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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1352116
審判番号 不服2018-6439  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-10 
確定日 2019-06-28 
事件の表示 特願2015-164479「キャリアフィルム付き透明導電性フィルム及びそれを用いたタッチパネル」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月 2日出願公開,特開2017- 45087,請求項の数(5)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成27年8月24日の出願であって,平成29年3月13日付け拒絶理由通知に対し,同年5月12日に手続補正がされ,同年5月29日付け拒絶理由通知に対し,同年6月27日に意見書が提出されるとともに手続補正がされ,同年9月1日付け最後の拒絶理由通知に対し,平成30年1月11日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが,同年2月14日付けで当該手続補正は却下されるとともに拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ,これに対し,同年5月10日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたところ,平成31年2月27日付けで当審から拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,これに対し,同年4月23日に意見書が提出されるとともに手続補正(以下,「本件補正」という。)がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の理由の概要は以下のとおりである。
1.(新規事項)平成29年6月27日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1についてした「前記保護フィルムの含水量は,10cm×10cm当たり1.0×10^(-3)g以下」という補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,当該補正は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
2.(進歩性)本願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1ないし7
・引用文献 AないしD
<引用文献等一覧>
A.特開2015-30213号公報
B.特開2004-59860号公報
C.特開2014-28906号公報
D.糸賀 正明,ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム),飽和ポリエステル樹脂ハンドブック,日刊工業新聞社,1999年12月22日,第1版

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は以下のとおりである。
1.(進歩性)本願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1ないし5
・引用文献 1ないし7
<引用文献等一覧>
1.特開2015-30213号公報(拒絶査定時の引用文献A)
2.特許第5767744号公報
3.特開2003-50674号公報
4.特開2006-79149号公報
5.特開2015-135605号公報
6.糸賀 正明,ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム),飽和ポリエステル樹脂ハンドブック,日刊工業新聞社,1999年12月22日,第1版(拒絶査定時の引用文献D)
7.特開2014-28906号公報(拒絶査定時の引用文献C)
2.(実施可能要件)本願は,明細書に記載された各実施例等のデータが非現実的な数値であって,明細書の発明の詳細な説明に,請求項1ないし5に係る発明を当業者が実施をすることができる程度に明確に記載したものであるとはいえないから,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は,本件補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される発明であって,本願発明1は以下のとおりである。

「【請求項1】
透明樹脂フィルムと,透明導電膜とを含む透明導電性フィルムと,
前記透明導電性フィルムの前記透明樹脂フィルムが形成された面側に配置された粘着剤層と保護フィルムとを含むキャリアフィルムと,を含むキャリアフィルム付き透明導電性フィルムであって,
前記透明導電膜は,インジウム・スズ複合酸化物であり,
前記透明樹脂フィルムの厚みが80μm以下であり,
前記保護フィルムの厚みは,前記透明樹脂フィルムの厚み以上で150μm以下であり,
前記保護フィルムは,シクロオレフィン系樹脂からなるキャリアフィルム付き透明導電性フィルム。」

なお,本願発明2ないし5は,本願発明1を減縮した発明である。

第5 当審拒絶理由についての判断
1 特許法第29条第2項(進歩性)について
(1) 引用文献,引用発明等
ア 引用文献1について
(ア) 引用文献1の記載
当審拒絶理由で引用された引用文献1(特開2015-30213号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で加筆した。以下同じ。)。

a 「【技術分野】
【0001】
本発明は,プロテクトフィルム付き透明導電性フィルムに関する。
特に,ハンドリング性に優れる一方で,アニール処理を施した場合であっても,カールの発生を効果的に抑制することができるプロテクトフィルム付き透明導電性フィルムに関する。」

b 「【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の第1の実施形態は,図1(a)に示すように,透明導電性膜1と,第1のハードコート層2aと,透明プラスチックフィルム基材3と,第2のハードコート層2bと,プロテクトフィルム7と,を順に積層してなるプロテクトフィルム付き透明導電性フィルム10であって,プロテクトフィルム7が,粘着剤層4およびプロテクトフィルム基材5とからなるとともに,第2のハードコート層2bに対して,剥離可能に積層されており,かつ,透明プラスチックフィルム基材3における150℃で60分間加熱した際のMD方向の熱収縮率を0.6%以下の値とし,プロテクトフィルム基材5における150℃で60分間加熱した際のMD方向の熱収縮率を0.6%以下の値とすることを特徴とするプロテクトフィルム付き透明導電性フィルムである。
以下,本発明の実施形態を,図面を適宜参照して,具体的に説明する。
【0026】
1.透明プラスチックフィルム基材
(1)種類
透明プラスチックフィルム基材に使用される樹脂としては,柔軟性および透明性に優れるものであれば特に限定されず,ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリブチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルム,ポリカーボネートフィルム,ポリエチレンフィルム,ポリプロピレンフィルム,セロファン,ジアセチルセルロースフィルム,トリアセチルセルロースフィルム,アセチルセルロースブチレートフィルム,ポリ塩化ビニルフィルム,ポリ塩化ビニリデンフィルム,ポリビニルアルコールフィルム,エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム,ポリスチレンフィルム,ポリメチルペンテンフィルム,ポリスルホンフィルム,ポリエーテルエーテルケトンフィルム,ポリエーテルスルホンフィルム,ポリエーテルイミドフィルム,ポリイミドフィルム,フッ素樹脂フィルム,ポリアミドフィルム,アクリル樹脂フィルム,ポリウレタン樹脂フィルム,ノルボルネン系樹脂フィルム,シクロオレフィン樹脂フィルム等のプラスチックフィルムを挙げることができる。
これらの中でも,透明性に優れ,かつ汎用性があることから,ポリエチレンテレフタレートまたはポリカーボネートからなる透明樹脂フィルムを使用することが好ましい。
・・・
【0031】
(3)厚さ
また,透明プラスチックフィルム基材の厚さを10?200μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は,透明プラスチックフィルム基材の厚さをかかる範囲内の値とすることにより,ハードコート層の塗工性やその後の透明導電性膜の積層性を優れたものにするとともに,透明プラスチックフィルム基材に起因するアウトガスの発生を抑制することができるためである。
すなわち,透明プラスチックフィルム基材の厚さが10μm未満の値となると,ハードコート層や透明導電性膜の積層時に厚みムラが生じる場合があるためである。一方,透明プラスチックフィルム基材の厚さが200μmを超えた値となると,アニール処理時のアウトガスの発生が問題となる場合があるためである。
したがって,透明プラスチックフィルム基材の厚さを30?150μmの範囲内の値とすることがより好ましく,50?100μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。」

c 「【0054】
3.透明導電性膜
(1)材料物質
透明導電性膜の材料物質としては,透明性と導電性とを併せ持つものであれば特に制限されるものではないが,例えば,酸化インジウム,酸化亜鉛,酸化錫,インジウム錫酸化物(ITO),錫アンチモン酸化物,亜鉛アルミニウム酸化物,インジウム亜鉛酸化物等が挙げられる。
また,特に,材料物質としてITOを用いることが好ましい。
この理由は,ITOであれば,適当な造膜条件を採用することで,透明性および導電性に優れた透明導電性膜を形成することができるためである。
・・・
【0057】
4.光学調整層
第2の実施形態として,図1(b)に示すように,前述の第1の実施形態に係るプロテクトフィルム付き透明導電性フィルム10における,透明導電性膜1と,第1のハードコート層2aとの間に,光学調整層8を設ける構成が好ましく挙げられる。かかる光学調整層8を設けることにより,透明導電性膜1の屈折率と,第1のハードコート層2aの屈折率との差に起因した透明導電性膜1のパターン形状を視認されずらくすることができるためである。」

d 「【0078】
5.プロテクトフィルム
(1)プロテクトフィルム基材
(1)-1 種類
プロテクトフィルム基材に使用される樹脂としては,透明導電性フィルムに対して積層することにより,ハンドリング性を向上させることができるものであれば特に限定されず,例えば,ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂,ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂,紙等を用いることができる。
これらの中でも,ポリエステル系樹脂,ポリオレフィン系樹脂がより好ましい。
【0079】
(1)-2 熱収縮率
本発明においては,プロテクトフィルム基材における150℃で60分間加熱した際のMD方向の熱収縮率を0.6%以下の値とすることを特徴とする。
この理由は,上述した透明プラスチックフィルム基材における所定の熱収縮特性と相まって,プロテクトフィルム付き透明導電性フィルムの状態でアニール処理を施した場合であっても,カールの発生を効果的に抑制することができるためである。
すなわち,プロテクトフィルム基材におけるMD方向の熱収縮率が0.6%を超えた値となると,透明プラスチックフィルム基材におけるMD方向の熱収縮率との差によらず,カールの発生を効果的に抑制することが困難になる場合があるためである。一方,プロテクトフィルム基材におけるMD方向の熱収縮率が過度に小さな値とするためには,微粒子等を添加したり,耐熱性に優れた材料をブレンドしたりする必要が生じ,これに起因してアニール処理時にアウトガスの発生が問題となる場合がある。
したがって,プロテクトフィルム基材における150℃で60分間加熱した際のMD方向の熱収縮率を0.01?0.6%の範囲内の値とすることがより好ましく,0.1?0.5%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
・・・
【0086】
(1)-3 厚さ
また,プロテクトフィルム基材の厚さを10?300μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は,プロテクトフィルム基材の厚さが10μm未満の値となると,アニール処理時に透明導電性フィルムのカールを抑制する効果が不十分となる場合があるためである。一方,プロテクトフィルム基材の厚さが300μmを超えた値となると,アニール処理後のプロテクトフィルム基材自体に,厚さ方向で熱分布を生じ,これによりプロテクトフィルム基材自体がカールする場合があるためである。
したがって,プロテクトフィルム基材の厚さを30?200μmの範囲内の値とすることがより好ましく,50?150μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。」

e 【図1】(b)は,プロテクトフィルム付き透明導電性フィルムについて説明するために供する図であり,透明導電性フィルム6は,透明プラスチックフィルム基材3と透明導電性膜1を含んで構成されていることが理解できる。

(イ) 引用発明
上記(ア)によれば,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「透明導電性膜1と,第1のハードコート層2aと,透明プラスチックフィルム基材3と,第2のハードコート層2bと,プロテクトフィルム7と,を順に積層してなるプロテクトフィルム付き透明導電性フィルム10であって,プロテクトフィルム7が,粘着剤層4およびプロテクトフィルム基材5とからなるとともに,第2のハードコート層2bに対して,剥離可能に積層されている,プロテクトフィルム付き透明導電性フィルムであり,
透明導電性フィルム6は,透明プラスチックフィルム基材3と透明導電性膜1を含んで構成されており,
透明プラスチックフィルム基材の厚さは,50?100μmの範囲内の値とすることが好ましく,
透明導電性膜の材料物質としては,透明性と導電性とを併せ持つ,インジウム錫酸化物(ITO)が挙げられ,
透明導電性膜1と,第1のハードコート層2aとの間に,光学調整層8を設け,
プロテクトフィルム基材に使用される樹脂としては,透明導電性フィルムに対して積層することにより,ハンドリング性を向上させることができるもので,PETを用いることができ,アニール処理を施した場合であっても,カールの発生を効果的に抑制することができるために,プロテクトフィルム基材における150℃で60分間加熱した際のMD方向の熱収縮率を0.6%以下の値とし,
プロテクトフィルム基材の厚さは,50?150μmの範囲内の値とすることが好ましい,
プロテクトフィルム付き透明導電性フィルム。」

イ 引用文献2について
当審拒絶理由で引用された引用文献2(特許第5767744号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は,光透過性導電性フィルム及びそれを有するタッチパネルに関する。」

「【0017】
1.1 光透過性支持層(A)
本発明において光透過性支持層とは,光透過性導電層を含有する光透過性導電性フィルムにおいて,光透過性導電層を含む層を支持する役割を果たすものをいう。光透過性支持層(A)としては,特に限定されないが,例えば,タッチパネル用光透過性導電性フィルムにおいて,光透過性支持層として通常用いられるものを用いることができる。
【0018】
光透過性支持層(A)の素材は,特に限定されないが,例えば,各種の有機高分子等を挙げることができる。有機高分子としては,特に限定されないが,例えば,ポリエステル系樹脂,アセテート系樹脂,ポリエーテル系樹脂,ポリカーボネート系樹脂,ポリアクリル系樹脂,ポリメタクリル系樹脂,ポリスチレン系樹脂,ポリオレフィン系樹脂,ポリイミド系樹脂,ポリアミド系樹脂,ポリ塩化ビニル系樹脂,ポリアセタール系樹脂,ポリ塩化ビニリデン系樹脂及びポリフェニレンサルファイド系樹脂等が挙げられる。ITOをパターン化したときにITOパターンの変形が小さいことから,熱収縮が小さい素材であることが好ましい。特に,流れ方向(MD)と流れに直角方向(TD)における熱収縮率の差が小さい樹脂フィルム,具体的には例えば0.1%以下の樹脂フィルムが好ましく,例えば,シクロオレフィンポリマー(COP)やシクロオレフィンコポリマー(COC)などの低Reの樹脂フィルムや,低熱収縮処理されたPETフィルム等が挙げられる。なお,元の長さ寸法をL0,高温度の環境に置き,この後に常温に戻した場合における長さ寸法をL1とした場合に,{(L0-L1)/L0}×100を,熱収縮率と定義する。」

ウ 引用文献3について
当審拒絶理由で引用された引用文献3(特開2003-50674号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はタッチパネルに係り,特に,パーソナルコンピュータ,ワードプロセッサ,電子手帳等において,表示面上に設けられて入力用に用いられる抵抗膜式のタッチパネルに関する。」

「【0021】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明は,タッチパネル本体の上面に偏光板を有する構成のタッチパネルにおいて,熱収縮率が,100℃,30分の高温状況を経た条件で0.3%より小さく,吸水率が,23℃の水に24時間浸けた場合に,0.5%より小さい特性のフィルムを,上記偏光板の上面に貼った構成としたものである。
【0022】請求項2の発明は,請求項1記載のタッチパネルにおいて,上記フィルムは,
ポリエチレンナフタレート製のフィルム,
ポリノルボルネン製のフィルム,
ポリシクロオレフィン製のフィルム
ポリカーボネイト製のフィルム
ポリエーテルサルフォン製のフィルム
ポリアリレート製のフィルム
のうち何れかである構成としたものである。」

エ 引用文献4について
当審拒絶理由で引用された引用文献4(特開2006-79149号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は,各種電子機器の操作に用いられるタッチパネルに関するものである。」

「【0049】
なお,以上の説明では,上基板1上面や上位相差板6,補正板8を,85℃24時間放置後の加熱収縮率が0.01%程度と小さなポリカーボネート等として説明したが,同じく加熱収縮率の小さな他の材料,例えば,加熱アニール処理されたポリエチレンテレフタレートやシクロオレフィンポリマー等を用いても,本発明の実施は可能である。」

オ 引用文献5について
当審拒絶理由で引用された引用文献5(特開2015-135605号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は,透明導電体及びこれを用いたタッチパネルに関する。」

「【0030】
透明基材10は,加熱によって生じる熱収縮量が大きいものであってもよく,熱収縮量が小さいものであってもよい。熱収縮量が小さい透明基材10としてはポリカーボネート基材及びシクロオレフィン基材等が挙げられる。」

カ 引用文献6について
当審拒絶理由で引用された引用文献6(糸賀 正明,ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム),飽和ポリエステル樹脂ハンドブック,日刊工業新聞社,1999年12月22日,第1版)の第738頁の「各種フィルムの特性比較」と称する「表13.28」によれば,次の事項が記載されていると認められる。

「フィルムの種別がPETの場合,物理化学的特性として,吸水率(24hr)は0.4%であること。」

キ 引用文献7について
当審拒絶理由で引用された引用文献7(特開2014-28906号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は,粘着剤組成物および,当該粘着剤組成物を有する粘着剤層および粘着シートに関する。本発明の粘着シートは,例えば被着体に貼着している際には被着体の表面を保護し,使用後は容易に再剥離可能な表面保護シートとして使用可能である。なかでも特に,偏光板,波長板,光学補償フィルム,反射シートなどの光学部材の表面を保護する目的で用いられる光学用表面保護シートとして使用可能であり,当該光学部材に光学用表面保護シートが貼付された表面保護シート付き光学フィルムとしても使用可能である。
【背景技術】
【0002】
被着体に貼着し一定期間経過した後に剥離される再剥離用の粘着シートが知られている。例えば,表面保護シートは,一般的に表面保護シート側に塗布された粘着剤を介して被保護体に貼り合わせ,被保護体の加工,搬送時に生じる傷や汚れを防止する目的で用いられる。そして,表面保護シートは不要になった時点で剥離除去(再剥離)される。被保護体としては,ステンレス製品やプラスチック製品,ガラス板等が知られているが,近年液晶ディスプレイの液晶セルに貼り合わせる光学部材(光学フィルム)の傷や汚れなどを防止する目的で表面保護シート(光学用表面保護シート)が貼り合わされている。」

「【0123】
また,粘着シートに使用するプラスチックフィルムは,帯電防止処理されたものがより好ましい。帯電防止処理することにより,静電気の発生を防止することができ,帯電が特に深刻な問題となる光学・電子部品関連の技術分野において有用である。プラスチックフィルムに施される帯電防止処理としては特に限定されないが,一般的に用いられるフィルムの少なくとも片面に帯電防止層を設ける方法やプラスチックフィルムに練り込み型帯電防止剤を練り込む方法が用いられる。フィルムの少なくとも片面に帯電防止層を設ける方法としては,帯電防止剤と樹脂成分から成る帯電防止性樹脂や導電性ポリマー,導電性物質を含有する導電性樹脂を塗布する方法や導電性物質を蒸着あるいはメッキする方法が挙げられる。」

(2) 対比及び判断
ア 本願発明1について
(ア) 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。
引用発明の「透明プラスチックフィルム基材3」は,本願発明1の「透明樹脂フィルム」に相当し,引用発明の「透明導電性膜1」は,本願発明1の「透明導電膜」に相当するから,引用発明の「透明プラスチックフィルム基材3と透明導電性膜1を含んで構成され」る「透明導電性フィルム6」は,本願発明1の「透明樹脂フィルムと,透明導電膜とを含む透明導電性フィルム」に相当する。
引用発明の「粘着剤層4」は,本願発明1の「粘着剤層」に相当し,引用発明の「プロテクトフィルム基材5」は,本願発明1の「保護フィルム」に相当し,引用発明の「粘着剤層4およびプロテクトフィルム基材5とからなるとともに,第2のハードコート層2bに対して,剥離可能に積層されている」「プロテクトフィルム7」は,本願発明1の「前記透明導電性フィルムの前記透明樹脂フィルムが形成された面側に配置された粘着剤層と保護フィルムとを含むキャリアフィルム」に相当する。
引用発明の「透明導電性膜1と,第1のハードコート層2aと,透明プラスチックフィルム基材3と,第2のハードコート層2bと,プロテクトフィルム7と,を順に積層してなるプロテクトフィルム付き透明導電性フィルム10」は,本願発明1の「透明樹脂フィルムと,透明導電膜とを含む透明導電性フィルムと,前記透明導電性フィルムの前記透明樹脂フィルムが形成された面側に配置された粘着剤層と保護フィルムとを含むキャリアフィルムと,を含むキャリアフィルム付き透明導電性フィルム」に相当する。
引用発明の「透明導電性膜の材料物質としては,透明性と導電性とを併せ持つ,インジウム錫酸化物(ITO)が挙げられ」ることは,本願発明1の「前記透明導電膜は,インジウム・スズ複合酸化物であ」ることに相当する。

そうすると,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「透明樹脂フィルムと,透明導電膜とを含む透明導電性フィルムと,
前記透明導電性フィルムの前記透明樹脂フィルムが形成された面側に配置された粘着剤層と保護フィルムとを含むキャリアフィルムと,を含むキャリアフィルム付き透明導電性フィルムであって,
前記透明導電膜は,インジウム・スズ複合酸化物である,
キャリアフィルム付き透明導電性フィルム。」

(相違点)
(相違点1)
本願発明1では,「前記透明樹脂フィルムの厚みが80μm以下であり, 前記保護フィルムの厚みは,前記透明樹脂フィルムの厚み以上で150μm以下であ」るのに対し,引用発明では,「透明プラスチックフィルム基材の厚さは,50?100μmの範囲内の値とすることが好ましく」,「プロテクトフィルム基材の厚さを,50?150μmの範囲内の値とすることが好ましい」ものの,本願発明1が特定する厚みではない点。

(相違点2)
「保護フィルム」について,本願発明1は,「シクロオレフィン系樹脂」からなるのに対し,引用発明は,「シクロオレフィン系樹脂」からなるものではない点。

(イ) 判断
事案にかんがみて,(相違点2)について判断する。
引用発明の「保護フィルム」(プロテクトフィルム基材5)は,「透明導電性フィルムに対して積層することにより,ハンドリング性を向上させることができるもので,PETを用いることができ,アニール処理を施した場合であっても,カールの発生を効果的に抑制することができるために,プロテクトフィルム基材における150℃で60分間加熱した際のMD方向の熱収縮率を0.6%以下の値」とする樹脂であるところ,引用文献1には,「保護フィルム」(プロテクトフィルム基材5)を「シクロオレフィン系樹脂」からなるように構成することは記載も示唆もされていないし,引用文献2ないし7をみても何ら記載はなく,周知技術であるということもできないから,引用発明において,そのような変更を行う動機付けはない。
これに対し,本願発明1は,上記相違点2に係る構成を採用することにより,「これにより,含水率の低い保護フィルムを用いることができ,保護フィルムの含水量をさらに制御することができ,透明導電膜の結晶化が十分行われることになるため,より確実に透明導電性フィルムの抵抗値異常を防止するとともに,透明導電膜と基材との密着性をより高めて膜剥がれを防止することが可能となる。」(本願明細書【0062】)という顕著な効果を奏するものである。
そうすると,相違点1について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明及び引用文献1ないし7に記載された事項に基づいて,容易に想到し得るものではない。

イ 本願発明2ないし5について
上記第4のとおり,本願発明2ないし5は,本願発明1を減縮した発明であって,本願発明1と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても引用発明及び引用文献1ないし7に記載された事項に基づいて,容易に想到し得るものではない。

(3) まとめ
よって,本願発明1ないし5は,当業者であっても引用発明及び引用文献1ないし7に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
したがって,進歩性に関する当審拒絶理由は解消した。

2 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
本件補正によって,明細書における「透明樹脂フィルム」及び「保護フィルム」の含水量の値は,「10cm×10cm当たり」の数値であると補正された結果,実施可能要件に関する当審拒絶理由は解消した。

3 まとめ
以上のとおり,上記1及び2によれば,当審拒絶理由はすべて解消した。

第6 原査定についての判断
1 特許法第17条の2第3項(新規事項)について
新規事項に関する原査定の理由は,上記第2の1のとおり,平成29年6月27日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1についてした「前記保護フィルムの含水量は,10cm×10cm当たり1.0×10^(-3)g以下」という補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでない,というものである。
しかしながら,上記第4のとおり,本願の特許請求の範囲は本件補正によって補正されており,保護フィルムの含水量についての記載は削除された。

2 特許法第29条第2項(進歩性)について
進歩性に関する原査定の理由は,上記第2の2のとおり,平成29年6月27日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された発明は,引用文献A(引用文献1),引用文献B,引用文献C(引用文献7)及び引用文献D(引用文献6)に記載された発明に基づいて,当業者であれば容易に発明できたものである,というものである。
しかしながら,上記第4のとおり,本願の特許請求の範囲は本件補正によって補正されているところ,上記第5の1のとおり,本件補正により付加された上記相違点2に係る構成は,引用文献A(引用文献1)に記載も示唆もされていないし,引用文献D(引用文献6)及び引用文献C(引用文献7)をみても何ら記載はなく,周知技術であるということもできない。そして,引用文献Bをみても上記相違点2に係る構成は,何ら記載はないから,本願発明1ないし5は,引用文献AないしDに記載された発明に基づいて当業者であれば容易に発明できたものであるということはできない。

3 まとめ
以上のとおり,上記1及び2によれば,原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-06-18 
出願番号 特願2015-164479(P2015-164479)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
P 1 8・ 561- WY (G06F)
P 1 8・ 536- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 遠藤 尊志星野 昌幸  
特許庁審判長 ▲吉▼田 耕一
特許庁審判官 梶尾 誠哉
稲葉 和生
発明の名称 キャリアフィルム付き透明導電性フィルム及びそれを用いたタッチパネル  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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