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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23F 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A23F |
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管理番号 | 1352314 |
異議申立番号 | 異議2019-700074 |
総通号数 | 235 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-07-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-02-01 |
確定日 | 2019-05-24 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6366798号発明「加熱処理されたコーヒー飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6366798号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 主な手続の経緯 特許第6366798号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成29年8月7日に出願され、平成30年7月13日にその特許権の設定登録がされ、同年8月1日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、平成31年2月1日に特許異議申立人 田中 亜実より特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 特許第6366798号の請求項1?6に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 なお以下、これらを「本件特許発明1」、「本件特許発明2」などといい、まとめて「本件特許発明」という場合もある。 「【請求項1】 コーヒー固形分の含有量が0.9?1.8重量%であり、0.01?1.0mg/100mLのティリロサイドを含有する、加熱殺菌処理済みのコーヒー飲料。 【請求項2】 容器詰め飲料である、請求項1に記載のコーヒー飲料。 【請求項3】 pH調整剤をさらに含有する、請求項1又は2に記載のコーヒー飲料。 【請求項4】 pH4.5?7.0である、請求項1?3のいずれか1項に記載のコーヒー飲料。 【請求項5】 ティリロサイドの含有量が0.02?1.0mg/100mLである、請求項1?4のいずれか1項に記載のコーヒー飲料。 【請求項6】 コーヒー固形分の含有量が0.9?1.8重量%であるコーヒー飲料の製造方法であって、0.01?1.0mg/100mLのティリロサイドを飲料に含有させる工程、及び 飲料を加熱殺菌する工程、 を含む、上記製造方法。」 第3 申立理由の概要 特許異議申立人 田中 亜実(以下、「特許異議申立人」という。)は、証拠方法として以下の甲第1号証及び甲第2号証を提出し、以下の取消理由を主張している。 1 取消理由 (1)取消理由1 本件の請求項1?6に係る発明の特許は、その発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである (2)取消理由2 請求項1?6に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 2 証拠方法 (1)甲第1号証 熊沢賢二、外3名、「コーヒー飲料の加熱処理による香気変化」、日本食品科学工学会誌、1998年2月、第45巻第2号、108?113頁 (2)甲第2号証 中林敏郎、「焙煎によるコーヒーの有機酸とpHの変化」、日本食品工業学会誌、1978年3月、第25巻第3号、142?146頁 第4 甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項 1 甲第1号証には、以下の事項が記載されている。 (1a)「本研究は加熱処理することによって変化したコーヒー飲料の香気成分をFD-ファクターを用いて明らかにしようとしたものである.」(108頁右欄下から2行?109頁左欄1行) (1b)「実験方法 1. コーヒー飲料の調製 ・・・このコーヒー飲料を190mlずつ6本の缶に充填後密封した.次いで,これらのうち3本は123℃,20分間の加熱処理を行い,その後直ちに氷水にて冷却した. 2. 香気成分の分離および濃縮 ・・・ 3. FD-クロマトグラムの作成 ・・・ 4. モデル系での香気寄与成分の変化 ・・・加熱未処理用と加熱処理用の2種類に分けて缶に充填後密封した.加熱処理は123℃,20分間の条件で行った.」(109頁左欄2?36行) (1c)「実験結果および考察 1. ガスクロマトグラムによる比較 コーヒー飲料を加熱処理したものは,加熱未処理のものに比べて,ロースト感,焙煎豆感の低下が感じられた.・・・ 2. FD-クロマトグラムによる比較 ・・・加熱処理前と処理後のFD-ファクターを比較した結果,FD-ファクターの値が減少しているピークが確認された.1. で用いた試料をさらに濃縮後GC-MSを測定し,5ピークについては2-furfurylthiol(ピークNo.1),methional(ピークNo.2),3-mercapto-3-methyl-butyl formate(ピークNo.3),β-damascenone(ピークNo.4)およびskatole(ピークNo.5)と同定した.」(109頁右欄下から13行?110頁右欄最下行) (1d)「2) FD-クロマトグラムで,加熱処理により減少する2-furfurylthiol,methional,3-mercapto-3-methylbutyl formate,β-damascenoneおよびskatoleの5成分を見いだした.これらの香調および閾値を考え合わせた結果,コーヒー飲料の加熱処理による香気変化に,これら5つの香気寄与成分の減少が大きく関与していると推定した.」(112頁左欄下から7?最下行) 2 甲第2号証には、以下の事項が記載されている。 (2a)「コーヒーの酸味は品種によって異なる以外に,焙煎の程度によっても変化し,浅いりは酸味が強く,深いりにすると苦味が増すと言はれており,LENTNER等も焙煎の進行に伴って遊離酸が増加してpHは低下し,メディアムで最低のpHとなった後,遊離酸は減少してpHは再び上昇することを確かめている。」(142頁左欄1?6行) 第5 当審の判断 1 取消理由2(サポート要件)について 特許異議申立人は、記載不備の理由について、主に本件特許発明の解決しようとする課題に基づいて主張しているので、事案に鑑み、まず、サポート要件について検討する。 (1)本件特許発明の解決しようとする課題 本件特許発明1の解決しようとする課題は、請求項1に特定される「コーヒー固形分の含有量が0.9?1.8重量%であり、0.01?1.0mg/100mLのティリロサイドを含有する、加熱殺菌処理済みのコーヒー飲料。」の提供であると認められる。 また、本件特許発明6の解決しようとする課題は、請求項6に特定される「コーヒー固形分の含有量が0.9?1.8重量%であるコーヒー飲料の製造方法であって、0.01?1.0mg/100mLのティリロサイドを飲料に含有させる工程、及び飲料を加熱殺菌する工程、 を含む、上記製造方法。」の提供であると認められる。 さらに、本件特許発明2?5の解決しようとする課題は、それぞれ請求項2?5に特定されるコーヒー飲料の提供であると認められる。 (2)判断 本件特許明細書の段落【0009】?【0014】の記載からみて、「コーヒー固形分の含有量が0.9?1.8重量%」である「コーヒー飲料」とは、一般的なコーヒー飲料であると認められる。 また、本件特許明細書の段落【0016】?【0017】及び実施例の記載からみて「ティリロサイド」は当業者に知られた入手可能な物質であると認められる。 さらに、本件特許明細書の段落【0025】の記載から、コーヒー飲料を加熱殺菌する手段は周知であると認められる。 本件特許発明1の解決しようとする課題は「コーヒー固形分の含有量が0.9?1.8重量%であり、0.01?1.0mg/100mLのティリロサイドを含有する、加熱殺菌処理済みのコーヒー飲料。」、すなわち、「コーヒー固形分の含有量が0.9?1.8重量%」である「コーヒー飲料」に「ティリロサイド」を「0.01?1.0mg/100mL」の割合で含有させ、加熱殺菌した「加熱殺菌処理済みのコーヒー飲料」を提供することであると認められるが、上記した本件特許明細書の記載から、この課題が解決できることを理解できるといえる。 また、本件特許発明6の解決しようとする課題は、「コーヒー固形分の含有量が0.9?1.8重量%であるコーヒー飲料の製造方法であって、0.01?1.0mg/100mLのティリロサイドを飲料に含有させる工程、及び飲料を加熱殺菌する工程、 を含む、上記製造方法。」、すなわち、「コーヒー固形分の含有量が0.9?1.8重量%」である「コーヒー飲料」に「ティリロサイド」を「0.01?1.0mg/100mL」の割合で含有させ、加熱殺菌した「加熱殺菌処理済みのコーヒー飲料」の製造方法を提供することであると認められるが、上記した本件特許明細書の記載から、この課題が解決できることを理解できるといえる。 さらに、本件特許発明2?5には「容器詰め飲料である」こと、「pH調整剤をさらに含有する」こと、「pH4.5?7.0である」こと、「ティリロサイドの含有量が0.02?1.0mg/100mLである」ことが特定されているが、本件特許明細書にはこれらの事項についても具体的に記載されている(「容器詰め飲料」については段落【0026】、「pH調整剤」や「pH4.5?7.0」とすることについては段落【0023】、「ティリロサイドの含有量が0.02?1.0mg/100mLである」ことについては段落【0018】)から、本件特許明細書の記載から、本件特許発明2?5の課題が解決できることを理解できるといえる。 したがって、本件特許発明1?6が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満足しないとはいえない。 2 取消理由1(実施可能要件)について 上記1(2)のとおり、本件特許明細書には本件特許発明1?6について具体的に記載されているから、本件特許明細書の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満足しないとはいえない。 3 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、段落【0005】の記載を根拠として「加熱処理が施されるコーヒー飲料において、加熱処理に伴って生じる臭味が改善されたコーヒー飲料を提供すること」が本件特許発明の解決しようとする課題であると主張している。 しかし、本件特許発明には発明特定事項として「加熱処理に伴って生じる臭味が改善されたコーヒー飲料」は特定されていない。確かに本件特許明細書の段落【0005】には、本発明の目的についてそのように記載されているが、本件特許発明の解決しようとする課題は、特許請求の範囲の請求項1?6に記載された発明を提供することであって、加熱処理に伴って生じる臭味が改善されることは、本件特許発明の効果に過ぎない。本件特許明細書の段落【0006】には「本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、所定量のティリロサイドが、コーヒー飲料の加熱処理に伴う臭味の改善に優れた効果があることを見出した。」と、加熱処理に伴う臭味の改善がティリロサイドを含有させた効果であることが記載されている。 特許異議申立人が特許異議申立書で甲第1号証と甲第2号証の記載も示して主張している点は、いずれも「加熱処理が施されるコーヒー飲料において、加熱処理に伴って生じる臭味が改善されたコーヒー飲料を提供すること」が本件特許発明の解決しようとする課題であることを前提とするものと認められるが、そのような前提は誤りである。本件特許発明の解決しようとする課題は、特許請求の範囲の各請求項に記載された発明を提供することである。 したがって、発明の課題についての誤った認定を前提とする特許異議申立人の主張は、いずれも採用することができない。 第6 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2019-05-14 |
出願番号 | 特願2017-152255(P2017-152255) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
Y
(A23F)
P 1 651・ 537- Y (A23F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 伊藤 良子 |
特許庁審判長 |
中島 庸子 |
特許庁審判官 |
関 美祝 齊藤 真由美 |
登録日 | 2018-07-13 |
登録番号 | 特許第6366798号(P6366798) |
権利者 | サントリーホールディングス株式会社 |
発明の名称 | 加熱処理されたコーヒー飲料 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 宮前 徹 |
代理人 | 山本 修 |
代理人 | 中村 充利 |
代理人 | 中西 基晴 |
代理人 | 武田 健志 |