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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B01J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B01J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B01J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01J
管理番号 1351406
異議申立番号 異議2018-700271  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-06-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-02 
確定日 2019-03-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6209703号発明「吸収性物品用材料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6209703号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。 特許第6209703号の請求項1?9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6209703号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成28年 1月19日(優先権主張 平成27年 1月19日)を出願日とする特願2016-7514号の一部を平成29年 6月 7日に特願2017-112443号として新たな特許出願としたものであって、平成29年 9月15日に特許権の設定登録がされ、同年10月 4日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許の請求項1?9に係る特許について、平成30年 4月 2日付けで特許異議申立人山田 宏基(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年 5月30日付けで当審より取消理由が通知され、特許権者より同年 7月26日付けで訂正請求書及び意見書が提出され、異議申立人より同年 9月 7日付けで意見書が提出され、同年11月12日付けで当審より取消理由(決定の予告)が通知され、特許権者より同年12月25日付けで訂正請求書及び意見書が提出され、異議申立人より平成31年 2月13日付けで意見書が提出されたものである。

第2 本件訂正の請求による訂正の適否
1 訂正の内容
平成30年12月25日付けの訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項からなる(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。
なお、平成30年 7月26日付けの訂正請求書による訂正の請求は、本件訂正の請求がなされたため、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「有機疎水性抗菌剤を、25℃における蒸気圧が30Pa以下である親水性の有機溶媒に溶解してなる抗菌剤溶液を、吸収性物品用材料に適用する工程を有する吸収性物品用材料の製造方法であって、」と記載されているのを、
「有機疎水性抗菌剤を、25℃における蒸気圧が30Pa以下であり、分子量が100未満であり且つ該有機疎水性抗菌剤の溶解度が5質量%以上である親水性の有機溶媒に溶解してなり、有機疎水性抗菌剤の濃度が10質量%以上35質量%以下である抗菌剤溶液を、吸収性物品用材料に適用する工程を有する吸収性物品用材料の製造方法であって、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?9も同様に訂正する。)。

2 訂正の目的の適否、新規事項、一群の請求項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
(ア)訂正事項1による訂正は、「抗菌剤溶液」の「親水性の有機溶媒」を、「分子量が100未満であり且つ該有機疎水性抗菌剤の溶解度が5質量%以上である」ものに限定し、更に、「有機疎水性抗菌剤」の濃度を「10質量%以上35質量%以下」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)また、訂正前の願書に添付した明細書の【0045】、【0052】、【0056】には、それぞれ、
「【0045】
前記の有機溶媒は25℃において液体のものであることが好ましい。有機溶媒としては、有機疎水性抗菌剤を溶解し得るものが用いられる。特に、有機疎水性抗菌剤の溶解度が好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、一層好ましくは15質量%以上である有機溶媒を用いることが有利である。ここで、溶解度がX質量%であるとは、100gの有機溶媒に対してXg以上の有機疎水性抗菌剤が溶解することをいう。・・・」
「【0052】
吸水性樹脂組成物の製造過程における有機溶媒のハンドリング性を良好なものとする観点から、該有機溶媒は、その分子量が低いことが好ましい。・・・有機溶媒の分子量は、具体的には200未満であることが好ましく、150未満であることが更に好ましく、100未満であることが一層好ましく、91未満であることが更に一層好ましい。」
「【0056】
抗菌剤溶液における有機疎水性抗菌剤の濃度は、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることが更に好ましく、3質量%以上であることが一層好ましく、5質量%以上であることが更に一層好ましい。また、抗菌剤溶液における有機疎水性抗菌剤の濃度は、50質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることが更に好ましく、25質量%以下であることが一層好ましく、20質量%以下であることが更に一層好ましい。・・・」と記載されているから(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)、「有機疎水性抗菌剤」における「親水性の有機溶媒」を、「分子量が100未満であり且つ該有機疎水性抗菌剤の溶解度が5質量%以上である」ものに限定し、更に、「有機疎水性抗菌剤」の濃度を「10質量%以上35質量%以下」に限定する訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
そして、訂正事項1による訂正は、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(ウ)更に、本件訂正前の請求項2?9は、訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?9は、一群の請求項である。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?9〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。
また、本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3 むすび
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正を認める。

第3 本件特許発明
本件訂正が認められることは上記第2に記載のとおりであるので、本件特許の請求項1?9に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明9」といい、まとめて「本件発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
有機疎水性抗菌剤を、25℃における蒸気圧が30Pa以下であり、分子量が100未満であり且つ該有機疎水性抗菌剤の溶解度が5質量%以上である親水性の有機溶媒に溶解してなり、有機疎水性抗菌剤の濃度が10質量%以上35質量%以下である抗菌剤溶液を、吸収性物品用材料に適用する工程を有する吸収性物品用材料の製造方法であって、
前記抗菌剤溶液と、吸水性樹脂とを混合する工程を有し、
前記抗菌剤溶液と前記吸水性樹脂とを混合する工程を行うのに先立ち、該吸水性樹脂の表面を架橋する表面架橋工程を行い、
前記抗菌剤溶液と前記吸水性樹脂とを混合した後、前記有機溶媒を残留させたままにしておく吸収性物品用材料の製造方法。
【請求項2】
前記抗菌剤溶液と前記吸水性樹脂とを混合する前に、又は該抗菌剤溶液と該吸水性樹脂とを混合した後に、該吸水性樹脂と無機微粒子とを混合する工程を更に含む請求項1に記載の吸収性物品用材料の製造方法。
【請求項3】
前記無機微粒子は、シリカ微粒子、酸化ジルコニア、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化亜鉛又は金から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせからなる請求項2に記載の吸収性物品用材料の製造方法。
【請求項4】
前記無機微粒子の平均一次粒子径は、5nm以上500nm以下である請求項2又は3に記載の吸収性物品用材料の製造方法。
【請求項5】
前記有機疎水性抗菌剤が、以下の式(1)若しくは(2)で表される構造を有する有機化合物、又はトリクロサンである請求項1ないし4のいずれか1項に記載の吸収性物品用材料の製造方法。

【請求項6】
前記有機疎水性抗菌剤が、セチルリン酸ベンザルコニウム又はピロクトンオラミンである請求項1ないし5のいずれか一項に記載の吸収性物品用材料の製造方法。
【請求項7】
前記有機溶媒が、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びブチレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種の親水性有機溶媒である請求項1ないし6のいずれか一項に記載の吸収性物品用材料の製造方法。
【請求項8】
前記有機溶媒が、多価アルコールである請求項1ないし7のいずれか一項に記載の吸収性物品用材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載の製造方法によって製造された吸収性物品用材料を、風送によって搬送する工程を含む吸収性物品の製造方法。」

第4 異議申立理由の概要
1 特許法第29条第1項(新規性)及び第2項(進歩性)について
(1)各甲号証
甲第1号証:特表2010-540004号公報
甲第2号証:特表2013-503219号公報
甲第3号証:Fredric L. Buchholz, Andrew T. Graham,Modern Superabsorbent Polymer Technology,John Wiley & Sons,Inc.(1998)p.73-74
甲第4号証:特表2000-513408号公報
甲第5号証:特開平9-248454号公報
甲第6号証:石黒武雄,松本克,ポリエチレングリコールに関する研究(第10報)ポリエチレングリコール及びカーボワックス類の蒸気圧測定,薬学雑誌,日本薬学会,昭和30年10月25日,第75巻第10号,p.1188-1190
甲第7号証:AEROSILカタログ,改訂版(14),日本アエロジル株式会社,1997年12月
甲第8号証:浅原照三,戸倉仁一郎,大河原信,熊野谿従,妹尾学編,溶剤ハンドブック,第16刷,株式会社講談社,2001年 8月10日,p.847-850

(2)甲第1号証を主引用例とする場合について(異議申立書11頁14行?15頁下から2行目、21頁19行?22頁3行)
ア 訂正前の請求項1?5、7?9に係る発明について
訂正前の請求項1?5、7?9に係る発明は、甲第1号証に実質的に記載された発明であるか、甲第1号証の記載に基づき容易に想到できた発明であるので、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。

イ 訂正前の請求項4に係る発明について
訂正前の請求項4に係る発明は、甲第1号証の記載に基づき、甲第5号証を参照することで容易に想到できた発明であるので、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(3)甲第2号証を主引用例とする場合について(異議申立書15頁最終行?18頁19行、22頁4行?15行)
ア 訂正前の請求項1、5、7、8に係る発明について
訂正前の請求項1、5、7、8に係る発明は、甲第2号証に実質的に記載された発明であるか、甲第2号証の記載に基づき容易に想到できた発明であるので、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。

イ 訂正前の請求項2?4に係る発明について
訂正前の請求項2?4に係る発明は、甲第2号証の記載に基づき、甲第5号証を参照することで容易に想到できた発明であるので、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(4)甲第4号証を主引用例とする場合について(異議申立書18頁下から5行目?20頁6行、21頁9行?21頁18行)
ア 訂正前の請求項1に係る発明について
訂正前の請求項1に係る発明は、甲第4号証に実質的に記載された発明であるか、甲第4号証の記載に基づき容易に想到できた発明であるので、その特許は、特許法第29条第1項または第2項の規定に違反してされたものである。

イ 訂正前の請求項2?4に係る発明について
訂正前の請求項2?4に係る発明は、甲第4号証の記載に基づき、甲第5号証を参照することで容易に想到できた発明であるので、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

2 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)、第6項第1号(サポート要件)、第6項第2号(明確性)について
(1)「有機疎水性抗菌剤」について(異議申立書22頁17行?23頁9行)
(ア)「有機疎水性抗菌剤」について、本件特許明細書には「疎水性」の度合いに関する規定がないので、訂正前の請求項1に係る発明は明瞭でない。

(イ)本件特許明細書には、訂正前の請求項6に記載される二種類の化合物以外に、どのような度合いの「疎水性」を示す「有機疎水性抗菌剤」により課題を解決できるのかが十分に示されていないから、発明の詳細な説明の記載を本件発明1の範囲まで拡張ないし一般化できないので、訂正前の請求項1に係る発明が発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
上記(ア)?(イ)に記載の事項は、訂正前の2?5、7?9に係る発明についても同様である。

(2)「抗菌剤溶液」について(異議申立書23頁10行?24頁下から4行目)
(ア)本件特許明細書に記載される、互いに異なる有機溶媒がそれぞれ単独で使用されている四種類の「抗菌剤溶液」をもって、発明の詳細な説明の記載を訂正前の請求項1に係る発明の範囲まで拡張ないし一般化できないので、訂正前の請求項1に係る発明が発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。

(イ)訂正前の請求項1に係る発明においては有機溶媒を一種類のみの使用に限定するという規定がないため、訂正前の請求項1に係る発明における溶媒には、低沸点の有機溶媒が等量含まれる混合溶媒(エタノール)や水を少量含む混合溶媒も包含されることになり、課題を解決できない態様も包含するので、訂正前の請求項1に係る発明が発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。

(ウ)訂正前の請求項1に係る発明においては、有機溶媒の使用量(含有量)や、他の有機溶媒または水の使用量が規定されておらず、混合溶媒を排除する規定がないため、複数の態様を想起でき、更に、混合溶媒を使用する態様では、(一種以上の)有機溶媒が25℃における蒸気圧が30Pa以下である態様と、混合溶媒の25℃における全蒸気圧が30Pa以下である態様とを想起することができ、訂正前の請求項1に係る発明が何れの態様であるかは本件特許明細書から明らかでないので、訂正前の請求項1に係る発明は明瞭でない。
上記(ア)?(ウ)の事項は、訂正前の請求項2?9に係る発明についても同様である。

第5 取消理由の概要
1 平成30年 5月30日付けの取消理由通知書の取消理由の概要
平成30年 5月30日付けの取消理由通知書の取消理由の概要は、以下のとおりである。
(1)特許法第29条第1項(新規性)及び第2項(進歩性)について
(1-1)甲第1号証を主引用例とする場合について
ア 訂正前の請求項1に係る発明について
訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証に実質的に記載された発明であるので、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

イ 訂正前の請求項2?5、7?9に係る発明について
訂正前の請求項2?5、7?9に係る発明は、甲第1号証に実質的に記載された発明であるか、甲第1号証の記載に基づき容易に想到できた発明であるので、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。

ウ 訂正前の請求項4に係る発明について
訂正前の請求項4に係る発明は、甲第1号証の記載に基づき、甲第5号証を参照することで容易に想到できた発明であるので、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

エ 訂正前の請求項6に係る発明について
訂正前の請求項6に係る発明は、甲第1号証の記載に基づき、甲第4号証を参照することで容易に想到できた発明であるので、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(1-2)甲第2号証を主引用例とする場合について
ア 訂正前の請求項1に係る発明について
訂正前の請求項1に係る発明は、甲第2号証に実質的に記載された発明であるので、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

イ 訂正前の請求項5、7、8に係る発明について
訂正前の請求項5、7、8に係る発明は、甲第2号証に実質的に記載された発明であるか、甲第2号証の記載に基づき容易に想到できた発明であるので、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。

ウ 訂正前の請求項2?4に係る発明について
訂正前の請求項2?4に係る発明は、甲第2号証の記載に基づき、甲第5号証を参照することで容易に想到できた発明であるので、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(ア)本件特許明細書の【0001】、【0005】、【0006】、【0046】、【0107】によれば、本件発明は、吸収性物品用材料の製造方法において、有機溶媒の溶解度パラメータを12以上28以下とすること、及び、有機溶媒及び有機疎水性抗菌剤それぞれの溶解度パラメータを近いものにすることにより、ポリオールの種類によっては抗菌剤が溶解せず、そのことに起因して抗菌剤が超吸収体の表面に均一に付着しない可能性があるといった欠点を解消する、という課題を解決するものというべきである。

(イ)ところが、訂正前の請求項1?9には、吸収性物品用材料の製造方法において、有機溶媒の溶解度パラメータを12以上28以下とすること、及び、有機溶媒及び有機疎水性抗菌剤それぞれの溶解度パラメータを近いものにすることが記載されていないから、訂正前の請求項1?9の発明特定事項により本件発明の課題を解決できるとはいえないので、訂正前の請求項1?9に係る発明が発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
このため、訂正前の請求項1?9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 平成30年11月12日付けの取消理由通知書の取消理由の概要
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1-1)「親水性の有機溶媒」の分子量について
(ア)本件特許明細書の【0001】、【0005】、【0006】によれば、本件発明は、吸収性物品に好適に用いられる吸水性樹脂組成物及びその製造方法において、有機溶媒に特有の悪臭が生じたり、人体に対する安全性に問題が起こったり、引火や爆発に対する安全性が懸念される、吸水性樹脂組成物に対する抗菌剤の添加の方法によっては、抗菌剤が不均一に架橋重合体粒子に付着してしまい、所望の効果が得られない可能性がある、表面架橋剤を硬化させるときに加える熱に起因して、抗菌剤が変質してしまう可能性がある、ポリオールの種類によっては抗菌剤が溶解せず、そのことに起因して抗菌剤が超吸収体の表面に均一に付着しない可能性がある、といった従来技術の課題を解決しようとするものである。

(イ)ここで、先の訂正により訂正した請求項1?9に係る発明においては、「抗菌剤溶液」における「親水性の有機溶媒」の分子量を200未満とするものである。
一方、本件特許明細書に記載される、上記(ア)の課題を解決した「親水性の有機溶媒」の分子量は、最大でも1,3-ブチレングリコールの90.12g/molに過ぎないから、例えば、前記分子量が199g/molの場合、上記(ア)の課題が解決し得るか否か不明である。

(1-2)「有機疎水性抗菌剤」の濃度について
(ア)本件特許明細書の【0046】、【0107】によれば、訂正前の請求項1に係る発明においては、「抗菌剤溶液」における「有機疎水性抗菌剤」の濃度を10%未満とした場合、「有機疎水性抗菌剤が溶解」したとしても「親水性の有機溶媒」が多くなり、「吸水性樹脂組成物」の流動性が悪くなり、容易に安定した吸収性能かつ抗菌性能を発現する「吸収性物品」を製造することが困難になるものと認められる。

(イ)一方、先の訂正により訂正した請求項1?9に係る発明においては、「抗菌剤溶液」における「有機疎水性抗菌剤」の濃度の下限値が特定されていないので、訂正前の請求項1に係る発明において、例えば、上記濃度が5%の場合、上記(ア)の課題が解決し得るか否か不明である。

(1-3)むすび
以上のとおりであるので、先の訂正により訂正した請求項1?9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第6 取消理由についての判断
1 平成30年 5月30日付けの取消理由通知書の取消理由について
(1)特許法第29条第1項(新規性)及び第2項(進歩性)について
(1-1)各甲号証の記載事項
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、以下の記載がある。
(1a)「【請求項1】
超吸収体と、抗菌剤およびポリオールを有する溶液とを、前記超吸収体を表面架橋剤と接触させるのと同時にまたは接触させた直後に、且つ表面架橋を完成させる硬化段階に先立って接触させること、および/または前記超吸収体と、前記抗菌剤および200から5000g/モルの間の分子量のポリアルキレングリコールを有する溶液とを、表面架橋の完成後に接触させることを含む、抗菌剤のコーティングを有する超吸収体の製造方法。」

(1b)「【0013】
WO98/20916A1は、抗菌性殺虫剤でコーティングされている、衛生用品中の超吸収体を利用しており、そこで一覧表示される主だった好ましい抗菌物質は、一般の殺虫剤、例えば塩化ベンズアルコニウム、トリクロサン(2,4,4'-トリクロロ-2'-ヒドロキシジフェニルエーテルの一般名)、・・・およびソルビン酸またはブロノポール(2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオールの一般名)である。該抗菌物質は、溶液、好ましくは水溶液において、そして水中に不溶性であれば、極性有機溶媒、例えばメタノール、・・・または非極性溶媒、例えば炭化水素を用いて、超吸収体とこの溶液とを接触させてコーティングを形成し、続けて溶媒の除去により、抗菌コーティングされた超吸収体が製造される。」

(1c)「【0017】
引用先行技術の中で略述されるような高度な最新技術にも関わらず、依然として抗菌剤でコーティングされた超吸収体の製造方法を改善する必要がある。そのような方法は、単純であり、且つ抗菌剤の十分な量が少なくとも適度に一様にコーティングされている超吸収体を、超吸収体製造自体との干渉または付加的な処理段階または装置を含まずに簡単且つ経済的にもたらすことが所望されている。この発明の目的は、そのような方法を見出すことである。
【0018】
この目的は、超吸収体と、抗菌剤およびポリオールを有する溶液とを、該超吸収体を表面架橋剤と接触させるのと同時にまたは接触させた直後に、且つ表面架橋を完成させる硬化段階に先立って接触させること、および/または超吸収体と、抗菌剤および200から5000g/モルの間の分子量のポリアルキレングリコールを有する溶液とを表面架橋の完成後に接触させることを含む、抗菌剤のコーティングを有する超吸収体の製造方法によって解決された。」

(1d)「【0061】
超吸収体に抗菌剤を添加する第一の方法は、超吸収体と、抗菌剤およびポリオールを有する溶液とを、それを表面架橋剤と接触させるのと同時にまたは接触させた直後に、且つ表面架橋を完成させる硬化段階に先立って接触させることである。このために、ポリオールを有する溶媒中の抗菌剤の溶液は、超吸収体に添加される。・・・
・・・
【0063】
抗菌剤のために用いられる溶媒は、ポリオールを有する
ポリオールは、2個以上のヒドロキシ基を有する化合物または表面架橋中に適用される条件下でポリオールを放出する化合物である。溶媒成分として適した一般的なポリオールは、線状または分枝状アルカンジオール、例えばエチレングリコール、1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール)、・・・1,3-ブタンジオール、・・・である。・・・
・・・
【0065】
一般に、抗菌剤およびポリオールを有する溶液は、少なくとも20質量%、好ましくは少なくとも40質量%およびより好ましくは少なくとも50質量%の、且つ一般に90質量%を上回らず、好ましくは85質量%を上回らず、およびより好ましくは80質量%を上回らない抗菌剤を有する。・・・
【0066】
超吸収体を表面架橋剤溶液でコーティングするのと同時にまたはコーティング直後に添加される非常に適した抗菌剤は、特に、抗菌剤がトリクロサンである場合、抗菌剤65質量%および1,2-プロパンジオール35質量%とからなる。
【0067】
表面架橋剤溶液、抗菌剤溶液および表面架橋段階で添加される任意の他の成分を添加した後、表面架橋が上記の熱処理によって完成される。」

(1e)「【0075】
超吸収体に抗菌剤を添加する第二の方法は、超吸収体を、抗菌剤および200から5000g/モルの間の分子量のポリアルキレングリールを有する溶液と表面架橋の完成後に接触させることである。このために、ポリアルキレングリコールを有する溶媒中の抗菌剤の溶液が超吸収体に添加される。・・・
【0076】
しかしながら、抗菌剤の溶液を、凝集制御剤とは別個に、別のまたは、いかなる凝集制御剤も添加されない場合、ベースポリマーと表面架橋剤溶液または凝集制御剤との接触用に固体と上述のような液体とが接触されるように意図された専用の装置中に添加することも可能である。・・・
【0077】
この第二の方法における抗菌剤のために用いられる溶媒は、ポリアルキレングリコールを有する。最も一般的なポリアルキレングリコールは、水またはアルコールの存在下でアルキレンオキシドの開環重合によって技術的に製造され、一般式
HO-(CHR^(1)-CHR^(2))_(n)-H
[式中、R1およびR2は、用いられるアルキレンオキシドの置換基である]の化合物をもたらす化合物である。・・・ポリエチレングリコールが好ましい。
【0078】
・・・一般に本発明の方法において用いられるポリアルキレングリコールは、少なくとも200g/モル、好ましくは250モル/gおよびより好ましくは少なくとも300g/モルの、且つ一般に5000g/モルを上回らない、好ましくは3000g/モルを上回らない、およびより好ましくは1500g/モルを上回らない分子量を有する。これらの分子量は、当然の事ながら平均分子量である。
・・・
【0080】
適したポリアルキレングリコールは、一般に公知であり、且つ”PEG-400”として販売されている約400g/モルの平均分子量のポリエチレングリコールである。」

(1f)「【0082】
一般に、抗菌剤およびポリアルキレングリコールを有する溶液は、少なくとも20質量%、好ましくは少なくとも30質量%およびより好ましくは少なくとも40質量%の、且つ一般に80質量%を上回らない、好ましくは70質量%を上回らない、およびより好ましくは60質量%を上回らない抗菌剤を有する。・・・
【0083】
表面架橋後に添加される非常に適した抗菌剤溶液は、特に、抗菌剤がトリクロサンである場合、抗菌剤50質量%およびPEG-400 50質量%からなる。」

(ア)上記(1a)?(1c)によれば、甲第1号証には、「抗菌剤のコーティングを有する超吸収体の製造方法」に係る発明が記載されており、上記(1e)?(1f)によれば、上記「抗菌剤のコーティングを有する超吸収体の製造方法」のうち「第二の方法」は、超吸収体と、抗菌剤および200から5000g/モルの間の分子量のポリアルキレングリコールを有する溶液とを、超吸収体の表面架橋の完成後に接触させることを含むものであって、抗菌剤としてトリクロサンが挙げられ、200から5000g/モルの間の分子量のポリアルキレングリコールとして、”PEG-400”として販売されている約400g/モルの平均分子量のポリエチレングリコールが挙げられるものである。
また、上記「第二の方法」において、超吸収体の表面架橋後に添加される非常に適した抗菌剤溶液は、特に、抗菌剤がトリクロサンである場合、抗菌剤50質量%およびPEG-400 50質量%からなるものである。

(イ)上記(ア)によれば、甲第1号証には、
「超吸収体と、トリクロサンおよび”PEG-400”として販売されている約400g/モルの平均分子量のポリエチレングリコールを有する溶液とを、超吸収体の表面架橋の完成後に接触させることを含み、抗菌剤溶液は、トリクロサン50質量%およびPEG-400 50質量%とからなる、抗菌剤のコーティングを有する超吸収体の製造方法。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

イ 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、以下の記載がある。
(2a)「【請求項1】
後で積極的に加熱することなしに、トリクロサンを含む水性スラリーと超吸収材とを接触させることを含む、トリクロサンのコーティングを有する粒状の超吸収材の製造方法。」

(2b)「【0010】
WO98/20916A1号は、抗菌性の殺生剤で被覆した衛生物品において超吸収材を利用しており、挙げられた例の中で有利な抗菌剤は、慣用の殺生剤、例えば、塩化ベンザルコニウム、トリクロサン、・・・及びソルビン酸又はブロノポール(2-ブロモ-2-ニトロ-プロパン-1,3-ジオールの慣用名)である。・・・抗菌剤は、表面架橋の前、それと同時に、又はその後に超吸収材に適用される。」

(2c)「【0017】
引用された従来技術に概説されたように高度な技術水準であっても、公知のプロセスの欠点を克服するトリクロサンで被覆された超吸収材の改善された製造方法が未だ要求されている。特に、トリクロサンの低級アルコール溶液の添加は、引火性液体を扱わざるを得ない欠点を有し、トリクロサンのグリコール又は高級アルコール溶液の添加は、一般に粘性の生成物をもたらす欠点を有し、この生成物は不良な流動性を有する傾向があり且つ運搬が困難である。このような改良されたプロセスは、単純であることが要求され、また単純且つ経済的な方法で、十分な量のトリクロサンで少なくとも相当に均一にコーティングされた超吸収材を、超吸収材自体の製造時の障害なしに又は追加のプロセス工程又は装置に対する要求なしに生成することが更に要求されている。本発明の課題はかかるプロセスを発見することである。」

(2d)「【0085】
実施例
実施例1
1kgの超吸収材粉末(BASF SE社から入手可能なHysorb(登録商標)T8400、Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 ルートヴィヒスハーフェン、ドイツ)をミキサー(Gebrueder Loedige Maschinenbau GmbH製の、実験室プラウシェアミキサーモデルM 5、Elsener Strasse 7 - 9, 33102パーダーボルン、ドイツ)内に置いた。別の5.4gの脱イオン水で更に希釈された、3gのトリクロサンの水分散液(Microban International, Ltdから入手可能、11400 Vanstory Drive、ハンターヴィルス、NC 28078、米国)を、シリンジを用いてポリマー粉末に60rpmの混合速度で滴加した。これによって1500質量ppmのトリクロサン含量を有する超吸収材が得られる。
・・・
【0087】
参照例2
しかしながら、1.5gのプロピレングリコールの1.5gのトリクロサン溶液(Microban International, Ltd.から入手可能、11400 Vanstory Drive, ハンタースヴィル, NC 28078, 米国)を用いて、実施例1を繰り返した。これによって1500質量ppmのトリクロサン含量を有する超吸収材が得られる。」

(ア)上記(2a)?(2b)によれば、甲第2号証には、「トリクロサンのコーティングを有する粒状の超吸収材の製造方法」に係る発明が記載されており、上記「トリクロサンのコーティングを有する粒状の超吸収材の製造方法」は、後で積極的に加熱することなしに、トリクロサンを含む水性スラリーと超吸収材とを接触させることを含むものである。
そして、上記(2d)によれば、その参照例は、1kgの超吸収材粉末(Hysorb(登録商標)T8400)をミキサー内に置き、1.5gのプロピレングリコールの1.5gのトリクロサン溶液を、シリンジを用いてポリマー粉末に60rpmの混合速度で滴加して、1500質量ppmのトリクロサン含量を有する超吸収材を得るものである。

(イ)すると、甲第2号証には、
「後で積極的に加熱することなしに、トリクロサン溶液と超吸収材とを接触させることを含むトリクロサンのコーティングを有する粒状の超吸収材の製造方法であって、
1kgの超吸収材粉末(Hysorb(登録商標)T8400)をミキサー内に置き、
1.5gのプロピレングリコールの1.5gのトリクロサン溶液を、シリンジを用いてポリマー粉末に60rpmの混合速度で滴加して、1500質量ppmのトリクロサン含量を有する超吸収材を得る、
トリクロサンのコーティングを有する粒状の超吸収材の製造方法。」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

(1-2)甲第1号証を主引用例とする場合について
ア 本件発明1について
ア-1 対比
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「抗菌剤のコーティングを有する超吸収体」は、本件発明1における「吸収性物品用材料」に相当するから、甲1発明に係る「抗菌剤のコーティングを有する超吸収体の製造方法」は、本件発明1に係る「吸収性物品用材料の製造方法」に相当する。
また、甲1発明における「トリクロサン」は、本件発明1における「有機疎水性抗菌剤」に相当し、甲1発明における「”PEG-400”として販売されている約400g/モルの平均分子量のポリエチレングリコール」は、その25℃における蒸気圧が30Pa以下であることは、甲第6号証に記載される下記「TableI.」



」(1189頁)
の「Polyethylene glycol 400」の25℃の「Vapor press.」が5.34×10^(-4)mm(≒0.071Pa)であることからみれば明らかであるから、本件発明1における「25℃における蒸気圧が30Pa以下である親水性の有機溶媒」に相当し、甲1発明における「トリクロサン」および「”PEG-400”として販売されている約400g/モルの平均分子量のポリエチレングリコール」を有する「溶液」は、本件発明1における「有機疎水性抗菌剤を、25℃における蒸気圧が30Pa以下である親水性の有機溶媒に溶解してなる抗菌剤溶液」に相当し、甲1発明における「超吸収体」は、本件発明1における「吸水性樹脂」に相当する。

(イ)更に、甲1発明における、「超吸収体と、トリクロサンおよび”PEG-400”として販売されている約400g/モルの平均分子量のポリエチレングリコールを有する溶液とを、表面架橋の完成後に接触させること」が、本件発明1における、「有機疎水性抗菌剤」を「25℃における蒸気圧が30Pa以下である親水性の有機溶媒」に溶解してなる「抗菌剤溶液」を、「吸収性物品用材料に適用する」工程、「前記抗菌剤溶液と、吸水性樹脂とを混合する」工程、「前記抗菌剤溶液と前記吸水性樹脂とを混合する工程を行うのに先立ち、該吸水性樹脂の表面を架橋する表面架橋工程」に相当し、また、甲1発明は、「超吸収体」から「”PEG-400”として販売されている約400g/モルの平均分子量のポリエチレングリコール」を除去するものではないから、本件発明1と同じく、「抗菌剤溶液と吸水性樹脂とを混合した後、有機溶媒を残留させたままにしておく」ものといえる。

(ウ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「有機疎水性抗菌剤を、25℃における蒸気圧が30Pa以下である親水性の有機溶媒に溶解してなる抗菌剤溶液を、吸収性物品用材料に適用する工程を有する吸収性物品用材料の製造方法であって、
前記抗菌剤溶液と、吸水性樹脂とを混合する工程を有し、
前記抗菌剤溶液と前記吸水性樹脂とを混合する工程を行うのに先立ち、該吸水性樹脂の表面を架橋する表面架橋工程を行い、
前記抗菌剤溶液と前記吸水性樹脂とを混合した後、前記有機溶媒を残留させたままにしておく吸収性物品用材料の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1-1:本件発明1においては、「親水性の有機溶媒」の「分子量が100未満」であるのに対して、甲1発明においては、「親水性の有機溶媒」の「分子量が約400g/モル」である点。

相違点1-2:本件発明1においては、「親水性の有機溶媒」の「有機疎水性抗菌剤の溶解度が5質量%以上」であるのに対して、甲1発明においては、「親水性の有機溶媒」の「有機疎水性抗菌剤の溶解度」が特定されていない点。

相違点1-3:本件発明1においては、「抗菌剤溶液」の「有機疎水性抗菌剤の濃度が10質量%以上35質量%以下」であるのに対して、甲1発明においては、「抗菌剤溶液」が、「トリクロサン50質量%およびPEG-400 50質量%からなる」点。

ア-2 判断
(ア)まず、上記相違点1-1について検討すると、本件特許明細書の【0052】によれば、「親水性の有機溶媒」の「分子量」の相違は、「親水性の有機溶媒」のハンドリング性に影響するものであり、「吸収性物品用材料の製造方法」の作用、効果に影響するものといえるから、上記相違点1-1は実質的な相違点といえるので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲1発明であるとはいえない。

(イ)したがって、上記第5の1(1)(1-1)アの取消理由は理由がない。

(ウ)事案に鑑み、本件発明1の甲1発明に対する進歩性についても検討しておく。
上記相違点1-1について検討すると、上記(1-1)ア(1c)によれば、甲第1号証の発明の課題は、超吸収体と、超吸収体と、抗菌剤および200から5000g/モルの間の分子量のポリアルキレングリコールを有する溶液とを表面架橋の完成後に接触させることを含む、抗菌剤のコーティングを有する超吸収体の製造方法によって解決されるものである。
そして、ポリアルキレングリコールの分子量が200から5000g/モルの間にない場合、課題を解決できるものとはいえないから、甲1発明において疎水性の有機溶媒の分子量を100未満とすることには阻害要因が存在するというべきである。

(エ)してみれば、甲1発明に係る「吸収性物品用材料の製造方法」において、「疎水性の有機溶媒の分子量を100未満」として、上記相違点1-1に係る発明特定事項とすることを、当業者が容易になし得るとはいえない。
したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第1号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2?5、7?9について
(ア)本件発明2は、請求項1を引用するものであって、本件発明2と甲1発明とを対比すると、少なくとも、上記相違点1-1の点で相違している。
そして、上記相違点1-1は実質的な相違点といえることは、上記アア-2(ア)に記載のとおりであるから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2が甲1発明であるとはいえない。

(イ)更に、甲1発明に係る「吸収性物品用材料の製造方法」において、「疎水性の有機溶媒の分子量を100未満」として、上記相違点1-1に係る発明特定事項とすることを、当業者が容易になし得るとはいえないから、本件発明1は、甲1発明及び甲第1号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないことは、上記アア-2(エ)に記載のとおりであるから、同様の理由により、請求項1を引用する本件発明2も、甲1発明及び甲第1号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)このことは、本件発明2と同様に請求項1を直接的又は間接的に引用する本件発明3?5、7?9についても同様であるから、上記第5の1(1)(1-1)イの取消理由は理由がない。

ウ 本件発明4について
(ア)本件発明4は間接的に請求項1を引用するものであり、甲1発明と対比した場合、少なくとも上記相違点1-1の点で相違している。
そして、甲1発明において疎水性の有機溶媒の分子量を100未満とすることには阻害要因が存在するというべきであることは、上記アア-2(ウ)に記載のとおりであって、このことは、甲第5号証の記載事項に左右されるものではない。

(イ)してみれば、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、甲1発明及び甲第5号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、上記第5の1(1)(1-1)ウの取消理由は理由がない。

エ 本件発明6について
(ア)本件発明6は直接的又は間接的に請求項1を引用するものであり、甲1発明と対比した場合、少なくとも上記相違点1-1の点で相違している。
そして、甲1発明において疎水性の有機溶媒の分子量を100未満とすることには阻害要因が存在するというべきであることは、上記アア-2(ウ)に記載のとおりであって、このことは、甲第4号証の記載事項に左右されるものではない。

(イ)してみれば、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明6は、甲1発明及び甲第4号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、上記第5の1(1)(1-1)エの取消理由は理由がない。

(1-3)甲第2号証を主引用例とする場合について
ア 本件発明1について
ア-1 対比
(ア)本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「トリクロサンのコーティングを有する粒状の超吸収材」は、本件発明1における「吸収性物品用材料」に相当するから、甲2発明に係る「トリクロサンのコーティングを有する粒状の超吸収材の製造方法」は、本件発明1に係る「吸収性物品用材料の製造方法」に相当する。
また、甲2発明における「トリクロサン」は、本件発明1における「有機疎水性抗菌剤」に相当し、甲2発明における「プロピレングリコール」は、本件発明1における「25℃における蒸気圧が30Pa以下であり、分子量が100未満であり且つ該有機疎水性抗菌剤の溶解度が5質量%以上である親水性の有機溶媒」に相当し、甲2発明における「トリクロサン溶液」は、本件発明1における「有機疎水性抗菌剤を、25℃における蒸気圧が30Pa以下であり、分子量が100未満であり且つ該有機疎水性抗菌剤の溶解度が5質量%以上である親水性の有機溶媒に溶解してなる抗菌剤溶液」に相当し、甲2発明における「超吸収材粉末」は、本件発明1における「吸水性樹脂」に相当する。

(イ)更に、甲2発明における、「1kgの超吸収材粉末(Hysorb(登録商標)T8400)をミキサー内に置き、1.5gのプロピレングリコールの1.5gのトリクロサン溶液を、シリンジを用いてポリマー粉末に60rpmの混合速度で滴加」することが、本件発明1における、「有機疎水性抗菌剤」を「25℃における蒸気圧が30Pa以下であり、分子量が100未満であり且つ該有機疎水性抗菌剤の溶解度が5質量%以上である親水性の有機溶媒」に溶解してなる「抗菌剤溶液」を、「吸収性物品用材料に適用する」工程、「前記抗菌剤溶液と、吸水性樹脂とを混合する」工程に相当し、また、甲第2発明は、「後で積極的に加熱すること」をしないものであるから、本件発明1と同じく、「抗菌剤溶液と吸水性樹脂とを混合した後、有機溶媒を残留させたままにしておく」ものといえる。

(ウ)そうすると、本件発明1と甲2発明とは、
「有機疎水性抗菌剤を、25℃における蒸気圧が30Pa以下であり、分子量が100未満であり且つ該有機疎水性抗菌剤の溶解度が5質量%以上である親水性の有機溶媒に溶解してなる抗菌剤溶液を、吸収性物品用材料に適用する工程を有する吸収性物品用材料の製造方法であって、
前記抗菌剤溶液と、吸水性樹脂とを混合する工程を有し、
前記抗菌剤溶液と前記吸水性樹脂とを混合した後、前記有機溶媒を残留させたままにしておく吸収性物品用材料の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点2-1:本件発明1においては、「抗菌剤溶液」の「有機疎水性抗菌剤の濃度が10質量%以上35質量%以下」であるのに対して、甲2発明においては、「抗菌剤溶液」が、「1.5gのプロピレングリコールの1.5gのトリクロサン溶液」からなる点。

相違点2-2:本件発明1においては、「抗菌剤溶液と吸水性樹脂とを混合する工程」を行うのに先立ち、「該吸水性樹脂の表面を架橋する表面架橋工程」を行うのに対して、甲2発明においては、「抗菌剤溶液と吸水性樹脂とを混合する工程」を行うのに先立ち、「該吸水性樹脂の表面を架橋する表面架橋工程」を行うことが特定されていない点。

ア-2 判断
(ア)まず、上記相違点2-1について検討すると、本件特許明細書の【0056】によれば、「抗菌剤溶液」の「有機疎水性抗菌剤の濃度」の相違は、「有機疎水性抗菌剤」が「吸水性樹脂」に均一に付着するか否かに影響するものであり、「吸収性物品用材料の製造方法」の作用、効果に影響するものといえるから、上記相違点2-1は実質的な相違点といえるので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲2発明であるとはいえない。

(イ)したがって、上記第5の1(1)(1-2)アの取消理由は理由がない。

(ウ)事案に鑑み、本件発明1の甲2発明に対する進歩性についても検討しておく。
上記相違点2-1について検討すると、上記(1-1)イ(2c)によれば、トリクロサンで被覆された超吸収材の従来の製造方法において、特に、トリクロサンの低級アルコール溶液の添加は、引火性液体を扱わざるを得ない欠点を有し、トリクロサンのグリコール又は高級アルコール溶液の添加は、一般に粘性の生成物をもたらす欠点を有し、この生成物は不良な流動性を有する傾向があり、且つ運搬が困難であるものである。

(エ)一方、甲2発明における抗菌剤溶液は、1.5gのプロピレングリコールの1.5gのトリクロサン溶液からなるものであり、このことと、上記(ウ)によれば、甲2発明は、従来技術と同じく、トリクロサンにグリコールを添加したものであって、粘性の生成物をもたらす欠点を有し、この生成物は不良な流動性を有する傾向があり且つ運搬が困難であるものである。

(オ)そして、1.5gのプロピレングリコールの1.5gのトリクロサン溶液からなる甲2発明に係る「抗菌剤溶液」における「有機疎水性抗菌剤」の濃度は50質量%であり、これを「10質量%以上35質量%以下」として、上記相違点2-1に係る発明特定事項のものとすることは、「抗菌剤溶液」におけるプロピレングリコールの添加量を更に増加させるものにほかならず、そうすることにより、上記(ウ)に記載される欠点をより悪化させることは明らかである。
そうすると、甲2発明において、「抗菌剤溶液」における「有機疎水性抗菌剤」の濃度を「10質量%以上35質量%以下」とすることには、阻害要因が存在するというべきである。

(カ)してみれば、甲2発明に係る「吸収性物品用材料の製造方法」において、「抗菌剤溶液」の「有機疎水性抗菌剤の濃度」を「10質量%以上35質量%以下」として、上記相違点2-1に係る発明特定事項とすることを、当業者が容易になし得るとはいえない。
したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲第2号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明5、7、8について
(ア)本件発明5は、直接的または間接的に請求項1を引用するものであって、本件発明5と甲2発明とを対比すると、少なくとも、上記相違点2-1の点で相違している。
そして、上記相違点2-1は実質的な相違点といえることは、上記アア-2(ア)に記載のとおりであるから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明5が甲2発明であるとはいえない。

(イ)更に、甲2発明に係る「吸収性物品用材料の製造方法」において、「抗菌剤溶液」の「有機疎水性抗菌剤の濃度」を「10質量%以上35質量%以下」として、上記相違点2-1に係る発明特定事項とすることを、当業者が容易になし得るとはいえないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲第2号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないことは、上記アア-2(カ)に記載のとおりであるから、同様の理由により、直接的または間接的に請求項1を引用する本件発明5も、甲2発明及び甲第2号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)このことは、本件発明5と同様に請求項1を直接的又は間接的に引用する本件発明7、8についても同様であるから、上記第5の1(1)(1-2)イの取消理由は理由がない。

ウ 本件発明2?4について
(ア)本件発明2は請求項1を引用するものであり、甲2発明と対比した場合、少なくとも上記相違点2-1の点で相違するものである。
そして、甲2発明において、「抗菌剤溶液」における「有機疎水性抗菌剤」の濃度を「10質量%以上35質量%以下」とすることには阻害要因が存在するというべきであることは、上記アア-2(オ)に記載のとおりであって、このことは、甲第5号証の記載事項に左右されるものではない。

(イ)してみれば、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明及び甲第5号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)更に、このことは、本件発明2と同様に請求項1を直接的又は間接的に引用する本件発明3、4についても同様であるから、上記第5の1(1)(1-2)ウの取消理由は理由がない。

(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(2-1)本件特許明細書の記載事項
本件特許明細書には、以下の記載がある。
(a)「【0001】
本発明は、吸水性樹脂組成物及びその製造方法に関する。本発明の吸水性樹脂組成物は、例えば吸収性物品に好適に用いられる。」

(b)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に記載の技術では、ヒドロゲル形成吸収ポリマーを抗菌剤でコートするのに先立ち、該抗菌剤を有機溶媒に溶解している。この有機溶媒の選定が適切でない場合には、有機溶媒に特有の悪臭が生じたり、人体に対する安全性に問題が起こったり、引火や爆発に対する安全性が懸念されたりする。特許文献3に記載の技術では、抗菌剤をどのような方法で添加するのかが明記されていない。添加の方法によっては、抗菌剤が不均一に架橋重合体粒子に付着してしまい、所望の効果が得られない可能性がある。特許文献4に記載の技術では、表面架橋剤を硬化させるときに加える熱に起因して、抗菌剤が変質してしまう可能性がある。また、ポリオールの種類によっては抗菌剤が溶解せず、そのことに起因して抗菌剤が超吸収体の表面に均一に付着しない可能性がある。
【0006】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る吸水性樹脂組成物及びその製造方法を提供することにある。」

(c)「【0026】
抗菌剤としては、有機化合物が用いられる。有機抗菌剤は、酸化亜鉛や銀含有抗菌剤等の無機抗菌剤に比べて抗菌効果が高いからである。また抗菌剤としては、疎水性のものが用いられる。疎水性抗菌剤は、親水性抗菌剤に比べて皮膚刺激性が低いからである。親水性抗菌剤は、親水性であるがゆえに皮膚に浸透しやすく、そのことに起因して皮膚に刺激を与えやすい。これとは対照的に、疎水性抗菌剤は、疎水性であるがゆえに皮膚に浸透しづらく、皮膚の表面にとどまりやすいので、皮膚に刺激を与えづらい。抗菌剤が疎水性であるとは、25℃の水に対する溶解度が好ましくは40g以下、更に好ましくは10g以下、一層好ましくは1g以下であることを言う。抗菌剤の溶解度は次の方法によって測定することができる。25℃の純水100gに対して、十分乾燥させた抗菌剤を投入し、スターラー又は振とう機で撹拌して溶解させ、1時間撹拌しても溶解できない直前の投入量を、当該抗菌剤の25℃の水に対する溶解度とする。」

(d)「【0044】
本製造方法においては、抗菌剤溶液と吸水性樹脂とを混合する工程を行うのに先立ち、吸水性樹脂の表面を架橋する表面架橋工程を行ってもよい。表面架橋工程を行うことで、吸水性樹脂の吸水性能を所望のものとすることができる。」

(e)「【0049】
有機溶媒は、揮発性が低いことが好ましい。揮発性の高い有機溶媒を用いると、吸水性樹脂組成物の製造過程において有機溶媒が揮発することがあるので、製造設備に排気装置を付設する必要が生じてしまう。これに対して揮発性の低い有機溶媒を用いれば、そのような装置の付設は不要である。また揮発性の高い有機溶媒は、引火や爆発のおそれがあることから、製造装置に防爆装置を付設する必要があるが、揮発性の低い有機溶媒を用いれば、そのような装置の付設も不要である。このように、揮発性の低い有機溶媒を用いることで、抗菌剤溶液と吸水性樹脂とを混合した後、有機溶媒を吸水性樹脂組成物中に残留させたままにしておくことができる。
【0050】
以上の観点から、有機溶媒は、25℃における蒸気圧が30Pa以下であることが好ましく、20Pa以下であることが更に好ましく、15Pa以下であることが一層好ましく、10Pa以下であることが更に一層好ましい。・・・
【0052】
吸水性樹脂組成物の製造過程における有機溶媒のハンドリング性を良好なものとする観点から、該有機溶媒は、その分子量が低いことが好ましい。有機溶媒が高分子量になると、その粘度が上昇しハンドリング性が低下する傾向にある。・・・
【0053】
分子量と同様の観点から、有機溶媒は適切な粘度を有しハンドリング性が良好であることが好ましい。有機溶媒が過度に高粘度であるとハンドリング性が低下する傾向にある。逆に過度に低粘度であると、有機溶媒が吸水性樹脂に定着しづらくなり、有機疎水性抗菌剤を吸水性樹脂に均一に付与しづらくなる。・・・」

(f)「【0107】
〔比較例3及び4〕
有機溶媒としてポリエチレングリコールを用い、有機疎水性抗菌剤としてピロクトンオラミン(比較例3)、又はセチルリン酸ベンザルコニウム(比較例4)を用いた。更に、同表に示す条件を採用する以外は、実施例1と同様にして吸水性樹脂組成物を得た。本比較例においては、10%濃度の有機疎水性抗菌剤の溶液調製を試みたが、溶解させることができなかった。ここで、抗菌剤の濃度を10%未満とした場合、仮に抗菌剤が溶解したとしても有機溶媒が多くなり、吸水性樹脂組成物の流動性が悪くなり、容易に安定した吸収性能かつ抗菌性能を発現する吸収性物品を製造することが困難になる。・・・」

(2-2)判断
(ア)上記(2-1)(a)、(b)によれば、本件発明は、吸収性物品用材料の製造方法において、有機溶媒の選定が適切でない場合には、有機溶媒に特有の悪臭が生じたり、人体に対する安全性に問題が起こったり、引火や爆発に対する安全性が懸念されたりする、抗菌剤の添加の方法によっては、抗菌剤が不均一に架橋重合体粒子に付着してしまい、所望の効果が得られない可能性がある、表面架橋剤を硬化させるときに加える熱に起因して、抗菌剤が変質してしまう可能性がある、ポリオールの種類によっては抗菌剤が溶解せず、そのことに起因して抗菌剤が超吸収体の表面に均一に付着しない可能性がある、といった課題を解決するものである。

(イ)一方、本件発明1においては、「親水性の有機溶媒」について、「25℃における蒸気圧が30Pa以下であり、分子量が100未満であり且つ該有機疎水性抗菌剤の溶解度が5質量%以上である親水性の有機溶媒」と特定されるものである。
そして、上記発明特定事項によれば、本件発明1における「親水性の有機溶媒」は、「有機疎水性抗菌剤」の溶解度が「5質量%以上であ」る、と特定されるものであって、そのような発明特定事項により、「親水性の有機溶媒」や「有機疎水性抗菌剤」の溶解度パラメータが特定されていないとしても、「有機疎水性抗菌剤」が「親水性の有機溶媒」に溶解するものとなり、それにより、ポリオールの種類によっては抗菌剤が溶解せず、そのことに起因して抗菌剤が超吸収体の表面に均一に付着しない、といった課題を解決できることは明らかである。

(ウ)したがって、本件発明1の発明特定事項により本件発明の課題を解決できることは明らかであるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されるものである。
そして、このことは、請求項1を直接的又は間接的に引用する本件発明2?9についても同様であるから、本件発明1?9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するので、上記第5の1(2)の取消理由は理由がない。

2 平成30年11月12日付けの取消理由通知書の取消理由について
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1-1)「親水性の有機溶媒」の分子量について
(ア)上記1(2)(2-2)(ア)に記載される本件発明の課題を解決する、発明の詳細な説明の実施例に記載される「親水性の有機溶媒」の分子量は、最大で1,3-ブチレングリコールの90.12g/molであるのに対して、本件発明1においては、「親水性の有機溶媒」の「分子量」を「100未満」と特定するものであるから、本件発明1の発明特定事項により本件発明の課題を解決できるものといえるので、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されるものである。
そして、このことは、請求項1を直接的又は間接的に引用する本件発明2?9についても同様である。

(1-2)「有機疎水性抗菌剤」の濃度について
(ア)上記1(2)(2-1)(f)によれば、本件発明において、「抗菌剤溶液」の抗菌剤の濃度を10%未満とした場合、仮に抗菌剤が溶解したとしても有機溶媒が多くなり、吸水性樹脂組成物の流動性が悪くなり、容易に安定した吸収性能かつ抗菌性能を発現する吸収性物品を製造することが困難になる、という課題が生じるものである。

(イ)一方、本件発明1においては、「抗菌剤溶液」について、「有機疎水性抗菌剤の濃度が10質量%以上35質量%以下である抗菌剤溶液」と特定されるものである。
そして、上記発明特定事項によれば、本件発明1における「抗菌剤溶液」の「抗菌剤の濃度」は10%以上となるから、吸水性樹脂組成物の流動性が悪くなり、容易に安定した吸収性能かつ抗菌性能を発現する吸収性物品を製造することが困難になる、という上記(ア)に記載される課題を解決できることは明らかである。

(ウ)したがって、本件発明1の発明特定事項により本件発明の課題を解決できることは明らかであるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されるものである。
そして、このことは、請求項1を直接的又は間接的に引用する本件発明2?9についても同様である。

(1-3)むすび
以上のとおりであるから、本件発明1?9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するので、上記第5の2(1)(1-1)、(1-2)の取消理由は理由がない。

第7 取消理由において採用しなかった異議申立理由についての判断
1 特許法第29条第1項(新規性)及び第2項(進歩性)について
(1)甲第4号証を主引用例とする場合について
(1-1)甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、以下の記載がある。
(4a)「1.a)ヒドロゲル形成吸収ポリマー;および
b)下記式(I)で表される1-ヒドロキシ-2-ピロリドン誘導体を含有する抗菌剤を含む抗菌性ヒドロゲル形成吸収ポリマー;

ここで、R_(1)は、1?17の炭素原子を有するアルキル基、・・・またはハロゲン原子を表し;R^(2)は、水素原子、1?4の炭素原子を有するアルキル基、2?4の炭素原子を有するアルケニル基、ハロゲン原子、フェニル基、またはベンジル基を表し;X^(+)は有機塩基、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、アルカリ土類金属イオン、または2?4価のカチオンイオンを表す。
2.前記ヒドロゲル形成吸収ポリマーは、抗菌剤で被覆される請求項1に記載の抗菌性ヒドロゲル形成吸収ポリマー。」(特許請求の範囲)

(4b)「以下は、本明細書で用いられる用語についての定義のリストである。
“A-HFAP”は、抗菌性ヒドロゲル形成吸収ポリマーを意味する。A-HFAPは、本発明の抗菌剤を含む。」(9頁9行?11行)

(4c)「好ましい態様において、プロセスは、混合物から溶媒の少なくとも一部を除去する工程をさらに含む。好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは95%より多くの、最も好ましくは約100%の溶媒が混合物から除去される。溶媒の除去は、液体-固体混合物から液体を分離または除去するために用いられる種々の技術および装置の任意によって行うことができ、蒸発、濾過、洗浄、またはそれらの組み合わせを含む。」(22頁27行?23頁4行)

(4d)「例1
この例は、本発明のHFAPの製造の例を示す。
アクリル酸ナトリウム74.95mol%、・・・約5mmの粒子直径で微細に分割されたゲル水和したポリマーを得る。ゲル水和したポリマーは、・・・20メッシュを通過した粉末を吸収性ポリマーA(約350ミクロンの平均粒径を有する)として分離する。
100部の吸収性ポリマーAをグリセロール0.5部、水2部、およびエチルアルコール2部と混合した後、得られた混合物を210℃で熱処理することによって、二次的に架橋された表面領域を有する吸収性ポリマーBが得られる。吸収性ポリマーBは、日本触媒(株)(日本、大阪)から入手可能なHFAPのCode No.“L76If”に相当する。」(42頁25行?43頁11行)

(4e)「例2
この例は、本発明のA-HFAPの製造の例を示す。
10gの1-ヒドロキシ-2-ピロリドン誘導体(Octopiroxの商品名で、例えばHoechst Japan(日本、大阪)から入手可能)を、100mlのメチルアルコール溶媒に溶解する。完全な溶解の後、スプレーノズルおよびエアーポンプに接続された溶液タンクに溶液を導入する。例1からの吸収性ポリマーB500gを、ステンレススチール製容器に散布する。25gの1-ヒドロキシ-2-ピロリドン誘導体溶液を、500gの吸収性ポリマー粒子の上に室温でスプレーし、15分間かき混ぜることにより混合する。1-ヒドロキシ-2-ピロリドン誘導体で被覆された吸収性ポリマー粒子は、引き続いて、真空オーブン中40℃で2時間乾燥に供され、あるいは10分間熱風乾燥によって、吸収性ポリマー粒子の1%未満に水分レベルを減少させる。粒子は、800μm以下のサイズの細かい粒子に穏やかに粉砕され、ポリマーダストの計画どおりの製造がもたらされる。得られた粒子は、0.5%の1-ヒドロキシ-2-ピロリドン誘導体を含有する。」(43頁13行?26行)

(ア)上記(4a)?(4e)によれば、甲第4号証には、「抗菌性ヒドロゲル形成吸収ポリマーの製造方法」に係る発明が記載されており、上記「抗菌性ヒドロゲル形成吸収ポリマーの製造方法」は、10gの1-ヒドロキシ-2-ピロリドン誘導体を、100mlのメチルアルコール溶媒に溶解し、二次的に架橋された表面領域を有する吸収性ポリマーB500gを、ステンレススチール製容器に散布し、25gの1-ヒドロキシ-2-ピロリドン誘導体溶液を、500gの吸収性ポリマー粒子の上に室温でスプレーし、15分間かき混ぜることにより混合し、1-ヒドロキシ-2-ピロリドン誘導体で被覆された吸収性ポリマー粒子は、引き続いて、真空オーブン中40℃で2時間乾燥に供され、あるいは10分間熱風乾燥によって、吸収性ポリマー粒子の1%未満に水分レベルを減少させるものであり、その後、粒子は、800μm以下のサイズの細かい粒子に穏やかに粉砕され、得られた粒子は、0.5%の1-ヒドロキシ-2-ピロリドン誘導体を含有するものである。

(イ)すると、甲第4号証には、
「10gの1-ヒドロキシ-2-ピロリドン誘導体を、100mlのメチルアルコール溶媒に溶解し、
二次的に架橋された表面領域を有する吸収性ポリマー500gを、ステンレススチール製容器に散布し、
25gの1-ヒドロキシ-2-ピロリドン誘導体溶液を、500gの吸収性ポリマー粒子の上に室温でスプレーし、15分間かき混ぜることにより混合し、
1-ヒドロキシ-2-ピロリドン誘導体で被覆された吸収性ポリマー粒子は、引き続いて、真空オーブン中40℃で2時間乾燥に供され、あるいは10分間熱風乾燥によって、吸収性ポリマー粒子の1%未満に水分レベルを減少させ、
その後、粒子は、800μm以下のサイズの細かい粒子に穏やかに粉砕され、
得られた粒子は0.5%の1-ヒドロキシ-2-ピロリドン誘導体を含有する、抗菌性ヒドロゲル形成吸収ポリマーの製造方法。」の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているといえる。

(1-2)対比・判断
ア 本件発明1について
ア-1 対比
(ア)本件発明1と甲4発明とを対比すると、甲4発明における「抗菌性ヒドロゲル形成吸収ポリマー」は、本件発明1における「吸収性物品用材料」に相当するから、甲4発明に係る「抗菌性ヒドロゲル形成吸収ポリマーの製造方法」は、本件発明1に係る「吸収性物品用材料の製造方法」に相当し、甲4発明における「1-ヒドロキシ-2-ピロリドン誘導体」は、本件発明1における「有機疎水性抗菌剤」に相当し、甲4発明における「メチルアルコール溶媒」は、分子量が32.0g/molであり、更に10gの「有機疎水性抗菌剤」を100mlの「メチルアルコール溶媒」で溶解することからみれば、本件発明1における「分子量が100未満であり且つ該有機疎水性抗菌剤の溶解度が5質量%以上である親水性の有機溶媒」に相当し、甲4発明における、「10gの1-ヒドロキシ-2-ピロリドン誘導体を、100mlのメチルアルコール溶媒に溶解」した「1-ヒドロキシ-2-ピロリドン誘導体溶液」は、本件発明1における「有機疎水性抗菌剤を有機溶媒に溶解してなる抗菌剤溶液」に相当し、甲4発明における「吸収性ポリマー」は、本件発明1の「吸水性樹脂」に相当する。

(イ)また、甲4発明における、「25gの1-ヒドロキシ-2-ピロリドン誘導体溶液を、500gの吸収性ポリマー粒子の上に室温でスプレーし、15分間かき混ぜることにより混合」することが、本件発明1における、「有機疎水性抗菌剤を親水性の有機溶媒に溶解してなる抗菌剤溶液」を、「吸収性物品用材料に適用する」工程、「前記抗菌剤溶液と、吸水性樹脂とを混合する」工程に相当し、更に、甲4発明の「吸収性ポリマー」は、「二次的に架橋された表面領域を有する」から、甲4発明は、本件発明1と同じく、「前記抗菌剤溶液と前記吸水性樹脂とを混合する工程を行うのに先立ち、該吸水性樹脂の表面を架橋する表面架橋工程」を行うものといえる。

(ウ)そうすると、本件発明1と甲4発明とは、
「有機疎水性抗菌剤を、分子量が100未満であり且つ該有機疎水性抗菌剤の溶解度が5質量%以上である親水性の有機溶媒に溶解してなる抗菌剤溶液を、吸収性物品用材料に適用する工程を有する吸収性物品用材料の製造方法であって、
前記抗菌剤溶液と、吸水性樹脂とを混合する工程を有し、
前記抗菌剤溶液と前記吸水性樹脂とを混合する工程を行うのに先立ち、該吸水性樹脂の表面を架橋する表面架橋工程を行う、
吸収性物品用材料の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点4-1:本件発明1においては、「親水性の有機溶媒」の「25℃における蒸気圧が30Pa以下」であり、「抗菌剤溶液と吸水性樹脂とを混合した後、有機溶媒を残留させたままにしておく」のに対して、甲4発明においては、「親水性の有機溶媒」の「25℃における蒸気圧」が記載されておらず、更に、「抗菌剤溶液と吸水性樹脂とを混合した後、有機溶媒を残留させたままにしておく」ことは記載されていない点。

相違点4-2:本件発明1においては、「有機疎水性抗菌剤の濃度が10質量%以上35質量%以下」であるのに対して、甲4発明においては、「抗菌剤溶液」が、「10gの1-ヒドロキシ-2-ピロリドン誘導体を、100mlのメチルアルコール溶媒に溶解」したものである点。

ア-2 判断
(ア)まず、上記相違点4-1について検討すると、甲4発明は、「親水性の有機溶媒」として「メチルアルコール溶媒」を用いるものであって、その25℃における蒸気圧は17×10^(3)Paであり、「メチルアルコール溶媒」が揮発性の高い溶媒であって、「25℃における蒸気圧が30Pa以下」の「親水性の有機溶媒」とはいえないことは当審において明らかであるから、上記相違点4-1は実質的な相違点といえるので、本件発明1が甲4発明であるとはいえない。

(イ)そして、上記(e)によれば、本件発明1においては、有機溶媒は、揮発性が低いことが好ましいものであり、有機溶媒の25℃における蒸気圧を30Pa以下として、抗菌剤溶液と吸水性樹脂とを混合した後、有機溶媒を吸水性樹脂組成物中に残留させたままにしておくことができるものである。

(ウ)一方、甲4発明においては、1-ヒドロキシ-2-ピロリドン誘導体で被覆された吸収性ポリマー粒子は、真空オーブン中40℃で2時間乾燥に供され、あるいは10分間熱風乾燥によって、吸収性ポリマー粒子の1%未満に水分レベルを減少させるものであり、このとき、揮発性の高い「メチルアルコール溶媒」が全て揮発することは明らかである。
してみれば、甲4発明は、揮発性の高い溶媒である「メチルアルコール溶媒」を用いることによって、混合物から溶媒を全て気化させるものといえ、このことは、上記(3-1)(4c)の記載とも合致するものである。

(エ)そして、甲4発明において、「親水性の有機溶媒」を、「25℃における蒸気圧が30Pa以下」の揮発性の低いものとすることは、混合物から溶媒を全て気化させることを困難なものとするから、阻害要因が存在するというべきである。

(オ)してみれば、甲4発明に係る「吸収性物品用材料の製造方法」において、「親水性の有機溶媒」を、「25℃における蒸気圧が30Pa以下」であるものとし、「抗菌剤溶液と吸水性樹脂とを混合した後、有機溶媒を残留させたままにしておく」ものとして、上記相違点4-1に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえない。

(カ)したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明及び甲第4号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2?4について
(ア)本件発明2は請求項1を引用するものであり、甲4発明と比較した場合、少なくとも上記相違点4-1の点で相違するものである。
そして、甲4発明において、「親水性の有機溶媒」を、「25℃における蒸気圧が30Pa以下」の揮発性の低いものとすることは、混合物から溶媒を全て気化させることを困難なものとするから、阻害要因が存在するというべきであるので、甲4発明に係る「吸収性物品用材料の製造方法」において、「親水性の有機溶媒」を、「25℃における蒸気圧が30Pa以下」であるものとし、「抗菌剤溶液と吸水性樹脂とを混合した後、有機溶媒を残留させたままにしておく」ものとして、上記相違点4-1に係る発明特定事項のものに特定することを、当業者が容易になし得るとはいえないことは、上記アア-2(エ)、(オ)に記載のとおりであり、このことは、甲第5号証の記載事項に左右されるものではない。

(イ)従って、本件発明2も、上記アア-2(カ)に記載したのと同じ理由により、甲4発明及び甲第5号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)更に、上記(イ)の事項は、本件発明2と同様に請求項1を直接的又は間接的に引用する本件発明3?4についても同様であるから、第4の1(4)の異議申立理由はいずれも理由がない。

2 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)、第6項第1号(サポート要件)、第6項第2号(明確性)について
(1)「有機疎水性抗菌剤」について
(ア)上記第6の1(2)(2-1)(c)によれば、本件特許明細書には、「疎水性」の度合いについて、「25℃の水に対する溶解度が好ましくは40g以下、更に好ましくは10g以下、一層好ましくは1g以下であることを言う。」と規定されており、これによれば、本件特許明細書には、「25℃の水に対する溶解度」が「40g以下」であれば、本件発明でいう「有機疎水性抗菌剤」に該当することが開示されているといえ、また、「溶解度」の測定方法も記載されているので、本件発明1における「疎水性抗菌剤」の「疎水性」の度合いは明確であるというべきである。

(イ)更に、上記(c)によれば、本件特許明細書には、「25℃の水に対する溶解度が好ましくは40g以下、更に好ましくは10g以下、一層好ましくは1g以下である」という度合いの「疎水性」を示す「有機疎水性抗菌剤」は、皮膚に刺激を与えづらく、これにより、人体に対する安全性に問題が起こる、といった課題を解決できることが開示されているといえる。
してみれば、「25℃の水に対する溶解度」が「40g以下」の「有機疎水性抗菌剤」であれば、請求項6に記載される二種類の化合物以外のものであっても、上記課題を解決できることは明らかであるから、発明の詳細な説明の記載を本件発明1の範囲まで拡張ないし一般化できないとはいえないので、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されているというべきである。

(ウ)したがって、上記第4の2(1)(ア)、(イ)の異議申立理由は理由がない。

(2)「抗菌剤溶液」について
(ア)本件発明1においては、「親水性の有機溶媒」が、「25℃における蒸気圧が30Pa以下である」ことが特定されている。

(イ)そして、上記第6の1(2)(2-1)(e)によれば、「親水性の有機溶媒」が、本件特許明細書に記載される以外の単一成分の溶媒であっても、複数種類の有機溶媒からなる混合溶媒であっても、更には水を含有するものであっても、本件発明1において使用する際の「親水性の有機溶媒」として、「25℃における蒸気圧が30Pa以下である親水性の有機溶媒」であれば、揮発性が高い有機溶媒を用いることに起因する、製造設備に排気装置や防爆装置を付設する必要が生じる、といった課題が解決できることは明らかである。

(ウ)そうすると、本件発明1の発明特定事項により、揮発性が高い有機溶媒を用いることに起因する課題が解決できることは明らかであるので、「抗菌剤溶液」の「親水性の有機溶媒」に関して、発明の詳細な説明の記載を、本件発明1の範囲まで拡張ないし一般化できないとはいえないし、本件発明1が、発明の詳細な説明に記載されていないともいえない。

(エ)また、本件発明1においては、「抗菌剤溶液」において、「有機疎水性抗菌剤の濃度が10質量%以上35質量%以下である」ことが特定されており、その残りが「親水性の有機溶媒」であることは明らかであるから、「親水性の有機溶媒」の使用量(含有量)が特定されているといえる。
更に、上記(イ)によれば、本件発明1における「親水性の有機溶媒」は、本件発明1において使用する際の「親水性の有機溶媒」として、「25℃における蒸気圧が30Pa以下である親水性の有機溶媒」をいうことは明らかであり、そうであれば、「親水性の有機溶媒」が、本件特許明細書に記載される以外の単一成分の溶媒であっても、複数種類の有機溶媒からなる混合溶媒であっても、更には水を含有するものであっても、上記を逸脱する「親水性の有機溶媒」を想起できるものではないので、本件発明1は明確であるというべきである。

(オ)したがって、上記第4の2(2)(ア)?(ウ)の異議申立理由は理由がない。

3 平成30年 9月 7日付け意見書について
(1)平成30年 9月 7日付け意見書の主張の概要
(1-1)参考資料
参考資料1:J.B.SEGUR et al.,Viscosity of Glycerol and Its Aqueous Solutions,INDUSTRIAL AND ENGINEERING CHEMISTRY,Vol.43,No.9,1951年9月,p.2117-2120
参考資料2:ANALYTICAL CIRCLE,No.64,和光純薬工業株式会社,2012年3月,p.18

(1-2)特許法第29条第1項(新規性)及び第2項(進歩性)について
ア 「分子量が200未満であり」との要件に関して
ア-1 「第一の方法」について
(ア)甲第1号証には、上記第6の1(1)(1-1)ア(1d)に記載される「第一の方法」において抗菌剤のために用いられる溶媒として、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール等のポリオールが例示されており、これらは、本件特許明細書の【0100】に記載される実施例1において用いられる親水性の有機溶媒と同一の化合物であるので、「25℃における蒸気圧が30Pa以下であり、分子量が200未満」である親水性の有機溶媒に該当する。

(イ)そして、本件発明と上記「第一の方法」との相違点は、抗菌剤を添加するタイミングにあるが、本件特許明細書の記載からは、抗菌剤を添加するタイミングが課題を解決するのにどのように寄与しているのかが不明であるから、吸収性物品用材料の製造方法において抗菌剤を添加するタイミングは、単なる設計事項に過ぎないので、本件発明は、甲第1号証の記載に基づいて当業者が容易に想到することができる。

ア-2 「第二の方法」について
(ア)また、本件特許明細書には、有機溶媒の分子量と粘度の間に相関性があることが示唆されており、実施例4では有機溶媒にグリセリンが使われているが、参考資料1によれば、グリセリンの粘度は本件特許明細書に記載される好ましい粘度の範囲を満たすものである。
一方、上記第6の1(1)(1-1)ア(1e)に記載される甲第1号証の「第二の方法」での有機溶媒の粘度も、参考資料2によれば、本件特許明細書に記載される好ましい粘度の範囲を満たすものである。
そして、本件発明は、有機溶媒が、本件特許明細書において規定する分子量及び粘度のどちらか一方を満たすことで課題が達成されると解釈できる。

(イ)甲第1号証には、上記「第二の方法」に関して分子量が200未満である有機溶媒に関する記載はないものの、「第一の方法」において、本件特許明細書に記載される好ましい粘度を有する有機溶媒が記載されており、分子量が小さくなれば粘度が低下することは周知の技術常識であるから、「第一の方法」における有機溶媒の小さい分子量で規定(減縮)することは容易に想到できるので、本件発明は、甲第1号証の記載に基づいて当業者が容易に想到することができる。

イ 「有機疎水性抗菌剤の溶解度が5質量%以上である」及び「有機疎水性抗菌剤の濃度が35質量%以下である」との要件に関して(5頁19行?6頁下から3行目)
(ア)甲第1号証の【0065】には、抗菌剤を有する溶液が、少なくとも20質量%の抗菌剤を有することが記載されており、本件特許の発明の詳細な説明において規定している有機疎水性抗菌剤の濃度(およそ4.8質量%以上35質量%以下)のうち、20質量%以上の範囲で重複している。また、有機疎水性抗菌剤の濃度は、吸収性物品用材料の使用目的に応じて適宜設定できる設計事項に過ぎない。

(イ)ゆえに、本件発明は、甲第1号証の記載事項に基づいて当業者が容易に想到することができる。

(1-3)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
ア「表面架橋工程」との要件に関して
(ア)本件特許明細書においては、「表面架橋工程」に関して【0044】に記載されているだけであり、「表面架橋工程」が任意の構成であることが示され、また、実施例には、「表面架橋工程」に関する記載がなく、用いた吸水性樹脂が表面架橋されているか否かに関する記載もない。

(イ)したがって、本件特許明細書の記載からは、「吸水性物品用材料の製造方法」において、「表面架橋工程」を行っているかどうか、「表面架橋工程」を行うタイミングが課題を解決するためにどのように寄与しているのかが不明であるので、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合しない。

(ウ)上記(イ)によれば、吸収性物品用材料の製造方法において抗菌剤を添加するタイミングは、単なる設計事項に過ぎず、吸水性樹脂を表面架橋することは、甲第3号証に記載されるように一般的な操作に過ぎないから、仮に、本件特許が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するとしても、本件発明は、甲第1号証の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(当審注:(ウ)の主張は、進歩性に係るものと認められるが、「(2)理由3(サポート要件違反)に関して」で主張されているので、下記(2)(2-2)において判断する。)。

イ「抗菌剤溶液」との要件に関して
(ア)本件特許の特許請求の範囲は、有機溶媒についていわゆるオープンクレームであるので、「抗菌剤溶液」は、「有機疎水性抗菌剤の濃度が35質量%以下」となる範囲で、「25℃における蒸気圧が30Pa以下であり、分子量が200未満であり且つ該有機疎水性抗菌剤の溶解度が5質量%以上である親水性の有機溶媒」以外の有機溶媒、更には水等の無機溶媒を含み得る。

(イ)ここで、本件特許明細書の比較例1、2では、有機溶媒としてエタノールが用いられており、その効果が劣っている。
ところが、本件発明1において規定される「抗菌剤溶液」は、「親水性の有機溶媒」に比べてエタノールの方が多く含まれている「抗菌剤溶液」等、「抗菌剤溶液」に関して、効果を奏しない範囲まで包含している。

(ウ)また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0046】、【0107】の記載から、有機疎水性抗菌剤の濃度を10質量%以下とした場合には、容易に安定した吸収性能かつ抗菌性能を発現する吸収性物品を製造することが困難になることが分かる。
ところが、本件発明1においては、有機疎水性抗菌剤の濃度の下限値が規定されていないから、本件発明1は、有機疎水性抗菌剤の濃度に関して、効果を奏しない範囲まで包含している。

(エ)以上のとおりであるので、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合しない。

(2)判断
(2-1)特許法第29条第1項(新規性)及び第2項(進歩性)について
(ア)本件発明1は、「抗菌剤溶液」と「吸水性樹脂」とを「混合する工程を行うのに先立ち、該吸水性樹脂の表面を架橋する表面架橋工程」を行うものであって、上記第6の1(2)(2-1)(b)、(d)によれば、そうすることにより、表面架橋剤を硬化させるときに加える熱に起因して、抗菌剤が変質してしまう、といった課題を解決して、吸水性樹脂の吸水性能を所望のものとすることができるものであるから、本件発明1において、抗菌剤を添加するタイミングが課題を解決するのにどのように寄与しているのかが不明であるとはいえないし、吸収性物品用材料の製造方法において抗菌剤を添加するタイミングが、単なる設計事項であるともいえない。

(イ)これに対して、上記第6の1(1)(1-1)ア(1d)によれば、甲第1号証の「第一の方法」は、超吸収体と、抗菌剤およびポリオールを有する溶液とを、それを表面架橋剤と接触させるのと同時にまたは接触させた直後に、且つ表面架橋を完成させる硬化段階に先立って接触させ、表面架橋剤溶液、抗菌剤溶液及び任意の他の成分を添加した後、表面架橋が熱処理によって完成されるものであり、同(1c)によれば、そうすることにより、単純であり、かつ抗菌剤の十分な量が少なくとも適度に一様にコーティングされている超吸収体を、超吸収体製造自体との干渉または付加的な処理段階または装置を含まずに簡単かつ経済的にもたらす、という課題を解決できるものである。

(ウ)一方、甲第1号証の「第二の方法」は、超吸収体と、抗菌剤および200から5000g/モルの間の分子量のポリアルキレングリコールを有する溶液とを表面架橋の完成後に接触させるものである。
してみれば、甲第1号証において、超吸収体と抗菌剤溶液とを表面架橋の完成後に接触させる場合、上記(1c)に記載される課題を解決するには、抗菌剤溶液の有機溶媒を200から5000g/モルの間の分子量のポリアルキレングリコールとする必要があるというべきである。

(エ)ところが、上記「第一の方法」における抗菌剤溶液の有機溶媒は200から5000g/モルの間の分子量のポリアルキレングリコールではないから、上記「第一の方法」において、超吸収体と、抗菌剤およびポリオールを有する溶液とを接触させる前に表面架橋を行えば、上記(1c)に記載される課題を解決できなくなることは明らかであるので、そうすることには阻害要因が存在するというべきである。

(オ)したがって、本件発明1は、上記「第一の方法」と甲第1号証の記載に基づいて当業者が容易に想到できるものではなく、このことは、上記「第一の方法」のポリオールが本件発明における「親水性の有機溶媒」と合致していることに左右されるものではない。

(カ)また、上記「第二の方法」に基づいて認定した甲1発明において、疎水性の有機溶媒の分子量を100未満とすることには阻害要因が存在するというべきであるから、甲1発明に係る「吸収性物品用材料の製造方法」において、「疎水性の有機溶媒の分子量を100未満」として、上記相違点1-1に係る発明特定事項とすることを、当業者が容易になし得るとはいえないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第1号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないことは、上記第6の1(1)(1-2)アア-2(ウ)、(エ)に記載のとおりであるから、本件発明1は、上記「第二の方法」と甲第1号証の記載に基づいて当業者が容易に想到できるものではない。

(キ)更に、上記第6の1(2)(2-1)(e)(【0052】?【0053】)によれば、本件発明1における「親水性の有機溶媒」は、分子量と粘度の両方を適切な範囲とすることにより、ハンドリング性を良好なものとするものというべきであり、本件発明において、「親水性の有機溶媒」が、分子量及び粘度のどちらか一方を満たすことで課題が達成されると解釈されるものではないから、上記「第二の方法」での有機溶媒の粘度が、本件特許明細書に記載される好ましい粘度の範囲を満たすとしても、上記(カ)の事項が左右されるものではない。

(ク)以上のとおりであるので、本件発明1は、上記「第一の方法」または「第二の方法」と甲第1号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
そして、このことは、請求項1を直接的又は間接的に引用する本件発明2?9についても同様である。

(ケ)また、上記(ク)の事項は、甲第1号証に記載される抗菌剤の濃度と、本件発明における「有機疎水性抗菌剤」の濃度が重複することや、「有機疎水性抗菌剤」の濃度が設計事項であることに左右されるものではない。

(コ)以上のとおりであるので、上記(1)(1-2)ア、イの主張はいずれも採用できない。

(2-2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
ア「表面架橋工程」との要件に関して
(ア)本件発明1は、「抗菌剤溶液」と「吸水性樹脂」とを「混合する工程を行うのに先立ち、該吸水性樹脂の表面を架橋する表面架橋工程」を行うことによって、表面架橋剤を硬化させるときに加える熱に起因して、抗菌剤が変質してしまう、といった課題を解決して、吸水性樹脂の吸水性能を所望のものとすることができるものであるから、抗菌剤を添加するタイミングが課題を解決するのにどのように寄与しているのかが不明であるとはいえず、吸収性物品用材料の製造方法において抗菌剤を添加するタイミングが、単なる設計事項に過ぎないともいえないことは、上記(2-1)(ア)に記載のとおりである。

(イ)そうすると、本件特許明細書には、本件発明において「表面架橋工程」を行うことが記載されているといえ、更に、「表面架橋工程」を行うタイミングが、課題を解決するためにどのように寄与しているのかが不明であるとはいえない。
また、吸水性物品用材料の製造において、吸水性樹脂の表面架橋手段は極めて一般的な技術であるから、本件特許明細書の記載は、サポート要件を満足するものというべきである。

(ウ)更に、本件発明1は、上記「第一の方法」または「第二の方法」と甲第1号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記(2-1)(ク)に記載のとおりであるので、上記(1)(1-3)アの主張はいずれも採用できない。

イ「抗菌剤溶液」との要件に関して
(ア)本件発明1においては、「親水性の有機溶媒」が、「25℃における蒸気圧が30Pa以下であり、分子量が100未満であり且つ該有機疎水性抗菌剤の溶解度が5質量%以上である」ことが特定されており、上記発明特定事項を満たさない「親水性の有機溶媒」が本件発明1に含まれないことは明らかである。

(イ)そして、「親水性の有機溶媒」が、本件特許明細書に記載される以外の単一成分の溶媒であっても、複数種類の有機溶媒からなる混合溶媒であっても、更には水を含有するものであっても、本件発明1において使用する際の「親水性の有機溶媒」として、「25℃における蒸気圧が30Pa以下である親水性の有機溶媒」であれば、揮発性が高い有機溶媒を用いることに起因する、製造設備に排気装置や防爆装置を付設する必要が生じる、といった課題が解決できることは明らかであることは、上記2(2)(イ)に記載のとおりであり、更に、本件発明1における「親水性の有機溶媒」は、「有機疎水性抗菌剤」の溶解度が「5質量%以上であ」る、との発明特定事項により、「有機疎水性抗菌剤」が「親水性の有機溶媒」に溶解するものとなり、それにより、ポリオールの種類によっては抗菌剤が溶解せず、そのことに起因して抗菌剤が超吸収体の表面に均一に付着しない、といった課題を解決できることも明らかであることは、上記第6の1(2)(2-2)(イ)に記載のとおりであるから、本件発明1の「抗菌剤溶液」は、効果を奏しない範囲まで包含するものではない。

(ウ)また、本件発明1においては、「抗菌剤溶液」について、「有機疎水性抗菌剤の濃度が10質量%以上35質量%以下である抗菌剤溶液」と特定されるものであり、「有機疎水性抗菌剤の濃度」の下限値が特定されているので、本件発明1は、「有機疎水性抗菌剤の濃度」に関して、効果を奏しない範囲まで包含するものではない。

(エ)以上のとおりであるので、上記(1)(1-3)イの主張は採用できない。

4 平成31年 2月13日付け意見書について
(1)平成31年 2月13日付け意見書の主張の概要
(ア)本件特許明細書には、「有機疎水性抗菌剤」の濃度を算出する具体的な式が記載されていない。
また、本件特許明細書の【0056】、【0066】と、【0100】と、【0112】とで、「有機疎水性抗菌剤」を算出する式が異なると認められるから、「有機疎水性抗菌剤」の濃度の算出方法が不明確である。

(イ)本件発明1には、「有機疎水性抗菌剤」及び「親水性の有機溶媒」以外の、ほかの溶媒や添加物を含む抗菌剤溶液を用いる製造方法も包含されるから、この場合においても、「有機疎水性抗菌剤」の濃度の算出方法が不明確である。

(ウ)すなわち、本件特許明細書には、「有機疎水性抗菌剤」の濃度の算出方法として、式の分母が有機溶媒のみであるのか、少量の水や低級アルコールを含んだ全溶媒であるのかに関する記載がない。
このため、本件発明1において、「有機疎水性抗菌剤」の濃度は、「10質量%以上35質量%以下」と特定されているものの、本件特許明細書には、「有機疎水性抗菌剤」の濃度を算出する算出基準が記載されていないので、「有機疎水性抗菌剤」の濃度の算出方法が不明確であるから、本件発明1は、サポート要件を満たしていない。

(2)判断
(ア)本件特許明細書の【0056】の記載は、本件発明における「有機疎水性抗菌剤」の濃度の好ましい範囲を開示するものに過ぎず、【0066】の記載は、有機溶媒に抗菌剤を溶かした後に、添加物を溶解、分散させてもよいことをいうものに過ぎず、【0100】の記載は、実施例を【0112】の【表1】に示すとおりに実施し、「吸水性樹脂」と「抗菌剤溶液」の混合後、有機溶媒の除去を行わなかったことを開示するものに過ぎず、いずれも、「有機疎水性抗菌剤」を算出する式を開示するものではないから、本件特許明細書において、「有機疎水性抗菌剤」を算出する式が異なるとは認められない。

(イ)また、本件発明1において使用する際の「親水性の有機溶媒」として、「25℃における蒸気圧が30Pa以下である親水性の有機溶媒」であれば、揮発性が高い有機溶媒を用いることに起因する、製造設備に排気装置や防爆装置を付設する必要が生じる、といった課題が解決できることは明らかであり、本件発明1において、上記を逸脱する「親水性の有機溶媒」を想起できるものではないので、本件発明1は明確であるというべきであることは、上記2(2)(エ)に記載のとおりである。

(ウ)そして、このことからみれば、「有機疎水性抗菌剤」の濃度を算出する際の基準となるのは、「親水性の有機溶媒」が、本件特許明細書に記載される以外の単一成分の溶媒であるか、複数種類の有機溶媒からなる混合溶媒であるか、水を含有するものであるかに関わらず、本件発明1において使用する際の「親水性の有機溶媒」の質量に「有機疎水性抗菌剤」の質量を加えた「抗菌剤溶液」の質量であることは、当業者にとって明らかであるから、「有機疎水性抗菌剤」の濃度の算出方法が不明確であるとはいえないので、上記(1)の主張は採用できない。

第8 むすび
以上のとおり、異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書で通知された取消理由によっては、本件請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機疎水性抗菌剤を、25℃における蒸気圧が30Pa以下であり、分子量が100未満であり且つ該有機疎水性抗菌剤の溶解度が5質量%以上である親水性の有機溶媒に溶解してなり、有機疎水性抗菌剤の濃度が10質量%以上35質量%以下である抗菌剤溶液を、吸収性物品用材料に適用する工程を有する吸収性物品用材料の製造方法であって、
前記抗菌剤溶液と、吸水性樹脂とを混合する工程を有し、
前記抗菌剤溶液と前記吸水性樹脂とを混合する工程を行うのに先立ち、該吸水性樹脂の表面を架橋する表面架橋工程を行い、
前記抗菌剤溶液と前記吸水性樹脂とを混合した後、前記有機溶媒を残留させたままにしておく吸収性物品用材料の製造方法。
【請求項2】
前記抗菌剤溶液と前記吸水性樹脂とを混合する前に、又は該抗菌剤溶液と該吸水性樹脂とを混合した後に、該吸水性樹脂と無機微粒子とを混合する工程を更に含む請求項1に記載の吸収性物品用材料の製造方法。
【請求項3】
前記無機微粒子は、シリカ微粒子、酸化ジルコニア、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化亜鉛又は金から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせからなる請求項2に記載の吸収性物品用材料の製造方法。
【請求項4】
前記無機微粒子の平均一次粒子径は、5nm以上500nm以下である請求項2又は3に記載の吸収性物品用材料の製造方法。
【請求項5】
前記有機疎水性抗菌剤が、以下の式(1)若しくは(2)で表される構造を有する有機化合物、又はトリクロサンである請求項1ないし4のいずれか1項に記載の吸収性物品用材料の製造方法。
【化1】

【化2】

【請求項6】
前記有機疎水性抗菌剤が、セチルリン酸ベンザルコニウム又はピロクトンオラミンである請求項1ないし5のいずれか一項に記載の吸収性物品用材料の製造方法。
【請求項7】
前記有機溶媒が、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びブチレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種の親水性有機溶媒である請求項1ないし6のいずれか一項に記載の吸収性物品用材料の製造方法。
【請求項8】
前記有機溶媒が、多価アルコールである請求項1ないし7のいずれか一項に記載の吸収性物品用材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載の製造方法によって製造された吸収性物品用材料を、風送によって搬送する工程を含む吸収性物品の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-03-15 
出願番号 特願2017-112443(P2017-112443)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B01J)
P 1 651・ 113- YAA (B01J)
P 1 651・ 121- YAA (B01J)
P 1 651・ 536- YAA (B01J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 河野 隆一朗  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 宮澤 尚之
金 公彦
登録日 2017-09-15 
登録番号 特許第6209703号(P6209703)
権利者 花王株式会社
発明の名称 吸収性物品用材料の製造方法  
代理人 特許業務法人翔和国際特許事務所  
代理人 特許業務法人翔和国際特許事務所  

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