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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16K
管理番号 1351949
審判番号 不服2017-6710  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-10 
確定日 2019-05-22 
事件の表示 特願2015- 49177「再密封されるチャンバを有する装置およびチャンバの再密封方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 8月13日出願公開、特開2015-145727〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2010年(平成22年)10月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年10月9日、米国)を国際出願日とする特願2012-533372号の一部を平成27年3月12日に新たな特許出願としたものであって、平成27年4月13日付けで手続補正がなされ、平成28年2月22日付けの拒絶理由の通知に対し、平成28年7月29日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成28年12月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成29年5月10日に審判の請求がなされ、その後、当審において、平成30年5月11日付けで拒絶理由が通知され、平成30年10月11日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 本願発明

本願の請求項に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項7に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「周囲空気に対して封止可能なチャンバと、
前記チャンバと流体が流通可能な貫入可能部分であって、充填部材または注入部材によって貫入可能な表面を含み、前記充填部材または前記注入部材の貫入痕である貫入開口が形成されている、貫入可能部分と、
前記貫入可能な表面上に設けられ、前記貫入開口を密封するように前記貫入開口を覆う液体封止剤と、
を含む装置。」

第3 拒絶の理由

平成30年5月11日付けで当審が通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)のうちの理由Aは、次のとおりのものである。
本願発明は、本願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、以下の引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用例1.特表2004-533971号公報
引用例2.特開昭61-115853号公報

第4 引用例の記載及び引用発明

1.引用例1の記載及び引用発明1
(1)引用例1には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。)。
ア.「【0001】
発明の技術分野
本発明は、針もしくは注射器がキャップを通して暫定的に導入された後に滅菌薬剤が維持されるべき場合に使用する、薬剤瓶用のヒートシール可能なキャップ、並びにそのような瓶に充填する装置及び方法に関する。」
イ.「【0013】
図2に移り、本発明を具現化する再シール可能キャップは概して参照番号110で表示する。再シール可能キャップ110は、関連技術における当業者には既知である加硫ゴムもしくはそのような物質からなる弾力性ベース112を含み、ワクチン等の薬剤と接触するか、もしくは別の方法で薬剤に対して露出した状態で設置されるエンド・キャップもしくはその一部の製造において使用できる。このベース112は、瓶114の開口端内にスライドして受け入れられるように成形及び採寸した下部周壁115を画成する。瓶114は、ガラスもしくはそのような物質からなり、薬剤を受け入れるチャンバ116を画成する。再シール可能キャップ110のべース112は更に、やはり瓶114の開口端内にスライドして受け入れられるように成形及び採寸した上部周壁117と、上部周壁117の上端から外側に突出した周囲シールフランジ118を画成する。・・・(中略)・・・
【0014】
ベース112の上部凹部122は、内側に再シール可能部材126を固定して受け入れ、組み立てた再シール可能キャップ110を形成する。再シール可能部材126は、上部周囲フランジ128と、環状陥凹部または環状凹部130と、フランジと相対的に環状凹部130の反対側に位置し、凹部から外側に突出するベース132を画成する。図2及び図3に見られるように、再シール可能部材126の環状凹部130及びベース132は、上部凹部122の内面及びベース112の環状縁124と相補的に(あるいは鏡像を画成するように)採寸及び成形されている。その結果、上部凹部122は、押圧するか、カチッと留めるか、もしくは別の方法で再シール可能部材126を内側に受け入れ、環状凹部130が環状縁124を内側に受け入れ、それによって再シール可能部材をベース内にしっかりと固定する。
【0015】
再シール可能部材126は、好ましくは、クラトンR(KRATONR)の登録商標でシェル石油社(Shell Oil Co.)により発売された高分子物質との混合物等の弾力性のある高分子物質、及びエンゲージTM(ENGAGE TM)もしくはエグザクトTM(EXACT TM)の登録商標でダウ・ケミカル・カンパニー(Dow Chemical Co.)により発売されたポリエチレン等の低密度ポリエチレンからなる。再シール可能部材126の特性で重要なことは、針、注射器もしくはそのような注射部材を再シール可能部材に差し込んだ後、ガス密封シールを形成するために再シール可能なことである。好ましくは、再シール可能部材は、関連技術における当業者には既知であり以下に更に述べる方法で、針で穴をあけた区域を加熱することによりシールされ得る。上述の混合ポリマーによる利点は、混合ポリマーは、クラトンR(KRATONR)そのものに比べ、薬剤がポリマーに吸収され得る程度を最小限に抑えることで知られていることである。」
ウ.「【0021】
図4乃至図8では、本発明を実施する別の再シール可能キャップを、概して参照番号210で表示する。再シール可能キャップ210は、 基本的には上述した再シール可能キャップ110と同様であるため、数字「1」の代わりに数字「2」で始まる類似した参照番号を用いて類似の構成部分であるということを示唆している。図4及び図6に示すように、キャップのベース212は、上部周壁217の内側に環状溝230を画成する。図4及び図7に最もよく示されているように、再シール可能部材226のベース232の周囲面に、環状の突起部もしくは隆起224を、対応するベース212の環状溝230内に擦るように入るように採寸して画成することによって、再シール可能部材をベースに固定する。図6に示すように、ベース212は、下部周壁215の外側に、瓶214の内壁が擦るように係合するように軸方向に相対して相隔たる複数の突起部もしくは隆起224を更に画成することにより、キャップを瓶内に固定し、キャップと瓶の密閉維持を促す。図7及び図8に最もよく示されているように、再シール可能部材226の上面内には、円形の貫通可能領域248を画成する環状突起部もしくは隆起246が画成され、以下に更に述べるように、充填針もしくはそのような器具を受ける。図5に示すように、ロック部材もしくはクリンプリング234は、上側に中央開口250を画成し、再シール可能部材226の環状突起部246を受け入れる。
【0022】
好ましくは、いかなる薬剤もしくは他の液体をも瓶内に導入する前に、上述したように、そして図4に示すように、再シール可能キャップ210と瓶214を組み立て、ロック部材234を適所でクリンプする。」
エ.「【0031】
第11図を参照する。各瓶の再封止部材226の直接加熱焼灼或いはレーザー焼灼の後に、瓶は(例えば振動駆動の)支持体256内を移動させられて充填位置280に入っていく。充填位置280は針或いは針状の注入部材282を備え、針或いは針状の注入部材282は支持体256上方に第11図に矢印で示されているように往復可能に取りつけられ、充填位置280を通過している各瓶/キャップアセンブリーの再封止部材226の貫通可能領域248と軸方向に整合する。駆動源284が針282に接続されて針282を往復駆動させて各キャップ210に係合し、係合からはずすように駆動する。薬貯蔵槽或いは他の製剤貯蔵槽286は、所定の薬あるいは他の製剤を針を通して瓶内に導入するために針と流体連通されている。本発明の好ましい実施例において、針282は内部に複数個の流体路を画成しており、所定の薬或いは製薬を第11図に矢印で示されているように瓶へ注入する第1流体路288と、瓶の内部空腔に薬品あるいは他の製薬を充填する前に及び/或いは充填している間に瓶の内部空腔から空気あるいは他の気体を引出す第2流体路290とを備えている。本発明の図示の実施例において、針282は“ダブル・ルーメン” 針であり、所定の薬或いは製薬を瓶内に注入するための中央流体路288と、置換された空気あるいは他の気体を瓶の内部空腔から引くための外方環状流体路とを画成している。
【0032】
第12A図乃至第12D図に示されているように、薬あるいは製剤を瓶に充填し針282をキャップ210から引き抜いた後にキャップの貫通された貫通可能領域は引き抜かれた針の通路に沿って針穴294を画成する(第12B図)。キャップの加硫ゴム基板212は針を引き抜いた際に貫通された貫通可能領域において加硫ゴム基板同士が密着するのに十分な弾性を有し、従って瓶を封止された状態に維持する。しかし、上記したように、蒸気、気体及び/或いは液体は時間と共に針穴を通リ抜けるので、各瓶/キャップアセンブリーは封止位置を通されて、針が各瓶/キャップアセンブリーから抜かれた後直ちに第12C図に典型的に示されているようにキャップの再封止部材226が熱封止される。第12C図に典型的に示されているように、加熱部材あるいは面264は往復運動可能に上方に取りつけられ、充填位置内で受け取られた各瓶/キャップアセンブリーの貫通可能領域248と軸方向に整合される。駆動源272は加熱部材264に接続されて加熱部材264を各キャップの再封止部材と係合して係合から外れるように往復運動させる。第12C図に示されているように、加熱部材264は十分な温度に維持され、エラストマー材料を融着して針穴294を密閉封止するために再封止部材226の貫通された貫通領域に係合した状態に維持される。その結果、第12D図に典型的に示されているように、針穴は再封止部材の外側領域から消され、密閉封止がキャップと瓶との間に維持される。」
オ.「【0033】
本発明に関連する技術に精通した人にはここに教示されたことに基づいて認識されるかもしれないように、第12A図乃至第12D図の駆動源と加熱部材/面は上に記載したように、多くの異なる駆動源と加熱部材の任意の形態を取ることができる。しかし、第12C図に典型的に示されているように、加熱部材は、充填前にキャップの貫通可能領域を焼灼するための上記の加熱部材/面よりも小さい幅を画成してもよい。更に、封止用の加熱部材264の温度は、貫通された貫通領域を素早く融着して封止するために上記の加熱部材の温度よりも高くてよい。本発明の再封止可能キャップの1つの利点は、下地のゴム製基板212が瓶内の薬を加熱された領域から断熱して焼灼工程と熱封止工程を通して瓶内の薬を適切な温度範囲内に維持して薬への熱によるどのような悪影響も回避することである。」
そして、「再シール可能キャップ210は、 基本的には上述した再シール可能キャップ110と同様であるため、数字「1」の代わりに数字「2」で始まる類似した参照番号を用いて類似の構成部分であるということを示唆している。」と記載されているので(記載ウ参照)、記載イを参照しつつ、記載ウ及び第4ないし12図の記載をみると、次の事項が理解できる。
カ.瓶214は、チャンバ216を画成する。
キ.再シール可能キャップ210は、該キャップを瓶214内に固定するベース212と、ベース212の上部に固定される再シール可能部材226と、から形成され、瓶214の開口端に固定される。
記載エ、事項キ並びに図11及び12の記載からみて、次の事項が理解できる。
キ.針或いは針状の注入部材282が再シール可能キャップ210に差し込まれ、引き抜かれて、ベース212及び再シール可能部材226に針穴294が画成され、
その後、再シール可能部材226が熱封止され、再シール可能部材226に画成された針穴294を密閉封止し、針穴294は再シール可能部材226の外側領域から消される。

(2)そうすると、これらの事項からみて、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「瓶214により画成されるチャンバ216と、
瓶214の開口端に固定され、前記瓶との密封を維持する再シール可能キャップ210であって、該キャップを瓶214内に固定するベース212と、ベース212の上部に固定される再シール可能部材226と、から形成されるキャップと、
を含み、
針或いは針状の注入部材282が再シール可能キャップ210に差し込まれ、引き抜かれて、ベース212及び再シール可能部材226に針穴294が画成され、
その後、再シール可能部材226が熱封止され、再シール可能部材226に画成された針穴294を密封封止し、針穴294が再シール可能部材226の外側領域から消される、
装置。」

2.引用例2の記載
引用例2には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。)。
ア.「問題点を解決するための手段:
この発明の発明者らは、使用に際して便利な状態で密封された容器、および簡便に密封する方法を開発すべく鋭意研究の結果、ある種の粘性の樹脂が通常の雰囲気下で固化する性質を利用して容器の口部を密封すれば、従来の注射用カートリツジ等における栓体と同様に簡便に使用し得ることを見出し、この発明を完成した。
この発明の密封容器は、ガラス接着性を有しかつ通常の雰囲気下で固化する性質を有する粘性の樹脂を容器の口部内壁に接触するように注入し、該口部内で固化させることにより得られる。
この発明で栓体を形成するために使用される樹脂としては、ガラスに対して接着性を有し、通常の雰囲気中の水分等との反応により固化する性質を有し、かつ使用前は密閉容器中で粘性を保持するものであればいずれも使用できる。そして、これらの性質を有する樹脂はそれ自体で通常の雰囲気下に固化するいわゆる一液型であつてもよく、またキヤタリスト等の添加によつて通常の雰囲気下で固化するいわゆる二液型であつてもよい。具体的には一液型のものとして、一液型RTVゴムKE347、同KE3475(いずれも商品名、信越化学工業株式会社製)のシリコーンゴムが、また二液型のものとして、二液型RTVゴム KE103、同KE16、同KE1091、同KE1092(いずれも商品名、信越化学工業株式会社製)のシリコーンゴムが、好ましい樹脂として例示される。
この発明の容器としては、容器内の内容物の使用に際して開栓せず、栓体に刺入された注射針等を介してその内容物が排出使用されるようなものが好ましい。そのような容器の典型例としては、注射用薬剤を充填したカートリツジ、アンプル、バイアル等が挙げられるが、そのほか口部の内径が約7mm以下の容器であれば、この発明の方法により密封できる。
樹脂が一液型である場合は、密閉容器中に収容された粘性の樹脂を密封すべき容器の口部内壁に接触するように注入して固化させる。その際に、熱風または温湿風を容器の口部付近に当てゝ固化を促進してもよい。また、樹脂の注入速度を調節したり、樹脂の種類を選択することにより、固化した樹脂により形成される栓体の厚さを適宜調整することができる。
樹脂が二液型である場合は、使用直前に二液を混合し、以下一液型の場合と同様にして栓体を形成させる。」(第1ページ右下欄下から第3行?第2ページ左下欄第4行)
イ.「実施例:
以下、この発明の方法を実施例により具体的に説明する。
実施例1
注射液を充填したカートリツジの口部(内径3.2mm)内壁に接触するように一液型シリコーンゴムKE347T(商品名、信越化学工業株式会社製)を注入し、静置して樹脂を固化させる。このようにして密封されたカートリツジの縦断面を第1図に示す。
実施例2
注射液を充填したアンプルの口部(内径5.5mm)に接触するように、二液型シリコーンゴムKE1091(商品名、信越化学工業株式会社製)をよく混合して注入し、静置して樹脂を固化させる。このようにして密封されたアンプルの縦断面を第2図に示す。」(第2ページ左下欄第5行?右下欄第1行)
ウ.「発明の効果:
この発明の方法によれば、密封すべき容器の口部内壁に接触するように樹脂を注入し、固化させるだけの簡単な操作で容器を密封できる。そして、固化した樹脂により形成される栓体は弾性であり、従来の注射用カートリツジやバイアル等と同様に注射針を刺入して使用することができる。」(第2ページ右下欄第2?8行)
(2)そうすると、これらの事項からみて、引用例2には次の技術が記載されていると認められる。
「注射液を充填したカートリッジ又はアンプルの口部内壁に接触するように一液型シリコーンゴム又は二液型シリコーンゴムを注入し、静置して樹脂を固化させることにより、前記カートリッジ又はアンプルを密封し、固化した樹脂により形成される栓体は注射針を刺入して使用することができる。」

第5 対比

a.本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「瓶214により画成されるチャンバ216」は、瓶214の開口端に固定される再シール可能キャップ210により密封が維持されるから、本願発明の「周囲空気に対して封止可能なチャンバ」に相当する。
b.引用発明は、再シール可能部材226が「ベース212の上部に固定される」ものであるから、ベース212は、当然、再シール可能部材226が固定される面となる上面を有している。そして、引用発明は、「針或いは針状の注入部材282が」ベース212と再シール可能部材226とから形成される「再シール可能キャップ210に差し込まれ」るから、ベース212の前記上面にも、当然、針或いは針状の注入部材282が差し込まれる。更に、引用発明は、「針或いは針状の注入部材282が再シール可能キャップ210に差し込まれ、引き抜かれて、ベース212及び再シール可能部材226に針穴294が画成され、その後、再シール可能部材226が熱封止され、再シール可能部材226に画成された針穴294を密封封止し、針穴294が再シール可能部材226の外側領域から消される」ものであって、融着されるのは再シール可能部材226であり、ベース212は、瓶214内の薬を加熱された領域から断熱して熱封止工程を通して適切な温度範囲内に維持している(記載オ参照)ことからみて、再シール可能部材226が熱封止された後も、ベース212に画成された針穴294は画成されたままであると認められる。
そうすると、引用発明の「ベース212」及び「針或いは針状の注入部材282」は、それぞれ、「貫入可能部分」及び「充填部材または注入部材」に相当し、引用発明の、ベース212に画成された「針穴294」は、本願発明の「充填部材または前記注入部材の貫入痕である貫入開口」に相当する。更に、物の発明である本願発明において、貫入可能部分の、充填部材又は注入部材によって貫入可能な表面上には他部材である液体封止剤が設けられているから、引用発明の、ベース212の前記上面は、本願発明の「充填部材または注入部材によって貫入可能な表面」に相当する。
してみれば、引用発明の、「瓶214の開口端に固定され、前記瓶との密封を維持する再シール可能キャップ210」を形成する「該キャップを瓶214内に固定するベース212」であって、「針或いは針状の注入部材282が再シール可能キャップ210に差し込まれ、引き抜かれて、」「針穴294が画成され」るベース212は、本願発明の「前記チャンバと流体が流通可能な貫入可能部分であって、充填部材または注入部材によって貫入可能な表面を含み、前記充填部材または前記注入部材の貫入痕である貫入開口が形成されている、貫入可能部分」に相当し、引用発明の「瓶214の開口端に固定され、前記瓶との密封を維持する再シール可能キャップ210」を形成し、「ベース212の上部に固定される再シール可能部材226」であって、「針或いは針状の注入部材282が再シール可能キャップ210に差し込まれ、引き抜かれて、」「針穴294が画成され、その後、」「熱封止され、」「画成された針穴294を密封封止し、針穴294が」「外側領域から消される、」再シール可能部材226は、本願発明の「前記貫入可能な表面上に設けられ、前記貫入開口を密封するように前記貫入開口を覆う液体封止剤」と、貫入可能部分の貫入可能な表面上に設けられ、前記貫入可能部分に形成されている貫入開口を密封するように前記貫入開口を覆う部材である点で一致する。
c.以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりと認められる。
【一致点】
「周囲空気に対して封止可能なチャンバと、
前記チャンバと流体が流通可能な貫入可能部分であって、充填部材または注入部材によって貫入可能な表面を含み、前記充填部材または前記注入部材の貫入痕である貫入開口が形成されている、貫入可能部分と、
前記貫入可能な表面上に設けられ、前記貫入開口を密封するように前記貫入開口を覆う部材と、
を含む装置。」
【相違点】
貫入可能部分の貫入可能な表面上に設けられ、前記貫入可能部分に形成されている貫入開口を密封するように前記貫入開口を覆う部材について、本願発明は、液体封止剤であるのに対し、引用発明は、熱封止される再シール可能部材226である点。

第6 判断

相違点について検討する。
引用例2に記載された技術の、「注射液を充填したカートリッジ又はアンプルの口部内壁に接触するように」「注入」され、「静置して樹脂を固化」されることにより、「前記カートリッジ又はアンプルを密封」する「一液型シリコーンゴム又は二液型シリコーンゴム」は、本願発明の「液体封止剤」に相当する。
引用例1及び2を参照するに、引用発明と引用例2に記載された技術は、薬剤が導入される密封容器に係るものである点において、同一の技術分野に属するものである。更に、引用例1には、瓶214内の薬への熱による悪影響を回避すべきことが示唆されており(記載オ参照)、一方、引用例2に記載された技術は、通常の雰囲気下で固化する性質を有する樹脂を注入し、静置して固化させることにより密封するものであるから、当該技術が前記カートリッジ又はアンプル内に充填された物質へ熱による悪影響を及ぼさないことは、当業者にとって明らかである。そうすると、引用発明に引用例2に記載された技術を適用することは、当業者にとって容易である。
そして、引用発明において、ベース212は、再シール可能キャップ210を瓶214の開口端に固定するように機能し、ベース212に画成された針穴294を密封し、前記キャップと前記瓶との間の密閉封止を維持するよう機能するのは、再封止部材226であるから、引用発明に引用例2に記載された技術を適用するにあたり、再封止部材226に代えて、通常の雰囲気下で固化する性質を有する樹脂を採用し、針或いは針状の注入部材282をベース212から引き抜いた後に、ベース212上に通常の雰囲気下で固化する性質を有する樹脂を注入し、静置して固化させることにより、ベース212に画成された針穴294を該固化した樹脂の外側領域から消し、密閉封止が前記キャップと前記瓶との間に維持されるようにすることは、当業者が通常発揮する創作力の範囲内の事項である。そして、引用発明に引用例2に記載された技術を適用するにあたり、通常の雰囲気下で固化する性質を有する樹脂として、該樹脂が接触する前記ベース212等の部材に対する接着性を有する樹脂を選択することは、当業者が当然に考慮する事項である。

この点に関し、請求人は、平成30年10月11日付け意見書において、「引用文献1(当審注:本審決における引用例1)においては、針或いは針状の注入部材282をキャップ210から引き抜いたあと当該キャップ210に画成された針穴294が、キャップ210の再封止部材226を熱封止することにより再封止部材226の外側領域から消され、密閉封止がキャップ210と瓶との間に維持されることが記載されています。しかし、針穴294を密封するために液体封止剤を適用することは記載されていません。
引用文献2(当審注:本審決における引用例2)においては、カートリッジまたはアンプルの口部内壁に接触するように樹脂を注入し、この樹脂を口部内で固化させて栓体とし、カートリッジまたはアンプルを密封することが記載されています。しかし、引用文献2は、樹脂の使用を開示していますが、再封止の手段として開示しているのではなく、貫入痕である貫入開口を再封止する手段として開示しているのでもありません。カートリッジまたはアンプルのガラス容器の瓶口は、貫入痕ではありません。引用文献2は、カートリッジ等のガラス容器のあらかじめ開いている瓶口に対して樹脂を適用し、瓶口内で樹脂を固化させて栓を形成することを開示しているのみです。
したがって、引用文献2に開示された技術は、本発明および引用文献1に記載された発明とは根本的に異なるものです。つまり、本発明および引用文献1は、貫入可能な表面に後から形成された、すでに存在している貫入開口を封止する技術に関するものであるのに対し、引用文献2は、栓が存在しないところに栓を形成することを目的とするものです。このように、本発明および引用文献1に記載された発明と、引用文献2に記載された技術は、別個で関連のない技術的課題を対象としたものです。引用文献2は、本発明および引用文献1のように栓に形成された穴を再封止するための技術的解決策を示すものではなく、栓に後から針で刺されて形成された穴を再封止する方法を何ら示していません。よって、引用文献1と引用文献2では課題が相違し、これらの文献に記載された技術を組み合わせることは、容易ではありません。
また、本発明における貫入可能な表面および貫入可能部分に後から形成された貫入開口を封止するという技術的課題を解決するために、当業者は、新たな栓を形成する技術に係る引用文献2を参照することはしません。つまり、引用文献1に示された針穴を再封止するにあたり、引用文献2には栓の再封止に係る技術を開示しておらず、また引用文献2に記載された樹脂の適用が栓の再封止に有効であるという記載もないため、当業者は、引用文献1に記載された発明に、引用文献2に記載された技術を適用することはしません。」と主張している(【意見の内容】(3)(3-1)参照)。
確かに、引用例1には針穴294を密封するために液体封止剤を適用することは記載されておらず、引用例2に記載された技術が、貫入痕である貫入開口を再封止するものではないことは、請求人が主張するとおりである。しかしながら、引用発明と引用例2に記載された技術が、同一の技術分野に係るものであって、同一の効果を奏し得るものであることは、先に検討したとおりである。加えて、前記「第5 b」で検討したとおり、引用発明において、ベース212に画成された針穴294は、画成されたまま残存し、薬あるいは製剤が充填された瓶214を完全に封止するために別途封止を要するものであり、容器内への薬剤の導入に用いられ、薬剤が導入された容器を密封するために封止を要する点で、引用例2に記載された技術の、カートリッジ又はアンプルの口部と一致するから、引用発明において、ベース212に画成された針穴294を封止するために引用例2に記載された技術を採用することは、当業者にとって容易である。
したがって、請求人の前記主張は、認められない。

そして、本願発明の奏する効果に、引用例1及び2に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得る範囲を越えるものは見いだせない。
したがって、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-12-13 
結審通知日 2018-12-18 
審決日 2019-01-07 
出願番号 特願2015-49177(P2015-49177)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北村 一  
特許庁審判長 柿崎 拓
特許庁審判官 久保 竜一
堀川 一郎
発明の名称 再密封されるチャンバを有する装置およびチャンバの再密封方法  
代理人 特許業務法人YKI国際特許事務所  

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