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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1352193
審判番号 不服2018-8950  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-28 
確定日 2019-06-06 
事件の表示 特願2014- 57299「骨減少性疾患改善剤およびびわ抽出物製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月 8日出願公開、特開2015-178480〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年3月19日を出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成26年 4月14日 :発明の新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書の提出(譚慧及び清水邦義を公開者として第64回日本木材学大会研究発表会要旨集(2014)75頁にて公開された発明の発明者は清水邦義と池田賢一であり、譚慧は、単に実験補助者の立場で公開者の中に名を連ねただけであるというもの。)
平成29年12月26日付け:拒絶理由通知書
平成30年 3月 6日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 3月23日付け:拒絶査定
平成30年 6月28日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成30年 7月17日発送:長官指令(平成30年6月28日提出の手続補正書の特許請求の範囲の補正が、特許請求の範囲の全文を単位として補正(特許法施行規則様式第13の備考7参照)されていないという不備を指摘するもの。)。
平成30年 8月 7日 :長官指令に対応した、平成30年6月28日提出の手続補正書の手続補正書の提出
平成30年 8月23日 :長官指令に対応した、平成30年6月28日提出の手続補正書の手続補正書の再提出


第2 平成30年6月28日にされた手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成30年6月28日提出の手続補正書(平成30年8月23日提出の手続補正書により補正されたもの。)による補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
びわ葉から抽出されるびわ抽出物であって、
3-エピコロソリック酸、6β,19-ジヒドロキシ-3-オキソウルス-12-エン-28-オイック酸、および、2α,19α-ジヒドロキシ-3-オキソ-12-ウルセン-28-オイック酸、からなる群から選択される化合物のうち少なくとも1つの他の化合物に対する相対濃度が前記びわ葉中の相対濃度よりも低減され、
ウルソル酸、マスリン酸メチル、コロソリン酸メチル、マスリン酸、コロソリン酸、ポモル酸、トルメン酸、オイスカフ酸、3-オキソウルス-12-エン-28-オイック酸、ヒプタジエニック酸、3-O-トランス-p-クマロイルトルメンチック酸、3-O-シス-p-クマロイルトルメンチック酸、下記式で表される化合物
【化5】(略)
[式中、R_(1)はβ-OH、R_(2)はH、R_(3)はH、R_(4)はCOOCHである。]、
または、下記式で表される化合物
【化6】(略)
[式中、R_(1)はOAc、R_(2)はH、R_(3)はCOOHである。]、
からなる群から選択される化合物、またはその医薬的に許容され得る塩、溶媒和物または水和物を含む骨減少性疾患改善剤。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成30年3月6日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(下線は合議体が付した。)。
「【請求項1】
びわ葉から抽出されるびわ抽出物であって、
3-エピコロソリック酸、6b,19-ジヒドロキシ-3-オキソウルス-12-エン-28-オイック酸、ウルソール酸メチルエステルおよびアセチルオレアノール酸、からなる群から選択される化合物のうち少なくとも1つの濃度が低減され、
ウルソル酸、マスリン酸メチル、コロソリン酸メチル、マスリン酸、コロソリン酸、ポモル酸、トルメン酸、オイスカフ酸、3-オキソウルス-12-エン-28-オイック酸、ヒプタジエニック酸、3-O-トランス-p-クマロイルトルメンチック酸、3-O-シス-p-クマロイルトルメンチック酸、下記式で表される化合物
【化5】(略)
[式中、R_(1)はβ-OH、R_(2)はH、R_(3)はH、R_(4)はCOOCHである。]、
または、下記式で表される化合物
【化6】(略)
[式中、R_(1)はOAc、R_(2)はH、R_(3)はCOOHである。]、
からなる群から選択される化合物、またはその医薬的に許容され得る塩、溶媒和物または水和物を含む骨減少性疾患改善剤。」

(3)本件補正後の明細書の記載
本件補正により、明細書の発明の詳細な説明の段落【0009】の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「上述の目的を達成するため、本発明は、骨減少性疾患改善剤において、びわ葉から抽出されるびわ抽出物であって、3-エピコロソリック酸、6β,19-ジヒドロキシ-3-オキソウルス-12-エン-28-オイック酸、および、2α,19α-ジヒドロキシ-3-オキソ-12-ウルセン-28-オイック酸、からなる群から選択される化合物のうち少なくとも1つの他の化合物に対する相対濃度が前記びわ葉中の相対濃度よりも低減され、ウルソル酸、マスリン酸メチル、コロソリン酸メチル、マスリン酸、コロソリン酸、ポモル酸、トルメン酸、オイスカフ酸、3-オキソウルス-12-エン-28-オイック酸、ヒプタジエニック酸、3-O-トランス-p-クマロイルトルメンチック酸、3-O-シス-p-クマロイルトルメンチック酸、下記式で表される化合物」

(4)本件補正前の明細書の記載
本件補正前の明細書の発明の詳細な説明の段落【0009】の記載は次のとおりである。
「上述の目的を達成するため、本発明は、骨減少性疾患改善剤において、ウルソル酸、マスリン酸メチル、コロソリン酸メチル、マスリン酸、コロソリン酸、ポモル酸、トルメン酸、オイスカフ酸、3-オキソウルス-12-エン-28-オイック酸、ヒプタジエニック酸、3-O-トランス-p-クマロイルトルメンチック酸、3-O-シス-p-クマロイルトルメンチック酸、下記式で表される化合物」

2 補正の適否
(1)新規事項の追加について
本件補正により、請求項1の「3-エピコロソリック酸、6b,19-ジヒドロキシ-3-オキソウルス-12-エン-28-オイック酸、ウルソール酸メチルエステルおよびアセチルオレアノール酸、からなる群から選択される化合物のうち少なくとも1つの濃度が低減され」との記載が、
「3-エピコロソリック酸、6β,19-ジヒドロキシ-3-オキソウルス-12-エン-28-オイック酸、および、2α,19α-ジヒドロキシ-3-オキソ-12-ウルセン-28-オイック酸、からなる群から選択される化合物のうち少なくとも1つの他の化合物に対する相対濃度が前記びわ葉中の相対濃度よりも低減され」と補正された。

また、本件補正により、明細書の発明の詳細な説明の段落【0009】に、「びわ葉から抽出されるびわ抽出物であって、3-エピコロソリック酸、6β,19-ジヒドロキシ-3-オキソウルス-12-エン-28-オイック酸、および、2α,19α-ジヒドロキシ-3-オキソ-12-ウルセン-28-オイック酸、からなる群から選択される化合物のうち少なくとも1つの他の化合物に対する相対濃度が前記びわ葉中の相対濃度よりも低減され、」なる記載が追加された。

請求人は審判請求書において、本件補正の根拠について、「今回の補正は、出願当初の明細書の段落[0036]などを根拠とする。」と主張する。

ここで、本出願の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、「当初明細書等」という。)の発明の詳細な説明の段落【0036】の記載は以下のとおりである。
「【0036】
また、表3に示すように、化合物9、14、15は、高い刺激活性を示した。つまり、これらの化合物は、破骨細胞分化を促進させる。このため、これらの化合物は、骨吸収を促進させる可能性があり、好ましくない。」

当初明細書等の発明の詳細な説明の段落【0036】の化合物9、14、15はそれぞれ、当初明細書等の発明の詳細な説明の段落【0020】及び【0024】の【表1】の記載からみて、補正後の請求項1の3-エピコロソリック酸、6β,19-ジヒドロキシ-3-オキソウルス-12-エン-28-オイック酸、および、2α,19α-ジヒドロキシ-3-オキソ-12-ウルセン-28-オイック酸であると認められる。上述のとおり、段落【0036】にはこれらの化合物が「好ましくない」ことは記載されているものの、「これらの化合物のうち少なくとも1つの他の化合物に対する相対濃度が前記びわ葉中の相対濃度よりも低減され」との記載はなされていない。

一方、びわ葉からのびわ抽出物の製造における特定の化合物の濃度の低減に関しては、当初明細書等の発明の詳細な説明の段落【0012】、【0038】及び請求項2に、以下の記載がなされているのみである。
「【0012】
また、本発明は、びわ葉から抽出されるびわ抽出物を製造するびわ抽出物製造方法において、中間抽出物を抽出する中間工程と、前記中間抽出物から、3-エピコロソリック酸、6b,19-ジヒドロキシ-3-オキソウルス-12-エン-28-オイック酸、ウルソール酸メチルエステルおよびアセチルオレアノール酸、からなる群から選択される化合物のうち少なくとも1つの濃度を低減させる工程と、を含むことを特徴とする。」

「【0038】
そこで、びわ葉からびわ抽出物を製造する場合には、化合物2、3、4、20の少なくとも1つの成分の濃度を低減させる工程を施すことが好ましい。これにより、化合物2、3、4、20の少なくとも1つの成分の濃度が低減し、骨吸収が促進する可能性が低減する。たとえば、中間工程で複数のトリテルペノイドを抽出した中間抽出物を生成し、その後、その中間抽出物から化合物2、3、4、20の少なくとも1つの成分の濃度を低減させて、びわ抽出物を製造すればよい。好ましくは、中間工程は、化合物1、5、7、8、10、17、18、19、22の少なくとも1つを含む中間抽出物を抽出するものである。これにより、得られるびわ抽出物は、骨減少性疾患の治療および予防のための自然界起源の安全な化合物となる。」

「【請求項2】
びわ葉から抽出されるびわ抽出物を製造するびわ抽出物製造方法において、
中間抽出物を抽出する中間工程と、
前記中間抽出物から、3-エピコロソリック酸、6b,19-ジヒドロキシ-3-オキソウルス-12-エン-28-オイック酸、ウルソール酸メチルエステルおよびアセチルオレアノール酸、からなる群から選択される化合物のうち少なくとも1つの濃度を低減させる工程と、
を含むびわ抽出物製造方法。」

このように、当初明細書等には、濃度を低減させる化合物として、「3-エピコロソリック酸、6b,19-ジヒドロキシ-3-オキソウルス-12-エン-28-オイック酸、ウルソール酸メチルエステルおよびアセチルオレアノール酸の少なくとも1つ」または「化合物2、3、4、20の少なくとも1つ」が記載されているところ、これらの化合物はいずれも、2α,19α-ジヒドロキシ-3-オキソ-12-ウルセン-28-オイック酸ではない。
さらに、本件補正後の請求項1および明細書の発明の詳細な説明の段落【0009】では「他の化合物」は特定されておらず、「他の化合物」には、びわ葉から単離され得る様々な化合物が包含されると認められるところ、3-エピコロソリック酸、6β,19-ジヒドロキシ-3-オキソウルス-12-エン-28-オイック酸、および、2α,19α-ジヒドロキシ-3-オキソ-12-ウルセン-28-オイック酸のうちの少なくとも1つの化合物について、他の化合物(たとえば上述のとおり濃度を低減させることが好ましいことが当初明細書等に記載されるウルソール酸メチルエステル、アセチルオレアノール酸、化合物2、3、4又は20)に対する相対濃度をびわ葉中の相対濃度よりも低減させることは、当初明細書等に記載も示唆もされておらず、そのように相対濃度を調整することが、出願時の技術常識からみて明らかともいえない。

以上のとおりであるから、当初明細書等には、補正後の請求項1及び明細書の発明の詳細な説明の段落【0009】の「3-エピコロソリック酸、6β,19-ジヒドロキシ-3-オキソウルス-12-エン-28-オイック酸、および、2α,19α-ジヒドロキシ-3-オキソ-12-ウルセン-28-オイック酸、からなる群から選択される化合物のうち少なくとも1つ」の「他の化合物に対する相対濃度」を、「びわ葉中の相対濃度よりも低減」させることは記載されておらず、当該事項が当初明細書等の記載から自明な事項ということもできない。

したがって、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、本件補正は特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(2)目的外補正について
本件補正は、補正前の請求項1において「少なくとも1つの濃度が低減され」る化合物として選択肢で記載されていた「ウルソール酸メチルエステルおよびアセチルオレアノール酸」を削除し、「他の化合物に対する相対濃度が前記びわ葉中の相対濃度よりも低減され」る少なくとも一つの化合物の選択肢に、新たに「2α,19α-ジヒドロキシ-3-オキソ-12-ウルセン-28-オイック酸」を追加するものである。
そして、「他の化合物に対する相対濃度が前記びわ葉中の相対濃度よりも低減され」る化合物の選択肢として、「2α,19α-ジヒドロキシ-3-オキソ-12-ウルセン-28-オイック酸」を付加する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものではなく、明りょうでない記載の釈明、誤記の訂正、又は、請求項の削除を目的とするものでもない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものに該当せず、本件補正は、同法第17条の2第5項に規定する要件に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

なお、請求人は、審判請求書において本件補正に関して「補正後の請求項1に係る発明は、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をすべて含んでいる。」と主張する。
しかしながら、上述のとおり、本件補正により選択肢の一部が削除されていると共に、「他の化合物に対する相対濃度が前記びわ葉中の相対濃度よりも低減され」る化合物の選択肢として、「2α,19α-ジヒドロキシ-3-オキソ-12-ウルセン-28-オイック酸」を追加するものであることから、当該請求人の主張は当を得たものではない。

3 本件補正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、また、同法第17条の2第5項に規定する要件に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年6月28日提出の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成30年3月6日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
びわ葉から抽出されるびわ抽出物であって、
3-エピコロソリック酸、6b,19-ジヒドロキシ-3-オキソウルス-12-エン-28-オイック酸、ウルソール酸メチルエステルおよびアセチルオレアノール酸、からなる群から選択される化合物のうち少なくとも1つの濃度が低減され、
ウルソル酸、マスリン酸メチル、コロソリン酸メチル、マスリン酸、コロソリン酸、ポモル酸、トルメン酸、オイスカフ酸、3-オキソウルス-12-エン-28-オイック酸、ヒプタジエニック酸、3-O-トランス-p-クマロイルトルメンチック酸、3-O-シス-p-クマロイルトルメンチック酸、下記式で表される化合物
【化5】(略)
[式中、R_(1)はβ-OH、R_(2)はH、R_(3)はH、R_(4)はCOOCHである。]、
または、下記式で表される化合物
【化6】(略)
[式中、R_(1)はOAc、R_(2)はH、R_(3)はCOOHである。]、
からなる群から選択される化合物、またはその医薬的に許容され得る塩、溶媒和物または水和物を含む骨減少性疾患改善剤。」

2 本願明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には、「骨減少性疾患改善剤」に関して、以下の記載がなされている。
(1)「【0008】
そこで、本発明は、骨減少性疾患の治療および予防のための自然界起源の安全な化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明は、骨減少性疾患改善剤において、ウルソル酸、マスリン酸メチル、コロソリン酸メチル、マスリン酸、コロソリン酸、ポモル酸、トルメン酸、オイスカフ酸、3-オキソウルス-12-エン-28-オイック酸、ヒプタジエニック酸、3-O-トランス-p-クマロイルトルメンチック酸、3-O-シス-p-クマロイルトルメンチック酸、下記式で表される化合物
【0010】
(中略)
または、下記式で表される化合物
【0011】
(中略)
からなる群から選択される化合物、またはその医薬的に許容され得る塩、溶媒和物または水和物を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、びわ葉から抽出されるびわ抽出物を製造するびわ抽出物製造方法において、中間抽出物を抽出する中間工程と、前記中間抽出物から、3-エピコロソリック酸、6b,19-ジヒドロキシ-3-オキソウルス-12-エン-28-オイック酸、ウルソール酸メチルエステルおよびアセチルオレアノール酸、からなる群から選択される化合物のうち少なくとも1つの濃度を低減させる工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、骨減少性疾患の治療および予防のための自然界起源の安全な化合物を提供することができる。」

(2)「【0016】
実験により、卵巣摘出したマウスに対するびわの葉の食餌は、骨密度(BMD)減少を抑制する可能性があることが分かった。さらに、びわ(Eriobotrya japonica)の葉に含有されるトリテルペノイド(triterpenoid)の破骨細胞の抑制活性を調べた。
【0017】
ここでは、びわの葉から単離した10種類の化合物、4種類の合成誘導体、および、非特許文献1においてびわの葉から単離されたと報告された8種類のトリテルペノイドについて、多核巨細胞化した破骨細胞の発現濃度を評価した。この破骨細胞の発現濃度は、これらの化合物の酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ(TRAP)活性に対する効果を判定することにより行った。」

(3)「【0023】
【化3】


ここで、R_(1)、R_(2)、R_(3)、および、R_(4)は、化合物ごとに異なり、それぞれ表1に示す通りである。
【0024】
【表1】




【0025】
化合物2、5、7、21、22は、オレアノール型のトリテルペノイドであり、次の化学式で表される。
【0026】
【化4】

ここで、R_(1)、R_(2)、および、R_(3)は、化合物ごとに異なり、それぞれ表2に示す通りである。
【0027】
【表2】


化合物4は、次式で表される。
【0028】
【化5】



(4)「【0031】
化合物1?22の全てのトリテルペノイドについて、巨核化した破骨細胞の発現に対する抑制活性を調べた。破骨細胞の分化におけるIC_(50)の評価結果を表3に示した。表3において、Lは巨核化細胞の抑制活性が10%未満であることを示し、Sは刺激活性が現れたことを示す。刺激活性が現れたとは、破骨細胞分化が促進されたという意味である。ここで、IC_(50)とは、それぞれの化合物が破骨細胞分化を50%に抑制する濃度、すなわち50%阻害濃度である。つまり、化合物の濃度がIC_(50)で表される濃度のとき、破骨細胞の分化が50%となる。
(中略)
【0034】
【表3】

表3に示すように、化合物1、5、6、7、8、10、11、12、13、16、17、18、19、22は、IC_(50)/IC_(50)cell viavilityが1より小さく、破骨細胞をあまり死滅させずに破骨細胞分化を抑制することができる。特に、化合物1、5、7、8、10、17、18、19、22は、IC_(50)/IC_(50)cell viavilityが小さく、他の10種類の化合物に比べて破骨細胞分化抑制効果が高く、細胞毒性が小さい。つまり、これらの化合物は、骨減少性疾患の治療および予防のための自然界起源の安全な化合物である。あるいは、これらの化合物の医薬的に許容され得る塩、溶媒和物または水和物であっても、骨減少性疾患の治療および予防のための自然界起源の安全な化合物、すなわち骨減少性疾患改善剤である。」

(5)「【0038】
そこで、びわ葉からびわ抽出物を製造する場合には、化合物2、3、4、20の少なくとも1つの成分の濃度を低減させる工程を施すことが好ましい。これにより、化合物2、3、4、20の少なくとも1つの成分の濃度が低減し、骨吸収が促進する可能性が低減する。たとえば、中間工程で複数のトリテルペノイドを抽出した中間抽出物を生成し、その後、その中間抽出物から化合物2、3、4、20の少なくとも1つの成分の濃度を低減させて、びわ抽出物を製造すればよい。好ましくは、中間工程は、化合物1、5、7、8、10、17、18、19、22の少なくとも1つを含む中間抽出物を抽出するものである。これにより、得られるびわ抽出物は、骨減少性疾患の治療および予防のための自然界起源の安全な化合物となる。」

3 原査定の拒絶の理由
原審の審査過程において、平成29年12月26日付けで以下の拒絶理由が通知された。そして、原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、というものである。

「引用文献1には、ビワの葉抽出物による抗骨粗鬆症効果をインビボ及びインビボで検討したこと、ビワの葉抽出物を与えた卵巣摘出ラット(骨粗鬆症モデル)において、骨密度低下が有意に防止されたこと、該抽出物画分4-7-6からウルソル酸が単離され、ウルソル酸4μg/ml及び10μg/mlで破骨細胞分化が抑制されたことから、ウルソル酸がビワの葉中の抗骨粗鬆症活性を示す主要成分であろうことが結論づけられたことが記載されている(ABSTRACT、第839頁左欄第2段落、Figure 3,4 参照)。
してみると、本願請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明と相違しない。」

引用文献1:Hui Tan(譚慧)ら,”Inhibitory Effects of the Leaves of Loquat (Eriobotrya japonica) on Bone Mineral Density Loss in Ovariectomized Mice and Osteoclast Differentiation”,J. Agric. Food Chem.,2014年1月,Vol.62, p.836-841

4 引用文献の記載及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、下記のとおりである(翻訳は、合議体が付したもの。)。
(1)「インビトロおよびインビボでのびわの葉の抗骨粗鬆症効果は研究されてきた。
通常食餌または食事を5%のびわの葉で補充して15日間給餌した後、8匹の卵巣切除(OVX)マウスの両方の群の体重、内臓重量、および骨ミネラル密度(BMD)を比較した。
結果は、びわ給餌マウスにおけるBMDの喪失が、対照群と比較して、身体の三つの部分、特に頭の小柱骨 (P<0.05)、腹部(P<0.01)及び腰椎(P<0.05)において、顕著に抑制されていることを示した。びわ葉給餌による、腋窩による子宮の肥大は観察されなかった。
乾燥したびわの葉(2.36kg)から調製した抽出物 (447.25g)の効果が、RANKL誘導破骨細胞分化および細胞生存率についてさらに研究された。
抽出物は、50μg/mL、125μg/mL、250μg/mL、及び500μg/mLの濃度において、破骨細胞の分化を抑制した。生理活性に基づく分画化を通して、ウルソル酸(1)が単離され、ウルソル酸は、4μg/mLと10μg/mLの濃度で、破骨細胞分化を抑制した。
びわの葉は卵巣切除により誘導される骨ミネラル密度劣化を抑制する可能性を有することが結論づけられた。」(ABSTRACT)

(2)「破骨細胞分化に対する単離された化合物の効果
画分4-7-6を再循環分取HPLCによりさらに分離して化合物1を得た。化合物1はウルソル酸(1)として同定された(図4B)。ウルソル酸(1)は、図4Aに示されるように、用量依存的な様式で破骨細胞分化を抑制した。本発明者らは、ウルソル酸(1)がびわ葉の抗破骨活性の主要な成分であると結論づけた。」(第839頁左欄第2段落)

(3)「図3
RAW264.7細胞の破骨細胞分化と細胞生存率における、メタノール抽出物(A)、Fr4(B)及びFr4-7(C)から分離されたサブフラクションの効果
オレイン酸(50μg/mL)をポジティブコントロールとして使用した。メタノール抽出物およびFr4から分離されたサブフラクションの濃度は、20μg/mLであり、FR4-7から分離されたサブフラクションの濃度は10μg/mLであった。(以下、略)



(4)「図4
RAW264.7細胞の破骨細胞分化と細胞生存率における、ウルソル酸(1)の効果(A)と、ウルソル酸(1)の化学構造式(B)
オレイン酸(50μg/mL)をポジティブコントロールとして使用した。濃度は1 μg/mL (2.19 μM), 4 μg/mL (8.77 μM), and 10 μg/mL (21.9 μM)であった。(以下、略)



ここで、上記(2)(3)の画分4-7-6は、以下の方法により調製されたものである。
(5)「抽出と単離
生物活性の主要成分の抽出および単離のために、5.l0kgの新鮮なびわの葉を凍結乾燥し粉末に粉砕し、得られた2.36kgのびわの乾燥葉をメタノール (35 L)で抽出し、メタノールを蒸発させた。447.25kgのメタノール抽出物が得られた(収率18.95%)。始めに、メタノール抽出物の一部(234.22g)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(略)で分離し、n-ヘキサン/EtOAc溶媒系で溶出して14画分を得た(略)。メタノール抽出物の残りの部分を再びカラムクロマトグラフィー(略)に付し、n-ヘキサン/EtOAc溶媒系で溶出して14の画分を得た(略)。TLCの結果に基づいて、2回分離された画分を9つの画分に合わせた(略)。破骨細胞TRAP活性に関する生理活性に基づく分画をもとに、FR.4(7.10g)をさらに分離した。FR.4をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(略)に適用し、n-ヘキサン/EtOAc溶媒系で溶出して8つの画分を得た(略)。
個々の分画の量は、Fr. 4-1 (74.11 mg), Fr. 4-2 (3.79 mg), Fr. 4-3 (17.52 mg), Fr. 4-4 (74.16 mg), Fr. 4-5 (85.29 mg), Fr. 4-6 (1.18 g), Fr. 4-7 (1.04 g)及び Fr. 4-8 (4.79 g)として、示される。その最も高い破骨細胞TRAP阻害活性により、Fr.4-7のみ、さらに分画された。FR.4-7(989.1mg)をセファデックスLH20カラム(略)に適用し、MeOH/CHCl_(3)(500 mL)で溶出して8分画を得た(略)。メタノールに溶解した画分4-7-6(略)の15mgを再循環分取HPLC(略)により分離した。
総注入量は3mLで、流速は5mL/分であり、移動相はメタノール95%+水5%であり、カラムは、吸光度210nmで化合物1(6.27mg)を検出するInertsil ODS-3(20×250mm、GL Science、Toyo、Japan)であった(Supporting Information,図S2参照)。」(第837頁右欄下から20行?第838頁左欄第25行)

上記「4 (3)」及び「4 (5)」の記載からみて、引用文献1には「びわの葉からメタノール抽出され、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで分離された画分を、さらに、破骨細胞TRAP活性に関する生理活性に基づき分離された画分の中で、最も高い破骨細胞TRAP阻害活性を有する画分をさらに分画して得られた、破骨細胞分化抑制活性を有する、化合物1を含む画分4-7-6」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

5 対比・判断
本願発明と引用発明を対比する。
上記「2 (1)」に記載のとおり、本願発明は、骨減少性疾患の治療および予防のための自然界起源の安全な化合物の提供を解決しようとする課題とするものであり、「2 (5)」には、「得られるびわ抽出物は、骨減少性疾患の治療および予防のための自然界起源の安全な化合物となる。」と記載されている。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明には、「骨減少性疾患の治療および予防」として、具体的には、上記「2 (2)」及び「2 (4)」に記載のとおり、酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ(TRAP)活性に対する効果を確認することにより、破骨細胞の分化における抑制活性を調べ、骨減少性疾患の治療および予防の化合物を同定している。
引用発明の「破骨細胞TRAP活性に関する生理活性に基づき分画された画分の中で、最も高い破骨細胞TRAP阻害活性を有する画分をさらに分画して得られた、破骨細胞分化抑制活性を有する、化合物1を含む画分4-7-6」は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載と同様に、酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ(TRAP)活性に対する効果を確認することにより、破骨細胞の分化における抑制活性を有することが確認された組成物であり、本願発明の「骨減少性疾患改善剤」に相当するものである。
また、上記「4 (2)」からみて、画分4-7-6はウルソル酸を含むものである。

すると両者は
「びわ葉から抽出されるびわ抽出物であって、ウルソル酸を含む骨減少性疾患改善剤」の点で一致し、
本願発明は、「3-エピコロソリック酸、6b,19-ジヒドロキシ-3-オキソウルス-12-エン-28-オイック酸、ウルソール酸メチルエステルおよびアセチルオレアノール酸、からなる群から選択される化合物のうち少なくとも1つの濃度が低減され」ていることが特定されているのに対して、引用発明ではそのような特定がなされていないという点で、一応相違するものである。

上記一応の相違点について検討する。
本願発明の「3-エピコロソリック酸、6b,19-ジヒドロキシ-3-オキソウルス-12-エン-28-オイック酸、ウルソール酸メチルエステルおよびアセチルオレアノール酸」はそれぞれ、上記「2 (3)」の【表1】【表2】の化合物9、14、19、21であると認められる。

クロマトグラフィーにより化合物が極性の違いにより分離されることは、当該分野における技術常識であるところ、引用発明の画分4-7-6は、極性に基づき分離された画分に、さらにTRAP活性に基づく二段階の分離工程を施して得られたものである。
上記「4 (2)」及び「4 (4)」には、画分4-7-6は、用量依存的に破骨細胞の分化を抑制し、びわ葉の抗破骨活性の主要な成分であると結論づけられたウルソル酸を含むものであることが記載されており、上述の分離工程を経ることにより、画分4-7-6では、ウルソル酸以外の、ウルソル酸ほどTRAP阻害活性を有さない種々の化合物の濃度は低減されていることは明らかである。
すると、引用発明に、具体的な化合物名は記載されていないとしても、画分4-7-6は、ウルソル酸以外の化合物である「3-エピコロソリック酸、6b,19-ジヒドロキシ-3-オキソウルス-12-エン-28-オイック酸、ウルソール酸メチルエステルおよびアセチルオレアノール酸」のうちの少なくとも一つの濃度が低減されているものと認められる。
したがって、上記一応の相違点は実質的な相違点ではなく、本願発明は引用発明である。

6 請求人の主張について
請求人は、原審の審査過程で平成30年3月6日に提出された意見書において、以下のとおり主張する。
(1)「補正後の請求項1に係る発明は、骨減少性疾患改善剤において、びわ抽出物から3-エピコロソリック酸、6b,19-ジヒドロキシ-3-オキソウルス-12-エン-28-オイック酸、ウルソール酸メチルエステルおよびアセチルオレアノール酸、からなる群から選択される化合物のうち少なくとも1つの濃度が低減されていることを特徴の一つとしている。(中略)
また、上述の特別な技術的特徴は、引用文献等1には明示も暗示もされていない。」

また、請求人は審判請求書において、以下のとおり主張する。
(2)「本願補正後の請求項1に係る発明は、骨減少性疾患の治療および予防のための自然界起源の安全な化合物を提供することを目的としている。そこで、本願補正後の請求項1に係る発明は、自然界起源である「びわ葉から抽出されるびわ抽出物」をベースとして、それらの抽出物から骨吸収を促進させる可能性がある化合物を低減することとしている。このため、本願補正後の請求項1に係る発明によれば、自然界を起源として、安全かつ効果の高い「骨減少性疾患改善剤」を提供することができるという格別の効果が得られる。」

請求人の主張(1)(2)はいずれも、本願発明は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するとの拒絶理由及び拒絶査定の理由に対して、本願発明が引用文献1に記載された発明ではないという点を具体的に説明するものではない。
上記主張(1)及び(2)の「それらの抽出物から骨吸収を促進させる可能性がある化合物を低減する」との主張について、請求人が主張するように、引用文献1にはびわの抽出物から上記主張(1)に列挙される化合物の濃度を低減することや「骨吸収を促進させる可能性がある化合物を低減する」ことは記載はなされていない。
しかしながら、上記「5」で検討した通り、引用発明の画分4-7-6では、ウルソル酸以外の、ウルソル酸ほどTRAP阻害活性を有さない種々の化合物の濃度は低減されていることは明らかである。そして、本願明細書の「2 (4)」の記載では、破骨細胞分化が促進されたとして「S」と表記される刺激活性がどの程度かは不明ではあるものの、例えば引用文献1の上記「4 (3)」の図3Bの画分「4-4」や「4-5」は、TRAP活性の値からみて本願明細書において「S」と表記し得る化合物を含むものと認められる。
このように、引用発明には、具体的な化合物名は記載されていないとしても、画分4-7-6では、「骨吸収を促進させる可能性がある化合物」の濃度は低減されているものと認められる。

また、上記主張(2)について、上記「4 (1)」のとおり、引用文献1には、びわの葉の抗骨粗鬆症効果が研究されてきたこと、及び、びわの葉は骨ミネラル密度劣化を抑制する可能性を有することが記載されると共に、「4 (3)」において4-7-6は細胞生存活性がほぼ維持されていることも開示されていることから、引用文献1には、自然界を起源とし、安全かつ効果の高い骨減少性疾患改善剤が開示されているといえる。

したがって、請求人の上記主張を勘案しても、本願発明は依然として引用発明である。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。


なお、平成30年6月28日付の手続補正は上述のとおり却下されたものではあるが、本件補正後の請求項1に係る発明も、上記同様の理由により、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるという点を付言する。
 
審理終結日 2019-04-01 
結審通知日 2019-04-02 
審決日 2019-04-15 
出願番号 特願2014-57299(P2014-57299)
審決分類 P 1 8・ 573- WZ (A61K)
P 1 8・ 113- WZ (A61K)
P 1 8・ 572- WZ (A61K)
P 1 8・ 55- WZ (A61K)
P 1 8・ 574- WZ (A61K)
P 1 8・ 571- WZ (A61K)
P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鶴見 秀紀中尾 忍  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 光本 美奈子
前田 佳与子
発明の名称 骨減少性疾患改善剤およびびわ抽出物製造方法  
代理人 豊永 健  
代理人 豊永 健  

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