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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1351427
異議申立番号 異議2017-701222  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-06-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-12-21 
確定日 2019-04-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6151423号発明「メタクリル系樹脂組成物及び光学部品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6151423号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第6151423号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6151423号の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成28年11月24日(優先権主張 平成28年8月30日)に出願されたものであって、平成29年6月2日にその特許権の設定登録がされ、同年6月21日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、同年12月21日に特許異議申立人 高瀬彌平(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の経緯は、以下のとおりである。

平成30年 1月31日 上申書(申立人)
同年 4月23日付け 取消理由通知
同年 6月26日 意見書(乙第1号証を添付)、訂正請求書
同年 7月10日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知)
同年 8月10日 意見書(申立人)(甲第18号証を添付)
同年 9月5日付け 訂正拒絶理由通知
同年10月5日 意見書、手続補正書
同年11月 8日 上申書(申立人)
同年11月12日付け 取消理由通知(決定の予告)
平成31年 1月15日 意見書、訂正請求書(特許権者)
同年 1月24日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知)
同年 2月25日 意見書(申立人)
(甲第19号証、20号証を添付)

なお、平成30年6月26日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。

申立人の提示した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:特開2014-28956号公報
甲第2号証:特開2014-71251号公報
甲第3号証:特開平9-324016号公報
甲第4号証:特開平9-151218号公報
甲第5号証:特開2015-135355号公報
甲第6号証:特開2001-151814号公報
甲第7号証:特開2005-281589号公報
甲第8号証:特開平8-302145号公報
甲第9号証:田所宏行「高分子のmicrotacticity」、高分子、11巻(1962)、6号、398-408頁
甲第10号証:特公平6-89054号公報
甲第11号証:特開2015-108161号公報
甲第12号証:特開2001-233919号公報
甲第13号証:特開2014-98117号公報
甲第14号証:国際公開第2015/079694号
甲第15号証:特開2013-136774号公報
甲第16号証:特開2008-191426号公報
甲第17号証:特開2014-80525号公報

特許権者が、平成30年6月26日提出の意見書に添付した乙第1号証、申立人が、平成30年8月10日提出の意見書に添付した甲第18号証、及び申立人が、平成31年2月25日提出の意見書に添付した甲第19、20号証は、以下のとおりである。

乙第1号証:特開2010-211977号公報
甲第18号証:国際公開第2013/005634号
甲第19号証:特開2014-80525号公報
甲第20号証:特開2016-93959号公報

以下、「甲第1号証」?「甲第20号証」を、順に、「甲1」?「甲20」ということがある。

第2 平成31年1月15日提出の訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)について

1 訂正の内容
本件訂正請求は、本件特許の明細書、特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1
明細書の【発明の名称】に、「メタクリル系樹脂組成物、光学フィルム、及び光学部品」と記載されているのを、「メタクリル系樹脂組成物及び光学部品」に訂正する。

(2)訂正事項2
明細書の【0001】に、「メタクリル系樹脂組成物、光学フィルム、及び光学部品」と記載されているのを、「メタクリル系樹脂組成物及び光学部品」に訂正する。

(3)訂正事項3
明細書の【0015】に、「[7] [1]?[6]のいずれかに記載のメタクリル系樹脂組成物を含み、表裏面の少なくとも一方の面の少なくとも一部にエンボス部を有する、ことを特徴とする光学フィルム。」と記載されているのを、「[7] [1]?[6]のいずれかに記載のメタクリル系樹脂組成物を含み、表裏面の少なくとも一方の面の少なくとも一部にエンボス部を有する、ことを特徴とする光学部品。」に訂正する。

(4)訂正事項4
明細書の【0160】に、「得られたペレット状の組成物(2)における組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.3質量%、7.9質量%、10.8質量%であった。また、重量平均分子量(Mw)は157,000、立体規則性の指標であるS/Hは1.25であった。」と記載されているのを、「得られたペレット状の組成物(2)における組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.3質量%、7.9質量%、10.8質量%であった。また、重量平均分子量(Mw)は157,000、立体規則性の指標であるS/Hは1.19であった。」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の【請求項7】に、「請求項1?6のいずれか1項に記載のメタクリル系樹脂組成物を含み、表裏面の少なくとも一方の面の少なくとも一部にエンボス部を有する、ことを特徴とする光学フィルム。」と記載されているのを、「請求項1?6のいずれか1項に記載のメタクリル系樹脂組成物を含み、表裏面の少なくとも一方の面の少なくとも一部にエンボス部を有する、ことを特徴とする光学部品。」に訂正する。

本件訂正前の請求項2ないし8は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから一群の請求項であり、本件訂正請求は、一群の請求項〔1-8〕に対して請求されたものである。

2 訂正の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項5について
訂正前の請求項7には「光学フィルム。」とあり、請求項8には「光学フィルムである、請求項7に記載の光学部品。」とあったから、訂正前の請求項7における「光学フィルム。」は、「光学部品。」の誤記であったことは明らかである。
よって、訂正事項5は、誤記の訂正を目的とするものであって、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項1ないし3は、訂正事項5により訂正された請求項7に、【発明の名称】、【0001】及び【0015】の記載を整合させるためのものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであって、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項4について
本件特許明細書の表1(【0182】)には、樹脂として製造例2の樹脂のみを用いた「比較例1」の樹脂組成物の「S/H」が「1.19」であることが記載されている。ここで、当該「比較例1」の樹脂組成物は、「S/H」のみが、訂正前の請求項1の範囲から外れるものである。
また、表1から、組成物の「S/H」は、大概、樹脂が単独の場合には樹脂の「S/H」と一致し、樹脂が複数の場合は各樹脂成分の「S/H」の加重平均と一致することがみてとれる。
そうすると、製造例2の樹脂の「S/H」の「1.25」は、「1.19」の誤記であったことは明らかである。
よって、訂正事項4は、誤記の訂正を目的とするものであって、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 小括
よって、上記訂正事項1ないし5は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第2号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正を認める。

第3 本件発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正は認められたので、特許第6151423号の請求項1ないし8に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明8」という。また、これらを総称して、「本件発明」ということがある。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。

【請求項1】
N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種である主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物であり、
ビカット軟化温度が120?160℃の範囲にあり、
^(1)H-NMRを用いて求めた、メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位におけるヘテロタクチック部(mr)の積分強度(H)に対するシンジオタクチック部(rr)の積分強度(S)の比(S/H)が1.20?1.50の範囲にあり、
メタノール可溶分の量が、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して、5質量%以下である
ことを特徴とする、メタクリル系樹脂組成物。
【請求項2】
GPCによる測定されるポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量(Mw)が、120,000?200,000である請求項1に記載のメタクリル系樹脂組成物
【請求項3】
前記(X)構造単位が、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を含み、
前記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位の含有量が、前記メタクリル系樹脂を100質量%として、5?40質量%である、請求項1又は2に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項4】
前記(X)構造単位が、ラクトン環構造単位を含み、
前記ラクトン環構造単位の含有量が、前記メタクリル系樹脂を100質量%として、5?40質量%である、請求項1又は2に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項5】
光弾性係数の絶対値が、2.0×10^(-12)Pa^(-1)以下である、請求項1?4のいずれか1項に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項6】
光弾性係数の絶対値が、1.0×10^(-12)Pa^(-1)以下である、請求項5に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1?6のいずれか1項に記載のメタクリル系樹脂組成物を含み、表裏面の少なくとも一方の面の少なくとも一部にエンボス部を有する、ことを特徴とする光学部品。
【請求項8】
光学フィルムである、請求項7に記載の光学部品。

第4 当審の判断
1 平成30年11月12日付け取消理由通知書(決定の予告)(以下、「決定の予告」という。)で通知した取消理由について

(1)決定の予告において、当審が、請求項1ないし8に係る特許に関し、通知した取消理由の要旨は次のとおりである。

<取消理由1> 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、甲第1ないし6号証に記載された発明並びに甲第1ないし3、8号証の何れかに記載された事項及び周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

<取消理由2> 本件特許は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(2)取消理由1についての当審の判断

ア 取消理由1は、具体的には、以下のとおりのものである。

(ア)本件発明1?3、5、6は、甲1に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明7、8は、甲1に記載された発明、並びに、甲1ないし3、甲8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、

(イ)本件発明1、2、4、7、8は、甲2に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、

(ウ)本件発明1、3は、甲3に記載された発明、並びに、甲1、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、

(エ)本件発明1、3は、甲4に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、

(オ)本件発明1、3は、甲5に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明7、8は、甲5に記載された発明、並びに、甲2、3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、

(カ)本件発明1、2、4は、甲6に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、
これらの発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(以下、上記(ア)?(カ)に係る取消理由を、順に、「取消理由1-(ア)」等という。)

イ 取消理由1-(ア)ないし1-(カ)についての検討
(ア)取消理由1-(ア)について
a 甲1には、特許請求の範囲から、以下の発明が記載されていると認められる。
「式(1)で表されるメタクリレート単量体由来の繰り返し単位(X)50?95質量%と、式(2)で表されるN-置換マレイミド単量体(a)由来の繰り返し単位(Y1)0.1?20質量%と、式(3)で表されるN-置換マレイミド単量体(b)由来の繰り返し単位(Y2)0.1?49.9質量%とを含有し、繰り返し単位(X)、繰り返し単位(Y1)及び繰り返し単位(Y2)の合計量が100質量%である、アクリル系熱可塑性樹脂であって、光弾性係数(C)の絶対値が、3.0×10^(-12)Pa^(-1)以下であり、ハロゲン原子の含有率が、当該アクリル系熱可塑性樹脂の質量を基準として0.47質量%未満であり、ガラス転移温度(Tg)が120℃以上である、アクリル系熱可塑性樹脂。

(式中:R^(1)は、水素原子、直鎖状または分岐状の炭素数1?12のアルキル基、炭素数5?12のシクロアルキル基、炭素数6?14のアリール基、及び置換基を有する炭素数6?14のアリール基からなる群から選ばれるいずれかの化学基であり、同一分子中のR^(1)は同一でも異なっていてもよく、アリール基の置換基は、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、直鎖状又は分岐状の炭素数1?12のアルコキシ基、及び直鎖状又は分岐状の炭素数1?12のアルキル基からなる群から選ばれるいずれかである。)

(式中:R^(2)は、炭素数6?14のアリール基、又は置換基を有する炭素数6?14のアリール基を表し、同一分子中のR^(2)は同一でも異なっていてもよく、アリール基の置換基は、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、直鎖状又は分岐状の炭素数1?12のアルコキシ基、及び直鎖状又は分岐状の炭素数1?12のアルキル基からなる群から選ばれるいずれかである。)

(式中:R^(3)は、水素原子、炭素数1?12の直鎖状または分岐状のアルキル基、置換基を有する炭素数1?12のアルキル基、及び炭素数3?12のシクロアルキル基からなる群から選ばれるいずれかの化学基であり、同一分子中のR^(3)は同一でも異なっていてもよく、アルキル基の置換基は、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、及び直鎖状又は分岐状の炭素数1?12のアルコキシ基からなる群から選ばれるいずれかである。)」(以下、「甲1発明」という。)

b 対比・判断
(a)本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「式(2)で表されるN-置換マレイミド単量体(a)由来の繰り返し単位(Y1)」、及び「式(3)で表されるN-置換マレイミド単量体(b)由来の繰り返し単位(Y2)」はいずれも、本件発明1の「N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種である主鎖に環構造を有する構造単位(X)」に相当する。
してみると、本件発明1と甲1発明は、
「N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種である主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1-1> 本件発明1は、「メタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物」であるのに対して、甲1発明は、「アクリル系熱可塑性樹脂」である点。

<相違点2-1>
本件発明1では、「ビカット軟化温度が120?160℃の範囲」と特定するのに対し、甲1発明では、アクリル系熱可塑性樹脂の「ガラス転移温度(Tg)が120℃以上」と特定している点。

<相違点3-1>
本件発明1では、「^(1)H-NMRを用いて求めた、メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位におけるヘテロタクチック部(mr)の積分強度(H)に対するシンジオタクチック部(rr)の積分強度(S)の比(S/H)が1.20?1.50の範囲」と特定するのに対し、甲1発明では、このような特定はない点。

<相違点4-1>
本件発明1では、「メタノール可溶分の量が、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して、5質量%以下である」と特定するのに対し、甲1発明では、このような特定はない点。

上記相違点について、検討する。
<相違点4-1>について、
本件発明1における「メタノール可溶分」には、「未反応の単量体成分に加えて、その二量体、三量体等のオリゴマー成分、さらには重量平均分子量としては1,000?15,000程度の低分子量成分で常温のメタノールに可溶な組成を有するもの等」が含まれる(本件特許明細書【0114】)。
これに対して、甲1には、脱揮工程により、アクリル系熱可塑性樹脂中の重合溶剤、残存単量体、水分などの揮発分を除去処理すること、残存単量体、重合溶媒、副反応生成物の合計量に相当する残存揮発分量は、アクリル系熱可塑性樹脂100質量%に対して好ましくは0.5質量%以下であることが記載され(【0088】)、また、多量に未反応単量体を含む重合反応液を処理する場合には、問題となる単量体は、例えば、芳香族炭化水素系溶剤、炭化水素系溶剤、またはアルコール系溶剤などを重合溶液に添加した後、ホモジナイザー(乳化分散)処理を行い、未反応単量体について液-液抽出、固-液抽出するなどの前処理を施すことで重合反応液から分離できること、前処理による単量体分離後の重合反応液を脱揮工程に供すると、得られるアクリル系熱可塑性樹脂100質量%中に残存する単量体の合計を0.5質量%以下に抑えることができることが記載されている(【0093】)。
さらに、ポリマー溶液と、貧溶媒であるメタノールを同時にホモジナイザーに供給し、乳化分散抽出したことが、実施例で具体的に開示されている(【0183】)。
これらの記載からみれば、甲1には、残存単量体、重合溶媒、副反応生物である揮発分については、乳化分散抽出及び脱揮処理により除去することが記載されているといえるものの、二量体、三量体等のオリゴマー成分、重量平均分子量が1,000?15,000程度の低分子量成分の除去については何ら記載がなく、ましてや、これらの成分を含むメタノール可溶分の量を5質量%以下とすることについて、何ら記載がない。
ここで、平成31年1月15日に提出された意見書には、以下の<参考比較例A>が記載されている。

「<参考比較例A>
下記のとおり重合を実施して得られた重合体溶液を用いて、下記のとおり甲1発明に準じてホモジナイザー処理を行い、得られた重合体を用いて本件発明の方法でメタノール可溶分率を求めた。
MMA445.5kg、phMI44.0kg、chMI60.5kg、連鎖移動剤であるn-オクチルメルカプタンを0.55kg、mXy450kgを計量し、ジャケットによる温度調節装置と攪拌翼を具備した1.25m3反応器に加え攪拌し、混合単量体溶液を得た。
反応器の内容液に30L/分の速度で窒素によるバブリングを1時間実施し、溶存酸素を除去した。その後ジャケット内にスチームを吹き込んで反応器内の溶液温度を130℃に上昇させ、50rpmで攪拌しながら、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート1.10kgをmXy4.9kgに溶解させた重合開始剤溶液を、1kg/時間の速度で6時間添加することで重合を開始した。
なお、重合中は反応器内の溶液温度をジャケットによる温度調節で130±2℃で制御した。重合開始から8時間経過した後、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂を含む重合体溶液を得た。
得られたポリマー溶液と、貧溶媒であるメタノールを1:7の質量比で同時にホモジナイザーに供給し、乳化分散抽出した。分離沈降したポリマーを回収し、真空下、130℃で2時間乾燥して目的とするメタクリル系樹脂を得た。
メタクリル系樹脂5gをクロロホルム100mLに溶解させた後、溶液を滴下漏斗に入れ、攪拌子を用いて攪拌している1Lのメタノール中に約1時間かけて滴下して、再沈殿を行った。全量滴下後、1時間静置した後に、メンブランフィルター(アドバンテック東洋株式会社製 T050A090C)をフィルターとして用いて、吸引濾過を行った。
濾物は60℃で16時間真空乾燥してメタノール不溶分とした。また、濾液はロータリーエバポレーターを、バス温度を40℃として、真空度を初期設定の390Torrから徐々に下げて最終的に30Torrとして、用いて溶媒を除去した後、ナス形フラスコに残存している可溶分を回収し、メタノール可溶分とした。
メタノール不溶分の質量及びメタノール可溶分の質量の各々を秤量し、メタノール可溶分の量の、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量の合計量(100質量%)に対する割合(質量%)(メタノール可溶分率)を算出したところ、メタノール可溶分率は7.4質量%であった。」(20頁18行?21頁17行)

上記<参考比較例A>は単量体を一括投入している点で、甲1の実施例1の追試であるとはいえないものの、当該<参考比較例A>により、重合体溶液を、メタノールを用いて乳化分散抽出した場合、必ずしもメタノール可溶分の量が5質量%以下になるものではないことが認識できる。
また、脱揮工程によって、揮発分以外のメタノール可溶分が除去できないことは明らかである。
してみると、甲1発明の「アクリル系熱可塑性樹脂」が、メタノールによる乳化分散抽出や脱揮されたものであっても、メタノール可溶分の量が、5質量%以下であるとまではいえない。
よって、相違点4-1は、実質的な相違点である。
次に、相違点4-1に係る事項が、当業者が容易に想到し得たものであるか否かについて検討する。
本件発明1は、「未反応の単量体に加えて、その二量体、三量体等のオリゴマー成分、さらには重量平均分子量としては1,000?15,000程度の低分子量成分で常温のメタノールに可溶な組成を有するもの等」の「メタノール可溶分」の量を5質量%以下に抑制することにより、増産時のようにナーリング加工等の表面賦型での搬送速度が増加しても、型離れ性や型再現性に優れ、耐久性ある凹凸を賦型する、すなわち、加工安定性を高めようとするものである(【0113】、【0114】)。
これに対して、甲1には、樹脂組成物中のメタノール可溶分の量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについては記載も示唆もされていない。
また、甲3、8にも、 樹脂組成物中のメタノール可溶分の量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについては記載も示唆なく、このような事項が本件特許の優先日前に周知であったともいえない。
よって、相違点4-1に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。

以上のとおりであるから、相違点1-1ないし3-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(b)本件発明2、3、5?8について
本件発明2、3、5ないし8は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものである。
そして、本件発明1が、上記(a)で述べたとおり、甲1に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2、3、5、6も、甲1に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、甲2を併せ考えても、甲2には、メタノール可溶分の量を、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して、5質量%とすることについて何ら記載はなく、樹脂組成物中のメタノール可溶分の量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについても何ら記載されていないから、本件発明7、8は、甲1に記載された発明、並びに、甲1?3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

c よって、取消理由1-(ア)は、理由がない。

(イ)取消理由1-(イ)について
a 甲2に記載された発明
甲2には、【0123】?【0136】から、以下の発明が記載されていると認められる。
「ラクトン環構造を主鎖に有する(メタ)アクリル重合体を含有率90重量%で含み、スチレン-アクリロニトリル共重合体を10重量%の含有率で含み、酸化防止剤を含む樹脂組成物であって、重量平均分子量132000、Tg(ガラス転移温度)が125℃である樹脂組成物。」(以下、「甲2発明」という。)

b 対比・判断
(a)本件発明1について
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「ラクトン環構造を主鎖に有する(メタ)アクリル重合体」は、本件発明1の「N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン構造単位からなる群より選ばれる少なくとも1種である主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂」に相当する。
甲2発明の「ラクトン環構造を主鎖に有する(メタ)アクリル重合体」を含む「樹脂組成物」は、本件発明1の「メタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲2発明は、
「N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン構造単位からなる群より選ばれる少なくとも1種である主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1-2>
本件発明1では、「ビカット軟化温度が120?160℃の範囲」と特定するのに対し、甲2発明では、「Tg(ガラス転移温度)が125℃」と特定している点。

<相違点2-2>
本件発明1では、「^(1)H-NMRを用いて求めた、メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位におけるヘテロタクチック部(mr)の積分強度(H)に対するシンジオタクチック部(rr)の積分強度(S)の比(S/H)が1.20?1.50の範囲」と特定するのに対し、甲2発明では、このような特定はない点。

<相違点3-2>
本件発明1では、「メタノール可溶分の量が、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して、5質量%以下である」と特定するのに対し、甲2発明では、このような特定はない点。

上記相違点について検討する。
相違点3-2について、
本件発明1における「メタノール可溶分」には、「未反応の単量体成分に加えて、その二量体、三量体等のオリゴマー成分、さらには重量平均分子量としては1,000?15,000程度の低分子量成分で常温のメタノールに可溶な組成を有するもの等」が含まれる(本件特許明細書【0114】)。
これに対して、甲2には、二量体、三量体等のオリゴマー成分、重量平均分子量が1,000?15,000程度の低分子量成分を除去することについての記載はない。
ここで、本件特許明細書の【0075】には、「重合開始剤の添加開始から添加終了までの時間(重合開始剤添加時間)の前半に、少なくとも一度、重合開始剤の単位時間当たりの添加量を、添加開始時の単位時間当たりの添加量よりも小さくすることが好ましい。この方法を採用することにより、重合後期におけるオリゴマーや低分子量成分の生成を抑制できたり、重合時の過熱抑制による重合の安定性を図ったりすることできる。」と記載されている。
一方、甲2には、重合にあたり、重合開始剤としてt-アミルパーオキシイソノナノエート0.05重量部を添加するとともに、t-アミルパーオキシイソノナノエート0.10重量部を2時間かけて滴下したことが記載されており(【0130】)、この方法は、重合開始剤の添加開始(0.05重量部を添加)後、重合開始剤の単位時間当たりの添加量を小さくする(0.10重量部を2時間かけて滴下)ものであるといえる。また、甲2には、重合溶液を脱揮することについても記載されている(【0132】)。
ここで、平成31年1月15日に提出された意見書には、以下の<参考比較例C>が記載されている。

「<参考比較例C>
MMA140.0kg、chMI100.0kg、トルエン250kgを計量し、ジャケットによる温度調節装置と攪拌翼を具備した1.25m^(3)反応器に加え攪拌し、混合単量体溶液を得た。
次いで、MMA82.5kg、chMI25.0kg、スチレン35.0kg、トルエン200.0kgを計量して、タンク1に加え攪拌し、追添用混合単量体溶液を得た。
さらに、MMA82.5kg、スチレン35.0kg、トルエン50.0kgを計量して、タンク2に加え攪拌し、追添用混合単量体溶液を得た。
反応器の内容液については30L/分の速度で窒素によるバブリングを1時間実施し、タンク1、タンク2にのそれぞれについて内容液に10L/分の速度で窒素によるバブリングを30分間実施し、溶存酸素を除去した。
その後ジャケット内にスチームを吹き込んで反応器内の溶液温度を110℃に上昇させ、50rpmで攪拌しながら、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.20kgをトルエン0.8kgに溶解させた重合開始剤溶液を反応器内に添加することで重合を開始するととに、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート2.30kgをトルエン4.70kgに溶解させた重合開始剤溶液を2kg/時間の速度で3.5時間添加した。
また、重合開始後3.5時間の間、タンク1の内容液を一定速度で添加し、さらにその後3.5時間の間、タンク2の内容液を一定速度で添加した。
なお、重合中は反応器内の溶液温度をジャケットによる温度調節で110±2℃で制御した。重合開始から10時間経過した後、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂を含む重合溶液を得た。
この重合溶液を予め170℃に加熱された管状熱交換器と気化槽からなる濃縮装置に供給し、溶液中に含まれる重合体の濃度を70質量%まで高めた。
得られた重合溶液は、伝熱面積が0.2m^(2)である薄膜蒸発機に供給し、脱揮を行った。この際の装置内温度は280℃、供給量30L/hr、回転数400rpm、真空度30Torrで実施し、脱揮後の重合物はギアポンプで昇圧し、ストランドダイから押し出され、水冷後、ペレット化してN-置換マレイミド構造単位を有するメタクリル系樹脂を得た。
得られたペレット状の重合物の組成を確認したところ、MMA、chMI、スチレン各単量体由来の構造単位は、それぞれ、60.3質量%、25.5質量%、14.2質量%であった。また、重量平均分子量は102,000であった。
そして、得られた組成物のメタノール可溶分率を評価したところ、6.8質量%であった。」(31頁1行?36行)

上記<参考比較例C>により、重合開始剤の添加開始時に一部の重合開始剤を一括で添加し、残部を添加開始から定速で添加して重合を行い、重合溶液を脱揮して得られたメタクリル系樹脂のメタノール可溶分の量は、必ずしも5質量%以下になるものではないことが認識できる。
してみると、本件特許明細書の製造例1-1?1-6、2、4-1及び4-2のように、重合開始剤の添加速度を、重合開始時から漸減する製造方法であればまだしも、甲2に記載された、重合開始剤の添加開始時に一部の重合開始剤を一括で添加し、残部を添加開始から定速で添加する製造方法によって得られたメタクリル系樹脂組成物におけるメタノール可溶分の量が、5質量以下であるとまではいえない。
よって、相違点3-2は、実質的な相違点である。
次に、相違点3-2に係る事項が、当業者に容易に想到し得たものであるか否かについて検討する。
本件発明1は、「未反応の単量体に加えて、その二量体、三量体等のオリゴマー成分、さらには重量平均分子量としては1,000?15,000程度の低分子量成分で常温のメタノールに可溶な組成を有するもの等」の「メタノール可溶分」を5質量%以下に抑制することにより、増産時のようにナーリング加工等の表面賦型での搬送速度が増加しても、型離れ性や型再現性に優れ、耐久性ある凹凸を賦型する、すなわち、加工安定性を高めようとするものである(【0113】、【0114】)。
これに対して、甲2には、樹脂組成物中のメタノール可溶分の量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについては記載も示唆もされていない。
また、甲3、8にも、 樹脂組成物中のメタノール可溶分の量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについては記載も示唆なく、このような事項が本件特許の優先日前に周知であったともいえない。
よって、相違点3-2に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。

以上のとおりであるから、相違点1-2及び2-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明並びに甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(b)本件発明2、4、7、8について
本件発明2、4、7、8は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものである。
そして、本件発明1が、上記(a)で述べたとおり、甲2に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2、4、7、8も、甲2に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

c よって、取消理由1-(イ)は、理由がない。

(ウ)取消理由1-(ウ)について
a 甲3に記載された発明
甲3には、特許請求の範囲から、以下の発明が記載されていると認められる。
「単量体として、N-置換マレイミド(a)15?50重量%と、メタクリル酸エステル(b)50?85重量%と、共重合可能な他の単量体(c)0?20重量%とからなる単量体成分を共重合してなる耐熱性メタクリル系樹脂であって、黄変度が3.0以下、ビカット軟化点が120℃以上であり、かつ、未反応のN-置換マレイミド(a)の残存率が0.1重量%以下である耐熱性メタクリル系樹脂。」(以下、「甲3発明」という。)

b 対比・判断
(a)本件発明1について
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「単量体として、N-置換マレイミド(a)15?50重量%と、メタクリル酸エステル(b)50?85重量%と、共重合可能な他の単量体(c)0?20重量%とからなる単量体成分を共重合してなる耐熱性メタクリル系樹脂」は、本件発明1の「N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種である主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂」に相当する。
してみると、本件発明1と甲3発明とは、
「N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位から成る群より選ばれる少なくとも一種である主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1-3>
本件発明1は、「メタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物」であるのに対して、甲3発明は、「メタクリル系樹脂」である点。

<相違点2-3>
本件発明1では、「ビカット軟化温度が120?160℃の範囲」と特定するのに対し、甲3発明では、樹脂の「ビカット軟化点が120℃以上」と特定する点。

<相違点3-3>
本件発明1では、「^(1)H-NMRを用いて求めた、メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位におけるヘテロタクチック部(mr)の積分強度(H)に対するシンジオタクチック部(rr)の積分強度(S)の比(S/H)が1.20?1.50の範囲」と特定するのに対し、甲3発明では、このような特定はない点。

<相違点4-3>
本件発明1では、「メタノール可溶分の量が、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して、5質量%以下である」と特定するのに対し、甲3発明では、このような特定はない点。

上記相違点について検討する。
相違点4-3について、
本件発明1における「メタノール可溶分」には、「未反応の単量体成分に加えて、その二量体、三量体等のオリゴマー成分、さらには重量平均分子量としては1,000?15,000程度の低分子量成分で常温のメタノールに可溶な組成を有するもの等」が含まれる(本件特許明細書【0114】)。
これに対して、甲3には、二量体、三量体等のオリゴマー成分、重量平均分子量が1,000?15,000程度の低分子量成分を除去することについての記載はない。
ここで、本件特許明細書の【0075】には、「重合開始剤の添加開始から添加終了までの時間(重合開始剤添加時間)の前半に、少なくとも一度、重合開始剤の単位時間当たりの添加量を、添加開始時の単位時間当たりの添加量よりも小さくすることが好ましい。この方法を採用することにより、重合後期におけるオリゴマーや低分子量成分の生成を抑制できたり、重合時の過熱抑制による重合の安定性を図ったりすることできる。」と記載されている。
一方、甲3には、重合にあたり、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートを0.09部加えて重合反応を開始し、重合開始1時間後、2時間後、3時間後に、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートを、それぞれ、0.08部、0.05部、0.03部を一括投入したことが記載されており(【0080】?【0084】)、この方法は、重合開始剤の添加開始後、重合開始剤の単位時間当たりの添加量を小さくするものであるといえる。また、甲3には、重合反応後の重合液を真空脱気することが記載されている(【0068】)。
ここで、平成31年1月15日に提出された意見書には、以下の事項が記載されている。

「<参考比較例B>
MMA194.0kg、phMI6.1kg、chMI42.5kg、連鎖移動剤であるn-オクチルメルカプタンを0.21kg、トルエン191.0kgを計量し、ジャケットによる温度調節装置と攪拌翼を具備した1.25m^(3)の反応器に加え、攪拌し、混合単量体溶液を得た。
次いで、MMA223.0kg、phMI35.6kg、chMI20.4kg、トルエン221.0kgを計量して、タンク1に加え、攪拌し、追添用混合単量体溶液(1)を得た。さらに、タンク2にMMA58.0kgを、タンク3にt-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.35kgをトルエン4.65kgに溶解させた重合開始剤溶液を用意した。
反応器、タンク1、タンク2、タンク3のそれぞれについて、10L/分の速度で窒素によるバブリングを30分間実施し、溶存酸素を除去した。
その後、50rpmで攪拌しながら反応器内温を100℃に上昇させ、開始剤溶液を1.8kg(全開始剤量の36%相当)一括投入することで、重合を開始した。
次いで、重合開始してから1時間後に、タンク1より混合単量体溶液を250kgとタンク3より開始剤溶液1.6kg(全開始剤量の32%相当)とを出来る限り短時間で一括投入し、重合を継続した。
続いて、重合開始してから2時間後に、タンク1より混合単量体溶液を250kgとタンク3より開始剤溶液1.0kg(全開始剤量の20%相当)とを出来る限り短時間で一括投入し、さらに重合を継続した。
続いて、重合開始してから3時間後に、タンク2より単量体溶液58.0kgと開始剤溶液0.6kg(全開始剤量の12%相当)とを出来る限り短時間で一括投入し、さらに重合を継続した。
なお、重合中は反応器内の溶液温度をジャケットによる温度調節で110±2℃を維持するように制御した。
重合を開始してから7時間後に反応を終了し、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂を含む重合溶液を得た。
この重合溶液に、溶液中に含まれる重合体100質量部に対して、0.1質量部のイルガノックス1010を攪拌下に添加した。
その後、予め170℃に加熱された管状熱交換器と気化槽とからなる濃縮装置に供給し、溶液中に含まれる重合体の濃度を70質量%まで高めた。
得られた重合溶液は、伝熱面積が0.2m^(2)である薄膜蒸発機に供給し、脱揮を行った。この際、装置内温度:280℃、供給量:30L/hr、回転数:400rpm、真空度:30Torrで脱揮を実施した。脱揮後の混合物を、ギアポンプで昇圧し、ストランドダイから押し出し、水冷した後、ペレット化して、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂重合物を含む組成物を得た。

得られた組成物を90℃、5時間真空乾燥し、窒素雰囲気下にて30℃まで冷却し、組成物の調製に用いた。
予め窒素置換されたタンブラー型ミキサーを用いて、重合物(A)100質量部、酸化防止剤としてのアデカスタブPEP36を0.1質量部とからなる混合物を調製した。
露点を-30℃に、且つ温度を80℃に調整した除湿空気を利用し、得られた混合物を58mmφベント付二軸押出機に供給し溶融混練を行った。その際、二軸押出機に附帯する原料ホッパーの下部には、窒素導入ラインを設けて、押出機内に窒素を導入しながら行った。原料ホッパー下での酸素濃度を測定したところ、約1%であった。
運転条件としては、押出機下部及びダイ設定温度270℃、回転数200rpm、ベント部での真空度は200Torr、吐出量20kg/時の条件にて実施した。
溶融混練された樹脂組成物は、多孔ダイを通じてストランド状に押出され、予め50℃に加温された冷却水が満たされた冷却バスに導入し冷却固化させ、カッターにより裁断され、ペレット状の組成物を得た。
得られたペレット状の組成物の組成を確認したところ、MMA、chMI、スチレン各単量体由来の構造単位は、それぞれ、82.1質量%、7.2質量%、10.7質量%であった、また、重量平均分子量は136,000であった。
そして、得られた組成物のメタノール可溶分率を評価したところ、6.8質量%であった。」(26頁17行?28頁4行)

「本件発明においては、本件特許明細書の【0040】に記載したように、反応系内に残存する未反応モノマー総量に対する重合開始剤より発生するラジカル総量の割合が、常時一定値以下となるように添加することにより、重合後期におけるオリゴマーや低分子量体の生成量を抑制することができるのに対し、甲第3号証の実施例3では、重合時に開始剤を重合系内に添加するに際し、複数回に分けて開始剤を添加する方法であっても、各回で単量体とともに一度に(一括で)添加する方法が採用されているため、上述の未反応モノマー総量に対するラジカル総量の割合が一度(一括で)添加の際に重合系内で急激に高まり、結果として得られたメタクリル系樹脂組成物において本件発明のメタノール可溶分量の範囲を満たすことはできません。」(28頁9行?18行)

<参考比較例B>は、原料モノマーがMMA、pHMI、chMIであるのに対して、得られた重合体は、MMA、chMI、スチレン由来の単位を含むから、誤記が含まれていると解されはするものの、上記記載によれば、重合開始剤を複数回に分けて、段階的に減少する量で、一括投入して重合を行い、得られた重合体を脱揮する方法では、未反応モノマーに総量に対するラジカル総量の割合が、重合開始剤添加の際に急激に高まることから、必ずしもメタノール可溶分量が5質量%以下のメタクリル系樹脂組成物が得られるものではないことを認識することはできる。
してみると、本件特許明細書の製造例1-1?1-6、2、4-1及び4-2のように、重合開始剤の添加速度を、重合開始時から漸減する方法であればまだしも、甲3に記載された、重合開始剤を、複数回に分けて、段階的に減少する量で、一括投入する方法によって得られたメタクリル系樹脂のメタノール可溶分の量が、5質量以下であるとまではいえない。
よって、相違点4-3は、実質的な相違点である。
次に、相違点4-3に係る事項が、当業者に容易に想到し得たものであるか否かについて検討する。
本件発明1は、「未反応の単量体に加えて、その二量体、三量体等のオリゴマー成分、さらには重量平均分子量としては1,000?15,000程度の低分子量成分で常温のメタノールに可溶な組成を有するもの等」の「メタノール可溶分」を5質量%以下に抑制することにより、増産時のようにナーリング加工等の表面賦型での搬送速度が増加しても、型離れ性や型再現性に優れ、耐久性ある凹凸を賦型する、すなわち、加工安定性を高めようとするものである(【0113】、【0114】)。
これに対して、甲3には、樹脂組成物中のメタノール可溶分の含有量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについては記載も示唆もされていない。
また、甲1、8にも、 樹脂組成物中のメタノール可溶分の量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについては記載も示唆なく、このような事項が本件特許の優先日前に周知であったともいえない。
よって、相違点4-3に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。

以上のとおりであるから、相違点1-3ないし3-3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3に記載された発明、並びに、甲1、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(b)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものである。
そして、本件発明1が、上記(a)で述べたとおり、甲3に記載された発明、並びに、甲1、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明3も、甲3に記載された発明、並びに、甲1、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

c よって、取消理由1-(ウ)は、理由がない。

(エ)取消理由1-(エ)について
a 甲4に記載された発明
甲4には、特許請求の範囲、【0021】、【0024】?【0026】から、以下の発明が記載されていると認められる。
「単量体成分として、N-シクロヘキシルマレイミドを主成分とし、シクロヘキシルアミノ無水コハク酸含量が0.001?1重量%(対N-シクロヘキシルマレイミド)である耐熱性樹脂製造用の原料5?50重量部と、メタクリル酸メチルなどのメタクリル酸エステル類95?50重量部との合計100重量部を共重合して得られる、黄色度(YI)が2以下、または溶液での黄色度(YIsol.)が3以下であり、ガラス転移温度が120℃以上である耐熱性樹脂。」(以下、「甲4発明」という。)

b 対比・判断
(a)本件発明1について
本件発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明の「単量体成分として、N-シクロヘキシルマレイミドを主成分とし、シクロヘキシルアミノ無水コハク酸含量が0.001?1重量%(対N-シクロヘキシルマレイミド)である耐熱性樹脂製造用の原料5?50重量部と、メタクリル酸メチルなどのメタクリル酸エステル類95?50重量部との合計100重量部を共重合して得られる」、「耐熱性樹脂」は、本件発明1の、「N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種である主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲4発明は、
「N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種である主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1-4>
本件発明1は、「メタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物」であるのに対して、甲4発明は、「耐熱性樹脂」である点。

<相違点2-4>
本件発明1では、「ビカット軟化温度が120?160℃の範囲」と特定するのに対し、甲4発明では、「ガラス転移温度が120℃以上」と特定している点。

<相違点3-4>
本件発明1では、「^(1)H-NMRを用いて求めた、メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位におけるヘテロタクチック部(mr)の積分強度(H)に対するシンジオタクチック部(rr)の積分強度(S)の比(S/H)が1.20?1.50の範囲」と特定するのに対し、甲4発明では、このような特定はない点。

<相違点4-4>
本件発明1では、「メタノール可溶分の量が、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して、5質量%以下である」と特定するのに対し、甲4発明では、このような特定はない点。

上記相違点について検討する。
相違点4-4について、
本件発明1における「メタノール可溶分」には、「未反応の単量体成分に加えて、その二量体、三量体等のオリゴマー成分、さらには重量平均分子量としては1,000?15,000程度の低分子量成分で常温のメタノールに可溶な組成を有するもの等」が含まれる(本件特許明細書【0114】)。
これに対して、甲4には、二量体、三量体等のオリゴマー成分、重量平均分子量が1,000?15,000程度の低分子量成分を除去することについての記載はない。
ここで、本件特許明細書の【0075】には、「重合開始剤の添加開始から添加終了までの時間(重合開始剤添加時間)の前半に、少なくとも一度、重合開始剤の単位時間当たりの添加量を、添加開始時の単位時間当たりの添加量よりも小さくすることが好ましい。この方法を採用することにより、重合後期におけるオリゴマーや低分子量成分の生成を抑制できたり、重合時の過熱抑制による重合の安定性を図ったりすることできる。」と記載されている。
一方、甲4には、重合にあたり、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートを0.02部加え、続いて3.5時間かけてtert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.108部とトルエン5部の第3混合溶液を滴下したことが記載されており(【0051】?【0055】)、この方法は、重合開始剤の添加開始(0.02部)後、重合開始剤の単位時間当たりの添加量を小さくする(3.5時間かけて0.108部添加)ものであるといえる。また、甲4には、重合液を真空脱揮することが記載されている(【0055】)。
しかしながら、<参考比較例C>により、重合開始剤の添加開始時に一部の重合開始剤を一括で添加し、残部を添加開始から定速で添加して重合を行い、重合溶液を脱揮して得られたメタクリル系樹脂のメタノール可溶分の量は、必ずしも5質量%以下になるものではないことが認識できることは、上記(イ)で述べたとおりである。
してみると、本件特許明細書の製造例1-1?1-6、2、4-1及び4-2のように、重合開始剤の添加速度を、重合開始時から漸減する方法であればまだしも、甲4に記載された、重合開始剤の添加開始時に一部の重合開始剤を一括で添加し、残部を添加開始から定速で添加する製造方法によって得られた樹脂のメタノール可溶分の量が、5質量以下であるとまではいえない。
よって、相違点4-4は、実質的な相違点である。
次に、相違点4-4に係る事項が、当業者に容易に想到し得たものであるか否かについて検討する。
本件発明1は、「未反応の単量体に加えて、その二量体、三量体等のオリゴマー成分、さらには重量平均分子量としては1,000?15,000程度の低分子量成分で常温のメタノールに可溶な組成を有するもの等」の「メタノール可溶分」を5質量%以下に抑制することにより、増産時のようにナーリング加工等の表面賦型での搬送速度が増加しても、型離れ性や型再現性に優れ、耐久性ある凹凸を賦型する、すなわち、加工安定性を高めようとするものである(【0113】、【0114】)。
これに対して、甲4には、樹脂組成物中のメタノール可溶分の量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについては記載も示唆もされていない。
また、甲3、8にも、 樹脂組成物中のメタノール可溶分の含有量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについては記載も示唆なく、このような事項が本件特許の優先日前に周知であったともいえない。
よって、相違点4-4に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。

以上のとおりであるから、相違点1-4ないし3-4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(b)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものである。
そして、本件発明1が、上記(a)で述べたとおり、甲4に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明3も、甲4に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

c よって、取消理由1-(エ)は、理由がない。

(オ)取消理由1-(オ)について
a 甲5に記載された発明
甲5には、【0105】?【0128】、【0140】、【0141】から、以下の発明が記載されていると認められる。
「メタクリル酸メチル単量体に由来する単位とN-シクロヘキシルマレイミド又は/及びN-フェニルマレイミド単量体に由来する構造単位を有する熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物であって、熱可塑性樹脂を構成するメタクリル酸メチル単量体が91ないし70質量部、N-シクロヘキシルマレイミド又は/及びN-フェニルマレイミド単量体がそれぞれ9ないし30質量部であり、組成物におけるo-キシレンの含有量が132ppm以上365ppm以下であり、シクロヘキシル無水コハク酸の含有量が0ppmm又は91ppm以上238ppm以下であり、ガラス転移温度が125ないし150℃のいずれかである熱可塑性樹脂組成物。」(以下、「甲5発明」という。)

b 対比・判断
(a)本件発明1について
本件発明1と甲5発明とを対比する。
甲5発明の「メタクリル酸メチル単量体に由来する単位とN-シクロヘキシルマレイミド又は/及びフェニルマレイミド単量体に由来する構造単位を有する熱可塑性樹脂」は、本件発明1の「N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン構造単位からなる群より選ばれる少なくとも1種である主鎖に環構造を有する構造単位(X) を含むメタクリル系樹脂」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲5発明1は、
「N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種である主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1-5>
本件発明1では、「ビカット軟化温度が120?160℃の範囲」と特定するのに対し、甲5発明では、「ガラス転移温度が125ないし150℃」と特定する点。

<相違点2-5>
本件発明1では、「^(1)H-NMRを用いて求めた、メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位におけるヘテロタクチック部(mr)の積分強度(H)に対するシンジオタクチック部(rr)の積分強度(S)の比(S/H)が1.20?1.50の範囲」と特定するのに対し、甲5発明では、このような特定はない点。

<相違点3-5>
本件発明1では、「メタノール可溶分の量が、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して、5質量%以下である」と特定するのに対し、甲5発明では、このような特定はない点。

上記相違点について検討する。
相違点3-5について、
本件発明1における「メタノール可溶分」には、「未反応の単量体成分に加えて、その二量体、三量体等のオリゴマー成分、さらには重量平均分子量としては1,000?15,000程度の低分子量成分で常温のメタノールに可溶な組成を有するもの等」が含まれる(本件特許明細書【0114】)。
これに対して、甲5には、二量体、三量体等のオリゴマー成分、重量平均分子量が1,000?15,000程度の低分子量成分を除去することについての記載はない。
ここで、本件特許明細書の【0075】には、「重合開始剤の添加開始から添加終了までの時間(重合開始剤添加時間)の前半に、少なくとも一度、重合開始剤の単位時間当たりの添加量を、添加開始時の単位時間当たりの添加量よりも小さくすることが好ましい。この方法を採用することにより、重合後期におけるオリゴマーや低分子量成分の生成を抑制できたり、重合時の過熱抑制による重合の安定性を図ったりすることできる。」と記載されている。
一方、甲5には、重合にあたり、重合開始剤としてt-アミルパーオキシイソナノエート0.103質量部を添加するとともに、トルエン21質量部にt-アミルパーオキシイソナノエート0.205質量部を溶解させた溶液を2時間かけて滴下したことが記載されており(【0105】)、この方法は、重合開始剤の添加開始(0.103質量部を添加)後、重合開始剤の単位時間当たりの添加量を小さくする(0.205質量部を2時間かけて添加)するものであるといえる。また、甲5には、重合溶液を脱揮すること、樹脂組成物の、o-キシレン、シクロヘキシル無水コハク酸及びベンジルアルコールの含有量が低減せしめられていることが記載されている(【0105】?【0128】、【0140】、【0141】)。
しかしながら、<参考比較例C>により、重合開始剤の添加開始時に一部の重合開始剤を一括で添加し、残部を添加開始から定速で添加して重合を行い、重合溶液を脱揮して得られたメタクリル系樹脂のメタノール可溶分の量は、必ずしも5%以下になるものではないことが認識できることは、上記(イ)で述べたとおりである。
してみると、本件特許明細書の製造例1-1?1-6、2、4-1及び4-2のように、重合開始剤の添加速度を、重合開始時から漸減する方法であればまだしも、甲5に記載された、重合開始剤の添加開始時に一部の重合開始剤を一括で添加し、残部を添加開始から定速で添加する製造方法によって得られた熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物のメタノール可溶分の量が、5質量以下であるとまではいえない。
よって、相違点3-5は、実質的な相違点である。
次に、相違点3-5に係る事項が、当業者に容易に想到し得たものであるか否かについて検討する。
本件発明1は、「未反応の単量体に加えて、その二量体、三量体等のオリゴマー成分、さらには重量平均分子量としては1,000?15,000程度の低分子量成分で常温のメタノールに可溶な組成を有するもの等」の「メタノール可溶分」を5質量%以下に抑制することにより、増産時のようにナーリング加工等の表面賦型での搬送速度が増加しても、型離れ性や型再現性に優れ、耐久性ある凹凸を賦型する、すなわち、加工安定性を高めようとするものである(【0113】、【0114】)。
これに対して、甲5には、樹脂組成物中のメタノール可溶分の量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについては記載も示唆もされていない。
また、甲3、8にも、 樹脂組成物中のメタノール可溶分の含有量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについては記載も示唆なく、このような事項が本件特許の優先日前に周知であったともいえない。
よって、相違点3-5に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。

以上のとおりであるから、相違点1-5、2-5について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(b)本件発明3、7、8について
本件発明3、7、8は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものである。
そして、本件発明1が、上記(a)で述べたとおり、甲5に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明3も、甲5に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、甲2を併せ考えても、甲2には、メタノール可溶分の量を、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して、5質量%とすることについて何ら記載はなく、樹脂組成物中のメタノール可溶分の量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについても何ら記載されていないから、本件発明7、8は、甲5に記載された発明、並びに、甲2、3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

c よって、取消理由1-(オ)は、理由がない。

(カ)取消理由1-(カ)について
a 甲6に記載された発明
甲6には、【0070】?【0074】、【0101】、【0104】(特に実施例10)から、以下の発明が記載されていると認められる。
「2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルとメタクリル酸メチルとを重合した重合体を脱アルコール反応させた、ラクトン環構造を19.7重量%で含有し、重量平均分子量120,000、ガラス転移温度135℃である重合体と、アクリロニトリル-スチレン樹脂(AS樹脂)とを重量比で60/40で含む、ガラス転移温度127℃である透明性耐熱樹脂組成物。」(以下、「甲6発明」という。)

b 対比・判断
(a)本件発明1について
本件発明1と甲6発明とを対比する。
甲6発明の「2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルとメタクリル酸メチルとを重合した重合体を脱アルコール反応させた、ラクトン環構造を19.7重量%で含有」する「重合体」は、本件発明1の「N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種である主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲6発明は、
「N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種である主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1-6>
メタクリル系樹脂組成物について、本件発明1では、「ビカット軟化温度が120?160℃の範囲」と特定するのに対し、甲6発明では、「ガラス転移温度が127℃」と特定する点。

<相違点2-6>
本件発明1では、「^(1)H-NMRを用いて求めた、メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位におけるヘテロタクチック部(mr)の積分強度(H)に対するシンジオタクチック部(rr)の積分強度(S)の比(S/H)が1.20?1.50の範囲」と特定するのに対し、甲6発明では、このような特定はない点。

<相違点3-6>
本件発明1では、「メタノール可溶分の量が、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して、5質量%以下である」と特定するのに対し、甲6発明では、このような特定はない点。

上記相違点について検討する。
相違点3-6について、
本件発明1における「メタノール可溶分」には、「未反応の単量体成分に加えて、その二量体、三量体等のオリゴマー成分、さらには重量平均分子量としては1,000?15,000程度の低分子量成分で常温のメタノールに可溶な組成を有するもの等」が含まれる(本件特許明細書【0114】)。
これに対して、甲6には、二量体、三量体等のオリゴマー成分、重量平均分子量が1,000?15,000程度の低分子量成分を除去することについての記載はない。
ここで、本件特許明細書の【0075】には、「重合開始剤の添加開始から添加終了までの時間(重合開始剤添加時間)の前半に、少なくとも一度、重合開始剤の単位時間当たりの添加量を、添加開始時の単位時間当たりの添加量よりも小さくすることが好ましい。この方法を採用することにより、重合後期におけるオリゴマーや低分子量成分の生成を抑制できたり、重合時の過熱抑制による重合の安定性を図ったりすることできる。」と記載されている。
一方、甲6には、重合にあたり、開始剤としてターシャリーブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.075部を加えると同時に、単量体と、開始剤0.075部からなる溶液を3時間半かけて滴下しながら溶液重合を行ったことが記載されており(【0070】)、この方法は、開始剤の添加開始(0.075部を添加)後、重合開始剤の単位時間当たりの添加量を小さくする(0.075部を3時間半かけて滴下)するものであるといえる。また、甲6には、耐熱樹脂中の残存揮発分は、その総量が好ましくは1500ppm以下であること(【0050】)、重合体溶液を脱揮することについても記載されている(【0070】?【0091】)。
しかしながら、<参考比較例C>により、重合開始剤の添加開始時に一部の重合開始剤を一括で添加し、残部を添加開始から定速で添加して重合を行い、重合溶液を脱揮して得られたメタクリル系樹脂のメタノール可溶分の量は、必ずしも5質量%以下になるものではないことが認識できることは、上記(イ)で述べたとおりである。
してみると、本件特許明細書の製造例1-1?1-6、2、4-1及び4-2のように、重合開始剤の添加速度を、重合開始時から漸減する方法であればまだしも、甲6に記載された、重合開始剤の添加開始時に一部の重合開始剤を一括で添加し、残部を添加開始から定速で添加する製造方法によって得られた重合体のメタノール可溶分の量が、5質量以下であるとまではいえないし、ましてや、当該重合体とアクリロニトリル-スチレン樹脂(AS樹脂)とを含樹脂組成物のメタノール可溶分の量が、5質量%以下であるとまでいうことはできない。
よって、相違点3-6は、実質的な相違点である。
次に、相違点3-6に係る事項が、当業者に容易に想到し得たものであるか否かについて検討する。
本件発明1は、「未反応の単量体に加えて、その二量体、三量体等のオリゴマー成分、さらには重量平均分子量としては1,000?15,000程度の低分子量成分で常温のメタノールに可溶な組成を有するもの等」の「メタノール可溶分」を5質量%以下に抑制することにより、増産時のようにナーリング加工等の表面賦型での搬送速度が増加しても、型離れ性や型再現性に優れ、耐久性ある凹凸を賦型する、すなわち、加工安定性を高めようとするものである(【0113】、【0114】)。
これに対して、甲6には、樹脂組成物中のメタノール可溶分の量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについては記載も示唆もされていない。
また、甲3、8にも、 樹脂組成物中のメタノール可溶分の量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについては記載も示唆なく、このような事項が本件特許の優先日前に周知であったともいえない。
よって、相違点3-6に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。

以上のとおりであるから、相違点1-6、2-6について検討するまでもなく、本件発明1は、甲6に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(b)本件発明2、4について
本件発明2、4は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものである。
そして、本件発明1が、上記(a)で述べたとおり、甲6に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2、4も、甲6に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

c よって、取消理由1-(カ)は、理由がない。

ウ よって、取消理由1は、理由がない。

(3)取消理由2についての当審の判断

ア 取消理由2は、要するに、本件特許明細書の実施例、比較例をみても、メタクリル系樹脂組成物のS/Hは、これを形成するメタクリル系樹脂のS/Hから一義的に決定できるものであるとはいえず、本件特許明細書全体をみても、技術常識に鑑みても、どのようにして本件発明のS/Hを有するメタクリル系樹脂組成物を製造するかが不明であるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1ないし8を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない、というものである。

イ これに対して、本件訂正により、【0160】において、製造例2のS/Hが、「1.25」から「1.19」に訂正された。
また、平成31年1月15日に提出された意見書において、本件特許明細書の【0161】において、製造例3のS/Hは、「1.25」ではなく、正しくは「1.15」であったことが主張された。そして、樹脂として製造例3の樹脂のみを用いた「比較例2」の樹脂組成物の「S/H」が「1.15」であることに鑑みれば、この主張は合理的なものである。

ウ そこで、本件特許明細書の実施例及び比較例の記載を、上記訂正された事項及び主張された事項と併せて検討すると、比較例5以外の全ての実施例、比較例において、メタクリル系樹脂組成物のS/Hは、これを形成するメタクリル系樹脂のS/Hの加重平均と一致しているから、これらの記載に接した当業者は、メタクリル系樹脂組成物のS/Hは、これを形成するメタクリル系樹脂のS/H及びその配合割合によって決定すると認識するものといえる。

エ してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1ないし8を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとまでいうことはできず、取消理由2は、理由がない。

(4)小括
以上のとおりであるから、取消理由通知書で通知した取消理由1及び2は、いずれも理由がない。

2 申立書に記載された申立理由について

(1)申立書に記載された申立理由は、以下のとおりである。

<申立理由1>本件発明1ないし8は、甲1ないし6に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

<申立理由2>本件発明1ないし8は、甲1ないし甲6に記載された発明(さらには、甲7ないし甲17に記載された発明)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

<申立理由3>本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

<申立理由4>本件特許は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(2)申立理由1ないし4について検討する。
ア 申立理由1について
上記1(2)イで述べたとおり、甲1ないし6に記載された発明のいずれも、少なくとも「メタノール可溶分の量が、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して、5質量%以下である」との特定がない点で、本件発明1と相違し、当該相違点は、実質的な相違点である。
してみると、本件発明1及びこれを直接又は間接的に引用する本件発明2ないし8は、甲1ないし甲6に記載された発明ではなく、申立理由1は、理由がない。

イ 申立理由2について
上記1(2)イで述べたとおり、甲1ないし6に記載された発明のいずれも、少なくとも、「メタノール可溶分の量が、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して、5質量%以下である」との特定がない点で本件発明1と相違し、当該相違点に係る事項は、甲1ないし6に記載された発明と、甲3、8並びに周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものでもない。
また、甲7、9ないし17に記載された事項を勘案しても、上記相違点に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。
してみると、本件発明1及びこれを直接又は間接的に引用する本件発明2ないし8は、甲1ないし甲6に記載された発明(さらには、甲7ないし甲17に記載された発明)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、申立理由2は、理由がない。

ウ 申立理由3について
a 申立理由3は、具体的には、比較例1(S/H 1.19)、比較例2(S/H 1.15)は、使用した樹脂から想定されるS/Hと異なるS/Hを示すがその理由が不明であることや、実施例8と比較例5の結果に矛盾があることから、本件特許明細書の実施例(及び比較例)の結果に信憑性がなく、本件発明の課題と課題解決手段との関係も不明であるから、本件発明1ないし8により、本件発明の課題を解決できるものであるか、当業者が認識できないというものである。

b ここで、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

c 本件発明は、メタクリル系樹脂組成物について、ビカット軟化温度、S/H、メタノール可溶分の量についての特定を有するものである。

d そして、本件発明は、長期保管や輸送に伴う、品位の低下を抑制でき、表面賦型性に優れた成形体が得られるメタクリル系樹脂組成物を提供することを課題とするものと認められる(【0013】)。

e 一方、発明の詳細な説明には、同等のガラス転移温度を有していてもより高いビカット軟化温度を有する樹脂又は樹脂組成物が、より良好な賦型再現性を備えることとなるため好ましいこと(【0110】)、S/Hが特定の範囲にあると、量産時のようにナーリング加工等の賦型工程での搬送速度が増加しても、型再現性があり、耐久性ある凹凸が賦型できるため好ましいこと(【0111】)、メタノール可溶分量を特定範囲に抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型の加工安定性を高めることができること(【0114】)が記載されており、表1及び表2をみれば、上記ビカット軟化温度、S/H、メタノール可溶分の量についての特定を満たす樹脂組成物は、賦型性、保存安定性に優れることがみてとれる。
ここで、本件訂正によって、【0160】において、製造例2のS/Hが、「1.25」から「1.19」に訂正された。また、平成31年1月15日に提出された意見書において、本件特許明細書の【0161】において、製造例3のS/Hは、「1.25」ではなく、正しくは「1.15」であったことが主張され、これが合理的であることは上記1(3)イで述べたとおりである。
そして、本件特許明細書の実施例及び比較例の記載を、上記訂正事項及び主張された事項と併せて検討すると、本件特許明細書の実施例(及び比較例)の結果に信憑性がないとはいえないし、本件発明の課題と課題解決手段との関係が不明であるともいえない。

f そうであれば、当業者は、ビカット軟化温度、S/H、メタノール可溶分の量についての特定を有する本件発明のメタクリル系樹脂組成物であれば、本件発明の課題を解決できると認識できるものといえる。

g よって、申立理由3は、理由がない。

エ 申立理由4について
a 申立理由4は、具体的には、特に、実施例8、比較例1及び2で、S/Hが混合前後で低下しており、どのような場合にS/Hが低下するのか、本件明細書をみても不明であり、自明でもないから、本件特許明細書は、当業者がS/Hを「1.20?1.50」に調製できるように記載されていない、というものである。

b これに対して、本件訂正により、【0160】において、製造例2のS/Hが、「1.25」から「1.19」に訂正されたこと、平成31年1月15日に提出された意見書において、本件特許明細書の【0161】において、製造例3のS/Hは、「1.25」ではなく、正しくは「1.15」であったことが主張され、これが合理的であること、本件特許明細書の実施例及び比較例の記載を、上記訂正された事項及び主張された事項と併せて検討すると、当業者は、メタクリル系樹脂組成物のS/Hは、これを形成するメタクリル系樹脂のS/Hと配合割合によって決定すると認識するものといえることは、上記1(3)イ、ウで述べたとおりである。

c してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明に接した当業者が、S/Hが特定の範囲内にあるメタクリル系樹脂組成物を製造することができないとまではいえないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1ないし8を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとまでいうことはできない。

d よって、申立理由4は、理由がない。

(3)以上のとおりであるから、申立理由1ないし4は、いずれも理由がない。

3 平成31年2月25日に提出された意見書における申立人の主張について
申立人は、平成31年2月25日に提出された意見書において、以下の主張をしている。
ア 樹脂組成物のS/Hが溶融混練においては変化しないとの技術常識がない中で、製造例2のS/Hが「1.19」の誤記であったこと、製造例3のS/Hが正しくは「1.15」であったことの合理的理由は何らない。

イ 製造例2、製造例3、製造例1-3は同様の組成及び重合方法にて合成されているにもかかわらず、S/Hが全く異なるため、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、特定のS/Hを有する樹脂及び樹脂組成物をどのように得るのかについて、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

ウ 甲1の抽出処理において、抽出効率はホモジナイズ化により極めて高くなっている、換言すれば、メタノールによるメタノール可溶分の抽出は行われているはずであり、特開2008-308565号公報にも記載されるように、オリゴマーであっても、貧溶媒による抽出処理により効率よく抽出されるから、少なくとも「5質量%」という多量のメタノール可溶分が残存することはありえない。

エ 甲1の実施例で得られたメタクリル系樹脂は、十分に大きい分子量及び狭い分子量分布を有しており、「5質量%」という多量のオリゴマーないし低重合度成分が含まれているとは考えられない。

オ 特許権者による<参考比較例A>について、甲1の実施例1では、原料モノマーおよび重合開始剤を連続的に供給すると共に一定流量でポリマー溶液を回収しており、本件記載の「重合後期におけるオリゴマーや低分子量体の生成」が生じない重合法となっているが、<参考比較例A>は、全モノマーを一括で初期に仕込み、重合開始剤を等速滴下する重合方法であり、そもそもメタノール可溶分が多くなる処方である。モノマーと重合開始剤を連続的に添加している甲第1号証の実施例1は、本件特許明細書【0040】【0075】に記載のように重合開始剤により発生するラジカル総量の割合が常時一定以下となるのだから、ホモジナイザー処理前でさえ、本件発明のメタノール可溶分量を満たす蓋然性が高いから、これをホモジナイザー処理すれば、メタノール可溶分量はさらに低減しているはずである。

カ メタノール可溶分量が相違するとしても、所定の十分な分子量のポリマーを得る際に、低重合度の成分が極力含まれないようにすることは技術常識であり、甲1において、メタノール可溶分たる低分子量成分を極力低減することは、当業者であれば容易に想到できたことである。

キ 甲18について、100℃にて重合を行っていること、及び重合液をホモジナイザー処理した後更にメタノールに滴下して回収していることから、本件発明は甲18に記載された発明であるか、そうでなくとも、甲18に記載された発明から、当業者が容易に発明をすることができたものである。

上記主張について検討する。
アについて
確かに、樹脂組成物のS/Hが溶融混練においては変化しないとの技術常識は見出せないが、溶融混練の前後においてS/Hが変化することが技術常識であることを示す証拠もない。
そして、本件特許明細書の表1、2をみても、大半の例において、メタクリル系樹脂組成物のS/Hはこれを形成するメタクリル系樹脂のS/Hの加重平均と一致しているから、製造例2及び3のS/Hが誤記であったとの主張は一応の合理的理由を有するものといえるし、これが誤記でなかったとする格段の理由もない。
よって、主張アは採用できない。

イについて
製造例3は、重合開始剤を定速で添加しており、製造例2及び製造例1-3と同様の製造方法で製造されたものではない。また、確かに、製造例2のS/Hと製造例1-3のS/Hは異なっているものの、本件特許明細書には、重合にも用いる共重合可能な他の単量体の種類並びに含有量、共重合可能な単量体の重合時の添加方法により、共重合体の立体規則性が変わることが記載され(【0111】)、また、実施例、比較例には、本件発明1のS/Hの特定を満たす共重合体を製造することが複数例記載されている。
そうであれば、製造例2のS/Hと製造例1-3のS/Hが異なっていることをもって、本件特許明細書の発明の詳細な説明が、当業者が本件発明を実施できる程度に記載されたものではないとまではいえない。
よって、主張イは採用できない。

ウについて
甲1の抽出処理において、抽出効率はホモジナイズ化により極めて高くなっているということを示す証拠は何らなく、甲1のものが少なくとも「5質量%」という多量のメタノール可溶分が残存することはありえないとの主張は何ら根拠がない。また、特開2008-308565号公報は、貧溶媒による再沈殿法については記載があるものの、メタノールを用いた乳化分散抽出については、何ら記載するものではない。
よって、主張ウは採用できない。

エについて
甲1の実施例の分子量及び分子量分布の値をみても、これらの値とメタノール可溶分の具体的な量を直接的に結びつけることはできず、これら実施例において、メタノール可溶分の量が5質量%以下であるとまではいえない。
よって、主張エは採用できない。

オについて
確かに、甲1の実施例1では、原料モノマーおよび重合開始剤を連続的に供給すると共に一定流量でポリマー溶液を回収しており、<参考比較例A>の方法とは異なるものの、このことにより直ちに、甲1の実施例1のモノマーのメタノール可溶分の量が5質量%以下であることが示されるものではない。ここで、本件特許明細書の【0040】及び【0075】をみても、甲1の実施例1の、原料モノマーおよび重合開始剤を連続的に供給すると共に一定流量でポリマー溶液を回収する方法が、重合後期におけるオリゴマーや低分子量体の生成が生じない重合法であるとの記載も見出せない。
よって、主張オは採用できない。

カについて
仮に、所定の十分な分子量のポリマーを得る際に、低重合度の成分が極力含まれないようにすることは技術常識であったとしても、甲1ないし甲20のいずれをみても、樹脂組成物中のメタノール可溶分の含有量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについては記載も示唆もされていないから、甲1において、メタノール可溶分の量を5質量%以下とすることが、当業者が容易に想到できたものであったとはいえない。
よって、主張カは採用できない。

キについて
甲18をみると、実施例で具体的に示された重合温度は100℃である(【0229】?【0244】)。一方、甲8には、S/Hが1.1?1.5であるメタクリル樹脂は、一般的には重合温度を100?180℃の範囲でラジカル重合を実施すると得られることが記載されている(【0012】)ものの、具体的には、150℃又は135℃で重合が行われている(【0039】?【0051】)。そうすると、「100?180℃」の範囲の下限値である「100℃」での重合によっても、「1.1?1.5」のうちの、「1.2?1.5」の範囲に包含されるS/Hを有する樹脂が必ずしも得られるとまではいえない。
よって、仮に甲18において、重合液をホモジナイザー処理した後更にメタノールに滴下して回収しているとしても、本件発明は甲18に記載された発明であるともいえないし、甲18に記載された発明から、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
よって、主張キは採用できない。

なお、申立人は、<参考実験例1>及び<参考実験例2>を示し、メタノール可溶分量が「5質量%以下」というものは、ありふれたものである旨主張し、<参考実験例3>を示し、甲2の製造例2記載の市販品原料である「プレキシイミド8813」のメタノール可溶分量は、1.4質量%であって「5質量%以下」である旨主張し、さらに、<参考実験例4>及び「スミペックスEX」についての実験例を示し、本件特許の優先日前より市場で入手可能なメタクリル系樹脂組成物である「ポリイミレックスPML203」及び「スミペックスEX」は、S/H、メタノール可溶分量ともに、本件発明に規定の範囲を満たす旨主張する。
しかしながら、これらの実験例は、具体的な実験過程について全く記載されておらず、これらを直ちに採用できるものではない。

第5 まとめ
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
メタクリル系樹脂組成物及び光学部品
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル系樹脂組成物及び光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、メタクリル系樹脂は、その透明性、表面硬度等が優れていることに加え、光学特性である複屈折が小さいことから、例えば、光学フィルムを中心に種々の光学素材向け光学樹脂として注目され、その市場が大きく拡大しつつある。
【0003】
特に、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂を含む組成物は、耐熱性と光学特性との両方に優れた性能を有していることが知られており、画像表示装置の偏光子保護フィルムあるいは位相差フィルム等の比較的厚みの薄い光学フィルム用途を中心に、その需要が急速に拡大してきている。
また、メタクリル系樹脂を含む組成物は、高い耐熱温度と優れた光学特性を活かし、液晶ディスプレイ、車載パネルディスプレイ等のディスプレイに用いられる、導光板、並びにディスプレイ前面板等の比較的厚みのある成形体用途においても、その市場に適合するための検討が続けられている。
これら光学部品向け成形体では、しばしば、得られた成形体をガラス転移温度以上の温度に加熱し、その表面に微細な凹凸を賦与することにより、新たな機能を付与して用いることが検討されている。
近年、光学シート等厚みのある成形体を用いる用途では、熱ナノインプリント法等によるnmオーダーの表面微細加工技術の検討も進んできている。
【0004】
例えば、光学フィルム用途では、ロール状製品の長期間保存並びに輸送時の、フィルム表面への種々の欠陥発生を防止するため、フィルムの両サイドにナーリングと称する凹凸を賦与することも知られている。
ここでナーリングとは、エンボス、ローレットとも称される微小の凹凸であり、ナーリング加工を施すことにより、巻きズレや巻き緩みを防止できるとともに、フィルム同志の密着を防止することにより、フィルム表面に発生する種々の欠陥を抑制するものである。
ナーリング加工による種々の欠陥発生を抑制する効果は、ナーリング凸部の高さ、及びナーリング凸部とその上に巻き重ねられるフィルム表面との接触面積に依存する。
【0005】
しかしながら、ナーリング加工を施す場合、比較的脆いメタクリル系樹脂製フィルムでは、用いるナーリング加工設備や加工条件によっては、フィルム自体の破断やひび割れを生じたり、延伸より付与した光学特性が悪化したりする場合があり、ナーリング加工設備や加工条件の最適化検討が現在も継続されているという現状がある。
【0006】
主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂を主成分とする光学フィルムのナーリング加工性を改善する方法として、例えば、特許文献1では、光学フィルムに対して、ナーリング加工歯の高さの20%未満の高さであり、且つ、その凸部の高さが25μm以下であるナーリング部を有する光学フィルムの製造方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献2では、該光学フィルムを巻き取ったロール状製品において、フィルムにおけるナーリング加工部の面積とナーリング加工部の面積あたり、変形部分の面積比率を特定範囲にしたフィルムが提案されている。
【0008】
これら特許文献では、ナーリング処理時の条件やフィルムにおけるナーリング付与部を特定条件にて行うものであり、ナーリング処理時のフィルム搬送速度が変わったり、製造するフィルムの幅や膜厚が変化した場合等では、必ずしも有効ではないばかりか、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂自体からの改良ではないため、極めて適用範囲が狭くなる可能性が高い。
【0009】
一方、特許文献3では、エンボス金型を用い、ゴム含有アクリル樹脂からなるフィルムをエンボス加工する方法として、熱変形温度より25?50℃高い温度範囲における動的粘弾性特性の一つである貯蔵弾性率が特定の範囲にあり、破断伸度が100%以上であるアクリル樹脂を用いることが提案されている。
しかしながら、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂を主成分とする樹脂組成物は、引張破断伸びが数%?数十%と比較的低いことが知られており、また、その熱変形温度が高いため、エンボス加工温度がかなり高く、また、そのままでは、特許文献3の適用が困難である。
【0010】
さらに、特許文献4では、主鎖に環構造を有するアクリル系樹脂とは異なる靱性の高い非晶性樹脂(例えばポリカーボネート樹脂)と主鎖に環構造を有するアクリル系樹脂とを用い、フィルムの端部がアクリル系樹脂とは異なる非晶性樹脂からなるようにフィルムを調製し、アクリル系樹脂とは異なる非晶性樹脂からなる部分にナーリング処理を施した延伸フィルムが開示されている。
しかしながら、フィルム押出機を2台用い、特殊構造を有するTダイを用い、端部にのみアクリル系樹脂とは異なる樹脂を流すという極めて特殊なフィルム製膜が必要となり、さらには延伸フィルム化を含め、工程が極めて複雑となり、汎用的には利用することが困難になる可能性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2011-224934号公報
【特許文献2】特開2014-071251号公報
【特許文献3】国際公表第2011/074605号
【特許文献4】特開2014-069437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記現状にもかかわらず、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂を含む組成物からなる光学フィルム等の成形体は、その使用用途の拡大に伴う生産(ライン)速度の上昇や薄膜化・長尺ロール巻き製品化が進むことに伴い、生産ライン速度の上昇にも適用でき、優れた品位を有するナーリング加工部を有する光学フィルム等の成形体への需要は増々高まるばかりである。
加えて、将来、表面賦型を施された光学用途等向けの成形体にも適用できる、表面賦型性に優れた主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂組成物の提供への期待も高い。
【0013】
そこで、本発明は、長期保管や輸送に伴う、品位の低下を抑制でき、表面賦型性に優れた成形体が得られるメタクリル系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上述の課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、ライン速度が変化した場合においても、フィルム等成形体の表面にナーリング等の凹凸形状を安定して付与でき、その後のロール状製品化後の輸送や長期保存時にも変形・破損することなく、安定したナーリング効果を発現させるためには、用いるメタクリル系樹脂組成物のガラス転移温度より低い温度域での樹脂特性を考慮した樹脂設計が重要ではないかと考えた。
本発明者らは、ガラス転移温度よりも低い温度域での樹脂特性について、鋭意考察した結果、主鎖に環構造を導入することによりガラス転移温度が上昇したメタクリル系樹脂では、ガラス転移温度よりも低い領域での樹脂の粘弾性挙動がメタクリル系樹脂の主たる構成単位であるメタクリル酸エステル単量体由来の構造単位の立体規則性に影響されているのではないかと考え、フィルム等成形体へのナーリング特性との関連について鋭意検討を重ねた。
その結果、本発明者らは、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂中のメタクリル酸エステル単量体由来の構造単位の立体規則性が、従来より知られているような樹脂調製時のラジカル重合時の重合温度のみならず、環構造を導入するためのメタクリル酸エステル単量体以外の共重合用単量体の種類や含有量、ならびに共重合単量体の添加方法等他の重合条件にも強く影響を受けることを見出したのである。
すなわち、メタクリル系樹脂中のメタクリル酸エステル単量体由来の構造単位の立体規則性を制御することにより、ガラス転移温度より低い温度域での樹脂特性を制御し、加えて、ナーリング加工時の離型性に影響すると思われる樹脂組成物中の低分子量成分の量を制御することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明は以下の通りである。
[1]
N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種である主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物であり、
ビカット軟化温度が120?160℃の範囲にあり、
^(1)H-NMRを用いて求めた、メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位におけるヘテロタクチック部(mr)の積分強度(H)に対するシンジオタクチック部(rr)の積分強度(S)の比(S/H)が1.20?1.50の範囲にあり、
メタノール可溶分の量が、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して、5質量%以下である
ことを特徴とする、メタクリル系樹脂組成物。
[2]
GPCによる測定されるポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量(Mw)が、120,000?200,000である[1]に記載のメタクリル系樹脂組成物
[3]
前記(X)構造単位が、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を含み、
前記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位の含有量が、前記メタクリル系樹脂を100質量%として、5?40質量%である、[1]又は[2]に記載のメタクリル系樹脂組成物。
[4]
前記(X)構造単位が、ラクトン環構造単位を含み、
前記ラクトン環構造単位の含有量が、前記メタクリル系樹脂を100質量%として、5?40質量%である、[1]又は[2]に記載のメタクリル系樹脂組成物。
[5]
光弾性係数の絶対値が、2.0×10^(-12)Pa^(-1)以下である、[1]?[4]のいずれかに記載のメタクリル系樹脂組成物。
[6]
光弾性係数の絶対値が、1.0×10^(-12)Pa^(-1)以下である、[5]に記載のメタクリル系樹脂組成物。
[7]
[1]?[6]のいずれかに記載のメタクリル系樹脂組成物を含み、表裏面の少なくとも一方の面の少なくとも一部にエンボス部を有する、ことを特徴とする光学部品。
[8]
光学フィルムである、[7]に記載の光学部品。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、長期保管や輸送に伴う、品位の低下を抑制でき、表面賦型性に優れた成形体が得られるメタクリル系樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0018】
(メタクリル系樹脂組成物)
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物は、メタクリル系樹脂を含み、必要に応じて、他の熱可塑性樹脂、添加剤を含む。
【0019】
-メタクリル系樹脂-
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物に含まれるメタクリル系樹脂は、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の環構造を主鎖に有する構造単位(X)を含み、メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位も含む。
【0020】
主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂の製造方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法のいずれの重合方法が挙げられる。
本実施形態における製造方法では、重合形式として、例えば、バッチ重合法、セミバッチ重合法、連続重合法のいずれも用いることができる。
本実施形態における製造方法では、ラジカル重合により単量体(詳細は後述)を重合することが好ましい。
【0021】
以下に、特に、主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂における各構造単位について説明すると共に、当該構造単位を有するメタクリル系樹脂及びその製造方法についても記載する。
【0022】
--メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位--
まず、メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位について説明する。
メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位は、例えば、以下に示すメタクリル酸エステル類から選ばれる単量体から形成される。メタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸シクロペンチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロオクチル、メタクリル酸トリシクロデシル、メタクリル酸ジシクロオクチル、メタクリル酸トリシクロドデシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸1-フェニルエチル、メタクリル酸2-フェノキシエチル、メタクリル酸3-フェニルプロピル、メタクリル酸2,4,6-トリブロモフェニル等が挙げられる。
これらの単量体は、単独で用いる場合も2種以上を併用する場合もある。
上記メタクリル酸エステルのうち、得られるメタクリル系樹脂の透明性や耐候性が優れる点で、メタクリル酸メチル及びメタクリル酸ベンジルが好ましい。
メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位は、一種のみ含有していても、二種以上含有していてもよい。
--主鎖に環構造を有する構造単位(X)--
以下に、特に、主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂における構造単位(X)について説明すると共に、当該構造単位(X)を有するメタクリル系樹脂及びその製造方法についても記載する。
---N-置換マレイミド単量体由来の構造単位---
次に、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位について説明する。
N-置換マレイミド単量体由来の構造単位は、下記式(1)で表される単量体及び/又は下記式(2)で表される単量体から選ばれた少なくとも一つとしてよく、好ましくは、下記式(1)及び下記式(2)で表される単量体の両方から形成される。
【0023】
【化1】

式(1)中、R^(1)は、炭素数7?14のアリールアルキル基、炭素数6?14のアリール基のいずれかを示し、R^(2)及びR^(3)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基又は炭素数6?14のアリール基のいずれかを示す。
また、R^(2)がアリール基の場合には、R^(2)は置換基としてハロゲンを含んでいてもよい。
また、R^(1)は、ハロゲン原子、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシ基、ニトロ基、ベンジル基等の置換基で置換されていてもよい。
【0024】
【化2】

式(2)中、R^(4)は、水素原子、炭素数3?12のシクロアルキル基、炭素数1?12のアルキル基のいずれかを示し、R^(5)及びR^(6)はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数6?14のアリール基のいずれかを示す。
【0025】
以下、具体的な例を示す。
式(1)で表される単量体としては、例えば、N-フェニルマレイミド、N-ベンジルマレイミド、N-(2-クロロフェニル)マレイミド、N-(4-クロロフェニル)マレイミド、N-(4-ブロモフェニル)マレイミド、N-(2-メチルフェニル)マレイミド、N-(2-エチルフェニル)マレイミド、N-(2-メトキシフェニル)マレイミド、N-(2-ニトロフェニル)マレイミド、N-(2,4,6-トリメチルフェニル)マレイミド、N-(4-ベンジルフェニル)マレイミド、N-(2,4,6-トリブロモフェニル)マレイミド、N-ナフチルマレイミド、N-アントラセニルマレイミド、3-メチル-1-フェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン、3,4-ジメチル-1-フェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン、1,3-ジフェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン、1,3,4-トリフェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン等が挙げられる。
これらの単量体のうち、得られるメタクリル系樹脂の耐熱性、及び複屈折等の光学的特性が優れる点から、N-フェニルマレイミド及びN-ベンジルマレイミドが好ましい。
これらの単量体は、単独で用いる場合も2種以上を併用して用いる場合もある。
【0026】
式(2)で表される単量体としては、例えば、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-n-プロピルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-n-ブチルマレイミド、N-イソブチルマレイミド、N-s-ブチルマレイミド、N-t-ブチルマレイミド、N-n-ペンチルマレイミド、N-n-ヘキシルマレイミド、N-n-ヘプチルマレイミド、N-n-オクチルマレイミド、N-ラウリルマレイミド、N-シクロペンチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、1-シクロヘキシル-3-メチル-1H-ピロール-2,5-ジオン、1-シクロヘキシル-3,4-ジメチル-1H-ピロール-2,5-ジオン、1-シクロヘキシル-3-フェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン、1-シクロヘキシル-3,4-ジフェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン等が挙げられる。
これらの単量体のうち、メタクリル系樹脂の耐候性が優れる点から、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミドが好ましく、近年光学材料に求められている低吸湿性に優れることから、N-シクロヘキシルマレイミドが特に好ましい。
これらの単量体は、単独で用いる場合も2種以上を併用して用いることもできる。
【0027】
本実施形態のメタクリル系樹脂において、式(1)で表される単量体と式(2)で表される単量体とを併用して用いることが、高度に制御された複屈折特性を発現させ得る上で特に好ましい。
式(1)で表される単量体由来の構造単位の含有量(B1)の、式(2)で表される単量体由来の構造単位の含有量(B2)に対するモル割合、(B1/B2)は、好ましくは0超15以下、より好ましくは0超10以下である。モル割合(B1/B2)がこの範囲にあるとき、本実施形態のメタクリル系樹脂は透明性を維持し、黄変を伴わず、また耐環境性を損なうことなく、良好な耐熱性と良好な光弾性特性を発現する。
【0028】
N-置換マレイミド単量体由来の構造単位の含有量としては、得られる組成物が本実施形態のビカット軟化点(後述)及びS/H比(後述)の範囲を満たすものであれば特に限定されないが、メタクリル系樹脂を100質量%として、好ましくは5?40質量%の範囲、より好ましくは5?35質量%の範囲である。
この範囲内にあるとき、メタクリル系樹脂はより十分な耐熱性改良効果が得られ、また、耐候性、低吸水性、光学特性についてより好ましい改良効果が得られる。なお、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位の含有量が40質量%以下とすることが、重合反応時に単量体成分の反応性が低下し未反応で残存する単量体量が多くなることによるメタクリル系樹脂の物性低下を防ぐのに有効である。
【0029】
本実施形態におけるN-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲で、メタクリル酸エステル単量体及びN-置換マレイミド単量体と共重合可能な他の単量体由来の構造単位を含有していてもよい。
例えば、共重合可能な他の単量体としては、芳香族ビニル;不飽和ニトリル;シクロヘキシル基、ベンジル基、又は炭素数1?18のアルキル基を有するアクリル酸エステル;グリシジル化合物;不飽和カルボン酸類を挙げることができる。上記芳香族ビニルとしては、スチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。上記不飽和ニトリルとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、等が挙げられる。また、上記アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル等が挙げられる。また、グリシジル化合物としては、グリシジルアクリレート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。不飽和カルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及びこれらの半エステル化物又は無水物等が挙げられる。
上記共重合可能な他の単量体由来の構造単位は、一種のみ有していてもよく、二種以上を有していてもよい。
【0030】
これら共重合可能な他の単量体由来の構造単位の含有量としては、メタクリル系樹脂を100質量%として、0?10質量%であることが好ましく、0?9質量%であることがより好ましく、0?8質量%であることがさらに好ましい。
他の単量体由来の構造単位の含有量がこの範囲にあると、主鎖に環構造を導入する本来の効果を損なわずに、樹脂の成形加工性や機械的特性を改善できるため好ましい。
【0031】
主鎖にN-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂の製造方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法のいずれの重合方法が挙げられ、好ましくは懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法であり、さらに好ましくは溶液重合法である。
本実施形態における製造方法では、重合形式として、例えば、バッチ重合法、セミバッチ法、連続重合法のいずれも用いることができる。
本実施形態における製造方法では、ラジカル重合により単量体を重合することが好ましい。
【0032】
以下、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂(以下、「マレイミド共重合体」と記す場合がある)の製造方法の一例として、溶液重合法を用いてラジカル重合で製造する場合について、具体的に説明する。
本実施形態においては、単量体の一部を重合開始前に反応器内に仕込み、重合開始剤を添加することによって重合を開始した後に、単量体の残部を供給する方法、いわゆるセミバッチ重合法(半回分法とも称される)を好ましく用いることができる。この方法を採用することにより、得られる重合物の分子量分布や組成分布を制御しやすくなる傾向にある。
【0033】
マレイミド共重合体の製造において、初期仕込において用いられる(重合開始時における)単量体の量と重合開始後に添加する単量体の量と比(重合開始時の単量体の量:重合開始後に添加する単量体の量)は、質量比で、好ましくは1:9?8:2の範囲であり、より好ましくは2:8?7.5:2.5の範囲であり、さらに好ましくは3:7?5:5の範囲である。
単量体の量比を上記範囲とすれば、共重合時に利用する各単量体の共重合反応性を考慮し、初期仕込における単量体の混合組成を適宜選択することが可能となり、得られる重合物の組成分布をより制御しやすくなる傾向にある。
【0034】
用いる重合溶媒としては、重合により得られるマレイミド共重合体の溶解度を高め、ゲル化防止等の目的から反応液の粘度を適切に保てるものであれば、特に制限はない。
具体的な重合溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素;メチルイソブチルケトン、ブチルセロソルブ、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;ジメチルホルムアミド、2-メチルピロリドン等の極性溶媒を用いることができる。
また、重合時における重合生成物の溶解を阻害しない範囲で、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールを重合溶媒として併用してもよい。
【0035】
重合時の溶媒量としては、重合が進行し、生産時に共重合体や使用モノマーの析出等が起こらず、容易に除去できる量であれば、特に制限はないが、例えば、配合する単量体の総量を100質量部とした場合に、10?200質量部とすることが好ましい。より好ましくは25?200質量部、さらに好ましくは50?200質量部、さらにより好ましくは50?150質量部である。
【0036】
重合温度としては、重合が進行する温度であれば特に制限はないが、生産性の観点から50?200℃であることが好ましく、より好ましくは60?180℃である。さらにメタクリル酸メチル単量体由来の構造単位が有する立体規則性の観点からは、好ましくは70?130℃、さらにより好ましくは80?120℃である。
【0037】
また、重合時間については、必要な転化率にて、必要な重合度を得ることができる時間であれば特に限定はないが、生産性等の観点から0.5?10時間であることが好ましく、より好ましくは1?8時間である。
【0038】
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤や連鎖移動剤を添加して重合してもよい。
【0039】
重合開始剤としては、一般にラジカル重合において用いられる任意の開始剤を使用することができ、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルパーオキシイソノナノエート、1,1-ジt-ブチルパーオキシシクロヘキサン等の有機過酸化物;2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物;等を挙げることができる。
これらは、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
重合開始剤の添加量としては、重合に用いる単量体の総量を100質量部とした場合に、0.01?1質量部としてよく、好ましくは0.05?0.5質量部の範囲である。
【0040】
これらの重合開始剤は、重合反応が進行中であれば、いずれの段階に添加してもよい。
本実施形態では、反応系内に残存する未反応モノマー総量に対する重合開始剤より発生するラジカル総量の割合が、常時一定値以下となるように、開始剤の種類、開始剤量、及び重合温度等を適宜選択することが好ましい。
特に、本実施形態では、特に重合開始剤の添加開始から添加終了までの時間(重合開始剤添加時間)の前半に、少なくとも一度、重合開始剤の単位時間当たりの添加量を、添加開始時の単位時間当たりの添加量よりも小さくすることが好ましい。
この方法を採用することにより、重合後期におけるオリゴマーや低分子量体の生成量を抑制したり、重合時の過熱を抑制して重合の安定性を図ったりすることができる。
【0041】
連鎖移動剤としては、一般的なラジカル重合において用いる連鎖移動剤が使用でき、例えば、n-ブチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-デシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸2-エチルヘキシル等のメルカプタン化合物;四塩化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム等のハロゲン化合物;α-メチルスチレンダイマー、α-テルピネン、ジペンテン、ターピノーレン等の不飽和炭化水素化合物;が挙げられる。
これらは、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
これらの連鎖移動剤は、重合反応が進行中であれば、いずれの段階に添加してもよく、特に限定されるものではない。
連鎖移動剤の添加量としては、重合に用いる単量体の総量を100質量部とした場合に、0.01?1質量部としてよく、好ましくは0.05?0.5質量部である。
【0042】
溶液重合においては、重合溶液中の溶存酸素濃度を出来る限り低減させておくことが重要であり、例えば、溶存酸素濃度は、10ppm以下の濃度であることが好ましい。溶存酸素濃度は、例えば、溶存酸素計 DOメーターB-505(飯島電子工業株式会社製)を用いて測定することができる。溶存酸素濃度を低下する方法としては、重合溶液中に不活性ガスをバブリングする方法、重合前に重合溶液を含む容器中を不活性ガスで0.2MPa程度まで加圧した後に放圧する操作を繰り返す方法、重合溶液を含む容器中に不活性ガスを通ずる方法等の方法を適宜選択することができる。
【0043】
溶液重合により得られる重合液から重合物を回収する方法としては、特に制限はないが、例えば、重合により得られた重合生成物が溶解しないような炭化水素系溶媒やアルコール系溶媒等の貧溶媒が過剰量存在する中に重合液を添加した後、ホモジナイザーによる処理(乳化分散)を行い、未反応単量体について、液-液抽出、固-液抽出する等の前処理を施すことで、重合液から分離する方法;あるいは、脱揮工程と呼ばれる工程を経由して重合溶媒や未反応の単量体を分離し、重合生成物を回収する方法;等が挙げられる。
【0044】
ここで、脱揮工程とは、重合溶媒、残存単量体、反応副生成物等の揮発分を、加熱・減圧条件下で、除去する工程をいう。
脱揮工程に用いる装置としては、例えば、管状熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置;神鋼環境ソリューション社製ワイブレン、及びエクセバ、日立製作所製コントラ及び傾斜翼コントラ等の薄膜蒸発機;脱揮性能を発揮するに十分な滞留時間と表面積とを有するベント付き押出機;等を挙げることができる。
これらの中からいずれか2つ以上の装置を組み合わせた脱揮装置を用いた脱揮工程等も利用することができる。
【0045】
脱揮装置での処理温度は、好ましくは150?350℃、より好ましくは170?300℃、さらに好ましくは200?280℃である。この温度が150℃以上であると、残存揮発分が多くなることを防ぐのに有効である。逆に、この温度が350℃以下であると、得られるメタクリル系樹脂の着色や分解が起こる恐れが少ない。
脱揮装置内における真空度としては、10?500Torrの範囲としてよく、中でも、10?300Torrの範囲が好ましい。この真空度が500Torr以下であると、揮発分が残存しにくい傾向にあり、真空度が10Torr以上であると、工業的な実施がより容易である。
処理時間としては、残存揮発分の量により適宜選択されるが、得られるメタクリル系樹脂の着色や分解を抑えるためには、短いほど好ましい。
【0046】
脱揮工程を経て回収された重合物は、造粒工程と呼ばれる工程にて、ペレット状に加工される。
【0047】
造粒工程では、溶融状態の樹脂を多孔ダイよりストランド状に押出し、コールドカット方式、空中ホットカット方式、水中ストランドカット方式、及びアンダーウオーターカット方式にて、ペレット状に加工する。
【0048】
なお、脱揮装置としてベント付押出機を採用した場合には、脱揮工程と造粒工程とを兼ねてもよい。
【0049】
本実施形態においては、組成物を調製する前に、その骨格として、少なくとも前述の式(1)で表される単量体由来の構造と前述の式(2)で表される単量体由来の構造とを含み、異なる重量平均分子量及び立体規則性を有するメタクリル系樹脂を2種以上混合して調製することも好ましい例の一つである。
【0050】
ここでのメタクリル系樹脂の立体規則性とは、^(1)H-NMRを用いて求めた、メタクリル系樹脂を構成するメタクリル酸エステル単量体由来の構造単位における、ヘテロタクチック部(mr)の積分強度(H)に対するシンジオタクチック部(rr)の積分強度(S)の比(S/H)をもって表すものである。
【0051】
本実施形態において、2種以上混合し調製する際に用いるメタクリル系樹脂の示差屈折率検出器を用い測定した重量平均分子量(Mw)の範囲としては、それぞれ、70,000?800,000の範囲から任意に選択してよい。
重量平均分子量(Mw)が低いもの(以下、「低分子量成分」と記す)の場合、その重量平均分子量は、70,000?150,000の範囲であることが好ましく、なかでも100,000?150,000の範囲であることがさらに好ましい。また、上述の立体規則性の指標である(S/H)は、1.10?1.40の範囲であることが好ましく、なかでも、1.15?1.35の範囲であることが好ましい。
重量平均分子量(Mw)が高いもの(以下、「高分子量成分」と記す)の場合、その重量平均分子量は、220,000?800,000の範囲であることが好ましく、なかでも220,000?600,000の範囲であることがさらに好ましい。また、上述の立体規則性の指標である(S/H)は、1.30?1.50の範囲であることが好ましく、なかでも、1.35?1.50の範囲であることが好ましい。
本実施形態における低分子量成分と高分子量成分との混合比率としては、特に制限はないが、低分子量成分5?95質量部、高分子量成分95?5質量部の範囲から適宜選択することができる。
【0052】
上述の通りメタクリル系樹脂を2種以上混合することにより、その表面にナーリング等の賦型処理が施された光学フィルム等成形体向けに好適な樹脂組成物を提供できるようになる。
【0053】
本実施形態において、重量平均分子量(Mw)の異なるメタクリル系樹脂を2種以上混合する方法としては、特に制限はないが、前述の重合反応により得られた異なる重量平均分子量を有する重合物を2種以上含む溶液を液相にて混合し、その後、脱揮工程の処理や貧溶媒の添加による析出処理を行う方法;押出機等溶融混練装置を用いて混合する法;等を採用することができる。特に高い分子量を有するメタクリル系樹脂を用いる場合には、重合反応により得られた重合物を2種以上含む溶液を液相にて混合し、その後、脱揮工程の処理や貧溶媒の添加による析出処理を行う方法を用いることが好ましい。
【0054】
---グルタルイミド系構造単位---
本実施形態におけるグルタルイミド系構造単位は、下記一般式(3)で表されるものとしてよい。
【化3】

上記一般式(3)において、好ましくは、R^(7)及びR^(8)は、それぞれ独立して、水素又はメチル基であり、R^(9)は、水素、メチル基、ブチル基、シクロヘキシル基のいずれかであり、より好ましくは、R^(7)は、メチル基であり、R^(8)は、水素であり、R^(9)は、メチル基である。
【0055】
グルタルイミド系構造単位は、単一の種類のみを含んでいてもよいし、複数の種類を含んでいてもよい。
【0056】
グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂において、グルタルイミド系構造単位の含有量については、本実施形態の組成物として好ましいビカット軟化点(後述)及びS/H比(後述)の範囲を満たすものであれば特に制限はないが、メタクリル系樹脂を100質量%として、好ましくは5?70質量%の範囲、より好ましくは5?60質量%の範囲である。
グルタルイミド系構造単位の含有量が上記範囲にあると、成形加工性、耐熱性、及び光学特性の良好な樹脂が得られることから好ましい。
【0057】
グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂は、必要に応じて、芳香族ビニル単量体単位をさらに含んでいてもよい。
芳香族ビニル単量体としては特に限定されないが、スチレン、α-メチルスチレンが挙げられ、スチレンが好ましい。
【0058】
グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂における芳香族ビニル単位の含有量としては、特に限定されないが、メタクリル系樹脂を100質量%として、0?10質量%の範囲であることが好ましく、0?9質量%であることがより好ましく、0?8質量%であることがさらに好ましい。
芳香族ビニル単位の含有量が上記範囲にあると、耐熱性と優れた光弾性特性との両立が可能となり好ましい。
【0059】
主鎖にグルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂は、例えば、特開2006-249202号公報、特開2007-009182号公報、特開2007-009191号公報、特開2011-186482号公報、再公表特許2012/114718号公報等に記載されている、グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂であり、当該公報に記載されている方法により形成することができる。
【0060】
---ラクトン環構造単位---
本実施形態におけるラクトン環構造単位としては、環構造の安定性に優れることから6員環であることが好ましい。
6員環であるラクトン環構造単位としては、例えば、下記一般式(4)に示される構造が特に好ましい。
【化4】

上記一般式(4)において、R^(10)、R^(11)及びR^(12)は、互いに独立して、水素原子、又は炭素数1?20の有機残基である。
有機残基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1?20の飽和脂肪族炭化水素基(アルキル基等);エテニル基、プロペニル基等の炭素数2?20の不飽和脂肪族炭化水素基(アルケニル基等);フェニル基、ナフチル基等の炭素数6?20の芳香族炭化水素基(アリール基等);、これら飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基における水素原子の一つ以上が、ヒドロキシ基、カルボキシル基、エーテル基、エステル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;等が挙げられる。
【0061】
ラクトン環構造は、例えば、ヒドロキシ基を有するアクリル酸系単量体と、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル単量体とを共重合して、分子鎖にヒドロキシ基とエステル基又はカルボキシル基とを導入した後、これらヒドロキシ基とエステル基又はカルボキシル基との間で、脱アルコール(エステル化)又は脱水縮合(以下、「環化縮合反応」ともいう)を生じさせることにより形成することができる。
【0062】
重合に用いるヒドロキシ基を有するアクリル酸系単量体としては、例えば、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキル(例えば、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸n-ブチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸t-ブチル)、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸アルキル等が挙げられ、好ましくは、ヒドロキシアリル部位を有する単量体である2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸や2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキルであり、特に好ましくは2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルである。
【0063】
主鎖にラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂におけるラクトン環構造単位の含有量は、本実施形態の組成物として好ましいビカット軟化点(後述)及びS/H比(後述)の範囲を満たすものであれば特に制限はないが、メタクリル系樹脂100質量%に対して、5?40質量%であることが好ましく、より好ましくは5?35質量%の範囲である。
ラクトン環構造単位の含有量がこの範囲にあると、成形加工性を維持しつつ、耐溶剤性向上や表面硬度向上等の環構造導入効果が発現できる。
なお、メタクリル系樹脂におけるラクトン環構造の含有率は、前述の、特許文献記載の方法を用いて決定できる。
【0064】
ラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂は、上述したメタクリル酸エステル単量体及びヒドロキシ基を有するアクリル酸系単量体と共重合可能な他の単量体由来の構成単位を有していてもよい。
このような共重合可能な他の単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、α-ヒドロキシメチルスチレン、α-ヒドロキシエチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタリルアルコール、アリルアルコール、エチレン、プロピレン、4-メチル-1-ペンテン、酢酸ビニル、2-ヒドロキシメチル-1-ブテン、メチルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカルバゾール等の重合性二重結合を有する単量体等が挙げられる。
これら他のモノマー(構成単位)は、1種のみを有していてもよいし2種以上有していてもよい。
これら共重合可能な他の単量体由来の構造単位の含有量としては、メタクリル系樹脂100質量%に対して、0?10質量%の範囲であることが好ましく、0?9質量%の範囲であることがより好ましく、0?8質量%であることがさらに好ましい。
本実施形態におけるメタクリル系樹脂は、上記の共重合可能な他の単量体由来の構造単位を一種のみ有していてもよく、二種以上を有していてもよい。
【0065】
主鎖にラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂は、例えば、特開2001-151814号公報、特開2004-168882号公報、特開2005-146084号公報、特開2006-96960号公報、特開2006-171464号公報、特開2007- 63541号公報、特開2007-297620号公報、特開2010-180305号公報等に記載されている方法により形成することができる。
【0066】
ラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂の製造方法としては、重合後に環化反応によりラクトン環構造を形成させる方法が用いられるが、環化反応を促進させる上で、溶媒を使用する溶液重合法にてラジカル重合により単量体を重合するが好ましい。
本実施形態における製造方法では、重合形式として、例えば、バッチ重合法、セミバッチ法、連続重合法のいずれも用いることができる。
【0067】
以下、製法方法の一例として、溶液重合法を用いてラジカル重合で製造する場合について、具体的に説明する。
本実施形態においては、単量体の一部を重合開始前に反応器内に仕込み、重合開始剤を添加することによって重合を開始した後に、単量体の残部を供給する方法、いわゆるセミバッチ重合法(半回分法とも称される)が好ましく用いることができる。この方法を採用することにより、得られる重合物の分子量分布や組成分布を制御しやすくなる傾向にある。
【0068】
ラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂の製造において、初期仕込において用いられる(重合開始時における)単量体の量と重合開始後に添加する単量体の量と比(重合開始時の単量体の量:重合開始後に添加する単量体の量)は、質量比で、好ましくは1:9?8:2の範囲であり、より好ましくは2:8?7.5:2.5の範囲であり、さらに好ましくは3:7?5:5の範囲である。
単量体の量比を上記範囲とすれば、共重合時に利用する各単量体の共重合反応性を考慮して、初期仕込における単量体の混合組成を適宜選択することが可能となり、得られる重合物の組成分布をより制御しやすくなる傾向にある。
【0069】
重合に用いる溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;等が挙げられる。
これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0070】
重合時の溶媒量としては、重合が進行し、ゲル化を抑制できる条件であれば特に制限はないが、例えば、配合する単量体の総量を100質量部とした場合に、50?200質量部とすることが好ましく、より好ましくは100?200質量部である。
【0071】
重合液のゲル化を充分に抑制し、重合後の環化反応を促進するためには、重合後に得られる反応混合物中における生成した重合体の濃度が50質量%以下になるように重合を行うことが好ましく、重合溶媒を反応混合物に適宜添加して50質量%以下となるように制御することが好ましい。
重合溶媒を反応混合物に適宜添加する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、連続的に重合溶媒を添加してもよいし、間欠的に重合溶媒を添加してもよい。
添加する重合溶媒は、1種のみの単一溶媒であっても2種以上の混合溶媒であってもよい。
【0072】
重合温度としては、重合が進行する温度であれば特に制限はないが、生産性の観点から50?200℃であることが好ましく、より好ましくは60?180℃である。さらにメタクリル酸メチル単量体由来の構造単位が有する立体規則性の観点からは、好ましくは70?130℃、さらにより好ましくは80?120℃である。
【0073】
重合時間としては、目的の転化率が満たされれば、特に制限されないが、生産性等の観点から、0.5?10時間であることが好ましく、より好ましくは1?8時間である。
【0074】
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤や連鎖移動剤を添加して重合してもよい。
重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、前記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル樹脂の調製方法に開示した重合開始剤等が利用できる。
これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
重合開始剤の使用量は、単量体の組合せや反応条件等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、重合に用いる単量体の総量を100質量部とした場合に、0.05?1質量部としてよい。
【0075】
これらの重合開始剤は、重合反応が進行中であれば、いずれの段階に添加してもよい。
本実施形態では、反応系内に残存する未反応モノマー総量に対する重合開始剤より発生するラジカル総量の割合が、常時一定値以下となるように、開始剤の種類、開始剤量、及び重合温度等を適宜選択することが好ましい。
特に、本実施形態では、特に重合開始剤の添加開始から添加終了までの時間(重合開始剤添加時間)の前半に、少なくとも一度、重合開始剤の単位時間当たりの添加量を、添加開始時の単位時間当たりの添加量よりも小さくすることが好ましい。
この方法を採用することにより、重合後期におけるオリゴマーや低分子量成分の生成を抑制できたり、重合時の過熱抑制による重合の安定性を図ったりすることできる。
【0076】
連鎖移動剤としては、一般的なラジカル重合において用いる連鎖移動剤が使用でき、例えば、前記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル樹脂の調製方法に開示した連鎖移動剤等が利用できる。
これらは、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
これらの連鎖移動剤は重合反応が進行中であれば、いずれの段階に添加してもよく、特に限定されるものではない。
連鎖移動剤の使用量については、使用する重合条件において所望の重合度が得られる範囲であれば、特に限定されるものではないが、好ましくは重合に用いる単量体の総量を100質量部とした場合に、0.05?1質量部の範囲としてよい。
【0077】
本実施形態におけるラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂は、上記重合反応終了後、環化反応を行うことにより得ることができる。そのため、重合反応液から重合溶媒を除去することなく、溶媒を含んだ状態で、ラクトン環化反応に供することが好ましい。
重合により得られた共重合体は、加熱処理されることにより、共重合体の分子鎖中に存在するヒドロキシル基(水酸基)とエステル基との間での環化縮合反応を起こし、ラクトン環構造を形成する。
【0078】
ラクトン環構造形成の加熱処理の際、環化縮合によって副生し得るアルコールを除去するための真空装置あるいは脱揮装置を備えた反応装置、脱揮装置を備えた押出機等を用いることもできる。
ラクトン環構造形成の際、必要に応じて、環化縮合反応を促進するために、環化縮合触媒を用いて加熱処理してもよい。
環化縮合触媒の具体的な例としては、例えば、亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル等の亜リン酸モノアルキルエステル、ジアルキルエステル又はトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2-エチルヘキシル、リン酸オクチル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ-2-エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル等のリン酸モノアルキルエステル、ジアルキルエステル又はトリアルキルエステル;等が挙げられる。
これらは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
環化縮合触媒の使用量としては、特に限定されるものではないが、例えば、メタクリル系樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01?3質量部であり、より好ましくは0.05?1質量部である。
触媒の使用量が0.01質量部以上であると、環化縮合反応の反応率の向上に有効であり、触媒の使用量が3質量部以下であると、得られた重合体が着色することや、重合体が架橋して、溶融成形が困難になることを防ぐのに有効である。
【0079】
環化縮合触媒の添加時期としては、特に限定されるものではなく、例えば、環化縮合反応初期に添加してもよいし、反応途中に添加してもよいし、その両方で添加してもよい。
【0080】
溶媒の存在下に環化縮合反応を行う際に、同時に脱揮を行うことも好ましく用いられる。
環化縮合反応と脱揮工程とを同時に行う場合に用いる装置については、特に限定されるものではないが、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置やベント付き押出機、また、脱揮装置と押出機を直列に配置したものが好ましく、ベント付き二軸押出機がより好ましい。
【0081】
用いるベント付き二軸押出機としては、複数のベント口を有するベント付き押出機が好ましい。
ベント付き押出機を用いる場合の反応処理温度は、好ましくは150?350℃、より好ましくは200?300℃である。反応処理温度が150℃以上であると、環化縮合反応が不充分となって残存揮発分が多くなることを防ぐのに有効であり、反応処理温度が350℃以下であると、得られた重合体の着色や分解を抑制するのに有効である。
ベント付き押出機を用いる場合の真空度としては、好ましくは10?500Torr、より好ましくは10?300Torrである。真空度が500Torr以下であると、揮発分が残存しにくい傾向にある。逆に、真空度が10Torr以上であると、工業的な実施が比較的容易である。
【0082】
上記の環化縮合反応を行う際に、残存する環化縮合触媒を失活させる目的で、造粒時に有機酸のアルカリ土類金属及び/又は両性金属塩を添加することも好ましい。
有機酸のアルカリ土類金属及び/又は両性金属塩としては、例えば、カルシウムアセチルアセテート、ステアリン酸カルシウム、酢酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、2-エチルヘキシル酸亜鉛等を用いることができる。
環化縮合反応工程を経た後、メタクリル系樹脂は、多孔ダイを附帯した押出機からストランド状に溶融し押出し、コールドカット方式、空中ホットカット方式、水中ストランドカット方式、及びアンダーウオーターカット方式にてペレット状に加工する。
【0083】
ここで、本実施形態における好適なメタクリル系樹脂について述べる。
【0084】
本実施形態においては、組成物を調製する前に、その骨格として、少なくとも前述の式(4)で表される単量体由来の構造を含み、異なる重量平均分子量及び立体規則性を有するメタクリル系樹脂を2種以上混合して調製することも好ましい例の一つである。
ここでのメタクリル系樹脂の立体規則性とは、^(1)H-NMRを用いて求めた、メタクリル系樹脂を構成するメタクリル酸エステル単量体由来の構造単位における、ヘテロタクチック部(mr)の積分強度(H)に対するシンジオタクチック部(rr)の積分強度(S)の比(S/H)をもって表すものである。
【0085】
本実施形態において、2種以上混合し調製する際に用いるメタクリル系樹脂の示差屈折率検出器を用い測定した重量平均分子量(Mw)の範囲としては、それぞれ、70,000?800,000の範囲から任意に選択してよい。
重量平均分子量(Mw)が低いもの(以下、「低分子量成分」と記す)の場合、その重量平均分子量は、70,000?150,000の範囲であることが好ましく、なかでも100,000?150,000の範囲であることがさらに好ましい。また、上述の立体規則性指標である(S/H)は、1.10?1.40の範囲であることが好ましい。
重量平均分子量(Mw)が高いもの(以下、「高分子量成分」と記す)の場合、その重量平均分子量は、200,000?800,000の範囲であることが好ましく、なかでも220,000?600,000の範囲であることがさらに好ましい。また、上述の立体規則性の指標である(S/H)は、1.30?1.50の範囲であることが好ましい。
本実施形態における低分子量成分と高分子量成分との混合比率としては、特に制限はないが、低分子量成分5?95質量部、高分子量成分95?5質量部の範囲から適宜選択することができる。
【0086】
上述の通りメタクリル系樹脂を2種以上混合することにより、その表面にナーリング等賦型処理が施された光学フィルム等成形体向けに好適な樹脂組成物を提供できるようになる。
【0087】
本実施形態において、重量平均分子量(Mw)及び立体規則性の異なるメタクリル系樹脂を2種以上混合する方法としては、特に制限はないが、前述の重合反応により得られた異なる重量平均分子量を有する重合物を2種以上含む溶液を液相にて混合し、その後、脱揮工程の処理や貧溶媒の添加による析出処理を行う方法;押出機等溶融混練装置を用いて混合する法;等を採用することができる。特に高い分子量を有するメタクリル系樹脂を用いる場合には、重合反応により得られた重合物を2種以上含む溶液を液相にて混合し、その後、脱揮工程の処理や貧溶媒の添加による析出処理を行う方法を用いることが好ましい。
【0088】
本実施形態におけるメタクリル系樹脂は、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、ラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の環構造単位を有することが好ましく、その中でも、特に、他の熱可塑性樹脂をブレンドすること無く、光弾性係数等の光学特性を高度に制御しやすい点から、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有することが特に好ましい。
【0089】
-他の熱可塑性樹脂-
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物を調製する際には、本実施形態の目的を損なわず、複屈折率の調整や可撓性を向上させる目的で、他の熱可塑性樹脂を配合することもできる。
他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリブチルアクリレート等のポリアクリレート類;ポリスチレン、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-ブチルアクリレート共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンブロック共重合体等のスチレン系ポリマー等の芳香族ビニル系樹脂;さらには、例えば、特開昭59-202213号公報、特開昭63-27516号公報、特開昭51-129449号公報、特開昭52-56150号公報等に記載の、3?4層構造のアクリル系ゴム粒子;特公昭60-17406号公報、特開平8-245854公報に開示されているゴム質重合体;国際公開第2014-002491号に記載の、多段重合で得られるメタクリル系ゴム含有グラフ卜共重合体粒子;等が挙げられる。
この中でも、良好な光学特性と機械的特性とを得る観点からは、スチレン-アクリロニトリル共重合体や、主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂と相溶し得る組成からなるグラフト部をその表面層に有するゴム含有グラフト共重合体粒子が好ましい。
前述のアクリル系ゴム粒子、メタクリル系ゴム含有グラフ卜共重合体粒子、及びゴム質重合体の平均粒子径としては、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物より得られるフィルムの衝撃強度及び光学特性等を高める観点から、0.03?1μmであることが好ましく、より好ましくは0.05μm?0.5μmである。
【0090】
他の熱可塑性樹脂の含有量としては、メタクリル系樹脂を100質量部とした場合に、好ましくは0?50質量部、より好ましくは0?25質量部の範囲であることが好ましい。
【0091】
-紫外線吸収剤-
紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、その極大吸収波長を280?380nmに有する紫外線吸収剤であることが好ましく、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾエート系化合物、フェノール系化合物、オキサゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、ベンズオキサジノン系化合物等が挙げられる。
これら紫外線吸収剤は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。2種類の構造の異なる紫外線吸収剤を併用することにより、広い波長領域の紫外線を吸収することができる。
【0092】
ベンゾトリアゾール系化合物としては、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]、2-(3,5-ジ-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-p-クレゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2-ベンゾトリアゾール-2-イル-4,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2-[5-クロロ(2H)-ベンゾトリアゾール-2-イル]-4-メチル-6-t-ブチルフェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ジ-t-ブチルフェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-メチル-6-(3,4,5,6-テトラヒドロフタルイミジルメチル)フェノール、メチル3-(3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート/ポリエチレングリコール300の反応生成物、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(直鎖及び側鎖ドデシル)-4-メチルフェノール、2-(5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ-C7-9側鎖及び直鎖アルキルエステルが挙げられる。
これらの中でも、分子量が400以上のベンゾトリアゾール系化合物が好ましく、例えば、市販品の場合、Kemisorb(登録商標)2792(ケミプロ化成製)、アデカスタブ(登録商標)LA31(株式会社ADEKA製)、チヌビン(登録商標)234(BASF社製)等が挙げられる。
【0093】
ベンゾトリアジン系化合物としては、2-モノ(ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン化合物、2,4-ビス(ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン化合物、2,4,6-トリス(ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン化合物が挙げられ、具体的には、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-エトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-(2-ヒドロキシ-4-プロポキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-(2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ドデシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ベンジルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ブトキシエトキシ)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル)-6-(2,4-ジブトキシフェニル)-1,3-5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-エトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-プロポキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ドデシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ベンジルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-エトキシエトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ブトキシエトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-プロポキシエトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-メトキシカルボニルプロピルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-エトキシカルボニルエチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-(1-(2-エトキシヘキシルオキシ)-1-オキソプロパン-2-イルオキシ)フェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-3-メチル-4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-3-メチル-4-エトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-3-メチル-4-プロポキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-3-メチル-4-ブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-3-メチル-4-ブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-3-メチル-4-ヘキシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-3-メチル-4-オクチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-3-メチル-4-ドデシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-3-メチル-4-ベンジルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-3-メチル-4-エトキシエトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-3-メチル-4-ブトキシエトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-3-メチル-4-プロポキシエトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-3-メチル-4-メトキシカルボニルプロピルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-3-メチル-4-エトキシカルボニルエチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-3-メチル-4-(1-(2-エトキシヘキシルオキシ)-1-オキソプロパン-2-イルオキシ)フェニル)-1,3,5-トリアジン等が挙げられる。
中でも、ベンゾトリアジン系化合物としては、市販品を使用してもよく、例えばKemisorb102(ケミプロ化成社製)、LA-F70(株式会社ADEKA製)、LA-46(株式会社ADEKA製)、チヌビン405(BASF社製)、チヌビン460(BASF社製)、チヌビン479(BASF社製)、チヌビン1577FF(BASF社製)等を用いることができる。
その中でも、アクリル系樹脂との相溶性が高く紫外線吸収特性が優れている点から、2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-[2-ヒドロキシ-4-(3-アルキルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)-5-α-クミルフェニル]-s-トリアジン骨格(「アルキルオキシ」は、オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ等の長鎖アルキルオキシ基を意味する)を有する紫外線吸収剤がさらに好ましく用いることができる。
【0094】
紫外線吸収剤としては、特に、樹脂との相溶性、加熱時の揮散性の観点から、分子量400以上のベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物が好ましく、また、紫外線吸収剤自体の押出加工時加熱による分解抑制の観点から、ベンゾトリアジン系化合物が特に好ましい。
【0095】
また、前記紫外線吸収剤の融点(Tm)は、80℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、130℃以上であることがさらに好ましく、160℃以上であることがさらにより好ましい。
前記紫外線吸収剤は、23℃から260℃まで20℃/分の速度で昇温した場合の重量減少率が50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、15%以下であることがさらに好ましく、10%以下であることがさらにより好ましく、5%以下であることがよりさらに好ましい。
【0096】
前記紫外線吸収剤の配合量は、耐熱性、耐湿熱性、熱安定性、及び成形加工性を阻害せず、本発明の効果を発揮する量であれば特に制限はないが、メタクリル系樹脂100質量部に対して、0.1?5質量部であることが好ましく、好ましくは0.2?4質量部以下、より好ましくは0.25?3質量部であり、さらにより好ましくは0.3?3質量部である。この範囲にあると、紫外線吸収性能、フィルム成形性、薄膜フィルム対応性等のバランスに優れる。
【0097】
-酸化防止剤-
本実施形態に係るメタクリル系樹脂組成物には、本実施形態のメタクリル系樹脂が有する特性を発揮させる上で、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等から選ばれる少なくとも一種の酸化防止剤を添加することが好ましい。
これらは1種でも2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0098】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の具体例としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,3’,3’’,5,5’,5’’-ヘキサ-tert-ブチル-a,a’,a’’-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、4,6-ビス(ドデシルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1,3,5-トリス[(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-キシリン)メチル]-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミン)フェノール、アクリル酸2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニル、アクリル酸2-tert-ブチル-4-メチル-6-(2-ヒドロキシ-3-tert-ブチル-5-メチルベンジル)フェニル等が挙げられる。
特に、ペンタエリスリトールテラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、アクリル酸2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルが好ましい。
【0099】
また、前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、市販のヒンダードフェノール系酸化防止剤を使用してもよく、このような市販のヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、イルガノックス(登録商標)1010(Irganox 1010:ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、BASF社製)、イルガノックス1076(Irganox 1076:オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、BASF社製)、イルガノックス1330(Irganox 1330:3,3’,3’’,5,5’,5’’-ヘキサ-t-ブチル-a,a’,a’’-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、BASF社製)、イルガノックス3114(Irganox3114:1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、BASF社製)、イルガノックス3125(Irganox 3125、BASF社製)、アデカスタブAO-60(ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ADEKA社製)、アデカスタブAO-80(3、9-ビス{2-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルキシオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、ADEKA社製)、スミライザー(登録商標)BHT(Sumilizer BHT、住友化学製)、シアノックス1790(Cyanox(登録商標)1790、サイテック製)、スミライザーGA-80(Sumilizer GA-80、住友化学製)、スミライザーGS(Sumilizer GS:アクリル酸2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニル、住友化学製)、スミライザーGM(Sumilizer GM:アクリル酸2-tert-ブチル-4-メチル-6-(2-ヒドロキシ-3-tert-ブチル-5-メチルベンジル)フェニル、住友化学製)、ビタミンE(エーザイ製)等が挙げられる。
これらの市販のフェノール系酸化防止剤の中でも、当該樹脂での熱安定性付与効果の観点から、イルガノックス1010、イルガノックス1076、アデカスタブAO-60、アデカスタブAO-80、スミライザーGS等が好ましい。
これらは1種のみを単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0100】
リン系酸化防止剤としては、例えば、ホスファイト類、ホスホナイト類に分類されるものが挙げられる。
【0101】
ホスファイト類のリン系酸化防止剤の具体例としては、以下に限定されるものではないが、例えば、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチル-5-メチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチル-6-メチルフェニル)エチルホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリストールジホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、等が挙げられる。
【0102】
市販のリン系酸化防止剤であってもよく、例えば、イルガフォス168(Irgafos168:トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、BASF製)、イルガフォス12(Irgafos12:トリス[2-[[2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン-6-イル]オキシ]エチル]アミン、BASF製)、イルガフォス38(Irgafos38:ビス(2,4-ジ-tert-ブチル-6-メチルフェニル)エチルホスファイト、BASF製)、アデカスタブHP-10(ADKSTAB HP-10:2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト:株式会社ADEKA製)、アデカスタブPEP24G(ADEKASTAB PEP24G:サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト:株式会社ADEKA製)、アデカスタブPEP36(ADKSTAB PEP36:ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト:株式会社ADEKA製)、アデカスタブPEP36A(ADKSTAB PEP36A:ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト:株式会社ADEKA製)、アデカスタブPEP-8(ADKSTAB PEP-8:サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニルホスファイト:株式会社ADEKA製)、スミライザーGP(SumilizerGP:(6-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン、住友化学製)等が挙げられる。
ホスホナイト類のリン系酸化防止剤としては、例えば、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)4,4’-ビフェニレンジホスホナイトやテトラキス(2,4-ジ-tert-ブチル-5-メチルフェニル)4,4’-ビフェニレンジホスホナイトが挙げられる。
【0103】
市販のホスホナイト類のリン系酸化防止剤であってもよく、Hostanox(登録商標)P-EPQ(登録商標)(P-EPQ:テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)4,4’-ビフェニレンジホスホナイト:クラリアントCo.Ltd製)、GSY P101(テトラキス(2,4-ジ-t-ブチル-5メチルフェニル)4,4’-ビフェニレンジホスホナイト:堺化学製)等が挙げられる。
前述の市販のリン系酸化防止剤の中でも、当該樹脂での熱安定性付与効果の観点から、アデカスタブPEP-36、アデカスタブPEP-36A、スミライザーGP、GSYP101等が好ましい。
これらは1種のみを単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0104】
また、硫黄系酸化防止剤の具体例としては、以下に限定されるものではないが、例えば、2、4-ビス(ドデシルチオメチル)-6-メチルフェノール(イルガノックス1726、BASF社製)、イルガノックス1520L、BASF社製)、2,2-ビス{〔3-(ドデシルチオ)-1-オキソポロポキシ〕メチル}プロパン-1,3-ジイルビス〔3-ドデシルチオ〕プロピオネート〕(アデカスタブAO-412S、ADEKA社製)、2,2-ビス{〔3-(ドデシルチオ)-1-オキソポロポキシ〕メチル}プロパン-1,3-ジイルビス〔3-ドデシルチオ〕プロピオネート〕(ケミノックス(登録商標)PLS、ケミプロ化成株式会社製)、ジ(トリデシル)3,3’-チオジプロピオネート(AO-503、ADEKA社製)等が挙げられる。
これらの市販の硫黄系酸化防止剤の中でも、当該樹脂での熱安定性付与効果の観点から、アデカスタブAO-412S、ケミノックスPLS等を用いることが好ましい。
これらは1種のみを単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0105】
酸化防止剤の含有量としては、熱安定性を向上させる効果が得られる量であればよく、含有量が過剰である場合、加工時にブリードアウトする等の問題が発生するおそれがあることから、メタクリル系樹脂100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、より好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下、さらにより好ましくは0.8質量部以下であり、よりさらに好ましくは0.01?0.8質量部、特に好ましくは0.01?0.5質量部である。
【0106】
-その他の添加剤-
本実施形態に係るメタクリル系樹脂組成物には、本実施形態の効果を著しく損なわない範囲内で、その他の添加剤を含有させてもよい。
その他の添加剤としては、特に制限はないが、例えば、無機充填剤;酸化鉄等の顔料;ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤・離型剤;パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル等の軟化剤・可塑剤;セチルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール;ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライド等のグリセリン高級脂肪酸エステル等の離型剤;難燃剤;帯電防止剤;有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤;着色剤;その他添加剤;あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
【0107】
以下、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物の特性について詳細に記載する。
【0108】
-重量平均分子量(Mw)-
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される示差屈折率検出器を用いて求めたポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、120,000?200,000の範囲であることが好ましく、より好ましくは120,000?170,000、さらに好ましくは120,000?150,000である。重量平均分子量(Mw)がこの範囲にあると、機械的強度と成形加工性とのバランスに優れるため好ましい。
【0109】
-ビカット軟化温度-
本実施形態におけるメタクリル系樹脂組成物のビカット軟化温度(Tvicat)は、120?160℃の範囲であり、好ましくは120?150℃、さらに好ましくは120?140℃の範囲である。
なお、ビカット軟化温度(Tvicat)は、ISO306に準拠し、4mm厚試験片を用いて測定することにより決定できる。
ビカット軟化温度の測定は、樹脂が熱によって変形を始める温度を求めるものであり、ビカット軟化温度は、針先面積1mm^(2)の針が試験片の1mm深さまで沈んだ際の試験片の温度を意味するものであるが、通常、測定時に使用する伝熱媒体の温度をもってビカット軟化温度とする。
この指標は、樹脂のガラス転移温度や融点のみならず、分子量や分子量分布の影響をも受ける指標とされており、加えて、樹脂の軟化挙動に対しては、ガラス転移温度分布の影響も強く受けることが予想され、樹脂を加熱し、軟化させて二次加工(本発明の対象となる熱による表面賦型加工も含まれる)する際の指標として有用であると考えられる。
メタクリル系樹脂組成物のビカット軟化温度が120℃以上であれば、近年のレンズ成形体、液晶ディスプレイ用フィルム成形体光学フィルムとして必要十分な耐熱性をより容易に得ることができる。
一方、メタクリル樹脂組成物のビカット軟化温度が160℃を超える場合には、溶融加工時の温度をかなり高い温度としなくてはならず、樹脂等の熱分解を招きやすく、溶融加工にて良好な製品を得ることが難しくなる可能性がある。
【0110】
ここで、ガラス転移温度が同等であるが、ビカット軟化温度がより高い樹脂又は樹脂組成物の場合には、ガラス転移温度以下での粘弾性挙動に違いがあることを示唆していることになる。そのため、本実施形態のように、樹脂に熱を加えて、成形体の表面に賦型するような場合には、同等のガラス転移温度を有していてもより高いビカット軟化温度を有する樹脂又は樹脂組成物が、より良好な賦型再現性を備えることとなるため、好ましい。
【0111】
-立体規則性-
本実施形態における主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂及び該メタクリル系樹脂を含む本実施形態のメタクリル系樹脂組成物において、メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位における立体規則性は、^(1)H-NMRを用いて求めた、メタクリル酸メチル単量体由来の構造単位におけるヘテロタクチック部(mr)の積分強度(H)に対するシンジオタクチック部(rr)の積分強度(S)の比(S/H)をもって表すものであり、1.20?1.50である。
この比(S/H)が、好ましくは1.25?1.50、さらに好ましくは1.30?1.40の範囲であることが好ましい。
この範囲にあると、量産時のようにナーリング加工等の賦型工程での搬送速度が増加しても、型再現性があり、耐久性ある凹凸が賦型できるため好ましい。
従来より、メタクリル系樹脂のメタクリル酸メチル単量体由来の構造単位の立体規則性を向上させる方法としては、低温でのラジカル重合法、又はアニオン重合法を採用できることが知られている。
しかしながら、他の単量体とのラジカル重合により得られる共重合体におけるメタクリル酸メチル単量体由来の構造単位の立体規則性に関しては、ほとんど知られておらず、本発明者らの検討により初めて見出されたものである。
本発明者らの検討によると、重合に用いる共重合可能な他の単量体の種類並びに含有量により、共重合体の立体規則性が変わること、また、重合に用いる共重合可能な単量体の重合時の添加方法によっても変わることがわかった。
さらに、重量平均分子量並びに立体規則性の異なる主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂を2種以上混合して用いることにより、さらにナーリング加工等の成形体への表面賦型性が良好になることもわかった。
【0112】
主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂及び該をメタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物のメタクリル酸エステル単量体由来の構造単位の立体規則性は、^(1)H-NMRにより、3連子のタクチシチーの割合を算出することによって、測定することができる。
具体的には、以下の方法を用いて測定することができる。すなわち、試料をクロロホルムに溶解後、例えば400MHzのNMR装置(例えばブルカー社製)により、^(1)H-NMRを測定し、δ1.2ppm、δ1.0ppm、δ0.8ppm付近のピークの積分値をそれぞれ3連子のタクチシチー(アイソタクチシチー、ヘテロタクチシチー、シンジオタクチシチー)の割合とした。
より具体的には、後述の実施例記載の方法にて得ることができる。
【0113】
-メタノール可溶分-
本実施形態におけるメタクリル系樹脂組成物のメタノール可溶分の量の、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量の合計量100質量%に対する割合は、5質量%以下であり、好ましくは4.5質量%以下であり、さらに好ましくは4質量%以下であり、よりさらに好ましくは3.5質量%以下であり、好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは2.5質量%以下である。
可溶分の量の割合を5質量%以下とすることで、量産時のようにナーリング加工等の賦型工程での搬送速度が増加しても、型離れ性や型再現性に優れ、耐久性ある凹凸が賦型できるため好ましい。
なお、メタノール可溶分及びメタノール不溶分は、メタクリル系樹脂組成物をクロロホルム溶液とした後に溶液を大過剰量のメタノール中に滴下することによって再沈殿を行い、濾液及び濾物を分別し、その後に各々を乾燥させることによって得られたものをいい、具体的には、後述の実施例記載の方法にて得ることができる。
メタノール可溶分量を、上記範囲を満たすように調整する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、重合における単量体の添加方法並びに重合開始剤の添加方法を制御することにより、オリゴマーや低分子量体の生成を抑制する方法が挙げられる。
【0114】
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物のメタノール可溶分には、例えば、未反応の単量体成分に加えて、その二量体、三量体等のオリゴマー成分、さらには重量平均分子量としては1、000?15、000程度の低分子量成分で常温のメタノールに可溶な組成を有するもの等が含まれる。
これらの成分は、ナーリング加工等、表面賦型される光学フィルムでは、その運動性の高さから、比較的容易にフィルム等の成形体の表面へ移行しやすい挙動が予想される。その結果として、ガラス転移温度以上の比較的高い温度にて表面賦型処理を施される際に、刃型からの離型性に影響を及ぼすことが予想され、加えて、処理後の冷却固化挙動にも影響を与えることが予想される。そのため、メタクリル系樹脂組成物中に含まれるメタノール可溶分の割合を特定範囲に抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型の加工安定性を高めることができる。
【0115】
-ガラス転移温度-
本実施形態におけるメタクリル系樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、120℃超160℃以下であることが好ましい。
メタクリル系樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)が120℃を超えていれば、近年のレンズ成形体、液晶ディスプレイ用フィルム成形体、光学フィルム等の光学部品として必要十分な耐熱性をより容易に得ることができる。
一方、メタクリル樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)が160℃を超える場合には、溶融加工時の温度をかなり高い温度としなくてはならず、樹脂等の熱分解を招きやすく、溶融加工にて良好な製品を得ることが難しくなる可能性がある。
なお、ガラス転移温度(Tg)は、JIS-K7121に準拠して、測定することができる。
例えば、標準状態(23℃、65%RH)で状態調節(23℃で1週間放置)した試料から、試験片として4点(4箇所)、それぞれ約10mgを切り出し、示差走査熱量計(パーキンエルマージャパン(株)製、Diamond DSC)を窒素ガス流量25mL/分の条件下で用いて、ここで、10℃/分で室温(23℃)から200℃まで昇温(1次昇温)し、200℃で5分間保持して、試料を完全に融解させた後、10℃/分で200℃から40℃まで降温し、40℃で5分間保持し、さらに、上記昇温条件で再び昇温(2次昇温)する間に描かれるDSC曲線のうち、2次昇温時の階段状変化部分曲線と各ベースライン延長線から縦軸方向に等距離にある直線との交点(中間点ガラス転移温度)をガラス転移温度(Tg)(℃)として測定することができる。1試料当たり4点の測定を行い、4点の算術平均(小数点以下四捨五入)を測定値として採用する。
【0116】
-光弾性係数-
本実施形態の主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂組成物の光弾性係数C_(R)の絶対値は、3.0×10^(-12)Pa^(-1)以下であることが好ましく、2.0×10^(-12)Pa^(-1)以下であることがより好ましく、1.0×10^(-12)Pa^(-1)以下であることがさらに好ましい。
光弾性係数に関しては種々の文献に記載があり(例えば、化学総説,No.39,1998(学会出版センター発行)参照)、下記式(i-a)及び(i-b)により定義されるものである。光弾性係数C_(R)の値がゼロに近いほど、外力による複屈折変化が小さいことがわかる。
C_(R)=|Δn|/σ_(R) ・・・(i-a)
|Δn|=|nx-ny| ・・・(i-b)
(式中、C_(R)は、光弾性係数、σ_(R)は、伸張応力、|Δn|は複屈折の絶対値、nxは、伸張方向の屈折率、nyは、面内で伸張方向と垂直な方向の屈折率、をそれぞれ示す。)
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物の光弾性係数C_(R)の絶対値が3.0×10^(-12)Pa^(-1)以下であれば、フィルム化して液晶表示装置に用いても、位相差ムラが発生したり、表示画面周辺部のコントラストが低下したり、光漏れが発生したりすることを抑制ないし防止することができる。
なお、光弾性係数C_(R)は、具体的には、後述の実施例記載の方法にて求めることができる。
【0117】
(メタクリル系樹脂組成物の製造方法)
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物を製造する方法としては、本発明の要件を満たす組成物を得ることができれば、特に限定されるものではない。
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物の調製法として溶融押出法を採用する場合においては、ベント付押出機を用い、残留する揮発成分を出来る限り除去しながら組成物を調製する方法を採用することが好ましい。
【0118】
また、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物をフィルム用途等に用いる場合には、異物を減少させる目的で、重合反応工程、液-液分離工程、液-固分離工程、脱揮工程、造粒工程、及び、成形工程のいずれか又は複数の工程において、例えば、濾過精度1.5?20μmの焼結フィルター、プリーツフィルター、及びリーフディスク型ポリマーフィルター等を濾過装置に付加して用いて、調製することも好ましい方法である。
【0119】
いずれの方法を選択した場合においても、メタクリル系樹脂組成物を製造する際には、酸素及び水分を可能な限り低減させた上で行うことが好ましい。
例えば、溶液重合での重合溶液中の溶存酸素濃度としては、重合工程においては、300ppm未満の濃度が、押出機等を利用した調製法においては、押出機内の酸素濃度としては、1容量%未満とすることが好ましく、0.8容量%未満とすることがさらに好ましい。
メタクリル系樹脂の水分量としては、好ましくは1000質量ppm以下、より好ましくは500質量ppm以下に調整することが推奨される。
これらの範囲内であれば、本発明の要件を満たす組成物を調製することが比較的容易となり、有利である。
【0120】
例えば、押出機を用いた製造方法を採用した場合、原料であるペレット化されたメタクリル系樹脂は、減圧下又は除湿空気下で加温し、予め十分に乾燥させることで、水分を出来る限り除去して用いることが好ましい。
その際、後述する各種酸化防止剤や添加剤を配合する場合においては、これら各種酸化防止剤や添加剤自体も、含まれる水分量を十分に低減してから配合することが好ましい。
さらに、押出機内に酸素が混入することを極力低減し、溶融状態にある組成物の酸化を防止するため、押出機内に不活性ガス、例えば、窒素ガス等を流入させ、ベント付押出機を用い、減圧排気しながら実施することが好ましい。
その際の原料等の乾燥温度としては、40?120℃が好ましく、より好ましくは、70?100℃の範囲である。
減圧度に関しては、特に制限はなく、減圧度を適宜選択すればよい。
【0121】
押出機を用い、溶融混練され溶融状態となったメタクリル系樹脂組成物は、多孔ダイから溶融押出しされペレット化される。
その際、用いることのできる造粒方式としては、例えば、空中ホットカット方式、ウォータリングホットカット方式、コールドカット方式、水中ストランドカット方式、アンダーウオーターカット方式等が挙げられる。
これらの中でも、生産性及び造粒装置コストの面から、一般的には水中ストランドカット方式がより好ましい。
その場合には、溶融樹脂温度を可能な範囲で低くし、且つ多孔ダイ出口から冷却水面までの滞留時間を極力少なくし、冷却水の温度も可能な範囲で高い温度にて、実施できる条件にて造粒を行うことがより好ましい。
例えば、溶融樹脂温度としては、240?300℃が好ましく、より好ましくは250?290℃であり、多孔ダイ出口から冷却水面までの滞留時間は5秒以内が好ましく、より好ましくは3秒以内であり、冷却水の温度としては、30?80℃が好ましく、より好ましくは40?60℃の範囲である。
【0122】
前述の通り、本実施形態では、樹脂組成物において好適な組成分布特性を得る観点から、主鎖に同種の環構造を有し、異なる重量平均分子量、ビカット軟化点及びS/H比を有するメタクリル系樹脂を2種以上用いて、本実施形態で規定する特性を満足する限りにおいて、それぞれの単量体由来の構造単位割合、重量平均分子量、ビカット軟化点及びS/H比、並びにそれらの混合割合を適宜選択することが好ましい。
【0123】
本実施形態において、主鎖の環構造単位が同種であり、重量平均分子量(Mw)、ビカット軟化点及びS/H比が異なるメタクリル系樹脂を2種以上混合して、樹脂組成物を調製する方法としては、特に制限はないが、押出機を用いて溶融混練する方法等が採用できる。
【0124】
また、2種のメタクリル系樹脂の詳細、並びに、2種のメタクリル系樹脂のうち、高分子量成分と低分子量成分に関する、重量平均分子量(Mw)、S/H比、及び混合比率の詳細については、前述の通りとしてよい。
【0125】
特に、高分子量成分のS/H比が低分子量成分のS/H比より大きい場合、フィルム等成形体の表面にナーリング等の凹凸形状を安定し賦与できるため、好ましい。
【0126】
前述の通り、2種以上のメタクリル系樹脂を混合する方法としては、特に制限されることなく、重合物を2種以上含む溶液を液相にて混合し後処理を行う方法や、造粒後に押出機等の溶融混練装置を用いて混合する方法;等を採用することができ、特に高い分子量を有するメタクリル系樹脂を用いる場合には、重合物を2種以上含む溶液を液相にて混合し後処理を行う方法が好ましい。
【0127】
-成形体の製造方法-
本実施形態の樹脂組成物は、射出成形、シート成形、ブロー成形、インジェクションブロー成形、インフレーションフィルム成形、Tダイフィルム成形、プレス成形、押出成形、発泡成形、キャスト成形等、公知の方法、さらに、圧空成形、真空成形等の二次加工成形法を適用することにより成形体とすることができる。
中でも、シート成形、インフレーションフィルム成形、Tダイフィルム成形、押出成形を用い、シートやフィルムを形成させ、光学シートや光学フィルムとすることが好適である。
【0128】
例えば、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物を用いて延伸前フィルム(未延伸フィルム)及び延伸フィルムを製造する方法について以下に説明する。
かかる方法としては、例えば、例えば、単軸又は二軸押出機に、原料樹脂を供給して、溶融混練し、次いで、Tダイより押し出したシートをキャストロール上に導いて、固化する。続いて、周速度の異なる一対のロールを用いて機械的流れ方向に延伸する縦一軸延伸を行ったり、あるいは機械的流れ方向に直交する方向(TD方向)に延伸する横一軸延伸を行ったりする一軸延伸、並びに、ロール延伸とテンター延伸とを用いた逐次二軸延伸、テンター延伸による同時二軸延伸、チューブラー延伸による二軸延伸、インフレーション延伸、テンター法逐次二軸延伸等の二軸延伸;が例示できる。その中でも、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物の特徴を最も発現することができるため、ロール延伸とテンター延伸とからなる逐次二軸延伸が好ましい。
【0129】
最終的な延伸倍率は、得られた成形・延伸体の熱収縮率より判断することができる。延伸倍率は、少なくともどちらか一方向に、0.1?400%であることが好ましく、10?400%であることがより好ましく、50?350%であることがさらに好ましい。下限未満の場合、耐折強度が不足する傾向にあり、上限超の場合、フィルム作製過程で破断や断裂が頻発し、連続的に安定的にフィルムが作製できない傾向にある。この範囲に設計することにより、複屈折、耐熱性、強度の観点で好ましい延伸成形体を得ることができる。
【0130】
延伸温度としては、(Tvicat-30℃)?(Tvicat+50℃)であることが好ましい。ここで、Tvicat(ビカット軟化温度)とは、フィルムを調製するために用いる樹脂組成物についての値をいう。
得られるフィルムにおいて、良好な膜厚均一性を得るためには、延伸温度の下限が、好ましくは(Tvicat-20℃)以上であり、より好ましく(Tvicat-10℃)以上、さらに好ましくはTvicat以上、とりわけ好ましくは(Tvicat+5℃)以上、特に好ましくは(Tvicat+7℃)以上である。また、延伸温度の上限は、好ましくは(Tvicat+45℃)以下、さらに好ましくは(Tvicat+40℃)以下である。
【0131】
なお、本実施形態のフィルムを光学フィルムとして用いる場合、その光学的等方性や機械的特性を安定化させるために、延伸処理後に熱処理(アニーリング)等を行うことが好ましい。熱処理の条件は、従来公知の延伸フィルムに対して行われる熱処理の条件と同様に適宜選択されてよく、特に限定されるものではないが、例えば、温度が好ましくは(Tvicat-30℃)?(Tvicat+30℃)、より好ましくは(Tvicat-30℃)?(Tvicat+20℃)、さらに好ましくは(Tvicat-15℃)?(Tvicat+10℃)で、時間が好ましくは1秒?10分、より好ましくは5秒?4分、張力としては、0.1kg/m?20kg/mの範囲で行うことが好ましい。
【0132】
光学フィルムとしての厚さは、特に制限はないが、例えば、1?250μmであり、10?100μmが好ましい。
【0133】
本実施形態の成形体は、表裏面の少なくとも一方の面の少なくとも一部にエンボス部を有することが好ましい。
エンボス部は、フィルムの端部近傍にのみ設けられていてもよい。エンボス部における凸部の形状としては、例えば、四角形、ひし形、台形等の多角形状、円状等が挙げられ、その目的、並びに用途によって適宜選択すればよい。
また、エンボス部を賦与する成形体の厚さによっても、その賦型デザインは異なるが、例えば、40μmの二軸延伸フィルムにナーリング処理を施す場合では、エンボス部における凸部の密度としては、特に限定されるものではないが、50?200個/cm^(2)が好ましい。
また、エンボス部における凸部の高さに関しても、特に限定されるものではないが、膜厚が40μmのフィルムにおいては、6?16μmが好ましく、特に8?14μmが好ましい。各凸部の高さは同じであってもよいし異なっていてもよい。なお、凸部の高さとは、後述の実施例の評価に記載の方法で測定することができる。
【0134】
フィルム並びにシート等成形体の用途としては、特に制限はないが、例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイに用いられる導光板、拡散板、1/4波長板、1/2波長板、偏光子保護フィルム、視野角補償フィルム、液晶光学補償フィルム等の位相差フィルム、ディスプレイ前面板、ディスプレイ基盤、レンズ、タッチパネル、光導波路等が挙げられ、また、太陽電池に用いられる透明基盤等に好適に用いることができる。
【0135】
成形体の用途としては、例えば、家庭用品、OA機器、AV機器、電池電装用、照明機器、テールランプ、メーターカバー、ヘッドランプ、導光棒、レンズ等の自動車部品用途、ハウジング用途、衛生陶器代替等のサニタリー用途や、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイに用いられる導光板、拡散板、偏光板保護フィルム、1/4波長板、1/2波長板、視野角制御フィルム、液晶光学補償フィルム等の位相差フィルム、ディスプレイ前面板、ディスプレイ基盤、レンズ、タッチパネル等が挙げられ、また、太陽電池に用いられる透明基盤等に好適に用いることができる。その他にも、光通信システム、光交換システム、光計測システムの分野において、導波路、レンズ、光ファイバー、光ファイバーの被覆材料、LEDのレンズ、レンズカバー等にも用いることができる。また、他の樹脂の改質材として用いることもできる。
中でも、光学部品(特に、表裏面の少なくとも一方の面の少なくとも一部にエンボス部を有する光学部品)が好ましく、光学フィルム(特に、表裏面の少なくとも一方の面の少なくとも一部にエンボス部を有する光学フィルム)がより好ましい。
【0136】
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物、及び本実施形態の光学部品によれば、光学フィルムを中心としたその表面に賦型処理を施された光学分野向け成形体の生産において、ライン速度の上昇、フィルムの薄膜化、長尺ロール巻きでの製品化が進んだ場合においても、長期保管や輸送に伴うフィルム品位の低下を抑制できる。そのため、本実施形態によれば、表面賦型性に優れた光学フィルム等の光学分野向け成形体を調製することを可能にするメタクリル系樹脂組成物、及び光学フィルム等の光学部品を提供することができる。
【実施例】
【0137】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容を具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0138】
(1.構造単位の解析)
後述の製造例で製造したメタクリル系樹脂、並びに後述の実施例及び比較例で製造したメタクリル系樹脂組成物中の各構造単位は、特に断りのない限り^(1)H-NMR測定及び^(13)C-NMR測定により同定し、その存在量を算出した。^(1)H-NMR測定及び^(13)C-NMR測定の測定条件は、以下の通りである。
・測定機器:ブルーカー株式会社製 DPX-400
・測定溶媒:CDCl_(3)、又は、d_(6)-DMSO
・測定温度:40℃
なお、メタクリル系樹脂の環構造がラクトン環構造である場合には、特開2001-151814号公報に記載の方法にて確認し、メタクリル系樹脂の環構造がグルタルイミド環構造である場合には、国際公開第2012/114718号に記載の方法にて確認した。
【0139】
<2.重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)>
後述の製造例で製造したメタクリル系樹脂、並びに後述の実施例及び比較例で製造したメタクリル系樹脂組成物の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び数平均分子量は、下記の装置、及び条件で測定した。
・測定装置:東ソー株式会社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(HLC-8320GPC)
・測定条件
カラム:TSKguardcolumn SuperH-H 1本、TSKgel SuperHM-M 2本、TSKgel SuperH2500 1本、を順に直列接続して使用した。
カラム温度:40℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン、流速:0.6mL/分、内部標準として、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)を、0.1g/L添加した。
検出器:RI(示差屈折)検出器
検出感度:3.0mV/分
サンプル:0.02gのメタクリル系樹脂又はメタクリル系樹脂組成物のテトラヒドロフラン20mL溶液
注入量:10μL
検量線用標準サンプル:単分散の重量ピーク分子量が既知で分子量が異なる、以下の10種のポリメタクリル酸メチル(PolymerLaboratories製;PMMA Calibration Kit M-M-10)を用いた。
重量ピーク分子量(Mp)
標準試料1 1,916,000
標準試料2 625,500
標準試料3 298,900
標準試料4 138,600
標準試料5 60,150
標準試料6 27,600
標準試料7 10,290
標準試料8 5,000
標準試料9 2,810
標準試料10 850
上記の条件で、メタクリル系樹脂又はメタクリル系樹脂組成物の溶出時間に対する、RI検出強度を測定した。
上記、検量線用標準サンプルの測定により得られた各検量線を基に、メタクリル系樹脂及びメタクリル系樹脂組成物の重量平均分子量(Mw)、及び数平均分子量(Mn)を求め、これらの値を用い、Mw/Mnを決定した。
【0140】
(3.ビカット軟化温度)
後述の実施例及び比較例にて得られたメタクリル系樹脂組成物のビカット軟化温度(℃)を、ISO306に準拠して、以下の条件にて測定した。
試験片形状:長さ80mm、幅10mm、厚さ4mm
状態調整:23℃、50%RHで1週間放置した
荷重:1N
昇温速度:50℃/時
直径1mmの針状圧子が深さ1mm侵入したときの温度をビカット軟化温度(℃)とした。
【0141】
(4.立体規則性)
後述の製造例、実施例及び比較例にて得られたメタクリル系樹脂及びメタクリル系樹脂組成物30mgを重水素化クロロホルム0.6mLに溶解させ、以下の^(1)H-NMR装置及び条件にて測定を行った。
・測定機器:AVANCEIII 500HD Prodigy(Bruker Biospin社製)
・観測周波数:500MHz(^(1)H)
・積算回数:128回
・測定温度:23℃
・内部基準物質:テトラメチルシラン
得られた結果から、ケミカルシフト(δ)0?3ppmの範囲にてベースラインを引き、シンジオタクチック連鎖部(rr)として0.65?0.90ppmの範囲、ヘテロタクチック連鎖部(mr)として0.98?1.07ppmの範囲、及びアイソタクチック連鎖部(mm)として1.16?1.25ppmの範囲にて各積分値を求めた。
各例においては、立体規則性の指標として、ヘテロタクチック部(mr)の積分強度(H)に対するシンジオタクチック部(rr)の積分強度(S)比(S/H)を算出した。
【0142】
<5.メタノール可溶分率>
後述の実施例及び比較例にて得られたメタクリル系樹脂組成物5gをクロロホルム100mLに溶解させた後、溶液を滴下漏斗に入れ、撹拌子を用いて撹拌している1Lのメタノール中に約1時間かけて滴下して、再沈殿を行った。全量滴下後、1時間静置した後に、メンブランフィルター(アドバンテック東洋株式会社製、T05A090C)をフィルターとして用いて、吸引濾過を行った。
濾物は60℃で16時間真空乾燥してメタノール不溶分とした。また、濾液はロータリーエバポレーターを、バス温度を40℃として、真空度を初期設定の390Torrから徐々に下げて最終的に30Torrとして、用いて溶媒を除去した後、ナス形フラスコに残存している可溶分を回収し、メタノール可溶分とした。
メタノール不溶分の質量及びメタノール可溶分の質量の各々を秤量し、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量(100質量%)に対する、メタノール可溶分の量の割合(質量%)(メタノール可溶分率)を算出した。
【0143】
<6.光弾性係数(C_(R))>
実施例及び比較例にて得られたメタクリル系樹脂組成物を、真空圧縮成形機を用いてプレスフィルムとすることで、測定用試料とした。
具体的な試料調製条件としては、真空圧縮成形機(神藤金属工業所製、SFV-30型)を用い、260℃、減圧下(約10kPa)、10分間予熱した後、樹脂組成物を、260℃、約10MPaで5分間圧縮し、減圧及びプレス圧を解除した後、冷却用圧縮成形機に移して冷却固化させた。得られたプレスフィルムを、23℃、湿度60%に調整した恒温恒湿室内で24時間以上養生を行った上で、測定用試験片(厚み約150μm、幅6mm)を切り出した。
Polymer Engineering and Science 1999,39,2349-2357に詳細な記載のある複屈折測定装置を用いて、光弾性係数C_(R)(Pa^(-1))を測定した。
フィルム状の試験片を、同様に恒温恒湿室に設置したフィルムの引張り装置(井元製作所製)にチャック間50mmになるように配置した。次いで、複屈折測定装置(大塚電子製、RETS-100)のレーザー光経路がフィルムの中心部に位置するように装置を配置し、歪速度50%/分(チャック間:50mm、チャック移動速度:5mm/分)で伸張応力をかけながら、試験片の複屈折を測定した。
測定より得られた複屈折の絶対値(|Δn|)と伸張応力(σ_(R))の関係から、最小二乗近似によりその直線の傾きを求め、光弾性係数(C_(R))(Pa^(-1))を計算した。計算には、伸張応力が2.5MPa≦σ_(R)≦10MPaの間のデータを用いた。
C_(R)=|Δn|/σ_(R)
ここで、複屈折の絶対値(|Δn|)は、以下に示す値である。
|Δn|=|nx-ny|
(nx:伸張方向の屈折率、ny:面内で伸張方向と垂直な方向の屈折率)
【0144】
<7.賦型性>
(延伸フィルムの調製)
後述の実施例及び比較例で得られたメタクリル系樹脂組成物から、押出機先端部に、樹脂濾過用のフィルター(リーフフィルター、長瀬産業社製)と480mm幅のTダイとを設置した50mmφ単軸押出機を用いて、フィルムを調製した。
その際の製膜条件として、押出機設定温度:260℃、Tダイ温度設定:255℃、吐出量:8kg/時、冷却ロール設定温度:(ビカット軟化温度-10℃)とし、膜厚250μの未延伸フィルムを得た。
これに連続して、予熱ロール1対、延伸ロール1対、延伸ロール間に設置した赤外線ヒーター、及び搬送ロール1対をこの順に備えたロール延伸装置を用いて、未延伸フィルムについて縦延伸を行った。
その際、各ロールの温度としては、評価に用いる樹脂組成物のビカット軟化温度を基準にして、予熱ロール温度:(ビカット軟化温度+10℃)、低速側延伸ロール温度:(ビカット軟化温度+30℃)、高速側延伸ロール温度:(ビカット軟化温度+10℃)、搬送ロール温度:(ビカット軟化温度-10℃)とした。また、低速側延伸ロールと高速側延伸ロールとの間の距離は200mmとした。この温度条件下にて、高速側・低速側延伸ロールの周速差は2.5倍とした。
上述の縦延伸に連続して、フィルムの入り口側から予熱部、横延伸部、熱処理部の順に各部を有するテンター式横延伸機を用いて、縦延伸されたフィルムについて横延伸を行った。テンター装置の内部の各部の温度は、それぞれ、評価に用いる樹脂組成物のビカット軟化温度を基準として、予熱部:ビカット軟化温度(℃)、横延伸部:(ビカット軟化温度+10℃)、熱処理部:ビカット軟化温度(℃)とした。
この条件にて、横延伸にて2.5倍に延伸した後、クリップから解放された延伸フィルムを、シェアカッターを有するトリミング装置に供給し、フィルムの両端部分を切断し、平均厚さ40ミクロンの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムは6inchABS製コアに長さ1000m巻取り、ロール巻き製品を得た。
【0145】
(ナーリング加工条件1)
得られた二軸延伸フィルムに、下記条件でナーリング加工を施した。
ナーリング加工を行う設備としては、ナーリング加工を施す前にフィルムを予熱するための予熱ロール、及びフィルムをニップし、ナーリング賦型を行うためのナーリングロールと支持ロールを具備したものを用い、以下の条件にてエンボスロールを用いナーリング加工を行った。
搬送(ライン)速度:40m/分
予熱ロール温度:100℃
ナーリングロール温度:(ビカット軟化温度+30℃)(金属製;誘電加熱ロール使用)
支持ロール温度:60℃(金属製;誘電加熱ロール使用)
ナーリング加工位置:フィルムの端から、15?25mmの位置
ナーリング加工面:片面のみ
ナーリング加工幅:10mm
ナーリング加工高さ:15μm
ニップ線圧:20kgf/cm
凹凸の密度:約100個/cm^(2)
凹凸形状:ひし形状
【0146】
ナーリング加工後のフィルムについて、ナーリング厚、型再現性、加工性を以下の方法で評価した。
【0147】
(ナーリング厚)
ミツトヨ社製の厚み計を用いてナーリングの凸部の頂点部分とナーリングの賦与されていない部分との差を計測した。ナーリング加工を行った部分の幅方向にて3点測定し、最大値を示した点について長さ方向に1cmごとに10点測定し、その平均値をもってナーリング厚(μm)とした。
【0148】
(型再現性)
キーエンス社製マイクロスコープを用い、凸部の個数を測定した。そして、以下の基準で型再現性を評価した。
「◎」(型再現性に優れる):凸部が80個/cm^(2)以上であった場合
「○」(型再現性が良好):凸部が50?80個/cm^(2)であった場合
「×」(型再現性に劣る):凸部が50個/cm^(2)未満であった場合
【0149】
(加工性)
ナーリング加工時に発生する、フィルムナーリング加工部への融着又は粘着に伴う連続加工不良や割れの有無を基準に、加工性を評価した。なお、割れの有無は、加工後のフィルムを目視することにより確認した。
「◎」(加工性に優れる):連続加工が可能で割れも無い場合
「○」(加工性が良好):連続加工性に劣るか、割れが認められるか、いずれかのみの場合
「×」(加工性に劣る):連続加工性に劣り、割れも認められる場合
【0150】
(ナーリング加工条件2:搬送速度を変更)
ナーリング加工に供するフィルムの搬送(ライン)速度を60m/分に変更した以外は、ナーリング加工条件1と同様にして評価を行った。
【0151】
(ナーリング加工条件3:温度を変更)
ナーリング加工時のナーリングロール温度をビカット軟化温度+60℃に変更した以外は、ナーリング加工条件1と同様にして評価を行った。
【0152】
(保存安定性)
上述のナーリング加工条件1の条件で得られたロール巻き製品を温度40℃、湿度80%RHの条件にて2週間保存し、その後、ロール巻き製品からフィルムを100m繰り出して、フィルム同士が張り付いていないかどうかを張り付きの状態により3段階に分類し検査した。
◎(優れる):全く張り付いていない。
○(良好):若干張り付いているが、容易に剥離できる。
×(劣る):張り付きが強く、剥離しにくい。
【0153】
[原料]
後述する実施例及び比較例において使用した原料について以下に示す。
(単量体)
・メチルメタクリレート:旭化成ケミカルズ株式会社製
・N-フェニルマレイミド(phMI):株式会社日本触媒製
・N-シクロヘキシルマレイミド(chMI):株式会社日本触媒製
・2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA):Combi Block社製
(酸化防止剤)
・イルガノックス1010(BASF社製)、
・アデカスタブPEP36(ADEKA製)、
【0154】
[製造例1-1]
メチルメタクリレート(以下、「MMA」と記す)146.0kg、N-フェニルマレイミド(以下、「phMI」と記す)4.0kg、N-シクロヘキシルマレイミド(以下、「chMI」と記す)32.5kg、連鎖移動剤であるn-オクチルメルカプタンを0.21kg、メチルイソブチルケトン(以下、「MIBK」と記す)147.0kgを計量し、ジャケットによる温度調節装置と撹拌翼を具備した1.25m^(3)の反応器に加え撹拌し、混合単量体溶液を得た。
次いで、MMA260.4kg、phMI7.5kg、chMI71.3kg、MIBK273.0kgを計量して、タンク1に加え、撹拌し、追添用混合単量体溶液を得た。さらに、タンク2にMMA58.0kgを計量した。
反応器、タンク1、タンク2のそれぞれについて10L/分の速度で窒素によるバブリングを30分間実施し、溶存酸素を除去した。
その後、50rpmで撹拌しながら反応器内温を100℃に上昇させ、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.54kgをMIBK4.46kgに溶解させた重合開始剤溶液を(1)?(5)のプロファイルにて添加し、重合を行った。
(1)0.0?0.5時間:フィード速度2.0kg/時
(2)0.5?3.5時間:フィード速度1.0kg/時
(3)3.5?4.5時間:フィード速度0.5kg/時
(4)4.5?6.0時間:フィード速度0.25kg/時
(5)6.0?7.0時間:フィード速度0.125kg/時
なお、重合中は反応器内の溶液温度をジャケットによる温度調節で110±2℃で制御した。
重合開始から30分後、さらに、タンク1から306kg/時の添加速度で追添用混合単量体溶液を添加した。
次いで、重合開始から3時間後に、タンク2からMMAを116kg/時の添加速度で30分間かけて全量添加した。
重合開始剤溶液の添加が完了した後、3時間重合反応を継続し、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂を含む重合溶液を得た。
この重合溶液に、溶液中に含まれる重合体100質量部に対して、0.1質量部のイルガノックス1010を、撹拌下に添加した。
その後、予め170℃に加熱された管状熱交換器と気化槽とからなる濃縮装置に供給し、溶液中に含まれる重合体の濃度を70質量%まで高めた。
得られた重合溶液は、伝熱面積が0.2m^(2)である薄膜蒸発機に供給し、脱揮を行った。この際、装置内温度:280℃、供給量:30L/hr、回転数:400rpm、真空度:30Torrで脱揮を実施した。脱揮後の重合物を、ギアポンプで昇圧し、ストランドダイから押し出し、水冷した後、ペレット化して、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂重合物を含む組成物(1-1)を得た。
得られた組成物(1-1)における組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、80.3質量%、1.9質量%、17.8質量%であった。また、重量平均分子量(Mw)は246,000、立体規則性の指標であるS/Hは1.42であった。
【0155】
[製造例1-2]
MMA146.0kg、phMI28.5kg、chMI8.0kg、連鎖移動剤であるn-オクチルメルカプタンを0.85kg、トルエン(以下、「ToL」と記す)147.0kgを計量し、ジャケットによる温度調節装置と撹拌翼を具備した1.25m^(3)の反応器に加え撹拌し、混合単量体溶液を得た。
次いで、MMA271.4kg、phMI52.9kg、chMI14.9kg、ToL273.0kgを計量して、タンク1に加え、撹拌し、追添用混合単量体溶液を得た。さらに、タンク2にMMA58.0kgを計量した。
反応器、タンク1、タンク2のそれぞれについて10L/分の速度で窒素によるバブリングを30分間実施し、溶存酸素を除去した。
その後、50rpmで撹拌しながら反応器内温を95℃に上昇させ、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.35kgをToL4.65kgに溶解させた重合開始剤溶液を(1)?(5)のプロファイルにて添加し、重合を行った。
(1)0.0?0.5時間:フィード速度2.0kg/時
(2)0.5?3.5時間:フィード速度1.0kg/時
(3)3.5?4.5時間:フィード速度0.5kg/時
(4)4.5?6.0時間:フィード速度0.25kg/時
(5)6.0?7.0時間:フィード速度0.125kg/時
なお、重合中は反応器内の溶液温度をジャケットによる温度調節で110±2℃で制御した。
重合開始から30分後、さらにタンク1から306kg/時の添加速度で追添用混合単量体溶液を添加した。
次いで、重合開始から3時間後にタンク2からMMAを116kg/時の添加速度で30分間かけて全量添加した。
重合開始剤溶液の添加が完了した後、3時間重合反応を継続し、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂を含む重合溶液を得た。
この重合溶液に、溶液中に含まれる重合体100質量部に対して、0.1質量部のイルガノックス1010を、撹拌下に添加した。
その後、予め170℃に加熱された管状熱交換器と気化槽からなる濃縮装置に供給し、溶液中に含まれる重合体の濃度を70質量%まで高めた。
得られた重合溶液は、伝熱面積が0.2m^(2)である薄膜蒸発機に供給し、脱揮を行った。この際、装置内温度:280℃、供給量:30L/hr、回転数:400rpm、真空度:30Torrで脱揮を実施した。脱揮後の重合物を、ギアポンプで昇圧し、ストランドダイから押し出し、水冷した後、ペレット化して、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂重合物を含む組成物(1-2)を得た。
得られたペレット状の組成物(1-2)における組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、82.0質量%、14.1質量%、3.9質量%であった。また、重量平均分子量(Mw)は102,000、立体規則性の指標であるS/Hは1.26であった。
【0156】
[製造例1-3]
MMA146.0kg、phMI4.6kg、chMI32.0kg、連鎖移動剤であるn-オクチルメルカプタンを0.21kg、ToL147.0kgを計量し、ジャケットによる温度調節装置と撹拌翼を具備した1.25m^(3)の反応器に加え撹拌し、混合単量体溶液を得た。
次いで、MMA271.2kg、phMI37.1kg、chMI30.9kg、ToL265.0kgを計量して、タンク1に加え、撹拌し、追添用混合単量体溶液(1)を得た。さらに、タンク2にMMA58.0kgを用意した。
反応器、タンク1、タンク2のそれぞれについて10L/分の速度で窒素によるバブリングを30分間実施し、溶存酸素を除去した。
その後、50rpmで撹拌しながら反応器内温を100℃に上昇させ、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.35kgをToL4.65kgに溶解させた重合開始剤溶液を(1)?(5)のプロファイルにて添加し、重合を行った。
(1)0.0?0.5時間:フィード速度2.0kg/時
(2)0.5?3.5時間:フィード速度1.0kg/時
(3)3.5?4.5時間:フィード速度0.5kg/時
(4)4.5?6.0時間:フィード速度0.25kg/時
(5)6.0?7.0時間:フィード速度0.125kg/時
なお、重合中は反応器内の溶液温度をジャケットによる温度調節で110±2℃で制御した。
重合開始から30分後、さらに、タンク1から306kg/時の添加速度で追添用混合単量体溶液(1)を添加した。
次いで、重合開始から2時間後に、タンク2からMMAを116kg/時の添加速度で30分間かけて全量添加した。
重合開始剤溶液の添加が完了した後、3時間重合反応を継続し、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂を含む重合溶液を得た。
この重合溶液に、溶液中に含まれる重合体100質量部に対して、0.1質量部のイルガノックス1010を、撹拌下に添加した。
その後、予め170℃に加熱された管状熱交換器と気化槽とからなる濃縮装置に供給し、溶液中に含まれる重合体の濃度を70質量%まで高めた。
得られた重合溶液は、伝熱面積が0.2m^(2)である薄膜蒸発機に供給し、脱揮を行った。この際、装置内温度:280℃、供給量:30L/hr、回転数:400rpm、真空度:30Torrで脱揮を実施した。脱揮後の重合物を、ギアポンプで昇圧し、ストランドダイから押し出し、水冷した後、ペレット化して、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂重合物(1-3)を得た。
得られたペレット状の重合物(1-3)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.1質量%、8.1質量%、10.8質量%であった。また、重量平均分子量(Mw)は142,000、立体規則性の指標であるS/Hは1.24であった。
【0157】
[製造例1-4]
MMA163.0kg、phMI8.1kg、chMI11.6kg、連鎖移動剤であるn-オクチルメルカプタンを0.85kg、ToL147.0kgを計量し、ジャケットによる温度調節装置と撹拌翼を具備した1.25m^(3)の反応器に加え撹拌し、混合単量体溶液を得た。
次いで、MMA302.6kg、phMI15.1kg、chMI21.5kg、ToL273.0kgを計量して、タンク1に加え、撹拌し、追添用混合単量体溶液を得た。さらに、タンク2にMMA58.0kgを計量した。
反応器、タンク1、タンク2のそれぞれについて10L/分の速度で窒素によるバブリングを30分間実施し、溶存酸素を除去した。
その後、50rpmで撹拌しながら反応器内温を100℃に上昇させ、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.54kgをToL4.46kgに溶解させた重合開始剤溶液を(1)?(5)のプロファイルにて添加し、重合を行った。
(1)0.0?0.5時間:フィード速度2.0kg/時
(2)0.5?3.5時間:フィード速度1.0kg/時
(3)3.5?4.5時間:フィード速度0.5kg/時
(4)4.5?6.0時間:フィード速度0.25kg/時
(5)6.0?7.0時間:フィード速度0.125kg/時
なお、重合中は反応器内の溶液温度をジャケットによる温度調節で110±2℃で制御した。
重合開始から30分後、さらに、タンク1から306kg/時の添加速度で追添用混合単量体溶液を添加した。
次いで、重合開始から3時間後に、タンク2からMMAを116kg/時の添加速度で30分間かけて全量添加した。
重合開始剤溶液の添加が完了した後、3時間重合反応を継続し、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂を含む重合溶液を得た。
この重合溶液に、溶液中に含まれる重合体100質量部に対して、0.1質量部のイルガノックス1010を、撹拌下に添加した。
その後、予め170℃に加熱された管状熱交換器と気化槽とからなる濃縮装置に供給し、溶液中に含まれる重合体の濃度を70質量%まで高めた。
得られた重合溶液は、伝熱面積が0.2m^(2)である薄膜蒸発機に供給し、脱揮を行った。この際、装置内温度:280℃、供給量:30L/hr、回転数:400rpm、真空度:30Torrで脱揮を実施した。脱揮後の重合物を、ギアポンプで昇圧し、ストランドダイから押し出し、水冷した後、ペレット化して、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂重合物を含む組成物(1-4)を得た。
得られた組成物(1-4)における組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、90.3質量%、4.0質量%、5.7質量%であった。また、重量平均分子量(Mw)は95,000、立体規則性の指標であるS/Hは1.35であった。
【0158】
[製造例1-5]
MMA108.1kg、phMI32.1kg、chMI42.4kg、連鎖移動剤であるn-オクチルメルカプタンを0.78kg、ToL147.0kgを計量し、ジャケットによる温度調節装置と撹拌翼を具備した1.25m^(3)の反応器に加え撹拌し、混合単量体溶液を得た。
次いで、MMA201kg、phMI59.5kg、chMI78.8kg、ToL273.0kgを計量して、タンク1に加え、撹拌し、追添用混合単量体溶液を得た。さらに、タンク2にMMA58.0kgを計量した。
反応器、タンク1、タンク2のそれぞれについて10L/分の速度で窒素によるバブリングを30分間実施し、溶存酸素を除去した。
その後、50rpmで撹拌しながら反応器内温を100℃に上昇させ、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.54kgをToL4.46kgに溶解させた重合開始剤溶液を(1)?(5)のプロファイルにて添加し、重合を行った。
(1)0.0?0.5時間:フィード速度2.0kg/時
(2)0.5?3.5時間:フィード速度1.0kg/時
(3)3.5?4.5時間:フィード速度0.5kg/時
(4)4.5?6.0時間:フィード速度0.25kg/時
(5)6.0?7.0時間:フィード速度0.125kg/時
なお、重合中は反応器内の溶液温度をジャケットによる温度調節で110±2℃で制御した。
重合開始から30分後、さらに、タンク1から306kg/時の添加速度で追添用混合単量体溶液を添加した。
次いで、重合開始から3時間後に、タンク2からMMAを116kg/時の添加速度で30分間かけて全量添加した。
重合開始剤溶液の添加が完了した後、3時間重合反応を継続し、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂を含む重合溶液を得た。
この重合溶液に、溶液中に含まれる重合体100質量部に対して、0.1質量部のイルガノックス1010を、撹拌下に添加した。
その後、予め170℃に加熱された管状熱交換器と気化槽とからなる濃縮装置に供給し、溶液中に含まれる重合体の濃度を70質量%まで高めた。
得られた重合溶液は、伝熱面積が0.2m^(2)である薄膜蒸発機に供給し、脱揮を行った。この際、装置内温度:280℃、供給量:30L/hr、回転数:400rpm、真空度:30Torrで脱揮を実施した。脱揮後の重合物を、ギアポンプで昇圧し、ストランドダイから押し出し、水冷した後、ペレット化して、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂組成物(1-5)を得た。
得られた組成物(1-5)における組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、63.3質量%、15.8質量%、20.9質量%であった。また、重量平均分子量(Mw)は99,000、立体規則性の指標であるS/Hは1.15であった。
【0159】
[製造例1-6]
MMA146.0kg、phMI28.5kg、chMI8.0kg、連鎖移動剤であるn-オクチルメルカプタンを0.15kg、MIBK147.0kgを計量し、ジャケットによる温度調節装置と撹拌翼を具備した1.25m^(3)の反応器に加え撹拌し、混合単量体溶液を得た。
次いで、MMA271.4kg、phMI52.9kg、chMI14.9kg、MIBK273.0kgを計量して、タンク1に加え、撹拌し、追添用混合単量体溶液を得た。さらに、タンク2にMMA58.0kgを計量した。
反応器、タンク1、タンク2のそれぞれについて10L/分の速度で窒素によるバブリングを30分間実施し、溶存酸素を除去した。
その後、50rpmで撹拌しながら反応器内温を95℃に上昇させ、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.35kgをMIBK4.65kgに溶解させた重合開始剤溶液を(1)?(5)のプロファイルにて添加し、重合を行った。
(1)0.0?0.5時間:フィード速度2.0kg/時
(2)0.5?3.5時間:フィード速度1.0kg/時
(3)3.5?4.5時間:フィード速度0.5kg/時
(4)4.5?6.0時間:フィード速度0.25kg/時
(5)6.0?7.0時間:フィード速度0.125kg/時
なお、重合中は反応器内の溶液温度をジャケットによる温度調節で110±2℃で制御した。
重合開始から30分後、さらにタンク1から306kg/時の添加速度で追添用混合単量体溶液を添加した。
次いで、重合開始から3時間後にタンク2からMMAを116kg/時の添加速度で30分間かけて全量添加した。
その後、3時間重合反応を継続し、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂を含む重合溶液を得た。
この重合溶液に、溶液中に含まれる重合体100質量部に対して、0.1質量部のイルガノックス1010を、撹拌下に添加した。
その後、予め170℃に加熱された管状熱交換器と気化槽からなる濃縮装置に供給し、溶液中に含まれる重合体の濃度を70質量%まで高めた。
得られた重合溶液は、伝熱面積が0.2m^(2)である薄膜蒸発機に供給し、脱揮を行った。この際、装置内温度:280℃、供給量:30L/hr、回転数:400rpm、真空度:30Torrで脱揮を実施した。脱揮後の重合物を、ギアポンプで昇圧し、ストランドダイから押し出し、水冷した後、ペレット化して、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂重合物を含む組成物(1-6)を得た。
得られたペレット状の組成物(1-6)における組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、82.0質量%、14.1質量%、3.9質量%であった。また、重量平均分子量(Mw)は226,000、立体規則性の指標であるS/Hは1.26であった。
【0160】
[製造例2]
MMA146.0kg、phMI14.6kg、chMI22.0kg、連鎖移動剤であるn-オクチルメルカプタンを0.17kg、メタキシレン(以下、「mXy」と記す)147.0kgを計量し、ジャケットによる温度調節装置と撹拌翼を具備した、1.25m^(3)反応器に加え撹拌し、混合単量体溶液を得た。
次いで、MMA271.2kg、phMI27.1kg、chMI40.9kg、mXy273.0kgを計量して、タンク1に加え、撹拌し、追添用混合単量体溶液を得た。さらに、タンク2にMMA58.0kgを計量した。
反応器、タンク1、タンク2のそれぞれについて10L/分の速度で窒素によるバブリングを30分間実施し、溶存酸素を除去した。
その後、ジャケット内にスチームを吹き込んで反応器内の溶液温度を100℃に上昇させ、50rpmで撹拌しながら、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.35kgをmXy4.65kgに溶解させた重合開始剤溶液を、2kg/時間の速度で添加することで重合を開始した。
なお、重合中は反応器内の溶液温度をジャケットによる温度調節で110±2℃で制御した。
重合開始から30分後、開始剤溶液の添加速度を1kg/時間に下げ、さらに、タンク1から306.2kg/時間で2時間の間追添用混合単量体溶液を添加した。次いで、重合開始から2時間45分後に、タンク2からMMAを116kg/時間の速度で30分間かけて全量添加した。
さらに、開始剤溶液は重合開始3.5時間後に、0.5kg/時間、4.5時間後に0.25kg/時間、6時間後に0.125kg/時間にそれぞれ添加速度を下げ、重合開始7時間後に添加を停止した。
重合開始から10時間経過した後、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂を含む重合溶液を得た。
この重合溶液に、溶液中に含まれる重合体100質量部に対して、0.1質量部のイルガノックス1010を、撹拌下に添加した。
この重合溶液を予め170℃に加熱された管状熱交換器と気化槽とからなる濃縮装置に供給し、溶液中に含まれる重合体の濃度を70質量%まで高めた。
得られた重合溶液は、伝熱面積が0.2m^(2)である薄膜蒸発機に供給し、脱揮を行った。この際、装置内温度:280℃、供給量:30L/hr、回転数:400rpm、真空度:30Torrで脱揮を実施した。脱揮後の重合物を、ギアポンプで昇圧し、ストランドダイから押し出し、水冷した後、ペレット化して、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂重合物を含む組成物(2)を得た。
得られたペレット状の組成物(2)における組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.3質量%、7.9質量%、10.8質量%であった。また、重量平均分子量(Mw)は157,000、立体規則性の指標であるS/Hは1.19であった。
【0161】
[製造例3]
MMA450.7kg、phMI39.8kg、chMI59.7kg、連鎖移動剤であるn-オクチルメルカプタン0.41kg、mXy450kgを計量し、予め窒素置換した1.25m^(3)反応器に加え、これらを撹拌し、混合単量体溶液を得た。
次いで、混合単量体溶液に、100mL/分の速度で窒素によるバブリングを6時間実施し、溶存酸素を除去し、温度を110℃に上昇させた。
次いで、重合開始剤であるt-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.30kgをmXy3.85kgに溶解させた重合開始剤溶液を、1kg/時間の速度で追添することで重合をした。
重合開始から10時間経過した後、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂を含む重合溶液を得た。
この重合溶液に、溶液中に含まれる重合体100質量部に対して、0.1質量部のイルガノックス1010を、撹拌下に添加した。
この重合溶液を用いて、製造例1と同様に、濃縮、脱揮、並びに造粒を行い、ペレット状のN-置換マレイミド構造単位を有するメタクリル系樹脂重合物を含む組成物(3)を得た。
得られた組成物(3)における組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.3質量%、7.9質量%、10.8質量%であった。また、重量平均分子量(Mw)は155,000、立体規則性の指標であるS/Hは1.25であった。
【0162】
[製造例4-1]
予め内部を窒素にて置換した、撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入管を備えた1m^(3)の反応器に、149.6kgのメタクリル酸メチル、37.4kgの2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、0.04kgトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、149.0kgのMIBK、n-ドデシルメルカプタン25gを仕込み、原料溶液を調製した。これに窒素を通じつつ、撹拌し、反応器内温を100℃まで昇温した。
別途、重合開始剤として、t-アミルパーオキシイソノナノエート0.56kgと3.6kgのMIBKとを混合した開始剤溶液を調製した。
原料溶液温度が100℃に到達したところで、開始剤溶液を(1)?(6)のプロファイルにて添加し、重合を開始した。
(1)0.0?0.5時間:フィード速度2.0kg/時
(2)0.5?1.0時間:フィード速度1.0kg/時
(3)1.0?2.0時間:フィード速度0.8kg/時
(4)2.0?3.0時間:フィード速度0.7kg/時
(5)3.0?4.0時間:フィード速度0.35kg/時
(6)4.0?7.0時間:フィード速度0.27kg/時
開始剤の添加が完了した後、さらに2時間反応させて重合反応を完結させた。
重合反応中、内温は105?110℃で制御した。
得られた重合体溶液に、MIBKを85kgと環化触媒として有機リン化合物であるリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物170gとを添加し、還流下、約95?100℃で2時間、環化縮合反応を行った。
次に得られた重合体溶液を、多管式熱交換機からなる加熱機にて240℃に加熱したのち、リアベント数1個、フォアベント数4個を有するベント付二軸押出機に導入することにより、脱揮を行いつつ環化反応を進行させた。
二軸押出機では、樹脂換算で15kg/時となるように、得られた共重合体溶液を供給し、バレル温度260℃、回転数100rpm、真空度10?300Torrの条件とした。その際、二軸押出機の後半部分に備え付けられた2つのサイドフィードより、触媒失活剤(2-エチルヘキシル酸亜鉛、日本化学産業株式会社製、製品名ニッカオクチックス亜鉛18%)及びイルガノックス1010を投入した。なお、失活剤は30g/時の供給速度にて、イルガノックス1010は15g/時の供給速度にて、トルエン溶液として、樹脂の供給の時間と同じ時間添加した。
二軸押出機で環化・脱揮処理を行った環化重合物を、ストランドダイから押出し、水冷後ペレット化し、メタクリル系樹脂重合物を含む組成物(4-1)を得た。
得られた組成物(4-1)における組成を確認したところ、ラクトン環構造単位の含有量は28.3質量%であった。ラクトン環構造単位の含有量については、特開2007-297620号公報に記載の方法に従い求めた。また、得られた組成物(4-1)の重量平均分子量(Mw)は209,000、立体規則性の指標であるS/Hは1.40であった。
【0163】
[製造例4-2]
予め内部を窒素にて置換した、撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入管を備えた1m^(3)の反応器に、136.6kgのメタクリル酸メチル、37.4kgの2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、13.0kgのスチレン、0.04kgのトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、149.0kgのトルエン、n-ドデシルメルカプタン125gを仕込み、原料溶液を調製した。これに窒素を通じつつ、撹拌し、反応器内温を100℃まで昇温した。
別途、重合開始剤として、t-アミルパーオキシイソノナノエート0.56kgとスチレン6.5kgとを混合した別添用溶液を調製した。
原料溶液温度が100℃に到達したところで、別添用溶液を(1)?(5)のプロファイルにて添加し重合を開始した。
(1)0.0?0.5時間:フィード速度5.0kg/時
(2)0.5?1.0時間:フィード速度3.0kg/時
(3)1.0?3.0時間:フィード速度1.0kg/時
(4)3.0?4.0時間:フィード速度0.35kg/時
(5)4.0?7.0時間:フィード速度0.27kg/時
開始剤の添加が完了した後、さらに2時間反応させて重合反応を完結させた。
重合反応中、内温は105?110℃で制御した。
得られた重合体溶液に、トルエンを85kgと環化触媒として有機リン化合物であるリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物170gとを添加し、還流下、約95?100℃で2時間、環化縮合反応を行った。
次に得られた重合体溶液を、多管式熱交換機からなる加熱機にて240℃に加熱した後、リアベント数1個、フォアベント数4個を有するベント付二軸押出機に導入することにより、脱揮を行いつつ環化反応を進行させた。
二軸押出機では、樹脂換算で15kg/時となるように、得られた共重合体溶液を供給し、バレル温度260℃、回転数100rpm、真空度10?300Torrの条件とした。
その際、二軸押出機の後半部分に備え付けられた2つのサイドフィードより、触媒失活剤(2-エチルヘキシル酸亜鉛、日本化学産業株式会社製、製品名ニッカオクチックス亜鉛18%)及びイルガノックス1010を投入した。なお、失活剤は、30g/時の供給速度にて、イルガノックス1010は15g/時の供給速度にて、トルエン溶液として、樹脂の供給の時間と同じ時間添加した。
二軸押出機で環化及び脱揮処理を行った環化重合物を、ストランドダイから押出し、水冷後ペレット化し、メタクリル系樹脂重合物を含む組成物(4-2)を得た。
得られた組成物(4-2)における組成を確認したところ、ラクトン環構造単位の含有量は28.3質量%、スチレン単量体由来の構造単位が6.8質量%であった。ラクトン環構造単位の含有量については、特開2007-297620号公報に記載の方法に従い求めた。また、得られた組成物(4-2)の重量平均分子量(Mw)は109,000、立体規則性の指標であるS/Hは1.26であった。
【0164】
[製造例4-3]
製造例4-2において、n-ドデシルメルカプタンを使用せず、開始剤溶液の添加を3.58kg/時の添加速度にて2時間添加する方法に変更した以外は製造例4-2と同様にして、メタクリル系樹脂重合物を含む組成物(4-3)を得た。
得られた組成物(4-3)における組成を確認したところ、ラクトン環構造単位の含有量は28.3質量%、スチレン単量体由来の構造単位は6.5質量%であった。ラクトン環構造単位の含有量については、特開2007-297620号公報に記載の方法に従い求めた。
また、得られた組成物(4-3)の重量平均分子量(Mw)は142,000、立体規則性の指標であるS/Hは1.28であった。
【0165】
[製造例5]
4枚傾斜パドル翼を取り付けた攪拌機を有する容器に、水2kg、第三リン酸カルシウム65g、炭酸カルシウム39g、ラウリル硫酸ナトリウム0.39gを投入、混合し、混合液を得た。
次に、3枚後退翼を取り付けた攪拌機を有する60Lの反応器に水26kgを投入して40℃に昇温し、MMA18.6kg、phMI1.8kg、chMI2.5kg、重合開始剤としてラウロイドパーオキサイドを0.04kg、連鎖移動剤としてn-オクチルメルカプタンを0.015kg、並びに先に調製しておいた混合液とを反応器に投入し、撹拌混合した。
次いで、約1℃/minの速度で75℃まで昇温し、約75℃を保って懸濁重合を行い、原料混合物を投入してから約150分後に発熱ピークが観測された。
その後、約96℃に約1℃/minの速度で昇温した後、120分間熟成し、重合反応を実質終了した。
次に、50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために20質量%硫酸を投入した。
次に、重合反応溶液を、1.68mmメッシュの篩にかけて凝集物を除去した上で、水分を濾別し、得られたスラリーを脱水してビーズ状ポリマーを得、得られたビーズ状ポリマーを、水洗浄した後、上記と同様に脱水し、さらにイオン交換水で洗浄、脱水を繰り返して洗浄し、粒子状の主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂(5)を得た。
得られた重合物(5)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.3質量%、7.9%質量、10.8質量%であった。また、重量平均分子量は185,000、ビカット軟化温度は131℃、立体規則性の指標であるS/Hは1.95であった。
【0166】
[実施例1]
製造例1-1にて得られた組成物(1-1)及び製造例1-2にて得られた組成物(1-2)を90℃、5時間真空乾燥し、窒素雰囲気下にて30℃まで冷却し、組成物の調製に用いた。
予め窒素置換されたタンブラー型ミキサーを用いて、組成物(1-1)を50質量部と組成物(1-2)50質量部、酸化防止剤としてのアデカスタブPEP36を0.1質量部とからなる混合物を調製した。
露点を-30℃に、且つ温度を80℃に調整した除湿空気を利用し、得られた混合物を58mmφベント付二軸押出機に供給し溶融混練を行った。その際、二軸押出機に附帯する原料ポッパーの下部には、窒素導入ラインを設けて、押出機内に窒素を導入しながら行った。原料ホッパー下での酸素濃度を測定したところ、約1容量%であった。
運転条件としては、押出機下部及びダイ設定温度270℃、回転数200rpm、ベント部での真空度は200Torr、吐出量20kg/時の条件にて実施した。
溶融混練された樹脂組成物は、多孔ダイを通じてストランド状に押出され、予め50℃に加温された冷却水が満たされた冷却バスに導入し冷却固化させ、カッターにより裁断され、ペレット状の組成物を得た。
得られたペレット状の組成物(1)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.2質量%、8.0%質量%、10.8質量%であった。
また、重量平均分子量は、143,000、ビカット軟化温度は130℃、立体規則性の指標であるS/Hは1.34であった。
その他の評価結果を表1及び表2に示す。
【0167】
[実施例2]
用いるメタクリル系樹脂の組成物を、製造例1-1で得られた組成物(1-1)50質量部及び製造例1-4で得られた組成物(1-4)50質量部に変更した以外は実施例1と同様にして組成物(2)を調製した。
得られたペレット状の組成物(2)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、85.2質量%、3.0質量%、11.8質量%であった。
また、重量平均分子量は、140,000、ビカット軟化温度は120℃、立体規則性の指標であるS/Hは1.39であった。
その他の評価結果を表1及び表2に示す。
【0168】
[実施例3]
用いるメタクリル系樹脂の組成物を、製造例1-1で得られた組成物(1-1)50質量部及び製造例1-5で得られた組成物(1-5)50質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてペレット状の組成物(3)を調製した。
得られたペレット状の組成物(1)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、71.8質量%、8.9質量%、19.3質量%であった。
また、重量平均分子量は、137,000、ビカット軟化温度は138℃、立体規則性の指標であるS/Hは1.29であった。
その他の評価結果を表1及び表2に示す。
【0169】
[実施例4]
用いるメタクリル系樹脂の組成物を、製造例1-1で得られた組成物(1-1)70質量部及び製造例1-2で得られた組成物(1-2)30質量部に変更した以外は実施例1と同様にして組成物(4)を調製した。
得られたペレット状の組成物(4)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.5質量%、10.4質量%、8.1質量%であった。
また、重量平均分子量は、168,000、ビカット軟化温度は133℃、立体規則性の指標であるS/Hは1.37であった。
その他の評価結果を表1及び表2に示す。
【0170】
[実施例5]
用いるメタクリル系樹脂の組成物を、製造例1-1で得られた組成物(1-1)30質量部及び製造例1-2で得られた組成物(1-2)70質量部に変更した以外は実施例1と同様にして組成物(5)を調製した。
得られたペレット状の組成物(5)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、80.8質量%、5.6質量%、13.6質量%であった。
また、重量平均分子量は、122,000、ビカット軟化温度は127℃、立体規則性の指標であるS/Hは1.31であった。
その他の評価結果を表1及び表2に示す。
【0171】
[実施例6]
用いるメタクリル系樹脂の組成物を、製造例4-1で得られた組成物(4-1)50質量部及び製造例4-2で得られた組成物(4-2)50質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして組成物(6)を調製した。
得られたペレット状の組成物(6)の組成を確認したところ、ラクトン環構造単位は、28.3質量%、スチレン単量体由来の構造単位は3.4質量%であった。
また、重量平均分子量は、148,000、ビカット軟化温度は124℃、立体規則性の指標であるS/Hは1.33であった。
その他の評価結果を表1及び表2に示す。
【0172】
[実施例7]
用いるメタクリル系樹脂の組成物を、製造例1-3で得られた重合物(1-3)100質量部に変更した以外は実施例1と同様にして組成物(7)を調製した。
得られたペレット状の組成物(7)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.3質量%、7.9質量%、10.8質量%であった。
また、重量平均分子量は、131,000、ビカット軟化温度は129℃、立体規則性の指標であるS/Hは1.24であった。
その他の評価結果を表1及び表2に示す。
【0173】
[実施例8]
用いるメタクリル系樹脂の組成物を、製造例2で得られた組成物(2)60質量部及び製造例5で得られた重合物(5)40質量部に変更した以外は実施例1と同様にして組成物(8)を調製した。得られたペレット状の組成物(8)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.3質量%、7.9質量%、10.8質量%であった。
また、重量平均分子量は、151,000、ビカット軟化温度は131℃、立体規則性の指標であるS/Hは1.49であった。
その他の評価結果を表1及び表2に示す。
【0174】
[実施例9]
用いるメタクリル系樹脂の組成物を、製造例1-1で得られた組成物(1-1)50質量部及び製造例1-6で得られた組成物(6)50質量部に変更した以外は実施例1と同様にして組成物(9)を調製した。得られたペレット状の組成物(7)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.3質量%、7.9質量%、10.8質量%であった。
また、重量平均分子量は、212,000、ビカット軟化温度は130℃、立体規則性の指標であるS/Hは1.34であった。
その他の評価結果を表1及び表2に示す。
【0175】
[実施例10]
実施例4で得られたペレット状組成物(4)を用い、厚さ1.5mmの未延伸シートを調製した。その調製条件としては、押出機先端部にギアポンプとリップ開度が2.5mmの幅480mmのTダイを設置した50mmφ単軸押出機を用い、押出機設定温度:270℃、Tダイ温度設定:265℃、吐出量:8kg/時にて行った。
これに連続して、ロール延伸装置を用いて、延伸倍率2倍の縦延伸を行った。
ロールの温度としては、ビカット軟化温度+10℃とした。
上述の縦延伸に引続き、テンター式横延伸機を用いて、延伸温度条件としてビカット軟化温度+10℃の条件で、延伸倍率2倍にて横延伸し、厚さ35μの逐次二軸延伸シートを調製した。得られた二軸延伸シートの光弾性係数は1.0×10^(12)Pa^(-1)であった。
得られた二軸延伸シートを用い、以下に示す金型を用いてプレス成形により表面賦型を行った。
<金型デザイン>
金型サイズ:30mm角、材質:ニッケル
賦型パターン:ストライブ
賦型ピッチ:1μm
賦型凸部幅:0.5μm
賦型凸部高さ:1μm
<賦型条件>
金型温度:170℃
プレス圧力:20MPa
保持時間:2分
離型温度:130℃まで冷却後、型締圧を解放
冷却温度:50℃
得られた表面賦型シートを光学顕微鏡にて観察した結果、金型の凸部断面積に対する表面賦型シートの凹部断面積の百分率が92%と良好な結果であった。この結果からは、比較的厚さのあるシート状成形体においても、優れた表面賦型性を有していることがわかった。
【0176】
[比較例1]
用いるメタクリル系樹脂の組成物を、製造例2で得られた組成物(2)100質量部に変更した以外は実施例1と同様にして組成物(比1)を調製した。
得られたペレット状の組成物(比1)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.3質量%、7.9質量%、10.8質量%であった。
また、重量平均分子量は、141,000、ビカット軟化温度は129℃、立体規則性の指標であるS/Hは1.19であった。
その他の評価結果を表1及び表2に示す。
【0177】
[比較例2]
用いるメタクリル系樹脂の組成物を、製造例3で得られた組成物(3)100質量部に変更した以外は実施例1と同様にして組成物(比2)を調製した。
得られたペレット状の組成物(比2)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.3質量%、7.9質量%、10.8質量%であった。
また、重量平均分子量は、140,000、ビカット軟化温度は128℃、立体規則性の指標であるS/Hは1.15であった。
その他の評価結果を表1及び表2に示す。
【0178】
[比較例3]
用いるメタクリル系樹脂の組成物を、製造例4-3で得られた組成物(4-3)100質量部に変更した以外は実施例3と同様にして組成物(比3)を調製した。
得られたペレット状の組成物(比3)の組成を確認したところ、ラクトン環構造単位は、28.3質量%、スチレン単量体由来の構造単位は6.5質量%であった。
また、重量平均分子量は、135,000、ビカット軟化温度は121℃、立体規則性の指標であるS/Hは1.28であった。
その他の評価結果を表1及び表2に示す。
【0179】
[比較例4]
特公昭63-1964号公報に記載の方法に従い、メタクリル酸メチル-無水マレイン酸-スチレン共重合体(共重合体A)を得た。
得られたメタクリル酸メチル-無水マレイン酸-スチレン共重合体は、メタクリル酸メチル74質量%、無水マレイン酸10質量%、スチレン16質量%であり、重量平均分子量は121,000であった。
そして、製造例1-1で得られたメタクリル系樹脂に代えて、上記で得られた共重合体Aを用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製した。
重量平均分子量は117,000、ビカット軟化温度は122℃、立体規則性の指標であるS/Hは1.96であった。
【0180】
[比較例5]
用いるメタクリル系樹脂の組成物を、製造例2で得られた組成物(2)55質量部及び製造例5で得られた重合物(5)45質量部に変更した以外は実施例1と同様にして組成物(9)を調製した。得られたペレット状の組成物(9)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.3質量%、7.9質量%、10.8質量%であった。
また、重量平均分子量は、160,000、ビカット軟化温度は131℃、立体規則性の指標であるS/Hは1.56であった。
その他の評価結果を表1及び表2に示す。
【0181】
[比較例6]
用いるメタクリル系樹脂組成物を比較例2で得られた組成物(比2)に変更した以外は実施例10と同様にして、シート状成形体への表面賦型テストを実施した。
しかしながら、金型からの離型が悪く、成形体が割れてしまい、その賦型性を評価することができなかった。
【0182】
【表1】

【0183】
【表2】

【0184】
表1及び表2から明らかなように、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物で構成された実施例のフィルムは、ナーリング等の表面賦型性並びにその耐久性に優れる。一方、比較例のフィルムの様に立体規則性の指標である(S/H)やメタノール可溶分が本発明の範囲を超える場合には、表面賦型性又はその耐久性が劣ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0185】
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物は、透明性に優れ、且つ、耐熱性、耐候性が良好であり、さらにその複屈折性が高度に制御されていることから、光学材料として、例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイに用いられる偏光板保護フィルム、1/4波長板、1/2波長板等の位相差板、視野角制御フィルム等の液晶光学補償フィルム、ディスプレイ前面板、ディスプレイ基板、レンズ等、また、太陽電池に用いられる透明基板、タッチパネル等の透明導電性基板、さらには光通信システム、光交換システム、光計測システムの分野において、導波路、レンズ、レンズアレイ、光ファイバー、光ファイバーの被覆材料、LEDのレンズ、レンズカバー等にも好適に用いることができる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種である主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物であり、
ビカット軟化温度が120?160℃の範囲にあり、
^(1)H-NMRを用いて求めた、メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位におけるヘテロタクチック部(mr)の積分強度(H)に対するシンジオタクチック部(rr)の積分強度(S)の比(S/H)が1.20?1.50の範囲にあり、
メタノール可溶分の量が、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して、5質量%以下である
ことを特徴とする、メタクリル系樹脂組成物。
【請求項2】
GPCによる測定されるポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量(Mw)が、120,000?200,000である請求項1に記載のメタクリル系樹脂組成物
【請求項3】
前記(X)構造単位が、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を含み、
前記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位の含有量が、前記メタクリル系樹脂を100質量%として、5?40質量%である、請求項1又は2に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項4】
前記(X)構造単位が、ラクトン環構造単位を含み、
前記ラクトン環構造単位の含有量が、前記メタクリル系樹脂を100質量%として、5?40質量%である、請求項1又は2に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項5】
光弾性係数の絶対値が、2.0×10^(-12)Pa^(-1)以下である、請求項1?4のいずれか1項に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項6】
光弾性係数の絶対値が、1.0×10^(-12)Pa^(-1)以下である、請求項5に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1?6のいずれか1項に記載のメタクリル系樹脂組成物を含み、表裏面の少なくとも一方の面の少なくとも一部にエンボス部を有する、ことを特徴とする光学部品。
【請求項8】
光学フィルムである、請求項7に記載の光学部品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-03-26 
出願番号 特願2016-228161(P2016-228161)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
P 1 651・ 121- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 久保田 英樹  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 橋本 栄和
海老原 えい子
登録日 2017-06-02 
登録番号 特許第6151423号(P6151423)
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 メタクリル系樹脂組成物及び光学部品  
代理人 塚中 哲雄  
代理人 神 紘一郎  
代理人 杉村 憲司  
代理人 杉村 憲司  
代理人 塚中 哲雄  
代理人 神 紘一郎  

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