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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B62D
管理番号 1351995
審判番号 不服2018-4991  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-11 
確定日 2019-05-23 
事件の表示 特願2016-241498「壁面移動ロボット」拒絶査定不服審判事件〔平成30年6月21日出願公開、特開2018-95077〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年12月13日の出願であって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年 3月31日付け:拒絶理由通知書
平成29年 5月26日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年 8月21日付け:拒絶理由通知書
平成29年10月25日 :意見書、手続補正書(以下、この手続補正
書による手続補正を「本件補正」という。
)の提出
平成30年 1月11日付け:拒絶査定
平成30年 4月11日 :審判請求書の提出

第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明」という。)及び請求項2は、以下のとおりである。

「【請求項1】
駆動輪と、
前記駆動輪にトルクを与える移動用モータと、
前記駆動輪を壁面に押し付ける力を発生する2重反転プロペラと、
2以上の自由度を有し、前記2重反転プロペラの回転中心軸の向きを任意に変更できるように前記2重反転プロペラをロータとして保持するジンバル機構と、
前記駆動輪が連結される第1本体フレーム、および、前記ジンバル機構が連結される第2本体フレームを含むボディとを備え、
前記ジンバル機構は、前記第2本体フレームに対して回転できるように前記第2本体フレームに連結される第1ジンバル、および、前記第1ジンバルに対して回転できるように前記第1ジンバルに連結される第2ジンバルを含み、
前記第2ジンバルは前記2重反転プロペラを保持し、
前記2重反転プロペラの中心軸が前記ボディの前後方向と平行となる前記第1ジンバルの回転位相において前記ボディを平面視した場合、前記ボディの前後方向において前記第1ジンバルが前記第1本体フレームの幅内に収まるように前記第1ジンバルが構成されている
壁面移動ロボット。

【請求項2】
前記第1本体フレームは前記移動用モータを収容する収容部を備える
請求項1に記載の壁面移動ロボット。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明及びこの出願の請求項2に係る発明は、本願の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.Kiyoshi Ioi, Yuta Shimizu, and Masataka Kimura, "Experiments and Simulations of Wall Running and Transferring of A Climbing Robot", 2015 「International Symposium on INnovations in Intelligent SysTems and Applications」 (INISTA) Proceedings, (米), IEEE, 2015年9月2日, p.419-425, URL,(https://ieeexplore.ieee.org/document/7276782)

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
(1)引用文献1には、以下の事項アないしカが記載されている。
ア 第1ページ右欄第33ないし35行
Figure 2 shows the overview of the wall climbing robot. The mechanical body is classified into three parts: the thruster unit, the structure unit, and the wheel unit.
(当審による翻訳(以下単に「翻訳」という。):第2図は壁面移動ロボットの概略を示す。機械本体は、推力ユニット、構造ユニット部及び車輪ユニットの三つの部分に分けられる。)

イ Figure 2. Overview of wall climbing robot
(翻訳:第2図 壁面移動ロボットの概略)


ウ 第2ページ左欄第1ないし14行
The thruster unit has a set of coaxial propellers with inversely rotational directions, and generates the pressure force of 20 N against the wall with thruster forces of two propellers. The set of propellers rotates by a set of brushless AC motors. The direction of the thruster force is freely controlled by changing the tilt angle of a RC motor attached to the structure unit. The structure unit is formed as a truss- typed pyramid made of CFRP pipes to make the body light and strong. The structure unit has a 3D-motion sensor, an ultrasonic sensor, and a microcomputer SH7145F. Two DC servo motors and motor drivers are also attached to the structural pipes to drive a pair of wheels. Each DC servo motor has a rotary encoder to control the rotational angle of each wheel.
(翻訳:推力ユニットは、互いに反対の回転方向の一組の同軸プロペラを有し、二つのプロペラの推力により壁に対して20Nの押し付け力を発生する。一組のプロペラは一組のブラシレスACモーターを用いて回転する。推力の方向は、構造ユニットに取り付けられたRCモーターの傾き角を変化させることにより、自由に制御される。構造ユニットはCFRPパイプからなるトラス型ピラミッドとして形成され、本体を軽く頑丈にする。構造ユニットは、3次元モーションセンサー、超音波センサー及びマイクロコンピューターSH7145Fを有する。二つのDCサーボモーター及びモーター駆動部も構造パイプに取り付けられ、一対の車輪を駆動する。各々のDCサーボモーターはロータリーエンコーダーを有し、各々の車輪の回転角度を制御する。)

エ Figure 5. Appearance of human operation
(翻訳:第5図 人手操作の外見)


オ 第6ページ右欄第21ないし35行
Although many experiments verified the running performance on walls and the transferring capability between two different walls, these are limited to the straight running motions. That is because the thruster unit has only one degree of freedom corresponding to the tilt angle. For this reason, the present robot is not able to turn on vertical walls since the gravitational component along the vertical wall is not able to be cancelled by the thruster force by the coaxial propellers. Thus we are newly designing a thruster unit with two rotational degrees of freedoms as shown in Figure 17. The two degrees of freedom are realized by what is called, gimbal mechanism. By appropriately controlling the two gimbal angles, the climbing robot will be capable of free running and turning on any walls. In the near future, we will report and show some experiments of free motions of the robot on walls.
(翻訳:多くの実験により、壁上での走行性能及び二つの異なる壁間の移行能力が実証されたが、これらは直線走行動作に限られている。これは、推力ユニットが、傾き角に対応する、一つのみの自由度を有するためである。この理由により、現在のロボットは、垂直壁上で向きを変えることはできない。何故なら、垂直壁に沿う方向の重力成分を、同軸プロペラの推力により打ち消すことができないからである。故に、我々は、第17図に示される如く、二つの回転自由度を有する推力ユニットを新しく設計している。2の自由度はいわゆるジンバル機構により実現されている。二つのジンバル角度を適切に制御することにより、壁面移動ロボットはあらゆる壁上でも自由に走行し向きを変えることができるようになるだろう。近い将来、我々は、壁上でのロボットの自由な動きに係る幾つかの実験を報告し示すつもりである。)

カ Figure 17. Thruster unit with gimbal structure
(翻訳:第17図 ジンバル構造を有する推力ユニット)


(2)引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア 第2図及び第5図から、壁面移動ロボットが一対の車輪を有し、当該一対の車輪が車軸に連結されていることは、明らかである。

イ 第5図から、車軸から一対のフレームが、図面の右から左方向に沿って伸び、当該一対のフレーム間に二つのプロペラを有する推力ユニットが連結されていることは、明らかである。

ウ 第17図から、ジンバル機構は、外側のジンバルと、当該外側のジンバルに対して回転可能に連結される内側のジンバルとを含み、当該内側のジンバルは二つのプロペラを保持することは、明らかである。

エ 記載オ及び第17図から、ジンバル機構は2つの回転自由度を有し、外側のジンバル及び内側のジンバルの角度を制御することにより、二つのプロペラの回転中心軸の向きを変更できることは、明らかである。

(3)上記(1)アないしエ並びに(2)ア及びイから、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「一対の車輪と、
前記一対の車輪を駆動するDCサーボモーターと、
壁に対して押し付け力を発生するものであって、互いに反対方向に回転する一組の同軸プロペラと、
前記一組の同軸プロペラを有し、構造ユニットに取り付けられたRCモーターの傾き角を変化させることにより、推力の方向を変更できる推力ユニットと、
前記一対の車輪が連結される車軸、及び、前記一対の同軸プロペラを有する推力ユニットが連結される一対のフレームを含む構造ユニットとを含む、
壁面移動ロボット。」

(4)上記(1)オ及びカ並びに(2)ウ及びエから、引用文献1には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「外側のジンバル、及び、当該外側のジンバルに対して回転可能に連結される内側のジンバルを含み、内側のジンバルは一組の同軸プロペラを保持するジンバル機構であって、2の自由度を有し、外側のジンバル及び内側のジンバルの角度を制御することにより、一組の同軸プロペラの回転中心軸の向きを変更できるジンバル機構を設けることにより、壁面移動ロボットがあらゆる壁上で自由に走行し向きを変えることを可能とする技術。」

第5 対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「一対の車輪」は本願発明の「駆動輪」に相当する。
以下同様に、引用発明の「DCサーボモーター」は本願発明の「移動用モータ」に、引用発明の「互いに反対方向に回転する一組の同軸プロペラ」は本願発明の「2重反転プロペラ」に、引用発明の「車軸」は本願発明の「第1本体フレーム」に、引用発明の「一対のフレーム」は本願発明の「第2本体フレーム」に、引用発明の「構造ユニット」は本願発明の「ボディ」に、引用発明の「壁面移動ロボット」は本願発明の「壁面移動ロボット」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「推力ユニット」は「一組の同軸プロペラを有し、RCモーターの傾き角を変化させることにより、推力の方向を変更できる」ものであるから、本願発明の「2以上の自由度を有し、前記2重反転プロペラの回転中心軸の向きを任意に変更できるように前記2重反転プロペラをロータとして保持するジンバル機構」と、2重反転プロペラ(一組の同軸プロペラ)を保持する部材である点を限度として一致する。

そうすると、本願発明と引用発明は、以下の構成において一致する。
「駆動輪と、
前記駆動輪にトルクを与える移動用モータと、
前記駆動輪を壁面に押し付ける力を発生する2重反転プロペラと、
前記2重反転プロペラをロータとして保持する部材と、
前記駆動輪が連結される第1本体フレーム、および、前記保持する部材が連結される第2本体フレームを含むボディとを備える、
壁面移動ロボット。」

また、本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。
【相違点】
本願発明は「2以上の自由度を有し、前記2重反転プロペラの回転中心軸の向きを任意に変更できる」「ジンバル機構」を備え、「前記ジンバル機構は、前記第2本体フレームに対して回転できるように前記第2本体フレームに連結される第1ジンバル、および、前記第1ジンバルに対して回転できるように前記第1ジンバルに連結される第2ジンバルを含み、
前記第2ジンバルは前記2重反転プロペラを保持し、
前記2重反転プロペラの中心軸が前記ボディの前後方向と平行となる前記第1ジンバルの回転位相において前記ボディを平面視した場合、前記ボディの前後方向において前記第1ジンバルが前記第1本体フレームの幅内に収まるように前記第1ジンバルが構成されている」のに対し、引用発明はそのようなジンバル機構を備えない点。

第6 判断
1 相違点について
上記相違点について検討する。
引用文献1の記載オに接した当業者であれば、引用発明の壁面移動ロボットが、垂直壁上で向きを変えることができない、という課題を認識する。そして、引用文献1には、当該課題を解決するための手段として、上記第4の(4)で指摘したとおりの技術的事項が記載されていると認められる。
したがって、引用発明において、上記課題を解決する目的で、上記技術的事項を適用し、外側のジンバル、及び、当該外側のジンバルに対して回転可能に連結される内側のジンバルを含み、内側のジンバルは一組の同軸プロペラを保持するジンバル機構であって、2の自由度を有し、外側のジンバル及び内側のジンバルの角度を制御することにより、一組の同軸プロペラの回転中心軸の向きを変更できるジンバル機構を設けることは、当業者が容易に想到し得る。
そして、引用発明において、上記の適用をなすに当たって、外側のジンバルの幅方向の大きさ(以下「ジンバル幅」という。)を車軸の幅方向の大きさ(以下「車軸幅」という。)に対してどの程度のものとするかについて検討すると、ジンバル幅を車軸幅よりも大きくすることは、ジンバル機構の重量の増加をもたらし、壁面移動ロボットの取り回しを困難とするおそれがあるので、通常考えられず、むしろ、壁面移動ロボットの取り回しを容易とする観点から、ジンバル幅を車軸幅よりも小さいものとして軽量化を図ると考える方が自然である。
よって、引用発明において、上記の適用をなすに当たって、ジンバル幅を車軸幅よりも小さいものとすることは、当業者が適宜なし得る設計変更に過ぎない。

2 請求人の主張について
請求人は、審判請求書において「本件発明1の壁面移動ロボットは『前記2重反転プロペラの中心軸が前記ボディの前後方向と平行となる前記第1ジンバルの回転位相において前記ボディを平面視した場合、前記ボディの前後方向において前記第1ジンバルが前記第1本体フレームの幅内に収まるように前記第1ジンバルが構成されている』という構成(以下『本件構成』)を備えています。」(審判請求書第2ページ第18ないし22行を参照。)及び「本件発明1の壁面移動ロボットによれば、本件構成を備えるため、進行可能状態で移動する壁面移動ロボットに対して上下方向における下方側から上方側に向けて強風が吹きつけられる場合であっても、第1ジンバルに向かう空気の流れが第1本体フレームにより遮られます。このため、第1ジンバルが強風に晒されにくく、第1ジンバルの姿勢、および、2重反転プロペラの向きが安定します。このため、本件発明1の壁面移動ロボットによれば、過酷な環境下においても安定して走行できます。」(審判請求書第3ページ第15ないし21行を参照。)と主張する。
しかしながら、壁面移動ロボットに対して、下方側から上方側に向けて強風が吹きつける場合、第1ジンバルが強風に晒され、姿勢が安定しないおそれがあるという課題や、本願発明の壁面移動ロボットにおいては、強風が第1本体フレームにより遮られるため、強風下でも姿勢が安定するという効果は、本願の出願時の明細書又は図面には記載も示唆もされていない。
むしろ、本願の図面の図13、図14及び図16からは、第1本体フレーム(第1フレーム11)に対して肉抜き用の一対の矩形孔部(以下単に「肉抜き孔」という。)が設けられている点を看取できるので、仮に本願発明の壁面移動ロボットに対して、下方側から上方側に向けて強風が吹きつけた場合は、肉抜き孔の存在のため、強風は第1本体フレーム(ダイ1フレーム11)によりほとんど遮られることなく、第1ジンバルに吹き付けるため、請求人の主張する効果を奏することはできない、と解される。
よって、本件構成は、何らの格別の効果を奏するものではなく、上記「1 相違点について」で指摘したとおり、引用発明に対して引用文献1に記載された技術的事項を適用するに際し、当業者が適宜なし得る設計変更に過ぎないから、請求人の主張は採用できないものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-03-25 
結審通知日 2019-03-26 
審決日 2019-04-08 
出願番号 特願2016-241498(P2016-241498)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B62D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 貞光 大樹松田 長親木原 裕二藤井 浩介  
特許庁審判長 西村 泰英
特許庁審判官 篠原 将之
栗田 雅弘
発明の名称 壁面移動ロボット  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  

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