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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 E02B
管理番号 1351859
審判番号 不服2018-9202  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-03 
確定日 2019-06-11 
事件の表示 特願2013-112923「護岸構造および護岸構造の施工方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月11日出願公開、特開2014-231695、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年5月29日の出願であって、原審では、平成28年12月28日付け(平成29年1月10日発送)で拒絶理由が通知がされ、平成29年3月13日付けで手続補正がされ、平成29年8月17日付け(平成29年8月29日発送)で再度拒絶理由が通知され、平成29年10月27日付けで手続補正がされ、平成30年3月22日付け(平成30年4月3日発送)で拒絶査定(原査定)がされた。
本件はこれに対し、平成30年6月21日に審査官と面接を行った後、原査定の謄本送達から3月以内の平成30年7月3日に、拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定(平成30年3月22日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
平成30年7月3日付け手続補正書による補正前の本願請求項1?4及び6?9に係る発明は、下記引用文献1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
平成30年7月3日付け手続補正書による補正前の本願請求項5及び10に係る発明は、下記引用文献1?2に記載された発明及び下記引用文献3に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献:
1.特開2011-106184号公報
2.特開2011-157744号公報
3.特開2002-227168号公報


第3 本願発明
本願請求項1ないし8に係る発明(以下、「本願発明1」等という。)は、平成30年7月3日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される発明であって、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
斜面を有する水路の片側または両側の法面に形成された緩斜面部と、少なくとも前記緩斜面部の一部に敷設されたブロックマットとを有し、
前記緩斜面部は、前記水路の一部を拡幅して形成され、前記法面において前記水路の流れ方向に平行な方向に隣接する前記斜面よりも傾斜が緩やかな斜面であり、
前記ブロックマットは、可撓性を有する基材シートおよび該基材シート上に固定された複数のブロックを有し、
前記ブロックマットが、前記緩斜面部から連続して前記緩斜面部より前記水路の流れ方向における下流側の前記法面に敷設されている、護岸構造。

【請求項2】
前記ブロック同士の空隙から植生が可能である、請求項1に記載の護岸構造。

【請求項3】
前記水路の底面と前記緩斜面部とが間に段差を有することなく連続している、請求項1または2に記載の護岸構造。

【請求項4】
前記水路の底面が流れ方向に段差を有しており、可撓性を有する基材シートおよび該基材シート上に固定された複数のブロックを有するブロックマットが、前記段差を覆うように敷設されている、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の護岸構造。

【請求項5】
斜面を有する水路の一部を拡幅することによって、前記水路の片側または両側の法面において、前記水路の流れ方向に隣接する前記斜面よりも傾斜が緩やかな斜面である緩斜面部を形成する緩斜面部形成工程と、
少なくとも前記緩斜面部の一部に、可撓性を有する基材シートおよび該基材シート上に固定された複数のブロックを有するブロックマットを敷設するブロックマット敷設工程と、を有し、
前記ブロックマット敷設工程において、前記緩斜面部から連続して前記緩斜面部より前記水路の流れ方向における下流側の前記法面に前記ブロックマットを敷設する、護岸構造の施工方法。

【請求項6】
前記ブロック同士の空隙から植生が可能である、請求項5に記載の護岸構造の施工方法。

【請求項7】
前記緩斜面部形成工程において、
前記水路の底面と前記緩斜面部とが間に段差を有することなく連続するように前記緩斜面部を形成する、請求項5または6に記載の護岸構造の施工方法。

【請求項8】
前記水路の底面が流れ方向に段差を有しており、可撓性を有する基材シートおよび該基材シート上に固定された複数のブロックを有するブロックマットを、前記段差を覆うように敷設する工程をさらに有する、請求項5乃至7のいずれか1項に記載の護岸構造の施工方法。」


第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1
(1)記載事項
原査定に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、本審決で付した。以下同様。)。

ア 技術分野及び背景技術
「【技術分野】
【0001】
本発明は、地表浸食防止用のブロックマットを備えた護岸構造に関し、より詳細には水生生物の生息場所を確保できる護岸構造、および該護岸構造の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
河川や水路などの護岸工事では、コンクリートで法面を覆うことが基本である(特許文献1)。中小河川や水路では、漏水を防止するため、川底もコンクリートで固めた3面コンクリート張り構造が多く採用されていた。また、護岸工事が行われた河川や水路は、流下能力を向上させるために流れが直線状になるように変更されていた。
【0003】
3面コンクリート張り構造や直線状の河川などは、流下能力の向上などの利点を有するが、水生生物の生息場所として不向きであった。流下能力が向上された河川などでは、小魚などの水生動物が速い水流に耐えられずに流されてしまっていた。また、コンクリート張りにされることで、小魚や蛙などの隠れ場所や産卵場所となる水生植物が生えず、それらの動物の繁殖が妨げられていた。このような理由から、従来の護岸工事が完了した箇所からは水生生物の種の数および生息数が減少し、生態系の単純化が生じていた。
【0004】
上記問題に鑑みて、水生生物の生息場所を確保しつつ護岸できる構造の開発が望まれている。水生生物の生息場所を確保しつつ護岸できる構造として、これまでには、魚巣を設けた護岸ブロック(特許文献2)や水路の側面にメッシュ状部材を配置して生物の生息領域の確保を図る護岸構造(特許文献3)などが提案されている。」

イ 発明を実施するための形態
「【0018】
図1は、本発明の護岸構造100が水路に施工されたときの断面を概略的に示す図である。図1では、図面が煩雑になるのを防ぐため一部符号を省略している。その他の図においても同様に符号を省略している場合がある。なお、図1では、水の流れに対して略直交する方向の鉛直断面がU字型である水路に、本発明の護岸構造を施工した場合について例示しているが、本発明の護岸構造の施工場所は、ブロックマットを施工可能な場所であれば、特に限定されない。例えば、逆台形や三角形などの断面を有する水路にも施工することができる。図2は、護岸構造100に備えられるブロックマット10の一部を概略的に示す上面図である。
【0019】
図1に示すように、護岸構造100は水路の法面1、1および水路床部2に沿って施工されている。護岸構造100はブロックマット10を備えており、ブロックマット10は一部が水4に浸るように敷設されている。ブロックマット10の水4中に敷設される部分の一部のコンクリートブロック11、11、…には植栽用孔13が設けられている(図2参照)。さらに、植栽用孔13には水生植物3、3、…が植栽されている。
【0020】
図2を参照しつつ、ブロックマット10についてより詳細に説明する。ブロックマット10は、可撓性を有する基材シート15と、該基材シート15の上面側に一体化された複数のコンクリートブロック11、11、…とを備えている。基材シート15とコンクリートブロック11、11、…とを一体化する方法は特に限定されず、従来の方法を用いることができる。具体的な方法としては、ステンレス鋼製のステープルを基材シート15の底面側からコンクリートブロック11、11、…に向けて打ち込む方法などが挙げられる。
【0021】
本発明において、基材シート15としては、従来のブロックマットに用いられるものを特に限定されることなく用いることができる。基材シート15の具体例としては、合成繊維からなる不織布などを挙げることができる。
【0022】
本発明において、コンクリートブロック11、11、…の材料としては、従来のブロックマットに用いられるものを特に限定されることなく用いることができる。コンクリートブロック11、11、…には、形状が異なるコンクリートブロック11a、11bおよび11cがある。コンクリートブロック11aおよび11bは、それぞれコンクリートブロック11cと略同形状のコンクリートブロックの一部を切り欠いたものである。
【0023】
以下に図2?図4を参照しつつ、コンクリートブロック11aおよび11bの形状、並びに、植栽用孔13について説明する。図3(a)は、1つのコンクリートブロック11aを概略的に示す図である。図3(b)は、1つのコンクリートブロック11bを概略的に示す図である。図4は、図2に示したIV-IVでのブロックマット10の断面を概略的に示す図である。
【0024】
図3(a)および図3(b)において破線で示した部分が切り欠き12である。図3(a)に示すように、コンクリートブロック11aは一箇所に切り欠き12が設けられており、図3(b)に示すように、コンクリートブロック11bは二箇所に切り欠き12が設けられている。これらの切り欠きによって、図2および図4に示すように、それぞれコンクリートブロック11、11、…の厚さ方向(図2の紙面奥/手前方向、図4の上下方向)に貫通した植栽用孔13が構成される。
【0025】
植栽用孔が備えられていることによって、水生植物を繁茂させることができる。ブロックマットを水面上に敷設する場合は、該ブロックマット上に土が溜まり、そこで植物は発芽することができる。一方、ブロックマットを水中に敷設した場合は、土は水によって流されてしまうためブロックマット上に土が溜まりにくい。植栽用孔に土などとともに水生植物を植栽することによって、水生植物を繁茂させることができる。
【0026】
図2?図4に示すように、コンクリートブロック10は、隙間をもって隣接するコンクリートブロック11、11、…のそれぞれの角部に設けられた切り欠き12、12、…によって構成される植栽用孔13、13、…を有している。このようにして対角上のコンクリートブロック11、11、…の角部に設けられた切り欠き12、12、…を4つ集めるようにして植栽用孔13を構成することにより、護岸構造100全体に水生植物3、3、…を繁茂させ易くなる。すなわち、水生植物の根は地表に沿って成長するため、植栽用孔13に植栽された水生植物3が成長したときに、コンクリートブロック11、11、…の目地(隣り合うコンクリートブロック11、11、…の間に形成されている隙間を「目地」という。以下同じ。)を通って分茎した根茎を伸長させることができ、護岸構造100全体に水生植物3、3、…を繁茂させることができる。
【0027】
植栽用孔13の大きさは、ブロックマット10を敷設後に水生植物3を植栽可能な大きさであれば特に限定されないが、基材シート15に平行な方向の断面が25mm角から75mm角程度の大きさであることが好ましい。植栽用孔13の大きさが小さすぎるとブロックマット10を敷設後に水生植物3を植栽することが困難になり、大きすぎると水生植物3の根茎を保持することが困難になり、水生植物3を繁殖させられない虞があるためである。また、個々の植栽用孔13は独立して設けるよりも、上記のように、目地を通して根茎が横方向(地面に沿った方向)に伸長して隣接するコンクリートブロック11、11、…の隙間からも繁茂できるように、目地と連続するように設けることが望ましい。
【0028】
また、1つのブロックマット10に設けられる植栽用孔13は、ブロックマット10の上面視において千鳥状になるようにしてコンクリートブロック11の対角線上に設けることが望ましく、1マット(1.6m×2.8m)に設けられる植栽用孔13の数は、11個?22個程度が好ましい。すなわち、植栽用孔13の数は、2.5?5.0個/m2程度であることが好ましい。植栽用孔13が多すぎると水生植物3が繁殖しすぎて河川の流下能力を著しく低下させる虞や、護岸効果が不十分になる虞がある。一方、1つのブロックマット10に設けられる植栽用孔13の数が少なすぎる場合は、水生植物3の繁殖が不十分となり、水生生物の生息場所の確保が不十分になる虞がある。
【0029】
なお、植栽用孔13は少なくとも水に浸かることがある部分のブロックマット10の一部に設けられていればよいが、水路床部2上に敷設される部分には設けられていないことが好ましい。ブロックマット10のうち水路床部2に敷設される部分は、コンクリートブロック11、11、…同士の隙間を小さくするとともに該コンクリートブロック11、11、…の上面を平滑にすることによって、水路の排泥作業を行う際に重機(バックホウ)で泥を掻き取り易くすることができる。
【0030】
上述したように所定の大きさ、および数の植栽用孔13を所定の場所に設けることによって、水生植物3、3、…の植生を制御し、護岸効果や水路としての機能(流下能力)を維持しつつ、水生生物の生息場所を確保することができる。
【0031】
植栽用孔13に植栽することができる水生植物3は水中で繁殖できる植物であれば特に限定されないが、抽水植物や沈水植物が好ましい。具体的には、アシカキ、コウガイ、イトモ等が好ましい。
【0032】
植栽用孔13に水生植物3を植栽する際には、数本の水生植物3を纏めて茎の部分を布なのでくるむことが好ましい。そうすることによって、水生植物3の茎が折れることを防止するとともに乾燥を防止することができる。また、水生植物3の根茎と保水機能を有するピートモスのような土壌とを一緒にしたものを植栽用孔13に充填することが好ましい。ブロックマット10を敷設した後、ピートモスは水分を吸収し膨張するため、流水が作用しても植栽用孔13から流出することがない。植栽用孔13に植栽された水生植物3は成長し、その根茎は基材シート15を貫通して下地へ伸長するので、ブロックマット10と地表とを一体化させることができる。
【0033】
これまでに説明したように、本発明の護岸構造によれば、ブロックマットによる護岸効果を得つつ、水生植物を繁殖させることができる。水生植物は水中で小魚やエビ等の隠れ場所やメダカ等の産卵場所となり、良好な生育環境を創造することができる。また、水生植物が水路を流れる水の障害となり、水の流れが弱められることによって、小魚等が水生植物の陰に隠れ易くなるという効果もある。
【0034】
河川、水路、池などにおいて底面とその両側の法面との3面にブロックマット10を敷設する場合は、護岸の法勾配は、1:1.0から1:1.5の範囲とすることが望ましい。かかる形態とすることによって、水路に落ちたカエルなどが這い上がり易くなる。例えば、農地脇に設けられた水路と農地との間をカエルが行き来することが可能となることによってカエルを繁殖させることができる。また、コンクリートブロック11、11、…の上面を擬石として形成することにより、コンクリートブロック11、11、…の表面の凹凸で滑り止め機能を発揮させ、カエルなどがより這い上がり易くなるようにすることができる。
【0035】
本発明ではブロックマットを用いて護岸構造を構成しているため、護岸すべき岸辺の法面や底面にその広さに応じて適宜の数だけ配置することができるので、従来のように水路などをコンクリートで固める場合に比べて、極めて短期間で護岸を構築することができ、施工費を低減することができる。また、コンクリートブロックの目地部分には、泥が堆積するためドジョウなどの隠れ場所となるという効果も得られる。」

ウ 図面
第1図及び第2図には、次の図示がある。







(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)より、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「地表浸食防止用のブロックマット10を備え、水生生物の生息場所を確保できる護岸構造100であって、
可撓性を有する基材シート15と、該基材シート15の上面側に一体化された複数のコンクリートブロック11とを備え、隙間をもって隣接するコンクリートブロック11のそれぞれの角部に設けられた切り欠き12によって構成される植栽用孔13を有するブロックマット10を、
河川、水路において護岸の法勾配を1:1.0から1:1.5の範囲とし、底面とその両側の法面との3面に、水路の法面1、1および水路床部2に沿って敷設することで、
水路に落ちたカエルなどが這い上がり易くなるとともに、水路をコンクリートで固める場合に比べて短期間で護岸を構築することができ、植栽用孔13に植栽された水生植物3の根茎が基材シート15を貫通して下地へ伸長するので、ブロックマット10と地表とを一体化させることができる、
護岸構造100。」


2 引用文献2
(1)記載事項
原査定に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 技術分野及び背景技術
「【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートフリュームに関し、用水路周辺に生息する水生昆虫や両性類などの小動物の生態系を保護するコンクリートフリュームに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の用水路や側溝に使用されるコンクリートフリューム製品は、側面壁が滑面で垂直である構造から、用水路周辺に生息する水生昆虫や両性類などの小動物が用水路や側溝に落下した場合に、自力で脱出することができない構造であったり、用水路周辺の田畑との自然環境を共生するための生息移動を阻止する構造であるなど、小動物の生態系を保護することができるコンクリートフリューム製品ではなかった。
【0003】
上記の問題点を解決しようとする小動物の生態系を保護する側溝や水路用コンクリートフリュームに関する提案としては、例えば、登録実用新案第3032306号公報(特許文献1)に記載の水路用コンクリート内に昇降スベリ止斜面スロープを合設固定した「自然にやさしい水路用コンクリート製品」などが提案され、公知技術となっている。
【0004】
しかしながら、前記特許文献1に記載の提案においては、水路用コンクリート内に昇降スベリ止斜面スロープを合設固定した水路用側溝の断面形状は、一般的に使用されるU字形側溝と大幅に形状が異なるため、敷設連結手段に問題を残すとともに、昇降スベリ止斜面スロープにゴミや枯葉などの漂流物が溜まってしまい、水路としての機能が損なわれたり、また、見た目にも自然な光景が維持されないものである。さらに昇降スベリ止斜面スロープを設けた構造は、従来のU字形側溝と比較して、本体の製造並びに施工費用のコスト高を招くものであった。」

イ 発明を実施するための形態
「【実施例1】
【0020】
図1(a)に示すように、第一の実施形態にかかるコンクリートフリューム10は、底面11と、該底面11から略垂直に立設されている対向する側壁12とで構成され、該側壁12のうちいずれか一方における長手方向20所定中間位置に、底面11から上方へいくにしたがって外側へ傾斜した所定幅を有する斜面部13が形成されている。
なお、該傾斜部13の傾斜角度については、特に限定するものではなく、また、該傾斜部13の幅についても、特に限定するものではない。
【0021】
また、前記斜面部13と該斜面部13の長手方向20両側に位置する底面11から略垂直に立設された側壁端部12aとの中間には、平面状の中間壁部17が形成されている。
【0022】
かかる中間壁部17については、上方へいくにしたがって外側へ傾斜するように形成されることが望ましく、かかる構造を採ることにより、水流の圧力を正面で受け止めてしまうことなく側溝の地盤に対しての保持力を維持することができるとともに、その領域にゴミや枯葉などの漂流物が溜まることなく、水路としての機能もそのままに見た目にも自然な光景が維持され、また、水流を減速させる澱み域21となる領域を形成し、落下した小動物が容易に漂着可能であるとともに、該小動物の這い上がりを助ける役目を果たすことが可能となる。
【0023】
前記斜面部13には、長手方向20に延設される複数の水平段部15及び斜面壁部16が連続的に成型されることで、昇降段差部14が形成されている。図2は、該昇降段差部14の構造を示す断面説明図であり、図2(a)は全体断面図、図2(b)は要部拡大断面図である。かかる構造により、斜面部13が滑面状である場合に比して、落下した小動物が這い上がる途中で一時休息する場所を提供しつつ、該小動物の脱出を容易にすることが可能である。
【0024】
このとき、図2に示すように、前記昇降段差部14における斜面壁部16について、上方へいくにしたがって外側へ傾斜するように形成することが望ましい。すなわち、かかる構造を採用することにより、該斜面壁部16が略垂直である場合に比して、落下した小動物がより這い上がり易くすることを可能にする。
【0025】
そして、コンクリートフリューム10の長手方向20両端には、連結継手が備えられている。かかる連結継手の構造については、特に限定するものではないが、例えばスピゴットタイプの連結継手18やソケットタイプの連結継手19が考えられる。このとき、図3(a)に示すように、コンクリートフリューム10の両端ともスピゴットタイプの連結継手18とすることが考えられ、または図3(b)に示すように、両端ともソケットタイプの連結継手19とすることも考え得る。かかる構造を採用することにより、本実施形態のように片側に斜面部13が設けられたコンクリートフリューム10を敷設する場合に、連結継手の構造によって適宜選択することで、その敷設方向を現場の状況に合わせて変えることができ、したがって農道の左右両側のどちら側にも敷設すること可能となる。
なお、図面には示していないが、コンクリートフリューム10における一端がスピゴットタイプの連結継手18で他端がソケットタイプの連結継手19とする構造を採用することも可能である。」

ウ 図面
図1(a)及び図2(a)には、次の図示がある。







(2)引用文献2に記載された発明
上記(1)より、引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「用水路周辺に生息する水生昆虫や両性類などの小動物の生態系を保護するコンクリートフリュームであり、
従来の側面壁が滑面で垂直であるコンクリートフリューム製品では、落下した小動物が自力で脱出することができず、小動物の生息移動も阻止する構造であったという課題を、本体の製造並びに施工費用のコスト高を招くことなく解決するために、
底面11と、該底面11から略垂直に立設されている対向する側壁12とで構成され、
該側壁12のうちいずれか一方における長手方向20所定中間位置に、底面11から上方へいくにしたがって外側へ傾斜した所定幅を有する斜面部13が形成され、斜面部13には、長手方向20に延設される複数の水平段部15及び斜面壁部16からなる昇降段差部14が形成されることで、落下した小動物が這い上がり易く、
斜面部13と該斜面部13の長手方向20両側に位置する底面11から略垂直に立設された側壁端部12aとの中間には、上方へいくにしたがって外側へ傾斜する平面状の中間壁部17が形成され、水流の圧力を正面で受け止めてしまうことなく側溝の地盤に対しての保持力を維持することができる、
コンクリートフリューム10。」


3 引用文献3
(1)記載事項
原査定に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 従来の技術、及び、発明が解決しようとする課題
「【0002】
【従来の技術】河床や落差個所にコンクリート製の床板ブロックや水叩き等の硬質構造物を敷設して保護する護床工や床止め工や落差工が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】前記した河床の構造には次のような幾つかの問題点がある。
<イ>護床工や落差工等を施した硬質構造物の敷設個所は流速が速まり、硬質構造物の上下流部が局所的に洗掘され易いだけでなく、この洗掘が河床の広範囲に広がっていく。そのため、周辺の護岸構造物の根固め部や基礎部の洗掘破壊や、護岸構造物の滑動、転倒破壊を誘発し、最悪は堤体の崩壊を招いて大水害を引き起こす場合もある。
<ロ>硬質構造物の上下流部の局所的な洗掘に伴い、硬質構造物自体が破壊する場合もある。
<ハ>硬質構造物の敷設箇所は流速が速く、また落差工にあっては水中生息物の移動を阻害する。そのため、別途に各種の魚道構造物を設置する必要があるが、これらの魚道構造物は魚類の生態系や幼稚魚の遊泳能力を十分に配慮したものではなく、しかも周囲の景観性との調和も特に配慮したものではない。
<ニ>近時、河床保護の考えが強度や機能重視から環境重視に移行しつつある。河床全面をコンクリートで覆うこれでの河床保護方法は、景観性が悪いだけでなく、魚等の水中生物や水辺の植物の生息環境として不適合であるとの指摘があり、この指摘を受けて多様な自然の生態系の回復と保全が図れる技術の提案が望まれている。
【0004】本発明は以上の点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは簡易な施工で以って河床の局所的な洗掘を効果的に防止できる河床の構造及び河床の保護方法を提供することにある。さらに本発明の他の目的は流速の緩和と景観性を改善することで自然生態系の回復と保全が図れる河床の構造及び河床の保護方法を提供することにある。」

イ 発明の実施の形態
「【0007】
【発明の実施の形態1】以下図面を参照しながら本発明の一実施の形態について説明する。
【0008】<イ>緩流マット
図1は既設の硬質護床構造体10の上流部及び下流部の河床20に緩流マット30,30を敷設した形態を示す。
【0009】硬質護床構造体10はコンクリート製の床板、ブロック、水叩き等で、河床20に水流方向に沿って所定の範囲に亘って構築してある。尚、本発明では「硬質護床構造体10」の用語に関し、一般の護床工だけでなく落下工への適用を含むものと定義して使用する。
【0010】緩流マット30は可撓性を有するシート状の基材31と、基材31の片面の全域に取り付けた複数の緩流錘体32とよりなる。基材31は、例えばメッシュ状の織物(平織、多重織等)、編物(無結節編、ラッセル編等)、不織布、ジオグリッド等のジオテキスタイル、又は亜鉛などの鍍金処理や樹脂コーティング処理された金網等の耐食性と引張り強度に優れた可撓性シートを使用できる。要は増水時や敷設作業時において水流や緩流錘体32群の重量により破断しないだけの引張強度を有していればよい。
【0011】緩流錘体32は玉石や砕石等の自然石、偽石、コンクリートブロック、木材(廃材、間伐材)等の重量物で、前記の基材31に所定の間隔を隔てて分離不能に固定する。本例で言うところの「重量物」とは、水流で容易に流されることのない重量を持つものを意味する。緩流錘体32の固定手段としては、例えば基材31の裏面側から緩流錘体32へ向けてピン類を打ち込む打ち込み式、又は樹脂やモルタル等を用いて接着する固着方式、ピンと接着剤を組み合わせた方式等を採用できる。各種の水中生息物の生息環境を考慮すると、緩流錘体32は寸法の異なる自然石を用いて非画一的に形成することが望ましい。
【0012】<ロ>緩流マットの敷設範囲
硬質護床構造体10の上流部と下流部は局部的に洗掘を生じ易い。そこで、硬質護床構造体10の上流部と下流部の河床20に夫々前記した緩流マット30,30を敷設する。緩流マット30の敷設にあたり、緩流マット30の端を硬質護床構造体10に当接させるか、硬質護床構造体10との間に大きな隙間を生じないようにギリギリまで近づける。基材31の可撓性により緩流マット30は河床の起伏に追従して河床を覆うことになる。」

(2)引用文献3に記載された発明
上記(1)より、引用文献3には次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。

「河床や落差個所に施した硬質構造物の上下流部が局所的に洗掘され易いことに対処するため、
河床20に水流方向に沿って所定の範囲に亘って構築してある既設の硬質護床構造体10の上流部及び下流部の河床20に、緩流マット30,30を敷設した、
河床構造及び河床の保護方法。」


第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)引用発明1との対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1における「ブロックマット10」が備える「可撓性を有する基材シート15」は、本願発明1における「可撓性を有する基材シート」に相当し、引用発明1における「基材シート15の上面側に一体化された複数のコンクリートブロック11」は、本願発明1における「基材シート上に固定された複数のブロック」に相当する。引用発明1における「ブロックマット10」は、本願発明1における「ブロックマット」に相当する。
引用発明1における「護岸の法勾配を1:1.0から1:1.5の範囲」とした「水路」は、本願発明1における「斜面を有する水路」に相当する。
引用発明1において、「ブロックマット10」を、水路の「底面とその両側の法面との3面」に、「法面1、1および水路床部2に沿って敷設する」ことと、本願発明1において「水路」の「少なくとも前記緩斜面部の一部」に「ブロックマット」を「敷設」することとは、水路の「少なくとも斜面の一部」に「ブロックマット」を「敷設」する、という点で共通する。
引用発明1における「護岸構造100」は、本願発明1における「護岸構造」に相当する。

以上より、本願発明1と引用発明1とは、次の点で一致する。
「斜面を有する水路の、少なくと斜面の一部に敷設されたブロックマットを有し、
前記ブロックマットは、可撓性を有する基材シートおよび該基材シート上に固定された複数のブロックを有する、
護岸構造。」

一方、本願発明1と引用発明1とは、以下の点で相違する。
(相違点)
水路の構造、及び、ブロックマットの敷設について、
本願発明1では、「水路の片側または両側の法面」に、「水路の一部を拡幅して形成され、前記法面において前記水路の流れ方向に平行な方向に隣接する前記斜面よりも傾斜が緩やかな斜面」である「緩斜面部」が形成されたうえで、ブロックマットが「少なくとも前記緩斜面部の一部」に敷設されるとともに、「前記緩斜面部から連続して前記緩斜面部より前記水路の流れ方向における下流側の前記法面に敷設されている」のに対し、
引用発明1では、水路の護岸の法勾配自体が1:1.0から1:1.5の範囲とされているものの、「斜面」及び「水路の一部を拡幅して形成され、前記法面において前記水路の流れ方向に平行な方向に隣接する前記斜面よりも傾斜が緩やかな斜面」である「緩斜面」という二種類の斜面が存在せず、またブロックマットが「少なくとも前記緩斜面部の一部」及び「前記緩斜面部から連続して前記緩斜面部より前記水路の流れ方向における下流側の前記法面」には敷設されていない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。
原査定で引用された引用文献2には、上記第4の2(2)に認定した引用発明2が記載されており、引用発明2は、コンクリートフリューム10において、略垂直な側壁12の長手方向20所定中間位置に斜面部13を設ける構成を備えている。
しかしながら、引用発明2は、従来の側面壁が垂直であったコンクリートフリューム製品を改良するものであって、護岸の法勾配を1:1.0から1:1.5の範囲とし、かつブロックマット10を用いることで水路をコンクリートで固める場合に比べて護岸を短期間で構築する引用発明1とは、前提となる構造が異なる。また、引用発明2における改良は、コンクリートフリューム10の略垂直な側壁12の一部を、斜面部13とすることに止まっており、引用発明2は、上記相違点に係る本願発明1の構成を示すものではない。
そのため、たとえ当業者が引用発明2を考慮したとしても、コンクリートフリュームとは前提となる構造が異なる引用発明1において、斜面を有する水路の一部を拡幅することで、水路の流れ方向に平行な方向に隣接する斜面及び該斜面よりも傾斜が緩やかな緩斜面部という二種類の斜面を形成するとともに、引用発明1におけるブロックマットの敷設を、そうして形成した緩斜面部の少なくとも一部、及び、緩斜面部から連続して緩斜面部より水路の流れ方向における下流側の法面に対して行うことにより、上記相違点に係る本願発明1の構成に至ることはできない。
また、原査定で従属請求項に対して引用された引用文献3には、上記第4の3(2)に認定した引用発明3が記載されているが、引用発明3は河床の局所的洗掘の防止に関するものであり、たとえ引用発明3が周知技術であったとしても、上記相違点に係る本願発明1の構成を開示あるいは示唆するものではない。
したがって、引用発明1において、上記相違点係る本願発明1の構成に至ることは、原査定で引用された引用文献2に記載された発明、及び、従属請求項に関して原査定で引用された引用文献3に記載された発明又は周知技術を考慮しても、当業者にとって想到容易ということができない。

(3)小括
以上のとおり、上記相違点に係る本願発明1の構成は、引用発明1を出発点として、引用発明2及び引用文献3に記載された発明若しくは周知技術を考慮しても、本願出願前に当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1及び引用発明2又は引用文献3に記載された発明若しくは周知技術に基いて、容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし8について
(1)本願発明2ないし4について
本願発明2ないし4は、本願発明1に従属し、本願発明1の発明特定事項をすべて含むものである。
そのため、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用発明2又は引用文献3に記載された発明若しくは周知技術に基いて、本願発明2ないし4が容易に発明できたものとはいえない。

(2)本願発明5ないし8について
本願発明5は、本願発明1の護岸構造に対応する、護岸構造の施工方法の発明である。一方、引用文献1には、引用発明1の護岸構造の施工方法の発明(以下、「引用方法発明1」という。)も記載されている。そうすると、本願発明5と引用方法発明1との相違点は、本願発明1と引用発明1との相違点と同様となる。そして当該相違点については、上記1に検討したとおりである。
したがって、本願発明5は、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用方法発明1及び引用発明2又は引用文献3に記載された発明若しくは周知技術に基いて、容易に発明できたものとはいえない。
本願発明6ないし8は、本願発明5に従属し、本願発明5の発明特定事項をすべて含むものである。
そのため、本願発明5と同じ理由により、当業者であっても、引用方法発明1及び引用発明2又は引用文献3に記載された発明若しくは周知技術に基いて、本願発明6ないし8が容易に発明できたものとはいえない。


第6 原査定について
本願発明1ないし8は、前記第5で検討したとおり、当業者であっても、原査定において引用された引用文献1に記載された発明及び引用文献2-3に記載された発明若しくは周知技術に基いて、容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-05-27 
出願番号 特願2013-112923(P2013-112923)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (E02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 竹村 真一郎  
特許庁審判長 秋田 将行
特許庁審判官 有家 秀郎
西田 秀彦
発明の名称 護岸構造および護岸構造の施工方法  
代理人 山本 典輝  

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