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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F |
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管理番号 | 1351932 |
審判番号 | 不服2018-7228 |
総通号数 | 235 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-07-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-05-28 |
確定日 | 2019-06-11 |
事件の表示 | 特願2013-264855「タッチパネル装置およびタッチ検出方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月 2日出願公開、特開2015-121912、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成25年12月24日の出願であって、平成29年8月7日付けで拒絶理由が通知され、平成29年11月14日付けで手続補正がされ、平成30年1月23日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成30年5月28日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(平成30年1月23日付け拒絶査定)の概要は、次のとおりである。 この出願の請求項1-4に係る発明は、以下の引用文献1-3に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 1.特開2012-248035号公報 2.特開2011-89937号公報(周知技術を示す文献) 3.特開2009-181232号公報(周知技術を示す文献)」 第3 本願発明 本願の請求項1-4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明4」という。)は、平成30年5月28日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 静電容量方式のタッチパネルを備えたタッチパネル装置であって、 前記タッチパネルの各センサで検出されたデータと、所定のベースデータとの差分をとって、1フレーム分の差分データを生成するとともに、差分データに基づいて、タッチの有無を検出する座標計算部と、 差分データが記憶される積算メモリと、を備え、 前記座標計算部は、 前記1フレーム分の差分データを閾値と比較して、前記1フレーム分の差分データが前記閾値以上の場合には、利用者の素手によるタッチが検出された場合であって、前記1フレーム分の差分データに基づいてタッチポイントの座標を計算し、 前記1フレーム分の差分データを前記閾値と比較して、前記1フレーム分の差分データが前記閾値よりも小さい場合には、非導電性物体によるタッチが検出された場合であって、前記積算メモリにこの差分データを記憶するとともに、前記積算メモリに所定回数積算した差分データに基づいて、積算された前記差分データを前記閾値と比較してタッチの有無を検出する タッチパネル装置。」 なお、本願発明2-4の概要は以下のとおりである。 本願発明2-3は、本願発明1を減縮した発明である。 本願発明4は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明1とカテゴリー表現が異なるだけの発明である。 第4 引用発明、引用文献等 1.引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 「【0001】 本発明は、タッチパネルシステムに関し、特に、人指等が接触すること無く、接近することによっても、タッチ操作が可能である高感度なタッチパネルシステムおよびそれを用いた電子機器に関するものである。」 「【0026】 以下に、本発明のタッチパネルシステムの実施の形態について、図面を参照しながら説明する。本実施の形態のタッチパネルシステムは投影型静電容量方式を採用するものである。図1は、本実施の形態に係るタッチパネルシステム1の基本構成を示す図である。 【0027】 図1に示すように、タッチパネルシステム1は、タッチパネル10とタッチパネルコントローラ20とからなる。タッチパネル10は、使用者がタッチ操作を行うことにより信号を入力するセンサ11を備えている。タッチパネルコントローラ20は、センサ11からの信号を受信する入力端子と、入力端子に入力された信号を元に、座標値を出力する座標検出手段21と、座標検出手段21からの座標情報を一定間隔で取り込み、表示装置に出力等を行うCPU22とからなる。座標検出手段21は、タッチ操作の感度の変更を行うタッチ操作感度変更手段23を有している。 【0028】 尚、本実施の形態におけるタッチパネルシステム1に配置されているセンサ11は、静電容量方式センサであり、使用者がタッチパネル10にタッチ操作した際、センサ11を構成している電極が図1に示すドライブライン-センスライン間の容量値の変化を検出する。 【0029】 タッチパネル10は、M本のドライブラインとL本のセンスラインとからなり、その交差箇所に静電容量方式によるセンサ11を構成する。タッチ操作の座標検出動作では、ドライブラインをスキャンしつつ、タッチ操作によるセンサの容量値の変化をセンスラインにて読み取ることにより、タッチ操作された箇所の座標を検出する。この際、検出される容量値の変化値が小さい場合を考慮して、読み取り動作を複数回行い、タッチパネルからの受信信号を上記複数回の読み取り動作に対応させて複数回積算して信号値を増大させる操作が行われている。 【0030】 図2に、この読み取り操作を複数回行っている状況を示す。図2(a)は上記読み取り操作が8回行われている場合を示しており、図2(b)は上記読み取り操作が3回行われている場合を示している。図2(a)では、読み取り操作が8回行われた結果の信号積算値がタッチ操作検出閾値を超えている。このように、タッチ操作の検出は、信号値がタッチ操作検出閾値を超えた場合に、使用者がタッチ操作を行ったと判定される。」 「【0036】 例えば、本タッチパネルシステムの感度を低下させるために、タッチパネル読み取り回数を、図2(a)に示す8回から図2(b)に示す3回に減少させた場合を考える。このように読み取り回数が3回に減少された場合、信号積算値がタッチ操作検出閾値を超えておらず、タッチパネルシステム1は、使用者がタッチパネルにタッチ操作を行っていないと判定する。即ち、高感度なタッチパネルシステムであっても、タッチパネル読み取り回数を減少させ、本タッチパネルシステムの感度を低下させることで、意図しないタッチ操作が検出されてしまう恐れを解消できる。もちろん、上述のように、タッチパネル読み取り回数を減少させても、手指やペンの入力による明確なタッチ操作は検出できることになる。」 「【0038】 また、上記説明では、意図しないタッチ操作検出による誤動作を防止するために、感度を低減させる処理について説明したが、本タッチパネルシステムでは、これとは逆に、タッチパネル読み取り回数を増加させて感度をさらに向上させることも可能である。例えば、工場等の機械の操作パネルに本タッチパネルシステムを採用すれば、手袋を装着した状態でタッチ操作を行いたい場合等で感度を上げたい場合も有りうる。このような場合には、図4に示すユーザインタフェイスで、感度を強くする方向にスライダーを動かすことにより、タッチパネル読み取り回数を増加させれば良い。」 したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「投影型静電容量方式を採用するタッチパネルシステムであって(段落【0026】より。以下、同様。)、 タッチパネルシステム1は、タッチパネル10とタッチパネルコントローラ20とからなり、タッチパネル10は、使用者がタッチ操作を行うことにより信号を入力するセンサ11を備え、タッチパネルコントローラ20は、センサ11からの信号を受信する入力端子と、入力端子に入力された信号を元に、座標値を出力する座標検出手段21と、座標検出手段21からの座標情報を一定間隔で取り込み、表示装置に出力等を行うCPU22とからなり、座標検出手段21は、タッチ操作の感度の変更を行うタッチ操作感度変更手段23を有し(【0027】)、 タッチパネル10は、M本のドライブラインとL本のセンスラインとからなり、その交差箇所に静電容量方式によるセンサ11を構成し、タッチ操作の座標検出動作では、ドライブラインをスキャンしつつ、タッチ操作によるセンサの容量値の変化をセンスラインにて読み取ることにより、タッチ操作された箇所の座標を検出するが、この際、検出される容量値の変化値が小さい場合を考慮して、読み取り動作を複数回行い、タッチパネルからの受信信号を上記複数回の読み取り動作に対応させて複数回積算して信号値を増大させる操作が行われ(【0029】)、 上記読み取り操作が8回行われている場合では、読み取り操作が8回行われた結果の信号積算値がタッチ操作検出閾値を超えた場合に、使用者がタッチ操作を行ったと判定され(【0030】)、 タッチパネル読み取り回数を減少させても、手指の入力による明確なタッチ操作は検出できるが(【0036】)、手袋を装着した状態でタッチ操作を行いたい場合、これとは逆に、タッチパネル読み取り回数を増加させて感度をさらに向上させることも可能である(【0038】)、 タッチパネルシステム(【0026】)。」 2.引用文献2について 原査定の拒絶の理由に、周知技術を示す文献として引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 「【0001】 本発明は、単数あるいは複数の検出電極により人の指などの物体の接近や位置を静電結合の変化として捉える、静電結合方式のタッチセンサに関する。」 「【0021】 また、本発明による静電検出方法は、検出電極22を有する検出パネル1の各検出電極22に繰り返し充放電を行う充放電工程52と、物体の接近により変化する充放電の特性を繰り返し抽出する特性抽出工程53と、特性抽出工程53で繰り返し抽出した特性を累積してアナログデジタル変換する累積アナログデジタル変換工程57と、累積アナログデジタル変換工程57の出力から物体の接近や位置を求める後処理工程60と、全体の状態とシーケンスを管理する制御工程51とにより実現した。ここで、特性抽出工程53は、充放電工程52での充放電特性を値に変換するQV変換工程55と、QV変換手段の基準電圧(Vref)を充放電工程52の動作と同期して切り換えるVref選択工程54、QV変換工程55の出力を充放電工程52の動作と同期して反転させる反転工程56と、により実現した。・・・」 「【0027】 後処理手段5または後処理工程60では、累積アナログデジタル変換手段4または累積アナログデジタル変換工程57からのデジタル値により検出パネル1への物体の接近や位置を求める。例えば、後処理手段5または後処理工程60では、まず必要に応じて、フィルタ処理等による更なるノイズの除去や、物体が接近していない場合の値をオフセットとして差し引くことにより物体の接近による静電容量の変化に対応した値に変換する。次に、この変化がある値より大きい場合に物体の接近として判定して、接近物体の位置を求めるようにしても良い。」 したがって、引用文献2には、次の技術的事項が記載されていると認められる。 「複数の検出電極により人の指などの物体の接近や位置を静電結合の変化として捉える、静電結合方式のタッチセンサ(段落【0001】より。以下、同様。)において、 物体が接近していない場合の値をオフセットとして差し引くことにより物体の接近による静電容量の変化に対応した値に変換し、次に、この変化がある値より大きい場合に物体の接近として判定して、接近物体の位置を求める(段落【0027】より。)。」 3.引用文献3について 原査定の拒絶の理由に、周知技術を示す文献として引用された上記引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 「【0001】 本発明は、タッチパネルのタッチ操作を検出することにより入力操作の操作有無を判定するタッチスイッチに関する。」 「【0008】 この構成によれば、タッチ操作を検出する検出手段の検出値が第1閾値(絶対値)を超える場合、この時のタッチ操作をオン判定して、この際に検出手段により抽出される検出位置、即ち検出値が第1閾値を超える検出手段の配置位置をタッチ操作位置として取り出す。また、検出手段の検出値が第1閾値は超えないものの第2閾値(絶対値)を超える値をとる際、検出値の特性値が高い値をとっていれば、この時のタッチ操作をオン判定して、この際に検出手段により抽出される検出位置、即ち検出値が第2閾値を超える検出手段の配置位置をタッチ操作位置として取り出し、検出値の特性値が低い値をとるのであれば、この時のタッチ操作をオフ判定して、検出位置をタッチ操作位置として取り出さないようにする。」 「【0010】 しかし、本構成においては、タッチ検出時に検出値が第2閾値をとる場合、検出値の特性値が高い値をとるのであれば、この時は例えば手袋等をしたままの状態でタッチ操作を行ったとみなし、検出値の特性値が低い値をとるのであれば、この時は検出手段に例えば水滴が付着したり或いは電気ノイズが混入したりして、検出値が一時的に第2閾値を超える非タッチ操作とみなして処理する。よって、本構成では、タッチ操作時に検出値が第1閾値を超えるという素手によるタッチ操作を検出できることのみならず、手袋をしたままの状態でのタッチ操作を検出可能となり、しかもこのように手袋をしたままのタッチ操作を検出可能としても、水滴付着時や電気ノイズ混入時はこれが非タッチ操作として除外される。このため、複数バリエーションのタッチ操作を検出することが可能となるので、高いタッチ検出精度を確保することが可能となる。」 したがって、引用文献3には、次の技術的事項が記載されていると認められる。 「タッチパネルのタッチ操作を検出することにより入力操作の操作有無を判定するタッチスイッチにおいて(段落【0001】より。以下、同様。)、 タッチ操作を検出する検出手段の検出値が第1閾値(絶対値)を超える場合、この時のタッチ操作をオン判定して、この際に検出手段により抽出される検出位置をタッチ操作位置として取り出し(【0008】)、素手によるタッチ操作を検出できるのみならず(【0010】)、 検出手段の検出値が第1閾値は超えないものの第2閾値(絶対値)を超える値をとる際、検出値の特性値が高い値をとっていれば(【0008】)、手袋等をしたままの状態でタッチ操作を行ったとみなし(【0010】)、この時のタッチ操作をオン判定して、この際に検出手段により抽出される検出位置をタッチ操作位置として取り出し、 検出値の特性値が低い値をとるのであれば(【0008】)、検出値が一時的に第2閾値を超える非タッチ操作とみなし(【0010】)、この時のタッチ操作をオフ判定して、検出位置をタッチ操作位置として取り出さないようにする(【0008】)。」 第5 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。 ア 引用発明1における「タッチパネル10とタッチパネルコントローラ20とからな」る、「投影型静電容量方式を採用する」「タッチパネルシステム1」が、本願発明1における「静電容量方式のタッチパネルを備えたタッチパネル装置」に相当する。 イ 引用発明1における「タッチパネル10」の「M本のドライブラインとL本のセンスラインと」「の交差箇所に静電容量方式によるセンサ11を構成し、タッチ操作の座標検出動作では、ドライブラインをスキャンしつつ、タッチ操作によるセンサの容量値の変化をセンスラインにて読み取ること」は、「M本のドライブラインとL本のセンスラインと」からなる「1フレーム分のデータを生成」しているといえるから、本願発明1における「前記タッチパネルの各センサで検出されたデータと、所定のベースデータとの差分をとって、1フレーム分の差分データを生成する」ことと、「前記タッチパネルの各センサで検出されたデータを用いて、1フレーム分のデータを生成する」点で共通する。 ウ 上記「イ」を踏まえると、引用発明1における「センサ11からの信号を受信する」「入力端子に入力された信号を元に、座標値を出力する座標検出手段21」は、「ドライブラインをスキャンしつつ、タッチ操作によるセンサの容量値の変化をセンスラインにて読み取ることにより、タッチ操作された箇所の座標を検出するが、この際、検出される容量値の変化値が小さい場合を考慮して、読み取り動作を複数回行い、タッチパネルからの受信信号を上記複数回の読み取り動作に対応させて複数回積算して信号値を増大させる操作が行われ」、「上記読み取り操作が8回行われている場合では、読み取り操作が8回行われた結果の信号積算値がタッチ操作検出閾値を超えた場合に、使用者がタッチ操作を行ったと判定され」ることと、本願発明1における「前記タッチパネルの各センサで検出されたデータと、所定のベースデータとの差分をとって、1フレーム分の差分データを生成するとともに、差分データに基づいて、タッチの有無を検出する座標計算部」とは、「前記タッチパネルの各センサで検出されたデータを用いて、1フレーム分のデータを生成するとともに、データに基づいて、タッチの有無を検出する座標計算部」の点で共通する。 エ 引用発明1の「CPU22」による「座標検出手段21からの座標情報」の「取り込」みが、「メモリ」から行われていることはいうまでもないことである。 また、「CPU22」が「一定間隔で取り込」む「座標検出手段21からの座標情報」は、「複数回積算して信号値を増大させ」た信号(具体的には、「8回行われた結果の信号積算値」)であることも明らかである。 よって、引用発明1における「CPU22」が「複数回積算して信号値を増大させ」た信号(具体的には、「8回行われた結果の信号積算値」)を「取り込」む「メモリ」と、本願発明1における「差分データが記憶される積算メモリ」とは、「データが記憶される積算メモリ」の点で共通するといえる。 オ 上記「エ」を踏まえると、引用発明1における「座標検出手段21」が、「ドライブラインをスキャンしつつ、タッチ操作によるセンサの容量値の変化をセンスラインにて読み取」った「タッチパネルからの受信信号」を「上記複数回の読み取り動作に対応させて複数回積算して信号値を増大させる操作」を行い、「上記読み取り操作が8回行われている場合では、読み取り操作が8回行われた結果の信号積算値がタッチ操作検出閾値を超えた場合に、使用者がタッチ操作を行ったと判定され」、「タッチ操作された箇所の座標を検出する」ことと、本願発明1における「前記座標計算部は、前記1フレーム分の差分データを閾値と比較して、前記1フレーム分の差分データが前記閾値以上の場合には、利用者の素手によるタッチが検出された場合であって、前記1フレーム分の差分データに基づいてタッチポイントの座標を計算し、前記1フレーム分の差分データを前記閾値と比較して、前記1フレーム分の差分データが前記閾値よりも小さい場合には、非導電性物体によるタッチが検出された場合であって、前記積算メモリにこの差分データを記憶するとともに、前記積算メモリに所定回数積算した差分データに基づいて、積算された前記差分データを前記閾値と比較してタッチの有無を検出する」こととは、「前記座標計算部は、前記積算メモリにこのデータを記憶するとともに、前記積算メモリに所定回数積算したデータに基づいて、積算された前記データを閾値と比較してタッチの有無を検出する」点で共通する。 カ 引用発明1における「タッチパネルシステム1」が、本願発明1における「タッチパネル装置」に相当する。 したがって、本願発明1と引用発明1と間には、次の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「静電容量方式のタッチパネルを備えたタッチパネル装置であって、 前記タッチパネルの各センサで検出されたデータを用いて、1フレーム分のデータを生成するとともに、データに基づいて、タッチの有無を検出する座標計算部と、データが記憶される積算メモリと、を備え、前記座標計算部は、前記積算メモリにこのデータを記憶するとともに、前記積算メモリに所定回数積算したデータに基づいて、積算された前記データを閾値と比較してタッチの有無を検出する、 タッチパネル装置。」 (相違点) (相違点1) 本願発明1では、「前記タッチパネルの各センサで検出されたデータと、所定のベースデータとの差分をとって、1フレーム分の差分データを生成」し「差分データに基づいて、タッチの有無を検出する」のに対し、引用発明1では、「ドライブラインをスキャンしつつ、タッチ操作によるセンサの容量値の変化をセンスラインにて読み取」って「タッチ操作」を「検出」しているものの、読み取ったセンサの容量値の変化と、所定のベースデータとの差分をとって、1フレーム分の差分データを生成し、差分データに基づいてタッチ操作を検出することは示されていない点。 (相違点2) 本願発明1では、「前記座標計算部は、前記1フレーム分の差分データを閾値と比較して、前記1フレーム分の差分データが前記閾値以上の場合には、利用者の素手によるタッチが検出された場合であって、前記1フレーム分の差分データに基づいてタッチポイントの座標を計算し、前記1フレーム分の差分データを前記閾値と比較して、前記1フレーム分の差分データが前記閾値よりも小さい場合には、非導電性物体によるタッチが検出された場合であって、前記積算メモリにこの差分データを記憶するとともに、前記積算メモリに所定回数積算した差分データに基づいて、積算された前記差分データを前記閾値と比較してタッチの有無を検出する」構成を有するのに対し、 引用発明1における「座標検出手段21」は、「ドライブラインをスキャンしつつ、タッチ操作によるセンサの容量値の変化をセンスラインにて読み取」った「タッチパネルからの受信信号」を「上記複数回の読み取り動作に対応させて複数回積算して信号値を増大させる操作」を行い、「上記読み取り操作が8回行われている場合では、読み取り操作が8回行われた結果の信号積算値がタッチ操作検出閾値を超えた場合に、使用者がタッチ操作を行ったと判定され」、「タッチ操作された箇所の座標を検出」するものであって、併せて「タッチパネル読み取り回数を減少させても、手指の入力による明確なタッチ操作は検出でき」ること、及び、「手袋を装着した状態でタッチ操作を行いたい場合、これとは逆に、タッチパネル読み取り回数を増加させて感度をさらに向上させること」が示されているに過ぎない点。 (2)相違点についての判断 ア 事案に鑑みて、まず、上記相違点2について検討する。 引用文献3には、「タッチパネルのタッチ操作を検出することにより入力操作の操作有無を判定するタッチスイッチにおいて、タッチ操作を検出する検出手段の検出値が第1閾値(絶対値)を超える場合」に「素手によるタッチ操作を検出」し、「検出手段の検出値が第1閾値は超えないものの第2閾値(絶対値)を超える値をとる」場合には、「手袋等をしたままの状態でタッチ操作を行ったとみな」すことが記載されている。 イ しかし、引用文献3に記載された技術的事項を引用発明1に適用しても、引用発明1における「座標検出手段21」は、まず「タッチパネルからの受信信号」について「複数回積算して信号値を増大させる操作」(例えば「8回」の信号積算)を行ない、その後、「信号積算値」が「第1閾値」を超えた場合に「手指の入力」によるタッチ操作を検出し、「第1閾値は超えないものの第2閾値(絶対値)を超える値をと」った場合に「手袋を装着した状態で」の「タッチ操作」を検出する構成が得られるに過ぎず、上記相違点2に係る本願発明1のような「前記1フレーム分の差分データが前記閾値以上の場合には、利用者の素手によるタッチが検出された」と判定し、「前記1フレーム分の差分データが前記閾値よりも小さい場合には」、「所定回数積算した差分データに基づいて、積算された前記差分データを前記閾値と比較して」「非導電性物体によるタッチ」の有無を検出する構成とはならない。 ウ また、引用文献2は、「静電結合方式のタッチセンサ」において、「物体が接近していない場合の値をオフセットとして差し引くことにより物体の接近による静電容量の変化に対応した値に変換」することが記載されているに過ぎず、上記相違点2に係る本願発明1の構成は、記載も示唆もされていない。 エ したがって、本願発明1は、上記相違点1について検討するまでもなく、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 2.本願発明2-3について 本願発明2-3は、本願発明1における上記相違点2に係る構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 3.本願発明4について 本願発明4は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明1における上記相違点2に係る構成に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第6 原査定について 審判請求時の補正により、本願発明1-3は、「前記座標計算部は、前記1フレーム分の差分データを閾値と比較して、前記1フレーム分の差分データが前記閾値以上の場合には、利用者の素手によるタッチが検出された場合であって、前記1フレーム分の差分データに基づいてタッチポイントの座標を計算し、前記1フレーム分の差分データを前記閾値と比較して、前記1フレーム分の差分データが前記閾値よりも小さい場合には、非導電性物体によるタッチが検出された場合であって、前記積算メモリにこの差分データを記憶するとともに、前記積算メモリに所定回数積算した差分データに基づいて、積算された前記差分データを前記閾値と比較してタッチの有無を検出する」という事項を有するものとなっており、当業者であっても、引用発明1及び周知技術(引用文献2、引用文献3)に基づいて、容易に発明できたものではない。 また、本願発明4も、上記事項に対応する事項を有するものとなっており、当業者であっても、引用発明1及び周知技術(引用文献2、引用文献3)に基づいて、容易に発明できたものではない。 したがって、原査定の理由を維持することはできない。 第7 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-05-29 |
出願番号 | 特願2013-264855(P2013-264855) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G06F)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 日比野 可奈子、星野 昌幸、萩島 豪 |
特許庁審判長 |
▲吉▼田 耕一 |
特許庁審判官 |
清水 稔 梶尾 誠哉 |
発明の名称 | タッチパネル装置およびタッチ検出方法 |
代理人 | 吉澤 弘司 |
代理人 | 岡部 讓 |