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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1351885
審判番号 不服2018-1791  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-08 
確定日 2019-05-22 
事件の表示 特願2015-542211「身体結合通信インタフェースを有する生体測定システム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月22日国際公開、WO2014/075944、平成28年 3月 3日国内公表、特表2016-506552〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,2013年11月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年11月16日,欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって,平成28年10月27日に審査請求されると同時に手続補正書が提出され,平成29年8月22日付けで拒絶の理由が通知され,同年10月6日に手続補正書が提出され,同年11月27日付けで拒絶査定(謄本送達日同年11月30日)がなされ,これに対して平成30年2月8日に審判請求がなされると共に手続補正がなされ,同年3月12日付けで審査官により特許法164条3項の規定に基づく報告がなされたものである。


第2 平成30年2月8日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成30年2月8日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1.本件補正について
A 補正の内容
本件補正の内容は,平成29年10月6日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲,

「 【請求項1】
個人の生体的特徴に特有の生体検証データを格納する不揮発性メモリと、
前記個人の体に沿った又は前記個人の体を通じた身体結合通信により、前記生体検証データを第2の身体結合通信インタフェースに送信する第1の身体結合通信インタフェースと、を有し、
前記生体検証データは、前記個人の生体的特徴を測定するように構成された生体認証リーダによって得られた生体データからノイズを減少させるための生体補助データを有する、ウェアラブル装置。
【請求項2】
本人確認システムであって、
生体データを取得するために、個人の生体的特徴を測定する生体認証リーダと、
前記個人の体に沿った又は前記個人の体を通じた身体結合通信により、生体検証データを受信する第2の身体結合通信インタフェースと、
前記生体検証データに対して、前記取得した生体データの検証を行なう生体データ検証装置と、を有し、
前記受信を可能とするために、前記第2の身体結合通信インタフェースが、前記生体認証リーダによる前記生体的特徴の測定の間、前記個人に接触又は近接するように、前記生体認証リーダが配置され、
前記取得された生体データは、ノイズの影響を受け、
前記生体検証データは、生体補助データを有し、
前記本人確認システムは、前記生体補助データの制御下で、前記取得した生体データからノイズを減少させる生体データ定量化手段を有する、本人確認システム。
【請求項3】
請求項1記載のウェアラブル装置と、
請求項2記載の本人確認システムと、を有し、
前記生体認証リーダは、前記生体検証データが前記不揮発性メモリに格納された前記個人の生体的特徴を測定し、前記第2の身体結合通信インタフェースは、前記第1の身体結合通信インタフェースから前記生体検証データを受信する、生体測定システム。
【請求項4】
前記ウェアラブル装置は、腕時計に含まれる、請求項3記載の生体測定システム。
【請求項5】
前記生体検証データは、検証コードを有し、前記検証コードは、暗号一方向性関数を制御生体データに適用することによって得られており、前記制御生体データは、前記個人の生体的特徴を測定することによって得られており、前記生体データ検証装置は、候補検証コードを取得するために、前記暗号一方向性関数を前記取得した生体データに適用し、前記候補生体検証コードが前記検証コードと等しいか否かをテストする、請求項3記載の生体測定システム。
【請求項6】
前記生体検証データは、前記個人を識別する識別データを有し、前記識別データは、あるアプリケーションにおいて使用され、前記本人確認システムは、前記生体データ検証装置が前記生体検証データを検証した場合に、前記識別データを前記アプリケーションに送る識別出力ユニットを有する、請求項3記載の生体測定システム。
【請求項7】
前記生体検証データは、ディジタル署名を有し、前記本人確認システムは、前記ディジタル署名を検証するディジタル署名検証装置を有し、前記ディジタル署名は、前記生体検証データの少なくとも一部を示す、請求項3記載の生体測定システム。
【請求項8】
個人の前記生体的特徴は、前記個人の指紋であり、前記生体認証リーダは、指紋リーダである、請求項3記載の生体測定システム。
【請求項9】
前記第2の身体結合通信インタフェースは、前記個人の体に沿った又は前記個人の体を通じた身体結合通信により、生体検証のためのリクエストを前記第1の身体結合通信インタフェースに送り、
前記ウェアラブル装置は、前記個人の体に沿った又は前記個人の体を通じた身体結合通信による、前記生体検証のためのリクエストの受信に応答して、前記個人の体に沿った又は前記個人の体を通じた身体結合通信により、前記生体検証データを送る、請求項3記載の生体測定システム。
【請求項10】
前記生体検証のためのリクエストは、セッションキーのためのシードを有し、前記ウェアラブル装置は、前記生体検証データの少なくとも一部を前記本人確認システムへの送信前に前記セッションキーで暗号化する暗号化ユニットを有し、前記本人確認システムは、前記暗号化された生体検証データを復号化する復号化ユニットを有する、請求項9記載の生体測定システム。
【請求項11】
第1の身体結合通信インタフェースを有するウェアラブル装置の作動方法であって、
個人の体に沿った又は前記個人の体を通じた前記第1の身体結合通信インタフェースを用いた身体結合通信により、生体検証データを第2の身体結合通信インタフェースに送信し、前記生体検証データは、前記個人の生体的特徴に特有であって、前記生体検証データは、前記個人の前記生体的特徴を測定する生体認証リーダから取得される生体データに対して検証され、
前記生体検証データは、前記個人の生体的特徴を測定するように構成された生体認証リーダによって得られた生体データからノイズを減少させるための生体補助データを有する、ウェアラブル装置の作動方法。
【請求項12】
生体データを取得するために、生体認証リーダを用いて、個人の生体的特徴を測定することと、前記個人の体に沿った又は前記個人の体を通じた第2の身体結合通信インタフェースを用いた身体結合通信により、生体検証データを受信することと、を同時に可能とするために、前記第2の身体結合通信インタフェースが、前記生体認証リーダによる生体的特徴の測定の間、前記個人に接触又は近接するように、前記生体認証リーダが配置され、
前記生体検証データは、前記個人の生体的特徴を測定するように構成された生体認証リーダによって得られた生体データからノイズを減少させるための生体補助データを有する、生体測定方法。
【請求項13】
コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行された場合に、請求項11又は12に記載の全てのステップを実行するコンピュータプログラムコード手段を有する、コンピュータプログラム。
【請求項14】
コンピュータ読み取り可能な媒体上に実現された、請求項13記載のコンピュータプログラム。」(以下,この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正前の請求項」という。)

を,

「 【請求項1】
個人の生体的特徴に特有の生体検証データを格納する不揮発性メモリと、
前記個人の体に沿った又は前記個人の体を通じた身体結合通信により、前記生体検証データを第2の身体結合通信インタフェースに送信する第1の身体結合通信インタフェースと、を有し、
前記生体検証データは、前記個人の生体的特徴を測定するように構成された生体認証リーダによって得られた生体データからノイズを減少させるための生体補助データを有する、ウェアラブル装置。
【請求項2】
本人確認システムであって、
生体データを取得するために、個人の生体的特徴を測定する生体認証リーダと、
前記個人の体に沿った又は前記個人の体を通じた身体結合通信により、ウェアラブル装置から生体検証データを受信する第2の身体結合通信インタフェースと、
前記生体検証データに対して、前記取得した生体データの検証を行なう生体データ検証装置と、を有し、
前記受信を可能とするために、前記第2の身体結合通信インタフェースが、前記生体認証リーダによる前記生体的特徴の測定の間、前記個人に接触又は近接するように、前記生体認証リーダが配置され、
前記取得された生体データは、ノイズの影響を受け、
前記生体検証データは、生体補助データを有し、
前記本人確認システムは、前記生体補助データの制御下で、前記取得した生体データからノイズを減少させる生体データ定量化手段を有する、本人確認システム。
【請求項3】
請求項1記載のウェアラブル装置と、
請求項2記載の本人確認システムと、を有し、
前記生体認証リーダは、前記生体検証データが前記不揮発性メモリに格納された前記個人の生体的特徴を測定し、前記第2の身体結合通信インタフェースは、前記第1の身体結合通信インタフェースから前記生体検証データを受信する、生体測定システム。
【請求項4】
前記ウェアラブル装置は、腕時計に含まれる、請求項3記載の生体測定システム。
【請求項5】
前記生体検証データは、検証コードを有し、前記検証コードは、暗号一方向性関数を制御生体データに適用することによって得られており、前記制御生体データは、前記個人の生体的特徴を測定することによって得られており、前記生体データ検証装置は、候補検証コードを取得するために、前記暗号一方向性関数を前記取得した生体データに適用し、前記候補生体検証コードが前記検証コードと等しいか否かをテストする、請求項3記載の生体測定システム。
【請求項6】
前記生体検証データは、前記個人を識別する識別データを有し、前記識別データは、あるアプリケーションにおいて使用され、前記本人確認システムは、前記生体データ検証装置が前記生体検証データを検証した場合に、前記識別データを前記アプリケーションに送る識別出力ユニットを有する、請求項3記載の生体測定システム。
【請求項7】
前記生体検証データは、ディジタル署名を有し、前記本人確認システムは、前記ディジタル署名を検証するディジタル署名検証装置を有し、前記ディジタル署名は、前記生体検証データの少なくとも一部を示す、請求項3記載の生体測定システム。
【請求項8】
個人の前記生体的特徴は、前記個人の指紋であり、前記生体認証リーダは、指紋リーダである、請求項3記載の生体測定システム。
【請求項9】
前記第2の身体結合通信インタフェースは、前記個人の体に沿った又は前記個人の体を通じた身体結合通信により、生体検証のためのリクエストを前記第1の身体結合通信インタフェースに送り、
前記ウェアラブル装置は、前記個人の体に沿った又は前記個人の体を通じた身体結合通信による、前記生体検証のためのリクエストの受信に応答して、前記個人の体に沿った又は前記個人の体を通じた身体結合通信により、前記生体検証データを送る、請求項3記載の生体測定システム。
【請求項10】
前記生体検証のためのリクエストは、セッションキーのためのシードを有し、前記ウェアラブル装置は、前記生体検証データの少なくとも一部を前記本人確認システムへの送信前に前記セッションキーで暗号化する暗号化ユニットを有し、前記本人確認システムは、前記暗号化された生体検証データを復号化する復号化ユニットを有する、請求項9記載の生体測定システム。
【請求項11】
第1の身体結合通信インタフェースを有するウェアラブル装置の作動方法であって、
個人の体に沿った又は前記個人の体を通じた前記第1の身体結合通信インタフェースを用いた身体結合通信により、生体検証データを第2の身体結合通信インタフェースに送信し、前記生体検証データは、前記個人の生体的特徴に特有であって、前記生体検証データは、前記個人の前記生体的特徴を測定する生体認証リーダから取得される生体データに対して検証され、
前記生体検証データは、前記個人の生体的特徴を測定するように構成された生体認証リーダによって得られた生体データからノイズを減少させるための生体補助データを有する、ウェアラブル装置の作動方法。
【請求項12】
生体データを取得するために、生体認証リーダを用いて、個人の生体的特徴を測定することと、前記個人の体に沿った又は前記個人の体を通じた第2の身体結合通信インタフェースを用いた身体結合通信により、ウェアラブル装置から生体検証データを受信することと、を同時に可能とするために、前記第2の身体結合通信インタフェースが、前記生体認証リーダによる生体的特徴の測定の間、前記個人に接触又は近接するように、前記生体認証リーダが配置され、
前記生体検証データは、前記個人の生体的特徴を測定するように構成された生体認証リーダによって得られた生体データからノイズを減少させるための生体補助データを有する、生体測定方法。
【請求項13】
コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行された場合に、請求項11又は12に記載の全てのステップを実行するコンピュータプログラムコード手段を有する、コンピュータプログラム。
【請求項14】
コンピュータ読み取り可能な媒体上に実現された、請求項13記載のコンピュータプログラム。」(当審注:下線は,請求人が付与したものである。以下,この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正後の請求項」という。)

に補正するものである。

そして,本件補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされており,特許法17条の2第3項の規定に適合している。
また,本件補正は,特別な技術的特徴を変更(シフト補正)をしようとするものではなく,特許法17条の2第4項の規定に適合している。

B 目的要件
本件補正は,上記「1 補正の内容」のとおり本件審判の請求と同時にする補正であり,特許請求の範囲について補正をしようとするものであるから,本件補正が,特許法17条の2第5項の規定を満たすものであるか否か,すなわち,本件補正が,特許法17条の2第5項に規定する請求項の削除,特許請求の範囲の減縮(特許法36条5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る),誤記の訂正,或いは,明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る)の何れかを目的としたものであるかについて,以下に検討する。

(1)補正前の請求項と,補正後の請求項とを比較すると,補正前の請求項1乃至14は,補正後の請求項1乃至14に対応する。

(2)本件補正は,下記の補正事項1及び2よりなるものである。

<補正事項1>
補正前の請求項2に特定される,「生体検証データを受信する第2の身体結合通信インタフェース」につき,補正後の請求項2において「ウェアラブル装置から生体検証データを受信する第2の身体結合通信インタフェース」と補正すること。

<補正事項2>
補正前の請求項12に特定される,「生体検証データを受信することと」につき,補正後の請求項2において「ウェアラブル装置から生体検証データを受信することと」と補正すること。

(3)補正事項1及び2について
上記補正事項1及び2は共に,「生体検証データ」を「受信」するに際し,これを「ウェアラブル装置から」受信することを限定的に減縮するものであって,補正前の請求項2及び12に係る発明に特定される事項を限定的に減縮することを目的とするものである。
したがって,上記補正事項1及び2は限定的減縮を目的とするものであるから,本件補正は,特許法17条の2第5項の規定に適合するものである。

C 独立特許要件
以上のように,本件補正は,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮(限定的減縮)を目的とするものである。そこで,限定的減縮を目的として補正された補正後の請求項2に記載された発明(以下,「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか)以下に検討する。

2.本件補正発明
本件補正発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項2に記載された,次のとおりのものと認める。

「 【請求項2】
本人確認システムであって、
生体データを取得するために、個人の生体的特徴を測定する生体認証リーダと、
前記個人の体に沿った又は前記個人の体を通じた身体結合通信により、ウェアラブル装置から生体検証データを受信する第2の身体結合通信インタフェースと、
前記生体検証データに対して、前記取得した生体データの検証を行なう生体データ検証装置と、を有し、
前記受信を可能とするために、前記第2の身体結合通信インタフェースが、前記生体認証リーダによる前記生体的特徴の測定の間、前記個人に接触又は近接するように、前記生体認証リーダが配置され、
前記取得された生体データは、ノイズの影響を受け、
前記生体検証データは、生体補助データを有し、
前記本人確認システムは、前記生体補助データの制御下で、前記取得した生体データからノイズを減少させる生体データ定量化手段を有する、本人確認システム。」

3.引用例

3-1 引用例1に記載された事項

原査定の拒絶の理由において引用した,本願の第一国出願前に既に公知である,特開2008-181295号公報(平成20年8月7日公開。以下,これを「引用例1」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。(下線は当審で説明のために付加。以下同様。)

A 「【0001】
本発明は、認証システム、情報処理装置および方法、プログラム、並びに記録媒体に関し、特に、低コストで確実なユーザ認証を実現することができるようにする認証システム、情報処理装置および方法、プログラム、並びに記録媒体に関する。」

B 「【0044】
生体情報は、例えば、手のひらの静脈の形状、指紋の形状などユーザ101の身体的特徴を特定するための情報とされる。なお、携帯デバイス104などに予め記憶されているユーザの生体情報を、以下適宜テンプレートと称することにする。」

C 「【0048】
例えば、読み取り装置103と携帯デバイス104は、それぞれ後述するように、信号電極と基準電極とを有する構成とされ、信号を送信するための信号電極は、信号の高低差を判定するための基準点を得るための電極である基準電極よりもユーザ101の体(人体)に対して静電結合が強くなるように設けられる。そして、信号電極と基準電極との間に電気信号(電位差)を与えることで、基準電極は、周辺の空間に対して静電容量を形成し、空間と成す静電容量を利用することによって、読み取り装置103と携帯デバイス104との間の信号の受け渡しが可能となる。これにより、読み取り装置103と携帯デバイス104は、ユーザ101の人体を通信媒体とした無線通信を行うことができる。」

D 「【0050】
図2は、読み取り装置103の構成例を示すブロック図である。
【0051】
同図の生体検出部153は、ユーザが生体情報取得部152に対し身体の一部(例えば、手のひら)を提示しているか否かを判定し、ユーザが生体情報取得部152に対し身体の一部を提示していると判定された場合、生体情報取得部152による生体情報の読み取りを行わせるようになされている。
【0052】
生体情報取得部152は、例えば、画像センサなどを有する構成とされ、提示されたユーザの身体の一部を画像として撮像し、その画像データに基づいてユーザの身体的特徴を特定する情報をデータとして生成する。
【0053】
演算部151は、生体情報取得部152が読み取った生体情報と、テンプレートとを比較する処理などを実行する。演算部151は、読み取った生体情報とテンプレートとの一致の度合いを表す情報などを出力するようになされている。この一致の度合が、例えば予め設定された閾値より高い場合、生体情報取得部152が読み取った生体情報に対応するユーザと、テンプレートに対応するユーザが同一人物であると認証することができる。」

E

図2

F 「【0055】
人体伝送通信部156は、上述した信号電極および基準電極が接続され、人体を通信媒体とした無線通信により携帯デバイス104との間で信号の送受信を行うようになされている。」

G 「【0064】
基準電極191および信号電極192は、それぞれ上述した基準電極および信号電極に対応し、信号電極192は、例えば、人体などの通信媒体(例えば、ユーザ101の身体の一部)に近接するように設けられ、基準電極191は、空間に向くように設けられる。また、信号電極192は、生体情報取得部152とほぼ同じ位置に設けられるようにしてもよい。このようにすることで、ユーザ101の生体情報を読み取りと、人体を通信媒体として行われる携帯デバイス104との無線通信を同時に開始することも可能となる。」

H

図3

I 「【0106】
ステップS21において、携帯デバイス104は、メモリ201に記憶されているテンプレートを、読み取り装置103に対して送信し、ステップS61でこれが受信される。このとき、テンプレートは、ステップS15で受信した鍵生成情報K1とステップS19で送信した鍵生成情報K2とに基づいて生成されるセション鍵K3により暗号化されて送信される。なお、セション鍵による暗号化は、予め設定されている暗号アルゴリズムであって、例えば、DES(Data Encryption Standard)、AES(Advanced Encryption Standard)などの共通鍵暗号アルゴリズムにより行われる。」

J 「【0111】
ステップS104において、読み取り装置103は、ステップS104の処理の結果、生体情報とテンプレートとが一致したか否かを判定する。なお、生体情報とテンプレートは、それぞれ、例えば、ユーザ101の手のひらの静脈の形状を表す情報であり、読み取られた生体情報が、テンプレートと一致しているかの確認をあまり厳密に行うと、例えば体調や装置のコンディションなどにより本人であるにもかかわらず、本人ではないと判定されてしまうことがあるので、テンプレートと一致していると判断される条件をある程度緩やかにし、幅を持たせて判定される。例えば、両者の一致の度合いを表す数値などが演算され、その数値が閾値以上であるか否かなどの判定により生体情報とテンプレートとが一致したか否かが判定されることになる。」

3-2 引用発明

ア 上記記載事項Aの「本発明は、認証システム、情報処理装置および方法、プログラム、並びに記録媒体に関し、特に、低コストで確実なユーザ認証を実現することができるようにする認証システム、情報処理装置および方法、プログラム、並びに記録媒体に関する。」との記載から,引用例1には,“ユーザ認証を実現する認証システム”について記載されているといえる。

イ 上記記載事項Bの「生体情報は、例えば、手のひらの静脈の形状、指紋の形状などユーザ101の身体的特徴を特定するための情報とされる。なお、携帯デバイス104などに予め記憶されているユーザの生体情報を、以下適宜テンプレートと称することにする。」との記載から,引用例1には,“手のひらの静脈の形状,指紋の形状などユーザ101の身体的特徴を特定するための情報である生体情報を,携帯デバイス104などに予め記憶し,これをテンプレートと称”することが記載されているといえる。

ウ 上記記載事項Cの「例えば、読み取り装置103と携帯デバイス104は、それぞれ後述するように、信号電極と基準電極とを有する構成とされ、信号を送信するための信号電極は、信号の高低差を判定するための基準点を得るための電極である基準電極よりもユーザ101の体(人体)に対して静電結合が強くなるように設けられる。」との記載から,引用例1には,“携帯デバイス104の信号を送信するための信号電極は,信号の高低差を判定するための基準点を得るための電極である基準電極よりもユーザ101の人体に対して静電結合が強くなるように設けられ”ることが記載されているといえる。
同じく上記記載事項Cの「これにより、読み取り装置103と携帯デバイス104は、ユーザ101の人体を通信媒体とした無線通信を行うことができる。」との記載から,引用例1には,“読み取り装置103と携帯デバイス104は,ユーザ101の人体を通信媒体とした無線通信を行うことができ”ることが記載されているといえる。

エ 上記記載事項Dの「図2は、読み取り装置103の構成例を示すブロック図である。」との記載,及び上記記載事項Eの図2より,引用例1には,“読み取り装置103は,演算部151,生体情報取得部152,生体検出部153,及び人体伝送通信部156を備え”ることが記載されていることを読み取ることができる。

オ 上記記載事項Dの「同図の生体検出部153は、ユーザが生体情報取得部152に対し身体の一部(例えば、手のひら)を提示しているか否かを判定し、ユーザが生体情報取得部152に対し身体の一部を提示していると判定された場合、生体情報取得部152による生体情報の読み取りを行わせるようになされている。」との記載から,引用例1には,“生体検出部153は,ユーザが生体情報取得部152に対し身体の一部を提示していると判定された場合,生体情報取得部152による生体情報の読み取りを行わせ”ることが記載されているといえる。
同じく上記記載事項Dの「生体情報取得部152は、例えば、画像センサなどを有する構成とされ、提示されたユーザの身体の一部を画像として撮像し、その画像データに基づいてユーザの身体的特徴を特定する情報をデータとして生成する。」との記載から,引用例1には,“生体情報取得部152は,ユーザの身体的特徴を特定する情報をデータとして生成”することが記載されているといえる。
同じく上記記載事項Dの「演算部151は、生体情報取得部152が読み取った生体情報と、テンプレートとを比較する処理などを実行する。演算部151は、読み取った生体情報とテンプレートとの一致の度合いを表す情報などを出力するようになされている。この一致の度合が、例えば予め設定された閾値より高い場合、生体情報取得部152が読み取った生体情報に対応するユーザと、テンプレートに対応するユーザが同一人物であると認証することができる。」との記載から,引用例1には,“演算部151は,生体情報取得部152が読み取った生体情報と,テンプレートとを比較する処理を実行し,読み取った生体情報とテンプレートとの一致の度合が,例えば予め設定された閾値より高い場合,生体情報取得部152が読み取った生体情報に対応するユーザと,テンプレートに対応するユーザが同一人物であると認証することができ”ることが記載されているといえる。

カ 上記記載事項Fの「人体伝送通信部156は、上述した信号電極および基準電極が接続され、人体を通信媒体とした無線通信により携帯デバイス104との間で信号の送受信を行うようになされている。」との記載から,引用例1には,“人体伝送通信部156は,人体を通信媒体とした無線通信により携帯デバイス104との間で信号の送受信を行うようになされ”ることが記載されているといえる。

キ 上記記載事項Hの図3を参照すると,人体伝送通信部156に,信号電極192が設けられていることを読み取ることができる。そして,上記記載事項Gの「基準電極191および信号電極192は、それぞれ上述した基準電極および信号電極に対応し、信号電極192は、例えば、人体などの通信媒体(例えば、ユーザ101の身体の一部)に近接するように設けられ、基準電極191は、空間に向くように設けられる。また、信号電極192は、生体情報取得部152とほぼ同じ位置に設けられるようにしてもよい。このようにすることで、ユーザ101の生体情報を読み取りと、人体を通信媒体として行われる携帯デバイス104との無線通信を同時に開始することも可能となる。」との記載から,引用例1には,“人体伝送通信部156は信号電極192を備え”ること,及び,“前記信号電極192は,人体などの通信媒体に近接するように設けられ,生体情報取得部152とほぼ同じ位置に設けられて,ユーザ101の生体情報の読み取りと,人体を通信媒体として行われる携帯デバイス104との無線通信を同時に開始することが可能”であることが記載されているといえる。

ク 上記記載事項Iの「ステップS21において、携帯デバイス104は、メモリ201に記憶されているテンプレートを、読み取り装置103に対して送信し、ステップS61でこれが受信される。」との記載から,引用例1には,“携帯デバイス104は,メモリ201に記憶されているテンプレートを,読み取り装置103に対して送信”することが記載されているといえる。

ケ 上記記載事項Jの「なお、生体情報とテンプレートは、それぞれ、例えば、ユーザ101の手のひらの静脈の形状を表す情報であり、読み取られた生体情報が、テンプレートと一致しているかの確認をあまり厳密に行うと、例えば体調や装置のコンディションなどにより本人であるにもかかわらず、本人ではないと判定されてしまうことがあるので、テンプレートと一致していると判断される条件をある程度緩やかにし、幅を持たせて判定される。」との記載から,引用例1には,“読み取られた生体情報が,テンプレートと一致しているかの確認をあまり厳密に行うと,例えば体調や装置のコンディションなどにより本人であるにもかかわらず,本人ではないと判定されてしまうことがあるので,テンプレートと一致していると判断される条件をある程度緩やかにし,幅を持たせて判定するようにされる”ことが記載されているといえる。

コ 以上上記ア乃至ケより,引用例1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「 ユーザ認証を実現する認証システムであって,
手のひらの静脈の形状,指紋の形状などユーザ101の身体的特徴を特定するための情報である生体情報を,携帯デバイス104などに予め記憶し,これをテンプレートと称し,
携帯デバイス104の信号を送信するための信号電極は,信号の高低差を判定するための基準点を得るための電極である基準電極よりもユーザ101の人体に対して静電結合が強くなるように設けられ,読み取り装置103と携帯デバイス104は,ユーザ101の人体を通信媒体とした無線通信を行うことができ,
読み取り装置103は,演算部151,生体情報取得部152,生体検出部153,及び人体伝送通信部156を備え,
生体検出部153は,ユーザが生体情報取得部152に対し身体の一部を提示していると判定された場合,生体情報取得部152による生体情報の読み取りを行わせ,
生体情報取得部152は,ユーザの身体的特徴を特定する情報をデータとして生成し,
演算部151は,生体情報取得部152が読み取った生体情報と,テンプレートとを比較する処理を実行し,読み取った生体情報とテンプレートとの一致の度合が,例えば予め設定された閾値より高い場合,生体情報取得部152が読み取った生体情報に対応するユーザと,テンプレートに対応するユーザが同一人物であると認証することができ,
人体伝送通信部156は,人体を通信媒体とした無線通信により携帯デバイス104との間で信号の送受信を行うようになされ,
前記人体伝送通信部156は信号電極192を備え,前記信号電極192は,人体などの通信媒体に近接するように設けられ,生体情報取得部152とほぼ同じ位置に設けられて,ユーザ101の生体情報の読み取りと,人体を通信媒体として行われる携帯デバイス104との無線通信を同時に開始することが可能であり,
携帯デバイス104は,メモリ201に記憶されているテンプレートを,読み取り装置103に対して送信し,
読み取られた生体情報が,テンプレートと一致しているかの確認をあまり厳密に行うと,例えば体調や装置のコンディションなどにより本人であるにもかかわらず,本人ではないと判定されてしまうことがあるので,テンプレートと一致していると判断される条件をある程度緩やかにし,幅を持たせて判定するようにされる認証システム。」

3-3 引用例2に記載された事項

原査定の拒絶の理由において引用した,本願の第一国出願前に既に公知である,特表2008-502071号公報(平成20年1月24日公表。以下,これを「引用例2」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

K 「【0001】
本発明は、個人の素性(identity)を、該個人に関連付けられたバイオメトリックデータを用いて検証する方法およびシステムであって、該バイオメトリックデータのプライバシーが提供されるものに関する。」

L 「【0007】
実際のテンプレートが決して平文で利用可能にならないよう、バイオメトリック・テンプレートを暗号化すなわちハッシュ化して、暗号化されたデータに対して検証(すなわち一致検査)を実行する暗号技法が考えられる。しかし、暗号関数は、入力における小さな変化が出力における大きな変化につながるよう意図的に設計されている。バイオメトリクスそのものの本性ならびに呈示されたテンプレートのみならず保存されているテンプレートを取得することにまつわるノイズ汚染に起因する測定誤差のため、呈示されたテンプレートが保存されているテンプレートと厳密に同じであることは決してないであろう。したがって、一致検査アルゴリズムは2つのテンプレートの間の小さな相違を許容すべきである。これは暗号化されたテンプレートに基づく検証にとって問題となる。」

M 「【0041】
図1は、個人に関連付けられたバイオメトリックデータを使った個人の素性の検証(すなわち個人の認証/識別)のための従来技術のシステムを示している。本システムは、個人の個別の身体的特徴103(この場合、虹彩)の造作から第一のバイオメトリック・テンプレートXを導出するためのセンサー102を備えたユーザー装置101を有している。該ユーザー装置は検証においてヘルパーデータ方式(HDS: helper data scheme)を用い、前記第一のバイオメトリック・テンプレートから登録データSおよびヘルパーデータWが導出される。ユーザー装置は、安全でタンパー防止性で、よって個人によって信頼され、個人のバイオメトリックデータのプライバシーが提供されているようなものでなければならない。ヘルパーデータWは典型的にはユーザー装置101においてS=G(X,W)となるように計算される。ここで、Gはデルタ縮約関数である。よって、WがテンプレートXおよび登録データSから計算されるので、G( )は逆W=G^(-1)(X,S)の計算を許容する。この特定の方式はさらにJ. P. Linnartz and P. Tuylsによる“New Shielding functions to prevent misuse and enhance privacy of biometric templates”, AVBPA 2003, LNCS2688に記載されている。
【0042】
登録機関104は初期に、ハッシュされた登録データF(S)およびユーザー装置101から受け取ったヘルパーデータWを中央記憶ユニット105に保存することによってその個人をシステムに登録する。この登録データはのちに検証器106によって使用される。登録データSは(Sの解析による素性を暴く攻撃を回避するため)秘密であり、先述のように第一のバイオメトリック・テンプレートXからユーザー装置101において導出されるものである。検証時には、典型的には第一のバイオメトリック・テンプレートXのノイズで汚染されたコピーである第二のバイオメトリック・テンプレートYが個人103によってセンサー107を介して検証器106に呈示される。検証器106は、バイオメトリックデータの第二の集合Yおよび中央記憶105から受け取ったヘルパーデータWに基づいて秘密の検証データ(S′)を生成する。検証器106は中央記憶105から取ってきたハッシュされた登録データF(S)と暗号ブロック108で生成されたハッシュされた検証データF(S′)とによって個人の認証または識別をする。ノイズ堅牢性は、検証器において検証データS′をS′=G(Y,W)として計算することによって提供される。その後、ハッシュ関数が適用されて暗号学的に秘匿されたデータF(S′)が生成される。暗号ブロック108は図1では別個のブロックとして実装されるように示されているものの、典型的にはセンサー107に含められ、該センサーは一般に、検証器が検証データS′を入手するのを妨げるために安全なタンパー防止性の環境として検証器106に実装される。デルタ縮約関数は、バイオメトリックデータの第二の集合Yがバイオメトリックデータの第一の集合Xに十分似ていればF(S′)=F(S)となるようヘルパーデータWの適切な値の選択を許容するという特性がある。よって、一致検査ブロック109がF(S′)がF(S)に等しいと考えれば、検証は成功である。」

3-4 引用発明2

サ 上記記載事項Kの「本発明は、個人の素性(identity)を、該個人に関連付けられたバイオメトリックデータを用いて検証する方法およびシステムであって、該バイオメトリックデータのプライバシーが提供されるものに関する。」との記載から,引用例2には,“個人の素性(identity)を,該個人に関連付けられたバイオメトリックデータを用いて検証するシステム”について記載されているといえる。

シ 上記記載事項Lの「実際のテンプレートが決して平文で利用可能にならないよう、バイオメトリック・テンプレートを暗号化すなわちハッシュ化して、暗号化されたデータに対して検証(すなわち一致検査)を実行する暗号技法が考えられる。」との記載,及び「バイオメトリクスそのものの本性ならびに呈示されたテンプレートのみならず保存されているテンプレートを取得することにまつわるノイズ汚染に起因する測定誤差のため、呈示されたテンプレートが保存されているテンプレートと厳密に同じであることは決してないであろう。したがって、一致検査アルゴリズムは2つのテンプレートの間の小さな相違を許容すべきである。」との記載から,引用例2には,“バイオメトリック・テンプレートをハッシュ化して,暗号化されたデータに対して検証を実行する際に,バイオメトリクスそのものの本性ならびに保存されているテンプレートを取得することにまつわるノイズ汚染に起因する測定誤差のため,呈示されたテンプレートが保存されているテンプレートと厳密に同じであることは決してなく,一致検査アルゴリズムは2つのテンプレートの間の小さな相違を許容すべきことを背景と”することが記載されているといえる。

ス 上記記載事項Mの「図1は、個人に関連付けられたバイオメトリックデータを使った個人の素性の検証(すなわち個人の認証/識別)のための従来技術のシステムを示している。本システムは、個人の個別の身体的特徴103(この場合、虹彩)の造作から第一のバイオメトリック・テンプレートXを導出するためのセンサー102を備えたユーザー装置101を有している。」との記載から,引用例2には,該システムが,“個人の個別の身体的特徴103の造作から第一のバイオメトリック・テンプレートXを導出するためのセンサー102を備えたユーザー装置101を有”するものであることが記載されているといえる。
同じく上記記載事項Mの「該ユーザー装置は検証においてヘルパーデータ方式(HDS: helper data scheme)を用い、前記第一のバイオメトリック・テンプレートから登録データSおよびヘルパーデータWが導出される。」との記載から,引用例2には,“該ユーザー装置は検証においてヘルパーデータ方式(HDS: helper data scheme)を用い,前記第一のバイオメトリック・テンプレートから登録データSおよびヘルパーデータWが導出され”ることが記載されているといえる。
同じく上記記載事項Mの「ヘルパーデータWは典型的にはユーザー装置101においてS=G(X,W)となるように計算される。ここで、Gはデルタ縮約関数である。よって、WがテンプレートXおよび登録データSから計算されるので、G( )は逆W=G^(-1)(X,S)の計算を許容する。この特定の方式はさらにJ. P. Linnartz and P. Tuylsによる“New Shielding functions to prevent misuse and enhance privacy of biometric templates”, AVBPA 2003, LNCS2688に記載されている。」との記載から,引用例2には“ヘルパーデータWはユーザー装置101においてS=G(X,W)となるように計算され,ここで,Gはデルタ縮約関数であり,WがテンプレートXおよび登録データSから計算されるので,G( )は逆W=G^(-1)(X,S)の計算を許容し,この方式は,“Linnartz”の論文に記載されたものであ”ることが記載されているといえる。
同じく上記記載事項Mの「検証時には、典型的には第一のバイオメトリック・テンプレートXのノイズで汚染されたコピーである第二のバイオメトリック・テンプレートYが個人103によってセンサー107を介して検証器106に呈示される。」との記載から,引用例2には,“検証時には,第一のバイオメトリック・テンプレートXのノイズで汚染されたコピーである第二のバイオメトリック・テンプレートYが個人103によってセンサー107を介して検証器106に呈示され”ることが記載されているといえる。
同じく上記記載事項Mの「検証器106は、バイオメトリックデータの第二の集合Yおよび中央記憶105から受け取ったヘルパーデータWに基づいて秘密の検証データ(S′)を生成する。」との記載から,引用例2には,“検証器106は,バイオメトリックデータの第二の集合YおよびヘルパーデータWに基づいて秘密の検証データ(S′)を生成”することが記載されているといえる。
同じく上記記載事項Mの「検証器106は中央記憶105から取ってきたハッシュされた登録データF(S)と暗号ブロック108で生成されたハッシュされた検証データF(S′)とによって個人の認証または識別をする。」との記載から,引用例2には,“検証器106はハッシュされた登録データF(S)と暗号ブロック108で生成されたハッシュされた検証データF(S′)とによって個人の認証または識別を”することが記載されているといえる。
同じく上記記載事項Mの「デルタ縮約関数は、バイオメトリックデータの第二の集合Yがバイオメトリックデータの第一の集合Xに十分似ていればF(S′)=F(S)となるようヘルパーデータWの適切な値の選択を許容するという特性がある。よって、一致検査ブロック109がF(S′)がF(S)に等しいと考えれば、検証は成功である。」との記載から,引用例2には,“デルタ縮約関数は,バイオメトリックデータの第二の集合Yがバイオメトリックデータの第一の集合Xに十分似ていればF(S′)=F(S)となるようヘルパーデータWの適切な値の選択を許容するという特性があり,一致検査ブロック109がF(S′)がF(S)に等しいと考えれば,検証は成功である”ことが記載されているといえる。

セ 以上上記サ乃至スより,引用例2には次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されているといえる。

「個人の素性(identity)を,該個人に関連付けられたバイオメトリックデータを用いて検証するシステムであって,
バイオメトリック・テンプレートをハッシュ化して,暗号化されたデータに対して検証を実行する際に,バイオメトリクスそのものの本性ならびに保存されているテンプレートを取得することにまつわるノイズ汚染に起因する測定誤差のため,呈示されたテンプレートが保存されているテンプレートと厳密に同じであることは決してなく,一致検査アルゴリズムは2つのテンプレートの間の小さな相違を許容すべきことを背景とし,
個人の個別の身体的特徴103の造作から第一のバイオメトリック・テンプレートXを導出するためのセンサー102を備えたユーザー装置101を有し,
該ユーザー装置は検証においてヘルパーデータ方式(HDS: helper data scheme)を用い,前記第一のバイオメトリック・テンプレートから登録データSおよびヘルパーデータWが導出され,
ヘルパーデータWはユーザー装置101においてS=G(X,W)となるように計算され,ここで,Gはデルタ縮約関数であり,WがテンプレートXおよび登録データSから計算されるので,G( )は逆W=G^(-1)(X,S)の計算を許容し,この方式は,“Linnartz”の論文に記載されたものであり,
検証時には,第一のバイオメトリック・テンプレートXのノイズで汚染されたコピーである第二のバイオメトリック・テンプレートYが個人103によってセンサー107を介して検証器106に呈示され,
検証器106は,バイオメトリックデータの第二の集合YおよびヘルパーデータWに基づいて秘密の検証データ(S′)を生成し,
検証器106はハッシュされた登録データF(S)と暗号ブロック108で生成されたハッシュされた検証データF(S′)とによって個人の認証または識別をし,
デルタ縮約関数は,バイオメトリックデータの第二の集合Yがバイオメトリックデータの第一の集合Xに十分似ていればF(S′)=F(S)となるようヘルパーデータWの適切な値の選択を許容するという特性があり,一致検査ブロック109がF(S′)がF(S)に等しいと考えれば,検証は成功である
個人に関連付けられたバイオメトリックデータを用いて検証するシステム。」

4.対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「ユーザ認証を実現する認証システム」は,ユーザ本人の認証を行うシステムであって,当該認証によって,本人の確認ができるものといえることから,本件補正発明の「本人確認システム」に相当するといえる。

(2)引用発明の「読み取り装置103」に設けられる「生体検出部153」は,「ユーザが生体情報取得部152に対し身体の一部を提示していると判定された場合,生体情報取得部152による生体情報の読み取りを行わせ」るものであり,当該「生体情報取得部152」はまた,「ユーザの身体的特徴を特定する情報をデータとして生成」するものであることから,引用発明の「生体情報取得部152」は,本件補正発明の「生体認証リーダ」と,“生体データを取得するために、個人の生体的特徴を測定する”点で一致といえるから,引用発明と本件補正発明とは,“生体データを取得するために,個人の生体的特徴を測定する生体認証リーダ”を有する点で一致する。

(3)引用発明は,「読み取り装置103と携帯デバイス104は,ユーザ101の人体を通信媒体とした無線通信を行うことができ」るものであり,「ユーザ101の人体を通信媒体とした無線通信」との事項より,当該「無線通信」は,「個人の体に沿った」通信,又は「個人の体を通じた」通信であることを理解することができるから,引用発明と本件補正発明とは,“前記個人の体に沿った又は前記個人の体を通じた身体結合通信により,データを受信する”点で共通するといえる。
そして,引用発明の「携帯デバイス104」は,当該「携帯デバイス104の信号を送信するための信号電極」が,「信号の高低差を判定するための基準点を得るための電極である基準電極よりもユーザ101の人体に対して静電結合が強くなるように設けられ」ていて,「ユーザ101の人体を通信媒体とした無線通信を行うことができ」るものであることから,当該「ユーザ101」とは,「人体を通信媒体とした無線通信」が可能な程度に近接した位置にあるよう,当該「ユーザ101」によって保持されるか携帯されているものと認められることから,“ウェアラブル装置”に相当するといえる。
また,引用発明の「読み取り装置103」に備えられる「人体伝送通信部156」は,「人体を通信媒体とした無線通信により携帯デバイス104との間で信号の送受信を行うようになされ」るものであるから,本件補正発明の「第2の身体結合通信インタフェース」に対応するものといえる。
さらに,引用発明の「携帯デバイス104などに予め記憶」されていて,「テンプレートと称」される,「手のひらの静脈の形状,指紋の形状などユーザ101の身体的特徴を特定するための情報である生体情報」は,当該「携帯デバイス104」によって当該「メモリ201に記憶されているテンプレート」を「読み取り装置103に対して送信」し,「読み取り装置103」に備えられる「演算部151」が,「生体情報取得部152が読み取った生体情報と,テンプレートとを比較する処理を実行し,読み取った生体情報とテンプレートとの一致の度合が,例えば予め設定された閾値より高い場合,生体情報取得部152が読み取った生体情報に対応するユーザと,テンプレートに対応するユーザが同一人物であると認証することができ」るものであることから,当該「テンプレート」は,本件補正発明の「生体検証データ」と,下記の点(相違点2)で相違するものの,“生体検証に用いられるデータ”である点で共通するといえる。
よって,引用発明と本件補正発明とは,“前記個人の体に沿った又は前記個人の体を通じた身体結合通信により,ウェアラブル装置から生体検証に用いられるデータを受信する第2の身体結合通信インタフェース”を備える点で一致する。

(4)引用発明の「読み取り装置103」は,当該「読み取り装置103」に備えられる「生体情報取得部152が読み取った生体情報」と,「手のひらの静脈の形状,指紋の形状などユーザ101の身体的特徴を特定するための情報である生体情報」が,「携帯デバイス104などに予め記憶」されている「テンプレートと称」されるものとによって,「生体情報取得部152が読み取った生体情報に対応するユーザと,テンプレートに対応するユーザが同一人物であると認証する」ものであることから,本件補正発明の「生体データ検証装置」に対応するものといえ,引用発明と本件補正発明とは,“前記生体検証に用いられるデータに対して,前記取得した生体データの検証を行なう生体データ検証装置”を有する点で一致するといえる。

(5)引用発明の「読み取り装置103」に備えられる「生体検出部153」は,「ユーザが生体情報取得部152に対し身体の一部を提示していると判定された場合,生体情報取得部152による生体情報の読み取りを行わせ」るものであり,また,「前記人体伝送通信部156」は,当該「人体伝送通信部156」の「信号電極192」が「人体などの通信媒体に近接するように設けられ,生体情報取得部152とほぼ同じ位置に設けられて,ユーザ101の生体情報の読み取りと,人体を通信媒体として行われる携帯デバイス104との無線通信を同時に開始することが可能」なものであり,さらに,同時に開始する前記無線通信として,「携帯デバイス104」は,「メモリ201に記憶されているテンプレートを,読み取り装置103に対して送信」するものである。
以上のことから,上記「生体検出部153」を備える「読み取り装置103」は,「携帯デバイス104」から送信されてくる生体検証に用いられるデータ(「テンプレート」)を受信することが可能であるよう(すなわち“前記受信を可能とするため”)に,「人体伝送通信部156」が,「生体情報取得部152による生体情報の読み取りを行」う際(すなわち“生体的特徴の測定の間”)に,ユーザ(すなわち“個人”)に“接触又は近接するように”配置されているといえる。
そして,上記(2)及び(3)で検討した,引用発明の「生体情報取得部152」及び「人体伝送通信部156」と本件補正発明の「生体認証リーダ」及び「第2の身体結合通信インタフェース」との対応関係も考慮すると,引用発明と本件補正発明とは,“前記受信を可能とするために,前記第2の身体結合通信インタフェースが,前記生体認証リーダによる前記生体的特徴の測定の間,前記個人に接触又は近接するように,前記生体認証リーダが配置され”る点で一致するといえる。

(6)以上,(1)乃至(5)の検討から,引用発明と本件補正発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

〈一致点〉
本人確認システムであって,
生体データを取得するために,個人の生体的特徴を測定する生体認証リーダと,
前記個人の体に沿った又は前記個人の体を通じた身体結合通信により,ウェアラブル装置から生体検証に用いられるデータを受信する第2の身体結合通信インタフェースと,
前記生体検証に用いられるデータに対して,前記取得した生体データの検証を行なう生体データ検証装置と,を有し,
前記受信を可能とするために,前記第2の身体結合通信インタフェースが,前記生体認証リーダによる前記生体的特徴の測定の間,前記個人に接触又は近接するように,前記生体認証リーダが配置される,本人確認システム。

〈相違点1〉
本件補正発明の「第2の身体結合通信インタフェース」が「ウェアラブル装置」から受信する生体検証に用いられるデータが「生体検証データ」であるのに対し,引用発明の「人体伝送通信部156」が「携帯デバイス104」から受信する生体検証に用いられるデータが,「手のひらの静脈の形状,指紋の形状などユーザ101の身体的特徴を特定するための情報である生体情報」であって,「テンプレートと称」されるものである点。

〈相違点2〉
本件補正発明が,「前記取得された生体データは、ノイズの影響を受け、前記生体検証データは、生体補助データを有し、前記本人確認システムは、前記生体補助データの制御下で、前記取得した生体データからノイズを減少させる生体データ定量化手段を有する」ものであるのに対し,引用発明の「テンプレート」が,「生体補助データ」を有することが特定されておらず,また生体補助データの制御下で,取得した生体データからノイズを減少させる生体データ定量化手段を有することが特定されていない点。

5.判断
上記相違点につき検討する。
まず相違点1について検討する。
本件補正発明の「生体検証データ」は,特許請求の範囲の記載によれば,「前記個人の体に沿った又は前記個人の体を通じた身体結合通信により、ウェアラブル装置」から,「第2の身体結合通信インタフェース」が受信するものであると共に,「生体データ検証装置」が,「取得した生体データの検証を行なう」のに際し用いられるもの,すなわち「前記生体検証データに対して、前記取得した生体データの検証を行なう」ものである。
一方,引用発明においては,「携帯デバイス104」から「読み取り装置103に対して送信」される「テンプレート」は,「手のひらの静脈の形状,指紋の形状などユーザ101の身体的特徴を特定するための情報である生体情報」であるが,これは「読み取り装置103」側の「人体伝送通信部156」によって受信され,「演算部151」によって「生体情報取得部152が読み取った生体情報」と「比較する処理」を実行して「読み取った生体情報」と当該「テンプレートとの一致の度合」によって当該「テンプレートに対応するユーザが同一人物であると認証することができ」るものであることから,引用発明の「テンプレート」と本件補正発明の「生体検証データ」との間に上記限りにおいて実質上の相違は認められない。

次に相違点2について検討する。
本件補正発明の「生体検証データ」はさらに,「生体補助データを有」し,当該「生体補助データ」は,「本人確認システム」が有する,「生体データ定量化手段」が,「前記生体補助データの制御下」で,当該「取得した生体データからノイズを減少させる」ことを行うものであることから,この点につき以下検討を行う。
引用発明2は,「個人の素性(identity)を,該個人に関連付けられたバイオメトリックデータを用いて検証するシステム」であるが,「個人の素性(identity)を,…(中略)…検証する」とは,本人であることを確認することを意味するといえることから,引用発明2と本件補正発明とは,ともに“本人確認システム”である点で共通するといえる。
また引用発明2は,「検証時には,第一のバイオメトリック・テンプレートXのノイズで汚染されたコピーである第二のバイオメトリック・テンプレートYが個人103によってセンサー107を介して検証器106に呈示され」るものであるが,このうち「個人103によってセンサー107を介して検証器106に呈示され」るところの「第二のバイオメトリック・テンプレートY」は,本件補正発明の「取得された生体データ」に対応し,さらに,「第一のバイオメトリック・テンプレートXのノイズで汚染されたコピーである」ことから,引用発明2の「第二のバイオメトリック・テンプレートY」と本件補正発明の「取得された生体データ」とは,“ノイズの影響を受け”る点で共通する。
次に,本件補正発明の「生体データ定量化手段」について検討する。
本願明細書の段落60には,次の記載が認められる。

「【0060】
本人確認システム210は、BCCチャネル250を通じて本人証明システム110から取得した生体補助データの制御下で、生体認証リーダ220から取得した生体データを再現可能な生体データにマッピングするための生体マッパとも称される、生体データ定量化手段242を更に有する。当該マッピングは、生体データからノイズの影響を低減し、例えば、測定されたデータが、ディジタルコードワードの量子化間隔の中央近くに位置する可能性を増加させることによって、特に、データをより良好に再現可能にする。生体補助データを作成及び適用する方法の一例が、図3及び図4と関連して、以下に説明される。」

この記載から,「生体データ定量化手段」は,「生体補助データの制御下で、生体認証リーダ220から取得した生体データを再現可能な生体データにマッピングするための」ものであって,「生体マッパ」と称されるものであることが理解される。このうち,「生体認証リーダ220から取得した生体データ」については,特許請求の範囲にいう,「個人の生体的特徴を測定する生体認証リーダ」によって取得された「生体データ」であって,「ノイズの影響を受け」るものを指すものと解される。
そして,「再現可能な生体データ」への「マッピング」に関しては,「当該マッピングは、生体データからノイズの影響を低減し、例えば、測定されたデータが、ディジタルコードワードの量子化間隔の中央近くに位置する可能性を増加させることによって、特に、データをより良好に再現可能にする。」との記載から,「生体データ」(この場合,前後の文脈からは,「個人の生体的特徴を測定する生体認証リーダ」によって取得された「生体データ」をいうものと解される。)から「ノイズの影響を低減」する作用乃至機能を有するものであることが理解され,「測定されたデータが、ディジタルコードワードの量子化間隔の中央近くに位置する可能性を増加させることによって、特に、データをより良好に再現可能にする。」との記載,さらに明細書段落72における,「個人260が生体検証システムに登録する場合、個人260の生体的特徴X、例えば、指紋が測定される。ここで、Xは、幾らかの外乱を有する表現である。この指紋は、量子化関数Qによって、Z=Q(X)として量子化され、ここで、Zは、Xが位置する量子化間隔の中央を示している。」との記載から,量子化関数Qを用いることによって,当該マッピングがなされることを表すものと理解することができる。
そしてさらに明細書段落69乃至70には,次の記載が認められる。

「【0069】
ステップ460において、取得された生体データが、本人確認のために、生体検証データに対して検証される。生体補助データが生体検証データに含まれていた場合、生体データからノイズを除去するために、生体補助データの制御下で、取得された生体データは、生体データ定量化手段によって、再現可能な生体データにマッピングされる。
【0070】
再現可能な生体データは、様々な態様において用いられてもよい。例えば、生体データのデータベースにおいて、検索されてもよい。あるいは、例えば、ここで説明されるように、暗号化動作で更に処理されてもよい。暗号化動作は、入力における1ビットの差異が、一般的に、大きく異なる出力につながるという特性を有する。このため、かかる暗号の使用が、再現可能な生体データを必要としてもよい。」

この記載から,「再現可能な生体データ」は,「取得された生体データ」から「ノイズ」が「生体補助データの制御下」で「除去」されたものであり,さらに「暗号化動作で更に処理」されるものであり,当該「暗号」に係る処理にあたって,必要とされるデータであることを読み取ることができる。
ここで,「暗号化動作」や「暗号の使用」にいう,「暗号」とは,「暗号化動作は、入力における1ビットの差異が、一般的に、大きく異なる出力につながるという特性を有する。」との記載から,明細書段落74及び77等に記載された,ハッシュ値を求める処理を指すものと解される。そして,明細書段落74には,「登録システムは、2つの値、補助データW=X-Q(X)と、検証コードS=Hash(Q(X))とを計算する」ことが,さらに同段落77には,「次に、検証システムは、X´-Wを計算し、Qで結果を量子化し、ハッシュ化する。換言すれば、検証システムは、S´=hash(Q(X´-W))を計算し、S=S´であるかどうかをチェックする」ことが記載され,同じく段落77の「ここで、関数Q(X-W)は、デルタ縮小関数G(X,W)である。他のデルタ縮小関数が可能であるが、これについては、例えば、Linnartz及び本開示で言及される文献を参照されたい。」との記載に鑑みれば,本件補正発明における,「前記本人確認システムは、前記生体補助データの制御下で、前記取得した生体データからノイズを減少させる生体データ定量化手段を有する」との事項は,取得した生体データと生体補助データに対してこれらの量子化関数Qないしデルタ縮小関数Gを用い,さらにそのハッシュ値を求めることをいうものと解される。
一方引用発明2は,「検証器106はハッシュされた登録データF(S)と暗号ブロック108で生成されたハッシュされた検証データF(S′)とによって個人の認証または識別」するものであるが,当該「登録データF(S)と暗号ブロック108で生成されたハッシュされた検証データF(S′)」はそれぞれ,「検証においてヘルパーデータ方式(HDS: helper data scheme)を用い」て,「第一のバイオメトリック・テンプレート」から導出された「登録データS」と,「検証器106」によって,「バイオメトリックデータの第二の集合YおよびヘルパーデータWに基づいて」生成された「秘密の検証データ(S′)」に基づくものである。
引用発明2の「ヘルパーデータW」は,「ユーザー装置101においてS=G(X,W)となるように計算され,ここで,Gはデルタ縮約関数であり,WがテンプレートXおよび登録データSから計算されるので,G( )は逆W=G^(-1)(X,S)の計算を許容し,この方式は,“Linnartz”の論文に記載されたもの」であり,上記本願明細書段落77の「ここで、関数Q(X-W)は、デルタ縮小関数G(X,W)である。他のデルタ縮小関数が可能であるが、これについては、例えば、Linnartz及び本開示で言及される文献を参照されたい。」との記載に鑑みれば,本件補正発明の「生体補助データ」に相当するものといえる。さらに,引用発明2の「デルタ縮約関数」は,「バイオメトリックデータの第二の集合Yがバイオメトリックデータの第一の集合Xに十分似ていればF(S′)=F(S)となるようヘルパーデータWの適切な値の選択を許容するという特性があり,一致検査ブロック109がF(S′)がF(S)に等しいと考えれば,検証は成功である」こと,及び上記本願明細書の検証コードSのハッシュ値(「検証コードS=Hash(Q(X))」)及びS’のハッシュ値(「S´=hash(Q(X´-W))」)並びに量子化関数Q(X-W)及びデルタ縮小関数G(X,W)に関する検討から,本願明細書の上記段落77等に記載の「デルタ縮小関数」に相当するものといえる。
以上を総合すると,引用発明2と本件補正発明とは共に,“本人確認システムであって、生体補助データの制御下で、取得した生体データからノイズを減少させる生体データ定量化手段を有する”点で一致するといえる。
引用発明2の「個人の個別の身体的特徴103の造作から第一のバイオメトリック・テンプレートXを導出するためのセンサー102」は,本件補正発明の「生体データを取得するために、個人の生体的特徴を測定する生体認証リーダ」と共通する。
引用発明2は,「検証器106はハッシュされた登録データF(S)と暗号ブロック108で生成されたハッシュされた検証データF(S′)とによって個人の認証または識別」して,「一致検査ブロック109がF(S′)がF(S)に等しいと考えれば,検証は成功である」ものであるから,本件補正発明とは,「前記生体検証データに対して,前記取得した生体データの検証を行なう生体データ検証装置」を有する点でも共通する。

ここで,引用発明と引用発明2とは,共に本人確認システムであって,生体検証データを用いて生体データの検証を行って当該本人確認を行う技術分野で共通するものである。
そして,引用発明は,「ユーザ認証を実現する認証システム」であって,「生体情報取得部152が読み取った生体情報と,テンプレートとを比較」した上,「読み取った生体情報とテンプレートとの一致の度合が,例えば予め設定された閾値より高い場合,生体情報取得部152が読み取った生体情報に対応するユーザと,テンプレートに対応するユーザが同一人物であると認証することができ」るものであるが,「読み取られた生体情報が,テンプレートと一致しているかの確認をあまり厳密に行うと,例えば体調や装置のコンディションなどにより本人であるにもかかわらず,本人ではないと判定されてしまうことがあるので,テンプレートと一致していると判断される条件をある程度緩やかにし,幅を持たせて判定するようにされ」るものである。このことは,本人確認にあたり読み取った生体情報と比較される情報とは,厳密に同一であることを要求するものでは無く,多少の誤差,すなわち「ノイズ」を含む状態で比較を行うことを意味していると解される。
一方,引用発明2も同様に,「バイオメトリック・テンプレートをハッシュ化して,暗号化されたデータに対して検証を実行する際に,バイオメトリクスそのものの本性ならびに保存されているテンプレートを取得することにまつわるノイズ汚染に起因する測定誤差のため,呈示されたテンプレートが保存されているテンプレートと厳密に同じであることは決してなく,一致検査アルゴリズムは2つのテンプレートの間の小さな相違を許容すべきことを背景と」したものであって,上記のとおり,「ノイズの影響を受け」た「取得された生体データ」であっても「前記生体補助データの制御下で,前記取得した生体データからノイズを減少させる生体データ定量化手段を有」して本人確認を行うものであり,読み取った生体情報と比較される情報との間に多少の誤差を含むものであっても本人確認を行うことができるようにするものであるという点で,引用発明と共通の課題を有するものであり,引用発明において引用発明2の技術,すなわち相違点2に係る構成を採用する動機付けがあったといえ,引用発明において,引用発明2の「前記取得された生体データは,ノイズの影響を受け,前記生体検証データは,生体補助データを有し,前記本人確認システムは,前記生体補助データの制御下で,前記取得した生体データからノイズを減少させる生体データ定量化手段を有する」との構成を採用し,本件補正発明をなすことは当業者にとって容易であったと認められる。
したがって,本件補正発明は,引用発明及び引用発明2に基づいて当業者が容易になし得たものであり,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6.本件補正についてのむすび
以上のとおり,本件補正は特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について

1.本願発明
平成30年2月8日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,平成29年10月6日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項2に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,明細書及び図面の記載からみて,その請求項2に記載された事項により特定される,前記第2[理由]1.「A 補正の内容」の項に掲げた,補正前の請求項2に記載のとおりのものである。再掲すれば,次のとおり。

「 【請求項2】
本人確認システムであって、
生体データを取得するために、個人の生体的特徴を測定する生体認証リーダと、
前記個人の体に沿った又は前記個人の体を通じた身体結合通信により、生体検証データを受信する第2の身体結合通信インタフェースと、
前記生体検証データに対して、前記取得した生体データの検証を行なう生体データ検証装置と、を有し、
前記受信を可能とするために、前記第2の身体結合通信インタフェースが、前記生体認証リーダによる前記生体的特徴の測定の間、前記個人に接触又は近接するように、前記生体認証リーダが配置され、
前記取得された生体データは、ノイズの影響を受け、
前記生体検証データは、生体補助データを有し、
前記本人確認システムは、前記生体補助データの制御下で、前記取得した生体データからノイズを減少させる生体データ定量化手段を有する、本人確認システム。」

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1乃至14に係る発明は,本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用例1乃至5に記載された発明に基づいて,その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用例1:特開2008-181295号公報
引用例2:特表2008-502071号公報
引用例3:特開2010-219785号公報
引用例4:国際公開第2004/111940号
引用例5:特開2009-71435号公報

3.引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1及び2及びその記載事項は,前記第2の[理由]「3.引用例」の項に記載したとおりである。

4.対比・判断
本願発明は,前記第2の[理由]「2.補正後の本願発明」の項で検討した本件補正発明から,「生体検証データ」の「受信」に係る「ウェアラブル装置から」との限定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が,前記第2の[理由]の4.,5.に記載したとおり,引用発明及び引用発明2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用発明及び引用発明2に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである。


第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,本願優先日前に頒布された引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-12-26 
結審通知日 2018-12-27 
審決日 2019-01-08 
出願番号 特願2015-542211(P2015-542211)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
P 1 8・ 572- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金木 陽一  
特許庁審判長 石井 茂和
特許庁審判官 ▲はま▼中 信行
山崎 慎一
発明の名称 身体結合通信インタフェースを有する生体測定システム  
代理人 五十嵐 貴裕  
代理人 笛田 秀仙  
代理人 浅村 敬一  

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