない。

第7 異議申立人の意見書における主張について
1 異議申立人は平成30年11月29日(同年同月30日受付)に提出した意見書(13ページ)において,以下の主張を行っている。
(1)甲第1号証の図1において,外側圧電アクチュエータからトーションバーまで何らの段差もなく接続されている点に鑑みれば,これらが異なる層に形成されているとは解しがたい。
(2)甲第16号証(特開2009-223165号公報)及び甲第17号証(特開2012-133242号公報)においては,訂正発明及び甲1発明と同様な2軸の光偏向器において,トーションバーと外側圧電アクチュエータとが,複数の層から構成されるシリコン基板において,同一の層に形成されていることが記載されている。

2 検討
上記各主張について検討する
(1)前記第5 4(1)カのとおり,甲第1号証に記載されたものにおいては,各トーションバー2a,2bと,各内側圧電アクチュエータ8a?8dを構成する各支持体4とは異なる層によって構成されていると解することが自然である。甲第1号証の図1は光偏向器全体の斜視図であって,同図2及び甲第2号証の図2に示された断面図とは異なり,層構造の詳細を提示するものではないから,甲第1号証の図1の記載は,前記解釈を左右するものではない。
(2)甲第16号証及び甲第17号証に記載された構成を甲1発明に適用する動機は見いだせないうえ,仮に適用することが容易であるとしても,当該適用を行った上で,更に前記第5 4(1)キで検討した結晶方位の選択をすることになる。よって,そのような過程を経て得られるものは,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第8 むすび
よって,取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,訂正発明に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に訂正発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
光偏向器
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶シリコンで形成されたトーションバーによって、反射面を揺動可能な光偏向器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光を反射する反射面と、単結晶シリコンで形成されたトーションバーと、トーションバーをその長手方向の軸周りに捩ることで、反射面を所定の軸周りに揺動させるアクチュエータとを有する光偏向器が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-20701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたような光偏向器において、反射面の走査速度を大きくすることが望まれる場合がある。このような場合には、トーションバーの共振周波数を大きくするため、トーションバーの長手方向の軸周りのばね定数を大きくすること、例えば、トーションバーの厚さを大きくする等、トーションバーの寸法を変更することが考えられる。しかしながら、寸法の変更により、光偏向器が大型化してしまう場合がある。
【0005】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、光偏向器の大型化を抑制しつつ、反射面の走査速度を高速にできる光偏向器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、主面が(100)面である単一の単結晶シリコンウエハによって一体的に構成されている光偏向器であって、光を反射する反射面と、前記単結晶シリコンウエハの単結晶シリコンで形成されたトーションバーと、前記トーションバーをその長手方向の軸としての第1軸の周りに捩ることで、前記反射面を前記第1軸の周りに共振周波数で揺動させる第1アクチュエータとを有する光偏向器において、前記反射面と前記トーションバーと前記第1アクチュエータとを包囲し、前記第1アクチュエータを介して前記トーションバーに連結している第1枠体と、前記第1枠体を包囲する第2枠体と、前記第1枠体を前記第2枠体に連結する唯一の連結部材として前記第1枠体と前記第2枠体との間に介在する共に、前記反射面を前記第1軸とは別の第2軸の周りに揺動させる第2アクチュエータとを備え、前記第1アクチュエータは、駆動電圧が印加される第1圧電体と、該第1圧電体を支持し該第1圧電体と共に屈曲変形する第1支持体とを備え、前記第2アクチュエータは、長手方向を前記第1軸に平行に揃えてミアンダ形状に連結されている複数の圧電カンチレバーを有し、前記第2アクチュエータの各圧電カンチレバーは、駆動電圧が印加される第2圧電体と、該第2圧電体を支持し該第2圧電体と共に屈曲変形する第2支持体とを備え、前記トーションバーは、前記第1軸方向が、当該トーションバーの結晶方位の<100>方位と平行になるように形成され、前記第2支持体は、前記単結晶シリコンウエハの単結晶シリコンで形成されると共に、長方形板状に形成され、その長手方向が、当該第2支持体の結晶方位の<100>方位と平行になるように形成され、前記第1アクチュエータの前記第1支持体は、基端部において前記第1枠体に連結され、先端部において前記トーションバーに連結されて、前記トーションバーを支持することを特徴とする。
【0007】
ここで、本発明における結晶方位は、単結晶シリコンにおける結晶方位であるので、所定の方位には、その方位に等価な方位が含まれるものとする。例えば、所定の方位が<100>方位である場合の<100>方位とは、例えば、<010>、<001>、及び<-100>等を含む。
【0008】
MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の光偏向器を製造する場合、単結晶シリコンで形成されたウエハが用いられる。このとき、ウエハの主面は、エッチング処理を鑑みて(100)面を主面とすることが一般的である。このため、ウエハの主面に沿う結晶方位としては、<110>方位及び<100>方位のいずれかが主となる。
【0009】
ここで、単結晶シリコンのせん断弾性係数Gは、単結晶シリコンの結晶方位が<110>方位のとき約62[GPa]であり、単結晶シリコンの結晶方位が<100>方位のとき約79[GPa]である。トーションバーのばね定数kは、せん断弾性係数Gが大きくなる程、大きくなる。
【0010】
従って、トーションバーの長手方向の軸方向が、単結晶シリコンの結晶方位の<100>方位に平行となるように、トーションバーが形成されることで、単結晶シリコンの結晶方位の<110>方位に平行となるようにトーションバーが形成されるものに比べて、該トーションバーの長手方向の軸周りのばね定数が大きくなり、ひいては、トーションバーの共振周波数を大きくできる。このとき、トーションバーの寸法を変更する必要がない。従って、光偏向器の大型化を抑制しつつ、反射面の走査速度を高速にできる。
【0012】
第2アクチュエータは、長方形板状に形成された第2支持体を備える。このようなカンチレバーの先端部の変位量は、ヤング率Eに反比例する。
【0013】
ここで、単結晶シリコンのヤング率Eは、単結晶シリコンの結晶方位が<110>方位のとき約160[GPa]であり、単結晶シリコンの結晶方位が<100>方位のとき約130[GPa]である。従って、第2支持体の長手方向が、単結晶シリコンの結晶方位の<100>方位に平行となるように当該第2支持体が形成されることで、単結晶シリコンの結晶方位の<110>方位に平行となるように当該支持体が形成されるものに比べて、第2支持体の屈曲変形の大きさが大きくなる。これにより、第2軸周りの反射面の揺動角度を大きくできる。
【0014】
以上のように、第1軸周りのトーションバーの共振周波数を大きくしつつ、第2軸周りの反射面の揺動角度を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態の光偏向器の構成を示す図。
【図2】主面が(100)面のウエハから光偏向器を作成するときの光偏向器のレイアウトを示す図であり、(a)は、オリエンテーションフラットが<110>方位を示すとき、(b)は、オリエンテーションフラットが<100>方位を示すときの図。
【図3】図1のIII-III線を矢印の方向で見たときの図であり、(a)は、光偏向器を製造するときにエッチングする前のウエハの積層を簡略的に示す図であり、(b)は、(a)をエッチングした後を簡略的に示す図。
【図4】本発明の第2実施形態の光偏向器の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第1実施形態]
図1を参照して、本発明の第1実施形態の光偏向器について説明する。本実施形態の光偏向器1は、円形の反射面2aを有するミラー部2と、2つのトーションバー3と、枠体4と、4つのアクチュエータ5とを備える。
【0017】
ミラー部2は、反射面2aとほぼ同一の大きさの円形に形成される。ミラー部2は、その中心点が、光偏向器1の中心に配置される。ミラー部2は、レーザ光源(図示省略)からの入射光を反射面2aに受け、トーションバー3の軸線の回りの回転角に応じた向きに反射光を出射する。なお、トーションバー3の軸線(長手方向の軸線)は、ミラー部2の回転軸線でもある(以下、この軸線を「第1軸X」という)。2つのトーションバー3は、各々の軸線がミラー部2の同一の直径上となるようにして、ミラー部2の左右両側から先端部をミラー部2の周縁に連結している。
【0018】
4つのアクチュエータ5の各々は、単結晶シリコンで略長方形の板状に形成された支持体5aと、該支持体5aの一方の面のほぼ全面に支持された圧電体5bとを備える。
【0019】
4つのアクチュエータ5は、ミラー部2の両側(図1の左右側)に2つずつ配置されている。このとき、ミラー部2の右側において、2つのアクチュエータ5は、右側のトーションバー3の基端部の図1の上下にそれぞれ配設され、該トーションバー3の基端部に、先端部を連結している。ミラー部2の左側において、2つのアクチュエータ5は、左側のトーションバー3の基端部の図1の上下にそれぞれ配設され、該トーションバー3の基端部に、先端部を連結している。
【0020】
枠体4は、矩形状の枠(上辺4uと下辺4dとが平行、及び左辺4lと右辺4rとが平行)として形成されており、ミラー部2、トーションバー3、及びアクチュエータ5を外側から包囲する。アクチュエータ5の基端部は、枠体4の上辺4u部分又は下辺4d部分に連結する。
【0021】
トーションバー3は、枠体4の上辺4u及び下辺4dに対して平行に配置されている。また、アクチュエータ5の支持体5a(ひいては、アクチュエータ5)は、枠体4の左辺4l及び右辺4rに対して平行に配置されている。
【0022】
光偏向器1は、以下のようにして、フォトリソグラフィ技術やドライエッチング技術等を利用した半導体プレーナプロセス及びMEMSプロセスが用いられて製造される。まず、図2(a)に示されるような単結晶シリコンのウエハ10上に、図3(a)に示されるように、下部電極層L1、圧電体層L2、及び上部電極層L3等が積層される。そして、エッチング処理等によって、不要な部位が適宜除去されることで、ミラー部2、トーションバー3、枠体4、及びアクチュエータ5が形成される(図3(b)は、図1のIII-III線断面を示している)。このとき、下部電極層L1、圧電体層L2及び上部電極層L3は、アクチュエータ5の部分のみ残されて、他の部分は除去される。
【0023】
また、圧電体5b(圧電体層L2がエッチング処理されて残った箇所)へ駆動電圧を印加できるように、上部電極層L3がエッチング処理されて残った箇所(上部電極)t+に導通する配線(図示省略)と、下部電極層L1がエッチング処理されて残った箇所(下部電極)t-に導通する配線(図示省略)が設けられる。
【0024】
圧電体5bは、上部電極t+に導通する配線と、下部電極t-に導通する配線との間に駆動電圧が印加されると、該印加されたことによる圧電効果によって、支持体5aの長手方向に対して縮小する。これに伴って、圧電体5bを支持している支持体5aが、圧電体5bを支持している側の表面を内側となるように(支持体5aの基端部図3の上方向に向かって)、該圧電体5bと共に屈曲変形する。以下、このような圧電体5bと支持体5aの屈曲変形を、単にアクチュエータ5の屈曲変形ともいう。
【0025】
また、ミラー部2には、ウエハ10上に、金属薄膜(本実施形態では一層の金属薄膜)を半導体プレーナプロセスを用いて形状加工することで、反射面2aが形成される。
【0026】
トーションバー3と、アクチュエータ5の支持体5aとは、ウエハ10等がエッチングされることで形成されるので、ウエハ10と同じ材料、すなわち、単結晶シリコンで形成される。
【0027】
ウエハ10は、単結晶シリコンで形成されている。ウエハ10の主面は、(100)面である。このため、ウエハ10の主面に沿う結晶方位としては、<110>方位及び<100>方位のいずれかが主となる。ウエハ10には、<110>方位を示すようにオリエンテーションフラット11が設けられている(図2(a)参照)。すなわち、オリエンテーションフラット11に対して45度の角度の方向が、<100>方位となる。
【0028】
そして、図2(a)に示されるように枠体4の上辺4uがオリエンテーションフラット11に対して45度傾斜するように、ウエハ上に、これから形成される光偏向器1をレイアウトする。これによって、枠体4の上辺4uが、<100>方位と平行になる。上辺4uに平行な方向及び直交する方向は、全て<100>方位となる。このため、上辺4uに平行なトーションバー3の長手方向と、上辺4uに直交するアクチュエータ5の支持体5aの長手方向とは、<100>方位となる。
【0029】
なお、図2(b)に示されるように、主面が(100)面のウエハ10に、<100>方位を示すように、オリエンテーションフラット11を設けてもよい。この場合には、枠体4の上辺4uがオリエンテーションフラット11に対して平行となるように、ウエハ10上にこれから形成する光偏向器1をレイアウトすればよい。
【0030】
次に、光偏向器1の作動について説明する。この光偏向器1は、アクチュエータ5の駆動により、トーションバー3が、第1軸X周りに捩られるように構成されている。
【0031】
詳細には、4つのアクチュエータ5のうち図1の上側にある2つのアクチュエータ(以下、「上側アクチュエータ」という)5が、枠体4に連結されている基端部に対してトーションバー3に連結されている先端部が屈曲変形すると共に、残りの2つのアクチュエータ(図1の下側にある2つのアクチュエータ。以下、「下側アクチュエータ」という)5が、枠体4に連結されている基端部に対してトーションバー3に連結されている先端部が屈曲変形するように、圧電体5bに駆動電圧が印加される。このとき、上側アクチュエータ5の各々の屈曲変形が同じ大きさとなるように、該上側アクチュエータ5の圧電体5bに駆動電圧が印加される。また、下側アクチュエータ5の各々の屈曲変形が同じ大きさとなるように、該下側アクチュエータ5の圧電体5bに駆動電圧が印加される。
【0032】
上側アクチュエータ5の屈曲変形の大きさと、下側アクチュエータ5の屈曲変形の大きさとが異なる場合、トーションバー3が第1軸X周りに捩られて、ミラー部2(ひいては、反射面2a)が第1軸X周りに揺動する。上側アクチュエータ5の屈曲変形の大きさと、下側アクチュエータ5の屈曲変形の大きさとが同じ場合、ミラー部2の揺動角度は、上側アクチュエータ5及び下側アクチュエータ5が屈曲変形していないときのミラー部2の揺動角度と同じになる。このように、上側アクチュエータ5の屈曲変形の大きさと、下側アクチュエータ5の屈曲変形の大きさとに応じて、反射面2aの第1軸X周りの揺動角度を調整することができる。
【0033】
なお、本実施形態の光偏向器1には、上側アクチュエータ5の圧電体5bに印加する電圧信号と、下側アクチュエータ5の圧電体5bに印加する電圧信号とは、周期性を有し、且つ互いに逆位相となる電圧信号(すなわち互いに180度位相がずれた電圧信号)が印加される。このときの、電圧信号の周波数は、光偏向器1の機械的な共振周波数に設定される。これにより、反射面2aを大きな偏向角で第1軸X周りに揺動できる。
【0034】
以上のように、トーションバー3は、第1軸(トーションバー3の長手方向の軸)X周りに捩ることで、反射面2aを第1軸X周りに揺動させる。前述したように、トーションバー3の長手方向は、<100>方位となる。ここで、単結晶シリコンのせん断弾性係数Gは、単結晶シリコンの結晶方位が<110>方位のとき約62[GPa]であり、単結晶シリコンの結晶方位が<100>方位のとき約79[GPa]である。トーションバー3のばね定数kは、該トーションバー3のせん断弾性係数Gが大きくなる程、大きくなる。例えば、トーションバー3が本実施形態のように長板形状の場合、該トーションバー3のばね定数kは、次式(1)で表される。
【0035】
【数1】

【0036】
ここで、Gはトーションバー3のせん断弾性係数を示し、wはトーションバー3の幅方向の長さを示し、tはトーションバー3の厚さを示し、Lはトーションバー3の長手方向の長さを示す。
【0037】
従って、トーションバー3の長手方向の軸Xが、単結晶シリコンの結晶方位の<100>方位に平行となるようにトーションバー3が形成されることで、単結晶シリコンの結晶方位の<110>方位に平行となるようにトーションバー3が形成されるものに比べて、該トーションバー3の長手方向の軸X周りのばね定数kが大きくなり、ひいては、トーションバー3の共振周波数を大きくできる。このとき、トーションバー3の寸法を変更する必要がない。従って、光偏向器の寸法を変更することなく(光偏向器1の大型化を抑制しつつ)、反射面2aの走査速度を高速にできる。
【0038】
また、トーションバー3を捩るときに、アクチュエータ5は、その基端部を起点として先端部が屈曲変形する。このように、アクチュエータ5は、枠体4に支持されたカンチレバーである。カンチレバーの先端部の変位量は、該カンチレバーのヤング率Eに反比例する。例えば、カンチレバー(支持体5a)の基端部に対する先端部の変位量yは、次式(2)で表される。なお、支持体5aは、そのほぼ全面で圧電体5bを支持しているので、支持体5aが屈曲変形するときには、支持体5aのほぼ全面に均等の力が作用する。
【0039】
【数2】

【0040】
ここで、Lは支持体5aの長手方向の長さを示し、qは支持体5aの単位長さ辺りの荷重(圧電体の圧電効果による屈曲変形させる力)を示し、Eは支持体5aのヤング率を示し、Iは支持体5aの断面二次モーメントを示す。
【0041】
単結晶シリコンのヤング率Eは、単結晶シリコンの結晶方位が<110>方位のとき約160[GPa]であり、単結晶シリコンの結晶方位が<100>方位のとき約130[GPa]である。支持体5aの長手方向は、前述したように<100>方位である。従って、単結晶シリコンの結晶方位の<100>方位に平行となるように支持体5aが形成されることで、単結晶シリコンの結晶方位の<110>方位に平行となるように支持体5aが形成されるものに比べて、支持体5aの基端部に対する先端部の屈曲変形の大きさが大きくなる。これにより、反射面2aの揺動角度を大きくできる。
【0042】
以上のように、トーションバー3の共振周波数を大きくした場合であっても、反射面2aの揺動角度を大きくすることができる(カンチレバー(支持体5a)の変位量を大きくした場合であっても、反射面2aの走査速度を速くできる)。
【0043】
[第2実施形態]
図4を参照して、本発明の第2実施形態の光偏向器について説明する。本実施形態の光偏向器201は、第1実施形態の光偏向器(以下、本実施形態においては「内側偏向部」という)1に加えて、該内側偏向部1を第2軸Y周りに揺動させる一対の外側アクチュエータ205と、外枠204とを備える。
【0044】
外枠204は、矩形状の枠(上辺204uと下辺204dとが平行、及び左辺204lと右辺204rとが平行)として形成されており、内側偏向部1及び外側アクチュエータ205を外側から包囲する。
【0045】
一対の外側アクチュエータ205は、内側偏向部1を挟んで対向して配置されている。一対の外側アクチュエータ205は、その先端部が内側偏向部1の左辺4lの外側に連結されると共に、その基端部が外枠204の左辺204l及び右辺204rの内側に連結される。
【0046】
一対の外側アクチュエータ205の各々は、複数の圧電カンチレバー206を備える。なお、本実施形態では、圧電カンチレバー206の数は、4つとしているが、他の数であってもよい。外側アクチュエータ205において、複数の圧電カンチレバー206の各々は、その長さ方向が同じになるように、各圧電カンチレバー206の両端部が隣り合うように、間隔が設けられて並んで配置されている。そして、各圧電カンチレバー206は、隣り合う圧電カンチレバーに対し折り返すように連結されている。このように、外側アクチュエータ205は、複数の圧電カンチレバー206が、蛇腹状(ミアンダ形状)に形成されている。
【0047】
本実施形態の光偏向器201は、第1実施形態の光偏向器1と同様に、フォトリソグラフィ技術やドライエッチング技術等を利用した半導体プレーナプロセス及びMEMSプロセスが用いられて製造される。すなわち、単結晶シリコンのウエハ10上に、下部電極層L1、圧電体層L2、及び上部電極層L3等が積層された後、エッチング処理等によって、不要な部位が適宜除去されることで、内側偏向部1(ミラー部2、トーションバー3、枠体4、及びアクチュエータ5)、外側アクチュエータ205、及び外枠204が形成される。このとき、下部電極層L1、圧電体層L2及び上部電極層L3は、内側偏向部1のアクチュエータ5、及び外側アクチュエータ205の圧電カンチレバー206の部分のみ残されて、他の部分は除去される。
【0048】
そして、アクチュエータ5及び圧電カンチレバー206の圧電体5b(圧電体層L2がエッチング処理されて残った箇所)へ駆動電圧を印加できるように、上部電極層L3がエッチング処理されて残った上部電極t+に導通する配線(図示省略)と、下部電極層L1がエッチング処理されて残った下部電極t-に導通する配線(図示省略)が設けられる。これにより、圧電体5bは、上部電極t+に導通する配線と、下部電極t-に導通する配線との間に駆動電圧が印加されると、該印加されたことによる圧電効果によって、支持体5aの長手方向に対して縮小する。これに伴って、圧電体5bを支持している支持体5aが、圧電体5bを支持している側の表面を内側となるように、該圧電体5bと共に屈曲変形する。
【0049】
ここで、以下の説明では、4つの圧電カンチレバー206のうち、外側アクチュエータ205の先端部側から基端部側に向かって数えて、奇数番目の2つの圧電カンチレバーと偶数番目の2つの圧電カンチレバーとを区別する場合には、奇数番目の2つの圧電カンチレバーの符号の末尾に「o」を付与して206oとして表し、偶数番目の2つの圧電カンチレバーの符号の末尾に「e」を付与して206eとして表す。
【0050】
光偏向器201は、アクチュエータ5の圧電体5b、奇数番目の圧電カンチレバー206oの圧電体5b、及び偶数番目の圧電カンチレバー206eの圧電体5bの各々は、独立して駆動電圧が印加できるように配線されている。
【0051】
また、複数の圧電カンチレバー206の各々は、外枠204の上辺204u及び下辺204dに対して直交するように配置されている。また、内側偏向部1は、その枠体4の左辺4l及び右辺4rが、外枠204の上辺204u及び下辺204dと平行に配置されている。このため、複数の圧電カンチレバー206の各々は、内側偏向部1の支持体5aと直交し、且つ内側偏向部1のトーションバー3と平行になる。本実施形態においても、第1実施形態と同様に、ウエハ10は、単結晶シリコンで形成されている。ウエハ10の主面は、(100)面であり、<110>方位を示すようにオリエンテーションフラット11が設けられている。すなわち、オリエンテーションフラット11に対して45度の角度の方向が、<100>方位となる。
【0052】
そして、外枠204の上辺204uがオリエンテーションフラット11に対して45度傾斜するように、ウエハ10上にこれから形成する光偏向器201をレイアウトする。これによって、外枠204の上辺204uが、<100>方位と平行になる。上辺204uに平行な方向及び直交する方向は、全て<100>方位となる。このため、上辺204uに直交するトーションバー3の長手方向と、上辺204uに平行な「内側偏向部1のアクチュエータ5の支持体5aの長手方向」と、上辺204uに直交する「外側アクチュエータ205の支持体5aの長手方向」とが<100>方位となる。
【0053】
なお、主面が(100)面であり、オリエンテーションフラット11が<100>方位を示すように設けられたウエハ10を用いる場合には、外枠204の上辺204uがオリエンテーションフラット11に対して平行となるように、ウエハ10上にこれから形成する光偏向器201をレイアウトすればよい。
【0054】
次に、光偏向器201の作動について説明する。
【0055】
この光偏向器201において、内側偏向部1のアクチュエータ5の駆動により、トーションバー3が、第1軸X周りに捩られる。これにより、反射面2aが第1軸X周りに揺動する。この作動の詳細については、第1実施形態と同じであるので、説明を省略する。
【0056】
また、外側アクチュエータ205の駆動により、内側偏向部1が、第2軸Y周りに揺動する。これにより、反射面2aが第2軸Y周りに揺動する。
【0057】
詳細には、奇数番目の圧電カンチレバー206oの圧電体5bに、周期性を有する単極性の電圧信号(例えば正弦波又はノコギリ波等に直流成分を加えた信号。以下、「第1電圧信号」という)を印加すると共に、偶数番目の圧電カンチレバー206eの圧電体5bに、第1電圧信号とは、互いに逆位相の電圧信号(すなわち互いに180度位相がずれた電圧信号。以下、「第2電圧信号」という)を印加する。これにより、第1電圧信号の値と第2電圧信号の値が等しいときに、各圧電カンチレバー206の屈曲変形の大きさが等しくなる(以下、この状態を「状態2A」という)。また、第1電圧信号の値が第2電圧信号の値より大きいときに、奇数番目の圧電カンチレバー206oの屈曲変形が、偶数番目の圧電カンチレバー206eの屈曲変形より大きくなる(以下、この状態を「状態2B」という)。また、第1電圧信号の値が第2電圧信号の値より小さいときに、奇数番目の圧電カンチレバー206oの屈曲変形が、偶数番目の圧電カンチレバー206eの屈曲変形より小さくなる(以下、この状態を「状態2C」という)。
【0058】
互いに逆位相の第1電圧信号と第2電圧信号とが、奇数番目の圧電カンチレバー206oの圧電体5bと、偶数番目の圧電カンチレバー206eの圧電体5bとに印加されるので、「状態2B→状態2A→状態2C(→状態2B…)」が繰り返される。このような各圧電カンチレバー206の動きにより、反射面2aは、第2軸Y周りで回転する。
【0059】
また、各圧電カンチレバー206がミアンダ形状に連結されているので、外側アクチュエータ205では、各圧電カンチレバー206の屈曲変形の大きさを累積した大きさの角度変位が発生する。従って、例えば、内側偏向部1のアクチュエータ5に比べて大きな角度変位を得ることができるので、第1電圧信号及び第2電圧信号の周波数を、光偏向器201の機械的な共振周波数としない場合であっても、反射面2aの偏向角が充分な大きさとなる。
【0060】
また、内側偏向部1を第2軸Y周りに揺動する場合には、上述したように周期性を有する電圧信号を印加する必要はなく、直流の電圧信号を印加してもよい。この場合、圧電カンチレバー206で発生する屈曲変形の大きさは、直流電圧の大きさに応じて線形的に変化する。従って、例えば周期性を有する電圧信号を印加して圧電カンチレバーを共振駆動させる場合と異なり、直流電圧の大きさを制御することで外側アクチュエータ205から任意の出力を得ることができる。このように、光偏向器201では、第2軸Y周りに揺動する場合には、駆動電圧として印加した直流電圧の大きさに応じて線形的に偏向角を制御することができるので、任意の速度で任意の偏向角を得ることができる。
【0061】
本実施形態の光偏向器201では、第1実施形態の光偏向器1を内側偏向部1として備えているので、内側偏向部1は、第1実施形態の光偏向器1と同じ効果が得られる。
【0062】
また、本実施形態の光偏向器201では、外側アクチュエータ205の各圧電カンチレバー206の支持体5aが、その長手方向が<100>方位となっている。従って、該圧電カンチレバー206の支持体5aの長手方向が<110>方位のものに比べて、支持体5aの基端部に対する先端部の屈曲変形の大きさが大きくなる。これにより、内側偏向部1の第2軸Y周りの揺動角度を大きくできる。
【0063】
なお、上記第1実施形態及び第2実施形態の光偏向器においては、トーションバー3を捩るためのアクチュエータとして圧電体を用いているが、これに限らず、その他の態様によってトーションバー3を捩るようにアクチュエータを構成してもよい。
【符号の説明】
【0064】
1…光偏向器(第1実施形態)、2a…反射面、3…トーションバー、5…アクチュエータ、5a…支持体、5b…圧電体、X…第1軸(所定の軸、長手方向の軸)、201…光偏向器(第2実施形態)、Y…第2軸(所定の軸)、205…外側アクチュエータ(アクチュエータ)。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面が(100)面である単一の単結晶シリコンウエハによって一体的に構成されている光偏向器であって、光を反射する反射面と、前記単結晶シリコンウエハの単結晶シリコンで形成されたトーションバーと、前記トーションバーをその長手方向の軸としての第1軸の周りに捩ることで、前記反射面を前記第1軸の周りに共振周波数で揺動させる第1アクチュエータとを有する光偏向器において、
前記反射面と前記トーションバーと前記第1アクチュエータとを包囲し、前記第1アクチュエータを介して前記トーションバーに連結している第1枠体と、
前記第1枠体を包囲する第2枠体と、
前記第1枠体を前記第2枠体に連結する唯一の連結部材として前記第1枠体と前記第2枠体との間に介在する共に、前記反射面を前記第1軸とは別の第2軸の周りに揺動させる第2アクチュエータとを備え、
前記第1アクチュエータは、駆動電圧が印加される第1圧電体と、該第1圧電体を支持し該第1圧電体と共に屈曲変形する第1支持体とを備え、
前記第2アクチュエータは、長手方向を前記第1軸に平行に揃えてミアンダ形状に連結されている複数の圧電カンチレバーを有し、
前記第2アクチュエータの各圧電カンチレバーは、駆動電圧が印加される第2圧電体と、該第2圧電体を支持し該第2圧電体と共に屈曲変形する第2支持体とを備え、
前記トーションバーは、前記第1軸方向が、当該トーションバーの結晶方位の<100>方位と平行になるように形成され、
前記第2支持体は、前記単結晶シリコンウエハの単結晶シリコンで形成されると共に、長方形板状に形成され、その長手方向が、当該第2支持体の結晶方位の<100>方位と平行になるように形成され、
前記第1アクチュエータの前記第1支持体は、基端部において前記第1枠体に連結され、先端部において前記トーションバーに連結されて、前記トーションバーを支持することを特徴とする光偏向器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-03-01 
出願番号 特願2012-253729(P2012-253729)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (G02B)
P 1 651・ 121- YAA (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 稲荷 宗良堀部 修平  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 森 竜介
近藤 幸浩
登録日 2017-02-17 
登録番号 特許第6092589号(P6092589)
権利者 スタンレー電気株式会社
発明の名称 光偏向器  
代理人 特許業務法人創成国際特許事務所  
代理人 特許業務法人創成国際特許事務所  

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