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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
管理番号 1351429
異議申立番号 異議2017-701242  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-06-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-12-26 
確定日 2019-04-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6152925号発明「グラフェン分散液およびその製造方法、グラフェン-活物質複合体粒子の製造方法ならびに電極用ペーストの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6152925号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕、〔9?13〕について訂正することを認める。 特許第6152925号の請求項9ないし13に係る特許を維持する。 特許第6152925号の請求項1ないし8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6152925号の請求項1?13に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願(特願2016-559390)は、2016年(平成28年) 9月 9日(優先権主張 平成27年 9月18日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成29年 6月9日にその特許権の設定登録がされ、同年 6月28日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、特許異議申立人 中村 光代 (以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものであり、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年12月26日 特許異議の申立て
平成30年 4月 4日付け 取消理由通知(1回目)
同年 5月30日 訂正の請求、意見書の提出
同年 7月19日 申立人による意見書の提出
同年10月 1日付け 取消理由通知(2回目)
同年11月27日 訂正の請求、意見書の提出

なお、平成30年11月27日付けの訂正の請求に対して、申立人に期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、指定期間内に意見書は提出されなかった。


第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
平成30年11月27日付けの訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下の訂正事項1、2からなるものである(下線部は、訂正箇所を示す)。
なお、平成30年 5月30日付けの訂正の請求は、取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1?8を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項9に、
「水を含む分散媒に分散した酸化グラフェンを還元する還元工程」
と記載されているのを、
「水を含む分散媒に分散した酸化グラフェンを、X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の元素比(O/C比)が0.08以上0.30以下となるように還元する還元工程」
に訂正する。

2 訂正の適否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1?8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項9において、どの程度まで酸化グラフェンを還元するのかは明らかでなかったのを、本件訂正請求による訂正により「水を含む分散媒に分散した酸化グラフェンを、X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の元素比(O/C比)が0.08以上0.30以下となるように還元する還元工程」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
ここで、訂正事項2のグラフェンの炭素に対する酸素の元素比(O/C比)は、訂正前の請求項4及び本件明細書の段落【0032】にそれぞれ記載された事項であって、同段落【0032】によると、最終的に得られるグラフェン分散液に含まれるグラフェンの炭素に対する酸素の元素比(O/C比)を意味している。
すなわち、訂正後の請求項9に係る発明の還元工程において、最終的に得られるグラフェン分散液に含まれるグラフェンのO/C比となるように還元することが特定されている。
したがって、当該訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)一群の請求項
訂正前の請求項2?8は、直接的又は間接的に請求項1を引用するものであるから、上記訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
訂正前の請求項10?13は、直接的又は間接的に請求項9を引用するものであるから、上記訂正事項2によって記載が訂正される請求項9に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正事項1と訂正事項2とを含む本件訂正請求は、それらの一群の請求項に対してされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

(4)独立特許要件について
本件特許の訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1、2は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第7項の独立特許要件の規定は適用されない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?8〕、〔9?13〕について訂正することを認める。


第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正特許請求の範囲の請求項9?13に係る発明(以下、請求項9?13に係る発明を、「本件発明9」?「本件発明13」という。)は、次の事項により特定されるとおりのものである(下線部は、訂正箇所を示す)。
なお、請求項1?8は、本件訂正請求による訂正により削除された。

【請求項9】
水を含む分散媒に分散した酸化グラフェンを、X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の元素比(O/C比)が0.08以上0.30以下となるように還元する還元工程;
還元工程の前後または還元工程の最中の中間体分散液に含まれる酸化グラフェンまたはグラフェンを微細化する微細化工程;
還元工程および微細化工程を経た中間体分散液と有機溶媒とを混合する有機溶媒混合工程;
有機溶媒を含む中間体分散液をせん断速度毎秒5000?毎秒50000で撹拌処理する強撹拌工程;
有機溶媒添加と吸引濾過を組み合わせる手法、または蒸留により中間体分散液から水分の少なくとも一部を除去する水分除去工程;
を有するグラフェン分散液の製造方法。
【請求項10】
前記還元工程からの全ての工程を、グラフェンが分散媒に分散した状態で一度も粉末状態を経由せずに行う、請求項9に記載のグラフェン分散液の製造方法。
【請求項11】
前記微細化工程をメディアレス分散法により行う、請求項9または10に記載のグラフェン分散液の製造方法。
【請求項12】
前記微細化工程のメディアレス分散法として超音波処理を行う、請求項11に記載のグラフェン分散液の製造方法。
【請求項13】
さらに、前記還元工程後のいずれかの段階で、
中間体分散液を70℃以上に加熱する加熱工程;
を有する、請求項9?12のいずれかに記載のグラフェン分散液の製造方法。

第4 特許異議の申立ての理由及び証拠について
1 申立理由について
申立人は、証拠方法として甲第1号証?甲第5号証(以下、「甲1」?「甲5」という。)を提出し、本件特許は、以下の申立理由により取り消すべきものである旨主張している。

(1)申立理由1
訂正前の請求項1、6に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(2)申立理由2
訂正前の請求項1?13に係る発明は、甲2、甲3又は甲4に記載された発明、及び甲5に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(3)申立理由3
訂正前の請求項1?6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

(4)申立理由4
訂正前の請求項1?13に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

2 証拠方法
甲1:特開2015-101494号公報
甲2:Kuila,T. et al. "Facile Method for the Preparation of Water
Dispersible Graphene using Sulfonated Poly(ether-ether-
ketone) and Its Application as Energy Storage Materials",
Langmuir, 2012, 28, p.9825-9833
甲2-1:甲2の日本語部分翻訳
甲3:Kuila,T. et al. "Preparation of water-dispersible graphene
by facile surface modification of graphite oxide",
Nanotechnology, 2011,22,305710
甲3-1:甲3の日本語部分翻訳
甲4:Cheng,C. et al. "Biopolymer functionalized reduced
graphene oxide with enhanced biocompatibility via
mussel inspired coatings/anchors ",
Journal of Materials Chemistry B, 2013,1, p.265-275
甲4-1:甲4の日本語部分翻訳
甲5:特表2015-506083号公報


第5 取消理由について
1 平成30年10月 1日付けの取消理由通知(2回目)の概要
平成30年 5月30日付けの訂正請求により訂正された訂正特許請求の範囲の請求項9?13に対して、平成30年10月1日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

(1)取消理由1 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。


請求項9?13に係る発明が解決しようとする課題は、「高分散性であり、電極材料の製造原料に用いた場合に高い導電性とイオン伝導性を維持することが可能な形態のグラフェンを提供する」(本件明細書段落【0011】)というものであるが、 請求項9?13に係る発明は、グラフェン分散液に分散したグラフェンのO/C比が特定されていないため、最終的に得られるグラフェンの還元の程度が明らかでないから、これらの発明により上記課題を達成できるグラフェンが得られるとは認識できない。

(2)取消理由2 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。


請求項9?13に係る発明は、酸化グラフェンをどの程度まで還元するのかは明らかでなく、酸化グラフェンの酸化度、及び還元の程度によって、最終的に得られるグラフェンのO/C比は変動するから、請求項9?13に係る発明において、酸化グラフェンとグラフェンとは明確に区別することができない。

2 平成30年 4月 4日付けの取消理由通知(1回目)の概要
訂正前の請求項1?13に対して、平成30年 4月 4日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

(1)取消理由1 本件特許の請求項1、3、6に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(2)取消理由2 本件特許の請求項7、8に係る発明は、甲1及び甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(3)取消理由3 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。


上記「1(1)取消理由1」と同様な理由により、請求項1?3、5?8に係る発明は、グラフェンのO/C比がどのような値であっても、上記課題を達成できるとは認識できない。

(4)取消理由4 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。


ア 請求項1?13に係る発明において、「グラフェン」と「酸化グラフェン」との区別が明確でなく、「グラフェン」の範囲が不明確である。

イ 請求項1?8に係る発明において、本件明細書に「メジアン径」の測定基準が記載されていないため、「メジアン径」が特定されたグラフェンを含む「グラフェン分散液」の範囲が不明確である。


第6 当審の判断
1 平成30年10月 1日付けの取消理由通知(2回目)についての判断
取消理由1(特許法第36条第6項第1号)、取消理由2(特許法第36条第6項第2号)について

本件発明9は、本件訂正請求による訂正により、「X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の元素比(O/C比)が、0.08以上0.30以下となるように還元する」ことが特定された。
そうすると、発明の詳細な説明において、特定のO/C比において本件発明の課題を解決できることが記載されているところ(本件明細書段落【0032】)、本件発明9及び本件発明9に従属する本件発明10?13において、酸化グラフェンを、0.08以上0.30以下の「O/C比」となるように還元してグラフェン分散液を得ることが明らかとなったから、本件発明9?13は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。
また、本件発明9?13において、還元により得られるグラフェン分散液に含まれるグラフェンのO/C比が特定されたことで、酸化グラフェンとグラフェンとの区別(酸化されていないグラフェンの存在)が明らかになったといえるから、本件発明の範囲は明確である。

2 平成30年 4月 4日付けの取消理由通知(1回目)についての判断
(1)取消理由1(特許法第29条第1項第3号)、取消理由2(特許法第29条第2項)について

本件訂正請求による訂正により、請求項1?8は削除されたから、取消理由1の対象となった請求項1、3、6及び取消理由2の対象となった請求項7、8は、存在しないものとなった。

(2)取消理由3(特許法第36条第6項第1号)、 取消理由4(特許法第36条第6項第2号)について

本件訂正請求による訂正により、請求項1?8は削除されたから、上記取消理由3、取消理由4 ア及びイで対象となった請求項1?8は、存在しないものとなった。
また、上記 1 に記載したとおりであるから、取消理由4 アのうちの請求項9?13に対する取消理由4は、理由がない。

3 採用しなかった申立理由についての判断
特許異議申立てによる申立理由1、3、4は、取消理由においてすべて採用した。 そして、本件訂正請求による訂正により、訂正前の請求項1?8は削除されたので、本件発明9?13に対して、申立理由2について検討する。

(1)甲2?5の記載事項
甲2?5には、以下の事項が記載されている(訳は、各証拠の翻訳文を参考にした。)

ア 甲2の記載事項
2a「2.2 Preparation of Graphite Oxide. Graphite oxide was prepared by the modified Hummers method.^(14) In brief, 46 mL of concentrated sulfuric acid was added to a 250 mL round-bottom flask at 0-5 ℃. Then, 2 g of natural flake graphite was added and stirred at this temperature to make a homogeneous suspension. About 6 g of potassium permanganate was added very slowly over a time span of 20-25 min followed by stirring for 2 h. The temperature of the reaction system was maintained at 0-5℃ with an ice bath. The flask was then transferred to a preheated oil bath at 35 ±2 ℃ under constant stirring for 12 h. About 92 mL of DI water was added very carefully followed by additional stirring for 1 h. The deep brown reaction mixture was added to 240 mL of DI water followed by the addition of 30% hydrogen peroxide until the color changed to bright yellow. Finally, a 5% hydrochloric acid solution was added to remove the manganese ions from graphite oxide followed by washing with DI water to remove excess acid. The removal of hydrochloric and sulfuric acid was confirmed by a silver nitrate and barium chloride solution. The purified graphite oxide was separated by centrifugation using a Beckman Coulter Allegra X-22R centrifuge and freeze-dried.」(9826ページ左欄下から31行?下から13行)
(「2.2.酸化グラファイトの調製 酸化グラファイトは改良ハマーズ法^(14)により調製した。要約すると、濃硫酸46mLを0?5℃で250mLの丸底フラスコに投入し、次いで、天然鱗片状グラファイト2gを加え、同じ温度で攪拌し均一な懸濁液を作製した。過マンガン酸カリウム約6gを20?25分かけて非常にゆっくり加え、2時間攪拌した。反応系の温度は氷浴を用いて0?5℃に維持した。その後、あらかじめ35±2℃に温めた油浴にフラスコを移し、12時間一定の速度で攪拌した。脱イオン水約92mLを非常に慎重に加え、さらに1時間攪拌した。焦げ茶色の反応混合物を脱イオン水240mLに加えた後、溶液が鮮やかな黄色になるまで30%過酸化水素を加えた。その後、5%塩酸溶液を加え酸化グラファイトからマンガンイオンを取り除き、脱イオン水で洗浄して過剰な酸を取り除いた。硝酸銀水溶液および塩化バリウム水溶液を用いて、塩酸および硫酸が除去されたことを確認した。精製した酸化グラファイトは、遠心分離機「ベックマン・コールター・アレグラX-22Rを用いて遠心分離を行い、凍結乾燥させた。」)

2b「2.3. Sulfonation of Poly(ether-ether-ketone). PEEK pellets (5 g) were slowly added to 100 mL of concentrated H_(2)SO_(4 )(95-98 wt %) at room temperature under nitrogen atmosphere. After complete dissolution of PEEK in H_(2)SO_(4), it was then stirred vigorously at 55 ℃ for 5 h. The reaction mixture was cooled to room temperature and slowly added to ice cold water. The precipitate was then washed several times with DI water until reaching neutral pH. The product was dried at 70 ℃ in a vacuum oven to prepare sulfonated SPEEK. The conversion of PEEK to SPEEK including the chemical structure of both the reactant and the product are shown in Figure S1 of the Supporting Information. The degree of sulfonation of the SPEEK has been determined as 80%.」(9826ページ左欄下から12行?最下行)
(「2.3.ポリ(エーテルエーテルケトン)のスルホン化 PEEKペレット(5g)を室温および窒素雰囲気下で、濃H_(2)SO_(4)(95?98wt%)100mLにゆっくり加えた。PEEKがH_(2)SO_(4)に完全に溶解した後、55℃で5時間激しく攪拌した。得られた反応混合物を室温まで冷却し、氷水にゆっくり加えた。次に、得られた沈殿物を、中性pHになるまで脱イオン水で数回洗浄し、生成物を70℃の真空オーブンで乾燥させ、スルホン化SPEEKを調製した。サポート情報である図S1に、PEEKを反応物および生成物両方の化学溝造を有するSPEEKに変換する過程を示す。SPEEKのスルホン化率は80%であった。」)

2c「2.4. Surface Modification of Graphene using SPEEK. About 100 mg of graphite oxide was dispersed in 200 mL of water via ultrasonication for 30 min (Sonosmasher ULH 700S, 20 kHz). The unexfoliated graphite oxide was removed by centrifugation (Beckman Coulter, Allegra X-22R) at 5000 rpm for 15-20 min. The stable homogeneous dispersion containing graphene oxide (GO) was used for surface modification. About 300 mg of SPEEK was dissolved separately in distilled water using a magnetic stirrer at 60 ℃ . Then, the SPEEK supernatant solution was added to the GO dispersion and stirred for 24 h at 65-70 ℃. Weighed amount of hydrazine monohydrate (0.1 mL) was added to the above mixture and refluxed for 12 h at 100 ℃. The final product was filtered and washed through a cellulose acetate (0.2 μm pore size) membrane to remove excess SPEEK and to obtain SPEEK modified graphene (SPG). For comparison purposes, chemically reduced GO (CR-GO) was prepared by the reduction of an aqueous GO dispersion using hydrazine monohydrate at 100 ℃ for 12 h.」(9826ページ右欄1行?17行)
(「2.4.SPEEKを用いたグラフェンの表面変性 超音波処理を30分間行い(ソノスマッシヤーULH700S、20kHz)、酸化グラファイト約100mgを水200mLに分散させた。遠心分離(ベックマン・コールター・アレグラX-22R)を5000rpmで15?20分行い、剥離していない酸化グラファイトを取り除いた。酸化グラフェン(GO)を含む均一な安定分散液を用いて表面変性を行った。これとは別に、SPEEK約300mgをマグネティックスターラーを用いて60℃で蒸留水に溶解した。SPEEK溶液の上澄み液をGO分散液に加え65?70℃で24時間攪拌した。秤量したヒドラジンー水和物(0.1mL)を上記混合物に加え、100℃で12時間還流を行った。酢酸セルロース(孔径0.2μm)膜を用いて最終生成物のろ過および洗浄を行い、過剰なSPEEKを取り除き、SPEEK変性グラフェン(SPG)を得た。比較用として、ヒドラジン-水和物を用いてGO水分散液の還元を100℃で12時間行い、化学的に還元したGO(CR-GO)を調製した。」)

2d「3.1. Characterization of SPG. To examine the dispersion characteristics of SPG, the sample was dispersed in distilled water at a concentration of 2 mg mL^(-1). After mild sonication, SPG formed a very stable dispersion in water that was stable for more than six months.」(9826ページ右欄下から10行?下から6行)
(「3.1.SPGの特性評価 濃度が2mgmL^(-1)になるように、試料を蒸留水に分散させ、SPGの分散特性を調べた。ゆるやかな超音波処理を行ったところ、SPGの水分散液は非常に安定で、6か月以上安定な状態のままであった。」)

2e「


(9829ページ)


イ 甲3の記載事項
3a「2.2. Preparation of graphite oxide
In a typical synthesis, the graphite flakes were oxidized to graphite oxide by a modified Hummers method [18]. In brief, 2.0 g natural flake graphite was added to 46 ml of concentrated sulfuric acid in an ice bath. Then, 6.0 g KMnO_(4 )was added slowly over 30 min and stirred for approximately 2 h at 0℃. The deep-green reaction mixture was then placed in an oil bath and stirred for approximately 12 h at 35 ± 2℃. Then, 92 ml of distilled water was added slowly to the reaction mixture and stirred for another 1 h. The resulting mixture was poured into 280 ml water and stirred vigorously with a glass rod. Subsequently, 35% hydrogen peroxide was added to remove excess KMnO_(4). The appearance of bright yellow particles in the solution confirmed the conversion of graphite to graphite oxide. The resulting graphite oxide was washed with dilute HCl and distilled water, repeatedly, until the pH reached about 7. It was then dried at room temperature and then under vacuum at 50℃ for seven days.」(2ページ左欄下から7行?右欄11行)
(「2.2.酸化グラファイトの調製
代表的な酸化グラファイトの合成方法としては、改良ハマーズ法(Hummers method)で鱗片状グラファイトを酸化する方法があげられる[18]。要約すると、天然鱗片状グラファイト2.0gを氷浴中の濃硫酸46mlに加え、次いで、KMnO_(4)6.0gを30分かけてゆっくりと加え、0℃で約2時間攪拌した。その後、得られた濃い緑色の反応混合物を油浴中で35±2℃で約12時間攪拌した。次に蒸留水92mlをゆっくりと反応混合物に加え、さらに1時間攪拌した。得られた混合物を水280mlに投入し、ガラス棒で激しく攪拌した。その後、35%過酸化水素を加えて過剰なKMnO_(4)を取り除いた。溶液中の粒子が鮮やかな黄色になった時点で、グラファイトが酸化グラファイトになったことを確認した。得られた酸化グラファイトを、pHが約7になるまで、繰り返し希塩酸および蒸留水で洗浄した。その後、室温で乾燥させ、次いで50℃の真空下で7日間乾燥させた。」)

3b「2.3. Surface modification of graphene
In a typical method, 500 mg of graphite oxide was dispersed in 250 ml distilled water by ultrasoncation for 1 h. 2.0 g of ANS was dissolved in 10 ml distilled water containing two-three drops of 1 M ammonium hydroxide solution. The ANS solution was then added slowly to the graphite oxide dispersion with stirring. The resulting mixture was then stirred for 24 h at 70 ℃. Hydrazine monohydrate (5.0 ml) was added and the temperature was raised to 100℃. Stirring was continued for another 24 h, after which the mixture was cooled to room temperature. The water-dispersible black product was obtained by filtration through cellulose acetate membrane filter paper (pore size 0.1 μm) and washed several times with distilled water to remove excess ANS. The resulting product was dried under vacuum at 60 ℃ for 72 h. The chemically functionalized graphene sheets were designated as ANS-G. The schematic for the preparation of ANS modified graphene are shown in figure 1. 」(2ページ右欄12行?29行)
(「2.3.グラフェンの表面変性
代表的な方法としては、超音波処理を1時間行い、酸化グラファイト500mgを蒸留水250m1に分散させる方法があげられる。ANS2.0gを、2?3滴の1M水酸化アンモニウム溶液を含む蒸留水10mlに溶解させた。続いて、攪拌下で、ゆっくりとANS溶液を酸化グラファイト分散液に加えた。その後、得られた混合物を70℃で24時間攪拌した。ヒドラジン-水和物(5.0ml)を加え、温度を100℃まで上げた。さらに24時間攪拌を続け、その後混合物を室温まで冷却させた。酢酸セルロース膜のろ紙(孔径0.1μm)を用いてろ過することにより、水分散性の黒色生成物を得た。得られた生成物を蒸留水で数回洗浄し、過剰なANSを取り除いた。得られた生成物を60℃の真空下で72時間乾燥させた。得られた化学的に官能化されたグラフェンシートをANS-Gとした。図1にANS変性グラフェンの調製方法を模式的に示す。」)

3c「3. Results and discussion
3.1. UV-vis spectra analysis
The solubility of the surface-modified graphene (ANS-G) was tested in water. The ANS-G dispersed well, forming a good dispersion that was stable for more than 90 days. 」(3ページ左欄下から3行?右欄1行)
(「3.結果と考察
3.1.紫外可視スペクトル分析
表面変性グラフェン(ANS-G)の水への溶解度について試験を行った。ANS-Gは良好に分散し、良好な分散液が得られ、90日を超えても安定な状態のままであった。」)

3d「3.5. XPS analysis
Figures 7(a)-(c) shows the XPS of graphite oxide and ANS- G in the C 1s and S 2p region. The C1s XPS spectrum of graphite oxide is discussed in detail elsewhere [24]; it showed a considerable degree of oxidation, with five components corresponding to carbon atoms in different functional groups: nonoxygenated ring C; C-0 bonds; carbony1 C; carboxylate carbon (O-C=O), and epoxy carbon [11,39-41]. The surface- modified graphene had the same oxygen functionalities, but showed much-reduced peak intensities compared with graphite oxide. There is an additional component at 285.4 eV, corresponding to C-N. The S2p XPS spectra of ANS-G are shown in figure 7(c). The well-defined peaks at 167.4 and 168.4 eV are attributable to the presence of sulfur atoms on the surface of the modified graphene. Elemental analysis of the XPS spectra showed that ANS-G had carbon, oxygen, nitrogen, and sulfur contents of 84.5, 4.2, 4.4, and 4.9%, respectively. These observations indicate considerable de-oxygenation during the reduction process, as well as functionalization.」(5ページ右欄下から3行?6ページ右欄17行)
(「3.5. XPS分析
図7の(a)?(c)はC1s領域およびS2p領域における酸化グラファイトおよびANS-GのXPSを示している。XPS測定による酸化グラファイトのC1sスペクトルについては、他で詳しく議論されている[24]。そのスペクトルによると、酸化度が非常に高く、異なる官能基由来の炭素原子、すなわち、非酸化性環炭素、C-O結合、カルボニル炭素、カルボン酸塩炭素(O-C=O)およびエポキシ炭素[11,39-41]に対応する5つの成分を有していることがわかる。表面変性グラフェンは酸化グラファイトと同様の酸素官能基を有していたが、ピーク強度は酸化グラファイトに比べて非常に低いものであった。さらにC-Nに対応する成分が285.4eVに見られる。図7(c)にXPS測定によるANS-GのS2pスペクトルを示す。167.4および168.4eVに明確に見られるピークは、変性グラフェンの表面に存在する硫黄原子に起因する。XPS測定によるスペクトルの元素分析によると、ANS-Gの炭素含量、酸素含量、窒素含量および硫黄含量はそれぞれ84.5、4.2、4.4および4.9%であった。これらの結果から、還元プロセスにおいては、官能化だけでなく、かなりの脱酸素が起こっていることがわかる。」)

ウ 甲4の記載事項
4a「A green and facile method for preparing biopolymer functionalized reduced graphene oxide (RGO) by using mussel inspired dopamine (DA) as the reducing reagent and the functionalized molecule is proposed. In the study, GO is reduced by DA and DA is adhered to RGO by one-step pH-induced polymerization of DA (polydopamine, PDA), and then heparin or protein is grafted onto the PDA adhered RGO (pRGO) through catechol chemistry. The obtained pRGO, heparin grafted pRGO (Hep-g-pRGO), and BSA grafted pRGO (BSA-g-pRGO) exhibit fine 2D morphology and excellent stability in water and PBS solution.(265ページ上欄1行?7行)
(「イガイに触発されたドーパミン(DA)を還元試薬として用いて、生体高分子で官能化された還元型酸化グラフェン(RGO)を環境に優しく容易に製造する方法およびその官能化された分子が提案されている。この研究において、GOはDAによって還元され、DA(ポリドーパミン、PDA)を一段階のpH誘導重合することによって、DAはRGOに付着する。その後カテコール化学に基づいて、ヘパリンまたはプロテインが、PDAを付着させたRGO(pRGO)にグラフトされる。得られたpRGO、ヘパリンをグラフトさせたpRGO(Hep-g-pRGO)およびBSAをグラフトさせたpRGO(BSA-g-pRGO)は、水およびPBS溶液中で、微細な二次元形態および優れた安定性を示す。」

4b「2.2 Preparation of biopolymer functionalized RGO
Graphene oxide (GO) was prepared from natural graphite flakes by a modified Hummers method.^(28)
PDA adhered RGO (pRGO) was synthesized according to the following method: 200 mg GO was added into 1L PBS solution (50 mM,pH = 8.5) and dispersed by sonication for 20 min in an ice bath; then 1g dopamine hydrochloride was added and sonicated for another 5 min.The solution was stirred vigorously at 60 ℃ for 12 h, and then the reduction reaction was stopped by centrifuging at 11000g 3 times, followed by dialysis in D.I. water for 2 days. The weight percent of coated PDA was estimated to be about 42 wt% compared with the added DA amount by using gravimetric analysis of the products.
Hep-g-pRGO and BSA-g-pRGO were prepared as following: 100 mg pRGO was re-dispersed into 200 mL PBS solution (50 mM, pH 8.5) by mild sonication for 10 min, 400 mg pristine heparin or BSA was added subsequently, and the heparin or BSA grafting reaction was carried out at 25 ℃ for another 24 h with vigorous stirring to reach the maximum biopolymer grafting amounts. After that, the solution was centrifuged and washed thoroughly with D.I. water at 14800g 3 times to remove the physically adsorbed heparin or BSA, and dialyzed in D.I. water for 2 days to make sure the ions were removed completely.」(266ページ右欄7行?29行)
(「2.2 生体高分子で官能化されたRGOの製造
改良ハマース法^(28)により、天然グラファイトフレークから酸化グラフェン(GO)を製造した。
PDAを付着させたRGO(pRGO)を下記の方法にしたがって合成した。まず、1LのPBS溶液(50mM、pH.8.5)に200mgのGOを添加し、氷浴中で超音波処理を20分間行うことにより分散させ、その後、1gのドーパミン塩酸塩を添加し、さらに5分間超音波処理を行った。溶液を60℃で12時間激しく攪拌し、その後、11000gで遠心分離を3回行うことにより、還元反応を終了させ、脱イオン水で2日間透析を行った。生成物の重量分析を行ったところ、DAの添加量と比較すると、被覆されたPDAの重量パーセントは約42wt%であると推定された。
Hep-g-pRGOおよびBSA-g-pRGOを下記の方法にしたがって製造した。まず、軽い超音波処理を10分間行うことによって、100mgのpRGOを200mLのPBS溶液(50mM、pH8.5)に再分散させ、続いて、汚染のないヘパリンまたはBSAを400mg加え、ヘパリンまたはBSAのグラフト反応を25℃で激しく攪拌しながらさらに24時間行ったところ、生体高分子のグラフト量が最大値に達した。その後、得られた溶液を14800gで3回遠心分離機にかけ、脱イオン水で完全に洗浄し、物理的に吸着したヘパリンまたはBSAを除去し、脱イオン水中で2日間透析を行い、イオンが完全に除去されたことを確認した。」)

エ 甲5の記載事項
5a「【0006】
一般に、電極を製造するための技術は、VDFポリマー(PVDF)バインダーを溶解してそれらを粉状電極材料および前述の導電性添加剤などの全ての他の適した成分と均質化するためにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの有機溶剤を使用して、金属集電体上に適用されるペーストを製造することを必要とする。結果として、有機溶剤中の導電性炭素添加剤の分散挙動は、溶剤中で凝集する傾向がある炭素粒子が電極形成プロセスに好ましくないので、重要な因子である。・・・」

5b「【0071】
リチウム二次バッテリのための正電極の作製
実施例1
最初に、0.5重量%のGNP-PDR05を含有するグラフェン/NMP懸濁液を調製するために、0.2gのGNP-PDR05を40gのNMPに添加し、このように製造された混合物を(10ワットの出力電力を使用して)10分間にわたって音波処理に供した。次に、得られたグラフェン/NMP懸濁液20gを正電極活性材料として9.383gのLiCoO_(2)(Umicoreから購入)と6.267gの前もって調製された8重量%SOLEF(登録商標)5130 PVDF/NMP懸濁液と混合し、得られた混合物を1時間にわたってDispermat(登録商標)攪拌機を使用して3000rpmの速度において激しく撹拌し、正電極材料複合ペーストを得た。ドクターブレードキャスティング技術を使用してペーストをアルミニウム箔上にコートし、その後、炉内で真空下、1時間にわたって130oCにおいて加熱乾燥によって処理し、94重量%のLiCoO_(2)、5重量%のSOLEF(登録商標)5130 PVDFバインダーおよび1重量%のグラフェン導電性添加剤を有する正電極材料を製造した。」

(2)甲2?甲4に記載された発明及び甲5に記載された技術事項
ア 甲2に記載された発明
記載事項2aによると、グラファイトを酸化して酸化グラファイトを得たことが、記載事項2bによると、ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)をスルホン化して、スルホン化ポリ(エーテルエーテルケトン)(SPEEK)を得たことが、記載事項2cによると、超音波処理により酸化グラファイトを水に分散させ、SPEEKを加えて撹拌し、さらにヒドラジンを加えて還流を行って、SPEEK変性グラフェン(SPG)を得たことが、記載事項2dによると、SPGを蒸留水に超音波処理して分散させて水分散液を得たことが、記載事項2eによると、XPS、すなわちX線光電子分光法により測定されるSPGのC/Oの原子比が6.8であることが、それぞれ記載されている。
ここで、ヒドラジンを加えて還流を行う工程は、酸化グラファイトを還元してグラフェンを得る工程であるといえる。
また、SPGのC/Oの原子比が6.8であるから、炭素に対する酸素の原子比(O/C比)は0.15である。

そうすると、甲2には、
「水に分散する酸化グラファイトを、SPEEKによる変性及びヒドラジンによる還元をして、X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の原子比(O/C比)が0.15であるSPEEK変性グラフェンを得る工程、
得られたSPEEK変性グラフェンを超音波処理して水に分散させる工程
を含むグラフェン分散液の製造方法。」
の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

イ 甲3に記載された発明
記載事項3aによると、グラファイトを酸化して酸化グラファイトを得たことが、記載事項3bによると、撹拌下の酸化グラファイトの水分散液に、ANSを加え、その後、ヒドラジンを加えてANS変性グラフェンを得たことが、記載事項3cによると、ANS変性グラフェンを水に分散させて分散液を得たことが、記載事項3dによると、XPS、すなわち、X線光電子分光法の元素分析によるANS変性グラフェンの炭素含量及び酸素含量が、それぞれ84.5原子%及び4.2原子%であることが、それぞれ記載されている。
ここで、撹拌下の酸化グラファイトの分散液にヒドラジンを加える工程は、酸化グラファイトを還元してグラフェンを得る工程であるといえる。
また、ANS変性グラフェンの炭素に対する酸素の原子比(O/C比)は、0.05(=4.2÷84.5)となる。
なお、甲3のabstract (要旨)によると、ANSは、6-アミノ-4-ヒドロキシ-2-ナフタレンスルホン酸の略称である。

そうすると、甲3には、
「水分散液の酸化グラファイトを、撹拌しながらANSによる変性及びヒドラジンによる還元をして、X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の原子比(O/C比)が0.05であるANS変性グラフェンを得る工程、得られたANS変性グラフェンを水に分散させる工程
を含むグラフェン分散液の製造方法。」
の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

ウ 甲4に記載された発明
記載事項4aによると、PDAを付着させた還元型酸化グラフェンRGO(pRGO)にヘパリンをグラフトさせたpRGO(Hep-g-pRGO)は、水及びPBS溶液中で優れた安定性を示すことが、記載事項4bによると、PBS溶液に酸化グラフェンを添加し、超音波処理し、ドーパミン塩酸塩を添加し激しく撹拌して還元反応を行って、PDAで被覆された還元型酸化グラフェンを得た後、該還元型酸化グラフェンを超音波処理してPBS溶液に再分散させ、ヘパリンを加えて激しく撹拌してヘパリンで官能化された還元型グラフェンを得たことが、それぞれ記載されている。
なお、PBSは、リン酸緩衝生理食塩水の略称である。

そうすると、甲4には、
「PBS(リン酸緩衝生理食塩水)溶液に分散した酸化グラフェンを、還元してPDAで被覆した還元型酸化グラフェンを得る工程、該還元型酸化グラフェンをPBS溶液中で撹拌してヘパリンで官能化する工程、
を含む官能化された還元型グラフェン分散液の製造方法。」
の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。

エ 甲5に記載された技術事項
記載事項5a、5bによると、有機溶剤であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)とグラフェンとの混合物に音波処理してグラフェン/NMP懸濁液を得ることが記載されている。

(3)本件発明9?13について
申立人は、特許異議申立書において、甲2?甲4には、それぞれ「水を含む分散媒に分散した酸化グラフェンを還元する還元工程」が記載され、甲5に記載されているように、NMP(N-メチルピロリドン)はグラフェンを分散させる溶媒として一般的なものであるから、甲2?甲4に記載のグラフェンの水分散液とNMPとを混合することは適宜行うことであり、また、酸化グラフェンを微細化することや、高速で撹拌することもグラフェン層の剥離を促すための方法として一般的であることなどの理由から、本件特許の請求項9に係る発明は、当業者が容易に想到すると主張している。

そこで、上記の主張について検討すると、甲2発明?甲4発明は、水溶媒中で酸化グラファイト又は酸化グラフェンを還元処理して、分散性の高いグラフェン又は還元型酸化グラフェンを得るものであるといえるが、これらを、還元処理後、有機溶媒に分散させるものではなく、また、水溶媒に有機溶媒を混合することを示唆するものでもない。

甲5によると、グラフェンをNMPに添加し音波処理してグラフェン/NMP懸濁液を得ることは周知技術であるといえ、さらに、甲2?甲4は、水分散媒中での超音波処理や撹拌処理を行うことが記載されているが、本件発明9のように、有機溶媒を含む分散液中で強撹拌処理するというものでもない。

そうすると、甲2?甲5には、少なくとも本件発明9の特定事項である
「還元工程および微細化工程を経た中間体分散液と有機溶媒とを混合する有機溶媒混合工程;
有機溶媒を含む中間体分散液をせん断速度毎秒5000?毎秒50000で撹拌処理する強撹拌工程」
の一連の工程を行うことについて、記載も示唆もされていない。

したがって、本件発明9は、甲2?甲4に記載された発明及び甲5に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

また、本件発明9に従属する本件発明10?13は、本件発明9の上記特定事項を含むものであるから、同様に甲2?甲4に記載された発明及び甲5に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

よって、申立理由2は、理由がない。

4 申立人の意見について
申立人は、平成30年7月19日付けの意見書において、平成30年 5月30日付けの訂正請求により訂正された訂正特許請求の範囲の請求項9?13に対して、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない旨の主張をしているが、上記「第6 1」の判断のとおりであるから、当該主張は採用できない。


第7 むすび
以上のとおりであるから、当審で通知した取消理由並びに特許異議申立ての理由及び証拠によっては、訂正後の請求項9?13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項9?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項1?8に係る特許は、訂正により削除されたため、これらの特許に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
水を含む分散媒に分散した酸化グラフェンを、X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の元素比(O/C比)が0.08以上0.30以下となるように還元する還元工程;
還元工程の前後または還元工程の最中の中間体分散液に含まれる酸化グラフェンまたはグラフェンを微細化する微細化工程;
還元工程および微細化工程を経た中間体分散液と有機溶媒とを混合する有機溶媒混合工程;
有機溶媒を含む中間体分散液をせん断速度毎秒5000?毎秒50000で撹拌処理する強撹拌工程;
有機溶媒添加と吸引濾過を組み合わせる手法、または蒸留により中間体分散液から水分の少なくとも一部を除去する水分除去工程;
を有するグラフェン分散液の製造方法。
【請求項10】
前記還元工程からの全ての工程を、グラフェンが分散媒に分散した状態で一度も粉末状態を経由せずに行う、請求項9に記載のグラフェン分散液の製造方法。
【請求項11】
前記微細化工程をメディアレス分散法により行う、請求項9または10に記載のグラフェン分散液の製造方法。
【請求項12】
前記微細化工程のメディアレス分散法として超音波処理を行う、請求項11に記載のグラフェン分散液の製造方法。
【請求項13】
さらに、前記還元工程後のいずれかの段階で、
中間体分散液を70℃以上に加熱する加熱工程;
を有する、請求項9?12のいずれかに記載のグラフェン分散液の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-04-02 
出願番号 特願2016-559390(P2016-559390)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C01B)
P 1 651・ 113- YAA (C01B)
P 1 651・ 121- YAA (C01B)
P 1 651・ 851- YAA (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小野 久子  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 後藤 政博
宮澤 尚之
登録日 2017-06-09 
登録番号 特許第6152925号(P6152925)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 グラフェン分散液およびその製造方法、グラフェン-活物質複合体粒子の製造方法ならびに電極用ペーストの製造方法  
代理人 境澤 正夫  
代理人 昼間 孝良  
代理人 昼間 孝良  
代理人 清流国際特許業務法人  
代理人 境澤 正夫  
代理人 清流国際特許業務法人  

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