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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C04B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C04B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C04B |
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管理番号 | 1351422 |
異議申立番号 | 異議2018-700360 |
総通号数 | 234 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-06-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-04-27 |
確定日 | 2019-04-05 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6226010号発明「セメント組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6226010号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第6226010号の請求項1?3に係る特許を維持する。 特許第6226010号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6226010号の請求項1?4に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2016年(平成28年) 3月23日に出願され、平成29年10月20日に特許権の設定登録がされ、同年11月 8日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、平成30年 4月27日に特許異議申立人 天野 景昭(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年 9月 4日付けで取消理由が通知され、同年11月 2日に意見書の提出及び訂正の請求がされ、その訂正の請求に対して、同年 12月11日に申立人から意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 平成30年11月 2日付けの訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下のとおりである(下線部は、訂正箇所)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「・・・SO_(3)換算で1.5?2.2質量%である、セメント組成物。」 と記載されているのを、 「・・・SO_(3)換算で1.5?2.2質量%であり、ブレーン比表面積が4000?5000cm^(2)/gである、セメント組成物。」 に訂正する(請求項1を引用する請求項2?4も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項4を削除する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の有無 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「セメント組成物」について、「ブレーン比表面積が4000?5000cm^(2)/gである」との発明特定事項を備えさせるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 当該訂正事項は、本件明細書の段落【0032】に記載され、訂正前の請求項4にも記載されていた事項でもあるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 一群の請求項について 上記訂正事項1、2に係る訂正前の請求項1?4は、請求項2?4が、直接又は間接的に請求項1を引用する関係にあるから、一群の請求項であり、上記訂正事項1、2は、この一群の請求項について請求されたものである。 4 独立特許要件について 全請求項に係る特許について特許異議の申立てがされたので、訂正後の請求項に係る発明について、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の独立特許要件についての規定は適用はされない。 5 訂正の適否についてのむすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 1 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?3に係る発明(請求項1?3に係る発明を、それぞれ「本件発明1」?「本件発明3」といい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(下線部は、訂正箇所)。 なお、請求項4に係る発明は、本件訂正請求による訂正により存在しないものとなった。 【請求項1】 セメント組成物中のSO_(3)量が2.8?3.5質量%であり、セメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO_(3)量が0.43?1.3質量%であり、かつ、半水石膏の含有量がSO_(3)換算で1.5?2.2質量%であり、ブレーン比表面積が4000?5000cm^(2)/gである、セメント組成物。 【請求項2】 ボーグ式で算出されるC_(3)Sが45?75質量%、C_(2)Sが5?30質量%、C_(3)Aが5?15質量%、及びC_(4)AFが5?15質量%である、請求項1に記載のセメント組成物。 【請求項3】 セメント組成物に添加されたSO_(3)換算の石膏配合量を差し引いたセメント組成物中のSO_(3)量が0.8?1.2質量%である請求項1又は2に記載のセメント組成物。 第4 特許異議の申立ての理由及び証拠方法について 1 申立ての理由について 申立人は、証拠方法として甲第1号証?甲第7号証(以下、「甲1」?「甲7」という。)を提出し、本件特許は、以下の申立理由1?3により取り消すべきものである旨主張している。 (1)申立理由1(特許法第29条第1項第3号) 訂正前の請求項1?3に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 (2)申立理由2(特許法第29条第2項) 訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲1?甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 (3)申立理由3(特許法第36条第6項第1号) 訂正前の請求項1?4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。 2 証拠方法 申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。 甲1:三隅英俊 他、「高SO_(3)・高C_(4)AFクリンカーを使用したセメントおよびコンクリートの物性」、セメント・コンクリート論文集、2010年2月25日、p.135?141、No.63、2009 甲2:特開2004-196624号公報 甲3:松久真人 他、「セメントのキャラクターがβ-ナフタレンスルホン酸系またはポリカルボン酸系混和剤を添加したセメントペーストの流動性に及ぼす影響」、コンクリート工学年次論文報告集、1998年6月30日、p.67?72、第20巻、第2号 甲4:特開平11-302062号公報 甲5:加藤弘義 他、「ポリカルボン酸系高性能AE減水剤の吸着特性および立体障害効果に与える硫酸イオンの影響」、材料、2000年9月15日、p.1036?1041、Vol.49、No.9 甲6:特開2000-281416号公報 甲7:山田一夫 他、「風化によるセメントの水和活性の変化と偽凝結現象」、コンクリート工学論文集、1998年7月17日、p.91?99、第9巻、第2号 第5 取消理由について 平成30年 9月 4日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 訂正前の請求項1?3に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、または、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 第6 当審の判断 1 取消理由についての判断 (1)本件発明1について ア 甲1の記載事項 1a「2.実験 2.1 実機によるセメントの試製 クリンカーのSO_(3)量を0.5%、C_(4)AF量を10%としたクリンカー(以下、比較クリンカー)および比較クリンカーよりもSO_(3)量を約0.7%、C_(4)AF量を1.2%増した高SO_(3)・高C_(4)AFクリンカーを製造した。 実機試製した比較クリンカーおよび高SO_(3)・高C_(4)AFクリンカーは実機ミルにより仕上げ粉砕した。Table1に実機試製したセメントの分析値を示す。比較クリンカーは、セメントのSO_(3)量が2.0%となるように、また、高SO_(3)・高C_(4)AFクリンカーはセメントのSO_(3)量が2.0、2.5および3.5%となるようにセッコウ添加量を調整した。 ・・・ また、いずれのセメントも、ブレーン比表面積は3200±100cm^(2)/g、セッコウの半水化率は70±5%であった。なお、試製クリンカーおよびセメントの化学組成はJIS R 5204:2004「セメントの蛍光X線分析方法」により求めた。また、水溶性アルカリ(ws-Na_(2)O_(eq))量は、JCAS I-04:2004「セメントの水溶性成分の分析方法」により、ブレーン比表面積は、JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」により測定した。 セメントの半水化率は、熱重量分析(25?300℃、昇温速度5℃/min)により求めた。」(135ページ右欄4行?136ページ左欄1行) 1b「 」 (136ページ) 上記Table1には、「F-1.2-3.5」のセメントは、SO_(3)量が3.5%、アルカリ量ws-Na_(2)O_(eq)が0.33%、ブレーン比表面積が3130cm^(2)/g、及び半水化率が66%であることが記載されている。 イ 甲1に記載された発明 記載事項1a、1bによると、甲1には、SO_(3)量が1.2%の高SO_(3)・高C_(4)AFクリンカーにセッコウを添加してSO_(3)量を3.5%に調整し、ブレーン比表面積を3130cm^(2)/gとしたセメント「F-1.2-3.5」が記載されている。 記載事項1bによると、当該セメントに含有されるアルカリ量ws-Na_(2)O_(eq)は0.33%であるから、クリンカーに含まれるアルカリによるSO_(3)量を、次の式 クリンカーに含まれるアルカリによるSO_(3)量%=クリンカーに含まれる水溶性アルカリ量(R_(2)O)%×SO_(3)(g/mol)/R_(2)O(g/mol)=R_(2)O%×80/62 により計算すると、0.43%となる。 また、上記セメントに含まれるセッコウ量は、SO_(3)として、3.5-1.2=2.3%であり、半水化率が66%であるから、半水セッコウの量は、SO_(3)として2.3×0.66=1.5%となる。 そうすると、甲1には、セメント「F-1.2-3.5」に注目すると、 「セメント中のSO_(3)量が3.5%であり、クリンカーに含まれるアルカリによるSO_(3)量が0.43%であり、かつ、半水セッコウがSO_(3)量として1.5%であり、ブレーン比表面積が3130cm^(2)/gである、セメント。」 の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 ウ 対比・判断 (ア)発明の対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「セメント」、「クリンカー」、「半水セッコウ」及び「ブレーン比表面積」は、本件発明1の「セメント組成物」、「セメントクリンカー」、「半水石膏」及び「ブレーン比表面積」にそれぞれ相当する。 また、甲1発明の「%」は、本件発明1の「質量%」に相当することは明らかである。 さらに、甲1発明の「クリンカーに含まれるアルカリによるSO_(3)量」は、本件発明1の「セメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO_(3)量」に相当する。 そうすると、甲1発明に係るセメントは、本件発明1で特定する「セメント組成物中のSO_(3)量」、「セメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO_(3)量」、及びSO_(3)換算の「半水石膏の含有量」の値を充足しているしているから、本件発明1と甲1発明とは、次の点でのみ相違している。 (相違点) 本件発明1は、ブレーン比表面積が4000?5000cm^(2)/gであるのに対し、甲1発明は、ブレーン比表面積が3130cm^(2)/gである点。 (イ)判断 上記相違点は、本件発明1と甲1発明との実質的な相違点であるといえるから、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。 次に、甲1発明において、甲1発明のブレーン比表面積3130cm^(2)/gに替えて、ブレーン比表面積4000?5000cm^(2)/gに設定することについて、当業者が容易になし得るものであるのかどうかについて検討する。 申立人は、上記ブレーン比表面積の相違点について、特許異議申立書において「セメント組成物の流動性の向上等の観点から、セメント組成物のブレーン比表面積を4000?5000cm^(2)/gに調整することは、当業者が適宜なし得る」ことであり、また、平成30年12月11日付けの意見書において、下記参考資料等を添付して、上記の下線を付した箇所は、当業界の技術常識であるから、甲1発明において、早期強度発現性を向上させるために、セメントのブレーン比表面積を4000cm^(2)/g以上に定め、かつ、流動性の低下を避けるために、セメントのブレーン比表面積を5000cm^(2)/g以下に定めることによって、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと主張している。 参考資料1:「コンクリート総覧」1998年10月、18、19ページ 参考資料2:特開平8-198646号公報 参考資料3:特開2012-25635号公報 ・特開2006-137630号公報(意見書4ページで引用) ・特開2014-24691号公報(意見書5ページで引用) ・特開2010-18496号公報(意見書5ページで引用) ここで、上記参考資料1には、次の記載がある。 「粉末度(fineness) 意義:セメント硬化体の強度は、粒子間空げきの水和生成物による充填に伴い増加する。したがって、水硬性を有するクリンカー鉱物の粉末度(細かさ)が高いほど水との接触面積が大きくなることから,粉末度はセメントの水和反応性に大きな影響を及ぼしている。 一般に,セメントの粉末度が高いほど水和速度は増加し,初期の強度発現性は向上する^(3))。反面,初期水和反応性の増加に伴い,セメントの流動性の低下,乾燥収縮の増大,混和剤吸着量の増加といったマイナス面を生じるため,セメント製造に際しては,各セメントの用途に応じてセメントの粉末度が調整されている。」(18ページ下から9行?下から2行) 「比表面積(specific surface area) 意義:比表面積は,粉体粒子の細かさを表す尺度として広く用いられており,セメントにおいても粉末度を表す指標の一つとして用いられている。セメントの水和がセメント粒子表面と水との反応によって進行することから,比表面積は,セメントの水和反応性を示す尺度としても用いられている。」(19ページ7行?10行) 一方、甲1には、参考資料1に記載されたセメントの粉末度(比表面積)が影響すると考えられるセメント及びコンクリートの物性(セメントの凝結時間、コンクリートの凝結・硬化特性、コンクリートの流動性等)について試験され、その結果が記載されている。 しかし、甲1は、実機試製した普通セメント及びコンクリートの物性において、高SO_(3)・高C_(4)AFクリンカーを使用した場合のSO_(3)量の増加による影響を検討した文献であって、甲1の記載事項1bによると、甲1発明のブレーン比表面積は、比較対象となる他の組成物と同等になるように調整されているものと認められる。 そうすると、上記参考資料1にあるように、セメント粉末の比表面積を、早期強度向上のために調整することが技術常識であり、また、他の参考文献等にあるように、ブレーン比表面積が4000?5000cm^(2)/gのセメント組成物は周知であったとしても、SO_(3)量の影響を確認することを目的とする甲1発明において、ブレーン比表面積を他のセメント組成物と異なる4000?5000cm^(2)/gの範囲に調整することには阻害要因がある。 また、甲1及び上記参考資料には、ブレーン比表面積を増加させた場合において、保存後の流動性が高いという本件発明1の効果について記載も示唆もない。 よって、本件発明1は、甲1発明並びに甲1に記載された技術事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本件発明2、3について 本件発明2、3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様に、甲1に記載された発明とはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2 取消理由に採用しなかった特許異議申立理由についての判断 取消理由に採用しなかった申立理由2、3について検討する。 (1)申立理由2について 上記取消理由についての判断「1(1)ウ(イ)」で検討したとおり、甲1発明において、ブレーン比表面積を4000?5000cm^(2)/gに調整することは阻害要因があるから、甲2、甲3の記載を参照しても、本件発明1及びこれに従属する本件発明2、3は、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 したがって、申立理由2は理由がない。 (2)申立理由3について ア 申立人は、本件明細書には、実施例として、セメント組成物に対して、リグニンスルホン酸化合物とポリカルボン酸エーテルの複合体を主成分とする高性能AE減水剤を使用したことが記載されているのみであり、セメント組成物に添加されるセメント分散剤の種類及び量と、硫酸アルカリ金属塩の量によって、セメント組成物の流動性は大きく変化すると考えられるところ、硫酸アルカリ金属塩の量を大きくすると、甲3ないし甲5にはポリカルボン酸系セメント分散剤を使用した場合、及び甲6にはメラミンスルホン酸系セメント分散剤を使用した場合、それぞれセメント組成物の流動性が低下することが記載されているから、他のセメント分散剤を用いた場合やセメント分散剤を用いない場合において、本発明の効果を奏するとはいえないから、訂正前の請求項1?4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないと主張している。 しかし、本件発明は「流動性を改善し、保存状態に関わらず流動性の低下を抑制し得る、セメント組成物を提供する」(本件明細書段落【0010】)という課題のもと、実施例において、保存の前後におけるセメントペーストの流動性を比較するものであるから、試験にあたっては、共通する混和剤等を用いて試験条件を同一にして実験すればよいことが理解できる。 また、甲3?甲6は、フレッシュコンクリートの流動性について論じたものであるから、本件発明の実施例の保存前後の流動性とは評価対象が異なるため、本件発明がサポート要件を満たしていないことの根拠にはならない。 イ 申立人は、甲7には、セメントを20℃、相対湿度80%で風化させた場合、半水石膏が水和して二水石膏が大量に生成され凝結やこわばりが起こりやすくなり、また、硫酸アルカリが多いセメントほど偽凝結が起こりやすいことが記載されているのに対し、本件特許発明1は、硫酸アルカリ金属塩に由来するSO_(3)量及び半水石膏量の含有量を大きくするものであって、本件明細書には、セメント組成物の流動性の評価を行う際に、60?80℃の温度下で相対湿度40%の条件で保存したことが記載されているのみであり、常温(例えば、20℃)でセメント組成物を保存した場合において、本件発明の効果を奏するとはいえないから、保存状態について特定されていない訂正前の請求項1?4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないと主張している。 しかし、甲7は、湿潤雰囲気における曝露という不適切な保管条件を模擬し、実験室的に偽凝結を再現して解析したものであるから、その解析結果を、湿気を避けて保存した場合の風化を課題とする本件発明に適用することはできない。 また、甲7において試験されたセメントは、セメントに含まれるSO_(3)量が本件発明とは異なり、本件発明のように、セメント組成物中のセメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO_(3)量を考慮して、セメント組成物に添加される半水石膏量が特定量になるように制御する(本件明細書段落【0016】、【0024】)ものでもないから、甲7の記載を根拠として、本件発明において、セメントの保存温度の特定が必要であるとまではいえない。 そして、本件明細書の段落【0009】によると、セメント組成物は通常の保存形態において温度の上昇に伴って二水石膏が脱水し風化が進行することが記載され、本件発明の実施例は、通常の保存により起こるセメント組成物に含まれる二水石膏の脱水を加速試験するために、保存試験の温度を高温にしているといえるから、本件発明は、実施例のセメントの保存温度のみでその効果を発揮するというものではない。 したがって、申立理由3に理由はない。 3 申立人の意見について 申立人は、平成30年12月11日付け意見書において、訂正後の本件特許は、依然として特許法第29条第2項(進歩性)及び特許法第36条第6項第1号(サポート用件)の規定に違反すると主張しているが、前者については、取消理由についての判断「1(1)ウ(イ)」で検討したとおりであり、また、後者については、取消理由に採用しなかった特許異議申立理由についての判断「2(2)イ」で検討したとおりであるから、いずれも採用できない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、請求項4に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項4に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 セメント組成物中のSO_(3)量が2.8?3.5質量%であり、セメントクリンカーに含まれる硫酸アルカリ金属塩に由来するSO_(3)量が0.43?1.3質量%であり、かつ、半水石膏の含有量がSO_(3)換算で1.5?2.2質量%であり、ブレーン比表面積が4000?5000cm^(2)/gである、セメント組成物。 【請求項2】 ボーグ式で算出されるC_(3)Sが45?75質量%、C_(2)Sが5?30質量%、C_(3)Aが5?15質量%、及びC_(4)AFが5?15質量%である、請求項1に記載のセメント組成物。 【請求項3】 セメント組成物に添加されたSO_(3)換算の石膏配合量を差し引いたセメント組成物中のSO_(3)量が0.8?1.2質量%である請求項1又は2に記載のセメント組成物。 【請求項4】(削除) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-03-27 |
出願番号 | 特願2016-58484(P2016-58484) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(C04B)
P 1 651・ 537- YAA (C04B) P 1 651・ 121- YAA (C04B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小野 久子 |
特許庁審判長 |
大橋 賢一 |
特許庁審判官 |
小川 進 後藤 政博 |
登録日 | 2017-10-20 |
登録番号 | 特許第6226010号(P6226010) |
権利者 | 住友大阪セメント株式会社 |
発明の名称 | セメント組成物 |
代理人 | 大谷 保 |
代理人 | 大谷 保 |