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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B29C
管理番号 1351820
審判番号 不服2018-13979  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-22 
確定日 2019-06-04 
事件の表示 特願2016-556591「ポリプロピレン系発泡成形体およびポリプロピレン系発泡成形体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月 6日国際公開、WO2016/068164、請求項の数(16)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)10月28日(優先権主張 平成26年10月30日)を国際出願日とする出願であって、平成30年1月9日付けで拒絶理由通知がされ、同年3月13日に意見書が提出され、同年5月16日付けで拒絶理由通知がされ、同年7月12日に意見書が提出され、同年同月25日付で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年10月22日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

1.本願請求項1-16に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2010-150509号公報


第3 本願発明
本願請求項1-16に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明16」という。)は、特許請求の範囲の請求項1-16に記載された事項により特定される発明であり、そのうち、請求項1に係る発明については以下のとおりである。

「【請求項1】
ポリプロピレン系発泡成形体であって、
ISO1183に準じて測定される密度が0.15g/cm^(3)以上0.54g/cm^(3)以下であり、
ASTM E1530に準じて測定される、30℃における厚み方向の熱抵抗(R)が0.020m^(2)・K/W以上0.125m^(2)・K/W以下であり、
30℃における単位面積当たりの熱容量(Q)が1.0kJ/m^(2)・K以上2.5kJ/m^(2)・K以下であり、
下記式1を満たすポリプロピレン系発泡成形体。
Q>1/(4×R^(1/2)) ・・・(式1)」

なお、本願発明2ないし16は、何れも本願発明1を直接又は間接的に引用するものである。


第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
引用文献1には、次の事項が記載されている。

「【請求項1】
直鎖状プロピレン重合体部分および直鎖状エチレン・プロピレンランダム共重合体部分からなり、且つ下記の特性(i)?(vi)を有する直鎖状プロピレン・エチレンブロック共重合体(成分A-1)30?100重量%と、その他のプロピレン系重合体(成分A-2)0?70重量%からなるポリプロピレン系樹脂(成分A)と、発泡剤(成分B)を含有することを特徴とする直鎖状ポリプロピレン系樹脂組成物。
特性(i):直鎖状プロピレン重合体部分のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が150g/10分以上である。
特性(ii):直鎖状エチレン・プロピレンランダム共重合体部分の直鎖状プロピレン・エチレンブロック共重合体(成分A-1)全体に対する割合が2?50重量%である。
特性(iii):直鎖状エチレン・プロピレンランダム共重合体部分の固有粘度[η]copolyが5.3?10.0dl/gである。
特性(iv):メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が100g/10分を超える。
特性(v):ダイスウエル比が1.2?2.5である。
特性(vi):180℃伸張粘度測定において歪硬化性を示す。
【請求項2】
直鎖状プロピレン・エチレンブロック共重合体(成分A-1)全体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Q値:Mw/Mn)が7?13であることを特徴とする請求項1に記載の直鎖状ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
直鎖状プロピレン・エチレンブロック共重合体(成分A-1)における、直鎖状エチレン・プロピレンランダム共重合体部分のエチレン含量は、直鎖状エチレン・プロピレンランダム共重合体全量に対し、15?80重量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の直鎖状ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
ポリプロピレン系樹脂(成分A)100重量部に対して、フィラー(成分C)を1?70重量部含有することを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の直鎖状ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
フィラー(成分C)は、タルク、ポリエステル繊維、ウィスカー、ガラス繊維または炭素繊維から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項4に記載の直鎖状ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項6】
ポリプロピレン系樹脂(成分A)100重量部に対して、エラストマー(成分D)を1?50重量部含有することを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の直鎖状ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1?6のいずれかに記載の直鎖状ポリプロピレン系樹脂組成物からなることを特徴とする射出発泡成形体。」

「【0011】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、射出発泡成形体に用いた場合、表面外観に優れ、射出発泡成形性が良好で、大幅な軽量化が可能であり、リサイクル性にも優れ、剛性などの物性も向上した直鎖状ポリプロピレン系樹脂組成物、射出発泡成形体およびその製造方法を提供することにある。
因みに、本明細書で、表面外観に優れるとは、シルバーストリークの発生を抑制した良好な外観を呈すことを意味し、射出発泡成形性が良好とは、面張りが良好であり、設定発泡倍率通りに発泡し、セル形態としてセル径が均一であることを意味する。なお、面張りとは、成形体の表面における面の均一性を表し、また、面張りが良好であるということは、成形体表面全体に凹凸が無く、部分的にも微細な凹みや膨らみが無い状態を示すことである。」

「【0020】
本発明の直鎖状ポリプロピレン系樹脂組成物および射出発泡成形体は、架橋変成などを行わないにもかかわらず、表面外観に優れ、射出発泡成形性が良好で、大幅な軽量化が可能であり、リサイクル性にも優れ、剛性などの物性も向上するという顕著な効果を発現する。特に、従来困難であった、発泡前の絶対成形肉厚が2mm未満、とりわけ1.5mm以下の領域において、成形が可能であり、均一な高発泡倍率を発現するので大幅な軽量化が可能となる。また、架橋変成などを行わないため、リサイクル性にも優れ、環境適応性も良好である。そのため、トリム類、天井材、トランク周りなど自動車内装部品をはじめとする射出成形部品用途に、好適に用いることができる。」

上述した引用文献1の記載、特に請求項1-7の記載を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「直鎖状プロピレン重合体部分および直鎖状エチレン・プロピレンランダム共重合体部分からなり、且つ下記の特性(i)?(vi)を有する直鎖状プロピレン・エチレンブロック共重合体(成分A-1)30?100重量%と、その他のプロピレン系重合体(成分A-2)0?70重量%からなるポリプロピレン系樹脂(成分A)と、発泡剤(成分B)を含有するものであり、
直鎖状プロピレン・エチレンブロック共重合体(成分A-1)全体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Q値:Mw/Mn)が7?13であり、
直鎖状プロピレン・エチレンブロック共重合体(成分A-1)における、直鎖状エチレン・プロピレンランダム共重合体部分のエチレン含量は、直鎖状エチレン・プロピレンランダム共重合体全量に対し、15?80重量%であり、
ポリプロピレン系樹脂(成分A)100重量部に対して、フィラー(成分C)を1?70重量部含有し、
フィラー(成分C)は、タルク、ポリエステル繊維、ウィスカー、ガラス繊維または炭素繊維から選ばれる少なくとも一種であり、
ポリプロピレン系樹脂(成分A)100重量部に対して、エラストマー(成分D)を1?50重量部含有する、
直鎖状ポリプロピレン系樹脂組成物からなる射出発泡成形体。
特性(i):直鎖状プロピレン重合体部分のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が150g/10分以上である。
特性(ii):直鎖状エチレン・プロピレンランダム共重合体部分の直鎖状プロピレン・エチレンブロック共重合体(成分A-1)全体に対する割合が2?50重量%である。
特性(iii):直鎖状エチレン・プロピレンランダム共重合体部分の固有粘度[η]copolyが5.3?10.0dl/gである。
特性(iv):メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が100g/10分を超える。
特性(v):ダイスウエル比が1.2?2.5である。
特性(vi):180℃伸張粘度測定において歪硬化性を示す。」


第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明における「直鎖状ポリプロピレン系樹脂組成物からなる射出発泡成形体」は、本願発明1の「ポリプロピレン系発泡成形体」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「ポリプロピレン系発泡成形体。」

(相違点)
(相違点1)
本願発明1では、ポリプロピレン発泡成形体の密度が、「ISO1183に準じて測定される密度が0.15g/cm^(3)以上0.54g/cm^(3)以下」であるのに対し、引用発明ではそのような特定がない点。

(相違点2)
本願発明1では、ポリプロピレン発泡成形体の熱抵抗、熱容量が、「ASTM E1530に準じて測定される、30℃における厚み方向の熱抵抗(R)が0.020m^(2)・K/W以上0.125m^(2)・K/W以下であり、
30℃における単位面積当たりの熱容量(Q)が1.0kJ/m^(2)・K以上2.5kJ/m^(2)・K以下」であり、さらに、「Q>1/(4×R^(1/2)) ・・・(式1)」を満たすものであるのに対し、引用発明にはそのような特定がない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点2について先ず検討する。
引用発明は、直鎖状ポリプロピレン系樹脂組成物からなる射出発泡成形体に関し、熱抵抗、熱容量については何ら特定されていない。そして、引用文献1の明細書全体を通じてみても、直鎖状ポリプロピレン系樹脂組成物からなる射出発泡成形体に関して、熱抵抗、熱容量に関して検討されておらず、かつ、示唆する記載も見出すことができない。ましてや、熱抵抗(R)と熱容量(Q)の関係式である式1を導出することは、当業者にとって容易に想到し得るものとはいえない。
そして、本願発明1は、当該特定事項を満たすことにより、「軽量性、剛性、外観のバランスに優れるとともに、蓄熱量が低く、かつ熱抵抗が高い自動車の内装部品を実現できるポリプロピレン系発泡成形体を提供する」(段落【0010】)ものであり、その効果については、実施例・比較例を通じて明らかにされているといえる。
してみれば、引用発明において、熱抵抗、熱容量に着目し、「ASTM E1530に準じて測定される、30℃における厚み方向の熱抵抗(R)が0.020m^(2)・K/W以上0.125m^(2)・K/W以下であり、30℃における単位面積当たりの熱容量(Q)が1.0kJ/m^(2)・K以上2.5kJ/m^(2)・K以下」であり、さらに、「Q>1/(4×R^(1/2)) ・・・(式1)」を満たすものとすることは、当業者にとって容易に想到し得るものとはいえない。

したがって、上記相違点1については判断するまでもなく、本願発明1は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.本願発明2-16について
本願発明2-16は、請求項1を直接又は間接的に引用する従属項に係る発明であるから、本願発明1と同様に、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第6 小括
上記検討のとおりであるから、本願の請求項1-16に係る発明は、当業者が、引用文献1に記載された発明に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-05-20 
出願番号 特願2016-556591(P2016-556591)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B29C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田代 吉成  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 大島 祥吾
植前 充司
発明の名称 ポリプロピレン系発泡成形体およびポリプロピレン系発泡成形体の製造方法  
代理人 速水 進治  

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