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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01J
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01J
管理番号 1351963
審判番号 不服2017-10094  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-06 
確定日 2019-06-03 
事件の表示 特願2015-164024「有機物質由来の揮発性有機化合物の吸着」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月24日出願公開、特開2016- 40035〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年7月2日を国際出願日とする特願2012-516869号(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2009年7月2日(GB)英国)の一部を平成27年8月21日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成28年 7月28日付け 拒絶理由通知書
同年10月28日付け 意見書、手続補正書の提出
平成29年 3月 7日付け 平成28年10月28日の手続補正
についての補正の却下の決定、拒絶査定
同年 7月 6日付け 審判請求書、手続補正書の提出
同年10月11日付け 上申書の提出
同年12月20日付け 拒絶理由通知書(当審)
平成30年 2月16日付け 意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明について
本願の請求項1ないし24に係る発明は、平成30年2月16日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし24に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものであると認められる。

「【請求項1】
パラジウムドープされたZSM-5の使用であって、
有機物質由来の揮発性有機化合物(VOC)を吸着するものであり、
前記ZSM-5のSi:Alの比が、100:1以下であり、
前記パラジウムドープされたZSM-5が、1vol%、2vol%、3vol%または4vol%の酸素を含む環境で使用される、パラジウムドープされたZSM-5の使用。」

第3 当審の拒絶理由について
当審から平成29年12月20日付けで通知した拒絶理由のうち、新規性及び進歩性に関する理由の概要は次のとおりであり、以下の「第4」で、請求人の主張を踏まえ、その妥当性について当審の判断を示す。

(理由)本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
または、本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載の技術手段に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特表2009-513344号公報
引用文献2:Effects on Fruit and Vegetables、M.V.Rama et al.,ENCYCLOPEDIA OF FOOD SCIENCES AND NUTRITION、Second Edition、ACADEMIC PRESS、BENJAMIN CABALLERO et al.、2003、Vol.3、P1607?1615、(特に、第1608頁のTable1、Table2参照。)

第4 当審の判断
1.引用文献1の記載事項
(ア)「【0001】本発明は、有機物質に由来する揮発性有機化合物(VOC)の吸着に関する。より詳しくは、有機物質は、腐りやすい有機商品、例えば食品、でよい。・・・
【0009】一実施態様では、有機物質は、腐敗しやすい有機商品、例えば食品および園芸産物、からなる。食品は、果物および/または野菜を含んでなることができる。園芸産物は、植物および/または切り花を含んでなることができる。」
(イ)「【0016】本発明に関連する利点の一つは、VOCを比較的低い温度、例えば-10℃?50℃、より一般的には0℃?30℃、で吸着させることができることである。これによって、ドーピングされたZSM-5を、有機物質が一般的に見られる環境、例えば冷蔵庫、で、または常温で、複雑な加熱および空気循環装置の使用を必要とせずに、使用することができる。それにも関わらず、加熱および空気循環装置(例えば空調装置)を使用できる特別な用途の場合、ドーピングされたZSM-5を、例えば60℃を超える高温で操作することもできる。
【0017】一実施態様では、VOCはエチレンを含んでなる。エチレンは、植物から放出され、植物をしおれさせ、果物を熟成させることができる気体状ホルモンである。植物から発生するVOCを除去することにより、これらの過程を遅延させ、食品および園芸産物を、腐敗を促進することなく、長期間、移動および/または貯蔵することができる。従って、本発明は、特に食品および園芸産物を生産、輸送、輸出および購入する産業に応用される。初期の試験では、先行技術の方法と異なり、本発明の吸着剤を使用することにより、完熟後の果実の貯蔵寿命延長できることが示唆されている(Terry L, Ilkenhans T, Poulston S, Rowsell EおよびSmith AWJ, Postharvest Biol. and Tech.-提出)。すなわち、完熟呼吸増加が開始された後でも、パラジウムドーピングされたZSM-5を使用してエチレンを吸着することにより、果物のそれ以上の熟成が防止される(あるいは、少なくとも熟成速度が遅くなる)。
(ウ)「【0027】
例1
ドーピングされた担体の調製
吸着剤とも呼ばれるドーピングされた担体は、初期湿潤含浸処理方法(incipient wetness impregnation method)を使用して調製した。典型的には、担体(例えば、ゼオライトの水素形態)20 gを、適切な金属の(例えばパラジウム)の硝酸塩または塩酸塩で含浸させ、次いで110℃で乾燥させてから、空気中、500℃で2時間か焼した。」
(エ)「【0028】
例2
エチレン吸着測定
測定は、21℃の栓流反応器中で、粒子径250?355μmのドーピングされた担体0.1 gを使用し、O_(2)10%、C_(2)H_(4)200 ppm、水約1%(存在する場合)、残部He/Arを含んでなるガスの流量50 ml/分で行った。」
(オ)「【0032】
例4
金属ドーピングされたZSM-5およびAl_(2)O_(3)上のKMnO_(4)による「湿潤」エチレン吸着
例1により製造した2.5重量%Pd/ZSM-5(23)の試料、およびAl_(2)O_(3)上5重量%KMnO_(4)(Condea、140 m^(2)/g)を、それらのエチレン吸着容量に関して、例2により試験した。これらの材料を、乾燥時に、および水を含むデシケーター中に常温で設定時間置くことにより、水に露出した後で、試験した。この実験の結果を下記の表に示す。」

(カ)「【0034】さらに、2.5重量%M/ZSM-5、M=Pt、Co、Ni、Rh、Ru、Ir、Mo、Cu、W、V、およびAu(全てSiO_(2):Al_(2)O_(3)比23による)を例1により製造し、上記のように水に露出した後、それらのエチレン吸着容量に関して試験した。測定したエチレン吸着容量は、全ての試料で60μlg-1であった。」
(キ)「【0036】
例5
果物からのエチレン吸着
バナナ(重量約150 g)を容積1.15リットルの気密容器中に入れ、約1日放置した。CO_(2)およびエチレン濃度の経時増加を、ガスクロマトグラフィーを使用して測定した。次いで、容器中に吸着剤(2.5重量%Pd/ZSM-5)0.2 gを入れ、この実験を繰り返した。
【0037】
図4から分かるように、バナナ単独では、CO_(2)およびエチレン濃度が大体直線的に増加したのに対し、吸着剤が存在する場合には、エチレン濃度は検出できる程の増加を示さないが、CO_(2)は前とほぼ同じ速度で増加し、同等の呼吸速度を示した。
【0038】
さらに実験を、同じ気密容器中に様々な果物を入れて約20時間放置して行い、下記の結果を得た。」

2.引用文献1に記載された発明
i)引用文献1の記載事項(キ)には、「例5」として、「吸着剤(2.5重量%Pd/ZSM-5(23)0.2g)」と各種果物等を容器内に入れて約20時間放置したときの「エチレン濃度/ppm」を示す実験結果について、「バナナ」に対しては「0.0ppm」、「モモ」に対しては「1.5ppm」、「トマト」に対しては「0.0ppm」と、いずれも「エチレン濃度/ppm」が少なかったこと、すなわち上記の「ZSM-5」がエチレンを多く吸着することが示されているといえる。
ii)また、同(カ)には「SiO_(2):Al_(2)O_(3)比23」と記載され、上記「ZSM-5(23)」の「23」は「SiO_(2):Al_(2)O_(3)比」であるといえる。
さらに、同(ウ)(オ)には、「2.5重量%Pd」がパラジウムのドーピングであることが記載されている。
iii)すると、本願の請求項1の記載に則して整理すれば、引用文献1には、
「パラジウムドープされたZSM-5の使用であって、
バナナ、モモ、トマト由来のエチレンを吸着するものであり、
前記ZSM-5のSiO_(2):Al_(2)O_(3)比が23である
パラジウムドープされたZSM-5の使用。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

3.本願発明と引用発明との対比
i)引用発明の「バナナ、モモ、トマト由来のエチレン」は本願発明の「有機物質由来の揮発性有機化合物(VOC)」に相当する。
ii)引用発明の「ZSM-5のSiO_(2):Al_(2)O_(3)比が23である」ことは、「Si:Alの比」に換算すれば「11.5:1」になるので、本願発明の「ZSM-5のSi:Alの比が、100:1以下であり」に相当する。
iii)以上から、本願発明と引用発明とは、
「パラジウムドープされたZSM-5の使用であって、
有機物質由来の揮発性有機化合物(VOC)を吸着するものであり、
前記ZSM-5のSi:Alの比が、100:1以下である、パラジウムドープされたZSM-5の使用。」の点で一致し、次の点で一応相違する。

(相違点)本願発明では「パラジウムドープされたZSM-5が、1vol%、2vol%、3vol%または4vol%の酸素を含む環境で使用される」ものであるのに対して、引用発明では使用される環境が明らかでない点。

4.相違点の検討
i)以下に示す引用文献2の特にTable1に記載されるように、果物や野菜は、保存や輸送に際し、特定の酸素濃度雰囲気におくことで品質が長持ちすることは周知技術といえる(要すれば後記の周知例1ないし4も参照。)。
そして、引用文献2には、「Banana」「Peach」「Tomato」について当該酸素濃度雰囲気がそれぞれ「2-5%」「1-2%」「1-5%」であることが示されており、これらは本願発明の「酸素を含む環境」の酸素濃度に一致する。
ii)ここで、引用文献1の記載事項(ア)(イ)には、引用発明の「ZSM-5」は、「有機物質」としての「果物および/または野菜」から発生する「エチレン」等の「VOC」を吸着除去して「完熟後」のそれらの「貯蔵寿命延長」を達成し、それらの品質を長持ちさせ得ることが示され、同(キ)の「例5」は、そのことを踏まえて、引用発明の「ZSM-5」が「バナナ」「モモ」「トマト」から発生するエチレンを吸着できることを示すものであるから、引用発明は「果物および/または野菜」の品質を長持ちさせるために、「果物および/または野菜」から発生する「エチレン」等の「VOC」を吸着除去するものといえる。
iii)すると、引用文献2に記載される酸素濃度は果物や野菜の品質を長持ちさせるための周知技術であるから、引用発明と同じ目的の同周知技術を踏まえれば、引用発明においても酸素濃度を本願発明の「酸素を含む環境」として列記された1?4%の範囲に当然に維持しているものということができる。
そうであれば、本願発明は引用文献1に記載されているといえる。
iv)また、引用発明の酸素濃度が上記範囲の濃度にないとしても、果物や野菜の品質を長持ちさせるという目的のために、引用発明に、引用文献2に記載の周知技術を適用して、1?4%の低酸素環境でエチレンを吸着することで、より長期間のバナナ等の果物の品質の維持を図ろうとすることに何らの困難性も見いだせず、本願発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(引用文献2 Table1)

○周知例1:特開昭63-317039号公報
特許請求の範囲、2頁右上欄3-16行
○周知例2:特開2001-212418号公報
【0002】ないし【0004】
○周知例3:特開平3-280827号公報
1頁右下欄9行-2頁右上欄5行
○周知例4:特開昭64-31838号公報
1頁右下欄7行-2頁左上欄8行

5.請求人の主張について
(1)請求人の主張
請求人は、平成30年2月16日付け意見書において、概ね次のように主張する。
「引用文献1においては、使用環境として、冷蔵庫やその温度が記載されるのみであり、酸素濃度を変更することにより、吸着性能が変化することについては全く認識しておりません。そのため、審判官殿の上記認定には承服することができず、本願請求項1にかかる発明は新規性を担保していると思料いたします。
そればかりか、段落[0019]においては、「湿った」環境下において使用することが通常である旨の記載があります。
また、段落[0039]および[0048]に記載されるように、エチレン吸着を可能にするのはパラジウムの存在であること、エチレン吸着能は、ドーピングレベルにより変化する旨が記載されております。
したがって、引用文献1に接した当業者は、エチレン吸着能を向上させるため、パラジウムの使用量およびドーピングレベルを調整しようとは考えたとしても、使用環境における酸素濃度を変更しようとは到底考えないのであります。
また、引用文献2は、果物の保存や輸送に適した環境が開示されるのみであり、その環境下にした場合に、パラジウムドープされたZSM-5の吸着性能が向上することについては何ら記載されておりません。
そのため、引用文献1の発明の吸着性能の向上目的とし、引用文献2において開示される技術的事項を当業者は組み合わせようとはしないものと思料いたします。
仮に、組み合わせようとする動機が存在したとしても、本願発明の該効果は引用文献1および2のいずれにもおいても認識されておらず予想外のものであるといえると思料いたします。」
(2)当審の判断
上記請求人の主張に対し、当審は次のように判断する。
i)引用文献1には、「2.5重量%Pd/ZSM-5(23)」に「O_(2) 10%」の環境下でエチレンを吸着させる実験(引用文献1の記載事項(エ)(オ)等を参照。)を行ったことが記載され、空気中の酸素含有量が20%程度であることを勘案すれば、「O_(2) 10%」は十分に低い濃度の酸素ガスが使用されているものといえるので、上記周知技術を踏まえれば、引用発明においても、エチレン吸着において酸素濃度も低くすべきことが認識されていたといえるものである。
ii)次に、本願発明の効果について検討するに、本願明細書の【表1】(【0031】)に記載された「実施例2」の結果を参酌しても、エチレン吸着能力の顕著な向上が確認できるのは、無酸素(O_(2)濃度 0vol%)の場合であって、「1vol%」「2vol%」「4vol%」の場合ではない。
そして、引用文献1には、上記本願明細書の「実施例2」と同様の湿潤条件下で「O_(2) 10%」で、「粒子径250?355μm」の「2.5重量%Pd/ZSM-5(23)」にエチレンを吸着させた場合に、「4162μg/l」「3753μg/l」の相応の吸着能力があったことが記載(引用文献1の記載事項(エ)(オ)を参照。)されているのだから、上記本願明細書の【表1】(【0031】)に記載されたO_(2)濃度「1vol%」「2vol%」「4vol%」の吸着能力(3600?3800μg/l)が、引用文献1の上記記載から予期し得ないものとはいえない。
したがって、請求人の上記主張は採用し得ない。

第5 むすび
以上から、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に記載された発明に言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-13 
結審通知日 2018-03-16 
審決日 2018-03-27 
出願番号 特願2015-164024(P2015-164024)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (B01J)
P 1 8・ 121- WZ (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神田 和輝  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 山崎 直也
中澤 登
発明の名称 有機物質由来の揮発性有機化合物の吸着  
代理人 浅野 真理  
代理人 末盛 崇明  
代理人 中村 行孝  

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