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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
管理番号 1351897
審判番号 不服2017-19335  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-26 
確定日 2019-05-20 
事件の表示 特願2014-231850「燃料電池システム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月26日出願公開、特開2016- 96047〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年11月14日の出願であって、平成29年1月31日付けで拒絶理由が通知され、同年4月14日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月28日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年12月26日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、手続補正書が提出された。
そして、当審から平成30年10月30日付けで拒絶理由が通知され、同年12月27日に意見書が提出されたものである。

第2 拒絶の理由
平成30年10月30日付けで当審が通知した拒絶理由は次のとおりである。

(進歩性)本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 1
・引用文献等
1.特開2005-32502号公報

第3 本願発明
本願請求項1に係る発明は、平成29年12月26日に提出された手続補正書による補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。)
「 【請求項1】
アノード極及びカソード極にそれぞれ燃料ガスと酸化ガスの供給を受けて発電する燃料電池を備える燃料電池システムであって、
前記アノード極の出口側から排出される水素オフガスを前記アノード極の入口側へ循環させる水素ガス循環流路に設けられる水素ポンプと、
前記水素ガス循環流路内を流れる前記水素オフガスを前記水素ガス循環流路外へ排出させる排出弁と、
前記水素ポンプの停止を判定する判定部と、
前記排出弁の開閉を制御する制御部と、を備え、
前記判定部によって前記水素ポンプの停止が判定された場合に、前記制御部は、前記排出弁による前記水素オフガスの排出量を、前記水素ポンプが稼働していると仮定したときに排出される前記水素オフガスの排出量よりも増加させるように前記排出弁の開閉を制御し、更に、前記制御部は、燃料電池の出力値又は燃料電池への要求値に応じて前記排出弁による前記水素オフガスの排出量を増加させるように前記排出弁の開閉を制御し、
前記水素ポンプの停止時に増加させる前記水素オフガスの排出量は、前記水素ポンプの稼働時における前記水素ポンプ以外の装置の運転状態と、前記水素ポンプの停止時における前記水素ポンプ以外の装置の運転状態とが、同1条件と想定される運転状態に基づき算出されることを特徴とする燃料電池システム。」

第4 引用文献の記載及び引用発明
1.引用文献の記載
当審の拒絶の理由に引用された、特開2005-32502号公報(以下、「引用文献」という。)には、「燃料電池システム」に関し、図面とともに、次の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付加したものである。以下同様。)

(1)「【0019】
A.装置の全体構成:
図1は、本発明の実施例である燃料電池システム10の構成の概略を表わすブロック図である。燃料電池システム10は、発電の本体である燃料電池22と、燃料電池22に供給する水素を貯蔵する水素タンク23と、燃料電池22に圧縮空気を供給するためのエアコンプレッサ24と、を備えている。燃料電池22としては種々の種類の燃料電池を用いることが可能であるが、本実施例では、燃料電池22として固体高分子型燃料電池を用いている。この燃料電池22は、複数の単セルを積層したスタック構造を有している。
【0020】
水素タンク23は、例えば、高圧水素を貯蔵する水素ボンベとすることができる。あるいは、水素吸蔵合金を内部に備え、水素吸蔵合金に吸蔵させることによって水素を貯蔵するタンクとしても良い。水素タンク23に貯蔵された水素ガスは、水素ガス供給路60に放出された後、圧力調整弁62によって所定の圧力に調整されて、燃料電池22のアノードに供給される。アノードから排出されるアノード排ガスは、アノード排ガス路63に導かれて再び水素ガス供給路60に流入する。このように、アノード排ガス中の残余の水素ガスは流路内を循環して再度電気化学反応に供される。
【0021】
アノード排ガスを循環させるために、アノード排ガス路63には、水素ポンプ65が設けられている。水素ポンプ65は、ポンプ駆動用の交流モータであるポンプモータ65aを備えている。
【0022】
また、アノード排ガス路63から分岐して、排ガス排出路64が設けられている。この排ガス排出路64は、開閉弁66を備えている。開閉弁66を開状態とすることで、アノード排ガス路63を流れるアノード排ガスの一部を、排ガス排出路64を介して外部に排出可能となる。
【0023】
ここで、排ガス排出路64は、排ガス排出路64よりも断面積が大きい容器である希釈器26に接続されている。この希釈器26は、アノード排ガスを外部に排出する際に、アノード排ガス中の水素を、排出に先立って後述するカソード排ガスによって希釈するための構造である。
【0024】
また、アノード排ガス路63には、気液分離器27が設けられている。電気化学反応の進行に伴ってカソードでは水が生じるが、生じた水は、電解質膜を介してアノード側のガス内にも導入される。気液分離器27は、このようにしてアノード排ガス中に溜まった水蒸気を凝縮させて、アノード排ガス中から除去する。
【0025】
エアコンプレッサ24は、加圧した空気を酸化ガスとして酸化ガス供給路67を介して燃料電池22のカソードに供給する。エアコンプレッサ24が空気を圧縮する際には、フィルタを備えたマスフロメータ28を介して、外部から空気を取り込む。カソードから排出されるカソード排ガスは、カソード排ガス路68に導かれて外部に排出される。ここで、酸化ガス供給路67およびカソード排ガス路68は、加湿モジュール25を経由している。加湿モジュール25では、酸化ガス供給路67の壁面の一部とカソード排ガス路68の壁面の一部とが接触しており、この接触部には、水蒸気透過性の膜が配設されている。水蒸気透過性の膜によって酸化ガス供給路67とカソード排ガス路68とを隔てることで、カソード排ガス側から加圧空気側に水蒸気が供給可能となっている。すなわち、カソード排ガスは、電気化学反応に伴って生じた生成水を水蒸気の状態で含有するが、加湿モジュール25では、上記水蒸気を含有するカソード排ガスを用いて、カソードに供給する加圧空気の加湿を行なっている。また、カソード排ガス路68において、燃料電池22と加湿モジュール25との間には圧力調整弁32が設けられており、燃料電池22と圧力調整弁32との間には圧力センサ33が設けられている。上記圧力センサ33の検出信号に基づいて圧力調整弁32の開度を調節することで、燃料電池22から排出されるカソード排ガスの圧力、すなわち燃料電池22内での酸化ガスの圧力が調節されている。燃料電池22では、圧力調整弁32によって酸化ガスの圧力を高く保つことで、電気化学反応の効率を向上させている。また、このカソード排ガス路68は、カソード排ガスを外部に導くのに先立って、既述した希釈器26を経由している。そのため、排ガス排出路64を介して希釈器26に流入したアノード排ガスは、希釈器26においてカソード排ガスと混合されることによって希釈されて、外部に排出される。」

(2)「【0029】
B.不純物除去の制御:
本実施例の燃料電池システム10は、アノード排ガス路63を水素ガス供給路60に接続して、アノード排ガスを再び電気化学反応に供する構成となっている。このように、燃料電池22とアノード排ガス路63との間で水素ガスを循環させると、電気化学反応の進行に伴って、水素ガス中にもともと微量に含まれていた窒素等の不純物が濃縮されることによって、水素ガス中の不純物濃度が上昇する。また、窒素を含有する空気が供給されるカソード側からアノード側に窒素がリークしてくることによっても、水素ガス中の窒素濃度が上昇する。本実施例の燃料電池システム10では、アノード排ガス路64と、このアノード排ガス路64よりも低圧な希釈器26とを連通させて、両者の圧力差を利用することによって、アノード排ガスの一部をアノード排ガス路64から排出している。具体的には、所定の時間間隔で開閉弁66を開閉することによって、アノード排ガスの一部を外部に排出して、アノードに供給するガス中の窒素等の不純物濃度の上昇を抑えている。
【0030】
アノードに供給するガス中の不純物濃度は、燃料電池22における発電量が増えるほど高くなる。そのため、開閉弁66を開放する動作は、例えば所定の時間間隔で行なうこととしても良いし、燃料電池22による発電量の積算値が所定値になる毎に行なうこととしても良い。本実施例では、燃料電池22の温度と燃料電池22の出力電流とに基づいて、開閉弁66を開弁する時間および閉弁する時間を定めるマップ(以下、通常排気マップと呼ぶ)を、制御部70内に記憶している。開閉弁66の開閉動作を制御する際には、燃料電池22の温度として、温度センサ43が検出する冷却水温を取得している。また、燃料電池システム10は、燃料電池22と負荷装置30とを接続する回路において図示しない電流計を備えており、この電流計によって燃料電池22の出力電流を検出している。制御部70は、燃料電池22の温度と出力電流とに基づいて上記通常排気マップを参照することで開弁・閉弁時間を決定し、決定した時間毎に開弁と閉弁の動作を繰り返すように、開閉弁66の開閉動作を制御している。」

(3)「【0033】
本ルーチンが実行されると、制御部70は、水素ポンプ65のインバータに異常があるか否かを判断する(ステップS100)。既述したように、水素ポンプ65には、直流電源である燃料電池22から電力が供給されるため、燃料電池22からポンプモータ65aに電力を供給する回路には、図示しないインバータが設けられている。また、このインバータを設けた回路には、インバータの出力電流あるいは電圧を検出するための電流計あるいは電圧計が設けられている。ステップS100では、上記インバータにおける電圧あるいは出力電流を検出して、検出した値が、予め定めた所定の基準値よりも高い値であるときには異常と判断する。
【0034】
制御部70は、ステップS100においてインバータが異常であると判断すると、水素ポンプ65を停止する(ステップS110)。また、排ガス排出路64に設けた開閉弁66の開閉動作を制御する際に参照するマップを、通常排気マップから、ポンプ停止時排気マップに切り替える(ステップS120)。
【0035】
ここで、ポンプ停止時排気マップとは、水素ポンプ65を停止させたときに通常排気マップに代えて参照するために、予め制御部70内に記憶しておいたものである。ポンプ停止時排気マップでは、このポンプ停止時排気マップに従って開閉弁66を制御すると、通常排気マップを用いる場合に比べて単位時間あたりの開弁時間が長くなるように、開弁時間および閉弁時間が設定されている。本実施例では、このポンプ停止時排気マップは、制御部70が取得した負荷要求に関する情報に基づいて開弁時間および閉弁時間を決定するように設定されており、負荷要求が大きいほど、決定される単位時間当たりの開弁時間は長く設定される。
【0036】
燃料電池システム10では、ステップS110で水素ポンプ65を停止したときにも、水素タンク23からは水素が供給され続け、水素タンク23から燃料電池22のアノードに供給される水素圧は、圧力調整弁62によって所定圧に調節され続けている。ここで、排ガス排出路64が連通する希釈器26は大気開放されているため、水素ガス供給路60や燃料電池22内の水素ガスの流路あるいはアノード排ガス路63に比べて、希釈器26の圧力は低くなっている。そのため、開閉弁66を開状態とすると、水素タンク23から放出された水素ガスは、燃料電池22、アノード排ガス路63および排ガス排出路64を経由して希釈器26に流入し、その後外部に排出される。このように、開閉弁66を開状態とすることで、水素ポンプ65を停止しても燃料電池22のアノードに水素を供給し続けることが可能となる。ここで、開閉弁66における単位時間当たりの開弁時間は負荷要求に基づいて設定されるため、負荷要求が大きいほど開弁時間が長くなって、アノードに供給される水素量は増える。なお、ポンプ停止時排気マップでは、正常時に比べて単位時間当たりの開弁時間が長くなるように開弁時間および閉弁時間が設定されているが、1回当たりの開弁時間は、開閉の動作に伴って水素ガスが脈動するように充分に短く設定されている。インバータ異常が発生しておらず、通常排気マップを参照して開閉弁66を開閉する時にも、燃料電池22に供給される水素ガスは脈動する。しかしながら、ポンプ停止時排気マップを参照して、単位時間当たりの開弁時間をより長くして1回当たりの開弁時間を短く抑えることで、水素ガスはより強く脈動するようになる。
【0037】
ステップS120において、参照するマップをポンプ停止時排気マップに切り替えると、これと共に制御部70は、酸化ガス流量目標値の補正を行なう(ステップS130)。既述したように制御部70は、負荷要求に応じた量の酸化ガスが燃料電池22に供給されるようにエアコンプレッサ24を駆動制御しているが、ステップS130では、この駆動制御の際に設定する酸化ガス流量目標値をさらに大きくする補正を行なう。酸化ガス流量目標値をさらに大きくする補正量は、ポンプ停止時排気マップに切り替えることで希釈器26に排出される水素量が増大したときに、この水素をカソード排ガスで充分に希釈可能となるように定められている。酸化ガス流量目標値を補正すると、制御部は、補正した目標値の酸化ガスが供給されるように、エアコンプレッサ24に駆動信号を出力する。」

(4)上記(1)の特に段落【0019】及び【0025】の記載から、燃料電池システムは、アノード及びカソードにそれぞれ水素ガスと空気の供給を受けて発電する燃料電池を備えることが理解できる。

(5)上記(1)の特に段落【0021】と図1の記載から、水素ポンプ65は、アノードの出口側から排出されるアノード排ガスをアノードの入口側へ循環させるアノード排ガス路63に設けられることが理解できる。

(6)上記(1)の特に段落【0022】の記載から、開閉弁66は、アノード排ガス路63内を流れるアノード排ガスをアノード排ガス路63外へ排出させることが理解できる。

(7)上記(3)の特に段落【0034】ないし【0037】の記載から、制御部70は、水素ポンプ65のインバータが異常であると判断すると、水素ポンプ65を停止して、開閉弁66の開閉動作を制御する際に参照するマップを、通常排気マップから、通常排気マップを用いる場合に比べて単位時間あたりの開弁時間が長くなるように設定されているポンプ停止時排気マップに切り替えるものであり、開閉弁66の開弁時間が長い方が水素オフガスの排出量が増加することは明らかであるから、通常排気マップを用いる場合に比べてポンプ停止時排気マップを用いた場合の開閉弁66の開弁時間が長いということは、開閉弁66によるアノード排ガスの排出量を、水素ポンプ65が稼働していると仮定したときに排出されるアノード排ガスの排出量よりも増加させるように開閉弁66の開閉動作を制御することであると理解できる。

(8)上記(3)の特に段落【0035】の記載から、制御部70は、燃料電池の負荷要求が大きいほど、開閉弁66によるアノード排ガスの排出量を増加させるように開閉弁66の開閉動作を制御することが理解できる。

2.引用発明
上記1.の記載及び図面の記載を総合すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「アノード及びカソードにそれぞれ水素ガスと空気の供給を受けて発電する燃料電池を備える燃料電池システムであって、
前記アノードの出口側から排出されるアノード排ガスを前記アノードの入口側へ循環させるアノード排ガス路63に設けられる水素ポンプ65と、
前記アノード排ガス路63内を流れる前記アノード排ガスを前記アノード排ガス路63外へ排出させる開閉弁66と、
前記水素ポンプ65のインバータの異常を判断するとともに、
前記開閉弁66の開閉動作を制御する制御部70と、を備え
前記制御部70は、水素ポンプ65のインバータが異常であると判断すると、水素ポンプ65を停止して、前記開閉弁66による前記アノード排ガスの排出量を、前記水素ポンプ65が稼働していると仮定したときに排出される前記アノード排ガスの排出量よりも増加させるように前記開閉弁66の開閉動作を制御し、更に、制御部70は、燃料電池の負荷要求が大きいほど、開閉弁66によるアノード排ガスの排出量を増加させるように開閉弁66の開閉動作を制御する燃料電池システム。」

第5 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「アノード」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明における「アノード極」に相当し、以下同様に、「カソード」は「カソード極」に、「水素ガス」は「燃料ガス」に、「空気」は「酸化ガス」に、「アノード排ガス」は「水素オフガス」に、「アノード排ガス路63」は「水素ガス循環流路」に、「水素ポンプ65」は「水素ポンプ」に、「開閉弁66」は「排出弁」に、「開閉動作」は「開閉」に、「制御部70」は「制御部」に、「燃料電池の負荷要求が大きいほど」は「燃料電池の出力値又は燃料電池への要求値に応じて」にそれぞれ相当する。
さらに、引用発明における「前記水素ポンプ65のインバータの異常を判断」し、「前記制御部70は、水素ポンプ65のインバータが異常であると判断すると、水素ポンプ65を停止」することと、本願発明における「前記水素ポンプの停止を判定する判定部」を備え、「前記判定部によって前記水素ポンプの停止が判定された場合」とは、「水素ポンプが停止した場合」という限りにおいて一致する。

そうすると、本願発明と引用発明は、
アノード極及びカソード極にそれぞれ燃料ガスと酸化ガスの供給を受けて発電する燃料電池を備える燃料電池システムであって、
前記アノード極の出口側から排出される水素オフガスを前記アノード極の入口側へ循環させる水素ガス循環流路に設けられる水素ポンプと、
前記水素ガス循環流路内を流れる前記水素オフガスを前記水素ガス循環流路外へ排出させる排出弁と、
前記排出弁の開閉を制御する制御部と、を備え、
前記水素ポンプが停止した場合に、前記制御部は、前記排出弁による前記水素オフガスの排出量を、前記水素ポンプが稼働していると仮定したときに排出される前記水素オフガスの排出量よりも増加させるように前記排出弁の開閉を制御し、更に、前記制御部は、燃料電池の出力値又は燃料電池への要求値に応じて前記排出弁による前記水素オフガスの排出量を増加させるように前記排出弁の開閉を制御する燃料電池システム。
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
「水素ポンプが停止した場合」に関して、
本願発明においては、「前記水素ポンプの停止を判定する判定部」を備え、「前記判定部によって前記水素ポンプの停止が判定された場合」であるのに対し、
引用発明においては、前記水素ポンプ65のインバータの異常を判断し、前記制御部70は、水素ポンプ65のインバータが異常であると判断すると、水素ポンプ65を停止することである点。

<相違点2>
本願発明においては、「前記水素ポンプの停止時に増加させる前記水素オフガスの排出量は、前記水素ポンプの稼働時における前記水素ポンプ以外の装置の運転状態と、前記水素ポンプの停止時における前記水素ポンプ以外の装置の運転状態とが、同1条件と想定される運転状態に基づき算出される」のに対し、
引用発明においては、水素ポンプ65の停止時に増加させるアノード排ガスの排出量は、前記水素ポンプ65の稼働時における前記水素ポンプ65以外の装置の運転状態と、前記水素ポンプ65の停止時における前記水素ポンプ65以外の装置の運転状態とが、同1条件と想定される運転状態に基づいて算出されるか否か不明である点。

各相違点について検討する。

<相違点1>について
引用発明は、水素ポンプ65を備えた燃料電池システムにおいて、水素ポンプ65の停止時の課題を解決しようとするものであるところ、ポンプの異常態様として、インバータの異常とポンプの停止とは、いずれも当業者にとってよく知られたものであり、水素ポンプが停止する事態として、インバータに異常が生じたときに水素ポンプを停止するだけでなく、水素ポンプ自体が停止する異常状態も、当業者であれば想定の範囲内であるから、引用発明において、インバータの異常を判断して水素ポンプ65を停止することに代えて、水素ポンプの停止を判定する判定部を備え、水素ポンプ65自体の停止を判定するようにすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。

<相違点2について>
まず、本願発明における「前記判定部によって前記水素ポンプの停止が判定された場合に、前記制御部は、前記排出弁による前記水素オフガスの排出量を、前記水素ポンプが稼働していると仮定したときに排出される前記水素オフガスの排出量よりも増加させるように前記排出弁の開閉を制御し、更に、前記制御部は、燃料電池の出力値又は燃料電池への要求値に応じて前記排出弁による前記水素オフガスの排出量を増加させるように前記排出弁の開閉を制御し、
前記水素ポンプの停止時に増加させる前記水素オフガスの排出量は、前記水素ポンプの稼働時における前記水素ポンプ以外の装置の運転状態と、前記水素ポンプの停止時における前記水素ポンプ以外の装置の運転状態とが、同1条件と想定される運転状態に基づき算出されること」は、かかる発明特定事項を文言どおりに理解すると、以下の(1)及び(2)の事項を意味すると解される。
(1)「前記判定部によって前記水素ポンプの停止が判定された場合に」、「前記制御部は、燃料電池の出力値又は燃料電池への要求値に応じて前記排出弁による前記水素オフガスの排出量を増加させるように前記排出弁の開閉を制御」するものであるから、水素ポンプの停止時の水素オフガスの排出量は、燃料電池の出力値又は燃料電池への要求値に応じて制御されるものである。
(2)「前記判定部によって前記水素ポンプの停止が判定された場合に、前記制御部は、前記排出弁による前記水素オフガスの排出量を、前記水素ポンプが稼働していると仮定したときに排出される前記水素オフガスの排出量よりも増加させるように前記排出弁の開閉を制御し」、「前記水素ポンプの停止時に増加させる前記水素オフガスの排出量は、前記水素ポンプの稼働時における前記水素ポンプ以外の装置の運転状態と、前記水素ポンプの停止時における前記水素ポンプ以外の装置の運転状態とが、同1条件と想定される運転状態に基づき算出される」ものであるから、燃料電池の出力値又は燃料電池への要求値に応じて、水素ポンプの停止時の水素オフガスの排出量を制御する際の装置の運転条件は、水素ポンプの稼働時における水素ポンプ以外の装置の運転状態と、水素ポンプの停止時における水素ポンプ以外の装置の運転状態とが、同1条件と想定される運転状態に基づき(すなわち、水素ポンプの稼働時・停止時で運転状態は変化しないことを前提として)算出されるものである。

一方、引用発明は、ポンプ停止時排気マップは、負荷要求に関する情報に基づいて、開閉弁の開弁時間および閉弁時間を決定しており、ポンプ停止時の開閉弁66によるアノード排ガスの排出量を、水素ポンプ65が稼働していると仮定したときに排出されるアノード排ガスの排出量よりも増加させるように開閉弁66の開閉動作を制御している点で、本願発明と一致しているものの、水素ポンプ65の停止時に増加させるアノード排ガスの排出量は、前記水素ポンプ65の稼働時における前記水素ポンプ65以外の装置の運転状態と、前記水素ポンプ65の停止時における前記水素ポンプ65以外の装置の運転状態とが、同1条件と想定される運転状態に基づいて算出されるか否か、すなわち、ポンプ停止時排気マップが、通常マップが作成されたときの水素ポンプ以外の装置(例えば燃料電池など)の運転状態と同1条件と想定される運転状態に基づいて作成されたものであるかどうかは不明である。
しかしながら、引用発明において、通常排気マップとポンプ停止時排気マップとが、水素ポンプ以外の装置が異なる条件、例えば、異なる燃料電池の条件に対して作成されることは通常考えられず、通常排気マップとポンプ停止時排気マップとは、ポンプ以外の運転状態が同1条件と想定される運転状態に基づいて作成されたものと解するのが最も自然であるから、この点は、実質的な相違点とはいえない。
仮に、この点が実質的な相違点であるとしても、上述のとおり、通常排気マップとポンプ停止時排気マップとが、水素ポンプ以外の装置が異なる条件、例えば、異なる燃料電池の条件に対して作成されることは不自然であり、同1条件において、通常排気マップとポンプ停止時排気マップとを作成することは、当業者がもっとも普通に想到し得ることである。

ここで、審判請求人は、平成30年12月27日提出の意見書において、「このような、燃料電池の運転状態を考慮せずに、単に排出量を増加させる引用文献1に記載の発明において生じる問題を解決するため、本願発明では、『水素ポンプ4の稼働・停止以外は同1条件時における運転状態に基づき』、すなわち、『水素ポンプの稼働時における水素ポンプ以外の装置の運転状態と、水素ポンプの停止時における水素ポンプ以外の装置の運転状態とが、同1条件と想定される運転状態に基づき』排出量を算出しています(段落0032等)。
つまり、『水素ポンプ4の稼働・停止以外は同1条件時における運転状態に基づき』、排出量を算出することにより、『水素ポンプ4の停止時に増加させる水素オフガスの排出量は、水素ポンプ4以外の装置が同一の条件で運転していることを前提とした上で調整され』(段落0032)、このように排出量が調整されることにより、水素系の排出流路に溜まった不純物を十分に排出可能な量に排出量が制御されることとなります。よって、水素系の排出流路に溜まった不純物を十分に排出可能な量に排出量を制御するという、『排出量の増加量を高精度に制御』する一態様が、本願明細書に記載及び示唆がされています。言い換えれば、『排出量の増加量を高精度に制御』とは、引用文献1のように燃料電池の運転状態を考慮せずに単に排出量の増加を制御する構成と比較して、不純物が十分に排出されない排出量であったり、排出量を増加させる量が過度となったりすることを抑制するように制御されることを、以上記した本願明細書の記載に基づき説明しているにすぎません。(意見書3ページ32行ないし4ペ-ジ1行)」と述べている。
上記意見書の記載によれば、請求人は、本願発明が、水素ポンプ以外の装置(例えば燃料電池等)の運転状態をも考慮して高精度な制御を行っているかのような主張をしているが、上記<相違点2について>で述べたとおり、本願発明は、水素ポンプの停止時の水素オフガスの排出量は、燃料電池の出力値又は燃料電池への要求値に応じて制御されるものであり、その際の装置の運転条件は、水素ポンプの稼働時における水素ポンプ以外の装置の運転状態と、水素ポンプの停止時における水素ポンプ以外の装置の運転状態とが、同1条件と想定される運転状態に基づき(すなわち、水素ポンプの稼働時・停止時で運転状態は変化しないことを前提として)算出されるものであって、水素ポンプ以外の装置(例えば燃料電池等)の運転状態をも考慮して高精度な制御を行うことに関しては、請求項の記載に基づく主張ではなく、また、発明の詳細な説明にも記載されていない事項について主張するものであって採用できない。

そして、本願発明の効果も、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎない。

したがって、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。
 
審理終結日 2019-03-25 
結審通知日 2019-03-26 
審決日 2019-04-08 
出願番号 特願2014-231850(P2014-231850)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 康  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 長馬 望
佐々木 芳枝
発明の名称 燃料電池システム  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 江口 昭彦  
代理人 大貫 敏史  

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