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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C02F 審判 全部申し立て 2項進歩性 C02F 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 C02F 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 C02F |
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管理番号 | 1351413 |
異議申立番号 | 異議2018-700485 |
総通号数 | 234 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-06-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-06-13 |
確定日 | 2019-04-05 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6245444号発明「水処理剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6245444号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6245444号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本件特許第6245444号は、平成26年3月27日に出願された特願2014-67270号の特許請求の範囲に記載された請求項1ないし5に係る発明について、平成29年11月24日に設定登録、同年12月13日に登録公報の発行がされたものであり、その後、その全請求項に係る特許について、平成30年6月13日付けの特許異議の申立てが高橋勇(以下、「異議申立人」という。)よりされ、同年9月25日付けの取消理由を通知したところ、特許権者より同年11月21日付けの意見書及び訂正請求書(以下、この訂正請求による訂正を「本件訂正」といい、本件訂正による請求を「本件訂正請求」という。)が提出され、これに対して、異議申立人より同年12月28日付けの意見書が提出されたものである。 第2.本件訂正の適否についての判断 (2-1)本件訂正の内容 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「水溶性重合体と、 スルホン化ピレン系化合物とを含み、 pHが12以上に調整されている」と記載されているのを、「水溶性重合体と、 スルホン化ピレン系化合物とを含み、 前記水溶性重合体の濃度が7?25重量%に設定されており、かつ、pHが12以上に調整されている」に訂正する。(当審注:下線は、特許権者が付与した。以下、同じ。) イ 訂正事項2 願書に添付した明細書の【0009】に「水溶性重合体と、スルホン化ピレン系化合物とを含み、pHが12以上に調整されている。」と記載されているのを、「水溶性重合体と、スルホン化ピレン系化合物とを含み、水溶性重合体の濃度が7?25重量%に設定されており、かつ、pHが12以上に調整されている。」に訂正する。 (2-2)訂正事項が全ての訂正要件に適合しているか否かについて ア 訂正事項1 a 訂正の目的について 訂正事項1は、「水溶性重合体」の濃度範囲を規定することで、「水溶性重合体」を限定するものであることから、特許法第120条の5第2項但し書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 b 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項1は、請求項1を減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 c 願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてした訂正であること 訂正事項1は、願書に添付した明細書の【0028】の記載から導き出されたものであることから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 イ 訂正事項2 a 訂正の目的について 訂正事項2は、訂正事項1の訂正に伴って、特許請求の範囲と明細書の記載との整合を図るものであるので、特許法第120条の5第2項但し書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 c 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項2は、特許請求の範囲と明細書の記載との整合を図るものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 c 願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてした訂正であること 訂正事項2は、願書に添付した明細書の【0028】の記載から導き出されたものであることから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 ウ 一群の請求項についての説明 訂正前の請求項1ないし5について、請求項2ないし5はそれぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 したがって、訂正前の請求項1ないし5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 (2-3)特許出願の際に独立して特許を受けることができること 本件においては、訂正前の全ての請求項1ないし5について特許異議申立てがなされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 (2-4)小括 上記のとおり、訂正前の請求項1ないし5は、特許法第120条の5第4項の規定に適合する一群の請求項であり、本件訂正請求は、この一群の請求項1ないし5について訂正することを求めるものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合して請求されたものである。また、本件訂正は特許法第120条の5第2項但し書き1号、3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法126条第4ないし6項の規定に適合するものである。 したがって、本件訂正後の請求項〔1-5〕について訂正を認める。 第3.本件の発明について 本件の請求項1ないし5に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は、その訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりの以下のものである。 「【請求項1】 カルボン酸およびカルボン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つの単量体単位を有する水溶性重合体と、 スルホン化ピレン系化合物とを含み、 前記水溶性重合体の濃度が7?25重量%に設定されており、かつ、pHが12以上に調整されている、 水処理剤。 【請求項2】 前記スルホン化ピレン系化合物がピレンテトラスルホン酸およびピレンテトラスルホン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つである、請求項1に記載の水処理剤。 【請求項3】 ホスホン酸およびホスホン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つのホスホン酸系化合物をさらに含む、請求項1または2に記載の水処理剤。 【請求項4】 アゾ-ル系化合物をさらに含む、請求項1から3のいずれかに記載の水処理剤。 【請求項5】 前記アゾ-ル系化合物が1,2,3-ベンゾトリアゾールである、請求項4に記載の水処理剤。」 第4.当審の取消理由について (4-1)当審の取消理由1(特許法第29条第1項第3号) 取消理由通知書に記載した取消理由1(概略)は、「訂正前の本件発明1ないし4は、特表2003-532113号公報(甲第1号証)に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。」 というものである。 (4-2)当審の取消理由2(特許法第29条第2項) 取消理由通知書に記載した取消理由2(概略)は、「訂正前の本件発明1ないし4は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者であれば容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。」及び「本件発明5は、甲第1号証に記載された発明及び特開平7-308516号公報(甲第2号証)、特開2001-170687号公報(甲第5号証)の記載事項に基いて当業者であれば容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。」というものである。 第5.当審の判断 (5-1)当審の取消理由1について (5-1-1)本件発明1 ア 甲第1号証に記載の発明 甲第1号証には、これの特に【0063】からして、「水と、ホスホノブタントリカルボキシル酸(ナトリウム塩)と、ヒドロキシエチリデンジホスホリック酸(カリウム塩)と、3重量%のアクリレート/アクリルアミドポリマーと、トリルトリアゾール(ナトリウム塩)、ピレンテトラスルホン酸(ナトリウム塩)と、フルオレセインとの組み合わせであり、これは水酸化ナトリウムによってph13に調製された、冷却水処理剤。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。 イ 対比・判断 ○甲1発明の「アクリレート/アクリルアミドポリマー」、「ピレンテトラスルホン酸(ナトリウム塩)」、「ph13に調製された」及び「冷却水処理剤」は、本件発明1の「カルボン酸およびカルボン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つの単量体単位を有する水溶性重合体」、「スルホン化ピレン系化合物」、「pHが12以上に調整されている」及び「水処理剤」にそれぞれ相当する。 ○甲1発明の「との組み合わせであり」は、本件発明1の「とを含み」に相当する。 上記からして、本件発明1と甲1発明とは、「カルボン酸およびカルボン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つの単量体単位を有する水溶性重合体と、スルホン化ピレン系化合物とを含み、pHが12以上に調整されている、水処理剤」という点で一致し、 上記「水処理剤」において、本件発明1は、「水溶性重合体の濃度が7?25重量%に設定され」るのに対して、甲1発明は、3重量%のアクリレート/アクリルアミドポリマー(水溶性重合体)である点で相違している。 したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。 (5-1-2)本件発明2ないし4について 本件発明2ないし4は、本件発明1と同じく、上記「水処理剤」において、「水溶性重合体の濃度が7?25重量%に設定され」ることを発明特定事項にするものであるので、甲第1号証に記載された発明ではない。 (5-1-3)小括 上記「(5-1-1)」及び「(5-1-2)」より、取消理由通知書に記載した取消理由1に理由はない。 また、上記「(5-1-1)」及び「(5-1-2)」で示した理由と同じ理由より、異議申立書に記載した「特許法第29条第1項第3号」を根拠とする申立理由にも、理由はない。 (5-2)当審の取消理由2について (5-2-1)本件発明1 上記「(5-1-1)」で示した相違点について検討する。 甲第2号証、特表2007-535402号公報(甲第3号証)、特表2013-531705号公報(甲第4号証)、甲第5号証、特開2004-211137号公報(甲第6号証)、国際公開03/096810号(甲第7号証)は、本件請求項2、5に記載された発明特定事項に関する文献であって、これらのいずれにも、甲1発明において、ピレンテトラスルホン酸(ナトリウム塩)(スルホン化ピレン系化合物)を含んだ上で、pHを変更することなく、アクリレート/アクリルアミドポリマー(水溶性重合体)の濃度を7?25重量%にすることについて示唆するものではない。 そして、本件発明1の「日光の照射環境においてもトレーサー物質であるスルホン化ピレン系化合物が劣化しにくい」(【発明の効果】【0013】)という効果についても、甲第1号証ないし甲第7号証には、記載も示唆もない。 したがって、本件発明1は、「甲1発明及び甲第2号証、甲第5号証の記載事項、更に加えて、甲第3号証、甲第4号証、甲第6号証、甲第7号証の記載事項に基いて当業者であれば容易に発明をすることができたものである」とはいえない。 (5-2-2)本件発明2ないし4について 本件発明2ないし4は、本件発明1と同じく、「カルボン酸およびカルボン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つの単量体単位を有する水溶性重合体と、スルホン化ピレン系化合物とを含み、pHが12以上に調整されている、水処理剤」において、「水溶性重合体の濃度が7?25重量%に設定され」ることを発明特定事項にするものであるので、「甲1発明及び甲第2号証、甲第5号証の記載事項、更に加えて、甲第3号証、甲第4号証、甲第6号証、甲第7号証の記載事項に基いて当業者であれば容易に発明をすることができたものである」とはいえない。 (5-2-3)小括 上記「(5-2-1)」及び「(5-2-2)」より、取消理由通知書に記載した取消理由2に理由はない。 また、上記「(5-2-1)」及び「(5-2-2)」で示した理由と同じ理由より、異議申立書に記載した「特許法第29条第2項」を根拠とする申立理由にも、理由はない。 第6.その他 異議申立人は、平成30年12月28日付け意見書において、参考資料1ないし6(参考資料2は甲第5号証)を提出し、本件発明1ないし5は、依然として、進歩性を有するものではない旨の主張をしているところ、参考資料1ないし6には、pH12以上でカルボン酸またはその塩を単量体単位とする重合体を7重量%以上含む水処理剤について記載されているが、いずれも、トレーサー物質を含むものではなく、甲1発明において、トレーサー物質であるピレンテトラスルホン酸(ナトリウム塩)(スルホン化ピレン系化合物)を含んだ上で、pHを変更することなく、アクリレート/アクリルアミドポリマー(水溶性重合体)の濃度を7?25重量%にすることや、その効果について示唆するものとはいえない。 したがって、参考資料1ないし6を考慮したとしても、本件発明1ないし5の進歩性が否定されることにはならないというべきである。 第7.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立理由および取消理由通知書に記載した取消理由によっては、本件発明1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 水処理剤 【技術分野】 【0001】 本発明は、水処理剤、特に、カルボン酸およびカルボン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つの単量体単位を有する水溶性重合体を含む水処理剤に関する。 【背景技術】 【0002】 ボイラへの給水や冷却塔の循環冷却水などの用水として用いられる工業用水や水道水は、水質を原因とする各種の障害、例えばスケール生成、腐食およびスライム生成などを抑制するために、所要の薬剤を添加することが多い。この場合、用水は、薬剤による効果を発揮させたり、当該効果を維持したりするために、流通経路の要所において、継続的な薬剤濃度の管理が求められる。 【0003】 用水に添加した薬剤の濃度管理は、添加された薬剤そのものの濃度を測定するのが理想的であるが、薬剤の種類によっては簡便かつ迅速な濃度測定が困難な場合がある。また、数種類の薬剤が併用されることもあり、その場合は個々の薬剤濃度を正確に測定するのに困難を伴う。そこで、用水に対して薬剤とともにトレーサー物質であるリチウムの水溶性塩を添加し、用水中のリチウム濃度を測定することで薬剤の濃度管理をする方法が提案されている(例えば、特許文献1。)。 【0004】 しかし、用水中のリチウム濃度の測定は、原子吸光法などの特殊な測定方法による必要があることから、当該方法を実施するための測定装置を備えた分析室へサンプリングした用水を移送する必要がある。このため、リチウム濃度の測定による方法では、流通している用水の薬剤濃度をその場で簡便にかつ迅速に測定するのが困難である。 【0005】 一方、リチウムの水溶性塩に替えて、スルホン化ピレン系化合物をトレーサー物質として用いる薬剤濃度の測定方法が提案されている(例えば、特許文献2。)。スルホン化ピレン系化合物は、蛍光物質であることから蛍光光度計を用いた濃度測定が可能であるため、用水に添加する薬剤中に同化合物を併せて添加しておくと、用水の流通系に蛍光光度計を設置することで用水の薬剤濃度のその場測定を実現可能である。 【0006】 ところが、スルホン化ピレン系化合物は、日光の照射下において蛍光能が劣化しやすい。この傾向は、用水に添加する薬剤中にスケール抑制剤として一般的なカルボン酸やカルボン酸塩を単量体単位として有する水溶性重合体と、スルホン化ピレン系化合物とが共存する場合に加速され、より顕著になる。したがって、建物の屋外や屋上などの日光に晒される環境に設置して使用されるのが一般的な小型の冷却塔設備等において、上述の水溶性重合体を含む薬剤の用水中の濃度をスルホン化ピレン系化合物を用いて測定しようとすると、スルホン化ピレン系化合物の貯蔵部や用水への供給経路を高度に遮光しない限り、薬剤の測定結果は信頼性を欠くものになる可能性がある。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0007】 【特許文献1】特公昭55-3668号公報 【特許文献2】特表2003-532049号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明は、カルボン酸やカルボン酸塩を単量体単位として有する水溶性重合体とスルホン化ピレン系化合物とを含む水処理剤について、日光の照射環境下でのスルホン化ピレン系化合物の劣化を抑制しようとするものである。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明は水処理剤に関するものであり、この水処理剤は、カルボン酸およびカルボン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つの単量体単位を有する水溶性重合体と、スルホン化ピレン系化合物とを含み、水溶性重合体の濃度が7?25重量%に設定されており、かつ、pHが12以上に調整されている。 【0010】 ここで用いられるスルホン化ピレン系化合物は、例えば、ピレンテトラスルホン酸およびピレンテトラスルホン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つである。 【0011】 本発明の水処理剤は、ホスホン酸およびホスホン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つのホスホン酸系化合物をさらに含んでいてもよい。 【0012】 また、本発明の水処理剤は、アゾ-ル系化合物をさらに含んでいてもよい。アゾ-ル系化合物として好ましいものは、例えば、1,2,3-ベンゾトリアゾールである。 【発明の効果】 【0013】 本発明の水処理剤は、カルボン酸およびカルボン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つの単量体単位を有する水溶性重合体と、スルホン化ピレン系化合物とを含むものでありながら、pHが12以上に調整されているため、日光の照射環境においてもスルホン化ピレン系化合物が劣化しにくい。 【発明を実施するための形態】 【0014】 本発明の水処理剤は、ボイラへの給水や冷却塔の循環冷却水などの用水として用いられる工業用水や水道水またはこれらを脱気処理、軟水化処理若しくはろ過処理等した処理水に対して添加されるものであり、水溶性重合体とスルホン化ピレン系化合物とを含む。 【0015】 ここで用いられる水溶性重合体は、カルボン酸およびカルボン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つの単量体単位を有するものである。このような水溶性重合体は、所要の目的のためのもの、例えばスケール抑制剤として用いられるものであれば特に限定されるものではなく、各種のものを用いることができる。 【0016】 水溶性重合体の例としては、スケール抑制剤として利用可能な次のA群?D群に分類される化合物を挙げることができる。 〔A〕カルボン酸系ホモポリマー ◎ポリアクリル酸およびその塩 ◎ポリメタクリル酸およびその塩 ◎ポリマレイン酸およびその塩 〔B〕カルボン酸系コポリマー ◎アクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸二元共重合体 ◎アクリル酸/マレイン酸二元共重合体 ◎マレイン酸/メチルビニルエーテル二元共重合体 ◎アクリル酸/ヒドロキシプロピルアクリル酸塩二元共重合体 ◎スルホン化スチレン/無水マレイン酸二元共重合体 〔C〕カルボン酸系ターポリマー ◎マレイン酸/アクリル酸アルキルエステル/ビニルアセテート三元共重合体 ◎アクリル酸/スルホン酸/スチレンスルホン酸ナトリウム三元共重合体 ◎アクリル酸/スルホン酸/置換アクリルアミド三元共重合体 〔D〕ホスホノカルボン酸系ポリマー ◎四ナトリウムホスホノエタン-1,2-ジカルボン酸塩 ◎六ナトリウムホスホノブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸塩 【0017】 例示した水溶性重合体は、それぞれ単独で用いられてもよいし、任意の二種類以上を含む混合物(例えば、四ナトリウムホスホノエタン-1,2-ジカルボン酸塩と六ナトリウムホスホノブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸塩との混合物)として用いられてもよい。後者の場合、二種類以上の水溶性重合体は、同じ群の中から選択されたものでもよいし、異なる群から選択されたものでもよい。 【0018】 スルホン化ピレン系化合物は、蛍光物質であり、本発明の水処理剤を添加した用水に含まれる、当該水処理剤に由来の水溶性重合体や後記する他の効能成分の濃度を蛍光光度法により間接的に測定するためのトレーサー物質である。スルホン化ピレン系化合物としては、水溶性重合体および他の効能成分に対して不活性であり、水処理剤に含まれるこれらの成分のトレーサー物質として機能し得るものであれば各種のものを用いることができ、例えば、ピレンスルホン酸またはその塩を用いるのが好ましい。ピレンスルホン酸塩は、通常、ナトリウム塩などのアルカリ金属塩である。ピレンスルホン酸とその塩とは適宜併用することもできる。 【0019】 ピレンスルホン酸またはその塩は、それぞれスルホ基またはスルホン酸塩基の置換数が化学的に許容されるものであれば種類が特に限定されるものではないが、通常はスルホ基またはスルホン酸塩基が四つ置換したもの、すなわち、ピレンテトラスルホン酸またはその塩が好ましく、特に、1,3,6,8-ピレンテトラスルホン酸またはその塩(例えば、四ナトリウム塩)が好ましい。ピレンテトラスルホン酸とその塩とは適宜併用することもできる。 【0020】 本発明の水処理剤は、その使用目的に応じて、水溶性重合体およびスルホン化ピレン系化合物以外の効能成分を含んでいてもよい。例えば、水溶性重合体以外のスケール抑制剤、防食剤および殺菌剤などから選択した一種または二種以上の効能成分を含んでいてもよい。 【0021】 水溶性重合体以外のスケール抑制剤としては、例えば、ホスホン酸およびその塩(通常はアルカリ金属塩)並びに2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸等が挙げられる。このうち、水溶性重合体によるスケール抑制効果を高めることができることから、ホスホン酸およびその塩を用いるのが好ましい。 【0022】 防食剤は、水処理剤を添加する用水が流通する、銅や鋼鉄などの金属製の配管およびその他の水系の腐食を抑制するためのものであり、例えば、ピロール、ジアゾール、トリアゾール、テトラゾール、ベンゾアゾール、ベンゾジアゾール、ベンゾトリアゾールなどのアゾール系化合物、リン化合物、亜鉛化合物およびリグニン等が挙げられる。このうち、紫外線吸収能を有し、日光の照射環境下でのスルホン化ピレン系化合物の劣化を抑制可能なアゾール系化合物、特に、1,2,3-ベンゾトリアゾールを用いるのが好ましい。 【0023】 殺菌剤は、用水において雑菌が繁殖したりスライムが生成したりするのを抑制等するためのものである。殺菌剤としては、例えば、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンおよび2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオールを挙げることができる。これらの殺菌剤は、二種以上のものを併用することもできる。 【0024】 また、殺菌剤としては、本発明の水処理剤とは別の水処理剤との併用により殺菌効果を発揮する成分を用いることもできる。このような殺菌剤成分として、臭化ナトリウムが挙げられる。臭化ナトリウムを含む本発明の水処理剤は、次亜塩素酸ナトリウムを含む別の水処理剤とともに用水に対して添加したとき、用水中で次亜臭素酸を発生し、それによって殺菌能を発揮する。 【0025】 さらに、本発明の水処理剤および当該水処理剤と併用することで殺菌効果を発揮する別の水処理剤は、各種の添加剤、例えば、硝酸マグネシウムや塩化マグネシウム等の安定剤、界面活性剤および溶剤等を含んでいてもよい。 【0026】 本発明の水処理剤は、水溶性重合体およびスルホン化ピレン系化合物並びに他の効能成分を混合することで得られる液状のもの、または、所要の成分を水またはアルコール類等の水溶性有機溶剤に溶解した溶液として提供されるが、pHが12以上に調整されている。このpH調整により、水処理剤に含まれるスルホン化ピレン系化合物は、日光の照射環境下においても劣化が抑制され、蛍光能を比較的安定に維持し得る。 【0027】 水処理剤のpHは、通常、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物の水溶液を添加することで調整することができる。 【0028】 本発明の水処理剤において、水溶性重合体の濃度は、通常、1?25重量%になるよう設定するのが好ましく、7?20重量%になるよう設定するのがより好ましい。また、スルホン化ピレン系化合物の含有量は特に限定されるものではないが、通常は100?1,000mg/kgになるよう設定するのが好ましい。 【0029】 本発明の水処理剤の組成として好ましいものの例は表1の通りである。 【0030】 【表1】 【0031】 本発明の水処理剤は、ボイラの給水や冷却塔の循環冷却水などの用水に添加すると、水溶性重合体がスケール抑制剤等として機能し、また、その他の効能成分を含む場合は当該効能成分が所要の機能を発揮する。用水に添加された水処理剤の濃度は、水処理剤に含まれるトレーサー物質であるスルホン化ピレン系化合物による蛍光強度を蛍光光度計で測定し、その結果に基づいて算出することができる。ここで、本発明の水処理剤は、日光の照射環境下で貯蔵したり用水に供給されたりするような場合であっても、pHが12以上に調整されていることからスルホン化ピレン系化合物が劣化しにくく、効能成分の濃度測定結果の信頼性を高めることができる。 【0032】 なお、表1に示した例の水処理剤は、スケールおよび腐食の抑制を殺菌から独立してコントロールできるようにするために殺菌剤を含むものではないことから、殺菌用に特化した別の水処理剤と併用して用いることができる。併用可能な殺菌用水処理剤の組成として好ましいものの例は表2の通りである。表2の例3の殺菌用水処理剤は、表1の例3の水処理剤とは別に用水に対して添加されたとき、用水中で当該水処理剤の臭化ナトリウムと反応することで次亜臭素酸を発生し、殺菌能を発揮する。 【0033】 【表2】 【実施例】 【0034】 実施例1並びに比較例1および比較例2 純水にポリマレイン酸(BWA社の商品名「ベルクリン200LA」)を加えて溶解し、水溶液(ポリマレイン酸濃度:20重量%)を調製した。この水溶液に対し、含有量が約100mg/kgになるよう1,3,6,8-ピレンテトラスルホン酸四ナトリウム塩(関東化学株式会社販売のACROS社製品)を添加し、試験用水溶液を調製した。そして、製造直後のこの試験用水溶液について、分光蛍光光度計(日立ハイテック株式会社の型番「F-2700」)を用いて385nmの蛍光波長の蛍光強度(以下、「基準蛍光強度」という。)を測定した。 【0035】 試験用水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を添加することで、pHを12.2に調整した試験用水処理剤(実施例1)を調製した。同様にして、pHを10.8に調整した試験用水処理剤(比較例1)と、pHを6.4に調整した試験用水処理剤(比較例2)とを調製した。実施例1、比較例1および比較例2の試験用水処理剤をそれぞれ別々の透明のガラス瓶に入れて晴天時の屋外に放置することで直射日光に曝露させ、曝露開始から1時間後に100mgの試料を採取した。この試料を約1,000倍に希釈して385nmの蛍光波長の蛍光強度を測定し、基準蛍光強度に対する蛍光強度の残存率(測定した蛍光強度/基準蛍光強度×100:単位%)を求めた。 【0036】 実施例1の試験用水処理剤の残存率は、71.8%であった。一方、比較例1および2の試験用水処理剤の残存率は、それぞれ、68.9%および66.2%であった。 【0037】 実施例2 純水48.2重量%、ポリマレイン酸(BWA社の商品名「ベルクリン200LA」)20.0重量%、1,2,3-ベンゾトリアゾール(BWA社の商品名「ベルクリン510」)1.0重量%、水酸化カリウム10.2重量%および水酸化ナトリウム19.6重量%を含む水溶液を調製した。この水溶液に対して1,3,6,8-ピレンテトラスルホン酸四ナトリウム塩(関東化学株式会社販売のACROS社製品)を含有量が106mg/kgになるよう添加し、pHが12.0の水処理剤を得た。そして、製造直後の水処理剤の基準蛍光強度を測定した。 【0038】 水処理剤を透明のガラス瓶に入れて晴天時の屋外に放置することで直射日光に曝露させ、曝露開始から1時間後に100mgの試料を採取した。この試料を約1,000倍に希釈して385nmの蛍光波長の蛍光強度を測定し、基準蛍光強度に対する蛍光強度の残存率を求めたところ、77.7%であった。 【0039】 評価 実施例1,2の水処理剤は、pHが12以上であることから、日光の照射環境下でのスルホン化ピレン系化合物の残存率(曝露開始から1時間後の蛍光強度の残存率)が70%以上に確保されている。ボイラへの給水や冷却塔の循環冷却水などの用水へ水処理剤を供給するための供給装置は、通常、薬液タンクの液面計や薬注ホース等、部分的に透明または半透明の材料を使用されることがあり、これらの部位を完全に遮光するのは困難な場合があるが、このような場合であっても、実施例1、2の水処理剤は、スルホン化ピレン系化合物の劣化が抑えられる。したがって、実施例1、2の水処理剤を用いれば、消費された水処理剤を供給装置に補充する間隔(通常、夏場で2?7日程度。)において、用水に添加した水処理剤の濃度管理を安定に実施することができる。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 カルボン酸およびカルボン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つの単量体単位を有する水溶性重合体と、 スルホン化ピレン系化合物とを含み、 前記水溶性重合体の濃度が7?25重量%に設定されており、かつ、pHが12以上に調整されている、 水処理剤。 【請求項2】 前記スルホン化ピレン系化合物がピレンテトラスルホン酸およびピレンテトラスルホン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つである、請求項1に記載の水処理剤。 【請求項3】 ホスホン酸およびホスホン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つのホスホン酸系化合物をさらに含む、請求項1または2に記載の水処理剤。 【請求項4】 アゾ-ル系化合物をさらに含む、請求項1から3のいずれかに記載の水処理剤。 【請求項5】 前記アゾ-ル系化合物が1,2,3-ベンゾトリアゾールである、請求項4に記載の水処理剤。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-03-25 |
出願番号 | 特願2014-67270(P2014-67270) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(C02F)
P 1 651・ 851- YAA (C02F) P 1 651・ 121- YAA (C02F) P 1 651・ 853- YAA (C02F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 佐々木 典子 |
特許庁審判長 |
大橋 賢一 |
特許庁審判官 |
山崎 直也 豊永 茂弘 |
登録日 | 2017-11-24 |
登録番号 | 特許第6245444号(P6245444) |
権利者 | 三浦工業株式会社 |
発明の名称 | 水処理剤 |
代理人 | 市川 恒彦 |
代理人 | 市川 恒彦 |