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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1351991
審判番号 不服2017-15745  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-24 
確定日 2019-05-23 
事件の表示 特願2014-542204「胃ろう栄養患者用栄養組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 4月24日国際公開、WO2014/061808〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

この出願は、2013年10月18日(優先権主張 2012年10月19日 (JP)日本国)を国際出願日とするものであって、平成29年5月1日付けで拒絶理由が通知され、同年6月23日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年8月7日付けで拒絶査定され、同年10月24日付けで手続補正書が提出されると同時に拒絶査定不服審判が請求されたものである。以後の手続は次のとおりである。
平成30年 6月26日付け 上申書(請求人)
同年 8月 1日付け 拒絶理由通知書(当審)
同年10月 2日付け 意見書及び手続補正書(請求人)
同年10月 3日付け 手続補足書(請求人)
同年12月10日付け 拒絶理由通知書(当審)
平成31年 2月 5日付け 意見書及び手続補正書(請求人)

第2 本願発明

本件出願の請求項1に係る発明(「本願発明」という。)は、平成31年2月5日付けで提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
胃ろう栄養患者用の栄養組成物であって、
誤嚥性肺炎のリスク管理を要する胃ろう栄養患者に投与されるものであり、
前記誤嚥性肺炎のリスク管理を要する胃ろう栄養患者は、寝たきりで、60歳以上で、かつ、過去に誤嚥による感染症である誤嚥性肺炎を発症したことがある胃ろう栄養患者で、
前記胃ろう栄養患者用の栄養組成物は液状で、蛋白質源、炭水化物源、及び脂質源を含有し、
前記蛋白質源がアミノ酸のみからなり、
誤嚥性肺炎の発症を抑制することを特徴とする、胃ろう栄養患者用栄養組成物。」

第3 当審で通知した拒絶理由の概要

当審において平成30年8月1日付けで通知した拒絶理由は、本件出願の請求項1?8に係る発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

第4 当審の判断

(1)引用文献に記載された事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献1?4、7?10には、それぞれ下記の事項が記載されている。

・引用文献1:日本医薬品集 医療薬 2009年版(株式会社じほう,2008年9月1日発行)1239-1242頁、「栄養剤 325 経腸成分栄養剤 parenteral nutrition」の項
(1a)
「組成 エレンタール100g(375kcal)中:L-イソロイシン803mg、L-ロイシン1124mg、L-リジン塩酸塩1110mg、L-メチオニン810mg、L-フェニルアラニン1089mg、L-トレオニン654mg、L-トリプトファン189mg、L-バリン876mg、L-塩酸ヒスチジン626mg、L-アルギニン塩酸塩1406mg、L-アラニン1124mg、L-アスパラギン酸カリウム・マグネシウム1295mg、L-アスパラギン酸ナトリウム一水和物1084mg、L-グルタミン2415mg、グリシン631mg、L-プロリン788mg、L-セリン1449mg、L-チロジン138mg、デキストリン79.26g、クエン酸ナトリウム水和物770mg、塩化カリウム188mg、グリセロリン酸カルシウム1031mg、グルコン酸第一鉄二水和物19.4mg、硫酸亜鉛水和物9.85mg、硫酸マンガン五水和物1.63mg、硫酸銅1.03mg、ヨウ化カリウム24.5μg、チアミン塩化物塩酸塩242μg、リボフラビンリン酸エステルナトリウム320μg、ピリドキシン塩酸塩334μg、シアノコバラミン0.9μg、パントテン酸カルシウム1.49mg、ニコチン酸アミド2.75mg、葉酸55μg、ビオチン49μg、酒石酸水素コリン22.41mg、アスコルビン酸9.75mg、レチノール酢酸エステル810IU、トコフェロール酢酸エステル4.13mg、エルゴカルシフェロール1.6μg、フィトナジオン11μg、ダイズ油636mg」(1239頁右欄下から35?17行)

(1b)
「効能・効果 エレンタール 消化をほとんど必要としない成分で構成された極めて低残渣性・易吸収性の経腸的高カロリー栄養剤で成分栄養剤でエレメンタルダイエットまたは成分栄養と呼ばれる。一般に手術前・後の患者に対し、未消化態蛋白を含む経管栄養剤による栄養管理が困難なとき用いることができるが、特に次の場合に使用する:(1)未消化態蛋白を含む経管栄養剤の適応困難時の術後栄養管理 (2)腸内の清浄化を要する疾患の栄養管理 (3)術直後の栄養管理 (4)消化管異常病態下の栄養管理(縫合不全、短腸症候群、各種消化管ろう等) (5)消化管特殊疾患時の栄養管理(クローン病、潰瘍性大腸炎、消化不全症候群、膵疾患、蛋白漏出性腸症等) (6)高カロリー輸液の適応が困難となったときの栄養管理(広範囲熱傷等)」(当審注:原文では(1)?(6)は丸囲み数字で記載されている。)(1240頁右欄34?44行)

(1c)
「用法・用量 エレンタール 80gを300mLとなるような割合で常水または微温湯に溶かし(1kcal/mL)、鼻腔ゾンデ、胃瘻または腸瘻から十二指腸あるいは空腸内に1日24時間持続的に注入(注入速度は75?100mL/hr)。また、必要により1回または数回に分けて経口投与もできる。標準量として1日480?640g(1800?2400kcal)を投与(適宜増減)。初期量は、1日量の約1/8(60?80g)を所定濃度の約1/2(0.5kcal/mL)で開始し、患者の状態により、徐々に濃度および投与量を増加し、4?10日後に標準量に達するようにする。調製法は添付文書参照」(1240頁右欄下から4行?1241頁左欄5行)

(1d)
「使用上の注意
エレンタール ・・・(略)・・・
高齢者への投与 一般に高齢者では生理機能が低下しているので投与量、投与速度に注意して投与する 」(1241頁右欄12行?下から12行)

・引用文献2:特開2008-44861号公報
(2a)
「【0001】
本発明は、高齢者や要介護者が罹りやすい誤嚥性肺炎の予防剤に関する。・・・(略)・・・
【0002】
肺炎はわが国における死因別死亡率が第4位であり、その死亡の多くが高齢者である。また、高齢になるほどその死亡率も高くなる傾向にある。」(段落【0001】?【0002】)

(2b)
「【0006】
このように高齢者や要介護者において、特に誤嚥性肺炎は重大な問題として認識されており、・・・(略)・・・。」(段落【0006】)

(2c)
「【0007】
したがって、本発明は、肺炎リスクの高い高齢者や要介護者向けに、有効でしかも手軽な誤嚥性肺炎予防剤を提供することを課題とする。」(段落【0007】)

(2d)
「【0017】
・・・(略)・・・
それらの中でも、口腔内でその有効性を持続的に発現できるようなタブレット、口腔内崩壊錠やゼリー剤、ゲル剤が好適である。高齢者や要介護者は、摂食嚥下障害や、唾液分泌量が低下している等の生理的特徴を有している場合が多いからである。」(段落【0017】)

・引用文献3:大野 敬祐、他5名,胃瘻造設後の合併症を予防するための空腸瘻同時造設術,臨床外科,金原 優,株式会社医学書院,2003年8月,Vol. 58, No.8,p1149-1152
(3a)
「今日,在宅医療を念頭に置き,嚥下困難患者に対して経皮内視鏡的胃瘻建造術(PEG)が施工されるようになり,患者が経鼻胃管から解放され,問題となる胃食道逆流,誤嚥性肺炎の軽減を期待できると報告されている^(6?10)).
高齢者の肺炎の大半は気管支肺炎であり,感染経路としては嚥下性肺炎が最も重要で頻度が高い.誤嚥の経路としては,(1)食事摂取時に食物を誤嚥する,(2)唾液とともに口腔内常在菌を誤嚥する,(3)逆流した胃内容物を誤嚥するなどがあげられるが,なかでも頸静脈栄養および経鼻胃管からの経腸栄養が行われる嚥下困難患者にとって(3)の不顕性誤嚥(micro aspiration)による嚥下性肺炎が最も重要な病態であり,主治医にも気づかれないことが多い.反復性誤嚥性肺炎はQOLを低下させ,予後も不良であり,予防が重要となる.
脳血管障害や痴呆の患者が長期に臥床し,経鼻胃管による栄養管理を余儀なくされると,下部食道括約部の機能不全による胃食道逆流をきたし、それに基づく嚥下性肺炎はかなりの高頻度で発症する^(6)).そのため、経鼻胃管から胃瘻へと経腸栄養のルートを変更しても,嚥下性肺炎の遷延する症例も少なくない^(11,12)).」(当審注:原文では(1)?(3)は丸囲み数字で記載されている。)(1151頁左欄5?27行)

(3b)
「小川ら^(12))は経鼻胃管によらないPEGの施工症例の胃食道逆流を指摘している.井上ら^(13))はPEGの対象となることの多い脳血管障害患者において上部消化管運動機能が低下し、胃内容の停滞により胃食道逆流が引き起こされるとしている.さらにPEGそのものが胃排出能を低下させるという可能性も報告されており,胃排出機能改善も重要であることが示唆される.」(1151頁右欄4?12行)

(3c)
「胃瘻増設後の合併症としての胃食道逆流やそれに対する経腸栄養のルート変更も多数報告されている.」(1151頁右欄13?15行)

・引用文献4:国際公開第2006/001492号
(4a)
「大きな手術をした患者や消化能力が低下している高齢者は、食物を吸収可能な状態まで消化できないため充分な栄養を取ることができず、それが病気に対する抵抗力や回復力を落とす原因となる。液状栄養剤はそういった患者の栄養保持・管理に用いられ、特に経口的食事摂取が困難な場合の経管栄養補給に使用される。経管で投与される液状栄養剤は経腸栄養剤と呼ばれているが、これは鼻腔チューブ、胃ろうまたは腸ろうより、胃、十二指腸または空腸に投与される。」(1頁8?14行)

(4b)
「経腸栄養剤は消化態栄養素や成分栄養素を配合し液状で供せられるが、摂取により副作用として下痢や胃食道逆流・誤嚥の発生率が高く、患者自身のQOLおよび臨床現場従事者にとって問題になっている。」(1頁15?18行)

(4c)
「液状栄養剤の副作用である下痢は、手術前後の絶食や手術侵襲による消化管生理機能の低下はもちろんのこと、術後の経中心静脈栄養施行などによる長期間の消化管からの栄養不摂取、手術前後の絶食による消化管生理機能の低下が原因と考えられている。また老人など加齢により消化吸収能が著しく低下している患者や消化吸収能が未熟な乳幼児においても認められる。」(1頁20?24行)

(4d)
「液状栄養剤のもう1つの大きな問題点は胃食道逆流である。液状栄養剤を経管栄養や胃ろうより胃内投与する際に、仰臥位をとっている患者では食道へ逆流した胃内容物が気管や肺に侵入し、誤嚥性肺炎を発症することがある。誤嚥性肺炎は病者にとつて致命的になることもしばしばあるため、患者の命を預かる医療現場従事者にとっても極めて脅威であり、誤嚥の原因となる胃食道逆流の防止・予防が望まれている。」(1頁25行?2頁3行)

・引用文献7:特開2007-153739号公報
(7a)
「【0002】
従来、術前術後の患者や、通常の食物の経口摂取が不可能な寝たきり老人等の栄養補給方法としては、経静脈栄養法と経腸栄養法が挙げられる。さらに前記経腸栄養法には経鼻胃管栄養法と経胃瘻栄養法がある。」(段落【0002】)

(7b)
「【0006】
経胃瘻栄養法で使用する栄養剤としては、現在専用のものが市販されていないため、経鼻胃管栄養法に使用する低粘度の経腸栄養剤を使用している。しかしながら、経鼻胃管栄養法と同様に下痢や胃食道逆流による誤嚥性肺炎に加え、胃瘻の瘻孔から前記栄養剤が漏れるといった問題が起こることも指摘されている。」(段落【0006】)

・引用文献8:特開2011-105677号公報
(8a)
「【0001】
本発明は,乳清ペプチド栄養剤に関し,長期間,経腸栄養を継続する高齢者に対して,胃内残留量を減少させ,胃食道逆流(gastroesophageal reflux:GER)を抑制する無脂肪消化態栄養剤に関するものである.」(段落【0001】)

(8b)
「【0002】
高齢者では,脳血管障害の後遺症や,パーキンソン病などの神経疾患の進行に伴う嚥下障害のため,経皮的内視鏡胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy:PEG)が施行され,胃瘻からPEGチューブを介して経腸栄養を行うケースが増加している.これにともない,GERによる誤嚥性肺炎や液状の栄養剤による下痢といった合併症もしばしば見られるようになった.これらの合併症は,患者の苦痛となり,QOL(quality of life)を低下させている.
こうした問題点を解決する方法の一つとして,増粘剤を用いた栄養剤の半固形化や,寒天を用いた栄養剤の固形化が開発され,普及しつつある(非特許文献1および2).半固形化あるいは固形化された栄養剤を胃瘻からPEGチューブを介して経腸栄養が行われた症例では,GERの発症頻度の減少などの効果が認められている.その反面,全身状態の悪化などに伴い,半固形化あるいは固形化した栄養剤を胃瘻からPEGチューブを介して経腸栄養を行っても,繰り返し誤嚥性肺炎などを発症する症例もあり,その限界もある.これは,胃瘻からPEGチューブを介して経腸栄養を行う高齢者にとって多大な苦痛であるとともに,看護・介護の側面からは,ケアの増加,マン・パワーの不足へとつながるほか,感染対策上でも,抗菌剤の使用量の増加,抗菌剤に対する耐性菌の出現など,医療上のデメリットも大きく,深刻な問題である.また,半固形化あるいは固形化に用いられる栄養剤の蛋白源は,一般的に分子量の大きい10000?100000ダルトン程度の蛋白質であるため,消化を必要とすることから,全身状態が悪化した高齢者の消化管に負担がかかる.」 (段落【0002】)

(8c)
「【0004】
本発明の目的は,上記の状況を鑑みてなされたもので,長期間,経腸栄養を継続する高齢者に対して,胃内残留物を減少させ,GERを抑制する乳性ペプチド栄養剤を提供するものである.」(段落【0004】)

・引用文献9:特開2010-150206号公報
(9a)
「【0002】
高齢や傷病、障害といった要因によって食物の経口摂取に困難をきたすものが栄養を摂取するための方法に経腸栄養法がある。経腸栄養剤は、鼻腔を経由して胃に挿入されたチューブを経由する経鼻胃管投与および胃瘻を経由した投与がある。胃瘻は患者の苦痛が少ないこと、嚥下リハビリテーションが容易であることから最近では胃瘻を経由した投与が普及してきている。
【0003】
経管栄養法の利用者の多くは術後患者や寝たきりの高齢者であるため、術後の傷や褥創からの細菌感染や個人の免疫力低下による感染が起こりやすい。また経腸栄養法利用者は胃腸の働きが低下しやすく、便秘や下痢便臭の悪化を伴うことが多い。」(段落【0002】?【0003】)

・引用文献10:特開2010-77102号公報
(10a)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者向けの機能食品および高齢者向けの医薬組成物の技術に関する。より詳細には、本発明は、胃瘻栄養法により栄養摂取している高齢者の発熱症状抑制用の機能食品および医薬組成物の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
介護を必要とする高齢者の40%以上および寝たきりの高齢者の半数以上は、タンパク質・エネルギー低栄養状態(PEM:protein energy malnutirition)に陥っており、このPEMは種々の疾患の併発および疲労回復の遅れをもたらし、高齢者における疾患症状の慢性化の要因となっている。一方、このように介護を要する高齢者では、通常の食餌による栄養状態の改善が難しく、経皮内視鏡的胃瘻(いろう)造設術(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy、本明細書においては以後「PEG」という)によって、外部から栄養物を直接腸に投与することで栄養状態の改善が行われている。」(段落【0001】、【0002】)

(2)引用発明
上記(1a)に摘記した「エレンタール」の組成において、「L-イソロイシン・・・L-チロジン」と列記される各種のアミノ酸以外に「蛋白質源」に該当する物質は含まれていない。また、「L-チロジン」は「L-チロシン」の異表記と認める。
そうすると、(1a)?(1c)より、引用文献1には、「胃ろう栄養患者用の栄養剤組成物であって、胃ろう栄養患者に投与されるものであり、100g中に、L-イソロイシン803mg、L-ロイシン1124mg、L-リジン塩酸塩1110mg、L-メチオニン810mg、L-フェニルアラニン1089mg、L-トレオニン654mg、L-トリプトファン189mg、L-バリン876mg、L-塩酸ヒスチジン626mg、L-アルギニン塩酸塩1406mg、L-アラニン1124mg、L-アスパラギン酸カリウム・マグネシウム1295mg、L-アスパラギン酸ナトリウム一水和物1084mg、L-グルタミン2415mg、グリシン631mg、L-プロリン788mg、L-セリン1449mg、L-チロシン138mg、デキストリン79.26g、ダイズ油636mgを含み、1kcal/mLになる割合で常水または微温湯に溶かして用いられ、その他に蛋白質源となる物質を含まない、胃ろう栄養患者用栄養組成物。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(3)対比・判断
引用発明の組成物の構成成分として列挙されるもののうち、デキストリンが炭水化物、ダイズ油が脂質であることは明らかである。そうすると、引用発明の「100g中に、L-イソロイシン803mg、L-ロイシン1124mg、L-リジン塩酸塩1110mg、L-メチオニン810mg、L-フェニルアラニン1089mg、L-トレオニン654mg、L-トリプトファン189mg、L-バリン876mg、L-塩酸ヒスチジン626mg、L-アルギニン塩酸塩1406mg、L-アラニン1124mg、L-アスパラギン酸カリウム・マグネシウム1295mg、L-アスパラギン酸ナトリウム一水和物1084mg、L-グルタミン2415mg、グリシン631mg、L-プロリン788mg、L-セリン1449mg、L-チロシン138mg、デキストリン79.26g、ダイズ油636mgを含み、その他に蛋白質源となる物質を含まない」ことは、本願発明の「蛋白質源、炭水化物源、及び脂質源を含有し、前記蛋白質源がアミノ酸のみからなる」ことに相当する。
よって、本願発明と引用発明とは、「胃ろう栄養患者用の栄養組成物であって、胃ろう栄養患者に投与されるものであり、蛋白質源、炭水化物源、及び脂質源を含有し、前記蛋白質源がアミノ酸のみからなることを特徴とする、胃ろう栄養患者用栄養組成物」である点で一致し、本願発明は投与対象である胃ろう栄養患者について「誤嚥性肺炎のリスク管理を要する胃ろう栄養患者」であり、かつ「寝たきりで、60歳以上で、かつ、過去に誤嚥による感染症である誤嚥性肺炎を発症したことがある胃ろう栄養患者」と特定されているのに対して引用発明はそのように特定されない点(以下、「相違点1」という。)、本願発明は「液状で、・・・誤嚥性肺炎の発症を抑制することを特徴とする」のに対して引用発明はそのように特定されない点(以下、「相違点2」という。)の二点で相違する。

上記相違点について検討する。
まず相違点1について見ると、摘記(3a)、(4a)、(7a)、(8b)、(9a)、(10a)より、食物の経口摂取が困難な術後患者や寝たきりの高齢者の栄養補給方法である経腸栄養方法として、経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG:Percutaneous Endoscopic Gastrostomy)による胃ろう栄養方法が普及していたことが理解でき、摘記(1d)によれば、引用文献1の「エレンタール」の投与対象として「高齢者」が具体的に想定されている。「高齢者」や「老人」は明確に年齢を定義されるものではないが、例えば高齢者の医療に関する各種法令等では、65?74歳を前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と規定しており、少なくとも65歳以上であれば一般に「高齢者」や「老人」に当たるといえるから、本願発明の「寝たきりで、60歳以上」であることは、胃ろう栄養患者の一つの典型に過ぎない。
また、摘記(2d)、(3b)、(4a)、(4b)、(7b)、(8b)には、総じて、高齢者や要介護者では消化能力が低下しているため胃内容の停滞による胃食道逆流・誤嚥が発生しやすく、それにより誤嚥性肺炎が起こることが記載されており、要するに「寝たきりで、60歳以上」の胃ろう患者においては胃食道逆流・誤嚥の発生による肺炎の発症の頻度が高いことが認識されていたといえる。摘記(8b)には誤嚥性肺炎が繰り返されることも記載されている。すなわち、「寝たきりで、60歳以上」の胃ろう患者は誤嚥性肺炎の発症リスクが高く、「誤嚥性肺炎を発症し」た経験を有することは珍しくないといえ、したがって何らかの「誤嚥性肺炎のリスク管理」を要することは、本願優先日当時に技術常識からみて当然であった。
そうすると、本願発明の「誤嚥性肺炎のリスク管理を要」し「寝たきりで、60歳以上で、かつ、過去に誤嚥による感染症である誤嚥性肺炎を発症したことがある胃ろう栄養患者」は、胃ろう栄養法が必要な患者の一つの典型に過ぎず、引用発明において投与対象の患者をそのように特定することは当業者が適宜なし得るものである。

次に相違点2について見ると、本願発明の「液状」は具体的に流動性や粘度などの指標によって定義されてはいない。この点につき本願明細書の発明の詳細な説明を参照すると、実施例1では「エレンタール(登録商標)」(味の素株式会社製)を水に溶解して1kcal/mL(760mOsm/L)に調製したものを用いたことが(段落【0085】)、実施例2では「200kcal/200mL」で用いたことが(段落【0097】)記載されており、半固形化するための処理などを行うことは記載されていない。つまり、本願発明の「液状」とは、例えば、市販品の「エレンタール」を特段の半固形化処理を行わず標準的な濃度で溶解したときの性状を含む、と解される。これに対し、引用発明の「1kcal/mLになる割合で常水または微温湯に溶かして用い」ることは、本願の実施例1及び実施例2と同じ濃度で調製することであり、引用文献1の「用法・用量」及び「使用上の注意」には「エレンタール」を使用する際に半固形化処理を行うことが必要であるなどといった記載はない(摘記(1c)、(1d))。結局、引用発明の胃ろう栄養組成物の性状は本願発明の「液状」に相当する。
引用発明の栄養組成物である「エレンタール」は、摘記(1b)より「消化をほとんど必要としない成分で構成された極めて低残渣性・易吸収性の経腸的高カロリー栄養剤」であって、「未消化態蛋白質を含む経管栄養剤の適応困難時」や「消化管異常病態下」、「消化管特殊病態下」の栄養管理にも適用できるから、本願発明の「誤嚥性肺炎のリスク管理を要」し「寝たきりで、60歳以上で、かつ、過去に誤嚥による感染症である誤嚥性肺炎を発症したことがある胃ろう栄養患者」、すなわち消化管機能の低下している患者において、胃食道逆流とそれによる誤嚥性肺炎を避けて栄養補給を行うために投与する栄養剤として、少なくとも組成の面では患者の負担が少ないという観点から「エレンタール」を選択することは当業者が容易に想到するものといえる。

次に、効果について検討する。
本願明細書の発明の詳細な説明に記載される実施例1には、胃ろう栄養患者において蛋白質源がアミノ酸のみからなる成分栄養剤である「エレンタール(登録商標)」(味の素株式会社製)を投与した場合と、蛋白質源として主にカゼインを含む半消化態栄養剤である「エンシュア(登録商標)リキッド」(アボット・ジャパン株式会社製)を、誤嚥性肺炎、尿路感染症、又は胆管感染症を発症したために入院した寝たきりの胃ろう栄養患者に投与した場合を比較し、「エレンタール」投与の場合に誤嚥性肺炎や下痢の発生を有意に抑制できたことが示され、また、実施例2には、「エレンタール」は胃ろう栄養患者において胃排出を速やかにすることが示されている。「エレンタール」についても「エンシュア リキッド」についても、特に半固形化あるいは固形化の処理を行うことは記載されておらず、いずれも「液状」で用いられたものと推測される。また、「エンシュア リキッド」の蛋白質源であるカゼインが乳由来の蛋白質であることは技術常識である。そうすると、実施例1からは、誤嚥性肺炎、胆管感染症、または尿路感染症で入院した高齢・寝たきりの患者に胃ろう栄養法で液状の栄養組成剤を用いた場合に、半消化態栄養剤「エンシュア リキッド」では誤嚥及び下痢が発生したが成分栄養剤「エレンタール」では発生しなかった、ということが確認でき、実施例2からは、胃ろう栄養患者では液状の半消化態栄養剤よりも液状の成分栄養剤の方が胃排出時間が短く、健常者で経口投与した場合には胃排出時間に有意差が見られなかった、ということが確認できる。
しかしながら、上に述べたとおり「エレンタール」は蛋白質を含む半消化態の組成物に比べて消化管に対する負担を軽減するものであるところ、引用文献8には、分子量の大きい蛋白質は全身状態が悪化した高齢者の消化管に負担がかかることを挙げた(摘記(8b))上で、分子量が蛋白質より小さい「乳性ペプチド」を含有し「無脂肪」である栄養剤が、胃内残留物を減少させ、胃食道逆流を抑制することが記載されている(摘記(8a)、(8c))。引用発明の栄養組成物である「エレンタール」は、ペプチドよりもさらに分子の小さいアミノ酸のみを蛋白質源とし、脂肪含有量についても100g中に636mg(0.636%)とごくわずかに含まれるのみであるから、引用文献8の記載に照らせば、胃内残留物を減少させ胃食道逆流・誤嚥を抑制すると期待できることは、当業者であれば認識できるといえる。
よって、実施例1、2のように、成分栄養剤「エレンタール」を用いた場合に半消化態栄養剤「エンシュア リキッド」に比べて良好な結果を得られたことは、当業者の予測を超える顕著な効果とまではいえない。

以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)請求人の主張について
請求人は、審判請求書において「一般的な患者に対する影響組成物(当審注:「影響」は「栄養」の誤記と認める)としては、半固形状の栄養剤のほうが液状の栄養剤よりも誤嚥性肺炎発症リスクが低いという認識は、本技術分野で本願の出願前に広く知られている」、「液剤は誤嚥性肺炎のリスクを起こすことが知られており、誤嚥のリスクの低下を予測することは出来ない」、「この従来の知見からすれば、当業者であれば、引用文献1に記載された栄養組成物を、蛋白質源としてアミノ酸のみからなり、かつ液状として調整したとして、この液剤を誤嚥性肺炎のリスク管理を要する胃ろうから投与した場合には、従来の胃内部で高粘度や半固形状になる栄養剤よりもかえって誤嚥性肺炎のリスクが高まるから、このような患者への投与、特に日中の50%以上を就床している胃ろう栄養患者等に対する投与は、控えようと考えるのが自然である。」等と述べる。そして、参考図[図1]を提示して、平均年齢72.4歳の寝たきりの胃ろう患者と健常者とにそれぞれ「本願の胃ろう栄養患者用栄養組成物」を与えた場合、健常者に比べて胃ろう患者では4時間後の胃排泄量が有意に多かったことを挙げつつ、「特に誤嚥性肺炎のリスク管理を要する胃ろう患者に投与した際の方が健常者に投与した場合に比べても明らかに、胃排泄促進効果に優れていることが示されている。この結果は、本願の胃ろう栄養患者用栄養組成物が特に誤嚥性肺炎のリスク管理を要する胃ろう患者への投与という目的において特に効果が優れていることを示し、引用文献からは到底予測することのできない効果である。」と述べる。
さらに、請求人は、平成30年10月2日付け意見書において「本願発明者による文献(J. Clin. Gastroenterol 2018、accepted、印刷中)を参考資料1として提出し、参考資料1を用いて再度説明する。参考資料1のFIGURE 1B,2Bにおいて、本願の胃ろう栄養患者用栄養組成物、ラコールNF配合経腸用半固形剤 (RACOL-NF Semi-Solid)を、胃ろう患者(Patient CPDR, FIGURE 1B)と健常者(Healthy CPDR, FIGURE 2B)に投与し、胃排泄を比較している。本試験の胃ろう患者は、本願発明の条件同様に特に誤嚥性肺炎のリスク管理を要する、平均年齢72.4歳で、寝たきりの胃ろう患者である。健常者は8名、胃ろう栄養患者は8名で行っている。健常者は栄養組成物を経口摂取している。FIGURE 1B, 2Bにおいて、特に誤嚥性肺炎のリスク管理を要する胃ろう患者に本願の胃ろう栄養患者用栄養組成物を投与した際の方がラコールNF配合経腸用半固形剤を投与した場合に比べても明らかに、胃排泄促進効果に優れていることが示されている。この結果は、本願の胃ろう栄養患者用栄養組成物が特に誤嚥性肺炎のリスク管理を要する胃ろう患者への投与という目的において特に効果が優れていることを示し、引用文献からは到底予測することのできない効果である。
なお、「ラコール」と「エレンタール」の成分の異同については、参考文献によれば、エレンタールが16.5%タンパク質(アミノ酸による供給)、79.5%炭水化物、0.64%脂質、3.36%ビタミン(粘度5MPas未満)に対して、ラコールが18%タンパク質、62%炭水化物、20%脂質(粘度6500-12500MPas)であり、タンパク質(アミノ酸)はラコールのタンパク質量に対して10%未満の差であり、消化の負荷を増す増粘剤などは用いられていない。」と述べる。

上記の請求人の主張は、要するに、半固形状の栄養組成物に比べて液状の栄養組成物は誤嚥性肺炎発症リスクが高いという技術常識を前提にして、その観点に立てば、引用発明の液状の栄養組成物を、誤嚥性肺炎のリスク管理を要する胃ろう患者に対して誤嚥性肺炎の発症を抑制するために投与するという動機付けがなく、また、実際に本願発明の液状栄養組成物を投与して誤嚥や下痢の発症が見られなかったという結果は、前記の技術常識からすれば当業者の予測を超えた顕著なものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないという判断は誤りである、というものである。
請求人の主張のうち、液状か半固形状かという栄養組成物の物理的性状の問題のみに限れば、胃ろう栄養法において誤嚥性肺炎発症リスクを低減する点で、従来の液状栄養組成物よりも半固形化した栄養組成物が有利であると認識されていたことは、引用文献8にも記載されており(摘記(8b))、確かにそのとおりである。
しかしながら、誤嚥性肺炎又はその原因となる胃食道逆流の発症リスクは単に栄養組成物の物理的性状だけではなく、多様な要因が関係していることもまたよく知られている。例えば、上記の引用文献4には、仰臥位をとっている患者では食道へ逆流した胃内容物が気管や肺に侵入し誤嚥性肺炎を発症すること(摘記(4d))が記載され、引用文献8には、半固形化あるいは固形化に用いられる栄養剤の蛋白源は分子量が大きく消化を必要とするために患者の消化管に負担がかかること(摘記(8b))、並びに、長期間、経腸栄養を継続する高齢者において、無脂肪消化態栄養剤である乳性ペプチド栄養剤によって胃内残留量を減少させ、胃食道逆流を抑制すること(摘記(8a)、(8c))が記載されている。また、半固形化栄養剤を用いても誤嚥性肺炎を繰り返す症例もあったこと(摘記(8b))から、半固形化されていれば必ず誤嚥性肺炎を抑止できるというものではないし、半固形化しなければ投与できない、という事情なども見当たらない。半固形化は胃食道逆流に影響する多様な要因のうちの一つであり、別の要因である組成の点から見れば、消化管への負担が少ない成分栄養剤である「エレンタール」は半消化態の栄養組成物よりも高齢・寝たきりの胃ろう栄養患者には適していると考えられた。
そうすると、半固形化が普及した背景を考慮しても、誤嚥のリスクの高い患者への投与に際して組成の点で有利な「エレンタール」は選択肢に入るものであり、そのような「エレンタール」を選択して投与することが当業者にとって格別の困難があったとはいえない。
そして、請求人が参考文献1によって示す実験結果を見ても、請求人の示す組成によれば「エレンタール」と比較される「ラコール」はアミノ酸よりもはるかに分子量の大きい蛋白質を蛋白源として含有するとともに脂質を20%含むことから、消化管に対する負担は「エレンタール」に比べてかなり大きいと考えられ、両者の結果の違いは単に液状か半固形状かという性状の違いによるものか明らかでない。
したがって、請求人の主張は採用できない。

第5 結び
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-03-25 
結審通知日 2019-03-26 
審決日 2019-04-09 
出願番号 特願2014-542204(P2014-542204)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡部 正博  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 榎本 佳予子
淺野 美奈
発明の名称 胃ろう栄養患者用栄養組成物  
代理人 高橋 詔男  
代理人 志賀 正武  
代理人 棚井 澄雄  
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