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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1352055
審判番号 不服2018-6941  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-22 
確定日 2019-06-18 
事件の表示 特願2014- 41224「ストレージ制御装置、ストレージ制御方法及びストレージ制御プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 9月24日出願公開、特開2015-166958、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成26年3月4日の出願であって,平成29年12月4日付けで拒絶の理由が通知され,平成30年2月2日に意見書とともに手続補正書が提出され,同年2月15日付けで拒絶査定(謄本送達日同年2月27日)がなされ,これに対して同年5月22日に審判請求がなされ,平成31年1月22日付けで当審により拒絶の理由が通知され,同年3月29日に意見書とともに手続補正書が提出されたものである。


第2 原査定の概要

原査定(平成30年2月15日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

備考
●理由1(特許法第29条第1項第3号)及び理由2(特許法第29条第2項)について
・請求項 1-2,4-6,8-9
・引用文献等 1

●理由2(特許法第29条第2項)について
・請求項 3,7,10
・引用文献等 1-2

<引用文献等一覧>
1.特表2005-531071号公報
2.特開平07-261945号公報(周知技術を示す文献)


第3 本願発明

本願請求項1乃至10に係る発明(以下「本願発明1」乃至「本願発明10」という。)は,平成31年3月29日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1乃至10に記載された,次のとおりのものと認める。

「 【請求項1】
複数の記憶装置を使用して構築された記憶領域であるボリュームにおいて、前記ボリュームが前記複数の記憶装置に跨がって分割された複数のブロックに関連付けて設定値を記憶する対象記憶手段と、
前記複数の記憶装置のうち対象記憶装置を前記複数の記憶装置に含まれない交換記憶装置に物理的に置き換える交換に応じて、前記複数のブロックのそれぞれに対して、
当該ブロックに関連付けられた前記設定値が所定条件に合致する場合、前記複数の記憶装置のうち交換されていない記憶装置における当該ブロックに使用されている記憶領域に格納されているデータに基づいて、前記対象記憶装置の当該ブロックに使用されていた記憶領域に格納されていたデータを算出して前記交換記憶装置の当該ブロックに使用される記憶領域に格納するリビルドを行い、
前記ブロックに関連付けられた前記設定値が前記所定条件に合致しない場合、前記複数の記憶装置のうちの前記対象記憶装置以外の記憶装置及び前記交換記憶装置の各々の、前記ブロックに使用される記憶領域に対し、パリティを示すデータでないデータが格納される記憶領域については同じ値の所定値で埋め、パリティを示すデータが格納される記憶領域については前記所定値に基づいてあらかじめ算出しておいたパリティの値で埋める、初期化を行うリビルド手段と、
を備えるストレージ制御装置。
【請求項2】
前記ボリュームにおいて書き込みが行われた前記ブロックを特定し、特定された前記ブロックに関連付けられた前記設定値を、前記所定条件に合致するよう設定するアクセス検出手段
を備える請求項1に記載のストレージ制御装置。
【請求項3】
前記アクセス検出手段は、前記ボリュームに対するアクセスを検出し、当該アクセスがデータの書き込みである場合、前記ボリュームに書き込まれたデータの、少なくとも一部が書き込まれた前記ブロックを特定し、特定した前記ブロックに関連付けられた前記設定値に、前記データの識別子であるデータ識別子を追加し、前記アクセスがデータの削除である場合、削除された前記データの前記データ識別子を、前記設定値から削除し、
前記リビルド手段は、前記設定値にデータ識別子が含まれる場合、前記リビルドを行い、前記設定値にデータ識別子が含まれない場合、前記初期化を行う
請求項2に記載のストレージ制御装置。
【請求項4】
前記複数の記憶装置と、請求項1乃至3のいずれかに記載のストレージ制御装置とを含むストレージシステム。
【請求項5】
ストレージ制御装置が、
複数の記憶装置を使用して構築された記憶領域であるボリュームにおいて、前記ボリュームが前記複数の記憶装置に跨がって分割された複数のブロックに関連付けて設定値を対象記憶手段に記憶し、
前記複数の記憶装置のうち対象記憶装置を前記複数の記憶装置に含まれない交換記憶装置に物理的に置き換える交換に応じて、前記複数のブロックのそれぞれに対して、
当該ブロックに関連付けられた前記設定値が所定条件に合致する場合、前記複数の記憶装置のうち交換されていない記憶装置における当該ブロックに使用されている記憶領域に格納されているデータに基づいて、前記対象記憶装置の当該ブロックに使用されていた記憶領域に格納されていたデータを算出して前記交換記憶装置の当該ブロックに使用される記憶領域に格納するリビルドを行い、
前記ブロックに関連付けられた前記設定値が前記所定条件に合致しない場合、前記複数の記憶装置のうちの前記対象記憶装置以外の記憶装置及び前記交換記憶装置の各々の、前記ブロックに使用される記憶領域に対し、パリティを示すデータでないデータが格納される記憶領域については同じ値の所定値で埋め、パリティを示すデータが格納される記憶領域については前記所定値に基づいてあらかじめ算出しておいたパリティの値で埋める、初期化を行う
ストレージ制御方法。
【請求項6】
前記ストレージ制御装置は、前記ボリュームにおいて書き込みが行われた前記ブロックを特定し、特定された前記ブロックに関連付けられた前記設定値を、前記所定条件に合致するよう設定する
請求項5に記載のストレージ制御方法。
【請求項7】
前記ストレージ制御装置は、
前記ボリュームに対するアクセスを検出し、当該アクセスがデータの書き込みである場合、前記ボリュームに書き込まれたデータの、少なくとも一部が書き込まれた前記ブロックを特定し、特定した前記ブロックに関連付けられた前記設定値に、前記データの識別子であるデータ識別子を追加し、前記アクセスがデータの削除である場合、削除された前記データの前記データ識別子を、前記設定値から削除し、
前記設定値にデータ識別子が含まれる場合、前記リビルドを行い、前記設定値にデータ識別子が含まれない場合、前記初期化を行う
請求項5又は6に記載のストレージ制御方法。
【請求項8】
コンピュータを、
複数の記憶装置を使用して構築された記憶領域であるボリュームにおいて、前記ボリュームが前記複数の記憶装置に跨がって分割された複数のブロックに関連付けて設定値を記憶する対象記憶手段と、
前記複数の記憶装置のうち対象記憶装置を前記複数の記憶装置に含まれない交換記憶装置に物理的に置き換える交換に応じて、前記複数のブロックのそれぞれに対して、
当該ブロックに関連付けられた前記設定値が所定条件に合致する場合、前記複数の記憶装置のうち交換されていない記憶装置における当該ブロックに使用されている記憶領域に格納されているデータに基づいて、前記対象記憶装置の当該ブロックに使用されていた記憶領域に格納されていたデータを算出して前記交換記憶装置の当該ブロックに使用される記憶領域に格納するリビルドを行い、
前記ブロックに関連付けられた前記設定値が前記所定条件に合致しない場合、前記複数の記憶装置のうちの前記対象記憶装置以外の記憶装置及び前記交換記憶装置の各々の、前記ブロックに使用される記憶領域に対し、パリティを示すデータでないデータが格納される記憶領域については同じ値の所定値で埋め、パリティを示すデータが格納される記憶領域については前記所定値に基づいてあらかじめ算出しておいたパリティの値で埋める、初期化を行うリビルド手段と、
して動作させるストレージ制御プログラム。
【請求項9】
コンピュータを、
前記ボリュームにおいて書き込みが行われた前記ブロックを特定し、特定された前記ブロックに関連付けられた前記設定値を、前記所定条件に合致するよう設定するアクセス検出手段と
して動作させる請求項8に記載のストレージ制御プログラム。
【請求項10】
コンピュータを、
前記ボリュームに対するアクセスを検出し、当該アクセスがデータの書き込みである場合、前記ボリュームに書き込まれたデータの、少なくとも一部が書き込まれた前記ブロックを特定し、特定した前記ブロックに関連付けられた前記設定値に、前記データの識別子であるデータ識別子を追加し、前記アクセスがデータの削除である場合、削除された前記データの前記データ識別子を、前記設定値から削除する前記アクセス検出手段と、
前記設定値にデータ識別子が含まれる場合、前記リビルドを行い、前記設定値にデータ識別子が含まれない場合、前記初期化を行う前記リビルド手段と、
して動作させる請求項9に記載のストレージ制御プログラム。」


第4 引用例

1 引用例1に記載された事項及び引用発明
原査定で引用された,本願の出願前に既に公知である,特表2005-531071号公報(平成17年10月13日公表。以下,これを「引用例1」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。(下線は参考のために当審で付加した。以下同様。)

A 「【0016】
[システムの要素]
図1は、RAIDデータの復元でファイルシステム情報を用いることを含むファイルシステムおよびRAID記憶システムのブロック図を示す。
【0017】
システム100はファイルシステム120、記憶システム140およびこれらの2つの間の通信リンク160を含む。そのシステムは、さらにファイルシステム120の実行のためにプロセッサー(示されていない)とプログラム及びデータのメモリ(示されていない)を含む。
【0018】
このファイルシステム120は、記憶システム140内にディスクブロック(個別かそれのグループ)に関する情報を示す組みのファイルシステム情報テーブル121を含む。記憶システム140によってデータが失われた場合であっても、それらのファイルシステム情報テーブル121が、ファイルシステム120にアクセス可能である限り、ファイルシステム情報テーブル121は、メモリに記録されることができるか、あるいは記憶システム140の選択された部分に記録されることができ、あるいはそれ以外(不揮発性のメモリあるいは他の補助記憶装置のごとく)に記憶できる。ファイルシステム情報テーブル121中の特別の情報はさらに下に記述される。
【0019】
その記憶システム140は、ディスク141の組みを含み、それらの各々は、(少なくともいくつかのでティスク・ブロック142に記憶された)データを含むディスクブロック142の組みを含み、そのティスク・ブロック142は、(少なくともいくつかのディスクブロック142に記憶された)少なくともいくつかの冗長情報を含むRAIDストライプのセットに配置される。任意の個々のディスク141上の任意の個々のディスクブロック142上の情報が、他のディスク141上の他のディスクブロック142上の情報に関係するように、RAIDストライプ143が配置される。これは、任意のディスクブロック142あるいは全ディスク141の損失であっても、任意の個々のディスクブロック142についての情報が復元されるか再計算されることを可能にする。RAID記憶システムは大量記憶システムの分野で周知である。
【0020】
通信リンク160はファイルシステム120および記憶システム140を連結し、ファイルシステム120および記憶システム140が、ディスクブロック142のために、およびシステム100の動作のために、情報を交換することができるすべての技術を含む。好ましい実施例では、通信リンク160は、ファイルシステム120および記憶システム140につながれたバスを含む。
【0021】
ファイルシステム情報テーブル121は、セットのブロックマップ登録部123を有し、割り当てられたファイルシステム・データにより、どのディスクブロック142が使用中かを示す、ブロックマップテーブル121を含む。したがって、ブロックマップテーブル122は、各ディスク141上の各ディスクブロック142に対し、そのディスクブロック142がファイルシステム120により使用されているか(例えば論理値"1"が示されているか)、あるいはファイルシステム120により使用されていないか(例えば論理値"0"が示されているか)を示す。この記述の中で用いられたように、「割り当てられたファイルシステム・データ」は、ファイルシステム120によって維持されるかもしれないすべての一時的データ構造から区別され、その一時的データ構造は、恐らくオンのディスク要素を含んでいるかもしれない。割り当てられたファイルシステム・データも、好ましい「WAFL」ファイルシステム120に関する開示に記述されたような「スナップ写真」データのごとき、ファイルシステム120によって維持されるかもしれない、ファイルシステム・データのバックアップのコピーと区別される。
【0022】
ファイルシステム情報テーブル121は、セットのゼロマップの登録部125を有し、どのディスクブロック142が論理的に又は物理的に0に設定されているかを示す、ゼロマップテーブル124を含む。
【0023】
ファイルシステム情報テーブル121は、組みのストライプマップ登録部127を有し、どのRAIDストライプ143が故障したディスクから移動したかを示す、ストライプマップテーブル126を含む。RAIDストライプ143が故障したディスクについてのパリティ情報を含んでいた場合に、そのRAIDストライプ143が移動される、この発明の態様において、各ストライプマップの登録部127は、RAIDストライプ143全体からディスクブロック142が、移動されたかを示す(パリティ情報はそれ自身が移動されないため)。」

B 「【0024】
[割り当てられたデータの移動]
ディスクブロック142中のデータが失われた(例えば、ディスクブロック142が感染した)場合、あるいは、ディスク141上のすべてのデータが失われた(例えば、ディスクが故障した)場合、記憶システム140は失われたデータを復元することができる。どんな割り当てられたデータも持たないようにブロックマップテーブル122で示されていた、ディスクブロック142が失われたとき、そのディスクブロック142に対してデータを復元する必要はない。したがって、個々のディスクブロック142のために、使用していない時にもし失われれば、記憶システム140は、いずれのデータも復元する必要がない。全ディスク141に対しては、もし失われれば、記憶システム140は単に、その時に使用されていたこれらのディスクブロック142に対してデータを復元しなければならない。
【0025】
予備のディスクが無い場合、そのファイルシステム120は、割り当てられたディスクブロック142に対するデータを復元するように(つまり、ブロックマップテーブル122によって割り当てられるためにディスクブロック142が示される)、そして、ディスクに改造されたデータをコピーすることは、記憶システム140内の同じRAIDグループ中の他の故障の無いディスク141上のディスクブロック142に復元されたデータをコピーするように、記憶システム140に命令を出す。代替の実施例では、復元されたデータは記憶システム140における異なるRAIDグループで他の故障のないディスク141にコピーされてもよい。次に、ディスクブロック142は、その故障したディスク141に対して、もはや書き込まれず、そのため、ファイルシステム120は利用可能なVBN(仮想のブロック番号)スペース内の「穴」としてそれらを扱う。例えば、故障したディスクがディスク#1、#2、#3、#4、および#5(パリティ)の内のディスク#3であるなら、ディスク#1、#2、および#4に対するVBNsは、まだ有効であるが、ディスク#3に対するVBNsは無効になる。故障したディスク141からのデータのすべてを取り除いたとき、故障したディスク141をRAIDグループから論理的か物理的に取り除き、その結果、RAIDグループにおけるディスク141の数を1つ低減する。

…(中略)…

【0028】
予備ディスクがある場合、ファイルシステム120は、同様に、割り当てられたディスクブロック142からデータ移動するように記憶システム140に命令する。割り当てのないディスクブロック142に対して、記憶システム140は、別の故障の無いディスク141上の対応するディスクブロック142に書き込むが、割り当てられていないディスクブロック142からデータを復元することを試みない。好ましくは、記憶システム140は、非割り当てのディスクブロック142のための移動目標であるディスクブロック142を物理的にクリア(ゼロに設定)する。好ましい実施例では、ファイルシステム120は、ディスクが移動目標であるディスクブロック142を持つディスク141を指示するために、SCSI「同一に書き込む」コマンドを使用するように記憶システム140に命令する。これは、ディスク141による活動に対して、および、ファイルシステム120と記憶システム140の間の帯域幅について節約する。
【0029】
そのストライプマップテーブル126は、それぞれのRAIDストライプ143のためのストライプマップ登録部127を含み、そのRAIDストライプ143に対して、RAIDストライプ143内の(故障ディスク141からの)ディスクブロック142が別の故障の無いディスク141に移動したどうかを示す。特定のディスクブロック142が故障ディスク141から故障のないディスク141に移動したことを、その対応するストライプマップ登録部127が示した時、記憶システム140は、以降のパリティ再計算の間の考察から、その特定のディスクブロック142を取り除くことができる。より正確には、その記憶システム140は、前記特定のストライプに、示されたディスクブロック142が一様に0である推定を書き込み時に、パリティを再計算する。すべてのディスクブロック142が故障ディスク141から他の故障のないディスク141に移動したことを、ストライプマップテーブル126が示した時、ファイルシステム120および記憶システム140は、故障したディスク141を全体で論理的に削除することができる。」

C 以上上記A及びBより,引用例1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。(なお,上記記載中,「どのディスクブロック142が使用中かを示す、ブロックマップテーブル121を含む。したがって、ブロックマップテーブル122は」(段落22)は,「どのディスクブロック142が使用中かを示す、ブロックマップテーブル122を含む。したがって、ブロックマップテーブル122は」の誤記と認める。)

「システム100はファイルシステム120,記憶システム140およびこれらの2つの間の通信リンク160を含み,
このファイルシステム120は,記憶システム140内にディスクブロックに関する情報を示す組みのファイルシステム情報テーブル121を含み,
その記憶システム140は,ディスク141の組みを含み,それらの各々は,(少なくともいくつかのディスク・ブロック142に記憶された)データを含むディスクブロック142の組みを含み,そのディスク・ブロック142は,(少なくともいくつかのディスクブロック142に記憶された)少なくともいくつかの冗長情報を含むRAIDストライプのセットに配置され,任意の個々のディスク141上の任意の個々のディスクブロック142上の情報が,他のディスク141上の他のディスクブロック142上の情報に関係するように,RAIDストライプ143が配置され,
ファイルシステム情報テーブル121は,どのディスクブロック142が使用中かを示す,ブロックマップテーブル122を含み,ブロックマップテーブル122は,各ディスク141上の各ディスクブロック142に対し,そのディスクブロック142がファイルシステム120により使用されているか(例えば論理値"1"が示されているか),あるいはファイルシステム120により使用されていないか(例えば論理値"0"が示されているか)を示し,
ディスクブロック142中のデータが失われた場合,あるいは,ディスク141上のすべてのデータが失われた(例えば,ディスクが故障した)場合,記憶システム140は失われたデータを復元することができ,どんな割り当てられたデータも持たないようにブロックマップテーブル122で示されていた,ディスクブロック142が失われたとき,そのディスクブロック142に対してデータを復元する必要はなく,
そのファイルシステム120は,割り当てられたディスクブロック142に対するデータを復元するように(つまり,ブロックマップテーブル122によって割り当てられるためにディスクブロック142が示される),記憶システム140内の同じRAIDグループ中の他の故障の無いディスク141上のディスクブロック142に復元されたデータをコピーし,
割り当てられたディスクブロック142からデータ移動するように記憶システム140に命令し,割り当てのないディスクブロック142に対して,記憶システム140は,別の故障の無いディスク141上の対応するディスクブロック142に書き込むが,割り当てられていないディスクブロック142からデータを復元することを試みず,好ましくは,記憶システム140は,非割り当てのディスクブロック142のための移動目標であるディスクブロック142を物理的にクリア(ゼロに設定)し,
そのストライプマップテーブル126は,それぞれのRAIDストライプ143のためのストライプマップ登録部127を含み,そのRAIDストライプ143に対して,RAIDストライプ143内の(故障ディスク141からの)ディスクブロック142が別の故障の無いディスク141に移動したどうかを示し,
すべてのディスクブロック142が故障ディスク141から他の故障のないディスク141に移動したことを,ストライプマップテーブル126が示した時,ファイルシステム120および記憶システム140は,故障したディスク141を全体で論理的に削除することができる,
システム100。」

2 引用例2に記載された事項
原査定で引用された,本願の出願前に既に公知である,特開平7-261945号公報(平成7年10月13日公開。以下,これを「引用例2」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

D 「【0051】図4は、キャッシュメモリ16内に作成されるアドレステーブルの構造を示す。ここでは、図2のように5D+1P,3D+1P,二重化の3種類のパリティグループを設けた場合のアドレステーブルを示している。アドレステーブルは、図4の(a)(b)(c)に示すように、パリティグループレベルに対応して作成される。
【0052】各パリティグループレベル21に対応したアドレステーブルは、データ名22、キャッシュアドレス23、データドライブ番号(DDrive No.)24、障害フラグ25、パリティドライブ番号(PDrive No.)26、およびSCSI内Addr27の各フィールドで構成される。
【0053】データ名22には、CPU1が指定する論理アドレスが登録される。データ名22が登録されていない部分が空き領域を示すことになる。キャッシュアドレス23には、このデータ名22に対応するデータがキャッシュメモリ16内に存在する場合は、キャッシュメモリ16内のアドレスが登録される。逆に、キャッシュアドレス23が登録されていない(空欄)場合は、このデータ名22のデータがキャッシュメモリ16内に存在していないことを示す。」

E 「【0081】図6のフローチャートを参照して、MP20による処理の手順をさらに詳しく説明する。MP20が書き込み要求のコマンドを認識し、しかも、書き込むデータが初めて書き込まれる新規データと認識すると(ステップ30)、MP20は論理アドレスとしてCPU1から送られてきたデータ名をアドレステーブルへ登録する処理を開始する。」

F 「【0085】この空き領域には、初期設定の段階からデータが書き込まれていない場合と、以前はデータが書き込まれていたがこのデータが不要となり削除した場合とがある。データの削除は、MP20により、図4のアドレステーブルにおいて当該データ名22を削除することにより行われる。また、このときのパリティは、このようにデータが格納されていない領域の全てのビットが0のデータと見なして作成され、アドレステーブルで指定されているPDrive No.26のドライブ12の、データと同じSCSI内Addr27の位置に、格納される。」


第5 対比・判断

1 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
(あ)引用発明の「ディスク141」,「RAIDストライプ」及び「システム100」はそれぞれ,本願発明1の「記憶装置」,「ブロック」及び「ストレージ制御装置」に相当する。

(い)引用発明は「ディスク141の組みを含み,それらの各々は,(少なくともいくつかのディスク・ブロック142に記憶された)データを含むディスクブロック142の組みを含み,そのディスク・ブロック142は,(少なくともいくつかのディスクブロック142に記憶された)少なくともいくつかの冗長情報を含むRAIDストライプのセットに配置され」るものであり,上記(あ)の対応を考慮すると,引用発明と本願発明1とは“複数の記憶装置に跨がって分割された複数のブロック”を有する点で一致するといえる。

(う)引用発明の「そのファイルシステム120は,割り当てられたディスクブロック142に対するデータを復元するように(つまり,ブロックマップテーブル122によって割り当てられるためにディスクブロック142が示される),記憶システム140内の同じRAIDグループ中の他の故障の無いディスク141上のディスクブロック142に復元されたデータをコピー」するとは,日本語として意味するところが不明確であるが,引用例1のファミリー文献である,国際公開第2004/001600号の対応記載,“… the file system 120 instructs the storage system 140 to reconstruct data for allocated disk blocks 142 (that is, disk blocks 142 indicated to be allocated by the blockmap table 122), and to copy the reconstructed data to disk blocks 142 on other non-failing disks 141 in the same RAID group in the storage system 140.”(当審仮訳:…ストレージシステム140に対して、割り当てられたディスクブロック142(すなわち、ブロックマップテーブル122によって割り当てられることが示されているディスクブロック142)のデータを再構成し、記憶システム140内の同一RAIDグループ内の他の故障していないディスク141上のディスクブロック142にコピーするよう指示する。)を参照して,本願発明1の「前記複数の記憶装置のうち交換されていない記憶装置における当該ブロックに使用されている記憶領域に格納されているデータに基づいて、前記対象記憶装置の当該ブロックに使用されていた記憶領域に格納されていたデータを算出して前記交換記憶装置の当該ブロックに使用される記憶領域に格納するリビルドを行」うことと同等の処理を行うことを意味するものと認められる。
また,引用発明の「非割り当てのディスクブロック142のための移動目標であるディスクブロック142を物理的にクリア(ゼロに設定)」することと,本願発明1の「前記複数の記憶装置のうちの前記対象記憶装置以外の記憶装置及び前記交換記憶装置の各々の、前記ブロックに使用される記憶領域に対し、パリティを示すデータでないデータが格納される記憶領域については同じ値の所定値で埋め、パリティを示すデータが格納される記憶領域については前記所定値に基づいてあらかじめ算出しておいたパリティの値で埋める、初期化を行う」こととは,下記の点で異なるものの,“前記複数の記憶装置のうちの前記対象記憶装置以外の記憶装置及び前記交換記憶装置の各々の,前記ブロックに使用される記憶領域に対し,同じ値の所定値で埋める,初期化を行う”点で一致するといえるから,以上まとめると,引用発明と本願発明1とは,“前記複数のブロックのそれぞれに対して,
前記複数の記憶装置のうち交換されていない記憶装置における当該ブロックに使用されている記憶領域に格納されているデータに基づいて,前記対象記憶装置の当該ブロックに使用されていた記憶領域に格納されていたデータを算出して交換記憶装置の当該ブロックに使用される記憶領域に格納するリビルドを行い,
前記複数の記憶装置のうちの前記対象記憶装置以外の記憶装置及び前記交換記憶装置の各々の,前記ブロックに使用される記憶領域に対し,同じ値の所定値で埋める,初期化を行うリビルド手段”を有する点で一致するといえる。

(え)以上,(あ)乃至(う)の検討から,引用発明と本願発明1とは,次の一致点及び相違点を有する。

〈一致点〉
複数の記憶装置に跨がって分割された複数のブロックと,
前記複数のブロックのそれぞれに対して,
前記複数の記憶装置のうち交換されていない記憶装置における当該ブロックに使用されている記憶領域に格納されているデータに基づいて,前記対象記憶装置の当該ブロックに使用されていた記憶領域に格納されていたデータを算出して交換記憶装置の当該ブロックに使用される記憶領域に格納するリビルドを行い,
前記複数の記憶装置のうちの前記対象記憶装置以外の記憶装置及び前記交換記憶装置の各々の,前記ブロックに使用される記憶領域に対し,同じ値の所定値で埋める,初期化を行うリビルド手段と,
を備えるストレージ制御装置。

〈相違点1〉
本願発明1が,「複数の記憶装置を使用して構築された記憶領域であるボリューム」を有するのに対し,引用発明は,「データを含むディスクブロック142の組みを含み,そのディスク・ブロック142は,(少なくともいくつかのディスクブロック142に記憶された)少なくともいくつかの冗長情報を含むRAIDストライプのセット」が存在する点。

〈相違点2〉
本願発明1が,「前記複数の記憶装置のうち対象記憶装置を前記複数の記憶装置に含まれない交換記憶装置に物理的に置き換える交換に応じて、前記複数のブロックのそれぞれに対して」リビルドを行うのに対し,引用発明は,「すべてのディスクブロック142が故障ディスク141から他の故障のないディスク141に移動したことを,ストライプマップテーブル126が示した時,ファイルシステム120および記憶システム140は,故障したディスク141を全体で論理的に削除することができる」ものであって,事前に「故障ディスク141」を交換するものではない点。

〈相違点3〉
本願発明1が,「前記ボリュームが前記複数の記憶装置に跨がって分割された複数のブロックに関連付けて設定値を記憶する対象記憶手段」を有し,「ブロックに関連付けられた前記設定値が所定条件に合致する」か否かの場合分けにより所定のリビルドを行うのに対し,引用発明は,そのような「設定値を記憶する対象記憶手段」が存在せず,「各ディスク141上の各ディスクブロック142に対し,そのディスクブロック142がファイルシステム120により使用されているか(例えば論理値"1"が示されているか),あるいはファイルシステム120により使用されていないか(例えば論理値"0"が示されているか)を示」す,「ブロックマップテーブル122」は存在するものの,単に「ディスクが故障した)場合,記憶システム140は失われたデータを復元することができ」,「割り当てのないディスクブロック142に対して,記憶システム140は,別の故障の無いディスク141上の対応するディスクブロック142に書き込むが,割り当てられていないディスクブロック142からデータを復元することを試みず,好ましくは,記憶システム140は,非割り当てのディスクブロック142のための移動目標であるディスクブロック142を物理的にクリア(ゼロに設定)」する点。

〈相違点4〉
本願発明1が,「前記ブロックに関連付けられた前記設定値が前記所定条件に合致しない場合」に行われる「初期化」が,「前記ブロックに使用される記憶領域に対し、パリティを示すデータでないデータが格納される記憶領域については同じ値の所定値で埋め、パリティを示すデータが格納される記憶領域については前記所定値に基づいてあらかじめ算出しておいたパリティの値で埋める」ものであるのに対し,引用発明では,「記憶システム140内の同じRAIDグループ中の他の故障の無いディスク141上のディスクブロック142に復元されたデータをコピー」したり,「非割り当てのディスクブロック142のための移動目標であるディスクブロック142を物理的にクリア(ゼロに設定)」する点。

(2) 相違点についての判断
事案に鑑み,先に相違点3について検討する。
本願発明1は,ストレージを制御する技術に関し(段落1),ハードディスク装置などの記憶装置の大容量化が進み,ハードディスク装置の交換に伴う,交換されたハードディスク装置に対するデータの復元に要する時間が長時間化していることを背景とし(段落2),コピーされたデータが格納されている記憶領域以外の記憶領域において,記録されているデータに,ミラーリングされている複数の記憶装置間で不整合が生じる可能性や(段落7),使用されている状態でないデータブロックに対する代替処理を行わず,ファイルが削除されることにより,ファイルのデータが記録されている領域が使用されている状態でなくなっても,その領域に記録されているデータは消去されないことにより,使用されている状態でないデータブロックに記録されているデータに,複数のディスク間で不整合が生じる(段落9)などの課題を解決するためになされたものであって,本願発明1の主な目的は,記憶領域のいずれの部分においても,記録されているデータに不整合が生じることなく,その記憶領域に使用される複数の記憶装置の何れかが交換された後のデータの復元に要する時間を削減できるストレージ制御装置を提供することである。そして本願発明1は,その構成により記憶領域のいずれの部分においても,記録されているデータに不整合が生じることなく,その記憶領域に使用される複数の記憶装置の何れかが交換された後のデータの復元に要する時間を削減できるという効果を奏するものである。(段落14)
本願発明1が有する「複数の記憶装置を使用して構築された記憶領域であるボリュームにおいて、前記ボリュームが前記複数の記憶装置に跨がって分割された複数のブロックに関連付けて設定値を記憶する対象記憶手段」は,その「設定値」により,「ボリューム」を構成する「複数のブロック」のうち,いずれが「前記複数の記憶装置のうち交換されていない記憶装置における当該ブロックに使用されている記憶領域に格納されているデータに基づいて」算出すべきデータを有するのか,或いは当該データの算出を行わず,「同じ値の所定値で埋め」たり,「前記所定値に基づいてあらかじめ算出しておいたパリティの値で埋め」たりする処理が行えるのかを判断するために必要不可欠な構成であって,このような「設定値を記憶する対象記憶手段」を有することにより,「複数の記憶装置」間においてデータの不整合を生じず,また記憶装置交換時にデータの復元に要する時間が長時間化しないといった格別顕著な効果を奏するものである。
一方,引用発明は,「ディスクが故障した)場合,記憶システム140は失われたデータを復元することができ」,「割り当てのないディスクブロック142に対して,記憶システム140は,別の故障の無いディスク141上の対応するディスクブロック142に書き込むが,割り当てられていないディスクブロック142からデータを復元することを試みず,好ましくは,記憶システム140は,非割り当てのディスクブロック142のための移動目標であるディスクブロック142を物理的にクリア(ゼロに設定)」する構成を有するものであるが,「ボリューム」を構成する「複数のブロック」単位で本願発明1のようなリビルドを行うものではなく,引用発明において,「複数の記憶装置を使用して構築された記憶領域であるボリュームにおいて、前記ボリュームが前記複数の記憶装置に跨がって分割された複数のブロックに関連付けて設定値を記憶する対象記憶手段」を設けることは,当業者といえども容易に想起し得たとはいえず,当該構成自体が本願出願前に自明なものであったともいえない。
当該構成は,引用例2の上記「キャッシュメモリ16内に作成されるアドレステーブル」の「データ名22」の存在をもってしても容易になし得たものでないことは明らかである。
したがって,本願発明1は,上記その余の相違点について検討するまでもなく,当業者であっても,引用発明及び引用例2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2乃至4について
本願発明2乃至4は,請求項1を直接ないし間接的に引用するものであって,本願発明1の「複数の記憶装置を使用して構築された記憶領域であるボリュームにおいて、前記ボリュームが前記複数の記憶装置に跨がって分割された複数のブロックに関連付けて設定値を記憶する対象記憶手段」と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用例2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明5及び8について
本願発明5及び8は,本願発明1とカテゴリー表現のみ異なるものであって,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用例2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4 本願発明6乃至7及び9乃至10について
本願発明6乃至7及び9乃至10は,それぞれ本願発明5及び本願発明8を直接ないし間接的に引用するものであって,本願発明1の「複数の記憶装置を使用して構築された記憶領域であるボリュームにおいて、前記ボリュームが前記複数の記憶装置に跨がって分割された複数のブロックに関連付けて設定値を記憶する対象記憶手段」と同等の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用例2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第6 当審拒絶理由の概要

<特許法36条6項2号について>
当審より,「前記ボリュームが分割された複数のブロック」,「対象記憶装置を前記複数の記憶装置に含まれない交換記憶装置に置き換える交換」,「当該ブロックに関連付けられた前記設定値が所定条件に合致する場合、…前記対象記憶装置の前記ブロックに使用されていた記憶領域に格納されていたデータを格納するリビルドを行い」,及び「前記ブロックに関連付けられた前記設定値が前記所定条件に合致しない場合、前記複数の記憶装置の各々の、前記ブロックに使用される記録領域を所定値で埋める初期化を行う」との点につき構成が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成31年3月29日付けの手続補正において,上記,「第3 本願発明」の項に掲げたとおりに補正された結果,この拒絶の理由は解消した。


第7 原査定についての判断

平成31年3月29日付けの補正により,補正後の請求項1乃至10は,上記相違点3に係る技術的事項,とりわけ「複数の記憶装置を使用して構築された記憶領域であるボリュームにおいて、複数の記憶装置を使用して構築された記憶領域であるボリュームにおいて、前記ボリュームが前記複数の記憶装置に跨がって分割された複数のブロックに関連付けて設定値を記憶する対象記憶手段」を有するものとなった。当該構成は,原査定における引用文献1及び2には記載されておらず,本願出願前における周知技術でもないので,本願発明1乃至10は,当業者であっても,原査定における引用文献1及び2に基づいて容易に発明できたものではない。
したがって,原査定を維持することはできない。


第8 むすび

以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-05-31 
出願番号 特願2014-41224(P2014-41224)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
P 1 8・ 537- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田名網 忠雄  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 山崎 慎一
須田 勝巳
発明の名称 ストレージ制御装置、ストレージ制御方法及びストレージ制御プログラム  
代理人 机 昌彦  
代理人 下坂 直樹  

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