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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E01D
管理番号 1351795
審判番号 不服2018-6830  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-18 
確定日 2019-05-16 
事件の表示 特願2014- 11498「長尺構造物」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月30日出願公開、特開2015-137526〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成26年1月24日の出願であって、その後の手続の概要は以下のとおりである。

平成29年 9月26日 拒絶理由通知(同年10月3日発送)
平成29年11月27日 意見書・手続補正書
平成30年 2月 8日 拒絶査定(同年2月20日送達)
平成30年 5月18日 審判請求


2 本願発明について
本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成29年11月27日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。
「延在方向に対して直交する断面が、いずれも長さが互いに等しい第1?第4の辺と、いずれも長さが互いに等しい第5?第8の辺とで構成された八角形状を呈し、
前記第1及び第2の辺は、互いに対向すると共に平行に延び、
前記第3及び第4の辺は、互いに対向すると共に、前記第1及び第2の辺の延びる方向と直交する方向において平行に延び、
前記第5の辺は、前記第1の辺の一端と前記第3の辺の一端とを接続し、
前記第6の辺は、前記第1の辺の他端と前記第4の辺の一端とを接続し、
前記第7の辺は、前記第2の辺の一端と前記第3の辺の他端とを接続し、
前記第8の辺は、前記第2の辺の他端と前記第4の辺の他端とを接続し、
前記第1?第8の辺のうち隣り合う辺同士がなす角は、いずれも135°に設定されており、
幅に対する前記第5?第8の辺の長さの割合が0.2√2?0.25√2の範囲内となるように前記第5?第8の辺の長さが設定されている、長尺構造物。」


3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1-3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2003-97091号公報


4 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である引用文献1には、以下の事項が記載されている。(下線は、本審決で付した。)
ア「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は風応答低減可能な平面形状を有する建造物に関する。
【0002】
【従来の技術】アスペクト比(D/B、D:建造物の高さ、B:正方形の一辺の長さ)が12?15の比較的細長い建造物としては、例えばごみ焼却炉の煙突がある。そして、ごみ焼却煙突は、有害物を除去した燃焼ガスを外部に排出する内筒と、暴風時と地震時に内筒を支持する外筒の2重筒で構成されている。このような2重筒構造煙突の外筒は意匠性も配慮して、円形・四角形・三角形・多角形等、様々な平面形状を有するものがある。図9はこのような焼却煙突の例を示すものであり、図9(a)は平面形状が正方形、図9(b)は平面形状が円形、図9(c)は平面形状が略三角形のものをそれぞれ示している。
【0003】上記の煙突の中でも特に、三角形・四角形・多角形等、平面形状に角部を有する煙突は、風を受けたときに角部から空気の渦が発生し、その渦によって、煙突に外力が作用して渦励振や空力不安定振動を引き起こす場合がある。このため、角部を有する平面形状の煙突の外筒は、外筒断面要因が渦励振や空力不安定振動によって決まり、不経済となってしまう。
【0004】渦励振や空力不安定振動を低減する方法の1つとして、建物や橋脚の隅角部の形状を変化させることで、渦励振・ギャロッピング・フラッター等の空力不安定振動による揺れを低減しようとするもの(空力制振)がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来提案されいる空力制振の対象は建物や橋脚等であり幅(B)と高さ(H)の関係を示すアスペクト比(=H/B)が極端に高いものや低いものに限られていた。例えば、特開2000-96869号公報の実施例では、アスペクト比が8と限定されている。つまり、煙突等のアスペクト比が12?15の範囲のものについては具体的な検討がなされていないのが現状である。
【0006】本発明は係る課題を解決するためになされたものであり、煙突等のアスペクト比が12?15で、渦励振や空力不安定振動がより大きく作用してしまう正方形の平面形状をもつ建造物について、風応答低減可能な平面形状を有する建造物を得ることを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明に係る建造物は、平面形状が正方形を有し、アスペクト比:D/B=12?15の建造物に対し、正方形の隅部にw/B=1/18?2/18の隅欠き又は隅切りを設けたものである。ただし、
D:建造物の高さ
B:正方形の一辺の長さ
w:切り欠きの幅
【0008】上記のように、隅欠き又は隅切りを設けることにより、建造物周囲の風の流れが変化し、剥離流が建造物壁面に近くなることにより、ギャロッピング、フラッター等の空力不安定振動が低減される。」

イ 「【0009】
【発明の実施の形態】本実施の形態においては、アスペクト比12?15の建造物の例として、ごみ焼却煙突の外筒を例に挙げて説明する。図1は本発明の一実施の形態のごみ焼却煙突の外筒の縦断面図(図1(a))と、平断面図(図1(b))を示している。図1に示すものは、正方形の平面形状に隅欠きを設けたものである。隅欠きとは、正方形の平面形状の隅部を矩形状に切り欠く場合をいう。図1において、Dは煙突の高さ、Bは正方形断面の一辺の長さ、Wは隅欠き部の幅を示している。
【0010】図2は本発明の一実施の形態の他の態様を示すものであり、正方形の平面形状に隅切りを設けたものである。隅切りとは、正方形の平面形状の隅部を45度方向で切り欠く場合をいう。図2における各符号の意味は図1と同様であり、Dが煙突の高さ、Bが正方形断面の一辺の長さ、Wが隅切り部の幅をそれぞれ示している。
【0011】図1、2に示した煙突をモデル化した模型(縮尺:1/200)を用いて風洞実験を実施した。なお、実験では、アスペクト比(=D/B,B:煙突の幅,D:煙突高さ)、隅欠き寸法又は隅切り寸法(=w/B)及び減衰定数(=ζ)をパラメータとした。実験で採用した各モデルを表1に示す。なお、表1では、比較の対象として平面形状が正方形のモデルも併せて記載してある。
【0012】
【表1】


【0013】表1において、煙突モデルを示す12、15の数字は、アスペクト比(D/B)を示している。また、L、△は隅部の切り欠きの形状による区別を示しており、Lは隅欠きを、△は隅切りをそれぞれ示している。また、1,2の数字は隅切り寸法による区別を示しており、1はw/B=1/18を、2はw/B=2/18をそれぞれ示している。具体的なモデルについて言うと、例えば、表1の12L1は、アスペクト比が12、隅欠き型、隅切り寸法:w/B=1/18のモデルであることを示している。
【0014】なお、表1において、スクルートン数Scは、平面形状が正方形の場合に下式で示されるものである。
Sc=2πζ/n
n=M_(a)b^(3)/6I_(m)
但し、M_(a):模型体積分の空気の質量
I_(m):模型の回転慣性モーメント
b:模型脚部の回転中心から模型頂部までの距離
ζ:減衰定数
【0015】表1に示した各モデルに対する風洞実験の結果に基づく風直角方向の応答から風力の三角形分布を仮定して共振時風力係数を算出した。そして、共振時風力係数と無次元風速との関係を求めた。図3?図8のグラフは、共振時風力係数を縦軸に取り、無次元風速を横軸に取って両者の関係を示したものである。なお、共振時風力係数は共振風速時における渦励振による風荷重の大きさを示すものでのである。また、グラフに示した無次元風速U=V_(H)/f_(0)Dにおける、V_(H)、f_(0)、Dはそれぞれ、以下の通りである。
V_(H):モデル頂部平均風速、f_(0):モデル固有振動数、D:モデル平面形状の一辺の長さ。
【0016】図3?図8においては、隅部を切り欠いた本実施の形態のものと、切欠きのない平面形状が正方形のものを対比して示しており、図中において本実施の形態のものを黒塗りの印で示し、比較対象の平面形状が正方形のものを白抜きの印で示している。また、各モデルについて、3種類のスクルートン数についてのデータを示している。なお、図3、図6において、本実施形態(アスペクト比12)の比較対象としてアスペクト比15のものを示している。これは平面形状が正方形でアスペクト比12のものとアスペクト比15のものがほぼ同様の傾向を示すことを発明者の実験によって確認したことを前提としている。
【0017】図3?図8から分かるように、正方形断面のものに比較して、隅欠き、隅切りを有するものの共振時風力係数が大きく低減されている。このことから、アスペクト比が12?15のものにおいて、隅切り寸法:w/B=1/18?2/18とした場合に空力応答低減効果があることが実証された。
【0018】より具体的には、隅切り寸法が同じであれば、隅欠きの方が隅切りよりも空力応答低減効果が高いことが分かる(図4と図7、図5と図8の比較)。また、隅部の切欠きの形状が同じであれば、隅切り寸法が大きい方が空力応答低減効果が高いことがわかる(図4と図5、図7と図8の比較)。さらに、減衰定数が小さい(スクルートン数が小さい)ほど、隅欠きと隅切りの空力応答低減効果が高いことがわかる。
【0019】以上を総合してより具体的に評価すると、隅欠き、隅切りを有する煙突モデルは、正方形断面のものに比較して、最も低減効果の少ないもの(15△1型)でも、共振時風力係数の値が約0.4?0.5倍になり、充分な空力応答低減効果が得られている。そして、空力応答低減効果が得られる結果、共振時風荷重による煙突脚部の曲げ応力が、隅部を切り欠かない場合に比べて、約1/5?1/2倍まで低減できる。さらに、曲げ応力が低減できることにより、煙突外筒の壁厚が、従来形状の壁厚に比べて約0.6?0.7倍まで低減可能となり、煙突外筒の躯体数量削減効果がある。
【0020】
【発明の効果】以上のように、本発明においては、平面形状が正方形を有し、アスペクト比:D/B=12?15の建造物に対し、正方形の隅部にw/B=1/18?2/18の隅欠き又は隅切りを設けたことにより、充分な空力応答低減効果が得られ、共振時風荷重による建造物脚部の曲げ応力が低減できる。その結果、建造物の建造コストの低減が可能となる。」

ウ 「【図面の簡単な説明】
【図1】・・・
【図2】 本発明の一実施の形態の他のごみ焼却煙突の外筒の縦断面図と、平断面図である。」

エ 【図2】は以下のとおり。


オ 上記ア(【0007】)の記載から、隅部に隅切りを設ける前の平面形状は、正方形である。そして「図2は・・・、正方形の平面形状に隅切りを設けたものである。隅切りとは、正方形の平面形状の隅部を45度方向で切り欠く場合をいう。」(上記アの【0010】)との記載も勘案して、上記エの平断面図である【図2】(b)をみると、
隅切りを設けた後の平面形状は、
互いに対向すると共に平行に延びる第1及び第2の辺、
互いに対向すると共に、第1及び第2の辺の延びる方向と直交する方向において平行に延びる第3及び第4の辺、
第1の辺の一端と第3の辺の一端とを接続する第5の辺、
第1の辺の他端と第4の辺の一端とを接続する第6の辺、
第2の辺の一端と第3の辺の他端とを接続する第7の辺、
第2の辺の他端と第4の辺の他端とを接続する第8の辺、とで構成された八角形を呈しており、第1?第4の辺は、いずれも長さが互いに等しく、第5?第8の辺は、いずれも長さが互いに等しく、第1?第8の辺のうち隣り合う同士がなす角は、いずれも135°であることが看取できる。
また、該正方形の一辺の長さBは、切り欠きの幅w×2を含んだ長さである。

カ 上記アないしオからみて、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「平面形状が正方形を有し、アスペクト比:D/B=12?15の比較的細長い建造物に対し、正方形の隅部にw/B=1/18?2/18の隅切りを設けた、風応答低減可能な平面形状を有する建造物であって、
平面形状は、いずれも長さが互いに等しい第1?第4の辺と、いずれも長さが互いに等しい第5?第8の辺とで構成された八角形状を呈し、
第1及び第2の辺は、互いに対向すると共に平行に延び、
第3及び第4の辺は、互いに対向すると共に、第1及び第2の辺の延びる方向と直交する方向において平行に延び、
第5の辺は、第1の辺の一端と第3の辺の一端とを接続し、
第6の辺は、第1の辺の他端と第4の辺の一端とを接続し、
第7の辺は、第2の辺の一端と第3の辺の他端とを接続し、
第8の辺は、第2の辺の他端と第4の辺の他端とを接続し、
第1?第8の辺のうち隣り合う同士がなす角は、いずれも135°に設定されている、建造物。
(ただし、D:建造物の高さ、B:正方形の一辺の長さ、w:切り欠きの幅、である。)」


5 対比
本願発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「アスペクト比:D/B=12?15の比較的細長い建造物」は、本願発明の「長尺構造物」に相当し、引用発明の該「建造物」の「平面形状」は、本願発明の「延在方向に対して直交する断面」に相当する。

イ 引用発明において、切り欠きの幅wと正方形の一辺の長さBとの比は、w/B=1/18?2/18であって、隅部の隅切りが幅wで切り欠かれるのであれば、隅切りの辺である第5?第8の辺の長さは、w√2となるから、引用発明の第5?第8の辺の長さと、隅部に隅切りを設ける前の正方形の一辺の長さBとの割合は、w√2/B=√2(1/18?2/18)である。

ウ 以上のことから、本願発明と引用発明とは、
「延在方向に対して直交する断面が、いずれも長さが互いに等しい第1?第4の辺と、いずれも長さが互いに等しい第5?第8の辺とで構成された八角形状を呈し、
前記第1及び第2の辺は、互いに対向すると共に平行に延び、
前記第3及び第4の辺は、互いに対向すると共に、前記第1及び第2の辺の延びる方向と直交する方向において平行に延び、
前記第5の辺は、前記第1の辺の一端と前記第3の辺の一端とを接続し、
前記第6の辺は、前記第1の辺の他端と前記第4の辺の一端とを接続し、
前記第7の辺は、前記第2の辺の一端と前記第3の辺の他端とを接続し、
前記第8の辺は、前記第2の辺の他端と前記第4の辺の他端とを接続し、
前記第1?第8の辺のうち隣り合う辺同士がなす角は、いずれも135°に設定されている、
長尺構造物。」で一致し、以下の点で相違する。

〔相違点〕幅に対する第5?第8の辺の長さの割合の設定について、本願発明は、0.2√2?0.25√2の範囲内であるのに対し、引用発明は、√2(1/18?2/18)である点。


6 判断
上記相違点について検討する。
ア 引用発明の上記長さの割合の設定が「√2(1/18?2/18)」の範囲である点について、その実施形態をみると、「表1において、煙突モデルを示す12、15の数字は、アスペクト比(D/B)を示している。また、L、△は隅部の切り欠きの形状による区別を示しており、Lは隅欠きを、△は隅切りをそれぞれ示している。また、1,2の数字は隅切り寸法による区別を示しており、1はw/B=1/18を、2はw/B=2/18をそれぞれ示している。具体的なモデルについて言うと、例えば、表1の12L1は、アスペクト比が12、隅欠き型、隅切り寸法:w/B=1/18のモデルであることを示している。」(上記4(1)イの【0013】)と記載されており、「図1、2に示した煙突をモデル化した模型(縮尺:1/200)を用いて風洞実験を実施した。・・・実験で採用した各モデルを表1に示す。」(上記4(1)イの【0011】)とされた【表1】を参照すると、風洞実験を実施したw/Bは「1/18」と「2/18」の2つである。よって引用発明がw/Bを「1/18?2/18」の範囲とすることについて、「建造物周囲の風の流れが変化し、剥離流が建造物壁面に近くなることにより、ギャロッピング、フラッター等の空力不安定振動が低減される。」(上記4(1)アの【0008】)との効果があるとしても、当該範囲以外のものに効果があることまでは明確ではない。しかしながら、「隅部の切欠きの形状が同じであれば、隅切り寸法が大きい方が空力応答低減効果が高いことがわかる(図4と図5、図7と図8の比較)。」(上記4(1)イの【0018】)との記載からすると、w/Bが「1/18」と「2/18」のみの比較ではあるものの、より隅切り寸法が大きい方が効果があることが示されているから、上記長さの割合を、「√2×2/18」よりも大きくした場合に空力応答低減効果がさらに向上する可能性について示唆されているといえる。そして、上記の引用発明が奏する効果は、本願発明の「【0012】本発明によれば、・・・ギャロッピング振動への対策がなされた長尺構造物を提供できる。」との効果と同様のものである。
そして、一般的に、数値の最適化は、当業者が通常試みる事項であるから、上記長さの割合を、「√2×2/18」(=0.11√2)よりも大きくする示唆に基づいて、本願発明の「0.2√2?0.25√2」の範囲内の数値を採用することは、当業者が容易になし得たことと言わざるを得ない。

イ 請求人は、審判請求書において、
「引用文献1に開示された構成と本願発明の構成とは大きく相違するものである。
引用文献1に開示された発明(建造物)は、空力不安定振動を低減させるための方策として、専らアスペクト比に着目するものである。審査官殿によれば「隅切り寸法が大きいほうが空力応答低減効果が高いという点についても記載されている」と認定されている。しかしながら、引用文献1は、隅切り寸法と幅との相関については着目していない。つまり、引用文献1には、建造物についてアスペクト比以外の事項、すなわち、アスペクト比に加えて、『幅Wに対する第5?第8の辺の長さの割合』を考慮することについて開示や示唆が何ら存在しない。
これに対して、本願の独立項に係る発明は、アスペクト比に加えて、『幅Wに対する第5?第8の辺の長さの割合』に着目し、この割合の範囲を具体的に限定するものである。『幅Wに対する第5?第8の辺の長さの割合』を上述の範囲に限定することにより、本願の出願当初明細書の段落0033?0035及び図5,6に記載されているように、製造コストを抑えつつ、ギャロッピング振動の対策をさらに十分に行うことが可能である。
すなわち、本願発明の『幅Wに対する第5?第8の辺の長さの割合』に着目することが引用文献1によって動機付けられるものではない。
つまり、本願発明は、引用文献1に開示された発明と明らかに構成が相違するものであり、またこのような構成の相違から当然に異なる効果を奏するものである。また、本願発明と引用文献1に開示された発明とは技術的思想が大きく相違している。したがって、本願発明は、引用文献1を根拠として進歩性が否定されるものではない。」と主張している。
しかしながら、引用文献1には、発明が解決しようとする課題として、「つまり、煙突等のアスペクト比が12?15の範囲のものについては具体的な検討がなされていないのが現状である。」(上記4(1)アの【0005】)、「本発明は係る課題を解決するためになされたものであり、煙突等のアスペクト比が12?15で、渦励振や空力不安定振動がより大きく作用してしまう正方形の平面形状をもつ建造物について、風応答低減可能な平面形状を有する建造物を得ることを目的としている。」(上記4(1)アの【0006】)とされ、課題を解決するための手段として、「本発明は係る建造物は、平面形状が正方形を有し、アスペクト比:D/B=12?15の建造物に対し、正方形の隅部にw/B=1/18?2/18の隅欠き又は隅切りを設けたものである。」(上記4(1)アの【0007】)としたものであるから、アスペクト比のみを発明としたものではなく、当該アスペクト比において、一辺の長さに対する隅切り寸法を改良した発明であるから、当然、隅切り寸法、つまり幅Wに対する第5?第8の辺の長さの割合に着目するものであって、当該長さの割合を本願発明のとおりの範囲としようとする動機付けは当然存在するものである。
よって、請求人の主張は採用できない。


7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-03-15 
結審通知日 2019-03-19 
審決日 2019-04-04 
出願番号 特願2014-11498(P2014-11498)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 袴田 知弘  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 西田 秀彦
住田 秀弘
発明の名称 長尺構造物  
代理人 西澤 和純  
代理人 清水 雄一郎  
代理人 寺本 光生  
代理人 高橋 久典  

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