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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H05K 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 H05K 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 H05K 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H05K 審判 全部申し立て 2項進歩性 H05K |
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管理番号 | 1352275 |
異議申立番号 | 異議2017-701013 |
総通号数 | 235 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-07-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-10-24 |
確定日 | 2019-04-11 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6122561号発明「回路基板およびこれを備える電子装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6122561号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?10〕について訂正することを認める。 特許第6122561号の請求項1?10に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6122561号の請求項1?10に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)4月26日(優先権主張 2015年(平成27年)4月27日 日本国)を国際出願日として出願され、平成29年4月7日にその特許権の設定登録がされ、平成29年4月26日に特許掲載公報が発行された。 その後の手続の経緯は次のとおりである。 平成29年10月24日 :特許異議申立人関豊美子(以下、「特許異議 申立人」という。)による全請求項に対して の特許異議の申立て 平成30年1月11日付け :取消理由通知書 平成30年3月15日 :特許権者による意見書の提出 平成30年6月11日付け :取消理由通知書 平成30年8月8日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 平成30年10月9日付け :特許法第120条の5第5項の通知書 平成30年11月5日 :特許異議申立人による意見書の提出 平成30年11月27日付け:訂正拒絶理由通知書 平成30年12月10日 :特許権者による意見書の提出 平成30年12月21日付け:取消理由通知書 平成31年2月25日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 平成31年2月25日に特許権者により提出された訂正請求書で請求する訂正の内容(以下、平成31年2月25日の訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」といい、また、本件訂正請求による訂正の内容を「本件訂正」という。)は、次のとおりである(下線は訂正箇所である。)。 なお、本件訂正請求により、平成30年8月8日に提出された訂正請求書による訂正の請求は取り下げられたものとみなす(特許法第120条の5第7項)。 ・訂正事項1 訂正前の請求項1に「前記貫通導体の少なくとも一方の表面に接する金属層とを備え前記貫通導体は、径の中心領域における前記金属層側領域に銀および銅の共晶領域が存在し、径の中心領域における中央領域に銀および銅の非共晶領域が存在する」と記載されているのを、「前記貫通導体の少なくとも一方の表面に接する金属層とを備え、前記貫通導体は、径の中心領域における金属層側領域に銀および銅の共晶領域が存在し、径の中心領域における中央領域に銀および銅の非共晶領域が存在し、前記中央領域における、非共晶領域の共晶領域に対する割合は、前記金属層側領域における非共晶領域の共晶領域に対する割合よりも多い」に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2?10も同様に訂正する)。 なお、訂正前の請求項1?10は、請求項2?10が請求項1の記載を直接又は間接的に引用する関係にあるから、本件訂正は一群の請求項1?10について請求されている。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正の目的 ア 訂正前の請求項1において「前記貫通導体の少なくとも一方の表面に接する金属層とを備え前記貫通導体は」と記載されているのを、「前記貫通導体の少なくとも一方の表面に接する金属層とを備え、前記貫通導体は」とする訂正は、訂正前の請求項1において、文の区切りに必要な読点「、」が脱落していたため文の区切りが明らかでなく不明瞭な記載であったものを読点を追加することによって明瞭な記載とするものである。 イ 訂正前の請求項1において「前記貫通導体は、径の中心領域における前記金属層側領域に銀および銅の共晶領域が存在し、径の中心領域における中央領域に銀および銅の非共晶領域が存在する」と記載されているのを「前記貫通導体は、径の中心領域における金属層側領域に銀および銅の共晶領域が存在し、前記中央領域における、非共晶領域の共晶領域に対する割合は、前記金属層側領域における非共晶領域の共晶領域に対する割合よりも多い」とする訂正のうち、「前記」を削除する訂正は、訂正前の請求項1において、「金属層側領域」がこの記載より前にはないために、不明瞭な記載であったものを明瞭な記載とすることを目的とするものである。 また、上記「前記」を削除する以外の訂正は、訂正前の請求項1においては、貫通導体の径の中心領域における金属層側領域には、銀および銅の共晶領域が存在すること、及び、中央領域に銀および銅の非共晶領域が存在するということのみが規定されていたのを、訂正後の請求項1においては、さらに、貫通導体の径の中心領域における中央領域における、非共晶領域の共晶領域に対する割合が、金属層側領域における非共晶領域の共晶領域に対する割合より多いことを技術的に限定したものである。 ウ したがって、訂正事項1は、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (2)新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア 訂正事項1のうち読点「、」を追加する訂正、「前記」を削除する訂正は、新規事項を追加するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 イ 訂正事項1のうち「前記中央領域における、非共晶領域の共晶領域に対する割合は、前記金属層側領域における非共晶領域の共晶領域に対する割合よりも多い」とする訂正に関し、本件特許の明細書段落【0040】?【0043】の記載内容からすれば、貫通孔に充填される第1金属ペーストを銀と銅との共晶組織よりも銅が多い組成とし、金属層となる第2金属ペーストを第1金属ペーストよりも共晶組織に近い組成とした場合、第1金属ペーストによって形成される、貫通導体2の径の中心領域における中央領域での非共晶領域の共晶領域に対する割合は、熱処理時において第2金属ペースト中の銀が第1金属ペースト側に入り込むことによって、金属層3側領域での非共晶領域の共晶領域に対する割合よりも多くなることが記載されているといえる。 したがって、訂正事項1のうち「前記中央領域における、非共晶領域の共晶領域に対する割合は、前記金属層側領域における非共晶領域の共晶領域に対する割合よりも多い」とする訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものといえるし、当該訂正は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?10〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?10に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1?10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(以下、訂正後の請求項1?10に係る発明をそれぞれ、「本件発明1」?「本件発明10」という。)。 「【請求項1】 第1面から第2面に貫通する貫通孔を有する、セラミックスからなる基体と、 銀および銅が主成分であり、前記貫通孔内に位置する貫通導体と、 前記貫通導体の少なくとも一方の表面に接する金属層とを備え、 前記貫通導体は、径の中心領域における金属層側領域に銀および銅の共晶領域が存在し、径の中心領域における中央領域に銀および銅の非共晶領域が存在し、 前記中央領域における、非共晶領域の共晶領域に対する割合は、前記金属層側領域における非共晶領域の共晶領域に対する割合よりも多い回路基板。 【請求項2】 前記金属層の主成分は、銀および銅である請求項1に記載の回路基板。 【請求項3】 前記基体と前記貫通導体との間に、基体を構成する成分と、チタン、ジルコニウム、ハフニウムおよびニオブから選択される少なくとも1種とを含む第1活性金属層が存在する請求項1または請求項2に記載の回路基板。 【請求項4】 前記貫通導体が、モリブデン、タンタル、オスミウム、レニウムおよびタングステンから選択される少なくとも1種を含んでいる請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の回路基板。 【請求項5】 前記セラミックスが、窒化物系セラミックスである請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の回路基板。 【請求項6】 前記貫通導体は、前記貫通孔の内面から前記基体に向かって延びる、延在部を複数有する請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の回路基板。 【請求項7】 前記延在部の平均長さは、5μm以上20μm以下である請求項6に記載の回路基板。 【請求項8】 前記基体と前記金属層との間に、基体を構成する成分と、チタン、ジルコニウム、ハフニウムおよびニオブから選択される少なくとも1種とを含む第2活性金属層が存在する請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の回路基板。 【請求項9】 前記金属層上に、銀、銅、ニッケル、パラジウム、白金および金より選択される少なくとも1種により構成される被膜層を備えている請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の回路基板。 【請求項10】 請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の回路基板に電子部品を搭載してなる電子装置。」 第4 特許異議申立について 1.取消理由通知に記載した取消理由について (1)取消理由の概要 訂正前の請求項1?10に係る特許に対して、当審が平成30年12月21日付けで特許権者に対して通知した取消理由の概要は次のとおりである。 [取消理由1]本件特許の請求項1、2、3、5、8、9及び10に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。。 [取消理由2]本件特許の請求項1?10に係る発明は、その優先日前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。 引用文献1:特開平11-340600号公報 上記引用文献1は、特許異議申立人による特許異議申立書での甲第1号証である。 (2)引用文献1に記載の事項及び発明 引用文献1には、「セラミックス回路基板」に関し、図面とともに次の記載がある。 (i)「【請求項1】表面側から裏面側に貫通する貫通孔を有するセラミックス基板と、上記貫通孔内に充填された導電体と、上記セラミックス基板の表面側および裏面側にそれぞれ形成された金属回路層とを備え、上記表面側および裏面側に形成された金属回路層が上記導電体を介して導通していることを特徴とするセラミックス回路基板。」 (ii)「【0017】上記貫通孔に充填する導電体としては電気伝導性を有するものであれば、特に限定されないが、貫通孔に注入された溶融金属の凝固体から構成してもよいし、または、貫通孔の内径よりやや小さい外径を有する金属ステムで構成してもよい。また、上記導電体は、後述する金属回路層の少なくとも一方と一体に形成してもよい。 【0018】また上記金属回路層および導電体を構成する金属としては、銅,アルミニウム,鉄,ニッケル,クロム,銀,モリブデン,タングステン,コバルトの単体またはその合金など、基板成分との共晶化合物を生成したり、直接接合法や活性金属法またはメタライズ法を適用できる金属であれば特に限定されないが、特に導電性および価格の観点から銅,アルミニウムまたはその合金が好ましい。 【0019】上記金属回路層は、上記のような金属を含有するペースト、例えばMo-TiN系導体ペースト,Ag-Cu-Ti-In系ペースト,Ag-Cu-Ti系ペーストをセラミックス基板の両面に印刷塗布した後に、窒素ガス(N_(2))などの非酸化性雰囲気中で温度1600?1800℃程度で焼成して形成されるメタライズ層で構成してもよい。」 (iii)「【0027】本発明に係るセラミックス回路基板において、活性金属法によって金属回路板を接合する際に形成されるろう材層は、Ti,Zr,Hf,Nbから選択される少なくとも1種の活性金属を含有し適切な組成比を有するAg-Cu系ろう材等で構成され、このろう材組成物を有機溶媒中に分散して調製した接合用組成物ペーストをセラミックス基板表面にスクリーン印刷する等の方法で形成される。 【0028】上記接合用組成物ペーストの具体例としては、下記のようなものがある。すなわち重量%でCuを15?35%、Ti,Zr,Hf,Nbから選択される少くとも1種の活性金属を1?10%、残部が実質的にAgから成る組成物を有機溶媒中に分散して調製した接合用組成物ペーストを使用するとよい。」 (iv)「【0036】実施例1 図1および図2に示すように縦25mm×横50mm×厚さ0.635mmのセラミックス基板2としての窒化アルミニウム(AlN)基板を用意した。このAlN基板には厚さ方向に貫通する内径0.8mmの貫通孔5が穿設されている。 【0037】次に上記AlN基板2の両面にAg-Cu-Ti-In系ろう材ペーストを所定形状にスクリーン印刷してろう材層を形成するとともに、各貫通孔5にろう材ペーストを十分に充填した。さらに、厚さ0.2mmの無酸素銅から成る金属回路板3,4をそれぞれAlN基板2の表面側および裏面側の所定位置に押圧配置した状態で加熱炉に入れ、1.3×10^(-8)MPa以下の高真空中で温度800℃に加熱することにより、上記ろう材層を介して各金属回路板3,4をAlN基板2に一体に接合すると同時に、上記表面側の金属回路板3と裏面側の金属回路板4とを電気的に接続する導電体6を形成した。」 以上の記載及び図2の記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 [引用発明] 「表面側から裏面側に貫通する貫通孔を有するセラミックス基板と、上記貫通孔内に充填された導電体と、上記セラミックス基板の表面側および裏面側にそれぞれ形成された金属回路層とを備え、上記表面側および裏面側に形成された金属回路層が上記導電体を介して導通しているセラミックス回路基板であって、 重量%でCuを15?35%、Ti,Zr,Hf,Nbから選択される少くとも1種の活性金属を1?10%、残部が実質的にAgから成る組成物を有機溶媒中に分散して調製した接合用組成物ペーストを、上記貫通孔に充填し、加熱炉にて、1.3×10^(-8)MPa以下の高真空中で800℃に加熱することにより上記導電体とした、セラミックス回路基板。」 (3)当審の判断 ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と引用発明とを対比する。 a 引用発明の「貫通孔」は本件発明1の「貫通孔」に、引用発明の「セラミックス基板」は本件発明1の「セラミックスからなる基体」にそれぞれ相当する。そして、引用発明の「表面側から裏面側に貫通する貫通孔を有するセラミックス基板」は、本件発明1の「第1面から第2面に貫通する貫通孔を有する、セラミックスからなる基体」に相当する。 b 引用発明の「導電体」は、本件発明1の「貫通導体」に相当する。引用発明の「上記貫通孔内に充填された導電体」は、「重量%でCuを15?35%、Ti,Zr,Hf,Nbから選択される少くとも1種の活性金属を1?10%、残部が実質的にAgから成る組成物を有機溶媒中に分散して調製した接合用組成物ペーストを、上記貫通孔に充填し、加熱炉にて、1.3×10-8MPa以下の高真空中で800℃に加熱することにより上記導電体とした」ものであるから、銀および銅が主成分であるとともに、セラミックス基板の貫通孔内に位置するものであるといえる。したがって、引用発明の「上記貫通孔内に充填された導電体」であって、「重量%でCuを15?35%、Ti,Zr,Hf,Nbから選択される少くとも1種の活性金属を1?10%、残部が実質的にAgから成る組成物を有機溶媒中に分散して調製した接合用組成物ペーストを、上記貫通孔に充填し、加熱炉にて、1.3×10^(-8)MPa以下の高真空中で800℃に加熱することにより上記導電体とした」ものは、本件発明1の「銀および銅が主成分であり、前記貫通孔内に位置する貫通導体」に相当する。 c 引用発明の「上記セラミックス基板の表面側および裏面側にそれぞれ形成された金属回路層」は、本件発明1の「金属層」に相当する。そして、引用発明の「上記セラミックス基板の表面側および裏面側にそれぞれ形成された金属回路層とを備え、上記表面側および裏面側に形成された金属回路層が上記導電体を介して導通している」ことは、本件発明1の「金属層」が「前記貫通導体の少なくとも一方の表面に接する」ことに相当する。 d 引用発明の「セラミックス回路基板」は本件発明1の「回路基板」に相当する。 e 以上のとおりであるので、本件発明1と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりであると認められる。 <一致点> 「第1面から第2面に貫通する貫通孔を有する、セラミックスからなる基体と、 銀および銅が主成分であり、前記貫通孔内に位置する貫通導体と、 前記貫通導体の少なくとも一方の表面に接する金属層とを備える、 回路基板。」 <相違点1> 貫通導体に関し、本件発明1は、「前記貫通導体は、径の中心領域における金属層側領域に銀および銅の共晶領域が存在し、径の中心領域における中央領域に銀および銅の非共晶領域が存在し、前記中央領域における、非共晶領域の共晶領域に対する割合は、前記金属層側領域における非共晶領域の共晶領域に対する割合よりも多い」ものであるのに対し、引用発明は、「重量%でCuを15?35%、Ti,Zr,Hf,Nbから選択される少くとも1種の活性金属を1?10%、残部が実質的にAgから成る組成物を有機溶媒中に分散して調製した接合用組成物ペーストを、上記貫通孔に充填し、加熱炉にて、1.3×10^(-8)MPa以下の高真空中で800℃に加熱することにより上記導電体とした」ものである点。 (イ)判断 上記相違点1について検討する。 a 引用発明の「導電体」は、「重量%でCuを15?35%、Ti,Zr,Hf,Nbから選択される少くとも1種の活性金属を1?10%、残部が実質的にAgから成る組成物を有機溶媒中に分散して調製した接合用組成物ペーストを、上記貫通孔に充填し、加熱炉にて、1.3×10^(-8)MPa以下の高真空中で800℃に加熱することにより上記導電体とした」ものであり、Cu(銅)とAg(銀)の重量組成比が、共晶組成(質量比28:72)以外の接合用組成物ペーストも含まれ、これ(Cu(銅)とAg(銀)の重量組成比が、共晶組成(質量比28:72)以外の接合用組成物ペースト)を加熱炉にて、1.3×10^(-8)MPa以下の高真空中で800℃に加熱し、冷却して得られるものも想定されている。 そして、Cu(銅)とAg(銀)の重量組成比が、共晶組成(質量比28:72)以外の接合用組成物ペーストにおいては、共晶温度よりも少し高い温度で析出したCuあるいはAgが、初晶のCuあるいはAgとなり非共晶領域を構成し、残りのCuとAgの混合液相が凝固しCuとAgの共晶組成の領域を構成するものといえる(なお、平成30年3月15日付け意見書の第2ページ下から2行?第3ページ12行、参照)。 そうだとすれば、Cu(銅)とAg(銀)の重量組成比が、共晶組成(質量比28:72)以外の接合用組成物ペーストを、セラミックス基板の貫通孔に充填し、加熱炉にて、1.3×10^(-8)MPa以下の高真空中で800℃に加熱することにより上記導電体としたものの組成は、貫通孔の径の中心領域における金属層側領域に銀および銅の共晶領域及び非共晶領域が存在し、径の中心領域における中央領域に銀および銅の非共晶領域及び非共晶領域が存在するものとなっているといえる。 b しかしながら、引用文献1には、貫通孔内に充填された金属ペーストにより形成される導電体に関して、貫通孔の径の中央領域における、非共晶領域の共晶領域に対する割合を、金属回路層側領域における非共晶領域の共晶領域に対する割合よりも多くすることについての記載ないし示唆はないし、当該構造となることが引用発明の構成から明らかであるともいえない。また、上記の構造とすることが周知であるとする証拠もない。(特許異議申立人の提出した甲第2号証?甲第5号証にも、貫通孔内の導電体に関して、貫通孔の径の中央領域における、非共晶領域の共晶領域に対する割合を、金属回路層側領域における非共晶領域の共晶領域に対する割合よりも多くすることについての記載ないし示唆はない。)。 c したがって、引用発明において、相違点1に係る本件発明1の構成となすことは当業者であっても容易になし得たものではない。 そして、本件発明1は、相違点1に係る構成を有することにより、「放熱性および接合信頼性に優れる」回路基板となるという、明細書記載の格別な作用効果を有するものである(明細書の段落【0019】及び【0020】、参照。)。 e 以上のとおりであるから、本件発明1は、引用文献1に記載された発明ではないし、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 イ 本件発明2?本件発明10について 本件発明2?本件発明10は、本件発明1の発明特定事項を全て含みさらに限定するものであるから、本件発明2?本件発明10と引用発明との間には、少なくとも上記相違点1が存在することとなる。 したがって、上記ア(イ)での説示と同様の理由により、本件発明2?本件発明10は、引用文献1に記載された発明ではないし、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 2.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)特許法第29条第1項第3号及び同条第2項について 特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1、請求項4及び請求項6に係る発明は、甲第3号証(特開2009-59789号公報)に記載された発明であり、また、訂正前の請求項7に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証(特開平3-91291号公報)に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、と主張する(特許異議申立書 第18頁第13行?第19頁下から2行、及び第20頁最下行?第21頁第9行)。 しかしながら、甲第3号証及び甲第4号証いずれにも、回路基板の貫通孔内の導電体に関して、貫通孔の径の中央領域における、非共晶領域の共晶領域に対する割合を、金属回路層側領域における非共晶領域の共晶領域に対する割合よりも多くすること、すなわち、訂正後の請求項1、請求項4、請求項6及び請求項7に係る発明の発明特定事項である「前記中央領域における、非共晶領域の共晶領域に対する割合は、前記金属層側領域における非共晶領域の共晶領域に対する割合よりも多い」という点についての記載ないし示唆はない。 したがって、請求項1、請求項4及び請求項6に係る発明は、甲第3号証に記載された発明ではないし、また、請求項7に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 よって、甲第3号証に記載された発明を主引用例とする特許異議申立人の、特許法第29条第1項第3号及び同条第2項に関する主張は採用することができない。 (2)特許法第36条第6項第1号について ア 異議申立人の主張の概要 特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲に関し、概略次のように主張する。 「本件特許明細書に開示の回路基板は、放熱性および接合信頼性に優れることが記載されている。これは、本件特許明細書および出願時の技術常識から、金属層側領域の全体が実質的に共晶領域であり、中央領域の全体が実質的に非共晶領域であることに基づくと解される。一方、請求項1は、金属層側領域の一部のみが共晶領域であり、中央領域の一部のみが非共晶領域である場合を含む。従って、請求項1およびそれを引用する請求項2-10は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。」 また、「本件特許明細書では、請求項1に係る回路基板の製造方法として、金属層が銀および銅を主成分として含み、貫通導体と金属層の組成が互いに異ならせる方法しか記載されていない。一方、請求項1は、金属層が銀および銅を主成分として含んでいない場合や、貫通導体と金属層の組成が同じ場合を含む。従って、請求項1およびそれを引用する請求項2-10は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであ」る。 したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることという規定に適合しない(特許異議申立書 第5頁の表中の(c)欄及び同第21頁第11行?第24頁第12行)。 イ 当審の判断 本件訂正により、訂正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項として、「前記中央領域における、非共晶領域の共晶領域に対する割合は、前記金属層側領域における非共晶領域の共晶領域に対する割合よりも多い」が追加された。 当該発明特定事項の追加が、新規事項の追加に該当するものではないということは、上記「第2 2.(2)」で述べたとおりである。 そして、訂正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、「径の中心領域における金属層側領域に銀および銅の共晶領域が存在」するという発明特定事項により、放熱性を高めることができる発明の詳細な説明に記載されている回路基板が得られるものである。 また、上記追加された発明特定事項により、訂正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、中央領域における、非共晶領域の共晶領域に対する割合が、金属層側領域における非共晶領域の共晶領域に対する割合よりも多いことが特定されることとなり、請求項1において、金属層の組成を特定せずとも、貫通導体の収縮が小さく、貫通導体に接する金属層の表面の窪みが小さく、接合信頼性に優れる発明の詳細な説明に記載されている回路基板が得られるものとなった。 したがって、訂正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2?10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した発明となった。 よって、特許法第36条第6項第1号に関する特許異議申立人の主張は採用することができない。 (3)特許法第36条第6項第2号について ア 異議申立人の主張の概要 特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲に関し、概略次のようにも主張する。 「本件明細書には共晶領域の定義が記載されているが、定義が明確ではなく、『共晶領域』の意味内容が理解できない。従って、請求項1およびそれを引用する請求項2-10は、明確ではない。」(特許異議申立書 第5頁の表中の(d)欄及び同第24頁第14行?第26頁第2行) イ 当審の判断 本件特許の明細書の段落【0018】には、「共晶領域とは、図3Aに示すように、線分析結果において、全強度の10%を越える銅のピーク本数が、50μmに10本以上ある領域のことである。」、「非共晶領域とは、図3Bに示すように、線分析結果において、全強度の10%を超える銅のピーク本数が、50μmに10本未満の領域のことである。」と定義されている。 そして、訂正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、特定の範囲の全てが共晶領域あるいは非共晶領域であると規定するものではなく、「前記中央領域における、非共晶領域の共晶領域に対する割合は、前記金属層側領域における非共晶領域の共晶領域に対する割合よりも多い」と規定するものであるから、特許異議申立人の主張のように、特定の範囲においても、線分析を実施する位置に応じて、共晶領域とも非共晶領域ともなりうる場合があるとしても(特許異議申立書第24頁第14行?第25頁下から4行)、上記定義に従った、非共晶領域の共晶領域に対する割合は、当該特定の範囲においては、明確に定めることができることとなるといえる(本件特許の図面の【図3A】は、その中心付近に付されている線上において、共晶領域といえることの例示にすぎず、その範囲全域が共晶領域あるいは非共晶領域となっていることを示すものではないと理解できる。)。 したがって、訂正後の特許請求の範囲の請求項1および請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2?10に係る発明は明確であるといえる。 よって、特許法第36条第6項第2号に関する特許異議申立人の主張は採用することができない。 3.むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては本件請求項1?10に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?10に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 第1面から第2面に貫通する貫通孔を有する、セラミックスからなる基体と、 銀および銅が主成分であり、前記貫通孔内に位置する貫通導体と、 前記貫通導体の少なくとも一方の表面に接する金属層とを備え、 前記貫通導体は、径の中心領域における金属層側領域に銀および銅の共晶領域が存在し、径の中心領域における中央領域に銀および銅の非共晶領域が存在し、 前記中央領域における、非共晶領域の共晶領域に対する割合は、前記金属層側領域における非共晶領域の共晶領域に対する割合よりも多い回路基板。 【請求項2】 前記金属層の主成分は、銀および銅である請求項1に記載の回路基板。 【請求項3】 前記基体と前記貫通導体との間に、基体を構成する成分と、チタン、ジルコニウム、ハフニウムおよびニオブから選択される少なくとも1種とを含む第1活性金属層が存在する請求項1または請求項2に記載の回路基板。 【請求項4】 前記貫通導体が、モリブデン、タンタル、オスミウム、レニウムおよびタングステンから選択される少なくとも1種を含んでいる請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の回路基板。 【請求項5】 前記セラミックスが、窒化物系セラミックスである請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の回路基板。 【請求項6】 前記貫通導体は、前記貫通孔の内面から前記基体に向かって延びる、延在部を複数有する請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の回路基板。 【請求項7】 前記延在部の平均長さは、5μm以上20μm以下である請求項6に記載の回路基板。 【請求項8】 前記基体と前記金属層との間に、基体を構成する成分と、チタン、ジルコニウム、ハフニウムおよびニオブから選択される少なくとも1種とを含む第2活性金属層が存在する請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の回路基板。 【請求項9】 前記金属層上に、銀、銅、ニッケル、パラジウム、白金および金より選択される少なくとも1種により構成される被膜層を備えている請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の回路基板。 【請求項10】 請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の回路基板に電子部品を搭載してなる電子装置。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-03-29 |
出願番号 | 特願2016-563471(P2016-563471) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(H05K)
P 1 651・ 853- YAA (H05K) P 1 651・ 113- YAA (H05K) P 1 651・ 851- YAA (H05K) P 1 651・ 121- YAA (H05K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 内田 勝久 |
特許庁審判長 |
平田 信勝 |
特許庁審判官 |
小関 峰夫 尾崎 和寛 |
登録日 | 2017-04-07 |
登録番号 | 特許第6122561号(P6122561) |
権利者 | 京セラ株式会社 |
発明の名称 | 回路基板およびこれを備える電子装置 |