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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 E21D
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 E21D
管理番号 1352027
審判番号 不服2018-9776  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-17 
確定日 2019-06-19 
事件の表示 特願2014-234746「シールド掘進機用テールシール組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月30日出願公開、特開2016- 98521、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年11月19日の出願であって、平成30年2月28日付け(発送日:同年3月7日)で拒絶理由通知がされ、同年4月26日付けで手続補正され、同年5月8日付け(発送日:同年5月15日)で拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年7月17日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成30年5月8日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1 本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
2 本願の請求項1?4に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることできたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献一覧
1.特開平8-199183号公報

第3 本願発明
本願の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明4」という。)は、平成30年4月26日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
[A]基油中に水が分散した乳化油15?45質量%、
[B]固体粉体45?84質量%、および、
[C]繊維質1?10質量%
を含有するシールド掘進機用テールシール組成物であって、
前記[A]中の基油が、カルボン酸エステル、又はカルボン酸エステルと炭化水素油の混合油であり、そして
前記乳化油が、基油100質量部に対して、水4?20質量部と乳化剤8?40質量部を含有する、前記シールド掘進機用テールシール組成物。
【請求項2】
[A1]基油12?35質量%、
[A2]水1?8質量%、
[A3]乳化剤2?15質量%、
[B]固体粉体45?84質量%、および、
[C]繊維質1?10質量%
を含有するシールド掘進機用テールシール組成物であって、
前記基油が、カルボン酸エステル、又はカルボン酸エステルと炭化水素油の混合油であり、
前記水の含量が、基油100質量部に対して、4?20質量部であり、そして、
前記乳化剤の含量が、基油100質量部に対して、8?40質量部である、前記シールド掘進機用テールシール組成物。
【請求項3】
基油の引火点が240℃以上である請求項1または2に記載のシールド掘進機用テールシール組成物。
【請求項4】
乳化剤が、多価アルコール部分エステルである請求項1?3のいずれか一項に記載のシールド掘進機用テールシール組成物。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審決で付した。)。
ア「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は難燃性を有するグリース組成物に関する。」

イ「【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、様々な用途に用いられる難燃性に優れたグリース組成物を提供するものである。」

ウ「【0005】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明でいう基油としては鉱油および/または合成油を用いることができるが、特に鉱油が好ましく用いられる。
【0006】
鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留または減圧蒸留して得られる潤滑油留分をそのまま用いてもよいが、この潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等の精製処理を適宜組み合わせて精製したものも用いることができる。鉱油としてはパラフィン系、ナフテン系等いずれも用いることができるが特にパラフィン系鉱油が好ましい。
【0007】
また、合成油としては、例えば、ポリブテン、1-オクテンオリゴマー、1-デセンオリゴマー等のポリα-オレフィン;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン;ジトリデシルグルタレート、ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;ポリオキシアルキレングリコール;ポリフェニルエーテル;ジアルキルジフェニルエーテル;シリコーン油;パーフルオロアルキルエーテル等を挙げることができ、使用に際しては単独もしくは混合物として用いることができる。
【0008】
これら基油の粘度範囲は通常使用されている潤滑油の粘度範囲であるならばすべて使用可能であるが、特に40℃での動粘度が6?1000mm^(2)/s、好ましくは20?700mm^(2)/s、さらに好ましくは50?600mm^(2)/sであることが望ましい。
【0009】
本発明の必須成分である水の含有量は基油100重量部に対し、下限が30重量部、好ましくは40重量部;上限が100重量部、好ましくは80重量部である。水の配合量が30重量部未満である場合には十分な難燃性が得られないため好ましくない。また、100重量部を超える場合にはテールシール用グリースとして用いた場合に所望の耐水圧性が得られないため好ましくない。
【0010】
本発明の必須成分である乳化剤としては・・・ポリオキシエチレン系非イオン界面活性剤が好適に用いられる。」

エ「【0018】
次に本発明の必須成分である水酸化アルミニウムについて説明する。本発明で使用する水酸化アルミニウムは一般に、Al_(2) O_(3) ・xH_(2)O(xは通常2?4の範囲内)の組成をもつ粉末である。・・・」

オ「【0020】
本発明のグリース組成物はころがり軸受、すべり軸受、接点用、ワイヤーハーネス配線コネクター、ギヤー駆動部、シールド掘進機(エントランスパッキン部、ウレタンパッキン使用テールシール部、ワイヤーブラシパッキン使用テールシール部、屈曲部メカニカルシール部など)などに用いることができる。」

カ「【0023】
しかしながら従来のシール剤のシールド掘進機のテールシール部への充填作業中に、何らかの原因により発生する火花がシール剤に着火する可能性があることが懸念されており、シール剤に耐燃焼性を付与することが希求されていた。これらの事情を勘案し本発明者らは鋭意研究を進めた結果、耐水性および耐燃焼性を兼ね備えるテールシール部充填剤を想到するに至った。
【0024】
すなわち本発明においては、より好ましい態様として、基油100重量部に対し、(1)水30?100重量部、(2)乳化剤0.5?100重量部、(3)水酸化アルミニウム40?300重量部、および(4)繊維3?70重量部を配合することを特徴とするグリース組成物を提供する(以下、「態様1」とする)。
【0025】
本発明で用いる繊維としては合成繊維および/または天然繊維が挙げられる。・・・」

キ「【0035】
上記成分を通常の混和機などにより混和して本発明のグリース組成物を調製することができる。」

(2)引用文献1に記載された発明の認定
上記(1)から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「基油100重量部に対し、水30?100重量部、乳化剤0.5?100重量部、粉末の水酸化アルミニウム40?300重量部、および繊維3?70重量部を配合し、混和して調製されるシールド掘進機のウレタンパッキン使用テールシール部に用いるグリース組成物。」

第5 判断
1 特許法第36条第6項第1号について
(1)請求項1に係る発明について
請求項1には、基油中に水が分散した乳化油に関して、「[A]基油中に水が分散した乳化油15?45質量%・・・を含有するシールド掘進機用テールシール組成物であって、」及び「前記[A]中の基油が、カルボン酸エステル、又はカルボン酸エステルと炭化水素油の混合油であり、そして前記乳化油が、基油100質量部に対して、水4?20質量部と乳化剤8?40質量部を含有する」と記載されている。
一方、発明の詳細な説明において、段落【0011】には、「[A]乳化油 本発明の乳化油は、油中に水が分散したものである。油中水型エマルションを用いることもできる。通常、分散する水の平均粒子直径は0.1?100μmである。この乳化油の含有量は、組成物全量基準で15?45質量%であるが、好ましくは、20?40質量%、より好ましくは25?35質量%である。」と記載され、また、段落【0012】には、「[A1]基油
油相を形成する基油としては、水と分離する油分であれば用いることができ、潤滑油基油として用いられる油分を用いることができる。基油の含有量は、組成物全量基準で12?35質量%、特には20?30質量%が好ましい。具体的には、鉱油のような炭化水素、油脂などのエステル、エーテル、シリコーンなどを用いることができる。特には、鉱油、ポリαオレフィン、アルキルベンゼンなどの炭化水素化合物からなる炭化水素油や、天然油脂や合成エステルなどのエステル化合物であるカルボン酸エステルが好ましく用いられる。炭化水素油とカルボン酸エステルを混合して用いてもよい。」と記載され、また、段落【0016】には、「[A2]水 水相を形成する水の含有量は、組成物全量基準で1?8質量%、特には1.5?5質量%が好ましい。基油100質量部に対して、水4?20質量部、特には5?10質量部配合することが好ましい。」と記載され、さらに、段落【0017】には、「[A3]乳化剤 ・・・乳化剤の好ましい含有量は、組成物全量基準で2?15質量%、特には3?10質量%が好ましい。基油100質量部に対して、乳化剤8?40質量部、特には10?20質量部配合することが好ましい。」と記載されている。なお、発明の詳細な説明の段落【0033】には、請求項1において規定される基油100質量部に対する水及び乳化剤の質量部の数値範囲に含まれる乳化油の実施例が示されている。
そして、発明の詳細な説明の上記の記載をみれば、請求項1に記載された基油中に水が分散した乳化油に関する事項が、発明の詳細な説明に記載されていることは明らかである。
また、請求項1に記載された基油中に水が分散した乳化油に関する事項以外の事項も、発明の詳細な説明に記載されていることは明らかである。
したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した発明である。

(2)請求項2に係る発明について
請求項2には、基油、水及び乳化剤に関して、「[A1]基油12?35質量%、[A2]水1?8質量%、[A3]乳化剤2?15質量%、・・・を含有するシールド掘進機用テールシール組成物であって、」及び「前記基油が、カルボン酸エステル、又はカルボン酸エステルと炭化水素油の混合油であり、前記水の含量が、基油100質量部に対して、4?20質量部であり、そして、前記乳化剤の含量が、基油100質量部に対して、8?40質量部である」と記載されている。
請求項2に係る発明は、上記記載により、請求項1に係る発明において、規定された「乳化油」に代えて、「乳化油」を構成する「基油」、「水」及び「乳化剤」をそれぞれ重量%により規定するとともに、「含量」という用語を使って整理したものである。したがって、請求項2に係る発明は、「乳化油」を構成する「基油」、「水」及び「乳化剤」の各重量%が規定されていること以外は、請求項1に係る発明と実質的に同じである。
そして、上記(1)で示した発明の詳細な説明の記載をみれば、請求項2に記載された基油、水及び乳化剤に関する事項が、発明の詳細な説明に記載されていることは明らかであり、また、当該事項以外の事項についても、請求項1に係る発明と同様に、発明の詳細な説明に記載されていることは明らかである。
したがって、請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した発明である。

(3)請求項3及び請求項4に係る発明について
請求項3及び請求項4は、請求項1または請求項2のいずれかを引用するものであり、また、請求項3に記載された「基油の引火点が240℃以上である」点及び請求項4に記載された「乳化剤が、多価アルコール部分エステルである」点が、発明の詳細な説明に記載されていることは明らかであるから、請求項3及び請求項4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した発明である。

(4)原査定について
原査定では、発明の詳細な説明の段落【0005】(【発明が解決しようとする課題】)及び【0006】(【課題を解決するための手段】)の記載に加えて、段落【0032】及び【0036】(【実施例】)の記載を踏まえて、請求項1には、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであると説示された。
しかしながら、上記(1)で述べたように、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されており、また、各実施例において選択された数値及びその効果からみて、規定された数値範囲で実施例と同様の効果を奏することが推認できるので、解決するための手段が反映されていないとはいえない。
また、請求項2?4に係る発明についても同様である。

したがって、原査定の理由を維持することはできない。

(5)まとめ
上記(1)?(4)で説示したとおり、請求項1?4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した発明であるといえるので、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

2 特許法第29条第2項について
(1)対比・判断
ア 本願発明1について
(ア) 対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、
引用発明1の「シールド掘進機のウレタンパッキン使用テールシール部に用いるグリース組成物」は、本願発明1の「シールド掘進機用テールシール組成物」に相当する。
また、引用発明1の「基油」、「水」、「乳化剤」、「粉末の水酸化アルミニウム」及び「繊維」は、本願発明1の「基油」、「水」、「乳化剤」、「固体粉体」及び「繊維質」にそれぞれ相当する。
また、引用発明1の「基油」に「水」と「乳化剤」を混和して調製されるものと、本願発明1の「カルボン酸エステル、又はカルボン酸エステルと炭化水素油の混合油」である「基油」に対して「水」と「乳化剤」を含有させ、「基油中に水が分散した乳化油」とは、「乳化油」である点で共通する。
また、引用発明1の、混和して調製されるものの配合が、「基油100重量部に対し、水30?100重量部、乳化剤0.5?100重量部」であることと、本願発明1の「乳化油が、基油100質量部に対して、水4?20質量部と乳化剤8?40質量部を含有」することとは、乳化油が「基油100質量部に対して」、「水」と「乳化剤8?40質量部を含有」する点で共通する。

したがって、本願発明1と引用発明1との間に、少なくとも次の相違点があるといえる。

相違点1
乳化油の基油100重量部に対して含有する水の量について、本願発明1では、4?20質量部であるのに対して、引用発明1では、30?100重量部である点。

相違点2
基油について、本願発明1では、カルボン酸エステル、又はカルボン酸エステルと炭化水素油の混合油であるのに対して、引用発明1では、そのような特定がなされていない点。

(イ)相違点についての判断
上記相違点1について検討すると、
引用発明1は、難燃性に優れたグリース組成物を提供することを目的とするものであり、乳化油の基油100重量部に対して含有する水の量については、水30?100重量部と数値限定されている。当該数値限定のうち下限を30重量部としたのは、水の配合量が30重量部未満である場合には十分な難燃性が得られないからである。
そうすると、引用発明1において、基油100重量部に対して含有させる水の量を、30重量部よりも少ない量とすると、引用発明1の目的である難燃性に優れたグリース組成物を提供することができないことになるから、引用発明1の基油100重量部に対して含有させる水の量を30重量部より少ない量に変更することに阻害要因があるというべきである。
したがって、引用発明1の基油100重量部に対する水の量を、本願発明1のように4?20質量部と変更することはできない。

上記相違点2について検討すると、
引用文献1の段落【0005】?【0007】には、基油として、各種の鉱油や合成油が例示されているものの、カルボン酸エステルに着目して基油を構成するという技術思想が開示されているとはいえない。
したがって、引用発明1において、基油をカルボン酸エステルとする、又はカルボン酸エステルと炭化水素油の混合油とすることは、当業者が容易になし得ることではない。

よって、本願発明1は、引用文献1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本願発明2について
本願発明2は、基油100重量部に対して含まれる水の量及び基油として選択される種類について、本願発明1と同様の構成を有するものであるから、本願発明2と引用発明1とを対比すると、少なくとも、上記ア(ア)で示した相違点1及び2と同様の相違点1及び2があるといえる。そして、当該相違点については、上記ア(イ)で検討したとおりであるから、本願発明2についても、引用文献1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本願発明3及び本願発明4について
本願発明3及び本願発明4は、本願発明1または本願発明2の構成をすべて含み更に減縮した発明であるから、本願発明1または本願発明2と同様の理由により、引用文献1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明1?4は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることできたものとはいえないので、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-06-04 
出願番号 特願2014-234746(P2014-234746)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (E21D)
P 1 8・ 121- WY (E21D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 須永 聡  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 住田 秀弘
西田 秀彦
発明の名称 シールド掘進機用テールシール組成物  
代理人 特許業務法人 もえぎ特許事務所  

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