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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C02F
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 取り消して特許、登録 C02F
管理番号 1351809
審判番号 不服2018-9199  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-03 
確定日 2019-06-04 
事件の表示 特願2014- 2191「微生物を利用した閉鎖水系における水質浄化方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月 4日出願公開、特開2014-159026、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年1月9日(優先権主張 平成25年1月22日)の出願であって、平成29年10月11日付けで拒絶理由通知がされ、同年12月11日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成30年3月28日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年7月3日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定
1 補正の却下の決定の結論
平成30年7月3日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

2 補正の却下の決定
(1)本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲において、請求項1を変更する補正事項(以下、「本件補正事項」という。)を含むものである。
補正前の請求項1及び補正後の請求項1は、それぞれ以下のとおりである。

ア 補正前の請求項1
「閉鎖水系に、天然植物を枯草菌で醗酵させた乾燥粉粒を主体とした微生物製剤であって、菌体数が1×10^(9)個/g以上であり、平均粒径が0.8mm以下であるものを、水300m^(3)につき100?10,000gの割合で、投入することを特徴とする、閉鎖水系における藻類の繁殖を抑制し、水質を浄化する方法。」

イ 補正後の請求項1(下線部は補正箇所であり、当審が付した。)
「閉鎖水系に、天然植物を、枯草菌の一種であるバチルス・アミロリクェファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)で醗酵させた乾燥粉粒を主体とした活性汚泥の種殖剤であって、菌体数が1.5×10^(10)個/g以上であり、平均粒径が0.8mm以下であるものを、水溶性フィルムの袋に封入し、水300m^(3)につき100?2,000gの割合で、3?5月又は9?11月の間に少なくとも一度投入することを特徴とする、閉鎖水系における藻類の繁殖を抑制し、水質を浄化する方法。」

(2)本件補正の適否
本件補正事項は、請求項1に「枯草菌の一種であるバチルス・アミロリクェファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)で醗酵させた」という発明特定事項を追加する補正を含むものである。
しかしながら、願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書、図面(以下、「当初明細書等」という。)には、微生物製剤として、商品名「ポンドサロン」を用いることが記載されているが、「ポンドサロン」がバチルス・アミロリクェファシエンスで醗酵させて製造されたものであるという事項については記載されていないし、当該事項は当初明細書等から自明でもないから、本件補正は当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
請求人は、物件提出書に添付した参考文献1及び参考文献2に記載された事項を補正の根拠としているが、「ポンドサロン」が、バチルス・アミロリクェファシエンスで発酵させて製造されたものであることが事実であったとしても、当初明細書等の記載からそのことが発明を構成する技術的事項であるとは把握できないし、当業者にとってそのことが自明であったともいえないから、当該参考文献の提示をもって、当初明細書等にバチルス・アミロリクェファシエンスの記載がないことを補完し得るとは認められない。
したがって、本件補正事項を含む本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により、上記のとおり本件補正を却下する。

第3 本願発明
本件補正は、上記「第2 補正の却下の決定」のとおり、却下された。
したがって、本願の特許請求の範囲に係る発明は、平成29年12月11日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載されたとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「閉鎖水系に、天然植物を枯草菌で醗酵させた乾燥粉粒を主体とした微生物製剤であって、菌体数が1×10^(9)個/g以上であり、平均粒径が0.8mm以下であるものを、水300m^(3)につき100?10,000gの割合で、投入することを特徴とする、閉鎖水系における藻類の繁殖を抑制し、水質を浄化する方法。」

第4 原査定の理由
原査定(平成30年3月28日付け拒絶査定)の理由の一つは、次のとおりである。

本願請求項1に係る発明は、引用文献1(特開平4-110087号公報)及び引用文献2(特開2012-105569号公報)に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている。(下線は、当審が付した。)

「〔産業上の利用分野〕
本発明は富栄養化した湖やダムに発生しやすいアオコ(青粉)の生育を抑制する方法及び抑制剤に関する。」(第1頁右欄第8-11行)

「本発明はこの知見に基づくもので、バチルス属・・・に属し、アオコを沈澱させうる微生物をアオコに接触させることを特徴とするアオコの育成抑制方法、上記の微生物をアオコの発生した水域に散布することを特徴とするアオコの育成抑制方法・・・である。」(第2頁左上欄第11-18行)

「バチルス属の好ましい一例は枯草菌であり、それは本発明者が分離し、工業技術院微生物工業技術研究所に寄託番号FERM BP-1108を以て寄託している株を包含する。同株は水中の微細浮遊物を凝集する作用を示す。」(第2頁右上欄第3-7行)

「微生物とアオコの接触は、アオコの発生した水域、好ましくは水面に微生物を撒布することにより有利に行うことができる。撒布は、たとえば、微生物の培養物を水で希釈したけん濁液を撒布する形式で便宜に行うことができる。」(第2頁左下欄第1-5行)

「微生物の使用量は一般に10^(4)?10個/cm^(3)、好ましくは10^(2)個/cm^(3)である。」(第2頁左下欄第8-9行)

「いずれにせよ、水面におけるアオコの繁殖が阻害されるので水域の環境は改善され、水中動物の成育に好影響を及ぼすことができる。」(第2頁左下欄第15-18行)

「実施例2
場所 台湾
時期 3月10日-13日
池の面積(水深) 700坪(1.2m)
アオコが発生した上記の池に枯草菌FERM BP-1108の懸濁液(菌数10^(8)/ml)3lを撒布した。実験開始前(3月10日)と終了時(3月13日)の水質測定値を次表に示す。」(第3頁右上欄第19行-同頁左下欄第6行)

したがって、引用文献1には、アオコの育成抑制方法について、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「アオコが発生した湖、ダム、池に、アオコを沈澱させうる枯草菌の培養物を水で希釈した懸濁液を撒布し、アオコの育成を抑制して水域の環境を改善する方法であって、上記枯草菌の使用量が10^(4)?10個/cm^(3)である、方法。」

2 引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。(下線は、当審が付した。)

「【0001】
本発明は、海生生物等の生き物の育成に使用された育成水槽の水を浄化処理する方法、及びこの方法の実施に好適な水処理装置に関する。」

「【0014】
・・・本発明の水処理方法は、生き物を育成する育成水槽の水を、プロテインスキマー、次いで好気性微生物処理槽に導入し、再び育成水槽に戻す水処理方法であって、・・・
マイクロナノバブル及び/又はナノバブルを含有する処理水を、前記好気性微生物処理槽において、枯草菌又は枯草菌及び有機物分解酵素を含む酵素剤と接触させる工程(III)を有することを特徴とする。」

「【0027】
本発明においては、前記好気性微生物処理槽に用いる好気性微生物として、枯草菌又は枯草菌及び有機物分解酵素を含む酵素剤(以下、「枯草菌等」ということがある。)、好ましくは枯草菌の培養物、より好ましくは、天然植物を枯草菌で発酵させた乾燥粉粒を使用する。」

「【0029】
枯草菌の培養物に含まれる菌体数は、本発明の優れた効果を得る上では多いほど好ましいが、通常1×10^(3)?2×10^(11)個/g、好ましくは1×10^(8)?2×10^(11)個/g、より好ましくは1×10^(9)?2×10^(11)個/gである。」

「【0032】
枯草菌等の添加量は、本発明の効果が得られる量であれば特に制限されない。例えば、枯草菌の培養物を使用する場合には、添加する単位重量あたりの菌体数にも依存するが、一般的には、10^(7)?10^(10)個/gの菌体数の枯草菌等を使用する場合には、処理水1m^(3)当たり、10?300g程度である。」

「【0037】枯草菌等は、特にアンモニア性窒素の分解能力に優れ、アンモニア性窒素を亜硝酸性窒素又は硝酸性窒素に変換した後、さらに無害な窒素ガスに変換する。」

「【0045】
その後、ナノバブル等を含む処理水は、好気性微生物処理槽(3)へ導入され、そこで、アンモニア性窒素の分解処理が行われる。好気性微生物処理槽(3)としては、(a)図2に示すように、内部に、ナノバブル等を含有する処理水が流れる流路を設け、該流路中に充填材を多層に収容し(ウールマット9/多孔質濾材10/多孔質濾材10/多孔質濾材10/ウールマット9)、該充填材表面に枯草菌等を担持させ、ナノバブル等を含有する処理水をポンプ11により下方から上方へ流通させるようにしたもの(外部式濾過器タイプの好気性微生物処理槽3A)や、(b)図3に示すように、ナノバブル等を含有する処理水が流れる流路を設け、該流路中に充填材を多層に収容し(ウールマット9/多孔質濾材10/ウールマット9)、該充填材表面に枯草菌等を担持させ、処理水をポンプ11とモータ12で上昇させ、該処理水を上部シャワーノズル13からシャワー状に流下させるようにしたもの(上式濾過器タイプの好気性微生物処理槽3B)などが挙げられる。」

したがって、引用文献2には、アンモニア性窒素を含む水槽の水の処理方法について、以下の技術的事項が記載されていると認められる。

「生き物を育成する育成水槽の水を、プロテインスキマー、次いで、表面に枯草菌等を担持した充填材を処理槽内の流路に収容した好気性微生物処理槽に導入し、再び育成水槽に戻す、アンモニア性窒素を含む水の処理方法であって、好気性微生物処理槽に用いる枯草菌として、天然植物を枯草菌で発酵させた乾燥粉粒を使用すること、枯草菌の培養物に含まれる菌体数が、好ましくは1×10^(8)?2×10^(11)個/gであること、枯草菌の添加量は10^(7)?10^(10)個/gの菌体数の枯草菌等を使用する場合には、処理水1m^(3)当たり、10?300g程度である、技術。」

第6 対比・判断
1 引用発明との対比
(1)本願発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「アオコ」、「湖、ダム、池」、「撒布」は、本願発明の「藻類」、「閉鎖水域」、「投入」にそれぞれ相当する。

イ 引用発明の「アオコの育成を抑制して水域の環境を改善する方法」は、本願発明の「藻類の繁殖を抑制し、水質を浄化する方法」に相当する。

(2)以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「閉鎖水域に、枯草菌を含む微生物製剤を投入する、閉鎖水系における藻類の繁殖を抑制し、水質を浄化する方法。」

【相違点1】
微生物製剤が、本願発明は「天然植物を枯草菌で醗酵させた乾燥粉粒を主体とした微生物製剤であって、菌体数が1×10^(9)個/g以上であり、平均粒径が0.8mm以下であるもの」であるが、引用発明は「枯草菌の培養物を水で希釈した懸濁液」である点。

【相違点2】
微生物製剤の投入量が、本願発明は「水300m^(3)につき100?10,000g」であるのに対し、引用発明は「10^(4)?10個/cm^(3)」である点。

2 相違点についての判断
以下、相違点について判断する。

(1)相違点1について
引用文献2には、「天然植物を枯草菌で発酵させた乾燥粉粒であって、菌体数が、好ましくは1×10^(8)?2×10^(11)個/g」の微生物製剤を使用して、生き物を育成する育成水槽の水を処理する、という技術的事項が記載されている。
しかしながら、引用文献2に記載された技術はアンモニア性窒素を含む水槽の水を処理する技術に関するものである一方、引用発明はアオコの育成の抑制を目的としており、両者は主たる処理対象物において相違し、引用文献2には上記微生物製剤によってアオコの生育を抑制し得ることについて記載も示唆されていない。
さらに、引用文献2に記載の技術は、好気性微生物処理槽の流路に収容した充填剤に枯草菌等を担持させ、当該好気性生物処理槽で処理した水を育成水槽に循環するものであって、微生物製剤を被処理水が貯留される閉鎖水域に投入する引用発明とは、処理形態も異なる。
してみると、微生物製剤を撒布して水質を改善しようとする当業者にとって、製剤の剤型を、水への撒布時の操作性や製剤の拡散性、製剤の安定性等を考慮して、入手可能な製剤の中から選択することが自明の課題であるとしても、引用発明の微生物製剤に換えて、処理対象も処理形態も異なる引用文献2に記載された微生物製剤を採用する動機付けを見いだすことはできない。
よって、引用文献1及び2の記載を参酌しても、引用発明において相違点1を解消することは当業者であっても容易なことではない。
したがって、上記相違点2について判断するまでもなく、本願発明は、当業者であっても、引用発明及び引用文献1、2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

本願の請求項2ないし7に係る発明については、いずれも本願の請求項1を引用する発明であるから、上記と同様の理由により、引用発明及び引用文献1、2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし7に係る発明は、当業者が引用文献1、2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-05-20 
出願番号 特願2014-2191(P2014-2191)
審決分類 P 1 8・ 561- WY (C02F)
P 1 8・ 121- WY (C02F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 菊地 寛  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 櫛引 明佳
金 公彦
発明の名称 微生物を利用した閉鎖水系における水質浄化方法  
代理人 大石 治仁  
代理人 大石 治仁  

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