• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 A61K
審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 A61K
審判 査定不服 産業上利用性 取り消して特許、登録 A61K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A61K
管理番号 1352087
審判番号 不服2018-19  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-04 
確定日 2019-06-18 
事件の表示 特願2015-157187「H3型ウマA型インフルエンザウイルス」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 2月12日出願公開、特開2016- 25857、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年3月28日に出願した特願2006-89224号の一部を平成25年1月4日に新たな特許出願とした特願2013-98号の一部を、平成27年8月7日にさらに新たな特許出願としたものであって、平成28年12月27日付けで拒絶理由通知がなされ、平成29年8月29日付けで拒絶査定され、平成30年1月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正され、同年11月22日付けで当審より拒絶理由通知がなされ、それに対して平成31年4月24日に意見書が提出されるとともに誤訳訂正がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定である平成29年8月29日付け拒絶査定の理由の概要は、以下の1?3のとおりである。

1 査定理由1、2(新規性欠如、進歩性欠如)
本願請求項1?3、6?9、12に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、本願請求項4、5、10、11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である引用文献1?3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:J. Vet. Intern. Med.,2004,Vol.18,pp.132-134
引用文献2:Vaccine,1997,Vol.15 No.10,pp.1149-1156
引用文献3:国際公開第2004/112831号

2 査定理由3(産業上の利用可能性)
本願請求項12に係る発明には、人間を治療する方法が含まれるから、特許法第29条第1項柱書でいう産業上利用することができる発明に該当しない。

3 査定理由4(明確性要件違反)
本願の特許請求の範囲の請求項3?6、8に、「任意に」との記載とともに任意付加的事項が記載されていることに起因して、本願請求項3?6、8に係る発明は、明確でないから、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第3 当審拒絶理由の概要
平成30年11月22日付け当審拒絶理由の概要は、以下の1?4のとおりである。

1 当審拒絶理由1(明確性要件違反)
(1)本願の特許請求の範囲の請求項1、3、6、7、10に、配列番号1で示されるポリペプチドについて、「位置78のアラニンもしくは位置159のセリン」との記載があることに起因して、請求項1、3、6、7、10に係る発明、及びこれら請求項のいずれかを引用する請求項2、4、5、8、9、11?15に係る発明は、明確でないから、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(2)本願の特許請求の範囲の請求項1、3、6、7、10に、「位置78のアラニンもしくは位置159のセリンを有する前記ポリペプチドと少なくとも・・・%のアミノ酸配列同一性を有するHA」との記載があることと、本願の特許請求の範囲の請求項9?11に、「配列番号1と少なくとも・・・%のアミノ酸配列同一性を有する」との記載があることとに起因して、請求項1、3、6、7、9?11に係る発明、及びこれら請求項のいずれかを引用する請求項2、4、5、8、12?15に係る発明は、明確でないから、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(3)本願の特許請求の範囲の請求項10、11に、「前記ポリペプチドの配列番号19もしくは20に示される・・・HA-1部分」との記載があることに起因して、請求項10に係る発明、及び請求項10を引用する請求項11に係る発明は、明確でないから、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2 当審拒絶理由2(サポート要件違反)
本願の請求項1?15に係る発明は、いずれもインフルエンザウイルスについて、「新規株は、その血球凝集素(HA)及び/又はノイラミニダーゼ(NA)タンパク質に抗原性変化を示し、特にHAタンパク質をコードする遺伝子は、高度の変動性を有する」(本願の発明の詳細な説明の【0002】)ために、「新規インフルエンザウイルス単離物、例えばワクチン用のものを単離する必要性が引き続き存在する」(同【0004】)という技術課題を、新規株である「単離されたH3型ウマA型インフルエンザウイルスを提供する」(同【0005】)こと、すなわち「新規株」を提供することにより解決しようとしたとするものである。
そして、本願の発明の詳細な説明及び図面において、「単離されたH3型ウマA型インフルエンザウイルス」として「A/Equine/Wisconsin/1/03」(同【0082】)のみが示され、このインフルエンザウイルス単離物が「新規株」であることについて、本願の図2には、A/Equine/Wisconsin/1/03のHA遺伝子によってコードされるHAタンパク質のHA-1部位(一般にHA1サブユニットと呼ばれるレセプター結合部位)のアミノ酸配列と、本願出願日における従前のH3型ウマA型インフルエンザウイルスであるA/Equine/NewYork/99の対応するHA-1部位のアミノ酸配列との比較が示されており、当該比較によれば前者は後者に対して位置78のバリンがアラニンに、位置159のアスパラギン酸がセリンに、位置272のアラニンがバリンに変異したものである(図2において四角で囲われている3つのアミノ酸参照;ここで、各位置の特定は、発明の詳細な説明の【0005】に記載されるように、「15アミノ酸シグナルペプチドを欠く成熟タンパク質」に基づくものである。)。一方、両アミノ酸配列は、位置30のセリン、位置58のイソロイシンという本願出願日における比較的新しい系統に共通する変異をともに有するものであるから、両H3型ウマA型インフルエンザウイルスは、本願出願日において遺伝系統的に近接するH3型ウマA型インフルエンザウイルスであったといえる。
してみると、A/Equine/Wisconsin/1/03が「新規株」であることを特徴づける点は、HA遺伝子によってコードされるHAタンパク質、又はそのHA-1部位について、上記A/Equine/NewYork/99に代表されるような本願出願日において遺伝系統的に近接するH3型ウマA型インフルエンザウイルスと比べた場合に「位置78のアラニン、位置159のセリン及び位置272のバリンを有する」点であると認められる。そして、「新規株」に特有のHAタンパク質の抗原性は、この特徴点によりもたらされると考えられるから、当該特徴点を有さないH3型ウマA型インフルエンザウイルスについては、上記技術課題を解決することを当業者であっても理解できない。
そうすると、発明の詳細な説明の記載から、「新規株」であるA/Equine/Wisconsin/1/03については、上記技術課題を解決できると認められるが、HA遺伝子によってコードされるHAタンパク質、又はそのHA-1部位が「位置78のアラニン、位置159のセリン及び位置272のバリンを有する」もの以外のものが上記技術課題を解決できることを合理的に理解できるとはいえない。
ところが、特許請求の範囲には、「位置78のアラニンもしくは位置159のセリン」と記載されており、上記特徴点はおろか、位置78及び位置159が同時に置換されることすら特定されていない。
したがって、請求項1?15に係る発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていると認められる。
そのため、H3インフルエンザウイルスのHA遺伝子によってコードされるHAタンパク質、又はそのHA-1部位が「位置78のアラニン、位置159のセリン及び位置272のバリンを有する」点について十分な特定がされていない請求項1?15に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
よって、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

3 当審拒絶理由3(新規事項追加)
平成30年 1月 4日付け手続補正書でした補正について、補正された請求項4には、「前記単離インフルエンザウイルスが、弱毒化ウイルス、リアソータントウイルスである・・・請求項1に記載の医薬組成物、又は、請求項3に記載のワクチン。」との記載があるものの、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には、単離インフルエンザウイルスがリアソータントウイルスであるとする直接的な記載は見当たらず、また、本願出願日における技術常識に照らしても、当初明細書等の記載に接した当業者が、「請求項1に記載の医薬組成物、又は、請求項3に記載のワクチン」としての「単離インフルエンザウイルス」に「リアソータントウイルス」が包含されると認識することができたとはいうことはできないから、「リアソータントウイルス」についての補正は、新たな技術的事項を導入するものである。そのため、この補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

4 当審拒絶理由4、5(新規性欠如、進歩性欠如)
(1)引用文献1を主引用例とする理由
本願の請求項7?9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、本願の請求項7?9に係る発明、及び本願の請求項1?6、10?15に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(2)引用文献4を主引用例とする理由
本願の請求項7?9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である引用文献4に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、本願の請求項7?9に係る発明、及び本願の請求項1?6、10?15に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である引用文献4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(3)引用文献6を主引用例とする理由
本願の請求項7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である引用文献6に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、本願の請求項7に係る発明、及び本願の請求項1?5、10、12?15に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である引用文献6に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:J. Vet. Intern. Med.,2004,Vol.18,p.132-134
引用文献4:Emerg Infect Dis.,2005,Vol.11 No.12, p.1974-1976
引用文献5:Database GenBank [online],〈https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/76362990?sat=4&satkey=39237287〉[retrieved on 2018.11.08],Influenza A virus (A/canine/Iowa/13628/2005(H3N8)) hemagglutinin (HA) gene, complete cds, GenBank: DQ146419.1(引用文献4に付随してインターネット上に公開されたもの)
引用文献6:Virology., 1989年, 169(2), p.283-292

第4 本願発明
本願の請求項1?12に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明12」という。)は、平成31年4月24日に提出された誤訳訂正書により訂正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
配列番号1を有するポリペプチドをコードするHA遺伝子セグメントを含む、有効量の単離H3インフルエンザウイルスを含む、インフルエンザに対して哺乳動物を免疫するための医薬組成物であって、前記組成物が、前記哺乳動物に投与されることを特徴とする、医薬組成物。
【請求項2】
前記哺乳動物がイヌ又はウマである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
配列番号1を有するポリペプチドをコードするHA遺伝子セグメントを含む単離H3インフルエンザウイルスを、インフルエンザ感染に対する予防的もしくは治療的反応を誘導するために有効な量で含む、ワクチン。
【請求項4】
前記単離インフルエンザウイルスが、弱毒化ウイルス、リアソータントウイルスであるか、又は、化学的、物理的もしくは分子的手段によって改変されている、請求項1に記載の医薬組成物、又は、請求項3に記載のワクチン。
【請求項5】
アジュバント、又は、薬学的に許容される担体を更に含む、請求項1に記載の医薬組成物、又は、請求項3に記載のワクチン。
【請求項6】
配列番号1を有するポリペプチドをコードするHA遺伝子セグメントを含む単離H3インフルエンザウイルス。
【請求項7】
以下のうち少なくとも1つ:
配列番号2を有するか、又は、配列番号2と少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードするNA遺伝子セグメント、
配列番号3を有するか、又は、配列番号3と少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードするPB1遺伝子セグメント、
配列番号4を有するか、又は、配列番号4と少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードするPB2遺伝子セグメント、
配列番号5を有するか、又は、配列番号5と少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードするPA遺伝子セグメント、
配列番号6を有するか、又は、配列番号6と少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードするNP遺伝子セグメント、
配列番号7を有するか、又は、配列番号7と少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するM1ポリペプチドをコードするM遺伝子セグメント、
配列番号17を有するか、又は、配列番号17と少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するM2ポリペプチドをコードするM遺伝子セグメント、
配列番号8を有するか、又は、配列番号8と少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するNS1ポリペプチドをコードするNS遺伝子セグメント、及び/又は
配列番号18を有するか、又は、配列番号18と少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するNS2ポリペプチドをコードするNS遺伝子セグメント
を含む、請求項6に記載の単離インフルエンザウイルス。
【請求項8】
配列番号1に示される単離HAポリペプチド、又は、前記ポリペプチドの配列番号20に示されるHA-1部分を含む免疫原性組成物。
【請求項9】
医薬の製造における、請求項6に記載の単離H3インフルエンザウイルスの使用。
【請求項10】
前記担体が鼻腔内又は筋肉内投与に好適である、請求項5に記載のワクチンまたは医薬組成物。
【請求項11】
前記単離されたインフルエンザウイルス以外の病原体の抗原を更に含む、請求項1に記載の医薬組成物、又は、請求項3に記載のワクチン。
【請求項12】
別の単離インフルエンザウイルスを更に含む、請求項3に記載のワクチン。」

ここで、請求項1、3、6、8における「配列番号1」は、本願の配列表に記載の以下の配列を示すものである。
「Met Lys Thr Thr Ile Ile Leu Ile Leu Leu Thr His Trp Ala Tyr Ser
Gln Asn Pro Ile Ser Gly Asn Asn Thr Ala Thr Leu Cys Leu Gly His
His Ala Val Ala Asn Gly Thr Leu Val Lys Thr Ile Ser Asp Asp Gln
Ile Glu Val Thr Asn Ala Thr Glu Leu Val Gln Ser Ile Ser Met Gly
Lys Ile Cys Asn Asn Ser Tyr Arg Ile Leu Asp Gly Arg Asn Cys Thr
Leu Ile Asp Ala Met Leu Gly Asp Pro His Cys Asp Ala Phe Gln Tyr
Glu Asn Trp Asp Leu Phe Ile Glu Arg Ser Ser Ala Phe Ser Asn Cys
Tyr Pro Tyr Asp Ile Pro Asp Tyr Ala Ser Leu Arg Ser Ile Val Ala
Ser Ser Gly Thr Leu Glu Phe Thr Ala Glu Gly Phe Thr Trp Thr Gly
Val Thr Gln Asn Gly Arg Ser Gly Ala Cys Lys Arg Gly Ser Ala Asp
Ser Phe Phe Ser Arg Leu Asn Trp Leu Thr Lys Ser Gly Ser Ser Tyr
Pro Thr Leu Asn Val Thr Met Pro Asn Asn Lys Asn Phe Asp Lys Leu
Tyr Ile Trp Gly Ile His His Pro Ser Ser Asn Gln Glu Gln Thr Lys
Leu Tyr Ile Gln Glu Ser Gly Arg Val Thr Val Ser Thr Lys Arg Ser
Gln Gln Thr Ile Ile Pro Asn Ile Gly Ser Arg Pro Trp Val Arg Gly
Gln Ser Gly Arg Ile Ser Ile Tyr Trp Thr Ile Val Lys Pro Gly Asp
Ile Leu Met Ile Asn Ser Asn Gly Asn Leu Val Ala Pro Arg Gly Tyr
Phe Lys Leu Lys Thr Gly Lys Ser Ser Val Met Arg Ser Asp Val Pro
Ile Asp Ile Cys Val Ser Glu Cys Ile Thr Pro Asn Gly Ser Ile Ser
Asn Asp Lys Pro Phe Gln Asn Val Asn Lys Val Thr Tyr Gly Lys Cys
Pro Lys Tyr Ile Arg Gln Asn Thr Leu Lys Leu Ala Thr Gly Met Arg
Asn Val Pro Glu Lys Gln Ile Arg Gly Ile Phe Gly Ala Ile Ala Gly
Phe Ile Glu Asn Gly Trp Glu Gly Met Val Asp Gly Trp Tyr Gly Phe
Arg Tyr Gln Asn Ser Glu Gly Thr Gly Gln Ala Ala Asp Leu Lys Ser
Thr Gln Ala Ala Ile Asp Gln Ile Asn Gly Lys Leu Asn Arg Val Ile
Glu Arg Thr Asn Glu Lys Phe His Gln Ile Glu Lys Glu Phe Ser Glu
Val Glu Arg Arg Ile Gln Asp Leu Glu Lys Tyr Val Glu Asp Thr Lys
Ile Asp Leu Trp Ser Tyr Asn Ala Glu Leu Leu Val Ala Leu Glu Asn
Gln His Thr Ile Asp Leu Thr Asp Ala Glu Met Asn Lys Leu Phe Glu
Lys Thr Arg Arg Gln Leu Arg Glu Asn Ala Glu Asp Met Gly Gly Gly
Cys Phe Lys Ile Tyr His Lys Cys Asp Asn Ala Cys Ile Gly Ser Ile
Arg Asn Gly Thr Tyr Asp His Tyr Ile Tyr Arg Asp Glu Ala Leu Asn
Asn Arg Phe Gln Ile Lys Gly Val Glu Leu Lys Ser Gly Tyr Lys Asp
Trp Ile Leu Trp Ile Ser Phe Ala Ile Ser Cys Phe Leu Ile Cys Val
Val Leu Leu Gly Phe Ile Met Trp Ala Cys Gln Lys Gly Asn Ile Arg
Cys Asn Ile Cys Ile」(「1」、「5」、「10」・・・「565」の数字は省略して摘記)

第5 引用文献の記載事項
1 引用文献1の記載事項
引用文献1には、次の事項が記載されている。なお、翻訳は当審によるものである。

(1)「鼻汁試料中のウマヘルペスウイルス(EHV)-1及びEHV-4の存在に関するリアルタイム定量ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)評価;ウマウイルス性動脈炎ウイルスへの曝露があるかを決定する血清試験;及びDirectigen Flu Aアッセイ^(b)、並びにインフルエンザウイルスの存在を試験するための鼻汁試料からのウイルス単離のみならず、完全なかつ組織病理学的解剖検査も行った。」(132頁右欄下から12行目?5行目)
(2)「H3-サブタイプウマインフルエンザウイルスとしてのウイルスの同定は、以前に記述された5プライマーを用いた、卵の単離物からの血球凝集(HA)遺伝子の逆転写-PCR増幅、その後のHA遺伝子の完全長タンパク質コード領域のサイクルシークエンシング、並びにGenBankで利用できるウイルス配列に対する一対一の比較によって確認された^(c)。さらに、このウイルスは、1,000ブートストラップ複製の高速発見的検索法で参照ウイルス株と比較されたウイルスのHA配列の最大構文ブートストラップ解析^(d)を使用した系統発生解析によって、北アメリカ系H3ウマインフルエンザウイルスに由来することが示された。ウイルスの非構造的タンパク質遺伝子(544ヌクレオチドが配列決定された)及びNP遺伝子(885ヌクレオチドが配列決定された)のヌクレオチド配列部分に関する同様の解析によりさらに、北アメリカ系ウマインフルエンザウイルスとしてウイルスの一致を確認した。このウイルスは、A/Equine/Wisconsin/1/03として今定義される。」(133頁左欄下から14行目?右欄4行目)

2 引用文献4の記載事項
当審による拒絶理由通知の拒絶の理由で引用された引用文献4には、次の事項が記載されている。なお、翻訳は当審によるものである。

(1)「4月中旬、アイオワグレイハウンド競走場への競走グレイハウンドの流入により、競走場内での呼吸器疾患が集団発生した。・・・大部分の罹患犬が回復したものの、それでも多くは出血性肺炎で死亡した。」(1974頁右欄第2段落1行目?5行目)
(2)「重度の肺炎で死亡した4匹の動物の組織サンプルがアイオワ州立大学獣医診断研究所に提出された。」(1974頁右欄第3段落1行目?4行目)
(3)「・・・4つの肺サンプルのうち2つは、・・・インフルエンザAウイルスに陽性であった・・・。」(1975頁左欄第2段落6行目?10行目)
(4)「2匹中1匹・・・からウイルスを単離した。単離株は、・・・H3亜種のA型インフルエンザウイルスであると判定された。米国農務省国立衛生研究所・・・は、赤血球凝集阻害アッセイ及びノイラミニダーゼ阻害アッセイを用いて、ウイルス単離株(A/Canine/Iowa/13628/2005)をサブタイプH3N8と分類した。」(1975頁左欄第3段落7行目?中欄第1段落6行目)
(5)「系統発生学的には、分離株のHA遺伝子(GenBank受託番号DQ146419)は、最近のH3N8ウマインフルエンザウイルスのHA遺伝子と遺伝的に近い(ヌクレオチド相同性96%?98%)・・・。」(1975頁中欄第2段落11行目?16行目)

3 引用文献5の記載事項
引用文献5は、引用文献4に付随して、本願の新規性進歩性の判断の基準日である平成18年3月28日(原出願のさらに原出願の出願日;以下、「本願基準日」という。)より前の平成17年11月16日にインターネット上に公開された上記「GenBank受託番号DQ146419」に関する補助資料であって、引用文献4の上記2(5)に示されたHA遺伝子であるDQ146419について以下に示すアミノ酸配列及びヌクレオチド配列が記載されている。

アミノ酸配列
「MKTTIILILLTHWAYSQNPISGNNTATLCLGHHAVANGTLVKTM
SDDQIEVTNATELVQSISMGKICNKSYRILDGRNCTLIDAMLGDPHCDALQYESWDLF
IERSSAFSNCYPYDIPDYASLRSIVASSGTVEFTAEGFTWTGVTQNGRSGACKRGSAD
SFFSRLNWLTKSGSSYPTLNVTMPNNKNFDKLYIWGIHHPSSNQEQTKLYIQESGRVT
VSTKRSQQTIIPNIESRPLVRGQSGRISIYWTIVKPGDILMINSNGNLVAPRGYFKLN
TGKSSVMRSDVPIDICVSECITPNGSISNDKPFQNVNKVTYGKCPKYIRQNTLKLATG
MRNVPEKQTRGIFGAIAGFIENGWEGMVDGWYGFRYQNSEGTGQAADLKSTQAAIDQI
NGKLNRVIERTNEKFHQIEKEFSEVEGRIQDLEKYVEDTKIDLWSYNAELLVALENQH
TIDLTDAEMNKLFEKTRRQLRENAEDMGGGCFKIYHKCDNACIESIRTGTYDHYIYRD
EALNNRFQIKGVELKSGYKDWILWISFAISCFLICVVLLGFIMWACQKGNIRCNICI」

ヌクレオチド配列
「 1 atgaagacaa ccattatttt aatactactg acccattggg cctacagtca aaacccaatc
61 agtggcaata acacagccac actgtgtctg ggacaccatg cagtagcaaa tggaacattg
121 gtaaaaacaa tgagtgatga tcaaattgag gtgacaaatg ctacagaatt agttcagagc
181 atttcaatgg ggaaaatatg caacaaatca tatagaattc tagatggaag aaattgcaca
241 ttaatagatg caatgctagg agacccccac tgtgacgccc ttcagtatga gagttgggac
301 ctctttatag aaagaagcag cgctttcagc aattgctacc catatgacat ccctgactat
361 gcatcgctcc gatccattgt agcatcctca ggaacagttg aattcacagc agagggattc
421 acatggacag gtgtaactca aaacggaaga agtggagcct gcaaaagggg atcagccgat
481 agtttcttta gccgactgaa ttggctaaca aaatctggaa gctcttaccc cacattgaat
541 gtgacaatgc ctaacaataa aaatttcgac aagctataca tctgggggat tcatcacccg
601 agctcaaatc aagagcagac aaaattgtac atccaagaat caggacgagt aacagtctca
661 acaaaaagaa gtcaacaaac aataatccct aacatcgaat ctagaccgtt ggtcagaggt
721 caatcaggca ggataagcat atactggacc attgtaaaac ctggagatat cctaatgata
781 aacagtaatg gcaacttagt tgcaccgcgg ggatatttta aattgaacac agggaaaagc
841 tctgtaatga gatccgatgt acccatagac atttgtgtgt ctgaatgtat tacaccaaat
901 ggaagcatct ccaacgacaa gccattccaa aatgtgaaca aagttacata tggaaaatgc
961 cccaagtata tcaggcaaaa cactttaaag ctggccactg ggatgaggaa tgtaccagaa
1021 aagcaaacca gaggaatctt tggagcaata gcgggattca tcgaaaacgg ctgggaagga
1081 atggttgatg ggtggtatgg gttccgatat caaaactctg aaggaacagg gcaagctgca
1141 gatctaaaga gcactcaagc agccattgac cagattaatg gaaagttaaa cagagtgatt
1201 gaaagaacca atgagaaatt ccatcaaata gagaaggaat tctcagaagt agaaggaaga
1261 attcaggact tggagaaata tgtagaagac accaaaatag acctatggtc ctacaatgca
1321 gaattgctgg tggctctaga aaatcaacat acaattgact taacagatgc agaaatgaat
1381 aaattatttg agaagactag acgccagtta agagaaaacg cagaagacat gggaggtgga
1441 tgtttcaaga tttaccacaa atgtgataat gcatgcattg aatcaataag aactgggaca
1501 tatgaccatt acatatacag agatgaagca ttaaacaacc gatttcagat caaaggtgta
1561 gagttgaaat caggctacaa agattggata ctgtggattt cattcgccat atcatgcttc
1621 ttaatttgcg ttgttctatt gggtttcatt atgtgggctt gccaaaaagg caacatcaga
1681 tgcaacattt gcatttga」

4 引用文献6の記載事項
当審による拒絶理由通知の拒絶の理由で引用された引用文献6には、次の事項が記載されている。なお、翻訳は当審によるものである。

(1)「以下のウイルスはセント・ジュード小児研究病院のレポジトリからのものである:・・・Eq/Ner Market/76・・・」(283頁右欄8行目?14行目)
(2)「

図1.ウマH3インフルエンザウイルスHA遺伝子のヌクレオチド配列・・・」(286?288頁)


図2.ウマH3インフルエンザウイルスHA遺伝子のアミノ酸配列・・・」(289頁)

第6 甲号証の記載事項
1 甲第4号証の記載事項
平成31年4月6日の手続補足書により提出された甲第4号証(Science, 2005, 310, pp.482-485)は、本願基準日より前に公開された論文であって、以下の事項が記載されている。なお、甲第4号証は、英語で記載されているため、同手続補足書に添付されたその抄訳文によって摘記する。

「表2 イヌ(canine)H3赤血球凝集素とウマ(equine)H3赤血球凝集素との間のアミノ酸の違い。横棒はコンセンサスウマH3 HAと違いがないことを示す。最初の列は、成熟H3 HAにおけるアミノ酸残基と位置を示す。アミノ酸の一文字略号は、A、アラニン:D、アスパラギン酸;G、グリシン;I、イソロイシン;K、リシン;L、ロイシン;M、メチオニン;N、アスパラギン;R、アルギニン;S、セリン;T、スレオニン;V、バリン;W、トリプトファン。

」(485頁)

2 甲第5号証の記載事項
平成31年4月24日の意見書により提出された甲第5号証は、引用文献1の発行母体であるアメリカ獣医内科学会の担当者からの生物学的材料の頒布に関する方針の質問に対する回答を示す書簡の一部であって、以下の事項が記載されている。なお、甲第5号証は、英語で記載されているため、同意見書に添付されたその抄訳文によって摘記する。

「・・・The Journal of Veterinary Internal Medicine(JVIM)には、現在または過去において、論文で言及された材料の頒布に関する方針はございません。・・・」

第7 当審の判断
1 査定理由1、2及び当審拒絶理由4、5(1)(引用文献1を主引用例とする新規性欠如、進歩性欠如)について
引用文献1の摘記事項(1)及び(2)の記載によれば、引用文献1には、文言上、次のウイルスが記載されていると認められる。
「A/Equine/Wisconsin/1/03として定義され、血球凝集(HA)遺伝子配列が同定された、単離H3-サブタイプウマインフルエンザウイルス。」
上記ウイルスについて検討するに、新規なウイルス株等の生物学的材料の発見に関する論文を発表する際に、論文の掲載雑誌の投稿規定などに従って、発表論文に接した研究者の求めに応じて当該生物学的材料を分譲することは、本願基準日において通例であったと考えられるものの、引用文献1の掲載誌であるThe Journal of Veterinary Internal Medicineの投稿規定には、論文で発表したウイルス等の生物学的材料を求めに応じて分譲する義務を見いだせない。それに加えて、請求人が提出した甲第5号証(引用文献1の発行母体であるアメリカ獣医内科学会の担当者からの生物学的材料の頒布に関する方針の質問に対する回答を示す書簡の一部)において、「The Journal of Veterinary Internal Medicine(JVIM)には、現在または過去において、論文で言及された材料の頒布に関する方針はございません」と述べられている。これらのことから、引用文献1の記載に接した当業者が、引用文献1に記載の生物学的材料である上記ウイルスを、本願基準日において分譲され得る状態にあったと断定することはできない。そして、技術常識に照らすと、引用文献1に記載されたような由来、性質、及び名称といった情報に基づいてそのウイルスを作製したり、再度単離したりすることは極めて困難であるから、結局、引用文献1の開示から上記ウイルスを入手可能であると断定できず、引用発明として認定することはできない。
そのため、新規性欠如、進歩性欠如の査定理由1、2及び当審拒絶理由4、5(1)は、解消している。

2 当審拒絶理由4、5(2)(引用文献4を主引用例とする新規性欠如、進歩性欠如)について
(1)引用発明
引用文献4の摘記事項(1)?(5)の記載、及び引用文献4の補助資料である引用文献5の摘記事項を整理すると、引用文献4には、次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。
「A/Canine/Iowa/13628/2005と名付けられた、呼吸器疾患に罹患したイヌから単離されたH3亜種のA型インフルエンザウイルスであって、そのHA遺伝子として、引用文献5に示される具体的なアミノ酸配列をコードする、引用文献5に示される具体的なヌクレオチド配列を有するH3亜種のA型インフルエンザウイルス。」
なお、上記A/Canine/Iowa/13628/2005のHA遺伝子のヌクレオチド配列が、引用文献5において本願基準日前に公開されていることに鑑みて、引用発明4の上記ウイルスは、本願基準日において分譲され得る状態にあったと推認される。

(2)本願発明6と引用発明4との対比
本願発明6と引用発明4とを対比する。
本願発明6と引用発明4とは、ともに「HA遺伝子セグメントを含む単離H3インフルエンザウイルス」である点で一致するものの、前者におけるHA遺伝子セグメントが「配列番号1を有するポリペプチドをコードする」ものであるのに対し、後者におけるHA遺伝子セグメントが、引用文献5に示される具体的なアミノ酸配列をコードする、引用文献5に示される具体的なヌクレオチド配列のものである点で相違する。

(3)相違点についての判断
上記相違点について検討するに、本願明細書の【0017】の冒頭に「図1Aは、A/Equine/Wisconsin/1/03の配列を示す。配列番号1?8、17及び18は、各々、A/Equine/Wisconsin/1/03のHA、NA、PB1、PB2、PA、NP、M1、NS1、M2及びNS2の推定アミノ酸配列を示す。」と記載されるとおり、配列番号1を有するポリペプチドは、A/Equine/Wisconsin/1/03のHA遺伝子に対応するポリペプチドであって、Equineすなわちウマの単離H3インフルエンザウイルスの由来のHAポリペプチドである。
一方、引用発明4における「引用文献5に示される具体的なアミノ酸配列」を有するポリペプチドは、引用文献4の摘記事項(4)、(5)及び引用文献5の摘記事項から、A/Canine/Iowa/13628/2005のHA遺伝子に対応するポリペプチドであって、Canineすなわちイヌの単離H3インフルエンザウイルス由来のHAポリペプチドである。
ところで、甲第4号証の記載から、ウマ単離H3インフルエンザウイルスの由来のHAポリペプチドに共通するコンセンサスアミノ酸である位置83のN(3文字表記では「Asn」)、位置222のW(3文字表記では「Trp」)、及び位置483のN(3文字表記では「Asn」)は、イヌ単離H3インフルエンザウイルスにおいて、いずれも異なるアミノ酸である位置83のS、位置222のL、及び位置483のTであったことがわかるところ、このことは、本願発明6のウマ単離H3インフルエンザウイルスの由来のHAポリペプチドである配列番号1を有するポリペプチドと、引用発明4におけるイヌ単離H3インフルエンザウイルス由来のHAポリペプチドである「引用文献5に示される具体的なアミノ酸配列」を有するポリペプチドとのそれぞれの各位置のアミノ酸にも当てはまっている(ここで、各位置の特定は、発明の詳細な説明の【0005】に記載されるように、「15アミノ酸シグナルペプチドを欠く成熟タンパク質」に基づくものであり、以下、位置についての記載は、同様に全て「15アミノ酸シグナルペプチドを欠く成熟タンパク質」に基づくものである。)。
してみると、当業者であっても、本願基準日において、引用発明4におけるイヌ単離H3インフルエンザウイルス由来の、引用文献5に示される具体的なアミノ酸配列をコードする、引用文献5に示される具体的なヌクレオチド配列について、「引用文献5に示される具体的なアミノ酸配列」のうち、位置83のS、位置222のL、及び位置483のTを、HAポリペプチドに共通するコンセンサスアミノ酸である位置83のN(3文字表記では「Asn」)、位置222のW(3文字表記では「Trp」)、及び位置483のN(3文字表記では「Asn」)に置換するなどして、「配列番号1を有するポリペプチドをコードする」ものとすることに十分な動機付けを見いだすことができない。
したがって、本願発明6は、引用発明4と同一でないし、また、当業者であっても、引用発明4に基づいて容易に発明できたものでない。

(4)本願発明1?5、7?12について
本願発明1?5、7、10?12は、それぞれ本願発明6の「配列番号1を有するポリペプチドをコードするHA遺伝子セグメントを含む単離H3インフルエンザウイルス」と同一の構成を備えるものであり、また、本願発明9は、本願発明6の「配列番号1を有するポリペプチドをコードするHA遺伝子セグメントを含む単離H3インフルエンザウイルス」の使用についてのものであるから、いずれも本願発明6と同じ理由により、引用発明4と同一でないし、また、当業者であっても、引用発明4に基づいて容易に発明できたものでない。
また、本願発明8は、本願発明6における「配列番号1を有するポリペプチド」である「単離HAポリペプチド」、又は「配列番号1を有するポリペプチド」を構成するHA-1サブユニットに相当する「配列番号20に示されるHA-1部分」のポリペプチドを含む免疫原性組成物についてのものであるところ、引用発明4には、HA遺伝子セグメントが「配列番号1を有するポリペプチドをコードする」ものであることが記載も示唆もされていないことは、前記(3)で検討したとおりであるから、本願発明8のこれらポリペプチドを含む免疫原性組成物についても、引用発明4と同一でないし、また、当業者であっても、引用発明4に基づいて容易に発明できたものでない。

(5)小括
本願発明1?12は、引用発明4と同一でなく、また、本願発明1?12は、引用発明4に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものでもない。そのため、新規性欠如、進歩性欠如の当審拒絶理由4、5(2)は、解消している。

3 当審拒絶理由4、5(3)(引用文献6を主引用例とする新規性欠如、進歩性欠如)について
(1)引用発明
引用文献6の(1)?(3)の記載を整理すると、引用文献6には、次の発明(以下、「引用発明6」という。)が記載されていると認められる。
「セント・ジュード小児研究病院のレポジトリからのものであるウマH3インフルエンザウイルスEq/New Market/76であって、そのHA遺伝子が図2にNM 76として示される具体的なアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする、図1にNM 76として示される具体的なヌクレオチド配列を有するウマH3インフルエンザウイルス。」
なお、上記Eq/New Market/76は、セント・ジュード小児研究病院のレポジトリからのものであるから、引用発明6の上記ウイルスは、本願基準日において分譲され得る状態にあったと推認される。

(2)本願発明6と引用発明6との対比
本願発明6と引用発明6とを対比する。
本願発明6と引用発明6とは、ともに「HA遺伝子セグメントを含む単離H3インフルエンザウイルス」である点で一致するものの、前者におけるHA遺伝子セグメントが「配列番号1を有するポリペプチドをコードする」ものであるのに対し、後者におけるHA遺伝子セグメントが、図2にNM 76として示される具体的なアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする、図1にNM 76として示される具体的なヌクレオチド配列のものである点で相違する。

(3)相違点についての判断
上記相違点について検討するに、本願発明6における「配列番号1を有するポリペプチド」は、本願の配列表に記載の配列のポリペプチドであるところ(前記第4の後半参照)、「配列番号1を有するポリペプチドをコードするHA遺伝子セグメントを含む単離H3インフルエンザウイルス」である本願発明6は、当審拒絶理由2で指摘されるとおり(前記第3の2参照)、「HA遺伝子によってコードされるHAタンパク質・・・について、・・・本願基準日において遺伝系統的に近接するH3型ウマA型インフルエンザウイルスと比べた場合に「位置78のアラニン、位置159のセリン及び位置272のバリンを有する」ことにより、新たな株を提供するものである。
一方、引用発明6における図2にNM 76として示される具体的なアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする、図1にNM 76として示される具体的なヌクレオチド配列は、当該具体的なアミノ酸配列が「位置78のアラニン、位置159のセリン及び位置272のバリン」のうち、「位置159のセリン」を有さないものであるところ、当業者であっても、本願基準日において、引用発明6における図2にNM 76として示される具体的なアミノ酸配列を有するポリペプチドについて「位置159のセリン」(セリンの3文字表記は「Ser」)を採用するなどして、図1にNM 76として示される具体的なヌクレオチド配列を、「配列番号1を有するポリペプチドをコードする」ものとすることに十分な動機付けを見いだすことができない。
したがって、本願発明6は、引用発明6と同一でないし、また、当業者であっても、引用発明6に基づいて容易に発明できたものでない。

(4)本願発明1?5、7?12について
本願発明1?5、7、10?12は、それぞれ本願発明6の「配列番号1を有するポリペプチドをコードするHA遺伝子セグメントを含む単離H3インフルエンザウイルス」と同一の構成を備えるものであり、また、本願発明9は、本願発明6の「配列番号1を有するポリペプチドをコードするHA遺伝子セグメントを含む単離H3インフルエンザウイルス」の使用についてのものであるから、いずれも本願発明6と同じ理由により、引用発明6と同一でないし、また、当業者であっても、引用発明6に基づいて容易に発明できたものでない。
また、本願発明8は、本願発明6における「配列番号1を有するポリペプチド」である「単離HAポリペプチド」、又は「配列番号1を有するポリペプチド」を構成するHA-1サブユニットに相当する「配列番号20に示されるHA-1部分」のポリペプチドを含む免疫原性組成物についてのものであるところ、引用発明6には、HA遺伝子セグメントが「配列番号1を有するポリペプチドをコードする」ものであることが記載も示唆もされていないことは、前記(3)で検討したとおりであるから、本願発明8のこれらポリペプチドを含む免疫原性組成物についても、引用発明6と同一でないし、また、当業者であっても、引用発明6に基づいて容易に発明できたものでない。

(5)小括
本願発明1?12は、引用発明6と同一でなく、また、本願発明1?12は、引用発明6に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものでもない。そのため、新規性欠如、進歩性欠如の当審拒絶理由4、5(3)は、解消している。

4 査定理由3(産業上の利用可能性)について
本願発明1?12には、いずれも人間を治療する方法が含まれないから、産業上の利用可能性の査定理由3は解消している。

5 査定理由4(明確性要件違反)について
誤訳訂正後の本願請求項1?12には、「任意に」との記載がなく、本願発明1?12は、査定理由4において指摘された任意付加的事項によって特定されるものでないから、明確性要件違反の査定理由4は解消している。

6 当審拒絶理由1(明確性要件違反)について
(1)誤訳訂正後の本願請求項1?12には、配列番号1で示されるポリペプチドについて、「位置78のアラニンもしくは位置159のセリン」との記載がなく、本願発明1?12において、配列番号1で示されるポリペプチドについては、配列番号1として具体的な配列が特定されているから、明確性要件違反の当審拒絶理由1(1)は、解消している。

(2)誤訳訂正後の本願請求項1?12には、「位置78のアラニンもしくは位置159のセリンを有する前記ポリペプチドと少なくとも・・・%のアミノ酸配列同一性を有するHA」との記載、及び「配列番号1と少なくとも・・・%のアミノ酸配列同一性を有する」との記載がいずれもなく、本願発明1?12は、「アミノ酸配列同一性」の下限値によって発明が特定されるものでないから、明確性要件違反の当審拒絶理由1(2)は、解消している。

(3)誤訳訂正後の本願請求項1?12には、「前記ポリペプチドの配列番
号19もしくは20に示される・・・HA-1部分」との記載がなく、「HA-1部分」については、本願発明8において「前記ポリペプチドの配列番号20に示されるHA-1部分」が特定されるのみであるから、明確性要件違反の当審拒絶理由1(3)は、解消している。

7 当審拒絶理由2(サポート要件違反)について
本願発明1?7、10?12は、それぞれ「配列番号1を有するポリペプチドをコードするHA遺伝子セグメントを含む単離H3インフルエンザウイルス」を備えるものであり、また、本願発明9は、本願発明6の「配列番号1を有するポリペプチドをコードするHA遺伝子セグメントを含む単離H3インフルエンザウイルス」の使用についてのものであり、さらに、本願発明8は、「配列番号1を有するポリペプチド」である「単離HAポリペプチド」、又は「配列番号1を有するポリペプチド」を構成するHA-1サブユニットに相当する「配列番号20に示されるHA-1部分」のポリペプチドを備えるものであるところ、「配列番号1を有するポリペプチド」は、「位置78のアラニン、位置159のセリン及び位置272のバリンを有する」ものである。してみると、本願発明1?12は、いずれも「位置78のアラニン、位置159のセリン及び位置272のバリンを有する」ポリペプチドについてのものであるから、サポート要件違反の当審拒絶理由2は、解消している。

8 当審拒絶理由3(新規事項追加)について
願書に最初に添付した明細書の【0013】、【0024】、【0041】?【0043】及び【0047】には、ウイルスの「組み換え」についての記載がある一方で、「リアソータントウイルス」についての記載がなかったものの、平成31年4月24日に提出された誤訳訂正書によって、上記ウイルスの「組み換え」についての記載が「リアソータント」の誤訳であるとして訂正された。この訂正に照らすと、本願請求項4の「前記単離インフルエンザウイルスが、弱毒化ウイルス、リアソータントウイルスである」との記載は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものと認められるから、新規事項追加の当審拒絶理由3は、解消している。

第8 むすび
以上のとおり、本願を、原査定の拒絶理由、及び当審の拒絶理由によって拒絶することはできない。また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-06-06 
出願番号 特願2015-157187(P2015-157187)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61K)
P 1 8・ 113- WY (A61K)
P 1 8・ 55- WY (A61K)
P 1 8・ 537- WY (A61K)
P 1 8・ 14- WY (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 白井 美香保  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 澤田 浩平
長井 啓子
発明の名称 H3型ウマA型インフルエンザウイルス  
代理人 森下 夏樹  
代理人 石川 大輔  
代理人 山本 秀策  
代理人 山本 健策  
代理人 飯田 貴敏  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ