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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1351869
審判番号 不服2018-2851  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-28 
確定日 2019-06-11 
事件の表示 特願2015-256394「情報処理装置、および遠隔制御可能な装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月14日出願公開、特開2016- 53998、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成21年5月11日(優先権主張 平成20年7月24日(以下,「優先日」という。))に出願した特願2009-114256号の一部を,平成25年9月9日に新たな特許出願とした特願2013-186130号について,その特許出願の一部を平成27年12月28日に新たな特許出願としたものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成28年 1月27日 :手続補正書,上申書の提出
平成28年11月22日付け :拒絶理由の通知
平成29年 1月30日 :意見書の提出
平成29年 4月12日付け :拒絶理由の通知
平成29年 6月26日 :意見書,手続補正書の提出
平成29年11月20日付け :拒絶査定(原査定)
平成30年 2月28日 :審判請求書,手続補正書の提出
平成30年 5月30日 :上申書の提出
平成30年12月25日付け :拒絶理由の通知(当審)
平成31年 3月 8日 :意見書,手続補正書の提出

第2 本願発明
本願請求項1-8に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明8」という。)は,平成31年3月8日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1-8は以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
無線通信機能を備えた情報処理装置であって,
前記情報処理装置が電源オフの状態で,無線通信により遠隔から前記情報処理装置に記憶されたデータの消去またはロックの命令を受信する通信制御部と,
前記通信制御部が前記命令を受信すると,前記情報処理装置の電源をオンにして,前記情報処理装置に記憶されたデータを消去する処理,または,前記情報処理装置をロックする処理の実行命令を,前記情報処理装置における更なる操作ではなく前記命令に応答してBasic Input/Output System(BIOS)を用いて出力する制御部と,
を備え,出力された前記実行命令に応じてデータを消去する処理またはロックする処理を実行することを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記制御部は,前記情報処理装置が電源オフの場合は,前記情報処理装置のオペレーティングシステムを実行することなく前記BIOSを実行させて,前記データを消去する処理,
または,前記ロックする処理を実行させる,
ことを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記制御部は,前記データを消去する処理において,前記情報処置装置に記憶されたデータに対応する暗号鍵を消去する,
ことを特徴とする請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記命令は,Short Message Service(SMS)を用いて送信される,
ことを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
遠隔制御により記憶データの消去が可能な情報処理装置であって,
前記情報処理装置の記憶部に記憶された記憶データを消去する場合に,通信制御部によって受信された前記遠隔制御による前記記憶データの消去の命令に応じて,前記情報処理装置の電源がオフの状態から前記電源がオンの状態に遷移した後に,オペレーティングシステムを実行することなくBasic Input/Output System(BIOS)を用いて前記記憶部に記憶された記憶データを消去する処理の実行命令を出力する処理部,
を備え,出力された前記実行命令に応じて前記記憶部において記憶データを消去する処理が実行されることを特徴とする情報処理装置。
【請求項6】
情報処理部と,
通信制御部と,
を備える情報処理装置において,
前記通信制御部は,前記情報処理装置が電源オフの状態で遠隔からの前記情報処理部の記憶データを消去する指示を受信し,前記情報処理装置に対する更なる操作ではなく前記指示に応じ,前記情報処理部の電源をオフからオンとし,電源をオンとした後に,前記記憶データの消去を前記情報処理部にBasic Input/Output System(BIOS)を用いて行わせる,
ことを特徴とする遠隔制御可能な情報処理装置。
【請求項7】
遠隔制御により記憶データの消去が可能な情報処理装置であって,
通信制御部が前記遠隔制御による前記情報処理装置の記憶部に記憶された記憶データの消去の命令を受信すると,前記情報処理装置の電源がオンの場合,前記情報処理装置における更なる操作ではなく前記命令に応じてBasic Input/Output System(BIOS)を用いて前記記憶データを消去する処理を実行し,前記情報処理装置の電源がオフの場合,前記情報処理装置の電源をオンにして,前記情報処理装置における更なる操作ではなく前記命令に応じて前記BIOSを用いて前記記憶データを消去する処理を実行する制御部,
を有することを特徴とする情報処理装置。
【請求項8】
遠隔制御により記憶データの消去が可能な情報処理装置であって,
前記遠隔制御による記憶データの消去の命令を受信する通信制御部と,
前記情報処理装置の電源がオンであるかオフであるかに応じて異なる制御で,前記情報処理装置の記憶部に記憶された記憶データを消去する制御部と,
を備え,
前記制御部は,前記通信制御部が前記遠隔制御による記憶データの消去の命令を受信した際に前記情報処理装置の電源がオフの場合,前記情報処理装置の電源をオンにして,前記情報処理装置における更なる操作ではなく,受信した前記命令に応答してBasic Input/Output System(BIOS)を用いて前記情報処理装置の記憶部に記憶された記憶データを消去する処理を実行する,
ことを特徴とする情報処理装置。」

第3 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(中道理,“vProの衝撃,Vistaの真価 第3回 遠隔地からのパソコンをロック可能に”,[online],日経BP,2007年3月28日,[検索日:平成29年4月11日],インターネット, COLUMN/20070309/264449/?rt=nocnt>)には,図面とともに次の事項が記載されている。
(当審注:下線は参考のために当審で付与したものである。以下,同様。)

A 「第3回 遠隔地からパソコンをロック可能に
…(中略)…
2006年末,企業システムを変貌させる新しいツールが登場した。その核はインテルの「vPro」,マイクロソフト「Windows Vista」といった,クライアントの次世代プラットフォーム。企業ネットのセキュリティ・モデルが根底から変わろうとしている。今回はvPro編の最終回。

AMTと仮想アプライアンスの組み合わせは,ノート・パソコンの紛失・盗難が発生した際の情報漏えい対策に活用できる。ノート・パソコンが他人の手に渡った時,データをリモートから消去するのである(図2-4)。一部で携帯電話向けに実現しているのと同じ仕組みだ。紛失したパソコンをリモートから起動し,仮想アプライアンスとして仕込んだソフトウエアでハード・ディスクの内容を消去する。」

B 「

図2-4●vProはパッチ適用や情報漏えい対策で威力を発揮する
特にモバイル環境では,これまで難しかったリモートからのデータ消去が可能になる。
[画像のクリックで拡大表示] 」

C 「 今までなら,こうした危険を回避するために社外へのパソコンの持ち出し禁止か,あるいはシン・クライアント導入となるところだ。リモート消去機能が実装されたvPro搭載パソコンを使えば,あえて使い勝手や生産性を落とすような対策を講じる必要はなくなる。

これまでのパソコンで同様の仕組みを実現できなかったのは,紛失時や盗難時にはたいていパソコンの電源が切れているため。vPro対応パソコンならAMTの機構を使って電源を投入し,ユーザーOS部分を消去できる。

もちろんリモート消去は,ノート・パソコンに携帯電話などの広いエリアでつながる無線通信機能が搭載されていなければ使い物にならない。そこでインテルは,「パソコン・メーカーに携帯電話モジュールの標準搭載を働きかけている」(通信事業開発本部の松本洋一本部長)。そして,この携帯電話モジュールに, AMTを使った電源投入機能を盛り込む。そうなれば,リモートから携帯電話モジュールを介してパソコンを起動できる。この携帯電話モジュールを搭載したノート・パソコンは,2007年中には製品化される見込みだ。」

したがって,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「無線通信機能とAMT機構が搭載されたパソコンであって,
リモートのシステム管理者または通信事業者から起動パケットを受信する手段と,
前記起動パケットにより,サービスOS及び管理プログラムを含む仮想アプライアンスを起動する手段と,
リモートのシステム管理者または通信事業者から前記管理プログラムに対する消去コマンドを受信する手段と,
前記管理プログラムを実行してハードディスクのデータを消去するように制御する手段と,
を備え,
紛失時には,AMTの機構を用いてリモートから起動(電源オン)され,仮想アプライアンスとして仕込んだソフトウェアで,ユーザOSを含むハードディスクの内容を消去することを特徴とするパソコン。」

2 引用文献2について
また,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(廣田 洋一,“企業ネットワークを一変させる次世代クライアントの潮流 第3回vPro(2) コア技術は管理機構と仮想化 PCにIT部門の仕事を埋め込む”,日経コミュニケーション,日本,日経BP社,2006年11月1日,第473号,P.120-125)には,図面とともに次の事項が記載されている。

D 「電源断のクライアントも管理できる
Core 2 Duo プロセッサを中核としたvProプラットフォームがサポートする技術のうち,最も重要なものがインテルアクティブ・マネージメント・テクノロジー(iAMT)だ。Q965チップセットと82566DMギガビット・ネットワーク・コントローラのハードウエアとソフトウエア(BIOSおよびファームウエア)に組み込まれた管理機能で,クライアント・パソコンの状態によらず,管理コンソールからの監視や制御を実現する。これにより,ネットワークに接続しているパソコンの検出,不具合などの修正が可能になる。」(121頁右欄5-17行)

したがって,上記引用文献2には,「AMTの機構は,BIOSに組み込まれた管理機能であって,管理コンソールからの監視や制御を実現する」という周知技術が記載されていると認められる。

3 引用文献3について
また,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2007-74704号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

E 「【0089】
[リモートロックシステムの第3の構成例の説明]
また,図5は,本発明のリモートロックシステムの第3の構成例を示す図である。図5に示すリモートロックシステム1Cは,端末として,無線通信端末(例えば,PHSデータ通信カードなど)5と,該無線通信端末5をI/F部14,15で接続したPCやPDA等の情報処理端末6とで構成した例を示している。なお,情報処理端末6と無線通信端末5間の接続方法としてはPCMCIA・USB・RS232Cなどの有線接続が使用できる他,無線LAN・Bluetooth・UWBなどの無線接続も使用できる。
…(中略)…
【0091】
また,無線通信端末5の不揮発性メモリ30Aに鍵データ33が格納されており,リモートロック動作フラグ32の値によりオン/オフ(ON/OFF)するスイッチ(SW2)27を通してロック制御部26Aに送られるようになっている。
【0092】
この鍵データは,無線通信端末5で判定したリモートロックフラグの値の伝達,または,情報処理端末6のロック解除あるいは情報処理端末6内の暗号データの解除あるいは復号化の為に使用されるものであり,スイッチ(SW2)27をOFFすることにより,情報処理端末6からの鍵データ33へのアクセスを停止することで,情報処理端末6を使用不能にする,もしくは暗号化情報の復号化を許さないことで機密情報・個人情報の流出を防止することができる。例えば,情報処理端末6内のハードディスクを取り外して解読される場合もあり得るので,この場合の対策として,無線通信端末5内に暗号鍵の情報を保持し,この暗号鍵によりハードディスクに記録する情報を暗号化するようにし,無線通信端末5が通信ネットワーク40側からリモートロック指示情報を受信した場合には,この暗号鍵の情報をロックまたは,または削除する。」

したがって,上記引用文献3には,「無線通信よるリモート管理で情報処理装置のデータ消去等の処理を行うリモートロックシステムにおいて,機密情報の流出を防ぐために,ハードディスクに記憶されたデータに対応する暗号鍵を消去し,前記データへのアクセスをロックする」という技術的事項が記載されていると認められる。

4 引用文献4について
また,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4(特開2008-167381号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

F 「【0026】
図5は,OMAデバイス管理(Device Management)に準拠したプロトコルを用いて遠隔ロックを行うときの手順の一例を示すシーケンス図である。この手順で遠隔ロックを行う場合は,携帯電話通信網10に接続されたとSMSC(Short Message Service Center)呼ばれるメッセージサーバ21と,デバイス管理サーバ22とを利用する。メッセージサーバ21は,携帯電話機や通信モジュールの端末識別情報としての電話番号を宛先として送信される所定のサイズのメッセージを処理する。図5において,メッセージサーバ21は,管理システム20から携帯パソコン30の通信モジュールの電話番号を指定した遠隔ロック指示を受信すると,その携帯パソコン30の外部通信部(通信モジュール)320に対してSMS(Short Message Service)からなる「Phone Security Notification」を送信する。これにより,携帯パソコン30の外部通信部(通信モジュール)320とデバイス管理サーバ22との間でデバイス管理(DM)セッションが開始され,携帯パソコン30の本体部300をロックするための情報が送受信される((2)?(5))。携帯パソコン30でロック処理が実行されると,当該携帯パソコン30の通信モジュールに対応するデバイス情報中のロック設定情報の記述が書き換えられ,携帯パソコン30の外部通信部(通信モジュール)320とデバイス管理サーバ22との間のデバイス管理(DM)セッションが終了する((6)?(7))。」

したがって,上記引用文献4には,「ショートメッセージ(SMS)を用いて,無線通信よるリモート管理で情報処理装置の遠隔ロックを行う」という周知技術が記載されていると認められる。

5 引用文献5について
また,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5(特開2005-18415号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

G 「【0009】
本発明は上述の事情を考慮してなされたものであり,消去プログラムが格納されたFDからシステムを起動することなく,データ記憶装置の記憶内容を消去することが可能な情報処理装置およびデータ消去方法を提供することを目的とする。
…(中略)…
【0011】
この情報処理装置によれば,基本入出力システム内にデータ記憶装置の記憶内容を消去する消去機能が設けられているので,消去プログラムが格納されたFDからシステムを起動することなく,データ記憶装置の記憶内容を消去することが可能となる。」

したがって,上記引用文献5には,「データ記憶装置内の記憶内容を消去する消去機能をBIOS内に設ける」という周知技術が記載されていると認められる。

第4 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。
ア 引用発明は,「無線通信機能とAMT機構が搭載されたパソコン」において,紛失時の情報漏えい対策を実行することを課題とするものであり,「パソコン」は「無線通信機能」を備えることから,引用発明の「パソコン」は本願発明1の「情報処理装置」に対応するといえる。
そうすると,引用発明と本願発明1とは,“無線通信機能を備えた情報処理装置”である点で一致するといえる。

イ 引用発明の「パソコン」は,「リモートのシステム管理者または通信事業者から前記管理プログラムに対する消去コマンドを受信する手段」を備えるところ,引用発明の「リモートのシステム管理者または通信事業者から」「コマンドを受信する」は“遠隔から”“命令を受信する”と解することができるから,引用発明の「消去コマンド」は本願発明1の「消去の命令」に相当するといえ,
そして,引用発明の「消去コマンド」は,「管理プログラム」に対して出力され,「管理プログラムを実行してハードディスクのデータを消去する」ことから,“情報処理装置に記憶されたデータの消去の命令”とみることができる。
よって,“情報処理装置に記憶されたデータの消去の命令”の受信に係る引用発明の「リモートのシステム管理者または通信事業者から前記管理プログラムに対する消去コマンドを受信する手段」は,“無線通信により遠隔から前記情報処理装置に記憶されたデータの消去の命令を受信する”機能を有するといえる。
一方,本願発明1の「情報処理装置」は「前記情報処理装置が電源オフの状態で,無線通信により遠隔から前記情報処理装置に記憶されたデータの消去またはロックの命令を受信する通信制御部」を備えることから,「通信制御部」は少なくとも,“データの消去の命令”を「無線通信により遠隔から」受信する機能を有すると解される。
そうすると,引用発明と本願発明1とは,後記する点で相違するものの,“無線通信により遠隔から前記情報処理装置に記憶されたデータの消去の命令を受信する通信制御部”を具備する“情報処理装置”である点で共通するといえる。

ウ 引用発明の「パソコン」は,「前記起動パケットにより,サービスOS及び管理プログラムを含む仮想アプライアンスを起動する手段」を備えるところ,引用発明の「起動する手段」は本願発明1の「制御部」に対応するとともに,上記イでの検討より“命令を受信する通信制御部”を実質的に備え,「リモートのシステム管理者または通信事業者から起動パケットを受信する」ことから,引用発明は,“通信制御部”が「起動パケット」を受信すると,「管理プログラム」を「起動パケット」に応答して出力する“制御部”を具備するといえる。
また,引用発明は「管理プログラムを実行してハードディスクのデータを消去する」ことから,引用発明の「管理プログラム」は,本願発明1の“情報処理装置に記憶されたデータを消去する処理の実行命令”に相当するといえ,引用発明の「起動パケット」と本願発明1の「データの消去の命令」とは,上位概念では,“通信制御部”が受信する“遠隔からの命令”である点で一致する。
したがって,引用発明の「前記起動パケットにより,サービスOS及び管理プログラムを含む仮想アプライアンスを起動する手段」は,“前記通信制御部が遠隔からの命令を受信すると,前記情報処理装置に記憶されたデータを消去する処理の実行命令を,前記命令に応答して出力する制御部”であるといえる。
一方,本願発明1の「情報処理装置」は「前記通信制御部が前記命令を受信すると,前記情報処理装置の電源をオンにして,前記情報処理装置に記憶されたデータを消去する処理,または,前記情報処理装置をロックする処理の実行命令を,前記情報処理装置における更なる操作ではなく前記命令に応答してBasic Input/Output System(BIOS)を用いて出力する制御部」を備えることから,「制御部」は少なくとも,「通信制御部」が“遠隔からの命令”を受信すると,「情報処理装置に記憶されたデータを消去する処理」の「実行命令」を「データの消去の命令」に応答して出力する機能を有すると解される。
そうすると,引用発明と本願発明1とは,後記する点で相違するものの,“前記通信制御部が遠隔からの命令を受信すると,前記情報処理装置に記憶されたデータを消去する処理の実行命令を,前記命令に応答して出力する制御部”を具備する“情報処理装置”である点で共通するといえる。

エ 引用発明は,「紛失時には,AMTの機構を用いてリモートから起動(電源オン)され,仮想アプライアンスとして仕込んだソフトウェアで,ユーザOSを含むハードディスクの内容を消去する」ところ,「管理プログラムを実行してハードディスクのデータを消去」するものであり,上記ウでの検討より,引用発明の「管理プログラム」は,本願発明1の“情報処理装置に記憶されたデータを消去する処理の実行命令”に相当するから,“出力された前記実行命令に応じてデータを消去する処理を実行する”といえる。
そうすると,引用発明と本願発明1とは,“情報処理装置”が“出力された前記実行命令に応じてデータを消去する処理を実行する”点で一致するといえる。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「無線通信機能を備えた情報処理装置であって,
無線通信により遠隔から前記情報処理装置に記憶されたデータの消去の命令を受信する通信制御部と,
前記通信制御部が遠隔からの命令を受信すると,前記情報処理装置に記憶されたデータを消去する処理の実行命令を,前記命令に応答して出力する制御部と,
を備え,出力された前記実行命令に応じてデータを消去する処理を実行することを特徴とする情報処理装置。」

(相違点)
(相違点1)
通信制御部に関し,本願発明1では,「前記情報処理装置が電源オフの状態で,無線通信により遠隔から前記情報処理装置に記憶されたデータの消去またはロックの命令を受信する」のに対して,
引用発明は,「リモートのシステム管理者または通信事業者」から「消去コマンド」を受信するものの,「パソコン」が電源オフの状態で「消去コマンド」を受信すると特定されていない点。

(相違点2)
制御部に関し,本願発明1では,「前記通信制御部が前記命令を受信すると,前記情報処理装置の電源をオンにして,前記情報処理装置に記憶されたデータを消去する処理,または,前記情報処理装置をロックする処理の実行命令を,前記情報処理装置における更なる操作ではなく前記命令に応答してBasic Input/Output System(BIOS)を用いて出力する」のに対して,
引用発明は,「起動パケット」を受信すると,「パソコン」を「電源オン」し,“情報処理装置に記憶されたデータを消去する処理の実行命令”を出力するものの,データの消去の命令を受信すると,情報処理装置の電源をオンにし,情報処理装置における更なる操作ではなくデータの消去の命令に応答してBasic Input/Output System(BIOS)を用いて実行命令を出力することは特定されていない点。

(2)相違点についての判断
ア 相違点2について
事案に鑑みて,上記相違点2を先に検討すると,引用発明では,「パソコン」が,「リモートのシステム管理者または通信事業者から起動パケットを受信する手段」,「前記起動パケットにより,サービスOS及び管理プログラムを含む仮想アプライアンスを起動する手段」を備え,「紛失時には,AMTの機構を用いてリモートから起動(電源オン)され」るところ,遠隔からの「起動パケット」を受信すると,情報処理装置を電源オンし,情報処理装置に記憶されたデータを消去する処理の実行命令を,「起動パケット」に応答して出力するにとどまり,データの消去の命令を受信すると,情報処理装置の電源をオンにし,情報処理装置における更なる操作ではなくデータの消去の命令に応答してBasic Input/Output System(BIOS)を用いて実行命令を出力するように構成を変更する動機付けがあるとはいえない。
また,無線通信により遠隔から情報処理装置に記憶されたデータの消去の命令を受信すると,情報処理装置の電源をオンにし,情報処理装置における更なる操作ではなくデータの消去の命令に応答してBasic Input/Output System(BIOS)を用いて実行命令を出力する旨の技術は,引用文献2-5には記載されておらず,本願の優先日前に当該技術分野における周知技術であったとも認められない。加えて,引用発明において引用文献2-5に記載の技術を適用しても,相違点2に係る構成に設計変更するには必須の「起動パケット」を排除することが必要となるから,阻害要因がある。
そうすると,引用発明において,「起動パケット」に代えて,データの消去の命令を受信すると,情報処理装置の電源をオンにするとともに,情報処理装置における更なる操作ではなくデータの消去の命令に応答してBasic Input/Output System(BIOS)を用いて実行命令を出力するように構成すること,すなわち,本願発明1の上記相違点2に係る構成とすることは,当業者が適宜なし得たものであるとすることはできない。

イ まとめ
したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明,引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2-4について
本願発明2-4は,本願発明1を減縮した発明であり,本願発明1の
「前記通信制御部が前記命令を受信すると,前記情報処理装置の電源をオンにして,前記情報処理装置に記憶されたデータを消去する処理,または,前記情報処理装置をロックする処理の実行命令を,前記情報処理装置における更なる操作ではなく前記命令に応答してBasic Input/Output System(BIOS)を用いて出力する制御部」(以下,「相違点2に係る構成」という。)
と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明5について
本願発明5は,本願発明1に対応する「情報処理装置」の発明であり,本願発明1の「相違点2に係る構成」に対応する構成である「処理部」を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4 本願発明6について
本願発明6は,本願発明1に対応する「情報処理装置」の発明であり,本願発明1の「相違点2に係る構成」に対応する構成である「情報処理部」を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

5 本願発明7について
本願発明7は,本願発明1に対応する「情報処理装置」の発明であり,本願発明1の「相違点2に係る構成」に対応する構成である「制御部」を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

6 本願発明8について
本願発明8は,本願発明1に対応する「情報処理装置」の発明であり,本願発明1の「相違点2に係る構成」に対応する構成である「制御部」を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は,請求項1-8について上記引用文献1-5に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
しかしながら,平成31年3月8日付け手続補正により補正された請求項1-8は,それぞれ「相違点2に係る構成」に対応する構成を有するものとなっており,
上記のとおり,本願発明1-8は,引用発明,引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。
したがって,原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
1 特許法第36条第6項第1号について
(1)当審では,請求項1の「前記情報処理装置が電源オフの状態で無線通信により前記情報処理装置に記憶されたデータの消去またはロックの命令を受信すると,…(中略)…実行命令を,前記情報処理装置における操作を受け付けることなくBasic Input/Output System(BIOS)を用いて出力する制御部」を含むところ,本願明細書の発明の詳細な説明には,「情報処理装置における操作を受け付けることなく」,「Basic Input/Output System(BIOS)」を用いることについて記載されておらず,実施例のいずれにも対応する構成は見出すことができないから,発明の詳細な説明に記載したものではないとの拒絶の理由を通知しているが,平成31年3月8日付けの手続補正により,
「前記情報処理装置における更なる操作ではなく前記命令に応答してBasic Input/Output System(BIOS)を用いて出力する」(以下,「請求項1に係る補正事項」という。)
と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。

(2)また,請求項1を引用する請求項3-4,請求項1に対応する請求項5,6,7,8についても同様に,補正によりこの拒絶の理由は解消した。

2 特許法第36条第6項第2号について
(1)当審では,請求項1の「前記情報処理装置が電源オフの状態で無線通信により前記情報処理装置に記憶されたデータの消去またはロックの命令を受信すると,前記情報処理装置の電源をオンにして,前記情報処理装置に記憶されたデータを消去する処理,または,前記情報処理装置をロックする処理の実行命令を,前記情報処理装置における操作を受け付けることなくBasic Input/Output System(BIOS)を用いて出力する制御部」が特定する事項が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成31年3月8日付けの手続補正により,「請求項1に係る補正事項」のように補正された結果,この拒絶の理由は解消した。
また,請求項1を引用する請求項2-4についても同様に,補正によりこの拒絶の理由は解消した。

(2)当審では,請求項5の「前記情報処理装置の記憶部に記憶された記憶データを消去する場合に,前記遠隔制御による前記記憶データの消去の命令に応じて,前記情報処理装置の電源がオフの状態から前記電源がオンの状態に遷移した後に,前記情報処理装置における操作を受け付けることなくBasic Input/Output System(BIOS)を用いて前記記憶データの消去を実行する処理部」が特定する事項が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成31年3月8日付けの手続補正により,「前記情報処理装置の記憶部に記憶された記憶データを消去する場合に,通信制御部によって受信された前記遠隔制御による前記記憶データの消去の命令に応じて,前記情報処理装置の電源がオフの状態から前記電源がオンの状態に遷移した後に,オペレーティングシステムを実行することなくBasic Input/Output System(BIOS)を用いて前記記憶部に記憶された記憶データを消去する処理の実行命令を出力する処理部」のように補正された結果,この拒絶の理由は解消した。

(3)当審では,請求項6の「前記通信制御部は,外部からの前記情報処理部の記憶データを消去する指示に応じ,前記情報処理部の電源をオフからオンとし,電源をオンとした後に,自装置に対する操作を受け付けることなく,前記記憶データの消去を前記情報処理部にBasic Input/Output System(BIOS)を用いて行わせる,」が特定する事項が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成31年3月8日付けの手続補正により,「前記通信制御部は,前記情報処理装置が電源オフの状態で遠隔からの前記情報処理部の記憶データを消去する指示を受信し,前記情報処理装置に対する更なる操作ではなく前記指示に応じ,前記情報処理部の電源をオフからオンとし,電源をオンとした後に,前記記憶データの消去を前記情報処理部にBasic Input/Output System(BIOS)を用いて行わせる,」のように補正された結果,この拒絶の理由は解消した。

(4)当審では,請求項7の「前記情報処理装置の記憶部に記憶された記憶データの消去の命令を受信すると,前記情報処理装置の電源がオンの場合,前記情報処理装置における操作を受け付けることなくBasic Input/Output System(BIOS)を用いて前記記憶データを消去する処理を実行し,前記情報処理装置の電源がオフの場合,前記情報処理装置の電源をオンにして,前記情報処理装置における操作を受け付けることなく前記BIOSを用いて前記記憶データを消去する処理を実行する制御部」が特定する事項が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成31年3月8日付けの手続補正により,「通信制御部が前記遠隔制御による前記情報処理装置の記憶部に記憶された記憶データの消去の命令を受信すると,前記情報処理装置の電源がオンの場合,前記情報処理装置における更なる操作ではなく前記命令に応じてBasic Input/Output System(BIOS)を用いて前記記憶データを消去する処理を実行し,前記情報処理装置の電源がオフの場合,前記情報処理装置の電源をオンにして,前記情報処理装置における更なる操作ではなく前記命令に応じて前記BIOSを用いて前記記憶データを消去する処理を実行する制御部」のように補正された結果,この拒絶の理由は解消した。

(5)当審では,請求項8の「制御部」は,「前記遠隔制御による前記記憶データの消去の命令を受信した際に前記情報処理装置の電源がオフの場合,前記情報処理装置の電源をオンにして,前記情報処理装置における操作を受け付けることなくBasic Input/Output System(BIOS)を用いて前記情報処理装置の記憶部に記憶された記憶データを消去する処理を実行する」が特定する事項が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成31年3月8日付けの手続補正により,「前記制御部は,前記通信制御部が前記遠隔制御による記憶データの消去の命令を受信した際に前記情報処理装置の電源がオフの場合,前記情報処理装置の電源をオンにして,前記情報処理装置における更なる操作ではなく,受信した前記命令に応答してBasic Input/Output System(BIOS)を用いて前記情報処理装置の記憶部に記憶された記憶データを消去する処理を実行する,」のように補正された結果,この拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明1-8は,当業者が引用発明,引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-05-30 
出願番号 特願2015-256394(P2015-256394)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
P 1 8・ 537- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 児玉 崇晶脇岡 剛圓道 浩史  
特許庁審判長 仲間 晃
特許庁審判官 辻本 泰隆
須田 勝巳
発明の名称 情報処理装置、および遠隔制御可能な装置  
代理人 向山 直樹  
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